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鏡の世界

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数学月間SGK通信 [2016.01.19] No.098
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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鏡は左/右を逆転する(上/下は逆転しない)のが不思議だという人がいます.
そんなに不思議でしょうか?実物と鏡像とは,上は上に,下は下に,左は左に,右は右に映る
(対応する)のですから当たり前で,不思議でも何でもありません.
それでも,鏡像の世界はなんだか不思議な感じがするのは確かです.
この不思議さはどこに原因があるのでしょうか?実物と鏡像を考察してみましょう.
実物は我々の世界にあり,鏡像は鏡の中の世界にあります.
それなのに,鏡像を我々の世界の中にあるように思うことが,この混沌の原因なのです.

■ちょっと脱線ーーーーー
「太古の時代は,我々の世界と鏡の中の世界の行き来ができたそうだ.
(このようなことは4次元の世界なら実際に可能である.)
鏡の中の生き物とこちらの世界の生き物は仲良く一緒にいたのだそうです.
ある夜,突然,鏡の世界の住人達が我々の世界で好き勝手を始めるようになった.
そして人々は,鏡の中の住人の正体が「混沌」であることに気付いたという.
そこで,黄帝が魔力によって「混沌」を鏡の世界に閉じ込め,
姿や動きも我々の世界の模倣しかできないようにした.」*1)
混沌の中から湧き出るように次々と生まれてきたさまざまなものが宇宙を形作った.
そしてこれを神の技として語り伝えられた.

呪文の効果が切れて,鏡の世界の住人達が勝手に動き出すことが将来起こるかも知れない.
私は幻想怪奇小説が大好きです.そのようなテーマの小説*2,3)
のうちで私が好きなものは「パイプをすう男」です:
一人の男が寂しい一軒家に住んでいます.
毎夜,ランプを卓に置き食事をとる.正面の張出し窓の五枚の窓ガラスに,五つの人影が映る.
彼が食事をとれば人影も同じように食事をとって,
彼が食後の煙草に火をつければ,同じように火をつける.
ガラス窓が五稜形をしてるから当たり前だが,毎夜のことだった.
ところが,ある夜,恐ろしいことが起こった.彼は,煙草に火をつけて
いつものように正面の窓ガラスに映る自分の姿に眼をやった.
すると,その一番左の端の窓ガラスで,五番目の彼の姿が同じように火をつけた.
が,つけたのは,彼のように紙巻ではなくてパイプだった.....」*2)

*1)Turbulent mirror, J Briggs & F. D. Peat, 訳:高安秀樹,高安美佐子
*2)パイプをすう男,M・アームストロング,幻想と怪奇 1(ハヤカワ)
*3)わな,H・S・ホワイトヘッド,怪奇幻想の文学(新人物往来社)
ーーーーーーー閑話休題

■鏡映像の左右反転
x軸に垂直な鏡面があるとします.鏡面内に原点(0,0,0)があり,上方向がy軸です.
この鏡面により,(x,y,z)の点は(-x,y,z)の点に映ります.
つまり,y,zは変わりません(上は上に,左は左に対応)が,xは-xに変わります(前向きが後向きに対応).
この鏡面は,xの符号だけ反転します.だから,右手は鏡に映ると左手に変わります.

鏡像は鏡の世界にあるのですが,我々は,鏡の世界を我々の世界の延長のように認識しようとします.
つまり,鏡の世界の天井と地面を,我々の世界の天井と地面と共通のものと直観してしまいます.
そして,鏡像を我々の世界に連れ込んで,前後の向き(鏡像はx方向が反転している)を,揃えようとします.
上下方向(y軸)は,鏡の世界と我々の世界は共通,前後方向(x軸)は鏡像では反転しているので,
我々の世界に鏡像を連れてくるなら,反転したx軸をそろえるため,y軸(左右方向)が反転してしまいます.

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