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グループ 角3等分の作図

サンディエゴの主婦マジョリー・ライスMarjorie Riceが,タイル張りの問題に出会ったのは,1975年のScientific Americanのマーチン・ガードナーのコラムだった.これは,古代ギリシア時代から数学者を魅了し続けてきた<<平面をタイル張りできる「タイル」の形(一つのタイルで平面を分割するテッセレーション)>>の問題です.
私も関心のある問題で,ガードナーのこのコラムを載せたサイエンスは昔読んで手元にあります.平面のタイル張りは,任意の3角形,任意の4角形タイルでできます.凸7角形以上のタイルでは不可能です.凸6角形の場合は,タイル張りできるタイルの形が3タイプあることを,ラインハルトが学位論文で証明しました(1918).難しいのは凸5角形の場合です.1975年時点のガードナーのコラムには,11タイプ(1967年にカーシュナーが発見した3タイプを含む)が掲載されています.この問題では,タイプ分けの条件が,とても難しい.連続変形によりどちらのタイプにも属するものがあるし,出来上がったパターンが全く違うように見えたりもするので,新しいタイプであるかどうかの判定はなかなか難しい.ライスもこの点にずいぶん苦労したに違いない.
1975年のガードナーのコラムの文章を引用すると,ーーーーーーーーー
カーシュナーの論文には,平面を埋める凸多角形が他にないことの証明はでてこない.その「最大の理由」は,編集者の「完全な証明は,かなり大きな本を必要とするだろう」という序文から読みとられる.---------
そして,実際にまだ新しいタイプがあったのだ.

■以下は,natalieの記事(Quantamagazine)による:
https://www.quantamagazine.org/marjorie-rices-secret-pentagons-20170711/
ライスが五角形タイリングに憑りつかれてから,家族はしばしば彼女が台所のカウンタートップの形をひそかにスケッチしているのを見ている.彼女の娘,キャシー・ライスは,「母は落書きしていると思った」と語った.
高等学校で1年しか数学を取らなかったライスは,誰も知らなかった五角形のテッセレーションパターンの新しい族を発見していたのです.ライスは,今年の7月2日94歳で亡くなりました.認知症のため,五角形タイリングの物語がついに完結したのを彼女が知ることはなかったが,ガードナーの提起から数十年が経過していた.
コンピュータ支援の新証明法で,フランスの数学者 Michaël Rao が,ライスが発見した4つを含む15の凸型五角形が存在することを証明した.

■フロリダ州生まれのマージョリ・ジック(Marjorie Jeuck),結婚後ライスは,ワンルームカントリースクールに入り,そこで2学年をスキップし,年長の子供たちと一緒に学びました.彼女は勉強好きでしたが,数学を学んだのは短期間だけです.貧困と文化的規範のため,大学に進学するなど思いもよらない時代でした.1945年,彼女は,敬虔なキリスト教徒のギルバート・ライスと結婚し,ギルバートが軍の病院で働くワシントンD.C.に移りました.後にサンディエゴに移住しますが,マージョリ・ライスは,幼少の息子と一緒に、その地で商業芸術家としてしばらく働きました.その子供は亡くなりましたが,他の5人の子供がおります.
ライスにとって,数学は楽しみでした.「聖書が重要のように,勉強も大切にした」,「他に勢力をつかい,時間を無駄にすることはなかった」とキャッシーは語っています.息子のダビデは,「彼女は黄金比とピラミッドに魅了され,膨大な図面と計算でそれらを研究していました」と述べています.
ライスは,子どもたちが学校に通っている間に自分も読めるようにと,息子の一人にScientific Americanの定期購読を許可しました.
デービッド・スズキの「物の本質」に関するインタビューで,彼女はタイル張りについてのガードナーのコラムを読んだとき,「誰も以前に見たことのないこれらの美しいものを,見つけられたら素敵と思った」と回想している.彼女はこのテーマに魅了され,どのタイプのものが他と違うのかを理解しようと努めた.数学的な背景がないので,独自の記法システムを開発し,数ヶ月で新しいタイプを発見したとも語っています.
発見して驚き喜んで,彼女は彼女の仕事をガードナーに送りました.ガードナーはそれをペンシルバニア州のモラヴィアン・カレッジのタイリング問題の専門家であるドリス・シャツシュナイダーに送ってくれました.一方,ライスは,自宅の誰にもこれの話をしませんでした.「私のお父さんは,お母さんが何をしているか,発見のことなども全く知らなかった.私たちの気を引くことが色々あるけれど,お父さんがパターンを見つけるのに何時間も費やす気持ちなど全く思いもよらない」
シャツシュナイダーSchattschneiderは,ライスの発見が正しいことを確認した.ライスのアプローチは,マイケル・ラオが新しいコンピュータ支援の証明に取り入れたのと同じもので,五角形の頂点がタイル張りの頂点で一緒になる可能性があるさまざまな方法を検討することでした.シャッシュナイダーは雑誌の記事で次のように語っています.目的に合う五角形の角と辺の条件を決定し,条件を満たす五角形を得ます.この方法で,ライスは最終的に4つの新しい凸形五角形とほぼ60種類のテッセレーションを発見しました.
ライスは恥ずかしいと講演を断ったが,シャッシュナイダーの招待で,彼女と夫は大学の数学会に出席し,彼女は聴衆に紹介された.彼女は1996年に "The Nature of Things"ドキュメンタリーでインタビューを受け,ワシントンにある数学協会のロビーのタイルフロアに彼女の五角形テッセレーションの1つが展示され,彼女はエッシャー風の絵画で彼女の五角形のパターンを記念した.

■この間,他のアマチュアも大きなタイル発見をしました.ソフトウェアエンジニアのRichard James IIIは,ガードナーのコラムを読んだ後で,1975年に新たなタイプの五角形を発見しました. 2010年,オーストラリアのジョーン・テイラーは,1990年にペンローズのタイル張りを見てタイル張りに魅了され,非周期のタイル張り(テッセレーション)する奇妙なマルチパートタイルを発見しました.
ライスの娘は「発見のためだけの発見だったが,認められて幸せだった」と語った.彼女は他の数学者が探していた何かを見つけることができたのだ.

Natalie Wolchover @nattyover
Senior writer for @QuantaMagazine covering physics and related things. I have a Klein bottle that contains the universe.

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美術・図工 御殿まり★★

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数学月間SGK通信 [2017.09.12] No.184
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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とっとりサイエンスワールドin倉吉は,8月27日に開催されました.
1,250人の来訪者があり,例年のように盛況でした.万華鏡は120人作りました.
昨年は,鳥取サイエンスワールドの終わった直後,
翌々日に地震がありびっくりしました.多くの方が避難生活をし,
サイエンスワールドの会場だった梨っこ館もガラス天井が落ちたそうです.
隣のプールは7月20日になってやっと利用開始にこぎつけました.
白壁土蔵群,赤瓦館でも地震の被害がありました.
今年,その赤瓦二号館を訪れたとき,見つけた御殿まりの写真です.



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これらはみんな一人の方が作ったものだそうです.お会いしたいものでしたが,
残念ながら不在でした.どれも良いできですね.
正6面体群(正8面体群)と正12面体群(正20面体群)が美しく目につきます.

Q1:さて私はどれを選んだでしょう?

私が選んだのは,前者の方でした.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これと同じ対称性の図形を掲載しましょう

 

 

 

 

 

 

 

これはともに,半正多面体[4,6.6]ですが,立方体のx,y,zの方向に,4回軸があり,
体対角線の方向に3回軸があります.2回軸のある方向も確認してください.
結局,これらは皆,球面正6面体{4,3}や正8面体{3,4}と同じ対称性(点群)になります.

Q2: 球面正12面体{5,3}や菱形30面体はどれとどれでしょう.

これらの対称性(点群)は,正12面体やその双対の正20面体と同じです.
菱形30面体は,12・20面体;あるいは半正多面体[3,5,3,5]の双対図形で,これら3つの対称性はすべて同じです.

Q3: この他に半正多面体[6363]があります.探してみましょう.

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万華鏡の定理

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数学月間SGK通信 [2017.09.05] No.183
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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いつの間にか9月になってしまいました.
皆様,いかがお過ごしでしょうか.つまらぬ騒ぎばかりで,肝心のことは報道されない今日この頃です.
私は,8月20日,鳥取,8月27日,倉吉で,とっとりサイエンスワールドの万華鏡をやりました.
例年通りの多数の参加者がありました.9月に入って母の三回忌もやりました.
さて,今回は,先週に続いて,万華鏡の話です.

■昔,万華鏡の定理(一寸大げさですが)というのを,ブログに掲載したことがありました.
「万華鏡の映像には重なり合いもできないし,空白の隙間もできない」というものです.
ここでいう万華鏡とは,何枚鏡でも構いませんが,鏡で囲まれた筒(鏡筒)の中を覗くものです.
3角形の鏡室を単位タイルとして,映像平面がタイル張りされるのは,
平面がすきまなくタイル張りできる3種類(3角定規のセットにある形)のみで,
その他の鏡室(分数型の3角形と呼びました)では,タイル張りには鏡室タイルの分割されたものが必要になります.
これらは,なかなか複雑なタイル張りで,難しいタイル張りパターンなのですが,
タイル張りが複雑でも,寧率することがすぐ言えるのは,表題の万華鏡の定理です.

https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/84/18199784/img_0_m?1504490120

目の位置(覗き穴)をEとし,映像平面上の任意の点A3に注目しましょう.
EとA3を結んだ線分が鏡面をよぎる点をA3'とします.映像A3が何故見えるかというと,
A3'からEの方に光線がやって来るからで.この光線はどこから来たかと言えば,
万華鏡の鏡筒の中で反射を繰り返し,物体Aから出た光が到達するからです.
映像A1やA2に 関しても同様です.映像平面上の任意の点と目の位置Eとを結ぶと,
必ず鏡筒鏡面の1点をよぎります.
すなわち,映像と鏡面は1:1に対応しており,映像平面上の点で,
対応する鏡面上の点がないということは起こりません.よって,万華鏡の定理が証明されました.
ただし,対応した鏡面上の点で,たまたま,平面鏡のつなぎ目に当たるなど,現実には反射が起着ないこともあり得ます.
しかし理想的には,このつなぎ目は無限小の幅と考えれば,定理に影響を与えず隙間なく領域が飛び移ると推測できます.
さて,ついでに言及しますが,映像のもとになる鏡室の物体Aと映像面上の映像A1,A2,A3,....とは,
図からわかるように,1:(複数)の対応になります.

(注)反射率をr(0<r<r)とすると,n回反射を繰り返した高次の反射では,明るさがr^nになります.
高次の反射程暗くなり,これが万華鏡の視野地平線を決めます.

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万華鏡のまとめ

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数学月間SGK通信 [2017.08.29] No.182
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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今年の夏も,とっとりサイエンスワールド(11年目)は,鳥取県の西部,東部,中部地区と3か所で順に開催されました.
全体で3,000人規模の参加者がある県民に愛されるイベントです.
私は万華鏡で参加しており,毎年,鏡の組み合わせを変えたものを作ってきました.この日曜日は
中部会場でサイエンスワールドが行われ,1,250人の参加者がありました.私は,今戻ったばかりでこの報告を書いています.
万華鏡は,過去のブログに詳細に載せているのですが,この機会にそのエッセンスだけをまとめておきましょう.
■万華鏡の映像が私達の心をとらえるのは,空間の対称性だけではありません.
時間の流れとともに映し出される「千変万化だが一度切しか見られない」映像に生命を感じるからでもありましょう.
ワンド(試験管)の中を降りゆくガラス屑の運命は,運動方程式ですべて定まっているのですが,
時折カオスの起こる期待で目が離せません.万華鏡の魅力は,対称性(秩序)とカオス(乱れ)の混在にあります.
■合わせ鏡の不思議
合わせ鏡が生み出す完全な秩序は,無限に繰り返される「結晶世界」に入り込んだようでもあります.
平行に向かい合う2枚の合わせ鏡の間に物体を置くと,一直線上に物体の映像が繰り返し無限に並びます.
もし,合わせ鏡が平行でなくθの交差角とすると,映像は直線上でなく円周上に並びます.
円周上の反対側で両側から伸びて来た映像がぴったり重なる条件を考えましょう.1回の反射で出来る映像は裏返っていますが,2回反射を繰り返すと初めの向きに戻ります.結局,元の物体とその鏡映像のペアが繰り返すことになります.
つまり,交差角θの合わせ鏡の作る繰り返し単位の中心角は2θです.
従って,映像が円周の裏側でつながり,完全なn回回転対称ができる条件は,360°/2θ=n(整数)となり,
これは,物理学者ブリュースター興の特許(1817)に記載されています.
■今年作製している2枚鏡の万華鏡(ブリュースター型)の2枚鏡の交差角はθ=15°です.n=360/2θ=12ですから,その映像に,12回回転対称があることを確認してください.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/86/18186486/img_0_m?1503932181

■3枚鏡の万華鏡
◆整数解の基本領域
平面をきれいに埋める万華鏡
https://rdsig.yahoo.co.jp/blog/article/titlelink/RV=1/RU=aHR0cHM6Ly9ibG9ncy55YWhvby5jby5qcC90YW5pZHIvMTcwNzc4ODcuaHRtbA--

https://rdsig.yahoo.co.jp/blog/article/titlelink/RV=1/RU=aHR0cHM6Ly9ibG9ncy55YWhvby5jby5qcC90YW5pZHIvMTcwNzgyNjQuaHRtbA--
◆分数解を許す基本領域
分数解の頂点のまわりに乱れのある万華鏡
https://rdsig.yahoo.co.jp/blog/article/titlelink/RV=1/RU=aHR0cHM6Ly9ibG9ncy55YWhvby5jby5qcC90YW5pZHIvMTcwODAzNjYuaHRtbA--

https://rdsig.yahoo.co.jp/blog/article/titlelink/RV=1/RU=aHR0cHM6Ly9ibG9ncy55YWhvby5jby5qcC90YW5pZHIvMTcwODA0MzkuaHRtbA--

https://rdsig.yahoo.co.jp/blog/article/titlelink/RV=1/RU=aHR0cHM6Ly9ibG9ncy55YWhvby5jby5qcC90YW5pZHIvMTcwODA0NzUuaHRtbA--

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数学アートと結晶学

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数学月間SGK通信 [2017.08.22] No.181
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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8月も後半というのに,夏らしい日が戻るのでしょうか.待ち遠しいですね.
8月20日は鳥取,27日は倉吉でとっとりサイエンスワールドが開催されます.良い天気だと良いのですが.
私は,万華鏡作りで参加します.写真は,去年のワークショップの様子です.
https://www.facebook.com/TottoriSW/photos/pcb.1802505856693503/1802505710026851/?type=3
各地でこのような数学への関心を高めるイベントが盛んになることを願っています.

■8月8日は算盤の日でもありましたが.私は,夕方,神保町で開催された数学アート展に寄りました.
ここで取り上げた写真の作品は,三野一也さんの作品です.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/35/18164535/img_0_m?1502278321
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/35/18164535/img_1_m?1502278321
左図は体心立方のデリクレ胞(切頂8面体{4,6,6},あるいはケルビン立体とも呼ばれる)を隙間なく積み上げたところ.
右図は,準正多面体{3,4,3,4}を積み上げています.
準正多面体{3,4,3,4}も切頂8面体{4,6,6}も双対図形は,菱形12面体(これは,立方体心格子のデリクレ胞)です.
右図は菱形12面体の積み上げ(体心格子)そのものでなく,その逆空間に準正多面体{3,4,3,4}を積み上げた
(ただし,{3,4,3,4}はデリクレ胞ではないので正8面体の穴の残る構造)です.
準正多面体{3,4,3,4}は,正8面体と組み合わせて,空間を隙間なく充填できますが,
それらの個数比はいくつかわかりますか?
空間を充填する立体の組み合わせを,以下に図示したのでご覧ください:
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/83/18167283/img_0_m?1502409506
空間を隙間なく充填する多面体や,その対称性は,結晶学の中心課題でしたが,美しいアートにもなりますね.

■3次元の周期的な空間は,互いに独立な3つのベクトルの線形結合で表現できます(これが格子です).
抽象的には整数環上の加群と言えばそれまでですが,結晶学では,格子を対称性の観点から分類しようとしています.
立方体と同じ対称性の格子は,3種類あり,立方単純格子,立方体心格子,立方面心格子です.
単純格子は単位胞に格子点を1つ含みますが,体心格子は単位胞の中に格子点を2つ,面心格子は格子点を4つ含みます.
単位胞の定義は,不統一に思われるでしょうが,これは単位胞の定義に,
対称性が満たされる最小の単位という条件があるからです.
さて,ベクトルa,b,cで定義される格子に対して,逆格子(a*,b*,c*で定義される)があり,
例えば,a,bで張られる面にC*ベクトルは垂直などです.つまり,格子と逆格子は互いに双対になります.
また,立方面心格子と立方体心格子は互いに双対です.
従って,立方面心のデリクレ胞(菱形12面体)と,立方体心格子のデリクレ胞(切頂8面体{4,6,6},
あるいは,ケルビン立体とも呼ばれる)もまた互いに双対です.
例えば,シリコン結晶(ダイヤモンド構造)は面心格子で,
デリクレ胞(固体物理では,ウィグナー.ザイツ胞という)は,菱形12面体,
シリコンの逆格子のデリクレ胞(第1ブリルアンゾーンともいう)は,ケルビン立体です.

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