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平面群

反対称性とその一般化(1,2)

反対称性の一般化
A. M. Zamorzaev ,Comput.Math.Applic. Vol.16,No.5-8pp.555-5621988

A. V. Shubnikovは,古典対称性の根本的な拡大として,反対称性の概念を導入した. 
その後,反対称性は自然科学の分野で数多くの応用を見出し,多重反対称性,色対称性,色反対称性,クリプト対称性,P-対称性,などの形で一般化された. 
反対称性とその一般化の発展について,ここに解説する. 

第1章 
シュブニコフがフェドロフ理論の拡大に果たした豊かで多様な貢献に注目し,今日の結晶学者誰もが,反対称性の発見こそがこの分野における彼の科学的研究のハイライトと判断している(例えば, 文献[1, p.2]を参照).反対称性の概念を最初に導入したのが誰であったかは,この際どうでも良い(60年代にはこの問題の真相に注目が集まりすぎた).重要なのは,幾何学的な対称性に物理的な変化を加えることによって,対称性をより豊かにするという応用的な価値に注目したのは,シュブニコフだったということだ.ソビエト結晶学派は,対称性の理論のさらなる改良は,それが自然科学の実践で機能するか,将来的に機能する場合にのみ価値があると常に考えていた [1, p. 76]. 
彼は,現代ではすべての結晶学研究者に必要な知識となった,根本的な新しい流れを生み出しました. 
(シュブニコフの反対称性[2]とベーロフの色対称性[3]の概念は,必須知識になった.修士課程の試験問題や百科事典[4]で取り上げられている). 
反対称性の発展,その一般化,応用については は,モノグラフ[5-9],総説[l0-14],著名な書籍[15]の第9章で紹介されており,筆者は以下でこれらを断りなしで引用する. 
この論文は,反対称性,その拡大,あるいはその幾何学的応用に関するすべての文献を網羅するものではないことを申し添えます.他の著者を別にして,キシニョフの幾何学者たちだけで,これらの問題について書かれた100以上の著作があり,上記の書籍や論文に引用されているからです [5-15].

第2章 
シュブニコフ100周年は,古典対称性の深層にある反対称性概念の起源から60周年と重なる.20世紀初頭のX線回折の発見と結晶構造解析の進展は,ドイツの数学者による$$n$$次元空間群$$G_{n}$$の一般理論の展開とほぼ同時で,フェドロフ理論を広く実用化することになった.したがって,20年代に結晶学者が対称性理論の詳細に重点を置くようになったのは偶然ではなく,その結果,(主にドイツとスイスの科学者による)「小」結晶群の説明を含む多くの著作が出現したのである.
31の帯群$$G_{321}$$, 80の層群$$G_{32}$$,75の丸棒群$$G_{31}$$は,230のフェドロフ群の部分群[特異(不変)平面や特異直線を持つ]として導出された.
ヘーシュHeeschとシュブニコフShubnikovは,シュパイサーSpeiserが1927年に提案した$$G_{321}$$群の解釈を受け,2年後にウェーバーWeberが$$G_{32}$$群に関連して実現した図[黒白の色を使い単面平面上に描画した双面平面(帯,層)]のアイデアに深い感銘を受け,その結果,互いに異なる方法,異なる時期に,独立して,反対称の概念の厳密な定義にたどり着いたのである.

1930年,数学者Heeschは,80の層群$$G_{32}$$(2次元群の黒-白群$$G_{2}^{1}$$)の導出を,17層の2次元Fedorov群$$G_{2}$$から,4次元の”超層”群$$G_{43}$$(3次元の黒-白群$$G_{3}^{1}$$)の導出を,230のフェドロフ群$$G_{3}$$から行った;同時に,122の4次元の点群$$G_{430}$$(黒-白3次元群$$G_{30}^{1}$$)を32の結晶点群$$G_{30}$$から導出した.
Heeschは基本的に古典群の多次元生成の問題に関心を持っていた(そのため,彼の研究は,適切な時期に,結晶学者に注目されなかった),それとは異なり,シュブニコフは,反対称性の概念を, (物理的性質の変化による)古典的対称性の基本的な拡大としてのみ定式化し,本質的にこの考えを発展させることができた(ただし15年後のことである):ヘーシュはビーベルバッハとフロベニウスに遡るこの問題の特殊なケースを解決した.シュブニコフは,根本的に新しい問題の基礎を作ったのである.

周知のように,反対称性の本質は,任意の点に" + "または" - "(電荷,黒白の色などの何らかの物理的意味に対し)符号を付与することである.合同変換に従う図形の各点に,変換で図形の点の符号が変わらないか,符号が反転するかで,それぞれ対称変換,反対称変換が定義される.
符号の付与された図形の対称変換は,古典的なものと変わりませんが,すべての反対称変換 は,対称変換と反恒等変換(符号のみ変える演算)との積である. 

対称群と反対称群は,反対称変換の有無によって次の3つのタイプに分類されます: 
(1) 極性群(単色群)または生成群($$\mit\Pi $$),つまり古典的な対称群と同じ. 
(2)中性群(灰色群)または上級群($$C$$),反恒等変換の追加により古典群を2倍にし得られる.
(3)混合極性 (黒白)群,または,ジュニア群($$M$$)は,反恒等変換のない反対称変換を含む.

最後の型の群の導出は,自明なことではなかった.シュブニコフは 古典群の形成要素を対応する反対称変換に置き換えることによって 発見した. 
同一の群を明らかにし,不要な群を削除した後 (その中にシニア群もありうる),32の結晶点群$$G_{30}$$から58の異なるジュニア群が得られた.一般化されたグループ$$G_{30}^{1}$$はすべてで,$$32\mit\Pi +32C+58M=122$$となり,これはHeeschの発見と同じである. 

生成群からジュニア群を導出するShubnikovの方法は,1953年に筆者によって理論的に立証された,1954年にBelovによって,1959年にIndenbomとNiggliによって大幅に補完された[17-20]. 
1953年から1954年にかけて,筆者と Belov とその研究グループは,根本的に異なる方法で,シュブニコフ空間群$$G_{3}^{1}$$の2つの独立した導出を行った; 彼らは 230のフェドロフ群$$G_{3}$$から,$$230\mit\Pi +230C+119M=1651$$の$$G_{3}^{1}$$群を得た(この後,Koptsik [5] によって,新しい方法論での Shubnikov 群の導出が行われた).
同様に,17の群$$G_{2}$$から$$17+17+46=80$$個の2次元シュブニコフ群$$G_{2}^{1}$$(80の層群$$G_{32}$$は幾何学の視点からは,”+”,"-"の解釈を与えている),75の群$$G_{31}$$,80の$$G_{32}$$からは,それぞれ,394($$=75+75+244$$)個の群$$G_{31}^{1}$$,528($$=80+80+368$$)個の群$$G_{32}^{1}$$などが導かれる(表1,2参照).
X線構造解析[21]や結晶物理学[22]における反対称性の応用が登場したのは,1952年から1959年にかけてのことであるが,その凱旋行進が始まり,さらなる拡張-例えば,多重反対称や色対称などが促進された.シュブニコフの晩年の15年間に特に集中的に行われたそれらの発生と発展を追ってみよう.

結晶群の一般化(1)

空間群の発見
群拡大理論による基礎づけ
群の一般化,特性の対称性
対称性.群
結晶空間
フェドロフ結晶空間群
■ 対称性と点群
何らかの集合があり,集合の要素(元)の間に2項演算が定義されていて,
群の条件(群の乗積表で説明)を満たすものを群という.
結晶空間の対称操作の集合の作る群を考えるとき,
結晶空間で1点の特異点(不動点)をもつ対称操作の組み合わせが作る群を結晶点群,
不動点はない結晶空間の対称操作の組み合わせが作る群を結晶空間群という.結晶空間では周期的な格子点をもつので,これらの格子点はすべて同値と見做すならば,結晶空間群は結晶点群に還元できる.
結晶空間群は,並進群を核とする準同型写像で結晶点群と同型になる.
無限に経過する時間を,時計の文字盤(12時間)の閉じ込めるようなもので,無限に繰り返す周期的な空間(結晶空間)を単位胞のなかに閉じ込める.

点群5 5回回転対称軸
点群3m 3回回転対称軸と鏡映面
群の乗積表(鏡映は図形に固着とする). 群の定義.部分群.
■ 結晶空間=周期的な空間.
単位胞(単位タイル)によりデジタル化された空間である.

2次元で演習:
2次元平面を並進だけでタイル張りできる平行凸多辺形タイルは,
平行4辺形(4種),平行6辺形(4種)である.

平面充填の出来る平行多辺形8種類
平行多辺形タイルの等価部分への分割
各平行多辺形を等価な部分に分割すると,図のように40種類の様式があり,これらを対称性の同じものをまとめ整理すると,共型平面群13種類(映進操作を含まないもの)が数え上げられる.点群(並進を含まないもの)としては10種である.ただし,上図の分割様式中に非共型平面群1種類,p2ggがすでに出現している.しかし,共型群(13種類)を求めて,それから,非共型群(4種類)を導くのが王道である.2次元空間群(平面群)は計17種類ある.
詳細は以下の項目参照;



■ 2次元結晶空間群のまとめ

2次元ブラベー格子.A.ブラベー(1850)
■ 3次元結晶空間群
A.M.シェンフリーズ(1853-1928,フランクフルト大,数学)
E.S.フェドロフ(1853-1919,ぺテルスブルグ大,鉱物学)
W.バーロー(1845-1895,ロンドンの実業家)
この3人は,1890-1895の間に互いに独立にそれぞれの仕事を完成させた.

3次元空間を充填するFedorov平行多面体
周期的な3次元空間を充填できる平行多面体は,フェドロフ平行多面体と言い5種類ある.2次元の場合と同様にそれぞれを等価な部分に分割して,対称性の異なるものだけ数え上げると,3次元結晶空間の場合は230種類があるが,そのうちの共型なもの73種類が得られる.さらにそれらから非共型なもの157種類の導出は2次元の場合と同様である.

結晶空間群の発見は,その20年後に実用化される運命であったX線結晶構造解析への準備となった.
1895,W.C.レントゲンがX線を発見.1912,M. vonラウエが結晶によるX線の回折を観測.1913以降,ブラッグ父子によりダイヤモンドなどの結晶構造解析が行われる.

結晶群の一般化(2)

空間群の発見
群拡大理論による基礎づけ
空間群の一般化
群の拡大理論に基づく空間群の記述
A.V.シュブニコフ,V.A.コプツィク(1940~1970)らが,結晶群の構成を群拡大理論に基づき記述しました.これは,あたかも電磁気学におけるマックスウェル方程式のような価値があり,群の一般化への道を開いたと言えます.

回転群を拡大して結晶点群を作る.
並進群を拡大して結晶空間群を作る.
結晶空間群を拡大して,シュブニコフ(黒白)群やベーロフ(多色)群を作る.
[定義]
$${H}$$が群$${G}$$の部分群[正規部分群に限定しない]のとき,群$${G}$$のことを群$${H}$$の拡大という.

Lagrangeの定理から,次の展開(直和分解)が保証される: 
$${G=Hg_{1} \cup Hg_{2} \cup \cdots \cup Hg_{s } }$$
部分群$${H}$$の位数は,群$${G}$$の位数の約数であるから,この約数を,部分群の指数$${s}$$という.
部分群$${H}$$の$${G}$$に対する指数$${s}$$(整数)を$${s=\left( G:H \right) }$$と標記する.

{$${ e=h_{1}=g_{1}, g_{2}, \cdots g_{s} }$$}を,群$${H}$$から群$${G}$$を作るための代表系という.

拡大には,正規拡大と非正規拡大がある:

正規拡大   ($${H \vartriangleleft G}$$の場合)
非正規拡大  ($${H \subset G}$$の場合)
非正規の拡大は,この第2回では扱わない.第3回で少しだけ言及する.
Hは正規部分群,→準同型写像,↔同型写像
$${G \to G/H \leftrightarrow G^{*}\textrm{or }G(\textrm{mod}H)}$$

$${H}$$が正規部分群($${H \vartriangleleft G}$$)であるなら
$${Hg_{j} =g_{j}H}$$なので,次の剰余類の積則が成立します:
$${Hg_{j} \cdot Hg_{l}=Hg_{j}g_{l}=Hg_{n } }$$,
すなわち,$${^{ \exists }g_{n } }$$があり,$${g_{j}g_{l} \in Hg_{n } }$$,あるいは,$${^{ \exists }h_{jl,n} \in H}$$をとり,$${g_{j}g_{l}=h_{jl,n}g_{n } }$$になります.
特に,すべての$${h_{jl,n}=h_{1}=e}$$のときは,$${g_{j}g_{l}=g_{n } }$$(代表元の1つ)となり,代表元系は群をつくり,この群を$${G^{* } }$$と標記します.[正規部分群$${H}$$を$${G^{* } }$$で拡大し,共型群が得られる]

一般には,$${h_{jl,n} \neq h_{1}=e}$$であり,
代表元系{$${ g_{1}, g_{2}, \cdots , g_{s} }$$}は,群として閉じません.
そこで,代表元系を閉じさせるために,次の積則を定義するのは自然です.
$${g_{j} \cdot g_{l}=h_{jl,n} \cdot g_{n} \equiv g_{n}(\textrm{mod}h_{jl,n})}$$
代表元系は,この積則(誘導積)に関して,商群$${G/H}$$と同型な群を作ります.代表元系の作るこのような群を$${G(\textrm{mod}H)}$$あるいは,$${G^{H } }$$と標記します.[正規部分群$${H}$$を$${G^{H } }$$で拡大し,非共型群が得られる]

$${G \vartriangleright H}$$ , $${G/H \cong G^{*} \cong G^{H } }$$のとき,$${H}$$の拡大による群$${G}$$の作り方

共型空間群  $${G=H \otimes G^{* } }$$   直積あるいは半直積
非共型空間群 $${G=H \odot G^{H } }$$    条件積
直積で記述できる場合は,$${H, G^{* } }$$ともに$${G}$$の正規部分群であり,$${G/H \cong G^{*},  G/G^{*} \cong H}$$が成り立つ場合であり,半直積で記述されるのは,片方のみが正規部分群,例えば$${H\vartriangleleft G}$$であり,$${G/H \cong G^{* } }$$のみが成り立つ場合である.
条件積が必要になる場合は,一方が法による群(モジュラス群)である場合である.

example:結晶空間群
結晶空間群 $${Φ}$$ には,並進群 $${T}$$ が正規部分群として含まれている($${Φ \vartriangleright T}$$).従って,商群 $${Φ/T}$$ が定義できる($${Φ/T \cong G}$$).
これは,空間群 $${Φ}$$ は並進群 $${T}$$ を核とする準同型写像(並進で移動した点はすべて同値)で,結晶点群 $${G}$$ に還元されるという意味である.
群 $${G}$$ は,結晶点群の場合もあるし,並進を法に持つ結晶点群$${G(\textrm{mod}T)}$$ の場合もある.

example:結晶回転群4, 6を,直積や条件積に分解する
$${4=2 \odot 4(\textrm{mod}2)}$$,    $${6=3 \otimes 2}$$

example:並進群を結晶点群で拡大

直方格子を,結晶点群2mmで拡大する 
P2mm 共型空間群,P2mg, P2gg 非共型空間群

 

結晶群の一般化(3)

1.結晶空間群の発見
2.群拡大理論に基づいた空間群の構成
3.群の一般化.特性の対称性
4.対称性の重ね合わせ.対称化と非対称化


3次元結晶群(点群,あるいは,空間群)は,3次元の幾何空間に作用する対称操作が作る群でした.一般化の第一歩は,幾何学的次元とは異なる何らかの超幾何学的な特性(代表して「色」と呼ぶ)空間を付加することで得られました.A.V.シュブニコフは,+/-の2値をとれる特性を,3次元幾何空間の各点に付与しました.これが,反対称群(シュブニコフ群;黒白群)であり,多値の特性を各点に付与したものが色付き群(ベーロフ群;多色群)であります.
もし,付加する特性次元が3次元空間と同様な幾何学的次元であれば,4次元結晶群になります.

シュブニコフ(反対称;黒-白)Ш群
ベーロフ(多色)Б群
超幾何学的特性(色と呼ぶ)を空間に付与する

色付きの空間構造を色の見分けができない眼鏡を通して見れば,すべての点が同一色に見え空間の幾何学的構造だけが見えます.このことから,色付き構造を記述する群$${Б^{(p) } }$$(色特性$${p}$$色)は,同型な結晶群 $${G \cong Б^{(p) } }$$ があることになります.$${p}$$色の色付き構造のうちで同色の同価点系が作る$${G}$$の部分群を$$ {G^{* } } $$とすると,色特性の数$${p}$$は,部分群$${G^{* } }$$の群$${G}$$に対する指数(それぞれの群の位数の比で整数)になります:$${p=(G^{*}:G)}$$

$${G^{* } }$$が$${G}$$の指数$${p}$$の正規部分群であるなら,$${G}$$に同型な$${p}$$色の色付き群$${Б^{(p) } }$$は,群$${G^{* } }$$を色置換群$${P}$$で拡大した正規拡大$${Б^{(p)}=G^{*}\otimes P}$$として得られます.

■ シュブニコフ結晶空間群Шは,Шと同型な古典空間群$${G}$$の指数2の部分群$${G^{* } }$$(注:指数2の部分群は常に正規部分群)を,位数2の反対称演算の群,
$$ m'=\{1,m'\}, 2'=\{1,2'\}, \bar{1}'=\{1, \bar{1}'\}, 4'=\{1,4'(\textrm{mod}2)\} $$,あるいは,反対称格子や,反並進を含む並進群$$ \tau'(\textrm{mod}2 \tau)= \{1, \tau'\} $$で拡大して得られます.

■ ベーロフ$${Б^{(p) } }$$結晶空間群
$${p}$$色の色付き3次元結晶空間の対称性に関します.$${Б^{(p) } }$$群は,色の見分けの出来ないフィルターを通して見れば1色に見えますから,これに同型な何等かの古典群Φ:$${Φ\congБ^{(p) } }$$があり,Φの正規部分群で,指数$${p}$$のものを$${G^{* } }$$とすると,$${Φ/G^{* } }$$に同型な,色置換群$${P}$$を用いて,$${Б^{(p)}=G^{*}\otimes P}$$のように正規拡大の型で$${Б^{(p) } }$$群が得られます.あるいは,以下の$${p}$$色巡回置換の並進群を用いて拡大します.
$${\tau^{(p)}(\textrm {mod}\tau)=\{ \tau^{(p)}, ( \tau^{(p)})^{2}, \cdots , (\tau^{(p)})^{p}=\tau \equiv 0(\textrm {mod}\tau) \} }$$

このような$${Б^{(p) } }$$群を標記するには,その生成群を明示しての次のように標記します:$${Φ/G^{* } }$$

Ш群や$${Б^{p } }$$群は色付きの結晶空間群を念頭に記述しましたが,色付きの結晶点群に限定して記述するのは,理解しやすい良い方法かもしれません.色巡回置換による群は,Niggli,Indenbom,Belov,Neronova(1959,1960)が,古典群の正規部分群を含むものはWittke(1962)が研究しました.色付き群の分解表現は,Shubunikov,Koptsikが導き,73種類のWittke-Garrido群$${G_{WG}^{(p)}=G^{(p)*}・G^{* } }$$と,これに同型なVan der Waerden-Burckhardt群$${G_{WB}^{(p)}=G^{(p_{1})*}・G^{(p_{2})* } }$$を導きました.全$${G_{WB}^{(p) } }$$と$${G_{WG}^{(p) } }$$の数え上げは,Koptsikの下で,Kuzhukeev(1972)の修士論文でなされました.
部分群$${G^{(p_{2})*}\subset G_{WG}^{(p) } }$$は,最後に決まった色を保存し,群$${G_{WG}^{(p)* } }$$の中の色置換の型$${G^{(p)* } }$$は始めの点の採り方に依存します.

色付き空間群の導出は,1969年ザモルザエフにより始められ,3色,4色,6色までの空間群の数え上げが行われた.色付き空間群の色の塗り替え演算が,色並進群にあるものと,色並進を含まない群とに分類でき,さらにそれぞれに共型なものと非共型なものに分類できる.色空間の対称操作は幾何的結晶空間の対称操作と連動するために,許される色数$${p}$$は制限があり,最大で48色,以下24,16,12,8,6,4,3色です.正規拡大による色付き空間群の数え上げは完了しました.

■演習
2次元2色(黒白)結晶点群を求める


2次元結晶点群10種
2次元結晶点群から導ける黒白群11種.赤の記号は反対称演算成分を持つ.

シュブニコフ群

3次元空間(幾何学的空間)の対称群 $$G$$ の一般化は,A.V.シュブニコフの”反対称的に等価”という概念から始まりました.結晶(幾何学的)空間で定義した”対称的に等価”という概念[鏡映対称,回転対称,あるいは(平行移動)並進などで重なる]は,幾何学的空間で行われる対称操作を定義し,それらの対称操作の作る群(点群や空間群)として,空間の対称性が記述できました.シュブニコフの考えた”反対称的に等価”という概念は,幾何学的な空間とは別の次元の空間で行われる対称操作を導きます.空間の位置は動かさず,空間の点の特性(例えば,色)を,塗り変える操作をイメージしてください.黒⇔白,+⇔-,などの2値の特性の変換が”反対称的に等価”の例です.幾何空間での変換と特性空間(代表して色空間と呼ぶ)での変換とを結合した一般化された変換は,反対称群(黒-白群,あるいは,シュブニコフ群)という従来の点群や空間群を拡張した新しい対称群を生み出します.

このような反対称(黒-白)群は,群の拡大という数学理論で興味深いだけでなく,その結晶構造で観測される特性の対称性記述に有用です.


磁性体の磁力は,その結晶構造中の鉄などの磁性の原子やイオンが所有する磁気モーメント(その原子に束縛されている電子の自転-スピン-で,スピンベクトルは上向-下向の2値をとります)の総和です.結晶構造中の磁性原子の位置に,スピンの向きの矢印を書き込んだ図の例をご覧ください.

一般に,原子の磁気モーメントは,各原子に束縛されている電子の軌道角運動量とスピン角運動量の総和ですが,外殻に3d電子をもつ遷移金属 Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Niでは,スピン角運動量で磁気モーメントが決まります.
ただし,正確に言うと,3d電子がそれぞれの原子に(局在)束縛されているのは,酸化物,Fe2O3,NiOなどでの話で,Fe, Coなどの金属結合状態にあるCo, Feなどでは,3d電子はブロッホ関数で記述される周期的な電子雲となり結晶全体に広がり,エネルギー・バンドを形成します.上向きスピンと下向きスピンが占有する状態密度の差だけのスピン角運動量が残ります.
磁性の予備知識はここまでにして,主題の反対称群に話を戻します.

結晶構造の原子の位置は,3次元幾何空間(結晶空間)の座標で指定でき,結晶構造の対称性は従来の空間群で記述できます.しかし,結晶構造中の磁性原子の電子スピンの反転対称操作は,幾何学空間とは別次元の”特性(色)空間”で行われるものです.強磁性体の特性を記述する対称操作は,幾何世界の対称操作に,スピン空間での対称操作を結合した”一般化された対称操作”で,これらの結合された対称操作の作る群が反対称群です.

特性の2値は;スピンの↓・↑,電荷の+・ー,など;色々なものがありますが,特性を代表して「色」と呼ぶことにし,特性が2値のものは,反対称群(黒-白群,シュブニコフ群)になります.
可能な特性値を多値$$p>2$$の空間に拡張すれば,それらは,p-色の色付群,あるいは,ベーロフ群と呼ばれるものになります.幾何学的空間の点の配置に関する限り,従来の対称群(点群や空間群)で記述されますが,それらの点を$$p$$色に塗り分けたものの対称性の記述は,このベーロフ群を用います.
$$p$$-色で塗分けるといっても,適当に塗るのではなく対称操作に従って塗分けるのですから,同じ色について同数ずつあるはずです.そして,p色の色置換は,幾何学的空間の変換と結びついているので,$$p$$の数は空間の対称操作の位数と矛盾しない数値に限定されます.

ここでは,まず,黒-白群(2色の色付群)の作り方を説明します:
黒-白群$$G'$$で記述される黒と白の点で構成された構造が与えられたとします.①もし,色が判別できない眼鏡を通して見たとすれば,これらの点は皆同じ色ですから,普通の幾何空間での対称群Gで記述できるはずです.ゆえに,当然,$$G’$$と$$G$$は同型な群です: $$G’≅G$$ .
②この構造中の黒,白の点は,色反転操作で互いに入れ替わらなければならないので,同数ずつあります.従って,群$$G’$$は次のように剰余類展開できます. 

$$ G^{*} $$は,$$G$$の指数2の部分群で,同色の点を変換する(色を変えない変換よりなる)部分群.$$g'$$は位数2の色の塗り替えを伴う変換操作です.
$$G’$$の剰余類展開  
$$
G'=G^{*}\cup G^{*}g' ,  G^{*}⊂G
$$
反対称群$$G’$$は,同型な古典群(従来の群)$$G$$と $$G^{*}$$ 
を用いて,2項記号 $$G/G^{*}$$ と標記されます.
$$G’$$の剰余類展開の式で,第1項は対称演算の集合の作る群,第2項は反対称演算の作る群で,両者の合併集合として反対称群$$G’$$が表現されています.

古典的な3次元結晶空間群230種類は,点群と並進群を掛け合わせて「並進群を点群で拡大して」得られます.反対称群も同様ですが,反対称要素が点群の方にあるために得られる反対称群は674種類,並進の方に反並進があるために得られる反対称群は517種類であることが知られています.


表紙の図は,簡単な反対称の例で,体心格子 I の格子点のうち同一色の格子点は単純格子 $$P$$ ですので,これを反対称群の2項記号で標記すると$$I/P$$
となります.この反対称群の格子点を定義するベクトルは$${a, b, c, \tau’}$$で,$$\tau=(a+b+c)/2$$.$$\tau$$は,体心の位置を指定するベクトルです.’がついている意味は,これが色を反転する並進操作であることを示しています.この簡単な反対称群は反並進が起因で生じた群です.

反対称群(シュブニコフ群)やp-色の色付き群(ベーロフ群)は,3次元の空間次元+1次元の特性空間で定義されますが,
特性空間も3次元空間と等価な場合の4次元空間群の特殊な一部と見做すこともできます.

koptsik-ch12-8 341-

    我々はすでに等式の対称性に言及し始めている.物理理論の分類が,これらの理論の基礎方程式を不変に保つような自己同型群に基づくことを強調するのは重要である.このような分類への道は,クライン(1872)の「エルランゲン計画」-幾何学から,等長,アフィン,射影の不変部分を分離する-,および,古典電磁気学と特殊相対性理論の方程式が許容する変換の分析に関するローレンツ(1895)とアインシュタイン(1905)の研究によって切り開かれたものである.基本群の変化は,常に理論構造を変える. 
したがって,ニュートンの古典力学は,ガリレオ・ニュートン変換, 
$$x_{i}^{'}=x_{i}+v_{i}t , x_{i}^{'}=x_{i}+a_{i} , x_{i}^{'}=D_{ik}x_{k} , t'=t+b , D_{ik}D_{kj}=\delta _{ij}$$
($$\delta _{ij}=1$$ for $$i=j$$, $$\delta _{ij}=0$$ for $$i \neq j$$, $$i, j, k=1, 2, 3$$)
の下で不変な命題の集合であり,均一で等方な幾何空間と均一な時間に対して,連続した10のパラメーターの対称群を形成している.
運動法則は、これらの変換によって関連づけられたすべての等価座標系において同一の(共変)形式をとり,これには一定速度$$v_{i}$$で相対運動する慣性系(ガリレオの相対性原理)も含まれる.
特殊相対性理論,(相対論的)量子力学,電磁気学の運動方程式は,ローレンツ変換のもとでは不変であり,最も単純な場合,
$$x'_{i}=\displaystyle \frac{x_{i}-vt}{\sqrt{1-\beta ^{2 } } }, x'_{2}=x_{2}, x'_{3}=x_{3}$$,
$$t'=\displaystyle \frac{t+(v/c^{2})x_{1 } }{\sqrt{1-\beta ^{2 } } }, \beta =\displaystyle \frac{v}{c}$$

これらの方程式は,光速$$c$$よりも小さな速度で$$x_{1}$$軸に沿って移動する相対論的に等価な(慣性)座標系を関係づけている(アインシュタインの相対性原理).
   上記理論の不変性は,幾何学的座標と時間からなる4次元空間$$\left\{ x_{1}, x_{2}, x_{3}, x_{4}=ict \right\} $$における均質性と等方性を反映している(虚数単位$$i$$の導入は時間座標を区別し,理論で空間を数学的対象として見ることを強調するものである).ローレンツ変換は,この空間の測度(4次元ベクトルの長さの2乗,$$x_{1}^{2}+x_{2}^{2}+x_{3}^{2}+x_{4}^{2}-c^{2}t^{2}$$)を保存し,したがって量$$c$$の不変性が導かれるのである. 
1918年,クラインKleinの後継者であるエミー・ノーザーEmmy Notherは,クラインの研究を用いて,有名な定理*を証明した.
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* この定理の歴史と参考文献については,V. P. Vizgin (1972)を参照.
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「座標の連続的な変換と,それに伴う作用積分の変化を消滅させる場の関数の変換には,ある不変量,すなわち保存される場の関数とその導関数の組み合わせが対応する」.Notherの定理から,一般に,任意の孤立した物理系に対して,運動量の3成分,角運動量の6成分,エネルギーという10の保存される運動学的量が存在することが導かれる.これらはそれぞれ,平行移動,幾何学的空間の直交変換(およびガリレオ・ニュートン変換,ローレンツ変換),時間測定の原点の変位を表す変換に対応する不変量である. 
   保存則と物理法則の対称性の関係は,リチャード・ファインマンFeynmanの言葉を借りれば,「ほとんどの物理学者はいまだにどこか唖然としている......」という.これらの続ながりは非常に興味深く美しいものであり,物理学で最も美しく深遠なものの一つである(R. Feynman, R. Leyton, and M. Sands, 1965, pp.52-3, 52-4; A. A. Bogush and L. G. Moroz, 1968 も参照のこと).研究対象の現象に対する法則が微分方程式や代数方程式の言語で定式化されている物理理論であれば,全く同じ方法で対称変換群とそれに対応する不変量を求めることができる.結晶物理のテンソル方程式を例に,このことを説明しよう. 
その一例として,誘電体中の変位ベクトルと電場ベクトルの関係式,すなわち誘電体中の誘電分極現象を記述する式(p.314)がある: 
$$D=\varepsilon E$$ あるいは, $$D_{i}=\varepsilon _{uj}E_{j}$$,   $$i, j=1,2,3$$             (1) 
この例を一般化して,均一なテンソル「効果」場$$A_{pq \ldots r}$$と,「作用」場 $$B_{ij \ldots k}$$の関係式を書き下すと,
$$A=aB$$ あるいは,$$A_{pq \ldots rij \ldots k}=a_{pq \ldots rij \ldots k}B_{ij \ldots k}$$, $$p,q, \ldots ,r,i,j, \ldots ,k=1,2,3   $$(20) 
テンソル$$A, a, B$$を包含直交群$$ \infty \infty m$$で定義すると,それらの成分の変換方程式は次のような形になる.
$$A_{p'q' \ldots r'}=\chi (D)D_{pp'}D_{qq'} \cdots D_{rr'}A_{pq \ldots r}$$ $$p',q', \ldots r',p,q, \ldots r=1,2,3$$ (21)
テンソル$$a, B$$についても同様の式がある[式(2),p315と比較せよ].
式(20)は物理法則を表しており,テンソル$$A, a, B$$の関係は群$$ \infty \infty m$$で許容されるどの座標系でも保存されるはずである.すなわち,式(20)の左辺と右辺は,直交変換の影響を受けて同じように変化する(物理方程式の共分散(covariance)の原理). 
$$A=aB$$ (系$$X_{1} X_{2} X_{3}$$)$$ \Longrightarrow $$$$A'=a'B'$$(系 $$X'_{1} X'_{2} X'_{3}$$) (22)
しかし,テンソル$$A, a, B$$の成分は,一般的に言って,任意の変換に対して不変ではない.
テンソル$$A, a, B$$の行列が不変な直交群$$ \infty \infty m$$の最高位数の部分群は,テンソル$$A, a, B$$の対称群$$G_{A} , G_{a} , G_{B}$$となる (Shubnikov, 1949).
テンソルモデルを用いると、方程式の対称群とその解との間に有用な関係を確立することができる.
   ここで,交叉$$G_{a} \cap G_{B}$$ に属する任意の演算$$g$$を取り上げよう. 定義によれば,テンソル$$a, B$$は,この操作に対して不変である.したがって,この操作のもとで式(20)を変換すると,始めの形式になる,
$$A'=a'B' \Longrightarrow A=aB$$
および,$$g \in G_{A}$$. $$g$$は,$$G_{a} \cap G_{B}$$に属する任意の演算であるから, 
$$G_{A} \supseteq G_{a} \cap G_{B} \equiv G_{a \cap B}$$     (23)
群$$G_{A}=G_{aB}$$ および,$$G_{a \cap B}$$を,その解(これは,仮説により,物理的相互作用の効果を許容している),したがって相互作用のないテンソル場の交叉から決まる方程式の対称群と呼ぶことにする.もし,等式$$A=aB$$等価な解$$A_{i}=aB_{i}$$の集合$$ \{A}={A_{1}, A_{2}, \cdots , A_{i}, \cdots \} $$を認めるなら,
$$G_{(A)}= \cap G_{A_{i } } \cup M \supseteq G_{a} \cap G_{B}=G_{a \cap B} , G_{A_{i } } \supseteq , \subset $$ or $$ \not \supset G_{(A)} \supseteq G_{a \cap B}$$    (24)
ここで,$$G_{A_{i } }$$ または,その同型な類似物$$G_{A_{i } }^{(p)}=SG_{A_{i } }S^{-1}$$可能な解の1つの対称性を表現し,$$M$$は解系の対称化演算,$$G_{(A)}=G_{aB}=G_{a} \cap G_{(B)}; G_{(B)}= \cap G_{B} \cup M$$となる.
もし,$$A=aB$$に対応する方程式系が,非互換incompatibleであれば,解集合は空であるり,形式的に$$G_{(A)}= \infty \infty m \supseteq G_{a \cap B}$$と書くことができる.
これらの方程式に対して,関係式(23),(24)は,系の部分と全体の間に存在する一般的な関係(16),(17)を表現している. 
例えば,作用の同軸の二面体bicone$$\{E \}$$に対応する式(1)の同価解の二面体$$\left\{ D \right\} $$は,水晶の場合,方程式の対称性に一致する.
$$G_{(D)}= \infty /mmm= \infty /mmm \cap \infty /mmm=G_{\varepsilon } \cap G_{(E)}=G_{\varepsilon E}$$
(図220と比較せよ). 

koptsik-ch12-7

式(12)において,$$G_{i}$$, $$G$$ を,(仮想の)孤立状態にある与えられた物体に対して定義される定常状態の対称性群を表すのに使うことにする.また,相互作用のある状態での同じ対象物の群を$$G_{i}'$$,$$G'$$とする.

固定レベルにおいて,異質な部分系$$G_{i}$$の堆積そのもの(これが,交差$$G=\cap G_{i}$$の対称性を決定する;$$G$$は完全で外部作用から孤立)は,それらの相互作用の十分な原因になるが,この相互作用は,別の構造レベルにおいて要素間の新たな同値関係の確立につながらないとすれば,相互作用の無い対象の交叉$$\cap G_{i}$$の対称群は,相互作用のある交叉$$\cap G’_{i}$$の対称群と同じでなければならない.元の状態が対称的であれば,なぜそれが変化しなければならないのか?系の対称化因子(仮説)は登場しないのだろうか?

$$G'= \cap G_{i}'= \cap G_{i}=G$$                 (14)
相互作用が,要素間の新しい同値関係に導くなら,(11)に従い相互作用系の対称化に出会う:
$$G'= \cap G_{i}' \cup M' \supseteq \cap G_{i} \cup M=G , M' \neq \phi , M= \phi $$                 (15)
関係式(15)は,初期状態(11)の場合にも書くことができ,その場合,$$M \neq \phi $$(対称化因子の集合は空ではない). 
式(12)の初期状態$$ \cap G_{i}$$,または,式(11)の$$ \cap G_{i} \cup M$$が,それ自体で,相互作用の十分な基礎となるのであれば,相互作用によって孤立した系が非対称化されることはないだろう.
(12)において非対称化が起こるためには,非対称化因子が含まれていなければならない(新しい群$$G_{i}$$がその役割を果たす).
しかし,これらの因子が,群の初期の交叉により,孤立系に出現することがあらかじめ決まっているのであれば,なぜこれらの因子が交叉$$ \cap G_{i}$$を縮小するのか?系の非対称化のために (11)では,ある種の相互関係の要素を,集合Mから,排除しなければならない.もし,この合併 が対称的であり,相互作用を決定していたのであれば,合併$$ \cap G_{i} \cup M$$, から対称化因子が抜け落ちるのは何故か?

   これまでの議論は,$$\textbf{十分な理由の原理}$$*に基づき,$$ \textbf{定常状態の保存則の定式化} $$(以下に示す)を導き出した.相互作用の無い状態の対称性は完全に保存される(14).初期状態の対称性は, (増加することはあっても)減少することはない(15).
この観点から,この議論の根底にある前提条件を満たしていれば,$$\textbf{孤立した系の定常状態での対称性は,相互作用下では増大するのみ}$$である.非対称化が起こるためには,$$\textbf{系の孤立を破壊するような系の拡張が必要である}$$ : 固定された系の外部にある物質的舞台のみが,その定常状態の対称性を減少させることができる.

   対称性の保存の法則は,平衡状態の熱動力学や相転移の理論において重要な役割を演じる.次節では,これらの分野におけるいくつかの例について考えてみよう. 

koptsik-ch12-6

全体の対称性と部分の対称性の一般的関係を定式化するにあたり,全体や部分の概念を精査することは有用である.これらの概念の定義は 論理の公理:「全体はいかなる部分よりも小さくはない」により与えられる.点集合の場合の定義に適用すると,自分自身が要素である無限集合が存在することがわかる.そのような集合のべき乗は,その部分のべき乗と同じになる. 
ユークリッド空間における閉じた有限点集合を図形と呼ぶことにする.
図形Fの任意の2点をMとNとし,それらの間の距離を$$\rho \left( M,N \right) $$とする.関数$$\rho \left( M,N \right) $$の連続性から考えて,我々は常に図の2点A,Bで,すべてのM,Nに対し,$$\rho (A,B) \ge \rho (M,N)$$となるような2点を見出せる.このような[最小の]2点間の距離$$d=\rho \left( A,B \right) $$を集合Fの直径と呼ぶ.
図形をより小さな部分に分割することによって(Boltyanskii, Gokhberg, 1971参照),集合Fをいくつかの部分集合の合併union(被覆covering)の形に表現することができる.
$$F=H_{1} \cup H_{2} \cup \cdots \cup H_{m}$$
部分集合の直径はFの直径より等しいか小さい(図形$$H_{i}$$は互いに重ならない場合もある).
対称性の概念が図形Fで定義されれば,その部分でも定義されることは明らかであり,対応する群$$G$$と$$G_{i}$$の関係の問題は,対称群の重ね合わせの原理を一般化することで解決できるかもしれない.
読者は,この節と次節で多くの方程式を提示されても動揺する必用はない.それは,ほとんどの場合,基本関係(11)を特殊化したもので,次のような形に書き換えることができ,
$$G=G_{i} \cdot G^{D*} \cdot G^{S}=G_{i} \cdot G^{S*} \cdot G^{D**}$$                                  (11*)
(11)から生じる結果は(345頁も参照):$$G_{i} \supseteq G, G_{i} \subset G$$あるいは,$$G_{i} \not\supset \not\subset G$$である.
後者の場合,$$G_{i}$$から$$G$$への移行は,これらの群の共通部分群の対称化$$G_{i} \cap G=G \cdot G^{D}$$,または,これらの共通上位の包含群$$G_{\textrm{emb } } \supseteq G_{i} \cup G$$の非対称化のいずれかによって行われる可能性がある. 
群$$G$$と$$G_{i}$$の基本的な関係を変えることなく,幾何学空間から幾何的物理学(物質的)空間へ移行しても,完全系の各部分間の相互作用の問題は残る. 
さらに,ある(有限または無限)数の部分から構成される形成物の組織的完全性という新たな困難も出現する.これらのことは,幾何学レベルでは実現できた関係の一部しか,幾何物理学レベルでは実現できないことを意味する.

例えば,部分と全体との関係は,原因と結果との関係より広く,部分は全体と因果関係がない場合があることを忘れてはならない(Свечников; Svechnikov, 1971).
他方,完全系の考察中の固定状態を,許容された状態集合の一部と考えると,その状態の対称性は,重ね合わせの原理から生じる関係によって,その系の定常対称群に結ばれることがわかる.この場合,一般化原理は,例えば量子力学の特徴である状態の因果関係の媒介形式を記述するものであり,古典的決定論の原理の枠内には入らない.

式(11)と式(12),あるいはそれに先立つ式は,合わせて対称群の重ね合わせの原理を表している.式(11)は,系の対称化(拡大)または非対称化(縮小)の過程を,いくつかの対称化因子(集合$$M$$の要素)の包含または排除に結びつける.逆に,式(12)では,系の対称化は,いくつかの群$$G_{i}$$を交叉$$ \cap G_{j}$$から除外した結果であり,非対称化は,系にいくつかの新しい非等価の部分構造を系に含めた結果である:この場合,それらに対応する群$$G_{i}$$が系の非対称化因子として機能する.

群$$G$$と$$G_{i}$$の変換の作用下で,系全体とそれを構成する部分構造が保存されるということは,繰り返し指摘したように,その構造と部分構造に結びついたすべての性質と関係が同時に保存されるということである.したがって,対称群の重ね合わせの原理は,純粋幾何学の世界だけでなく,物質系や図形の世界でも成立つ.

群$$G$$と群$$G_{i}$$(または表現の空間で作用するそれらと同型の色群)は,構造または部分構造の要素の幾何学的配置の対称性だけでなく,対応する物理量の変換特性,例えば,物質系の物理特性を記述する一様なテンソル場,および物理場相互や,物質との相互作用で生じる現象も記述する. 

幾何学的な非対称性の原理(12)を物理現象に拡張したのは,ピエール・キュリー(1894)に属するものである.それは,彼の有名な言葉「非対称性が現象を生む」であり,彼自身の言葉を借りれば,次のように理解する必要がある."現象は,特性の対称性($$G_{i}$$),または,特性の対称性の部分群の1つの対称性($$G \subseteq G_{i}$$)を有する媒体舞台で存在し得る.つまり,ある現象にはある対称性の要素が共存していてもかまわないが,対称性のある要素を欠くが必要である.この非対称性が現象を生み出している.原理(12)の定式は,


幾何学的な非対称性の原理(12)を物理現象に拡張したのは,ピエール・キュリー(1894)によるものである.つまり,「ある現象は,その現象が持つ特徴的な対称性($$G_{i}$$),あるいはその特徴的な対称性の部分群($$G\subseteq G_{i}$$)のいずれかの対称性を持つ媒体の中に存在することがある」と理解される.つまり,ある現象にはある対称性が共存していてもよいのだが,その必要はない.しかし,ある対称性の要素が存在しないことは必要である.これが現象を作る非対称性である」 原理 (12) の定式化は次のようになる

 $$G_{\textrm{phenomena }i} \supseteq G_{\textrm{medium } }= \cap G_{\textrm{phenomena }i}$$ または,
$$G_{\textrm{property }i} \supseteq G_{\textrm{object } }= \cap G_{\textrm{property }i}$$                (13)
これを,Newman-Minnigerode-Curie(NMC)原理と呼ぶ.キュリーの定式化は,先人の結果の基礎の上にあり,19世紀の物理学の蓄積した事実を一般化したものである.ここで,この原理の形成の歴史を物語る他の定式を年代順に挙げてみよう.

В. Vivell (1830): 「光学的対称性は幾何学的対称性に正確に対応する」.F. Neumann (1850 - 1885): 「物理的性質に関して,ある材料はその結晶形と同じ種類の対称性を持っている」.W. Minnigerode (1884): 「結晶の対称群は,この結晶で起こりうるすべての物理現象の対称性の部分群である」.ここからキュリーの定式化に移ると,「結晶」という言葉を「媒体(舞台)」という言葉に置き換えればよいことになる.
キュリー自身は,もちろん先人たちも,残念ながら,20世紀の物理学に豊かに存在する構造研究の急速な開花を目撃することはできなかった.したがって,キュリー自身は,「生み出される作用は,原因よりも対称的であるかもしれない」という独創的な推測をしているが,観測された群$$G$$と$$G_{i}$$群間の関係のすべての形態,特に対称化効果(11)を予見することはできなかったのである.
ピエール・キュリーによる複合系の対称性の見つけ方(「自然界の異なるいくつかの現象が重なり合って一つの系を形成するとき,それらの非対称性が積み重なる.その結果,各現象に共通する対称性の要素だけが残る」),現在明らかになったように,異質な系に対してのみ有効である.キュリーの発言の多くが曖昧で矛盾していることから,研究者は繰り返しこれらの発言を批判し,因果関係の原則や十分根拠の原則に基づく他の発言に置き換えてきた(Birkhoff, 1950, 1954; Shubnikov, 1956; Koptsik, 1957-1971; Spassky and Krindatch, 1968, 1971).
このテーマに関する多くの文献があるにもかかわらず,NMCの原理を物理学に応用することは困難であった.例えば,流体力学において,原因の見かけ上の対称性が,それによって引き起こされる作用の対称性を伴わない場合,いわゆる対称性のパラドックスがある(Birkhoff, 1954参照).これは,一般に系の対称性が構成要素の対称群の交叉に還元されないため,式(12),(13)のNMC原理は適用範囲が限定されるためである.また,物理実験の結果決定された系の対称群は,幾何学的な群$$G$$と間違われることがあるが,実際は色群$$G^{(p)}$$である.
例えば,X線回折により2色群$$P4/mm'm'$$を持つ強磁性立方体結晶は,$$\mit\Phi =Pm3m \supset P4/mmm \longleftrightarrow P4/mm'm'=$$; 部分群,$$\mit\Phi ^{*}=\mit\Phi \cup P4/m \subset \mit\Phi $$
のみが,ここでは純粋に幾何学的な変換の群となる.このような場合,(12), (13)では幾何学的な部分群$$G^{*} \subset G^{(p)}$$のみを系の幾何学的対称性としてとらえる必要がある.もう一つの難点は,対称条件はその抽象的な性質上,現象の実現に必要なだけで,十分ではないことだ.系の対称性から予測される現象が観測されなかったり,不安定になったりすることがある.
強調すべきは,対称性の条件を形式的に分析しても,実際の物理現象を注意深く研究し,物理系に対称化または非対称化の要因として実際に作用する物質的要素を見つける必要性から,研究者は解放されないということである.

(12)に加えて対称化原理(11)を用いることで,先に述べた困難の1つが解消される.幾何学系の対称化の例は,本書の初版で紹介した(Shubnikov, 1961も参照).

対称群の重ね合わせの原理の分析を終えるにあたって,孤立系内の構造的なサブレベル間の相互作用と,系同士の相互作用の問題を忘れてはならない.物質系とそのサブシステムは,思考でしか分離できない.現実には,構造や対称性は,孤立した状態系あるいはそのサブレベルとは異なり相互作用がある.