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遊星歯車による減速

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数学月間SGK通信 [2016.11.22] No.142
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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ドリルが動かなくなったので,分解しました.こんな減速機構になっています.
グリスの詰め替えをしましょう.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/70/17750970/img_1_m?1478607599
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/70/17750970/img_2_m?1478607599
表面に見えている3個の歯車(歯数20)の中心にモーターからの回転軸(6枚歯)が入ります.
この3個の歯車は,周囲の円(歯数48)とも接しています.
中心軸(モーターのシャフト)が右回転すると,3個の歯車は左回転し,
この3個の歯車を乗せている台は,周囲の歯に沿って右回転します.
このような機構を遊星歯車と言います.
中心の回転軸が右回りに1回転すると,台は6/48=1/8だけ右回転します.
このドリルでは,このような機構が2段になっている[回転台の中心軸(6枚歯)が,
下段の同様な遊星歯車に回転を伝える]ので,
(1/8)^2=1/64だけ減速することになります.
遊星歯車では入力の回転軸と出力の回転軸は同一線上にあります.

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前号の補足
■今年の米国大統領選の予測はずれ
米大統領選は,1票でも得票が多かった陣営がその州の選挙人を総取りするシステム
(実質的に州が一人区)なので,ゲリマンダー状態を起こし,効率的に票獲得をすれば,
少ない総獲得票数でも,選挙人数で逆転が可能です.そのため事前予測では,
各州の得票数にある少しの不確定さが非線形に増幅され,それらが積み重なる傾向があります.
今回,大方の予想は,クリントンがトランプに選挙人で70人近い差で圧勝と報じました.
しかし,結果は逆でした.ただし,総獲得票数は拮抗(反ってクリントンの方が若干多い)しています.
支持率世論調査の全米平均値では,ほぼ正しく予測したものの,州によっては大きく外れ,
これが獲得選挙人の数の大逆転を起こした原因です.
正しくランダム・サンプリングが出来なかったのは,生産拠点の国外流出で労働者,
黒人層に移動混乱があるミシガン州(すたれたベルト地帯)などで,
その層のサンプルが少なく母集団の構成比が反映されなかったことがあると思われます.
また,ほとんどのメディアが,クリントン支持を意図的に流し,世論誘導をしたので,
これが隠れトランプ支持を生み,正しいサンプリングにならなかったのも原因の一つです.
世論調査には数学的に批判されるべき問題がかなり存在するようです.

(注)ゲリマンダー(wikipediaより引用)
1812年,アメリカ合衆国マサチューセッツ州の当時の知事エルブリッジ・ゲリーが,
自分の所属する政党に有利なように選挙区を区割りした結果,幾つかの選挙区の形が奇妙なものとなった.
そのうちのひとつがサラマンダーの形をしていたことから,ゲリーとサラマンダーを合わせた造語・ゲリマンダーが生まれた.
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/63/The_Gerry-Mander.png/330px-The_Gerry-Mander.png

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トランプ大統領誕生と世論調査

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数学月間SGK通信 [2016.11.15] No.141
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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ドナルト・トランプ大統領が誕生しました.
大方の世論調査でも,期日前投票や投票当日の出口調査でも,ヒラリー・クリントンが優勢でした.
トランプをとんでもない候補だとする,新聞やTVによる刷り込みが激しかったこともあり,
多くの人々がこの逆転結果に驚きました.選挙戦中のメディアの報道は明らかにクリントン支持に偏っていました.
しかし,クリントンは現政権の中枢におり,既成勢力の政治はもうたくさんだとトランプに共感する人々は多かったのです.
今回も外れてしまった世論調査はどれほど信用できるのでしょうか.
選挙直前の世論調査を振り返ってみましょう.
10/29-11/01の期間に行われたワシントンポストとABCテレビによる世論調査は,50州の1,767人を対象とし,
トランプ45%,クリントン47%でした.
同時期のロイターによる世論調査は,1,700人の回答を得て,トランプ39%,クリントン45%だった.
直前11/7のロイター/イプソスの調査は,全米50州とワシントンDCの15,000人に対して行われ,
獲得選挙人を,トランプ235人,クリントン303人と予想しました.
政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によると,7日午後時点の支持率は,
トランプ44.3%,クリントン47.2%で,猛追してきたトランプだが,
差は前日の1.8ポイントから2.9ポイントに広がっています.
そして,選挙人獲得見込は,トランプ164人,クリントン203人でした.
調査会社「ファイブサーティエイト」の最終の選挙人獲得予測も,
70人近い差でクリントン圧勝としていました.
大統領選挙の結果は,獲得選挙人数で,トランプはクリントンに60人以上の差をつけましたので,
これらの予測は大きく外れました.しかし,獲得票数は拮抗しています(トランプの方が若干少ない)ので,
予測できたと言えないこともありません.
選挙人に換算するところで,わずかな誤差が積算されるために予測が困難なのです.
(注)アメリカの大統領選挙は,州ごとの集計で獲得票が1票でも上回った候補が,
その州の選挙人を総取りする方式なので,得票数と獲得選挙人の数は比例せず,
場合によっては逆転することもあります.

■世論調査はなぜ外れたのか
世論調査は,有権者全員(母集団)を対象にすべきですが,現実にはこれは不可能なので,
母集団から掬い取ったサンプル集合に対して調査を行います.
サンプル集合が母集団の性質を代表していると見做せるのは,ランダム・サンプリングがなされた場合です.
しかし,これが難しい.サンプル集合に偏りが生じてしまうのが普通です.
これを少しでも避けるために,サンプリングの方法に色々な工夫があります.
母集団を,性質(人口規模,地方性,産業構成,人種,....)が似ている地域(1つの層とする)ごとに層別し
その中でサンプリングします.
各層のサンプルについての調査結果に母集団内での構成比に応じた荷重をかけ結果を得ます.
このとき色々な誤差が入ります.例えば,ある層の人たちの回答が,少ない/多いとか,
あるいは,ある層のサンプリングが過剰になるなどのことが起こります.
これらに対して適切な補正ができればよいのですが実際はなかなか難しい.
もし,サンプル集合が完全なランダム・サンプリングであるならば,話は単純です.
信頼区間95%として,非常に大きい母集団でも,1,600のサンプル数があれば,
最も誤差の大きくなる拮抗状態でも,±2.5%の誤差が保証されます.
今回の世論調査による両者の支持率の差では,この誤差中に入り,まさに拮抗状態です.
実際の得票数もほとんど拮抗しています.
ワシントンポストとABCテレビのサンプリングはうまく行ったといってよいのではないでしょうか.
直前のロイター/イプソスの調査はサンプル数15,000なので,ランダム・サンプリングが正しければ
誤差は±0.8%程度になるはずです.各州ごとにサンプル数と支持率を検証しないとわかりませんが,
全体が大きく外れているのでサンプル集合の偏りが疑われます.
2015年の英国の総選挙の例では,保守党と労働党の票獲得は,予測された「統計的デッドヒート」状態にはならずに,
保守党が労働党に対し7ポイントの優位で下院の多数を勝ち取りました.
世論調査組織が使ったサンプル補集の方法が,労働党有権者を過剰に系統的に集め偏ったサンプル集合だったからです.
適用された統計的補正も働かず予想が外れたのです.
特に,米国大統領選挙の予測では,得票数予測の正確さが要求されます.
一人の差で,獲得選挙人の数が大幅に変わってしまう選挙制度なのですから.
以下で,サンプル集合を偏らせる原因のいくつかを並べてみましょう.
■固定電話の激減
世論調査はRDD(ランダムに選んだ固定電話に行う)方式です.固定電話が対象ですが,
米国でも携帯電話による固定電話の置き換えが進んでいます.
固定電話がつながった場合でも応答に出る確率は以下のように激減しているそうです.
 72%(1980)→81%(2000)→5.5&(2012)→0.9%(2016)
そして,固定電話に応答の確率は,高齢白人女性が若いヒスパニック男性より21倍も高いことや,
生産拠点の国外流出で労働者,黒人層に移動混乱があるミシガン州での固定電話の調査が困難なことなどです.
(Garret M. Graff;WIRED,2016,7による)
■隠れトランプ
いわゆる「隠れトランプ支持者」の存在が調査結果を歪ませ,影響を与えたと言われています.
人種差別者と誤解されたくないので「私はトランプ支持者です」と答えることを躊躇する有権者や,
逆に,ヒラリー支持と言いながら投票に行かない人の存在が考えられます.
多くのメディアが反トランプの立場で報道した反作用として,この影響がでているのでしょう.
日本で,NHKが報じないと信用しないというほど,多くの庶民がTV報道による歪曲を受けています.
世論誘導に利用する調査の数字では困ったものです.
■投票機における不正
実際の投票数の方がゆがめられて予測と合わなくなる場合の話です.
大統領選の本選では,このようなことはなかったと信じますが,
クリントンが勝ち,サンダースが負けた米民主党の5月の予備選挙で不思議なことが起こったようです.
米国の選挙には投票機(90年代に作られそのOSはwindowsCE)が用いられるので,
ROMを差し替えておくと改造プログラムが立ち上がり不正が可能といいます.
5月の予備選挙の後,米スタンフォード大学の大学院生らが,
この選挙でサンダースを不利にクリントンを有利にする不正が行われたとの研究結果を発表しています.
それによると,印字機能がついている投票機が使われている州だけを集計すると,
クリントンの得票率が49%,サンダースの得票率が51%でサンダースの勝ちだったが,
印字機能がついていない投票機の州だけを集計すると,クリントン65%,サンダース35%でクリントンの勝ちだったという.
このことから民主党本部は,印字機能がついていない投票機のROMを細工を施したものに差し替えて,
サンダースに投票した党員の何割かの投票結果をクリントンにすりかえることを実現したのだと推測されています.
(田中宇,2016年10月26日より)
トランプはこのことを受けて,不正が行われたなら自分は負けを受け入れないといったのだが,
クリントン支持の米マスコミに,「トランプは,大統領選の負けを受け入れないひどい候補者だ」
と歪曲キャンペーンに利用されました.

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ペンローズ・タイル張り(2

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数学月間SGK通信 [2016.11.08] No.140
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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前回の予告したペンローズ・タイル張りの後編です.
(2)正5角形のフラクタル配置からペンローズ・タイリングを作る
図をご覧ください
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568616/07/17050507/img_4_m?1478536819
正5角形の周囲に正5角形を配置し,一回り大きな正5角形
[平面を隙間なく埋められないのでギャップはあります]を作ります.
これを単位とし,さらに一回り大きな正5角形の内に並べます.
このような操作を次々繰り返すと,全平面に広がる正5角形のフラクタル配置ができます.
ギャップがたくさんできますが,気にしないで配置を進めます.
実は,これらのギャップの中も正五角形(白色)で埋めれば,
最終的には,王冠型や星型のギャップのみが残されることになります.
この図には,この操作を3回繰り返したところまで載せました.

この図をよく見ると,2種類のタイル(黄色と青色の菱形)で置き換えて,
隙間なく平面を張り詰めることがわかります.
黄色いタイル(太った菱形),青いタイル(痩せた菱形)の中の
正5角形のフラクタル配置の名残を参考にしてください.
説明図は
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568616/07/17050507/img_6_m?1478536819

このように置き換えると,よく知られたペンローズ・タイリングと同じであることがわかります.

http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568616/07/17050507/img_5_m?1478536819

ここで作ったペンローズ・タイリングには,中心に5回回転対称が残っていますが,
中心の回転対称を消す配置も可能です.

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ペンローズタイル張り(1)

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数学月間SGK通信 [2016.11.01] No.139
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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ペンローズ・タイル張りのことは,以前に触れたことがあるのですが
面白いがわかりにくいとのコメントもいただいているので,
図も少し変えて,もう一度2回に分けて掲載しようと思います.

ロジャー・ペンローズが考案した(1966)ペンローズ・タイリングは,
2種類のタイルによる規則的ではあるが,周期的ではないタイル張りの一つです.

(1)正10角形から出発して,ペンローズのタイル張りを作る
このタイル張りで用いられているのは2種類のタイル(A型とB型)です.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568616/95/17313295/img_6_m?1477918345

二等辺3角形 A型とB型は,正5角形の中にある形で,
それぞれ,等辺と底辺の長さの比が黄金比になっています.
等辺:底辺=Φ:1(A型),あるいは,等辺:底辺=1:Φ(B型),
ただしΦ=1.618・・・

黄金比の3角形は,分割すると,自分自身と同じ型の3角形が含まれている性質があります.
この性質を利用して,A型の3角形(10枚)が作る正10角形から出発して,分割とΦ倍の拡大を繰り返し,
平面全体をA型とB型の2等辺3角形で埋め尽くすことができます.
分割してもΦ倍拡大をするのでタイルの大きさは変わらず,外周の正10角形の形も変わりませんが,
タイルの数はどんどん増えていき,無限の広さを覆いつくします.
タイルの分割が充分進んだときの,AのタイルとBのタイルの個数の比は,
Φ(=1.618・・・):1の黄金比になります.
4番目の図は,3回目の分割と拡大を繰り返した結果です.
この図形で見られる形は,2A(凧型,青色)と2B(矢型,緑色)の2種類のタイルです.
このようにして,ペンローズ・タイリングの一つを得ることができます.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568616/95/17313295/img_7_m?1477918345

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毛髪1本でがん検診

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数学月間SGK通信 [2016.10.25] No.138
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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21日の倉吉の地震,お見舞いいたします.しっかりした古い建物が多いし周りに余裕があるので,
浅い直下型の地震にも関わらず死者がなかったのは幸いです.東京は密集しているのでこうは行きません.
崩壊した家や白壁土蔵の町の陳列散乱の様子が報道されていますが,余震はおさまりつつあるようです.
600人の方々が学校などに避難されて居られます.ご無事でありますように.
どこも大地震の発生確率は高まっています.逃げようがありません.
そういいながら原発を再稼働するなんてばかです.

■毛髪1本でがん検診
毛髪は約1cm/月の割合で伸びます.15cmの長さの毛髪ならその中に15か月間の健康状態の記録が残されているはずです.
毛髪中に含まれるいくつかの元素(カルシウム,ストロンチウム,カリウム,ナトリウム,など)の分布状態
(濃度の変化の記録)を調べて,ガン検診(特に乳がん)ができるという新手法を,千川純一先生(ひょうご科学技術創造協会)が,2003年からSPring8で研究を始め,結果を2015年に論文を発表しています.
毛髪1本を抜いて送れば,がんの検診ができるとなると,画期的ですね.この検査の人体への危険は全くありません.
この実用化のために,病院の先生方と協力して多くの臨床例を集め,実証研究を進める段階に来ています.
■測定方法
毛髪1本(直径は100μm程度)に放射光X線を照射し,毛髪のX線照射点から出てくる蛍光X線を観測することで,
その点に含まれる元素を検出することができます.そのとき観測されるバックグランドは,
毛髪母体のタンパクによる散乱X線ですから,蛍光X線のピークの強度P,バックグランド強度Sとして,
そのピークを与えた元素の濃度[X]を,[X]=P/Sと定義すると,この値は毛髪の太さや形状によらない値になり,
濃度指標に使えます.
■放射光X線
SPring-8というのを聞いたことがありますか.姫路にある大きな放射光施設で,周囲1.5kmほどのリング内を電子を走らせます.
正確に言うと電子の軌道は多角形で,偏向磁石のある角で曲げられ,その時強いX線を放射します.
実験室のX線源の輝度を1等星の明るさとすれば,太陽の輝度に相当します.
指向性がよく広がりませんので,スポットに絞って照射できるので,小さい場所の分析に威力を発揮できます.
■イオンチャンネル
細胞外液(血清)から細胞への各種イオンの取り込みは細胞膜のイオンチャンネル開閉で制御されます.
血清から毛根の細胞への各種イオンの取り込みも同様に制御され,毛根細胞に取り込まれた各元素は.
成長して行く毛髪中に記録されて行きます.
細胞にカルシウムが不足すると,副甲状腺ホルモンPTHが分泌されて,
細胞のカルシウムチャンネルが開きカルシウムを細胞に取り込みます.
イオンチャンネル開はデジタル・パルス的(PTHが細胞の受容体に付着するたびにチャンネルが開く)
に行われるそうです.がん細胞からは副甲状腺ホルモン関連タンパクPTHrPが分泌され,
細胞のPTH受容体にPTHの1,500倍も長く滞在するので,カルシウムチャンネルの開閉が阻害されるということです.
■がん判定の仕組み
正常な人は,カルシウムイオンチャンネル開の時は,毛髪中のカルシウム濃度は50(単位は,上記の濃度定義に基づく),
カルシウムイオンチャンネル閉の時は,10です.がんが発生すると分泌されるPTHrPにより,
イオンチャンネル機能が阻害されるために,カルシウム濃度が50と10の中間値を数ケ月かけてゆっくり下降します.
このような変化パターンを検出することにより,初期の乳ガンの発見が他のマーカーより鋭敏にできます.
現在,病院の先生と協力して,検体の数を増加し実証を進める計画が進んでいます.

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送電ケーブル火災と広域停電

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数学月間SGK通信 [2016.11.18] No.137
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■10月12日,午後3時半ごろ起きた東京都内の停電で,58万戸が停電.都心中心部も停電した.
埼玉県,新座付近の地下送電ケーブルの火災が原因という.
社会インフラは限界ぎりぎりで稼動している状態です.東京の送電ネットワークもその例にもれません.
ネットワークに流入する交流電力を繋ぐには,電圧をそろえるだけではなく,交流の周波数も位相もそろえなければなりません.
つまり,流れ込む交流の山と山が重なるようにタイミングを合わせて合流させる(山と谷が重なったら一瞬で電流が流れて危ない).ネットワークの結合点には,このような調整装置があり,ネットワークを作っています.
このようなネットワークの一部分を切り取って解析しても正しくありません.
予想もしないネットワークの部分から影響が来る可能性があり,ネットワークは全体を解析機する必要があります.
このような性質の系を「複雑系」といいます.
バタフライ・エフェクトというのは,海を隔てた地での蝶の羽ばたきが,明日のこの地の大風に影響を与えるかもしれない.
という極端な比喩ですが,複雑系とはこのようなことが起こり得る世界です.
複雑系のネットワークでは,どこかで起きた些細な事故が引き金となり,
次々と被害が雪崩を打ってネットワーク全体に広がる性質があります.

■些細な事故が,広域の大停電になった例は色々あります:
2003年8月14日,午恨1時42分,米国中西部の独立システム送電網オペレータの1人が異変に気づき,
ルイビルのガスと電気のオペレータに向かって,「おい,どうした?」と問いかけたが,
その2時間半後には,北東合衆国から南東カナダにかけて,5千万人の人々の送電網の電力が失われた.
その3年後の2006年11月4日,夜の9:30に,ドイツの送電網オベレータが,クルーズ・ボード,ノルウェーの真珠号
の安全通行を許すために,Ems川をよぎる1対の配電線の接続を切り,
それから半時間以内に,1千5百万人のヨーロッパ人が暗やみに座ることになった.
日本でも,2006年8月に大規模停電が起きている.
2006年8月14日,午前7時38分(日本時間).旧江戸川を航行中のクレーン船がアームを高圧線に接触させ,
これを切断した.アーム長33mのクレーン船が,現場に到着後すぐに浚渫作業にかかれるように,
曳航中にアームを上げたため,旧江戸川上の高さ16mの位置にある高圧線を破損したためである.
米国の大規模停電は,乾燥した樹木が送電線にふれスパークしたという些細なことが引き金になったのかもしれない.
ドイツや日本の原因は人為的な誤操作である.いずれにしても些細なことがトリガーとなり,
あっという間に事故の連鎖が雪崩を打って広域の大規模停電につながった.

■送電網は複雑系ですから,その部分部分を切り離して見たのでは,正しい理解にはならない.
送電網全体を対象にしなければだめなのでとても面倒だ.
送電網は,何百万という物理的なハードウェア/ソフトウェアと行為者(人間)によって構成されている.
大きな事故の引き金は,ほんの些細なイベントで予測もつかないことから起こる.
今回の火災は,ケーブル周囲被覆の油紙の劣化により,絶縁性能が低下し過大な電流が流れたためと伝えられる.
あるコンポーネントで事故(例えば,送電ケーブルの火災)が起こり,送電線回路のブレーカが落ちる.
そして,そのコンポーネントにかかっていた負荷は,ネットワークの残りを介して直ちに再分配され,
再分配された負荷は別のコンポーネントを過負荷にし,事故に導くかも知れない.
この過程は,雪崩のように繰り返され,広域な大規模停電となる可能性を持っている.
今回は,新座から離れた場所のケーブルにも負荷がかかった形跡があるらしいが,
それ以上の大きな事故雪崩にならずに済んだのは幸運であった.

[日刊ベリタ(10月13日)に掲載した]
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201610132037164

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表面だけのスカスカの立体

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数学月間SGK通信 [2016.10.11] No.136
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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表面だけのスカスカの立体は,面がシェルピンスキーのカーペットでできている
メンガーのスポンジが知られています.この図形は穴を開けるたびに,表面積は増加し,
体積は減少するので,質量はゼロで,表面積が∞の不思議な図形です.
メンガーのスポンジの次元は, 2.7268....になります.

■ここでは,正4面体から出発し似たような図形を作って見ましょう.
正8面体の4つの面に正4面体を組み合わせると,2倍の辺長の正4面体ができます.
この手順を繰り返すと,だんだん大きな正4面体ができます.
図1 http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/80/17708080/img_0_m?1476098595
図2 http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/80/17708080/img_1_m?1476098595
この手順を逆にしてみましょう.
正4面体体積を1とすると,正4面体の中にできる正8面体の体積は1/2です.
(Q何故でしょう?)
この正8面体をくり抜くと,正4面体が4つ残り,合計の体積は1/2.
元の正4面体の表面積と,残された4つの正4面体の表面積合計は不変です.
(Q何故でしょう?)
次に,4つの正4面体からそれぞれの正8面体をくり抜くと,
残りの体積がさらに1/2になりますが,表面積はやはり不変です.

■この操作をn回繰り返すと,体積は(1/2)^nになるが,表面積は不変です.
この調子で,無限に操作を繰り返すと,表面積はスタートの正4面体と同じだが,
質量はゼロであるようなスカスカの物体が得られます.
この図形の作り方は,メンガーのスポンジと呼ばれる図形に似ていますが,
質量はゼロになるが表面積は∞にはなりません.
この図形の次元は,2倍の長さのところに4つの1世代前の図形が入るから,
log4/log2=2 で2次元です.

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除外される“外れ値”

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数学月間SGK通信 [2016.10.04] No.135
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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皆様,早いもので10月になりました.昨夜はノーベル賞のニュースが入りました.
大隅さんは,東大,基礎科学科の2期生ということ(私は3期生)で,
消滅した基礎科学科ですが,開拓時の良さに思いが巡ります.

さて,世論調査で無作為で1,000人のデータを得たとして
そのうち有効なサンプル集合に入れられるのはどのくらいでしょうか?
統計処理では都合の悪い点を除外することがよくやられる.
実験測定などでは,明らかな間違いで除外する正当な理由がある場合もあるが,
“外れ値”と称して除外する処理手順の乱発は曲者である.

都合の悪いデータを除外することで,意図的な結論を得ることもできる.
“外れ値”とは正規分布から外れた点で,正規分布から外れた点だから除外してよいとする.
標本(サンプル集合)の平均から,標準偏差の2~3倍離れた点を“外れ値”として除外する.
この点を取り除いたサンプル集合で,さらに“外れ値”があればまたこれを除外する.
こうして続けて行くと都合の悪いものが除外され,
“外れ値”はなくなり正規分布はますます確かになっていく,
大変都合よくもあり恐ろしくもある処理手順である.

サンプル集合の分布は,平均を中心にして釣り鐘型の正規分布とは限りません.
我々は,どうして正規分布の1点でなければいけないのか?
正規分布から外れた点は“外れ値”として除外されねばならないのか?
私はどうしても納得できない.
“外れ値”を除外することを乱発され,正規分布に入っていないと生きていけない.
恐ろしい社会になってしまったものだ.
なにがなんでも正規分布にして済ますのはいやですねぇ.

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キリンのまだら

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数学月間SGK通信 [2016.09.27] No.134
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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早いもので9月も終わりです.皆様いかがお過ごしでしょうか.
台風や雨続きでしたが,秋らしい落ち着いた日々が待ち遠しいですね.
今回の発行は134号です.133号を飛ばしたのは,間違って131号を2回続けたためです.

■平田森三(物理学者,寺田寅彦の弟子)が「キリンのまだら」というエッセイを書きました.
古い本ですが再刊されていますのでご覧になることをお勧めします.
キリンのまだら模様と田んぼのひび割れの形が似ているというのです.
平田は1933年の「科学」に「キリンの斑模様について」の論文を掲載します.
田んぼのひび割れは地面が乾燥して縮むために生じます.
体の成長に皮膚の伸長が追いつかないと皮膚にひび割れができるというのです.
胎児のキリンの成長過程で皮膚にひび割れは生じませんから,
専門外の分野に口を出した平田は動物学者から攻撃されました.
田んぼのひび割れと同じ仕組みで,いろいろな分野のまだら模様ができるということが言いたいのですが,
キリンをアナロジーにしたのがいかにもまずい.メロンの縞模様をアナロジーにすれば,
この理論もまったく正しかったのです.
このような膨張収縮の力で縞模様ができるという現象はたくさんあります.
お餅を焼いたときの表面のひび,パン皮のひび,パン皮状溶岩,皆同じ機構によります.
基板につけた蒸着膜が,時間が経っと膜中の残留応力のために膜が膨張し,
面白い皺模様ができるのを私も経験したことがあります.

■1952年に,アラン・チューリング(英)が”反応拡散波”という考えを出し,
化学反応が波状に進む問題を解決しました.年輪のようなメノウの縞模様も,
周期的な模様ができる化学反応(ジャボチンスキー反応)も,すべてこの理論で説明できます.
キリンのまだらも,その他の動物の皮膚の色々な模様も,
チューリングの方程式のパラメータを変えればすべて再現できます.
だいぶ前のことになりますが,このメルマガでも自励振動の発生について触れたことがありました.
これらの現象は,新しく生まれた複雑系という分野と係わりがあります.

■形が似ているということは,それを抽象化した数式が同じということです.
全然違う分野の現象といえども,そこに働く力をふさわしい概念のものに入れ変え対応させれば,
両者を統一的に理解できるのではないでしょうか.
私が,ギブスの相律とオイラーの定理での”系内部の自由度”
のアナロジーの謎を捨てきれない理由は,そこにあります.
色々な異なる分野の現象を統一して記述できるのは数学の威力でしょう.

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相律と幾何学の類似性

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数学月間SGK通信 [2016.09.20] No.132
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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突然ですが,化学にGibbsの相律というものがあります.
物質の系(閉じた)を考えます.この系はc個の成分からなりたっています.
例えば,水とアルコールの混合した系なら,成分数は2です.
各成分の状態の数(相の数)をpとします.水とアルコールの混合系の場合は,
それぞれの成分ごとに,気体,液体,の2つの相(場合によっては固体を入れて3つ)があります.

成分数cの系で独立(に変化できる)変数の数はc-1個で,
それぞれにp個の相があるから,(c-1)pの変数があるが,
これ全部が独立なものではありません.
p個の相の間には,p-1個の平衡条件があります.
したがってc(p-1)個の束縛条件が課せられます.
結局,系の自由度fは
f=(c-1)p-c(p-1)+2
第3項に加えた2は,系全体の温度と圧力の2つの独立変数です.
これを計算整理すると
f=c-p+2 ,あるいは f+p-c=2  となります.

何処かで見たことがありませんか.そう,オイラーの多面体定理V+F-E=2
を思わせます.今日,唐突に化学の相律の話をしたのは
この類似性を不思議と感じた十数年前のことが蘇ったからです.
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相律   f-2=c-p
オイラー F-2=E-V (FとVを入れ替えたものは互いに双対なので同じ)
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このように並べて,両者の類似性を見ていると,
幾何学的な本質に関係があるような気がしてならないのです.
これは,偶然の一致だと言ってしまえばそれまでです.
それが正しいようでもあります.私も昔,そう結論を下しました.
しかし,まだ考えつかないことがあるような気がしてなりません.
皆さん何か良いアイデアは無いでしょうか?

■考えがまとまりませんので,3成分系の具体例をたたき台に示します.
石英SiO2,橄欖石2MgOSiO2,灰長石CaOAl2O32SiO2の系を例にします.
各成分に,固体,液体の2相があります.今,圧力一定の切り口を考えるとf-1=c-pです.
3成分+液の4相が共存するなら,自由度 f=0
3相が共存するなら f=1(線上を動く)
2相が共存するなら f=2(面上を動く)

融液を冷やしていくと,1,360~1,280℃で,橄欖石の晶出と液組成の変化
(橄欖石+液の共存)すなわちここではf=2.
1,280~1,260℃で,灰長石の晶出と液組成の変化
(橄欖石+灰長石+液の共存),すなわちここではf=1.

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