数学月間の会SGKのURLは,https://sgk2005.org/
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数学月間SGK通信 [2017.06.20] No.172
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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2次元のブラベー格子が5種類あることは既に学びましたが,3次元のブラベー格子が14種類あることには,
まだ言及していませんでした.実際の結晶は3次元の物体ですから,3次元のブラベー格子は特に重要です.
14種類のブラベー格子をどのようにして数え上げるか表に従って説明します.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/586541/03/18096603/img_0?1497878818
3次元ですから,3つの互いに独立なベクトルa,b,cがとれ,それらの組を対称性で分類すると
上段の7つの図(いわゆる晶系に対応している)が得られます.
例えばhexagonalでは,ベクトルaとbは周期が同じだから,a,a,cと書きました.
ベクトル間の交差角度は,対称性での分類の観点から,”90°,120°,および,3つの交差角度が互いに等しい”,
などが特別扱いされます.これらに基づき,図示した7つが,まずブラベー格子になります.
これら7つはすべて,P(primitive単純格子)--格子の頂点のみに格子点がある(単位胞に1つの格子点が含まれる)ものです.
7つのP格子のそれぞれに,複格子;C(c-面心),I(体心),F(面心)が存在可能か調べます.
格子点を付加すると対称性が破れてしまう場合は,複格子の存在が許されない場合で,表中にx印がついています.
また,作った複格子は結局P格子と同じものである場合は,表中にPと書きました.
こうして生じる異なる型の格子(ブラベー格子)を数え上げると14種類であることがわかります.
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数学月間SGK通信 [2017.06.13] No.171
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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政治が国民のやる気をそいでいる今日この頃ですが,皆さまお変わりなくお過ごしでしょうか.
ここでは,周期的空間=結晶空間について語ることが多いのですが,
まだミラー指数についてお話したことがなかったようです.
結晶を扱う固体物理では,必ず最初に学ぶことなのに,説明はとばしておりました.
ミラー指数は結晶面の記述に必要です.その原理(なぜ逆数をとるかなど)の理解に,
混乱する学生が多い所でもあります.疑問が解ける説明になるよう留意しつつ,今日ここで取り上げます.
結晶の内部構造(原子配列)の対称性は,結晶の外形にも現れるものです.
皆さんも,規則正しい面で囲まれた結晶の外形を見たことがあるでしょう.
水晶,蛍石,ザクロ石,黄鉄鉱,様々な結晶の写真をご覧ください.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/82/18085782/img_2_m?1497280452
まず,結晶に座標軸(X-軸,Y-軸,Z-軸)を決めるのですが,
これは結晶の対称性を考慮して合理的に決めます.一般に,座標系は斜交座標軸です.
先の例で具体的に言うと,
水晶では,X-軸,Y-軸の交差角は120°,Z-軸は,X-Y平面に垂直.
蛍石,ザクロ石,黄鉄鉱,などでは,直交座標系です.
結晶は周期的な空間=格子です.格子点を乗せている面が結晶面です.
(格子点は周期の表現であり,しいて言えば単位胞を点で代表していると考えてください.
ここに原子があるというわけではありません)
結晶構造中には,さまざまな結晶面が存在します.結晶の外形に現れる面も結晶面の1つであります.
ある結晶面が,X-軸,Y-軸,Z-軸を過る切片を,a/h, b/k, c/l とすると,
この結晶面の平面の方程式は,hx/a+ky/b+lz/c=1 です.ここで,
a,b,cは,X-軸,Y-軸,Z-軸の周期(座標軸に沿って単位胞をとりますから,単位胞のサイズとも言えます),
h,k,lは整数です.結晶面が格子点を乗せているからには,h,k,lが無理数ではいけません.
これは,結晶空間が単位胞を並べてできているデジタル空間であることからの帰結で,
結晶面の有理指数の法則(アウイ,1778)と言います.
さて,この場合の結晶面のミラー指数は,(h,k,l)となります.
ミラー指数は,イギリスの鉱物(結晶)学者ミラーが,1839年に考案したものです.
2次元で,ミラー指数の実例を掲載してpきます.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/82/18085782/img_1_m?1497280452
ミラー指数(h,k)は,切片を(a/h,b/k)と書いた時のh,kであるから,
切片は(a/1,b/2) と思っても良いし,(2a,1b)=(a/(1/2),b/(1/1))として,
h:k=1/2:1/1=1:2を求めても良い..
x軸に平行な面の切片は,(∞a,b)=(a/(1/∞),b/(1/1))として,
h:k=0:1とする.
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数学月間SGK通信 [2017.06.06] No.170
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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久しぶりですが,今回は正多面体や菱形多面体の話題を取り上げます.
ユニット折り紙で,菱形多面体や星型多面体を作ったことがある方もおありでしょう.
まず,プラトンの正多面体は5種類であることを復習しましょう.
正p多角形の面が頂点でq個集まってできる正多角形は,シュレフリーの記法で{p,q}と記します.
プラトンの正多面体は,正4面体{3,3},正6面体{4,3},正8面体{3,4},正12面体{5,3},正20面体{3,5}です.
面を頂点に変えた図形同士は互いに双対な図形と言います.記号で言うと
{3,3}は自分自身と双対です.{4,3}と{3,4}は互いに双対.{5,3}と{3,5}は互いに双対です.
互いに双対の図形の対称性は同じです.
まず,Fig.2をご覧ください.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/11/18073811/img_1_m?1496617471
左図は,互いに双対の図形,正6面体{4,3}と正8面体{3,4}の重ね合わせ.
双対の図形の対称性は同じですので,重ね合わせた図形も同じ対称性になります.
右図も同様で,正12面体と正20面体の重ね合わせの例です.
次にFig.1に移りましょう.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/11/18073811/img_0_m?1496617471
6・8面体は,正6面体と正8面体の重ね合わせの共通部分です.同様に
12・20面体は,正12面体と正20面体の重ね合わせの共通部分です.
これらの多面体は正多面体ではありません(2種類の正多角形の面があるので,半正多面体).
6・8面体の双対図形が菱形12面体,12・20面体の双対図形が菱形30面体です.
例えば,左側の系列で言うと,6・8面体の正方形の面を,菱形12面体の稜が4つ集まる頂点に,
正3角形の面を稜が3つ集まる頂点に対応させています.
互いに双対な多面体の対称性は同じですから,
左の系列
菱形12面体,6・8面体は,立方体(あるいは,正8面体)と同じ対称性.
右の系列
菱形30面体,12・20面体は,5角正12面体(あるいは,正20面体)と同じ対称性です.
菱形多面体は,面の形が菱形で正多角形ではありませんから,正多面体や半正多面体の仲間ではありません.
(注)半正多面体とは,複数種類の正多角形の面でできるものです.菱形は正多角形ではありません.
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数学月間SGK通信 [2017.05.30] No.169
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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今日は,数学の話題ではないのですが,福一原発事故で2011.3に環境に放出されたセシウムについて
測定したので,その話をします.半減期の定義は,ほんのちょっと数学に関係があります.
最近,IMADENさんの協力を得て,我々の研究会で新しいγ線測定器を作りました
そのテスト結果です.
この測定器のシンチレータはCsIで,前々回のものと変わりませんが,
検出にホトダイオードではなく,PMT(光電子増倍管)を使っています.
そのため,感度は大変よくなりました.
エネルギーの分解能はシンチレータで決まりますから,
前回の測定で使用したCZT結晶を用いたRAdAngel社のエネルギー分解能には及びません.
測定した西郷試料は,2012.10.17に採集した除染前屋根堆積物と栗です.
Fig2 2017.05.28の測定結果(CsI+PMT)
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/45/18064145/img_0_m?1496061605
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セシウムCs134の半減期は2年,Cs137の半減期は30年です.
Cs134もCs137も原子炉の中で作られたもので,2011.3の事故で放出されました.
ウラン235が核分裂すると,いろいろな核種が生まれます.
例えば,ヨウ素131とイットリウム103と中性子,セシウム137とルビジウム95と中性子 ,などです.
同様に核分裂で生じる核種にキセノン133があり,これが中性子を捕獲してセシウム134に変わります.
Cs134の生成には中性子の捕獲が必要ですので,原子炉の稼働時間が長いほど,燃料棒中たくさん生成されています.
今回の福一の場合は,放出された時点2011.3で,Cs137:Cs134の放射能量(ベクレル)比は1:1だったとのことです.
1 ベクレルというのは, 1 秒間に 1 回の割合で原子核が崩壊する放射能の量のことです.
Cs137は1回の原子崩壊で662keVのγ線が1つ出ますが,
Cs134の1回の原子崩壊では,605keVのγ線と796keVのγ線が1つづつ出ますので,
大雑把に言うと,同じ1ベクレルのCs137とCs134では,Cs134の方が2倍くらいγ線を出します.
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2011.3に放出された試料を,新しく作った測定器で,再測定(2017.5)しました.
事故から6年ほど経っていますので,半減期30年と長いCs137はあまり減少しない(1割減程度)が,
半減期2年と短いCs134の強度は1/2.6に減少しているはずです.
計算は以下の半減期の定義を参照ください.
半減期Tの定義,tだけ経過後の残存原子比,N(t)/N(0)=(1/2)^(t/T)
保存した試料の測定ですので,このような結果になるはずです.
実際の環境中のセシウム分布状態は,このような自然減衰の他に,
拡散や移動により変化しています.下水や流水により川底や海低などに移動したものがあると思われます.
水の外からの測定では,水の遮蔽効果により測定できませんので,
この種の装置を水中に下し測定を行うべきですが,あまり測定は行われていません.
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数学月間SGK通信 [2017.05.23] No.168
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■米国MAMの動向
現実世界の多くの課題を解くのに,数学と統計が重要な役割を演じています.
昨年度の米国MAMのテーマは,ずばり「予測の未来」でした.米国MAMでは,統計や予測に関するテーマが増加しています.
これまでのMAM数学月間(1986年4月のレーガン宣言で始まった)の呼称も,2017年から
MSAM(Mathematics and Statistics Awareness Month)数学・統計月間に変わりました.
この流れを作った背景には,コンピュータ利用とAI人工知能技術の発展があります.
嫌なことですが,スノーデンの告発で明らかになったように,個人情報,個人メールを含むあらゆるデータが,
米国NSAにより収集され(collect it all),解析に使うことができる監視社会になりました.
米国NSAによるデータ独り占めが,国家の独立性を危うくしたり,
不正な情報操作を許すことにならないように注意が必要です.
私たちの日本の数学月間では,世論調査がどれほど正しいのか疑問を持ち,この数年これを取り上げてきました.
しかし,その一方,大量のデータが,リアルタイムで収集できるのが現代です.
これをどのように解析・予測するかの数学手法は,興味深いことです.
社会と数学の架け橋を謳う「数学月間」としては,これらを取り上げないわけにはいきません.
今年7月22日の数学月間懇話会でも,昨年に続く世論調査のテーマと少ないデータからの推論を取り上げます.
詳細は数学月間ブログやSGKのウエブサイトをご覧ください.
■米国MSAMの「数学祭り」
今年の米国MSAMには,例年のMAM(毎年4月に実施)のような統一テーマがありませんでした.
ウエブサイトで目につくイベントは,「数学祭り」national math festivalの楽しい様子です.
これは,日本の「とっとりサイエンスワールド」(注)によく似ています.
(注)とっとりサイエンスワールドは,2007年にスタートした人気のある県民イベントです.
詳細は,数学月間ブログをご覧ください.
米国MSAMの「数学祭り」は,4月22日土曜日の10:00~19:00,ワシントンDCのダウンタウンにある
ウォルター・E.・ワシントン・コンベンション・センターで実施(一般公開の無料イベント)されました.
講演,デモ,アート,映画,実演,パズル,ゲーム,児童書の読書などがあり,幼児からすべての年齢の成人が対象です.
ウエブサイトで見られるビデオの一つを紹介しましょう.
米英には,数学見世物師のような専門家が居り,なかなか見事なパフォーマンスが見られます.
例えば,Matt Parker のマジック・スクエアのデモはとても面白いものです.
以下の4x4の数表をご覧ください.
A 1 12 7
11 8 B 2
5 10 3 C
4 D 6 9
(1)縦列の4つの数字の総和,(2)横列の4つの数字の総和,(3)全体の4分割のそれぞれの部分の4つの数字の総和,
(4)中心部分の4つの数字の総和,(5)中心2列の上部分(下部分)の4つの数字の総和,
(6)表の4隅の数字の総和,(7)2つの対角線の4つの数字の総和.
これらがすべて同じ数字になるように,A,B,C,Dを求めます.
さて,総和の数字は,観客に勝手に言わせます.もし,48と言われたら,
A=28,B=27,C=30,D=29です.どんな総和の数字を言われてもすぐできて
とても不思議です.この種は,以下のようなものです.うまく実演してみましょう.
総和の数字をnと言われたら,A=n-20,B=n-21,C=n-18,D=n-19と計算すればよいのです.