数学月間の会SGKのURLは,https://sgk2005.org/
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■不特定市民を対象に数学への共感を呼びかけるMSAM
米国の数学月間MathsAwarenessMonthは1986年のレーガン宣言により始まりました.
1989年には昭和が終わり,1991年はベルリンの壁崩壊,ソ連邦解体と続きます.1990年には日本の製造業(例えば半導体)は世界一位になります.レーガン宣言は「数学は万学の基礎であり,国力(産業)の基礎である」と謳い,工業力の基の数学力の低下の危機をくい止めようとの政策でした.こうした背景下で,1986年に創始された数学月間MAMは,毎年その年の統一テーマ(1994数学と医学,1995数学と対称性,etc.)を決めて,大学などを拠点に,毎年4月に全国各地で展開されます.統一テーマの変遷をみると公平に見て非常に納得のいくものです.数学関連4学協会が協力したJPBM(Joint Policy Board for Mathematics)が次年のテーマを決め実施します.
日本では,米国のように社会と数学は無縁でないことを啓蒙する動きは弱く,小林昭七教授から米国MAM情報を聞き監視していた片瀬さんが,見かねて日本の数学月間を提唱(2005年),私たちのボランティア活動が始まりました.米国に20年遅れていますし,その規模は比較にもなりません.
■90年代は,世界的な生産の空洞化の始まりです.それ以前から起きていた理数科離れは,これによりさらに加速されます.80年代は,サンシャイン計画,超LSI技術研究組合など,官民共同の技術開発が隆盛で,私たちもアモルファスシリコンの研究をしました.成果が出て技術が完成しても,商品とならないことを,このとき私も経験しました.製造コストで中国に負け生産の空洞化の連鎖が続きます.研究費削減,技術者集団の解散冷遇の社会が,理数科離れのもとになったと思っています.1990年に世界の頂点に達した日本の半導体技術も,その後は衰退の一途でした.
空洞化はグローバル企業による属国化を進め,ラチェット原則による規制撤廃,労働者の流動化,などは,国家の主権を守れず民主主義の危機に陥っています.
■90年代は日本では理数科離れとゆとり教育の時代でした.米国も同様に理数科離れはあったのですが,米国の数学月間MAMは,数学と社会のかかわりを数学の入門から先端まであらゆるレベルで学習できる非常に優れた指標を与えました.
2017年からMAMは統計学Statisticsを加えてMSAMになりましたが,これもGAFAで象徴される大量情報の状況に対応したものです.STEM教育という科学技術工学数理の融合重点教育も米国で始まったものです.
市民に対して数学への共感を惹起する,米国のMAMやMSAMのような活動が日本でも重要です.
■生徒を対象に豊かな数学を体験させるNMF
米国国民数学祭りNationalMathsFestivalは,MSRI(Mathematical Sciences Research Institute) がMoMathなどと協力し,毎年5月[今年は4日(土)]に,ワシントンDCと40州の科学博物館で実施しています.あらゆる年齢層の2万人の参加者があります.もう少し地道に,学校カリキュラムや試験準備でない豊かな数学能力を育てる活動が,米国の「数学サークル」や「数学の月曜日」です.学校カリキュラムと併用するので,能力別教育により個性を伸ばすことができます.
日本のゆとり教育は,意欲のある生徒と有能な教師にとっては有効であったが,画一的な教育では時間の浪費になりました.
•数学サークル(月1,地域の大学に実施)
•数学の月曜(週1の昼食時,ゲームなどの教材がある)
■ゆとり教育は2002年から実施され2008年に終わりました.学力低下の弊害などが指摘されています.しかし,その理念は競争社会へのアンチテーゼであり,望ましいことでした.「総合的な学習の時間」が作られ,豊かな学習プログラムが可能になり,私なども全国各地の学校に行き万華鏡の授業をしました.子供達には楽しいイベントになり,ほんの少しは数学に興味を持ったでしょう.面白いところだけやる一回きりの授業ですから,毎日授業をしている先生方にはずいぶん迷惑をかけたのではないかと思います.
■ゆとり教育では,少数点以下1位の数までしか使わないとか,円周率は3にするとかがよく例にされます.これは,計算を簡単にして,主題の問題に思考を集中するためなのでしょうが,数字の概念を歪めてしまう欠点があります.数直線上の点は連続で,実数に対応します.「実数」という述語はまだ使わないとしても,将来出会う概念の準備をしたい.「整数」は「実数」のうちの特別なもの.「実数」には分数で記述できる有理数と,分数では記述できない無理数があること.円周率は無理数であることに気づくときがいずれ来ます.自分の知っていた数が属する広い数の世界の体系に感動するでしょう.円周率が整数であるかのような単純化は有害です.
ゆとり教育が終わり,新指導要領とのことですが,分数は分母が2の冪乗のものと,その他の数の場合とは,別々の年度で教えるそうです.2の冪乗は丸いピザの分割で説明しやすいというのがその理由だそうです.しかし,分数の定義では何等分でも一貫したやり方が,概念の把握を明確にします.わかり易くしようとして,数学概念をゆがめるのは有害です.
■さて,ゆとり教育の始まる以前の80年代から,理数科離れと学力低下は始まっていたようです.このような社会風潮は,90年代に始まる産業の空洞化と無縁ではないと思います.報われない技術者と社会の数学軽視の風潮,両親の数学軽視は子供の理数科離れを生み,産業の空洞化はさらにその傾向を加速する負のスパイラルになりました.1990年に世界1位になった日本の半導体技術の凋落ぶりは今や見る影もありません.グローバル企業による属国化,規制撤廃は民主主義の破壊へと向かっています.⇒理数科離れと産業空洞化
■1989年のレーガン宣言ではじまった米国の数学月間活動MAMは,万学の基礎である数学へ関心をもち,産業力の低下を防ぐことを国民に呼びかけます.2017年から,大量データの時代に適応して
数学統計学月間MSAMになりました.学校のカリキュラムと異なる豊かな数学を楽しむ国民数学祭NMFや,数学サークル活動,これを補完する数学の月曜日活動もあります.これらの活動の併用により,能力別数学教育(日本のゆとり教育の欠点は,画一的な実施にあったと思います)の効果が出ているようです.
球の表面積は,球の半径をRとすると4πR2となることは,知っていると思います.
球の表面を円周が2πRsinθ,幅がRdθの円環に細分し,これを0≦θ≦πで積分して球の全表面積4πR2が得られます.
$$\displaystyle \int_{0}^{\pi}2\pi Rsin\theta \cdot Rd\theta =4\pi R^{2}$$
πR2は,半径Rの球を射影した影(半径Rの円)の面積ですが,球の表面積は,なぜ影の4倍になるのでしょうか.
球表面の円環を球の断面円(赤道の断面)に射影すると,円環の円周の長さ2πRsinθは変わりませんが,幅はRcosθdθになります.上半球の円環をすべて断面円内に射影すると面積πR2の円を埋めます.πR2sin2θdθを0≦θ≦π/2で積分したπR2が得られます.$$\displaystyle \int_{0}^{\pi /2}\pi R^{2}sin2\theta d\theta =\pi R^{2}$$
確かに,球の表面積は,自分の影の4倍であることが計算されます.
■これは,球を包むシリンダーをスクリーンにして,下図のような射影しても説明できます.
球の表面の微小な面積(緯線と経線で囲まれた矩形)を,球を包むシリンダーのスクリーンに,地軸に垂直平面に沿って射影すると,投影された矩形の縦横の比は変わりますが,面積は変わりません.このことから,半径Rの球の表面積は,幅2R,周囲2πRの長方形(シリンダーの展開図)になり,その面積は4πR2になることがわかります.
一般に,正多面体の表面積と影面積(方位平均をとったもの)の比は4のようです.正多面体の極限としての球の場合は,表面積と影面積の比が正確に4になります.
詳しくは3Blue1Brownをご覧ください. https://youtu.be/GNcFjFmqEc8
Fairfax Math Circle(FMC)は,探求と問題解決に焦点を当てた数学を豊かにするプログラムです.やる気のある学生に,数学への理解を深める機会を提供することを目的とします.数学とは何か,数学者になるとは何か,ということの生徒の認識を広げようとしています.
より深く数学と遊べる道具と,新規なやりがいの探求に快適な環境を学生に提供します.FMCは,伝統的な学校カリキュラムでは扱わないような数学概念に彼らをさらすように努めています.FMCがやるのは,補修,テスト準備,競技の数学ではありません.非標準のトピックスや,伝統的なトピックスでもさまざまな観点から深く見ていきます.学生は多くのことを学び,あらゆる種類の数学の意欲的で効率的な学習者になりますが,標準的な数学カリキュラムを加速するわけではありません.
サークルのリーダーは通常プロの数学者(大学教授または大学院生)で,家族のボランティアも受け入れます.
6-12年生のDCメトロエリアに住んでいるすべて意欲のある生徒は資格があり,2つのグループがあります:
グループπ:代数1を修了した中学生のためのもの
グループe:代数2を修了した高校生のためのもの
すべてのセッションは George Mason大学で行われます.会費は家族1人あたり100ドル.2018/19学年度は、秋に9回、春に9回、合計18回のセッションがあります(日曜日に実施されるらしい).
http://www.fairfax-mathcircle.org/
3Blue1Brownのyoutube動画をご覧ください.
コーヒーカップの表面に,3つの家と3つのソース(ガス,電気,水)があり,
パイプラインが交差しないように,3つのソースと3つの家を繋ぎます.
いくら頑張っても交差箇所が1つできてしまいます.
頂点の数V,辺の数E,面の数Fとすると,V-E+F=2 がオイラーの多面体定理ですが,
図のように面(領域)の数は4つ(黒い地の部分も1つと数えます)で,
6-8+4=2とオイラーの定理が成立しています.
3つの家はそれぞれ3つのソースに結ばれるわけですから,辺(パイプライン)の数は9本ありますが,頂点6と面の数4ですから,最後のパイプラインはどうしても繋げません.
さてここで,コーヒーカップで実験をしている理由がわかります.
コーヒーカップの取っ手の部分をうまく使うのです.取っ手の中を通り抜けるパイプラインと取っ手の上を這わせるパイプラインで立体交差になります.
コーヒーカップは,穴が1つある浮袋のような位相表面です.先のオイラーの多面体定理は穴のない位相表面に対する表現なので,穴の開いている位相表面では定理が少し変わります.
注)トーラスでは,面の数が2つ減り,頂点の数が3つ減り,辺の数が3つ減るので,V-E+F=0 が成り立ちます)
このような教育グッズがたくさんあり提供されるようすが,国民数学祭NMFのサイトで見ることができます.