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空間のデジタル化

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数学月間SGK通信 [2015.10.13] No.084
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■空間のデジタル化
最近の交通信号は,発光ダイオードのドットが円盤内に配置されています.
本来,円盤内は連続平面ですが,ドットの配置で表現される円盤は,
離散化(あるいはデジタル化)されています.
デジタル化された世界では,ドットを1つ2つと数えることができます.
ドットを十分小さくすれば,ドットはいくらでもこの世界に入ります.
このような世界を,“可算無限”の世界といいます.一方,連続平面は,
点を数えることすらできない“非可算無限”の世界です.
(例)整数や有理数(分数で書ける数)は可算無限個,
  無理数(分数では書けない数)は非可算無限個です
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/44/17032344/img_0_m?1444646310
■無限に続く繰り返し
 周期的な空間-結晶世界
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/44/17032344/img_1_m?1444646310

http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/44/17032344/img_2_m?1444646310
黒と白のタイルでできる市松模様が無限に広がっています.
もし,白いタイルのどれか一つの上にいたとしても,
市松模様の世界は無限に続いているのですから,
そこがいつも世界の真ん中に思えます.
つまり,どの白いタイルもすべて同価です.

この市松模様の世界の周期がわかりますか? 図には,
白いタイルから,隣の同価な白いタイルへの移動を示すベクトル(矢印)
が記入されています.
2次元の世界ですから2つの独立なベクトル a, bが基本周期になります.
白いタイルを基本周期a, bを繰り返して平行移動することを並進といいます.
(注)na+mbは,a方向にn個,b方向にm個の移動(並進)の意味です.
na+mb(整数n,m)の点(格子点)はすべて同価な点で,
これらの集合を格子といいます.
格子点の集合(格子,無限集合)は加法で閉じており
群という代数系になります(これを並進群といいます).

上図の2つの市松模様は全く同じものですが,見渡す方向でずいぶん景色が違います.
このような性質を異方性と言います.
格子点に配置して,重ならず隙が出来ずに平面を張りつめるとき単位となる
ブロックタイル(単位胞)の形はどのようなものでしょうか?
これには色々なものを採用できますが,例えば,横並びの黒白ペアのタイル,
あるいは,a, bで囲まれた平行4辺形などがあります(上図の右側に図示).
その面積はどちらも同じです.
無限に続く周期的な平面は,一つのブロックタイル(単位胞)で平面を張りつめる
こと(デジタル化)ができ,扱うのが簡単です.これに比べて,
周期的でない平面はアナログ平面で簡単化できません.つまり
一様な(平面のどの場所も同価であるような)デジタル化ができません.
デジタル化された信号のような円盤内も,一様でもなければ周期的でもありません.
周期的なデジタル化された空間は“結晶空間”と呼ばれ,
その性質は“格子”で抽象的に表現されます.


■繰り返し模様の観賞法
今年の数学月間懇話会(7/22)で,私は以下の話をしました:

周期的な空間(繰り返し模様)の対称性は有限図形の対称性にくらべて,
なじみのない人が多いようです.
これは,教科書で扱う対称性が有限図形だけであることによります.
しかし,周期的空間=“結晶空間”は,最も基本的なデジタル化された空間で重要です.

デジタル画像や視細胞の配列した網膜など,自然界のほとんどが
デジタル化された平面です.特に,無限に広がる平面を,
一様で周期的にデジタル化した-“結晶空間”-は特に重要です.
結晶の内部構造は,単位となる平行6面体(単位胞)が,
空間を隙間なく埋め尽くしています.
このような例として,平面上の繰り返し模様の数学に親しみましょう.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/566714/68/17037468/img_0_m?1444646276
数学の言葉でいうと,繰り返し模様の対称性(空間群)と
有限図形(単位胞)の対称性(点群)との関係は,
「繰り返しの規則(並進群)を核(法)として,空間群は点群に準同型」
ということになります.あるいは,
「並進群を点群で拡大して空間群が得られる」ということもできます.
準同型という概念の心は,集合のもつ特徴を見つけるのに,
集合の要素の持つある特徴を同値と見做せれば(小異に目をつぶれば),
別の特徴が顕著に見えてくるという事.
日常生活の色々な場面でこの考え方が使えます.
「小異を捨てて大同に就く」といいますが,
「小異を同値と見做すなら,別の違いが見えてくる」
そして,「別の違いがない場合は,大同に就ける」という事でしょう.

平面のデジタル化の一つに,1種類の正多角形で平面を分割すること(正則分割)
がありますが,非ユークリッド平面の正則分割タイル張りに関しても言及しました.

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