2016年3月の記事一覧

周期的空間の数学

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
数学月間SGK通信 [2016.03.22] No.107
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
早いもので桜も咲き始めました.皆さまもお変わりなくお過ごしのことでしょう.

周期的空間(2次元に限定すれば壁紙模様)の数学-結晶空間群-の平易な解説法を色々工夫しています.
理論の本質が理解できるようにして,数学的な記述は最小限にしようとしています.
しかし,ある程度の数学的な記述をした方が反って理解し易いのです.
そこで,以下の様な記述に落ち着きました.皆様如何お感じでしょう.ご意見ご感想をお聞かせください.
さらに改良に活かしたいと思っています.
ーーーーー
有限図形の対称性を扱うのが点群.繰り返し模様(周期的な空間)の対称性を扱うのが結晶空間群です.
有限図形の対称性に比べて周期的な空間の対称性はなじみのない人が多いようです.
しかし,周期的な空間はとても重要です.例えば,もし体が縮む薬があり原子の大きさ位になって
結晶の中に入り込んだら,そこは無限に繰り返す世界(=結晶空間)です.
ここで,点群から空間群への拡大方法にちょっと言及しておきましょう.
原理の骨格を簡明に示すために,扱う周期的空間は2次元(平面)に限定しました.
2次元での繰り返し模様(=壁紙模様)は,エッシャー〈1944頃)の作品に見られます.

(1)格子
2次元空間では,互いに独立な2つの基本並進ベクトルa1,a2がとれ,
a1,a2の整数係数の1次結合をすべて集めたT={h・a1+k・a2丨h,kは整数}を,
この平面の格子点の集合(あるいは単に“格子”)といいます.
集合Tは無限集合になりますが, 群の条件を満たしており,Tを並進群とも呼びます.
ブラべ格子とは,結晶点群の対称性を基準に,格子のタイプ分類をしたものです.

(2)点群一有限図形の対称性一
1点の周りの対称操作(点群の対称操作)を考察しましよう.
回転対称軸には,1, 2,3,4,5,6,・・・,∞回(回転対称)軸があり得ます [何もしないのは1回軸].
n回軸Cnとは,360°/nだけの時計回りの回転操作で,n回続けるとCn^n=360°=0°(mod 360°),
これは恒等操作1です.回転操作Cnからは,回転群Cn={Cn,Cn^2,…,Cn^n=1}が生成されます.
その他の2次元点群で見られる対称操作には,鏡映m [対称心-1は,2次元空間では2回軸と同じ]があります.
鏡映操作mが生成する鏡映群はm={m,m^2=1}
(注)mod360°とは360°回転したら同じものとする[360°を法として同値]という意味です.
別の例では,時計の文字盤があります.我々は13時のことを1時とも言いますが,
これは,mod12[12を法として同値]を用いた結果です.

(3)結晶点群一格子と両立できる点群一
結晶では,点群の回転対称性と並進群(格子)の対称性とが両立しなければなりません.
2,3,4, 6回軸は,それぞれに両立できる格子 がありますが,5回軸の場合はどうでしょう.
1つの5回軸が支配する局所的な作用域として正5角形タイルを描きます.
平面に周期があり複数の5回軸が配列している状態を考えると,各5回軸は自分の局所的な作用域
(正5角形タイル)内でのみ有効なのではなく,全域でも有効です.
各5回軸の局所的な作用域は,互いに他の5 回軸により変換し合い,全体として不変な配置となるべきです.
これは2次元平面を正5角形タイルで隙間なく張り詰めることと同じで,そのようなタイル張りは実現不可能です.
したがって,5回軸と両立する格子はあり得ません.7回以上の回転対称軸に関しても同様で,
結局,格子と両立できる(=結晶空間で許される)回転対称は,2, 3,4,6回軸に限られることになります
[ただし,2次元,3次元空間 での話].

(4)空間群の作り方〈2次元の場合)
2次元空間では,10種の結晶点群G:1,m,2=-1,2mm, 3,3m,4,4mm,6,6mm,
および,5つのブラべ格子T:clino-P (斜交単純格子),ortho-P(直交単純格子),
ortho-C (直交C面心格子),tetra-P(正方単純格子),hexa-P(六方単純格子)が数え上げられます.

周期的な空間での対称操作が作る群が結晶空間群で,結晶空間群Φの要素は,
結晶点群Gの要素と並進群Tの要素との積(結合)です.Φ=G×T

壁紙模様の平面群17種の構成を見てみましょう.
壁紙模様は,1つの“モチーフ”(=単位胞の中身)を無限にある格子点の上に配置して構成されています.
格子点は無限にあり,どの格子点にいても常に世界の真ん中ですから,
「格子点距離の倍数だけ移動した点はすべて同価」との見方をします.
これを“格子を法として(mod T)同値”と言います.無限に繰り返す“モチーフ”の分布を,
単位胞内の1つの “モチーフ”に還元できます.
[準同型写像で,Φ/T=G のように表現します.ただし,並進群TはΦの正規部分群であることを用いています]
この見方をさらに進めると,“モチーフ”内部の対称性を記述する結晶点群G自体も,
格子を法として(mod T)閉じればよく,G(mod T)と拡張でき,
拡張された結晶点群G(mod T)と並進群Tとの積で作られる空間群もあります.
このような夕イプの空間群には, 映進面(鏡映 + 鏡面に平行に格子距離/2の並進),
n回螺旋軸(360°/nの回転 十 軸方向に格子距離/nの並進)などの操作があります.
ただし,螺旋軸が現れるのは3次元以上の空間です.
例として,平面群P2mm, P2mg, P2ggの作り方を図示します
(注)頭のPは格子を表し,続く2mmなどが結晶点群の対称要素です.後者の2つ平面群には,映進面gが現れます.
Fig
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/17/17352517/img_0_m?1458546408

http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/17/17352517/img_1_m?1458546408

0