対称性からわかること

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数学月間SGK通信 [2018.03.13] No.210
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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こちらでは,河津桜は咲きましたしすっかり春らしくなってきました.
皆様のところは如何でしょうか.
今月27日には,数学月間勉強会の第4回を開催予定です.
対称性の話を3回して,4回目の27日には対称性の応用も話そうと思います.
今日は,ちょっとその予告編です.
■対称性からわかることは色々あります.
例として,ルビーの赤い色の原因の説明に使ってみましょう.
ルビーの赤い色は,コランダムという鉱物の結晶構造に関係があります.
コランダムはAlアルミニウムとO酸素で出来ています(Al2O3).
コランダムの構造は,大雑把に言うと
パチンコ玉(O酸素)を並べたシートを積み重ねたような構造で,
下3つ,上3つのOが作る正8面体の中心にAlがあります.
Alは周囲(下3つと上3つ)の6つのO(正8面体の頂点)と結合し,
各Oは,2つのAlと結合しています.
Alを囲むOの8面体は厳密には正8面体ではありませんが,
話を簡単にするため正8面体としておきます.
■ルビーの赤い色は,コランダムのAlの位置の2%程度を
Crクロムで置き換えたもので生じます.ついでに,
サファイアの青い色はFe鉄で置き換えたときに生じます.
■さて,ルビーの赤い色の説明に戻りましょう.
Alには3d軌道に電子がありませんが,Crには3d電子軌道に5つ,
4s軌道に1つ電子があります.
d電子軌道の5つは同じエネルギーですが,もし,正8面体の場に
d電子が置かれると,軌道のエネルギーは2種類に分離します.
そのため,光の吸収に関係のあるのは,エネルギー準位が分離したd電子で,
低いエネルギー状態を占めているd電子が,
緑~青の光を吸収し高いエネルギー状態に移ります.
結局,赤い光は吸収されないので,ルビーは赤く見えるのです.
■ここで,対称性の考え方が何処に使われているかと言えば,
5種類ある同じエネルギーのd軌道が,正8面体の場に置かれると,
どのように分離するかを予言するのに使えます.
■さて,ここから具体的な話をしなければなりません.
5つの3d軌道と,1つの4s軌道の計6つの関数を基底として
正8面体群の6次元の行列表現を作ります.あるいは,
正8面体の対称性の場ができればよいのだから,頂点6つに
単位電荷を基底とした表現行列から出発することもできます.
この表現を,正8面体群の既約表現に分解すればよいのです.
結果は,5つのd電子軌道は,3つのd軌道が属するT1uと2つのd軌道が属するEg,
それに,4s軌道の属する球対称のA1gに分解されます.
この計算は,行列表現の指標だけで行うことができますから,
理屈がわかれば案外簡単です.3月27日の数学月間勉強会でこの説明をします.
■ルビーの赤い色は,T1uからEgへd電子が遷移するときの光吸収の補色です.
T1uに属するd軌道が,Egに属するd軌道よりエネルギーが低いのは,
d軌道の電子雲が周りのO原子の電子雲を避けて納まっているからです.