数学月間の会SGKのURLは,https://sgk2005.org/
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ジョゼフ゠ルイ・ラグランジュ(1736年 - 1813年);数学者,物理学者,天文学者は,オイラーの弟子で,フランス革命の前後の時代を生きた.
彼は,微分積分学を物理学へ適用し,最小作用の原理,解析力学を創出した.
ラグランジュによる『解析力学』は,ラプラスの『天体力学』と共に18世紀末の古典的名著とされる.
最小作用の原理の起源といえば,1696年のスイスの数学者ヨハン・ベルヌーイの「最速降下曲線」問題に言及せねばなりませんが,そのトピックは以下でご覧ください:
https://note.com/sgk2005/n/n7b4803b9a981
■ 変分原理
始点$${(t_0, q_0)}$$と終点$${(t_1, q_1)}$$に対し,この2点を結ぶ2つの道筋が図示されている.2つの道筋は始点と終点では一致している.同一時間における道筋の差$${\delta q}$$を変分という.
ラグランジュ関数$${L(q, \dot{q}, t)}$$ として,$${S=\int_{t_0}^{t_1}L(q,\dot{q},t)dt}$$ をラグランジュ関数$${L}$$の作用という.$${L}$$の変分は
$${\delta L=\frac{\partial L}{\partial q}\delta q+\frac{\partial L}{\partial \dot{q } }\delta \dot{q}=\frac{d}{dt}(\frac{\partial L}{\partial\dot{q } }\delta q)+\delta q(\frac{\partial L}{\partial q}-\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot{q } })}$$
$${\delta S=\int_{t_0}^{t_1}\delta q(\frac{\partial L}{\partial q}-\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot{q } })dt}$$
現実に起こる運動はラグランジュの方程式を満たすので,変分は0で作用は停留値をとる.
$${\displaystyle \frac{d}{dt}\displaystyle \frac{ \partial L}{ \partial \dot{q}_{\alpha } }-\displaystyle \frac{ \partial L}{ \partial q_{\alpha } }=0}$$
Lagrangeラグランジュの方程式
$${L(\dot{q}_{\alpha } , q_{\alpha }, t)=T-U}$$
Lagrange関数(系の運動エネルギーと位置エネルギーの差)$${\dot{q}, q}$$は一般座標での速度と位置
ラグランジュの方程式から,ニュートンの方程式を導くことができるが,複雑な系でもラグランジュ関数を書き下すことは容易なので,広範に応用できる.
Lagrange関数から色々な力学量を導くこともできる.
例えば,系の全エネルギーは$${E=\dot{q}_{\alpha}\frac{\partial L}{\partial \dot{q}_{\alpha } }-L=T+U}$$
中心力場で角運動量を求めたり,軌道を決定したりできる.
ニュートンの運動方程式がケプラーの法則と一致することも示せる.
量子力学への移行では,エネルギー(ハミルトン演算子)$${E=\frac{p^2}{2m}+U}$$で,運動量演算子の置き換え$${p→ \frac{h}{2\pi i}▽}$$ をして,ハミルトン演算子$${H}$$を作ったことを記憶しているだろう.
$${H=-\frac{(h/2\pi)^2}{2m}+U}$$
■最小作用(停留値)の原理
ある力学系でLagrange 関数$${L(q, \dot{q}, t)}$$が与えられたとする.
$${S=\int_{t_0}^{t_1} L(q, \dot{q}, t)dt}$$をその系の作用という.
モーペルテュイは,「始状態から終状態への運動経路には,作用と呼ばれる 量が定義でき,作用が最小となる経路が実現される.これが物理学のみならず,万物の運命を決める外界の原理である」という着想ーーー”最小作用の原理”(1744)を得た.モーペルテュイは,1744年に光学現象(光の直進・反射・屈折)に即してこの原理を述べた.
たしかに,現実の運動では,しばしば作用が極小になるものが見られるが,正確には,「作用が停留値をとる経路が実現する」というのが正しいことが後にわかる.適当な作用を見つければ万物の運命が分るというのは神秘的だが魅力的な着想ではある.
オイラーは,モーペルテュイの作用量の定義を積分に拡張し,最小作用の原理をさまざまな力学課題に適用できるようにし,最大または最小の性質をも つ経路曲線を見出す方法を発表した(1744). これを読んだ若き日のラグランジュは変分法を発明し,オイラーに手紙(1755)を送った.オイラーは,ラグランジュの方法を採用し,『変分法の原理』 (1766)を出版する.
変分法により導かれる運動方程式が,オイラー=ラグランジュ方程式といわれる所以だ.
その後,ラグランジュは,『解析力学』(1788)を出版する.その序文に「 本書には図はーつも出てこな い.・・・・所定の手続きに従い進める代数計算だけだ.・・・・」と高らかに宜言する.こうして,複雑な力学問題も解ける一般化された手法が確立された.
力学系を記述するラグランジュ関数を求め,ラグランジュ関数の作用積分が停留値をとる条件を変分法で解くと,オイラー=ラグランジュ方程式が得られる.
系のラグランジュ関数は,$${L(q, \dot{q}, t)=T-U}$$,ここで,
$${T, U}$$はそれぞれ,運動エネルギー,位置エネルギーである.
普通,位置エネルギーは座標$${q}$$だけの関数だが,複雑な系では,位置エネルギーも速度$${\dot{q } }$$に依存することもある.
ラグランジュ関数は,電磁場に置かれた荷電粒子にも定義され,光(電磁力学)も力学も統一して扱える原理ができた.
変分原理から,ニュートンの運動方程式は導出できる.その上,変分原理は,ニュートン力学より一般化された外界の原理である.20世紀に入り,量子力学が誕生した時もこの原理が手掛かりになった.光や物体の運動が,作用積分を停留化する経路を選択するというのは不思議といえば不思議,当然といえば当然だ.
科学と数学の関係を語るとき,「科学の発展に必要だった数学がいつも先回りして用意されていた」とよく言われます.ドラマティックにそのような脚色をした本も多いようです.
ある数学の出現が,天才による閃光のようだとする見方もあれば,その数学の出現は必然(時期が熟したためであり,その時期にその分野に係わっていたのが幸運だった)とする見方もあります.後者の見方は,同じ時期に同じ結果を複数の人が発見する事例が良くあることの説明にもなります.どちらの見方も最もな言い分です.
数学は,現場(科学)から生まれたとするか,それとも,科学に先んじて数学が独自に生まれたとするか,これらも両極端な見方です.
数学の源泉が現場にあったことも事実ですし,数学から数学が生まれたのも事実です.
19世紀末(1890~1894年)に,フェドロフ,シェンフリ-ズ,バーローがそれぞれ独立に結晶空間群230種類を数え上げていました.これらの3人のうちシェンフリーズはドイツの数学者ですが,フェドロフはロシアの鉱物学者,バーローはイギリスの実業家です.
レントゲンによるX線の発見(1895年)は20世紀の幕開け前夜です.すぐ20世紀に入り,結晶を回折格子としたラウエの実験(1912年),X線結晶構造解析のブラック親子(1915年)と科学の発見が続きます.
ブラック親子のX線結晶構造解析に必要な,空間群の230種類の数え上げは,「さあ,お使い」とばかりに準備されていました.ドラマティックですね.数学が科学的発見より先んじていた例に良くあげられます.
しかしながら,数学を突然出現させるのは,演出が過ぎるというものです.17世紀中葉からの結晶に関する多くの観察実験により,「結晶は単位胞が積み重なったデジタル(離散的な周期的構造)世界でなければならない」と推論されていました.それは,ステノ(1669年),リスル(1772年)の「面角一定の法則」,アウイ(1783年)の「有指数の法則」,ミラー指数(1839年)などの積み重ねの結果です.実際これらに貢献したのは数学者ではなく現場の科学者で,結晶学と整数論がともに進んできた道です.
ブラベーの格子の対称タイプの数え上げ(1848年),ヘッセルの結晶点群の数え上げ(1830年)などを経て,空間群の数え上げに至ります.
しかし,これらをもって数学と言うならば,数学は科学の現場で育まれたのです.
さらに洗練された数学的概念の関与で,数学の登場となります.空間群の直積や半直積への分解や正規部分群の拡大などの群の成り立ちの研究になってからではないでしょうか.
数学月間の狙いは,「数学が基礎科学も含めて社会を支えていることを,数学嫌いの市民に気づいてもらい,数学アレルギーを無くそう」とういうものです.その数学の源泉は何かの現場(科学や社会)に無縁ではないはずです.そして,数学の本質は論理なので,数学を抽象化し洗練すれば,数学から数学が生まれる宿命にあるのも確かです.やがて,その数学の源泉は見えなくなるのですが,そのように抽象化純粋化された数学も源泉につながっていたことを忘れたくはありません.
「・・・・・多くの数学者は物理学その他の分野との関係を見失い,一方,物理学者は数学者の関心と問題意識,その方法と語法が理解できなくなっている.これでは,科学の発展の流れは次第に細かく枝分かれし推量を失い,ついには干上がってしまうであろう.・・・・・」R.クーラントの『数理物理学の方法』(1924)の序文からの引用.
これが書かれたのは今から100年前ですが,このような状況は現在も同じです.
数学の源泉が良くわかる数学と科学現場が一体であった以下の時代を,これから考察しましょう:
●14世紀末~16世紀初頭
ルネッサンス人というのは多分野に天才であった人たち(数学者で科学者で芸術家でというような)が活躍し,数学研究が孤立していなかった面白い時代です.タルタリア,カルダーノ,デカルト,フェルマーなどの時代です.
●17世紀~19世紀
次に,ニュートン,ライプニッツ,ガウス,フーリエ,ダランベール,オイラー,ラグランジュ,ベルヌーイ,パスカル,マックスウェルなどの時代があります.この時代も科学と数学は一体で発展し面白い時代でした.
1687年に粒子に対するニュートン力学,1873年にマックスウエルが波動である電磁気学を確立し,古典物理学のパラダイムが完成しました.20世紀になるとこれらのパラダイムはミクロの世界で破綻し量子力学の誕生になります.
次回から,古典物理学の完成時に戻り,数学と物理学に大きな影響を与えた,以下の2つの話題を取り上げます:
■ラグランジュ 解析力学
■マックスウェル 電磁力学
ポリカ波板6枚を切った.私は万華鏡材料のステンレス板も切れる強力な金切りバサミを持っているので,オーバースペックだがポリカ切断には切れ味的には問題はない.しかし,形状が波板という所にやっかいな問題がある.このハサミは切断した帯を側面後方に逃がすのだが,帯が通り抜けるスリット幅が5mm(5mm厚以上のステンレス板は切らないので当然)で,長さは10mmくらいある.波板はうねりの振幅が10mm,ピッチは32mm.もしハサミのスリット幅が10mmだったら,波板切断にも対応できる非常に便利な金切りバサミになるだろう.
世の中には,波板専用の切断ハサミというものも存在するが,たまにしかやらない作業に特殊な工具をそろえていては切りがない.
そこで次の問題を思いついた:ピッチ32mm,振幅10mmのsin曲線のグラフを,長さの10mmの筒の中を通り抜けさせるためには最小でいくらの筒の幅が必要だろうか(表紙図).答えはまだ考えていません.
さて,何か手段はないかと色々工夫するのだが大抵失敗する.辛抱強く少しずつ切り進むのが一番良かった.スリットを通過する場所を局所的に少し伸ばして波板のうねり振幅を薄くして切り進むと多少は効果がある.
結局、全体はうねっているのだが,気にせずに,スリットを通過する場所だけ平坦(局所的に)と見て少しずつ切り進んで行けば,いつかは全体を切断することができる.作業しながら,波板の表面は接平面を繋いで出来上がっている多様体だななどと考えていた.
放射光SPring8の建屋は円形である.廊下を歩くとき先を見れば廊下が円形に続いていることが良くわかる.しかし,自分の周りだけ見れば廊下は直線で出来ている.部屋も壁もドアーもそべて直線で出来ている.どこもカーブしていないのだが,全体としては廊下は円形になっているので不思議な気分になる.
地球だって自分の周囲の地面は平坦にしか見えないのに,地球全体の形は球形である.水平線を見渡せるような景色でも見ない限り地球が丸いことを実感しない.でも実際,小さな接平面を繋いでいくと球形の地球になってしまう.
閑話休題,ポリカ波板で何を作ったかといえば,ブドウ棚の雨除け屋根を作った.雨に濡れてシャインマスカットに黒とう病が発生したからだ.トップジンで消毒した.4年にもなるので元気に育ってほしい.
◆数学には多くの大きな発見がありますが,他の人が理解できるものだけが進歩につながります.数学的概念の理解の容易さや使用の普及は,その表記法が便利かどうかに依存します.たとえば,ローマ数字で2つの数を掛け算をするのは大変です:
MLXXXIV と MMLLLXIX を掛け合わせなさい.全然できません.
加算の場合は別で,この場合はローマ数字の作り方そのもので,容易にできます.ですから,ほとんどの計算を数字の加算で行っていた商人は,ローマ数字の使用をあきらめようとなかなかしませんでした.
注●
ローマ数字は,各アルファベットが表す数を足せばそのまま数になるようになっている.例えば,①1を表すアルファベットは‘I’,‘II’なら1が2つ並ぶので2,‘III’なら3を表す.②同じ文字が4つ並ぶのは禁止で,4は「5の1つ前」と考えて‘IV’と表す.③‘V’は5に対応するアルファベット,10は’X’に,50は’L’に,’C’,’D’,’M’は,それぞれ,100,500,1000に対応させる.
MLXXXIVは,1000+50+30-1+5=1084;
MMLLLXIXは,2000+150+10-1+10=2169 です.
和はMMMCCXLXIIIになります.
数学を発展させるには,このローマ数字の表記法では無理です.
和算も同様で,優れた数学がありましたが,表記法では不利な立場に置かれ理解が広がりません.結局,数学の発展についていけませんでした.
◆微分でのニュートンの記法は関数名の上に”ドット”をつけるもので,
x(t) の1階微分はx˙(t),2階微分はx¨(t)などとするものです.
これは速度や,加速度の表記には便利ですが,高階の微分の表示には向かないし,微分する変数が1変数なら良いが多変数になると使えません.ライプニッツの表記法なら,微積分学の概念を容易に拡張できました.
イギリスの数学者たちは,愛国心からニュートンの記法を用いていたが,ライプニッツに倣った大陸の数学者たちと比べて不利な立場になりました.
関数の微分では,このほかに,ラグランジュの表記法f′(t)なども使われます.
◆数学上の発見の評価は,現在の視点からのその影響度と洗練度でなされるでしょう.それしか方法はないのですが,現在の私たちの視点と何世紀も前の数学者たちの視点は違うことを忘れないようにしましょう.
今日の数学の教え方は,往々にして過去の難解さを理解できなくしています.ただし,それはそれで,効率的に数学の理解ができる利点はあります.
数学上の主要な発見の素晴らしさの評価は単純ではありません.それらは,閃光のように見えますが,実際には,多くの数学者たちによる長年にわたる研究の集大成です.
微積分を最初に発見したのはニュートンかライプニッツかという論争がありますが,ニュートンが師バローから微積分を学んだことは間違いありません.もちろん,バローが微積分を発見したわけでもありません.微積分はギリシャ数学に始まる長い進歩の過程を経て生まれたものです.フェルマーやライプニッツも係わっています.
数学の主要な発見は,「適切な時期」にそのテーマに取り組んでいた幸運に置かれれば,誰でもできたと思える面もあります.でも,これも偏った見方です(なぜ二人以上の人が,ほぼ同時に独立に同じ発見をしたかの説明には,ある程度役立ちますが).発見の中に,天才的なひらめきが確かに存在し,それは,より深い理解や,特定の概念の重要性をより明確に理解したことから生まれます.
新しい概念の発見は奥が深い.その簡単な例は,
2個のリンゴを3個のリンゴに加えること(加算)の誕生です.
リンゴだけでなくあらゆるものの集合の抽象的な性質として, 2や3などの数字の世界が生まれることで,数え上げから数学の領域へと移行しました.
負の数の導入も長い苦労の末にようやく実現しました.
現在の視点から当たり前に思えることでも,そのときの困難を理解することは、小学生を教えようとする教師にとって有益です.
ネイピア,ブリッグスらは,約400年前に対数を考えました.対数はそれから350年間,算術計算の主なツールとして使われました.科学で必要な膨大な計算は,対数なしではできませんでした.その後世界は変わり,コンピュータが登場しました.さて,この先何がコンピュータに取って代わるのでしょうか.ネイピアが対数と同時に機械式コンピュータの基本概念を発明したことを思い出してください. より高速なコンピュータ,より小型のコンピュータ,より高性能なコンピュータは思い浮かべることはできますが,コンピュータと対数表が異なるくらい,コンピュータと画期的に異なる何かが思いつきますか.量子コンピューティングかも知れませんね?いずれにしろ,
非ユークリッド幾何学,群,一般相対性理論,集合論などの発明がいかに困難であったかが分かります.
3⃣回目は,確率と統計に関する話題です.(引用)30-second MATHS
■ ジローラモ・カルダーノ
1501年9月24日,イタリア,パヴィアで生まれる.
1520年パヴィア大学に入学.1525年パヴィア大学で医学博士号を取得;
ミラノの医師大学に入学を志願するが,1539年まで不合格.
1526年,Liber de ludo aleae『さいころあそびについて』を著す.
死後1663年に出版.これは,確率に関する最初の数学書.ブレーズ・パスカルやピエール・ド・フェルマーより1世紀も先んずる.【出典・ブリタニカ】
1536年,De malo recentiorum medicorum usu libellus『現代の医師による治療間違い100事例』を著す.
1545年,Artis magnoe, sive de regulis algebraicis『アルス・マグナ』を著す.この本には,ヴェネツィアの数学者ニコロ・タルタリアに負う三次方程式の解と,カルダーノの元従者ルドヴィーコ・フェラーリが発見した四次方程式の解が含まれる.【出典・ブリタニカ】
1576年9月21日,ローマで死去.
医師,数学者,地質学者,自然科学者,錬金術師,占星術師,天文学者,発明家であるカルダーノは,ルネサンス人(多方面に一流の能力を示す)の化身であり,レオナルド・ダ・ヴィンチの暗い鏡である.ダ・ヴィンチと家族ぐるみの付き合いもあった.レオナルド・ダ・ヴィンチは名声と栄光を手にしたが,カルダーノは不愉快な性格と超批判的な態度で,その才能を無にしてしまった.その知性は大いに求められたにもかかわらず,行く先々で嫌われることになった.
彼は,父の下で学んだ数学に転向し,2冊の本を書いた.そのうちの一冊『アルス・マグナ』(1545年)は,3次方程式と4次方程式の解法に取り組んだルネサンスの重要なテキストである.
彼はニッコロ・タルターリアから3次方程式の解法証明を引き出し,カルダーノは6年間は出版しないと約束したのだった.しかし,タルターリアが真実を略していたことを知り,カルダーノは出版に踏み切り,タルターリアや多くの敵から非難された.
カルダーノはギャンブルにはまっていた.ギャンブルは得意で,『Liber de Iudo aleae(さいころあそびについて)』という本を書いた.この本はギャンブラーやカジノのオーナーには大変人気がある.
カルダーノは,長く多作だが混沌とした生涯を送った後,1576年9月21日に死去した.彼は自分の死を時間まで予言していたと言われている.また,自分の予言が外れたことが証明されないように,約束の時刻に自殺したとも言われている.********************************************************
■ オッズと確率
●オッズとは,何かが起こる可能性を,それが起こらない可能性に対して測定して表す.
ある事象が起こる確率を p,起こらない確率を 1−pとすると,
起こるオッズは p/(1−p),起こらないオッズは (1−p)/p である.
例えば,標準的なダイスで4が出る確率は1/6,4が出ない確率は5/6である.
4が出るオッズは (1/6)/(5/6)=1/5,通常の方法で表現なら,4が出るオッズは1:5となる.
反対に4が出ないオッズは5:1である.これは,「勝つ1つの方法に対して負ける5つの方法」があることを意味する.
●確率とは,特定の事象が起こる可能性を,起こりうるすべての結果と比較する ことによって表現する方法である.
可能な結果の数に対する望ましい結果の数の比であり,0(可能性ゼロ)から1(確実)の間の数で表される.
例えば,フルデック(トランプの全カード)からカードを選ぶとき,ハートを選ぶ確率は13/52 または 1/4 である.
つまり,ハートを選ぶ確率は0.25である.
ブックメーカーは,起こりそうもない出来事(ロングオッズ)に対して,より良いオッズ(そしてより多くのお金)を提供するが,確率は低い.40対1の馬に賭けるのは要注意,可能性はあるが,勝つ確率は1/41だ.
一方,2対3のようなショートオッズは,人気馬(勝つ確率は3/5)であり,勝つ確率は高いが配当は少ない.
■ ゲーム理論
何千年もの間,人々は三目並べからチェスやチェッカーに至るまで,戦略ゲームを楽しんできた.ジャンケンを例にすると,相手の行動にパターンを見いだせない限り,長期的な戦略としては,3つの選択肢から毎回ランダムに選ぶのがベストである.この方法でプレイすると,勝ったり負けたり引き分けたりが均等に起こる.これはゲームの「均衡」と呼ばれるもので,両プレイヤーがこの戦略を使っているかぎり,どちらかが戦術を変えて勝利数を増やすことはできない.
ゲーム理論の中心は,ジョン・フォン・ノイマンによって証明され,ジョン・ナッシュによって拡張された,膨大な種類のゲームが均衡を持つことが保証されているという有名な事実である.
ゲーム理論はゲームの研究を超え,政治学から人工知能にまで応用されている.しかし,ゲームにはまだ課題がある.2007年,カナダのジョナサン・シェーファー教授らは,チェッカーゲームにおける無謬の戦略を開発した.彼らのプログラムは絶対に負けない.しかし,コンピューターはチェスでは人間を打ち負かすことができるものの,このような完璧な戦略はまだ遠い夢である.障害となっているのは,チェスのゲーム展開の仕方が,宇宙に存在する原子の数をはるかに凌ぐためだ.
■ ベイズの定理
ある病気の検査の精度が90%だとする.ここで,無作為に選ばれた人ボブが,陽性と判定されたとする.
ボブが実際にその病気にかかっている確率は?
この質問は答えられない!もう一つ追加情報が必要だ.
すなわち,その病気がどのくらい一般的な病気なのかという情報で,
ランダムに選ばれた人がその病気に罹患している確率を知る必要がある.
仮に人口の1% がその病気に罹患しているとしよう.ベイズの定理は,検査が陽性であった場合に,その人がその病気に罹患している確率を求める方法を教えてくれる.1,000人の集団で,平均10人が病気を持っている(1%)として,そのうち9人が検査陽性(「真陽性」)となる.残りの990人は病気を持っておらず,そのうちの10%,つまり99人が検査陽性(「偽陽性」)である.偽陽性は真陽性より多く99対9で,ボブが病気である確率は11対1である.
ベイズの定理における事前確率の出現は,試行を繰り返して事象の頻度を決定しなければ,事象に意味のある確率を割り当てることはできないことを示唆している.
●ベイズの定理は,18世紀のイギリスに住んでいた長老派の牧師,トーマス・ベイズ(1702頃-1761)にちなんで名づけられた.
●偽陽性
医学的検査において,様々な要因により,実際には陰性であるはずの検査結果が陽性となってしまうこと.多くの検査環境において偽陽性が発生するため,陽性と判定される確率を正確に判断することは,事前確率を計算するのに十分なデータが揃うまで不可能である.
●真陽性
真陽性は真に正確な陽性結果であるが,偽陽性は検査の不正確さや失敗によって生じる不正確な陽性結果である.
●事前確率
統計学において,新しいデータや証拠が他の確率を計算する前に設定される事象の確率.事前確率は,確率のベイズの定理において重要な役割を果たす.
■中心極限定理
コイン投げなどの同じ条件で何度でも繰り返すことができる偶然の結果を伴う(ランダム)実験は,十分な試行回数があれば,出来事の頻度はそれが起こる確率に非常に近くなる.
大きな母集団を研究する場合も同様で,サンプル・サイズが大きければ大きいほど,出来事の頻度は,それが起こる確率に非常に近くなる.サンプルの平均は母集団の平均をよりよく表す.
平均値の推定精度は,標本サイズの平方根で良くなる.そして,測定対象のばらつきが大きい場合,良い推定値を得るにはより大きな標本が必要になる.この法則は,十分なデータがあれば,常に必要なだけ良い推定値が得られることを保証している.
確率と頻度の関係を示す最初の重要なステップは,1713年にヤコブ・ベルヌーイによってなされた.その150年後,イレーヌ=ジュール・ビエナイムとパフヌティ・チェビチェフの研究によって,これはさらに強化され,1909年,エミール・ボレルによって,推定値が最終的にわれわれの望むとおりになることの証明が完成した.
●中心極限定理
確率論で,サイコロ投げのような同等なランダム変数は,十分な試行回数を重ねると,その平均値は正規分布に向かうというのが中心極限定理である.その結果をグラフにプロットすると釣鐘型曲線を描く.
■ ランダム性のチェック
表(H)と裏(T)が連なる2つの長い列があり,それぞれがHHTHTHで始まるとしよう.一方は本当にランダムで,偏りのないコインを繰り返し投げた結果であるが,もう一方はそうではなく,人間が注意深く選んだものである.
どちらがどちらかを見分ける方法はあるのだろうか?
真にランダムならば,長期的には表と裏が同じ頻度で現れるはずである.
しかし,これだけでは十分ではない.すべての結果のペア(HH,HT,TH,TT)は,平均して,他のすべてのペアと同じ頻度で出現するはずである.すべての3連,4連,さらに長い配列についても同様である.
しかし,人為的にこれらの条件を満たすことは可能なので,これらすべてでも十分ではない.
最も単純な配列はHHHHHHH...で,これは明らかにランダムではない.他にもまだある.これは簡単に圧縮できるのだ.「100万の表」という表現は,この配列順序を非常に簡潔に表しており,誰でも完璧な精度で伝達し,再現することができる.
しかし,真にランダムな配列順序を圧縮することはできない.ランダムな配列順序を誰かに伝える唯一の方法は,それを全部書き出すことである.ランダム性と非圧縮性は本質的に同じものなのである.
ランダム性を数学的に検出するのは非常に難しい.
インターネットはバイナリ・シークエンス(0と1の長い文字列)で動いている.これをコンピュータが,私たちの使いたいプログラムやファイルに変換できる.最大限の効率を得るためには,これらの文字列はファイル圧縮ソフトを使って可能な限り圧縮する必要がある.
文字列が圧縮されると,予測可能なパターンや繰り返しパターンが取り除かれ,純粋にランダムなシークエンスと見分けがつかなくなる.したがって,完全に 圧縮された情報は,数学的には ランダムと同じである.
どの配列がランダムなのか?数学者でさえわからない。
■ ギャンブラーの誤謬 - 平均値の法則
コインを10回投げてすべて表が出たとき,次は裏の可能性が高いと主張したくなる.人々はこう言う.「表と裏が同じ確率であるという平均値の法則に従えば,裏が追いつき始めるに違いない」
ナンセンスである.いかさまなコインでなければ,前回の結果がどうであれ,次回に表か裏が出る確率は,表50%,裏50%と決まっている.ルーレットや宝くじも同様で,100回まわしてゼロが出なかったからといって,次にゼロが出る確率が上がるわけではない.イタリアで,53という数字が2年以上も宝くじに当たらなかった.その結果,多数の破産者と自殺者が出した.
コイン,ルーレット,宝くじの玉は無生物であり,以前の結果を記憶し,その頻度を調整する能力はない.
確率は,長い目で見れば,それぞれの確率に落ち着くだろう.いかし,それには本当に長い時間がかかる!
「平均値の法則」は,厳密には「大数の法則」の言い換えであり,過去の結果が直近の結果に影響を及ぼすと主張するために使うことはできない.
■ 確率の感じ方
人間の時間感覚の問題で,このような錯覚に陥り易い.イタリアの宝くじで,53という当たり番号が出ていないので,今度は絶対でると思い込み,破産者や自殺者を出した事例の紹介がありました.
十分大きな試行回数を重ねれば,それぞれの固有の確率に収束していく.これが、「大数の法則」ですが,この「十分に大きい」というのが曲者で人間の時間間隔とは合いません(試行回数の平方根に比例する速度で平均値に近づくのですが).
「まれな出来事は良く起こる」という逆説的なことも良く経験します.「まれな出来事」の起こる確率は小さいはずですが,「まれな出来事」の種類は非常に多いので,そのうちのいくつかは必ず起こる(どれが起こるかわらないが)ので,そのように感じるのでしょう.
地震の起こる確率は発生まで増加し続ける
地震調査委員会は,主要な活断層や海溝型地震(プレートの沈み込みに伴う地震)の活動間隔や次の地震の発生可能性を評価し公表しています.
南海トラフ地震について,マグニチュード8~9クラスの地震が30年以内に発生する確率が70~80%といわれます.これは南海トラフでは過去1,400年間に約90~150年の間隔で大地震が発生していることから,次の地震までの間隔を88.2年と予測したのが根拠です.1944年の昭和東南海地震や1946年の昭和南海地震が発生してから,2020年は約75年を経過しており,南海トラフにおける大地震発生の可能性が高まっていると言われます.太平洋やフィリピン海プレートが日本の下に沈み込むとき,引き込まれた日本列島が時々(周期的に)戻るのが海溝型の地震なので発生に周期ができます.
今年地震の起きる確率は1/88,この何十年も巨大地震が起きていないといっても,今年起きる確率はいつもと変わらず1/88と言っていいでしょうか.そうではありません.この場合の確率は一定ではないはずです.
地震は,地層にたまり続けたひずみが地層を破壊して放出される現象です.放出されるエネルギは,地層の強度や生じた断層の大きさなどから推定できます.結局,たまり続けた歪に耐え切れなくなって地層が割れるのですから,地震が発生する直前まで地層の歪は増加し続け,地震が起きる確率は,地震発生まで時々刻々増加して行くはずです.
その場所で地震の起きない年月が続いた後は,地震の発生確率は高まっているというのは本当でしょう.
No.527,528の「記数法と数体系」に続くのは,今回の「数が生み出される仕組み」[演算]です.
演算とは,4則演算,指数と対数,三角関数ほかの色々な関数,微積分などがあります.
素数を生み出す仕組みはまだ謎ですが,フィボナッチ数が生まれる仕組みは,
「前の2項の和が次の項を決める」という非常に簡単な再帰的規則で,
DNAにプログラムするのも容易です.これが自然界で色々な場面にフィボナッチ数が登場する所以でしょう.
今回の話は,歴史的には,ニュートン,ライプニッツの時代(1720年ごろ)までです.
・ゼロの役割
バビロニア,ギリシャ(ただし天文学者だけ!),マヤなどの古代人たちは,ゼロを数体系における位取りとして使用していた.現在の数体系が生まれたインドでも同様である.
628年にBrahmaguptaブラフマグプタが,ゼロを単なる位取りとしてではなく,数字として扱い,ゼロと負の数を使った算術規則の最初の書物を書いた.
820年にAl-Khwarizmiアル=フワーリズミーは,インドの数体系をイスラム世界に紹介した.
フィボナッチは1202年,『リベル・アバカ』(計算の書)の中でこれをヨーロッパに紹介し,ヨーロッパでのゼロの使用を広めた.
・無限
無限は水平線の彼方にある.勇敢な船乗りが,どんなに遠くまで旅をしたとしても,
少しでも無限に近づいたと言えるのだろうか?自然数が無限にあることは簡単にわかる.
どんな数でも最大であると宣言すれば,いつでも1つ増やすことができ終わりがない.
0と1の間に無限の数があることも真実だが,これは少し厄介だ.
ギリシャのストア学派Zenonゼノンは,一連のパラドックスを通してこの考え方を研究した.
彼の最も有名な説は,すべての運動は不可能であるというものだ.
A地点からB地点に行くには,無限の中間地点を通過しなければならず,それぞれの地点から次の地点に行くには正の時間がかかる.無限個の正の数を足すので無限の時間になり,有限時間ではどこにも移動できない.
この論理のどこが間違いか(無限個の正の数の和が有限である可能性がある!)わかっているが,この考えは多くの研究を引き起こした.微積分の中心的な考え方は無限に関わっている.どんどん小さくなっていく正の時間間隔(私たちは「限りなく小さい」と言う)の無限数列を使った平均変化率で,瞬間的な変化率(速度)を定義することができる.
エレアのゼノン c.490-c.430BCE,ゲオルグ・カントール 1845-1918
収束する無限級数の簡単な例は,1/2+1/4+1/8+1/16+...=1
無限級数の中には驚くべき結果をもたらすものがある.例えば,1-1/3+1/5-1/7+1/9-1/11+1/13-1/15...=π/4
ガリレオはある点集合を別の点集合に写像する公式を作り,デカルトは代数式で曲線を作る概念を導入した.
「関数」という用語は17世紀後半にライプニッツによって作られた.
関数のすべての入力集合は定義域(ドメイン)と呼ばれ,すべての出力集合は像(イメージ)または値域(レンジ)と呼ばれる.
曲線の勾配を計算する微積分の発明者は,ニュートン,ライプニッツとされている.
ニュートンは,「フェルマーの曲線と接線に関する先駆的な研究での近似概念の発展がなかったら微積分に到達できなかった」と公言している.
オスミツバチの先祖の木
オスのミツバチは未受精卵から生まれるので,オスのミツバチ( M)には母親はあるが,父親はいない.これに対して,メスのミツバチ( F)は,受精卵から生まれるので,両親がある.
図3.12は,7世代に遡るオスのミツバチの系図を示した.
[訳注:世代 nの数え方は,自分を1,親の世代を2のように,過去に遡る方向にn が増加する.図3.12には, 2世代(母親)~6世代が示されている.このようなネットワークは,グラフ理論の言葉で,木(ツリー)と呼ばれる.ネットワークにループ(閉路)がなく,あたかも,枝分かれ成長する木を思わせる.]
各レベルつまり各世代のミツバチの総数を数えよう.表3.3に示すように,これはフィボナッチ数になる.
$${a_{n} , b_{n} ,t_{n } }$$を,それぞれ,世代$${n , n \ge 1}$$のメスのミツバチの数,オスのミツバチの数,ミツバチの総数としよう.オスのミツバチから先祖に遡るので,明らかに,$${a_{1}=0}$$, $${b_{1}=1}$$から始まる.オスのミツバチは母親,メスのミツバチには母親と父親が確定するので,$${b_{n}=a_{n-1} , a_{n}=a_{n-1}+b_{n-1 } }$$, $${t_{n}=a_{n}+b_{n } }$$である.
$${a_{1}=0 , a_{2}=1 , a_{n}=a_{n-1}+a_{n-2 } }$$なので,$${a_{n}=F_{n-1 } }$$のフボナッチとなる.
これから,$${t_{n}=a_{n}+b_{n}=a_{n}+a_{n-1}=a_{n+1 } }$$が得られ,$${t_{1}=a_{2}=1, t_{2}=a_{3}=1}$$であるので; $${t_{n}=F_{n } }$$となる.
かくして,オスのミツバチの世代$${n}$$の先祖数は$${F_{n } }$$である.この魅力的な関係を最初に導いたのは,W. Hope-Jones, 1921年[322]であった.
本文:①より引用. 表紙図:②のp.25の図を編集.
SHAPE-[形]で解き明かす社会の難問
ジューダン・エレンバーグ著
宮崎興二編訳/パウロ・パトラシュク訳(丸善出版)
この本の紹介をします。数学書ではありませんが、数学の心意気が理解できる変わった面白い本です。いくつかをのトピックを選択して、コメントを述べようと思います。
■ 第一章は、リンカーンとユークリッド原論から始まります。
リンカーンと共に米国各州を巡回し生活した、弁護士ウイリアム・ハーンドンが1889年に出版したリンカーン伝からの回想が引用されています:
「田舎の狭いホテルに一緒に泊まったとき、二段ベッドの上から長い脚を垂らし、ローソクの光でユークリッドの原論を夢中になって読んでいるリンカーンの姿を見た。」
「リンカーンの事務所の机に、定規やコンパスや色々な図面や計算が書かれた紙が散らばっていた。」このときは、「円積問題を解こうとして二日間全力を尽くしていた。」とリンカーンが語った。
これらのエピソードから、リンカーンがユークリッド原論の愛読者だったと知って大変うれしい。
リンカーンが挑戦した円積問題[円を面積の等しい正方形にする]が、定規とコンパスだけでは作図不可能であることは、今日、誰でも知識として知っており、多分、わざわざ挑戦しようとは思わないだろう。しかし、リンカーンのように自分で図を描きやってみることが最も大切なことである。
1.円を正方形に
2.立方体のデロスの祭壇を2倍の体積の立方体に
3.任意角度を3等分する
これらは、定規とコンパスを使って作図できない問題だ。これは後の時代(リンカーンの頃は既知であったが)にわかったことだが、これらの作図の解は3次方程式の根であり、3次方程式の根は、定規とコンパスで作図できる数(+、ー、x、÷、√で表現される数)ではない(3乗根がでてくる)。
ユークリッドの幾何学から、リンカーンが身に着けた一番大切なものは、誰もが認める公理系の基礎の上に、誰も否定できない世界を演繹で組み立てるという考え方だった。
アメリカの独立宣言の中に言及されている『自明な真実』というのは公理に当たるし、ゲティスバーグ演説で、「人間はすべて平等に創られている、という『信条』に捧げられた新しい国家、それがアメリカである」という歴史的な名言中の『信条』は、”proposition”という単語【普通は『命題』と訳す】で、この言葉遣い自体が原論の公理の書き方を思わせる。
トーマス・ジェファーソンもリンカーンに先立、同様にユークリッドの原論に民主主義を支える原理を見つけ出そうとしている。ジェファーソンはウイリアム・アンド・メアリー大学時代にユークリッド幾何学も学習し、それ以降幾何学を大事にしている。リンカーンは独学であったが、両者とも、原論の論理の組み立て「みんなが認める公理から演繹で理論を組み立てていく」を実践しようとしている。
得られた結果た定理を暗記するのではなく、どのように論理が組み立てられたのかを実践し考え方を身に着けるような数学教育がなされるべきである。
リンカーンのように自力で考えることが大切だ。
日本国憲法は、互いに矛盾のないよく考えられた公理系の上に論理的に組み立てた体系であり、言葉は定義通りに忠実に解釈すべきで、解釈変更や拡大解釈などに詭弁の原因がある。『義務』とはすべて同等な義務であるべきなのに、恣意的に努力義務と解釈するなど、論理の焦点をわざと逸脱させたり本質を隠したりして制定時の精神を損なっている。憲法を読むにも解釈するにも、数学的な論理的態度が必要だ。これらについては、秋葉忠利「数学書として憲法を読む」、2019年数学月間講演(⇓)を参照ください。
https://sgk2005.org/bbses/bbs_articles/index/page:3?frame_id=346&page_id=97
色々な課題を解くと,フィボナッチやリュカの数列が現れることが多い.これらの数を生み出す仕組みは「再帰的」で非常に効率が良い.
ちなみに, フィボナッチ数列の再帰関係は:$${F_n=F_{n-1}+F_{n-2 } }$$
$${F_2=F_1=1}$$とすると,$${F_3=2}$$などと続き,フィボナッチ数列 1,1,2,3,5,8,13,21,34,...…が得られる.
つまり,DNAに記録された簡単な設計図の指示で成長する植物などに,これらの数列が現れるのはごく自然なことである.
フィボナッチ数列で数を生み出す仕組みは,数の本質に迫るものがあるようで,見かけは異なる課題が、フィボナッチ数列に帰着することが多い.
いくつかの代表的な課題を取り上げて,再帰関係の導出過程を「ひながた」として示しておきたいと思う.
こここで選んだ課題と解法は,①Fibonacci and Lucas Numbers with Applications, by Kosbyから引用した.
■フィボナッチについて
フィボナッチ数列1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,89,144,233......は,各項は前の二つの項の和である.この数列は,数論において特別な役割を果たすが,多くの不思議な数値的性質を持っている.
例えば,$${1+1+2+3+5+8}$$はフィボナッチ数21より1小さい.
これらの数の2乗の和は,2つのフィボナッチ数の積になる: $${1 +1+4+ 9+ 25+ 64=8\times13}$$.
次の項との比$${1:1,2:1,3:2,5:3,8:5,...}$$は,黄金比$${Φ\approx1.618}$$に近づく.
幾何学的には,辺の長さがフィボナッチ数である正方形は,黄金の螺旋を形成するようにうまく組み合わされる.
人間がこのようなパターンに魅了されるずっと以前から,植物はフィボナッチ数の経済効率を発見していた.パイナップル,ヒマワリ,アーティチョークなど,螺旋構造を持つ多くの植物の葉や蕾には,連続したフィボナッチ数の組が見られる.パイナップルを調べると,一方向に8列,もう一方向に13列が螺旋状に並んでいるのがわかる.動物界では,ミツバチは各世代にフィボナッチ数の祖先を持つ.
ーーー以上 ②30-second Maths, Richard Brown, p.24より引用.
1202年,フィボナッチとしても知られるレオナルド・ピサーノは,著書『Liber Abaci』(計算の書)の中で,ウサギの繁殖に関する謎かけを行った.
おそらく非現実的であろうが,1ヶ月ごとに1組の成ウサギが1組の子ウサギを生み,子ウサギが成ウサギになるまで1ヶ月かかると仮定して,
1月に1組の子ウサギから始めると,12月までに144組の子ウサギが生まれる! もちろん,これはフィボナッチ数列である.-----
フィボナッチは,1202年にLiber Abaci (リベル・アバカ) 「計算の書」を出版し,アラビア数字と数学をユーロッパに導入した功績が大きい.イタリア人の商人である父と北アフリカに滞在したときに,アラビア人と共に学んだ.
■ フィボナッチ数列は簡単な再帰関係に基づき,数を生み出す仕組みだが,数学の色々な概念と結びつきがあり,いろいろな数学の分野に現れるので,良い数学分野の紹介に利用できる.
石庭の作り方
石庭を作る人は多分いないと思いますが,工事中の石庭を見て今回は石庭の話題です.地面に石を置けばできると思っていましたが,そんなに簡単ではなく工法はとても手が込んでいます.
地面を1mも堀下げ基礎をしっかり固めます.その後で,地表まで戻して,写真のような岩の配置を作ります.岩の下にあるのは花崗岩のピンコロでカマセ石と呼ばれます.
この先は,砂利を敷き砂紋を描くことになるのでしょう.
この景色が意味しているものは何でしょうか.まだ置く岩が多数あり未完成です.
龍安寺の石庭
有名な石庭に,臨済宗. 妙心寺派,龍安寺があります.私は高校2年生の修学旅行の自由時間に,ここを見に行く計画を作り実行しました.そのころ私は岩波新書の『日本列島』などを読み岩石に興味を持っていたからです.
ちょっと遠くて時間がかかったような記憶があります.私の案に賛成して同行グループになってくれた友人が何人かいました.
龍安寺の石庭の全部で15個ある石は,どの場所に立ってどの角度から見てもすべての石が見えないように造られているそうです.世界は「不完全」だと言いたげで,ゲーデルの「不完全性定理」を思わせます.
その後知ったことですが,龍安寺の石庭の15の石は,虎の子渡し[母虎1匹と子虎3匹(1匹の豹の子を含む)が川を渡る方法]の謎の答えが隠されているという説もあります.
大数の法則
コインを10回投げて,連続して表が10回出たとすると,次は裏が出る可能性が高いと思いたくなります.「表や裏のそれぞれが出る確率は同じなのだから,そろそろ裏が追いつき始めるに違いない.」
しかし,これはナンセンスです.偏りのない正しいコインなら,前回の結果がどうであれ,次回の表か裏が出る確率は,表50%,裏50%と決まっています.何回やっても確率は変わりはしない.ルーレットや宝くじでも同様で,100回まわしてゼロが出なかったからといって,次にゼロが出る確率が上がるわけではありません.
コイン,ルーレット,宝くじの玉は無生物であり,以前の結果を記憶し,その頻度を調整する能力はないはずです.
人間の時間感覚の問題で,このような錯覚に陥り易い.イタリアの宝くじで,ある数字が,ずうっと出ていないので,今度は絶対でると思い込み,破産者や自殺者を出した事例があるそうです.
十分大きな試行回数を重ねれば,それぞれの固有の確率に収束していく.これが、「大数の法則」ですが,この「十分に大きい」というのが曲者で人間の時間間隔とは合いません(試行回数の平方根に比例する速度で平均値に近づくのですが).
「まれな出来事は良く起こる」という逆説的なことも良く経験します.「まれな出来事」の起こる確率は小さいはずですが,「まれな出来事」の種類は非常に多いので,そのうちのいくつかは必ず起こる(どれが起こるかわらないが)ので,そのように感じるのでしょう.
地震と確率
地震調査委員会は,主要な活断層や海溝型地震(プレートの沈み込みに伴う地震)の活動間隔や次の地震の発生可能性を評価し公表しています.
南海トラフ地震について,マグニチュード8~9クラスの地震が30年以内に発生する確率が70~80%といわれます.これは南海トラフでは過去1,400年間に約90~150年の間隔で大地震が発生していることから,次の地震までの間隔を88.2年と予測したのが根拠です.1944年の昭和東南海地震や1946年の昭和南海地震が発生してから,2020年は約75年を経過しており,南海トラフにおける大地震発生の可能性が高まっていると言われます.太平洋やフィリピン海プレートが日本の下に沈み込むとき,引き込まれた日本列島が時々(周期的に)戻るのが海溝型の地震なので発生に周期ができます.
今年地震の起きる確率は1/88,この何十年も巨大地震が起きていないといっても,今年起きる確率はいつもと変わらず1/88と言っていいでしょうか.そうではありません.この場合の確率は一定ではないはずです.
地震は,地層にたまり続けたひずみが地層を破壊して放出される現象です.放出されるエネルギは,地層の強度や生じた断層の大きさなどから推定できます.結局,たまり続けた歪に耐え切れなくなって地層が割れるのですから,地震が発生する直前まで地層の歪は増加し続け,地震が起きる確率は,地震発生まで時々刻々増加して行くはずです.その場所で地震の起きない年月が続いた後は,地震の発生確率は高まっているというのは本当でしょう.
ヒルベルトの計画(綱領)
ヒルベルトは,1921年に「ヒルベルトの計画(綱領)」を発表します.すべての数学を公理形式で記述したいのですが,その基礎になる公理の独立性,一貫性が保証されなければなりません.ヒルベルトは,1900年に行われた講演「23の数学的問題」の2番目でもこの問題を取り上げています.
20世紀初頭は,数学者はますます複雑な問題への挑戦を進めるが,その一方で,数学への基本的な疑問も起こりました.数学とは何か?その基本法則は何か?
ダーフィト・ヒルベルトには,数学の本質に取り組むための大胆なアイデアがありました.彼は数学を骨抜きにし,単なるゲームとして扱おうと考えました.チェスがポーンやキャッスルといった駒を使ってプレイされるように,数学ゲームも基本的な構成要素は記号: 0,1,+,×,=,などで,これらを組み合わせてすべての数学が出来ています.
数学を記号のゲームに落とし込み,記号の「意味」を忘れることで,数学とは何か,その基本的なルールが現れて来ると考えました.
数学の原理「ルールの基本セット」が見つかれば,これを根拠にすべての数学的記述の証明ができるし,数に関するどのような数学的記述も真か偽かをこれで決定できます.ヒルベルトは,算術の構造の根底にある論理を利用して,究極の数学理論を見つけたいと考えました.
残念ながら,ヒルベルトの計画(綱領)が実現することはなかった.
クルト・ゲーデルもヒルベルトの計画に触発された一人で,不完全性定理の研究を行い,数学が成り立つ完全なルール・セットは誰も作れないことを証明しました.
ゲーデルの証明によれば,公理系に矛盾がなく完全であることの証明は,公理系の枠組みでできない.完全性(あるいは不完全性)を証明したり反証したりするには,公理の追加(システムの強化)が必要である.
その後,アラン・チューリングのアルゴリズムに関する研究は,任意の数学的記述の真偽を評価できる手続き(アルゴリズム)は存在し得ないことを示しました.
しかし,数値システムをゲームとして扱うという彼の「形式主義的」アプローチは,数理論理学への新たな関心を呼び起こしました.
すべての数学的問題を解決することはできないが,問題のいくつかの特殊なサブクラスは,この方法で解決することができます.今日の数学者たちは,ヒルベルトの計画から肯定的な結果を救出し続けています.
ゲーデル
算術は,0,1,2,3...という整数の体系と,それらを組み合わせる方法:加算,減算,乗算,除算で成り立ちます.19世紀後半になると,数学の基本法則を見つけることに焦点が当てられ,数学者たちが求めていたのは,算術の基本法則(ルール)のリストです.すべての数学定理は,そのルールセットから論理的に演繹できるはずです.バートランド・ラッセルとアルフレッド・ノース・ホワイトヘッドによる3巻の著作『プリンキピア・マテマティカ』(1996年)を筆頭に,いくつかのルールブック候補が登場しました.
これは,基本的仮定のリストから数学の全体を構築しようとするものであったのです.しかし,1931年,クルト・ゲーデルは,そのような完全なルールブックを作ることは不可能であるという定理を証明してしまいました.
整数に関する記述の中には,真であるにもかかわらず推論できないものが必ずある.
もちろん,ルールブックを拡張してこの記述を新しい法則として組み込むことはできるが,それでも理論には他のギャップが残ることになる.ゲーデルの定理は,それらをすべて埋めることは決して望めないことを保証しています.
その後,算術の論理体系の階層が構築され,それぞれの体系が下の体系(サブクラス)のギャップの多くを埋めていることが知られます.
「証明理論」のテーマは,これらの異なる体系の論理的な強さを比較しています.
一方,「逆数学」では,古典的な数学の結果が成立する基盤条件の理解を狙い, 与えられた定理の証明にどのような公理があるのかを正確に調べています.
この写真は,以下のサイトからお借りしました:
https://www.joh.cam.ac.uk/library/special_collections/early_books/fermat.htm
Diophantus, Arithmetica (Toulouse: Bernard Bosc, 1670). | St John's College, University of Cambridge When reviewing his copy of Diophantus in 1637, Pierre de Ferm www.joh.cam.ac.uk
フェルマーの最終定理
写真は,デイオファントスの算術書の余白にあるフェルマーの書き込みです.
ピエール・ド・フェルマーは,自分の所有するディオファントスの算術書の余白に有名な「最終定理」を書き,余白に収まらないほど長い証明を発見したという趣旨のメモも添えました.1637 年ーーーーーーー
整数$${n}$$が 2 より大きい場合,$${a^n + b^n = c^n}$$ は,非ゼロの整数$${a, b, c}$$に対して解を持ちません.私はこの命題の実に素晴らしい証明を持っていますが,この余白はそれを含めるには狭すぎます.ーーーーー
フェルマーは1665年1月12日にカストル(南フランス,バルセロナに近い)で死にます.彼の死後の1670年に,息子のサミュエルが,ディオファントスの算術書を出版したときに,父親の余白のメモや注釈すべて本文に取り入れた版にしました.これが表紙写真の貴重な書です.(フェルマーが書き込んだ原本は現在失われています)
フェルマーがどのように考えどのように証明したかは謎です.
これは見かけによらず難問で,その証明には300年以上の長い年月を要し,1994 年に至りアンドリュー・ワイルズがこれを証明しました.
デイオファントス
算術書を書いたデイオファントスとは何者でしょうか. wikiによると:
https://en.wikipedia.org/wiki/Diophantus
ディオファントスはギリシャ人で,ローマ時代の西暦200年(あるいは214年)から284年(あるいは298年)に,エジプトのアレクサンドリアに住んでいました.ディオファントスの生涯に関する私たちの知識の多くは,メトロドロスが作成した5世紀のギリシャの数遊びとパズルのアンソロジーから得られています.問題の1つ(彼の墓碑銘)には次のように書かれています。ーーーーー
ここに、驚異のディオファントスが眠る。代数術によって、石碑は年齢を告げている。「神は彼に、人生の 6 分の 1 の少年時代を与え、さらに 12 分の 1 はひげが生える青春時代、そして結婚が始まる前の 7 分の 1 を与え、5 年後に元気な息子が生まれた。悲しいかな、師匠であり賢者の愛する息子は、父の人生の半分を達成した後、冷たい運命に捕らわれた。4 年間、数の科学によって運命を慰めた後、彼は自らの命を絶った。」ーーーーー
このパズルから、ディオファントスの年齢$${x}$$が次のように推定できる.$${x = x/6 + x/12 + x/7 + 5 + x/2 + 4}$$ を解いて,$${x=84}$$
ディオファントスの活躍した時代は西暦200年頃ですが,その算術書は,9世紀にアラビア語に翻訳され,ヨーロッパの中世暗黒時代を経て,ギリシャ語からラテン語に翻訳されました.1621年のラテン語翻訳のデイオファントスの算術書が,広く入手可能な最初のものでした.ピエール・ド・フェルマーはそれを所有し,研究して余白に書き込みをしたのです.
フェルマー
彼の名を冠した定理が何世紀にもわたって謎に包まれていたので,フェルマーは数学者以外の人々にも最もよく知られるようになった数学者の一人です.幾何学,確率論,物理学,微積分学の分野で独創的かつ重要な貢献をした学者ですが,フェルマーは生涯アマチュアであることを頑なに守りました.彼は自分の考えや発見をすべて手紙や手稿の形で伝え,出版はしませんでした.
彼は昼間は弁護士としてトゥールーズの議会議員を務めていて,学問の世界に身を置かなかったので,厳密な証明や査読などを受ける必要もありません.実際,同僚たちの中には,「フェルマーが証明を出さないのは,証明がないからだ」と陰口をたたく者もいたし,「フェルマーは常に,解くのが難しすぎる問題で挑んでくる」と揶揄する者もいました.しかし,フェルマーは,いくつかの問題には解がないことを証明したと反論しました.
ニュートンは,フェルマーの曲線と接線に関する先駆的な研究とその発展がなかったら,微分積分に到達できなかったと公言しています.彼はパスカルと有名な文通をしており,その中で2人はギャンブルの問題を研究し,確率論の原理を考え出しました.
フェルマーはまた,幾何学理論についてデカルト(数学者の中で最も気難しい数学者であることは間違いない)と対立し,デカルトが幾何学理論を発表する1年前に独自の理論を発表しました.フェルマーが正しかったが,デカルトは自分の影響力とコネを使ってフェルマーの名を汚し,その評判を矮小化したのです.論争もし,最後まで聡明で謎めいた存在であったフェルマーは,解けない謎を残して死にました.その最終定理は,彼の死後300年以上も未解決のままであったのですが,1994年に証明されました.
始まりは整数の集合
ものを数える数1,2,3,4,..…は自然数と言います。整数は正の整数(自然数と0)、および、負の整数の集合です。整数集合上で、加算と乗算はできます。つまり、任意の整数の和(加算)は、やはり整数。任意の整数の積(乗算)は、やはり整数になるので、整数集合は、加算や乗算について閉じています。これを、加法(あるいは乗法)について、整数は「環」をなす(整数環)といいます。同じ演算が続いているときには、どちらを先にやっても結果は同じだということを結合的と言います。加算や乗算は結合的です。例えば、$${a+b+c=a+(b+c)=(a+b)+c}$$。
さらに、$${a\times (b+c)=a\times b+a\times c}$$という分配則を定義すると、この集合上で加算と乗算という2種類の演算の両方を行うことができます。
「群」と言う代数系は「環」に条件を2つ追加したものです。整数環の集合を例にすると、加法演算でこの集合は閉じており、演算の結合法則も成立しています。これが加法群になるかどうか、単位元の存在と逆元の存在を調べましょう;①加法の単位元0は整数の集合に存在します。②それぞれの要素の逆元は、正負の符号を変えればよいので、もちろん整数の集合には存在します。従って整数の集合は「環」であると同時に「加法群」でもあるわけです。乗法に関しては、単位元1は存在しますが、逆元がない要素もありますので、この集合は「乗法群」にはなりません。
有理数の集合
整数の集合上で、加算の逆演算「減算」はできるのですが、乗算の逆演算「除算」はできません。任意の2つの整数の間での除算の結果が整数になるとは限らないからです。そこで、整数の集合に分数を追加し拡張した新しい集合を考えると、この集合では、四則演算ができるようになります。整数は分数の特殊なケースですから、この拡張された集合は、分数の集合、つまり「有理数」集合です。
有理数の集合内で、四則演算は自由にできます。このような代数系を「体」と言います。
実数の集合
数直線上に分数を並べたとすると、任意の2つの分数の間に、また分数を作ることができ、これは際限なく続けられますから数直線は分数でぎっしり詰まっているように見えます。古代ギリシャでは数直線上のすべての数字は有理数(分数)であると信じていました。しかし、ピタゴラス派は$${\sqrt{2}=1.414・・・}$$は分数で表せないことを発見し慌てました。MetapontumのHippasusはその秘密を守るために殺されたと言います。分数を小数で表現すると、無限に続く場合でも必ず有限の繰り返しが現れます:3/11=0.272727・・・。しかし、$${\sqrt{2 } }$$や, $${\pi=3.14159265・・・・}$$などは、繰り返しが現れることがないのです(この小数は分数で表現できません)。それらは無理数と呼ばれます。数直線上には、このような無理数もたくさんあります。そこで、有理数と無理数の集合を合わせて実数の集合ができます。数直線は実数の集合で出来ています。実数の集合は「体」です。有理数の集合は実数の集合の中に含まれ、「体」の条件を満たします。
定規とコンパスで作図不可能
(1)与えられた円と同じ面積の正方形を作図:
(2)与えられた立方体のちょうど2倍の体積の立方体を作る
(3)任意の角度の3等分の角度を作図
これらはギリシャ時代から研究されている有名な問題です。立方体の倍積問題はデロス問題ともいわれます。問題の起源にデロス島のアポロンの祭壇が関係するからです。(表紙写真)
任意の角度の3等分や立方体の倍積問題は、整数係数(有理数係数といっても同じ)の3次方程式を解く問題になります。定規とコンパスを有限回使っての作図は、四則演算と開平(平方根)の作図ですから、3次方程式の解が係数の四則演算と開平の組み合わせで表示できなければ作図は不可能です。現実には、どちらも3乗根が出てきますから作図はできません。
(1)の問題に関しては、半径1の円の面積は$${\pi}$$ですから、面積が等しい正方形の一辺は$${\sqrt{\pi } }$$で、$${\pi}$$の長さでさえ作図できません。
これらの問題に対する解は実数集合には存在しますが、有理数への四則演算と開平だけでは解が作れないということです。
実数集合まで数の概念を広げると色々な方程式が解をもつことができます。
整数係数(有理数係数)の多項式方程式、例えば
$${3x^2+5x-1=0}$$などは2次方程式の例です。2次方程式、3次方程式、4次方程式の解の公式は16世紀までに解かれましたが、一般の5次方程式あるいはそれ以上の方程式の解の公式は作れないことの証明はアーベルの時代までかかりました。
複素数の完成
$${x^2+1=0}$$は解がありません。なぜなら、2乗して負になるような数は実数にはないからです。この方程式も解を持つようにするには$${x=\sqrt{-1}=i}$$という虚数を定義する必要があります。こうして複素数の集合にたどり着きました。複素数は「体」の代数構造です。複素数の範囲で、ほとんどの方程式が解をもつようになりました。
Abraham Lincolnリンカーンのゲティスバーグ演説(1863)は;
Four score and seven years ago our fathers brought forth on this continent a new nation, conceived in liberty, and dedicated to the proposition that all men are created equal. -----------
で始まります。演説英文は以下のサイトから引用しました:
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.fukaya-toyosato-j.ed.jp/?action=common_download_main&upload_id=3296
scoreとは20のことです
4score and 7 years ago=4x20+7=87years agoと言うことになります。
「4世代と7年前」という訳を見かけますが、それではちょっと計算が会いませんね。「87年前」と訳すべきです。
スコアという単語は、20進法が使われていた名残です。20進法は古代マヤでも使われました。ダース、グロスは12進法が使われていた名残です。
古代バビロニアでは60進法が使われていました。
私たちは10進法が当たり前に見えるほど慣れてしまいましたが、色々な基数を用いた記数法があったのです。
コンピュータのコードは2進法(0か1しか数字は用いません。バイナリーといいます)が使われます。
n進法の基数はnです
例えば,10進法なら,4桁の数字$${abcd}$$の位取りは
$${10^3 10^2 10^1 10^0}$$ですので,数字$${abcd}$$は,$${a・10^3+b・10^2+c・10^1+d}$$の数値になります。数記号$${a,b,c,d}$$のそれぞれは,0,1,2,・・・・・,9の10種類のうちのどれかです。
2進法なら,4桁の数字$${abcd}$$の位取りは
$${ 2^3 2^2 2^1 2^0}$$なので,数字$${abcd}$$は,$${a・2^3+b・2^2+c・2^1+d}$$の数値です。数記号$${a,b,c,d}$$のそれぞれは,0,1の2種類のうちのどれかです。
もちろん、これらの記数法は、小数点以下にも適用できます。記数法の基底が$${n}$$の場合,小数点以下の位取は以下のようになります:
$${. n^{-1} n^{-2} n^{-3} ・・・・・}$$
本日は右足坐骨神経を圧迫している脊柱管の状態を知るため,MRI(核磁気共鳴イメージング)を撮りました.自分が被検体になるのは20年ぶりです.
MRIの測定中に聞こえる”カタカタ”や”ビー”という冗談かと思うようなふざけた音は,1.5T(テスラ)という強い磁場中で装置が動くために,あたかもスピーカーと同じように装置が振動して出す音です.そのことは承知していましたが,今日の装置(Siemens)の音はすさまじかった.もしかしたら,昔普及した1.5Tでなく新しい3.0Tかも知れない.
じっとしている20分間の測定の間に色々思い出すことがありました.20年前はTree CT研究会でこれらの技術を話題にしていましたが,その後,2012年福一原発事故以降,研究会のテーマは放射能測定にシフトしたのです.
閑話休題,原理です:
■プロトン(水素の原子核)はスピンを持ち,磁石の性質(核磁気)があります.強い静磁場下に置かれたプロトン核磁気は,磁場に沿ってだいたい向きが揃い,歳差運動している状態です.歳差運動の周波数(ラーモア周波数という)は,磁場が強いほど高く,MRI装置の静磁場は1.5T程度と超強力なので,ラーモア周波数は64MHz(ラジオ電波の周波数領域)程度です.
静磁場下のプロトンに,このラーモア周波数の電波が照射されると吸収共鳴が起こり,核磁気の歳差運動の振幅(周波数は変わらない)が増大しほとんど横倒しの状態で回転(古典論的なイメージ)しています.
一方,歳差運動をしているプロトン核磁気からは同じ周波数の電波が放射されるので,これを検出することができます.
■生体組織は,水をはじめ水素原子と結合した分子からなる組織です.
つまり,プロトン(水素の原子核)核磁気は組織の至る所に分布していて,
その水素の属する組織の環境(診断される情報)がそのプロトン核磁気の性質(緩和現象)に反映されています.
すなわち,核磁気の歳差運動の縦緩和,横緩和という現象は,そのプロトン(水素)が含まれる(結合している)組織内の状態で違いが出ます.
緩和というのは,電波の照射を止めると,励起されていた核磁気の歳差運動が定常状態に戻ることで,静磁場方向の核磁気成分の復元緩和を「縦緩和」,静磁場に垂直面内の成分の減衰緩和を「横緩和」といいます.
組織の各点で,これらの緩和定数を測定し,マップに表示できれば,
診断に役立つ組織の特徴を反映したイメージングになります.
■さて,組織画像の位置情報はどのようにして得られるのでしょうか.
これがなければ画像として見ることができません.断層測定をするには,検出器に到来する電波が,1つのスライス平面から来るものだけ集める必要があります.このためには,静磁場の他に傾斜磁場を印加します.
傾斜磁場はさきほどの静磁場とは別で,ペアのコイルによって発生する(数十mT/m程度の強さ)もので,たとえば,$${z}$$軸方向の静磁場があり,加えて,$${z}$$方向に沿って変化する傾斜磁場,$${x}$$方向に沿って変化する傾斜磁場,$${y}$$方向に沿って変化する傾斜磁場の3種類があります.
傾斜磁場があると,空間内で磁場の大きさが一定になるのは平面になります.例えば,静磁場方向と同じz方向の傾斜磁場を印加すると,磁場一定の平面は$${z}$$軸に垂直な平面です.
プロトン核磁気のラーモア周波数は,磁場の強度に比例するので,共鳴吸収する電波の周波数をスキャンすれば,$${z}$$軸に垂直な各断層平面に並ぶ核磁気からの電波を順次採取することができます.
次に,各断層面内の$${(x,y)}$$位置情報はどのように得たらよいでしょうか?
断層内のプロトンの歳差運動を励起した後に,$${x}$$傾斜磁場,引き続き$${y}$$傾斜磁場の印加を行うとします.
$${x}$$傾斜磁場印加で$${x}$$軸に沿って歳差運動の周波数が変化し,その場所から放射される電波の$${x}$$座標情報(周波数エンコーディング)が得られます.
$${x}$$および$${y}$$傾斜磁場の印加で$${y}$$軸に沿って歳差運動の位相が変化し,$${y}$$座標情報(位相エンコーディング)が得られます.
傾斜磁場を印加して,空間の位置情報を得,画像化を可能にしたのは,Lautergur(1972)の発明で,2003年のノーベル賞を受賞しました.
■緩和時間の測定は,歳差運動の励起後,照射電波を切って行うので,立ち上がり時間も考慮した電波照射の複雑なパルスシークエンスになり,256x256画素の測定でもかなりの時間を要します.高分解能画像を得るには,正攻法で行うならさらに細分化した画素数の測定が必要になり膨大な測定時間になるでしょう.原理的には,point to pointの測定になるからです.
この解決策の一つとして,MRIの高分解能かつ高速化を実現させたのは,
「圧縮センシング」という数学方法です.しかし,今日の測定でも20分間かかかっています.まだ遅いですね.
■データを再構成して画像データを渡されるまで,1時間待ちを覚悟していましたが,20分の待ちでした.こちらは速くなった.20年前に比べれば,computerが格段に進化しているので当然と言えば当然です.どんなcpuを用いての計算時間でしょうか.再構成のプログラムも進化したはずで,生データを見てtestしてみたいと思っています.
数学月間企画講演(第14回;2024.10.12)で,以下の講演が行われた。
説明可能な機械学習== 統計的学習によるハイパフォーマンスモデル ==
徐 良為;SLW代表、(株)NTTデータ数理システム 顧問
e-mail: liangweixu2205@gmail.com
youtube: https://www.youtube.com/@ai_dentaku
1.機械学習の役割と課題
データセット$${x}$$と$${y}$$が与えられたとき,最良の関数$${f(x)=y}$$を求める。$${x}$$は説明変数;$${y}$$は目的変数と呼ばれる。$${f}$$はモデルと呼ばれる。①関数モデル$${f}$$の形を仮定し,②評価すべき誤差関数の定義をし,③誤差関数の最小化(最小2乗法など)を行う。
$${f}$$の形は無数に存在し,現実世界でのこのモデルによる予測が正当かどうかの検証が必要である。モデルで予測できるのは,データの連続性に基づいている。
線形モデルでは検証は容易であるが,ニューラルネットワークは,多段の隠れ層を経由しており,非線形関数も含まれるので,検証は難しい。
機械学習の抱えるジレンマは,予測精度を向上させるためにモデルが複雑になるのだが,複雑になるほど説明力が失われることである。
そこで,限られたデータ範囲の中で,説明可能なシンプルな近似モデルを探すことになる。説明可能とは,予測対象の目的変数に対して,説明変数の寄与条件と寄与度合が明確であることである。
線形モデル,決定木に従うモデルなら,説明は容易だが,現実問題に対しこれらのモデルは予測精度が対応しきれない場合がある。
2. 説明可能な機械学習、「AI電卓」の技術概要
予測精度の高いモデル構築を,電卓を扱うように簡単に実現できるのが「AI電卓」である。AI電卓モデルは,ルールに関する線形結合である。
これらの各対応する条件(ルール)を満たすと,$${r_i}$$は1となる。それぞれに対応する係数$${\beta_i}$$はそのルールの寄与である。
多数のルールの線形結合であるモデルで,誤差が小さくなるようにフィッティングし,多くの$${\beta_i}$$が0となるものを見つける。つまり$${\beta_i}$$に対応するルールを取り除くことができて,説明可能なモデルが得られる。ルールを絞り込むことが知識の発見につながる。
3.Kaggleで検証
Kaggleとはデータ分析コンテストで,特定のテーマに対し予測精度を競う。分析専門家のモデルに対し開発しているAI電卓(機械的自動化)モデルの性能比較をするために参加している。AI電卓の現状は,大規模学習データ(数百万件)から,トップ予測精度モデルになるまでの機械学習の時間は1週間程度かかっている。参加チーム4728中で上位2%以内に入る成績を達成している。
(講演録作成/文責)谷
講演者:大田佳宏
代表取締役社長兼CEO,総務省AIネットワーク社会推進会議構成員,東京大学大学院数理科学研究科客員教授,東京大学アイソトープ総合センター客員教授,一般社団法人日本応用数理学会代表会員,第64回国際数学オリンピック組織委員会副委員長
日時●2024年11月26日,14:30ー16:30(開場14:00)
場所●東京大学駒場キャンパス 数理科学研究科棟002号室
Arithmerとは
アリスマーとは数学者集団の会社です。数学は色々な科学技術の基盤であり、色々な社会課題の解決に数学が使えます。これを事業として社会に示したいというのがアリスマーの構想です。2016年の9月に創業し、ちょうど9年目になります。数学月間の目標は「数学が社会を支えている」という認識を社会に広めることですが、アリスマーの活動はこれを事業として実践しています。従って、数学月間でアリスマーの活動を取り上げることは非常に意義深いわけです。アメリカやヨーロッパでは、数学が社会を支えているとの認識が普及していますが、日本ではまだその認識は広がっていません。
アリスマーの事業は業務提携をして進められています。例えば、トヨタ通商、三井住友海上など14社にのぼり、エネルギー、製造、インフラ、ロジスティックス、ライフサイエンス、リテール、ファイナンス 等々の分野にわたり、アリスマーの AI が使われています。
アリスマーのAI ソリューションは、さまざまな業界の大手企業を支援し、成功しています。この紹介は 100 件を超えるアリスマーのコラボレーションのほんの一部です。国内での成功を基に、世界に向けても展開し、ビジネスを変革し、業務を最適化し、イノベーションを推進します。
アリスマーのコアテクノロジー
アリスマーのコアテクノロジーは、ビジョンAI、分析AI、AIロボという 3 つの主要領域で構成されています。
ビジョンAI:
機械学習アルゴリズムを活用して、物体検出、異常検出、医療画像分析など、さまざまな業界の幅広いアプリケーションを強化します。
AIロボ:
高度な視覚システムと統合学習機能により、周囲を移動し、人々と対話できる AI 搭載マシン。
分析AI:
最適化、パターン認識、傾向分析、予測機能など、包括的なデータ分析を提供します。これにより、一般的な AI アプリケーションから次世代の量子コンピューティング先導に至るまで、ビジネスが強化されます。
●本人確認システム
NEC と連携して、デジタル顧客確認 (KYC) 本人確認システムを立ち上げました。この革新的なソリューションは、NEC の高度な顔認識技術と アリスマー の強力な OCR 機能を活用し、スマートフォン ベースの便利で安全なユーザー確認を実現します。このシステムは、ユーザー フレンドリーなモバイル端末を使い、新しい ID や銀行口座を開設するプロセスを合理化します。
日本を代表する海上保険会社である三井住友海上保険向けに、アリスマーはOCR コアシステムの全社的導入を行い、同社の保険見積プロセスを改革しました。この数年にわたるプロジェクトは 200 億円を超える規模で、保険証書からのデータ抽出を自動化し、見積り作成のスピードを大幅に向上させました。その結果、顧客の待ち時間が 70% 削減されました。
●自律走行車
トヨタとの画期的なビジョンAI コラボレーションを通じて、自律走行車技術の先頭に立っています。この最先端のシステムは、車両、歩行者、その他の周囲の物体をリアルタイムで検出します。高度な物体検出技術により、システムは潜在的な危険を特定し、予防的な事故防止策を講じることができます。アリスマーの革新的なソリューションは大きな評価を得ており、最近、主要ニュース番組で取り上げられ、NHK World でも紹介され、世界中の視聴者に届けられています。
自動運転車は遠い未来かもしれませんが、倉庫ではすでに自律走行車が利用されています。自動誘導カート (AGV) は、制御された環境内で商品を効率的に輸送します。歩行者の安全を最優先するため、アリスマーはトヨタと提携してビジョン AI システムを開発しました。この最先端技術により、AGV は潜在的な危険を検知できるようになり、衝突のリスクを大幅に軽減します。この革新的なソリューションは、トヨタとの共同特許出願の一部です。
●風力発電
風力発電は再生可能エネルギーの成長を先導し、世界の発電量の約半分を占めています。太陽光、水力、地熱は、この急成長分野で引き続き主要な役割を果たしています。日本は、野心的な「洋上風力産業ビジョン」でこの傾向を体現しており、より強い洋上風力を活用して大幅な容量増加を目指しています。2030年までに10ギガワット(GW)、さらに2040年までに40GWに拡大することを目標としています。しかし、この急速な成長には課題があります。過酷な海洋環境はタービンの摩耗を加速させ、火災や構造損傷のリスクを高めます。さらに、メンテナンスを行う熟練技術者の不足も脅威となります。
風力タービンのエンジン室内に設置されたアリスマーAI 搭載カメラは、モーターの故障を検出し、潜在的な火災や故障を防ぐことができます。
この高度なビジョン AI システムは、重大な事故が発生する数日前に問題を特定できるほか、人間による検査では気付かない可能性のある異常なオイル漏れも検出できます。
●保険、ライドシェア
AI 画像分析は保険業界とライドシェア業界に革命をもたらし、請求処理と事故検出を変革します。アリスマーAI は事故後の写真から修理費用の見積もりを生成することで保険請求を効率化し、効率と顧客満足度を向上させます。ライドシェア プラットフォームは AI を活用して旅行前後の画像から潜在的な事故を検出し、安全性を高めて詐欺を減らします。
●空港
最初の検査後に禁止品が見つかると、空港の効率が低下します。回収のために BHS 全体を停止すると、業務が中断し、手荷物の配送が遅れ、フライトの定刻出発に影響する可能性があります。その結果、物流と財務に大きな損失が生じます。アリスマーのビジョンAI は、リアルタイム分析を使用して、空港 BHS での禁止品検出に革命を起こします。このソリューションは、BHS を通過する荷物の輪郭や体積などの主要な特徴を抽出し、複雑な高次元表現 (1,000 次元以上) に変換します。この空間内の距離を測定することで、この AI は荷物の適合性を瞬時に判断し、禁止品の効率的な検出と BHS のよりスムーズな操作を可能にします。 AI は、単純な禁止品検出にとどまりません。このインテリジェントなシステムは、微調整と強化学習を利用して、スキャンごとに検出機能を継続的に改善します。使用すればするほど、より賢くなり、BHS オペレーションの精度とセキュリティがさらに向上します。 アリスマーのビジョンAI は、現在のセキュリティの先を見据えており、この AI と顔認識テクノロジーを組み合わせることで、手荷物の取り扱いに革命を起こすことができます。タグのない未来を想像してみてください。顔が預けた荷物の ID になるのです。このシステムは、BHS 全体で手荷物をシームレスに追跡配送し、物理的なタグをなくして、空港と乗客の両方のプロセスを合理化します。
荷物の紛失や空港での遅延にうんざりしていませんか? AI BHS は、空港でのスムーズな業務を実現する画期的なソリューションを提供します。
従来のシステムでは、紛失した荷物やタグのない荷物の処理に苦労し、フラストレーションの原因となっていました。この高度なシステムは、戦略的に配置された 2 台のカメラを活用して、優れた精度を実現します。
第1のカメラは、類似の荷物であっても、各荷物に固有のデジタル「指紋」を作成します。
第2のカメラは、この指紋を使用して荷物の ID を確認します。この 2 段階のプロセスにより、優れた追跡が保証されます。
識別だけでなく、システムは大幅な位置の変化を検出し、セキュリティと効率性を高めます。
2 ショット ビジョン AI を BHS 内の指定されたポイントに配置するのは簡単です。
●洪水AI
最近のイノベーションの成果として、アリスマーの洪水 AI ソリューションが、日本の大手経済新聞である日経新聞の第一面に大きく取り上げられました。記事では、このテクノロジーによって大手損害保険会社が洪水災害の保険金支払いを従来の方法よりも効率と精度を高めて合理化したことが紹介されました。その結果、保険金請求処理時間と関連コストが大幅に削減され、保険会社は数週間以内に補償を迅速に行うことができました。この迅速な解決により、洪水後の保険契約者の満足度が明らかに高まりました。
高性能 LiDAR 搭載ドローンの統合により、3D マッピングの作業の流れに革命が起こりました。これらのドローンは最先端のレーザー スキャン技術を活用して、センチメートル レベルの精度で膨大なデータセットをキャプチャし、非常に詳細で正確な環境表現を生成します。この包括的なデータ取得により、さまざまな業界の専門家が比類のない空間認識で情報に基づいた意思決定を行うことができます。
広野町は、ドローンで撮影した 3D ポイント クラウド データの力を活用して、建設とインフラ計画を強化し、より強靭な未来への道を切り開いています。これらの詳細な 3D モデルは、情報に基づいた現場計画、強化された建設監視、強靭なインフラ開発のための貴重な洞察を提供し、町が情報に基づいた決定を下し、より強固で気候に強い構造物を建設できるようにします。この積極的なアプローチは、変化する気候に適応し、住民の安全と幸福を確保しようとしている他のコミュニティにとってもインスピレーションとなります。
●ポストディクションAI
(講演録作者注:ポストディクションとは心理学の言葉で,後付けで起こった事象が直前の事象の知覚や認知に影響を及ぼす現象)
生成AI (Gen AI) には大きな可能性がありますが、依然として大きな課題が残っています。これには、非現実的なコンテンツ生成、トレーニング データから継承されたバイアス、誤情報やディープフェイクへの悪用が含まれます。これらの問題を軽減し、責任ある使用を確保するには、Gen AI テクノロジーの進歩が不可欠です。そのような進歩の 1 つが、アリスマーのポストディクション AI です。このテクノロジーは、繰り返しのコミュニケーションを容易にし、機械が記号とルールを使用して論理的に推論できるようにします。アリスマー AI を統合することで、Gen AI は推論能力を強化し、意思決定の説明可能性を高めることができ、最終的にはより信頼性が高く信頼できる AI システムにつながります。
●安全のAI
今日のダイナミックな職場では、従業員の安全が最も重要です。安全のAI は、建設、製造、物流における安全性を積極的に強化し、タスクを合理化する革新的なソリューションとして登場しました。安全AI は、音声ガイドによる説明とリアルタイムの危険警告で作業員を支援します。また、積極的な機器メンテナンスと AI を活用した問題解決の支援促進をします。安全AI の多言語インターフェースと音声警告により、全員が明確にコミュニケーションできます。これらの機能を組み合わせることで、安全AI は、効率性と生産性を高めながら、積極的な安全文化を育みます。
安全AI は従来の監視を超え、高度な AI を活用して、事故が発生する前にビデオ映像を分析し、危険な状況 (作業員の危険な行動や環境の危険) を検出します。リアルタイム分析により、即時介入が可能になり、事故を防止できます。安全AI は反応的ではなく、予測的です。機器データを分析することで、潜在的な障害を予測し、ダウンタイム中に修理をスケジュールして、混乱とコストを最小限に抑えることができます。さらに、安全AI はシームレスに統合され、既存のカメラや従業員の電話でも動作します。簡単なスナップショットで、機器のカウントなどの問題を自動的に特定できるため、手動によるデータ収集が不要になります。
安全AI は、作業員と管理者の両方を支援するために設計された革新的な安全管理ソリューションです。
効率的な運用: 現場の作業員はスマートフォンでリアルタイムのタスク更新を受け取るため、遅延がなくなり、作業効率が向上します。
安全性の向上: 作業員のスマートフォンに組み込まれた AI が、高リスクエリアの危険を即座に検出し、事故リスクを積極的に軽減します。
予測力: 安全AI は、機械の故障を予測するアラートを提供することで、事後対応の対策を超えています。これにより、管理者は予防的なメンテナンス措置を講じ、ダウンタイムを最小限に抑えることができます。
実用的な洞察: 管理者は、包括的なログ データを備えた集中型プラットフォームにアクセスできます。
これにらより、安全上の懸念事項を積極的に特定し、安全アラートやパーソナライズされたトレーニング プログラムなどの対象を絞った介入が可能になります。
●アリスマーAI
大規模なデータセットは大規模言語モデル (LLM) をトレーニングしますが、事実の根拠が欠けている場合があります。RAG(Retrieval Augmented Generation)は、生成時に外部の知識ソースを組み込むことでこれに対処し、より有益で信頼性の高い出力を実現します。外部知識を活用するというこの概念に基づいて、ReAct は推論とアクションの両方を同時に実行します。これにより、ReAct は現実世界の情報にアクセスして処理できるようになり、応答はより包括的になり、事実の証拠に根拠が置かれるようになります。マルチモーダル AI [複数種類の情報を処理できるAI]は、さまざまなデータ タイプを統合してより深い理解を獲得し、精度を高め、医療、自律走行車、製品開発におけるアプリケーションを促進します。アリスマーAI は、RAG、ReAct、独自の G 関数の組み合わせを活用して、AI システム間の通信を容易にし、ユーザーが最小限の入力で必要な情報を取得できるようにします。
アリスマー AI のグラフ データベース テクノロジーは、複雑な従業員ネットワークを視覚的に表現し、積極的なリスク特定と最適化された作業流れのための深い洞察を獲得できます。従業員プロファイル、マシンの詳細、タスク、安全プロトコル、日報などのさまざまなデータ ソースを統合プラットフォームに統合し、データのサイロ化[データが共有できていない]を排除して最新情報へのリアルタイム アクセスを確保します。AI 搭載エージェントは、関連する公開データを積極的に収集して統合し、情報を最新の状態に保ち、現実世界の状況を反映します。従業員と機器の安全性を優先しながら、アリスマーAI のデータ駆動型洞察を使用して作業流れを最適化し、最高の効率を実現します。
タスク分解とは、複雑なタスクをより小さく、より管理しやすいサブタスクに分割するプロセスです。これは、人工汎用知能(AGI)と大規模言語モデル(LLMs)の両方が、大量のドキュメント処理などの目標を達成するのに役立ちます。マルチエージェント AI では、複数のインテリジェント エージェントが連携して動作します。これらのエージェントはソフトウェア プログラムまたはロボットであり、共通の目標で協力したり、独自の相反する目標を追求したりする場合があります。
●農業
アリスマーは、AI を活用した自律農業の先駆的な国家プロジェクトを主導しています。このプロジェクトでは、果物や野菜を無人で収穫するためのロボットを開発しています。Advanced Vision AI は、熟した農産物を識別して選択し、最適な品質を確保して価値を最大化します。
インテリジェント パス プランニングは、ロボットのアームの最も効率的な経路を計算し、周囲の植物へのダメージを最小限に抑えます。この革新的なテクノロジーは、効率的で高品質の収穫の未来を約束します。
●AIロボット●糖尿病
糖尿病治療の分野では、アリスマーは、難解な「神の手」技術を再現する AI 搭載手術ロボットの開発を先導しています。この手技は、並外れた精度と指導の難しさで知られ、長い間、膵島移植手術のボトルネックとなっていました。アリスマーの画期的な技術は、モーション キャプチャ分析を活用して熟練した外科医の動きを細かく記録して再現し、AI ロボットがランゲルハンス島 (インスリンを生み出す膵臓細胞塊) を分離するという繊細な作業を比類のない精度で実行できるようにします。この革新は、この高度に専門化された手術をより費用対効果の高いものにし、はるかに多くの患者が受けられるようにすることで、膵島移植に革命を起こす可能性を秘めています。2023 年に動物実験が成功裏に完了した後、AI ロボットは、日本有数の移植センターである国立国際医療研究センターで 2022 年に臨床デビューする予定です。これは糖尿病との戦いにおける大きな進歩です。AI 支援による処置は、膵島移植の低侵襲性と高精度の方法を提供することで糖尿病治療を変革し、患者の完全寛解を達成する可能性を秘めています。
●結言
(作成/文責)谷
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数学月間SGK通信 [2024.09.24] No.523
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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秋になりました10月12日と11月26日に講演会を企画しています.
今回はまず10月12日の講演会を紹介します.多くの方の参加をお待ちしています.
◆数学月間企画講演会(第14回)
日時●2024年10月12日(土),13:30-16:00(開場13:00)
場所●東京大学駒場キャンパス,数理科学研究科棟002教室
(遠方の参加者のためにリモートwebexも併用します)
テーマ:
「説明可能な」機械学習の新時代--------統計的学習でBlack Boxも解消
ChatGPT,生成AIなどとAI分野の発展は著しいものがあります.
AI技術を,得体のしれないBlack Boxのように利用した時代は終わりです.
数学・統計学を基礎とする機械学習の進歩により支えられており論理的に説明できる技術です.
この企画では,機械学習が統計学によって支えられていることがわかります.
講演●統計的学習による知識発見型モデル構築への実践紹介
== AI電卓の自動機械学習による Kaggleへの挑戦 ==
講師●徐良為(工学博士);SLW(Statistical Learning Workshop)代表,
(株)NTTデータ数理システム非常勤顧問
司会討論●松原望(東京大学名誉教授)
参加費●1,000円 (当会会員および学生は無料)
参加登録が必要です:
https://sgk2005.org にある「企画講演会(第14回)2024.10.12」で登録できます.
(注)Kaggleとは:
色々なテーマで,AIとモデリングを競い合うコンペで,
1,900万人を超す機械学習ユーザーが参加しています
ちらし.pdfは,https://sgk2005.org でダウンロードできます.