2020年4月の記事一覧

COVID-19感染拡大シュミレーションの数理モデル★

新型コロナウイルスの感染拡大が続いています.皆様お元気でしょうか.注意してお過ごしください.
緊急事態宣言下で,人と人の接触機会を最低7割,極力8割の削減を,政府は目標に掲げています(朝日新聞デジタル).
接触機会をある閾値下に削減すると感染が減衰し収まるわけです.数学月間の会の石黒真木夫氏が,マクロの数理モデルでシミュレーションを行いました.その結果は,youtubeチャンネル「NPO数学月間の会」にアップロードし公開しました.そのリンクを探すには,数学月間のホーム・ページhttp://sgk2005.saloon.jpにアクセスします.現在そのトップ頁に掲載しています.そこで用いたシミュレーションのエクセルファイルは,同ホームページの記事中にリンクを張りましたので,各自がダウンロードしてシミュレーションを体験することができます.参考論文(西浦博・稲葉寿)へのリンクも,同ホームページの記事中に置きました.
*youtubeチャンネル「NPO数学月間の会」の動画へのリンクは,数学月間の会のホーム・ページにアクセスし,youtubeチャンネルのタブを開くとそこに置かれています.

(1)石黒のシミュレーションの概要
ある人口集団を,未感染者,ウィルス感染源,免疫獲得者,死亡者に分類し,未感染者がウィルス感染源の一員と接触すると,ある感染確率で未感染者が感染してウィルス感染源となる.ウィルス感染源のウィルス拡散は14日間つづき,14日目に「死亡率」に従って死亡者と免疫獲得者に分かれ,免疫獲得者はもはやウィルスを拡散することも再感染することもなくなる.このようなルール(数理モデル)でシミュレーションを行った.このモデルに基づくと,時間の経過とともに未感染者は単調減少し,免疫獲得者は単調増加するので,感染の流行はかならず止まる.しかしそれは集団全員が感染した後である.

感染確率と死亡確率を適当に与えれば,シミュレーションは簡単である.いまの計算機をもってすれば人口集団の各個人の命運をたどるミクロシミュレーションもさして難しくない.ここで紹介するのは未感染者やウィルス感染源集団の大きさの変化を追跡するマクロシミュレーションである.確率的な現象の「期待値の動き」を追いかける決定論的なダイナミクスを採用する.もし,ミクロシミュレーションをして,算術平均の変化を見るとマクロシミュレーションの結果に「誤差」が乘ったような動きになるだろう.
石黒シミュレーションによる発見は,減少の後に揺り戻しが付随していることである.そのような波動を繰り返しながら徐々に減少し収束していきます.ワクチン等の発見がなくこの状態が続けば,ときおり感染者が増加する波動を繰り返しながら,生存者全員が免疫を獲得するまで続き.その間多数の死者がでるでしょう.

(2)ミクロシミュレーションについて
講演会「数学と生命科学--数理モデルを中心として」
主催:上智大学理工学部数学科/情報理工科(「数学月間」参加プログラム)
があったのは2008年8月4日(月)のことです.この中の講演に,「感染症対策における数理モデルの役割」(大日康史,国立感染症研究所)というのがありました.今回のCOVID-19の感染拡大にあたり,この国立感染症研究所の感染症対策のシミュレーションが,タイムリーに政策に活かされているとは思えません.原発事故の当時SPEEDIの結果が活用されなかったのに似ていると私は思います.

■感染症対策における数理モデルの役割,大日康史(国立感染症研究所)の概要
数理モデルによる感染拡大のシミュレーションは,新型インフルエンザやバイオテロなどの対策の有効性評価に必要である.
数理モデルには,SIRモデル,ibm(IndividualBasedモデル),Ribm(Realibm)などがある.
本研究で用いたRibmとは,実際に調査した個人の移動,所在の記録データ(首都圏では88万人)にもとづき,
6分ごとに人々の接触状態(感染の機会)が定義されるものである.新型インフルエンザには,種々のタイプがあり鳥類間の感染は起こるが,鳥から人への感染は血液の濃厚接触などの場合に限られる(豚と人の感染するインフルエンザのタイプは似る).人に感染した場合に,人から人への感染が始まり拡大していく.シミュレーションには,例えば以下のシナリオを用いる:(第1日)初発例が外国で感染.(第3日)帰国.帰宅後(八王子)感染性を持つ.(第4日)出社(丸の内).発症.(第5日)国際医療センターに受診.東京都健康安全研究センターで検査診断.(第6日)対策へ:シミュレーションの結果である首都圏への感染拡大の様子や全国への拡大の様子が示された.どのような対策(外出自粛,地域閉鎖,休校,住民全員が予防服用,....)をとると効果があるかが予測できるシミュレーションが示された.

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ストークスの法則

■堆積岩は,岩石の砕屑物が水中で堆積して生まれたものです.この堆積物には,火山灰など火山由来のものも,石灰岩のような生物由来のものもありますが,岩石の風化などで生じた砕屑物は,その粒径により,礫(2mmより大きい),2mm以下の細かい粒径のものは,砂($$2>・・・>1/2^4$$),シルト($$1/2^4>・・・>1/2^8$$),粘土($$1/2^8>・・・$$)に分類されます.
静かな水中で,様々な粒径の砕屑土砂が沈降していくときの終端速度(一定になった速度)は,ストークスの法則で見積もることができ,大きい粒子の終端速度は大きく,小さい粒子の終端速度は小さいことがわかります.洪水で河口に運ばれてきた大小混合の砕屑物は,河口近くに大きい粒子を堆積させ,離れた海へ運ばれて堆積するのは小さい粒子ということになります.

■粘性液体中を静かに沈降していく粒子の速度が一定(終端速度)$$v$$のとき,次のように記述できます.
粒子は小さな球形で直径$$ d $$,密度を$$\rho _{s}$$とし,粘性液体の粘度$$\eta$$ ,密度を$$\rho_{f}$$ とします.
微粒子に働く力が釣り合うと(加速度0になり),粒子は一定速度(終端速度)で沈降します.つまり, 
重力$$=$$浮力$$+$$抵抗力,あるいは,重力$$-$$浮力$$=$$抵抗力  
従って,$$\displaystyle \frac{\pi ^{2}d^{3 } }{6}\left( \rho _{s}-\rho_{f} \right) g=3\pi \eta dv$$,ただし,$$g$$は重力加速度.
これを解いて,
$$v=\displaystyle \frac{\left( \rho _{s}-\rho_{f} \right) g}{18\eta }d^{2}$$
これがストークスの式です.

■ストークスの式を使って,水中の球形石英粒子の沈降速度を求めると,粒子径1 µm(粘土)の沈降速度は0.0001cm/s(およそ30m/年),粒子径10 µm(シルト)の沈降速度は0.01cm/s(およそ3000 m/年),少し大きな粒子径1 mm(砂)の粒子は1 m/sの沈降速度です.実験との比較では,100μm以下ではストークスの式はほぼ成り立ちますが,1mmになるとストークスの式から外れ沈降速度が大きくなります.これは,粒子径が大きくなると,沈降粒子の背後に渦流が発生しストークスの式が適用できないからです.

もし,水よりも粘性の大きい,あるいは密度も大きい分散媒を用いれば,もっと大きな粒子までストークスの式が適用できます.
私は,万華鏡の設計で,分散媒の中を沈降するガラスくずの速度を考察するのにストークスの式を用いました.

 

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