数学月間の会SGKのURLは,https://sgk2005.org/
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数学月間SGK通信 [2017.08.15] No.180
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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お盆の最中です.皆様お元気でお過ごしでしょうか.
夏日ではないが天気が悪いこの頃です.今日はどうでしょうか.
私も墓参に行きますので,今回は予約発行です.
■星型正5角形の頂点Aから始めて,A→C→E→B→D→Aと辺をたどり元に戻ると,
1つの頂点で2×360°/5だけ辺が回転することがわかります.
この星型5角形を5/2と書くのは,2x360°/5=360°/(5/2)だからです.
この星型5角形が頂点で5つづつ集まる{5/2,5}は,星型小12面体になります.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/585014/02/17957102/img_0?1491137213
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/585014/02/17957102/img_1?1491137213
■さて,この星型小12面体{5/2,5}は,プラトンの正多面体(正12面体)を芯にして,
その正5角形の面に正5角錐を貼りつけた形です.
同様に,プラトンの正多面体(正20面体:正12面体に双対)を芯にして,
その正3角形の面に正3角錘(正4面体)を貼り付けてできる形は,
星型大12面体{5/2,3}と呼ばれます.これら2つの星型は,ケプラーの星型多面体とも呼ばれます.
序に,この2つの星型に双対な,{5,5/2},{3,5/2}はポアソンの星型と呼ばれます.
■星型小12面体は,五芒星の面Fが12枚,稜の数Eが30,頂点の数Vが12ですので,
F-E+V=-6(我々の知っているオイラーの多面体定理では2)となります.
これは星型小12面体の空間が,球の位相と異なり,穴が4つ空いた浮輪と同じ位相であるためです.
■正多面体とは,多面体のすべての面が同じ正p多角形で,かつ,
すべての頂点の周りの状態は同じで,正p多角形がq個集まっているものです.
このような正多面体をシュレーフリの記号で{p,q}と書きます.
凸の正多面体には,正4面体{4,4},正6面体{4,3},正8面体{3,4},
正12面体{5,3},正20面体{3,5}の5種類があり,プラトンの正多面体といわれます.
多面体の面を頂点に,頂点を面に換えた新しい多面体は,元の多面体と互いに双対とよばれます.
すなわち,{p,q}と{q,p}は互いに双対です.
凸の条件を外して正多面体を考えると,次の4つの星型正多面体があります.
{5/2,5},{5,5/2},{5/2,3},{3,5/2}です.
前者2つは互いに双対,後者2つは互いに双対です.
正5/2角形の面とは,正5角形の頂点を1つ飛びに結んでできるいわゆる五芒星です
(五芒星の辺をたどると,辺の向きが2回転して五芒星が閉じる).
頂点の周りに5/2個の正多角形が集まるとは,頂点に集まる5個が,
五芒星の辺のように2回転して初めの正多角形に戻るわけで,
入り組んだ凹部ができます.以下に4つの星型をリストアップします:
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星型正多面体,星型の芯になる正多面体,星型の頂点を結んだ枠が作る正多面体
{5/2,5} 正12面体 正20面体
{5,5/2} 正12面体 正20面体
{5/2,3} 正12面体 正12面体
{3,5/2} 正20面体 正20面体
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■ブラックホールからは光は出て来ません.しかし,ブラックホールに荷電粒子が引き込まれるときに電波やX線が放出されているそうです(これらも光と同じ電磁波の仲間です).ブラックホール穴の形は,そこから放出される電波を観測(電波干渉計という電波望遠鏡を用いるので,電波強度と位相がわかります)して,それらのデータをFourier変換すると見えてきます.Fourier変換に用いる観測値はブラックホールの周囲の大きな立体角内のものが必要なはずですが,電波望遠鏡のある地球上での観測なので,地球が宇宙空間で動いてはおりますが,非常に限られた観測点での観測データしかありません.
ブラックホールの穴画像(物体)をX,観測されたデータセットy とすると
y=Ax です.行列Aが正則ならば,x=A^-1 .y と簡単に解くことができるのですが,
yの次元Nは非常に小さく,xの次元Mは非常に大きい.行列AはNxM行列です.
(行列Aや,形式的な逆行列A^-1は線形演算子で,内容はFourier変換やその逆変換です)
多数(M個)の未知数のあるxを解くのに,式の数(N個)は少ないので,不定解(解に任意性が残る)です.そこで,解Xは,なるべくたくさんの0要素があるもの(スパース)にすると条件付きにして解を求めます.
この方法は,LASSO(Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)と言います.何故,このようなスパースな解が,合理的なのかは難しいのですが,結果は現実によく合うようです.
■このような手法は,医学画像(MRIなど)解析で用いられており,高速で高解像度の画像が測定できる圧縮センシングとして役立っています.
この方法の心は,得られる画像の解像度を上げるには,観測空間でも細かくたくさんのデータを収集し,それらを用いてFourier変換を行うのが正攻法でしょう.しかし,実際には画像内で急峻な変化がある場所は少ない.大体がだらだら変わっている.だから観測空間で細かい分解能で測定するのは時間がかかり過ぎてもったいない.観測空間の少数の点だけのデータで十分である.求める画像で急峻な変化のある場所は少なく,だいたいは変化がだらだら変わっている(この考え方はjpgの圧縮と同じ)ので,得られる画像は至る所0(スパース)という仮定は,大胆であるが良い結果になるのだと思われます.
■数学的には,xがスパースであるという条件を,Σ|xi|が最小という条件にして,最小2乗法||y-Ax||^2を解くことである.これにはラグランジュの未定乗数法という手法が適用できます.
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数学月間SGK通信 [2017.08.01] No.178
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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皆様,お元気ですか.夏季は数学月間の季節.いよいよ8月で数学月間もたけなわです.
7月22日に実施した数学月間懇話会の報告が,あと2つ残っているのですが,
先ほど,私はとっとりサイエンスワールドin米子から帰ったばかりです.ですから,
ホットなうちに,今日は鳥取サイエンスワールドの話をしましょう.
7月30日(日)は,米子コンベンション・センターで,2017年とっとりサイエンスワールドが開催されました.
とっとりサイエンスワールドは,鳥取大学副学長の矢部先生が会長で始められ,
子ども達の科学や数学への関心育成を狙い,地域振興予算のうちの430万円(今年度)で,
鳥取県数学教育会に委嘱した事業です.
とっとりサイエンスワールドは9年目になり,毎年,米子,鳥取,倉吉の3か所で開催し,
3,000人の市民が参加する,市民に愛されるイベントに定着しました.
今年のサイエンスワールドは.7/30in米子,8/20in鳥取,8/27in倉吉の順で開催されます.
■7月30ーーこれは昨日のことです.私は,今(31日,夕)帰って来たばかりでこれを書いていますーー
米子で実施されたサイエンスワールドは,904人の来館者がありました.
私の担当した万華鏡は,30人のクラスを午前2回,午後2回,計4回の予定で120人用意しましたが,
多くの方が来られ予備の材料も提供し対応努力しましたが,
座席数が最大33人でしたので,座れず諦めた方も多く申し訳ない気持ちです.
私も立ちっぱなしで座れず,腰痛が酷くなり歩いて帰るのが大変でした.
鳥取では,30人クラスを5回やります.
さて,どんな万華鏡を作ったかといえば,これはすでにブログに載せています.
写真を再度引用しておきます.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/81/18134981/img_0_m?1500360266
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/81/18134981/img_1_m?1500360266
これら2つの万華鏡画像を見て,鏡の組み合わせの違いが判りますか?
そうです.15°交差の2枚鏡に加えて,右の万華鏡には水平な鏡かあります.
■前日の7月29日(土)は,米子がいな祭りと重なりました.昼間は,がいな太鼓や踊りの練り歩きがありました.
夜の万燈のパレードは圧巻でした.ロウソクの灯ったたくさんの提灯を乗せた万燈を扱う曲芸が見世場です.
商都米子のメインの通りがパレードとお祭り屋台や人で埋め尽くされました.
これらの写真は,別途ブログに掲載しましょう.
がいなという方言は,ジャイアントやギガンティックのような巨大という雰囲気を感じますね.
30日(日)の夜は,大花火大会があったのですが,私は昼間のワークショップの立ち仕事で,
脊椎間狭窄の痛みが酷くなり歩けずホテルで寝ており,見物できませんでした.
■とっとりサイエンスワールド(7/30)
イメージ 2
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■がいな祭り(7/29)
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7月30日(日)は,米子コンベンション・センターで,2017年とっとりサイエンスワールドが開催されました.金曜日夜から月曜日夜まで米子に出かけていてこちらを留守にしました.とっとりサイエンスワールドは,矢部先生(現・鳥取大学副学長)が会長で始まり今年で9年目です.子ども達の科学や数学への関心育成を狙い,地域振興予算のうちの430万円(今年度)で,鳥取県数学教育会に委嘱された事業です.毎年,米子,鳥取,倉吉の3か所で開催し,3,000人の県民が参加する,県民に愛されるイベントに定着しました.今年のサイエンスワールドは.7/30in米子,8/20in鳥取,8/27in倉吉の順で開催されます.
■7月30に米子で実施[私は今(31日,夕)帰って来たばかりで,このホットな報告を書いております]されたサイエンスワールドは,904人の来館者がありました.私の実施した万華鏡は,30人のクラスを午前に2回,午後に2回の計4回の実施を想定し,120人分用意しましたが,多くの方が来られ予備の材料も提供し対応しましたが,座席数が最大33人でしたので,座れず諦めた方も多数おられ,申し訳ない気持ちです.先生方や高校生ボランティアの協力を得て実施しましたが,私たちの場所も提供したので立ちっぱなしです.
さて,どんな万華鏡を作ったかといえば,これはすでにブログで予告済みです.
以下に写真を再度掲載しておきましょう.
これら2つの万華鏡画像を見て,鏡の組み合わせの違いが判りますか?
そうです.15°で交差する2枚鏡に加えて,右の万華鏡では水平な鏡かあります.
■前日の7月29日(土)は,米子がいな祭りと重なりました.昼間は,がいな太鼓や踊りの練り歩きがありました.夜の万燈のパレードは圧巻でした.ロウソクの灯ったたくさんの提灯を乗せた万燈を扱う曲芸が見世場です.商都米子のメインの通りがパレードとお祭り屋台や人で埋め尽くされました.がいなという方言は,ジャイアントやギガンティックのような巨大というイメージを感じますね.30日(日)の夜は,大花火大会があったのですが,私は昼間のワークショップの立ち仕事がたたり,脊椎間狭窄の痛みが酷くなり歩けずホテルで寝ており,見物できませんでした.
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数学月間SGK通信 [2017.07.25] No.177
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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今年も数学月間の初日(7月23日)は数学月間懇話会でした.今年の7月23日は土曜日です.
今年も40人を越す参加者で盛況でした.真夏の炎天の1日で,おいでいただいた皆さまに感謝いたします.
プログラムは,以下のようでした:
1.社会調査の実際,森本栄一(ビデオリサーチ)
2.ブラックホールを見る,池田思朗(統数研)
3.星型正多面体の体積比較(模型も作るよ!),小梁修(osa工房)
さて,以下は私の主観的な感想です(講演概要の議事録ではありません).
■世論調査の感想
安倍内閣の支持率が26%になりました.皆さんはこの数値をどう思いますか.
私はこの数値はやっと正常値になった,今までがおかしかったと思います.
しかし,ある人は,今の支持率低下は世論誘導により作られたといいます.
今までの高支持率は世論誘導で維持されたとは思はないようです.
どちらが正しいのでしょうか.
支持率の変曲点に至るまでは支持率を維持しようとするメカニズムがあるが,
支持率が変曲点を越え(30%台)低下すると,雪崩をうって低下が加速するように私は思います.
世論調査の数値なんて不確かなもの,正しい値はあっても,
この数値自体に世論誘導の効果があり,数値を変化させます.
NHK,各新聞社,それぞれ自分が決めた方法で得たサンプル集合に,
それぞれ独特の設問で調査を行います.ビデオリサーチも決められた方法
(PMピープルメータという機械を配置)で調査を行います.
それぞれ調査し数値を出すのが業務ですが,得られた数値が,
実態を正しく反映したものかどうか誰も保証できないようです.
だいたい,サンプリングがランダムになされたかの検証は非常に難しい.
誤差の範囲もはっきりしない.さらに,統計学の問題に持ち込む以前に以下の問題がある.
設問文章の条件や聞き方などで,答えが左右されます.
設問の並べ方や,選択肢も重要です.あえて誘導尋問のように作ることもできます.
また聞き取り調査の難しさもあります.電話で複雑な設問が理解できるでしょうか.
このように,実態を正しくとらえた世論調査は非常に困難で,この分野は行詰っているようです.
発表された数値なんて絶対の信頼ができるものではありません.
これに誘導されることのないように注意しましょう.
この他,調査とは別の手法ですが,最近,ビッグデータを用いた解析が有力なようです.
たいへん不気味なことですが,当落予測などで実績が上がっているようです.
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数学月間SGK通信 [2017.07.18] No.176
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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7月は数学月間の季節です.お知らせがいくつかあります.
数学月間懇話会(第13回)
●日時:7月22日(土),13:50-17:20,開場:13;30
●場所:東京大学(駒場),数理科学研究科棟002号室
●参加費無料
直接会場にお出で下さい.
●主催:数学月間の会,日本数学協会
●問い合わせ:sgktani@gmail.com
●プログラム
1.社会調査の実際,森本栄一(ビデオリサーチ)
2.ブラックホールを見る,池田思朗(統数研)
3.星型正多面体の体積比較(模型も作るよ!),小梁修(osa工房)
17:30から,学内のイタリアントマトで懇親会をします(飲食は各人払い)
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数学月間勉強会(第2回)は,7,8月はお休みし,9月27日に再開します.
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とっとりサイエンスワールドは,
米子(7/30,鳥取(8/20),倉吉(8/27)です.お近くの方どうぞお出かけ下さい.
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IMAGINARY 数学アート展
◆ 日時 ◆2017年8月8日 14:30 ~ 22:30
◆ 場所 ◆東京都千代田区神田神保町 1-6 神保町サンビルディング 3F みらい研究所 (一部スペース)
開催場所について詳しくは、こちらをご覧ください。
http://mirai-lab.org/
◆ 料金 ◆600円 (みらい研究所1時間利用料)
IMAGINARY 数学アート展のイベント情報は、こちらをご覧ください。
https://imaginary.org/event/math-art-day-in-tokyo
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万華鏡のお話をしましょう.おっとりサイエンスワールドでは,私は万華鏡のワークショップをやります.
万華鏡の映像AとBがあります.どこが違うのでしょうか.
それぞれの万華鏡の鏡の構成はどのようなものと推測できますか?
A https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/81/18134981/img_0_m?1500302509 B https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/81/18134981/img_1_m?1500302509
A,Bの映像ともに,芯(2枚の鏡の交差軸)の所に12回対称があります.
360°/12=30°,従って2枚の鏡の交差角は 30°/2=15°であることがわかります.
AとBの違いは,水平な鏡が有るか無いかの違いです.
そこで,鏡の組み合わせは,以下のようであると推測できます:
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/81/18134981/img_3_m?1500302509
Bの万華鏡はスペーサーも鏡になり3枚鏡の筒です.
Aの万華鏡はスペーサーは鏡でないので図には省略しています.
2等辺3角形の頂角は15°で,頂点の周りは12回回転対称で頂点が集まり埋め尽くされます.
しかし,底角は82.5°で,底角の周りは規則正しい埋め尽くしにはなりません.
3枚鏡の万華鏡の映像は,平面全体に広がっていますが,Aの2枚鏡の万華鏡は円形の領域のみに映像は留まります.
万華鏡の作製は,私のブログhttps://blogs.yahoo.co.jp/tanidr/18134981.html
をご覧ください.
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数学月間SGK通信 [2017.07.11] No.175
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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皆様お変わりありませんか.暑い夏の7月,8月は数学月間の季節でもあります.
数学月間は,7/22~8/22です.この期間を中心に,数学的なイベントが
各地で盛んになるように応援しています.皆様のまわりで,数学的なイベントがありましたら
お知らせください.数学月間の会HPやFacebookなどで広報しています.
私たちも7/22には,数学月間懇話会の開催予定です.
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数学月間懇話会(第13回)
●日時:7月22日(土),13:50-17:20,開場:13;30
●場所:東京大学(駒場),数理科学研究科棟002号室
●参加費無料
直接会場にお出で下さい.
●主催:数学月間の会,日本数学協会
●問い合わせ:sgktani@gmail.com
●プログラム
1.社会調査の実際,森本栄一(ビデオリサーチ)
2.ブラックホールを見る,池田思朗(統数研)
3.星型正多面体の体積比較(模型も作るよ!),小梁修(osa工房)
17:30から,学内のイタリアントマトで懇親会をします(飲食は各人払い)
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6月28日には,数学月間勉強会(第1回)を実施しました.
こちらの内容は,メルマガでも何回かに分けて報告しようと思っています.
前号(7/4,174号)でも一部紹介しましたが,画像のリンクがうまく開かないようです.
お詫びして,174号の内容を掲載している私のブログのwebsiteを以下に示します.
https://rdsig.yahoo.co.jp/blog/article/titlelink/RV=1/RU=aHR0cHM6Ly9ibG9ncy55YWhvby5jby5qcC90YW5pZHIvMTgxMTY5NjAuaHRtbA--
どうぞお読みいただけると幸いです.
さて,数学月間勉強会の第2回は,9月27日,2時からの予定です.
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「空間群で数学と物理を学ぼう」,谷克彦
(全4回の内容)
[第1回]並進群
対称性の起源「鉱物学・結晶学」.空間の周期的デジタル化.格子と並進群.
逆空間と実空間のデリクレ胞.非周期のデジタル化.
[第2回]結晶点群
有限図形の対称性.なぜ結晶類と呼ぶか.共役類.結晶点群の分解.
[第3回]結晶空間群
結晶点群による並進群の拡大.準同型写像の核=正規部分群.
[第4回]因果律の対称性
双対空間の因果律.
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数学月間流では,数学の源泉となった物理の現場に立つ臨場感があります.
通俗解説書では何冊読んでもピンとこない(私もそうです).
しかし,補題・定理の証明に終始する抽象数学は,何に使うのかわからないと思っている皆さん.
特に若い方にお勧めします.初心から専門の方まで広くご参加を歓迎します.
第1回は,6月28日に15人の参加を得て充実した勉強会になりました.
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閑話休題.2重らせんの話に移りましょう.
数学月間勉強会(第1回)では,空間の周期に関して様々な視点から学習しました.
結晶構造は格子構造を持っており,この格子の基本ベクトルをa1,a2,a3とすると,
逆格子a1*,a2*.a3*が定義されて,この逆格子点は結晶によるX線回折が観測される点です.
格子と逆格子は,互いにFourier変換の関係にある双対空間です.
DNA結晶とその回折像もそのような関係にあります.回折像から結晶構造の推定ができます.
■Rosalind Franklin,ロザリンドは,ロンドン大学のキングス・カレッジに職を得て,
X線結晶学者としてDNA結晶の構造解析を行っていた.
DNAには水分含量の差によって2タイプ(A型とB型)があることを明らかにし,
それらを別々に結晶化し,X線回折写真撮影に成功した(1952年).
写真を見れば,X線結晶学者なららせん構造であることはすぐわかる.
X線構造解析の定石は,回折像の逆Fourier計算し,DNAの詳しい構造を求めることである.
しかし,彼女のまとめた非公開研究データのレポートは,
予算権限を持つクリックの指導教官のマックス・ペルーツが入手し,クリックの手に渡った.
一方,ウイルキンスは,彼女が赴任する前からDNAの研究をしていたが,
ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所のワトソンとクリックに彼女の撮影した写真を内緒で見せた.
ワトソンは,複製の能力のあるDNAのモデルを考えていたが,写真を見て2重らせん構造モデルを確信する.
ワトソン,クリックの論文は,Nature(1953.4.25)に掲載される.ロザリンド・フランクリンらの論文,
ウイルキンスらの論文,合わせて3篇とも同号に同時掲載の体裁をとっている.
ワトソン,クリック,ウイルキンスがノーベル賞を受賞したとき(1962),
フランクリンはその4年前に37歳で亡くなっていた.
ロザリンドの時代にはコンピュータはなく,Fourier合成の計算は,
数表Beevers-Lipson短冊を用いて行う手計算であった.
また,試料たんぱく質の結晶化も不十分で,回折像のスポットもぼんやりしている.
良い結晶を作製して,X線自動回折系で6,000個もの反射スポットを得て,
コンピュータで計算し精密な構造を得るのは1981年になってからである.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/586975/66/18123166/img_0?1499584560
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数学月間SGK通信 [2017.07.04] No.174
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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表題の数学月間流勉強会を,6月28日,15:00-17:00に,東大出版会,会議室で開催しました.
今回[第1回]は,空間の「周期」がテーマでした.この分野の大家の先生方,デザイナーなど関連分野の方,
物理や結晶分野の方,数学愛好の方など15人の参加があり,椅子が足りなくなりご迷惑をおかけしましたが,
楽しく充実した勉強会でした.参加御礼申し上げます.ご興味おありの方の参加をお勧めします.
次回の日時が決まりましたらアナウンスいたします.
[第2回]は,有限図形の対称性(点群),[第3回]は,繰り返し模様の対称性(結晶空間群)と続く予定です.
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[第1回]周期
1.2次元平面のデジタル化
平面のデジタル化とは,1種類のタイルで平面をタイル張りすることです.
例えば,平行4辺形や平行6辺形のタイルは,対向する辺をピッタリ合わせて並べると
平面に隙間なく張り詰めることができます.
Q.平行8辺形以上は平面を敷き詰められないのは何故でしょうか?
以下の図を見て考えましょう.
イメージ 1
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/60/18116960/img_0_m?1499094865
平行に対向する辺を同じように変形して,図案のモチーフを作ります.
このようにすると,エッシャーの様な繰り返し模様の図が作れます.
上図は平行4辺形を変形して得たエッシャーによるモチーフ,
下図は平行6辺形を変形して私が作ったハロウィーン魔女です.
イメージ 2
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/60/18116960/img_1_m?1499094865
2.ユークリッド平面の正則分割
(正多角形によるユークリッド平面のタイル張り)
正p角形が頂点でq個集まっているようなタイル張りを(p,q)と書きます.
正p角形の1つの内角について,(p-2)π/p=2π/q,つまり,1/p+1/q=1/2
p,qの整数解を求めると,(4,4),(6,3),(3,6)の3種類があります.
イメージ 3
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/60/18116960/img_2_m?1499094865
3.アルキメデスのタイル張り
2種類以上の正多角形を組み合わせて平面をタイル張り.
どの頂点の周りの状況も同じ(同一の順序でタイルが並んでいる)
ただし,右回りと左回りによる並び方の違いは同じものと見做す.
イメージ 4
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/60/18116960/img_3_m?1499094865
(1)3つの正多角形(正n1,n2,n3角形)の頂点が出会う場合
2/n1+2/n2+2/n3=1
(2)4つの正多角形の頂点が出会う場合
2/n1+2/n2+2/n3+2/n4=2
(3)5つの正多角形の頂点が出会う場合
2/n1+2/n2+2/n3+2/n4+2/n5=3
(4)6つの正多角形の頂点が出会う場合は
この状態は,正3角形が6つの場合だけ
これらを解いて得られる整数解は,必要条件を満たすものです.
実際に作ることができるか確認すると,8種類のアルキメデスのタイル張りが得られます.
イメージ 5
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イメージ 6
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/60/18116960/img_5_m?1499094865
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https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/60/18116960/img_6_m?1499094865
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数学月間SGK通信 [2017.06.27] No.173
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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表題の数学月間流勉強会を,6月28日,15:00-17:00に実施します.
お気軽にご参加ください.
会場は,東大出版会,会議室です.ちょっと静かなわかり難い場所なので
道順を説明しましょう.
駒場東大前駅下車西口改札を出て,右手に進み高架下をくぐり,線路を左手に見ながら進みます.
パン屋の付近の踏切(渡りません)あたりで,敷地内の様な裏道に入り,しばらく進みます.
駅から400mくらいの距離です.
東大構内ではありませんので,ご注意ください.
東京大学出版会 〒153-0041 東京都目黒区駒場4-5-29
http://www.utp.or.jp/gaiyou/map_komaba.jpg
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今回の勉強会は,「繰り返し模様の対称性」(結晶空間群)の話です.
1832.5.29決闘で亡くなったガロアが作った群論という数学に係わります.
5次方程式の解は,代数計算を繰り返しても得られないことを証明するときに考えた抽象数学です.
同じ時代に,結晶学者は,単位胞が繰り返す結晶の内部構造の対称性を分類しました.
フェドロフは230種の空間群を数え上げたのです.
繰り返し模様の対称性は,無限に続く空間の周期性と単位胞の対称性(点群)の積と見做せます.
今回の第1回の6月28日は,「空間の周期」について色々話し合おうと思っています.
第2回は,有限図形の対称性(点群).
第3回は,点群と周期(並進群)の積で空間群が作れることを学ぶ予定です.
第4回は因果律の対称性です.
さて,周期と言っても色々な話題があります.1つのブロック(単位胞)で空間をデジタル化する様式を,
対称性で分類したものがブラベー格子です.
だたし,空間をデジタル化すると必ず周期的になるかというとそうでもありません.
非周期の例にペンローズ・タイル張り(準結晶)があります.
そして,この非周期のタイル張りは,高次元の周期的空間から投影された影であることもわかります.
結晶の様な周期的な場にある電子の存在確率はブロッホ関数と呼ばれるFourier級数のような関数になっており,
結晶周期の対称性と同様に,逆格子と呼ばれるエネルギー空間の格子の対称性も重要です.
純粋数学では,補題や定理や系の証明に終始するのですが,数学月間流では,
概念の源泉たる結晶・鉱物や物理の現場に立ち返り,群論も学ぼうというものです.
ご期待ください.
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数学月間SGK通信 [2017.06.20] No.172
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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2次元のブラベー格子が5種類あることは既に学びましたが,3次元のブラベー格子が14種類あることには,
まだ言及していませんでした.実際の結晶は3次元の物体ですから,3次元のブラベー格子は特に重要です.
14種類のブラベー格子をどのようにして数え上げるか表に従って説明します.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/586541/03/18096603/img_0?1497878818
3次元ですから,3つの互いに独立なベクトルa,b,cがとれ,それらの組を対称性で分類すると
上段の7つの図(いわゆる晶系に対応している)が得られます.
例えばhexagonalでは,ベクトルaとbは周期が同じだから,a,a,cと書きました.
ベクトル間の交差角度は,対称性での分類の観点から,”90°,120°,および,3つの交差角度が互いに等しい”,
などが特別扱いされます.これらに基づき,図示した7つが,まずブラベー格子になります.
これら7つはすべて,P(primitive単純格子)--格子の頂点のみに格子点がある(単位胞に1つの格子点が含まれる)ものです.
7つのP格子のそれぞれに,複格子;C(c-面心),I(体心),F(面心)が存在可能か調べます.
格子点を付加すると対称性が破れてしまう場合は,複格子の存在が許されない場合で,表中にx印がついています.
また,作った複格子は結局P格子と同じものである場合は,表中にPと書きました.
こうして生じる異なる型の格子(ブラベー格子)を数え上げると14種類であることがわかります.
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数学月間SGK通信 [2017.06.13] No.171
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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政治が国民のやる気をそいでいる今日この頃ですが,皆さまお変わりなくお過ごしでしょうか.
ここでは,周期的空間=結晶空間について語ることが多いのですが,
まだミラー指数についてお話したことがなかったようです.
結晶を扱う固体物理では,必ず最初に学ぶことなのに,説明はとばしておりました.
ミラー指数は結晶面の記述に必要です.その原理(なぜ逆数をとるかなど)の理解に,
混乱する学生が多い所でもあります.疑問が解ける説明になるよう留意しつつ,今日ここで取り上げます.
結晶の内部構造(原子配列)の対称性は,結晶の外形にも現れるものです.
皆さんも,規則正しい面で囲まれた結晶の外形を見たことがあるでしょう.
水晶,蛍石,ザクロ石,黄鉄鉱,様々な結晶の写真をご覧ください.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/82/18085782/img_2_m?1497280452
まず,結晶に座標軸(X-軸,Y-軸,Z-軸)を決めるのですが,
これは結晶の対称性を考慮して合理的に決めます.一般に,座標系は斜交座標軸です.
先の例で具体的に言うと,
水晶では,X-軸,Y-軸の交差角は120°,Z-軸は,X-Y平面に垂直.
蛍石,ザクロ石,黄鉄鉱,などでは,直交座標系です.
結晶は周期的な空間=格子です.格子点を乗せている面が結晶面です.
(格子点は周期の表現であり,しいて言えば単位胞を点で代表していると考えてください.
ここに原子があるというわけではありません)
結晶構造中には,さまざまな結晶面が存在します.結晶の外形に現れる面も結晶面の1つであります.
ある結晶面が,X-軸,Y-軸,Z-軸を過る切片を,a/h, b/k, c/l とすると,
この結晶面の平面の方程式は,hx/a+ky/b+lz/c=1 です.ここで,
a,b,cは,X-軸,Y-軸,Z-軸の周期(座標軸に沿って単位胞をとりますから,単位胞のサイズとも言えます),
h,k,lは整数です.結晶面が格子点を乗せているからには,h,k,lが無理数ではいけません.
これは,結晶空間が単位胞を並べてできているデジタル空間であることからの帰結で,
結晶面の有理指数の法則(アウイ,1778)と言います.
さて,この場合の結晶面のミラー指数は,(h,k,l)となります.
ミラー指数は,イギリスの鉱物(結晶)学者ミラーが,1839年に考案したものです.
2次元で,ミラー指数の実例を掲載してpきます.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/82/18085782/img_1_m?1497280452
ミラー指数(h,k)は,切片を(a/h,b/k)と書いた時のh,kであるから,
切片は(a/1,b/2) と思っても良いし,(2a,1b)=(a/(1/2),b/(1/1))として,
h:k=1/2:1/1=1:2を求めても良い..
x軸に平行な面の切片は,(∞a,b)=(a/(1/∞),b/(1/1))として,
h:k=0:1とする.
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数学月間SGK通信 [2017.06.06] No.170
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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久しぶりですが,今回は正多面体や菱形多面体の話題を取り上げます.
ユニット折り紙で,菱形多面体や星型多面体を作ったことがある方もおありでしょう.
まず,プラトンの正多面体は5種類であることを復習しましょう.
正p多角形の面が頂点でq個集まってできる正多角形は,シュレフリーの記法で{p,q}と記します.
プラトンの正多面体は,正4面体{3,3},正6面体{4,3},正8面体{3,4},正12面体{5,3},正20面体{3,5}です.
面を頂点に変えた図形同士は互いに双対な図形と言います.記号で言うと
{3,3}は自分自身と双対です.{4,3}と{3,4}は互いに双対.{5,3}と{3,5}は互いに双対です.
互いに双対の図形の対称性は同じです.
まず,Fig.2をご覧ください.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/11/18073811/img_1_m?1496617471
左図は,互いに双対の図形,正6面体{4,3}と正8面体{3,4}の重ね合わせ.
双対の図形の対称性は同じですので,重ね合わせた図形も同じ対称性になります.
右図も同様で,正12面体と正20面体の重ね合わせの例です.
次にFig.1に移りましょう.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/11/18073811/img_0_m?1496617471
6・8面体は,正6面体と正8面体の重ね合わせの共通部分です.同様に
12・20面体は,正12面体と正20面体の重ね合わせの共通部分です.
これらの多面体は正多面体ではありません(2種類の正多角形の面があるので,半正多面体).
6・8面体の双対図形が菱形12面体,12・20面体の双対図形が菱形30面体です.
例えば,左側の系列で言うと,6・8面体の正方形の面を,菱形12面体の稜が4つ集まる頂点に,
正3角形の面を稜が3つ集まる頂点に対応させています.
互いに双対な多面体の対称性は同じですから,
左の系列
菱形12面体,6・8面体は,立方体(あるいは,正8面体)と同じ対称性.
右の系列
菱形30面体,12・20面体は,5角正12面体(あるいは,正20面体)と同じ対称性です.
菱形多面体は,面の形が菱形で正多角形ではありませんから,正多面体や半正多面体の仲間ではありません.
(注)半正多面体とは,複数種類の正多角形の面でできるものです.菱形は正多角形ではありません.
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数学月間SGK通信 [2017.05.30] No.169
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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今日は,数学の話題ではないのですが,福一原発事故で2011.3に環境に放出されたセシウムについて
測定したので,その話をします.半減期の定義は,ほんのちょっと数学に関係があります.
最近,IMADENさんの協力を得て,我々の研究会で新しいγ線測定器を作りました
そのテスト結果です.
この測定器のシンチレータはCsIで,前々回のものと変わりませんが,
検出にホトダイオードではなく,PMT(光電子増倍管)を使っています.
そのため,感度は大変よくなりました.
エネルギーの分解能はシンチレータで決まりますから,
前回の測定で使用したCZT結晶を用いたRAdAngel社のエネルギー分解能には及びません.
測定した西郷試料は,2012.10.17に採集した除染前屋根堆積物と栗です.
Fig2 2017.05.28の測定結果(CsI+PMT)
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/45/18064145/img_0_m?1496061605
■
セシウムCs134の半減期は2年,Cs137の半減期は30年です.
Cs134もCs137も原子炉の中で作られたもので,2011.3の事故で放出されました.
ウラン235が核分裂すると,いろいろな核種が生まれます.
例えば,ヨウ素131とイットリウム103と中性子,セシウム137とルビジウム95と中性子 ,などです.
同様に核分裂で生じる核種にキセノン133があり,これが中性子を捕獲してセシウム134に変わります.
Cs134の生成には中性子の捕獲が必要ですので,原子炉の稼働時間が長いほど,燃料棒中たくさん生成されています.
今回の福一の場合は,放出された時点2011.3で,Cs137:Cs134の放射能量(ベクレル)比は1:1だったとのことです.
1 ベクレルというのは, 1 秒間に 1 回の割合で原子核が崩壊する放射能の量のことです.
Cs137は1回の原子崩壊で662keVのγ線が1つ出ますが,
Cs134の1回の原子崩壊では,605keVのγ線と796keVのγ線が1つづつ出ますので,
大雑把に言うと,同じ1ベクレルのCs137とCs134では,Cs134の方が2倍くらいγ線を出します.
■
2011.3に放出された試料を,新しく作った測定器で,再測定(2017.5)しました.
事故から6年ほど経っていますので,半減期30年と長いCs137はあまり減少しない(1割減程度)が,
半減期2年と短いCs134の強度は1/2.6に減少しているはずです.
計算は以下の半減期の定義を参照ください.
半減期Tの定義,tだけ経過後の残存原子比,N(t)/N(0)=(1/2)^(t/T)
保存した試料の測定ですので,このような結果になるはずです.
実際の環境中のセシウム分布状態は,このような自然減衰の他に,
拡散や移動により変化しています.下水や流水により川底や海低などに移動したものがあると思われます.
水の外からの測定では,水の遮蔽効果により測定できませんので,
この種の装置を水中に下し測定を行うべきですが,あまり測定は行われていません.
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数学月間SGK通信 [2017.05.23] No.168
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■米国MAMの動向
現実世界の多くの課題を解くのに,数学と統計が重要な役割を演じています.
昨年度の米国MAMのテーマは,ずばり「予測の未来」でした.米国MAMでは,統計や予測に関するテーマが増加しています.
これまでのMAM数学月間(1986年4月のレーガン宣言で始まった)の呼称も,2017年から
MSAM(Mathematics and Statistics Awareness Month)数学・統計月間に変わりました.
この流れを作った背景には,コンピュータ利用とAI人工知能技術の発展があります.
嫌なことですが,スノーデンの告発で明らかになったように,個人情報,個人メールを含むあらゆるデータが,
米国NSAにより収集され(collect it all),解析に使うことができる監視社会になりました.
米国NSAによるデータ独り占めが,国家の独立性を危うくしたり,
不正な情報操作を許すことにならないように注意が必要です.
私たちの日本の数学月間では,世論調査がどれほど正しいのか疑問を持ち,この数年これを取り上げてきました.
しかし,その一方,大量のデータが,リアルタイムで収集できるのが現代です.
これをどのように解析・予測するかの数学手法は,興味深いことです.
社会と数学の架け橋を謳う「数学月間」としては,これらを取り上げないわけにはいきません.
今年7月22日の数学月間懇話会でも,昨年に続く世論調査のテーマと少ないデータからの推論を取り上げます.
詳細は数学月間ブログやSGKのウエブサイトをご覧ください.
■米国MSAMの「数学祭り」
今年の米国MSAMには,例年のMAM(毎年4月に実施)のような統一テーマがありませんでした.
ウエブサイトで目につくイベントは,「数学祭り」national math festivalの楽しい様子です.
これは,日本の「とっとりサイエンスワールド」(注)によく似ています.
(注)とっとりサイエンスワールドは,2007年にスタートした人気のある県民イベントです.
詳細は,数学月間ブログをご覧ください.
米国MSAMの「数学祭り」は,4月22日土曜日の10:00~19:00,ワシントンDCのダウンタウンにある
ウォルター・E.・ワシントン・コンベンション・センターで実施(一般公開の無料イベント)されました.
講演,デモ,アート,映画,実演,パズル,ゲーム,児童書の読書などがあり,幼児からすべての年齢の成人が対象です.
ウエブサイトで見られるビデオの一つを紹介しましょう.
米英には,数学見世物師のような専門家が居り,なかなか見事なパフォーマンスが見られます.
例えば,Matt Parker のマジック・スクエアのデモはとても面白いものです.
以下の4x4の数表をご覧ください.
A 1 12 7
11 8 B 2
5 10 3 C
4 D 6 9
(1)縦列の4つの数字の総和,(2)横列の4つの数字の総和,(3)全体の4分割のそれぞれの部分の4つの数字の総和,
(4)中心部分の4つの数字の総和,(5)中心2列の上部分(下部分)の4つの数字の総和,
(6)表の4隅の数字の総和,(7)2つの対角線の4つの数字の総和.
これらがすべて同じ数字になるように,A,B,C,Dを求めます.
さて,総和の数字は,観客に勝手に言わせます.もし,48と言われたら,
A=28,B=27,C=30,D=29です.どんな総和の数字を言われてもすぐできて
とても不思議です.この種は,以下のようなものです.うまく実演してみましょう.
総和の数字をnと言われたら,A=n-20,B=n-21,C=n-18,D=n-19と計算すればよいのです.
無限に広がる2次元の世界(平面)が,周期的であるとは,1枚のタイル(平行4辺形)を張り詰めて,平面のタイル張りがなされている状態です.
周期的な平面はタイル(単位胞)を単位としてデジタル化された平面といえます.
タイルの辺と辺を合わせてタイル張りをすると,平面は必ず周期的になります.
平行4辺形の2辺は,周期的な2次元世界を張る「基本並進ベクトル」a1,a2です.
(注)2次元だから,互いに独立なベクトルは2本あります.
平行6辺形でも平面のタイル張りができますが,
対向する2辺間の移動ベクトルを,a1,a2,a3とすると,互いに独立なベクトルは2つのみで,残りのベクトルは従属 a3=a1+a2
a1,a2を基本並進ベクトルという.基本並進ベクトルa1,a2の1次結合ーつまり,任意の整数n1,n2に対して,T(n1,n2)=n1・a1+n2・a2
となるベクトルT(n1,n2)も並進ベクトルで,並進ベクトルの集合は群をなします;
これを並進群といいます.並進ベクトルT(n1,n2)で移動する点はすべて同価で,格子点と言い,格子点の集合全体が格子です.格子は,並進群の具体的な表現とも言えましょう.
(*注)
並進ベクトルの集合Γは,加法で閉じており,群をなすことは明らかでしょう.
・ T(n1,n2),T(m1,m2)が並進群Γの元なら,
T(n1,n2)+T(m1,m2)=T(n1+m1,n2+m2)もΓに含まれる.
・ 動かさない並進T(0,0)が存在し,これが群Γの単位元.
・ 並進T(n1,n2)に対し,逆元T(-n1,-n2)が存在する.
基本並進ベクトルa1,a2の関係を,対称性で分類して5つのブラベー格子が出来ることは,前号の図をご覧ください.また,基本並進ベクトルが作る平行4辺形が単位胞で,単位胞と呼ばれる所以は,この面積の中に格子点が1つ含まれるからです.
ただし,面心格子のように複数の格子点(2次元の面心格子では2つ)を含む胞を単位胞(実は複格子点胞)と便宜上呼ぶこともあります.
本来,単位胞はすべて単格子点胞とすべきだが,複格子点胞も混じっている.それは,以下の便宜上の根拠による:
The smallest portion of a lattice with identipoints at its corners which still retains the same point-group symmetry as the entire lattice.
単位胞 unit cell
単格子点胞 primitive unit cell ⇒ 1-lattice point cell
複格子点胞 multiply primitive unit cell ⇒ n-lattice point cell
任意の並進ベクトルの和は,演算の順番によりません.そのような群は可換群(Abel群)と呼ばれます.
格子点を周期的に抜き取った粗い格子は,もとの格子の部分群です.1つの格子(並進群)には,たくさんの粗い超格子(部分群)がありますが,並進群は可換群ですから,並進群のすべての部分群は正規部分群になります.
例えば,(n1,n2)の偶数格子点だけを集めた粗い格子もできます.偶数格子点を「黒」,奇数格子点を「白」に塗り分ければ,黒白の2色格子ができます.
周期的平面を対称性で分類すると,図1に掲載するように5つのタイプ(ブラベー格子)になります.
平面ですから周期を決める互いに独立なベクトルは2種類で,そのベクトルの状態を図1の2段目に赤い矢印で示しました.やはり図の2段目には,この赤いベクトルを2辺とする平行4辺形(グレーに着色,平行4辺形の頂点には格子点がある)を図示しました.これは単位胞と呼ばれます.
図の3段目は,1つの格子点を中心とし,隣接格子点と結ぶ線の垂直2等分線で囲まれた図形を示しました.この図形はデリクレ胞(固体物理の方では,ウイグナー=ザイツ=W-Z胞)と呼ばれます.デリクレ胞の作り方から,”格子点にデリクレ胞を配置すれば平面が隙間なく埋められる”ことは明らかでしょう.それぞれのブラベー格子の対称性はデリクレ胞の対称性に帰着すると言っても良いでしょう.
図1
■5つの格子のタイプ(ブラベー格子という)の復習はここで終えましょう.
ブラベー格子の内の「一般格子」は,2回回転対称(格子なら自然に生じる)しかないので除外し,他の4つについて,実際の例を伝統模様で見てみましょう.
以下の図2を見て,どの文様がどのブラベー格子に所属するかご鑑賞ください.
図2
イメージ 1
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数学月間SGK通信 [2017.05.02] No.165
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■モワレ縞
次の図をご覧ください.λ1の正方形目の格子と,λ2の正方形目の格子が,互いに平行のままで重なったときに生じるモアレ縞です,
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/61/18015761/img_0_m?1493248332
生じるモワレ縞の周期 Lは,1/L=1/λ2-1/λ1 の関係で決まります.
子供の頃,織物検査器というのを玩具にしていました.布地の上に硝子板を乗せると,モワレ縞がはっきり表れ面白い.
この原理で1インチの中に何本糸があるか,織物の出来が均一かなどが,調べられる訳で,
ものさしの様なガラス板の中に,既知の間隔の線がたくさん引かれていました.
■周期的な平面(平面のタイル張り)
周期的な平面は,1種類のタイルでタイル張りされています.つまり,デジタル化された平面と言えましょう.
どんな形のタイルが,平行移動のみで平面をすきまなく埋め尽くすことができるかといえば,
(1)平行4辺形,あるいは,(2)平行6辺形のタイルです.
(1)平行4辺形とは下図の(A)のような形です.
これらは,向かい合った平行な辺どうしは同じ長さ.向かい合った辺どうしを突き合わせて平面を敷き詰めることができます.
向かい合った辺に同じような変形を加えて図案のモチーフを作ります.エッシャーの作品の2羽の鳥はこのようにして作られました.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568616/27/17239427/img_4_m?1493646655
(2)平行6辺形は平行な辺どうしが同じ長さの図形で,下図の(B),(C)のような形です.
これらは,向かい合った平行な辺(同じ色に着色)どうしを突き合わせて,平面を敷き詰めることができます.
向かい合った辺に同じような変形を加え,図案のモチーフを作るとエッシャーの様な繰り返す絵が作れます.
私は, ハロウイン魔女を作って見ました.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568616/27/17239427/img_5_m?1493646655
(3)平行8辺形以上は平面を敷き詰められないのは何故でしょうか
平面は2次元のために独立な平行移動の方向は2つだけで,3つ目の方向は決まってしまいます.
可能な並進方向は全部で3つで,4つ目の方向は存在できません.
従って,敷き詰め可能なのは平行6辺形までということになります.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568616/27/17239427/img_6_m?1493646655
■お知らせ
●数学月間勉強会
「結晶空間群で,物理と数学を学ぼう」,
谷 克彦(日本数学協会幹事)
●数学月間の会,日本数学協会
日本数学協会は,7/22~8/22を数学月間と定めました.
数学と社会の架け橋=数学月間は今年で13回になります.
このたび,「数学月間勉強会」シリーズを始めます.
数学月間流勉強会の特徴は,テーマを,数学と社会(今回は,物理/芸術)の両面からとらえることです.
それは,完成した数学の学習ではなく,数学が生まれる現場に立ち会うようでもあります.
”通俗解説書は何冊読んでもピント来ない(私もそうです),一方,補題・定理の証明に終始する抽象数学は味気ない”
と思っている皆さん,とくに若い方々にお勧めします.初心から専門の方まで広くご参加を歓迎します。
●日時:6月28日,15:00~17:00
●場所:東京大学出版会,会議室
最寄り駅は,駒場東大前
●無料
●問い合せ・申し込み: sgktani@gmail.com
●第1回のテーマ:
「周期と空間のデジタル化」,繰り返し模様を鑑賞する
第2回は,「結晶点群」と部分群を理解する
第3回は,並進群の結晶点群による拡大「結晶空間群」を作る
第4回は,因果律の対称性
の予定です.
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数学月間SGK通信 [2016.04.25] No.164
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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今日は,まず図をご覧ください.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/79/18011279/img_0_m?1492957285
正方形の網目(格子点)の網(格子)を2枚重ねただけですが,
両方の網目が重なった位置の網目に新しい格子が見えて美しい.
もとの格子の2つの並進ベクトルをa,bとすると,もとの格子は,格子点 na+mb,(n,mは任意の整数)の集合です.
格子を2枚重ねて,新しい周期の2つの並進ベクトル x, yが生じているこの図の状態は,
x=2a+b,y=a+2b です.この基底の変換を行列で書き,行列式を求めると3ですので,
新しくできた格子はもとの格子と比べて面積で3倍粗くなっていることがわかります.
格子というのは,並進ベクトルの作る群=並進群の”図的表現”ですが,
2枚の格子の干渉で生じた新しい格子の周期は,
もとの格子の粗いサンプリングになっていることがわかりますね.
だから,新しい格子はもとの格子の部分群になります.
格子が重なって,拡大された(粗い)格子が見える現象は,干渉(ビート)と同じことです.
実際に,2つの原子網面が重なって,このようなビートが見えることは,
電子顕微鏡で格子像の観察をするときにもよく起こります.
結晶は周期的な構造をしているので,周期的な空間は「結晶空間」とも呼ばれます.
エッシャーの繰り返し模様や,壁紙模様などで,周期的空間の実例をたくさん目にしていると思います.
次回は,周期的空間について,並進群を利用してもう少し詳しく調べていくことにします.
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数学月間SGK通信 [2017.04.18] No.163
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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先週は,ステレオ投影の原理を説明しました.
ステレオ投影は,角度を保存する(交差する線の角度を変えない)性質がありました.
この球表面から平面への投影法は,
地図を作るのにも利用されていますが,
結晶や多面体の対称性を記述するのに用いますので
先週の続きで応用例まで掲載しておきます.
■点群の表示に使われるステレオ投影図
・多面体を球の中心に置いて,球の中心から多面体の各面に下した垂線が,
球表面を過る点が,多面体の面の球表面への投影点とします.
・球表面の投影点(南半球)を,球の北極と結び,南極での接平面上に投影します.
こうして,多面体の面のステレオ投影像が作れます.
イメージ 1
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/09/18002609/img_0_m?1492443598
このステレオ投影の例で用いた多面体の見取り図を示します,
この多面体は立方体で,稜のに沿って2種類の面があるものです.
この多面体の対称要素の配置も見取り図に記入しました.
イメージ 3
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作成した対称要素のステレオ投影図は以下のものです.
イメージ 2
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/09/18002609/img_1_m?1492443598
この多面体には,各面に垂直にさまざまな回転対称軸があります.
ステレオ投影により,これらの点群の対称要素の配置図を,平面の円内に得ることができます.
各面の対称軸の位置(■,▲など),および,鏡映面(赤い円弧),対称心などが