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6.discussion

本論文は,準周期タイリング(PT,ABタイリング,フィボナッチ準結晶を含む)の魅力的な特性を活用し,新しいQECCを構築する.PTの配置を量子的に重ね合わせることで,どのような有限領域Kにおいてもエラー訂正ができるQECCを構築する.私たちの構築は,準周期タイリングの一般的な性質(局所的な識別不可能性と回復可能性)に基づくものであり,他のこのようなタイリングに対しても適用できる.
フィボナッチ準結晶を用いて,このQECCの離散版を構成し,それはスピン鎖上で具現化できる.
ABタイリングを用いて,同様のQECCコードが有限の空間的広がりを持つ系(トーラス上)でどのように実現できるかを示した.有名な トーリックコード[12]との類推は有益である.

トーリックコードの波動関数は,トーラス上のループ配置の重ね合わせとして書くことができる.
これらのループとトーラスの2つの非自明なサイクルの交点の数のパリティに基づいて,ループ構成は4つのトポロジー的に異なるクラスに分類され,4次元のコード空間を持つQECCが得られる.我々の波動関数式(4)はトーリックコード波動関数と多くの性質を共有している.どちらの波動関数も幾何学的なパターンの重ね合わせであり,論理的な情報はパターンの全域的な振る舞いに符号化される.両者とも,幾何学的パターンのレベルで,局所的な識別不可能性と回復可能性という概念を持っている.

さらに,両者とも,有限深さの幾何学的局所ユニタリー回路では,波動関数を作れないという意味で,長距離エンタングルである[33].

一方、トーリックコードは、消去された領域が非連続的で、トーラスのサイズに匹敵するものであっても(トポロジー的に非自明なループを含まない限り)消去を訂正することができるが、第V節の有限サイズのトーリック構成とその証明は、エラーが単一の連続した領域(そのサイズはシステムサイズに線形に比例する)に含まれるという事実に依存している.もう一つの違いは、我々のコード空間を任意の局所ハミルトニアンの基底状態の空間として実現できないことだ.このことを理解するために、式(4)において、配置依存の位相因子を挿入し、次のように定義できることに注意する.

$${|\tilde{Ψ}_{[T]}⟩ = \int dge^{iθ(gT)}|gT⟩}$$ .               (11)

同様の計算により、$${|\tilde{Ψ}_{[T]}⟩}$$は任意の有限領域Kに対して$${|Ψ_{[T]}⟩}$$と同じ還元密度行列ρKを持つ。したがって、任意の局所ハミルトニアンは$${|Ψ_{[T]}⟩}$$と$${|\tilde{Ψ}_{[T]}⟩}$$で同じエネルギーを持たなければならない.

追加の基底ベクトルとして$${\{|\tilde{Ψ}_{[T]}⟩\} }$$を含めることによってコード空間Cを拡大しようとするかもしれぬが、これはうまくいかない.なぜなら$${|Ψ_{[T]}⟩}$$と$${\tilde{Ψ}_{[T]}⟩}$$の重ね合わせはもはや同じ還元密度行列$${\rho K}$$を持たないからだ.

この点で,式(4)の構成は,並進不変性を課すゲージ制約下でのマッチングルールの基底状態と考えた方がよいかもしれない.このようなQECCを研究室で作成し,誤り訂正アルゴリズムを実装し,符号化,復号化,論理演算を行うにはどうすればよいかという問題を再検討することは興味深い.
最後に,ここで議論したPT QECCは,量子重力に関する何か,そしてその時空に関連する(あるいは符号化される)時空の下に横たわる量子重力の微小状態に関する何かを捉えている可能性があることを示唆するいくつかのヒントを挙げる.
(i)第一に,双曲空間における量子重力のホログラフィックな描像[15]は,それ自体が一種の量子誤り訂正符号[16]であり,さらに,双曲空間を元の等長変換群の大きな離散部分群を保存するタイリング上で離散化すると[17],このタイリングは自然にペンローズ的な(あるいはフィボナッチ的な)非周期的なタイリングのスタックに分解する[34]。

(ii)第二に、上で強調したように、状態|T⟩と|gT⟩は絶対参照枠が存在する場合にのみ区別可能である。

 しかし、アインシュタインの重力理論の根底にある中心的な考え方のひとつは、一般共分散原理である。
一般共変の原理であり、物理学的には、そのような絶対的な参照枠は存在しないと主張する(そして数学的には、微分同型不変性が自然法則の厳密なゲージ対称性であると主張する)。言い換えれば、「ペンローズのタイリングの微視的状態」が空間のどこに位置するかを問う場合、微分同型不変性を尊重するためには 差分同型不変性を尊重するためには、答えは次のようになる。という答えにならざるを得ない。つまり、式(4)のコード状態のいずれかに正確に位置する!(iii)。第三に、このように微小状態を重ね合わせる方法に関する本質的な位相の曖昧さ、すなわち、不等価な基底{|Ψ[T]↪Pe_27E9} vs {|Ψ〜[T]⟩}を定義する自由は、より大きなヒルベルト空間Hにコード空間Cを埋め込む無限の異なる不等価な方法に対応します。
コード空間Cをより大きなヒルベルト空間Hに埋め込むことは、時空間において「ゼロ粒子状態」をどのように定義するかについて(これも微分同型不変性による)本質的な曖昧さがあるという事実を反映しているようだ。

5.Ammann-Beenkerタイリングを用いた有限具現化

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

式(4)と式(9)が厳密な無限空間上で成立することを考えると,このような準結晶に触発された波動関数が,有限系,例えばトーラスや環の上でも実現できるのか問いたくなる.PTsには根本的な障害がある:図2の矢印は非周期的なマッチングルールを定義している:局所的にペンローズタイリングに似ている,つまりマッチングルールに従うどのようなタイリングも非周期的でなければならず,それゆえトーラス上では決して実現できない.実際,トーラス上のPTに似た配置は,少なくとも2つの「欠陥」を含んでいなければならない[27].

幸運なことに,この障害を回避できるタイリングがいくつかある.その一例が Ammann-Beenker(AB)タイリング [3, 18-20]である.ABタイリングは,図5に示すインフレーションルールで定義される.
ABタイリングはPTと多くの類似した性質を共有している.例えば,非周期で、周期的結晶では禁じられている一種の準回転対称性( ABタイリングの場合は8回,PTタイリングの場合は10回)を持つ.各タイルにはアンマン棒[28, 29]が付いており,これらはまっすぐな切れ目のないアンマン線に結合しなければならない.

しかし,PTとは異なり,ABタイリングには非周期的なマッチング規則 [30]がない.ABタイリングの許容される局所的なパターン(どんなに大きくても)の有限集合が与えられても,$${R^2}$$には周期近似[31, 32]で知られる周期的なタイリングが存在する.このような周期的なABタイリング は正真正銘のABティリングではなく,(それを定義するインフレーション/デフレーション規則によって)非周期的でなければならない.示
とはいえ,これらの周期的なAB様のタイリング(任意に選んだスケールで,局所的には本物のABタイリングと識別できないように構成できる)を利用して,式(4)と同様の方法で量子エラー訂正波動関数を構成することができる.
まず,図6(a)に示すように、トーラスの4つの「初期」タイリング$${A_{i}^{(0)} (i = 1, 2, 3, 4)}$$を定義する.タイリングは,トーラス上で切れ目のないまっすぐなAmmannバーを形成し,異なる方位の正方形が等しい頻度で現れるように設計されている.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に,それらをABインフレーションルールをn回繰り返し適用し,4つのタイリング$${A_{i}^{(n) } }$$を得る.図6(b)に$${A_{i}^{(2) } }$$を図示する.簡単のために,各基本タイルのサイズを固定(各辺を1)すると,$${A_{i}^{(n) } }$$のサイズはnとともに指数関数で増加する.

興味深いことに,n≧2の$${A_{i}^{(n) } }$$は,トーラスのタイリングであり,局所的に本物のABタイリングに似ており,局所的に互いに区別できない.正確に言えば:

●半径$$ r_n=\Theta((1+\sqrt{2})^n) $$($${A_{i}^{(n) } }$$の線分サイズに比例)の内部にあるどのようなパターン$${A_{i}^{(n) } }$$も任意の本物のABタイリングに現れる.逆も成立.
●$${A_i^{(n) } }$$の中に半径$${r_n}$$のパターンの出現数はパターン自体にのみ依存し,iに依存しない.
証明は付録Dにある.

さて,以下の波動関数を構成することができる.

$${|Ψ_{i}^{(n)}⟩ ∝ \int dg|gA_{i}^{(n)}⟩}$$       (10)

ここで、トーラスの並進群上のgだけを積分します(回転も含めると、A3とA4
は等価になるからである)。
これらの波動関数$${|Ψ_{i}^{(n)}⟩}$$は、任意の半径rn
ディスクにまたがる。PT QECCの構成と同様に、これを検証するためには、ティリングが必要な局所的な
区別可能性と回復可能性の特性を持つことを確認すればよい。前者の性質は今説明した通りである。
後者はAmmann線から導かれる。
付録Eでは、第IV節と第V節のアイデアを組み合わせて、QECCを構成する。Vのアイデアを組み合わせて、有限かつ離散的なQECCを構築する。

 

4.フィボナッチ準結晶を用いた離散具現化

これまでは連続体の自由度であったがこれは本質的なことではない.同様なQECCsを離散システム(スピン鎖)上で構築する.2DのPTsと同様な1Dの"フィボナッチ準結晶"を用いる.

 

 

 

 

 

Fig.4.

 

■ 1次元フィボナッチ準結晶

長さL(長い)とS(短い)の2種類の区間で構成されるテッセレーションRを考える.
長さの比L/Sは黄金比: L/S =(√5+1)/2

このタイリングのインフレーションルールは (L,S)→(LS,L)    (7)
図4(b) 参照

●隣接するSSやLLLなどは生じない.
[訳注1)証明]

Sが生れる原因はL(L→LS)にあるが,Sが生れるときはLSの形でLとSが同時にペアで生れる.従って,Sの間に必ずLが挟まれ,SSの型は生じない.

LLの型はあり得るが,これを生じる原因はSL(SL→LLS)のみである.LLLSを得るにはその原因がSSLである必要があるが,SSとなることはあり得ないので,結局,LLLの型は生じない.

●PenroseタイリングとFibonacci準結晶は密接な関係がある:PTのAmmann線は,5つの平行な部分集合(それぞれは正5角形の辺に平行)に分けられ,これらの平行部分集合のそれぞれは,1DのFibonacci準結晶を作る.
[訳注2)]Lの個数/Sの個数=黄金比1.618・・・・(n→∞)を証明せよ:

結局,$${\begin{pmatrix} 1 & 1\\ 1 & 0\\ \end{pmatrix}^{n}=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12}\\ a_{21} & a_{22}\\ \end{pmatrix} }$$ を計算することになるが,行列の各項$${a_{11}(n), a_{12}(n), a_{21}(n), a_{22}(n)}$$は,フィボナッチ数列になり,$${a_{11 } }$$に対して,$${a_{12 } }$$および$${a_{21 } }$$は1項遅れ,$${a_{22 } }$$は2項遅れである.今必要なLの数/Sの数の比は,$${a_{11}/a_{21 } }$$であり,この比は$${n→\infty}$$で黄金比1.618・・・である.

■記号置換による離散QECC

フィボナッチ準結晶の構造は,ある種の離散系にも現れる.正確には,Fibonacci準結晶を,Lを数字の1,Sを数字の0に置き換えることで,辺の無限ビット列として表すことができる.インフ
レーション・ルールは次のようになる:

(1, 0) → (10, 1)        (8)

離散システムにおけるインフレーション・ルールは通常,記号的置換と呼ばれる.
ビット列のレベルでは,我々のQECCの構造を可能にする重要な性質がまだある.
全域的に不等価な(すなわち,変換によって関連づけられない)局所的には識別できない回復可能なビット列$${\{F\} }$$はまだ無限に存在する:


Fの任意の有限部分文字列は,他の任意の文字列F′にも現れ、異なる有限部分文字列の相対頻度も一致する.(付録C参照);
有限領域$${K}$$内のFの任意の有限部分文字列は,Fの残りから復元できる.Fの任意の有限部分文字列(有限領域$${K}$$内)は,Fが特異な場合を除き,Fの残部(補空間領域$${K^c}$$内)から復元できる.(付録B 3参照).


したがって,これらのビット列を利用して,式(4)に類似した離散多体波動関数を構成することができる.これらの波動関数は,同じQECCに対する基底をなす.式(4)に従い,ビット文字列$${[F]}$$の各同値類に対して次のような波動関数が作れる:

$${ |Ψ_{[F]}⟩ ∝ \Sigma_{x=-\infty}^{\infty} |x+F⟩ }$$        (9)

ここで,$${x+F}$$は$${F}$$の$${x}$$だけの並進である.

これは 整数格子上の量子スピン鎖の波動関数と考えることができる.これらの量子状態$${\{|Ψ_{[F]}⟩\} }$$は,QECCのコード部分空間$${C}$$を張る.
付録Fで,これらの符号状態のエンタングルメント・エントロピーを計算する.

 

mit

f_{n m)=\int\it\Psi_{n}^*\hat{f}\Psi_{m}dq=\<n|\hat{f}|m\>

ある閉じた系の波動関数を$${\it{\Psi}(q, x)}$$とする.$${x}$$は考えている部分系の座標,$${q}$$は閉じた系の残りの座標である.系全体の波動関数が$${\it\Psi(q, x)=\it{\Psi}_1(q)\it{\Psi}_2(x)}$$と書けるのは特殊な場合で,一般には,全体系の波動関数は存在するが,部分系の波動関数は存在しない.この部分系$${x}$$が関与する物理量を$${f}$$とする.その演算子$${\hat{f } }$$は$${x}$$だけに作用する.この状態の全体系で観測される物理量$${f}$$の平均値は;
$${\bar{f}=\int \int{ \it{\Psi}^*(q,x)\hat{f} \it{\Psi}(q,x)dqdx}=\int{[\hat{f} \rho(x',x)]_{x'=x}dx } }$$
$${\rho(x', x)=\int{\it{\Psi}^*(q,x')\it{\Psi}(q,x)dq } }$$ は,「系の密度行列」と呼ばれる.物理量の演算子$${\hat{f } }$$は,密度行列の$${x}$$のみに作用するので,$${\rho(x',x)}$$に作用させた演算後の結果で$${x'=x}$$と置くことができ,このように変形ができる.
波動関数(固有関数)を持たない部分系の状態は,このように密度行列を用いて記述できる.密度行列はこの系に関係のない$${q}$$座標を含まないが,閉じた系全体の状態に依存している.波動関数を持つ部分系(純粋状態)に対して,密度行列を用いて記述される状態は混合状態と呼ばれる.[ランダウ&リフシッツ「量子力学」参照]
波動関数$${\it\Psi}$$はヒルベルト空間(無限次元のベクトル空間)の要素(関数あるいはベクトル)である.$${m}$$個の固有関数$${\it\Psi_{i}, (i=1,….,m)}$$の重ね合わせ状態を考える.$${\it\Psi(q)=\Sigma a_{i}\Psi_{i}(q)}$$ 
 $${\bar{f}=\Sigma\Sigma a_{i}^*a_{j}\int\it\Psi_{i}^*\hat{f}\Psi_{j}dq=\Sigma\Sigma a_{i}^*a_{j}f_{i j } }$$
$${f_{i j}=\int\it\Psi_{i}^*\hat{f}\Psi_{j}dq=⟨i| \hat{f} |j⟩}$$
$${f_{i j } }$$は遷移行列, $${|j⟩=\it\Psi_{j } }$$はケットベクトル,$${⟨i|=\it\Psi_{i}^*}$$はブラベクトルと呼ばれる.
ケットベクトル$${|\it\Psi_{i}>}$$が張る空間と,ブラベクトル$${<\it\Psi_{i}|}$$が張る空間は,互いに双対空間である.

物理量$${f}$$の観測値は,規格直交系$${|i⟩=|\psi_{i}⟩}$$であるとき,各固有関数に対する確率を$${p_{i } }$$とすると
$${\bar{f}=\Sigma_{i}p_{i}⟨i| \hat{f} |i⟩}$$
密度演算子$${\rho=\Sigma_{i}|i⟩p_{i}⟨i|}$$を用いると,
$$ \bar{f}=Tr \rho\hat{f}=\Sigma_{i}p_{m}Tr(|i⟩⟨i|\hat{f}) $$

$$ \begin{pmatrix} 1 & 1\\ 1 & 0\\ \end{pmatrix} $$

$${\begin{pmatrix} 1 & 1\\ 1 & 0\\ \end{pmatrix}^{n}\begin{pmatrix} 1\\ 0 \end{pmatrix} }$$

 

No.515 PenroseタイリングはQECC

Zh i Li and Latham Boyle:arXiv:2311.13040v2 [quant-ph] 25 Jan 2024 から抜粋し解説を加えた:

Penroseタイリング(PT)は,平面の非周期タイリングであり,多くの驚くべき性質を持つている.一方,量子誤り訂正コード(QECC)は,量子情報をノイズから保護する巧妙な方法である.PTとQECCとは全く関係がないように思うかもしれないが,この論文は,PTが注目すべき新しいタイプのQECCを生み出すことを指摘する.量子情報を 量子幾何学によって符号化するのだが,有限領域内(局所的)のエラーや消失は,領域がどんなに大きくても検出され修正できる可能性がある.

■ 緒言
Penroseタイリング(PTs) は,1970年代に発見された2次元平面のテッセレーションで,その美しく予想外の性質は,物理学者や数学者を魅了してきた.これらのタイリングは,本質的に非周期でありながら,完全な長距離秩序を持つ.自己相似性を持ち,周期的パターンでは禁止される10回対称性を持つ[訳者注)局所的,あるいは,ベクトル対称的な意味での10回対称]
1980年代に,これが準結晶の青写真であることも判明した.準結晶は,研究室でも,後に,自然界(太陽系の誕生,落雷,最初の原爆実験など)でも,存在が発見された.

量子誤り訂正符号(QECC)は,量子情報を高度な冗長性を用いて符号化する方法であり,ある種のエラーを検出修正し,元の量子情報を復元することができる.このようなコードは,物理学において,深く広範な役割を果たしている:・量子コンピューティン・凝縮系物理学・量子重力などの分野

PTとQECCは全く無関係に見えるかもしれないが,深いつながりがある.
QECC側:量子エラー訂正の基礎となるのは,「回復可能性」(または訂正可能性)と「識別不能性」の間の等価性である:ある空間領域$${K}$$における任意のエラーと消失は,その領域が論理情報を含まない場合に限り訂正可能である;正確に言えば,コード空間の様々な状態が領域$${K}$$において識別不可能である場合にのみ符号化される.(量子情報は局所的領域ではなく,全域的な方法で符号化される)

 

 

 

 

 

 

 


PT側:「回復可能性」と「識別不能性」という類似の概念がある.
「識別不能性」:PTは実際には無限に存在し,それらは 全域的には等価でない(あるPTを平行移動したり回転させたりしても,他の異なるPTと全域的に一致させることはできない).全域的には等価でないが,局所的には識別できない.つまり,どのPTのどの有限パッチ(それが、どんなに大きくても)であっても,他のどの異なるPTにも出現しなければならない(どんなに大きな有限領域を探索しても,どのPTを探索しているのか判断できない).
「回復可能性」:PTの有限領域$${K}$$を消去した場合,その領域がどんなに大きくても,その欠損領域をタイリングの残りの部分(補空間領域$${K^c}$$)の知識から一意に回復できる.
PTの識別不能性と回復可能性の概念は,QECCのそれとよく似ている.ただし,前者は幾何学的配置に関する古典的な性質であり,異なる空間領域に関係するが,後者は符号化された量子状態(重ね合わせ量子状態を含む)に有効な性質であり,同じ空間領域内の異なる量子状態に関係する.

(a) Penroseタイリングを構成する2つの菱形,痩せた菱形(緑)と太った菱形(青). タイル内部に描かれた黒い線分がAmmann線. (b)  Penroseタイリングのインフレーションルール.親菱形がインフレーションを起こすと,いくつかの子菱形の半分が生成される.この子菱形の半分は,隣接する親菱形のインフレーションによって生じる子菱形の半分(薄い色で示す)と組み合わされると親菱形と同じ菱形になる.
■「識別不能性」と「回復可能性」
上図のタイルの縁の矢,または,Ammann線によるマッチング規則は,PTを完全に決定するわけではない:
現実に数えきれない全域的に非等価なPTsが存在する.しかし,これらの非等価なPTは互いに密接に関連している.
数学的には,これらは局所的には識別できないという同じ類に属する:あるPT($${T}$$)に存在する任意の有限パッチは,他の任意のPT($${T^′}$$)にも出現しなければならない.したがって,絶対ユークリッド座標(原点の位置,$${\hat{x } }$$,$${\hat{y } }$$の方位)がなければ,非等価なPTはその「全域的な」振る舞いが異なるだけで,どんなに大きな有限領域を検査してもそれらを識別することはできない.
局所的識別不能性のより強力で定量的なバージョンは:$${T}$$のすべての有限パッチが$${T^′}$$に現れ,その逆も同様に成立するだけでなく,異なる有限パッチの相対的な頻度も同じである.実際,相対頻度はインフレーション・ルールからのみ計算できる.

もう一つの重要な特徴は,局所的な復元可能性である:任意の有限領域$${K}$$のパターンは,補空間領域$${K^c}$$のパターンから一意に復元できる.$${K^c}$$から$${K}$$へとAmmannバーを延長することができるため平面全体のAmmannバーを回復することができ,したがって,PT全体が回復できる.

■ QECCsの原理
保護したい量子情報は,ヒルベルト空間$${H_0}$$内の量子状態であるとする.QECCは,この量子状態を慎重に選択された冗長性とともに保存することで,ある種のエラーを識別し修正することができる.正確に言えば,"裸 "または "論理 "の量子状態のヒルベルト空間$${H_0}$$は,コード空間と呼ばれる慎重に選択された部分空間$${C}$$として拡大されたヒルベルト空間$${H}$$に埋め込まれることによって "符号化 "される.

本論文で扱う訂正可能なエラーは,任意の有限空間領域$${K}$$の消去で,結局,領域$${K}$$の任意のエラーは訂正可能である.
領域$${K}$$の消去が訂正可能であるのは,$${K}$$が論理情報を含まない場合,すなわち,符号空間$${C}$$の様々な状態が,$${K}$$において識別できない場合に限られるというのが基本的な事実[10, 11]である.Eq(1)参照.
空間領域$${K}$$は固定されていないことに注意しよう.空間全体を,それぞれがQECC条件を満たし,情報を含まない,このような多数の$${K}$$の合併に分解することができるから,QECCでは,量子情報は "全域的 "に保存される.

$${H}$$を$${H_{K}⊗H_{K^c } }$$と考えると(ここで,$${H_K}$$と$${H_{K^c } }$$は,領域$${K}$$と,補空間領域$${K^c}$$のヒルベルト空間である).識別不能性は次のようになる:

$${Tr_{K^{c } } |ξ⟩⟨ξ| = Tr_{K^{c } } |ξ^{'}⟩⟨ξ^{'}|}$$                                          (1)
$${^∀|ξ⟩ ,|ξ^′⟩∈C}$$は正規化されている(ここで、$${Tr_{K^c } }$$は$${H_{K^c } }$$のトレース).
空間$${C}$$が状態 $${|ψ_i⟩}$$で張られるとすると,式(1)は次の式と等価である.
$${Tr_{K^c} |ψ_i⟩ ⟨ψ_j| = ⟨ψ_j|ψ_i⟩ ρ_K}$$,    $${^∀i, j}$$     (2)

ここで,$${ρ_K}$$($${H_K}$$の演算子)が$${i,j}$$に依存しないことが重要である.上記の基準では,$${\{|ψ_i⟩\} }$$は正規化されていないか,直交していないか,あるいは過完備である可能性がある.証明は付録Aを参照.
保護される状態 は "基底 "状態$${|ψ_i⟩}$$に限定されないで,任意の重ね合わせ量子状態($${C}$$の任意の状態)でよいことを強調しておく.

このような背景を踏まえて,任意の有限空間領域$${K}$$で任意の消去とエラーを訂正することのできるPT QECCを構築する準備が整った.

■ Constructing the PT QECC
ペンローズ・タイリングの集合$${\bar{T } }$$ を考える.$${T}$$ が$${\bar{T } }$$中の特定のPTを表すとすると,$${gT}$$は,$${T}$$から2次元ユークリッド変換(平行移動、回転)によって得られるPTを表す.
$${[T]=\{gT\} }$$は,"2次元ユークリッド変換で$${T}$$に等価なすべてのPTの類を表す.

タイリング$${T}$$は,量子力学的ヒルベルト空間$${H}$$の状態$${|T ⟩}$$とみなすことができる.
平面$${R^2}$$を任意の空間領域$${K}$$と補空間領域$${K^c}$$に分割すると,タイリング$${T}$$はそれぞれ$${K}$$と$${K^c}$$内の対応する部分$${T_K}$$と$${T_{K^c } }$$に分割される.
これはヒルベルト空間 $${H=H_K⊗H_{K^c} }$$の分解と,それに対応する状態$${|T⟩=|T⟩_{K}|T⟩_{K^{c} } }$$を導く.
ここで,$${|T⟩_K ∈H_K}$$と$${|T ⟩_{K^c}∈H_{K^c } }$$は,それぞれ$${T_K}$$と$${T_{K^c } }$$にのみ依存する.
2つのタイリング$${T}$$と$${T^′}$$が異なる場合(異なるとは,絶対座標系が存在する場合に異なるという意味であり,全体的なユークリッド変換によって異なるだけの2つのタイリングでさえも,一般的には異なる),それらは$${H}$$における直交状態によって表される.
$${⟨T^{′}|T ⟩ = δ(T^{′}, T)}$$                                  (3)
同様に、$${K}$$において$${T}$$と$${T'}$$が異なる場合
($${ T_{K} \ne T^{'}_{K } }$$),$${ |T⟩_K }$$と$${ |T^{′}⟩_K}$$は$${H_K}$$において直交する.
各同値類$${ [T]}$$に対して,波動関数が定義される
$${|Ψ_{[T]}⟩ =\int dg |gT⟩ }$$,        (4)
ここで,すべてのユークリッド変換 $${g}$$ を重ね合わせるので,
$${|Ψ_{[T]}⟩}$$は$${[T]}$$にのみ依存する.図3参照.
この論文の主たる主張は,状態$${ |Ψ_{[T]}⟩}$$は,任意の有限領域$${K}$$でエラーや消去を訂正するQECCのコード空間$${C\subset H}$$の直交基底を形成することである.

 

 

図3 波動関数Eq(4)のイラスト.
(無限)Penroseタイリング$${T}$$が与えられたとし,右辺の各項は$${gT}$$によるユークリッド変換バージョンを表現している.同一タイリングを並進や回転させた変換$${gT}$$'sの中から4つのパッチが描かれている.

 

$${⟨Ψ_{[T]}|Ψ_{[T']}⟩=0}$$,          if $${[T]\ne [T']}$$のとき 
$${Tr_{K^{c } }|Ψ_{[T]}⟩⟨Ψ_{[T′]}|=0}$$,   if $${[T] \ne [T]}$$のとき
                       $${=⟨Ψ_{[T]}|⟨Ψ_{[T]}⟩\rho_{K } }$$,   if $${[T]=[T']}$$のとき (5)

Eq(5)の始めの条件は,幾何学的PTの回復特性から得られる.Eq(4)に注意すると,$${ Tr_{K^{c } }|Ψ_{[T]}⟩ ⟨Ψ_{[T′]}|}$$が消えるのは,2つの古典的配置$${T,T'}$$(異なる類に属する$$ [T]\ne [T ′] $$)が$${K^c}$$上で異なる必要がある.言い換えれば,$${K^c}$$での配置は,それが属する同値類で一意に決定される.これはPTの回復可能性で保障される.

Eq. (5)の2番目の条件を調べるのに,明示的な計算をしよう:

$$ Tr_{K^c} |Ψ_{[T]}⟩ ⟨Ψ_{[T]}| =\int \int dg′dg δ(gT, g′T) |gT⟩_{K}⟨g′T |_{K}=\int dg′′ δ(T, g′′T ) ·\int dg |gT⟩_{K}⟨gT|_{K} .  $$      (6)

ここでも,最初の等式は PT の回復可能性による.$${Tr_{K^c} |gT⟩ ⟨g′T |}$$が非ゼロになるためには,$${gT}$$ と$${g'T}$$ が $${K^c}$$ で一致し,したがって全域で一致する必要があり,デルタ関数が得られる.$${δ(gT, g'T)}$$ は差 $${g'' = g^{−1}g'}$$ にのみ依存するため,2 番目の等式が続く.

因子$$ \int dgδ(gT, T) $$は,次のように$$ ⟨Ψ_{[T]}|Ψ_{[T]}⟩ $$に比例することに注意せよ.
同じ引数であるため,$${ρ_{K,[T]} =\int dg |gT⟩_{K} ⟨gT|_{K } }$$ が実際には$${T}$$に独立であることを示すだけで十分だ.

これはまさに PT の局所的識別不能特性である.実際,$${ρ_{K,[T] } }$$ は,$${K}$$ を回転および平行移動することによって$${T}$$ に現れる可能性のあるすべての局所パターン $${T_K}$$ の古典的な混合物であり,相対頻度によって重み付けされている.

局所的な識別不能性、つまり局所パターン $${T_K}$$ (相対頻度を含む) がすべてのタイリング $${T}$$ で同じであるということは,$${ρ_{K,[T] } }$$ が $${T}$$ に依存しないことを意味する.
要約すると,Penroseタイリングの特性を利用することにより,任意の有限領域内の任意のエラーと消去を訂正できる QECC を構築した.このコードでは、コード空間 $${C}$$ で各基底状態$${|Ψ_{[T]}⟩}$$ が,同値類$${ [T]}$$ 内のすべてのタイリング $${|T⟩}$$ に対する量子重ね合わせで,典型的なコード状態は,そのような基底状態(つまり,異なる同値類$${ [T ], [T'],...}$$)の量子重ね合わせとなる. したがって,量子情報はPenroseタイリングがどのように重ね合わされるかという量子幾何学構造にエンコードされる.