2014年9月の記事一覧

べき乗則と地震

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数学月間SGK通信 [2014.09.30] No.031
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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地震に関心が高まっていますが,地震は地殻の破壊現象ですから
いつポッキリ折れるか予言できないように文字通りの予知はできません.

◆地震の規模(マグニチュード)M
まず,地震のマグニチュードMとは何でしょうか?
これは地震のエネルギーEの対数です.
大体,地震のエネルギーの大きさの桁と思ってよいでしょう.
リヒターが当初発案したマグニチュードの定義は,
震央から100kmに設置したと仮想した,特定な型の地震計で
観測される最大振幅の対数でした.しかし,現在では
もっと理屈に合ったモーメント・マグニチュード
(あるいは気象庁マグニチュード)が採用されています.

◆可能な最大地震
地震で解放されるエネルギーは,生じた断層面の面積と
その平均変位とその付近の地殻の剛性の積です
(大雑把にいえば生じた断層の長さに比例します).
地殻に溜まった歪エネルギーが地震で解放されるわけですが,
断層の長さが長い方が解放されるエネルギーは大きいし,
地殻の剛性が大きいほど大きな歪エネルギーが蓄えられます.
これらから起こりうる地震の最大エネルギーを見積もると
M9.5程度と考えられています
(1960年のチリ地震ではM9.5が観測されている).

◆べき乗則
地震の規模(マグニチュード)Mと発生頻度(回/年)n
の間に n=10^(a-bM) の関係があります.
これはグテンベルクとリヒターが発見しました.
a,bはその地域の地殻の特性を表す定数でが,b≒1ですので
地震のマグにチュードが1つ大きくなるごとに,地震の回数は1/10に減ります.
だからこれをべき乗則と言います.

地震の規模Mには最も発生しやすい典型というのがありません
(釣鐘型の正規分布ではありません).
大きな地震は少なくなりますが,M=9あたりも起こり得るし,
そんな巨大な地震に見舞われると壊滅的なダメージです.
従って,頻度は小さいけれど致命邸なダメージとなる巨大地震が起きても
被害が最小となるように備える必要があります.原発は止めましょう.

クリーン・ルームのチリのサイズ分布もべき乗則だと言われています.
もし正規分布のように頻度の高いサイズがあるなら
そのサイズのチリの発生に注目した対策ができるのですが
べき乗則では特別な対策は困難です.

◆分布関数を求める実験
凍ったジャガイモを投げて砕き,破片のサイズ分布を調べた人が居ます
(南デンマーク大,1993年).ここでもべき乗則が確認されました.
スパゲッティやクラッカーを砕くとどのようなサイズ分布になるか
実験した話が今年の数学月間懇話会で中西達夫さんからありました.

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とっとりサイエンスワールド2014in倉吉

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数学月間SGK通信 [2014.09.23] No.030
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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◆今年のとっとりサイエンスワールド2014(矢部敏昭会長)が
9月21日(中部,倉吉)で無事終わりました.例年のように
8月31日(東部,鳥取),8月2日(西武,米子)の計3回開催され
各回,1000人に達する参加者が集まりました.
スタッフも先生方100人+高校生ボランティア60人の規模です.
8年目ですが,小さい子供から,両親,お年寄りまで,楽しみに集まる
算数イベントに定着しました.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/81/16147181/img_0?1411477332

◆万華鏡は,各会場でそれぞれ異なる3角形の鏡の組み合わせを作りました.
西部110人,東部160人,中部110人用意しました.
鳥取でやったけれど倉吉にまた来たという小さい小学生もいたり,
彼女はすっかり内容を理解していてもうベテランです.大したものだ.
鏡の組み合わせが作る3角形が変われば,違うタイル張り模様が見られることを
知ることが眼目なので,色々な鏡の組み合わせの万華鏡や,
多面体が立体的に見える万華鏡などの展示物も用意して行きます.
これらの内で,2枚鏡の万華鏡の人気が高く
来年のリクエストとして聞いておきました.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/81/16147181/img_2?1411477822
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/81/16147181/img_3?1411477822

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4次元の万華鏡

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数学月間SGK通信 [2014.09.16] No.029
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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読者の皆様へ.
8月19日(025号)からまぐまぐの遅配が続いています.
特に,026号,027号はまだ配送されていない方があるようです.
届かない方がありましたら,ご一報ください.
これらの号では多面体に関する話を続けています.
メルマガ更新は毎火曜日の朝7:00に行っておりますので,
以下のサイトでもご覧になれます.
http://blogs.yahoo.co.jp/tanidr/folder/545271.html あるいは
http://sgk2005.sakura.ne.jp/htdocs/?page_id=32
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◆4次元の正多面体は6種あるのですが,
3次元以上が見えない私たちには理解が困難です.
色々な図や説明が種々の本やwebで見られますが,どれもしっくりしません.
結局,4次元の正多胞体6種を最初に見つけたシュレーフリの説明が
最もわかり易いようです.(コクセター[幾何学入門]や
ヒルベルト,コーン・フォッセン[直観幾何学]に載っています).
さて,このようなものを記述するシュレーフリの記号というのは
大変良くできています.この記号の仕組みを理解することが結局
4次元の理解に直結します.シュレーフリの記号を単純な図形で見てみましょう.

◆3次元の正多面体の例
面(2次元)が頂点(0次元)で3つ以上集まらないと立体(3次元)はできません.
シュレーフリの記号は以下のようです.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/41/16122741/img_0?1410817831
(1)正4面体         {3,3}←シュレーフリ記号
正3角形の面(2次元)が頂点(0次元)で3つ集まっている.
(2)正6面体(立方体)    {4,3}←シュレーフリ記号
正4角形の面(2次元)が頂点(0次元)で3つ集まっている.

正多面体が記述の対象ですから,どの頂点まわりの状態も同じです.

◆4次元の正多面体の例
胞(3次元の多面体)が辺(2次元)で3つ以上集まらないと
4次元の立体はできません.
シュレーフリの記号は以下のようです.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/41/16122741/img_1?1410817831
(1)正5胞体       {3,3,3}
3次元正4面体{3,3}が辺(2次元)で3つ集まっている.
(2)正8胞体       {4,3,3}
3次元正6面体{4,3}が辺(2次元)で3つ集まっている.

正多胞体なので,どの辺まわりの状態も同じです.

(参考)  {4,3,4} というのはどのようなものでしょうか?
これは,3次元正6面体が辺のまわりに4つ集まっている状態ですから
角砂糖を頂点を合わせて無限に積み重ねたような状態.
これは3次元空間の中で無限に続く立方格子です(3次元で納まってしまいます).

◆双対図形について
3次元の正多面体{p,q}の双対図形は{q,p}です.
{p,q}:正p角形の面が頂点でq個(辺がq本)集まっている.
この図形で面を頂点に変えた図形は,{q,p}となります.
同様に,{p,q,r}の双対図形は{r,q,p}になります.

◆4次元のイメージの万華鏡
雰囲気だけです(色々工夫していますが残念ながら困難なようです).
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/41/16122741/img_2?1410817831
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/41/16122741/img_3?1410817831

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結晶で見られる多面体

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数学月間SGK通信 [2014.09.09] No.028
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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◆プラトンの正多面体は5種類あります.
これら5種類の正多面体の対称性を考慮して
方位を合わせ重ね合わせた図が以下のものです.
この図のように2つの正多面体を重ね合わせると
それぞれの多面体の対称性で共通なもの(共通部分群)が残ります.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/30/16103930/img_0?1410092475

◆黄鉄鉱FeS2の結晶は,色々な外形(晶相)のものが見られます.
黄鉄鉱は愚者の金とも言われ金色できれいです.
私は,川底に金色の砂がキラキラ光って貯まっているのを見つけて
採集したことがあります.1mm程度の結晶粒ですが
皆整った多面体の形をしていました.
結晶の外形は,正6面体,正8面体,正5角12面体が基本で,
ミラー指数で言うと,正6面体は結晶面(100)面,
正8面体は(111)面,正5角12面体は(210)面で囲まれています.
このほかに,これら正多面体の切頂多面体も見られ,
また,他の指数の面(211),(321)が加わった複雑な多面体もあります.
多面体の形が連続的に変化することを示す良い自然の手本です.
黄鉄鉱の結晶は立方対称の内部構造(原子の配列)ですが,
結晶粒の外形は,どの指数の面が大きく成長するかによって変わります.

◆そこで,昔読んだ記憶のある砂川一郎の論文(1957)を
再度見てみました.奈良県や島根県にある絹雲母の鉱床や凝灰岩の
母岩中に晶出した黄鉄鉱の結晶粒の大きさと形の統計を述べています:
「小さい結晶粒では正6面体,大きい結晶粒では5角12面体の外形が多い」
晶相の変化を起こす機構は大変複雑で一概に言えませんが,
黄鉄鉱結晶の成長に伴って大きく成長する面が,
正6面体の面(100)→正8面体の面(111)→5角12面体の面(210)
と変化し晶相が変る.これは結晶面の性質と母岩(絹雲母化)との
化学的反応がかかわっているらしい.
◆今回,砂川一郎の論文中の図が,
Tシャツとして博物館グッズになっていることを知りました.
http://ameblo.jp/hakubutufes-sub/image-11876822744-12970852035.html

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とっとりサイエンスワールドin鳥取市

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数学月間SGK通信 [2014.09.02] No.027
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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「とっとりサイエンスワールド」in鳥取市(8月31日)に参加しました.
とっとりサイエンスワールドは今年で8年目になり,小さい子供から
お年寄りまで楽しめる市民イベントとしてすっかり定着しました.
学生ボランティア54人(短大・高45人,中9人)を含む先生方150人のスタッフで
運営され,大変さまざまなワークショップがあります.
私は万華鏡のワークショップで参加しました.
1時間のクラスを5回実施し,160人が自分の万華鏡を作りました.
イメージ 1,2
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/03/16089803/img_0?1409575636
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/03/16089803/img_1?1409575636

◆今年,鳥取市で作ったものは,3枚鏡が作る3角形の角が,90°ー36°ー54°のものです.
交差する2枚の鏡が反射を繰り返し生じる結果が群をなすのは
2枚の鏡の交差角が360°を偶数で割り切る角度のときです.
通常の万華鏡はそのような鏡の交差角に設定されます:
例えば,60°(360/60=6).36°(360/36=10)などです.
これは,1817年のブリュースターの万華鏡の特許にも記載されています.
群をなすときには生じる映像は規則正しく美しく見えます.
しかし,今回作成した万華鏡は,3角形の1つの角の交差角だけが
54°(360/54=6.666)と偶数で割り切れません.
このような角度に対応する所はどのような映像が見られるでしょうか?
数学では3周回ってもとに戻る(360°×3)ような空間を想像しても良く,
そのときは10回回転対称が完成するのですが,
実際の物理的な空間の光はそのようには回ってくれません.
他の2つの角の所では規則正しい映像になるのですが,
この角度の所だけ秩序が乱れることになります.
昨年のサイエンスワールドから,このようなシリーズの万華鏡を作っています.

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