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送電ケーブル火災と広域停電

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数学月間SGK通信 [2016.11.18] No.137
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■10月12日,午後3時半ごろ起きた東京都内の停電で,58万戸が停電.都心中心部も停電した.
埼玉県,新座付近の地下送電ケーブルの火災が原因という.
社会インフラは限界ぎりぎりで稼動している状態です.東京の送電ネットワークもその例にもれません.
ネットワークに流入する交流電力を繋ぐには,電圧をそろえるだけではなく,交流の周波数も位相もそろえなければなりません.
つまり,流れ込む交流の山と山が重なるようにタイミングを合わせて合流させる(山と谷が重なったら一瞬で電流が流れて危ない).ネットワークの結合点には,このような調整装置があり,ネットワークを作っています.
このようなネットワークの一部分を切り取って解析しても正しくありません.
予想もしないネットワークの部分から影響が来る可能性があり,ネットワークは全体を解析機する必要があります.
このような性質の系を「複雑系」といいます.
バタフライ・エフェクトというのは,海を隔てた地での蝶の羽ばたきが,明日のこの地の大風に影響を与えるかもしれない.
という極端な比喩ですが,複雑系とはこのようなことが起こり得る世界です.
複雑系のネットワークでは,どこかで起きた些細な事故が引き金となり,
次々と被害が雪崩を打ってネットワーク全体に広がる性質があります.

■些細な事故が,広域の大停電になった例は色々あります:
2003年8月14日,午恨1時42分,米国中西部の独立システム送電網オペレータの1人が異変に気づき,
ルイビルのガスと電気のオペレータに向かって,「おい,どうした?」と問いかけたが,
その2時間半後には,北東合衆国から南東カナダにかけて,5千万人の人々の送電網の電力が失われた.
その3年後の2006年11月4日,夜の9:30に,ドイツの送電網オベレータが,クルーズ・ボード,ノルウェーの真珠号
の安全通行を許すために,Ems川をよぎる1対の配電線の接続を切り,
それから半時間以内に,1千5百万人のヨーロッパ人が暗やみに座ることになった.
日本でも,2006年8月に大規模停電が起きている.
2006年8月14日,午前7時38分(日本時間).旧江戸川を航行中のクレーン船がアームを高圧線に接触させ,
これを切断した.アーム長33mのクレーン船が,現場に到着後すぐに浚渫作業にかかれるように,
曳航中にアームを上げたため,旧江戸川上の高さ16mの位置にある高圧線を破損したためである.
米国の大規模停電は,乾燥した樹木が送電線にふれスパークしたという些細なことが引き金になったのかもしれない.
ドイツや日本の原因は人為的な誤操作である.いずれにしても些細なことがトリガーとなり,
あっという間に事故の連鎖が雪崩を打って広域の大規模停電につながった.

■送電網は複雑系ですから,その部分部分を切り離して見たのでは,正しい理解にはならない.
送電網全体を対象にしなければだめなのでとても面倒だ.
送電網は,何百万という物理的なハードウェア/ソフトウェアと行為者(人間)によって構成されている.
大きな事故の引き金は,ほんの些細なイベントで予測もつかないことから起こる.
今回の火災は,ケーブル周囲被覆の油紙の劣化により,絶縁性能が低下し過大な電流が流れたためと伝えられる.
あるコンポーネントで事故(例えば,送電ケーブルの火災)が起こり,送電線回路のブレーカが落ちる.
そして,そのコンポーネントにかかっていた負荷は,ネットワークの残りを介して直ちに再分配され,
再分配された負荷は別のコンポーネントを過負荷にし,事故に導くかも知れない.
この過程は,雪崩のように繰り返され,広域な大規模停電となる可能性を持っている.
今回は,新座から離れた場所のケーブルにも負荷がかかった形跡があるらしいが,
それ以上の大きな事故雪崩にならずに済んだのは幸運であった.

[日刊ベリタ(10月13日)に掲載した]
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201610132037164

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表面だけのスカスカの立体

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数学月間SGK通信 [2016.10.11] No.136
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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表面だけのスカスカの立体は,面がシェルピンスキーのカーペットでできている
メンガーのスポンジが知られています.この図形は穴を開けるたびに,表面積は増加し,
体積は減少するので,質量はゼロで,表面積が∞の不思議な図形です.
メンガーのスポンジの次元は, 2.7268....になります.

■ここでは,正4面体から出発し似たような図形を作って見ましょう.
正8面体の4つの面に正4面体を組み合わせると,2倍の辺長の正4面体ができます.
この手順を繰り返すと,だんだん大きな正4面体ができます.
図1 http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/80/17708080/img_0_m?1476098595
図2 http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/80/17708080/img_1_m?1476098595
この手順を逆にしてみましょう.
正4面体体積を1とすると,正4面体の中にできる正8面体の体積は1/2です.
(Q何故でしょう?)
この正8面体をくり抜くと,正4面体が4つ残り,合計の体積は1/2.
元の正4面体の表面積と,残された4つの正4面体の表面積合計は不変です.
(Q何故でしょう?)
次に,4つの正4面体からそれぞれの正8面体をくり抜くと,
残りの体積がさらに1/2になりますが,表面積はやはり不変です.

■この操作をn回繰り返すと,体積は(1/2)^nになるが,表面積は不変です.
この調子で,無限に操作を繰り返すと,表面積はスタートの正4面体と同じだが,
質量はゼロであるようなスカスカの物体が得られます.
この図形の作り方は,メンガーのスポンジと呼ばれる図形に似ていますが,
質量はゼロになるが表面積は∞にはなりません.
この図形の次元は,2倍の長さのところに4つの1世代前の図形が入るから,
log4/log2=2 で2次元です.

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除外される“外れ値”

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数学月間SGK通信 [2016.10.04] No.135
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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皆様,早いもので10月になりました.昨夜はノーベル賞のニュースが入りました.
大隅さんは,東大,基礎科学科の2期生ということ(私は3期生)で,
消滅した基礎科学科ですが,開拓時の良さに思いが巡ります.

さて,世論調査で無作為で1,000人のデータを得たとして
そのうち有効なサンプル集合に入れられるのはどのくらいでしょうか?
統計処理では都合の悪い点を除外することがよくやられる.
実験測定などでは,明らかな間違いで除外する正当な理由がある場合もあるが,
“外れ値”と称して除外する処理手順の乱発は曲者である.

都合の悪いデータを除外することで,意図的な結論を得ることもできる.
“外れ値”とは正規分布から外れた点で,正規分布から外れた点だから除外してよいとする.
標本(サンプル集合)の平均から,標準偏差の2~3倍離れた点を“外れ値”として除外する.
この点を取り除いたサンプル集合で,さらに“外れ値”があればまたこれを除外する.
こうして続けて行くと都合の悪いものが除外され,
“外れ値”はなくなり正規分布はますます確かになっていく,
大変都合よくもあり恐ろしくもある処理手順である.

サンプル集合の分布は,平均を中心にして釣り鐘型の正規分布とは限りません.
我々は,どうして正規分布の1点でなければいけないのか?
正規分布から外れた点は“外れ値”として除外されねばならないのか?
私はどうしても納得できない.
“外れ値”を除外することを乱発され,正規分布に入っていないと生きていけない.
恐ろしい社会になってしまったものだ.
なにがなんでも正規分布にして済ますのはいやですねぇ.

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キリンのまだら

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数学月間SGK通信 [2016.09.27] No.134
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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早いもので9月も終わりです.皆様いかがお過ごしでしょうか.
台風や雨続きでしたが,秋らしい落ち着いた日々が待ち遠しいですね.
今回の発行は134号です.133号を飛ばしたのは,間違って131号を2回続けたためです.

■平田森三(物理学者,寺田寅彦の弟子)が「キリンのまだら」というエッセイを書きました.
古い本ですが再刊されていますのでご覧になることをお勧めします.
キリンのまだら模様と田んぼのひび割れの形が似ているというのです.
平田は1933年の「科学」に「キリンの斑模様について」の論文を掲載します.
田んぼのひび割れは地面が乾燥して縮むために生じます.
体の成長に皮膚の伸長が追いつかないと皮膚にひび割れができるというのです.
胎児のキリンの成長過程で皮膚にひび割れは生じませんから,
専門外の分野に口を出した平田は動物学者から攻撃されました.
田んぼのひび割れと同じ仕組みで,いろいろな分野のまだら模様ができるということが言いたいのですが,
キリンをアナロジーにしたのがいかにもまずい.メロンの縞模様をアナロジーにすれば,
この理論もまったく正しかったのです.
このような膨張収縮の力で縞模様ができるという現象はたくさんあります.
お餅を焼いたときの表面のひび,パン皮のひび,パン皮状溶岩,皆同じ機構によります.
基板につけた蒸着膜が,時間が経っと膜中の残留応力のために膜が膨張し,
面白い皺模様ができるのを私も経験したことがあります.

■1952年に,アラン・チューリング(英)が”反応拡散波”という考えを出し,
化学反応が波状に進む問題を解決しました.年輪のようなメノウの縞模様も,
周期的な模様ができる化学反応(ジャボチンスキー反応)も,すべてこの理論で説明できます.
キリンのまだらも,その他の動物の皮膚の色々な模様も,
チューリングの方程式のパラメータを変えればすべて再現できます.
だいぶ前のことになりますが,このメルマガでも自励振動の発生について触れたことがありました.
これらの現象は,新しく生まれた複雑系という分野と係わりがあります.

■形が似ているということは,それを抽象化した数式が同じということです.
全然違う分野の現象といえども,そこに働く力をふさわしい概念のものに入れ変え対応させれば,
両者を統一的に理解できるのではないでしょうか.
私が,ギブスの相律とオイラーの定理での”系内部の自由度”
のアナロジーの謎を捨てきれない理由は,そこにあります.
色々な異なる分野の現象を統一して記述できるのは数学の威力でしょう.

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相律と幾何学の類似性

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数学月間SGK通信 [2016.09.20] No.132
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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突然ですが,化学にGibbsの相律というものがあります.
物質の系(閉じた)を考えます.この系はc個の成分からなりたっています.
例えば,水とアルコールの混合した系なら,成分数は2です.
各成分の状態の数(相の数)をpとします.水とアルコールの混合系の場合は,
それぞれの成分ごとに,気体,液体,の2つの相(場合によっては固体を入れて3つ)があります.

成分数cの系で独立(に変化できる)変数の数はc-1個で,
それぞれにp個の相があるから,(c-1)pの変数があるが,
これ全部が独立なものではありません.
p個の相の間には,p-1個の平衡条件があります.
したがってc(p-1)個の束縛条件が課せられます.
結局,系の自由度fは
f=(c-1)p-c(p-1)+2
第3項に加えた2は,系全体の温度と圧力の2つの独立変数です.
これを計算整理すると
f=c-p+2 ,あるいは f+p-c=2  となります.

何処かで見たことがありませんか.そう,オイラーの多面体定理V+F-E=2
を思わせます.今日,唐突に化学の相律の話をしたのは
この類似性を不思議と感じた十数年前のことが蘇ったからです.
ーーーーーーーーーーーーー
相律   f-2=c-p
オイラー F-2=E-V (FとVを入れ替えたものは互いに双対なので同じ)
ーーーーーーーーーーーーー
このように並べて,両者の類似性を見ていると,
幾何学的な本質に関係があるような気がしてならないのです.
これは,偶然の一致だと言ってしまえばそれまでです.
それが正しいようでもあります.私も昔,そう結論を下しました.
しかし,まだ考えつかないことがあるような気がしてなりません.
皆さん何か良いアイデアは無いでしょうか?

■考えがまとまりませんので,3成分系の具体例をたたき台に示します.
石英SiO2,橄欖石2MgOSiO2,灰長石CaOAl2O32SiO2の系を例にします.
各成分に,固体,液体の2相があります.今,圧力一定の切り口を考えるとf-1=c-pです.
3成分+液の4相が共存するなら,自由度 f=0
3相が共存するなら f=1(線上を動く)
2相が共存するなら f=2(面上を動く)

融液を冷やしていくと,1,360~1,280℃で,橄欖石の晶出と液組成の変化
(橄欖石+液の共存)すなわちここではf=2.
1,280~1,260℃で,灰長石の晶出と液組成の変化
(橄欖石+灰長石+液の共存),すなわちここではf=1.

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