2012年5月の記事一覧

ささいな事故が雪崩をつくる--複雑系(大規模停電,原発事故)の特性

「複雑系とは何か」は,別項で取り上げるとして,大規模送電網や原発は複雑系です.
2011年7月の数学月間懇話会(第7回)では,これも取り上げました.2011年4月の米国MAMのテーマも「複雑系」でした.
何らかのささいな原因(多分,樹木が送電線に触れスパーク)により,局所的停電が起きた.→送電網の残りの部分に過剰負荷がかかり,健全だった部分の電線が切れる.→あっという間に,次々と送電網全体に停電が拡がる.
日本の原発事故も、引き金は地震・津波だったかも知れませんが,小さな事故が雪崩となり大きな事故を生むという複雑系の特性があります.引き金は,地震・津波だけではありません.組織やエージェントを含め、何処に発端があるか予測できません.
複雑系は,<バタフライ・エフェクト>が起こり得る世界です.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

送電網ネットワーク中にある節点の次数(=その節点に集まる経路の数)の頻度分布図を作ったとき,節点の次数の高いものも残っているような(べき乗則分布)ネットワークですと,次数の高い節点が攻撃されると故障の雪崩につながります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●べき乗則
大規模停電,巨大地震,所得の分布,.... いろいろな頻度分布に<べき乗則分布>が見られます.正規分布,ポアソン分布,ワイブル分布など,中心値のまわりに釣鐘型の分布を作りますが,べき乗則分布では,規模の大きい事象が起こる確率もいつまでも残っています.
被害コストの期待値は,被害コストと確率の積であり,巨大地震は巨大な被害コストをもたらすので,巨大地震の確率が小さいと言って無視することは間違いです.原発事故も同様です.

(引用文献)ーーーーー
1.2011MAM、http://www.mathaware.org/mam/2011/essays/
Cascading Failures: Extreme Properties of Large Blackouts in the Electric Grid
2.数学文化(2011),16,p113-127
今年の米国MAMの話題と日本の原発事故
3.SGK通信(2011-06)数学月間懇話会報告
http://www.sugaku-bunka.org/modules/journal/journal_main.php?block_id=514&journal_id=22&page_no=2#514

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不確かさ(グレーゾーン)に満ちた世界


●正しく統計を理解しよう!
私達は,yes/noのデジタル思考に毒されています.
そして,数学や科学は,yes/noの答えを出せるはずと思い込んでいます.
しかし,真実はyesでもnoでもない.それを,「yes/noで答えろ」と無理な要求をします.
このようなグレーゾーンの扱いを,都合の良いように報道する大手メディアの数学リテラシーの欠如を憂います.
私達は,不確かなものを正しく判断しなければなりません.
「わずか0.5%の発癌率の上昇」といいますが,それは,何人のがん患者を生み出すと思いますか?
そして,安全/危険のデジタルの区分は何処にありますか?
これらは数学や科学が答えを出してくれません.
国民がどのような生活を選択するか,科学を超えて判断する<トランス・サイエンス>の課題です.
数学月間が今ほど必要な時代はありません.
●大規模データの解析困難さ!
今年の米国MAMのテーマは,<数学,統計学とデータの洪水>でした.
統計学は,品質管理,医療・創薬・臨床,経済金融,統計調査,データマイニングなどの分野に係わり,現在ますます必要性が増しています.
大規模データ(データの洪水)といっても,被験者1人から大量(p個)の特正データを採集できるが,被験者の数(n個)がはるかに少ないn<<pという状態で,推論を行わなければならぬ困難さ-「新NP 問題」が生じている.
つまり,大規模データがあっても,データがむしろ不足している状況で,適用できる統計的推論の新手法が必要とされています.
●不確かさで満ち溢れた世界!
私達は,観測データからモデル(現象を起こす仕組み)を推定する.
このモデルが,全ての観測データをよく説明したとしても,このモデル(サイバー世界)が真実であるがどうか誰にもわからない.将来,このモデルで説明できないデータが観測される可能性は消せないのだから.
かように私達の世界は,不確かなことで満ち溢れています.

SGK通信(2012-03)をご覧ください.

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レーガン宣言で始まった米国MAM

米国のMAM(数学月間)は,1986年のレーガン宣言で始まりました.
(1986~1990年は,週間として実施されました)

----アメリカ合衆国大統領による宣言5461----
「国家的数学強調週間」1986年4月17日

宣言(National Mathematics Awareness Week)

およそ5000年前,エジプトやメソポタミアで始まった数学的英知は,科学・通商・
芸術発展の重要な要素である.ピタゴラスの定理からゲオルグ・カントールの
集合論に至る迄,目覚ましい進歩を遂げ,さらに,コンピュータ時代到来で,
我々の発展するハイテク社会にとって,数学的知識と理論は,益々本質的になった.
社会と経済の進歩にとって,数学が益々重要であるにも拘わらず,数学に関す
る学課が,米国教育システムのすべての段階で低下する傾向にある.しかし,
依然として,数学の応用が,医薬,コンビュータ・サイエンス,宇宙探究,
ハイテク商業,ビジネス,防衛や行政などの様々な分野で不可欠である.
数学の研究と応用を奨励するために,すべてのアメリカ人が,日常生活において,
この科学の基礎分野の重要性を想起する事が肝要である.

上院の共同決議261で,国会が1986年4月14日から4月20日の週を,国家的な
数学強調週間として制定し,この行事に注目する宣言を出す事を大統領に要請した.

今日,アメリカ大統領,私,ロナルド・レーガンは,1986年4月14日から4月20日
の週を国家的数学強調週間とする事を,ここに宣言する.私は,すべてのアメリカ人
に対して,合衆国における数学と数学的教育の重要性を実証する適切な行事や
活動に参加する事を勧告する.その証拠として,アメリカ合衆国の独立から
210年の西暦1986年の4月17日,ここに署名する.

ロナルド・レーガン(Ronald Reagan)
「1986年4月18日,午前10時43分,連邦登記所に登録された」

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数学月間を知っていますか


毎年,7月22日~8月22日が<数学月間>です.
22/7と22/8が,数学で重要な数であるπ=3.14...とe=2.71...に近いことに因んでいます.
この期間に,数学が我々の暮らしや社会を支えていることに思いを馳せようと言うわけです.
「漢字が読めないのは恥だが,数学など嫌いであたりまえ」と言ってはばからない大人がなんと多いことか!
決して,数学は社会と無縁のものではありません.
日本数学協会は,<数学月間>をこの期間に定め,数学に親しむイベントの開催を呼びかけて,今年で8年目です.
米国には,MAM(Mathematics Awareness Month)があります.毎年統一テーマを決めて,4月に実施されます.米国MAMは,1986年のレーガン宣言で始まり,今年の4月で27回です.
英国にも,MMP(MillenniumMathsProject)があります.
これらの紹介は,ここで,追々行いたいと思っています.
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さて,以下は今年の「数学月間懇話会」のお知らせです.
ご興味お持ちの方どうぞご参加ください.
詳しくは→ http://www.sugaku-bunka.org/ 数学月間の会

● 日時:7月22日(日),14:00-17:00
● 場所:東大駒場キャンパス,数理科学研究科棟,056号室
● 無料
プログラム:
●「数理化学の探検-化学の中の数学の世界」
細矢治夫(お茶の水女子大,名誉教授)
物理数学というものがあります。もちろん物理数学は化学でも活躍します。
では、化学数学というのは何をどう扱うのでしょうか。
●「じゃんけんの必勝法を論じて、あわせて統計的思考に及ぶ」
石黒真木夫(統計数理研究所,名誉教授)
世界は不確実なことだらけです.後出しはできないんです.
だから,確率や統計的思考を正しく学びましょう.
● 数学月間について意見交換
日・米・英の数学月間は,どのような活動でしょうか.
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(連絡先)
SGK(数学月間の会)世話人,日本数学協会幹事: 谷 克彦
e-mail: sgktani@gmail.com

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