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通潤橋アーチの数学

さて,石積の橋の形,アーチ曲線に関して考えましょう.
アーチの両側の根元はしっかり固定しなければなりませんが,
アーチの上の石の重さが重ければ重いほどアーチの石は互い押し合い引き締め合うので,橋は大きな荷重に耐えられるのです.石積みは引張力に抗する力はないが,石積の石に働く力はすべて圧縮力だけなので接着の必要はなく安定構造になります.
石は圧縮に強い材料ですからアーチ型の橋には最適です.ただし,アーチ根元の支点部には,大きな水平力が発生するので,それとつり合う大きな水平反力が必要です.山で挟まれた峡谷などはこの点では最適な立地条件でしょう.通潤橋の根元をしっかり押さえつけている重そうな石積の写真を見てください.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■空き缶を積んで作ったアーチで実験

私が真剣に積んだのですが,できるのはどうしても缶5個のアーチまででした.5個の缶で缶同志の接点は4点.すべての接点で同時につり合っていなければなりませんから,作るのがとても難しい.もし,6個以上でアーチが出来た方は新記録です.ご一報ください.
缶の周りにラップを巻いていますが,摩擦力を増すためでアーチのつり合い条件を変えるものではありません.

 

 

ここから先は,釣合の5つの一次方程式を連立して解く線形代数の話になります.興味ある方はお読みください.
http://sgk2005.saloon.jp

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空き缶を積んで作ったアーチです.左右対称ですから,左半分だけ解析しましょう.缶の中心を①,②,③と名づけます.すると,缶同士の接点は,線分①-②の中点と,線分②-③の中点にあります.線分①-②,線分②-③には,それぞれ圧縮応力 $$ f_{1}, f_{2} $$があります.すべての缶は点で接触しており,モーメントは考える必要がありません(トラス構造).線分①-②,および線分②-③の水平となす角度をそれぞれ$$ α,β $$としてつり合いの式を立てます.各缶には下向きに力gがかかっています.つり合いの式は,①点,②点,③点でx, y成分ごとに書きます.

 

$$ f_{1}, f_{2}, r_{x}, r_{y}, g $$が,ゼロででない解であるための必要十分条件は,行列式がゼロとなることでした.この行列式を計算すると,
$$ tanβ=3tanα $$ の関係が得られます.

 


この釣り合いの結果は,①から測った曲線に沿った距離sと,その点の接線の傾き$$ tanθ $$が比例する $$ tanβ/3=tanα/1=tanθ/s $$の関係(懸垂曲線で導ける)と一致します(下図参照).

 

 

通潤橋のアーチ

■懸垂曲線とアーチ
懸垂曲線は,密度一定のひもが両端で固定されて垂れ下がった時の形です.
石積の橋が描くアーチもこれと同じです(懸垂曲線の上下を逆にしたもの).円柱状のジュースの缶を5つ積んで,アーチを作りつり合いを保っ実験をしてみました.テーブル上のアーチの根元にある左右のブロックは,一番下の円柱を両側から押しています.
円柱の間は点接触ですのでバランスをとって積むのは非常に難しいが落ち着いてやればできます.この形は石積の橋と同じ懸垂曲線です.


私が通潤橋(熊本県上益城郡山都町)を訪れたのは,2007年10月のことでした.22日は,午前中に潤徳小学校3,4年生36人に万華鏡づくりの授業,午後は先生方と人形浄瑠璃を観劇しました.

■通潤橋の写真(放水時に撮影k.Tani)

 

阿蘇山の南側のこの付近の地形は,島のように台地があり,台地から台地への移動が大変で平家の落人が隠れ住むのに好都合だったようです.台地(白糸台地)に農業用水を引くのが大変です.
水は台地のがけ下に汲みに行かなければなりません.
時の惣庄屋「布田保之助(ふたやすのすけ)」は,白糸台地に水を引くための水路橋”通潤橋”を,肥後の石工たちの技術を用いて1854年に建設しました.通潤橋は,石造りアーチ水路橋で,長さ75.6m,高さ20.2m,幅6.5m.
橋の上部にサイフォンの原理を応用した3本の石の通水管が敷設されています.

 

◆通水管
長さ約127m.石をくりぬいた1尺(30cm)四方の函渠(圧力のかかる管水路).管と管の繋ぎ目には,振動吸収と漏水防止のための漆喰(しっくい)が塗られている.さらに,通水管には5~6ケ所に地震対策のための板(緩衝材)を挟んでいる.
http://www.geocities.jp/fukadasoft/isibasi/tsujyun/tuusui.html
通潤橋は両側台地より低いので,サイフォンの原理で出口で水を押し上げています.通潤橋の高さから流入側台地は7.5m高く,流出側台地は5.8m高い.
http://www.geocities.jp/fukadasoft/isibasi/tsujyun/kaisetu.html
通潤橋は,今でも周辺の田畑を潤しています.
放水は,通水管に詰まった堆積物を取り除くために行うものです.

「通潤橋史料館」 に行くと,どのようにアーチ石橋を施工したかわかります.川の中に写真のような木枠を大工が組んで石工が石を置きました.
アーチ橋の高さを台地の高さまで上げられなかった理由は,
この木枠をこれ以上の高さにする木材がなかったためという事です.
石橋の木枠を外す最終段階は,橋の中央に白装束を纏った布田翁が鎮座し,
石工頭も切腹用の短刀を懐にして臨んだといいます.

写真に見えるアーチ曲線を型どっている石の並びについて話しましょう.
アーチの頂点にある石を”かなめ石”と言います.アーチ状に一列に並んだ石達は自分の重さで互いに締め付けあい安定になっておりセメントなど不要です.それでも下の木枠を外すときは,とても心配で責任者は命がけだったでしょう.布田翁も石工頭も命がけで臨んだのがよくわかります.
近年の熊本地震でも残ったのは,その堅牢さ(石の配管の修理をしたと聞きます)の証明です.

■人形浄瑠璃
http://seiwabunraku.hinokuni-net.jp/wp-content/uploads/img/about/s_06.jpg
人形浄瑠璃は,清和文楽館で観賞しました.山都町の人形浄瑠璃の始まりは,江戸時代の嘉永年間(1850年ごろ)で,山都町(旧・清和村)を訪れた淡路の人形芝居の一座から,浄瑠璃好きな村人が人形を買い求め,技術を習ったのが始まりといいます.
清和文楽は農家の人々が農業の合間を縫って練習や公演を行い伝承されてきました.良い話です.江戸時代の庶民の文化の高さに感激しました.三人で一体の人形を操ります.首(かしら)と右手を操る「主遣い(おもづかい)」,左手を操る「左遣い」,足を操る「足遣い」です.人形も触らしてもらいました.

長くなったので,本題のアーチの数学については,次号に回します.

インボリュート曲線

インボリュート曲線の歯 

 

 

 

    高等学校工業 機械設計/機械要素と装置/歯車

      このサイトにあるgif動画です

    左の図をクリックすると見られます

 

 

 

■インボリュート曲線


右図をご覧ください.黒い円(半径1)が糸巻きで,この糸巻きに巻いてある糸をほどいているときに糸(赤い線)の先端が描く曲線(青い色)をインボリュートといいます.
ほどく糸の巻き始めは,黒い糸巻き表面の点(1,0)でこれがインボリュート曲線の出発点です.
糸が引っ張られる方向(赤い線)は,いつもインボリュート曲線(青い線)に垂直であることに注目してください.

インボリュート曲線は歯車の歯の形に利用されます.
上図のように,黄色い歯車どうしがかみ合っている状態を考えて見て下さい.
歯車の形がインボリュートならば,2つの歯車の接点を通る糸の方向はそれぞれの歯車の面に垂直です.
これらの歯は回転中いつも互いに垂直に押し合って力を伝えるので理想的な歯車になります.

 

 

下図で,2つの糸巻きに巻かれた糸(青色)を見てください.糸巻きが回転して一方の糸巻きに糸が巻かれ,他方の糸巻きの糸がほどかれて行きます.このとき両者の歯車の間に張られた糸の方向は動きません.

メビウス万華鏡2つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が「メビウス万華鏡」と呼ぶ万華鏡は,球面多面体の見える万華鏡です.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上図の万華鏡と下図の万華鏡では,3枚の鏡の組み合わせ角度はもちろん異なります.

上図の万華鏡は,球面正3角形を面とする「球面正20面体」が見えます.
球面正3角形が5つで作る球面正5角形を一つの面と解釈すれば,「球面正12面体」が見えるという人もいるかもしれません.

下図の万華鏡は,球面直角3角形が10個で作る球面正5角形の面で囲まれた「球面正12面体が見えます」.
(注)直角3角形を鏡室に使った下図の万華鏡をコクセター万華鏡と呼びたくなりますが,これは球面正多面体なので,私はメビウス万華鏡と呼びます.
双曲幾何の円盤内にできる万華鏡のみコクセター万華鏡と呼ぼうと思います.

作り方は,「美しい幾何学」p.134~135にあります.

美しい幾何学

周期的空間はデジタル化された空間★

 

 

 

表紙は結晶空間のイメージです.同じ造作の部屋が無限に並んでいるホテルです.電子を1個だけ入れたら,電子はどの部屋に居るべきでしょうか?どの部屋にも同じように出現せねばなりません.電子の存在確率は結晶空間の周期をもった関数であることが知られています.

 

 

一種類の多面体を積み重ねて空間を充填します.許されるのは平行移動のみとします.

これを考えるのは「格子」を考えるのと同じことです.3次元の場合は,独立な移動方向は3つあります:それらのベクトルをa, b, c としましょう.
na+mb+lc,(n,m,lは整数)を格子点といいます.無限に続く格子点全体を格子と呼びます.ベクトルa, b, cの組みを対称性で分類したものがブラベー格子と呼ばれ,2次元では5種類,3次元では14種類,4次元では74種類ります.

無限に繰り返す「周期的空間」(「結晶空間」とも呼ぶ)の幾何学的表現が「格子」です.周期的空間は,点の集合と考えるとデジタル化された空間といえます.(注)整数全体は可算無限個の世界です.

■格子からディリクレ胞をつくる

ディリクレ胞は格子点1個の占有領域です.単位胞とは少し意味合いが異なります.物理ではウイグナー&ザイツ胞と呼ぶことが多いです.ボロノイ分割と似ているところもありますが,ボロノイ分割と異なり格子の分割に限定しています.

立方体(角砂糖)を積み上げたような格子の場合に,ディリクレ胞の作り方を説明します.手順を見ると,ディリクレ胞とは格子点1つが占有する多面体の形なのがわかります.格子点にディリクレ胞を配置すれば,空間が隙間なく充填されるのは明らかです.
そして,ディリクレ胞の対称性(点群)に格子の対称性が現れています.

◆立方面心格子→菱形12面体
面心格子のディリクレ(ウイグナー&ザイツ)胞を作図すると「菱形12面体」が得られます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


◆立方体心格子→半正多面体[4,6,6](ケルビン立体「切頂正8面体」の一つ)
体心格子のディリクレ(ウイグナー&ザイツ)胞を作図すると,この立体が得られます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図は省略しますが立方体(角砂糖)を積み上げた形と,ここに示した菱形12面体やケルビン立体は周期的空間を隙間なく埋め尽くすことができ,これら3つの対称性は同じです.

■格子というのは,無限に続く周期的構造の<幾何学的表現>でした.格子点に置くのは繰り返される単位モチーフです.格子点に本当に点を置くのは最も単純な構造,面心格子の格子点に原子を配置した構造は,銅やアルミニウムなどの金属結晶で,体心格子の格子点に原子を配置した構造は,鉄,タングステン,セシウムなどの金属結晶で知られています.

◆純粋に数学的に空間充填構造を導くのはとても大変なことですが,結晶学者は昔から知っていました.
自然科学の分野に数学への源泉がいろいろありました.結晶点群や空間群なども化学や鉱物学で発展し数学に貢献した例です.


美しい幾何学 今,試し読みができます

球に近い多面体は作れるか?

 

 

■5つの正多面体(プラトン立体)のうちで,最も面の数が多い(球に近い)ものは正20面体です.正3角形の面が20個でできています.最も対称性が高いものという言い方も間違いではありませんが,互いに双対な正12面体と正20面体は同じ点群です.互いに双対な正6面体と正8面体は同じ点群です.
(注)正多面体とは,正多角形(正p角形)の面でできていて,どの頂点の周りも同数の面(q個の面)が会している立体です.この立体を,シュレーフリの記号で{p,q}と記述します.pとqを入れ替えた正多面体どうしを互いに双対と言います.


正多面体(プラトン立体)は,正4面体{3,3},正8面体{3,4},正6面体{4,3},正12面体{5,3},正20面体{3,5}の5つしかないことは証明できますから,面数20より多い正多面体が存在するはずはありません.
しかし,例えばゴルフ球のディンプルはいくらでもたくさん作れるように思えなす.正多面体の面を分割し続けると,いくらでも球に近い正多面体が作れるように思うかもしれません.しかし,そのようなことが可能なはずがありません.ここで作るいくらでも球に近い多面体は,面が正多角形からわずかに歪むので,正多面体ではないのです.

正20面体の1つの正3角形の面を4つの三角形に細分化します.このとき,中心の三角形は正3角形ですが,その周りの3つの3角形は正3角形から歪むのを確認ください.以下,細分化の操作を繰り返すたびに,面の数は4倍ずつ増加します.そして,細分化された面で正3角形のものは,初めの正20面体の面の中心にあるものだけです.だから,正20面体を細分化して,球に近い多面体を作っても,その対称性は正20面体と同一(細分化しても対称性は上昇しません).素性は隠せないのです.細分化された多面体の面は正3角形ではないので,細分化でできる多面体は正多面体ではありません.(この細分化で用いたjavaプログラムは郡山彬氏が作成しました)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美しい幾何学p.23より

遊星歯車

■ドリルが動かなくなったので分解しました.こんな減速機構になっています.グリスの詰め替えをしましょう. 
先端のカバー内に遊星歯車による減速機構があります.

表面に見えている3個の歯車(歯数20,遊星歯車と呼ぶ)の中心に,モーターからの回転軸(歯数6,太陽歯車と呼ぶ)が入ります.この3個の歯車は,周囲の円(歯数48,リング歯車と呼ぶ)とも接しています.
中心軸(モーターのシャフト)が右回転すると,3個の歯車は左回転し,この3個の歯車を乗せている台は,周囲の歯に沿って右回転します.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■原理図を以下のサイトからお借りします.この原理図の歯数は,私のドリルの場合とは違いますのでご注意ください.https://www.monotaro.com/s/pages/readingseries/kikaikiso_0112/​


■私のドリルの減速機構に戻りましょう.
中心の回転軸が右回りに1回転すると,台は6/48=1/8だけ右回転します.
このドリルでは,このような機構が2段になっていました.
つまり,3つの遊星歯車を載せている回転台の中心軸(出力軸)に,また6枚歯の歯車が付いていて,これが2段目の入力となっています.
こうして,下段の同様な遊星歯車に回転を伝えるので,結局,(1/8)^2=1/64だけ減速することになります.
遊星歯車は入力の回転軸と出力の回転軸は同一線上にあるので,このように段数を重ねることができます.


■遊星歯車を,toyotaプリウスでは,うまく使っています.
ガソリンエンジンにつながっているのは遊星歯車の台,発電機につながっているのは太陽歯車,モーター(車輪)につながっているのは,外周のリング歯車です.3つの歯車のうちの1つをロックすると残りの2つ間で回転の伝達が起こるので,切り替えて,いろいろな使い分けができます.

遊星歯車機構とTHSのしくみ - まっつん総研連絡用ブログ《免責事項》 自分なりに調べたことを書いていますが、間違っている点があれば資料と...matsun-ri.cocolog-nifty.com
以下の図は上記サイトからお借りしました.

 

 


■歯面に垂直なカの伝達のできる互いにかみ合う歯面の曲線については,別の機会に取り上げます.

空間を充填する多面体の組み合わせ

1.立方体(角砂糖)を積み重ねて,空間を隙間なく周期的に埋めることができます.下図の出発点にある黄色い立方体(シュレーフリの記号で{4,3})を並べた図がそれです.このときの空間充填では「立方単純格子」ができます.
2.立方体の頂点を切り落とした(切頂といいます)立体を考えましょう.頂点の切り口は正3角形で,立方体の正方形の面が正8角形になる位置で切頂します.すると,下図の2番目のように,切頂正6面体(シュレーフリの記号で[3,8,8])と正8面体{3,4}が組み合わさって空間を充填することがわかります.

3.下図の3番目は,立方体の切頂の切り口がさらに大きくなった場合です.立方体の正方形の面は45°回転した小さな正方形になります.このときは,正8面体{3,4}と半正多面体[3,4,3,4](あるいは6・8面体と呼ぶ)とで空間を充填することがわかります.

4.切頂でできる正3角形をさらに大きく,切り口が正6角形になる位置で切頂します.このとき,組み合わされる2つの立体は同じ形になります.つまり,切頂正8面体(あるいは半正多面体[4,6,6],ケルビン立体とも呼ぶ)だけで,空間を充填できます.このときの空間充填では「立方体心格子」ができます. 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■図の3番目,半正多面体[3,4,3,4]と正8面体{3,4}の組み合わせの図で,正8面体だけを抜き出すと,以下のように頂点でつながっています. 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このような構造は,ペロブスカイト CaTiO3 という物質の結晶構造に見られます.正8面体の頂点に酸素原子Oがあり,正8面体をつないで骨組みを作っています. 正8面体(青色)の中心にはチタンTi原子,骨組み中の空いた穴(黄色)の中心にはカルシウムCa原子があります.
 ペロブスカイト構造は,強誘電体や酸化物高温超伝導材料などの結晶構造に見られます.また地殻を作るケイ酸塩鉱物MgSiO3(カンラン石など)はマントル下部の超高圧下でこの構造になることが知られています.


美しい幾何学,p.63,64をご覧ください.

 

 

 

 

 

 

 

平面敷き詰めタイル

 

 

 

 

 

 

 

 

■エッシャーの繰り返し模様のようなモチーフをつくる

平行4辺形や平行6辺形タイルは,平面を敷き詰めることができます.

(1)平行4辺形とは下図の(A)のような形です.
これらは,向かい合った平行な辺どうしは同じ長さです.
向かい合った辺どうしを突き合わせて平面を敷き詰めることができます.
向かい合った辺に同じような変形を加えて図案のモチーフを作ります.
エッシャーの作品の2羽の鳥はこのようにして作られています.

 

 

 

 

(2)平行6辺形で平行な辺どうしが同じ長さの図形は下図の(B),(C)のような形です.
これらは,向かい合った平行な辺(同じ色に着色)どうしを突き合わせて平面を敷き詰めることができます.
向かい合った辺に同じような変形を加えて図案のモチーフを作るとエッシャーの様な繰り返す絵が作れます.私は,ハロウイン魔女を作って見ました.

 

 

 

 

 

 

 

(3)平行8辺形以上になると平面を敷き詰められないのは何故でしょう?平面は2次元ですから独立な並進ベクトルは2つa,b です.a,b を2辺とする平行4辺形が平面を充填する並進の単位(単位胞)となります.3つの平行辺のある6辺形もタイル張りが可能ですが,2次元平面内の3つ目の並進ベクトルをcとすると,a,b,c の間に c=b−a の関係があり自由はききません.4つ目は作れません.

 

 

 

 

 

 

 

 

■一つのタイルを配置するときに回転を許すと,凸6角形タイルで平面の充填ができるものは,以下に図示する3つのタイプがあります.

 

(注)任意の4辺形は,180°回転したものと組み合わせると平行6辺形になります.任意の3角形も,180°回転したものと組み合わせると
平行4辺形や平行6辺形になるので,平面を敷き詰めることができます.

■凸5角形によるタイル張り4種を発見した主婦マジョリー・ライスの話は,別の機会にします.凸5角形の場合は全部で15種類をコンピュターで数え上げ2017年に至り決着しました.

 


「美しい幾何学」p.68~71

凸5角形によるタイル張り4種を発見した主婦マジョリー・ライス

 

平面張り詰めができる凸5角形タイルの形は,フランスの数学者マイケル・ラオがコンピュータを使い,全部で15種類を数え上げ(2017)決着したようです.このような数え上げの問題が難しいのは,演繹的な数学が使えないからです.
 米国サンディエゴの主婦マジョリー・ライスが,タイル張りの問題を知ったのは,1975年のScientific American 誌のマーチン・ガードナーのコラムでした.平面のタイル張り,別の言い方をすれば,一つのタイルで平面を分割する(テッセレーション)問題です.
 平面のタイル張りは,任意の3角形,任意の4角形タイルで可能,凸7角形以上では不可能です.凸6角形の場合は,全部で3タイプのタイル形で可能なことをラインハルトが証明しました(1918).残されたのは凸5角形の場合で,1975年のガードナーのコラムには,ラインハルトの5タイプと1967年にカーシュナーが発見した3タイプの計8タイプが掲載されていました.ところが新しいタイプがまだあったのです.
 マージョリ(フロリダ州生まれ)が,高等学校で数学を学んだのは1年だけでした.
1945年,結婚しワシントンD.C. に移り,幼い息子と一緒に,その地で商業デザイナーとして働き,後にサンディエゴに移住します.数学が楽しみで,黄金比とピラミッドに魅了されていたといいます.子どもたちが学校に通っている間に自分も読めるようにと,息子達にScientific American の定期購読を許しました.
 この問題では,5角形タイルのタイプ分けがとても難しい.連続変形によりどちらのタイプにも属するタイルがあるし,同じタイプでも出来上がったパターンが全く違うように見えたりもします.彼女は発見に驚き喜んで,自分の仕事をガードナーに送りました.ガードナーはそれをペンシルバニア州のモラヴィアン・カレッジのタイリング問題の専門家であるドリス・シャトシュナイダーに送ってくれました.シャトシュナイダーは,彼女の発見が正しいことを確認したのです.彼女は,張り詰め可能な4つの新しい凸五角形タイプと,それらによるほぼ60種類のテッセレーションを発見しました(1977).1975年以降にマジョリーの4種を含む計7種が発見されていま
す.最後に発見(2015) された15番目は,やはり周期的なものですが,単位胞が12個の5角形で構成される大きなもので,発見にスーパーコンピュータが使われました.
マジョリーは2017年7月2日94歳で亡くなりました.認知症のため,5角形タイリングの問題がついに完結したのを知ることはありませんでした.ワシントンにある数学協会のロビーの床タイルに,彼女の発見した5角形テッセレーションの1つ(エッシャー風の絵)が見られるといいます.

マジョリー・ライスについては,Natalie Wolchover の記事
(Quantamagazine, 2017)
https://www.quantamagazine.org/marjorie-rices-secret-pentagons-20170711/
をご覧ください.
注) 凸5角形タイルの非周期タイル張りに関しては,3回以上の任意の回転対称のものが作れることが知られています.