ブログ倉庫

水分子の振動モード★

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
数学月間SGK通信 [2018.03.27] No.212
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
今日,3月27日は,数学月間勉強会,結晶空間群で物理と数学を学ぼう(第4回)をやります.
14:30から,東大出版会,会議室です.ご興味おありの方はご参加ください.
群の表現とその応用例を,一気にやってしまいますので,一寸無謀です.
そこで,メリハリをつけて,基本的な考え方を理解することに全力を使うことにします.
応用例は3つ示そうと思っていますが,残り時間を見ながら消化できる程度に留めます.
用意している応用例は,以下の3つです:

(1)水分子の振動モード,
(2)シクロブタジエン分子の分子軌道エネルギー準位,
(3)ルビーの赤い色の原因の結晶場

■(1)水分子の振動モード

水分子H2Oの形は,O原子を中心に両側にH原子が結合していて,「く」の字型(ブーメランの様な形)をしています.
その形の対称性はO原子を通過する2回回転対称軸$$2_{z}$$,分子全体を載せる鏡映面$$m_{y}$$(これは,$$z-x$$平面),この鏡映面に垂直な鏡映面$$m_{x}$$(これは,$$z-y$$平面)からなります.点群の記号で書けば$$2mm$$です.

$$2_z$$は$$z$$軸を回転軸とする2回軸,$$m_y$$は$$y$$軸方向の符号を変える鏡映面($$z−x$$面),$$m_x$$は$$x$$軸方向の符号を変える鏡映面($$z-y$$面)です.

 

 

 

 

 

 

 

 

この分子の内部自由度は3(O-Hの長さが2つとH-O-Hの角度が1つ)なので,分子振動のモードは3種類あるはずです.
分子の形から,この分子振動の3つのモードは次の3つであることがわかります.

 

 

 


すなわち,非対称モードのB1,対称モードA1の2つです.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表の見出し行は,水分子の対称性(点群)$$2mm$$と,その対称要素{$$1, 2_{z},m_{y},m_{x}$$}です.
$$2_{z}$$は$$z$$軸を回転軸とする2回軸,$$m_{y}$$は$$y$$軸方向の符号を変える鏡映面($$x-z$$面),
$$m_{x}$$は$$x$$軸方向の符号を変える鏡映面です.
水分子を$$x-z$$面上に置いてあるとして,それぞれの対称操作を行った時に,
各振動モードで原子の変位を示すベクトルが向きを変えるか変えないかを調べましょう.
上の表で$$A_1$$と$$B_1$$の行の符号を見ると,$$B_1$$の$$2_{z}$$,$$m_{x}$$の場合に-1となっていますが,
$$B_{1}$$と記した分子の変位が,$$2_{z}$$と$$m_{x}$$の対称操作をすると逆向きになることがわかるでしょう.
$$A_1,B_1$$は点群$$2mm$$の既約表現です.点群$$2mm$$の既約表現はこのほかに$$A_2,
B_2$$の計4つがあります.点群$$2mm$$の対称操作(対称要素)は4つあり,
この群はAbel群ですので類の数も4つ.異なる既約表現の数は類の数に等しいので4つです.
この表は,既約表現の指数を記入した表です.
さて表の$$N$$は,各対称操作で動かない(対称操作が通過する)原子数です.
その次の$$χ$$の行は,3つの原子(H,O,H)×3つ($$x,y,z$$)の変位=9次元の変位ベクトルを基底として,
各対称操作の行列表現を作り,その指標を記入しました.
9次元の変位の中には,分子全体としての移動や回転の自由度があり,その指標が$$χ^0$$です.
分子内振動に関与する指標は$$χーχ^0$$で,この中にそれぞれの既約表現がどれだけ含まれるかを調べます.
これは既約表現の直交性という性質を使うと容易に計算でき,$$χ-χ^0=2A_1+B_1$$となります.
こうして,分子の形(原子数と対称性)がわかると,どのような振動モードがあるか知ることができます.

0

群の表現と現象の対称性

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
数学月間SGK通信 [2018.03.20] No.211
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
来週27日は,数学月間流勉強会,第4回です.
東大出版会,会議室にて,14:00-17:00
お気軽に参加ください.
この勉強会(第4回)のテーマは,群の行列表現と現象の対称性です.
先週のメルマガで,ルビーの赤色の補色をCrのd電子が吸収する話をしました.
正8面体の場に置かれたCrのd電子軌道5つは,縮退が解けてエネルギー準位が2つに分かれて存在し,
これらの準位間を電子が遷移するときに光エネルギーの吸収が起こるのでした.
さて,ここで正8面体場による準位の分裂を知るには,群の行列表現の手法を使います.
数式を使わず言葉ですべて説明したいと思っていますが,このメルマガ発行時点ではまだ不十分です.
読者の方からのご意見ご質問を歓迎します.
大体,群の行列表現には,色々な定理を使い難しく面倒です.言葉で説明した授業も本も聞いたことがありません.
でも,その心は言葉で説明できるはずだと私は思っています.
専門書は完全ですが,数式も定理も段階を踏んでたくさん勉強しなければなりません.
入門書は易しいですが,読んでも結局何の役にも立ちません.
私は,よくある入門書のように言葉でごまかすのではなく,
あるいは,数式を書き連ねてすますのではなく,数式が主張しているその心を普通の言葉で表現したいのです.
残念ながらまだ企ての途中なので,今日はまだ半端に数式が出て読みにくいものです.ご勘弁のほどを.
有限群Gの各元(成分)gに,n次正則行列D(g)を対応させ,群Gの演算構造を行列の集合D={D(g)}の中で再現することを,
群の表列表現と言います.つまり,群Gの任意の2元gi, gjに対し,集合Dでも,D(gi・gj)=D(gi)・D(gj)が成立すれば,
集合Dは群Gと準同型な群をなします.極端な例は,Gの異なる元もDの同じ元1に対応させてしまう対応も,群Gの表現です.
異なるgi, gj∈Gに対して,D(gi), D(gj)∈Dも異なれば,GとDは(1:1対応)同型な群です.
f次元行列表現を得るには,互いに独立なf個の基底関数が必要です.
f個の基底関数に,群の対称操作giが作用すると,これらの線形結合に変換されます.
この変換はfxf次元の行列D(gi)で,対称操作gi∈Gの行列表現と言います.
このようにして,群Gを行列の集合Dに対応させると,群Gの構造は群Dに反映され,
行列を扱う問題になり,固有値・固有関数などの行列の理論が使えるようになります.
行列の対角成分の和χ(gi)=Tr[D(gi)]を指標と言い,行列を指標に対応させるのも準同型写像で,
行列の群を扱わずに,指標の群を扱うことでとても簡単なります.
位数gの群の正則表現というのはg個の基底関数を用いて作りますが,
群の対称操作で基底関数が不変なのは恒等操作eだけで,他の対称操作giを作用すると,
どの基底関数も別の基底関数に変換されてしまいます.したがって,指標で言うとχ(e)=g,χ(gi)=0です.

任意のn次複素正方行列Aは,ユニタリー行列Pによる相似変換(P^-1)APで
固有値が対角上に並んだ上三角行列に変形できます.
相似変換(座標変換による基底関数の変換に相当)は,同値律を満たすので,
互いに相似変換にある行列は同値,固有値は同じです.
群の表現行列に戻れば,群の元(成分)giの共役類とは,
(g^-1)・gi・g (for g∈G)なので,同じ類の元の同じ指標になります.

さて,ここで既約表現の定義をしましょう.
既約表現というのは,相似変換で行列を対角化しようとしてもできない行列表現のことです.
可約表現とは,相似変換により,ブロック行列が対角上に並んだ型に変形可能な行列表現で,
ブロックには既約表現が並びます.
与えられた群の行列表現があったときに,その行列表現を相似変換により,
対角ブロックに既約表現が並ぶようにし,その行列表現の中に
どういう既約表現が何個あるか知るのを,表現の簡約と言います.
これは,既約指標の直交関係を使うと容易にできます.
この手法を用いて,ルビーの正8面体場に置かれたCrのd電子の縮退準位の分離を知りました.

0

対称性からわかること

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
数学月間SGK通信 [2018.03.13] No.210
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
こちらでは,河津桜は咲きましたしすっかり春らしくなってきました.
皆様のところは如何でしょうか.
今月27日には,数学月間勉強会の第4回を開催予定です.
対称性の話を3回して,4回目の27日には対称性の応用も話そうと思います.
今日は,ちょっとその予告編です.
■対称性からわかることは色々あります.
例として,ルビーの赤い色の原因の説明に使ってみましょう.
ルビーの赤い色は,コランダムという鉱物の結晶構造に関係があります.
コランダムはAlアルミニウムとO酸素で出来ています(Al2O3).
コランダムの構造は,大雑把に言うと
パチンコ玉(O酸素)を並べたシートを積み重ねたような構造で,
下3つ,上3つのOが作る正8面体の中心にAlがあります.
Alは周囲(下3つと上3つ)の6つのO(正8面体の頂点)と結合し,
各Oは,2つのAlと結合しています.
Alを囲むOの8面体は厳密には正8面体ではありませんが,
話を簡単にするため正8面体としておきます.
■ルビーの赤い色は,コランダムのAlの位置の2%程度を
Crクロムで置き換えたもので生じます.ついでに,
サファイアの青い色はFe鉄で置き換えたときに生じます.
■さて,ルビーの赤い色の説明に戻りましょう.
Alには3d軌道に電子がありませんが,Crには3d電子軌道に5つ,
4s軌道に1つ電子があります.
d電子軌道の5つは同じエネルギーですが,もし,正8面体の場に
d電子が置かれると,軌道のエネルギーは2種類に分離します.
そのため,光の吸収に関係のあるのは,エネルギー準位が分離したd電子で,
低いエネルギー状態を占めているd電子が,
緑~青の光を吸収し高いエネルギー状態に移ります.
結局,赤い光は吸収されないので,ルビーは赤く見えるのです.
■ここで,対称性の考え方が何処に使われているかと言えば,
5種類ある同じエネルギーのd軌道が,正8面体の場に置かれると,
どのように分離するかを予言するのに使えます.
■さて,ここから具体的な話をしなければなりません.
5つの3d軌道と,1つの4s軌道の計6つの関数を基底として
正8面体群の6次元の行列表現を作ります.あるいは,
正8面体の対称性の場ができればよいのだから,頂点6つに
単位電荷を基底とした表現行列から出発することもできます.
この表現を,正8面体群の既約表現に分解すればよいのです.
結果は,5つのd電子軌道は,3つのd軌道が属するT1uと2つのd軌道が属するEg,
それに,4s軌道の属する球対称のA1gに分解されます.
この計算は,行列表現の指標だけで行うことができますから,
理屈がわかれば案外簡単です.3月27日の数学月間勉強会でこの説明をします.
■ルビーの赤い色は,T1uからEgへd電子が遷移するときの光吸収の補色です.
T1uに属するd軌道が,Egに属するd軌道よりエネルギーが低いのは,
d軌道の電子雲が周りのO原子の電子雲を避けて納まっているからです.

0

対称性の因果律

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
数学月間SGK通信 [2018.03.06] No.209
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
前号で述べた平面のデジタル化の2つの様式について,図を掲載しておきます.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/70/18435170/img_0_m?1519856943
左図は,正6角形のタイル張りで,デジタル化された平面の対称性は正6角形と同じ.
右図は,正4角形のタイル張りで,デジタル化された平面の対称性は正4角形と同じ.
これらの例のように,デジタル化され(タイル張りされ)た平面は,もはや連続でも等方でもなくなります.
それぞれの単位タイルのより,それぞれの周期と異方性が生じているのがわかるでしょう.

■数学月間勉強会(第4回,3月29日)予告
さて,206号の復習に戻りましょう.
色々な電子デバイスは,結晶という舞台で起こる電子や光子のパフォーマンスを利用しています.
結晶という舞台で観測される現象の対称性には,それが起きた舞台=結晶の対称性が反映されているはずです.
この因果律は,Pierre Curieの原理(19894)と呼ばれます.
”特性の対称性(点群)をG_{p},結晶の対称性(点群)をG_{cryst}とすると,
G_{p}⊃G_{cryst}である”というのがこの因果律です.
原因となる場=結晶の対称性は,すべて,結果=特性に反映されなければならないが,
原因以上の対称性が結果に生じることは妨げないということです.
実際に場=舞台である結晶の対称性より,その結晶で観測される特性の対称性か高いことは,
色々な現象で観測されています.例えば,結晶で起こるX線回折像の点群G_{X}は,
結晶構造の点群G_{cryst}と対称心Iとの直積G_{X}=G_{cryst}×I(Friedel則)になり,
結晶構造に対称心がない場合でもX線回折像の点群には必ず対称心があります.
さらに,このFriedel則以上にX線回折像の対称性が上昇する特殊な結晶構造があることも知られています.
まず,現象の対称性が舞台と同じ対称性であるG_{p}=G_{cryst}として,
色々な現象の対称性分類に群論を適用してみましょう.
その道具として群を行列で表現することが必要になります.
群の表現は,分子の形対称性から,分子の内部振動モードや,
分子軌道の電子エネルギー状態などを知ることに応用できます.

数学月間勉強会(第4回,来たる3月27日14;30開催)は,群の表現を扱います
ご参加お勧めします.

0

テッセレーションとは

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
数学月間SGK通信 [2018.02.27] No.208
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2月24日,新宿ルノアールで日本数学協会の読書会があり,日本テセレーションデザイン協会の荒木義明氏が講演しました.
馴染みのない方もおられるでしょうが,普通はテッセレーションと書き,平面を分割する意味です.
コンピュータグラフィックスで立体や平面を三角網やポリゴンで表したりしますね.
あのようなメッシュを作る平面分割がテッセレーションです.
私たちは,平面のタイル張り問題といいますが,平面をタイルで埋め尽くすことを.
小学校3年生から扱うことが指導要領に載っているそうです.
敷き詰めの扱い方は,パズルと同様で親しみやすく子供たちも興味を持つでしょう.
美しい模様を作ろうとし,組み合わせの多様さや,持続的により良い価値を求めることになるそうです.
一方,このパズルをより深く追求すれば,ペンローズの非周期のタイル張りに導くことも可能です.

閑話休題.しかしながら,平面タイル張りの本質的な重要さは,周期的なタイル張りにあります.
タイル張りをやるなら,ぜひ周期性に触れてほしいと私は思います.エッシャーのタイル張り作品を見ても,
すべて周期的ではありませんか.私たちの周りには周期的な平面や空間で溢れています.
結晶の内部構造は,角砂糖を積み上げたようなブロック細工です.周期的空間は「結晶空間」とも呼ばれる所以です.
角砂糖のブロック1個が単位胞で,結晶空間は単位胞が10^20も積み重なっています.
平面の例で言ったら,正6角形を,蜂の巣のように無限に並べて,無限に広い平面を作ることができます.
このような平面は,正6角形でデジタル化された平面です.
このデジタル化された平面の対称性は,もとの正6角形1つの対称性と同じです.
同様に,正方形を並べた無限に広い平面(正方形でデジタル化された平面)の対称性は正方形の対称性と同じです.
無限に広い空間も,デジタル化するととても扱いやすくなります.
平面のタイル張りは,無限に広い平面のデジタル化に結びつくところが非常に役に立ち面白いのです.
この数学課題を美しさにつなげようとする意図は私は賛同できません.

0

教育数学研究集会の感想★

2月13-16日にRIMS研究集会「教育数学」に参加しました.4日間にわたり討論が行われ,種々の側面から考えるべきことがらが提起されました.今日の数学の暗い状況や明るい側面などさまざまです.これからよく考えてみなければなりません.
■以下は私の感想の一部ですーーー
数学教育については,エリート教育よりも底辺全体の学力アップが重要です.
ともかく,数学を勉強することは,将来何をやるにしても無駄ではない.習った数学がそのまま役に立つというのではなく,習ってから使う時が来るまでに長期間経過していることが多く,数学は役に立たないと言う人を増やしてしまう.
国語教育とは異なる日本語教育が最重要である.クリティカル・リーディングというのは,国語教育のように記述から感情を問うのではなく,内容を問うもので,そのような日本語教育が必要とされる状況である.国会まで論理が噛み合わない(故意に,はぐらかすのもある)社会になってしまった.
共通一次試験のように多数の問いに答を当てはめるスピード対応のテストではなく,考えるテストをしたいものだ.解けることと理解する(わかる)こととは違う.わかったときの大きな喜びは,誰しも経験したことがあるだろう.子供たちにその喜びを味合わせたいものて,真の学力になる.
さて,現代はsociety5.0といわれるビッグデータ・データサイエンスの時代です.対応できる新しい数学が必要です.旧来の統計数学は役にたたず,統計の背景分野の理解やセンスの養成が必要です.

0

第4回数学月間勉強会予告

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
数学月間SGK通信 [2018.02.13] No.206
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
大雪にならなければよいですね.日本海側の地域にお住いの方お大事に.
私は,今日から京都大学数理解析研究所の研究集会に参加します.
雪にならずに帰れるとよいですが,ちょっと心配です.
さて,数学月間勉強会の第4回を3月末実施の計画を進めています.確定しましたらアナウンスします.
4回目の内容は,群論の応用に関係のある群の表現の話です.
今日は,その入り口をちょと覗いて見ましょう(入口だけですので後日続編を載せます).
色々な電子デバイスは,結晶という舞台で起こる電子や光子のパフォーマンスを利用しています.
結晶という舞台で観測される色々な現象の対称性には,それが起こった舞台「結晶」の対称性が反映されているはずです.
この因果律は,Pierre Curieの原理(19894)と呼ばれます.
特性の対称性(点群)Gproperty ,結晶の対称性(点群)Gcrystal とすると,
 Gproperty⊃Gcrystal
因果律の心は,原因となる場(結晶)の対称性は,すべて結果(特性)に反映されなければならないが,
原因以上の対称性が結果に生じることは妨げないということです.実際に場(舞台)である結晶の対称性より,
その結晶で観測される特性の対称性か高いことは,色々な現象で観測されています.
例えば,結晶で起こるX線回折像の点群は,結晶構造の点群と対称心の直積になることはFriedel則として知られます.
さらに,このFriedel則以上にX線回折像の対称性が上昇する特殊な結晶構造があることも知られています.

■群の表現
有限群G={a,b,c,・・・・,z}の各元aに,複素数を成分とするn次正則行列D(a)を対応させ,
群Gの演算構造を行列の集合D={D(a),D(b),・・・,D(z)}の中で再現することを,群の表現と言います.
つまり,群Gの任意の2元a, bに対し,集合Dでも,D(ab)=D(a)D(b)が成立すれば,集合Dは群Gと準同型な群をなします.
異なるa,b∈Gに対して,D(a),D(b)∈Dも異なれば,GとDは(1:1対応)同型な群です.
異なるa,bも同じD(a)に対応させる(例えば,すべて1に対応させる)ような対応(準同型)でも,
D(ab)=D(a)D(b)が成立しますので群Gの表現です.
◆表現の基底
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/87/18415987/img_0_m?1518439242

ψ_iはf次元の列ベクトルの成分です.ψ_iに対称操作G_aが作用すると,
ψ_iの1次結合に変換されます.ここに現れるf×f次元行列Dを対称操作G_aの
行列表現と言い,列ベクトルψを表現の基底と言います.
このようにすると,群Gを行列の集合Dに対応させることができ,群Gは
行列を元とする群Dを扱う問題に変えることができます.
行列表現を,どの様にして何に使うかは,第4回勉強会のテーマですが,近いうちに続編掲載します.

0

数学月間流数学1

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
数学月間SGK通信 [2018.02.06] No.205
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
私は,来週2月13~16日の京大,数理科学研究所の研究集会に参加します.4年前の研究集会のときは大雪でした.
京都でも大雪でしたが,こちらに帰ってきた夜は東京も大雪でした.今年も雪にならなければよいのですが,
なんだか悪い予感がします.この研究集会は公開ですからどなも聴講できます.
そのとき発表する内容からの抜粋を以下に転載します(省いた部分も機会があれば披露しましょう).
抜粋はしたものの,今回は長文が続きます.お読みいただけたら幸いです.
気分転換に,今年,子供たちが作る万華鏡の映像動画をリンクしておきます https://youtu.be/v9xVnCQ64Po

■数学月間流数学から教育数学への提言
私たちの数学月間は,社会が数学を知ると同時に,数学が社会を知る双方向活動であるべきだと思います.
数学研究会や同好会であれば,数学だけを論じればよいが,数学月間では数学が働きかける場に立ち数学を見ます.
抽象数学であってもそれが使われる場(対象)と連携した数学の話ならば,数学周辺の人々の共感を得ることでしょう.
数学周辺から数学をとらえる必要があるのだが,数学者はその必要性を感じていないし,
数学周辺に付随したものに気を散らすことは好まない.しかし,歴史的にも数学の発生起源は,
科学技術や社会課題にあり,その数学概念の発見にも現場の科学者たちが寄与しています.
現在でも種々分野の実験結果や法則の中に新しい数学の萌芽があるに違いありません.
教育数学においても,数学の作用する場(対象)からの数学概念の導入が望ましいと考えます.
■今年から始めた数学月間勉強会の目指すもの
(1)米国MAMは,今年から,「数学及び統計学月間」MSAM(Maths and Statistics Awareness Month)となりました.
統計学が強調されたのです.複雑系,画像識別,ビッグデータ解析,レイティングやランキングの予測などが
主要テーマとして登場するようになった背景には,圧倒的なコンピュータ利用と人工知能AIの発展があります.
現代は,衛星からスマートフォンまで大小のソースから,データがリアルタイムで集められます.
予測解析法の革新が期待でき,数学,コンピュータ・サイエンス,データ科学,統計学には実り多い時期です.
Google, Yahoo, Amazon, Facebook, Twitter等々で,私たちのさまざまな情報が蓄積され,
携帯電話も私たちの位置情報を送信しています.嫌なことですが,スノーデンの告発で明らかになったように,
個人情報,個人メールを含むあらゆる通信情報が,米国NSAにより収集(collect it all)され,
進歩したAI技術で検索や解析ができる監視社会になりました.それはともあれ,検索,解析,予測での数学の役割は重要です.
データ解析の基本は評価関数に対する最小二乗法にあり,例えば,材料中の化学状態分布図を得るには,
単成分のスペクトルを基底に1次結合を作り,最小二乗法で混合状態のスペクトルを決定(特異値分解を使う)します.
大規模行列であるがランク落ちのため不定解となる画像の推定は,至る所スパースな解という条件下で最小二乗法に持ち込み,
少ない観測点数でサンプリング定理を超越する驚くほど高解像の解が得られています.
天文学や医用画像などで適用され,MRI撮影の高速化にも寄与しています.実際,画像は大部分の領域でだらだら変化し,
急峻な変化する箇所は少ない(スパース)ので,このような圧縮センシングや画像圧縮jpgが成功しています.
離散数学はコンピュータと相性が良いわけですが,教育数学においても重要性が高いと思います.

0

ロマネスコ★

ロマネスコの見事なフラクタル.フィボナッチでもある.これが入っている料理の写真はmossanのロール白菜でとても美味しい.
イメージ 1
イメージ 2
イメージ 3

 

 

 

 


円錐突起の数は数えてはいませんが,対数螺旋の形が見えます.各対数螺旋にそって配列する円錐突起の面積はフィボナッチ数列になっているようです.
さらに各円錐突起の中に,また,対数螺旋の構造が見えて,・・・・・・・というような入れ子構造です.このような入れ子が無限に繰り返されるとフラクタルと呼ばれます

▼対数螺旋の性質は,螺旋に沿って中心点へ進むとき,進行方向(接線)と中心を見込む角度が常に一定です.
▼1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,・・・のように続く2つの数を加えると,次に続く数になる数列がフィボナッチです

フラクタルでは,拡大しても拡大しても,いつも同じような形が見えるのです.
例えば,木の枝の伸び方とか,雲の輪郭とか,海岸線などの形です.
対数螺旋やフィボナッチ数列は,成長する形で見受けられます.
例えば,パイナップルや松ぼっくりの鱗の重なり方,向日葵の種の配列,
貝殻の成長した形などです.

0

阪大入試の物理の問題

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
数学月間SGK通信 [2018.01.23] No.203
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
たいへん雪が積もりました.皆様のところは如何でしょうか.
私が顔見知りのシジュウカラさんたちも雪の明日は餌が食べられなくて大変です.
ヒマワリの種が見えるようにしてあげましょう.
今回は,出題ミスといわれて騒がれている物理の問題です.
問題
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/37/18386837/img_0_m?1516633230

問4を解いて見ましょう.
この設問では,議論の分かれる2つのポイントがあります.
(1)音叉から発せられる音波は,y軸の負方向(壁の報告)とy軸の正の方向では,同位相か逆位相か?
(2)壁での音波の反射は固定端か自由端か?
私の解答
(1)に関しては,A-Iの問いでは,音叉の振動が前後に対称である図があり,
音源を中心に前後で同位相の音波がでると解答させます.素直に解くならば,
問4でも音源からの音波は同位相と思うべきでしょう.
しかし,現実には,逆位相の音波も出ます(両者の音波の重ね合わせもでます).
ここで,逆位相を採用するのは,へそ曲がりだと思うのですが,間違いではありませんので,
逆位相の解答も正解としなければならず,想定した正解だけではなくなりました.

(2)音波は空気が疎密疎密・・・と繰り返される縦波です.
疎の部分は分子数は少ないが分子の運動速度は大きい.定在波ができているときは,固定端が節となり,
節と節の中央が腹です.結局,腹と腹の間隔(=節と節の間隔)が半波長λ/2です.
壁の所では分子の速度はゼロになるので,定在波の節.従って,壁は固定端です.
音源では分子の運動速度は大きいので定在波の腹です.

問4の答えは,2d=(n-1/2)λ となります.
この答えは,大学が当初想定したもので,素直な解答であると思います.
正解に加えざるを得なくなった解答は,2d=nλですが,
これは,音源の前後にでる音波を逆位相とした場合に可能です.
問5の答えは,2回の実験で測定された波長は,62cm,68cmで,平均値は65cm.
用いた音叉の周波数は500Hzと与えられているので,
音速325m/s(有効数字2桁にすると330m/s)が得られます.

■有効数字は,工学で数値計算するときとても重要です.
演算に使った数値のそれぞれの有効数字(信用できる桁数)の小さい方に合わせてきまります.
だから,普通は計算に用いるすべての数値の有効数字は揃えて計算します.
カラオケバトルで,98.716などの点か平気でつきますが,いったい有効数字はどうなんだ.
0.001の差がそんな精度の意味があるのかと思います.

0