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数学月間SGK通信 [2015.12.09] No.092
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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慌ただしい12月ですが,皆さまお風邪など召しませんように.私も危ない危ない.
今回は,4次元正多面体を理解するのに避けて通れないシュレーフリ記号についてです.
シュレーフリ(1814-1895)は,スイスの幾何学者.4次元の正多面体(ポリトープ:正多胞体)
が6つであることを示した人です.
ちょっと話を戻して,3次元の正多面体とは,
(1)すべての面が同一の正多角形でできている.
(2)すべての頂点のまわりの状態は同一である.
を満たすもので,特に凸正多面体をプラトン正多面体と言いました.
プラトンの正多面体は5つであることはご存知でしょう.
注)5つの正多面体がプラトン多面体と呼ばれるのは,プラトンが著作に,ロクリス
(ギリシャの地名)のティマイオス(哲学者名)の宇宙観として“巨大な正12面体で囲まれている宇宙と,
四元素の正多面体”について述べているからです.この時代の四元素とは:
火→正4面体, 土→正6面体, 空気→正8面体, 水→正20面体.
正多面体が5種類であることは,プラトン以前のギリシャですでに知られていました.
ユークリッドの「原論」にも証明が載っています.
4次元の正多面体のことを正多胞体と呼ぶのが正しいのですが,
これは4次元の正多面体の面は,3次元の正多面体(プラトンの正多面体)なので,
面と言わずに胞Cellと呼ぶべきなのです.
さて,今回はこのようなものを記述するシュレーフリの記号についてです.
このような記号は面倒なようですが,この記号を理解すると多面体の性質のほとんどを理解したことになります.
シュレーフリの記号は本質をとらえた非常に優れた表記法であります.
■3次元の正多面体のシュレーフリ記号
{面の形,頂点に集まる面の数}
正4角形の面が頂点で3つ集まる図形を{4,3}と書きます.これは立方体ですね.
正3角形の面が頂点で4つ集まる図形{3,4}は? これは正8面体です.
{4,3}と{3,4}の図形は互いに双対の関係にあります.つまり,
一方の図形の面→頂点,頂点→面に置き換えると他方の図形が得られます.
互いに双対な図形の対称性は全く同じです.
■ユークリッド平面のタイル張り
{4,4}なら,正方形による無限平面のタイル張り,{3,6}なら,正3角形によるタイル張りになります.
■半正多面体を記述するシュレーフリの記号
半正多面体というのは,複数の正多角形で作られる多面体で
どの頂点のまわりの状況も同じものです.半正多面体を記述する記号は,
頂点のまわりを1周するとき出会う正多角形を列挙します.
切頂正4面体(正4面体のとがった頂点を切断し,残りの面が正6角形になるようにする)の例では
[3,6,6]となります.シュレーフリ記号が,正多面体に関するものか,
半正多面体に関するものかの混乱を避けるため,私は前者を{},後者を[]と違うカッコを使い区別しています.
■4次元の正多胞体
正5胞体,正8胞体,正16胞体,正24胞体,正120胞体,正600胞体の6つです.
正5胞体は正4面体が5つでできています.
4次元正胞体のシュレ―フリの記号は{胞の形,1辺が共有する胞数}を指定します.
正5胞体は,正4面体が各辺の周りに3個集まっている図形ですので{ { 3,3},3}={3,3,3},
正16胞体は{3,3,4},正600胞体は{3,3,5}というように,全く自然に3次元から延長できます.
■最後に3つの幾何平面(2次元)のタイル張りについてまとめます.
このような正n多角形によるタイル張りを,平面の正則分割{n,k}といいます.
赤い色は楕円幾平面,緑色はユークリッド幾何平面,青色は双極幾何平面の出来事です
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/32/17152332/img_0_m?1449586423
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数学月間SGK通信 [2015.12.01] No.091
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■ゼロとアラビア数字
最古の記数法は五進法だそうです.5をひとまとめにしたものを「1クワイン」といいました.
バビロニアには60進法,20進法を使ったところも,12進法を使った場所もありました.「1ダース」です.
12は約数が多いので10より便利なところがあります.けれども,大勢は10進法に落ち着きました.
われわれが指を折って数えるところから10進法が各所で使われるようになったと推測されています.
10進法での記数法には0と1~9までの数字が必要です.これからアラビア数字の起源に思いを馳せるわけですが,
0と1~9までの数に対応する何らかの記号があり,それ以前に十進法が確立していなければなりません.
参考書:「アラビア数学奇譚」マオバ・タハン(越智典子訳)白揚社
■イスラムの数学
フワーリズミー(780頃~850頃)は、アッバース朝のバクダッドで活躍しアラビアの数学を確立した代数学の創始者です.
彼の時代のバクダッドをのぞいてみましょう.
ゼロの役割には,位取りの役割と4則演算の対象となる数の役割があります.
まず位取りに関していえば,この時代,大勢は和算もイスラムも10進法でありましたから,
数を表示するには,・・・・,十万,万,千,百,十,一,の位の場所に,0~9に相当する数字を書いたり,
マッチの軸木のような算木を置いたり,
そろばんでは玉で表示したりします.どんな記号を使っても似たようなもので,
ゼロの記号がないときはその位は空にしました.アラビア数字に関しては,エジプト,インドから
伝えられたゼロの概念がイスラムで発展しヨーロッパに伝わり完成されたという流れでしょう.
どのような数字でもかまいませんが,0があると空を位取りの場所に配置するよりも明瞭に数字を表示できます.
これが位を明瞭にするので,十,百,千,万,十万,百万,千万,億,...と際限なく単位が必要になることが避けられます.
これはイスラム数学の画期的な成果でしょう.
次に,4則演算の対象としてのゼロについてです.分数全体の集合(=有理数)の中で4則演算を自由に行えます.
ただし,ゼロで割ることは禁じられていますのでご注意ください.
ギリシャでは幾何学が盛んでしたが,イスラムの数学ではアラビア数字の記数法を用いて,代数や方程式が進みました.
特に,三角関数が生まれて発展しました.われわれが高校で学んだ加法定理や倍角の公式やそのほか様々な三角関数の公式が証明され,本が出版され,三角関数の数表も発行されました
■平和の都,バクダッド
1100年前のバクダッドは人口100万人の世界最大の都市でした.
その賑わいはまさにアラビアンナイトの世界です.イスラムの教えのもとに
“平和の都”と呼ばれ,アッパース朝宮殿は建築工学,幾何学の粋を集めます.
イスラム帝国は,東ローマ帝国と中国(唐王朝)の間に位置し交易に便利です.
コーランは“神は商売を許したもうた”と商業を奨励し,売買の証人たる仲介人がいて契約と公正な取引が行われたそうです.
最古の小切手(エジプトの商人が振り出した)も発見されています.
チグリス川とユーフラテス川の間に円城都市(直径2.3km)が建設され,
これを中心とする見事な中央集権行政システムが出来上がりました.
バクダッドに集まる4本の街道は東西南北に延びヨーロッパはスエーデンまで交流があったということです.
(バイキングも正式に貿易しイスラム銀貨が流通しました)
■科学や医学,都市の発展
8世紀に成立したアッバース朝では,カリフや宮廷のワズィールたちが保護をうけ,第7代カリフ,
マアムーンが創設した研究施設バイト・アル=ヒクマ(智恵の館)には多くの科学者が集まり,
ギリシャ科学のアラビア語への翻訳が進めらました.マアムーンに仕えた科学者・数学者のひとりが,
フワーリズミー(780頃~850頃)でした.
科学では,古代エジプトに起源を持つ錬金術の実験が繰り返され,元素記号が生まれ,
文学では,アラビアン=ナイトが生まれ,唐で発明された製紙法もキルギスの戦いの際に伝わりました.
バクダッドには100軒を越す書店があったそうです.
百花繚乱.当時のバグダードのにぎわい言ったらすごい.見たかったですね.
イブン・シーナは最先端医学の医学典範を著し,世界初の総合病院がバクダッドに作られました.
病院は寄進され,その運営費も,周辺の市場の売り上げ寄付で行うワクフという相互扶助の制度が,公共施設を支えたそうです.
円城都市を中心に,モスク3万,多くの市場と市場には100店を超す店があったそうです.
500年間繁栄したイスラム帝国は,1万2千のモンゴル軍により滅亡しました.
チグリス川は血で染まり,本のインクで青く染まったそうです.
アラビア語に訳されたアリストテレスなどギリシャの古典や発展したイスラムの科学は,
その後ヨーロッパに伝わりラテン語に翻訳されルネッサンスが花開きます.
参考:
ドキュメンタリー 文明の道「第06集 バグダッド 大いなる知恵の都」
https://www.youtube.com/watch?v=ehEuTnLfOME&feature=share
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数学月間SGK通信 [2015.11.24] No.090
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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秋らしい日になりましたが,今年も慌ただしく過ぎて行きます.
皆様お変わりありませんか.
前号で双曲幾何平面(ポアンカレ円盤モデル)の正則分割(タイル張り)の話をしました.
そのような光景を万華鏡で作ってみることにします.
■コクセターの万華鏡
まず球表面(楕円幾何平面)の話から復習します.
球表面が球面正p多角形タイルで{p,q}のように張りつめられているとき,
1つのタイルの中を2p個の直角3角形に分割できます.
この直角3角形を鏡室とする万華鏡は“メビウスの万華鏡”です.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568613/51/17096451/img_1_m?1447147230
直角3角形の内角は,それぞれ π/p,π/q,π/2で,この直角3角形を(p,q,2)と書きます.
ポアンカレ円盤の双曲幾何平面でも,双曲正p多角形で{p,q}のように張りつめられているとき,
1つのタイルを2p個の直角3角形に分割できます.
この直角3角形を鏡室とする万華鏡は“コクセターの万華鏡”です.
双曲面の{6,4}正則分割の場合の直角3角形(6,4,2)(赤い3角形)を図(左)に,
対応する“コクセターの万華鏡”の映像を図(右)に示します.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568613/15/17104115/img_0_m?1447459606
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568613/15/17104115/img_1_m?1447459606
この3角形の2辺は平面鏡,残りの1辺は円盤のフ チに直交する円弧鏡よりなります.
しかしながら,この円弧鏡は,数学的には反転円として定義できるのですが,
現実の円柱鏡の反射には収差があるので,数学 の定義のようにはいきません.
従って,あまり鮮明な万華鏡映像にはなりません.
■(7,3,2)3角形によるコクセターの万華鏡
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568613/87/17106487/img_0_m?1447506664
(1){7,3}の正7角形タイル張り(赤) (2){3,7}の正3角形タイル張り(緑) (3)菱形タイル張り(青)
3枚鏡(直線鏡2枚,円弧鏡1枚)の万華鏡により
ポアンカレ円盤内の双曲平面は市松模様に塗られますが,
正7角形のタイル張り,正3角形のタイル張り,菱形タイル張り
などを見ることができます.
話はこの先,エッシャーの作品「極限としての円」シリーズに続きます.
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数学月間SGK通信 [2015.11.17] No.089
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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非ユークリッド幾何の双曲幾何平面を訪ねて見ようと思います.
エッシャーの作品で「極限としての円」シリーズを見たことがおありでしょうか.
円盤の世界で周辺に行くほど,どんどん小さくなって行く構図です.
この作品は双曲幾何のポアンカレ円盤モデルを使い,
円盤内の正則分割(コクセターの万華鏡)が基礎になっています.
正多角形タイルによるタイル張り(正則分割という)は,
双曲幾何平面の場合は無限にあります.
例として,{6,4}と{5,4}を掲載しますので,まずはご鑑賞ください.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568613/02/17100202/img_0_m?1447229525
(注)
ポアンカレの双曲幾何のモデルは,円盤の中にすべての宇宙があります.
宇宙の果て(円盤のフチ)に近づけば近づくほど自分もどんどん小さくなるので
いつまでたっても宇宙の果てに到達できません(無限の時間がかかります).
{6,4}は正6角形による双曲幾何平面の正則分割で,各頂点に4個の正6角形が集まっています.
円盤の中は双曲幾何の世界ですから,この世界の直線は円盤のフチに直交する円弧です.
正6角形の辺はすべて直線です.円盤の中に描かれた円弧は皆,縁と直交しており,
この世界ではすべて直線です.円盤の中の正6辺形はすべて同じ大きさです.
同様に,{5,4}の図は正5角形による双曲幾何平面の正則分割の例です.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568613/02/17100202/img_1_m?1447686193
例えば,赤い円弧で分けられた世界は左が大きく右が小さいようですが,
この円盤内の世界では同じ広さです.どちらの世界も無限に広い.
円弧は左右の世界を写し合う鏡です.鏡像は色が変るように市松模様に塗り分けました.
■エッシャーのトリック(引用先:コクセター論文)
M.C.エッシャーの「極限としての円」Circle limit IIIを鑑賞しましょう(図左).
この円盤内は双曲幾何の世界(ポアンカレの円盤モデル)です.
この円盤内を旅する人は,円の縁(世界の果て)に近づくほど時間がかかる.
つまり,[世界の果てに到達するには無限の時間がかかる]ようになっています.
この世界で定義される直線(最短時間で移動できる経路)は,円盤世界の縁で直交する円弧です.
エッシャー作品(図(左))の円盤は,魚の流れを示す白い線で分割された双曲面の
[4,3,4,3,4,3]分割のように見えますが,実は図(中)に示すような,黒い線で分割した{8,3}正則分割です.
白い線は,双曲幾何の円盤世界の縁に80°で交差し,直線ではないのです.
図(中)の正8角形の黒い線がこの円盤世界の直線であることは,図(中)に書き込んだ赤い円弧
(いずれも円盤縁で直交する円弧)を見れば理解できるでしょう.
双曲平面の正8角形タイルは,双曲平面の直線(円盤の縁で直交する円弧)で囲まれています.
タイルの大きさは円盤の縁に行くほど小さく見えますが,円盤内は無限に広い双曲幾何平面なのですべて同じ大きさです.
1つのタイルの中には4匹の魚がおり中心に4回軸があります.
正8角形の頂点には3回軸があり,魚の白い流れは3回軸の場所に集まっています.
エッシャーは{8,3}分割に用いる直線をわざと隠し,白い流れが分割であるようなトリックを見せます.
もちろん,白い流れの円弧(直線ではない)に関して鏡映対称はありません.
■直角3角形(7,3,2) によるコクセターの万華鏡
正7角形のタイルは,直角3角形(7,3,2)[内角の組(π/7,π/3,π/2)の3角形のこと]の14個に分割できる.
直角3角形(7,3,2)を鏡室とする万華鏡を,コクセター万華鏡と呼びます.
(1) {7,3}の正7角形タイル(赤)張り. (2) (1)の双対である{3,7}の正3角形タイル(緑)張り.(3) 菱形タイル(青)張り.
3枚鏡(直線鏡2枚,円弧鏡1枚)のコクセター万華鏡により,
ポアンカレ円盤内の双曲平面は市松模様に塗られます.
生じるタイル張りは,正7角形のタイル張り,正3角形のタイル張り,菱形タイル張り,に見えます.
■エッシャー作品の生まれるまで
コクセター エッシャー
直角3角形(6,4,2) 直線魚のモチーフ 「極限としての円I」
双曲面の{6,4}分割を細分 Circle Limit I
コクセターとエッシャーはオランダで開催された1954年の国際数学者会議で出会いました.
1958年にコクセターはこの分割を掲載した論文*をエッシャーに送り,
これがエッシャーの「極限としての円」の作品群を生むことになります.
*By S.H.M.Coxeter
Crystal Symmetry and ItsGeneralizations (published in the Transactions of the RoyalSociety of Canada in 1957).
続く⇒ 極限としての円Ⅲ
■メビウスの万華鏡とコクセターの万華鏡
■楕円幾何平面の正則タイル張り
球表面が球面正p多角形タイルで{p,q}のように張りつめられているとき,1つのタイルの中を2p個の直角3角形に分割できます.この直角3角形を鏡室とする万華鏡は“メビウスの万華鏡”と名付けます.このときの直角3角形(鏡室)の内角は,それぞれ π/p,π/q,π/2で,この直角3角形を(p,q,2)と表記します.
■双曲幾何平面の正則タイル張り
ポアンカレ円盤の双曲幾何平面でも,双曲正p多角形で{p,q}のように張りつめられているとき,1つのタイルを2p個の直角3角形に分割できます.この直角3角形を鏡室とする万華鏡は“コクセターの万華鏡”と名付けます.
双曲面の{6,4}正則分割の場合の直角3角形(6,4,2)(赤い3角形)を図(左)に,対応する“コクセターの万華鏡”の映像を図(右)に示します.
■双曲面{6,4}分割の場合の“コクセターの万華鏡”を作る
双極面{6,4}分割の映像を,3角形の万華鏡で作るには,双曲面直角3角形(6,4,2)を用います.この3角形の2辺は平面鏡,残りの1辺は円盤のフチに直交する円弧鏡よりなります.この円弧鏡は,数学的には反転円として定義できるのですが,現実の円柱鏡の反射には収差があるので,数学の定義のように鮮明な万華鏡映像を作るのは困難です.
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数学月間SGK通信 [2015.11.10] No.088
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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今日は楕円幾何の世界である球表面のタイル張りを万華鏡で見て見ましょう.
シュレフリーの記号{p,q}は正p多角形が頂点でq個集まってできる正多面体を表します.
例えば,{5,3}は正5角形が各頂点で3つ集まっている正多面体(正12面体)を表します.
球面{p,q}多面体の面は球面正p-多角形です.
1つの球面正p-多角形タイルを2p個の球面3角形(p,q,2)に分割しましょう.
図は球面{5,3}多面体の例で,12個の面はすべて球面正5角形(黄色のタイル)から成ります.
1つの面は10個の球面三角形(5,3,2)(赤色タイル)に分割できます.
(注)3角形(p,q,2)とは,内角が(π/p,π/q,π/2)の直角3角形のことです.
球面幾何の世界では,直線は大円.球面正p-角形や球面3角形の辺はすべてこの世界の直線ですから,
大円です.球面三角形(5,3,2)の内角は,(π/5,π/3.π/2)で,内角の和は,(31/30)π>π とπを越しますが
楕円幾何の世界だからです(ユークリッド幾何の世界では3角形の内角の和はπ).
ユークリッド平面では{5,3}は隙間ができタイル張りにならないが,
球表面ではタイル張りができ,これをユークリッド幾何の世界で見ると立体になります.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568613/51/17096451/img_1_m?1447081624
球面3角形(p,q,2)の各辺を中心から見込む平面を鏡として,3枚鏡(△OHK,△OKA,△OAH)の万華鏡を作り,
球面3角形(p,q,2)の外側から覗きこむと,球面{p,q}多面体が見えます.
以下に{5,3}多面体用の万華鏡の作り方を掲載します.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568613/51/17096451/img_3_m?1447081624
(注)青色の3枚の3角形鏡(ただし,頂点Oの周りは半径2.5の円弧を切り取る)を組み立てる.図中の数字は長さ.
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数学月間SGK通信 [2015.11.03] No.087
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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秋が深まりました.皆様お変わりありませんか.一寸,万華鏡の数学の話をしましょう.
万華鏡映像の美しさが我々の心をとらえるのは,空間の完全な対称性だけではありません.
時間の流れとともに映し出される「千変万化だが一度きり」の映像に,
生命を感じるからでもありましょう.
ワンドの中を降り行くすべてのガラス屑の運命は,運動方程式ですべて定まっているとはいえ,
ときおりカオスの起こる期待で目が離せません.
万華鏡は,対称性(秩序)とカオス(乱れ)の混在が魅力なのです.そして,
合わせ鏡が生みだす完全な秩序は,無限に繰り返される“結晶世界”に入り込んだようでもあります.
万華鏡 “カレイドスコープ”は,物理学者ブリュースター卿の特許(1817)[発明は1816年]
が起源です.特許には,2枚の合わせ鏡の交差角θ°が,360°を
偶数で割り切る角度にするということが書かれています.
今日はこの数学についてさらに考えて見ましょう.
■平面群と市松模様
本来の市松模様はチェス盤のように正方格子が交互に塗り分けられたものですが,
3角格子などの場合でも交互に塗り分けられていれば市松模様と呼ぶことにします.
Fig1 http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/556602/27/17073327/img_7_m?1446474652
これらは皆,市松模様と呼ぶことになります.
万華鏡は鏡(位数2の対称操作)の組み合わせだけで作られます.
1回鏡で反射すると鏡像の向きは裏返っています.しかし,2回反射すると
鏡像の鏡像になり始めの向きと同じになります.
市松模様の黒-白は,物体のある鏡室タイル(グレイ色)と同じ向き="正置像”を黒;
“裏返像”を白に塗り分けています.
■正方形の鏡室の万華鏡がつくる市松模様
Fig2 http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/556602/27/17073327/img_8_m?1446474652
図(1)万華鏡の鏡室タイルをグレイの正方形とします.
鏡室のフチの赤線は鏡(4枚)です.
図(2)1回の反射で4個のタイルの裏返像(黄色)が生まれます.
図(3)2回の反射で,その外側に8個のタイルの正置像(緑色)が生まれます.
図(4)3回の反射で,その外側に12個のタイルの裏返像(黄色)が生まれます.
このようにして,鏡室タイルはその鏡像を全平面に広げて行き,
平面を市松模様で塗りつぶします.
■3角形の鏡室の万華鏡は市松模様をつくるか?
Fig3 http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/556602/27/17073327/img_9_m?1446474652
1.左図の鏡室3角形ABCは90°30°60°の3角形です.
各頂点で3角形が偶数個集まっています.3つの頂点のまわりはどれも市松模様ができており,
全平面が市松模様であることがわかります.
2.右図の鏡室3角形ABCは45°60°75°の3角形で,
AおよびBのまわりは3角形が偶数個集まりますが,Cのまわりでは偶数個あつまりません.
そのため,全平面では市松模様が出来ないことがわかります.
3.鏡映操作の集合が平面群を作っている場合は,全平面が市松模様になりますが,
逆に,市松模様が何処かで乱れているなら,その鏡の組み合わせは平面群が作れない場合です.
そのような万華鏡のもう一つの例を(Fig4)に示します.
Fig4 http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/556602/27/17073327/img_2_m?1446474652
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数学月間SGK通信 [2015.10.26] No.086
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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ユークリッド幾何学と非ユークリッド幾何学
色々な幾何空間があります.
大きく分けて,ユークリッド幾何空間と非ユークリッド幾何空間です.
非ユークリッド幾何空間には,楕円幾何,双曲幾何の支配する幾何空間があります.
我々の常識が通用するユークリッド幾何の世界では,
“直線l外の1点をA通り,その直線に平行な直線“は,唯一本だけ引けます.
平行線が1本も引けない世界や,無数に引ける世界とはどんな世界でしょうか?
これら3種類の幾何空間を,平面を例にとり比較します.
(1)ユークリッド幾何平面 (2)楕円幾何平面 (3)双極幾何平面
例⇒ 我々の常識の世界 球の表面 ポアンカレの円盤モデル
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/81/17061581/img_0?1445817357
それぞれの空間で,“直線の定義を変えれば”,
そのようなことが起こる世界があることを納得できるでしょう.
2点間を結ぶ直線とは,その世界で2点間の距離を最小とするものです.
(1)常識の通用するユークリッド幾何平面
2点間の距離が最少なのは我々の知っている直線です.
(2)球の表面は楕円幾何平面の例
球表面の世界では,大円(球中心を通る平面で切った球の表面)が直線です.
地球自体は3次元ユークリッド空間の物体ですが,表面だけなら楕円幾何平面です.
地球上の2点間の距離が最小のものは大圏コースと呼ばれますが,
これは地表の大円上の線分のことです.
異なる2つの大円は必ず2点(直径の両端)で交わるので,
直線外の1点を通る平行線はありません.また,地球儀の
緯線のようなもの(小円)は大円でないのでこの世界では直線になりません.
(3)双曲幾何平面の例(ポアンカレ円盤モデル)
双曲幾何の世界のポアンカレ円盤モデルでは,
円盤のフチに直交する円弧を,直線と定義します.
この世界では,ある直線に対する直線外の1点を通る平行線は無数に引けます.
円盤モデルの世界では,円盤のフチに近づくほど見かけの距離はどんどん縮むので,
フチの近傍は実際は無限の距離があり,永久に地平線に到達できません.
確かにこのような円弧が最短距離です.
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数学月間SGK通信 [2015.10.20] No.085
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■平行4辺形や平行6辺形は,平面を敷き詰めることができます.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/41/17047041/img_3_m?1445036597
平行6辺形とはこんな形です.
向かい合った辺(同じ色)を繋ぎ合わせて,平面を埋められます.
このような形のタイルを土台に向い合った辺を同じように変形し図案のモチーフにすると,
エッシャーのような繰り返す絵が作れます.
私はハロウィーン魔女を作ろうとしましたが未完成です.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/41/17047041/img_4_m?1445042284
皆様完成させてください.
■任意の4辺形は,180°回転したものと組み合わせると平行6辺形になります.
下図の4種の組み合わせが可能ですが,どの平行6辺形のタイルを用いても
同じ敷き詰めになります.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/41/17047041/img_1_m?1445036597
■任意の3角形は,180°回転したものと組み合わせると
平行4辺形や平行6辺形になるので,平面を敷き詰めることができます.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/41/17047041/img_2_m?1445036597
Q. 平行8辺形以上は平面を敷き詰められないのは何故でしょうか
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数学月間SGK通信 [2015.10.13] No.084
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■空間のデジタル化
最近の交通信号は,発光ダイオードのドットが円盤内に配置されています.
本来,円盤内は連続平面ですが,ドットの配置で表現される円盤は,
離散化(あるいはデジタル化)されています.
デジタル化された世界では,ドットを1つ2つと数えることができます.
ドットを十分小さくすれば,ドットはいくらでもこの世界に入ります.
このような世界を,“可算無限”の世界といいます.一方,連続平面は,
点を数えることすらできない“非可算無限”の世界です.
(例)整数や有理数(分数で書ける数)は可算無限個,
無理数(分数では書けない数)は非可算無限個です
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/44/17032344/img_0_m?1444646310
■無限に続く繰り返し
周期的な空間-結晶世界
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/44/17032344/img_1_m?1444646310
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/44/17032344/img_2_m?1444646310
黒と白のタイルでできる市松模様が無限に広がっています.
もし,白いタイルのどれか一つの上にいたとしても,
市松模様の世界は無限に続いているのですから,
そこがいつも世界の真ん中に思えます.
つまり,どの白いタイルもすべて同価です.
この市松模様の世界の周期がわかりますか? 図には,
白いタイルから,隣の同価な白いタイルへの移動を示すベクトル(矢印)
が記入されています.
2次元の世界ですから2つの独立なベクトル a, bが基本周期になります.
白いタイルを基本周期a, bを繰り返して平行移動することを並進といいます.
(注)na+mbは,a方向にn個,b方向にm個の移動(並進)の意味です.
na+mb(整数n,m)の点(格子点)はすべて同価な点で,
これらの集合を格子といいます.
格子点の集合(格子,無限集合)は加法で閉じており
群という代数系になります(これを並進群といいます).
上図の2つの市松模様は全く同じものですが,見渡す方向でずいぶん景色が違います.
このような性質を異方性と言います.
格子点に配置して,重ならず隙が出来ずに平面を張りつめるとき単位となる
ブロックタイル(単位胞)の形はどのようなものでしょうか?
これには色々なものを採用できますが,例えば,横並びの黒白ペアのタイル,
あるいは,a, bで囲まれた平行4辺形などがあります(上図の右側に図示).
その面積はどちらも同じです.
無限に続く周期的な平面は,一つのブロックタイル(単位胞)で平面を張りつめる
こと(デジタル化)ができ,扱うのが簡単です.これに比べて,
周期的でない平面はアナログ平面で簡単化できません.つまり
一様な(平面のどの場所も同価であるような)デジタル化ができません.
デジタル化された信号のような円盤内も,一様でもなければ周期的でもありません.
周期的なデジタル化された空間は“結晶空間”と呼ばれ,
その性質は“格子”で抽象的に表現されます.
■繰り返し模様の観賞法
今年の数学月間懇話会(7/22)で,私は以下の話をしました:
周期的な空間(繰り返し模様)の対称性は有限図形の対称性にくらべて,
なじみのない人が多いようです.
これは,教科書で扱う対称性が有限図形だけであることによります.
しかし,周期的空間=“結晶空間”は,最も基本的なデジタル化された空間で重要です.
デジタル画像や視細胞の配列した網膜など,自然界のほとんどが
デジタル化された平面です.特に,無限に広がる平面を,
一様で周期的にデジタル化した-“結晶空間”-は特に重要です.
結晶の内部構造は,単位となる平行6面体(単位胞)が,
空間を隙間なく埋め尽くしています.
このような例として,平面上の繰り返し模様の数学に親しみましょう.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/68/17037468/img_0_m?1444646276
数学の言葉でいうと,繰り返し模様の対称性(空間群)と
有限図形(単位胞)の対称性(点群)との関係は,
「繰り返しの規則(並進群)を核(法)として,空間群は点群に準同型」
ということになります.あるいは,
「並進群を点群で拡大して空間群が得られる」ということもできます.
準同型という概念の心は,集合のもつ特徴を見つけるのに,
集合の要素の持つある特徴を同値と見做せれば(小異に目をつぶれば),
別の特徴が顕著に見えてくるという事.
日常生活の色々な場面でこの考え方が使えます.
「小異を捨てて大同に就く」といいますが,
「小異を同値と見做すなら,別の違いが見えてくる」
そして,「別の違いがない場合は,大同に就ける」という事でしょう.
平面のデジタル化の一つに,1種類の正多角形で平面を分割すること(正則分割)
がありますが,非ユークリッド平面の正則分割タイル張りに関しても言及しました.
■空間のデジタル化
最近の交通信号は,発光ダイオードのドットが円盤内に配置されています.
本来,円盤内は連続平面ですが,ドットの配置で表現される円盤は,
離散化(あるいはデジタル化)されています.
デジタル化された世界では,ドットを1つ2つと数えることができます.
ドットを十分小さくすれば,ドットはいくらでもこの世界に入ります.
このような世界を,“可算無限”の世界といいます.一方,連続平面は,
点を数えることすらできない“非可算無限”の世界です.
(例)整数や有理数(分数で書ける数)は可算無限個,
無理数(分数では書けない数)は非可算無限個です
■無限に続く繰り返し
周期的な空間-結晶世界
黒と白のタイルでできる市松模様が無限に広がっています.
もし,白いタイルのどれか一つの上にいたとしても,
市松模様の世界は無限に続いているのですから,
そこがいつも世界の真ん中に思えます.
つまり,どの白いタイルもすべて同価です.
この市松模様の世界の周期がわかりますか? 図には,
白いタイルから,隣の同価な白いタイルへの移動を示すベクトル(矢印)
が記入されています.
2次元の世界ですから2つの独立なベクトル a, bが基本周期になります.
白いタイルを基本周期a, bを繰り返して平行移動することを並進といいます.
(注)na+mbは,a方向にn個,b方向にm個の移動(並進)の意味です.
na+mb(整数n,m)の点(格子点)はすべて同価な点で,
これらの集合を格子といいます.
格子点の集合(格子,無限集合)は加法で閉じており
群という代数系になります(これを並進群といいます).
上図の2つの市松模様は全く同じものですが,見渡す方向でずいぶん景色が違います.
このような性質を異方性と言います.
格子点に配置して,重ならず隙が出来ずに平面を張りつめるとき単位となる
ブロックタイル(単位胞)の形はどのようなものでしょうか?
これには色々なものを採用できますが,例えば,横並びの黒白ペアのタイル,
あるいは,a, bで囲まれた平行4辺形などがあります(上図の右側に図示).
その面積はどちらも同じです.
無限に続く周期的な平面は,一つのブロックタイル(単位胞)で平面を張りつめる
こと(デジタル化)ができ,扱うのが簡単です.これに比べて,
周期的でない平面はアナログ平面で簡単化できません.つまり
一様な(平面のどの場所も同価であるような)デジタル化ができません.
デジタル化された信号のような円盤内も,一様でもなければ周期的でもありません.
周期的なデジタル化された空間は“結晶空間”と呼ばれ,
その性質は“格子”で抽象的に表現されます.
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数学月間SGK通信 [2015.10.06] No.083
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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メルマガ09月29日号は休刊しました.ご了承ください.
実は,28日の朝6時50分に母は息を引き取りました.
救急車で入院した時は寒い冬で,病院の庭の梅の蕾も硬くこの梅が咲くころには退院しているだろうと
漠然と思ったものです.その梅が咲き,桜が咲き,つつじが咲き,暑い夏を越し,
帰るときには金木犀の香りが満ちていました.259日の病院生活を,ベットの上だけで過ごしました.
百歳の誕生日まで病気知らずで,寝込んだことは一度もありません.
いつも「大丈夫よ」「有難う」と言っていた母でした.
でも今回は,「いつ帰れるのか.さあ帰ろうか」と言ったことが一度ありました.
しかし,その後すぐ点滴づけになり帰る場所がなくなりました.
それでも負けずにこの長期間を頑張りぬきました.
最期の夜も最後の最後まで頑張りましたが朝に遂に力尽きました.スーパームーンの日でした.
葬儀は4,5日に,幡ヶ谷の代々幡斎場で,香典供物は辞退して母を知るご近所と身近な親戚で済ませました.
幡ヶ谷は,母と父が新所帯を持ち,つかの間の母の楽しい時期であった思い出の地です.
敗戦まじか,私はその家で生まれました.父がフィリピン・ボルネオの戦地にいるときです.
母は一人で,赤ん坊の私を押し入れで布団を積み上げ高射砲の破片から守ったのです.
幡ヶ谷の家は空襲で皆焼けてしまいました.父はジャングルでトカゲを食べたりマラリアになったり
破片で背中を負傷したり捕虜で働かされたりしましたが,終戦後3年たってから無事帰国できました.
母と私は父と再会し,暮らし始めた家は幡ヶ谷から1kmほど離れた所です.
ここには現在まで70年近く住んでおります.葬儀には母を知るご近所の方々が参列されましたし,
母方と父方の従兄弟たちも久しぶりに会しましたので,楽しい一時になりました.
ご報告とお詫びまで.次号から数学月間の話題にもどります.
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数学月間SGK通信 [2015.09.22] No.082
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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戦争法案が多くの世論を無視して強引に可決してしまいました.
本来,違憲である法案が国会に出されること自体あり得ないことですし,
国会の議論でもまともな答弁がなされていないことは誰の目にも明らかです.
政府の宣伝機関になったNHK始め大手メディアの罪はたいへんに重い.
さて,翁長沖縄県知事の国連人権理事会で演説に期待しよう.大手メディアの世論操作に負けてはならない.
イギリスで投獄を覚悟してインドの独立を主張したガンジーの姿が重なって見えます.
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
戦時中の“科学朝日(1944年3月号)”に,「特集・戦争と数学」があります.
この特集号には,多くの著名な数学者が寄稿しており大変興味深い.
その中で,巻頭の弥永昌吉先生の論説が群を抜いており,言論も不自由であったろう戦時下に,
実に立派な意見を展開しておられます.
さらに,数学月間の考え方と同じ所も見受けられ我が意を得たりの感があります.
まず,弥永論説(対話形式)の概略を紹介します.
1年くらい前から始まった戦時下の米国の数学動員(米数学協会の記事の記憶)が紹介されます.
遅ればせながら日本でもこのような動きが始まっています.
米国の数学動員
委員長(モース)の下に6つの委員会がある
1.工業技術,2.航空力学,3.弾道学(ノイマン),4.確率統計,5.計算法,6.暗号解読
1は数学と工業の連携強化,2,3は微分方程式,高射砲の照準や電波兵器の数学,4は大量生産管理,5は計算機.
ーーーー以下抜粋-----
■数学は魔術ではなく,合理的なものの中でも最も合理的なものですから,使い方も合理的でなくてはなりません.
この際,数学者の側で,数学を使えば何も彼も容易にできるというようなことを言いふらしたり,
まだ十分の研究を積まないのに現場の人たちのやり方が悪いと言ったりするようなことは一番いけないと思います.
ーーーーーーー
■大和魂が第一でも,それだけでは戦争に勝てないことがだんだんわかってきて,科学研究の動員が必要になった.
第一次大戦では「化学」,第二次大戦では「物理」→「数学」が必要だ.
米の他,ソ連,独,伊でも同様な数学動員の状況がある.
ソ連は,コルモゴロフ(確率の基礎)飛行機の乱流,ヴィノグラドフ(整数論)などがスターリン科学賞を受賞した.
ドイツからは,開所したばかりの米プリンストン研究所などに科学者が流出しており,
米国に最も豊富な人材が集まっている.
ーーーーーーー
■学問としてお留守にならず,その品位を下げぬような動員の仕方をすることが,戦争に勝つ道であると信じる.
日本では,それぞれの分野が功を急いだせいかも知れませんが,
学問が専門化しすぎて,それぞれ孤立化する危険がある.
この機会に横の結びつきが強化されるのは良いことだ.お互いに学問の理解を深め,
基礎理論の整備進展,新理論の展開という方向へ導かれれば日本の学問全体にとってもこんな有り難いことはない.
ーーーーー
■問題解決のためにも,数学では個々の小さな問題をそれぞれに突っつくよりも,
根本的なところまで遡って考えた方が,大きな成功を収めることがよくあるのです.
この戦争のために,目先のことばかりを考えてよいのでしょうか.
長期建設戦」ともなれば,文化が直接ものを言うことがますます多くなりましょう.
世界中のだれが見ても頭を下げるような高い立派な文化を我々が戦いつつ築きあげて行くことがぜひとも必要です.
この頃,この点について偏執な,浅慮短見の説をなす人があるのを慨いて,
渡辺慧さんはそれを「文化的敗北主義」と言っている.
戦争法案を多くの世論を無視して強引に可決してしまいました.
本来,違憲である法案が国会に出されること自体あり得ないことですし,
国会の議論でもまともな答弁がなされていないことは誰の目にも明らかです.
政府の宣伝機関になったNHK始め大手メディアの罪はたいへんに重い.
さて,翁長沖縄県知事の国連人権理事会で演説に期待しよう.
大手メディアの世論操作に負けてはならない.
イギリスで投獄を覚悟してインドの独立を主張したガンジーの姿が重なって見えます.
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■戦争と数学
戦時中の“科学朝日(1944年3月号)”に,「特集・戦争と数学」があります.
この特集号には,多くの著名な数学者が寄稿しており大変興味深い.その中で,巻頭の弥永昌吉先生の論説が群を抜いており,言論も不自由であったろう戦時下に,実に立派な意見を展開しておられます.さらに,数学月間の考え方と同じ所も見受けられ我が意を得たりの感があります.まず,弥永論説(対話形式)の概略を紹介します.
1年くらい前(1943年)から始まった戦時下の米国の数学動員(米数学協会の記事の記憶)が紹介されます.遅ればせながら日本でもこのような動きが始まっています.
米国の数学動員
委員長(モース)の下に6つの委員会がある
1.工業技術,2.航空力学,3.弾道学(ノイマン*),4.確率統計,5.計算法,6.暗号解読
1は数学と工業の連携強化,2,3は微分方程式,高射砲の照準や電波兵器の数学,4は大量生産管理,5は計算機.
ーーーー以下弥永論説からの抜粋-----
■数学は魔術ではなく,合理的なものの中でも最も合理的なものですから,使い方も合理的でなくてはなりません.この際,数学者の側で,数学を使えば何も彼も容易にできるというようなことを言いふらしたり,まだ十分の研究を積まないのに現場の人たちのやり方が悪いと言ったりするようなことは一番いけないと思います.
ーーーーーーー
■大和魂が第一でも,それだけでは戦争に勝てないことがだんだんわかってきて,科学研究の動員が必要になった.第一次大戦では「化学」,第二次大戦では「物理」→「数学」が必要だ.米の他,ソ連,独,伊でも同様な数学動員の状況がある.
ソ連は,コルモゴロフ(確率の基礎)飛行機の乱流,ヴィノグラドフ(整数論)などがスターリン科学賞を受賞した.ドイツからは,開所したばかりの米プリンストン研究所などに科学者が流出しており,米国に最も豊富な人材が集まっている.
ーーーーーーー
■学問としてお留守にならず,その品位を下げぬような動員の仕方をすることが,戦争に勝つ道であると信じる.
日本では,それぞれの分野が功を急いだせいかも知れませんが,学問が専門化しすぎて,それぞれ孤立化する危険がある.この機会に横の結びつきが強化されるのは良いことだ.お互いに学問の理解を深め,基礎理論の整備進展,新理論の展開という方向へ導かれれば日本の学問全体にとってもこんな有り難いことはない.
ーーーーー
■問題解決のためにも,数学では個々の小さな問題をそれぞれに突っつくよりも,根本的なところまで遡って考えた方が,大きな成功を収めることがよくあるのです.
この戦争のために,目先のことばかりを考えてよいのでしょうか.
長期建設戦」ともなれば,文化が直接ものを言うことがますます多くなりましょう.世界中のだれが見ても頭を下げるような高い立派な文化を我々が戦いつつ築きあげて行くことがぜひとも必要です.この頃,この点について偏執な,浅慮短見の説をなす人があるのを慨いて,渡辺慧**さんはそれを「文化的敗北主義」と言っている.
*ノイマンはゲームの理論で有名になった若手でした.ドイツから米プリンストン研究所に多くの科学者が流出しました.そのうちの一人です.
**理論物理学者
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数学月間SGK通信 [2015.09.15] No.081
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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前号では,周期律表113番目の元素発見の話をしました.
今回は,原子番号96番のアメリシウムの話です.
原子番号92のU(ウラン)より大きい原子番号の元素(超ウラン元素)は天然には存在せず,
原子炉や原爆で人工的に生成された放射性の核種です.
これらの元素が我々の環境で検出されたなら,
原爆実験や原発事故や使用済核燃料の再処理などで排出されたものです.
これらの元素は大変不安定で,α線やβ線やγ線や中性子を放出して他の元素に姿を変えます.
超ウラン元素は,93番Np(ネプツニウム),94番Pu(プルトニウム),
95番Cm(キュリウム),96番Am(アメリシウム),の順で発見されました.
キュリウムやアメリシウムはマンハッタン計画(1944年)で発見されましたが,
発表されたのは1945年11月のことです.アメリシウムの中にも多くの核種がありますが,
質量数241のAm(アメリシウム)は,α線(5.4MeV),γ線(60keV)を放出して,
質量数237のNp(ネプツニウム)に変わります(半減期433年).
241Am → 237Np +α +γ
さてアメリシウムはどのようにして生まれるのでしょうか.
稼働中の原子炉では,核燃料中の238Uは中性子を取り込み239Puに変わります.
生まれた239Puは,また中性子を取り込み241Puに変わり,これはβ線を出して241Amに変わります.
239Pu(2.41万年)+2n → 241Pu(14.4年)→ 241Am +β
■
電気出力100万kWの軽水炉を2年間運転すると,使用済核燃料には1トン当たり,
アメリシウムが5g(放射能強度0.65×10^12Bq)含まれます.
奇妙に思えるでしょうが,原子炉から取り出した使用済核燃料の中で,
時間の経過とともにアメリシウム量が増えます.10年後に40g(放射能強度5.2×10^12Bq),
100年後には93g(放射能強度12×10^12Bq)という具合です.
使用済核燃料中には,核分裂生成物としてプルトニウムやアメリシウムを始め,
数百種類の放射性核種が生まれています.
使用済核燃料は,未使用の核燃料の1億倍もの放射能強度になり手に負えません.
だから原発を再稼働させてはいけないのです.
http://www.cnic.jp/knowledge/2611
原子力発電によって生み出される放射性物質は,「死の灰」あるいは「高レベル放射性廃棄物」と呼ばれます.
未使用燃料(1トン) ーーーーー→ 使用済燃料(1トン)
U-235(45kg) U-235(10kg)
U-238(955kg) U-236(6kg)
核分裂生成物(46kg)
プルトニウム(10kg)
その他超ウラン核種(1kg)
U-234(0.2kg)
U-238(926kg)
http://www5a.biglobe.ne.jp/~genkoku/kohza-002.htm
■アメリシウムの性質
Amは空気中で表面が酸化されAm2O3となり,また塩酸に容易に溶けます.
アメリシウムは,α線とγ線を放出するが,人体影響では,α線による内部被曝が怖い.
アメリシウムからのγ線のエネルギーは60keVでγ線としては低エネルギーの部類です.
ただし,人体影響では細胞に吸収されるエネルギーが細胞にダメージを与えるので,
低エネルギーの方が吸収されやすいということもあり,安全というわけではありません.
■核燃料中のアメリシウム-241
プルトニウムを核燃料として用いる立場からは,プルトニウム-241の核分裂に必要な遅い中性子を,
アメリシウム-241が無駄食いするので,核燃料中の阻害物です.
再処理によって分離したプルトニウムを核燃料として用いる場合には,
アメリシウム-241の量が増加しないうちに,核燃料として用いる必要があります.
http://www.cnic.jp/knowledge/2611
■川内原発
九州電力川内原発1号機が営業運転に移行し,川内2号機も炉心への燃料装荷が
11日から始まり13日朝に完了しました.10月中旬の再稼働を目指しています.
川内原発の1号機,2号機とも,軽水減速・加圧水型PWRで,出力89万kWで,
低濃縮(U-235が4~5%)二酸化ウラン(72トン/年)を使用します.
http://www.kyuden.co.jp/sendai_outline_index.html
ウラン燃料は,ペレットの型(直径8mm×10mm)で,ペレットを350個程度積み上げて棒状にした
燃料棒(長さ4m)を17×17あるいは15×15本まとめて燃料集合体(20cm角程度)を作る.
ただし,PWRの場合には制御棒クラスタや炉内計測用の案内管もあるので,集合体に燃料棒の入らない位置がある.
川内原発1号機,2号機ともにこのような燃料集合体が157体装荷された.
(注)沸騰水型BWRの原発の燃料は,燃料棒を9X9にまとめ燃料集合体として原子炉に装荷する.
制御棒の入る位置は燃料集合体の間になる.
http://www.nfi.co.jp/product/prod02.html
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数学月間SGK通信 [2015.09.08] No.080
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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ウラン(原子番号92)より重い元素は,天然には無く人工的な手段でのみ得られる.
ウンウントリウムは原子番号113の元素だが,まだ認定されていない(元素の名称も仮のもの).
理研・森田らは,線形加速器で亜鉛原子核をビスマス原子核に打ち込んで生じた不安定な元素が,
α崩壊する過程でウンウントリウムが存在することを発見した.2004年7月のことだ.
ウンウントリウムは,0.667msでα崩壊し次の元素へ姿を変える.次々とα崩壊が続き,
結局6回姿を変え135秒で101Md(メンデレビウム)に変わる.
http://www.riken.jp/pr/press/2012/20120927/
このようなウンウントリウムの詳細な崩壊経路をきちんと調べ上げた(2012年までかかっている)ので,
森田ら(理研)に,近々この元素の命名権が与えられるのではないかと思う.
しかしながら,2004年2月に,ロシアと米国のチームは、
カルシウムとアメリシウムの核融合で現れた元素115のα崩壊過程で0.48秒間113番元素を観測したと発表しており,
最初の発見者であると主張している.
https://www.youtube.com/watch?v=giuZaoxeKtY&feature=share
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数学月間SGK通信 [2015.09.01] No.079
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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電波干渉計の観測データから,ブラックホールの像を求める話題を
メルマガNo.070_統計数理研オープンハウス で取り上げたことがある.
ここで用いられるスパースモデリングという手法はとても興味深いので,
NHKのサイエンスzero再放送(2015年8月23日)の
「情報科学の名探偵!魔法の数式 スパースモデリング」を楽しみに視聴した.
この題名は,ばかにおどろおどろしい.
「魔法の数式」とか実に持ってまわった言い方で嫌な予感がしたが,
案の定,題名も題名だが内容にも失望した.
番組中で,E(x)=||y-Ax||^2+λΣ|x_i|という式が何度も瞬間的に表示されるのだが,
この式をまともに説明する気は全く無い.実に視聴者をバカにしたプログラムで腹が立った.
この式自体は,測定した信号から画像をどのように推定するかの計算式で,
この式がどのようなことをするのか,素人にわかるように説明するのは
そんなに手間でもないし高度なことでもない.決して魔法の数式でもない.
それにもかかわらず魔法の呪文(ブラックボックス)のよう何度も表示される.
数学を魔法のように扱うのは,何の意味もない.
サイエンスカッフェなどで良くあることだが,結果ばかり紹介し手法の説明がない.
どのような考え方で得た結果なのか手法が納得できなければ,その結果を受け入れることはできない.
詳細な数式を説明されても困るが,素人相手だからこそ式の心を言葉で説明すべきであろう.
そのような努力を全くしない専門家は多いのだが,
特に,今回のサイエンスzeroの番組作りは踏み込みが全く足りない.大いに不満である.
ただし,今回の番組で良かった点にも触れておこう.
スパースモデリングがいろいろな分野で応用されていることが紹介され,
特にMRIの測定では,ほぼ同じ解像度の画像が1/3の測定時間で得られる例は興味深かった.
腹立ちついでに脱線し,物分かりの良すぎる国民に苦言を呈しておこう.
なぜ原発が必要なのか,戦争法案が必要なのか全く理解に苦しむ.
物分かりの良いふりは止めてわからないことはわからないと正直に言おう.
子供電話相談室を聞いていると,一寸違うんじゃないかな,本質の説明ではないなと思うことが多い.
「わかりません」「なぜですか」とさらに訊ねろとイライラしながら聞いているが,
子供は「なるほど」とか「判りました」とか答えている.どうして納得したふりをするのか
私はこういう予定調和は大嫌いだ.このような同調の習慣がいじめの温床であると思う.
■さて,サイエンスzeroでは説明されなかったが,私の理解している範囲で以下の数式を解説しておこう.
E(x)=||y-Ax||^2+λΣ|x_i|
yは観測データでxは得られた画像.評価関数E(x)が最小となるように画像が推定されるのだ.
右辺の第1項は最小二乗法であり,第2項は得られた画像のノルムである.
第1項の最小二乗法は元画像とフィルタを通した復元画像の誤差を最小にする画像処理でもよく使われる.
x線を観測しブラックホールの像を得る例では,AはFourier変換で,
像xのFourier変換が観測値yになるべきだから,両者の2乗誤差が最小になるところで落ち着く.
さて式全体の形をみれば,ラグランジュの未定乗数法を思い浮かべる方もいるだろう.
そうです.得られた像のノルムΣ|x_i|を最小にする条件下で,
最小二乗法を満たす解xを求めようとしている式にほかなりません.
スパースモデリングは新しい分野で,私は全く素人ですが,
像xは至る所ゼロの疎(スパース)行列だということから,そう呼ばれるのでしょう.