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÷と×の演算の順序

60÷5(7-5)=?
この答えは24ですか6ですか
60÷5x2=?と聞かれれば,24と迷わず答えられる人が,なぜ6と答えたくなるのでしょうか.これは5と()の間にxが書かれていないことが心理的に影響すると思います.
5(7-5)は文字式のような錯覚に陥り,ひとまとめにして数値を出したくなります.÷とxの演算が並んだ式は,前から順番に演算するのが決まりです.割り算を使わず掛け算だけで書き直すこともできます.例えば,
60÷5x2=60x(1/5)x2 のようにです.
60÷5(7-5)=を,分数で書いてみましょう.しかし,5だけが分母に来るのか,5(7-5)が分母に来るのか不明確です.(60/5)(7-5)のことなのか,60/(5(7-5))のことなのか,かっこを1組追加すれば明確になります.

逆ポーランド式に,二項に対する演算の繰り返しとして計算手順のグラフを書くと,解釈の異なるそれぞれの計算手順は表紙カバーの図のようになります.

 

 

 

 

 


■さて,文字式の場合は係数と文字の間のx記号は省略されるのが普通です.9a^2÷3a=の答えは,3a か,3a^3 のどちらが正しいのでしょうか?
雰囲気的には3aですが,式の機械的な記述は曖昧です.
このような曖昧さを避けるために,()を用いて明確にすべきです.
9a^2÷(3a)=3a あるいは,(9a^2÷3)a=3a^3 のようにはっきりさせましょう.

■ここまでの記事を,私がメルマガに掲載したことがあります.すると,以下のコメントを読者からいただきました.この問題はなかなか面白いですね.ここに掲載させていただきます.

理学系では『省略演算の優先』を意識している傾向がいくつか見られます。たとえば化学業界では省略演算は優先することが国際的なルールとして明記されていて、先の計算は6と答えなければならないように定められているそうです。
また、物理学のフィジカルレビュー誌の投稿規定にも同様な省略演算の優先が書かれているということですので、こちらも6と答えることが義務付けられていることになります。
算数の世界では、帯分数の計算部分に同様な様子が見られます。{以下テキストの都合上帯分数には()をつけ、整数部分と分数部分の間に『と』を挟みますが、実際には無いものと思ってください}
(2と1/3)×3 は,2+1/3×3 なら,+より×優先なので =2+1=3 と計算するはずですが、実際には省略演算である+を先に行い、7/3×3=7 と計算します。
ところで、マセマティカで計算すると、メルマガの計算は24が出力されるようです。ソフトのいくつかは24を出力すると聞いています。
以下は想像です。
理学系では古くから省略演算を優先する感覚があったため、そのようなルールが少なくとも上記の物理化学ではルールとして明記された。数学はともかく算数でもそのように教えている部分がある。
一方で後発の計算機業界ですが、こちらはそもそも昔は省略演算は文法違反でエラー扱いでした。それがハードが強力になり対応可能となった時に、理学系の慣習など頭になく、ただ省略演算を補うだけだったために、結果24と計算するソフトが多いのではないかと。実際、カシオの関数電卓では、古い機種では24を答えに出し、新しい機種で6を出力するケースを確認しています。おそらく化学業界あたりから苦情が来てユーザーニーズに合わせたのではないでしょうか?
数学では化学業界と違って国際組織が演算順序をルールとして明記するなんて多分やってないと思います。×が+に優先するなことすら学会による明文化はなく慣習によるものだと思われます。明文化されない以上慣習として定着するまではどちらが正しいとは言い切らないのが無難に思います。ただ、化学業界のルールでも但し書きとして、『ただし、誤解を招かないよう括弧を十分に補うことを推奨する』とあるそうですから、メルマガの式は
(60÷5)(7-5) なり、60÷(5(7-5)) なりにするのが大人の対応ということになりそうです。

縞模様形成とチューリングの反応拡散系

 

 

 

 

 

 

 

 

エンゼルフィッシュの縞模様やヒトデの星型はどうしてできるのでしょうか?
コンピュータの発明や暗号解読で有名な天才数学者アラン・チューリングが,”The chemical basis of morphogenesis”という論文を1952年に発表しました.今日,受精卵が細胞分裂を繰り返し分化し生物組織が出来ていく胚発生過程は遺伝子情報にプログラムされていることは公知です.1952年にチューリングが発表した理論は,「反応拡散系」が条件を満たせば,パターンや構造を自己成長形成するというものです.反応拡散系と言うのは,2つの物質(モルフォゲンと呼ぶ)が,反応し合いながら組織を介して拡散するもので,初期状態は均一であったものが,ランダムな外乱により,物質の濃淡の波が生じその波が生物の形や模様をつくりだすというものです.この数式でつくり出される模様は「チューリング・パターン」と呼ばれますが,コンピュータ・シミュレーションで描き出すと,条件により,動物の模様にそっくりな縞模様が出現したり,ヒトデの形を作ったりします.手の指が形づくられていくのは,その設計図が遺伝子により決定されているからと考えられていますが,もしかしたら,「指の形成はチューリングの理論のように波がつくっているのではないか」という論文が最近発表されたそうです.遺伝子はからだの構造の基本を決める設計図で,例えば,肺の形成の初期に気管支の分岐などを作るが,細かい肺胞の形成まではその設計図には書かれておらず,チューリング理論のように,現場の細胞同士のやり取り(反応と拡散)で作り上げられて行くのだろうと,近藤滋氏は言っています.

1952年に提唱されたチューリング理論は,現実の生物分野でそのような実験的証拠がなかったので,その後長い間,机上の空論と思われていました.1995年,近藤滋は,海洋エンゼルフィッシュのポマカンサスには,縞模様が皮膚に固定されていないことを発見しました.体の成長とともに,単純に比例して拡大する哺乳類の皮膚のパターンとは異なり,ポマカンサスの縞模様は,体の成長にともなうパターンの連続的な再配置が起こる.そして,縞間のスペースが維持されるという実験事実を観測しました.

実際,チューリング理論に基づくシミュレーションは,成長とともに形成されるパターンを正しく予測できたので,この理論の正しさを支持するものです.

■ チューリングの反応拡散系方程式
存在する2つの物質(モルフォゲン)が,反応したり拡散したりするのは,遺伝子情報で制御されるわけでもなく単純な化学反応で,以下の連立方程式で記述できます.u(t,r),v(t,r)は振動し,いろいろな形が形成されます.

 

■チューリングの反応拡散方程式の解の安定性を調べる数学について
(解が不安定(暴走)では,縞模様ができません)
数式を多用することができませんので,ここでは,言葉で説明するにとどめます.⇒ Texによる数式追補http://sgk2005.saloon.jp

反応項 f,g はそれぞれ物質の濃度 u, v の関数で,平衡点の周りでテーラー展開(1次の項まで)して線形化します.このような連立線形微分方程式の性質は,ヤコビアンと呼ばれる行列Aで決まるが,この行列Aの固有値の実部がすべて負であれば,解は安定になります.
行列Aの固有値を求めるのは面倒なので,条件を緩くして,行列Aの対角要素の和(固有値の和に同じ)が負であるとし,さらに,拡散係数も0の場合から始めると,結局,f_u+g_v<0が得られます.
これは,f_uとg_vが異符号で負の絶対値が大(促進剤と阻害剤が拮抗して働き,若干,阻害剤が強い)の条件を意味し,このようなときに縞模様が形成されます.

インドラの網と反転円


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


表紙写真のグラス(リュミナルク製)のデザインは,こちら側の模様の円が凹レンズとして働き,向こう側の模様の円を円内に縮小して映し出すので,あたかもアポロニウスの窓のようです.

■映像が果てしなく繰り返す「インドラの網」
網の上に置かれた真珠は互いに反射し合って,他の真珠を映しだすだけでなく,映っている他の真珠の映像の中に自身の姿をも映しています.世界全体が真珠一つ一つの上に映り,またその姿が別の真珠に映り,これが永遠に続くのです.「インドラの真珠」D.マンフォード, C.シリーズ, D.ライト, 小森洋平 (翻訳),日本評論社は,美しく興味深い数学の本です.

この美しい図形の2次元版は,「アポロニウスの窓」ApolloniusGasketとも呼ばれます.
互いに 接し合う3つの円に接する第4の円を描くのですが,これを次々と繰り返して,どんどん小さくなる円で埋め尽くされる円盤内の世界はフラクタルです.
4つの円の曲率(半径の逆数)をa,b,c,dとすると,
2(a^2+b^2+c^2+d^2)=(a+b+c+d)^2 という,デカルトの発見(1643)した定理が成り立っています.
(参考)⇒三角形の七不思議 (ブルーバックス), 細矢 治夫

■反転によるフラクタル構造

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2つの円β,γが互いに接し,かつそれらがアポロニウスの窓の外周円Ωとも接しているとき,これらの接点を通り外周円と直交する円(赤色)を考えましょう.すると,この円で分断された2つのアポロニウスの窓の世界(若草色と黄色)は,この円(赤色)を反転円として,互いに鏡像(反転鏡映)となっています. もし反転円がどんどん小さくなれば,
その小さな領域に大きな世界がどんどん繰り込まれていくので,不思議なフラクタル世界 の美しさが見られます.表紙の図はこのような様子を表しています.色々な反転円を考えれば,無限にある大小さまざまな大きさの円は,
みんな同じ大きさであるとも言えます.それゆえに,円盤内の世界は無限に広いと言い張るのも良いでしょう.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上図は Cinderellaというフリーソフトを用いて描きました.

■円による反転

中心Oの半径rの円による反転は,反転円外の点r1を反転円内の点r2への写像
で,反転像どうしは,r1・r2=r^2を満たします.
もし,反転円の円周上に点があれば,反転像は元の点と同じ位置です(r1=r2=r).
反転操作では,円は円に写像されます.もし,反転円に直交するような円周の円をこの反転円で反転すれば,同一の円の上に写像されます.したがって,円周に直交するような反転円で分断された円の2つの部分は,反転円によるそれぞれの鏡像になります.

反転円が直線なら,反転鏡映は普通の鏡映像になります.
直線鏡の組み合わせで作られる映像は,良く知られた万華鏡ですので,反転円を用いたインドラの網の鏡映像も拡張された万華鏡の映像とみなせます.

■仏教では,「宇宙の一切のものが,一切のものの原因になっていて,
無限の過去からの無数の原因が,どの一人にも,それぞれ反映されている」と考えます.これはまさに単純な因果列ではなく複雑系の考え方ですね.
宮澤賢治に「インドラの網」という小品があります.インドラの網目に縫い付けられた珠玉は,互いに映じ合うと同時に,自分自身も輝いています.

この項目は,反転円の幾何学のほかに,フラクタル,複雑系,双曲幾何の円盤モデル,エッシャーの不思議な世界,万華鏡,などに関連があります.
これらは順次取り上げる予定ですが,拙著「美しい幾何学」技術評論社(2019.9刊)をご覧いただけると幸いです.

反転の利用ーパップスの定理

■円による反転鏡映の性質
①反転円の円周上の点は,反転しても元の点と同じ位置.
②反転では,円は円に変換される(直線も半径∞の円の仲間)
下図に反転円(赤い円)による,反転鏡映の例を示します.
●図1・反転円Oと交差する円Cは,交差の2点を共有する円cに変換される.
●図2・反転円Oと直交する円Cは,自分の上に変換される.
円周に直交するような反転円で分断された円の2つの部分は,反転円によるそれ
ぞれの鏡像になる.
●図3・反転円Oの中心を通る円Aは,直線aに変換される.
特に,円Bが反転円Oと交差する場合は,交差する2点をよぎる直線bに変換される.
③反転円が直線なら,普通の鏡映像になります.
直線鏡の組み合わせで作られる映像は,良く知られた万華鏡です.
反転円を用いたアポロニウスの窓も拡張された万華鏡の映像と言えるでしょう.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■反転の利用

反転の性質を使うと,パップスの定理の様な難しいものを簡単に証明できます.

このような図形はアルベロス(靴屋のナイフ)といいます.
この中に面白い幾何学があります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

円弧αと円弧βに挟まれたア
ルベロスの領域に,互いに接す
るように円のチェーンω0, ω1,
ω2, … があるとき, 円ωnの
中心と直径ABとの距離は円ωn
の直径のn倍である.
(パップスの定理)

 

 

 

 

 

 

[以下の証明ができます]
円ω2の中心は,線分ABから円ω2の直径の2倍だけ離れていること.
① 点Aから円ω2へ接線を引く.両接点を通りAを中心とする円γは,円ω2
と直交します.(なぜなら,円の接線は接点での半径と直交するから)
② γを反転円にして,色々なものを反転してみましょう.
円ω2 は自分自身に.円α,β は,それぞれ 直線α’,β’に,
円ω1,ω0 は,それぞれ円ω1’,ω0’に,なります.
③ 円ω2,ω1’, ω0’の直径はすべて同じだから,パップスの定理が証明
された. (なぜなら,平行な直線α‘とβ’に挟まれているから)

 

コクセターの万華鏡とメビウスの万華鏡

■楕円幾何平面の正則タイル張り
球表面が球面正p多角形タイルで{p,q}のように張りつめられているとき,1つのタイルの中を2p個の直角3角形に分割できます.この直角3角形を鏡室とする万華鏡を“メビウスの万華鏡”と名付けます.このときの直角3角形(鏡室)の内角は,それぞれ π/p,π/q,π/2で,この直角3角形を(p,q,2)と略記します.

■双曲幾何平面の正則タイル張り
ポアンカレ円盤の双曲幾何平面が,双曲正p多角形で{p,q}のように張りつめられているとき,1つのタイルを2p個の直角3角形に分割できます.この直角3角形を鏡室とする万華鏡を“コクセターの万華鏡”と名付けます.
双曲面の{6,4}正則分割を例に,直角3角形(6,4,2)(赤い3角形)を図(左)に,対応する“コクセターの万華鏡”の映像を図(右)に示します.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■双曲面{6,4}分割の場合の“コクセターの万華鏡”を作る

双極面{6,4}分割の映像を,3角形の万華鏡で作るには,双曲面直角3角形(6,4,2)を用います.この3角形の2辺は平面鏡,残りの1辺は円盤のフチに直交する円弧鏡よりなります.この円弧鏡は,数学的には反転円として定義できるのですが,現実の円柱鏡の反射には収差があるので,数学の定義のように鮮明な万華鏡映像を作るのは困難です.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■エッシャー作品の生まれるまで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  (1)               (2)                  (3)

(1)コクセター:直角3角形(6,4,2)による双曲面の{6,3}分割の細分
(2)エッシャー:直線魚のモチーフ
(3)エッシャー:「極限としての円Ⅰ」CircleLimitⅠ

コクセターとエッシャーはオランダで開催された1954年の国際数学者会議で出会いました.1958年にコクセターはこの分割を掲載した論文*をエッシャーに送り,これがエッシャーの「極限としての円」の作品群(Ⅰ~Ⅲ)を生むことになります.

*By S.H.M.Coxeter
Crystal Symmetry and ItsGeneralizations (published in the Transactions of the RoyalSociety of Canada in 1957).

エッシャーの「極限としての円」

■エッシャーのトリック(引用先:コクセター論文)
M.C.エッシャーの「極限としての円」Circle limit IIIを鑑賞しましょう(図左).
この円盤内は双曲幾何の世界(ポアンカレの円盤モデル)です.
この円盤内を旅する人は,円の縁(世界の果て)に近づくほど時間がかかる.つまり,[世界の果てに到達するには無限の時間がかかる]ようになっています.
この世界で定義される直線(最短時間で移動できる経路)は,円盤世界の縁で直交する円弧です.
エッシャー作品(図(左))の円盤は,魚の流れを示す白い線で分割された双曲面の[4,3,4,3,4,3]分割のようにも見えますが,実は,図(中)に示すような,黒い線で分割した{8,3}正則分割です.
白い線は,双曲幾何の円盤世界の縁に80°で交差し,直線ではないのです.
図(中)の正8角形の黒い線がこの円盤世界の直線であることは,図(中)に書き込んだ赤い円弧(いずれも円盤縁で直交する円弧)を見れば理解できるでしょう.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


双曲平面の正8角形タイルは,双曲平面の直線(円盤の縁で直交する円弧)で囲まれています.
タイルの大きさは円盤の縁に行くほど小さく見えますが,円盤内は無限に広い双曲幾何平面なのですべて同じ大きさです.
1つのタイルの中には4匹の魚がおり中心に4回軸があります.
正8角形の頂点には3回軸があり,魚の白い流れは3回軸の場所に集まっています.
エッシャーは{8,3}分割に用いる直線をわざと隠し,白い流れが分割であるようなトリックを見せます.もちろん,白い流れの円弧(直線ではない)に関して鏡映対称はありません.


参照:「美しい幾何学」p.142,143

パイレックス・ガラスを惜しむ

■パイレックス・ガラスとは

シリカガラスSiO2の軟化点は1700°Cと高温です.ガラスには明確な融点はありません.初めから乱れた構造ですから液体状態の固体ともいわれます.固体での変形が起こるのは軟化点~1900°Cあたりまでで,それ以上の温度では液体になります.シリカの正4面体ネットワーク中の所々にCaイオンやNaイオンが入ったものが,ソーダーライムガラス(青板ガラスとも呼ばれる)で,ガラスの融点も軟化点も下がり成型が容易になります.しかし,Naの熱振動振幅は大きく,ガラスの熱膨張率は大きくなります.ホウケイ酸ガラスは,ホウ素Bを添加したガラスで,ナトリウムNaの量を減らせるので,熱膨張率を小さくできます.これがpyrexパイレックスガラス(Corningの商標)で軟化点は820℃位で,Nonexという非膨張ガラスの処方も開発されました.パイレックスガラスは,キッチンのベーキング皿にも,温度計にも,ビーカーなどの理化学機器にも,1949年に完成したパロマーのヘール望遠鏡の巨大鏡(回転放物面)にも使われています.この巨大鏡はパイレックスガラスの直径5mのガラスのキャストディスクで20トンもあります.この巨大なガラスのキャストディスクの製造では,アニーリング・オーブンに入れて10か月もかけて徐冷したそうです.これを現場に運び凹面(回転放物面)に研磨しました.


■パイレックス・ガラス製造中止
2008年3月14日に パイレックス・ロール板の生産中止をコーニング社は決めました.パイレックスと言えば耐熱ガラスの代名詞で,理化学機器にも使われていますが,望遠鏡用の 大きなガラスも作らなくなりました.どうなることか心配です.
今日,コーニング社の製品は,スマートフォン用のGorillaGlassというカバーガラスやエレクトロニクス用の薄い強化ガラスにシフトしたようです.

以下の写真はコーニングガラス博物館の様子で面白そうです.


https://media-cdn.tripadvisor.com/media/photo-m/1280/19/bd/64/98/corning-museum-of-glass.jpg

非可積分の方程式をコンピューターが解く

 

 

 

 

 

 

 

 

力学系を記述するラグランジュ方程式は作れるのだが,これが解けるとは限らない.
物理の演習では,解けるものしか扱わなかったのです.
実際の世の中は,解を関数で記述できない(解けない)方程式が大多数です.
系の運動を支配する法則(ニュートン力学の方程式)は明確なのに,解が関数で記述できないのだ.
でも解は存在するのです.コンピュータによる数値計算により,運動は逐一決定できる.
しかも,予想もつかない挙動ーカオスーが起こる.このようなことを最初に指摘したのはポアンカレでした.

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
●1766 オイラー「変分法の原理」
    (オイラー, ラグランジュ)

●1800 ラグランジュ「解析力学」
  エネルギー散逸がない系は,オイラー=ラグランジュ方程式が作れる.
   (オイラー, ハミルトン, ヤコービ)

●1900 ポアンカレ
  可積分の方程式はごくわずかで,大部分の方程式は非可積分(関数で記述できない)
  ニュートンの法則に従う系の運動は,可積分と決めつけてはいけない.

可積分 → 予測可能(安定な軌道) 互いに独立な因果列
非可積分→ カオス的        干渉し合う因果列
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■2重振り子の例

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上図のような2重振り子の運動です.今回は物理演習のようですが,
数式に囚われる必要はありません.重要なのは,振幅が小さい範囲なら
運動は線形の微分方程式に近似できるので,2種類の周波数の振動が重畳
された運動になる.つまり,関数で記述できる安定な周期的な運動になる
という事です.そして,これに対比される次に話題になる振幅の大きい
2重振り子運動では,運動は関数で記述できず,予想もつかない
とんでもない運動をするということです.

(注)ここでは,ラグランジュ関数やラグランジュ方程式を説明せずに用いています.
これらを学習したい方は,EMANの物理学https://eman-physics.net/analytic/lagrange.html
などが参考になります.

2重振り子のラグランジュ関数は正確に作れます.
次に,ラグランジュ方程式を解かねばならないのだが,これが解析的には解けない(関数で記述できる解がない).

◆振幅の小さいとき
Φ,ψ の振動範囲を微小に制限して(Φ,ψの2次までを残す近似)解く.
これは解けます(物理の演習問題).
計算の詳細は以下に載せました.http://sgk2005.saloon.jp/blogs/blog_entries/view/46/ddf8d815a70840c192d0532618218407?frame_id=54

結論
ラグランジュ方程式(連立方程式)を微小振動の範囲とし線形近似したので,解のΦ,ψは,それぞれ2つの固有振動(基準振動)の重ね合わせになり,それほど複雑な振動ではない.いずれにしろ周期的な(予測できる)振動になります.


◆一般論(振幅の大きいとき)
振幅が大きくなると,ラグランジュ関数の線形近似がなり立たないので,ラグランジュ方程式は解析的には解けません.でも解は実在するはずです.
将来,誰かが巧妙な方法で解くのではないかと期待しつつ,得られたその解は,解析的ではないにしろ振動範囲が小な場合と本質的に大差はないのではないかと想像するのは自然なことです.
系のラグランジュ関数 は完全に正しいし,ラグランジュ方程式も正しいのですから,解析的に解けないと言っても心配ないのではと思うでしょう.
これが誤りであることを証明したのがポアンカレでした.

現代は,コンピュータを用いた計算が高度になり,力ずくで動きのシミュレーションがなされるようになりました.正しい方程式は実在するのですから,関数による軌道の記述は出来なくても,動きは逐一決定されるはずです.
しかし,初期条件(初期値)により,予想もつかない挙動が見られます(カオス).ともかく,そのような運動の実験とシミュレーションの例を,youtube動画で見てください.とんでもない現象が見られます.


◆第1の動画は実験
スタートする初期値によって運動の様子は異なります:



◆第2の動画はシミュレーション
Double Pendulum Chaos Light Writing (computer simulation) 1

 

イスラム・パターンの作り方

ドアや家具や壁に見られるイスラムの美しい模様を作製する技術は千年以上の歴史があります.イスラムのデザインの特徴は,対称性の高い星型がちりばめられていることです.
繰り返し模様全体を支配する対称性は,17種類の平面群のどれかであるはずだし,並進(周期性)と両立しうる回転対称は,2,3,4,6回軸に限られるはずです.しかし,イスラムの模様の中に散らばる星形は対称性が高いのです.高い対称性はもちろん模様全域に作用はできません.その星形の内部にだを作用域とする局所的なものです.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上図の模様を例にとると,8回対称の青い星型が,正方形格子の周期で配列していることがわかります.青い星型にある8回対称性は,青い星型内部と緑の周囲領域,草色の星形5角形の領域までは有効ですが,オレンジ色の8角形までは有効ではありません.
青い星の中心にある8回対称軸はオレンジ色8角形の付近では,4回対称軸に低下してしまいます.これは,周期的な平面では8回対称軸は存在できない(正8角形のタイルでは平面を張れない)から当然のことです.
ある点のまわりの対称性という言葉は注意が必要で,その点周囲の「局所的」対称性を指す場合もありますが,平面「全域」で有効な対称性を指すのが普通です.この例では,青い星型の対称性は8回対称ですが,この星の中心にある回転対称軸は4回対称軸です.
このパターンの単位胞は,オレンジ色の8角形の中心を結んでできる正方格子の1つの内部です.

■Girihタイル(装飾線が描かれたタイル)

イスラムの繰り返し模様の壁はGirihタイルという手法で作れます.
正方形と正8角形を組み合わせた平面のタイル張りの例を,下図(a)に示します.このテッセレーションは,シュレーフリの記法で(4,8,8)と記述されます[1つの頂点のまわりに,正4角形,正8角形,正8角形が集まっている状態].

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(b)図は,正4角形および正8角形の内部に装飾線を描いたGirihタイルです.
平面をGirihタイルでタイル張りしておいて,タイルの縁の輪郭を消すと(c)図のパターンが得られます.
デザインを作れる以下のウエブサイトがありますのでお試しください.
https://girihdesigner.com/


■ここで,始めに掲載したイスラムの模様も,上の例と全く同じであることを確認してください.
始めに掲載した模様の正4角形タイルや正8角形タイルの形は,草色の星型の中心を結んでいくと明らかでしょう.正4角形や正8角形の内部の装飾線はどのようなものであるかもお確かめください.

次元を上げて見る

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちは,ものごとを考え解決困難なときに,次元を1つ上げて(失われている視点を一つ加えて)見ると,思わぬ解決策にはっと気づくことがあります.たとえば,今,新型コロナウイルス禍にあり,医学・疫学的視点と,経済活動視点の2つの視点に集中して,この危機を乗り越えようと必死の活動がなされています.しかし,政治的視点がなおざりにされています.不安定な遺伝子のウイルスはやがて消滅し我々は生き残るでしょうが,見えない次元に無関心でいると,そのときの社会体制は,監視や権力集中の社会に変貌しているかもしれません.歴史学者のハラリ氏は,そのように警告しています.パンデミックが変える世界ユヴァル・ノア・ハラリとの60分:
https://www.dailymotion.com/video/x7tjaoq

視点を上げる(次元を上げる)効果は,デザルグの定理を考えるとよくわかります.
ーーーーーーー
デザルグの定理とは
「⊿ABCと⊿A'B'C'があり,AA',BB',CC'を通る直線が1点Oで交わるなら.
直線ABとA'B'の交点P,直線BCとB'C'の交点Q,直線CAとC'A'の交点Rは,同一直線上にある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー
高校とき幾何の教科書にこの問題が載っていました.
このデザルグの定理の証明は,実はとても難しいのです.3角形を直線が過る図形で生じる長さの比率に関するメネラウスの定理などを使う必要があります.
ところが,下図のように,この図形を平面(2次元)と見ずに,立体(3次元)にあると見ると,ごく当たり前のことを言っていることに気づきます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2つの平面Ω(薄緑)とΩ’(薄青)が交差しており,△ABCは平面Ω上に,△A'B'C'は平面Ω'上にあるとイメージするのです.
光源Oから出る光が,△ABCの影を△A'B'C'に作っています(辺ABの影が辺A'B').従って,O,A,B,A',B' は,同一平面上にあり,この平面をΣ(薄燈)と名付けます.A,Bを通る直線も,A',B'を通る直線もこの平面Σ上にあり,P点で交差します.
一方,A,B,Pは平面Ω上に,A',B',Pは平面Ω’上にあります.
結局,P点は平面Ωと平面Ω’の交線上にあることになります.
同様にして,QもRも,平面Ωと平面Ω’の交線上にあり,デザルグの定理が証明できました.
高校の教科書では,このような証明は厳密でないとみなされるせいか,チェバやメネラウスの定理を使ってあくまでも平面図形として扱われます.

■デザルグの定理は,2次元で証明するのは難しいが,3次元では証明が要らないほど自明なのは何故でしょうか.
3次元でこの図のような模型があったとして,これを2次元に射影する(高さ方向をぺちゃんこ)と,直線が交差する状況は変わらないのですが,長さや角度の情報が失われてしまいます.△ABCと△A'B'C'は,それぞれ別の2次元平面にあったものですが,ぺちゃんこにされて1つの平面(紙面)に入ってしまいました.
私たちは,高い次元(2次元の世界から3次元の世界)を想像するのは困難です.デザルグの定理でこれを思い知らされます.

■デザルグは,17世紀初頭のフランスの数学者,建築家.透視図法を発展させた射影幾何学の祖です.ダビンチなどの画家たちは,遠近法や透視図法を古くから用いていましたが,その数学を固め射影幾何学の本を出したのはデザルグが最初です.
その後,射影幾何学が本格的に研究されるのは,200年後の19世紀中葉,ポンスレー(フランスの数学者.ナポレオンのロシア遠征に従軍し,ロシアで捕虜のときに射影幾何学を研究した)を待たねばなりませんでした.
射影幾何学自体,作図など重要な応用がありますが,やはり,19世紀中葉に現れた非ユークリッド幾何学のモデルを作るための重要なツールとなりました.