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平面群

網目パターンの重ね合わせ1

技術的な応用●ブラッグの法則 ●干渉

10cm×10cm程度の薄い布(ナイロン,カプロン,絹)を2枚重ねて,繊維が小さな角度(5°-10°)で交差するようにする.これを2枚のガラス板の間に挟み透過光で全体を観察すると,モアレパターンと呼ばれる自然界で広く見られる現象(科学技術で頻繁に利用される)が観察できる(図151).モアレパターンの対称性乱れは,干渉を起こすネットの不完全性に起因するものである.もし,これらが完全に規則的なネットならば,不規則なモアレではなく規則的な二次パターンが現れる.この現象は,写真印刷などで,ガラス板の上に細かい黒格子が描かれたスクリーンを通して写真を撮影するハーフトーン印刷で見られる.

 

 

Fig.151

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし,「スクリーン効果」は必ずしも作品の邪魔をするものではなく,布地や壁紙などで優れたパターンを作るために使われることもある.
■2 つの無限平面パターンを重ね合わせたときに,どのようにして二次的なパターンが発生するのかを理解するために,最も単純な例として2 つの同一な平行縞を重ね合わせた場合の例を見よう.図152に示すように,2つの1次元縞の相互作用(干渉)の結果,一次の縞(元の縞)の繰り返し周期よりも大きな繰り返し周期の二次的な幅広の縞が生成される.実際には,これらの二次的な幅広縞は,一次の縞によって形成されたジグザグに過ぎない.一次の縞の間隔を,目で解像できない程度(0.1mm以下)まで小さくすることで,二次的な縞だけが見える画像が得られるが,これは一次の縞の一つを拡大したものになる.
一次縞周期(一本の縞の幅+縞間の間隔)を$$λ$$,二次縞周期 を$$d$$,一次縞系が交差する角度$$2θ$$ とすると,簡単な計算で,$$λ=2dsinθ$$ が得られる.
すなわち,一次縞周期は,二次縞周期の2倍に一次縞間の交差角度の半分の$$sin$$を乗じた値に等しい.

 

 

 

Fig.152


結果として得られる式は,よく知られているブラッグの法則と全く同じになる.ブラッグの法則中の量λはX線の波長であり,$$d$$はX線を反射する結晶の原子網面の間隔,$$θ$$は入射X線と反射面の間の角度である.
このアナロジーで,結晶構造の幾何学のX線による研究を,モアレ現象に還元することができる. [例えば,Bollmannの本(1970)を参照]

 

 

 

 

 

 

 

■今度は,平行縞の2つの系を2つの同一正方形の網にしよう.交差角2θが十分小さな角度なら,2次的に生じる像は,最初の網を単純に拡大した,少しぼやけた像になる(図153).

 

 

 

 

図153

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一次の系の網目4角形の辺は,以下のように計算できます.
一次ネットと回転した一次ネットを重ねて生じる二次のネット網目の寸法に関しては,既に述べた1次元での関係がやはり成立します.

上記の2つのケースの図柄の重ね合わせで,角度$$±2θ$$の小さな角度で重ね合わせても,$$180°±2θ$$で重ね合わせても違いがなかったのは,図柄に2回回転対称性があるためである.
2回回転対称のない図形,例えば,3角形の系(図154)を重ね合わせるとすると,この二つの回転角度の効果にはかなりの差がでる.

小さな回転角$$2θ$$では,二次的な絵柄(図155)は楕円の系のようなものであるのに対し,回転角$$180±2θ$$では,二次的な絵柄(図156)は三角形で構成されて,一次的(元の)な絵柄の拡大と考えてもよい.

 

 

 

 

 

図154

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図155

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図156

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図157



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図158

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詳細に検討してみると,角度$$2θ$$が十分に小さく,一次パターンが周期的に繰り返される小さな素図形をかなりの数持っている場合には,$$180°±2θ$$の角度で2つの同一のパターンを重ね合わせると,無限の対称平面パターンが拡大された形で得られることがわかる.
実際には,これらの条件を満たすことは非常に困難なことが多いので,この実験は最も単純な種類の素図形でしか合理的な成功はしません(図157と158).

網目パターンの重ね合わせ2

2つの同一な網目パターンを種々の回転角度で重ねたときの干渉で,何が起こるか考察しよう.例として,面心の長方形(面心斜方格子)の頂点に円環を配した網目パターンの系(図110d)をとり上げる.

 

Fig.159

 

Fig.160
図159と160を見ると,角度2θが小さいうちは,二次的図形は(素図形の数が不十分なために)一次図形の拡大図となることがわかる.角度2θが大きくなるにつれて,拡大の度合いは小さくなる.面心斜方ネットの対称性を保ったまま,パターンは非常に大きく形を変え始める.図示された一連のパターンは,例えば壁紙や織物に適したパターンの豊富な品揃えが,互いに相対的に異なる角度にある2つの同一の周期構造の単純な機械的重ね合わせによって得られる可能性があることを示している.この可能性を考えると,一連の疑問が湧く.例えば,同一の周期構造の負あるいは正の重畳によってどんな効果が得られるだろうか.実験を上記に記述したパターンで行うと,二次的に生じた6角形の各中心に暗い丸点が形成されることが判明した(図161).

 

図161

特に興味深いのは,異なる図形を重畳したときの,対称性の相互作用に関する問題である.一般的な重畳と同一対称類の等価系の重畳,右手と左手系パターンあるいは異なる色に塗られた図形の相互作用などである(図162).
これらの疑問は,ほとんど研究されたことがないが,我々は複合系の対称性原理を使い,これらを調査してみよう.この原理は12章で紹介する.

無限のパターンの重畳の結果として得られる二次的形の多様性にもかかわらず,等式$$λ=2dsinθ$$は変わらずに残る.そこでは,同じネットが2つの
のパターンが選択され,かつ,角度$$2θ$$があまり大きくない場合には

図163(正の左手系パターンを負の右手系パターンの上に重畳)では,第二次パターンが一時のパターンの基底である正方格子を再現しているのがはっきりわかる.後者は黒が正,白が負の小さい3角形の行からなる.

網目の拡大率(すなわち$$d/λ$$の比)と角度$$2θ$$は互いに密接に相関している図から決定され,この式が問題のケースに適用可能であることを示している.

結論として,周期の異なる2つの縞模様の平行重ね合わせを考えてみよう(図164).
このケースは,音響学,光学,無線技術,その他の波動物理の分野で出会うビート現象幾何学的な描像を提供するので興味深い.
この現象は,同じ方向に移動する波長がわずかに異なる2つの平面波があるとき,二次的に長い波長の波が生じる現象で,音響学的には周期的な音の強弱(ビート)として観測される.
ビートは近似的に調整された2つの音叉を同時に鳴らすことで簡単に作れる.
実際には,2つの同じピッチの音叉の一方だけに,ワックスを貼り付けてチューニングをずらす.

平行な2つのシステムの重畳で生じるビートは,図164に示すように,第1のシステムの2本の連続した縞の間の距離は,$$λ_{1} = 1.91$$ mm;第2のシステムでは,この距離は$$λ_{2}=1.60$$mmである.

これらの2つの量は、一次干渉の波長と呼ばれることがある.
距離$$L=9.86$$mmは,密な隣接距離で,二次的な波長あるいはビート波の波長と同じである.

これらの量の関係をより詳細に検討すると次の式が得られ,既知の$$λ_{1}$$,$$λ_{2}$$から,二次波の波長Lを計算することができる:$$L=\displaystyle \frac{\lambda _{1}\lambda _{2 } }{\lambda _{1}-\lambda _{2 } }$$

モアレパターン発生の実験

今日はモアレの実験を行います.

まず,網目パターンを用意します.今回は,面心斜方格子[長方形格子の中心にも格子点のある複格子(2格子点胞)]を使います.この格子は,単純格子(1格子点胞)で解釈すれば,菱形格子に還元できます.この関係は下図を見るとわかるでしょう.

 

 

上図では,格子点に正3角形を配しました.配置した正3角形の対称要素と格子の対称要素を比較すると,共通な対称要素としては垂直方向の鏡映面しかありません.従って,パターン全体としての対称性は,垂直方向の鏡映対称を持つだけです.格子自体にあった高い対称性も,正3角形自体にあった高い対称性も互いに打ち消し合って残りませんでした.これを対称性の重ね合わせ原理と言います.

 

 

 

 

このようなパターンを基礎にして作った網目模様を以下に示します.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この網目網を互いに2θ(小さい角度)で重畳したときに,生じる2次的網目パターン(モアレと呼ぶ)を調べましょう.

 

     (1)重畳角2θ(小)のとき        (2)重畳角2θ(大)のとき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      (3)重畳角180のとき         (4)重畳角180°+2θ(小)のとき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
(5)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論:いずれの場合も2次的なモアレ像に生じる格子のタイプは,初めの(1次の)格子のタイプと同じであることがわかる.しかし,2次的に生じるモアレ像中に正3角形の対称性がどのように反映されるかの鮮明な結果は得られなかった.

紙からネットワークパターンを切り出す

ネットワークパターンをカットするためには、矩形,正方形,正3角形,正6角形の紙シートを使います.
初めの紙の形が矩形なら,紙のサイドに沿って半分に折るを繰り返し,折り畳んだ状態で切り込みを入れます.すると,対称面と2回対称軸のあるパターンが得られます(図 165).[訳者注)この図形の対称性は2mmです.mは図形全域に有効な対称面ですが,この図形には局所的に有効な対称面があります.対称面は紙の折線に沿って生じるのですが,全域的な対称面と局所的な対称面を区別したいものです.]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


正方形の紙から始めて,サイドの線に沿ってだけではなく対角線に沿ってもこれを半分に折ることを繰り返すと,対称面と4回対称軸のあるパターンを切り出すことができます(図166).

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に正3角形の紙から始めて,3角形の2等分線に沿って折ると,対称面と3回対称性のあるパターンを切り出せます.
正6角形から始めても同じ結果が得られます.正6角形の内部に正6角形と共通の頂点を持つ正3角形を内接させ,3角形の2等分線に沿って,あるいは内接された3角形の辺に平行な線に沿って折ります(図167).

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正6角形のサイドに沿って2つ折りすると6回対称軸が得られます(図168).

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これらの切断例は,(ホロヘドロン)完面像図形=そのネットワークパターンの対称性で許される最大の対称要素を与えます.
対称面のないパターンの切込み(あるいは一太刀切)は例外で,困難があります.このような場合には,重ねた紙からたくさんのロゼットをカットして,平面パターンや層の対称性の法則(次章を参照)に従って,異なる色の背景のボード上に,それらを貼り付けて作ります.
後者の場合は,紙の表裏にも注意を払わなければなりません.
図169に,このように切断した平面パターンの例を掲載しています.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[訳者解説]折線は対称面になります.対称面を赤線で示しました.どのように折って切ったか推定してください.

ここで対称面と言っているものには局所的に通用するもの(青色)と,全域的に通用するもの(赤色)とがあります.これらは区別しましょう.

 

 

 

 

 

正則点系

正則点系
点の多重度とその相対数の積の保存則

[訳者注)単位胞中に存在する原子の数によっては,対称性(多重度)によりその原子の存在できる場所が決まっつているという便利な性質が,構造解析のときに利用できる]

有限図形の点系(同価な点の系)に関して,対称(正則)の概念には,すでに出会っています.この概念を無限の平面図形に拡張するのは困難ではありません.何らかの無限の平面図形(下図173)が与えられたとしましょう.その中の任意の1点(図173の任意の●)を選び,選んだ点に同価なすべての点を見出しましょう.
[訳者注)同価な点というのは,対称操作で互いに変換できる点のことで,図173の場合には,実線が鏡映面,および,各鏡映面に沿った並進が定義されています]

その結果得たすべての点の集合は,同価点の1つの単純正則点系を作ります.これに,2番目,3番目,等々の同価点系(○,◎)を加えると,複雑,あるいは,複合点系を得ます.もし,単純点系の初めの点が対称面上や対称軸上や,対称中心になければ,得られた集合は一般点の同価点系(●)と呼ばれ,他の場合は,特殊点の同価点系(○,◎)と呼ばれます.
[訳者注)●だけ集めると一般点の系,〇だけ集めたものは鏡映面上の特殊点の系,◎だけ集めると鏡映面の3重点(あるいは,3回軸)上の特殊点の系]

無限パターンの各タイプ点系の点の数は無限ですが,単位胞の中の点の数は有限です.(これらは対称演算により互いに移り合う)

 

 

 

 

 

 

 

 

図173を調べると,◎の点1つに〇の点3つ,●の点6が対応し存在することがわかります.これを,●の多重度は1,○の多重度は2,◎の多重度は6であるといいます.黒点●の位置を徐々に対称面方向に動かすと,それが対称面上を通過するとき,両側から近づいた2つの黒点●は1つに合体します.もし,黒点●が3回転軸の位置に近づき,ちょうど軸上(に3つの対称面の交差点)を通過するときには,6つの黒点が1つに合体します.
したがって,各単位胞の中にある,さまざまなタイプの点の相対数$$n_{i}$$は,対応する多重度$$s_{i}$$の逆数に比例することになります.

$$n_{1}:n_{2}:n_{3}: \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot =\displaystyle \frac{1}{s_{1 } }:\displaystyle \frac{1}{s_{2 } }:\displaystyle \frac{1}{s_{3 } }: \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot $$
$$n:n_{1}:n_{2}: \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot =1:\displaystyle \frac{1}{s_{1 } }:\displaystyle \frac{1}{s_{2 } }: \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot ,$$ あるいは,$$n=n_{i} \cdot s_{i}$$

どんなパターンにも多重度s=1の点が存在するので,そのような点の相対数をnと記すと2番目の式のように書き換えられます.

言い換えると,特定の種類の点の相対数とその多重度の積は一定です. したがって,図173のパターンの例では,点の多重度と相対数の積は常に6に等しくなります. 黒点●の場合は1x 6,白点〇の場合は2 x 3,二重円◎の場合は6 x1です.
規則的な点の系(正則点系)を記述するのに,平面パターン全体を作る必要はありません. 対称要素の集合をその特定の領域(たとえば単位胞の内)で指定するだけで十分です. 対称要素の配置図が与えられれば,特定の位置に点を配置し,その対称要素を作用させて,与えられた対称クラスに対応する同価点の系を簡単に構築できます.

[訳者注)下図の2つは,対称要素の配置図(上図)に対して,一般点に非対称図形楔型を置いて得た点系(下図)の例です]