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数学月間SGK通信 [2015.12.09] No.092
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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慌ただしい12月ですが,皆さまお風邪など召しませんように.私も危ない危ない.
今回は,4次元正多面体を理解するのに避けて通れないシュレーフリ記号についてです.
シュレーフリ(1814-1895)は,スイスの幾何学者.4次元の正多面体(ポリトープ:正多胞体)
が6つであることを示した人です.
ちょっと話を戻して,3次元の正多面体とは,
(1)すべての面が同一の正多角形でできている.
(2)すべての頂点のまわりの状態は同一である.
を満たすもので,特に凸正多面体をプラトン正多面体と言いました.
プラトンの正多面体は5つであることはご存知でしょう.
注)5つの正多面体がプラトン多面体と呼ばれるのは,プラトンが著作に,ロクリス
(ギリシャの地名)のティマイオス(哲学者名)の宇宙観として“巨大な正12面体で囲まれている宇宙と,
四元素の正多面体”について述べているからです.この時代の四元素とは:
火→正4面体, 土→正6面体, 空気→正8面体, 水→正20面体.
正多面体が5種類であることは,プラトン以前のギリシャですでに知られていました.
ユークリッドの「原論」にも証明が載っています.
4次元の正多面体のことを正多胞体と呼ぶのが正しいのですが,
これは4次元の正多面体の面は,3次元の正多面体(プラトンの正多面体)なので,
面と言わずに胞Cellと呼ぶべきなのです.
さて,今回はこのようなものを記述するシュレーフリの記号についてです.
このような記号は面倒なようですが,この記号を理解すると多面体の性質のほとんどを理解したことになります.
シュレーフリの記号は本質をとらえた非常に優れた表記法であります.
■3次元の正多面体のシュレーフリ記号
{面の形,頂点に集まる面の数}
正4角形の面が頂点で3つ集まる図形を{4,3}と書きます.これは立方体ですね.
正3角形の面が頂点で4つ集まる図形{3,4}は? これは正8面体です.
{4,3}と{3,4}の図形は互いに双対の関係にあります.つまり,
一方の図形の面→頂点,頂点→面に置き換えると他方の図形が得られます.
互いに双対な図形の対称性は全く同じです.
■ユークリッド平面のタイル張り
{4,4}なら,正方形による無限平面のタイル張り,{3,6}なら,正3角形によるタイル張りになります.
■半正多面体を記述するシュレーフリの記号
半正多面体というのは,複数の正多角形で作られる多面体で
どの頂点のまわりの状況も同じものです.半正多面体を記述する記号は,
頂点のまわりを1周するとき出会う正多角形を列挙します.
切頂正4面体(正4面体のとがった頂点を切断し,残りの面が正6角形になるようにする)の例では
[3,6,6]となります.シュレーフリ記号が,正多面体に関するものか,
半正多面体に関するものかの混乱を避けるため,私は前者を{},後者を[]と違うカッコを使い区別しています.
■4次元の正多胞体
正5胞体,正8胞体,正16胞体,正24胞体,正120胞体,正600胞体の6つです.
正5胞体は正4面体が5つでできています.
4次元正胞体のシュレ―フリの記号は{胞の形,1辺が共有する胞数}を指定します.
正5胞体は,正4面体が各辺の周りに3個集まっている図形ですので{ { 3,3},3}={3,3,3},
正16胞体は{3,3,4},正600胞体は{3,3,5}というように,全く自然に3次元から延長できます.
■最後に3つの幾何平面(2次元)のタイル張りについてまとめます.
このような正n多角形によるタイル張りを,平面の正則分割{n,k}といいます.
赤い色は楕円幾平面,緑色はユークリッド幾何平面,青色は双極幾何平面の出来事です
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/32/17152332/img_0_m?1449586423
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数学月間SGK通信 [2015.12.01] No.091
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■ゼロとアラビア数字
最古の記数法は五進法だそうです.5をひとまとめにしたものを「1クワイン」といいました.
バビロニアには60進法,20進法を使ったところも,12進法を使った場所もありました.「1ダース」です.
12は約数が多いので10より便利なところがあります.けれども,大勢は10進法に落ち着きました.
われわれが指を折って数えるところから10進法が各所で使われるようになったと推測されています.
10進法での記数法には0と1~9までの数字が必要です.これからアラビア数字の起源に思いを馳せるわけですが,
0と1~9までの数に対応する何らかの記号があり,それ以前に十進法が確立していなければなりません.
参考書:「アラビア数学奇譚」マオバ・タハン(越智典子訳)白揚社
■イスラムの数学
フワーリズミー(780頃~850頃)は、アッバース朝のバクダッドで活躍しアラビアの数学を確立した代数学の創始者です.
彼の時代のバクダッドをのぞいてみましょう.
ゼロの役割には,位取りの役割と4則演算の対象となる数の役割があります.
まず位取りに関していえば,この時代,大勢は和算もイスラムも10進法でありましたから,
数を表示するには,・・・・,十万,万,千,百,十,一,の位の場所に,0~9に相当する数字を書いたり,
マッチの軸木のような算木を置いたり,
そろばんでは玉で表示したりします.どんな記号を使っても似たようなもので,
ゼロの記号がないときはその位は空にしました.アラビア数字に関しては,エジプト,インドから
伝えられたゼロの概念がイスラムで発展しヨーロッパに伝わり完成されたという流れでしょう.
どのような数字でもかまいませんが,0があると空を位取りの場所に配置するよりも明瞭に数字を表示できます.
これが位を明瞭にするので,十,百,千,万,十万,百万,千万,億,...と際限なく単位が必要になることが避けられます.
これはイスラム数学の画期的な成果でしょう.
次に,4則演算の対象としてのゼロについてです.分数全体の集合(=有理数)の中で4則演算を自由に行えます.
ただし,ゼロで割ることは禁じられていますのでご注意ください.
ギリシャでは幾何学が盛んでしたが,イスラムの数学ではアラビア数字の記数法を用いて,代数や方程式が進みました.
特に,三角関数が生まれて発展しました.われわれが高校で学んだ加法定理や倍角の公式やそのほか様々な三角関数の公式が証明され,本が出版され,三角関数の数表も発行されました
■平和の都,バクダッド
1100年前のバクダッドは人口100万人の世界最大の都市でした.
その賑わいはまさにアラビアンナイトの世界です.イスラムの教えのもとに
“平和の都”と呼ばれ,アッパース朝宮殿は建築工学,幾何学の粋を集めます.
イスラム帝国は,東ローマ帝国と中国(唐王朝)の間に位置し交易に便利です.
コーランは“神は商売を許したもうた”と商業を奨励し,売買の証人たる仲介人がいて契約と公正な取引が行われたそうです.
最古の小切手(エジプトの商人が振り出した)も発見されています.
チグリス川とユーフラテス川の間に円城都市(直径2.3km)が建設され,
これを中心とする見事な中央集権行政システムが出来上がりました.
バクダッドに集まる4本の街道は東西南北に延びヨーロッパはスエーデンまで交流があったということです.
(バイキングも正式に貿易しイスラム銀貨が流通しました)
■科学や医学,都市の発展
8世紀に成立したアッバース朝では,カリフや宮廷のワズィールたちが保護をうけ,第7代カリフ,
マアムーンが創設した研究施設バイト・アル=ヒクマ(智恵の館)には多くの科学者が集まり,
ギリシャ科学のアラビア語への翻訳が進めらました.マアムーンに仕えた科学者・数学者のひとりが,
フワーリズミー(780頃~850頃)でした.
科学では,古代エジプトに起源を持つ錬金術の実験が繰り返され,元素記号が生まれ,
文学では,アラビアン=ナイトが生まれ,唐で発明された製紙法もキルギスの戦いの際に伝わりました.
バクダッドには100軒を越す書店があったそうです.
百花繚乱.当時のバグダードのにぎわい言ったらすごい.見たかったですね.
イブン・シーナは最先端医学の医学典範を著し,世界初の総合病院がバクダッドに作られました.
病院は寄進され,その運営費も,周辺の市場の売り上げ寄付で行うワクフという相互扶助の制度が,公共施設を支えたそうです.
円城都市を中心に,モスク3万,多くの市場と市場には100店を超す店があったそうです.
500年間繁栄したイスラム帝国は,1万2千のモンゴル軍により滅亡しました.
チグリス川は血で染まり,本のインクで青く染まったそうです.
アラビア語に訳されたアリストテレスなどギリシャの古典や発展したイスラムの科学は,
その後ヨーロッパに伝わりラテン語に翻訳されルネッサンスが花開きます.
参考:
ドキュメンタリー 文明の道「第06集 バグダッド 大いなる知恵の都」
https://www.youtube.com/watch?v=ehEuTnLfOME&feature=share
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数学月間SGK通信 [2015.11.24] No.090
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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秋らしい日になりましたが,今年も慌ただしく過ぎて行きます.
皆様お変わりありませんか.
前号で双曲幾何平面(ポアンカレ円盤モデル)の正則分割(タイル張り)の話をしました.
そのような光景を万華鏡で作ってみることにします.
■コクセターの万華鏡
まず球表面(楕円幾何平面)の話から復習します.
球表面が球面正p多角形タイルで{p,q}のように張りつめられているとき,
1つのタイルの中を2p個の直角3角形に分割できます.
この直角3角形を鏡室とする万華鏡は“メビウスの万華鏡”です.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568613/51/17096451/img_1_m?1447147230
直角3角形の内角は,それぞれ π/p,π/q,π/2で,この直角3角形を(p,q,2)と書きます.
ポアンカレ円盤の双曲幾何平面でも,双曲正p多角形で{p,q}のように張りつめられているとき,
1つのタイルを2p個の直角3角形に分割できます.
この直角3角形を鏡室とする万華鏡は“コクセターの万華鏡”です.
双曲面の{6,4}正則分割の場合の直角3角形(6,4,2)(赤い3角形)を図(左)に,
対応する“コクセターの万華鏡”の映像を図(右)に示します.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568613/15/17104115/img_0_m?1447459606
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568613/15/17104115/img_1_m?1447459606
この3角形の2辺は平面鏡,残りの1辺は円盤のフ チに直交する円弧鏡よりなります.
しかしながら,この円弧鏡は,数学的には反転円として定義できるのですが,
現実の円柱鏡の反射には収差があるので,数学 の定義のようにはいきません.
従って,あまり鮮明な万華鏡映像にはなりません.
■(7,3,2)3角形によるコクセターの万華鏡
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568613/87/17106487/img_0_m?1447506664
(1){7,3}の正7角形タイル張り(赤) (2){3,7}の正3角形タイル張り(緑) (3)菱形タイル張り(青)
3枚鏡(直線鏡2枚,円弧鏡1枚)の万華鏡により
ポアンカレ円盤内の双曲平面は市松模様に塗られますが,
正7角形のタイル張り,正3角形のタイル張り,菱形タイル張り
などを見ることができます.
話はこの先,エッシャーの作品「極限としての円」シリーズに続きます.
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数学月間SGK通信 [2015.11.17] No.089
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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非ユークリッド幾何の双曲幾何平面を訪ねて見ようと思います.
エッシャーの作品で「極限としての円」シリーズを見たことがおありでしょうか.
円盤の世界で周辺に行くほど,どんどん小さくなって行く構図です.
この作品は双曲幾何のポアンカレ円盤モデルを使い,
円盤内の正則分割(コクセターの万華鏡)が基礎になっています.
正多角形タイルによるタイル張り(正則分割という)は,
双曲幾何平面の場合は無限にあります.
例として,{6,4}と{5,4}を掲載しますので,まずはご鑑賞ください.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568613/02/17100202/img_0_m?1447229525
(注)
ポアンカレの双曲幾何のモデルは,円盤の中にすべての宇宙があります.
宇宙の果て(円盤のフチ)に近づけば近づくほど自分もどんどん小さくなるので
いつまでたっても宇宙の果てに到達できません(無限の時間がかかります).
{6,4}は正6角形による双曲幾何平面の正則分割で,各頂点に4個の正6角形が集まっています.
円盤の中は双曲幾何の世界ですから,この世界の直線は円盤のフチに直交する円弧です.
正6角形の辺はすべて直線です.円盤の中に描かれた円弧は皆,縁と直交しており,
この世界ではすべて直線です.円盤の中の正6辺形はすべて同じ大きさです.
同様に,{5,4}の図は正5角形による双曲幾何平面の正則分割の例です.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568613/02/17100202/img_1_m?1447686193
例えば,赤い円弧で分けられた世界は左が大きく右が小さいようですが,
この円盤内の世界では同じ広さです.どちらの世界も無限に広い.
円弧は左右の世界を写し合う鏡です.鏡像は色が変るように市松模様に塗り分けました.
■エッシャーのトリック(引用先:コクセター論文)
M.C.エッシャーの「極限としての円」Circle limit IIIを鑑賞しましょう(図左).
この円盤内は双曲幾何の世界(ポアンカレの円盤モデル)です.
この円盤内を旅する人は,円の縁(世界の果て)に近づくほど時間がかかる.
つまり,[世界の果てに到達するには無限の時間がかかる]ようになっています.
この世界で定義される直線(最短時間で移動できる経路)は,円盤世界の縁で直交する円弧です.
エッシャー作品(図(左))の円盤は,魚の流れを示す白い線で分割された双曲面の
[4,3,4,3,4,3]分割のように見えますが,実は図(中)に示すような,黒い線で分割した{8,3}正則分割です.
白い線は,双曲幾何の円盤世界の縁に80°で交差し,直線ではないのです.
図(中)の正8角形の黒い線がこの円盤世界の直線であることは,図(中)に書き込んだ赤い円弧
(いずれも円盤縁で直交する円弧)を見れば理解できるでしょう.
双曲平面の正8角形タイルは,双曲平面の直線(円盤の縁で直交する円弧)で囲まれています.
タイルの大きさは円盤の縁に行くほど小さく見えますが,円盤内は無限に広い双曲幾何平面なのですべて同じ大きさです.
1つのタイルの中には4匹の魚がおり中心に4回軸があります.
正8角形の頂点には3回軸があり,魚の白い流れは3回軸の場所に集まっています.
エッシャーは{8,3}分割に用いる直線をわざと隠し,白い流れが分割であるようなトリックを見せます.
もちろん,白い流れの円弧(直線ではない)に関して鏡映対称はありません.