数学月間の会SGKのURLは,https://sgk2005.org/
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数学月間SGK通信 [2016.12.27] No.147
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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今年も残りわずかになりました.私の方は何もかにも来年に持ち越しで,毎日バタバタと過ごしておます.
まっだく,まだ年賀状に取り組む雰囲気になりません.
皆様の年末の日々は如何でしょうか.皆様にとって来年は良い年でありますように.
先週の20日は久しぶりの放射光実験で,名古屋を日帰りし大変疲れました.今日26日はこのデータの検討会がありました.
そして,明27日は,ユーロスペースで上映されているアニメ「算法少女」を見に行く予定です.
このアニメの上映期間は,24日~28日ですので,明日,明後日の内に見なければなりません.
http://sampo-shojo.oops.jp/index.html
遠藤寛子さんの「算法少女」,ちくま学芸文庫は,大変すがすがしい物語です.皆様もご覧になることをお勧めします.
■さて,今年も色々なことがありました.以下は,日刊ベリタ(2016.12.23)に掲載したものです
安倍晋三首相とプーチン大統領の会談は2日間にわたって行われ,12月16日夕方に共同記者会見が行われました.
内容のない会見でしたが40分にわたり,安倍首相がプーチン大統領をファーストネームで「ウラジーミル」と何度も呼びかけ,
「君(きみ)」という呼びかけも使いました.
http://www.j-cast.com/2016/12/16286354.html によると,
「プーチン大統領、ウラジーミル。ようこそ日本へ。日本国民を代表して君を歓迎したいと思います。
私が2013年にモスクワを訪れた時に、出来るだけ頻繁に会談を重ねようと、君と約束をしました」と切り出し,
結局,安倍首相は発言の中で,「ウラジーミル」を5回,「君(きみ)」を3回使ったといいます.
質疑応答でも,5回「ウラジーミル」と口にしたということです.
■日本語の感覚では,とても失礼な感じがします.
そして,これはロシア語としても中途半端で気持ちの悪い感じがします.
「ウラジーミル」といったら,父称まで続けるのが普通です.「ウラジーミル・ウラジーミロビッチ」です.
プーチンの場合は,お父さんの名前も「ウラジーミル」です.
あるいはもっと親しければ,愛称の「ヴォロージャ」と呼ぶべきでしょう.
安倍さんは,ドストエフスキーなどのロシアの小説を読んだことがないのだろうか?
■日本国民向けに,「やっている振り」や「親密さのアピール」を企んだことでしょうが,
見え見えで違和感があります.プーチンが「晋三」と返事をしたわけでなく.全く噛み合いませんでした.
だいたい,個人的信頼関係で国策を決められても困ります.
トップの個人プレーで何かするのは,全くの議会軽視.国会無視の姿勢の表れであります.
よく考えると「ウラジーミル」て怖い名前ですね「世界を支配する」という意味です
(「ウラジオストーク」は「東方を支配する」です).安倍さんはそんな言葉を連呼したことになります.
参考までに,これが噂のプーチンカレンダー,私の部屋につるしてあります.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/556223/62/17813962/img_0_m?1481887010
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数学月間SGK通信 [2016.12.20] No.146
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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本日(12月20日)は,放射光を用いた毛髪の蛍光X線分析に参加しています.
私にとっては,十年ぶりの放射光実験です.
励起X線ビーム(20keV)で毛髪を照射すると,毛髪に含まれているほとんどの原子の(原子核に捉えられている
1番内側の電子)K殻電子を,原子から飛び出させることができます.
こうしてできたK殻電子の空孔に,外側の電子(高いエネルギーのL殻やM殻)が落ちてきて埋め,安定な原子になりますが,
このとき放出されるX線が蛍光X線で,そのエネルギーは元素によって決まっています.
これが蛍光X線で元素分析ができる原理です.
この蛍光X線の測定で,観測されるバックグラウンドに影響する現象を,
ここで,数式に頼らず平易に解説してみようと思います.
■X線は電磁波
X線は周波数の高い(エネルギーの大きい)光(電磁波)です.eVというエネルギーの単位で表すと,
可視光線は,1.6eV(赤)~3.2eV(紫)の程度ですが,今日,私が実験で使うX線は20keVです.
■弾性散乱
物質をこのX線ビームで照らすと,どんなことが起こるでしょうか?物質は原子が集まってできており,
1つの原子は,原子核とその周りのいくつかの電子からなります.電磁波の電場は+-が入れ替わる振動電場です.
水平に飛んで来る放射光ビームの電場は,水平面内で振動しています(水平偏波).
その周波数は,20keVのエネルギーですと4.8x10^18ヘルツです.
この振動電場のなかに置かれた原子の電子も,電場の周波数と同じ周波数で振動します.
原子の内部が分極し双極子となり,これが+-振動する.振動する双極子は,電波の源になり,同じ周波数の電磁波を出します.
これをX線の散乱といいます.電線を張って,高周波の電流を流すと,電線に垂直な方向に電波が飛んで行きます.
これをダイポール(双極子)アンテナと言いますが,原子の1つ1つが小さなダイポールアンテナになるわけです.
物質に入って来るビームと散乱されていくビームのなす角度χを散乱角と言いますが,
散乱角0°や180°の方向(アンテナの腹に垂直)に強い散乱があり,
散乱角90°の方向(アンテナの先端方向)にはほとんど散乱されません.
電磁波の強度は振幅の2乗に比例しますから,入射波の電場ベクトルと散乱波の電場ベクトルの内積の2乗(cosχ)^2が,
散乱波強度の大雑把な方位依存性を決め,これを偏光因子と言います.
1つの原子には原子番号だけの複数の電子がありますから,原子によってその散乱能力が異なります.
電子のたくさんある原子の方が強く散乱を起こします.
ある原子により散乱角χの方向に散乱されるX線の散乱強度は散乱振幅の2乗で,
ボルン近似で求めた散乱振幅は,その原子の電子分布密度のFourier変換になっています.
実験では,散乱X線がほとんど消える水平面内で散乱角χ=90°の位置に検出器を置きます.
ここまでの説明は散乱によりX線のエネルギーが変化しない(いわゆる弾性散乱)についてでした.
■コンプトン散乱
X線のエネルギーが変化する非弾性散乱で重要なのは,コンプトン散乱と呼ばれるものです.
これは,入射するX線のエネルギーの一部が電子の運動に渡され,散乱されるX線のエネルギーが減少する散乱です.
散乱の前後で,エネルギー保存則と,運動量の保存則が成り立ちます.計算すると,
散乱角が0°ではX線のエネルギー損失はありませんが,散乱角が大きいほどエネルギー損失は大きく,
散乱角χ=90°では,入射光20keVの場合,0.754keVの損失になることがわかります.
コンプトン散乱を考慮してバックグラウンドの理論値を見積もることができます.
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数学月間SGK通信 [2016.12.13] No.145
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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Mathematicaという数学,情報処理ソフトウエアがあります.価格は高いが定評のある大変優れたソフトウエアです.
ウルフラムWolfram reseach Inc.がコンファレンスを東京で開催(12月12日)しましたので参加して来ました.
Mathematicaは,今年の8月にversion11がリリースされました.
mathematicaは,version8まではいわゆる数式処理のソフトウエアでしたが,
version9あたりからAI(人工知能)のようなソフトウエアに変貌しています.
このソフトの創始者で最高経営責任者のstephen Wolframは,世界中のあらゆるデータを計算し尽くすと豪語しています.
wolfram alphaというウエブサイトhttps://www.wolframalpha.com/をご覧になったことがありますか?
ここのinput boxにどんなことを書き込んでも,AIがそれを理解し適切な答えを返してくるのです.
もし,数式や方程式を書けば,それを解いたりグラフで可視化表示したりします.これくらいは驚きませんね.
しかし,入力するものが数式でなくて,imageや音声ファイルや,地図や,キ-ワードや,その他なんでも,
コンピュータが解釈し答えを返してきます.ただし,無料のウエブサービスですから,
計算時間に制限があり時間切れを知らせてくることはあります.AI技術の進歩には驚くばかりです.
測定した色々な生データを入れると,何も知らなくても論文ができて出て来るという時代が到来
しているというと一寸大げさですが,そのような感があります.
■数学の教育にMathematicaを用いる動きもあります.研究や大学の授業では用いていますが,
高校の数1から数3までの教程があるそうです.計算はコンピュータにやらせるわけですから,
パラメータを色々変えて傾向をみたり,不動点を発見したりなどの面白い教育的な使い方があるでしょう.
しかし,私たちが高校時代に味わった,因数分解がうまく行ったときの喜びや,
補助線一本を発見して幾何が解けたときの喜びはもうないでしょうね.
基礎理論を知らなくてもうまく行ってしまうのにも不安を感じます.
コンピュータがないと簡単な積分もできないということにならないように.
そして,数式処理の大変高度な能力が手に入りますからこれをうまく利用しましょう.
美しいグラフィックは理解を助けるし,出力を3Dプリンターにつなぎ,3次元の物体として出すこともできる時代です.
■AIは,多層のニューラルネットワークの学習機能を持っていてトレイニング(教師付き)させると,
データの識別(それが特定できる確率が示される)や診断結果のクラス分けができます.
データから傾向の予測をしたりもします.
■東京慈恵会医科大学の関根宏氏は,ビッグバンモデルに基づき増殖する腫瘍に対する放射線治療の話をしました.
がんというのは自律的な増殖と転移をするものだそうです.がんに放射線を照射するとがん細胞が減っていきます.
臨床例はがん細胞にガンマ線照射を60Gy/30回/6週などです.何回に分けてどのくらいの期間に照射すると効果的か,
照射の仕方と再発の有無をGLQモデル(照射パラメータ2つがあり,照射で指数関数的にがん細胞が減るモデル)により,
シミュレーションしている.ただし,最近の研究ではがん幹細胞があり,
ここを攻撃しないとがん細胞は死なないという説があるそうだ.
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数学月間SGK通信 [2016.12.06] No.144
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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数学月間は,数学同好者のためでもないし数学の講習会でもありません.
<数学と社会の架け橋>を目指しています.毎年,数学月間の初日7/22(これは,22/7≒3.14・・・にちなみます)
に懇話会を実施しています.ご参加ください.
今年の「数学月間懇話会」の講演から紹介しましょう.
がん登録の可能性.田渕 健(都立駒込病院,東京都がん登録室)
駒込ピペットは,感染症の避病院であったこの病院の発明(140年前)だそうだ.
今年(2016年)新たにがんと診断される患者は,101万人を超える予測で,98万人(2015年),88万人(2014年)と増加し,
この3年間のがん死亡も,年間37万人程度ですが.増加傾向です.
2014年から,多いがんのランキングや死亡率などが話題になり,がん検診も叫ばれています.
一方,過剰検診の問題もあり,がん検診を増やすことがどれほど有効なのかはわからない.
がん罹患率の統計が整備されると,過去年のがん罹患数のデータを用いて,
今年のがん罹患数を予測したり,次のような質問に答えることができるようになります.
・助かるのか,助からないのか,どのくらいの人が助かるのか?
・同じような病気の人がどのくらいいるのだろうか?
・この病気を治してくれる病院があるのだろうか?
・どんな治療法があるのだろうか? 治療成績に違いがあるのだろうか?
がん登録推進法が,遅ればせながら今年スタートしました(人口統計は,明治に確立している).
がん統計は,データ収集→処理登録→統計解析の流れで行い,
特に,生データからがん登録を行うところが,混沌としていてとても難しい.
これは数学者の仕事なのだが,数学者の参入がないのが問題です.
(注)統計解析は,良いツールソフトがあり実施に問題はない.
具体的には,がん登録の届け出がされていない/複数病院からダブって届けられる/一人で多重がんをもつ,
などの混沌とした状態が生データで,まず,同一性の判定が必要になります.
死亡状況から,届け出がなかったがんを判定発見することも必要です.
病院は電子カルテに変わり,医者が患者の顔を見なくなった弊害に加え.
そのカルテ情報が構造化されておらず,残念ながら統計には役に立たないそうだ.
病気を分類し,がんの定義を満たすリストを作る.そして,いろいろな届け出病名から,がんを特定する.
例えば,肺炎には肺がんが含まれているかもしれない.
心不全というのは死因ではなく,死因の特定には,第1次原因,第2次原因,...,第5次まで見ることが必要とのことだ.
いずれにしろ,生のデータは斯様に混沌としている.同値関係を定義したり,
同値分類したりしてデータの構造化が必要であり,これは数学者の仕事なのです.
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数学月間SGK通信 [2016.11.29] No.143
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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寒くなりました.皆様お元気でお過ごしでしょうか.
11月27日は,夕方からの雨でどんどん寒くなりましたが,
藤沢,遊行寺の「一ッ火」に参加していました.5時に始まり9時近くまで行われました.
遊行寺に行ったのは初めてです.落語でも,箱根駅伝の中継でも,遊行寺は有名ですね.
会の最後に,大僧正直々に全員(何百人でしょうか,例年より少ないそうです)がお札をいただきました.
その行列の長いこと.大僧正は97才.すごい大声でのお話さすがです.(この方が免許返上で話題になった方ですね).
「一っ火」というのは,本堂のロウソク(それぞれ或るものを象徴して配置され,20~30本位ある)の火を,
複雑な手順(方法や役回りがいろいろ)に法り次々に消して行き真っ暗に...,静寂.十八念仏が始まり,
火口箱に火花鵜を打ち込み,灯明に移されます.再び弥陀と釈迦の光明に照らされた世界が戻ってきます.
念仏は美しい合唱の音楽です.
大きな百目ろうそくの炎は長く伸びて明るい.じっと見ていると,炎はピタッと動かない.
それが突然瞬き始める.また,ピタッとまる.これが周期的に繰り返されます.
この自励振動の機構に感嘆して見入ってしまいました.実に面白い.
近づけた2本のロウソクの瞬きの周期が揃う(協同する)というのは知っていますが,
そもそも,ロウソクの炎の瞬きと,静止が何故繰り返されるのだろうか?どちらの状態も安定でないわけで,
この移り変わりが起こる理由を考え込んでしまったのです.この話題は後日取り上げたいと思います.
今日は,福1の事故原子炉の話をします.
■福1のメルトダウンした2号機のペデスタル(原子炉(圧力)容器を支えるコンクリートの部屋(地階と1階))
の観察を来年1月に実施する計画です.ペデスタルは格納容器(建屋の地階から4階までを含んでいる)の中にありますので,
格納容器のX-6ペネ(貫通窓のこと,ケーブルや配管を通しているが,X-6はコンクリートのメクラ蓋)に穿孔(115Φ)し,
自走式のサソリ型ロボットをいれる.実は,この穿孔の準備のため,X-6ペネの前にある遮蔽ブロックを取り外す工事で,
X-6ペネ周辺にダメージを与え放射能が漏れだし,昨年10月から最近まで,その作業エリアの放射能除去対策に苦闘していた.
いよいよ遮蔽盾に隠れて穿孔作業が始まるが,作業場は高線量のため1日の被曝限度3mSvをすぐ超えるので10分といられない.
3人ぐらいの班で,次々と入れ替わりのリレー作業となる.
計画は観察だけ.その後.どうやってデブリをとりだすか,どこに保管するかなど問題だらけで可能かどうかも危惧される.
(だいたい,燃料プールには,4号機の燃料を入れたままだし)
■現在判明している状態
メルトダウンした福1原発1号機~3号機のデブリの観察
1号機,3号機は,ウエットベントが出来ましたが,建屋は水素爆発しました.
どちらも核燃料はメルトダウンして,ほぼすべてが溶け落ちた可能性が高いと東電も認めています(2014.8.6).
2号機は,ベントに失敗.圧力抑制室が破損し,直接放射性物質をばらまきました.建屋の水素爆発も起きました.
2号機では,メルトダウンした核燃料の70%~100%が圧力容器の底にたまっていることは,
ミュー粒子(宇宙線)を用いた透視で判明しています(2015.3).
同様の透視法で1号機のメルトダウンした核燃料は圧力容器にはとんどなく,
圧力容器から抜け落ちたことがわかります(IRID資料,2016.10.4).
(注1)装荷核燃料の量は,1機あたり約1トンです.
特に,3号機はプルサーマルで,プルトニウムを含むMOX燃料が装荷されていました.
(注2)ミュー粒子(宇宙線)による透過像
宇宙線,ミュー粒子は大気で発生し,一様に振り注ぎます.透過力が強いが,高密度の物質を通過すると減衰するので,
火山の山体のマグマや原子炉の核燃料位置を見ることができます.
ミュー粒子の飛んで来た方向の検出には,
原子核乾板を複数重ねて感光させる方法や,同じ原理ですが,シンチレータバー(1cm角)と呼ばれる棒を並べた面検出器を,
間隔をとって平行に置き,ミュー粒子の軌跡がどのように貫いたか知ります.
シンチレータバーの中心には波長変換ファイバー1mmΦが通っていて,ミュー粒子をとらえた位置のシンチレータの発光を,
可視光の波長に変えてファイバー端面に伝え,ファイバー端面の半導体検出素子に入れます.