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数学月間SGK通信 [2017.11.14] No.193
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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皆様お変わりありませんか.MRI(核磁気共鳴イメージング)の話です.
私は,今年は2回MRIの測定をし,9月末に手術をしましたが,今は絶好調です.
MRIを撮ったことのある方もおられることでしょう.あのカタカタだのビーだの
ほとんど冗談かと思うようなふざけた音がしますが,1.5T(テスラ)という強い磁場の中で
装置が動くためにあたかもスピーカーと同じように振動する装置の出す音です.
それにしてもなんとかならないものか,
振動しないように作るにも,今でも何トンという重量ですから無理でしょう.
一方,画像の分解能を良くすれば,測定時間は増えるのが常識ですが,
分解能を上げて,かつ,測定時間も短縮できる「圧縮センシング」という数学的な方法があります.
その前に,今日はMRIの装置の仕組みについてお話します.
■プロトン(水素の原子核)はスピンを持ち,磁石の性質(核磁気)があります.
強い静磁場下に置かれたプロトン核磁気は,磁場に沿ってだいたい向きが揃い,
歳差運動している状態です.歳差運動の周波数(ラーモア周波数という)は,
磁場が強いほど高く,MRI装置の静磁場は1.5T程度と超強力なので,
ラーモア周波数は64MHz(ラジオ電波の周波数領域)程度です.
静磁場下のプロトンに,このラーモア周波数の電波が照射されると吸収共鳴が起こり,
核磁気の歳差運動の振幅(周波数は変わらない)が増大しほとんど横倒しの状態で回転
(古典論的なイメージ)しています.
一方,歳差運動をしているプロトン核磁気からは同じ周波数の電波が放射されるので,
これを検出することができます.
■生体組織は,水をはじめ水素原子と結合したいろいろな組織です.
つまり,プロトン(水素の原子核)核磁気は組織の至る所に分布していて,
その水素の属する組織の環境(診断情報)がそのプロトン核磁気の性質に反映されています.
すなわち,核磁気の歳差運動の縦緩和,横緩和という現象に,そのプロトンが含まれる水素周囲の違いが出ます.
緩和というのは,電波の照射を止めると,励起されていた核磁気の歳差運動が定常状態に戻ることで,
静磁場方向の核磁気成分の復元緩和を「縦緩和」,静磁場に垂直面内の成分の減衰緩和を「横緩和」といいます.
組織の各点で,これらの緩和定数を測定し,マップに表示できれば,
診断に役立つ組織の特徴を反映したイメージングになります.
■さて,組織画像の位置情報はどのようにして得られるのでしょうか.
これがなければ画像として見ることができません.
断層測定をするには,検出器に到来する電波が,
1つのスライス平面から来るものだけ集める必要があります.
このためには,静磁場の他に傾斜磁場を印加します.
傾斜磁場はさきほどの静磁場とは別で,ペアのコイルによって発生する
(数十mT/m程度の強さ)もので,静磁場方向をz軸とするとz方向に沿って変化する傾斜磁場,
x方向に沿って変化する傾斜磁場,y方向に沿って変化する傾斜磁場の3種類があります.
傾斜磁場があると,空間内で磁場の大きさが一定になるのは平面になります.
例えば,静磁場方向と同じz方向の傾斜磁場を印加すると,磁場一定の平面はz軸に垂直な平面です.
プロトン核磁気のラーモア周波数は,磁場の強度に比例するので,
共鳴吸収する電波の周波数をスキャンすれば,
z軸に垂直な各断層平面に並ぶ核磁気からの電波を順次採取することができます.
次に,各断層面内の(x,y)位置情報はどのように得るかというと,
断層内のプロトンの歳差運動を励起した後に,x傾斜磁場,引き続きy傾斜磁場の印加を行います.
x傾斜磁場印加でx軸に沿って歳差運動の周波数が変化し,その場所から放射される電波のx座標情報
(周波数エンコーディング)が得られます.
xおよびy傾斜磁場の印加でy軸に沿って歳差運動の位相が変化し,
y座標情報(位相エンコーディング)が得られます.
傾斜磁場を印加して,空間の位置情報を得,画像化を可能にしたのは,
Lautergur(1972)の発明で,2003年のノーベル賞を受賞しました.
■緩和時間の測定は,歳差運動の励起後,照射電波を切って行うので,
立ち上がり時間も考慮した電波照射の複雑なパルスシークエンスになり,
256x256画素の測定でもかなりの時間を要します.高分解能画像を得るには,
正攻法ではさらに細分化した画素数の測定が必要になり膨大な測定時間になるでしょう.
これを解決し,MRIの高分解能かつ高速化を実現したのは,
以下で言及する予定の「圧縮センシング」という数学方法です.
MRI(核磁気共鳴イメージング)
■プロトン(水素の原子核)はスピンを持ち,磁石の性質(核磁気)があります.
強い静磁場下に置かれたプロトン核磁気は,向きは揃い,歳差運動している状態です.歳差運動の周波数(ラーモア周波数という)は,磁場が強いほど高く,MRI装置の静磁場は1.5T程度と超強力なので,ラーモア周波数は64MHz(ラジオ電波の周波数領域)程度です.静磁場下のプロトンに,このラーモア周波数の電波が照射されると吸収共鳴が起こり,歳差運動の振幅が増大し横倒しの状態で回転(古典論的なイメージ)しています.一方,歳差運動をしているプロトン核磁気からは同じ周波数の電波が放射されるので,これを検出することにします.
生体組織は,水をはじめ水素原子を含むいろいろな組織です.つまり,プロトン核磁気は組織の至る所に分布していて,その水素の属する組織の環境(診断情報)がそのプロトン核磁気の性質に反映されています.すなわち,核磁気の歳差運動の縦緩和,横緩和という現象に違いが出ます.照射電波を切ると,励起されていた核磁気の歳差運動が定常状態に戻る(緩和)のですが,静磁場方向の核磁気成分の復元緩和を「縦緩和」,静磁場に垂直面内の成分の減衰緩和を「横緩和」といいます.
組織の各点で,これらの緩和定数を測定し,マップに表示できれば,診断に役立つ組織の特徴を反映したイメージングになります.
■さて,画像の位置情報はどのようにして得られるのでしょうか.
このためには,静磁場の他に傾斜磁場を印加します.傾斜磁場はペアのコイルによって発生させ,数十mT/m程度の大きさです.静磁場方向をzとするとz方向に沿って強度が変化するz-傾斜磁場,x方向に沿って強度が変化するx-傾斜磁場,y方向に沿って変化するy-傾斜磁場の3種類があります.傾斜磁場の印加された空間内では磁場の大きさが一定になるのは1つの平面です.例えば,静磁場と同じ方向のz-傾斜磁場を印加すると,磁場一定の平面はz軸に垂直な平面です.プロトン核磁気のラーモア周波数は,その場の磁場強度に比例するので,もし,共鳴吸収する電波の周波数をスキャンすれば,各断層平面ごとの電波を順次採取することができます.
次に,各断層面上の(x,y)位置情報を得る仕組みの説明をします.断層上のプロトンの歳差運動を励起後に,y-傾斜磁場の印加と停止,その後続いて,x-傾斜磁場の印加を行います.まず,y-軸に沿って歳差運動の周波数が変わりますが,y-傾斜磁場が切られると,y-軸に沿って位相変化として残ります.続いてx-傾斜磁場が印加されるので,x-軸に沿った周波数変化ができます.結局,断層面上の点(x,y)から放射される電波は,x-座標に沿って周波数が変わり(周波数エンコーディング),y-座標に沿って位相が変わる(位相エンコーディング)ものが採取できます.
傾斜磁場を印加して,空間の位置情報を得,画像化を可能にしたのは,Lauterbur(1973)のNatureに載せた論文です.Lauterburらは2003年のノーベル賞を受賞しました.
■緩和時間の測定には,傾斜磁場や照射電波のON/OFFが必要で,傾斜磁場の立ち上がり時間も考慮した複雑なパルスシークエンスです.256x256画素の測定でもかなりの時間を要します.高分解能画像を得るには,正攻法ではさらに細分化した画素数の測定が必要になり膨大な測定時間になるでしょう.パラレルイメージングなどの手法に加えて,MRIの高分解能かつ高速化を実現したのは,別項目で言及した「圧縮センシング」という方法です.
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数学月間SGK通信 [2017.11.07] No.192
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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与えられた角の3等分は実在しますが,定規とコンパスだけでは,
一般には作図できないということは多分ご存知でしょう.
以下は,ギリシャの幾何学者達が熱心に研究した不可能作図問題です:
(1)与えられた正立方体の2倍の体積の正立方体を作れ
(2)与えられた円と同じ面積の正方形を作れ
(3)任意に与えられた角を3等分せよ
もちろんこのような図形は実在しますが,作図手段を,「定規とコンパスだけを有限回使って」
と制限されての作図ができるか?という問題です.
■長さa,bの2つの線分bが与えられたとき,直線定規とコンパスだけを用いて,
加法a+b,減法a-b,乗法a・b,除法a/b,開平√a
の作図が可能なことは,以下の図をご覧ください.
https://blogs.yahoo.co.jp/tanidr/GALLERY/show_image.html?id=18283150&no=2
https://blogs.yahoo.co.jp/tanidr/GALLERY/show_image.html?id=18283150&no=0
これ以外の作図(例えば,立方根の作図)は定規とコンパスでは出来ません(証明は難しいのでスキップ).
(1)ではx^3=2x(a^3)だから,2の立方根の作図が必要
(2)では,x^2=π(r^2)だから,πという無理数の開平の作図が必要
(3)では,x^3-3x-a=0という角3等分の方程式の根であるxの作図が必要です.
[ただし,aは,与えられる角度Ω(cosΩ=a/2)により決まる]
例えば,Ω=90°(a=0)のときは,x=√3の作図になり,これは可能です.
しかし,一般の角の場合,この3次式は有理数の解を持たず,作図は出来ません.
この角3等分の方程式の導出は以下の図をご覧ください.
https://blogs.yahoo.co.jp/tanidr/GALLERY/show_image.html?id=18283668&no=3
Ω=60°(a=1)のときは,x^3-3x-1=0となり,有理数の解を持たないので,
角の3等分の作図は(定規とコンパスでは)できません.
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数学月間SGK通信 [2018.10.23] No.238
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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今日は,たいへん古典的だが,重要な証明問題を扱いましょう.
ギリシャの幾何学者達が研究した不可能作図とは
以下のものがあります.
(1)与えられた正立方体の2倍の体積の正立方体を作れ
(2)与えられた円と同じ面積の正方形を作れ
(3)任意に与えられた角を3等分せよ
これらは,定規とコンパスだけを有限回使って作図できるか?
ということです.
■なぜ作図できないか
(1)は,2の3乗根の作図が必要です.
(2)の円と同じ面積の正方形を作る方針を以下の図に示します.
どうしてこの作図ができないのかわかりますか?
与えられた円の半径をrとします.まず,円と同じ面積の長方形を作りましょう.
もし,縦r,横aの長方形が作れたら,r・a=x^2 となるxの作図は可能です.
問題は,円の面積と同じ縦 r,横 a=πrの長方形を作るところで,
円周の半分の長さπrの線分を作図する方法が,定規とコンパスではないからです.
無理数πが作図できません.
■直線定規とコンパスだけを有限回繰り返し用いて作図できる長さは
2つの有理数の,加法,減法,乗法,除法,開平だけです.
作図方法は,以下をご覧ください.
条規とコンパスで作図
開平を繰り返せは,2のべき乗根(4乗根,8乗根,...)は作図できますが,
例えば,立方根は作図できません(この証明は難かしいのでスキップ).
(3)任意の角度の3等分が作図できないわけ.
角度3等分の方程式は x^3-3x-a=0 で,
例えば,与えられた角度が60°ならa=1の方程式です.
60°の3等分の方程式は,x^3-3x-1=0 となりますが,
この3次方程式は,p+q√r (ただし,p,q,rは有理数)の型の解を持たないので
この角度の作図は,定規とコンパスでは不可能です.
もちろん,60°の3等分の20°は存在しますが,
定規とコンパスだけを使う方法では作図できないということです.
詳しくは,以下をご覧ください.
■任意の角度の3等分
任意の角度∠XOYの3等分がなされたとします.
■円に点Bを通る2直線が交差しているときに,方冪の定理が成り立ちます.
■2つの長さの加法,減法は簡単です.以下の図をご覧ください:
■結局,直線定規とコンパスだけを有限回繰り返し用いて作図できる長さは
加法,減法,乗法,除法,開平です.
開平を繰り返せは,2のべき乗根(4乗根,8乗根,...)は作図できますが,
例えば,立方根は作図できません(この証明は難かしいのでスキップ).