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ベルヌーイ家の遺した数学

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数学月間SGK通信 [2017.10.31] No.191
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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台風が来たり急に寒くなったりですが皆さまお変わりありませんか
私は風邪をひきそうでちょっと疲れが出てきました.皆様お気を付けください.
今日は,「数学文化」28号(2017.8)に掲載した私が書いた書評から一部抜粋し転載します.
ベルヌーイ家の遺した数学,松原望(東京図書)についてです.
この本は,数学も物理も一緒だった興味深い時代のベルヌーイ家が舞台です.場所はスイス,バーゼル.
今日は,物理学と数学は分離し,数学は高度に抽象化してしまったが,ベルヌーイ家の時代はそうでなかった.
物理の研究に必要な数学が,自分の手で次々に開発されていく時代でした.

■数学と物理の歴史で,血沸き肉躍るエポックメーキングな時代が2つある(私にはそう思える).
一つは,この本のテーマの「ベルヌーイ家の時代」17c~18c.
もう一つは「量子力学の誕生前夜」20c初頭~中葉である.
その時代の当該分野の研究者たちは,実に楽しかったろう.うらやましい限りだ.
後者の「量子力学の誕生前夜」,すなわち,前期量子論の幕開けは,
光電効果(アインシュタイン)や,原子のスペトルなどの現象が,
当時の物理のパラダイムでは説明できないことから始まった.
X線の発見(レントゲン)は20cの夜明に相応しく,
有名なラウエの実験やブラッグ父子による結晶の原子的内部構造の解明へと発展し,
「原子・量子」のパラダイムが出来上がった.この「原子・量子」の時代の到来は,
本書に登場するダニエル・ベルヌーイが先駆となる統計力学,気体運動論の後に続くものである.
「原子・量子」の幕開(20c)けに必要となる数学は,17c~19cに,すっかり準備されていたことは興味深い.
その中心が「ベルヌーイ家の遺した数学」である.

結晶空間群の数え上げは19c後期だが,17cにはアウイなどによる結晶面の有理指数の法則が知られ,
これは,結晶内部が単位胞の積み重なったデジタル空間であることに他ならない証拠である.
固有値問題を解くための行列論は19c中葉だが,18世紀初頭には,ヨハン・ベルヌーイとダニエル・ベルヌーイ,
ダランベールおよびオイラーらが,弦の運動で固有値問題を研究している.
量子力学で使われる波動方程式の一般解は,18cにダランベールにより研究されたが,
18c末に境界条件下の波動方程式の解法にダニエル・ベルヌーイがFourier級数を用いたことが本書に紹介されている.
Fourier解析は19c初頭にはフーリエが発明している(厳密な証明は後の時代を待つ).
ニュートン力学を一般化し,どんな問題にも容易に適用できるようにした解析力学の誕生は,
ベルヌーイ家の大きな遺産と言えるだろう.
モーペルテュイは,始状態から終状態への運動経路には,作用と呼ばれる積分量が定義でき,
作用が最小となる経路が実現される.「これが物理学のみならず,万物の運命を決める原理である」
という着想ー”最小作用の原理”ーを得た.
正確には,「作用が停留値をとる経路が実現する」というのが正しいことが後に分かるのだが.
オイラーは,モーペルテュイの作用量の定義を積分に拡張し,さまざまな力学課題に適用できるようにし,
これを解く変分法を発明したのは若いラグランジュであった.
変分法で導かれる運動方程式が,オイラー&ラグランジュ方程式という所以である.
変分法は,最速降下曲線を求めるというベルヌーイ家からでた問題に端を発したもので,
解析力学を生みその形式が量子力学にもつながることになる.
変分法は,ベルヌーイ家の最大の数学遺産といっても過言ではないと思う.

脱線ついでに,数学の歴史でエポックメーキングな時代は,私の好みでは,
「非ユークリッド幾何」の発見の時代(ガウス,ボヤイ,ロバチェフスキ,リーマン,ポアンカレ),
もう一つは,マンデルブロが開拓した「フラクタルの時代」だと思う.
カントール,コッホ,ペアノ,シェルピンスキーなどのフラクタル曲線は至る所ギザギザで微分できない.
これは,ヨハン・ベルヌーイ時代に,盛んに研究された曲線とは全く異なる範疇のものである.

■お知らせ
数学月間勉強会(第3回)
結晶空間群で数学と物理を学ぼう
12月12日,14:30-17:00
東大出版会,会議室(駒場留学生会館の敷地内の奥.東大構内ではありません)
詳細は,数学月間ブログなどに掲載しています.
問い合わせ先:sgktani@gmail.com

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