2015年10月の記事一覧

3つの幾何平面

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数学月間SGK通信 [2015.10.26] No.086
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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ユークリッド幾何学と非ユークリッド幾何学

色々な幾何空間があります.
大きく分けて,ユークリッド幾何空間と非ユークリッド幾何空間です.
非ユークリッド幾何空間には,楕円幾何,双曲幾何の支配する幾何空間があります.
我々の常識が通用するユークリッド幾何の世界では,
“直線l外の1点をA通り,その直線に平行な直線“は,唯一本だけ引けます.

平行線が1本も引けない世界や,無数に引ける世界とはどんな世界でしょうか?

これら3種類の幾何空間を,平面を例にとり比較します.

(1)ユークリッド幾何平面  (2)楕円幾何平面 (3)双極幾何平面
例⇒ 我々の常識の世界     球の表面      ポアンカレの円盤モデル

http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/81/17061581/img_0?1445817357

それぞれの空間で,“直線の定義を変えれば”,
そのようなことが起こる世界があることを納得できるでしょう.
2点間を結ぶ直線とは,その世界で2点間の距離を最小とするものです.

(1)常識の通用するユークリッド幾何平面
2点間の距離が最少なのは我々の知っている直線です.
(2)球の表面は楕円幾何平面の例
球表面の世界では,大円(球中心を通る平面で切った球の表面)が直線です.
地球自体は3次元ユークリッド空間の物体ですが,表面だけなら楕円幾何平面です.
地球上の2点間の距離が最小のものは大圏コースと呼ばれますが,
これは地表の大円上の線分のことです.
異なる2つの大円は必ず2点(直径の両端)で交わるので,
直線外の1点を通る平行線はありません.また,地球儀の
緯線のようなもの(小円)は大円でないのでこの世界では直線になりません.
(3)双曲幾何平面の例(ポアンカレ円盤モデル)
双曲幾何の世界のポアンカレ円盤モデルでは,
円盤のフチに直交する円弧を,直線と定義します.
この世界では,ある直線に対する直線外の1点を通る平行線は無数に引けます.
円盤モデルの世界では,円盤のフチに近づくほど見かけの距離はどんどん縮むので,
フチの近傍は実際は無限の距離があり,永久に地平線に到達できません.
確かにこのような円弧が最短距離です.

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平面タイル張りとエッシャーの版画

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数学月間SGK通信 [2015.10.20] No.085
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■平行4辺形や平行6辺形は,平面を敷き詰めることができます.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/41/17047041/img_3_m?1445036597
平行6辺形とはこんな形です.
向かい合った辺(同じ色)を繋ぎ合わせて,平面を埋められます.
このような形のタイルを土台に向い合った辺を同じように変形し図案のモチーフにすると,
エッシャーのような繰り返す絵が作れます.
私はハロウィーン魔女を作ろうとしましたが未完成です.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/41/17047041/img_4_m?1445042284
皆様完成させてください.
■任意の4辺形は,180°回転したものと組み合わせると平行6辺形になります.
下図の4種の組み合わせが可能ですが,どの平行6辺形のタイルを用いても
同じ敷き詰めになります.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/41/17047041/img_1_m?1445036597
■任意の3角形は,180°回転したものと組み合わせると
平行4辺形や平行6辺形になるので,平面を敷き詰めることができます.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/41/17047041/img_2_m?1445036597
Q. 平行8辺形以上は平面を敷き詰められないのは何故でしょうか

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空間のデジタル化

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数学月間SGK通信 [2015.10.13] No.084
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■空間のデジタル化
最近の交通信号は,発光ダイオードのドットが円盤内に配置されています.
本来,円盤内は連続平面ですが,ドットの配置で表現される円盤は,
離散化(あるいはデジタル化)されています.
デジタル化された世界では,ドットを1つ2つと数えることができます.
ドットを十分小さくすれば,ドットはいくらでもこの世界に入ります.
このような世界を,“可算無限”の世界といいます.一方,連続平面は,
点を数えることすらできない“非可算無限”の世界です.
(例)整数や有理数(分数で書ける数)は可算無限個,
  無理数(分数では書けない数)は非可算無限個です
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/44/17032344/img_0_m?1444646310
■無限に続く繰り返し
 周期的な空間-結晶世界
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/44/17032344/img_1_m?1444646310

http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/44/17032344/img_2_m?1444646310
黒と白のタイルでできる市松模様が無限に広がっています.
もし,白いタイルのどれか一つの上にいたとしても,
市松模様の世界は無限に続いているのですから,
そこがいつも世界の真ん中に思えます.
つまり,どの白いタイルもすべて同価です.

この市松模様の世界の周期がわかりますか? 図には,
白いタイルから,隣の同価な白いタイルへの移動を示すベクトル(矢印)
が記入されています.
2次元の世界ですから2つの独立なベクトル a, bが基本周期になります.
白いタイルを基本周期a, bを繰り返して平行移動することを並進といいます.
(注)na+mbは,a方向にn個,b方向にm個の移動(並進)の意味です.
na+mb(整数n,m)の点(格子点)はすべて同価な点で,
これらの集合を格子といいます.
格子点の集合(格子,無限集合)は加法で閉じており
群という代数系になります(これを並進群といいます).

上図の2つの市松模様は全く同じものですが,見渡す方向でずいぶん景色が違います.
このような性質を異方性と言います.
格子点に配置して,重ならず隙が出来ずに平面を張りつめるとき単位となる
ブロックタイル(単位胞)の形はどのようなものでしょうか?
これには色々なものを採用できますが,例えば,横並びの黒白ペアのタイル,
あるいは,a, bで囲まれた平行4辺形などがあります(上図の右側に図示).
その面積はどちらも同じです.
無限に続く周期的な平面は,一つのブロックタイル(単位胞)で平面を張りつめる
こと(デジタル化)ができ,扱うのが簡単です.これに比べて,
周期的でない平面はアナログ平面で簡単化できません.つまり
一様な(平面のどの場所も同価であるような)デジタル化ができません.
デジタル化された信号のような円盤内も,一様でもなければ周期的でもありません.
周期的なデジタル化された空間は“結晶空間”と呼ばれ,
その性質は“格子”で抽象的に表現されます.


■繰り返し模様の観賞法
今年の数学月間懇話会(7/22)で,私は以下の話をしました:

周期的な空間(繰り返し模様)の対称性は有限図形の対称性にくらべて,
なじみのない人が多いようです.
これは,教科書で扱う対称性が有限図形だけであることによります.
しかし,周期的空間=“結晶空間”は,最も基本的なデジタル化された空間で重要です.

デジタル画像や視細胞の配列した網膜など,自然界のほとんどが
デジタル化された平面です.特に,無限に広がる平面を,
一様で周期的にデジタル化した-“結晶空間”-は特に重要です.
結晶の内部構造は,単位となる平行6面体(単位胞)が,
空間を隙間なく埋め尽くしています.
このような例として,平面上の繰り返し模様の数学に親しみましょう.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/68/17037468/img_0_m?1444646276
数学の言葉でいうと,繰り返し模様の対称性(空間群)と
有限図形(単位胞)の対称性(点群)との関係は,
「繰り返しの規則(並進群)を核(法)として,空間群は点群に準同型」
ということになります.あるいは,
「並進群を点群で拡大して空間群が得られる」ということもできます.
準同型という概念の心は,集合のもつ特徴を見つけるのに,
集合の要素の持つある特徴を同値と見做せれば(小異に目をつぶれば),
別の特徴が顕著に見えてくるという事.
日常生活の色々な場面でこの考え方が使えます.
「小異を捨てて大同に就く」といいますが,
「小異を同値と見做すなら,別の違いが見えてくる」
そして,「別の違いがない場合は,大同に就ける」という事でしょう.

平面のデジタル化の一つに,1種類の正多角形で平面を分割すること(正則分割)
がありますが,非ユークリッド平面の正則分割タイル張りに関しても言及しました.

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084_空間のデジタル化で生じる周期と異方性★

■空間のデジタル化
最近の交通信号は,発光ダイオードのドットが円盤内に配置されています.
本来,円盤内は連続平面ですが,ドットの配置で表現される円盤は,
離散化(あるいはデジタル化)されています.
デジタル化された世界では,ドットを1つ2つと数えることができます.
ドットを十分小さくすれば,ドットはいくらでもこの世界に入ります.
このような世界を,“可算無限”の世界といいます.一方,連続平面は,
点を数えることすらできない“非可算無限”の世界です.
(例)整数や有理数(分数で書ける数)は可算無限個,
  無理数(分数では書けない数)は非可算無限個です

 

 

 


■無限に続く繰り返し
 周期的な空間-結晶世界

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


黒と白のタイルでできる市松模様が無限に広がっています.
もし,白いタイルのどれか一つの上にいたとしても,
市松模様の世界は無限に続いているのですから,
そこがいつも世界の真ん中に思えます.
つまり,どの白いタイルもすべて同価です.

この市松模様の世界の周期がわかりますか? 図には,
白いタイルから,隣の同価な白いタイルへの移動を示すベクトル(矢印)
が記入されています.
2次元の世界ですから2つの独立なベクトル a, bが基本周期になります.
白いタイルを基本周期a, bを繰り返して平行移動することを並進といいます.
(注)na+mbは,a方向にn個,b方向にm個の移動(並進)の意味です.
na+mb(整数n,m)の点(格子点)はすべて同価な点で,
これらの集合を格子といいます.
格子点の集合(格子,無限集合)は加法で閉じており
群という代数系になります(これを並進群といいます).

上図の2つの市松模様は全く同じものですが,見渡す方向でずいぶん景色が違います.
このような性質を異方性と言います.
格子点に配置して,重ならず隙が出来ずに平面を張りつめるとき単位となる
ブロックタイル(単位胞)の形はどのようなものでしょうか?
これには色々なものを採用できますが,例えば,横並びの黒白ペアのタイル,
あるいは,a, bで囲まれた平行4辺形などがあります(上図の右側に図示).
その面積はどちらも同じです.
無限に続く周期的な平面は,一つのブロックタイル(単位胞)で平面を張りつめる
こと(デジタル化)ができ,扱うのが簡単です.これに比べて,
周期的でない平面はアナログ平面で簡単化できません.つまり
一様な(平面のどの場所も同価であるような)デジタル化ができません.
デジタル化された信号のような円盤内も,一様でもなければ周期的でもありません.
周期的なデジタル化された空間は“結晶空間”と呼ばれ,
その性質は“格子”で抽象的に表現されます.

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近況報告_先週号休刊のお詫び

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数学月間SGK通信 [2015.10.06] No.083
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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メルマガ09月29日号は休刊しました.ご了承ください.
実は,28日の朝6時50分に母は息を引き取りました.
救急車で入院した時は寒い冬で,病院の庭の梅の蕾も硬くこの梅が咲くころには退院しているだろうと
漠然と思ったものです.その梅が咲き,桜が咲き,つつじが咲き,暑い夏を越し,
帰るときには金木犀の香りが満ちていました.259日の病院生活を,ベットの上だけで過ごしました.
百歳の誕生日まで病気知らずで,寝込んだことは一度もありません.
いつも「大丈夫よ」「有難う」と言っていた母でした.
でも今回は,「いつ帰れるのか.さあ帰ろうか」と言ったことが一度ありました.
しかし,その後すぐ点滴づけになり帰る場所がなくなりました.
それでも負けずにこの長期間を頑張りぬきました.
最期の夜も最後の最後まで頑張りましたが朝に遂に力尽きました.スーパームーンの日でした.

葬儀は4,5日に,幡ヶ谷の代々幡斎場で,香典供物は辞退して母を知るご近所と身近な親戚で済ませました.
幡ヶ谷は,母と父が新所帯を持ち,つかの間の母の楽しい時期であった思い出の地です.
敗戦まじか,私はその家で生まれました.父がフィリピン・ボルネオの戦地にいるときです.
母は一人で,赤ん坊の私を押し入れで布団を積み上げ高射砲の破片から守ったのです.
幡ヶ谷の家は空襲で皆焼けてしまいました.父はジャングルでトカゲを食べたりマラリアになったり
破片で背中を負傷したり捕虜で働かされたりしましたが,終戦後3年たってから無事帰国できました.
母と私は父と再会し,暮らし始めた家は幡ヶ谷から1kmほど離れた所です.
ここには現在まで70年近く住んでおります.葬儀には母を知るご近所の方々が参列されましたし,
母方と父方の従兄弟たちも久しぶりに会しましたので,楽しい一時になりました.
ご報告とお詫びまで.次号から数学月間の話題にもどります.

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