数学月間の会SGKのURLは,https://sgk2005.org/
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数学月間SGK通信 [2016.09.27] No.134
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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早いもので9月も終わりです.皆様いかがお過ごしでしょうか.
台風や雨続きでしたが,秋らしい落ち着いた日々が待ち遠しいですね.
今回の発行は134号です.133号を飛ばしたのは,間違って131号を2回続けたためです.
■平田森三(物理学者,寺田寅彦の弟子)が「キリンのまだら」というエッセイを書きました.
古い本ですが再刊されていますのでご覧になることをお勧めします.
キリンのまだら模様と田んぼのひび割れの形が似ているというのです.
平田は1933年の「科学」に「キリンの斑模様について」の論文を掲載します.
田んぼのひび割れは地面が乾燥して縮むために生じます.
体の成長に皮膚の伸長が追いつかないと皮膚にひび割れができるというのです.
胎児のキリンの成長過程で皮膚にひび割れは生じませんから,
専門外の分野に口を出した平田は動物学者から攻撃されました.
田んぼのひび割れと同じ仕組みで,いろいろな分野のまだら模様ができるということが言いたいのですが,
キリンをアナロジーにしたのがいかにもまずい.メロンの縞模様をアナロジーにすれば,
この理論もまったく正しかったのです.
このような膨張収縮の力で縞模様ができるという現象はたくさんあります.
お餅を焼いたときの表面のひび,パン皮のひび,パン皮状溶岩,皆同じ機構によります.
基板につけた蒸着膜が,時間が経っと膜中の残留応力のために膜が膨張し,
面白い皺模様ができるのを私も経験したことがあります.
■1952年に,アラン・チューリング(英)が”反応拡散波”という考えを出し,
化学反応が波状に進む問題を解決しました.年輪のようなメノウの縞模様も,
周期的な模様ができる化学反応(ジャボチンスキー反応)も,すべてこの理論で説明できます.
キリンのまだらも,その他の動物の皮膚の色々な模様も,
チューリングの方程式のパラメータを変えればすべて再現できます.
だいぶ前のことになりますが,このメルマガでも自励振動の発生について触れたことがありました.
これらの現象は,新しく生まれた複雑系という分野と係わりがあります.
■形が似ているということは,それを抽象化した数式が同じということです.
全然違う分野の現象といえども,そこに働く力をふさわしい概念のものに入れ変え対応させれば,
両者を統一的に理解できるのではないでしょうか.
私が,ギブスの相律とオイラーの定理での”系内部の自由度”
のアナロジーの謎を捨てきれない理由は,そこにあります.
色々な異なる分野の現象を統一して記述できるのは数学の威力でしょう.
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数学月間SGK通信 [2016.09.20] No.132
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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突然ですが,化学にGibbsの相律というものがあります.
物質の系(閉じた)を考えます.この系はc個の成分からなりたっています.
例えば,水とアルコールの混合した系なら,成分数は2です.
各成分の状態の数(相の数)をpとします.水とアルコールの混合系の場合は,
それぞれの成分ごとに,気体,液体,の2つの相(場合によっては固体を入れて3つ)があります.
成分数cの系で独立(に変化できる)変数の数はc-1個で,
それぞれにp個の相があるから,(c-1)pの変数があるが,
これ全部が独立なものではありません.
p個の相の間には,p-1個の平衡条件があります.
したがってc(p-1)個の束縛条件が課せられます.
結局,系の自由度fは
f=(c-1)p-c(p-1)+2
第3項に加えた2は,系全体の温度と圧力の2つの独立変数です.
これを計算整理すると
f=c-p+2 ,あるいは f+p-c=2 となります.
何処かで見たことがありませんか.そう,オイラーの多面体定理V+F-E=2
を思わせます.今日,唐突に化学の相律の話をしたのは
この類似性を不思議と感じた十数年前のことが蘇ったからです.
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相律 f-2=c-p
オイラー F-2=E-V (FとVを入れ替えたものは互いに双対なので同じ)
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このように並べて,両者の類似性を見ていると,
幾何学的な本質に関係があるような気がしてならないのです.
これは,偶然の一致だと言ってしまえばそれまでです.
それが正しいようでもあります.私も昔,そう結論を下しました.
しかし,まだ考えつかないことがあるような気がしてなりません.
皆さん何か良いアイデアは無いでしょうか?
■考えがまとまりませんので,3成分系の具体例をたたき台に示します.
石英SiO2,橄欖石2MgOSiO2,灰長石CaOAl2O32SiO2の系を例にします.
各成分に,固体,液体の2相があります.今,圧力一定の切り口を考えるとf-1=c-pです.
3成分+液の4相が共存するなら,自由度 f=0
3相が共存するなら f=1(線上を動く)
2相が共存するなら f=2(面上を動く)
融液を冷やしていくと,1,360~1,280℃で,橄欖石の晶出と液組成の変化
(橄欖石+液の共存)すなわちここではf=2.
1,280~1,260℃で,灰長石の晶出と液組成の変化
(橄欖石+灰長石+液の共存),すなわちここではf=1.
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数学月間SGK通信 [2016.09.13] No.131
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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皆さん,いよいよ9月になりました.お変わりありませんか.
私は,11日(日)に倉吉で開催される”とっとりサイエンスワールド”に参加するために,
もうすぐ家を出発します(今,9月11日の17時過ぎで,夜行バスは21時に出ます).
このメルマガの発行される13日の朝は,まだ倉吉にいます.そのため今週号も予約発行です.
お近くの方は,倉吉の未来中心にお出かけ下さい.色々なワークショップがあります.
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これがどうして私の手元にあるのか出所は忘れてしまいました.
その他の組木もいくつかあったのですが,遠い昔に失くしてしまいました.
この組木を手に入れたのが一番新しく,今手元にこれだけがあります.
この組木はシンプルですが,職人のすばらしいアイデアだと思います.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/72/17658372/img_0_m?1473494896
全体の対称性は立方晶系の完面像(最も対称性の高い点群)を思わせます.
4回対称軸が3本,3回対称軸が4本,2回対称軸が6本あります.
鏡映面はたくさんあります.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/72/17658372/img_1_m?1473494896
全体はこのようなパーツが6個で出来ています.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/72/17658372/img_2_m?1473494896
3回対称軸に沿って引き剥くことができ,二つに割れます.
写真は3回軸に沿って引き抜き開いて(内部をこちらに向けて)並べたところです.
3回軸に沿ってスライドできるのは,この分海図を見ると理解できるでしょう.
対称性を考えないと,引き抜く方向がわからず難しいパズルです.
3回対称軸は4本あるので,引く抜く方向には4通りあります.
■この組木は,x平面,y平面,z平面がかみ合っているという見方もできるでしょう.
それぞれの平面はパーツ2つからなります.
直交するx平面,y平面を作り,z平面の部品一つだけ置けるが,残り一つをどう入れるか苦闘します.
そうして,3回軸に沿ってスライドさせてできた空間に残り1つのパーツを入れることに気がつきます.
けれども,この方法で実行しようとすると,手作業的にはなかなか難しい.
手が3本欲しいということになります.
対称性を考慮すると,1つの方向にスライドして2つに割るという綺麗な解を思いつきます.
そして,この2つの部分を内側から見ると互いに鏡像にになっていることもわかります.
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数学月間SGK通信 [2016.09.06] No.131
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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始めにお詫びです.先週発行した”黄金三角形パズル”の図のリンクが切れていたようです.
以下のサイトに掲載しておりますので,こちらをご覧ください.
http://blogs.yahoo.co.jp/tanidr/16936782.html
さて今回は,高次元の世界から低次元の世界への影についてです.
高い次元の空間の周期性は,低い次元の空間に必ずしも遺伝しません.
ここではそのような例を見てみましょう.
■2次元の周期的な世界から1次元の非周期の世界へ
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/37/17648237/img_2_m?1472990935
1辺の長さが1の正方形のタイル(赤色)を隙間なく張り詰めた周期的な2次元世界があります.
タイルの中心に格子点があるとして,格子点を”1次元世界(水平な青色の線)”に射影しましょう.
この1次元世界(青色の水平線)が過るタイルだけが影を作る対象になります.
■2次元の世界は,1次元の世界1,2,3,4,6,8.....(それぞれ色を変えた)を束ねてできています.
射影のスクリーンとなる1次元世界(水平な青色直線)は,これらの1次元世界1,2,3,4,5,6,...と
角度αで交わっています.
tanα=n/mと有理数なら,1つの格子点が青色の直線に載れば,
その格子点がある部分空間の中でm個のタイルを動き,他の部分空間に向ってn個のタイルを動いた場所にある格子点は,
また青色の直線に載っているはずで,青色の1次元世界にも周期が出来ています.
もしtanαが無理数なら,1つの格子点が水平な青色直線に載ったら,
他の格子点でこの直線に載るものはないはずです.この時は,青色の1次元世界は非周期になります.
■射影されてできた1次元の非周期格子を,図の下に取り出しました.
この非周期格子の格子点は,各1次元空間1,2,3,4,5,6,....内に起源をもつ間隔と,
次の1次元世界に飛び移るときに生じる間隔との2種類の間隔が混ざってできています.
■この非周期格子は,周期的2次元空間から1次元空間への射影で作りました.
周期的2次元空間の1次元の断面そのものではありません.