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数学月間SGK通信 [2016.03.15] No.106
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■ユークリッド幾何
アレクサンドリアにいたユークリッド(300BC)は,「原論」全13巻を著し,これがユークリッド幾何の誕生です.
彼が作った幾何学体系は,演繹を積み重ねて構築されるのですが,その演繹のスタートに,
彼は5つの公準(公理)を設定しました.公準とは無証明の命題で,常識的で直観的に違和感のないものでした.
公準の5番目が平行線に関してです.ユークリッド幾何は,測量や建築や物づくりに古代から活用され,
我々も日常的にその理論の活用をしています.
■非ユークリッド幾何
ユークリッドの第5公準(平行線の公準)を変えると,異なる幾何体系(非ユークリッド幾何)が構築できます.
これを考えたのが,ロバチェフスキー(1829,1840),ボヤイ(1832,1835)です.
ガウスも同時代にすでにいくつかの結論を得ていたのですが発表はしませんでした.
双曲幾何の誕生です.ロバチェフスキーはロシアのカザン大学の数学者,ボヤイはハンガリーの数学者,
ガウスはドイツの数学者で当時すでに大御所でした.これらの研究はそれぞれ独立になされたものでした.
双曲幾何に続き,ドイツのリーマンは楕円幾何を生み出しました.
さらに,リーマン(1854)は,高次元の曲がった空間を扱うリーマン幾何を生み出します.
空間の曲率が楕円的であったり双曲的であったり位置ごとに変わるような空間の幾何学です.
これはアインシュタイン(1915)が一般相対性理論を構築する際に必要となる理論でした.
■非ユークリッド幾何とユークリッド幾何の整合
19世紀末から20世紀初頭に,ケーリー(イギリスの数学者,弁護士),クライン(ドイツの数学者),
ポアンカレ(フランスの数学者)などが,射影幾何やユークリッド幾何空間の中に非ユークリッド空間のモデルを作ります.
機会をあらため,ポアンカレの円盤モデルはもう一度紹介するつもりです.
■射影幾何から非ユークリッド幾何へ
ダビンチなど画家たちは,遠近法や透視図法を古くから用いていました.
デザルグ(17c初頭,フランスの数学者建築家)は,透視図法を発展させた射影幾何の祖です.
ポンスレー(19c中葉)はフランス革命で開設されたエコール・ポリテクニークでモンジュの下で学び,
ナポレオンのロシア遠征に従軍.ロシアで捕虜になっている間に射影幾何学を研究しました.
射影変換というのは,物体から影を作る演算です.射影法には.平行光線や点光源からの発散光線を用いるなど色々あります.射影変換で失われる図形の性質もありますが,保存される性質もあります.
射影変換では,直線は直線に変換されるし,2つの直線の交点の性質も同様に保存されます.
しかし,長さや角度は保存されません.例えば,円を投影すると歪んでしまいます.
それぞれの変換で保存される性質に注目すると,色々な幾何学が生まれます.
群という概念も変換の集合に関する構造で,群に注目してた幾何学もあります.
クラインは,ユークリッド空間を運動群で規定されるものとして定義しました.
射影幾何やアフィン幾何もあるし,ポアンカレらによる位相幾何(図形のつながり方に注目)なども生まれています.
次のデザルグの定理を見るとわかるように,デザルグの定理を3次元で証明するのは容易ですが,
2次元で証明するのは非常に困難です.それは3次元から2次元への射影により,
長さの情報が失われてしまうからです(比率は保存されます).
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■デザルグの定理
△ ABC と△A'B'C'があり,AA',BB',CC'が一点 O で交わるなら,
AB とA'B'の交点 P,BC と B'C'の交点 Q,CA と C'A'の交点 R は同一直線上にある.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568613/84/17335884/img_0_m?1457866730
(これを3次元の中で証明するのは非常に容易です)
この図が紙面に垂直な方向に高さをもつ3次元世界の中に置かれているものと想像しましょう.
△ABC と△A'B'C' は平行でなく,それぞれの三角形を含む平面は,線分QRを含む直線で交差しています.
当然,線分ABは△ABCを含む面内に,線分A'B'は△A'B'C'を含む面内にありますから,
ABとA'B'の交点Pは,両平面の交差する線分QRの延長上にあることになります.
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(参考)ユークリッド幾何学と非ユークリッド幾何学
色々な幾何空間があります.大きく分けて,ユークリッド幾何空間と非ユークリッド幾何空間です.
非ユークリッド幾何空間には,楕円幾何,双曲幾何の支配する幾何空間があります.
我々の常識が通用するユークリッド幾何の世界では,
“直線l外の1点をA通り,その直線に平行な直線“は,唯一本だけ引けます.
平行線が1本も引けない世界や,無数に引ける世界とはどんな世界でしょうか?
これら3種類の幾何空間を,平面を例にとり比較します.
(1)ユークリッド幾何平面 (2)楕円幾何平面 (3)双極幾何平面
例⇒我々の常識の世界 球の表面 ポアンカレの円盤モデル
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/568613/28/17335928/img_0_m?1457866699
それぞれの空間で,“直線の定義を変えれば”,そのようなことが起こる世界があることを納得できるでしょう.
2点間を結ぶ直線とは,その世界で2点間の距離を最小とするものです.
(1)常識の通用するユークリッド幾何平面
2点間の距離が最少なのは我々の知っている直線です.
(2)球の表面は楕円幾何平面の例
球表面の世界では,大円(球中心を通る平面で切った球の表面)が直線です.
地球自体は3次元ユークリッド空間の物体ですが,表面だけなら楕円幾何平面です.
地球上の2点間の距離が最小のものは大圏コースと呼ばれますが,これは地表の大円上の線分のことです.
異なる2つの大円は必ず2点(直径の両端)で交わるので,直線外の1点を通る平行線はありません.
また,地球儀の緯線のようなもの(小円)は大円でないのでこの世界では直線になりません.
(3)双曲幾何平面の例(ポアンカレ円盤モデル)
双曲幾何の世界のポアンカレ円盤モデルでは,円盤のフチに直交する円弧を,直線と定義します.
この世界では,ある直線に対する直線外の1点を通る平行線は無数に引けます.
円盤モデルの世界では,円盤のフチ(地平線)に近づくほど見かけの距離はどんどん縮んで見える
[あるいは旅をする自分がどんどん縮む]ので,永久に地平線に到達できません.
このような世界の最短距離(直線)は円盤のフチに直交する円弧となるのは納得できるでしょう.