数学月間の会SGKのURLは,https://sgk2005.org/
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次の写真はイスラムの美しい象嵌細工の一部分です.
今回は,この5回対称(あるいは10回対称)の模様を作図してみましょう.
中心部分の輪郭に,正5角形と,それを180°回転した正5角形とを重畳した
10回対称の形(右図)が見えるでしょう.
平面の正多角形タイルによるタイル張り(1種類の正多角形タイルで隙間なく張り詰めること)は,正3角形,正4角形,正6角形でのみ可能です.正5角形のタイルでは平面のタイル張りはできません.これは,平面全域に作用する5回対称軸が周期的に配列している状態があり得ないことと等価です.
イスラムのこの象嵌細工に見られる5回対称(10回対称)は,この模様が周期的に配置された平面全域で作用するものではありません.この図形を中心とする局所的な領域内で作用するものです.
このようなイスラムのデザインは色々な変形があり,各所の装飾に多用されています.大変美しいので,正5角形を基本とする以下の図を作図してみましょう.正10角形の周囲を10個の正5角形が取り囲んでいます.正5角形の1つの内角は108°,正10角形の1つの内角は144°ですから,このような作図(3つのタイルが出会う頂点では,108°x2+144°=360°が成立)は可能なはずです.
このような10回対称の部分を規則的に配列し,その隙間をうまくつなぎ合わせると,
高次元の世界を見るような不思議な模様ができます.どのようにつなぎ合わせるかは,次回考察することにします.5回対称(10回対称)は周期的な平面で不可能なわけですから,それぞれの5回対称軸は局所的な作用にとどまり,つなぎの領域には有効ではありません.そのために,我々は全体平面の中に小宇宙が分布しているような不思議な印象を持つのではないかと思います.
千葉県での広域停電は長期にわたり,大変な日々をお過ごしの方にお見舞い申します.送電網システムは,ケーブル・ネットワーク(ハードウエア),制御ソフトウエア,および行為者より構成されるが,完全に定義しきれない複雑系です.スマート・グリッドになったとはいえ複雑系には完全に制御しきれない要因が何処かにあるでしょう.台風により木立が揺れ,どこかで送電ケーブルが切れたとし,その場所が運悪く重要な結節点に属するなら,電力負荷が残りの送電線にかかり,あっという間に雪崩をうって広域なネットワークの事故に広がって行くことは良く知られています.複雑系はシステム全体として定義できるもので,システムの部分を切り出して定義できません.これは,どこかの事故がシステム全体に広がる可能性を意味します.引き金となる些細な事故はどこで起こるか予測できません.限界ぎりぎりで稼働している複雑系の社会インフラをもつ現代社会で複雑系の数学は重要です.
私は,大規模な送電網に頼らない社会に変えるべきだと思います.自然エネルギーによる発電は,地域で作りその地域で消費する(地域分散型の小規模な送電網)に適しています.そのような利点のあるソーラー発電なのに,森林を破壊しわざわざメガソーラーを作り,また大規模送電網で電気を運ぶのはナンセンスといわざるを得ません.もちろん原発自体が複雑系であり原発の稼働は論外です.
9月15日の日本数学協会の年会では,wowowドラマ,つるさんかめさん~ニッポン算額探訪~和算監修の小寺裕氏の講演がありました.この番組は各地の算額を訪れて問題を解くというドキュメンタリ風ドラマです.というのは,毎回,一人旅の旅行者に同行し,その人が問題を解くというドキュメンタリ仕立てですが,実はこの旅行者は俳優です.さすが俳優で,素人っぽいとぼけたいい味をだしておりなかなか面白いです.私はwowowを見ませんので知りませんでした.第1回の京都北野天満宮,第3回の仙台塩釜神社,第6回の東京金王八幡のそれぞれ30分番組が紹介されました.
脱線しますが奈良弘仁寺の近くで売っている算額最中とはこのような物らしい.
■さて,ドラマで取り上げられた算額の問題を紹介しましょう.
第1問は辺2aの正方形内の帆の形に内接するピンクの円の半径を求める.
第2問は円ra,rb,rc,直線が互いに接しているときのピンクの円の半径を求めることです.
私は問題中の数値を忘れたので,このように記号で書きましたが,算額の問題では,aやra,rbは具体的に数字が与えられています.これらの問題は,直角3角形のピタゴラスの定理だけを使えば解けます.
両者とも互いに円が接するときの問題ですが,特に第2問はいわゆるアポロニウスのガスケットの特殊なケース(直線は半径∞の円)です.いろいろ挑戦してみてください.
第1問は x2+6ax-3a2=0を解くことになります.
第2問は1/√rc=1/√ra+1/√rb から求まります.
アポロニウスのガスケットの作図で描く互いに接する4つの円に関して,
もっと一般化されたデカルトの定理(1643年)があることに言及しておきます.
(第1問)
(第2問)
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数学月間SGK通信 [2019.09.10] No.283
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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今日9/9の朝早く台風が通過しました.関東の皆様被害はありませんでしたか.
こちらでも草木がみななぎ倒されたり,街路樹の紅葉葉楓モミジバフウの枝や実が散乱していました.
今日9/9は,「美しい幾何学」の発売日です.やっと発売にこぎつけた記念すべき日です.
どうぞ書店で手に取って中身を一度ご覧ください.
以下の日刊ベリタに詳しい紹介記事があります.
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201909042302103&fbclid=IwAR2JFVjjl2EXJt7238PYL5IP4FwGc7-Fc4rj8xtZVn6SfsWAh2F2vrf6ZjU
この図鑑には美しい図形や不思議な図形がたくさん出てきます.
そのような図形の仕組みを「見ているだけで理解できるように」したかったのです.
数式を使えば正確な説明が楽にできますが,そのためには,
たくさんの数学準備の回り道があり,焦点がぼけてしまいます.
小学生から大学生までが,本書の図を眺めているうちに,
図形に隠された仕組みが自ずとわかることを狙いました.
普通の数学書のように抽象的な記述だけで終りません.
具体的な図を示し本質が理解できるようにしました.
内容には大学の専門課程レベルのものもあり,初めはわからないところもあるでしょうが,
何度も図を見ているうちに,不思議なことに理解できる時がきっと訪れます.
この本の各章は,万華鏡で繋がっています.
1,2章は有限図形の対称性,3,4章は周期的な空間の対称性,
これらの世界の映像は,万華鏡で作り出すことができます.
5章は万華鏡,6章は円による反転という数学的な鏡,7章はフラクタル操作という数学的な鏡,
8章ではイスラミック・デザインの特徴を鑑賞します.イスラムのデザインには,黄金比が多く,
かつ,局所的に高い対称性がちりばめられた周期平面なので,
あたかも我々の住む3次元に高次元宇宙が投影されているような不思議さが魅力です.
日刊ベリタに紹介された記事の要旨をご覧ください.
この図鑑(「美しい幾何学」技術評論社)には美しい図形や不思議な図形がたくさん出てきます。そのような図形の仕組みを「見ているだけで理解できるように」したいのです。数式を使えば正確な説明が楽にできますが,そのためには,たくさんの数学準備の回り道があり,焦点がぼけてしまいます。小学生から大学生まで,本書の図を眺めているうちに,図形に隠された仕組みが自ずとわかることを狙いました。普通の数学書のように抽象的な記述だけで終始しません。
内容には大学の専門課程レベルのものもあり,初めはわからないこともあるでしょうが,何度も図を見ていると,不思議なことに理解できる時がきっと訪れるはずです。
実はこの本の各章は,万華鏡で繋がっているのです.1,2章は有限図形,3,4章は周期的な空間,5章は万華鏡,6章は円による反転という数学的な鏡,7章はフラクタル操作という数学的な鏡,8章はイスラミック・デザインの特徴を鑑賞します.それは,黄金比が多く,かつ,局所的に高い対称性がちりばめられた周期平面なので,あたかも我々の住む3次元に高次元宇宙が投影されているような不思議さが魅力です.数式は極力減らしたので,楽しめると思います.
0と1だけが並んでいる語を考えます.そのようなn桁の語をn-bit語と呼びます.
連続して1を含まないn-bit語はいくつあるでしょうか.
(1)n=1のとき,そのような語は,0, 1,ですから,計2個あります.
これをa(1)=2と書きます.
(2)n=2のとき,そのような語は,00, 01, 10で,a(2)=3個です.
11は1が連続するので条件に合いません.
(3)n=3のとき,そのような語は,
n=2のときの語の末尾に0を付加した,000, 010, 100,のa(2)個,
および,n=2のときの末尾に1を付加したものと言いたいところですが,
1の連続を避けるために,n=1のときの語に01を付加し,001, 101のa(1)個で,
互いに背反するこの両ケースを合わせて,a(3)=a(2)+a(1)=5です.
連続した1のない語の数の数列a(n)は,このような手順(一般のnで成立)で作れ,
2,3,5,・・・・・と続き,a(n)=a(n-1)+a(n-2)が得られます.
これはフィボナッチ数列の再帰的な定義そのものです.
フィボナッチ数列F(n)は,1,1,2,3,5,・・・・・ですから,
a(n)は3項目から始まるフィボナッチ数列です.a(n)=F(n+2)
それでは,連続した111を含まないn-bit語の数はいくつでしょうか.
これも同様な議論で,a(n)=a(n-1)+a(n-2)+a(n-3) となることが証明できます.
(問題)n個のコインを順番に投げて,連続して表がでない確率を求めよ.
(解)連続して表の出ないに相当する語の数はa(n)=F(n+2)でした.
n個のコインを順番に投げて実現する状態数は2nですから,求める確率はF(n+2)/2nとなります.