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1. 次元を上げて見る

投稿日時: 2020/05/10 システム管理者

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちは,ものごとを考え解決困難なときに,次元を1つ上げて(失われている視点を一つ加えて)見ると,思わぬ解決策にはっと気づくことがあります.たとえば,今,新型コロナウイルス禍にあり,医学・疫学的視点と,経済活動視点の2つの視点に集中して,この危機を乗り越えようと必死の活動がなされています.しかし,政治的視点がなおざりにされています.不安定な遺伝子のウイルスはやがて消滅し我々は生き残るでしょうが,見えない次元に無関心でいると,そのときの社会体制は,監視や権力集中の社会に変貌しているかもしれません.歴史学者のハラリ氏は,そのように警告しています.パンデミックが変える世界ユヴァル・ノア・ハラリとの60分:
https://www.dailymotion.com/video/x7tjaoq

視点を上げる(次元を上げる)効果は,デザルグの定理を考えるとよくわかります.
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デザルグの定理とは
「⊿ABCと⊿A'B'C'があり,AA',BB',CC'を通る直線が1点Oで交わるなら.
直線ABとA'B'の交点P,直線BCとB'C'の交点Q,直線CAとC'A'の交点Rは,同一直線上にある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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高校とき幾何の教科書にこの問題が載っていました.
このデザルグの定理の証明は,実はとても難しいのです.3角形を直線が過る図形で生じる長さの比率に関するメネラウスの定理などを使う必要があります.
ところが,下図のように,この図形を平面(2次元)と見ずに,立体(3次元)にあると見ると,ごく当たり前のことを言っていることに気づきます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2つの平面Ω(薄緑)とΩ’(薄青)が交差しており,△ABCは平面Ω上に,△A'B'C'は平面Ω'上にあるとイメージするのです.
光源Oから出る光が,△ABCの影を△A'B'C'に作っています(辺ABの影が辺A'B').従って,O,A,B,A',B' は,同一平面上にあり,この平面をΣ(薄燈)と名付けます.A,Bを通る直線も,A',B'を通る直線もこの平面Σ上にあり,P点で交差します.
一方,A,B,Pは平面Ω上に,A',B',Pは平面Ω’上にあります.
結局,P点は平面Ωと平面Ω’の交線上にあることになります.
同様にして,QもRも,平面Ωと平面Ω’の交線上にあり,デザルグの定理が証明できました.
高校の教科書では,このような証明は厳密でないとみなされるせいか,チェバやメネラウスの定理を使ってあくまでも平面図形として扱われます.

■デザルグの定理は,2次元で証明するのは難しいが,3次元では証明が要らないほど自明なのは何故でしょうか.
3次元でこの図のような模型があったとして,これを2次元に射影する(高さ方向をぺちゃんこ)と,直線が交差する状況は変わらないのですが,長さや角度の情報が失われてしまいます.△ABCと△A'B'C'は,それぞれ別の2次元平面にあったものですが,ぺちゃんこにされて1つの平面(紙面)に入ってしまいました.
私たちは,高い次元(2次元の世界から3次元の世界)を想像するのは困難です.デザルグの定理でこれを思い知らされます.

■デザルグは,17世紀初頭のフランスの数学者,建築家.透視図法を発展させた射影幾何学の祖です.ダビンチなどの画家たちは,遠近法や透視図法を古くから用いていましたが,その数学を固め射影幾何学の本を出したのはデザルグが最初です.
その後,射影幾何学が本格的に研究されるのは,200年後の19世紀中葉,ポンスレー(フランスの数学者.ナポレオンのロシア遠征に従軍し,ロシアで捕虜のときに射影幾何学を研究した)を待たねばなりませんでした.
射影幾何学自体,作図など重要な応用がありますが,やはり,19世紀中葉に現れた非ユークリッド幾何学のモデルを作るための重要なツールとなりました.