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No.549 おしらせ 

■数学月間企画講演会(第16回)のお知らせ
日時●2025 年 10 月 5 日(日),14:00-17:00
場所●東京大学数理科学研究科棟 002 号室
講演(高校生にもわかる)
●ミケルの定理を巡って,岡本和夫(東大名誉教授)
●ロピタルの定理を巡って,大山陽介(徳島大学)
主催●NPO 法人数学月間の会(理事長:岡本和夫)
参加費●無料.多くの方々のご参加をお待ちしています.
リモートも併用しますが,お近くの方は会場参加をお勧めします.
問い合わせ先● sgktani@gmail.com
●事前の参加登録が必要です.数学月間の会ウエブサイト https://sgk2005.org/ で登録できます(ログインの必要はありません). 

■数学月間企画講演会(第17回)のお知らせ
日時●11月9日(日)14:00-17:00 
場所●東大(駒場)数理科学研究科棟002教室
講演(高校生にもわかる)
●量子コンピューティング;松原望(東大名誉教授)
●フィボナッチ数・2次形式・トポグラフ;佐藤郁郎(宮城県立がんセンター研究所)
主催●NPO法人数学月間の会(理事長:岡本和夫)
参加費●無料.多くの方々のご参加をお待ちしています.
リモートも併用しますが,お近くの方は会場参加をお勧めします.
●問い合わせ先 sgktani@gmail.com
●事前の参加登録が必要です.数学月間の会ウエブサイトhttps://sgk2005.org/で登録できます(ログインの必要はありません). 
何らかの原因で登録できないなどありましたらメールでご連絡ください.

■数学月間懇話会(第21回)2025.7.22に実施しました.
厳しい暑さの中,ご参加いただきありがとうございました.
講演ビデオは,YouTubeで限定公開になっていますので
数学月間の会ホームページ
https://sgk2005.org/youtube/page_20250818022852
にあるリンクからご覧になれます.

No.548 フィボナッチ数・リュカ数大鑑

共立出版から 「フィボナッチ数・リュカ数大鑑(上・下)」が8月27日に発売になります.原著はThomas Koshy『Fibonacci and Lucas Numbers with Aplications』Wileyです.私も一部分の翻訳を分担しました.上下それぞれ700頁程度の大部の本で,上下揃いで目方が3.2kgもありとても重い.

フィボナッチ数・リュカ数大鑑(上) - 共立出版Thomas Koshy 著 www.kyoritsu-pub.co.jp
フィボナッチ数・リュカ数大鑑(下) - 共立出版Thomas Koshy 著 www.kyoritsu-pub.co.jp
私が分担部分の翻訳を担当したのは2019年秋でした.これだけ大部の書籍になると編集者の苦労も大変です.めでたく今回の出版に至りました.共立出版の編集者様にお祝い申し上げます.
内容については,ぜひ出版物をお読みください.
この分野の集大成と言える本なので,一般書と言うよりは研究書で個人で買うには高い本です.もし,図書館などでお読みいただければ幸いです.
今後機会があれば,本書の内容を参考に,著作権を侵害しないような一般向きの解説記事や発展記事を書きたいと思っています.

No.547 体の拡大

(2)ガロアの登場(19世紀前半)
3次方程式,4次方程式には代数的な解の公式があるが,一般の5次以上の方程式には,代数的な解の公式が作れない.代数的に解を書けるのは運のよい場合である.
誤解しないで欲しいが,解自体がないわけではない.一般に,$${n}$$次方程式には$${n}$$個の複素数の解が存在する(ガウスにより証明された).
方程式$${x^4-4=0}$$の場合,有理数体$${Q}$$上までなら$${(x^2-2)(x^2+2)=0}$$,拡大体$${Q(\sqrt{2})}$$の上までなら$${(x-\sqrt{2})(x+\sqrt{2})(x^2+2)=0}$$,拡大体$${Q(\sqrt{2},i)}$$の上まで許すなら$${(x-\sqrt{2})(x+\sqrt{2})(x-\sqrt{2}i)(x+\sqrt{2}i)=0}$$と因数分解できる.つまり,複素数体には解が存在するが,拡大した有理数体の大きさにより,記述できる解の個数が変わる.そして,有限回の代数的手法で拡大した有理数体の中に解がすべて存在するかを問うている.

方程式の係数の有理数体$${Q}$$からスタートして,ベキ根を加えて体の拡大を繰り返し,すべての解を含む拡大体$${K}$$に到着するなら,拡大体$${K}$$内で代数的な解の公式が存在する.
一般に,有理数体$${Q}$$上の$${n}$$次の多項式方程式(代数方程式)方程式には$${n}$$個の複素数の解が存在する(ガウス)のだが,有限個のベキ根を加えた$${Q}$$の拡大体に虚数$${i}$$を付加して拡大体$${K}$$を作っても,すべての解を含む複素数体をカバーしきれない.複素数体に解があると言っても,有限回の代数的操作でその解にたどり着けるとは限らない.
(注)$${Q}$$上の多項式の根になり得る数を代数的といい,$${Q}$$上のいかなる多項式の根にもなり得ない数は超越数という.

根を付加した拡大体において,根の置換群を考え,この置換群の正規部分群の列により拡大体が順次縮小でき単位群$${1}$$に至れば,解の公式が存在するというのがガロア理論の本質にある.正規部分群による縮小(正規部分群を核とする準同型写像)の各段階で定義される剰余群が巡回群であるなら,この正規部分群の列は可解となる.一般的な5次方程式では,解の置換群は位数120の5次の対称群であり,その正規部分群は位数60の交代群である.この交代群は単純群だが,その下に真の正規部分群を含まないので可解ではなく,一般的には代数的解法がない.
例)4次方程式の場合は代数的な解がある:
 


■結晶群での解釈
これは,結晶群における群の拡大の仕組みを思い起こさせる.
結晶は周期的な構造(デジタル化された構造)を持ち,並進群$${T}$$で記述される構造である.これに,回転対称操作や鏡映対称操作などの結晶点群$${G}$$の対称操作を付加することで,並進群を拡大して結晶空間群$$ {\it \Phi} $$を得ることができる.
逆の表現をすれば,並進群は,結晶空間群の中の正規部分群であるので,並進群を核とする準同型写像により結晶空間群$${\it \Phi}$$は必ず結晶点群$${G}$$に縮小帰着できる.
$${\it \Phi=T\otimes G}$$         $${\it \Phi /T \simeq G}$$

結晶点群$${G}$$の場合,2つの部分群$${G_{1}, G_{2 } }$$(どちらも正規部分群ではない)の半直積で構成される場合があり,準同型写像が成り立たず,その場合はそこから先は結晶点群を縮小することができない.$${G=G_{1}\oslash G_{2 } }$$

注)正規部分群と剰余類

 部分群$${H}$$によるラグランジュ展開の任意の左剰余類の積$${g_{i}H\cdot g_{j}H}$$が,ばらけずに丸ごと別の左剰余類$${g_{s}H}$$に対応するならば,左剰余類は群を作る.この条件は$${g_{i}H\cdot g_{j}H=g_{i}g_{j}H}$$となることであり,$${Hg_{j}=g_{j}H}$$を意味する.
これは$${H}$$が$${\it \Phi}$$の正規部分群であることに他ならない.

(1)に戻る https://note.com/sgk2005/n/n68ac87eb04a6

No.546 群・体という概念

有理数の集合(整数と分数)では,任意の2数に対して加法+,乗法×を行うことができ,加法に関し単位元0も逆元も存在するので加法群,乗法に関しても単位元1も逆元も存在するので乗法群になります.さらに分配法則が存在します.したがって,有理数の集合上では4則演算を自由に行うことができ演算結果は必ず有理数集合内にあります.このような代数系を「体」といいます.

「群」や「体」などの数学概念は,ガロアが5次以上の方程式には代数的な解法が存在しないものがあることを証明する過程で生み出されました.
有理数を係数とする(有理数体上の)2次,3次,4次の多項式方程式には解の公式[係数の四則演算とベキ根で表現される]が必ず存在するが,5次以上の方程式には代数的に解けないものがあることをガロアが証明しました.
ガロア(1811~1832年)は短い悲劇的な生涯でしたが,「群」,「体」などの新しい数学概念を生み出しましたが,このことが認識されるのは死後40年も経過してからでした.
「群」や「体」の概念を用いると,以下のような古典的な問題の証明を,新しい観点から理解することができます.

(1)ギリシャ時代の3大不可能作図

  
ギリシャの幾何学者たちが研究した3つの作図不可能問題:
①デロス島のアポロンの祭壇(立方体)を倍積に
一辺1の立方体に対してちょうど2倍の体積の立方体を作る.
1 → $${\sqrt[3]{2 } }$$ の長さの作図

②円を同じ面積の正方形に
円の半径1 → 正方形の一辺$${\sqrt{\pi } }$$ の長さの作図

③任意の角度を3等分する
任意に与えられた$${a}$$に対して,3次方程式$${x^3-3x-a=0}$$
の$${x}$$を作図する.

ギリシャでは幾何学が基本で,数は線分の長さで表現します.
数直線は実数(有理数と無理数)で構成されています.
もちろん①~③の解は存在しますが,コンパスと直線定規だけを繰り返し用いて作図せよという問題です.

コンパスと直線定規で作図出来るのは,長さの加減乗除(四則演算),開平$${\sqrt{ } }$$のみで,これらの操作の繰り返しで作図できるものだけが可能です.
作図法は下図参照.

乗除は方べきの定理


任意の整数の開平の作図

有理数体$${Q}$$の数字に加減乗除の操作を繰り返して得られる結果は同じ$${Q}$$の中にあります.作図条件に開平$${\sqrt{ } }$$の操作も許されますから,この結果は有理数の集合$${Q}$$からはみ出します.そこで,有理数体$${Q}$$を開平(平方根)$${\sqrt{ } }$$を加えて拡大した拡大体$${Q(\sqrt{})}$$を作れば,作図可能な数(長さ)はこの拡大体の中にあるはずです.つまり,立方根などはこの拡大体のなかにないので,立方根の作図は不可能とわかります.

①は立方根の作図だから不可能.
②は$${\pi}$$自体が超越数なので代数式の解ではなく作図できない.
③は$${a}$$の値により  [与えられた角度により]解$${x}$$が四則演算と開平で表現できることもあり,その場合は作図できる.例えば,90°の角に相当する$${a=0}$$の場合は,$${x=0, \sqrt{3}, -\sqrt{3 } }$$であるので作図できる.一般の3次方程式の解は立方根を含み作図できない.

この続きは次号へ
体の拡大 (2)ガロアの時代


明日7月22日は 数学月間懇話会(第21回)です。この問題にも少し触れます。案内は,https://sgk2005.org/ をご覧ください。

 

tex記法

 

$$ \mit\Phi =H \otimes G $$      $$ \mit\Phi /H \simeq G $$         $$ \mit\Phi \vartriangleright H $$

$$\mit\Phi =H \oslash G$$                                  $$\mit\Phi \supset H,G$$    

$$ \mit\Phi =H \cup g_{1}H \cup g_{2}H \cup \cdots \cup g_{r}H $$

No.545 マクスウェル電磁気学

https://elementy.ru/trefil/24/Uravneniya_Maksvella

200 законов мироздания
「宇宙を構成する200の法則」より引用

ジェームズ・クラーク・マクスウェル(1831–1879)

スコットランドの物理学者.19世紀を代表する理論家の一人.エディンバラで由緒ある貴族の家に生まれた.エディンバラ大学とケンブリッジ大学で学んだ.14歳で最初の科学論文(理想的な楕円を描く方法)を発表.ケンブリッジ大学で実験物理学の教授を務めた後,48歳で癌のため若くして亡くなった.

C. マクスウェルの最初の主要な理論的著作は,色彩と色覚の理論に関する研究でした.彼は,赤,黄,青の3原色を混ぜることで,目に見えるすべての色が得られることを初めて示した.また,色覚異常(色域の知覚に異常が生じる視覚障害)の性質を,網膜の受容体の先天性または後天性の欠陥として説明した.

3原色の赤,緑,青のフィルターを使って3回撮影した写真を,それぞれフィルターを通してプロジェクターで投影しカラー写真を生成した.1861年のロンドン王立協会の会合でその動作を実演した.
彼は土星の環の構造を綿密に計算し,それまで考えられていたように環が液体ではなく固体の粒子で構成されていることを証明した.

マクスウェルは自然科学の多くの分野に重要な貢献をした.
彼の最も重要な業績は,電磁気学の理論の発展と,それを確固たる数学的基盤の上に位置づけたことだ.
マクスウェルは1850年代半ばにこの問題の研究を始めた.皮肉なことに,マクスウェルは光を放つエーテルの存在を固く信じており,エーテルが存在し,その中で電磁波が励起され,その結果,電磁波の伝播速度が有限であるという事実に基づいて,すべての方程式を導き出した.
マクスウェルは,エーテル存在説の反証となったマイケルソン・モーリーの実験の結果を見ることなく亡くなった.(彼もまた,自分の理論が無条件に認められるまで生きられなかった.光の波動性とマクスウェル方程式の正しさは,1888年にようやくヘルツの実験によって確認された.
この実験によってエーテルの存在は否定されたが,マクスウェルの理論が否定されることはなかった.なぜなら,マクスウェル方程式はエーテルの有無にかかわらず満たされるからである.

マクスウェルは最終的に,気体分子の速度分布を発見し,それが分子運動論の基礎となることで統計力学の発展に貢献した.しかし,マクスウェル自身もこの理論の不完全性に気づき,後に「マクスウェルの悪魔」として知られることになるパラドックスを提唱した.
**************************

マックスウェル方程式までの道のり
19世紀半ばまでに,科学者たちは電気と磁気の現象,そしてそれらの関係を記述する多くの法則を発見した.

①クーロンの法則は電荷間の相互作用力を記述する.
②ガウスの定理は,自然界に孤立した磁荷(磁気単極子)が存在する可能性を排除する.
③ビオ・サバールの法則は,移動する電荷によって生成される磁場を記述する.(アンペールの法則とエルステッドの発見も参照 )
④ファラデーの電磁誘導の法則は,磁束の変化によって電界が生成され,導体に電流が誘導される. (レンツの法則も参照 )

これらの法則群は,C. マクスウェルによって一般化され1 つの首尾一貫したシステムに統合された.このシステムは 4 つの方程式で構成される:
(1)マクスウェルはすべての既知の電磁気学の法則を厳密に数学的に記述した (たとえばファラデーは,発見したすべての法則を言葉でのみ定式化した).
(2)マクスウェルは,彼が定式化したシステムに,元の法則にはなかった多くの根本的に新しいアイデアを導入した:変位電流など
(3)彼はすべての電磁気現象に厳密な理論的根拠を与えた.
(4)マクスウェルは,自身がまとめた方程式のシステムに基づいて,電磁放射のスペクトルの存在の予測を含むいくつかの重要な予測と発見を行った:真空中の電磁場の存在

ビオ・サバールの法則によれば,導体を流れる電流は、その周囲に磁場を励起する.直流電流が流れる場合はこのままで良いが,コンデンサのギャップを介して流れる交流電流に対してもこの法則を拡張した.

マクスウェルは,アンペールの法則ではこの状況における電流の流れが説明できないこと,電荷はコンデンサの電極間を移動できないが,電場(電極間に仮想的な電荷を置いた場合に生じる力)が増加することに気づいた.変化する電場が電流と同様に磁場を生成すると仮定し,マクスウェルは,変位電流という根本的に新しい概念を導入し,これを一般化されたアンペールの法則に独立した項として追加した.それ以来,変位電流の存在は実験によって繰り返し確認された.

マクスウェルは自身がまとめた4つの方程式系に基づいて,純粋に数学的に当時としては画期的だった予測を導き出した.それは,自然界には電磁波が存在し,電場と磁場の振動相互作用の結果として形成され,その伝播速度は電荷間または磁石間の力に比例するはずだというもの.自身がまとめた微分波動方程式を解いたマクスウェルは,電磁振動の伝播速度が当時すでに実験的に決定されていた光速と一致することを発見した.これは,光のように身近な現象が電磁波だったことを意味します.さらにマクスウェルは,電波からガンマ線に至るまで,既知のスペクトル全体に電磁波が存在することを予言した.このように,電気と磁気の性質に関する徹底的な理論的研究が,電子レンジから歯科医院のX線装置に至るまで,人類に数え切れないほどの恩恵をもたらす発見につながった.

訳者解説
ニュートン力学と電磁力学の大きな違いは,
ニュートン力学では物体間の相互作用は瞬時に伝わり,場の概念を必要としないが,電磁力学では荷電物体の相互作用は場を介して行われると考えるところにある.相互作用の伝播速度は光速であるが,荷電粒子は大きな速度で移動できるので伝播速度を瞬時とみなすことはできない.
マックスウェルの方程式は,電荷のない真空中にも解があり電磁場が存在することを示した.真空中には何も起こらないとする長年の考え方は否定された.電磁場の存在にエーテルは必要なかった.

ファラディーの電磁誘導の法則
$${\int {E}d {l}=-\frac{1}{c}\frac{\partial}{\partial t}\int {H}d {f } }$$から(1)式が得られる.
単極磁苛がなく閉曲面を通過する磁束は0であるので,ガウスの定理を使い
$${\int {H}d{f}=\int \textrm{div}{H}dV=0}$$(2)式を得る.
ビオ・サバールの法則をストークスの定理を用い変形し(3)式を得る.
(4)式は電荷の保存則である.
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Stokesの定理 $$ \int A dl=\int \textrm{rot} Adf $$
Gaussの定理 $$ \int Adf=\int \textrm{div} AdV $$
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
得られた真空中のマクスウェルの方程式群は以下のようである:
(1)  $${\textrm{rot}{E}=-\frac{1}{c}\frac{\partial {H } }{\partial t } }$$
(2)  $${\textrm{div}{H}=0}$$
(3)  $${\textrm{rot}{H}=\frac{1}{c}\frac{\partial {E } }{\partial t}+\frac{4\pi {j } }{c } }$$
(4)  $${\text{div}{E}=4\pi \rho}$$

ここで,$${ { E},{H } }$$はそれぞれ真空中の電場,磁場であり,$${\rho}$$は電荷密度,$${ { j } }$$は変位電流である.
例えば,変位電流$${ { j } }$$も電荷$${\rho}$$も0として,1式と3式から$${ { H } }$$を消去して,ベクトル解析の公式$${\textrm{rot rot} {E}=\text{grad div} {E}-\Delta {E } }$$を用いれば,
波動方程式$${\Delta {E}=\frac{1}{c^2}\frac{\partial ^{2}{E } }{\partial t^2 } }$$
を得る.1次元の波動方程式$${\frac{d^2 {E } }{dx^2}=\frac{1}{c^2}\frac{d^2{E } }{dt^2} }$$ の解は$${ { E}(x-ct)}$$の形の平面進行波であることが分かる.

ここではベクトル解析の記号$${\textrm{rot}{E } }$$などを用いたが,マックスウェルの方程式(1864)はベクトル解析の整備に先んじている.

参照:  
1785 クーロンの法則
1820 ビオ・サバールの法則
1831 ファラデーの電磁誘導の法則
1864 マクスウェル方程式
1931 磁気単極子

 

No.544 乗数と被乗数

$${3\times 4}$$で,3を乗数,4を被乗数と言うのは欧米式.3を被乗数,4を乗数と言うのは日本式の教育です.
$${3\times 4=3+3+3+3}$$と解釈すれば,乗数は4; $${3\times 4=4+4+4}$$と解釈すれば,乗数は3.どちらの考え方も正しいのです.
それぞれ,「リンゴを3個持った生徒が4人いる」,あるいは,「4人の生徒にリンゴを1つづつ配ることを3回やる」と考えることに相当し,どちらも同じことです.考え方(解釈)は自由です.
このように,乗数,被乗数の定義は,文脈の中で存在するだけで,出来上がった式$${3 \times 4}$$の中に現れる順で決まるものではありません.
さらに言うと,乗算は可換なので,$${3 \times 4=4 \times 3}$$.式の中に現れる順で乗数,被乗数の定義をするのは無意味です.
ーーーーーーーー
追記:Facebookの友達から以下のコメントが入りました.イギリスの文化が(乗数)×(被乗数)であることの実例で面白いので引用します:
レッスンでインターバルトレーニングをするのですがコーチから距離x回数及びサイクルタイムの指示が来ます。イギリス人の小学校の男性教師が、レッスンに1年程来ていた時があり、私がその場で訳すのですが、距離x回数をいうと全く理解できない(もちろんDistanceとかTimesとか付け足してる)、回数x距離だと理解する.---

No.542 ラグランジュ解析力学

ジョゼフ゠ルイ・ラグランジュ(1736年 - 1813年);数学者,物理学者,天文学者は,オイラーの弟子で,フランス革命の前後の時代を生きた.
彼は,微分積分学を物理学へ適用し,最小作用の原理,解析力学を創出した.
ラグランジュによる『解析力学』は,ラプラスの『天体力学』と共に18世紀末の古典的名著とされる.

最小作用の原理の起源といえば,1696年のスイスの数学者ヨハン・ベルヌーイの「最速降下曲線」問題に言及せねばなりませんが,そのトピックは以下でご覧ください:

 https://note.com/sgk2005/n/n7b4803b9a981

 

■ 変分原理


始点$${(t_0, q_0)}$$と終点$${(t_1, q_1)}$$に対し,この2点を結ぶ2つの道筋が図示されている.2つの道筋は始点と終点では一致している.同一時間における道筋の差$${\delta q}$$を変分という.
ラグランジュ関数$${L(q, \dot{q}, t)}$$ として,$${S=\int_{t_0}^{t_1}L(q,\dot{q},t)dt}$$ をラグランジュ関数$${L}$$の作用という.$${L}$$の変分は
$${\delta L=\frac{\partial L}{\partial q}\delta q+\frac{\partial L}{\partial \dot{q } }\delta \dot{q}=\frac{d}{dt}(\frac{\partial L}{\partial\dot{q } }\delta q)+\delta q(\frac{\partial L}{\partial q}-\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot{q } })}$$    

$${\delta S=\int_{t_0}^{t_1}\delta q(\frac{\partial L}{\partial q}-\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot{q } })dt}$$

現実に起こる運動はラグランジュの方程式を満たすので,変分は0で作用は停留値をとる.

$${\displaystyle \frac{d}{dt}\displaystyle \frac{ \partial L}{ \partial \dot{q}_{\alpha } }-\displaystyle \frac{ \partial L}{ \partial q_{\alpha } }=0}$$
Lagrangeラグランジュの方程式

$${L(\dot{q}_{\alpha } , q_{\alpha }, t)=T-U}$$  
Lagrange関数(系の運動エネルギーと位置エネルギーの差)$${\dot{q}, q}$$は一般座標での速度と位置

ラグランジュの方程式から,ニュートンの方程式を導くことができるが,複雑な系でもラグランジュ関数を書き下すことは容易なので,広範に応用できる.

Lagrange関数から色々な力学量を導くこともできる.
例えば,系の全エネルギーは$${E=\dot{q}_{\alpha}\frac{\partial L}{\partial \dot{q}_{\alpha } }-L=T+U}$$
中心力場で角運動量を求めたり,軌道を決定したりできる.
ニュートンの運動方程式がケプラーの法則と一致することも示せる.
量子力学への移行では,エネルギー(ハミルトン演算子)$${E=\frac{p^2}{2m}+U}$$で,運動量演算子の置き換え$${p→ \frac{h}{2\pi i}▽}$$ をして,ハミルトン演算子$${H}$$を作ったことを記憶しているだろう.
$${H=-\frac{(h/2\pi)^2}{2m}+U}$$

■最小作用(停留値)の原理
ある力学系でLagrange 関数$${L(q, \dot{q}, t)}$$が与えられたとする.
$${S=\int_{t_0}^{t_1} L(q, \dot{q}, t)dt}$$をその系の作用という.
モーペルテュイは,「始状態から終状態への運動経路には,作用と呼ばれる 量が定義でき,作用が最小となる経路が実現される.これが物理学のみならず,万物の運命を決める外界の原理である」という着想ーーー”最小作用の原理”(1744)を得た.モーペルテュイは,1744年に光学現象(光の直進・反射・屈折)に即してこの原理を述べた.
たしかに,現実の運動では,しばしば作用が極小になるものが見られるが,正確には,「作用が停留値をとる経路が実現する」というのが正しいことが後にわかる.適当な作用を見つければ万物の運命が分るというのは神秘的だが魅力的な着想ではある.
オイラーは,モーペルテュイの作用量の定義を積分に拡張し,最小作用の原理をさまざまな力学課題に適用できるようにし,最大または最小の性質をも つ経路曲線を見出す方法を発表した(1744). これを読んだ若き日のラグランジュは変分法を発明し,オイラーに手紙(1755)を送った.オイラーは,ラグランジュの方法を採用し,『変分法の原理』 (1766)を出版する.
変分法により導かれる運動方程式が,オイラー=ラグランジュ方程式といわれる所以だ.
その後,ラグランジュは,『解析力学』(1788)を出版する.その序文に「 本書には図はーつも出てこな い.・・・・所定の手続きに従い進める代数計算だけだ.・・・・」と高らかに宜言する.こうして,複雑な力学問題も解ける一般化された手法が確立された.
力学系を記述するラグランジュ関数を求め,ラグランジュ関数の作用積分が停留値をとる条件を変分法で解くと,オイラー=ラグランジュ方程式が得られる.
系のラグランジュ関数は,$${L(q, \dot{q}, t)=T-U}$$,ここで,
$${T, U}$$はそれぞれ,運動エネルギー,位置エネルギーである.
普通,位置エネルギーは座標$${q}$$だけの関数だが,複雑な系では,位置エネルギーも速度$${\dot{q } }$$に依存することもある.

ラグランジュ関数は,電磁場に置かれた荷電粒子にも定義され,光(電磁力学)も力学も統一して扱える原理ができた.
変分原理から,ニュートンの運動方程式は導出できる.その上,変分原理は,ニュートン力学より一般化された外界の原理である.20世紀に入り,量子力学が誕生した時もこの原理が手掛かりになった.光や物体の運動が,作用積分を停留化する経路を選択するというのは不思議といえば不思議,当然といえば当然だ.

No.541 科学と数学

科学と数学の関係を語るとき,「科学の発展に必要だった数学がいつも先回りして用意されていた」とよく言われます.ドラマティックにそのような脚色をした本も多いようです.
ある数学の出現が,天才による閃光のようだとする見方もあれば,その数学の出現は必然(時期が熟したためであり,その時期にその分野に係わっていたのが幸運だった)とする見方もあります.後者の見方は,同じ時期に同じ結果を複数の人が発見する事例が良くあることの説明にもなります.どちらの見方も最もな言い分です.
数学は,現場(科学)から生まれたとするか,それとも,科学に先んじて数学が独自に生まれたとするか,これらも両極端な見方です.
数学の源泉が現場にあったことも事実ですし,数学から数学が生まれたのも事実です.

19世紀末(1890~1894年)に,フェドロフ,シェンフリ-ズ,バーローがそれぞれ独立に結晶空間群230種類を数え上げていました.これらの3人のうちシェンフリーズはドイツの数学者ですが,フェドロフはロシアの鉱物学者,バーローはイギリスの実業家です.
レントゲンによるX線の発見(1895年)は20世紀の幕開け前夜です.すぐ20世紀に入り,結晶を回折格子としたラウエの実験(1912年),X線結晶構造解析のブラック親子(1915年)と科学の発見が続きます.
ブラック親子のX線結晶構造解析に必要な,空間群の230種類の数え上げは,「さあ,お使い」とばかりに準備されていました.ドラマティックですね.数学が科学的発見より先んじていた例に良くあげられます.
しかしながら,数学を突然出現させるのは,演出が過ぎるというものです.17世紀中葉からの結晶に関する多くの観察実験により,「結晶は単位胞が積み重なったデジタル(離散的な周期的構造)世界でなければならない」と推論されていました.それは,ステノ(1669年),リスル(1772年)の「面角一定の法則」,アウイ(1783年)の「有指数の法則」,ミラー指数(1839年)などの積み重ねの結果です.実際これらに貢献したのは数学者ではなく現場の科学者で,結晶学と整数論がともに進んできた道です.
ブラベーの格子の対称タイプの数え上げ(1848年),ヘッセルの結晶点群の数え上げ(1830年)などを経て,空間群の数え上げに至ります.
しかし,これらをもって数学と言うならば,数学は科学の現場で育まれたのです.
さらに洗練された数学的概念の関与で,数学の登場となります.空間群の直積や半直積への分解や正規部分群の拡大などの群の成り立ちの研究になってからではないでしょうか.

数学月間の狙いは,「数学が基礎科学も含めて社会を支えていることを,数学嫌いの市民に気づいてもらい,数学アレルギーを無くそう」とういうものです.その数学の源泉は何かの現場(科学や社会)に無縁ではないはずです.そして,数学の本質は論理なので,数学を抽象化し洗練すれば,数学から数学が生まれる宿命にあるのも確かです.やがて,その数学の源泉は見えなくなるのですが,そのように抽象化純粋化された数学も源泉につながっていたことを忘れたくはありません.
「・・・・・多くの数学者は物理学その他の分野との関係を見失い,一方,物理学者は数学者の関心と問題意識,その方法と語法が理解できなくなっている.これでは,科学の発展の流れは次第に細かく枝分かれし推量を失い,ついには干上がってしまうであろう.・・・・・」R.クーラントの『数理物理学の方法』(1924)の序文からの引用.
これが書かれたのは今から100年前ですが,このような状況は現在も同じです.

数学の源泉が良くわかる数学と科学現場が一体であった以下の時代を,これから考察しましょう:
●14世紀末~16世紀初頭
ルネッサンス人というのは多分野に天才であった人たち(数学者で科学者で芸術家でというような)が活躍し,数学研究が孤立していなかった面白い時代です.タルタリア,カルダーノ,デカルト,フェルマーなどの時代です.
●17世紀~19世紀
次に,ニュートン,ライプニッツ,ガウス,フーリエ,ダランベール,オイラー,ラグランジュ,ベルヌーイ,パスカル,マックスウェルなどの時代があります.この時代も科学と数学は一体で発展し面白い時代でした.

1687年に粒子に対するニュートン力学,1873年にマックスウエルが波動である電磁気学を確立し,古典物理学のパラダイムが完成しました.20世紀になるとこれらのパラダイムはミクロの世界で破綻し量子力学の誕生になります.

次回から,古典物理学の完成時に戻り,数学と物理学に大きな影響を与えた,以下の2つの話題を取り上げます:

■ラグランジュ 解析力学
■マックスウェル 電磁力学

No.540 波板の曲面は細かく見れば平面

ポリカ波板6枚を切った.私は万華鏡材料のステンレス板も切れる強力な金切りバサミを持っているので,オーバースペックだがポリカ切断には切れ味的には問題はない.しかし,形状が波板という所にやっかいな問題がある.このハサミは切断した帯を側面後方に逃がすのだが,帯が通り抜けるスリット幅が5mm(5mm厚以上のステンレス板は切らないので当然)で,長さは10mmくらいある.波板はうねりの振幅が10mm,ピッチは32mm.もしハサミのスリット幅が10mmだったら,波板切断にも対応できる非常に便利な金切りバサミになるだろう.


世の中には,波板専用の切断ハサミというものも存在するが,たまにしかやらない作業に特殊な工具をそろえていては切りがない.
そこで次の問題を思いついた:ピッチ32mm,振幅10mmのsin曲線のグラフを,長さの10mmの筒の中を通り抜けさせるためには最小でいくらの筒の幅が必要だろうか(表紙図).答えはまだ考えていません.

さて,何か手段はないかと色々工夫するのだが大抵失敗する.辛抱強く少しずつ切り進むのが一番良かった.スリットを通過する場所を局所的に少し伸ばして波板のうねり振幅を薄くして切り進むと多少は効果がある.
結局、全体はうねっているのだが,気にせずに,スリットを通過する場所だけ平坦(局所的に)と見て少しずつ切り進んで行けば,いつかは全体を切断することができる.作業しながら,波板の表面は接平面を繋いで出来上がっている多様体だななどと考えていた.
放射光SPring8の建屋は円形である.廊下を歩くとき先を見れば廊下が円形に続いていることが良くわかる.しかし,自分の周りだけ見れば廊下は直線で出来ている.部屋も壁もドアーもそべて直線で出来ている.どこもカーブしていないのだが,全体としては廊下は円形になっているので不思議な気分になる.
地球だって自分の周囲の地面は平坦にしか見えないのに,地球全体の形は球形である.水平線を見渡せるような景色でも見ない限り地球が丸いことを実感しない.でも実際,小さな接平面を繋いでいくと球形の地球になってしまう.
閑話休題,ポリカ波板で何を作ったかといえば,ブドウ棚の雨除け屋根を作った.雨に濡れてシャインマスカットに黒とう病が発生したからだ.トップジンで消毒した.4年にもなるので元気に育ってほしい.

 

No.539 記数法

◆数学には多くの大きな発見がありますが,他の人が理解できるものだけが進歩につながります.数学的概念の理解の容易さや使用の普及は,その表記法が便利かどうかに依存します.たとえば,ローマ数字で2つの数を掛け算をするのは大変です:
MLXXXIV と MMLLLXIX を掛け合わせなさい.全然できません.
加算の場合は別で,この場合はローマ数字の作り方そのもので,容易にできます.ですから,ほとんどの計算を数字の加算で行っていた商人は,ローマ数字の使用をあきらめようとなかなかしませんでした.
注●
ローマ数字は,各アルファベットが表す数を足せばそのまま数になるようになっている.例えば,①1を表すアルファベットは‘I’,‘II’なら1が2つ並ぶので2,‘III’なら3を表す.②同じ文字が4つ並ぶのは禁止で,4は「5の1つ前」と考えて‘IV’と表す.③‘V’は5に対応するアルファベット,10は’X’に,50は’L’に,’C’,’D’,’M’は,それぞれ,100,500,1000に対応させる.
MLXXXIVは,1000+50+30-1+5=1084;
MMLLLXIXは,2000+150+10-1+10=2169 です.
和はMMMCCXLXIIIになります.

数学を発展させるには,このローマ数字の表記法では無理です.
和算も同様で,優れた数学がありましたが,表記法では不利な立場に置かれ理解が広がりません.結局,数学の発展についていけませんでした.

◆微分でのニュートンの記法は関数名の上に”ドット”をつけるもので,
x(t) の1階微分はx˙(t),2階微分はx¨(t)などとするものです.

これは速度や,加速度の表記には便利ですが,高階の微分の表示には向かないし,微分する変数が1変数なら良いが多変数になると使えません.ライプニッツの表記法なら,微積分学の概念を容易に拡張できました.
イギリスの数学者たちは,愛国心からニュートンの記法を用いていたが,ライプニッツに倣った大陸の数学者たちと比べて不利な立場になりました.
関数の微分では,このほかに,ラグランジュの表記法f′(t)なども使われます.

No.538 数学発展歴の見方

◆数学上の発見の評価は,現在の視点からのその影響度と洗練度でなされるでしょう.それしか方法はないのですが,現在の私たちの視点と何世紀も前の数学者たちの視点は違うことを忘れないようにしましょう.
今日の数学の教え方は,往々にして過去の難解さを理解できなくしています.ただし,それはそれで,効率的に数学の理解ができる利点はあります.

数学上の主要な発見の素晴らしさの評価は単純ではありません.それらは,閃光のように見えますが,実際には,多くの数学者たちによる長年にわたる研究の集大成です.

微積分を最初に発見したのはニュートンかライプニッツかという論争がありますが,ニュートンが師バローから微積分を学んだことは間違いありません.もちろん,バローが微積分を発見したわけでもありません.微積分はギリシャ数学に始まる長い進歩の過程を経て生まれたものです.フェルマーやライプニッツも係わっています.

数学の主要な発見は,「適切な時期」にそのテーマに取り組んでいた幸運に置かれれば,誰でもできたと思える面もあります.でも,これも偏った見方です(なぜ二人以上の人が,ほぼ同時に独立に同じ発見をしたかの説明には,ある程度役立ちますが).発見の中に,天才的なひらめきが確かに存在し,それは,より深い理解や,特定の概念の重要性をより明確に理解したことから生まれます.

新しい概念の発見は奥が深い.その簡単な例は,
2個のリンゴを3個のリンゴに加えること(加算)の誕生です.
リンゴだけでなくあらゆるものの集合の抽象的な性質として, 2や3などの数字の世界が生まれることで,数え上げから数学の領域へと移行しました.
負の数の導入も長い苦労の末にようやく実現しました.
現在の視点から当たり前に思えることでも,そのときの困難を理解することは、小学生を教えようとする教師にとって有益です.

ネイピア,ブリッグスらは,約400年前に対数を考えました.対数はそれから350年間,算術計算の主なツールとして使われました.科学で必要な膨大な計算は,対数なしではできませんでした.その後世界は変わり,コンピュータが登場しました.さて,この先何がコンピュータに取って代わるのでしょうか.ネイピアが対数と同時に機械式コンピュータの基本概念を発明したことを思い出してください. より高速なコンピュータ,より小型のコンピュータ,より高性能なコンピュータは思い浮かべることはできますが,コンピュータと対数表が異なるくらい,コンピュータと画期的に異なる何かが思いつきますか.量子コンピューティングかも知れませんね?いずれにしろ,
非ユークリッド幾何学,群,一般相対性理論,集合論などの発明がいかに困難であったかが分かります.

No. 537 チャンスは素敵

3⃣回目は,確率と統計に関する話題です.(引用)30-second MATHS

■ ジローラモ・カルダーノ
1501年9月24日,イタリア,パヴィアで生まれる.
1520年パヴィア大学に入学.1525年パヴィア大学で医学博士号を取得;
ミラノの医師大学に入学を志願するが,1539年まで不合格.
1526年,Liber de ludo aleae『さいころあそびについて』を著す.
死後1663年に出版.これは,確率に関する最初の数学書.ブレーズ・パスカルやピエール・ド・フェルマーより1世紀も先んずる.【出典・ブリタニカ】
1536年,De malo recentiorum medicorum usu libellus『現代の医師による治療間違い100事例』を著す.
1545年,Artis magnoe, sive de regulis algebraicis『アルス・マグナ』を著す.この本には,ヴェネツィアの数学者ニコロ・タルタリアに負う三次方程式の解と,カルダーノの元従者ルドヴィーコ・フェラーリが発見した四次方程式の解が含まれる.【出典・ブリタニカ】
1576年9月21日,ローマで死去.

医師,数学者,地質学者,自然科学者,錬金術師,占星術師,天文学者,発明家であるカルダーノは,ルネサンス人(多方面に一流の能力を示す)の化身であり,レオナルド・ダ・ヴィンチの暗い鏡である.ダ・ヴィンチと家族ぐるみの付き合いもあった.レオナルド・ダ・ヴィンチは名声と栄光を手にしたが,カルダーノは不愉快な性格と超批判的な態度で,その才能を無にしてしまった.その知性は大いに求められたにもかかわらず,行く先々で嫌われることになった.
彼は,父の下で学んだ数学に転向し,2冊の本を書いた.そのうちの一冊『アルス・マグナ』(1545年)は,3次方程式と4次方程式の解法に取り組んだルネサンスの重要なテキストである.
彼はニッコロ・タルターリアから3次方程式の解法証明を引き出し,カルダーノは6年間は出版しないと約束したのだった.しかし,タルターリアが真実を略していたことを知り,カルダーノは出版に踏み切り,タルターリアや多くの敵から非難された.
カルダーノはギャンブルにはまっていた.ギャンブルは得意で,『Liber de Iudo aleae(さいころあそびについて)』という本を書いた.この本はギャンブラーやカジノのオーナーには大変人気がある.
カルダーノは,長く多作だが混沌とした生涯を送った後,1576年9月21日に死去した.彼は自分の死を時間まで予言していたと言われている.また,自分の予言が外れたことが証明されないように,約束の時刻に自殺したとも言われている.********************************************************

■ オッズと確率
●オッズとは,何かが起こる可能性を,それが起こらない可能性に対して測定して表す.
ある事象が起こる確率を p,起こらない確率を 1−pとすると,

起こるオッズは p/(1−p),起こらないオッズは (1−p)/p である.

例えば,標準的なダイスで4が出る確率は1/6,4が出ない確率は5/6である.

4が出るオッズは (1/6)/(5/6)=1/5,通常の方法で表現なら,4が出るオッズは1:5となる.
反対に4が出ないオッズは5:1である.これは,「勝つ1つの方法に対して負ける5つの方法」があることを意味する.

●確率とは,特定の事象が起こる可能性を,起こりうるすべての結果と比較する ことによって表現する方法である.
可能な結果の数に対する望ましい結果の数の比であり,0(可能性ゼロ)から1(確実)の間の数で表される.
例えば,フルデック(トランプの全カード)からカードを選ぶとき,ハートを選ぶ確率は13/52 または 1/4 である.
つまり,ハートを選ぶ確率は0.25である.

ブックメーカーは,起こりそうもない出来事(ロングオッズ)に対して,より良いオッズ(そしてより多くのお金)を提供するが,確率は低い.40対1の馬に賭けるのは要注意,可能性はあるが,勝つ確率は1/41だ.
一方,2対3のようなショートオッズは,人気馬(勝つ確率は3/5)であり,勝つ確率は高いが配当は少ない.

■ ゲーム理論
何千年もの間,人々は三目並べからチェスやチェッカーに至るまで,戦略ゲームを楽しんできた.ジャンケンを例にすると,相手の行動にパターンを見いだせない限り,長期的な戦略としては,3つの選択肢から毎回ランダムに選ぶのがベストである.この方法でプレイすると,勝ったり負けたり引き分けたりが均等に起こる.これはゲームの「均衡」と呼ばれるもので,両プレイヤーがこの戦略を使っているかぎり,どちらかが戦術を変えて勝利数を増やすことはできない.
ゲーム理論の中心は,ジョン・フォン・ノイマンによって証明され,ジョン・ナッシュによって拡張された,膨大な種類のゲームが均衡を持つことが保証されているという有名な事実である.

ゲーム理論はゲームの研究を超え,政治学から人工知能にまで応用されている.しかし,ゲームにはまだ課題がある.2007年,カナダのジョナサン・シェーファー教授らは,チェッカーゲームにおける無謬の戦略を開発した.彼らのプログラムは絶対に負けない.しかし,コンピューターはチェスでは人間を打ち負かすことができるものの,このような完璧な戦略はまだ遠い夢である.障害となっているのは,チェスのゲーム展開の仕方が,宇宙に存在する原子の数をはるかに凌ぐためだ.

■ ベイズの定理
ある病気の検査の精度が90%だとする.ここで,無作為に選ばれた人ボブが,陽性と判定されたとする.
ボブが実際にその病気にかかっている確率は?
この質問は答えられない!もう一つ追加情報が必要だ.
すなわち,その病気がどのくらい一般的な病気なのかという情報で,
ランダムに選ばれた人がその病気に罹患している確率を知る必要がある.
仮に人口の1% がその病気に罹患しているとしよう.ベイズの定理は,検査が陽性であった場合に,その人がその病気に罹患している確率を求める方法を教えてくれる.1,000人の集団で,平均10人が病気を持っている(1%)として,そのうち9人が検査陽性(「真陽性」)となる.残りの990人は病気を持っておらず,そのうちの10%,つまり99人が検査陽性(「偽陽性」)である.偽陽性は真陽性より多く99対9で,ボブが病気である確率は11対1である.

ベイズの定理における事前確率の出現は,試行を繰り返して事象の頻度を決定しなければ,事象に意味のある確率を割り当てることはできないことを示唆している.

●ベイズの定理は,18世紀のイギリスに住んでいた長老派の牧師,トーマス・ベイズ(1702頃-1761)にちなんで名づけられた.
●偽陽性
医学的検査において,様々な要因により,実際には陰性であるはずの検査結果が陽性となってしまうこと.多くの検査環境において偽陽性が発生するため,陽性と判定される確率を正確に判断することは,事前確率を計算するのに十分なデータが揃うまで不可能である.
●真陽性
真陽性は真に正確な陽性結果であるが,偽陽性は検査の不正確さや失敗によって生じる不正確な陽性結果である.
●事前確率
統計学において,新しいデータや証拠が他の確率を計算する前に設定される事象の確率.事前確率は,確率のベイズの定理において重要な役割を果たす.

■中心極限定理
コイン投げなどの同じ条件で何度でも繰り返すことができる偶然の結果を伴う(ランダム)実験は,十分な試行回数があれば,出来事の頻度はそれが起こる確率に非常に近くなる.
大きな母集団を研究する場合も同様で,サンプル・サイズが大きければ大きいほど,出来事の頻度は,それが起こる確率に非常に近くなる.サンプルの平均は母集団の平均をよりよく表す.
平均値の推定精度は,標本サイズの平方根で良くなる.そして,測定対象のばらつきが大きい場合,良い推定値を得るにはより大きな標本が必要になる.この法則は,十分なデータがあれば,常に必要なだけ良い推定値が得られることを保証している.

確率と頻度の関係を示す最初の重要なステップは,1713年にヤコブ・ベルヌーイによってなされた.その150年後,イレーヌ=ジュール・ビエナイムとパフヌティ・チェビチェフの研究によって,これはさらに強化され,1909年,エミール・ボレルによって,推定値が最終的にわれわれの望むとおりになることの証明が完成した.
●中心極限定理
確率論で,サイコロ投げのような同等なランダム変数は,十分な試行回数を重ねると,その平均値は正規分布に向かうというのが中心極限定理である.その結果をグラフにプロットすると釣鐘型曲線を描く.

■ ランダム性のチェック
表(H)と裏(T)が連なる2つの長い列があり,それぞれがHHTHTHで始まるとしよう.一方は本当にランダムで,偏りのないコインを繰り返し投げた結果であるが,もう一方はそうではなく,人間が注意深く選んだものである.
どちらがどちらかを見分ける方法はあるのだろうか?
真にランダムならば,長期的には表と裏が同じ頻度で現れるはずである.
しかし,これだけでは十分ではない.すべての結果のペア(HH,HT,TH,TT)は,平均して,他のすべてのペアと同じ頻度で出現するはずである.すべての3連,4連,さらに長い配列についても同様である.
しかし,人為的にこれらの条件を満たすことは可能なので,これらすべてでも十分ではない.

最も単純な配列はHHHHHHH...で,これは明らかにランダムではない.他にもまだある.これは簡単に圧縮できるのだ.「100万の表」という表現は,この配列順序を非常に簡潔に表しており,誰でも完璧な精度で伝達し,再現することができる.
しかし,真にランダムな配列順序を圧縮することはできない.ランダムな配列順序を誰かに伝える唯一の方法は,それを全部書き出すことである.ランダム性と非圧縮性は本質的に同じものなのである.
ランダム性を数学的に検出するのは非常に難しい.

インターネットはバイナリ・シークエンス(0と1の長い文字列)で動いている.これをコンピュータが,私たちの使いたいプログラムやファイルに変換できる.最大限の効率を得るためには,これらの文字列はファイル圧縮ソフトを使って可能な限り圧縮する必要がある.
文字列が圧縮されると,予測可能なパターンや繰り返しパターンが取り除かれ,純粋にランダムなシークエンスと見分けがつかなくなる.したがって,完全に 圧縮された情報は,数学的には ランダムと同じである.
どの配列がランダムなのか?数学者でさえわからない。

■ ギャンブラーの誤謬 - 平均値の法則
コインを10回投げてすべて表が出たとき,次は裏の可能性が高いと主張したくなる.人々はこう言う.「表と裏が同じ確率であるという平均値の法則に従えば,裏が追いつき始めるに違いない」
ナンセンスである.いかさまなコインでなければ,前回の結果がどうであれ,次回に表か裏が出る確率は,表50%,裏50%と決まっている.ルーレットや宝くじも同様で,100回まわしてゼロが出なかったからといって,次にゼロが出る確率が上がるわけではない.イタリアで,53という数字が2年以上も宝くじに当たらなかった.その結果,多数の破産者と自殺者が出した.

コイン,ルーレット,宝くじの玉は無生物であり,以前の結果を記憶し,その頻度を調整する能力はない.
確率は,長い目で見れば,それぞれの確率に落ち着くだろう.いかし,それには本当に長い時間がかかる!
「平均値の法則」は,厳密には「大数の法則」の言い換えであり,過去の結果が直近の結果に影響を及ぼすと主張するために使うことはできない.

■ 確率の感じ方

人間の時間感覚の問題で,このような錯覚に陥り易い.イタリアの宝くじで,53という当たり番号が出ていないので,今度は絶対でると思い込み,破産者や自殺者を出した事例の紹介がありました.
十分大きな試行回数を重ねれば,それぞれの固有の確率に収束していく.これが、「大数の法則」ですが,この「十分に大きい」というのが曲者で人間の時間間隔とは合いません(試行回数の平方根に比例する速度で平均値に近づくのですが).

「まれな出来事は良く起こる」という逆説的なことも良く経験します.「まれな出来事」の起こる確率は小さいはずですが,「まれな出来事」の種類は非常に多いので,そのうちのいくつかは必ず起こる(どれが起こるかわらないが)ので,そのように感じるのでしょう.

地震の起こる確率は発生まで増加し続ける
地震調査委員会は,主要な活断層や海溝型地震(プレートの沈み込みに伴う地震)の活動間隔や次の地震の発生可能性を評価し公表しています.
南海トラフ地震について,マグニチュード8~9クラスの地震が30年以内に発生する確率が70~80%といわれます.これは南海トラフでは過去1,400年間に約90~150年の間隔で大地震が発生していることから,次の地震までの間隔を88.2年と予測したのが根拠です.1944年の昭和東南海地震や1946年の昭和南海地震が発生してから,2020年は約75年を経過しており,南海トラフにおける大地震発生の可能性が高まっていると言われます.太平洋やフィリピン海プレートが日本の下に沈み込むとき,引き込まれた日本列島が時々(周期的に)戻るのが海溝型の地震なので発生に周期ができます.
今年地震の起きる確率は1/88,この何十年も巨大地震が起きていないといっても,今年起きる確率はいつもと変わらず1/88と言っていいでしょうか.そうではありません.この場合の確率は一定ではないはずです.
地震は,地層にたまり続けたひずみが地層を破壊して放出される現象です.放出されるエネルギは,地層の強度や生じた断層の大きさなどから推定できます.結局,たまり続けた歪に耐え切れなくなって地層が割れるのですから,地震が発生する直前まで地層の歪は増加し続け,地震が起きる確率は,地震発生まで時々刻々増加して行くはずです.
その場所で地震の起きない年月が続いた後は,地震の発生確率は高まっているというのは本当でしょう.

No.536 数が生み出される仕組み

No.527,528の「記数法と数体系」に続くのは,今回の「数が生み出される仕組み」[演算]です.
演算とは,4則演算,指数と対数,三角関数ほかの色々な関数,微積分などがあります.
素数を生み出す仕組みはまだ謎ですが,フィボナッチ数が生まれる仕組みは,
「前の2項の和が次の項を決める」という非常に簡単な再帰的規則で,
DNAにプログラムするのも容易です.これが自然界で色々な場面にフィボナッチ数が登場する所以でしょう.
今回の話は,歴史的には,ニュートン,ライプニッツの時代(1720年ごろ)までです.

・ゼロの役割
バビロニア,ギリシャ(ただし天文学者だけ!),マヤなどの古代人たちは,ゼロを数体系における位取りとして使用していた.現在の数体系が生まれたインドでも同様である.
628年にBrahmaguptaブラフマグプタが,ゼロを単なる位取りとしてではなく,数字として扱い,ゼロと負の数を使った算術規則の最初の書物を書いた.
820年にAl-Khwarizmiアル=フワーリズミーは,インドの数体系をイスラム世界に紹介した.
フィボナッチは1202年,『リベル・アバカ』(計算の書)の中でこれをヨーロッパに紹介し,ヨーロッパでのゼロの使用を広めた.

・無限
無限は水平線の彼方にある.勇敢な船乗りが,どんなに遠くまで旅をしたとしても,
少しでも無限に近づいたと言えるのだろうか?自然数が無限にあることは簡単にわかる.
どんな数でも最大であると宣言すれば,いつでも1つ増やすことができ終わりがない.
0と1の間に無限の数があることも真実だが,これは少し厄介だ.
ギリシャのストア学派Zenonゼノンは,一連のパラドックスを通してこの考え方を研究した.
彼の最も有名な説は,すべての運動は不可能であるというものだ.
A地点からB地点に行くには,無限の中間地点を通過しなければならず,それぞれの地点から次の地点に行くには正の時間がかかる.無限個の正の数を足すので無限の時間になり,有限時間ではどこにも移動できない.
この論理のどこが間違いか(無限個の正の数の和が有限である可能性がある!)わかっているが,この考えは多くの研究を引き起こした.微積分の中心的な考え方は無限に関わっている.どんどん小さくなっていく正の時間間隔(私たちは「限りなく小さい」と言う)の無限数列を使った平均変化率で,瞬間的な変化率(速度)を定義することができる.
エレアのゼノン c.490-c.430BCE,ゲオルグ・カントール 1845-1918

収束する無限級数の簡単な例は,1/2+1/4+1/8+1/16+...=1
無限級数の中には驚くべき結果をもたらすものがある.例えば,1-1/3+1/5-1/7+1/9-1/11+1/13-1/15...=π/4

ガリレオはある点集合を別の点集合に写像する公式を作り,デカルトは代数式で曲線を作る概念を導入した.
「関数」という用語は17世紀後半にライプニッツによって作られた.
関数のすべての入力集合は定義域(ドメイン)と呼ばれ,すべての出力集合は像(イメージ)または値域(レンジ)と呼ばれる.
曲線の勾配を計算する微積分の発明者は,ニュートン,ライプニッツとされている.
ニュートンは,「フェルマーの曲線と接線に関する先駆的な研究での近似概念の発展がなかったら微積分に到達できなかった」と公言している.

No.535 フィボナッチ数列(2):オスミツバチの先祖の木

オスミツバチの先祖の木
オスのミツバチは未受精卵から生まれるので,オスのミツバチ( M)には母親はあるが,父親はいない.これに対して,メスのミツバチ( F)は,受精卵から生まれるので,両親がある.
図3.12は,7世代に遡るオスのミツバチの系図を示した.
[訳注:世代 nの数え方は,自分を1,親の世代を2のように,過去に遡る方向にn が増加する.図3.12には, 2世代(母親)~6世代が示されている.このようなネットワークは,グラフ理論の言葉で,木(ツリー)と呼ばれる.ネットワークにループ(閉路)がなく,あたかも,枝分かれ成長する木を思わせる.]

    

各レベルつまり各世代のミツバチの総数を数えよう.表3.3に示すように,これはフィボナッチ数になる.

$${a_{n} , b_{n} ,t_{n } }$$を,それぞれ,世代$${n , n \ge 1}$$のメスのミツバチの数,オスのミツバチの数,ミツバチの総数としよう.オスのミツバチから先祖に遡るので,明らかに,$${a_{1}=0}$$, $${b_{1}=1}$$から始まる.オスのミツバチは母親,メスのミツバチには母親と父親が確定するので,$${b_{n}=a_{n-1} , a_{n}=a_{n-1}+b_{n-1 } }$$, $${t_{n}=a_{n}+b_{n } }$$である. 
$${a_{1}=0 , a_{2}=1 , a_{n}=a_{n-1}+a_{n-2 } }$$なので,$${a_{n}=F_{n-1 } }$$のフボナッチとなる.
これから,$${t_{n}=a_{n}+b_{n}=a_{n}+a_{n-1}=a_{n+1 } }$$が得られ,$${t_{1}=a_{2}=1, t_{2}=a_{3}=1}$$であるので; $${t_{n}=F_{n } }$$となる.
かくして,オスのミツバチの世代$${n}$$の先祖数は$${F_{n } }$$である.この魅力的な関係を最初に導いたのは,W. Hope-Jones, 1921年[322]であった.
本文:①より引用. 表紙図:②のp.25の図を編集.

  

No.534 図書紹介:SHAPE

SHAPE-[形]で解き明かす社会の難問
ジューダン・エレンバーグ著
宮崎興二編訳/パウロ・パトラシュク訳(丸善出版)
この本の紹介をします。数学書ではありませんが、数学の心意気が理解できる変わった面白い本です。いくつかをのトピックを選択して、コメントを述べようと思います。

■ 第一章は、リンカーンとユークリッド原論から始まります。
リンカーンと共に米国各州を巡回し生活した、弁護士ウイリアム・ハーンドンが1889年に出版したリンカーン伝からの回想が引用されています:
「田舎の狭いホテルに一緒に泊まったとき、二段ベッドの上から長い脚を垂らし、ローソクの光でユークリッドの原論を夢中になって読んでいるリンカーンの姿を見た。」
「リンカーンの事務所の机に、定規やコンパスや色々な図面や計算が書かれた紙が散らばっていた。」このときは、「円積問題を解こうとして二日間全力を尽くしていた。」とリンカーンが語った。

これらのエピソードから、リンカーンがユークリッド原論の愛読者だったと知って大変うれしい。
リンカーンが挑戦した円積問題[円を面積の等しい正方形にする]が、定規とコンパスだけでは作図不可能であることは、今日、誰でも知識として知っており、多分、わざわざ挑戦しようとは思わないだろう。しかし、リンカーンのように自分で図を描きやってみることが最も大切なことである。
1.円を正方形に
2.立方体のデロスの祭壇を2倍の体積の立方体に
3.任意角度を3等分する
これらは、定規とコンパスを使って作図できない問題だ。これは後の時代(リンカーンの頃は既知であったが)にわかったことだが、これらの作図の解は3次方程式の根であり、3次方程式の根は、定規とコンパスで作図できる数(+、ー、x、÷、√で表現される数)ではない(3乗根がでてくる)。

ユークリッドの幾何学から、リンカーンが身に着けた一番大切なものは、誰もが認める公理系の基礎の上に、誰も否定できない世界を演繹で組み立てるという考え方だった。
アメリカの独立宣言の中に言及されている『自明な真実』というのは公理に当たるし、ゲティスバーグ演説で、「人間はすべて平等に創られている、という『信条』に捧げられた新しい国家、それがアメリカである」という歴史的な名言中の『信条』は、”proposition”という単語【普通は『命題』と訳す】で、この言葉遣い自体が原論の公理の書き方を思わせる。
トーマス・ジェファーソンもリンカーンに先立、同様にユークリッドの原論に民主主義を支える原理を見つけ出そうとしている。ジェファーソンはウイリアム・アンド・メアリー大学時代にユークリッド幾何学も学習し、それ以降幾何学を大事にしている。リンカーンは独学であったが、両者とも、原論の論理の組み立て「みんなが認める公理から演繹で理論を組み立てていく」を実践しようとしている。

得られた結果た定理を暗記するのではなく、どのように論理が組み立てられたのかを実践し考え方を身に着けるような数学教育がなされるべきである。
リンカーンのように自力で考えることが大切だ。

日本国憲法は、互いに矛盾のないよく考えられた公理系の上に論理的に組み立てた体系であり、言葉は定義通りに忠実に解釈すべきで、解釈変更や拡大解釈などに詭弁の原因がある。『義務』とはすべて同等な義務であるべきなのに、恣意的に努力義務と解釈するなど、論理の焦点をわざと逸脱させたり本質を隠したりして制定時の精神を損なっている。憲法を読むにも解釈するにも、数学的な論理的態度が必要だ。これらについては、秋葉忠利「数学書として憲法を読む」、2019年数学月間講演(⇓)を参照ください。

https://sgk2005.org/bbses/bbs_articles/index/page:3?frame_id=346&page_id=97

No.533 フィボナッチ数列(1) 

色々な課題を解くと,フィボナッチやリュカの数列が現れることが多い.これらの数を生み出す仕組みは「再帰的」で非常に効率が良い.
ちなみに, フィボナッチ数列の再帰関係は:$${F_n=F_{n-1}+F_{n-2 } }$$
$${F_2=F_1=1}$$とすると,$${F_3=2}$$などと続き,フィボナッチ数列 1,1,2,3,5,8,13,21,34,...…が得られる.
つまり,DNAに記録された簡単な設計図の指示で成長する植物などに,これらの数列が現れるのはごく自然なことである.

フィボナッチ数列で数を生み出す仕組みは,数の本質に迫るものがあるようで,見かけは異なる課題が、フィボナッチ数列に帰着することが多い.
いくつかの代表的な課題を取り上げて,再帰関係の導出過程を「ひながた」として示しておきたいと思う.
こここで選んだ課題と解法は,①Fibonacci and Lucas Numbers with Applications, by Kosbyから引用した.

■フィボナッチについて
フィボナッチ数列1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,89,144,233......は,各項は前の二つの項の和である.この数列は,数論において特別な役割を果たすが,多くの不思議な数値的性質を持っている.
例えば,$${1+1+2+3+5+8}$$はフィボナッチ数21より1小さい.
これらの数の2乗の和は,2つのフィボナッチ数の積になる: $${1 +1+4+ 9+ 25+ 64=8\times13}$$.
次の項との比$${1:1,2:1,3:2,5:3,8:5,...}$$は,黄金比$${Φ\approx1.618}$$に近づく.
幾何学的には,辺の長さがフィボナッチ数である正方形は,黄金の螺旋を形成するようにうまく組み合わされる.
人間がこのようなパターンに魅了されるずっと以前から,植物はフィボナッチ数の経済効率を発見していた.パイナップル,ヒマワリ,アーティチョークなど,螺旋構造を持つ多くの植物の葉や蕾には,連続したフィボナッチ数の組が見られる.パイナップルを調べると,一方向に8列,もう一方向に13列が螺旋状に並んでいるのがわかる.動物界では,ミツバチは各世代にフィボナッチ数の祖先を持つ.
ーーー以上 ②30-second Maths, Richard Brown, p.24より引用.

1202年,フィボナッチとしても知られるレオナルド・ピサーノは,著書『Liber Abaci』(計算の書)の中で,ウサギの繁殖に関する謎かけを行った.
おそらく非現実的であろうが,1ヶ月ごとに1組の成ウサギが1組の子ウサギを生み,子ウサギが成ウサギになるまで1ヶ月かかると仮定して,
1月に1組の子ウサギから始めると,12月までに144組の子ウサギが生まれる!   もちろん,これはフィボナッチ数列である.-----

フィボナッチは,1202年にLiber Abaci (リベル・アバカ) 「計算の書」を出版し,アラビア数字と数学をユーロッパに導入した功績が大きい.イタリア人の商人である父と北アフリカに滞在したときに,アラビア人と共に学んだ.


■ フィボナッチ数列は簡単な再帰関係に基づき,数を生み出す仕組みだが,数学の色々な概念と結びつきがあり,いろいろな数学の分野に現れるので,良い数学分野の紹介に利用できる.

 

No.532 石庭(枯山水)の作り方

石庭の作り方
石庭を作る人は多分いないと思いますが,工事中の石庭を見て今回は石庭の話題です.地面に石を置けばできると思っていましたが,そんなに簡単ではなく工法はとても手が込んでいます.
地面を1mも堀下げ基礎をしっかり固めます.その後で,地表まで戻して,写真のような岩の配置を作ります.岩の下にあるのは花崗岩のピンコロでカマセ石と呼ばれます.
この先は,砂利を敷き砂紋を描くことになるのでしょう.
この景色が意味しているものは何でしょうか.まだ置く岩が多数あり未完成です.



龍安寺の石庭
有名な石庭に,臨済宗. 妙心寺派,龍安寺があります.私は高校2年生の修学旅行の自由時間に,ここを見に行く計画を作り実行しました.そのころ私は岩波新書の『日本列島』などを読み岩石に興味を持っていたからです.
ちょっと遠くて時間がかかったような記憶があります.私の案に賛成して同行グループになってくれた友人が何人かいました.

龍安寺の石庭の全部で15個ある石は,どの場所に立ってどの角度から見てもすべての石が見えないように造られているそうです.世界は「不完全」だと言いたげで,ゲーデルの「不完全性定理」を思わせます.
その後知ったことですが,龍安寺の石庭の15の石は,虎の子渡し[母虎1匹と子虎3匹(1匹の豹の子を含む)が川を渡る方法]の謎の答えが隠されているという説もあります.

No.531 確率の感じ方

 

大数の法則
コインを10回投げて,連続して表が10回出たとすると,次は裏が出る可能性が高いと思いたくなります.「表や裏のそれぞれが出る確率は同じなのだから,そろそろ裏が追いつき始めるに違いない.」
しかし,これはナンセンスです.偏りのない正しいコインなら,前回の結果がどうであれ,次回の表か裏が出る確率は,表50%,裏50%と決まっています.何回やっても確率は変わりはしない.ルーレットや宝くじでも同様で,100回まわしてゼロが出なかったからといって,次にゼロが出る確率が上がるわけではありません.
コイン,ルーレット,宝くじの玉は無生物であり,以前の結果を記憶し,その頻度を調整する能力はないはずです.

人間の時間感覚の問題で,このような錯覚に陥り易い.イタリアの宝くじで,ある数字が,ずうっと出ていないので,今度は絶対でると思い込み,破産者や自殺者を出した事例があるそうです.
十分大きな試行回数を重ねれば,それぞれの固有の確率に収束していく.これが、「大数の法則」ですが,この「十分に大きい」というのが曲者で人間の時間間隔とは合いません(試行回数の平方根に比例する速度で平均値に近づくのですが).

「まれな出来事は良く起こる」という逆説的なことも良く経験します.「まれな出来事」の起こる確率は小さいはずですが,「まれな出来事」の種類は非常に多いので,そのうちのいくつかは必ず起こる(どれが起こるかわらないが)ので,そのように感じるのでしょう.

地震と確率
地震調査委員会は,主要な活断層や海溝型地震(プレートの沈み込みに伴う地震)の活動間隔や次の地震の発生可能性を評価し公表しています.
南海トラフ地震について,マグニチュード8~9クラスの地震が30年以内に発生する確率が70~80%といわれます.これは南海トラフでは過去1,400年間に約90~150年の間隔で大地震が発生していることから,次の地震までの間隔を88.2年と予測したのが根拠です.1944年の昭和東南海地震や1946年の昭和南海地震が発生してから,2020年は約75年を経過しており,南海トラフにおける大地震発生の可能性が高まっていると言われます.太平洋やフィリピン海プレートが日本の下に沈み込むとき,引き込まれた日本列島が時々(周期的に)戻るのが海溝型の地震なので発生に周期ができます.
今年地震の起きる確率は1/88,この何十年も巨大地震が起きていないといっても,今年起きる確率はいつもと変わらず1/88と言っていいでしょうか.そうではありません.この場合の確率は一定ではないはずです.
地震は,地層にたまり続けたひずみが地層を破壊して放出される現象です.放出されるエネルギは,地層の強度や生じた断層の大きさなどから推定できます.結局,たまり続けた歪に耐え切れなくなって地層が割れるのですから,地震が発生する直前まで地層の歪は増加し続け,地震が起きる確率は,地震発生まで時々刻々増加して行くはずです.その場所で地震の起きない年月が続いた後は,地震の発生確率は高まっているというのは本当でしょう.

 

No.530 ヒルベルト.ゲーデル.チューリング

ヒルベルトの計画(綱領)
ヒルベルトは,1921年に「ヒルベルトの計画(綱領)」を発表します.すべての数学を公理形式で記述したいのですが,その基礎になる公理の独立性,一貫性が保証されなければなりません.ヒルベルトは,1900年に行われた講演「23の数学的問題」の2番目でもこの問題を取り上げています.


20世紀初頭は,数学者はますます複雑な問題への挑戦を進めるが,その一方で,数学への基本的な疑問も起こりました.数学とは何か?その基本法則は何か?
ダーフィト・ヒルベルトには,数学の本質に取り組むための大胆なアイデアがありました.彼は数学を骨抜きにし,単なるゲームとして扱おうと考えました.チェスがポーンやキャッスルといった駒を使ってプレイされるように,数学ゲームも基本的な構成要素は記号: 0,1,+,×,=,などで,これらを組み合わせてすべての数学が出来ています.
数学を記号のゲームに落とし込み,記号の「意味」を忘れることで,数学とは何か,その基本的なルールが現れて来ると考えました.
数学の原理「ルールの基本セット」が見つかれば,これを根拠にすべての数学的記述の証明ができるし,数に関するどのような数学的記述も真か偽かをこれで決定できます.ヒルベルトは,算術の構造の根底にある論理を利用して,究極の数学理論を見つけたいと考えました.

残念ながら,ヒルベルトの計画(綱領)が実現することはなかった.
クルト・ゲーデルもヒルベルトの計画に触発された一人で,不完全性定理の研究を行い,数学が成り立つ完全なルール・セットは誰も作れないことを証明しました.

ゲーデルの証明によれば,公理系に矛盾がなく完全であることの証明は,公理系の枠組みでできない.完全性(あるいは不完全性)を証明したり反証したりするには,公理の追加(システムの強化)が必要である.
その後,アラン・チューリングのアルゴリズムに関する研究は,任意の数学的記述の真偽を評価できる手続き(アルゴリズム)は存在し得ないことを示しました.

しかし,数値システムをゲームとして扱うという彼の「形式主義的」アプローチは,数理論理学への新たな関心を呼び起こしました.
すべての数学的問題を解決することはできないが,問題のいくつかの特殊なサブクラスは,この方法で解決することができます.今日の数学者たちは,ヒルベルトの計画から肯定的な結果を救出し続けています.

ゲーデル
算術は,0,1,2,3...という整数の体系と,それらを組み合わせる方法:加算,減算,乗算,除算で成り立ちます.19世紀後半になると,数学の基本法則を見つけることに焦点が当てられ,数学者たちが求めていたのは,算術の基本法則(ルール)のリストです.すべての数学定理は,そのルールセットから論理的に演繹できるはずです.バートランド・ラッセルとアルフレッド・ノース・ホワイトヘッドによる3巻の著作『プリンキピア・マテマティカ』(1996年)を筆頭に,いくつかのルールブック候補が登場しました.
これは,基本的仮定のリストから数学の全体を構築しようとするものであったのです.しかし,1931年,クルト・ゲーデルは,そのような完全なルールブックを作ることは不可能であるという定理を証明してしまいました.
整数に関する記述の中には,真であるにもかかわらず推論できないものが必ずある.
もちろん,ルールブックを拡張してこの記述を新しい法則として組み込むことはできるが,それでも理論には他のギャップが残ることになる.ゲーデルの定理は,それらをすべて埋めることは決して望めないことを保証しています.

その後,算術の論理体系の階層が構築され,それぞれの体系が下の体系(サブクラス)のギャップの多くを埋めていることが知られます.
「証明理論」のテーマは,これらの異なる体系の論理的な強さを比較しています.
一方,「逆数学」では,古典的な数学の結果が成立する基盤条件の理解を狙い, 与えられた定理の証明にどのような公理があるのかを正確に調べています.

No. 529 ピエール・ド・フェルマーの書き込み

この写真は,以下のサイトからお借りしました:

https://www.joh.cam.ac.uk/library/special_collections/early_books/fermat.htm

Diophantus, Arithmetica (Toulouse: Bernard Bosc, 1670). | St John's College, University of Cambridge When reviewing his copy of Diophantus in 1637, Pierre de Ferm www.joh.cam.ac.uk
フェルマーの最終定理
写真は,デイオファントスの算術書の余白にあるフェルマーの書き込みです.
ピエール・ド・フェルマーは,自分の所有するディオファントスの算術書の余白に有名な「最終定理」を書き,余白に収まらないほど長い証明を発見したという趣旨のメモも添えました.1637 年ーーーーーーー
整数$${n}$$が 2 より大きい場合,$${a^n + b^n = c^n}$$ は,非ゼロの整数$${a, b, c}$$に対して解を持ちません.私はこの命題の実に素晴らしい証明を持っていますが,この余白はそれを含めるには狭すぎます.ーーーーー

フェルマーは1665年1月12日にカストル(南フランス,バルセロナに近い)で死にます.彼の死後の1670年に,息子のサミュエルが,ディオファントスの算術書を出版したときに,父親の余白のメモや注釈すべて本文に取り入れた版にしました.これが表紙写真の貴重な書です.(フェルマーが書き込んだ原本は現在失われています)
フェルマーがどのように考えどのように証明したかは謎です.
これは見かけによらず難問で,その証明には300年以上の長い年月を要し,1994 年に至りアンドリュー・ワイルズがこれを証明しました.

デイオファントス
算術書を書いたデイオファントスとは何者でしょうか. wikiによると:

https://en.wikipedia.org/wiki/Diophantus

ディオファントスはギリシャ人で,ローマ時代の西暦200年(あるいは214年)から284年(あるいは298年)に,エジプトのアレクサンドリアに住んでいました.ディオファントスの生涯に関する私たちの知識の多くは,メトロドロスが作成した5世紀のギリシャの数遊びとパズルのアンソロジーから得られています.問題の1つ(彼の墓碑銘)には次のように書かれています。ーーーーー

ここに、驚異のディオファントスが眠る。代数術によって、石碑は年齢を告げている。「神は彼に、人生の 6 分の 1 の少年時代を与え、さらに 12 分の 1 はひげが生える青春時代、そして結婚が始まる前の 7 分の 1 を与え、5 年後に元気な息子が生まれた。悲しいかな、師匠であり賢者の愛する息子は、父の人生の半分を達成した後、冷たい運命に捕らわれた。4 年間、数の科学によって運命を慰めた後、彼は自らの命を絶った。」ーーーーー

このパズルから、ディオファントスの年齢$${x}$$が次のように推定できる.$${x = ⁠x/6⁠ + ⁠x/12⁠ + ⁠x/7⁠ + 5 + ⁠x/2⁠ + 4}$$ を解いて,$${x=84}$$

ディオファントスの活躍した時代は西暦200年頃ですが,その算術書は,9世紀にアラビア語に翻訳され,ヨーロッパの中世暗黒時代を経て,ギリシャ語からラテン語に翻訳されました.1621年のラテン語翻訳のデイオファントスの算術書が,広く入手可能な最初のものでした.ピエール・ド・フェルマーはそれを所有し,研究して余白に書き込みをしたのです.

フェルマー
彼の名を冠した定理が何世紀にもわたって謎に包まれていたので,フェルマーは数学者以外の人々にも最もよく知られるようになった数学者の一人です.幾何学,確率論,物理学,微積分学の分野で独創的かつ重要な貢献をした学者ですが,フェルマーは生涯アマチュアであることを頑なに守りました.彼は自分の考えや発見をすべて手紙や手稿の形で伝え,出版はしませんでした.
彼は昼間は弁護士としてトゥールーズの議会議員を務めていて,学問の世界に身を置かなかったので,厳密な証明や査読などを受ける必要もありません.実際,同僚たちの中には,「フェルマーが証明を出さないのは,証明がないからだ」と陰口をたたく者もいたし,「フェルマーは常に,解くのが難しすぎる問題で挑んでくる」と揶揄する者もいました.しかし,フェルマーは,いくつかの問題には解がないことを証明したと反論しました.

ニュートンは,フェルマーの曲線と接線に関する先駆的な研究とその発展がなかったら,微分積分に到達できなかったと公言しています.彼はパスカルと有名な文通をしており,その中で2人はギャンブルの問題を研究し,確率論の原理を考え出しました.
フェルマーはまた,幾何学理論についてデカルト(数学者の中で最も気難しい数学者であることは間違いない)と対立し,デカルトが幾何学理論を発表する1年前に独自の理論を発表しました.フェルマーが正しかったが,デカルトは自分の影響力とコネを使ってフェルマーの名を汚し,その評判を矮小化したのです.論争もし,最後まで聡明で謎めいた存在であったフェルマーは,解けない謎を残して死にました.その最終定理は,彼の死後300年以上も未解決のままであったのですが,1994年に証明されました.

 

No. 528 数と代数系

始まりは整数の集合
ものを数える数1,2,3,4,..…は自然数と言います。整数は正の整数(自然数と0)、および、負の整数の集合です。整数集合上で、加算と乗算はできます。つまり、任意の整数の和(加算)は、やはり整数。任意の整数の積(乗算)は、やはり整数になるので、整数集合は、加算や乗算について閉じています。これを、加法(あるいは乗法)について、整数は「環」をなす(整数環)といいます。同じ演算が続いているときには、どちらを先にやっても結果は同じだということを結合的と言います。加算や乗算は結合的です。例えば、$${a+b+c=a+(b+c)=(a+b)+c}$$。
さらに、$${a\times (b+c)=a\times b+a\times c}$$という分配則を定義すると、この集合上で加算と乗算という2種類の演算の両方を行うことができます。

「群」と言う代数系は「環」に条件を2つ追加したものです。整数環の集合を例にすると、加法演算でこの集合は閉じており、演算の結合法則も成立しています。これが加法群になるかどうか、単位元の存在と逆元の存在を調べましょう;①加法の単位元0は整数の集合に存在します。②それぞれの要素の逆元は、正負の符号を変えればよいので、もちろん整数の集合には存在します。従って整数の集合は「環」であると同時に「加法群」でもあるわけです。乗法に関しては、単位元1は存在しますが、逆元がない要素もありますので、この集合は「乗法群」にはなりません。

有理数の集合
整数の集合上で、加算の逆演算「減算」はできるのですが、乗算の逆演算「除算」はできません。任意の2つの整数の間での除算の結果が整数になるとは限らないからです。そこで、整数の集合に分数を追加し拡張した新しい集合を考えると、この集合では、四則演算ができるようになります。整数は分数の特殊なケースですから、この拡張された集合は、分数の集合、つまり「有理数」集合です。
有理数の集合内で、四則演算は自由にできます。このような代数系を「体」と言います。

実数の集合
数直線上に分数を並べたとすると、任意の2つの分数の間に、また分数を作ることができ、これは際限なく続けられますから数直線は分数でぎっしり詰まっているように見えます。古代ギリシャでは数直線上のすべての数字は有理数(分数)であると信じていました。しかし、ピタゴラス派は$${\sqrt{2}=1.414・・・}$$は分数で表せないことを発見し慌てました。MetapontumのHippasusはその秘密を守るために殺されたと言います。分数を小数で表現すると、無限に続く場合でも必ず有限の繰り返しが現れます:3/11=0.272727・・・。しかし、$${\sqrt{2 } }$$や, $${\pi=3.14159265・・・・}$$などは、繰り返しが現れることがないのです(この小数は分数で表現できません)。それらは無理数と呼ばれます。数直線上には、このような無理数もたくさんあります。そこで、有理数と無理数の集合を合わせて実数の集合ができます。数直線は実数の集合で出来ています。実数の集合は「体」です。有理数の集合は実数の集合の中に含まれ、「体」の条件を満たします。

定規とコンパスで作図不可能
(1)与えられた円と同じ面積の正方形を作図:
(2)与えられた立方体のちょうど2倍の体積の立方体を作る
(3)任意の角度の3等分の角度を作図
これらはギリシャ時代から研究されている有名な問題です。立方体の倍積問題はデロス問題ともいわれます。問題の起源にデロス島のアポロンの祭壇が関係するからです。(表紙写真)


任意の角度の3等分や立方体の倍積問題は、整数係数(有理数係数といっても同じ)の3次方程式を解く問題になります。定規とコンパスを有限回使っての作図は、四則演算と開平(平方根)の作図ですから、3次方程式の解が係数の四則演算と開平の組み合わせで表示できなければ作図は不可能です。現実には、どちらも3乗根が出てきますから作図はできません。
(1)の問題に関しては、半径1の円の面積は$${\pi}$$ですから、面積が等しい正方形の一辺は$${\sqrt{\pi } }$$で、$${\pi}$$の長さでさえ作図できません。
これらの問題に対する解は実数集合には存在しますが、有理数への四則演算と開平だけでは解が作れないということです。

実数集合まで数の概念を広げると色々な方程式が解をもつことができます。
整数係数(有理数係数)の多項式方程式、例えば
$${3x^2+5x-1=0}$$などは2次方程式の例です。2次方程式、3次方程式、4次方程式の解の公式は16世紀までに解かれましたが、一般の5次方程式あるいはそれ以上の方程式の解の公式は作れないことの証明はアーベルの時代までかかりました。

複素数の完成
$${x^2+1=0}$$は解がありません。なぜなら、2乗して負になるような数は実数にはないからです。この方程式も解を持つようにするには$${x=\sqrt{-1}=i}$$という虚数を定義する必要があります。こうして複素数の集合にたどり着きました。複素数は「体」の代数構造です。複素数の範囲で、ほとんどの方程式が解をもつようになりました。

 

No.527 記数法と基数

   

Abraham Lincolnリンカーンのゲティスバーグ演説(1863)は;
Four score and seven years ago our fathers brought forth on this continent a new nation, conceived in liberty, and dedicated to the proposition that all men are created equal. -----------
で始まります。演説英文は以下のサイトから引用しました:
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.fukaya-toyosato-j.ed.jp/?action=common_download_main&upload_id=3296

scoreとは20のことです
4score and 7 years ago=4x20+7=87years agoと言うことになります。
「4世代と7年前」という訳を見かけますが、それではちょっと計算が会いませんね。「87年前」と訳すべきです。

スコアという単語は、20進法が使われていた名残です。20進法は古代マヤでも使われました。ダース、グロスは12進法が使われていた名残です。
古代バビロニアでは60進法が使われていました。
私たちは10進法が当たり前に見えるほど慣れてしまいましたが、色々な基数を用いた記数法があったのです。
コンピュータのコードは2進法(0か1しか数字は用いません。バイナリーといいます)が使われます。


n進法の基数はnです

例えば,10進法なら,4桁の数字$${abcd}$$の位取りは
$${10^3 10^2 10^1 10^0}$$ですので,数字$${abcd}$$は,$${a・10^3+b・10^2+c・10^1+d}$$の数値になります。数記号$${a,b,c,d}$$のそれぞれは,0,1,2,・・・・・,9の10種類のうちのどれかです。

2進法なら,4桁の数字$${abcd}$$の位取りは
$${ 2^3  2^2  2^1  2^0}$$なので,数字$${abcd}$$は,$${a・2^3+b・2^2+c・2^1+d}$$の数値です。数記号$${a,b,c,d}$$のそれぞれは,0,1の2種類のうちのどれかです。

もちろん、これらの記数法は、小数点以下にも適用できます。記数法の基底が$${n}$$の場合,小数点以下の位取は以下のようになります:
$${. n^{-1}  n^{-2}  n^{-3}  ・・・・・}$$

No.526 本日MRI被検体になった話

本日は右足坐骨神経を圧迫している脊柱管の状態を知るため,MRI(核磁気共鳴イメージング)を撮りました.自分が被検体になるのは20年ぶりです.
MRIの測定中に聞こえる”カタカタ”や”ビー”という冗談かと思うようなふざけた音は,1.5T(テスラ)という強い磁場中で装置が動くために,あたかもスピーカーと同じように装置が振動して出す音です.そのことは承知していましたが,今日の装置(Siemens)の音はすさまじかった.もしかしたら,昔普及した1.5Tでなく新しい3.0Tかも知れない.
じっとしている20分間の測定の間に色々思い出すことがありました.20年前はTree CT研究会でこれらの技術を話題にしていましたが,その後,2012年福一原発事故以降,研究会のテーマは放射能測定にシフトしたのです.

閑話休題,原理です:
■プロトン(水素の原子核)はスピンを持ち,磁石の性質(核磁気)があります.強い静磁場下に置かれたプロトン核磁気は,磁場に沿ってだいたい向きが揃い,歳差運動している状態です.歳差運動の周波数(ラーモア周波数という)は,磁場が強いほど高く,MRI装置の静磁場は1.5T程度と超強力なので,ラーモア周波数は64MHz(ラジオ電波の周波数領域)程度です.
静磁場下のプロトンに,このラーモア周波数の電波が照射されると吸収共鳴が起こり,核磁気の歳差運動の振幅(周波数は変わらない)が増大しほとんど横倒しの状態で回転(古典論的なイメージ)しています.
一方,歳差運動をしているプロトン核磁気からは同じ周波数の電波が放射されるので,これを検出することができます.
■生体組織は,水をはじめ水素原子と結合した分子からなる組織です.
つまり,プロトン(水素の原子核)核磁気は組織の至る所に分布していて,
その水素の属する組織の環境(診断される情報)がそのプロトン核磁気の性質(緩和現象)に反映されています.
すなわち,核磁気の歳差運動の縦緩和,横緩和という現象は,そのプロトン(水素)が含まれる(結合している)組織内の状態で違いが出ます.
緩和というのは,電波の照射を止めると,励起されていた核磁気の歳差運動が定常状態に戻ることで,静磁場方向の核磁気成分の復元緩和を「縦緩和」,静磁場に垂直面内の成分の減衰緩和を「横緩和」といいます.
組織の各点で,これらの緩和定数を測定し,マップに表示できれば,
診断に役立つ組織の特徴を反映したイメージングになります.
■さて,組織画像の位置情報はどのようにして得られるのでしょうか.
これがなければ画像として見ることができません.断層測定をするには,検出器に到来する電波が,1つのスライス平面から来るものだけ集める必要があります.このためには,静磁場の他に傾斜磁場を印加します.
傾斜磁場はさきほどの静磁場とは別で,ペアのコイルによって発生する(数十mT/m程度の強さ)もので,たとえば,$${z}$$軸方向の静磁場があり,加えて,$${z}$$方向に沿って変化する傾斜磁場,$${x}$$方向に沿って変化する傾斜磁場,$${y}$$方向に沿って変化する傾斜磁場の3種類があります.
傾斜磁場があると,空間内で磁場の大きさが一定になるのは平面になります.例えば,静磁場方向と同じz方向の傾斜磁場を印加すると,磁場一定の平面は$${z}$$軸に垂直な平面です.
プロトン核磁気のラーモア周波数は,磁場の強度に比例するので,共鳴吸収する電波の周波数をスキャンすれば,$${z}$$軸に垂直な各断層平面に並ぶ核磁気からの電波を順次採取することができます.
次に,各断層面内の$${(x,y)}$$位置情報はどのように得たらよいでしょうか?
断層内のプロトンの歳差運動を励起した後に,$${x}$$傾斜磁場,引き続き$${y}$$傾斜磁場の印加を行うとします.
$${x}$$傾斜磁場印加で$${x}$$軸に沿って歳差運動の周波数が変化し,その場所から放射される電波の$${x}$$座標情報(周波数エンコーディング)が得られます.
$${x}$$および$${y}$$傾斜磁場の印加で$${y}$$軸に沿って歳差運動の位相が変化し,$${y}$$座標情報(位相エンコーディング)が得られます.
傾斜磁場を印加して,空間の位置情報を得,画像化を可能にしたのは,Lautergur(1972)の発明で,2003年のノーベル賞を受賞しました.
■緩和時間の測定は,歳差運動の励起後,照射電波を切って行うので,立ち上がり時間も考慮した電波照射の複雑なパルスシークエンスになり,256x256画素の測定でもかなりの時間を要します.高分解能画像を得るには,正攻法で行うならさらに細分化した画素数の測定が必要になり膨大な測定時間になるでしょう.原理的には,point to pointの測定になるからです.
この解決策の一つとして,MRIの高分解能かつ高速化を実現させたのは,
「圧縮センシング」という数学方法です.しかし,今日の測定でも20分間かかかっています.まだ遅いですね.

■データを再構成して画像データを渡されるまで,1時間待ちを覚悟していましたが,20分の待ちでした.こちらは速くなった.20年前に比べれば,computerが格段に進化しているので当然と言えば当然です.どんなcpuを用いての計算時間でしょうか.再構成のプログラムも進化したはずで,生データを見てtestしてみたいと思っています.

No.524 企画講演(第14回)説明可能な機械学習-AI電卓

 

数学月間企画講演(第14回;2024.10.12)で,以下の講演が行われた。

説明可能な機械学習== 統計的学習によるハイパフォーマンスモデル ==

徐 良為;SLW代表、(株)NTTデータ数理システム 顧問
e-mail: liangweixu2205@gmail.com
youtube: https://www.youtube.com/@ai_dentaku


1.機械学習の役割と課題

データセット$${x}$$と$${y}$$が与えられたとき,最良の関数$${f(x)=y}$$を求める。$${x}$$は説明変数;$${y}$$は目的変数と呼ばれる。$${f}$$はモデルと呼ばれる。①関数モデル$${f}$$の形を仮定し,②評価すべき誤差関数の定義をし,③誤差関数の最小化(最小2乗法など)を行う。
$${f}$$の形は無数に存在し,現実世界でのこのモデルによる予測が正当かどうかの検証が必要である。モデルで予測できるのは,データの連続性に基づいている。

線形モデルでは検証は容易であるが,ニューラルネットワークは,多段の隠れ層を経由しており,非線形関数も含まれるので,検証は難しい。




機械学習の抱えるジレンマは,予測精度を向上させるためにモデルが複雑になるのだが,複雑になるほど説明力が失われることである。
そこで,限られたデータ範囲の中で,説明可能なシンプルな近似モデルを探すことになる。説明可能とは,予測対象の目的変数に対して,説明変数の寄与条件と寄与度合が明確であることである。



線形モデル,決定木に従うモデルなら,説明は容易だが,現実問題に対しこれらのモデルは予測精度が対応しきれない場合がある。

2. 説明可能な機械学習、「AI電卓」の技術概要

予測精度の高いモデル構築を,電卓を扱うように簡単に実現できるのが「AI電卓」である。AI電卓モデルは,ルールに関する線形結合である。




これらの各対応する条件(ルール)を満たすと,$${r_i}$$は1となる。それぞれに対応する係数$${\beta_i}$$はそのルールの寄与である。
多数のルールの線形結合であるモデルで,誤差が小さくなるようにフィッティングし,多くの$${\beta_i}$$が0となるものを見つける。つまり$${\beta_i}$$に対応するルールを取り除くことができて,説明可能なモデルが得られる。ルールを絞り込むことが知識の発見につながる。










3.Kaggleで検証
Kaggleとはデータ分析コンテストで,特定のテーマに対し予測精度を競う。分析専門家のモデルに対し開発しているAI電卓(機械的自動化)モデルの性能比較をするために参加している。AI電卓の現状は,大規模学習データ(数百万件)から,トップ予測精度モデルになるまでの機械学習の時間は1週間程度かかっている。参加チーム4728中で上位2%以内に入る成績を達成している。
(講演録作成/文責)谷

No.525 企画講演(第15回)社会に数学を活用するArithmerの活動

講演者:大田佳宏
代表取締役社長兼CEO,総務省AIネットワーク社会推進会議構成員,東京大学大学院数理科学研究科客員教授,東京大学アイソトープ総合センター客員教授,一般社団法人日本応用数理学会代表会員,第64回国際数学オリンピック組織委員会副委員長

日時●2024年11月26日,14:30ー16:30(開場14:00)
場所●東京大学駒場キャンパス 数理科学研究科棟002号室

Arithmerとは
アリスマーとは数学者集団の会社です。数学は色々な科学技術の基盤であり、色々な社会課題の解決に数学が使えます。これを事業として社会に示したいというのがアリスマーの構想です。2016年の9月に創業し、ちょうど9年目になります。数学月間の目標は「数学が社会を支えている」という認識を社会に広めることですが、アリスマーの活動はこれを事業として実践しています。従って、数学月間でアリスマーの活動を取り上げることは非常に意義深いわけです。アメリカやヨーロッパでは、数学が社会を支えているとの認識が普及していますが、日本ではまだその認識は広がっていません。

アリスマーの事業は業務提携をして進められています。例えば、トヨタ通商、三井住友海上など14社にのぼり、エネルギー、製造、インフラ、ロジスティックス、ライフサイエンス、リテール、ファイナンス 等々の分野にわたり、アリスマーの AI が使われています。
アリスマーのAI ソリューションは、さまざまな業界の大手企業を支援し、成功しています。この紹介は 100 件を超えるアリスマーのコラボレーションのほんの一部です。国内での成功を基に、世界に向けても展開し、ビジネスを変革し、業務を最適化し、イノベーションを推進します。


 
アリスマーのコアテクノロジー
アリスマーのコアテクノロジーは、ビジョンAI、分析AI、AIロボという 3 つの主要領域で構成されています。

ビジョンAI:
機械学習アルゴリズムを活用して、物体検出、異常検出、医療画像分析など、さまざまな業界の幅広いアプリケーションを強化します。

AIロボ:
高度な視覚システムと統合学習機能により、周囲を移動し、人々と対話できる AI 搭載マシン。

分析AI:
最適化、パターン認識、傾向分析、予測機能など、包括的なデータ分析を提供します。これにより、一般的な AI アプリケーションから次世代の量子コンピューティング先導に至るまで、ビジネスが強化されます。

●本人確認システム
NEC と連携して、デジタル顧客確認 (KYC) 本人確認システムを立ち上げました。この革新的なソリューションは、NEC の高度な顔認識技術と アリスマー の強力な OCR 機能を活用し、スマートフォン ベースの便利で安全なユーザー確認を実現します。このシステムは、ユーザー フレンドリーなモバイル端末を使い、新しい ID や銀行口座を開設するプロセスを合理化します。


日本を代表する海上保険会社である三井住友海上保険向けに、アリスマーはOCR コアシステムの全社的導入を行い、同社の保険見積プロセスを改革しました。この数年にわたるプロジェクトは 200 億円を超える規模で、保険証書からのデータ抽出を自動化し、見積り作成のスピードを大幅に向上させました。その結果、顧客の待ち時間が 70% 削減されました。


●自律走行車
トヨタとの画期的なビジョンAI コラボレーションを通じて、自律走行車技術の先頭に立っています。この最先端のシステムは、車両、歩行者、その他の周囲の物体をリアルタイムで検出します。高度な物体検出技術により、システムは潜在的な危険を特定し、予防的な事故防止策を講じることができます。アリスマーの革新的なソリューションは大きな評価を得ており、最近、主要ニュース番組で取り上げられ、NHK World でも紹介され、世界中の視聴者に届けられています。


自動運転車は遠い未来かもしれませんが、倉庫ではすでに自律走行車が利用されています。自動誘導カート (AGV) は、制御された環境内で商品を効率的に輸送します。歩行者の安全を最優先するため、アリスマーはトヨタと提携してビジョン AI システムを開発しました。この最先端技術により、AGV は潜在的な危険を検知できるようになり、衝突のリスクを大幅に軽減します。この革新的なソリューションは、トヨタとの共同特許出願の一部です。


●風力発電
風力発電は再生可能エネルギーの成長を先導し、世界の発電量の約半分を占めています。太陽光、水力、地熱は、この急成長分野で引き続き主要な役割を果たしています。日本は、野心的な「洋上風力産業ビジョン」でこの傾向を体現しており、より強い洋上風力を活用して大幅な容量増加を目指しています。2030年までに10ギガワット(GW)、さらに2040年までに40GWに拡大することを目標としています。しかし、この急速な成長には課題があります。過酷な海洋環境はタービンの摩耗を加速させ、火災や構造損傷のリスクを高めます。さらに、メンテナンスを行う熟練技術者の不足も脅威となります。


風力タービンのエンジン室内に設置されたアリスマーAI 搭載カメラは、モーターの故障を検出し、潜在的な火災や故障を防ぐことができます。
この高度なビジョン AI システムは、重大な事故が発生する数日前に問題を特定できるほか、人間による検査では気付かない可能性のある異常なオイル漏れも検出できます。


●保険、ライドシェア
AI 画像分析は保険業界とライドシェア業界に革命をもたらし、請求処理と事故検出を変革します。アリスマーAI は事故後の写真から修理費用の見積もりを生成することで保険請求を効率化し、効率と顧客満足度を向上させます。ライドシェア プラットフォームは AI を活用して旅行前後の画像から潜在的な事故を検出し、安全性を高めて詐欺を減らします。


●空港

最初の検査後に禁止品が見つかると、空港の効率が低下します。回収のために BHS 全体を停止すると、業務が中断し、手荷物の配送が遅れ、フライトの定刻出発に影響する可能性があります。その結果、物流と財務に大きな損失が生じます。アリスマーのビジョンAI は、リアルタイム分析を使用して、空港 BHS での禁止品検出に革命を起こします。このソリューションは、BHS を通過する荷物の輪郭や体積などの主要な特徴を抽出し、複雑な高次元表現 (1,000 次元以上) に変換します。この空間内の距離を測定することで、この AI は荷物の適合性を瞬時に判断し、禁止品の効率的な検出と BHS のよりスムーズな操作を可能にします。 AI は、単純な禁止品検出にとどまりません。このインテリジェントなシステムは、微調整と強化学習を利用して、スキャンごとに検出機能を継続的に改善します。使用すればするほど、より賢くなり、BHS オペレーションの精度とセキュリティがさらに向上します。 アリスマーのビジョンAI は、現在のセキュリティの先を見据えており、この AI と顔認識テクノロジーを組み合わせることで、手荷物の取り扱いに革命を起こすことができます。タグのない未来を想像してみてください。顔が預けた荷物の ID になるのです。このシステムは、BHS 全体で手荷物をシームレスに追跡配送し、物理的なタグをなくして、空港と乗客の両方のプロセスを合理化します。


荷物の紛失や空港での遅延にうんざりしていませんか? AI BHS は、空港でのスムーズな業務を実現する画期的なソリューションを提供します。
従来のシステムでは、紛失した荷物やタグのない荷物の処理に苦労し、フラストレーションの原因となっていました。この高度なシステムは、戦略的に配置された 2 台のカメラを活用して、優れた精度を実現します。
第1のカメラは、類似の荷物であっても、各荷物に固有のデジタル「指紋」を作成します。
第2のカメラは、この指紋を使用して荷物の ID を確認します。この 2 段階のプロセスにより、優れた追跡が保証されます。
識別だけでなく、システムは大幅な位置の変化を検出し、セキュリティと効率性を高めます。
2 ショット ビジョン AI を BHS 内の指定されたポイントに配置するのは簡単です。


●洪水AI
最近のイノベーションの成果として、アリスマーの洪水 AI ソリューションが、日本の大手経済新聞である日経新聞の第一面に大きく取り上げられました。記事では、このテクノロジーによって大手損害保険会社が洪水災害の保険金支払いを従来の方法よりも効率と精度を高めて合理化したことが紹介されました。その結果、保険金請求処理時間と関連コストが大幅に削減され、保険会社は数週間以内に補償を迅速に行うことができました。この迅速な解決により、洪水後の保険契約者の満足度が明らかに高まりました。


高性能 LiDAR 搭載ドローンの統合により、3D マッピングの作業の流れに革命が起こりました。これらのドローンは最先端のレーザー スキャン技術を活用して、センチメートル レベルの精度で膨大なデータセットをキャプチャし、非常に詳細で正確な環境表現を生成します。この包括的なデータ取得により、さまざまな業界の専門家が比類のない空間認識で情報に基づいた意思決定を行うことができます。


広野町は、ドローンで撮影した 3D ポイント クラウド データの力を活用して、建設とインフラ計画を強化し、より強靭な未来への道を切り開いています。これらの詳細な 3D モデルは、情報に基づいた現場計画、強化された建設監視、強靭なインフラ開発のための貴重な洞察を提供し、町が情報に基づいた決定を下し、より強固で気候に強い構造物を建設できるようにします。この積極的なアプローチは、変化する気候に適応し、住民の安全と幸福を確保しようとしている他のコミュニティにとってもインスピレーションとなります。


●ポストディクションAI
(講演録作者注:ポストディクションとは心理学の言葉で,後付けで起こった事象が直前の事象の知覚や認知に影響を及ぼす現象)
生成AI (Gen AI) には大きな可能性がありますが、依然として大きな課題が残っています。これには、非現実的なコンテンツ生成、トレーニング データから継承されたバイアス、誤情報やディープフェイクへの悪用が含まれます。これらの問題を軽減し、責任ある使用を確保するには、Gen AI テクノロジーの進歩が不可欠です。そのような進歩の 1 つが、アリスマーのポストディクション AI です。このテクノロジーは、繰り返しのコミュニケーションを容易にし、機械が記号とルールを使用して論理的に推論できるようにします。アリスマー AI を統合することで、Gen AI は推論能力を強化し、意思決定の説明可能性を高めることができ、最終的にはより信頼性が高く信頼できる AI システムにつながります。


●安全のAI
今日のダイナミックな職場では、従業員の安全が最も重要です。安全のAI は、建設、製造、物流における安全性を積極的に強化し、タスクを合理化する革新的なソリューションとして登場しました。安全AI は、音声ガイドによる説明とリアルタイムの危険警告で作業員を支援します。また、積極的な機器メンテナンスと AI を活用した問題解決の支援促進をします。安全AI の多言語インターフェースと音声警告により、全員が明確にコミュニケーションできます。これらの機能を組み合わせることで、安全AI は、効率性と生産性を高めながら、積極的な安全文化を育みます。


安全AI は従来の監視を超え、高度な AI を活用して、事故が発生する前にビデオ映像を分析し、危険な状況 (作業員の危険な行動や環境の危険) を検出します。リアルタイム分析により、即時介入が可能になり、事故を防止できます。安全AI は反応的ではなく、予測的です。機器データを分析することで、潜在的な障害を予測し、ダウンタイム中に修理をスケジュールして、混乱とコストを最小限に抑えることができます。さらに、安全AI はシームレスに統合され、既存のカメラや従業員の電話でも動作します。簡単なスナップショットで、機器のカウントなどの問題を自動的に特定できるため、手動によるデータ収集が不要になります。


安全AI は、作業員と管理者の両方を支援するために設計された革新的な安全管理ソリューションです。

効率的な運用: 現場の作業員はスマートフォンでリアルタイムのタスク更新を受け取るため、遅延がなくなり、作業効率が向上します。
安全性の向上: 作業員のスマートフォンに組み込まれた AI が、高リスクエリアの危険を即座に検出し、事故リスクを積極的に軽減します。
予測力: 安全AI は、機械の故障を予測するアラートを提供することで、事後対応の対策を超えています。これにより、管理者は予防的なメンテナンス措置を講じ、ダウンタイムを最小限に抑えることができます。
実用的な洞察: 管理者は、包括的なログ データを備えた集中型プラットフォームにアクセスできます。

これにらより、安全上の懸念事項を積極的に特定し、安全アラートやパーソナライズされたトレーニング プログラムなどの対象を絞った介入が可能になります。


●アリスマーAI
大規模なデータセットは大規模言語モデル (LLM) をトレーニングしますが、事実の根拠が欠けている場合があります。RAG(Retrieval Augmented Generation)は、生成時に外部の知識ソースを組み込むことでこれに対処し、より有益で信頼性の高い出力を実現します。外部知識を活用するというこの概念に基づいて、ReAct は推論とアクションの両方を同時に実行します。これにより、ReAct は現実世界の情報にアクセスして処理できるようになり、応答はより包括的になり、事実の証拠に根拠が置かれるようになります。マルチモーダル AI [複数種類の情報を処理できるAI]は、さまざまなデータ タイプを統合してより深い理解を獲得し、精度を高め、医療、自律走行車、製品開発におけるアプリケーションを促進します。アリスマーAI は、RAG、ReAct、独自の G 関数の組み合わせを活用して、AI システム間の通信を容易にし、ユーザーが最小限の入力で必要な情報を取得できるようにします。


アリスマー AI のグラフ データベース テクノロジーは、複雑な従業員ネットワークを視覚的に表現し、積極的なリスク特定と最適化された作業流れのための深い洞察を獲得できます。従業員プロファイル、マシンの詳細、タスク、安全プロトコル、日報などのさまざまなデータ ソースを統合プラットフォームに統合し、データのサイロ化[データが共有できていない]を排除して最新情報へのリアルタイム アクセスを確保します。AI 搭載エージェントは、関連する公開データを積極的に収集して統合し、情報を最新の状態に保ち、現実世界の状況を反映します。従業員と機器の安全性を優先しながら、アリスマーAI のデータ駆動型洞察を使用して作業流れを最適化し、最高の効率を実現します。


タスク分解とは、複雑なタスクをより小さく、より管理しやすいサブタスクに分割するプロセスです。これは、人工汎用知能(AGI)と大規模言語モデル(LLMs)の両方が、大量のドキュメント処理などの目標を達成するのに役立ちます。マルチエージェント AI では、複数のインテリジェント エージェントが連携して動作します。これらのエージェントはソフトウェア プログラムまたはロボットであり、共通の目標で協力したり、独自の相反する目標を追求したりする場合があります。


●農業
アリスマーは、AI を活用した自律農業の先駆的な国家プロジェクトを主導しています。このプロジェクトでは、果物や野菜を無人で収穫するためのロボットを開発しています。Advanced Vision AI は、熟した農産物を識別して選択し、最適な品質を確保して価値を最大化します。
インテリジェント パス プランニングは、ロボットのアームの最も効率的な経路を計算し、周囲の植物へのダメージを最小限に抑えます。この革新的なテクノロジーは、効率的で高品質の収穫の未来を約束します。


●AIロボット●糖尿病
糖尿病治療の分野では、アリスマーは、難解な「神の手」技術を再現する AI 搭載手術ロボットの開発を先導しています。この手技は、並外れた精度と指導の難しさで知られ、長い間、膵島移植手術のボトルネックとなっていました。アリスマーの画期的な技術は、モーション キャプチャ分析を活用して熟練した外科医の動きを細かく記録して再現し、AI ロボットがランゲルハンス島 (インスリンを生み出す膵臓細胞塊) を分離するという繊細な作業を比類のない精度で実行できるようにします。この革新は、この高度に専門化された手術をより費用対効果の高いものにし、はるかに多くの患者が受けられるようにすることで、膵島移植に革命を起こす可能性を秘めています。2023 年に動物実験が成功裏に完了した後、AI ロボットは、日本有数の移植センターである国立国際医療研究センターで 2022 年に臨床デビューする予定です。これは糖尿病との戦いにおける大きな進歩です。AI 支援による処置は、膵島移植の低侵襲性と高精度の方法を提供することで糖尿病治療を変革し、患者の完全寛解を達成する可能性を秘めています。


●結言

(作成/文責)谷

No.523 企画講演(第14回)「説明可能な」機械学習の新時代

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数学月間SGK通信 [2024.09.24] No.523
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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秋になりました10月12日と11月26日に講演会を企画しています.
今回はまず10月12日の講演会を紹介します.多くの方の参加をお待ちしています.

◆数学月間企画講演会(第14回)
日時●2024年10月12日(土),13:30-16:00(開場13:00)
場所●東京大学駒場キャンパス,数理科学研究科棟002教室
(遠方の参加者のためにリモートwebexも併用します)
テーマ:
「説明可能な」機械学習の新時代--------統計的学習でBlack Boxも解消
ChatGPT,生成AIなどとAI分野の発展は著しいものがあります.
AI技術を,得体のしれないBlack Boxのように利用した時代は終わりです.
数学・統計学を基礎とする機械学習の進歩により支えられており論理的に説明できる技術です. 
この企画では,機械学習が統計学によって支えられていることがわかります.
講演●統計的学習による知識発見型モデル構築への実践紹介
  == AI電卓の自動機械学習による Kaggleへの挑戦 ==
講師●徐良為(工学博士);SLW(Statistical Learning Workshop)代表,
(株)NTTデータ数理システム非常勤顧問
司会討論●松原望(東京大学名誉教授)
参加費●1,000円 (当会会員および学生は無料)
参加登録が必要です:
https://sgk2005.org にある「企画講演会(第14回)2024.10.12」で登録できます.
(注)Kaggleとは:
色々なテーマで,AIとモデリングを競い合うコンペで,
1,900万人を超す機械学習ユーザーが参加しています

ちらし.pdfは,https://sgk2005.org でダウンロードできます.

No.522:2024数学月間(第3日目)2「エジプト紐.原始ピタゴラス三角形3分木」

2024数学月間(第20回)の第3日目(2024.08.05)は,東京大学数理科学科棟002教室で開催されました.2番目の講演[15:20-16:50]は;
「古代の数学エジプト紐と現代のピタゴラス三角形3分木」亀井喜久男(愛知県立大)でした.
講演録筆者の独断で,講演者が言及できなかった部分を補ったり,読者の理解の助けになるように筆者の解釈で図を作成したりした部分があります.もし,筆者作成の図などに,筆者の誤解による誤りがあればお詫びし修正します.(講演録文責:谷)

 

 

 

 

 

 

 

 

■ (I)エジプト紐
エジプト紐とは,輪になった紐に,時計の文字盤のように12等分の標が着いたもののことです.輪の周長は,120cm,12m,120m,60cm,6m,60mなどが使いやすいようです.実際の測地目的にあった長さのものを使います.机上の学習用には,60cmが使い良いようです.
なぜ,12等分したかと言えば12は約数が多く,エジプト紐で作れる角度の多様性が大きいからです.エジプト紐を教材として考案したのは講演者の亀井喜久男氏です.

■エジプト紐の基本
エジプト紐で直角(3,4,5の直角三角形)を作るのが基本作図です.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


条里制遺構の調査によれば,1町は60間(約108m)で,1辺が1町の正方形の面積は1町歩です.我が国の出雲国風土記に180間の縄の活用が見られます.これをエジプト紐として用い,一辺が60間の正方形を描くと,その面積は1町歩です.古代メソポタミアにもこの技術はあったはずで,一辺が60m(1イク)の正方形の畑を区画しその面積を測量したそうです.
このように古代から野外で実用に使われた技術を体験して理解しよう.
●グラウンドに大きな色々な図形(ハンドボールコートなど)を描く実習:

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


● 正5角形を描く
ちょっと工夫すれば正5角形も作れます.$${1+\sqrt{5 } }$$の長さを作るのがミソで,仕上がった正5角形は一片の長さが$${2}$$で,エジプト紐$${12}$$の長さ全部は使いません($${10}$$の長さだけ使います).

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


● 色々な図形を作る手順を考えることは,良い教育になります.
正6角形,6角星形,正8角形,正12角形,正9角形などはエジプト紐で作ることができます.手順を工夫してみよう.

■ (II)ピタゴラス三角形3分木

直角3角形ではピタゴラス 方程式$${a^2+b^2=c^2}$$が成立します.この整数解$${(a,b,c)}$$はピタゴラス数と呼ばれますが,$${a,b,c}$$に公約数がない(互いに素)場合$${(a,b,c)}$$を,特に,原始ピタゴラス数(primitive Pythagorean triples),その三角形を,原始ピタゴラス三角形と言います.
◆講演録著者注)R.Courant and H.Robbins『What is MAthematics?』(1941)森口繁一監訳:細矢治夫『三角形の七不思議』では,「既約ピタゴラス三角形」と呼んでいます.当NPO会員の竹内淳実により,計算された$${c<20,000}$$の既約ピタゴラス数のリスト(2015年)は,当会HPに掲載しています.

原始ピタゴラス数3つの系列
原始ピタゴラス数には,次の3つの系列があるのは公知です:

(1)ピタゴラスの系列
$${(a,b,c)}$$:$${(3,4,5),(5,12,13),(7,24,25),・・・・・}$$
$${a}$$は奇数.$${b=(a^2-1)/2}$$.$${c=b+1}$$.
斜辺は奇数.偶数辺(足)は斜辺より1だけ小さい.

(2)プラトンの系列
$${(a,b,c)}$$:$${(4,3,5),(8,15,17),(12,35,37),・・・・・}$$
$${x}$$は偶数.$${b=x^2-1}$$.$${c=x^2+1}$$.$${a=2x}$$
斜辺は奇数.奇数辺(足)は斜辺より2だけ小さい.

(3)フェルマーの系列
$${(a,b,c)}$$:$${(3,4,5),(20,21,29),(119,120,169),(696,697,958),・・・・・}$$
斜辺は奇数.直角を挟む2辺(足)の差が1.

[亀井の研究]
フェルマーの系列に対する漸化式の発見(亀井,1991).
$${a_{n+2}=6a_{n+1}-a_{n}+2}$$
$${b_{n+2}=6b_{n+1}-b_{n}-2}$$
$${c_{n+2}=6c_{n+1}-c_{n } }$$
これからフェルマーの系列の原始ピタゴラス三角形に作用させ次の原始ピタゴラス三角形を生む演算子$${A}$$を導きました.$$ A=\begin{pmatrix} 2&1&2\\ 1&2&2\\ 2&2&3\\ \end{pmatrix} $$
つまり,$${\begin{pmatrix} 2&1&2\\ 1&2&2\\ 2&2&3\\ \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 3\\ 4\\ 5\\ \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 20\\ 21\\ 29\\ \end{pmatrix} }$$などです.同様にして,
ピタゴラス系列を生む演算子$$ \begin{pmatrix}1&-2&2\\ 2&-1&2\\ 2&-2&3\\ \end{pmatrix} $$
プラトン系列を生む演算子$${\begin{pmatrix}-1&2&2\\ -2&1&2\\ -2&2&3\\ \end{pmatrix} }$$ も求めました.
独自で行ったこの証明を整数論の先生に提出しましたが,残念なことに先行研究がアメリカにあったようです.
[亀井喜久男『Focus Gold通信vol.6,p.11-13,』]

原始ピタゴラス数の3分木構造

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ピタゴラスの定理$${a^{2}+b^{2}=c^{2 } }$$を満たす互いに素な正整数の3組数$${(a,b,c)}$$を求めると,$${a=m^{2}-n^{2}, b=2mn, c=m^{2}+n^{2 } }$$, ($${m,n}$$は正の整数)を得る.$${c}$$は斜辺,$${a, b}$$は直角を挟む2辺であり足と呼ぶ.結局,偶奇性のことなる2つの正の整数$${m>n>0}$$により全ての原始ピタゴラス数は網羅される[ピタゴラスの公式と呼ばれる].これは,ピタゴラスより1500年も古いバビロニア時代から知られていたという.[Neugebauer:The Exact Sciences in Antiquity(1961), ChapII, Babylonian Mathematics]
原始ピタゴラスの3つ組数$${(a,b,c)}$$と$${[m,n]}$$とは1:1対応をする.$${[m,n]}$$のことを亀井は種,$${(a,b,c)}$$を実と呼んでいる.
◆講演録著者注)----------------------
原始(既約)ピタゴラス三角形を,$${m,n}$$平面上にプロットした原始ピタゴラス三角形の分類[細矢治夫;三角形の七不思議(2013)]類は,斜辺$${c}$$から偶数足$${b=2mn}$$を減じた$$ c-b=(m^{2}+n^{2})-2mn=(m-n)^{2 } $$は,$${m,n}$$は偶奇性が異なるので,奇数の2乗であることに注目し,
斜辺と偶数足の差の値で分類するL系列と,斜辺と奇数足の差$${c-a=2n^2}$$の値で分類するM系列での分類で,ここで考察しているピタゴラス系列,プラトン系列,フェルマー系列の分類とは観点が異なります.
---------------------------------------------

もちろん,原始ピタゴラス数に3分木構造があれば,これらと1:1の対応のある原始ピタゴラス数の種においても 分木構造があるはずです.

原始ピタゴラス数の種となる2数[$${m,n}$$]の3分木

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


種に関する3分木構造を考えたときに,それら種間の推移演算子がどのようになるのか,講演録筆者は知りません.種間の推移演算の図形的な解釈が,亀井喜久男,島田正雄により議論されましたが,読者にとってもこれは理解しにくいと思いますので,私の理解できた範囲で,具体的な原理図(図a~c)を作成してみました.私は,これらの図形変形が推移演算と等価であることの確認をしたわけではありません. 
フェルマー系列の種図形の推移は,互除法の図形解釈のようでもあり,フラクタル構造が隠れているようでもあり興味深いものです.

 

 

 

 

 

 

 

図a フェルマー系列の種の推移

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


図b プラトン系列の種の推移

 

 

 

 

 

 


図c ピタゴラス系列の種の推移


■ 種[$${m,n}$$]から三角形$${(a,b,c)}$$への作図による復元方法について,亀井による図解説明($${[5,2]}$$の例)がありました.

 

No.521:2024数学月間(3)-1「算数・数学と生活や社会のつながりを実感 体験できる授業」

2024数学月間(第20回)の第3日目(2024.08.05)は,東京大学数理科学科棟002教室で開催され,最初の講演[13:40-15:10]は;
「算数・数学と生活や社会のつながりを実感 体験できる授業と,Do MATH 同志社中学校数学博物館」園田毅(同志社中学校)でした.数学月間での園田氏の講演は,2020年に続き2回目です.2020年の数学月間懇話会は,Covid19の流行拡大のために,リモートで,7月22日,23日,29日,8月22日の4日開催し,園田氏の「Do★MATH同志社中学校数学博物館の紹介」は,2日目の7月23日でした.その時の講演録は数学文化No.35(2020) にあります.

 

 

 

 

 

 

 

 

■ 同志社中学校数学博物館
Do★MATH同志社中学校数学博物館は2016年5月に開設されました.2010年のキャンパス移転で,教室の余裕ができ,全ての授業を教科専門の教室で行える教科センター方式(生徒が移動して来る)ようになりました.数学科には6つの教室があり,ふさわしい数学者の名称が付いています.2階3階の教科オープンスペースに,Do★MATH数学博物館があります.展示内容は,中学生の学習内容を中心に,教員と生徒が作成したものが多くあります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数学博物館展示物や各教室のパネルなどで,学習する数学テーマにふさわしい教材に,いつでも生徒は触れることができます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この廊下は,距離と縮小(相似遠近法)を体験実感できる教材になります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



数学の本質は抽象化にありますが,具体的な場に立ち,そこから生まれた抽象化前の数学概念のイメージをつかむことは,非常に大事なことです.
◆講演録筆者のコメント----------------------------------
これは数学月間の思想と同じです.我々の社会や自然に足場を置き,そこからの視点で数学の働きを紹介するのが数学月間です.同志社中学校は,算数・数学と生活や社会のつながりを実感 体験できる授業を実践しておられます.社会への応用能力を重視するロシアの数学教材にも同様な思想が見られます.以下を参照ください.

https://note.com/sgk2005/n/n1b17a8b214e9

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■ 教材例: ひと裁ち折り
折り紙を教材に使う.近年では,折り鶴の方法も知らない人が増えているらしい.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひと裁ち折りで作ったハートと五芒星型.   裁ち切る場所は,3度折られており8重に重なっている.

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このひと裁ち折りで,五芒星型ができる理由は,
折り紙が10重に畳まれているからです.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



■ 数学教育の問題点
OECD実施のPISA(2012)数学についての国立教育政策研究所資料によると,
65か国中,興味関心60位,道具的動機づけ64位,自己概念(自信があるか)65位と低い.数学を自分のものではなく別の世界のものと感じていて,避けられている実態がわかる.数学の本質は抽象化にあるのだが,その前に,具体的な場に立ち数学の役割に触れ,概念のイメージを把握する教育が必要である.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




■ どのような数学授業をするか
絵を描かずに基本規則だけ習う絵の授業,音楽をやらずに楽譜規則だけ習う音楽の授業のような授業を数学はやっているのではないだろうか?
同志社中学校で行ったいくつかの授業教材が紹介された:

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

教材例: 素数ゼミ
12~18年周期のセミの最小公倍数を調べる.素数が入ると最小公倍数が大きくなり,13年セミと17年周期セミが残る結果が得られた.

 

 

 

 

 

 

 

 

 


(参考)最大公約数を見つける互除法の図形的解釈

 

 

 

 

 

 

 

 

 


■ 教材例:アイドルと統計
60本の中に,大吉,吉,中吉,小吉,末吉,凶の入っているおみくじを作った.生徒が2人組になり,おみくじを引き,その結果を記録する作業を繰り返す.これらの結果から,それぞれの札を引く相対度数を求め,おみくじを構成するそれぞれの札の本数を推定した.

■ 教材例:地球を測る(エラトステネス)方法と比例

エラトステネス(紀元前200年ごろ)は,アスワン(北回帰線上)の町の深井戸は夏至の日の正午にだけ太陽の光が底までさし込むということを知り,アスワンから北に920km離れたアレクサンドリアで,夏至の正午に太陽の高度を測定し7度傾いていることを得た.これから,地球の円周を46,400kmと推定した.これと同じ方法で地球の円周を測定することを課題にした.
京都の同志社中学とパラオ高校は,ほぼ同じ子午線上にあり,パラオは赤道に近いので,エラトステネスの方法で地球の大きさが測れる.9月3日の正午にパラオでは太陽が真上に来て街灯支柱の影が失せる.この瞬間に同志社中で垂直に立てた1mの棒の影の長さを測定し,52cmを得た.これから,太陽の位置が頭上から62.5度にあることが分かった.つまり,同志社中とパラオとは地球中心角として27.5度離れている.googl earthによる両地点間の距離3,073kmを用いると,地球の円周40,225kmが得られた.

 

 

 

 

 

 

 

 


◆ 講演録筆者のコメント--------------------------------
地学には数学と連携できる良いテーマがたくさんある.教科の連携は,人間生活に足場のある身に着く知識の拡大ができる.講演録筆者は,地学の教員だったことがあり,宮沢賢治の「楢の木大学士の野宿」を用いて国語科と連携したことが思い出される.以下参照ください:

https://note.com/sgk2005/n/n338b0eb931c7

https://note.com/sgk2005/n/nb2119af34295

https://note.com/sgk2005/n/n9b5f80f6d49e

https://note.com/sgk2005/n/nfc51cfc49514
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■ 数学博物館の展示物のいくつかをお持ちいただいたが,触れる時間が十分にとれずに残念だった.これらは,動画の最後の部分をご覧ください.

No.520:2024数学月間(1)-2「数学者ゆかりの地を訪ねて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数学月間(第1日目)の2番目の講演[2024.7.22,15:20-16:50]は,
「世界の数学者ゆかりの地を訪ねて」仙田章雄(埼玉県立浦和第一女子高等学校)でした.仙田章雄氏は,浦和高校,浦和第一女子高校を通して,37年間,数学通信「気まぐれ」の発行を続けておられます.

講演者は,1987~2019年の32年間のほとんど毎夏休みごとに,世界の数学者ゆかりの地の旅をしています.基本的に一人旅です.本日の講演では,(1)ピタゴラス(ギリシャ,イタリア),(2)プラフマグプタ(インド),(3)オイラー他(ヨーロッパ)の旅が紹介されました.用いたスライドは140枚にもなります.

ところで,この講演を聴講した筆者は,講演録を書く段になって,思わぬ困難に直面することになりました.これらの地は,忘れ去られた辺鄙な地,廃墟のような地であったりします.これらのターゲットは,必ずしも,風光明媚な観光地と言うわけではなく,数学に興味を持つ者のみが関心をもつ地であります.
一般の人に,「ピタゴラスの洞窟」と言っても,「何だそれは」となります.「ブラフマグプタのウッジャイン天文台」と言っても,「何だそれは」.「オイラーの散歩とケーニヒスブルクの橋」と言っても「何だそれは」です.
講演を聴く側に数学的背景知識がなければ,これらの価値はわからない.
従って,講演録の筆者は,それらの背景をある程度説明せねばなりませんが最小限に留めました.できるだけ本質的な記述をしようとすると,それらの底にある数学史の大きな流れに言及せざるを得ず,講演録筆者の独断で,最後にイスラム(アラビア)の数学の役割を付け加えました.

(1)ピタゴラス
1990年(第1回)ギリシャ,2011年(第2回)ギリシャ,2019年(第3回)イタリアの3回の旅行があります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

①第1回目は,アテネ→イスタンブール→イズミール→クシャダスから30人乗りほどの小さい船でサモス島に向かいました.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピタゴラスの洞窟は,サモス島のカルロバシにあります.ピタゴラス(紀元前582年 - 紀元前496年)は国王から迫害されていましたので,学園の弟子たちと洞窟に隠れて生活していたこともあったでしょう.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ②第2回目は,アテネ→ミコノスからフェリーでサモス島に向かいました.
デロス島(無人島)にはミコノスから船で日帰りします.
デロス島には倍積問題で有名な「デロスの祭壇」があります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デロス島にはミコノス島から日帰りします.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピタゴリオンは,ピタゴラスの他に,アリスタルコス,イソップのゆかりの地でもあります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ③第3回目は,イタリアです.ナポリ→ターラント→クロトン.
ターラント城は海軍の施設(見学もできます).ピタゴラス通り旧市街は廃墟感が溢れています.クロトンには充実したピタゴラス博物館があります.ピタゴラス学園を見るにはタクシーに乗らないと行けません.

(2)ブラフマグプタ
ブラフマグプタ(598~665年)は,円に内接する四辺形の面積で,三角形でのヘロンの公式の一般化を発見しました.また,2次方程式の解の公式を初めて発見しました.
ムンバイ駅から寝台列車でウッジャインに向かいます.ウッジャインには野良牛がたくさんいます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラフマグプタはウッジャインの天文台長を務めました.


(3)リーマン,ガウス,ラマヌジャン,ハミルトン,アーベル,ガロア,オイラー

リーマン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガウス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲッチンゲンにあるガウスの記念碑の台座の後ろにある図形が「正17角形」との記述が色々な文献で見られるが,「正17角形」ではなかった.どの文献にどのように記述されているかを,講演後に仙田氏が調査した.それらは,講演資料に追加し公開してある.

(講演録筆者注)ーーーーー
このような図形は星形正17角形と呼ぶ.星型の頂点で辺の方向は,$${16\pi/17}$$だけ向きを変え,閉じた星型図形ができたときには,辺は16回回転している.我々は,そのような星型を正17/16角形と呼んでいる.正17角形の場合は,頂点で辺は$${2\pi/17}$$だけ方向を変え,17の頂点で回り終わり閉じた図形ができると辺の向きは1回転($${2\pi}$$)する.従って,正17/1=17角形と記述できる.
ーーーーーーーーーーーーー

 

ラマヌジャン


インドのクンバコナムにある
 

ハミルトン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
アーベル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
ガロワ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オイラー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケーニヒスベルク(ロシアの飛び地で,現在はカリーニングラード)にある7つの橋を全て1度ずつ通って戻ってくるルートが存在するかという一筆書きの問題で知られる.現在は工事され6つの橋になってしまった.

■補足:数学史の流れ(講演録筆者より)

古代エジプトやギリシャに始まった数学や科学は,8世紀には繁栄を極めたイスラム帝国の都バクダッドに集まっていきます.インドの数学も同様です.バクダッドはあらゆる文化の集積地,坩堝であり,数学や科学も大きな発展をしました.その時代のヨーロッパはキリスト教の中世暗黒時代であり,ルネッサンスの夜明けを待つてイスラムからの学芸が流れ込む前夜でありました.アラビアでは,エジプトやインドから伝えられたゼロの概念を取り入れて,アラビア数字や10進法が確立しました.イスラムの数学は,代数学や三角関数などの実際的な発展に特徴があります.講演録の筆者は,これらの遺跡を探す旅を想像します.しかし残念なことに,イラク戦争が起こり,かつて平和の都として栄えたバクダッドで何の痕跡も見いだせないような気がしています.
8世紀に成立したアッバース朝では,カリフや宮廷のワズィールたちが保護をうけ,第7代カリフ,マアムーンが創設した研究施設バイト・アル=ヒクマ(智恵の館)には多くの科学者が集まり,ギリシャ科学のアラビア語への翻訳が進めらました.マアムーンに仕えた科学者・数学者のひとりが,
フワーリズミー(780頃~850頃)でした.
科学では,古代エジプトに起源を持つ錬金術の実験が繰り返され,元素記号が生まれ,文学では,アラビアン=ナイトが生まれ,唐で発明された製紙法もキルギスの戦いの際に伝わりました.
バクダッドには100軒を越す書店があったそうです.
百花繚乱.当時のバグダッドのにぎわいと言ったらすごい.見たかったですね.イブン・シーナは最先端医学の医学典範を著し,世界初の総合病院がバクダッドに作られました.
病院は寄進され,その運営費も,周辺の市場の売り上げ寄付で行うワクフという相互扶助の制度が,公共施設を支えたそうです.
円城都市を中心に,モスク3万,多くの市場と市場には100店を超す店があったそうです.500年間繁栄したイスラム帝国は,1万2千のモンゴル軍により滅亡しました.チグリス川は血で染まり,本のインクで青く染まったそうです.
アラビア語に訳されたアリストテレスなどギリシャの古典や発展したイスラムの科学は,その後ヨーロッパに伝わりラテン語に翻訳されルネッサンスが花開きます.

「イスラムの数学と都市の発展」につては,以下の記事をご覧ください.

https://note.com/sgk2005/n/nbf7f7d38d7f8

 


 

No.519:2024数学月間(1)-1「差分法」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数学月間(第1日目)の講演の1つ[2024.7.22,13:40-15:10]は,「差分法を通じて眺める連続と離散」齊藤宣一(東大数理科学研究科)でした.

人類最初の微分方程式は,I. Newton(1642-1727)による惑星運動の方程式でした.その後,流体力学,固体力学,電磁気学などで,現実現象を記述する微分方程式が,次々に発見されました.熱伝導方程式,波動方程式,Navier-Stokes方程式などです.しかし,それらを解くことは簡単ではなかった.近代的なコンピュータの発明により,実際に,これらの微分方程式を解くことができるようになり,これが私たちの生活を豊かにしています.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■熱方程式(熱伝導方程式)

針金の温度: $${u(x,t)  (0\leq x\leq 1, t\geq 0 )}$$$${\displaystyle \frac{ \partial u}{ \partial t}=\displaystyle \frac{ \partial ^{2}u}{ \partial x^{2 } } }$$境界条件: $${u(x,t)=0  (x=0,1)}$$

この方程式はFourierの方法で,以下の解析解が得られることが分っている.$${u(x,t)=\displaystyle \sum_{n=1}^{ \infty }2\left( \displaystyle \int_{0}^{1}u(x,0)\textrm{sin}(n\pi y)dy \right) e^{-k(n\pi )^{2}t}\textrm{sin}(n\pi x)}$$

差分法による解法

●差分商-----------------------------------------------------------------------------
$${\displaystyle \frac{df}{dx}(a)=\displaystyle \frac{f(a+h)-f(a)}{h}, \displaystyle \frac{f(a)-f(a-h)}{h } }$$

$${\displaystyle \frac{df}{dx}(a)=\displaystyle \frac{f(a+\displaystyle \frac{h}{2})-f(a-\displaystyle \frac{h}{2})}{h } }$$

$${\displaystyle \frac{d^{2}f}{dx^{2 } }(a)=\displaystyle \frac{1}{h}\left( \displaystyle \frac{f(a+h)-f(a)}{h}-\displaystyle \frac{f(a)-f(a-h)}{h} \right) =\displaystyle \frac{f(a-h)-2f(a)+f(a+h)}{h^{2 } } }$$
------------------------------------------------------------------------------------

$${U_{i}^{n}=u(i \Delta x, n \Delta t)}$$を用い,連続である熱方程式を差分方程式に直すと, 

$${\displaystyle \frac{U_{i}^{n+1}-U_{i}^{n } }{ \Delta t}=\displaystyle \frac{U_{i-1}^{n}-2U_{i}^{n}+U_{i+1}^{n } }{ \Delta x^{2 } } }$$

$${\lambda =\displaystyle \frac{ \Delta t}{ \Delta x^{2 } } }$$と置くと,

$${U_{i}^{n+1}=(1-2\lambda )U_{i}^{n}+\lambda (U_{i-1}^{n}+U_{i+1}^{n})}$$ が得られる.

 

 

 

 

 

 

 

実際,計算してみると $${\lambda \le \displaystyle \frac{1}{2} \Leftrightarrow \Delta t \le \displaystyle \frac{1}{2} \Delta x^{2 } }$$ が必要であることが分る.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

$${\lambda\leq 1/2}$$は,時間に関する差分解の安定性を保証している.

[証明]$${|u_{i}^{n+1}| \le (1-2\lambda )|u_{i}^{n}|+\lambda (|u_{i-1}^{n}|+|u_{i+1}^{n}|),   (1 \le i \le N)}$$であるから, $${\displaystyle \max_{1\leq i \leq N}|u_{i}^{n+1}|\leq \max_{1\leq i \leq N}|u_{i}^{n}|}$$,従って,$${\displaystyle \max_{1\leq i \leq N}|u_{i}^{n}|\leq \max_{1\leq i \leq N}|u_{i}^{0}|}$$が成立する.

精密な解を得るには,$${\Delta x \longrightarrow 0, \Delta t \longrightarrow 0}$$とするのだが,$${\lambda \le \displaystyle \frac{1}{2} \Longleftrightarrow \Delta t \le \displaystyle \frac{1}{2} \Delta x^{2 } }$$の条件は,空間刻み幅に対して時間刻み幅を十分に小さくしなければならないことを意味する.$${ \Delta t=\alpha \Delta x^{2 } }$$に従って細分化すると,結果は正しい解に収束するが,$${ \Delta t=\beta \Delta x}$$に従って細分化すると,発散(実害はない)することも,別の解に収束(誤りに気付かない)することあり,数学理論を踏まえての計算が必要な所以である.

■三角形分割を限りなく細かくすることで,曲面の面積を求めることは出来るだろうか.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●円柱の側面積を求める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュワルツの提灯

●『解析学序説』下巻;一松信(1964)p.119 より引用----------------

この立体を仮にシュワルツの提灯とよぼう.・・・$${m=n→∞}$$にすれば,期待の値$${2\pi rh}$$に収束するが,$${m=n^2→∞}$$とすると,$${2\pi r \sqrt{h^2+r^2\pi^4 } }$$という妙な値になり,さらに$${m=n^3→∞}$$とすると$${∞}$$になってしまう.よく考えてみればこれは当然かもしれない.$${n}$$に比べて$${m}$$をものすごく多くすれば,小三角形は激しく波うち,見掛け上狭い範囲に,おびただしい面積をもつ面がおりたたまれていることになる(提灯という名前はこれからつけた).
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ラーデマッヘル(H. Rademacher)の条件 (1919, 1920)

適当な正の数αに対して,分割に現れる三角形の角度が,すべて,α以上となるように,分割を細かくすれば良い.これは,分割を細かくする過程において,三角形がつぶれないことを要請している.

ヤング(Young)の条件 (1921)

適当な正の数 β に対して,分割に現れる三角形の角度が,すべて,β以下となるように,分割を細かくすれば良い.$${\pi/3\leq \beta \leq\pi}$$最大角が π に近づかないことを要請しているので,結果的に,三角形がつぶれないことを要請している.

どのように三角形分割をすれば良いかについて上記2つの条件が知られている.

■有限要素法について

・計算対象を,三角形・四面体に分割し,各四面体上で,近似方程式をたてて,それを統合し,近似解(数値解)を得る.• 普通,連立一次方程式を解くことに帰着される.未知数の数は,$${10^{10 } }$$程度になることも.• 有限要素法で,正しい解が得られるかどうかを研究するのは,数学の一つの役割である.• 問題が,平面問題なら,計算対象を三角形分割する問題がでてくる.

 

No.518 2024数学月間(第20回)報告

ピタゴラス数 会場風景

 

 

  動画

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■2024年の数学月間懇話会は、第1日目(7月22日)、第2日目(7月27日)、第3日目(8月5日)の3日間実施しました。何れの日も炎暑でしたが、ご参加いただ方々に御礼申し上げます。3日間の述べ参加人数は84人:第1日(28人;リモート率46%)、第2日(21人;リモート率100%)、第3日(35人;リモート率43%)でした。同一人の複数日参加を1回とカウントすれば43人の参加者がおり、その内分けには、学生生徒3人、非会員10人が含まれます。3日間全部出席された熱心な参加者は10人おられます。

講演内容についての詳細は、ここでは述べませんが、以下のサイトに
みんなの広場 - 数学月間の会 
講演資料へのリンクがあり、ダウンロードができます。

また、講演の録画はYouTubeに限定公開しており、そこへのリンクは以下に
YouTube4 - 数学月間の会 
あります。

数学月間第3日(8月5日)

数学月間第3日目は、以下のように集会で行いますが、遠方の方のためにリモートも併用します。
日時●8月5日(月)13:30-17:00(開場13:00)場所●東大(駒場)数理科学研究科棟002教室
主催●NPO法人数学月間の会(理事長:岡本和夫)
参加費●1,000円(数学月間期間中有効)ただし,当会会員および学生は無料
●事前の参加登録が必要です。https://sgk2005.org/で登録できます。
多くの方々のご参加お待ちしています。

13:40ー15:10
●「算数・数学と生活や社会のつながりを実感 体験できる授業と、 Do MATH 同志社中学校数学博物館」園田毅(同志社中学校)
15:20ー16:50
●「古代の数学エジプト紐と現代のピタゴラス三角形3分木」亀井喜久男(愛知県立大)

■13:30ー13:40は数学月間の会の紹介です.
社会と数学の架け橋=数学月間(7/22ー8/22)は,片瀬豊さんの提案で2005年に創設されました.毎年7/22に「数学月間懇話会」を開催して来て,2024年で第20回になります.社会で使われている数学を紹介することで数学の働きを身近に再認識できます.
今回の懇話会には,日本の数学月間発足までの状況をご存じの竹内さんが参加されますので,数学月間の発足までのエピソードを紹介しましょう:
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片瀬さんが「小林昭七さんが久しぶりに帰つて来る. 集ま らないか」と竹内さんを電話で誘つたのは,2004年春のまだ寒い時節だった.神田の鮨屋(片瀬さんの俳句仲間)に集まったのは,片瀬豊,小林昭七,山崎圭次郎,竹内淳実の4名.この場で,小林さんより「数学月 間」MAM(Maths Awareness Month)の話が出たという (竹内の証言).

米国のМАМは,毎年4⽉ (1998 年までは週問) に実施される.上院の共同決議(1986年4 ⽉14~20日を数学週間 とする)に基づくレ一ガン大統領宣言でスタートした.レーガン宣言は格調高く,
「およそ 5 千年前に始まった数学的叡智は進歩を遂げ,今日の社会を支えている」と述べ,すぺてのアメリカ人に対し,数学と数学的教育の重要性を実証する国家的行事への参加を要請している.
米国が国家的行事の МАМ を決断した背景には,国民の数学力の低下で,産業力も低下するとの焦りがあったといわれる (小林昭七 『顔をなくした数学者』)・

1950年代の日本は,Dr. Deming の品質管理手法を,TQC や QC サーク ルに発展させ,生産性向上を達成 していた.1980 年に NBC放送は If Japan Can, Why Can't We? と呼びかけ,Dr. Deming のセ ミ ナ一が展開されたが,さら にこれを数学全般の啓蒙 MAM へと発展させたのは米国の叡智であった(竹内の証言).
日本の数学月間の期問を π と e に因み 7/22 と8/22 と発案したのは' 山山奇圭次郎とのことだ(片瀬の証言).
後年のことだが,筆者もこの鮨屋で,片瀬さん,小林さんと同席し,小林さんからバークレーの地域数学サークルの話を伺った.

米国 MAM では,数学系学協会が参加するJPBM (Joint Policy Board for Maths) が,毎年,社会を反映した数学テ一マを選定し,4月に種々の数学イペン卜が展開される.国民からの事後評価も受ける.時局の数学を, 種々のレベルで学習できるウエブ・サイ 卜が充実し, そこにエツセイや論文が集積され,数学を基礎から最先端まで,学生が独習できる優れたガイ ドになる.

片瀬さんは,日本版JPBMが国家的行事として数学月問を展開すべきだと考えていた.「数学月間」活動は,数学同好者の内部にとどまらず,数学が係わるあらゆる分野を横断し,一般市民に働きかけねばならない.数学(論理)が社会を支えている事例に足場を置き,数学への共感を獲得するのが目的である.
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(引用)https://sgk2005.org/cabinets/cabinet_files/download/42/449b3491eba0acf0716357af77478c23?frame_id=57

No.517 数学月間(第1日と第2日)

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数学月間SGK通信 [2024.07.30] No.517
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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毎年7月22日に始まる数学月間は,第1日目(7月22日),第2日目(7月27日)が終了しました.何しろ最も暑い時期です.今年は特に暑いので,会場に集まるのが大変,事務局としてはさらに大変です.第1日目(7月22日)と第3日目(8月5日)は集会(集会でもリモートは併用)にしましたが,中間の第2日目(7月27日)をリモートのみにしたのは正解でした.そうでなければとても体力が持ちません.

第1日目,第2日目は,既に終了しました.これらの講演の内容については公開していますので,https://sgk2005.org でご覧ください.また,8月5日に実施される第3日のプログラムも上記ウエブサイトにあるので,ご覧ください.多くの方々のご参加をお待ちしています.

ここでは,それぞれの回の始めに「数学月間の紹介」で話したことを書こうと思います:
■第1日目(7月22日)はとても暑い日であったし,新幹線の不通の影響で,来られなくなった方もおりましたので,2013年7月22日(第9回数学月間懇話会)のエピソードを思い出しました:
2013年7月22日(第9回)は、米沢から高校生の集団がバスで上京することになっていました。バスの駐車場は裏門ですので、会場の教室と正門の守衛さんと裏門とが作る3角形を、私は何度往復したことか。この距離は構内を端から端まで横断する距離です。ラグビー場やテニスコートの間を抜けて歩いていると、正午の太陽が頭上にあり頭がくらくらしました。
米沢からのバスは大幅に遅れたので、高校生たちも大変でした。弁当を食べる時間もなく、トイレのある建物に到達するのも大変で、本当に気の毒でした。講演会の始まる前に博物館など見学できるかと考えていたのですが、そのような余裕は全くありませんでした。
今年2024年の数学月間懇話会は第20回です。何故今年で第20回になるかというと、数学月間の会の発足は2005年、数学月間懇話会(毎年7月22日に実施)の第1回は、2006年7月22日にシーボニアにて行われ、続いてすぐに、第2回が同年8月6日に衆議院第二議員会館にて実施されたからです。これは片瀬さんの友人の小野晋也議員の尽力によるもので、小野晋也議員は、2008年次期総選挙に出馬しないと表明し引退されましたが、「財政再建と数学」に取り組もうとした真摯な方でした。片瀬さんの念頭には品質管理手法がありました。
注:小野晋也氏は、愛媛県新居浜市出身、東京大学工学部航空学科卒業。
「山田方谷の思想」の著書があります。
2008年(第4回)以降は、7月22日の数学月間懇話会の会場は、東大(駒場)数理科学研究科棟002教室になり、今年の第20回に至ります。

■第2日目(7月27日)はリモートのみで実施しました.
今回の講演者、河野先生と関係のある「数学月間懇話会」第4回2008年の話をしました。第4回2008年7月22日は、この年以降の数学月間懇話会の会場が、東京大学数理科学研究科棟002教室に固定された記念すべき年でもあります。この年の懇話会の3つの講演の一つは、「秘宝−数学的オブジェの照明」、岡本和夫・河野俊丈でした。翌年、第5回2009年7月22日の4つの講演の一つに河野先生の「宇宙のかたち」もあります。河野先生は、秋の企画講演2021年10月2日でも「重力レンズと特異点理論」の講演をされました。
これらのプレゼン資料や記録は https://sgk2005.org で見ることができます。

「秘宝ー数学的オブジェの照明」は、片瀬豊さんと第4回数学月間懇話会(2008年7月22日)にかかわりがあります。第4回数学月間懇話会では、片瀬豊さんらによるLEDランプによる幾何模型の照明が披露されました(片瀬豊さんは、東芝ライテックのOBです)。
幾何模型の写真は https://note.com/sgk2005/n/nf20da395dfa6 でご覧ください。
Fig
負の定曲率局面、高次元多胞体:乙部融朗(円通寺住職)などの写真があります。
幾何学模型は、1870年クンマーにより始まり、クライン、ブリムらを中心に、Martin Sshilling社で製作(1880-1932)されたと言います。
東大の幾何模型は、中川銓吉(東大)が1910年ごろドイツから輸入したものです。
2005-2006年に、杉森博司、ヤマダ精機制作の精密加工された模型・写真の展示が森美術館などで開催されたそうです。

(引用)数学月間懇話会(第4回)2008.7.22プレゼン.pdf

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☆NPO法人数学月間の会(SGK)=数学と社会の架け橋
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No.516 今年の数学月間イベントのお知らせ

◆2024年度数学月間懇話会(第20回)
数学と社会の架け橋=数学月間(7/22-8/22)期間中のイベントです.
(遠方の参加者のためにリモートwebexも併用します)
日時●7月22日(月)13:30-17:00(開場13:00)場所●東大(駒場)数理科学研究科棟002教室
●「差分法を通じて眺める連続と離散」齊藤宣一(東大数理科学研究科)
● 「世界の数学者ゆかりの地を訪ねて」仙田章雄(埼玉県立浦和第一女子高等学校)

日時●7月27日(土)14:00-16:00 リモートのみ
●「結晶格子と非周期タイル貼り」河野俊丈(明治大学)

日時●8月5日(月)13:30-17:00(開場13:00)場所●東大(駒場)数理科学研究科棟002教室
●「算数・数学と生活や社会のつながりを実感 体験できる授業と、 Do MATH 同志社中学校数学博物館」
園田毅(同志社中学校)
●「古代の数学エジプト紐と現代のピタゴラス三角形3分木」亀井喜久男(愛知県立大)
参加費●1,000円(数学月間期間中の3回すべてに有効)ただし,当会会員および学生は無料

◆数学月間企画講演会(第14回)
日時●2024年10月12日(土),13:30-16:00(開場13:00)
場所●東京大学駒場キャンパス,数理科学研究科棟002教室
(遠方の参加者のためにリモートwebexも併用します)
講演●統計的学習による知識発見型モデル構築への実践紹介
   == AI電卓のKaggleデータ分析への適用 ==
講師●徐良為;SLW(Statistical Learning Workshop)代表,(株)NTTデータ数理システム非常勤顧問
司会討論●松原望(東京大学名誉教授)
参加費●1,000円 (当会会員および学生は無料)

主催●NPO法人数学月間の会(理事長:岡本和夫)
◆事前の参加登録が必要です。https://sgk2005.org/ で参加登録ができます.
問い合わせ先● sgktani@sgk2005.org


★ 令和6年度入会会員募集中です。
★ 2024年度の年会費2,000円がまだ未納の会員は納入お願いいたします。
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以下は企画中:テーマについてのご希望やご提案を募集しています.
◆数学月間企画講演(第15回)12月予定
◆中野ZERO子供カーニバルに協力●2025年3月予定

Ammann-Beenkerタイリングを用いた有限具現化

式(4)と式(9)が厳密な無限空間上で成立することを考えると,このような準結晶に触発された波動関数が,有限系,例えばトーラスや環の上でも実現できるのか問いたくなる.PTsには根本的な障害がある:図2の矢印は非周期的なマッチングルールを定義している:局所的にペンローズタイリングに似ている,つまりマッチングルールに従うどのようなタイリングも非周期的でなければならず,それゆえトーラス上では決して実現できない.実際,トーラス上のPTに似た配置は,少なくとも2つの「欠陥」を含んでいなければならない[27].

6.discussion

本論文は,準周期タイリング(PT,ABタイリング,フィボナッチ準結晶を含む)の魅力的な特性を活用し,新しいQECCを構築する.PTの配置を量子的に重ね合わせることで,どのような有限領域Kにおいてもエラー訂正ができるQECCを構築する.私たちの構築は,準周期タイリングの一般的な性質(局所的な識別不可能性と回復可能性)に基づくものであり,他のこのようなタイリングに対しても適用できる.
フィボナッチ準結晶を用いて,このQECCの離散版を構成し,それはスピン鎖上で具現化できる.
ABタイリングを用いて,同様のQECCコードが有限の空間的広がりを持つ系(トーラス上)でどのように実現できるかを示した.有名な トーリックコード[12]との類推は有益である.

トーリックコードの波動関数は,トーラス上のループ配置の重ね合わせとして書くことができる.
これらのループとトーラスの2つの非自明なサイクルの交点の数のパリティに基づいて,ループ構成は4つのトポロジー的に異なるクラスに分類され,4次元のコード空間を持つQECCが得られる.我々の波動関数式(4)はトーリックコード波動関数と多くの性質を共有している.どちらの波動関数も幾何学的なパターンの重ね合わせであり,論理的な情報はパターンの全域的な振る舞いに符号化される.両者とも,幾何学的パターンのレベルで,局所的な識別不可能性と回復可能性という概念を持っている.

さらに,両者とも,有限深さの幾何学的局所ユニタリー回路では,波動関数を作れないという意味で,長距離エンタングルである[33].

一方、トーリックコードは、消去された領域が非連続的で、トーラスのサイズに匹敵するものであっても(トポロジー的に非自明なループを含まない限り)消去を訂正することができるが、第V節の有限サイズのトーリック構成とその証明は、エラーが単一の連続した領域(そのサイズはシステムサイズに線形に比例する)に含まれるという事実に依存している.もう一つの違いは、我々のコード空間を任意の局所ハミルトニアンの基底状態の空間として実現できないことだ.このことを理解するために、式(4)において、配置依存の位相因子を挿入し、次のように定義できることに注意する.

$${|\tilde{Ψ}_{[T]}⟩ = \int dge^{iθ(gT)}|gT⟩}$$ .               (11)

同様の計算により、$${|\tilde{Ψ}_{[T]}⟩}$$は任意の有限領域Kに対して$${|Ψ_{[T]}⟩}$$と同じ還元密度行列ρKを持つ。したがって、任意の局所ハミルトニアンは$${|Ψ_{[T]}⟩}$$と$${|\tilde{Ψ}_{[T]}⟩}$$で同じエネルギーを持たなければならない.

追加の基底ベクトルとして$${\{|\tilde{Ψ}_{[T]}⟩\} }$$を含めることによってコード空間Cを拡大しようとするかもしれぬが、これはうまくいかない.なぜなら$${|Ψ_{[T]}⟩}$$と$${\tilde{Ψ}_{[T]}⟩}$$の重ね合わせはもはや同じ還元密度行列$${\rho K}$$を持たないからだ.

この点で,式(4)の構成は,並進不変性を課すゲージ制約下でのマッチングルールの基底状態と考えた方がよいかもしれない.このようなQECCを研究室で作成し,誤り訂正アルゴリズムを実装し,符号化,復号化,論理演算を行うにはどうすればよいかという問題を再検討することは興味深い.
最後に,ここで議論したPT QECCは,量子重力に関する何か,そしてその時空に関連する(あるいは符号化される)時空の下に横たわる量子重力の微小状態に関する何かを捉えている可能性があることを示唆するいくつかのヒントを挙げる.
(i)第一に,双曲空間における量子重力のホログラフィックな描像[15]は,それ自体が一種の量子誤り訂正符号[16]であり,さらに,双曲空間を元の等長変換群の大きな離散部分群を保存するタイリング上で離散化すると[17],このタイリングは自然にペンローズ的な(あるいはフィボナッチ的な)非周期的なタイリングのスタックに分解する[34]。

(ii)第二に、上で強調したように、状態|T⟩と|gT⟩は絶対参照枠が存在する場合にのみ区別可能である。

 しかし、アインシュタインの重力理論の根底にある中心的な考え方のひとつは、一般共分散原理である。
一般共変の原理であり、物理学的には、そのような絶対的な参照枠は存在しないと主張する(そして数学的には、微分同型不変性が自然法則の厳密なゲージ対称性であると主張する)。言い換えれば、「ペンローズのタイリングの微視的状態」が空間のどこに位置するかを問う場合、微分同型不変性を尊重するためには 差分同型不変性を尊重するためには、答えは次のようになる。という答えにならざるを得ない。つまり、式(4)のコード状態のいずれかに正確に位置する!(iii)。第三に、このように微小状態を重ね合わせる方法に関する本質的な位相の曖昧さ、すなわち、不等価な基底{|Ψ[T]↪Pe_27E9} vs {|Ψ〜[T]⟩}を定義する自由は、より大きなヒルベルト空間Hにコード空間Cを埋め込む無限の異なる不等価な方法に対応します。
コード空間Cをより大きなヒルベルト空間Hに埋め込むことは、時空間において「ゼロ粒子状態」をどのように定義するかについて(これも微分同型不変性による)本質的な曖昧さがあるという事実を反映しているようだ。

5.Ammann-Beenkerタイリングを用いた有限具現化

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

式(4)と式(9)が厳密な無限空間上で成立することを考えると,このような準結晶に触発された波動関数が,有限系,例えばトーラスや環の上でも実現できるのか問いたくなる.PTsには根本的な障害がある:図2の矢印は非周期的なマッチングルールを定義している:局所的にペンローズタイリングに似ている,つまりマッチングルールに従うどのようなタイリングも非周期的でなければならず,それゆえトーラス上では決して実現できない.実際,トーラス上のPTに似た配置は,少なくとも2つの「欠陥」を含んでいなければならない[27].

幸運なことに,この障害を回避できるタイリングがいくつかある.その一例が Ammann-Beenker(AB)タイリング [3, 18-20]である.ABタイリングは,図5に示すインフレーションルールで定義される.
ABタイリングはPTと多くの類似した性質を共有している.例えば,非周期で、周期的結晶では禁じられている一種の準回転対称性( ABタイリングの場合は8回,PTタイリングの場合は10回)を持つ.各タイルにはアンマン棒[28, 29]が付いており,これらはまっすぐな切れ目のないアンマン線に結合しなければならない.

しかし,PTとは異なり,ABタイリングには非周期的なマッチング規則 [30]がない.ABタイリングの許容される局所的なパターン(どんなに大きくても)の有限集合が与えられても,$${R^2}$$には周期近似[31, 32]で知られる周期的なタイリングが存在する.このような周期的なABタイリング は正真正銘のABティリングではなく,(それを定義するインフレーション/デフレーション規則によって)非周期的でなければならない.示
とはいえ,これらの周期的なAB様のタイリング(任意に選んだスケールで,局所的には本物のABタイリングと識別できないように構成できる)を利用して,式(4)と同様の方法で量子エラー訂正波動関数を構成することができる.
まず,図6(a)に示すように、トーラスの4つの「初期」タイリング$${A_{i}^{(0)} (i = 1, 2, 3, 4)}$$を定義する.タイリングは,トーラス上で切れ目のないまっすぐなAmmannバーを形成し,異なる方位の正方形が等しい頻度で現れるように設計されている.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に,それらをABインフレーションルールをn回繰り返し適用し,4つのタイリング$${A_{i}^{(n) } }$$を得る.図6(b)に$${A_{i}^{(2) } }$$を図示する.簡単のために,各基本タイルのサイズを固定(各辺を1)すると,$${A_{i}^{(n) } }$$のサイズはnとともに指数関数で増加する.

興味深いことに,n≧2の$${A_{i}^{(n) } }$$は,トーラスのタイリングであり,局所的に本物のABタイリングに似ており,局所的に互いに区別できない.正確に言えば:

●半径$$ r_n=\Theta((1+\sqrt{2})^n) $$($${A_{i}^{(n) } }$$の線分サイズに比例)の内部にあるどのようなパターン$${A_{i}^{(n) } }$$も任意の本物のABタイリングに現れる.逆も成立.
●$${A_i^{(n) } }$$の中に半径$${r_n}$$のパターンの出現数はパターン自体にのみ依存し,iに依存しない.
証明は付録Dにある.

さて,以下の波動関数を構成することができる.

$${|Ψ_{i}^{(n)}⟩ ∝ \int dg|gA_{i}^{(n)}⟩}$$       (10)

ここで、トーラスの並進群上のgだけを積分します(回転も含めると、A3とA4
は等価になるからである)。
これらの波動関数$${|Ψ_{i}^{(n)}⟩}$$は、任意の半径rn
ディスクにまたがる。PT QECCの構成と同様に、これを検証するためには、ティリングが必要な局所的な
区別可能性と回復可能性の特性を持つことを確認すればよい。前者の性質は今説明した通りである。
後者はAmmann線から導かれる。
付録Eでは、第IV節と第V節のアイデアを組み合わせて、QECCを構成する。Vのアイデアを組み合わせて、有限かつ離散的なQECCを構築する。

 

4.フィボナッチ準結晶を用いた離散具現化

これまでは連続体の自由度であったがこれは本質的なことではない.同様なQECCsを離散システム(スピン鎖)上で構築する.2DのPTsと同様な1Dの"フィボナッチ準結晶"を用いる.

 

 

 

 

 

Fig.4.

 

■ 1次元フィボナッチ準結晶

長さL(長い)とS(短い)の2種類の区間で構成されるテッセレーションRを考える.
長さの比L/Sは黄金比: L/S =(√5+1)/2

このタイリングのインフレーションルールは (L,S)→(LS,L)    (7)
図4(b) 参照

●隣接するSSやLLLなどは生じない.
[訳注1)証明]

Sが生れる原因はL(L→LS)にあるが,Sが生れるときはLSの形でLとSが同時にペアで生れる.従って,Sの間に必ずLが挟まれ,SSの型は生じない.

LLの型はあり得るが,これを生じる原因はSL(SL→LLS)のみである.LLLSを得るにはその原因がSSLである必要があるが,SSとなることはあり得ないので,結局,LLLの型は生じない.

●PenroseタイリングとFibonacci準結晶は密接な関係がある:PTのAmmann線は,5つの平行な部分集合(それぞれは正5角形の辺に平行)に分けられ,これらの平行部分集合のそれぞれは,1DのFibonacci準結晶を作る.
[訳注2)]Lの個数/Sの個数=黄金比1.618・・・・(n→∞)を証明せよ:

結局,$${\begin{pmatrix} 1 & 1\\ 1 & 0\\ \end{pmatrix}^{n}=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12}\\ a_{21} & a_{22}\\ \end{pmatrix} }$$ を計算することになるが,行列の各項$${a_{11}(n), a_{12}(n), a_{21}(n), a_{22}(n)}$$は,フィボナッチ数列になり,$${a_{11 } }$$に対して,$${a_{12 } }$$および$${a_{21 } }$$は1項遅れ,$${a_{22 } }$$は2項遅れである.今必要なLの数/Sの数の比は,$${a_{11}/a_{21 } }$$であり,この比は$${n→\infty}$$で黄金比1.618・・・である.

■記号置換による離散QECC

フィボナッチ準結晶の構造は,ある種の離散系にも現れる.正確には,Fibonacci準結晶を,Lを数字の1,Sを数字の0に置き換えることで,辺の無限ビット列として表すことができる.インフ
レーション・ルールは次のようになる:

(1, 0) → (10, 1)        (8)

離散システムにおけるインフレーション・ルールは通常,記号的置換と呼ばれる.
ビット列のレベルでは,我々のQECCの構造を可能にする重要な性質がまだある.
全域的に不等価な(すなわち,変換によって関連づけられない)局所的には識別できない回復可能なビット列$${\{F\} }$$はまだ無限に存在する:


Fの任意の有限部分文字列は,他の任意の文字列F′にも現れ、異なる有限部分文字列の相対頻度も一致する.(付録C参照);
有限領域$${K}$$内のFの任意の有限部分文字列は,Fの残りから復元できる.Fの任意の有限部分文字列(有限領域$${K}$$内)は,Fが特異な場合を除き,Fの残部(補空間領域$${K^c}$$内)から復元できる.(付録B 3参照).


したがって,これらのビット列を利用して,式(4)に類似した離散多体波動関数を構成することができる.これらの波動関数は,同じQECCに対する基底をなす.式(4)に従い,ビット文字列$${[F]}$$の各同値類に対して次のような波動関数が作れる:

$${ |Ψ_{[F]}⟩ ∝ \Sigma_{x=-\infty}^{\infty} |x+F⟩ }$$        (9)

ここで,$${x+F}$$は$${F}$$の$${x}$$だけの並進である.

これは 整数格子上の量子スピン鎖の波動関数と考えることができる.これらの量子状態$${\{|Ψ_{[F]}⟩\} }$$は,QECCのコード部分空間$${C}$$を張る.
付録Fで,これらの符号状態のエンタングルメント・エントロピーを計算する.

 

mit

f_{n m)=\int\it\Psi_{n}^*\hat{f}\Psi_{m}dq=\<n|\hat{f}|m\>

ある閉じた系の波動関数を$${\it{\Psi}(q, x)}$$とする.$${x}$$は考えている部分系の座標,$${q}$$は閉じた系の残りの座標である.系全体の波動関数が$${\it\Psi(q, x)=\it{\Psi}_1(q)\it{\Psi}_2(x)}$$と書けるのは特殊な場合で,一般には,全体系の波動関数は存在するが,部分系の波動関数は存在しない.この部分系$${x}$$が関与する物理量を$${f}$$とする.その演算子$${\hat{f } }$$は$${x}$$だけに作用する.この状態の全体系で観測される物理量$${f}$$の平均値は;
$${\bar{f}=\int \int{ \it{\Psi}^*(q,x)\hat{f} \it{\Psi}(q,x)dqdx}=\int{[\hat{f} \rho(x',x)]_{x'=x}dx } }$$
$${\rho(x', x)=\int{\it{\Psi}^*(q,x')\it{\Psi}(q,x)dq } }$$ は,「系の密度行列」と呼ばれる.物理量の演算子$${\hat{f } }$$は,密度行列の$${x}$$のみに作用するので,$${\rho(x',x)}$$に作用させた演算後の結果で$${x'=x}$$と置くことができ,このように変形ができる.
波動関数(固有関数)を持たない部分系の状態は,このように密度行列を用いて記述できる.密度行列はこの系に関係のない$${q}$$座標を含まないが,閉じた系全体の状態に依存している.波動関数を持つ部分系(純粋状態)に対して,密度行列を用いて記述される状態は混合状態と呼ばれる.[ランダウ&リフシッツ「量子力学」参照]
波動関数$${\it\Psi}$$はヒルベルト空間(無限次元のベクトル空間)の要素(関数あるいはベクトル)である.$${m}$$個の固有関数$${\it\Psi_{i}, (i=1,….,m)}$$の重ね合わせ状態を考える.$${\it\Psi(q)=\Sigma a_{i}\Psi_{i}(q)}$$ 
 $${\bar{f}=\Sigma\Sigma a_{i}^*a_{j}\int\it\Psi_{i}^*\hat{f}\Psi_{j}dq=\Sigma\Sigma a_{i}^*a_{j}f_{i j } }$$
$${f_{i j}=\int\it\Psi_{i}^*\hat{f}\Psi_{j}dq=⟨i| \hat{f} |j⟩}$$
$${f_{i j } }$$は遷移行列, $${|j⟩=\it\Psi_{j } }$$はケットベクトル,$${⟨i|=\it\Psi_{i}^*}$$はブラベクトルと呼ばれる.
ケットベクトル$${|\it\Psi_{i}>}$$が張る空間と,ブラベクトル$${<\it\Psi_{i}|}$$が張る空間は,互いに双対空間である.

物理量$${f}$$の観測値は,規格直交系$${|i⟩=|\psi_{i}⟩}$$であるとき,各固有関数に対する確率を$${p_{i } }$$とすると
$${\bar{f}=\Sigma_{i}p_{i}⟨i| \hat{f} |i⟩}$$
密度演算子$${\rho=\Sigma_{i}|i⟩p_{i}⟨i|}$$を用いると,
$$ \bar{f}=Tr \rho\hat{f}=\Sigma_{i}p_{m}Tr(|i⟩⟨i|\hat{f}) $$

$$ \begin{pmatrix} 1 & 1\\ 1 & 0\\ \end{pmatrix} $$

$${\begin{pmatrix} 1 & 1\\ 1 & 0\\ \end{pmatrix}^{n}\begin{pmatrix} 1\\ 0 \end{pmatrix} }$$

 

No.515 PenroseタイリングはQECC

Zh i Li and Latham Boyle:arXiv:2311.13040v2 [quant-ph] 25 Jan 2024 から抜粋し解説を加えた:

Penroseタイリング(PT)は,平面の非周期タイリングであり,多くの驚くべき性質を持つている.一方,量子誤り訂正コード(QECC)は,量子情報をノイズから保護する巧妙な方法である.PTとQECCとは全く関係がないように思うかもしれないが,この論文は,PTが注目すべき新しいタイプのQECCを生み出すことを指摘する.量子情報を 量子幾何学によって符号化するのだが,有限領域内(局所的)のエラーや消失は,領域がどんなに大きくても検出され修正できる可能性がある.

■ 緒言
Penroseタイリング(PTs) は,1970年代に発見された2次元平面のテッセレーションで,その美しく予想外の性質は,物理学者や数学者を魅了してきた.これらのタイリングは,本質的に非周期でありながら,完全な長距離秩序を持つ.自己相似性を持ち,周期的パターンでは禁止される10回対称性を持つ[訳者注)局所的,あるいは,ベクトル対称的な意味での10回対称]
1980年代に,これが準結晶の青写真であることも判明した.準結晶は,研究室でも,後に,自然界(太陽系の誕生,落雷,最初の原爆実験など)でも,存在が発見された.

量子誤り訂正符号(QECC)は,量子情報を高度な冗長性を用いて符号化する方法であり,ある種のエラーを検出修正し,元の量子情報を復元することができる.このようなコードは,物理学において,深く広範な役割を果たしている:・量子コンピューティン・凝縮系物理学・量子重力などの分野

PTとQECCは全く無関係に見えるかもしれないが,深いつながりがある.
QECC側:量子エラー訂正の基礎となるのは,「回復可能性」(または訂正可能性)と「識別不能性」の間の等価性である:ある空間領域$${K}$$における任意のエラーと消失は,その領域が論理情報を含まない場合に限り訂正可能である;正確に言えば,コード空間の様々な状態が領域$${K}$$において識別不可能である場合にのみ符号化される.(量子情報は局所的領域ではなく,全域的な方法で符号化される)

 

 

 

 

 

 

 


PT側:「回復可能性」と「識別不能性」という類似の概念がある.
「識別不能性」:PTは実際には無限に存在し,それらは 全域的には等価でない(あるPTを平行移動したり回転させたりしても,他の異なるPTと全域的に一致させることはできない).全域的には等価でないが,局所的には識別できない.つまり,どのPTのどの有限パッチ(それが、どんなに大きくても)であっても,他のどの異なるPTにも出現しなければならない(どんなに大きな有限領域を探索しても,どのPTを探索しているのか判断できない).
「回復可能性」:PTの有限領域$${K}$$を消去した場合,その領域がどんなに大きくても,その欠損領域をタイリングの残りの部分(補空間領域$${K^c}$$)の知識から一意に回復できる.
PTの識別不能性と回復可能性の概念は,QECCのそれとよく似ている.ただし,前者は幾何学的配置に関する古典的な性質であり,異なる空間領域に関係するが,後者は符号化された量子状態(重ね合わせ量子状態を含む)に有効な性質であり,同じ空間領域内の異なる量子状態に関係する.

(a) Penroseタイリングを構成する2つの菱形,痩せた菱形(緑)と太った菱形(青). タイル内部に描かれた黒い線分がAmmann線. (b)  Penroseタイリングのインフレーションルール.親菱形がインフレーションを起こすと,いくつかの子菱形の半分が生成される.この子菱形の半分は,隣接する親菱形のインフレーションによって生じる子菱形の半分(薄い色で示す)と組み合わされると親菱形と同じ菱形になる.
■「識別不能性」と「回復可能性」
上図のタイルの縁の矢,または,Ammann線によるマッチング規則は,PTを完全に決定するわけではない:
現実に数えきれない全域的に非等価なPTsが存在する.しかし,これらの非等価なPTは互いに密接に関連している.
数学的には,これらは局所的には識別できないという同じ類に属する:あるPT($${T}$$)に存在する任意の有限パッチは,他の任意のPT($${T^′}$$)にも出現しなければならない.したがって,絶対ユークリッド座標(原点の位置,$${\hat{x } }$$,$${\hat{y } }$$の方位)がなければ,非等価なPTはその「全域的な」振る舞いが異なるだけで,どんなに大きな有限領域を検査してもそれらを識別することはできない.
局所的識別不能性のより強力で定量的なバージョンは:$${T}$$のすべての有限パッチが$${T^′}$$に現れ,その逆も同様に成立するだけでなく,異なる有限パッチの相対的な頻度も同じである.実際,相対頻度はインフレーション・ルールからのみ計算できる.

もう一つの重要な特徴は,局所的な復元可能性である:任意の有限領域$${K}$$のパターンは,補空間領域$${K^c}$$のパターンから一意に復元できる.$${K^c}$$から$${K}$$へとAmmannバーを延長することができるため平面全体のAmmannバーを回復することができ,したがって,PT全体が回復できる.

■ QECCsの原理
保護したい量子情報は,ヒルベルト空間$${H_0}$$内の量子状態であるとする.QECCは,この量子状態を慎重に選択された冗長性とともに保存することで,ある種のエラーを識別し修正することができる.正確に言えば,"裸 "または "論理 "の量子状態のヒルベルト空間$${H_0}$$は,コード空間と呼ばれる慎重に選択された部分空間$${C}$$として拡大されたヒルベルト空間$${H}$$に埋め込まれることによって "符号化 "される.

本論文で扱う訂正可能なエラーは,任意の有限空間領域$${K}$$の消去で,結局,領域$${K}$$の任意のエラーは訂正可能である.
領域$${K}$$の消去が訂正可能であるのは,$${K}$$が論理情報を含まない場合,すなわち,符号空間$${C}$$の様々な状態が,$${K}$$において識別できない場合に限られるというのが基本的な事実[10, 11]である.Eq(1)参照.
空間領域$${K}$$は固定されていないことに注意しよう.空間全体を,それぞれがQECC条件を満たし,情報を含まない,このような多数の$${K}$$の合併に分解することができるから,QECCでは,量子情報は "全域的 "に保存される.

$${H}$$を$${H_{K}⊗H_{K^c } }$$と考えると(ここで,$${H_K}$$と$${H_{K^c } }$$は,領域$${K}$$と,補空間領域$${K^c}$$のヒルベルト空間である).識別不能性は次のようになる:

$${Tr_{K^{c } } |ξ⟩⟨ξ| = Tr_{K^{c } } |ξ^{'}⟩⟨ξ^{'}|}$$                                          (1)
$${^∀|ξ⟩ ,|ξ^′⟩∈C}$$は正規化されている(ここで、$${Tr_{K^c } }$$は$${H_{K^c } }$$のトレース).
空間$${C}$$が状態 $${|ψ_i⟩}$$で張られるとすると,式(1)は次の式と等価である.
$${Tr_{K^c} |ψ_i⟩ ⟨ψ_j| = ⟨ψ_j|ψ_i⟩ ρ_K}$$,    $${^∀i, j}$$     (2)

ここで,$${ρ_K}$$($${H_K}$$の演算子)が$${i,j}$$に依存しないことが重要である.上記の基準では,$${\{|ψ_i⟩\} }$$は正規化されていないか,直交していないか,あるいは過完備である可能性がある.証明は付録Aを参照.
保護される状態 は "基底 "状態$${|ψ_i⟩}$$に限定されないで,任意の重ね合わせ量子状態($${C}$$の任意の状態)でよいことを強調しておく.

このような背景を踏まえて,任意の有限空間領域$${K}$$で任意の消去とエラーを訂正することのできるPT QECCを構築する準備が整った.

■ Constructing the PT QECC
ペンローズ・タイリングの集合$${\bar{T } }$$ を考える.$${T}$$ が$${\bar{T } }$$中の特定のPTを表すとすると,$${gT}$$は,$${T}$$から2次元ユークリッド変換(平行移動、回転)によって得られるPTを表す.
$${[T]=\{gT\} }$$は,"2次元ユークリッド変換で$${T}$$に等価なすべてのPTの類を表す.

タイリング$${T}$$は,量子力学的ヒルベルト空間$${H}$$の状態$${|T ⟩}$$とみなすことができる.
平面$${R^2}$$を任意の空間領域$${K}$$と補空間領域$${K^c}$$に分割すると,タイリング$${T}$$はそれぞれ$${K}$$と$${K^c}$$内の対応する部分$${T_K}$$と$${T_{K^c } }$$に分割される.
これはヒルベルト空間 $${H=H_K⊗H_{K^c} }$$の分解と,それに対応する状態$${|T⟩=|T⟩_{K}|T⟩_{K^{c} } }$$を導く.
ここで,$${|T⟩_K ∈H_K}$$と$${|T ⟩_{K^c}∈H_{K^c } }$$は,それぞれ$${T_K}$$と$${T_{K^c } }$$にのみ依存する.
2つのタイリング$${T}$$と$${T^′}$$が異なる場合(異なるとは,絶対座標系が存在する場合に異なるという意味であり,全体的なユークリッド変換によって異なるだけの2つのタイリングでさえも,一般的には異なる),それらは$${H}$$における直交状態によって表される.
$${⟨T^{′}|T ⟩ = δ(T^{′}, T)}$$                                  (3)
同様に、$${K}$$において$${T}$$と$${T'}$$が異なる場合
($${ T_{K} \ne T^{'}_{K } }$$),$${ |T⟩_K }$$と$${ |T^{′}⟩_K}$$は$${H_K}$$において直交する.
各同値類$${ [T]}$$に対して,波動関数が定義される
$${|Ψ_{[T]}⟩ =\int dg |gT⟩ }$$,        (4)
ここで,すべてのユークリッド変換 $${g}$$ を重ね合わせるので,
$${|Ψ_{[T]}⟩}$$は$${[T]}$$にのみ依存する.図3参照.
この論文の主たる主張は,状態$${ |Ψ_{[T]}⟩}$$は,任意の有限領域$${K}$$でエラーや消去を訂正するQECCのコード空間$${C\subset H}$$の直交基底を形成することである.

 

 

図3 波動関数Eq(4)のイラスト.
(無限)Penroseタイリング$${T}$$が与えられたとし,右辺の各項は$${gT}$$によるユークリッド変換バージョンを表現している.同一タイリングを並進や回転させた変換$${gT}$$'sの中から4つのパッチが描かれている.

 

$${⟨Ψ_{[T]}|Ψ_{[T']}⟩=0}$$,          if $${[T]\ne [T']}$$のとき 
$${Tr_{K^{c } }|Ψ_{[T]}⟩⟨Ψ_{[T′]}|=0}$$,   if $${[T] \ne [T]}$$のとき
                       $${=⟨Ψ_{[T]}|⟨Ψ_{[T]}⟩\rho_{K } }$$,   if $${[T]=[T']}$$のとき (5)

Eq(5)の始めの条件は,幾何学的PTの回復特性から得られる.Eq(4)に注意すると,$${ Tr_{K^{c } }|Ψ_{[T]}⟩ ⟨Ψ_{[T′]}|}$$が消えるのは,2つの古典的配置$${T,T'}$$(異なる類に属する$$ [T]\ne [T ′] $$)が$${K^c}$$上で異なる必要がある.言い換えれば,$${K^c}$$での配置は,それが属する同値類で一意に決定される.これはPTの回復可能性で保障される.

Eq. (5)の2番目の条件を調べるのに,明示的な計算をしよう:

$$ Tr_{K^c} |Ψ_{[T]}⟩ ⟨Ψ_{[T]}| =\int \int dg′dg δ(gT, g′T) |gT⟩_{K}⟨g′T |_{K}=\int dg′′ δ(T, g′′T ) ·\int dg |gT⟩_{K}⟨gT|_{K} .  $$      (6)

ここでも,最初の等式は PT の回復可能性による.$${Tr_{K^c} |gT⟩ ⟨g′T |}$$が非ゼロになるためには,$${gT}$$ と$${g'T}$$ が $${K^c}$$ で一致し,したがって全域で一致する必要があり,デルタ関数が得られる.$${δ(gT, g'T)}$$ は差 $${g'' = g^{−1}g'}$$ にのみ依存するため,2 番目の等式が続く.

因子$$ \int dgδ(gT, T) $$は,次のように$$ ⟨Ψ_{[T]}|Ψ_{[T]}⟩ $$に比例することに注意せよ.
同じ引数であるため,$${ρ_{K,[T]} =\int dg |gT⟩_{K} ⟨gT|_{K } }$$ が実際には$${T}$$に独立であることを示すだけで十分だ.

これはまさに PT の局所的識別不能特性である.実際,$${ρ_{K,[T] } }$$ は,$${K}$$ を回転および平行移動することによって$${T}$$ に現れる可能性のあるすべての局所パターン $${T_K}$$ の古典的な混合物であり,相対頻度によって重み付けされている.

局所的な識別不能性、つまり局所パターン $${T_K}$$ (相対頻度を含む) がすべてのタイリング $${T}$$ で同じであるということは,$${ρ_{K,[T] } }$$ が $${T}$$ に依存しないことを意味する.
要約すると,Penroseタイリングの特性を利用することにより,任意の有限領域内の任意のエラーと消去を訂正できる QECC を構築した.このコードでは、コード空間 $${C}$$ で各基底状態$${|Ψ_{[T]}⟩}$$ が,同値類$${ [T]}$$ 内のすべてのタイリング $${|T⟩}$$ に対する量子重ね合わせで,典型的なコード状態は,そのような基底状態(つまり,異なる同値類$${ [T ], [T'],...}$$)の量子重ね合わせとなる. したがって,量子情報はPenroseタイリングがどのように重ね合わされるかという量子幾何学構造にエンコードされる.

No.514 PenroseタイリングとAmmann線ー非周期タイリング(第2回)

■ PenroseタイリングとAmmann線

 

 

 

左図にはPenroseタイリング(小豆色の線)とAmmann線(青色の直線)が書き込まれている.非周期Penroseタイリングが完成しているこの状態は,Ammann線が5つの方向に走る直線筋(Ammannバーと呼ばれる)になっている.[図は *1)より借用]

 

 

 

Penroseタイリング(小豆色の線)は,太った菱形と痩せた菱形の2種類のタイルで出来ている.Ammann線とは,タイルの表面に描かれた線分(装飾)のことで,これらの線分が繋がり5つの方向に走る直線[青色直線=Ammannバーと呼ばれる]になるようにタイルを組み合わせると,非周期のPenroseタイリングが完成する.アマチュア数学者Robert Ammannが,Penroseタイリングを観察していて発見したものだが,その一般的説明や構成原理はまだ十分に解明されていない.

 

 

 

 

Penroseタイリングで見られるAmmann線.Ammannバーは5つの方向に走る直線.赤矢印で記入した部分周期が見られる.部分周期の長さ比はφ=(1+√5)/2(フラクタル構造に見られる黄金比)[図は*3)より借用]

 

下図に示すようなタイルの表面に描かれたAmmann線分は,Penroseタイルの縁に矢尻マークで与えたPenroseのマッチング規則と局所的[有限領域で]に同値である.Penroseタイリングは多くの興味深い性質を持っており,いくつかの方法[置き換え法(分割とインフレーション),カット&プロジェクション法(高次元空間の切断と射影)]で生成することができるが,Ammann線は,Penroseタイリングを高次元周期空間と結びつける鍵になるので興味深い.部分周期が観測されるのも,高次元空間を2次元に投影したためであろう.イスラムのモザイク模様を見ていると,大きなタイルユニットを張り詰めて作られているが,大きなタイルユニットのなかに,あたかもAmmann線を思わせるモザイク模様が描かれいるのに気づく.イスラムのモザイク模様の特徴は,フラクタル性,自己相似性(自分の中に縮小された自分か繰り込まれていく)で,高次元瞑想空間へと誘われる気持ちになる.(giriタイルと呼ばれる5種類のタイルで作られるモザイク模様にはAmmann線を思わせる線分が見られる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(a) Penroseタイリングを構成する2つの菱形,痩せた菱形(緑)と太った菱形(青).タイル内部に描かれた黒い線分がAmmann線.(b)  Penroseタイリングのインフレーションルール.親菱形がインフレーションを起こすと,いくつかの子菱形の半分が生成される.この子菱形の半分は,隣接する親菱形のインフレーションによって生じる子菱形の半分(薄い色で示す)と組み合わされると親菱形と同じ菱形になる.[図は *1)より借用]

 

 

 

 

 ■ カット&プロジェクション法

カット&プロジェクション法は,1981年にドイツのEindhovenのN.G.de Bruijnによって代数的に研究された.彼の学生だったBeenkerは,これに基づきタイリングの全ファミリーを提示した.これには,Ammannがすでに独自に発見していたAmmann-Beenkerタイリングも含まれる.Penroseが局所5回対称の非周期タイリングの発見は1974年,Martin Gardnerにより広く知られるようになったのは1977年だった.Ammannの局所8回対称の非周期タイリングの発見は,Penroseの局所5回対称の非周期タイリングの発見と,ほとんど同時期であったが,Ammannはアマチュア数学者であったため知られるのが遅れた*2).カット&プロジェクション法は,$${n}$$ 次元ユークリッド空間 ($${n>2}$$) を 2 次元平面によりデジタル化したとみなすことができる.

最も簡単な$${2→1}$$ でタイリングの概念的な説明をしよう.

■ 高次元空間からの影(2次元の周期的世界→1次元の非周期の世界)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1辺の長さが1の正方形のタイル(赤色格子)を隙間なく張り詰めた周期的な2次元世界があります.タイルの中心に格子点があるとして,格子点を“1次元世界(水平な青色の線)”に射影しましょう.この1次元世界(青色の水平線)が過るタイルだけが影を作る対象になります.

①2次元の世界は,1次元の世界1,2,3,4,5,6……(それぞれ色を変えた)を束ねてできています.射影のスクリーンとなる1次元世界(水平な青色直線)は,これらの1次元世界1,2,3,4,5,6,…と角度 α で交わっています.tan α =n/m と有理数なら,1つの格子点が青色の直線に乗れば,その格子点がある部分空間の中で m 個のタイルを動き,他の部分空間に向って n 個のタイルを動いた場所にある格子点は,また青色の直線に乗っているはずで,青色の1次元世界にも周期ができています.もし tan α が無理数なら,1つの格子点が水平な青色直線に載ったら,他の格子点でこの直線に載るものはないはずです.このときは,青色の1次元世界は非周期になります.

②射影されてできた1次元の非周期格子を,図の下に取り出しました. この非周期格子の格子点は,各1次元空間1,2,3,4,5,6,…内に起源をもつ間隔と,次の1次元世界に飛び移るときに生じる間隔との2種類の間隔が混ざってできています.

③この非周期格子は,周期的2次元空間から1次元空間への射影で作りました.周期的2次元空間の1次元の断面そのものではありません.

[引用*3) P.81より]

■ $${n → 2}$$

周期的な$${n}$$次元空間の格子点を,その部分空間である2次元の平面に射影してタイリングを作る.この2次元平面(傾斜平面)には1つの格子点が原点として含まれるが,他の如何なる格子点も含まれない(有理数勾配の線は含まれない)場合は,タイリングは非周期である.Penroseタイルの場合がそうであり,これを定義するタイル集合は非周期:これを用いると非周期タイリングしかできない.$${5→2}$$の場合は,Penroseタイリング(5回対称準結晶);$${4→2}$$の場合は,Ammann-Beenkerタイリング(8回対称準結晶)が作れる.概念的な説明でまとめると次のようになる:Penroseタイリングを例とする:5次元の周期的な空間の内部に,非有理数勾配の斜面「2次元の部分空間」を想定し,5次元周期空間をこの2次元に射影すると非周期の2次元パターンが得られる.この2次元パターンには,射影面の補空間の情報が畳まれて反映されているのだが,これが部分周期やAmmannバーの形で現れてくる.

引用文献

1.The Penrose Tiling is a Quantum Error-Correcting Code; Zhi Li and Latham Boyle; arXiv:2311.13040v2 [quant-ph] 25 Jan 2024
2.Images of the Ammann-Beenker Tilling; Edmund Harriss; https://archive.bridgesmathart.org/2007/bridges2007-377.pdf
3.Ammann Bars for Octagonal Tilings;Carole Porrier Thomas Fernique;arXiv:2205.13973v2 [cs.DM] 7 Nov 2022
4.美しい幾何学,谷克彦,技術評論社(2019)

 

No.513 Penroseタイリングから単一タイルタイリングまでー非周期タイリング(第1回)

Penrose タイリングから単一タイルによるタイリングまで

ここで対象とするのは2次元ユークリッド空間(平面)に限りましょう.2次元世界は厚みのない世界,つまり表面だけの(裏表のない)世界です.2次元平面のタイリングとは,1種類(Penroseタイリングでは2種類)のタイルで,隙間も重なり合いもなく,平面を張り詰めることです.
結晶内部の原子的構造は,単位胞と呼ばれる単位ブロックがあり,これが面と面をピッタリ合わせて積み重なり結晶全体ができています。例えば,直径3.5mmのダイヤモンドの内部構造は,単位胞が$${10^7}$$個も並んでおり,事実上,単位胞が無限に繰り返す世界になっています.結晶空間とは,このような周期的な空間のことで,単位胞を点と見なすならば,結晶空間は周期的な点集合(=格子),つまりデジタル化された空間といえます.今,対象としている2次元に限定すると,2次元の結晶空間(周期的平面)の単位胞は,平行4辺形あるいは平行6辺形でなければならないことがわかります.逆に考えて,何らかの形のモチーフタイル(構造単位,敢えて単位胞とは言わない)があり,このタイルで平面をタイリング(平行移動だけでなく,回転移動も許す)できれば,必ず,周期な構造ができるるかといえば,そうとは限りません.すぐに反例が見つかります.

■非周期だが均一でないタイリング

図1は,1936年に Voderberg が示した奇妙なタイル張りです.これは1種類の9辺形のモチーフタイル(カニのツメのよう)だけでできていて非周期です.この構造の特徴は,2つの特異点があることです.これを単純化した非周期タイリングも示しておきましょう図1(右下).

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


■凸多角形(3,4,5,6角形)タイリング

1つの多角形による平面のテッセレーションで,パズルのように思いもつかないようなパターンを考案した例がいくつか報告されています.例えば図2のパターンは,1つのモチーフ6角形タイルで,平面全域を均一にタイリングしていますが,決して非周期パターンではありません.


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


図2凸6角形によるテッセレーション
凸5角形によるタイリングに関しては,1975年のガードナーのコラムに,ラインハルト(1918年)の5タイプと1967年にカーシュナーが発見した3タイプの計8タイプが掲載されていました.ところが新しいタイプがまだあったのです.主婦マジョリー・ライス(フロリダ州生まれ)は,1975年の Scientific American 史のマーチン・ガードナーのコラムを見てこの問題を知り研究し自分の仕事をガードナーに送りました.ガードナーはそれをペンシルバニアのモラヴィアン・カレッジのタイリング問題の専門家であるドリス・シャトシュナイダーに送ってくれました.シャトシュナイダーは,彼女の発見が正しいことを確認したのです.彼女が発見したのは,張り詰め可能な4つの新しい凸五角形タイプです (1977).1975年以降にマジョリーの4種を含む計7種が発見されて,全部で15種類が発見されました.最後に発見 (2015) された15番目は,やはり周期的(単位胞が12個の5角形で構成される)なようです(発見にスーパーコンピュータが使われました).

■Penroseタイリングの登場
Penroseタイリングは,これら2種類の例とは全く異なる性質があり,2次元平面全域を,非周期に,均一にタイリングすることです.Penroseタイリングの源流はイスラムのモザイク模様にも見られます.Penroseタイリングの特徴を一言でいえば,フラクタル構造で出来上がっていることです.
2種類のタイルの内部を再分割したあとで$${\phi=(1+\sqrt{5})/2=1.618\cdots}$$倍拡大すれば,始めのパターンと同じものが見えます.この操作はInflationと呼ばれます.同じことですが,2種類のタイルを組み合わせたパターンを作り縮小すれば,始めのパターンと同じものが見えます.この操作はDeflationと呼ばれます.このようにしてできるパターンはフラクタル構造です.ロジャー・ペンローズが考案した(1966)ペンローズ・タイリングは,2種類のタイルによる規則的ではあるが,周期的ではないタイル張りの一つです.

 

 

 

 

 

 

 


2種類の3角形AとBを組み合わせて,太った菱形/痩せた菱形と見立てたり,凧/矢と見立てたりもします.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ 1種類の形のタイルによる非周期タイリング
ペンローズタイリングは,2種類の形のタイルを用いている.1種類の形のタイルで非周期タイリングが可能でしょうか.これを「アインシュタイン問題」という.(ドイツ語で「タイル1枚」をein steinという)
結局,1種類の形のタイルを用いた非周期タイリングは可能でした.

以下の2種類の非周期タイリングは,2023年にDavid Smithらにより発見されたものです.これらが非周期であることを確認するのは容易いことではありません.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

hatと命名された形のタイルでできる非周期タイリング
ただし,濃青タイルと(薄青&白)タイルとは,互いに鏡像(裏返し)になるので,2次元平面で1種類のタイルとは言い難い.


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

spectreと命名された形のタイルでできる1種類の形のタイルによる非周期タイリング.

 

 

 

 

 

 

 


引用文献
1.美しい幾何学(谷克彦);技術評論社;p68~70, p76~80
2.A chiral aperiodic monotile;David Smith, Joseph Samuel Myers, Craig S. Kaplan, and Chaim Goodman-Strauss;(2023)

ウエブサイトのバージョンアップ

3月22~25日に,sgk2005.org(当サイト:nc3.3.5→3.3.7);new.sgk2005.org(次期サイト:nc3.3.1→3.3.7)のバージョンアップと,exp.sgk2005.org(nc3.3.7)の新設を行いました。公開しているのは,当サイトsgk2005.orgのみです。
3.3.3→3.3.4のバージョンアップ時に,横メニューが消えるバグがありますが,プラグインを入れ直すことにより解決できました。 
[巻田ICTさんに教えてもらいました]

バージョンアップにより,記入したトラキングコードが消えたdefault.ctpになるので,googleアナリティクスがカウントしなくなった。トラッキングコード中のトラッキングIDを以前に戻しカウントするようになった。 

No.511数学ワークショップ

 

 

 

 

 

 

 

 


中野ZERO子供カーニバルの数学ワークショップは、盛況裡に終了いたしました。3月2日、3月3日、3月10日の3日間(4種目)の数学ワークショップ全部に参加された熱心な親子もおられます。次の企画でまたお会いしましょう。ご意見やご希望などいつでもお寄せください。 

具体的な物(万華鏡、エジプト紐、正多面体)を舞台に、そこで現れる数学・算数に触れることで、数学・算数への関心が高まります。
これが自分で勉強する原動力になることを願っています。

数学月間の考え方は、「具体的な分野や物で使われている数学を紹介することで、数学への関心を高揚することです」。数学は自分で勉強しなければ意味がありません。このようなワークショップは、数学の講習会でもないし、数学の遊園地で終わってはもったいない。数学学習のモチベーションにつなげて欲しい。

 

No.512 いぼ結び

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真上段は、「いぼ結び」の全景。 写真下団は、「いぼ結び」の原理。

■いぼ結びの原理

「いぼ結び」は、植木職がシュロ縄で竹垣を結ぶときなどに使います。
YouTubeにはいくつかの動画がありますが、どれも手順の解説に終始していて、全貌の把握がなかなか困難です。
いくつかの動画を観察して、「いぼ結び」の原理を理解したので、2つの図(写真下段)を作成し掲載しておきます。
ロープワークには、目的に応じていろいろな結び方があり面白い。私も、いぼ結びの他に、命綱の結び方、複数の棒資材の束ね結びなどを利用したことがあります。しかし、結び方の複雑な手順を覚えても、たまにしか使わないものなのですぐ忘れてしまいます。
原理的には、「いぼ結び」は両端を持って引っ張れば、単純に締まる結び目です。
すなわち、いぼ結びはものをきつく締めるのに向いています。
ただし、シュロ縄はそんなに滑りは良くないので、締めるのは楽ではありません。

■実地作業
「いぼ結び」を竹垣の結束に加える変形手順を考え、その結束手順のシミュレーションをしてから作業に臨みました。

シュロ縄は水に浸して使うので手が真っ黒になり、黒いシュロ縄とは染めたものだということに気づきました。
そういえばシュロの毛は茶色でした。茶色のシュロ縄を買えばよかった。
水が冷たく指が切れそう、寒くて霜焼けが出来そうだ。
結束個所は全部で8か所あり、1か所で4m位シュロ縄が要ります。

 

 

 

 

 

 

 

「いぼ結び」側                 「綾掛け」側

完成した生垣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(参考)*******************************

No.510 なかのZERO子供カーニバル(中間報告)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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数学月間SGK通信 [2024.03.05] No.510
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■中野ZERO「こどもカーニバル」の第1日目(3/2),第2日目(3/3)が盛況裏に終了しました。
NPO法人数学月間の会からスタッフとして5人が参加しています。
上段写真は2日目(3/3)の開始1時間前の西館入り口で撮影したものです。
下段写真は2日目(3/3)のエジプト紐の午前のクラス風景です。

■次回は第3日目(3/10)です。大人も子供もご参加ください。
3月10日は、西館、学習室4で以下のように実施します:
午前10:00-11:30 正12面体模型を作ろう  料金1,000円
午後14:00-15:30 星型小12面体模型を作ろう 料金1,000円

■終了した以下の講座のテキストは,数学月間の会ウエブサイト
https://sgk2005.org/ で公開しています:
3月2日の 対称性を学んで万華鏡を作ろう.pdf,谷克彦
3月3日の 幾何の源流エジプト紐で遊ぼう.pdf,亀井喜久男

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ご感想やコメントを以下のブログあるいはメールにお寄せください.
☆NPO法人数学月間の会(SGK)=数学と社会の架け橋
 連絡先:sgktani@gmail.com
 https://note.com/sgk2005
 公式HP: http://sgk2005.saloon.jp/
☆発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/

No.509 なかのZERO子供カーニバル

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数学月間SGK通信 [2024.02.27] No.509

<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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なかのZEROで子供カーニバルが開催されます.NPO法人数学月間の会は,
3月2日 万華鏡
3月3日 エジプト紐
3月10日 正多面体
で参加します。
子供から大人まで多くの方のご参加をお待ちします。
このイベントへの参加申し込みは、主催の中野ZEROのウエブサイト(以下)にあります.
 https://www.nicesacademia.jp/news/%E3%81%AA%E3%81%8B%E3%81%AEzero%E3%81%93%E3%81%A9%E3%82%82%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%90%E3%83%AB2024/

●3月2日(土)対称性を学んで万華鏡を作ろう 担当(谷克彦)
2回実施(午前10:00-11:30・午後14:00-15:30)
万華鏡の美しい映像が私たちの心をとらえる理由は,時間の流れとともに「透明な琉球色ガラス屑」の流れが映し出す
「千変万化する一度きり」の映像に生命を感じるからでもありましょう.
万華鏡の舞台を生み出す仕組みは,「対称性」(規則的な繰り返し模様の数学)で理解できます.
今回作る万華鏡は,12回回転対称の打ち上げ花火のような映像が見られます.テキスト:万華鏡の不思議https://sgk2005.org/cabinets/cabinet_files/download/88/8a40fe393072d252cf2a579e720c8d0c?frame_id=126
映像↓
https://youtu.be/VgNGY38opS0

数学月間は,数学が社会の色々な分野を支えていることを説明し,数学への共感を高揚することを目的としています。
万華鏡はそれ自体,美しくて面白いのですが,対称性の数学は結晶学や固体物理学の基礎になっている重要な数学である
ことを知り,興味を持ってもらうことを狙っています。
材料の準備に手間がかかりましたが,今日,3月2日に使用する30人分の準備が完了しました。
画像https://sgk2005.org/wysiwyg/image/download/6/2513/medium

●3月3日(日)幾何の源流エジプト紐であそぼう 担当(亀井喜久男)
2回実施(午前10:00-11:30・午後14:00-15:30)
縄を張って測地したのは古代オリエントの知恵です.幾何学の源流に触れましょう.3辺の長さが決まれば3角形が決定します.色々な角度が作れます.検地や口分田などでも用いられた方法です.校庭でハンドボールのコートを描いたりもできます.
手順を繰り返し,正方形,長方形,正3角形,正6角形などを作ったりしましょう.
時計の文字盤のように円周を12 等分したエジプト紐でどのような角度が作れるのでしょうか.
・正3角形,2等辺3角形,直角3角形を作りましょう。
・平行4辺形,凧型,正方形,長方形,菱形
・正6角形,6角星形ダビデの星,1
・正 5 角形,正 8 角形を描くのはとても難しいです.
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●3月10日(日)正多面体を作ろう 担当(小梁修)
午前10:00-11:30 正12面体模型
午後14:00-15:30 星型正12面体
プラトンの立体と呼ばれる凸正多面体が5つあることはご存じでしょう.美しい正多面体はこれだけではありません.
美しい星型正多面体など色々あります.
午前の組は,正 12 面体を組み立て,正 12 面体の体積を分割して理解します.
午後の組は,星型小 12 面体を組み立てます.この組み立てはなかなか難しい.星型多面体は凸正多面体とは違い高次元にあり,不思議な美しさがあります.
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