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÷と×の演算の順序

60÷5(7-5)=?
この答えは24ですか6ですか
60÷5x2=?と聞かれれば,24と迷わず答えられる人が,なぜ6と答えたくなるのでしょうか.これは5と()の間にxが書かれていないことが心理的に影響すると思います.
5(7-5)は文字式のような錯覚に陥り,ひとまとめにして数値を出したくなります.÷とxの演算が並んだ式は,前から順番に演算するのが決まりです.割り算を使わず掛け算だけで書き直すこともできます.例えば,
60÷5x2=60x(1/5)x2 のようにです.
60÷5(7-5)=を,分数で書いてみましょう.しかし,5だけが分母に来るのか,5(7-5)が分母に来るのか不明確です.(60/5)(7-5)のことなのか,60/(5(7-5))のことなのか,かっこを1組追加すれば明確になります.

逆ポーランド式に,二項に対する演算の繰り返しとして計算手順のグラフを書くと,解釈の異なるそれぞれの計算手順は表紙カバーの図のようになります.

 

 

 

 

 


■さて,文字式の場合は係数と文字の間のx記号は省略されるのが普通です.9a^2÷3a=の答えは,3a か,3a^3 のどちらが正しいのでしょうか?
雰囲気的には3aですが,式の機械的な記述は曖昧です.
このような曖昧さを避けるために,()を用いて明確にすべきです.
9a^2÷(3a)=3a あるいは,(9a^2÷3)a=3a^3 のようにはっきりさせましょう.

■ここまでの記事を,私がメルマガに掲載したことがあります.すると,以下のコメントを読者からいただきました.この問題はなかなか面白いですね.ここに掲載させていただきます.

理学系では『省略演算の優先』を意識している傾向がいくつか見られます。たとえば化学業界では省略演算は優先することが国際的なルールとして明記されていて、先の計算は6と答えなければならないように定められているそうです。
また、物理学のフィジカルレビュー誌の投稿規定にも同様な省略演算の優先が書かれているということですので、こちらも6と答えることが義務付けられていることになります。
算数の世界では、帯分数の計算部分に同様な様子が見られます。{以下テキストの都合上帯分数には()をつけ、整数部分と分数部分の間に『と』を挟みますが、実際には無いものと思ってください}
(2と1/3)×3 は,2+1/3×3 なら,+より×優先なので =2+1=3 と計算するはずですが、実際には省略演算である+を先に行い、7/3×3=7 と計算します。
ところで、マセマティカで計算すると、メルマガの計算は24が出力されるようです。ソフトのいくつかは24を出力すると聞いています。
以下は想像です。
理学系では古くから省略演算を優先する感覚があったため、そのようなルールが少なくとも上記の物理化学ではルールとして明記された。数学はともかく算数でもそのように教えている部分がある。
一方で後発の計算機業界ですが、こちらはそもそも昔は省略演算は文法違反でエラー扱いでした。それがハードが強力になり対応可能となった時に、理学系の慣習など頭になく、ただ省略演算を補うだけだったために、結果24と計算するソフトが多いのではないかと。実際、カシオの関数電卓では、古い機種では24を答えに出し、新しい機種で6を出力するケースを確認しています。おそらく化学業界あたりから苦情が来てユーザーニーズに合わせたのではないでしょうか?
数学では化学業界と違って国際組織が演算順序をルールとして明記するなんて多分やってないと思います。×が+に優先するなことすら学会による明文化はなく慣習によるものだと思われます。明文化されない以上慣習として定着するまではどちらが正しいとは言い切らないのが無難に思います。ただ、化学業界のルールでも但し書きとして、『ただし、誤解を招かないよう括弧を十分に補うことを推奨する』とあるそうですから、メルマガの式は
(60÷5)(7-5) なり、60÷(5(7-5)) なりにするのが大人の対応ということになりそうです。

縞模様形成とチューリングの反応拡散系

 

 

 

 

 

 

 

 

エンゼルフィッシュの縞模様やヒトデの星型はどうしてできるのでしょうか?
コンピュータの発明や暗号解読で有名な天才数学者アラン・チューリングが,”The chemical basis of morphogenesis”という論文を1952年に発表しました.今日,受精卵が細胞分裂を繰り返し分化し生物組織が出来ていく胚発生過程は遺伝子情報にプログラムされていることは公知です.1952年にチューリングが発表した理論は,「反応拡散系」が条件を満たせば,パターンや構造を自己成長形成するというものです.反応拡散系と言うのは,2つの物質(モルフォゲンと呼ぶ)が,反応し合いながら組織を介して拡散するもので,初期状態は均一であったものが,ランダムな外乱により,物質の濃淡の波が生じその波が生物の形や模様をつくりだすというものです.この数式でつくり出される模様は「チューリング・パターン」と呼ばれますが,コンピュータ・シミュレーションで描き出すと,条件により,動物の模様にそっくりな縞模様が出現したり,ヒトデの形を作ったりします.手の指が形づくられていくのは,その設計図が遺伝子により決定されているからと考えられていますが,もしかしたら,「指の形成はチューリングの理論のように波がつくっているのではないか」という論文が最近発表されたそうです.遺伝子はからだの構造の基本を決める設計図で,例えば,肺の形成の初期に気管支の分岐などを作るが,細かい肺胞の形成まではその設計図には書かれておらず,チューリング理論のように,現場の細胞同士のやり取り(反応と拡散)で作り上げられて行くのだろうと,近藤滋氏は言っています.

1952年に提唱されたチューリング理論は,現実の生物分野でそのような実験的証拠がなかったので,その後長い間,机上の空論と思われていました.1995年,近藤滋は,海洋エンゼルフィッシュのポマカンサスには,縞模様が皮膚に固定されていないことを発見しました.体の成長とともに,単純に比例して拡大する哺乳類の皮膚のパターンとは異なり,ポマカンサスの縞模様は,体の成長にともなうパターンの連続的な再配置が起こる.そして,縞間のスペースが維持されるという実験事実を観測しました.

実際,チューリング理論に基づくシミュレーションは,成長とともに形成されるパターンを正しく予測できたので,この理論の正しさを支持するものです.

■ チューリングの反応拡散系方程式
存在する2つの物質(モルフォゲン)が,反応したり拡散したりするのは,遺伝子情報で制御されるわけでもなく単純な化学反応で,以下の連立方程式で記述できます.u(t,r),v(t,r)は振動し,いろいろな形が形成されます.

 

■チューリングの反応拡散方程式の解の安定性を調べる数学について
(解が不安定(暴走)では,縞模様ができません)
数式を多用することができませんので,ここでは,言葉で説明するにとどめます.⇒ Texによる数式追補http://sgk2005.saloon.jp

反応項 f,g はそれぞれ物質の濃度 u, v の関数で,平衡点の周りでテーラー展開(1次の項まで)して線形化します.このような連立線形微分方程式の性質は,ヤコビアンと呼ばれる行列Aで決まるが,この行列Aの固有値の実部がすべて負であれば,解は安定になります.
行列Aの固有値を求めるのは面倒なので,条件を緩くして,行列Aの対角要素の和(固有値の和に同じ)が負であるとし,さらに,拡散係数も0の場合から始めると,結局,f_u+g_v<0が得られます.
これは,f_uとg_vが異符号で負の絶対値が大(促進剤と阻害剤が拮抗して働き,若干,阻害剤が強い)の条件を意味し,このようなときに縞模様が形成されます.

インドラの網と反転円


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


表紙写真のグラス(リュミナルク製)のデザインは,こちら側の模様の円が凹レンズとして働き,向こう側の模様の円を円内に縮小して映し出すので,あたかもアポロニウスの窓のようです.

■映像が果てしなく繰り返す「インドラの網」
網の上に置かれた真珠は互いに反射し合って,他の真珠を映しだすだけでなく,映っている他の真珠の映像の中に自身の姿をも映しています.世界全体が真珠一つ一つの上に映り,またその姿が別の真珠に映り,これが永遠に続くのです.「インドラの真珠」D.マンフォード, C.シリーズ, D.ライト, 小森洋平 (翻訳),日本評論社は,美しく興味深い数学の本です.

この美しい図形の2次元版は,「アポロニウスの窓」ApolloniusGasketとも呼ばれます.
互いに 接し合う3つの円に接する第4の円を描くのですが,これを次々と繰り返して,どんどん小さくなる円で埋め尽くされる円盤内の世界はフラクタルです.
4つの円の曲率(半径の逆数)をa,b,c,dとすると,
2(a^2+b^2+c^2+d^2)=(a+b+c+d)^2 という,デカルトの発見(1643)した定理が成り立っています.
(参考)⇒三角形の七不思議 (ブルーバックス), 細矢 治夫

■反転によるフラクタル構造

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2つの円β,γが互いに接し,かつそれらがアポロニウスの窓の外周円Ωとも接しているとき,これらの接点を通り外周円と直交する円(赤色)を考えましょう.すると,この円で分断された2つのアポロニウスの窓の世界(若草色と黄色)は,この円(赤色)を反転円として,互いに鏡像(反転鏡映)となっています. もし反転円がどんどん小さくなれば,
その小さな領域に大きな世界がどんどん繰り込まれていくので,不思議なフラクタル世界 の美しさが見られます.表紙の図はこのような様子を表しています.色々な反転円を考えれば,無限にある大小さまざまな大きさの円は,
みんな同じ大きさであるとも言えます.それゆえに,円盤内の世界は無限に広いと言い張るのも良いでしょう.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上図は Cinderellaというフリーソフトを用いて描きました.

■円による反転

中心Oの半径rの円による反転は,反転円外の点r1を反転円内の点r2への写像
で,反転像どうしは,r1・r2=r^2を満たします.
もし,反転円の円周上に点があれば,反転像は元の点と同じ位置です(r1=r2=r).
反転操作では,円は円に写像されます.もし,反転円に直交するような円周の円をこの反転円で反転すれば,同一の円の上に写像されます.したがって,円周に直交するような反転円で分断された円の2つの部分は,反転円によるそれぞれの鏡像になります.

反転円が直線なら,反転鏡映は普通の鏡映像になります.
直線鏡の組み合わせで作られる映像は,良く知られた万華鏡ですので,反転円を用いたインドラの網の鏡映像も拡張された万華鏡の映像とみなせます.

■仏教では,「宇宙の一切のものが,一切のものの原因になっていて,
無限の過去からの無数の原因が,どの一人にも,それぞれ反映されている」と考えます.これはまさに単純な因果列ではなく複雑系の考え方ですね.
宮澤賢治に「インドラの網」という小品があります.インドラの網目に縫い付けられた珠玉は,互いに映じ合うと同時に,自分自身も輝いています.

この項目は,反転円の幾何学のほかに,フラクタル,複雑系,双曲幾何の円盤モデル,エッシャーの不思議な世界,万華鏡,などに関連があります.
これらは順次取り上げる予定ですが,拙著「美しい幾何学」技術評論社(2019.9刊)をご覧いただけると幸いです.

反転の利用ーパップスの定理

■円による反転鏡映の性質
①反転円の円周上の点は,反転しても元の点と同じ位置.
②反転では,円は円に変換される(直線も半径∞の円の仲間)
下図に反転円(赤い円)による,反転鏡映の例を示します.
●図1・反転円Oと交差する円Cは,交差の2点を共有する円cに変換される.
●図2・反転円Oと直交する円Cは,自分の上に変換される.
円周に直交するような反転円で分断された円の2つの部分は,反転円によるそれ
ぞれの鏡像になる.
●図3・反転円Oの中心を通る円Aは,直線aに変換される.
特に,円Bが反転円Oと交差する場合は,交差する2点をよぎる直線bに変換される.
③反転円が直線なら,普通の鏡映像になります.
直線鏡の組み合わせで作られる映像は,良く知られた万華鏡です.
反転円を用いたアポロニウスの窓も拡張された万華鏡の映像と言えるでしょう.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■反転の利用

反転の性質を使うと,パップスの定理の様な難しいものを簡単に証明できます.

このような図形はアルベロス(靴屋のナイフ)といいます.
この中に面白い幾何学があります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

円弧αと円弧βに挟まれたア
ルベロスの領域に,互いに接す
るように円のチェーンω0, ω1,
ω2, … があるとき, 円ωnの
中心と直径ABとの距離は円ωn
の直径のn倍である.
(パップスの定理)

 

 

 

 

 

 

[以下の証明ができます]
円ω2の中心は,線分ABから円ω2の直径の2倍だけ離れていること.
① 点Aから円ω2へ接線を引く.両接点を通りAを中心とする円γは,円ω2
と直交します.(なぜなら,円の接線は接点での半径と直交するから)
② γを反転円にして,色々なものを反転してみましょう.
円ω2 は自分自身に.円α,β は,それぞれ 直線α’,β’に,
円ω1,ω0 は,それぞれ円ω1’,ω0’に,なります.
③ 円ω2,ω1’, ω0’の直径はすべて同じだから,パップスの定理が証明
された. (なぜなら,平行な直線α‘とβ’に挟まれているから)

 

コクセターの万華鏡とメビウスの万華鏡

■楕円幾何平面の正則タイル張り
球表面が球面正p多角形タイルで{p,q}のように張りつめられているとき,1つのタイルの中を2p個の直角3角形に分割できます.この直角3角形を鏡室とする万華鏡を“メビウスの万華鏡”と名付けます.このときの直角3角形(鏡室)の内角は,それぞれ π/p,π/q,π/2で,この直角3角形を(p,q,2)と略記します.

■双曲幾何平面の正則タイル張り
ポアンカレ円盤の双曲幾何平面が,双曲正p多角形で{p,q}のように張りつめられているとき,1つのタイルを2p個の直角3角形に分割できます.この直角3角形を鏡室とする万華鏡を“コクセターの万華鏡”と名付けます.
双曲面の{6,4}正則分割を例に,直角3角形(6,4,2)(赤い3角形)を図(左)に,対応する“コクセターの万華鏡”の映像を図(右)に示します.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■双曲面{6,4}分割の場合の“コクセターの万華鏡”を作る

双極面{6,4}分割の映像を,3角形の万華鏡で作るには,双曲面直角3角形(6,4,2)を用います.この3角形の2辺は平面鏡,残りの1辺は円盤のフチに直交する円弧鏡よりなります.この円弧鏡は,数学的には反転円として定義できるのですが,現実の円柱鏡の反射には収差があるので,数学の定義のように鮮明な万華鏡映像を作るのは困難です.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■エッシャー作品の生まれるまで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  (1)               (2)                  (3)

(1)コクセター:直角3角形(6,4,2)による双曲面の{6,3}分割の細分
(2)エッシャー:直線魚のモチーフ
(3)エッシャー:「極限としての円Ⅰ」CircleLimitⅠ

コクセターとエッシャーはオランダで開催された1954年の国際数学者会議で出会いました.1958年にコクセターはこの分割を掲載した論文*をエッシャーに送り,これがエッシャーの「極限としての円」の作品群(Ⅰ~Ⅲ)を生むことになります.

*By S.H.M.Coxeter
Crystal Symmetry and ItsGeneralizations (published in the Transactions of the RoyalSociety of Canada in 1957).

エッシャーの「極限としての円」

■エッシャーのトリック(引用先:コクセター論文)
M.C.エッシャーの「極限としての円」Circle limit IIIを鑑賞しましょう(図左).
この円盤内は双曲幾何の世界(ポアンカレの円盤モデル)です.
この円盤内を旅する人は,円の縁(世界の果て)に近づくほど時間がかかる.つまり,[世界の果てに到達するには無限の時間がかかる]ようになっています.
この世界で定義される直線(最短時間で移動できる経路)は,円盤世界の縁で直交する円弧です.
エッシャー作品(図(左))の円盤は,魚の流れを示す白い線で分割された双曲面の[4,3,4,3,4,3]分割のようにも見えますが,実は,図(中)に示すような,黒い線で分割した{8,3}正則分割です.
白い線は,双曲幾何の円盤世界の縁に80°で交差し,直線ではないのです.
図(中)の正8角形の黒い線がこの円盤世界の直線であることは,図(中)に書き込んだ赤い円弧(いずれも円盤縁で直交する円弧)を見れば理解できるでしょう.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


双曲平面の正8角形タイルは,双曲平面の直線(円盤の縁で直交する円弧)で囲まれています.
タイルの大きさは円盤の縁に行くほど小さく見えますが,円盤内は無限に広い双曲幾何平面なのですべて同じ大きさです.
1つのタイルの中には4匹の魚がおり中心に4回軸があります.
正8角形の頂点には3回軸があり,魚の白い流れは3回軸の場所に集まっています.
エッシャーは{8,3}分割に用いる直線をわざと隠し,白い流れが分割であるようなトリックを見せます.もちろん,白い流れの円弧(直線ではない)に関して鏡映対称はありません.


参照:「美しい幾何学」p.142,143

パイレックス・ガラスを惜しむ

■パイレックス・ガラスとは

シリカガラスSiO2の軟化点は1700°Cと高温です.ガラスには明確な融点はありません.初めから乱れた構造ですから液体状態の固体ともいわれます.固体での変形が起こるのは軟化点~1900°Cあたりまでで,それ以上の温度では液体になります.シリカの正4面体ネットワーク中の所々にCaイオンやNaイオンが入ったものが,ソーダーライムガラス(青板ガラスとも呼ばれる)で,ガラスの融点も軟化点も下がり成型が容易になります.しかし,Naの熱振動振幅は大きく,ガラスの熱膨張率は大きくなります.ホウケイ酸ガラスは,ホウ素Bを添加したガラスで,ナトリウムNaの量を減らせるので,熱膨張率を小さくできます.これがpyrexパイレックスガラス(Corningの商標)で軟化点は820℃位で,Nonexという非膨張ガラスの処方も開発されました.パイレックスガラスは,キッチンのベーキング皿にも,温度計にも,ビーカーなどの理化学機器にも,1949年に完成したパロマーのヘール望遠鏡の巨大鏡(回転放物面)にも使われています.この巨大鏡はパイレックスガラスの直径5mのガラスのキャストディスクで20トンもあります.この巨大なガラスのキャストディスクの製造では,アニーリング・オーブンに入れて10か月もかけて徐冷したそうです.これを現場に運び凹面(回転放物面)に研磨しました.


■パイレックス・ガラス製造中止
2008年3月14日に パイレックス・ロール板の生産中止をコーニング社は決めました.パイレックスと言えば耐熱ガラスの代名詞で,理化学機器にも使われていますが,望遠鏡用の 大きなガラスも作らなくなりました.どうなることか心配です.
今日,コーニング社の製品は,スマートフォン用のGorillaGlassというカバーガラスやエレクトロニクス用の薄い強化ガラスにシフトしたようです.

以下の写真はコーニングガラス博物館の様子で面白そうです.


https://media-cdn.tripadvisor.com/media/photo-m/1280/19/bd/64/98/corning-museum-of-glass.jpg

非可積分の方程式をコンピューターが解く

 

 

 

 

 

 

 

 

力学系を記述するラグランジュ方程式は作れるのだが,これが解けるとは限らない.
物理の演習では,解けるものしか扱わなかったのです.
実際の世の中は,解を関数で記述できない(解けない)方程式が大多数です.
系の運動を支配する法則(ニュートン力学の方程式)は明確なのに,解が関数で記述できないのだ.
でも解は存在するのです.コンピュータによる数値計算により,運動は逐一決定できる.
しかも,予想もつかない挙動ーカオスーが起こる.このようなことを最初に指摘したのはポアンカレでした.

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
●1766 オイラー「変分法の原理」
    (オイラー, ラグランジュ)

●1800 ラグランジュ「解析力学」
  エネルギー散逸がない系は,オイラー=ラグランジュ方程式が作れる.
   (オイラー, ハミルトン, ヤコービ)

●1900 ポアンカレ
  可積分の方程式はごくわずかで,大部分の方程式は非可積分(関数で記述できない)
  ニュートンの法則に従う系の運動は,可積分と決めつけてはいけない.

可積分 → 予測可能(安定な軌道) 互いに独立な因果列
非可積分→ カオス的        干渉し合う因果列
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■2重振り子の例

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上図のような2重振り子の運動です.今回は物理演習のようですが,
数式に囚われる必要はありません.重要なのは,振幅が小さい範囲なら
運動は線形の微分方程式に近似できるので,2種類の周波数の振動が重畳
された運動になる.つまり,関数で記述できる安定な周期的な運動になる
という事です.そして,これに対比される次に話題になる振幅の大きい
2重振り子運動では,運動は関数で記述できず,予想もつかない
とんでもない運動をするということです.

(注)ここでは,ラグランジュ関数やラグランジュ方程式を説明せずに用いています.
これらを学習したい方は,EMANの物理学https://eman-physics.net/analytic/lagrange.html
などが参考になります.

2重振り子のラグランジュ関数は正確に作れます.
次に,ラグランジュ方程式を解かねばならないのだが,これが解析的には解けない(関数で記述できる解がない).

◆振幅の小さいとき
Φ,ψ の振動範囲を微小に制限して(Φ,ψの2次までを残す近似)解く.
これは解けます(物理の演習問題).
計算の詳細は以下に載せました.http://sgk2005.saloon.jp/blogs/blog_entries/view/46/ddf8d815a70840c192d0532618218407?frame_id=54

結論
ラグランジュ方程式(連立方程式)を微小振動の範囲とし線形近似したので,解のΦ,ψは,それぞれ2つの固有振動(基準振動)の重ね合わせになり,それほど複雑な振動ではない.いずれにしろ周期的な(予測できる)振動になります.


◆一般論(振幅の大きいとき)
振幅が大きくなると,ラグランジュ関数の線形近似がなり立たないので,ラグランジュ方程式は解析的には解けません.でも解は実在するはずです.
将来,誰かが巧妙な方法で解くのではないかと期待しつつ,得られたその解は,解析的ではないにしろ振動範囲が小な場合と本質的に大差はないのではないかと想像するのは自然なことです.
系のラグランジュ関数 は完全に正しいし,ラグランジュ方程式も正しいのですから,解析的に解けないと言っても心配ないのではと思うでしょう.
これが誤りであることを証明したのがポアンカレでした.

現代は,コンピュータを用いた計算が高度になり,力ずくで動きのシミュレーションがなされるようになりました.正しい方程式は実在するのですから,関数による軌道の記述は出来なくても,動きは逐一決定されるはずです.
しかし,初期条件(初期値)により,予想もつかない挙動が見られます(カオス).ともかく,そのような運動の実験とシミュレーションの例を,youtube動画で見てください.とんでもない現象が見られます.


◆第1の動画は実験
スタートする初期値によって運動の様子は異なります:



◆第2の動画はシミュレーション
Double Pendulum Chaos Light Writing (computer simulation) 1

 

イスラム・パターンの作り方

ドアや家具や壁に見られるイスラムの美しい模様を作製する技術は千年以上の歴史があります.イスラムのデザインの特徴は,対称性の高い星型がちりばめられていることです.
繰り返し模様全体を支配する対称性は,17種類の平面群のどれかであるはずだし,並進(周期性)と両立しうる回転対称は,2,3,4,6回軸に限られるはずです.しかし,イスラムの模様の中に散らばる星形は対称性が高いのです.高い対称性はもちろん模様全域に作用はできません.その星形の内部にだを作用域とする局所的なものです.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上図の模様を例にとると,8回対称の青い星型が,正方形格子の周期で配列していることがわかります.青い星型にある8回対称性は,青い星型内部と緑の周囲領域,草色の星形5角形の領域までは有効ですが,オレンジ色の8角形までは有効ではありません.
青い星の中心にある8回対称軸はオレンジ色8角形の付近では,4回対称軸に低下してしまいます.これは,周期的な平面では8回対称軸は存在できない(正8角形のタイルでは平面を張れない)から当然のことです.
ある点のまわりの対称性という言葉は注意が必要で,その点周囲の「局所的」対称性を指す場合もありますが,平面「全域」で有効な対称性を指すのが普通です.この例では,青い星型の対称性は8回対称ですが,この星の中心にある回転対称軸は4回対称軸です.
このパターンの単位胞は,オレンジ色の8角形の中心を結んでできる正方格子の1つの内部です.

■Girihタイル(装飾線が描かれたタイル)

イスラムの繰り返し模様の壁はGirihタイルという手法で作れます.
正方形と正8角形を組み合わせた平面のタイル張りの例を,下図(a)に示します.このテッセレーションは,シュレーフリの記法で(4,8,8)と記述されます[1つの頂点のまわりに,正4角形,正8角形,正8角形が集まっている状態].

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(b)図は,正4角形および正8角形の内部に装飾線を描いたGirihタイルです.
平面をGirihタイルでタイル張りしておいて,タイルの縁の輪郭を消すと(c)図のパターンが得られます.
デザインを作れる以下のウエブサイトがありますのでお試しください.
https://girihdesigner.com/


■ここで,始めに掲載したイスラムの模様も,上の例と全く同じであることを確認してください.
始めに掲載した模様の正4角形タイルや正8角形タイルの形は,草色の星型の中心を結んでいくと明らかでしょう.正4角形や正8角形の内部の装飾線はどのようなものであるかもお確かめください.

次元を上げて見る

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちは,ものごとを考え解決困難なときに,次元を1つ上げて(失われている視点を一つ加えて)見ると,思わぬ解決策にはっと気づくことがあります.たとえば,今,新型コロナウイルス禍にあり,医学・疫学的視点と,経済活動視点の2つの視点に集中して,この危機を乗り越えようと必死の活動がなされています.しかし,政治的視点がなおざりにされています.不安定な遺伝子のウイルスはやがて消滅し我々は生き残るでしょうが,見えない次元に無関心でいると,そのときの社会体制は,監視や権力集中の社会に変貌しているかもしれません.歴史学者のハラリ氏は,そのように警告しています.パンデミックが変える世界ユヴァル・ノア・ハラリとの60分:
https://www.dailymotion.com/video/x7tjaoq

視点を上げる(次元を上げる)効果は,デザルグの定理を考えるとよくわかります.
ーーーーーーー
デザルグの定理とは
「⊿ABCと⊿A'B'C'があり,AA',BB',CC'を通る直線が1点Oで交わるなら.
直線ABとA'B'の交点P,直線BCとB'C'の交点Q,直線CAとC'A'の交点Rは,同一直線上にある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー
高校とき幾何の教科書にこの問題が載っていました.
このデザルグの定理の証明は,実はとても難しいのです.3角形を直線が過る図形で生じる長さの比率に関するメネラウスの定理などを使う必要があります.
ところが,下図のように,この図形を平面(2次元)と見ずに,立体(3次元)にあると見ると,ごく当たり前のことを言っていることに気づきます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2つの平面Ω(薄緑)とΩ’(薄青)が交差しており,△ABCは平面Ω上に,△A'B'C'は平面Ω'上にあるとイメージするのです.
光源Oから出る光が,△ABCの影を△A'B'C'に作っています(辺ABの影が辺A'B').従って,O,A,B,A',B' は,同一平面上にあり,この平面をΣ(薄燈)と名付けます.A,Bを通る直線も,A',B'を通る直線もこの平面Σ上にあり,P点で交差します.
一方,A,B,Pは平面Ω上に,A',B',Pは平面Ω’上にあります.
結局,P点は平面Ωと平面Ω’の交線上にあることになります.
同様にして,QもRも,平面Ωと平面Ω’の交線上にあり,デザルグの定理が証明できました.
高校の教科書では,このような証明は厳密でないとみなされるせいか,チェバやメネラウスの定理を使ってあくまでも平面図形として扱われます.

■デザルグの定理は,2次元で証明するのは難しいが,3次元では証明が要らないほど自明なのは何故でしょうか.
3次元でこの図のような模型があったとして,これを2次元に射影する(高さ方向をぺちゃんこ)と,直線が交差する状況は変わらないのですが,長さや角度の情報が失われてしまいます.△ABCと△A'B'C'は,それぞれ別の2次元平面にあったものですが,ぺちゃんこにされて1つの平面(紙面)に入ってしまいました.
私たちは,高い次元(2次元の世界から3次元の世界)を想像するのは困難です.デザルグの定理でこれを思い知らされます.

■デザルグは,17世紀初頭のフランスの数学者,建築家.透視図法を発展させた射影幾何学の祖です.ダビンチなどの画家たちは,遠近法や透視図法を古くから用いていましたが,その数学を固め射影幾何学の本を出したのはデザルグが最初です.
その後,射影幾何学が本格的に研究されるのは,200年後の19世紀中葉,ポンスレー(フランスの数学者.ナポレオンのロシア遠征に従軍し,ロシアで捕虜のときに射影幾何学を研究した)を待たねばなりませんでした.
射影幾何学自体,作図など重要な応用がありますが,やはり,19世紀中葉に現れた非ユークリッド幾何学のモデルを作るための重要なツールとなりました.

髪の毛1本に記録される癌発現の機構

千川論文[千川純一,ひょうご科学財団]は,実用化も期待でき興味深いが難解なので,ここで解説を試みます.厳密な記述は原著論文を参照ください:
・Chikawa et al.,"Hair growth at a solid-liqid interface as a protein crystal without cell division", Progress in Crystal Growth and Characterization of Materials, Volume 65, Issue 3, August 2019, 100452
・Chikawa et al.,"Cancer development in the hair spectra by X-ray
fluorescence using synchrotron radiation",International Journal of Cancer,  in press

 

■千川論文の意義
毛根にある毛球から毛髪は成長してきます.毛球の中は液体で,毛髪の成長は,あたかも,固液界面で成長する無期結晶のようです.固液界面には毛母細胞[毛球と毛幹(毛髪のこと)の境界]があり,その液体側の毛球に,S, K, Ca, Srなどの元素が偏析し,血液から毛母細胞に流入する元素量と,成長した毛幹の元素量が等しい状態が維持されています.
毛髪の成長は,純化学的過程(化学ポテンシャルの勾配が成長を駆動する)で行われることが示されました.[細胞分裂で成長するときのように遺伝子の関与もなく,チューリング反応拡散系と同じように純化学的な過程です]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この平衡関係から毛髪の元素濃度は血液の元素濃度から計算できるので,毛髪の分析をすると毛母細胞のイオンチャンネルの開閉の記録(癌の発生と成長に密接に関係している)が分かるというのがこの研究のミソです.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臨床データとリンクし収集した多数の毛髪の分析が実施されました.
毛髪1本の毛根から先端へとX線蛍光分析をし,種々の元素の分布するパターンのデータを収集しました.これらを解析し,大気汚染(黄砂)による心筋梗塞,脳梗塞の死亡率の増加の原因も毛髪分析で示されましたが,特に重要な結果は,癌発生の機構とCaの分布パターンが関係のあることを見出したことです.

■毛髪のCaの分布と癌発生のメカニズム
Caが不足すると,副甲状腺ホルモン(PTH) が分泌され,PTHが各細胞の「受容体」に結合すると,細胞のチャンネルが開いてCaを取り込むので,毛髪カルシウムは正常値を超えます.他方,血清Caが正常値以下に低下すると,小胞体に備蓄のCaを使うために別のチャンネルが開きます.これら2種類のチャンネルの開閉の記録が毛髪Ca 濃度に残されています.
情報伝達の主役であるカルシウム(Ca)の毛髪濃度は,毛母細胞のCaチャンネルが閉じた状態の正常値と,その5倍も高いPTH制御Caチャンネルは開いたときの値があります.また,正常値以下で小胞体の備蓄Ca量制御のチャンネルが開いた状態も起こりますが,これらは識別できます.
癌患者の毛髪を先端から毛根へと分析すると,癌の種類によらず,癌は必
ずPTH 制御チャンネル開のCa高値で発生し,癌成長とともに1~2年かけて正常値に降下し,さらに,小胞体の備蓄Ca量制御のチャンネルが開くCa正常値未満の状態(癌の「成熟」と呼ぶ)が続くことがわかりました.即ち,癌の発生から成熟までが,毛髪に特有のパターンとして記録されるわけです.


■(注)放射光実験の方法
毛髪の元素分析は,2003年から千川純一らが実施しており,臨床とリンクし採取した多数の毛髪分析のデータを集積しました.放射光を用いる蛍光X線分析は,毛髪一本で長さ1mm以下でも精密に測定できます.放射光施設利用にボトルネックはあるものの,毛髪だけ提供すれば済むので,人体に安全な診断方法であります.
血液は採取した瞬間の結果しか知ることができないが,毛髪には過去の記録が残されていて[1カ月に約1cm成長]変化のパターンを知ることができるところが,この方法の優れたところである.
さて,毛髪1 本(直径は100μm 程度)中のX 線照射点から出てくる蛍光X 線を観測すれば,その点に含まれる元素を検出することができますが,毛髪の元素濃度を得るには,蛍光X線強度を照射された部位の体積(質量)で規格化する必要があります.これにはそのとき観測されるバックグランド強度を用います.バックグランドは毛髪母体のタンパクによる散乱X 線(小角散乱領域ではない.コンプトン散乱が主体)で,一定の方位にセットした検出で,散乱X線も蛍光X線も測定できます.これらの比をとれば毛髪の太さや形状によらない値になり,濃度指標が得られます.

数学に関心を

このマガジンの数学月間とは題名に違和感を感じている方もおられるでしょう.「数学月間」とは7/22-8/22のひと月を指します.この期間は22/7=3.14・・・(π)と22/8=2.7・・・(e)に因みます.
日本の数学月間は,(故)片瀬豊さんの提案により2005年に日本数学協会が7/22-8/22を数学月間と定めたことに始まります.2005年の発足以来,ボランティア・ベースながら,毎年,「数学月間」の初日7/22に,「数学月間懇話会」を開催し,啓蒙的な講演を一般市民に対し実施してきました.2020年の7月22日にも第16回の開催予定です.今年は,集会の実施は困難が予想されるので,初のZOOMによるリモート開催の計画です.
「NPO法人数学月間の会」のホームページhttp://sgk2005.saloon.jpに情報を随時掲載します.
(注)2005年から始まった「数学月間の会(代表:片瀬豊)」は,昨年から,「NPO法人(理事長:岡本和夫)」になりました.このような数学月間活動は米国MAMに学んで始めたものですが,米国MAMのように国家的行事として行うべき性質のものです.現在は個人寄付金とボランティア・ベースで実施していますが,活動を社会に波及させたいものです.「NPO法人数学月間の会」は,数学同好会ではありません.数学の内部にとどまらず社会の諸分野に横断的に呼びかけ活動し,「社会と数学の架け橋」を目指します.情報を共有しましょう.仲間に入りませんか.
問い合わせ先や詳細はhttp://sgk2005.saloon.jp にあります.
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■米国MAM(Maths Aeareness Month)はレーガン宣言から始まった

全文を掲載します.どなたの草稿か知りませんが,格調高く今日でも心を打ちます.米国MAMのスタート時は月間行事ではなく,週間行事MAWでした.

原文は以下にあります.
https://www.gpo.gov/fdsys/pkg/STATUTE-100/pdf/STATUTE-100-Pg4430.pdf
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アメリカ合衆国大統領による宣言5461
「国家的数学週間」1986年4月17日
宣言(National Mathematics Awareness Week)

およそ5000年前,エジプトやメソポタミアで始まった数学的英知は,科学・通商・芸術発展の重要な要素である.ピタゴラスの定理からゲオルグ・カントールの集合論に至る迄,目覚ましい進歩を遂げ,さらに,コンピュータ時代の到来で,我々の発展するハイテク社会にとって,数学的知識と理論は
益々本質的になった.社会と経済の進歩にとって,数学が益々重要であるにも拘わらず,数学に関する学課が米国教育システムのすべての段階で低下する傾向にある.しかし依然として,数学の応用が医薬,コンビュータ・サイエンス,宇宙探究,ハイテク商業,ビジネス,防衛や行政などの様々な分野で不可欠である.数学の研究と応用を奨励するために,すべてのアメリカ人が日常生活において,この科学の基礎分野の重要性を想起する事が肝要である.上院の共同決議261で,国会が1986年4月14日から4月20日の週を,
国家的な数学週間に制定し,この行事に注目する宣言を出す事を
大統領に要請した.今日,アメリカ大統領,私ロナルド・レーガンは,
1986年4月14日から4月20日の週を国家的数学週間とする事を,ここに宣言する.私はすべてのアメリカ人に対し,合衆国における数学と数学的教育の重要性を実証する適切な行事や活動に参加する事を勧告する.
その証拠として,アメリカ合衆国の独立から210年の西暦1986年の4月17日,ここに署名する.ロナルド・レーガン(Ronald Reagan)
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長くなりますので,活動の様子は省略し,年度別テーマのリストを掲載します.(注)2017年からMSAMに変わりました.追加されたSはStatistics統計学です.

■MAMの年度別テーマの推移
http://www.mathstatmonth.org/mathstatmonth/msamhome

1986数学----基礎的訓練
1987美と数学の挑戦
1988米国数学の100年
1989発見のパターン
1990通信数学
1991数学----それが基本
1992数学と環境
1993数学と製造業
1994数学と医学
1995数学と対称性
1996数学と意思決定
1997数学とインターネット
1998数学と画像処理
--MAWからMAMへ------
1999数学と生物学
2000数学は全次元に
2001数学と海洋
2002数学と遺伝子
2003数学と芸術
2004ネットワークの数学
2005数学と宇宙
2006数学とインターネット保全
2007数学と脳
2008数学と投票
2009数学と気候2013持続可能性の数学
2010数学とスポーツ
2011解明進む複雑系
2012統計学とデータの洪水
2013持続性の数学
2014マス,マジック,ミステリー(Martin Gardner記念)
2015数学はキャリアを駆動する
2016予測の未来
2017年より,MSAMがテーマになる
注)略語表
MAM:Mathematics Awareness Week
MAM: Mathematics Awareness Month(4月)
AMS:American Mathematical Society米国数学会
MAA: Mathematical Association of America米国数学協会
SIAM: Society for Industrial and Applied Mathematics工業応用数学会
ASA: American Statistical Association米国統計学協会
JPMB: Joint Policy Board for Mathematics米国連結政策協議会
*)2006年から、ASAが加盟することになった.

■編集後記
数学月間は数学者のものではなく,一般人が対象です.数学は,ものごとの本質を追求し,装飾を剥ぎとり,その本質をあぶりだします.
出来上がった抽象化された概念体系(定理)を,数学者は美しいと感じます.数学とは,そのような理論体系であるべきことは確かです.
しかし,このようにして出来上がった抽象的な数学を見せられても,
一般人は興味が湧かない.そこで,数学月間は<数学と社会の架け橋>として,数学が実際の課題に使われていることを示して行こうと考えています.
かつて,物理学の現場で数学が生まれている時代がありました(ニュートンの微積分もその例です).数学は自分の生まれた源泉を離れて抽象化に専念していることに,著書の前文で警鐘をならしたのはクーラントとヒルベルトでした.源泉に立ち返って数学を見るときっと共感を感じることでしょう.

大学の数学では,完成され抽象化された数学を,数学科の先生が教えます.
これは,数学科の学生に対する教程としてはオーソドックスなものですが,
数学科でない学生には不親切であります.工学,薬学,経済学など,
それぞれの専門に適した数学の基礎教程が必要でありましょう.

戦争と数学

安倍内閣が今週にも通過させようとしている検察庁法改正案は,権力分立の精神に反し憲法違反です.以下のメルマガを発行した2015.9.22のことを思い出しました.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
数学月間SGK通信 [2015.09.22] No.082
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
戦争法案が多くの世論を無視して強引に可決してしまいました.
本来,違憲である法案が国会に出されること自体あり得ないことですし,
国会の議論でもまともな答弁がなされていないことは誰の目にも明らかです.
政府の宣伝機関になったNHK始め大手メディアの罪はたいへんに重い.
さて,翁長沖縄県知事の国連人権理事会で演説に期待しよう.大手メディアの世論操作に負けてはならない.
イギリスで投獄を覚悟してインドの独立を主張したガンジーの姿が重なって見えます.
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■戦時中の“科学朝日(1944年3月号)”「特集・戦争と数学」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

https://twitter.com/oburo72 自由古書園「海つばめ」さんの写真借用

 戦争一色の特輯:南方の科学 飛行機 精密機械と兵器 戦車と偽装
防空の科学 潜水艦 戦争と数学 航空母艦 基地建設と進攻兵器...

 -------

この特集号には,多くの著名な数学者が寄稿しており大変興味深い.
その中で,巻頭の弥永昌吉先生の論説が群を抜いており,言論も不自由であったろう戦時下に,実に立派な意見を展開しておられます.
さらに,数学月間の考え方と同じ所も見受けられ我が意を得たりの感があります.まず,弥永論説(対話形式)の概略を紹介します.

1年くらい前から始まった戦時下の米国の数学動員(米数学協会の記事の記憶)が紹介されます.遅ればせながら日本でもこのような動きが始まっています.
ーーーーー
米国の数学動員
委員長(モース)の下に6つの委員会がある
1.工業技術,2.航空力学,3.弾道学(ノイマン),4.確率統計,5.計算法,6.暗号解読
1は数学と工業の連携強化,2,3は微分方程式,高射砲の照準や電波兵器の数学,4は大量生産管理,5は計算機.
ーーーー以下抜粋-----
■数学は魔術ではなく,合理的なものの中でも最も合理的なものですから,使い方も合理的でなくてはなりません.
この際,数学者の側で,数学を使えば何も彼も容易にできるというようなことを言いふらしたり,まだ十分の研究を積まないのに現場の人たちのやり方が悪いと言ったりするようなことは一番いけないと思います.
ーーーーーーー
■大和魂が第一でも,それだけでは戦争に勝てないことがだんだんわかってきて,科学研究の動員が必要になった.
第一次大戦では「化学」,第二次大戦では「物理」→「数学」が必要だ.
米の他,ソ連,独,伊でも同様な数学動員の状況がある.
ソ連は,コルモゴロフ(確率の基礎)飛行機の乱流,ヴィノグラドフ(整数論)などがスターリン科学賞を受賞した.
ドイツからは,開所したばかりの米プリンストン研究所などに科学者が流出しており,米国に最も豊富な人材が集まっている.
ーーーーーーー
■学問としてお留守にならず,その品位を下げぬような動員の仕方をすることが,戦争に勝つ道であると信じる.
日本では,それぞれの分野が功を急いだせいかも知れませんが,
学問が専門化しすぎて,それぞれ孤立化する危険がある.
この機会に横の結びつきが強化されるのは良いことだ.お互いに学問の理解を深め,基礎理論の整備進展,新理論の展開という方向へ導かれれば日本の学問全体にとってもこんな有り難いことはない.
ーーーーー
■問題解決のためにも,数学では個々の小さな問題をそれぞれに突っつくよりも,根本的なところまで遡って考えた方が,大きな成功を収めることがよくあるのです.
この戦争のために,目先のことばかりを考えてよいのでしょうか.
長期建設戦」ともなれば,文化が直接ものを言うことがますます多くなりましょう.世界中のだれが見ても頭を下げるような高い立派な文化を我々が戦いつつ築きあげて行くことがぜひとも必要です.
この頃,この点について偏執な,浅慮短見の説をなす人があるのを慨いて,
渡辺慧さんはそれを「文化的敗北主義」と言っている.

魔法の組み紐

2014年の米国の数学月間MAMのテーマは,Mathematics, Magic, and Mystery でした.

このMAMのテーマは,Martin Gardner (1914-2010)の生誕100年を記念したものです.
ガードナーのことは,『サイエンティフィック・アメリカン』誌に,コラム「数学ゲーム」を25年に渡って連載したのでご存じの方も多いでことしょう.MAM(2014)のサイトに掲載されている組み紐のパズルに挑戦してください.

http://www.mathaware.org/mam/2014/calendar/braids.html

■魔法の三つ編み組み紐 (James Tanton)

James Tantonのウエブサイトは http://www.jamestanton.com/?p=1072

■次のパズルはどうでしょうか.

 

これは可能ですので,チャレンジされてください・

こんにゃくでこんな形にした料理がありましたか?

 

回答は以下にあります.

 

■それでは,次の四つ編みは実現可能でしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■可能なことを証明するのは簡単です.作って見せればよい!しかし,不可能であることを証明するのは難しい.何度も試行して失敗すれば,不可能と思えるかもしれません.しかし,もう一度試してみたらうまくいくかも知れない.

 

 

4つ編の組み紐の完成例が左図です.4本の紐の上端と下端がそれぞれ閉じている状態で始めて,このような完成例にすることが可能でしょうか.この四つ編み組み紐の完成例には,交差点が全部で12あります.上から出発して,左から来る紐の上に右から来る紐が乗る交差点を̟⊕,左から来る紐の下に右から来る紐が潜る交差点を̠⊖として,図示したのが左図です.12の交差の後,四本の紐は,上端での順番と下端での順番とが同じになります.全体で,⊕が8個,⊖が4個ですので,全体のIndexは+4と定義します.

いろいろな四つ編みを試してみてもIndexを0にできないようです.
まだ詰めが必要ですが,これが四つ編みで組み紐を完成できない理由のようです.

 

同じことをやってみると,三つ編み組み紐の場合は,交差点数6で,3本の紐の上端での順番と下端での順番が同じになり,Indexは0になることがわかります.

(参考)http://www.jamestanton.com/wp-content/uploads/2012/03/Cool-Math-Newsletter_June-2013.pdf

 

 

地震の発生確率

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■「30年以内に震度6弱以上の地震が起こる確率は,横浜市が78%で最も高く,九州では大分市が54%」などと言われていました.あくまでも確率ですから,いつ地震が起きるかはわかりません.熊本の方が先に大地震が起きてしまいましたね.このような確率はどのようにして出たものでしょうか?(このSGK通信を書いた2016.7時点の数字)

震度(揺れ方)6弱といっても,震源が浅い場合もありますから,
震度が大きいものが必ずしも巨大地震(マグニチュードMが大きい)とは限りません.

■地上の被害は震度(揺れの程度)に比例します.
地下の岩盤には色々な原因で歪が蓄積していき,岩盤の耐えられる歪の限界を超えると,岩盤がポッキリ折れて地震が発生するというイメージです.岩盤が強靭なほど溜め込める歪エネルギーの限界は大きく,限界まで溜め込んだ岩盤が地震で放出するエネルギーは大きい(地震のエネルギーの対数がマグニチュードM).
地震は破壊現象なので,限度まで歪を蓄えた岩盤がいつどこで破壊するかを予知することは不可能だが,破壊が始まってからの前駆現象を少しでも早く観測することは可能です.

■日本の地震の発生メカニズムを調べると,大雑把に言って2つのタイプがあります.
1.海溝型(海洋プレート沈み込み境界)
Mは大きい巨大地震で,頻度分布は数十年~100年.
2.内陸型(陸側プレート内)
震源は地下5~20kmと浅い.Mは小さいが震源が浅いので,直上の被害は大きい.頻度分布は数百年ー数十万年.
日本で起きた最近の大地震は,内陸型です.
1923年の関東地震,2011年の東日本大震災,心配されている東海地震や南海トラフ地震は海溝型です.

■地層に残る地震の記録や,古文書の記録を調べると,日本の各地で,数多くの地震が繰り返し起こっていることがわかります.この地震発生の繰り返し周期はどうなのか,地震発生の予測のために,経過年に対する地震頻度の分布を調べてみます.過去の地震記録はどのような分布と合うでしょうか.地震は破壊現象なので発生確率はランダム(ポアソン分布)が予想されます.沈み込むプレートに引き込まれた陸地が時折り弾性反発するモデルは,Brown酔歩時間の分布(BPT)が予想されます.

全国を250kmのメッシュに切り,その地に影響を与える活断層起因の地震やプレート境界起因の地震で,地表の震度が6弱以上となる地震について発生確率を算出します.
メッシュに切った各地の30年以内の震度6弱以上の地震発生確率を着色した地図が以下のサイトにあります: 
http://www.j-shis.bosai.go.jp/map/

■ここで用いられる地震の発生確率の定義では,分布密度関数を積分した全面積を確率1とします.
現時点は分布密度関数内のどこかですが,現時点から分布密度関数の0となる将来時点までの積分値に対する,現時点から30年先の時点までの積分値の比の値が30年以内にその地震が発生する確率となります.
現時点がどこか(過去の最新活動時期が不明)わからない場合には,地震の発生が「ポアソン過程」に従うとします.

地震は繰り返し発生しますが,正確な周期があるわけではありません.
今日地震が起こらなければ,明日地震が起こる確率は、今日より高くなる
今日より明日,明日より明後日と大地震がやってくる確率はどんどん高まって行きます.

(注)地震のマグニチュードMとその発生確率は,べき乗測が成り立つことが知られています.
被害の大きい巨大地震(Mの大きいもの)も,発生数は少ないですが必ず起こり,その時の被害は甚大です.
ここで話題にして来たのは,時間(年)の経過に対するある大きさ(震度8弱)をもたらす地震の発生確率に関するもので,べき乗測とは別の話です.

■さて,地図を見てください.日本の活断層の話に移りましょう.
赤い線は活断層です.関東地方では,高崎-熊谷-深谷の西側を流れる荒川に沿いに走り,荒川は江戸区で東京湾に注ぐ.断層地帯の荒川上流は長瀞など風光明美な処です.富士山側の活断層は,諏訪-甲府-富士山の西側を富士川沿いに走り,駿河湾に至ります.活断層は繰り返し地震を起こしており注意が必要です.

2重らせんの話

DNAの2重らせん構造が解明されて,ノーベル賞を受賞したのは1962年のことです.
受賞者の一人ワトソン博士は,後に本(二重らせん,講談社文庫(1986))を出版し話題になりました.
もう旧聞に属しますが,今回はこの二重らせんがテーマです.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カバーのDNAの図はlivedoorblog美惑星フィロソフィアからお借りしました.
このブログの主は存じ上げませんが,SARS,MERSが同定されてまもないころ(2015年6月)に,コロナ・ウイルスは,一本鎖のRNAリボ核酸でアビガンか効きであることに言及されています.

DNAの2重らせんの話がしたくなりました.

 

 

 

 

 

 

 

 

 


■Rosalind Franklin,ロザリンドは,ロンドン大学のキングス・カレッジに職を得て,X線結晶学者としてDNA結晶の構造解析を行っていた.DNAには水分含量の差によって2タイプ(A型とB型)があることを明らかにし,それらを別々に結晶化し,X線回折写真撮影に成功した(1952年).X線構造解析では単結晶をつくることがとても大事で,難しい仕事です.物質によっては方法をいろいろ変えてもどうしても結晶が育たない(微細な沈殿になってしまう)ので,私もずいぶん苦労し断念したことがあります.
撮影したX線回折写真を見れば,X線結晶学者なら,らせん構造があることはすぐわかります.
らせんのピッチや周期はすぐ計算できます.
しかし,彼女のまとめた非公開研究データのレポートは,予算権限を持つクリックの指導教官のマックス・ペルーツが入手し,クリックの手に渡ってしまいます.一方,ウイルキンス(彼女が赴任する前からDNAの研究をしていた)は,
ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所のワトソンとクリックに彼女の撮影した写真を内緒で見せてしまいます.
ワトソンは,複製の能力のあるDNAのモデルを考えていたので,彼女の写真を見て2重らせん構造モデルを確信します.

■ワトソン,クリックの論文は,Nature(1953.4.25)に掲載されます.同じ号に,ロザリンド・フランクリンらの論文,
ウイルキンスらの論文を,同号に同時掲載の体裁(合わせて3篇)をとっています.
ワトソン,クリック,ウイルキンスがノーベル賞を受賞したとき(1962),
フランクリンはその4年前に37歳で亡くなっています.

■X線構造解析の定石は,回折像の逆Fourier計算し,DNAの詳しい構造を見つけることです.ロザリンドの時代にはコンピュータはなく,Fourier合成の計算は,数表Beevers-Lipson短冊を用いて行う手計算(多分機械式のタイガー計算機でしょう)でありました.また,試料たんぱく質の結晶化も不十分で,回折像のスポットもぼんやりしている写真しか撮影できませんでした.
良い結晶を作製して,X線自動回折系で6,000個もの反射スポットを得て,コンピュータで計算し精密な構造を得るのは1981年になってからです.

27枚のカード・トリック

◆Matt Parker:エジンバラ・フェスティバルでは切符完売のコメディ・ショーを持ち,ロンドン数学会の人気講師という権威ある肩書きも持つのは,マット・パーカーただ一人だろう.
彼は,数学とコメディという彼の2つの情熱の混合に没頭している.
オーストラリアの数学教師であったが,今はロンドンに住み,コメディと数学コミュニケータをしている.
彼は,数学への情熱を,著書,ラジオ,TVショー,新聞,学校訪問,ライヴ・コメディ・ショー,そして時折の街頭パフォーマンスで広めている.
彼には,ロンドンのクイーン・メリー大学の数学フェローという公的契約もある.

⇒  http://www.standupmaths.com/
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◆マット・パーカーが鮮やかに演じる「27枚のカード・トリック」の背景には3進法がある.しかし,見ているとそんな背景は思いもつかず,楽しくも不思議である.
ビデオの後半で,マットがトリックの仕組みに3進法が使われていることを解説するので納得できる.この27枚のカードトリックはマーチン・ガードナーが1956年に発表したものだ.マットはこの発展として47枚カードのトリックを演じるが,7進法を使うものであってマットの発明である.
 Martin Gardner; Mathematics, Magic and Mystery(ドーバー,1956)


27枚カードのトリックは次のように演技される:
 観客に任意のカード1枚(例えば,スペードA)を選ばせ,27以下の数字(例えば18)を選ばせる.演技者は,選んだカードが何んであるか知らない.選ばれたカードを含む27枚のカードは十分に混ぜられ,裏向きの束に積み上げられている.演技の最後には,27枚のカード束の上から18番目の位置に,選ばれたカードを移動しておく必要がある.つまり,スペードAの上に17枚のカードがあるようにしたい.
 この演技のプロセスに,3進法が利用されている.
3進法で17を表すと17=2x3^0+2x3^1+1x3^2で,221と表記される (ここでは,1の位から先に表記していて,慣れている表記と逆順なのに注意せよ).
演技者は,27枚のカードを,3つの山に,1枚づつ配り分けていく.選ばれたカードがどの山に入っているか聞いてから,出来上がった3つの山を,さりげなく重ね合わせる.
再度,同じ操作を繰り返し,結局全部で,操作が3セット繰り返されて,得られた3つの山を1つの束に重ね合わせると,不思議なことに求めるカードは,上から18番目に置かれている.
このトリックのミソは,3つの山を重ねる順番にある.重ねる機会は3回あるのだが,各回,どの山を上(Top=0),中(Middle=1),下(Bottom=2) の何処に置いたら良いか?
さりげなく手際が良いので見分け難いが,マットの仕組み説明で良くわかる.18番目に置くには,17の3進法表記221を使い,求めたいカードの入っている山の位置を,1回目は底(Bottom),2回目は底(Bottom),3回目は中(Middle)になるように積み上げるのだ.もし,10番目の位置に置きたければ,9=0x3^0+0x3^1+2x3^2 で,3進法表記では 001なので,1回目,2回目,3回目の積み上げでは,Top,Top,Middleの位置に置くようにすれば,求めるカードは10番目の位置になる.

四角な車輪,三角な車輪

国立数学博物館MoMath(National Museum of Maths)は,米国唯一の数学博物館で,
ニューヨークのマディソン・スクエアに,2012年12月15日オープンしました.
ここには30以上の対話型の展示があります.

ホールの展示で目立つのは,正方形の車輪の3輪車が滑らかに走る光景(動画の2分半経過ごろ)です.
たいへん興味深いので,床面の曲線がどのような形であるかを計算してみました.
ここに掲載する結果(Fig.1)は,2013年7月22日の数学月間懇話会(第9回)で
谷が発表したものです.

■Fig.1 四角い車輪

 

 

 

 

 

  床の形状

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついでに,応用問題として計算した3角形の車輪の結果を(Fig.2)に掲載します.

■Fig.2 三角の車輪

 

 

 

床の形状

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注)2013年10月2日に開設された東京理科大学「数学体験館」にも,同じような4角い車輪の車の展示があります.

 

 

とっとりサイエンスワールド

今年の「とっとりサイエンスワールド」は,新型コロナウイルスのため急遽中止になりました.残念です.

 

とっとりサイエンスワールド---美しい数学・楽しい算数---は,鳥取大学,地域学部,矢部敏昭教授(現副学長)が中心になって2007年にスタートし,今年で第14回でした.発足時は,東部(鳥取市)だけの開催でしたが,すぐに西部(米子市)と東部の2か所で開催するようになり,4年目からは,西部,東部,中部(倉吉市)の3会場で開催に広がりました.鳥取県,鳥取県数学教育会が主催,鳥取県教育委員会,各地区教育委員会が後援し,小・中学校の先生方が活動の中心になっています.多数の高校生,短大生のバランティア参加もあり頼もしい.いまやすっかり地域から愛されるイベントになり,子供,両親から老人までが楽しみに集まる数学フェスティバルとなっています.

 この13年の間に,豪雪被害の年も,台風被害の年も,倉吉地震の年もありましたが,乗り越えて毎年開催することができました.2020年は中止せざるを得ない状況は残念なことです.

 とっとりサイエンスワールドは,毎年夏休みの日曜日に開催(無料のイベント)されます.昨年の例では,鳥取(7/28),米子(8/4),倉吉(8/25)に開催され,各会場に1,000人程度の参加者があります.私も万華鏡のワークショップで参加しています.万華鏡作りの参加者は3会場で400人ほどの子供や大人です.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Do★Math

■数学まつり
多くの人々が数学に関心をもつようになるイベントを数学月間では応援しています.講演会,講習会,数学カフェ,ワークショップ,様々な活動形態がありますが,子供たちが楽しめて数学感覚が身に着く”数学まつり(フェスティバル)”というのがあり,英国のMMPでも米国のMAMでも大変人気があります.

国立数学博物館MoMath(National Museum of Maths)は,米国唯一の数学博物館で,ニューヨークのマディソン・スクエアに,2012年12月15日オープンしました.ここには30以上の対話型の展示があります.
東京でもMoMathのような常設の数学展示のあるものは,科学技術館,リスーピア,東京理科大「数学体験館」(2013年オープン)などがあります.一度見学されると良いでしょう.

Do Math 同志社中学校数学博物館www.facebook.com


■同志社中学校数学博物館 Do★Math


同志社中学校数学博物館 Do★Mathは,2016年6月にオープンしました.Do★Mathは,生徒以外にも,一般市民にも公開されています.
一つの学校の教育の場で実現した,米国のMoMath(数学フェスティバル)や,米国の地域の数学サークル活動を思わせる意欲的な活動です.今年の数学月間懇話会(ZOOMによるリモート開催の計画.詳細が決まり次第http://sgk2005.saloon.jpに掲載します)のテーマの一つとして,Do★Mathを園田毅先生(同志社中)にご案内いただく予定です.