掲示板

平面群

X線の散乱

X線の入射波および散乱波に対してはBorn近似が適用でき,入射波$$ \Psi_{k}(r) $$,散乱波$$\Psi_{k'}(r)$$の状態関数をそれぞれ平面波で近似してよい.空間$$V$$で規格化されたこれらの状態関数を下に示す.
$$ \textrm{exp}[i\omega t] \Psi_{k}(r)=(1/\sqrt{V})\textrm{exp}[i(\omega t-2\pi k \cdot r)] $$
$$ \textrm{exp}[i\omega t]\Psi_{k ' }(r)=(1/\sqrt{V})\textrm{exp}[i(\omega t-2\pi k ' \cdot r)] $$

ここで,$$2\pi k, 2\pi k ' $$はそれぞれ入射波,散乱波の波数ベクトルである.散乱ベクトル$$q$$は
$$q=k' -k$$で定義される.
構造解析の対象となるのは,X線の弾性散乱分である.
弾性散乱では,$$\left| \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
k
\end{array} \right| = \left| \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
k '
\end{array} \right| =1/\lambda $$,$$q=2\textrm{sin}\theta /\lambda $$が成立する(ここで,$$2\theta $$は散乱角;$$\lambda $$は実験に用いたX線の波長;$$V$$は散乱体の体積).X線の散乱を惹き起こす原因となるポテンシャルは物質の電子分布密度$$\rho (r)$$であるので,散乱振幅$$F(q) \equiv <k|\rho (r)|k ' >$$は:
$$ F(q)=\displaystyle \int_{- \infty }^{+ \infty }\rho (r)\Psi ^{*}_{k}(r)\Psi _{k ' }(r)d^{3}r=(1/V)\displaystyle \int_{- \infty }^{+ \infty }\rho (r)\textrm{exp}(-i2\pi q \cdot r)d^{3}r $$
このように,散乱振幅$$F(q)\equiv<k|\rho (r)|k ' >$$は,$$\rho (r)$$のFourier変換$$Tr$$にほかならないことが理解される.
$$F(q)=Tr\left[ \rho (r) \right] $$

$$\rho (r)=Tr^{-1}\left[ F(q) \right] $$

Fourier変換で結ばれる$$\rho(r)$$と$$F(q)$$の対称性は同一である.

結晶格子$$Ш(r)$$は,$$ \displaystyle \lim_{N \to \infty }Ш_{N }(r) $$

$$ Ш_{N}(r)=\displaystyle \sum_{1}^{N1}\displaystyle \sum_{1}^{N2}\displaystyle \sum_{1}^{N3}\delta [r-(m_{1}a_{1}+m_{2}a_{2}+m_{3}a_{3})] $$

$$\delta(x)=\displaystyle \int_{- \infty }^{+ \infty }\textrm{exp}(-i2\pi x \cdot y)dy$$

$$\rho_{0}(r)$$を単位胞とする周期的な電子分布は,コンボリューション★を用いて次式のように表現できる.
$$ \rho (r)=\rho _{0}(r)★Ш(r) =\displaystyle \int_{- \infty }^{+ \infty }\rho_{0} (r)Ш(r-\tau)d^3\tau$$

$$Tr[\rho(r)]=Tr[\rho_{0}(r)★Ш(r)]=Tr[\rho_{0}(r)]・Tr[Ш(r)]=Tr[\rho_{0}(r)]・\bar{Ш}(q)]$$

$$\bar{Ш}(q)=Tr[Ш(r)]$$ 結晶格子のFourier変換は逆格子を与える.結晶格子と逆格子は互いに双対である.

すなわち,単位胞の電子分布が結晶格子の周期で繰り返されている結晶からのX線の散乱振幅は,単位胞のFourier変換を逆格子点でサンプリングしたものである.

数学的追補

群$$G$$はその部分群$$H$$に関して剰余類の直和に展開(ラグランジュ展開)できる.特に,$$H$$が正規部分群である場合が重要で,剰余類は$$H$$を法として群(商群)$$G/H$$をなす.

逆に,$$\{a_1,a_2, \dots,a_r\}=G^*$$とし,正規部分群$$H$$を群$$G^*$$で拡大して群$$G$$を得る.

正規部分群$$H$$を群$$G^*$$で拡大して群$$G$$が得られるのだが,$$G^*$$も正規部分群である場合は直積;$$G^*$$が非正規の部分群である場合には半直積;$$G^*$$が$$H$$を法として群となる(モジュラー群)の場合には条件積;で表現する.

ピエールキューリーの原理★

結晶格子を黒格子,その逆格子を赤格子で図示した.結晶格子で水色で塗った部分は単位胞.結晶によるX線の散乱はボルン近似(平面波)が成り立つから,結晶の電子分布$$ρ(r)$$をFourier変換したものが,この結晶によるX線の散乱振幅$$F(q)$$である.

変数$$q$$は観測空間(逆空間)のベクトル,$$r$$は結晶空間のベクトルで,逆空間と結晶空間は,互いにFourier変換で結ばれた「双対空間」である.

結晶の電子分布$$ρ(r)$$は,単位胞の電子分布$$ρ_0(r)$$と格子$$ Ш(r) $$とのコンボリューションであるから,結晶によるX線の散乱振幅$$F(q)$$は,単位胞の電子分布$$ρ_0(r)$$のFourier変換$$F_0(q)$$と,逆格子の積.つまり,$$F_0(q)$$を,逆格子点でサンプリングしたものになる.Fourier変換で結ばれた$$F_0(q)$$と$$ρ_0(r)$$の対称性は同一だが,X線回折像の対称性は,逆格子点のみを問題にするので,$$F_0(q)$$の対称性は回折像の対称性より低い可能性があり,特殊な結晶軌道の対称性が関与する.

結晶構造の対称性とX線回折像の対称性の関係は,ピエール・キューリーの原理「現象が起こる舞台の対称性は,すべて現象に反映されるべきである」という因果律の一例である.

部分構造の重畳で構成された全体系の対称性は,部分構造の対称性より全体系の対称性が上昇する場合も減少する場合もある.これには,非正規の拡大が必要で未解決の困難な課題である.

 

多色群の応用★

黒白群や多色群の応用を見てみよう.Feなどの磁性原子は磁気モーメントを持つ.原子の位置は空間の座標で指定されるが,原子の磁気モーメントはスピンで決まり,原子の座標とは独立の空間次元となる.各原子の磁気モーメント(軸性ベクトル量で極性ベクトルではないが)を赤い矢印で表現している.この例の6回対称のFe原子配置で考えられる磁気モーメントの6種類の配置が図示されている.ここには,古典群,反対称(黒白)群,3色群,6色群が登場する.

右図はFe2O3の結晶構造.この構造中のFe原子(磁気モーメントをもつ)だけを取り出して,その磁気モーメントの配置を図示したものが左図.
構造Aと構造Bは,全体として磁気モーメントが打ち消しあう反強磁性相.構造Cは全体として磁気モーメントが残る強磁性相.

右図は反強磁性の構造例だが,左図は強誘電体の構造例で,この図に示した小さな矢印は空間内の原子のわずかな変位を示し,磁性体の場合の磁気モーメントとは状況が異なることに注意.

シュブニコフ群へ★

1945年のシュブニコフによる反対称概念の導入で起こる超幾何空間の新しい発展について述べる.
A.V.シュブニコフ(1887-1970)の反対称概念の導入は新しい結晶群の発展をもたらした.この分野はソビエト結晶学派の業績が著しい.2次元平面(単面)で,周期が1次元のもの(帯)と,周期が2次元のもの(面)を考察する.
これらの図形で,模様のモチーフ◥を,黒・白(赤)の2色に塗わけたSpeiserやWeberの図は,単面である2次元平面を,表裏のある層(厚みのある3次元図形)と解釈するきっかけになった.
◆周期が1次元の2次元平面(単面)を単面帯と呼ぶが,その対称群は$$G_{2,1}$$と表示され,7種類ある.7種類の単面帯群$$G_{2,1}$$の模様のモチーフを,2色(この図では黒・赤)に塗り分ける模様は17種類ある.
これは,$$G_{2,1}^{1}$$の型の群である.$$G_{2,1}$$の模様のモチーフに,1′(反恒等操作:位置を動かさずに色だけ変える)を施すと,モチーフは黒でもあり同時に赤でもある状態「灰色」(ただし,群の位数は倍になる)の中性群ができる.これは,$$G_{2,1}$$と同数だけ(7種類)できる.出発となった単面帯群(7種類)から,黒白両面帯群(17種類)と中性両面帯群(7種類)が導ける.

一般群の表記法で,下添え字$$r,t,s$$は,幾何空間の次元,保存される部分空間を表示する.上添え字$$l,p$$は,幾何空間とは異なる性質数,その性質の取り得る値(色数)を表示する.

$$G_{3}^{1,2}$$は,3次元の空間群に,超幾何的性質次元を1つ追加し,その値は2値をとる.これは,3次元より次元が1つ増えるが,増えた次元は空間次元とは異なる.追加された超幾何空間次元は2値しかとれないので,4次元空間群で,3次元空間を保存するものより狭い概念となる.このような特性次元を1つ付加したものは,空間次元を1つ上げた高次元の空間群への準備となった.

[演習]2次元の結晶点群(古典点群)$$G_{2,0}$$は10種であることを図で確認する.
2次元結晶黒白点群$$G^1_{2,0}$$の32種の内訳は,古典点群と中性点群と黒白点群である.

 

古典結晶群3★

このエッシャー作品は,色の区別をせず(純幾何空間的)に見れば,1つのトカゲのモチーフで埋め尽くされている.トカゲの左手の集まっている点には6回回転軸がある.
色を区別する超幾何空間なら,その点には,3色の巡回置換の3回軸と色を保存する2回回転軸が共存する(これを$$6^{(3)}$$と表示).

格子は単純な3角格子である.したがって,色の見分けができなければ古典群$$P6$$,色の見分けができれば$$P6^{(3)}$$の3色群である.

空間群$$G$$には正規部分群として並進群$$H$$が含まれる.$$H$$に関するラグランジュ展開の各剰余類を図解する.並進群$$H$$を法として同値とは,無限に繰り返す格子点に散らばっているトカゲを1つの格子点に還元することであり,格子点のまわりに6匹のトカゲが代表元として存在し,$$\{1,6,6^{2},\dots,6^{5}\}=G^*$$に同型な群をなす.並進群$$H$$の剰余類展開は,代表元の6種類のトカゲをそれぞれ格子点に配した6種類の格子として図解できる.


2次元の格子を,対称性で分類すると5種類(2次元ブラベー格子).2次元には,互いに独立な並進ベクトル2つがとれるので,この2つの並進ベクトルの組を対称性で分類すると5種類であることが理解できる.格子点間の垂直2等分線で囲まれる図形を「ディリクレ胞」(あるいは,ウィグナー=ザイツ胞)というが,「ディリクレ胞」の形で分類したという見方もできる.
空間群には,正規部分群として並進群(格子)が含まれているので,並進群を法として準同型写像をすれば,結晶点群に還元できる.逆に,並進群を格子と矛盾しない結晶点群で拡大して空間群が得られる.

結晶点群とは,周期性(結晶空間)と両立する点群のことで,回転対称性に,5回軸,および7回軸以上は存在しない.

空間群の作り方の一例として,直方(長方形)単純格子の格子点に,点群$$2mm$$の有限図形を配置して,空間群$$P2mm$$が得られることを図示した.
$$P2mm$$は共形群である.点群$$2mm$$の鏡映操作$$m$$を,映進操作$$g$$で置き換えることを考える.映進操作$$g$$とは,鏡映と鏡映面に沿った周期$$T/2$$の並進を組み合わせた操作のことである.したがって,映進を2回繰り返すと,$$g^{2}=T$$となり,格子分だけの移動になる.結晶格子は無限に繰り返すので,並進周期だけ移動した点はすべて同値である.そこで,映進操作,$$ g^{2}=1(\textrm{mod}T) $$は,周期的空間の対称操作となる.

共型群$$P2mm$$から非共型群$$P2mg,P2gg$$が導ける.映進操作$$g$$は,非対称要素(モチーフ)を隣の胞に移動させてしまうが,格子を法として同値とすれば,単位胞内に(還元)引き戻せる.

群$$G$$はその部分群$$H$$に関して剰余類の直和に展開(ラグランジュ展開)できる.特に,$$H$$が正規部分群である場合が重要で,剰余類は$$H$$を法として群(商群)をなす.

空間群の拡大では,正規部分群は非常に重要な役割を演ずる.$$H$$が$$G$$の正規部分群であるとき,$$H$$に関する剰余類は,$$H$$を法として商群$$G/H$$をなす.
逆に,$$\{a_{1}, a_{2}, \dots, a_{r }\}=G^{*}$$とし,群$$H$$を群$$G^*$$で拡大して群$$G$$を得る.
正規部分群$$H$$を群$$G^*$$で拡大して$$G$$が得られるのだが,$$G^*$$も正規部分群である場合は直積;$$G^*$$が非正規の部分群である場合には半直積;$$G^*$$が$$H$$を法として群となる(モジュラー群)の場合には条件積;で表現する.
19世紀末の3次元結晶空間群230種の数え上げは,20世紀結晶構造解析の基礎となる.古典群に関しての概観はここで一段落とする.

古典結晶群2★

◆互いに双対な図形の対称性は同一.
◆鏡映操作と回転操作の違い:
3次元空間の物体とその鏡映像(互いにキラル)は,3次元空間内の運動で物体に重ねることができない.ただし,次元を1つ上げた4次元空間ならばこれは可能である.
◆[必要な群概念]群,部分群,正規部分群,正規列,共役類,群の拡大.
◆対称性の高低とは何かを,部分群の列(正規列,非正規列)で説明する.

[群概念の演習]群の乗積表.点群$$4mm$$の中の部分群と正規部分群を見いだせ.

正規部分群 ; $$2mm$$, 4, 2.        部分群;$$m$$.

正規部分群$$H⊲G$$の定義は,任意の$$a∈G$$に対して$$aHa^{-1}=H$$となることである.
正規部分群であるかのチェックは,「点群$$4mm$$の共役類を調べる」を参照せよ.


互いに共役という関係は同値関係である.効果が同等な対称操作は同じ共役類に属することがわかる.表中に点群$$4mm$$の共役類を色分けし表示した.

◆群の行列表現には,ここでは深入りしない.異値の既約表現の数は共役類の数だけある.

例えば,シクロブタジエン(点群$$4mm$$)のπ電子系の分子軌道(4つのC原子の原子軌道の線形結合)の永年方程式(固有値問題)を解き,エネルギー準位などが求まる.あるいは,4つの原子軌道関数を基底にして作った分子軌道(点群$$4mm$$)の正則表現を簡約して,それに含まれる既約表現を求めるのだが,各既約表現はエネルギー準位に対応する.

点群$$4mm$$には,$$2mm$$あるいは4が正規部分群として含まれる.点群$$4mm$$の正規部分群を核として準同型写像すると,点群$$4mm$$は商群に還元できる:$$4mm/2mm=4$$(mod2), $$4mm/4≅m$$.  

部分群$$C_{2}$$あるいは$$m$$は,$$4mm$$の正規部分群ではないので,ラグランジュ展開はできるが,剰余類は群をなさない.

大きな群は,その正規部分群を,何らかの部分群(あるいは正規部分群)で拡大した構造になっている.これを正規拡大という.非正規の部分群を,何らかの非正規部分群で拡大した構造は,非正規の拡大という.非正規拡大は難問.例えば,部分群$$K$$の共役集合の重畳という構造をもつ代数系(特殊な亜群)などがある.

このエッシャー作品は,色の区別をしないとして幾何空間的に見れば,1つのトカゲのモチーフでできている.トカゲの左手の集まっている点には6回回転軸;
色を区別する超幾何空間なら3色の巡回置換の3回軸と色を保存する2回回転軸が共存する(これを$$6^{(3)}$$と表示).格子は単純な3角格子である.したがって,色の見分けができなければ古典群P6,色の見分けができれば$$P6^{(3)}$$の3色群である.空間群$$G$$には正規部分群として並進群Hが含まれる.$$H$$に関するラグランジュ展開の各剰余類を図解する.並進群$$H$$を法として同値とは,格子点に散らばっているトカゲを代表元1つにまとめることである.こうして,代表元系は,$$\{1,6,6^{2},\dots,6^{5}\}=G^*$$に同型な群をなす.
2次元の格子を,対称性で分類すると5種類(2次元ブラベー格子).2次元には,互いに独立な並進ベクトル2つがとれる.この2つの並進ベクトルの組を対称性で分類すると5種類になる.格子点間の垂直2等分線で囲まれる図形を「ディリクレ胞」というが,「ディリクレ胞」の形で分類したという見方もできる.
空間群には,正規部分群として並進群(格子)が含まれているので,並進群を結晶点群で拡大して空間群が得られる.組み合わされる点群は格子と両立する対称性のものである.一例として,直方(長方形)単純格子の格子点に,点群$$2mm$$の有限図形を配置して,空間群$$P2mm$$が得られる.
$$P2mm$$は共形群である.点群$$2mm$$の鏡映操作$$m$$を,映進操作$$g$$で置き換えることを考える.映進操作$$g$$とは,鏡映と鏡映面に沿った周期$$T/2$$の並進を組み合わせた操作のことである.したがって,映進を2回繰り返すと,$$g^{2}=T$$となり,格子分だけの移動になる.結晶格子は無限に繰り返すので,並進周期だけ移動した点はすべて同値である.そこで,映進操作,$$g^{2}=1(modT)$$は,周期的空間の対称操作となる.共型群$$P2mm$$から非共型群$$P2mg,P2gg$$が導ける.映進操作gは,非対称要素(モチーフ)を隣の胞に移動させてしまうが,格子を法と同値とすれば,単位胞内に(還元)引き戻せる.群$$G$$はその部分群$$H$$に関して剰余類の直和に展開(ラグランジュ展開)できる.特に,$$H$$が正規部分群である場合が重要で,剰余類は$$H$$を法として群(商群)をなす.

空間群の拡大では,正規部分群は非常に重要な役割を演ずる.$$H$$が$$G$$の正規部分群であるとき,$$H$$に関する剰余類は,$$H$$を法として商群$$G/H$$をなす.
逆に,$$\{a_{1}, a_{2}, \dots, a_{r }\}=G^{*}$$とし,群$$H$$を群$$G^*$$で拡大して群$$G$$を得る.
正規部分群$$H$$を群$$G^*$$で拡大して$$G$$が得られるのだが,$$G^*$$も正規部分群である場合は直積;$$G^*$$が非正規の部分群である場合には半直積;$$G^*$$が$$H$$を法として群となる(モジュラー群)の場合には条件積;で表現する.
19世紀末の3次元結晶空間群230種の数え上げは,20世紀結晶構造解析の基礎となる.古典群に関してはここで一段落とする.

古典結晶群1★

◆古典結晶群
結晶空間群の数え上げは,1890年ごろ,フェドロフ(ペテルスブルグ大,鉱物学),シェンフリース(フランクフルト大,数学),バーロー(ロンドンの事業家)により,それぞれ独立に達成された.これは,X線の発見以前の19世紀末の数学的業績で,X線の発見で幕を開ける20世紀に発展する結晶構造解析の基礎となった.

◆平面をタイル張りできる平行多辺形は,平行4辺形,および,平行6辺形を基本とする.平行多辺形は,平行移動だけで平面を隙間なくタイル張りし,周期的な平面(結晶平面)を作る.
結晶空間群の数え上げの方法を理解するために,2次元の結晶空間群(壁紙模様)の例で説明する.平行多辺形である有限図形タイルから出発し,これを等価な部分(非対称要素)に分割する.結晶空間(結晶平面)は周期的なのでデジタル化されている(つまり,単位胞がある).対称性で,平行多辺形を分類すると:一般的な平行4辺形,ひし形,長方形,正方形;一般的な平行6辺形,つぶされた正6角形,正6角形:がある.これらの有限図形を等価な部分に分割したものがこの図.これらの分割様式を対称性で分類すると,共型群13種が得られる.さらに,共型群の3種からは,非共型群4種が導けるので,計17種の2次元空間群(壁紙模様)が得られる.
フェドロフらは,3次元空間群の導出で同様な方法を用いた.2次元では平行多辺形から出発したが,3次元ではフェドロフの平行多面体5種から出発する.

結晶空間=周期的な空間.つまり,デジタル化さた空間なので,単位胞が存在する.点群1点を特異点とする対称操作の組合せが作る群)が,結晶空間の周期性と両立する場合は,回転対称操作には制限(5回回転対称などが周期性と両立しない)が生じ,結晶空間で両立する点群は結晶点群と呼ばれる.
古典結晶群が対象とするのは,「幾何空間」内の対称操作のみだが,幾何空間に色などの特性次元を付与した「超幾何(色)空間」内の対称操作を扱う,黒白群,色付き群,などの一般化された群が発展する.

古典結晶群からシュブニコフ群へ★

 

◆空間群の構成とその一般化の仕組み
群$$G$$はその部分群$$H$$に関して剰余類の直和に展開(ラグランジュ展開)できる:$${G=g_{1}H+g_{2}H+g_{3}H+・・・+g_{r}H}$$
(ここで,$$r$$は部分群$$H$$の群$$G$$に対する指数である)
特に,$$H$$が正規部分群である場合が重要で,剰余類$${g_{1}H, g_{2}H, g_{3}H, ・・・, g_{r}H}$$は,$$H$$を法として群(商群$$G/H$$)をなす:
$$ G/H≅\{g_{1}, g_{2}, g_{3}, \dots, g_{r}\} $$
部分群$$H$$が正規部分群であるとは,すべての$$ g_{j} $$に対して,$${g_{j}Hg_{j}^{-1}=H}$$,すなわち$${g_{j}H=Hg_{j } }$$となることで,この性質のために剰余類の積はその代表系$$ \{g_{j}\} $$の積と同じ振る舞いをし,剰余類間の積はまとまって剰余類に移ることになる.剰余類集合の単位元は$$ g_{1}H=H $$であり,$$g_{j}H$$の逆元の$$g_{j}^{-1}H$$は,ラグランジュ展開の直和性から,必ず存在しなければならない.
従って,剰余類は商群$$G/H$$を作り,代表系$$ \{g_{1}, g_{2}, g_{3}, \dots, g_{r}\} $$はmod$$H$$でこれに同型となる.
このような群の仕組みで,群$$G$$(位数$$g$$)の正規部分群$$H$$(位数$$h$$)を法として,$$G$$に準同型な,位数$${r=g/h}$$の小さい群$$ \{g_{1}, g_{2}, g_{3}, \dots, g_{r}\} $$に還元できる.この原理を逆に使うなら,正規部分群を何らかの群で拡大し大きな群に戻すことができる.拡大に使う群に,反対称や色置換などの特性空間(超幾何空間)の対称操作を導入することで,古典群から黒白群や多色群などへの一般化が行われた.

古典群では3次元幾何空間の対称操作を扱うが,幾何学空間に反対称や色などの特性次元を付加した空間の対称操作を扱うことで,結晶の物理特性にも応用範囲が広がった.

詳細は講演ビデオをご覧ください.会員の山崎純一氏の協力で,字幕を付けたので,大変わかりやすくなりました.

◆2人のシュブニコフ
レフ・シュブニコフ(1901-1937)と,レフより14歳上のアレクセイ・シュブニコフ(1887-1970)がいる.シュブニコフ群のシュブニコフはアレクセイ・シュブニコフで,シュブニコフ=ド・ハース効果に名を残したレフ・シュブニコフとは別人(二人とも優れた物理学者)である.
ロシア人の名前は,(名前・父称・姓)のセットだが,2人とも父称が同じヴァシリービッチ(父親の名がヴァシリー)で,その上,顔もよく似ていると来ては,私は初めこの2人は兄弟であろうと推測した.
しかし,レフの祖父を調べると,ヴァシリー・シュブニコフで,その子に2人の兄弟がおり,兄の方はヴァシリー・ヴァシリービッチ・シュブニコフ,弟の方は,アレクセイ・ヴァシリービッチ・シュブニコフだった.レフ・ヴァシリービッチ・シュブニコフは,兄の方の子供であった.つまり,2人は甥と叔父の関係である.レフの祖父が2人の子供の兄(レフの父親)の方に自分と同じ名前のヴァシリーを付けていたので,私が混乱してしまったのだ.

シュブニコフ群は今回の主題なので後ほど詳しく取り上げる.ここでは,まず,甥のレフ・シュブニコフの悲劇的な生涯を紹介する.彼は,レニングラードのオブレイモフの研究室で金属の完全結晶成長の仕事をし,ビスマス単結晶作製でライデン,ドハース研究所へ呼ばれる(1926-1930).純度を上げる方法でビスマスの良い結晶を作り,シュブニコフ=ド・ハース効果を発見(ビスマスの電気抵抗は磁場印加下で増大するのは既知)した.磁気抵抗の精密な測定は,格子振動による電子散乱をとめる必要があり極低温での測定になる.結晶中の欠陥や不純物でも電子は散乱されるから欠陥のない結晶が必要である.純度を上げる方法で良い結晶を作り,レフは磁気抵抗が印加磁場強度の逆数に比例する周波数で振動することを発見したのだった.シュブニコフ=ド・ハース効果は,フェルミ面の形の影響を受けて起こる現象である.

◆ヨッフェ(1880ウクライナ生まれ,レントゲンの弟子)は,「ソビエト政権の最初の10年間の物理学はモスクワとレニングラードに集中させたが,今や分散の時が来た.産業と結びつく必要のある研究所は工場が存在する場所,産業のある場所になければならない」と主張し,1928年にハリコフ物理工学研究所創設につながった.
レフ・シュブニコフは,帰国しここで極低温研究所を立ち上げ,活発な研究を行った(1930年代).ハリコフの物理工学研究所にはランダウもいた.
ランダウの教育方針は,彼の作成した「理論ミニマム」をマスターすること.最初にランダウの「理論ミニマム」に合格したのは,カンパニエーツ,続いて,リフシッツだった.カンパニエーツは「理論物理学」,リフシッツはランダウと共著の「理論物理学教程」で,日本でも著名な良書である.
ランダウとシュブニコフは親友であったが,どちらもレフ(トルストイもレフ,ライオンの意)と同じ名前であり,痩せたレフと太ったレフと呼ばれていた.

[参照]物性研究(2018.5)斯波 弘行.

結晶群の一般化

1.結晶空間群の発見(1890-1894)

3次元の結晶空間群230種類の数え上げは1890-1894に,フェドロフ(ペテルスブルグ大,鉱物学),シェンフリース(フランクフルト大,数学),バーロー(ロンドンの事業家)により,それぞれ独立に達成されました.

結晶空間と連続空間
周期的な空間を「結晶空間」といいます.周期的な空間とは無限に続くジャングルジムのような格子をイメージしたら良いでしょう.無限に続く格子を,対称操作の集合が作る「群」で表現すると「並進群」です.格子点はすべて等価で,無限に繰り返しているのですからこの世界には端はありません(自分の居る場所が格子点の何丁目何番地か言うことができません).この世界は,1つの単位胞を配列し隙間なく埋め尽くすことができる空間です.すなわち,周期的な空間は,「デジタル化」された空間と言えます.
「結晶空間群」は,結晶空間での対称操作の集合が作る群です.「結晶空間群」を略し,単に「空間群」と呼ぶこともありますが,ここでの議論はすべて「結晶空間」を前提としています.ここでは扱いませんが,もし,「連続空間」の対称操作ならば,任意で微小の回転や並進が許されます.

空間群の発見は,Bragg父子による,結晶構造解析への数学的な準備となりました.これに続く時代の流れは,以下のようです:
1895    X線の発見(レントゲン)      1901第1回ノーベル賞
1912 ラウエの実験(クニッピングの実験)   1912ノーベル賞
1913 構造解析の創始者(Bragg父子)    1915ノーベル賞

2.反対称概念の発見.シュブニコフ(1945)

Speiser(1927)は$${G_{3,2,1 } }$$群[3次元帯群],Weber(1929)は$${G_{3,2 } }$$群[3次元層群]の図を,黒白2色図として,単面平面上に双面平面の描画をしました.この図は,Heesh(1929)とShubnikov(1945)に,反対称の概念を思いつかせました.

Heinrich Heesch(ドイツの数学者)は古典群の多(高)次元一般化に関心があり,彼の研究は,適切な時期に,結晶学者に注目されませんでした.
n次元空間群は,ドイツ,スイスの数学者が関心を持ち;20世紀初頭の結晶学者は帯群,層群などの空間群の内部に興味を持っていたからです.
A.V.Shubnikov(ソビエトの結晶学者)は,反対称性概念を,物理的性質の変化による古典的対称性の基本的な拡大として定式化し,反対称概念の発展が起こります.
Heeschは,BieberbachとFrobeniusに遡る問題の特殊なケースを解決し,
Shubnikovは,根本的に新しい問題の基礎を作りました.

数学と物理学の立場の違い
幾何学空間に物理的な変化を付与して,対称性をより豊かにするという応用的な価値に注目したのは,Shubnikovでした.
ソビエト結晶学派は,対称性の理論の改良は,自然科学の実践で機能するか,将来的に機能する場合にのみ価値があると考えているのです.

帯群,層群
2次元平面の表裏
2次元平面に裏表があると思いますか?それともないと思いますか?
2次元とは厚み方向の次元がない世界です.3次元に慣れ親しんだ我々は内部があっての表面ですが,2次元世界では表面だけで内部がありません.表側面や裏側面の区別が生じるのは,私たちの住む3次元世界に2次元平面を置くからです.2次元世界には,単面平面しか存在しません.
周期的な2次元平面とは,面内に2つの独立な並進ベクトル$${a,b}$$があり,この2つのベクトルで挟まれる平行4辺形を単位胞(単位タイル)として,平面を張り詰めた構造です.周期的な2次元平面の対称性(平面群という)は17種類ありました[17種類の壁紙模様].壁紙模様は,周期的2次元平面(単面平面)の世界で作ったものです.$${17G_{2 } }$$
我々の居る3次元世界の中で,2次元平面を見たときに,表側面と裏側面の区別が生じます.このような双面2次元平面を「層」と呼びます.$${80G_{3,2 } }$$
層の2次元周期的模様の対称性(空間群)は,80種類あります.もちろん,80種類のうちに(単面)2次元周期的模様の対称群(平面群)17種類は含まれます.
$${17G_{2 } }$$から,どのようにして$${80G_{3,2 } }$$が得られるか.
それは,層の内部(層内に収まる)に,対称心,鏡映面(あるいは,映進面),2回軸(あるいは,2回らせん軸),などの,位数2の対称操作を導入し,片面の世界を他の面の世界に写像することで達成できます.つまり,片面のみの壁紙模様の17種類の平面群と,層の内部に置いた位数2の対称群との直積で生成されるのが「層の空間群」で80種類あります.
層の(空間群)対称性をすべて導くことは,1930年代にドイツの科学者;Hermann,Weber,Alexanderらによって完了しています.
層に対する空間群など,何に応用できるのかと思う方もおられることでしょう.層の対称性(空間群)は,表面や界面の記述に用いることができます.結晶学では液晶構造,ドメイン界面,双晶,エピタキシャル接合の研究に,物理化学では単分子層や薄膜の研究に,生物学では膜構造やその他の生体組織の研究に応用できます.また,建築芸術においても, 透かし彫りの格子構造,覆い,フェンス,看板などのデザインに応用できます.

それらにもまして,この概念が重要なのは,単面平面(壁紙)の対称群から双面平面(層平面)の対称群を導く方法論が,「群の拡大理論」を基礎としており,この手法で,色の反転や置換などを幾何空間の対称操作に結び付けて,反対称群,色付き対称群などの群の一般化,高次元化に発展できるからです.

3.群の一般化へ
1956-1970 色付き群(ベーロフ)
1970-    群の一般化(コプツィク,ザモルザエフ)

幾何空間だけの対称群は,「古典的対称群」と呼ばれます.幾何空間の各点に特性(例えば,色,符号など)を付与した空間の対称群は,「反対称群,色付き対称群,一般化群」などと呼ばれ種々あります.これらは,強誘電体,磁性体などの物質の性質の記述に応用されています.

3次元の空間群$${230G_{3 } }$$に,色特性の次元を加えて(反対称,色付き対称)$${G_{3}^{1 } }$$を考えると,4次元空間群の一部$${G_{4,3 } }$$を得ることができます.

References;

Шубников и Копцик, Симметрия в науке и искусстве (1972)
Shubnikov and Koptsik; Symmetry in science and art (1974)
Вайнштейин, Современная кристаллография, том 1(1979)
Заморзаев и др.; Симметрия, ее обобщения и приложения(1978)
Zamorzaev; generalized antisymmetry, Comput.Math.Applic. Vol.16,No.5-8,p555(1988)

(注)一般群の記号について

反対称性とその一般化(1,2)

反対称性の一般化
A. M. Zamorzaev ,Comput.Math.Applic. Vol.16,No.5-8pp.555-5621988

A. V. Shubnikovは,古典対称性の根本的な拡大として,反対称性の概念を導入した. 
その後,反対称性は自然科学の分野で数多くの応用を見出し,多重反対称性,色対称性,色反対称性,クリプト対称性,P-対称性,などの形で一般化された. 
反対称性とその一般化の発展について,ここに解説する. 

第1章 
シュブニコフがフェドロフ理論の拡大に果たした豊かで多様な貢献に注目し,今日の結晶学者誰もが,反対称性の発見こそがこの分野における彼の科学的研究のハイライトと判断している(例えば, 文献[1, p.2]を参照).反対称性の概念を最初に導入したのが誰であったかは,この際どうでも良い(60年代にはこの問題の真相に注目が集まりすぎた).重要なのは,幾何学的な対称性に物理的な変化を加えることによって,対称性をより豊かにするという応用的な価値に注目したのは,シュブニコフだったということだ.ソビエト結晶学派は,対称性の理論のさらなる改良は,それが自然科学の実践で機能するか,将来的に機能する場合にのみ価値があると常に考えていた [1, p. 76]. 
彼は,現代ではすべての結晶学研究者に必要な知識となった,根本的な新しい流れを生み出しました. 
(シュブニコフの反対称性[2]とベーロフの色対称性[3]の概念は,必須知識になった.修士課程の試験問題や百科事典[4]で取り上げられている). 
反対称性の発展,その一般化,応用については は,モノグラフ[5-9],総説[l0-14],著名な書籍[15]の第9章で紹介されており,筆者は以下でこれらを断りなしで引用する. 
この論文は,反対称性,その拡大,あるいはその幾何学的応用に関するすべての文献を網羅するものではないことを申し添えます.他の著者を別にして,キシニョフの幾何学者たちだけで,これらの問題について書かれた100以上の著作があり,上記の書籍や論文に引用されているからです [5-15].

第2章 
シュブニコフ100周年は,古典対称性の深層にある反対称性概念の起源から60周年と重なる.20世紀初頭のX線回折の発見と結晶構造解析の進展は,ドイツの数学者による$$n$$次元空間群$$G_{n}$$の一般理論の展開とほぼ同時で,フェドロフ理論を広く実用化することになった.したがって,20年代に結晶学者が対称性理論の詳細に重点を置くようになったのは偶然ではなく,その結果,(主にドイツとスイスの科学者による)「小」結晶群の説明を含む多くの著作が出現したのである.
31の帯群$$G_{321}$$, 80の層群$$G_{32}$$,75の丸棒群$$G_{31}$$は,230のフェドロフ群の部分群[特異(不変)平面や特異直線を持つ]として導出された.
ヘーシュHeeschとシュブニコフShubnikovは,シュパイサーSpeiserが1927年に提案した$$G_{321}$$群の解釈を受け,2年後にウェーバーWeberが$$G_{32}$$群に関連して実現した図[黒白の色を使い単面平面上に描画した双面平面(帯,層)]のアイデアに深い感銘を受け,その結果,互いに異なる方法,異なる時期に,独立して,反対称の概念の厳密な定義にたどり着いたのである.

1930年,数学者Heeschは,80の層群$$G_{32}$$(2次元群の黒-白群$$G_{2}^{1}$$)の導出を,17層の2次元Fedorov群$$G_{2}$$から,4次元の”超層”群$$G_{43}$$(3次元の黒-白群$$G_{3}^{1}$$)の導出を,230のフェドロフ群$$G_{3}$$から行った;同時に,122の4次元の点群$$G_{430}$$(黒-白3次元群$$G_{30}^{1}$$)を32の結晶点群$$G_{30}$$から導出した.
Heeschは基本的に古典群の多次元生成の問題に関心を持っていた(そのため,彼の研究は,適切な時期に,結晶学者に注目されなかった),それとは異なり,シュブニコフは,反対称性の概念を, (物理的性質の変化による)古典的対称性の基本的な拡大としてのみ定式化し,本質的にこの考えを発展させることができた(ただし15年後のことである):ヘーシュはビーベルバッハとフロベニウスに遡るこの問題の特殊なケースを解決した.シュブニコフは,根本的に新しい問題の基礎を作ったのである.

周知のように,反対称性の本質は,任意の点に" + "または" - "(電荷,黒白の色などの何らかの物理的意味に対し)符号を付与することである.合同変換に従う図形の各点に,変換で図形の点の符号が変わらないか,符号が反転するかで,それぞれ対称変換,反対称変換が定義される.
符号の付与された図形の対称変換は,古典的なものと変わりませんが,すべての反対称変換 は,対称変換と反恒等変換(符号のみ変える演算)との積である. 

対称群と反対称群は,反対称変換の有無によって次の3つのタイプに分類されます: 
(1) 極性群(単色群)または生成群($$\mit\Pi $$),つまり古典的な対称群と同じ. 
(2)中性群(灰色群)または上級群($$C$$),反恒等変換の追加により古典群を2倍にし得られる.
(3)混合極性 (黒白)群,または,ジュニア群($$M$$)は,反恒等変換のない反対称変換を含む.

最後の型の群の導出は,自明なことではなかった.シュブニコフは 古典群の形成要素を対応する反対称変換に置き換えることによって 発見した. 
同一の群を明らかにし,不要な群を削除した後 (その中にシニア群もありうる),32の結晶点群$$G_{30}$$から58の異なるジュニア群が得られた.一般化されたグループ$$G_{30}^{1}$$はすべてで,$$32\mit\Pi +32C+58M=122$$となり,これはHeeschの発見と同じである. 

生成群からジュニア群を導出するShubnikovの方法は,1953年に筆者によって理論的に立証された,1954年にBelovによって,1959年にIndenbomとNiggliによって大幅に補完された[17-20]. 
1953年から1954年にかけて,筆者と Belov とその研究グループは,根本的に異なる方法で,シュブニコフ空間群$$G_{3}^{1}$$の2つの独立した導出を行った; 彼らは 230のフェドロフ群$$G_{3}$$から,$$230\mit\Pi +230C+119M=1651$$の$$G_{3}^{1}$$群を得た(この後,Koptsik [5] によって,新しい方法論での Shubnikov 群の導出が行われた).
同様に,17の群$$G_{2}$$から$$17+17+46=80$$個の2次元シュブニコフ群$$G_{2}^{1}$$(80の層群$$G_{32}$$は幾何学の視点からは,”+”,"-"の解釈を与えている),75の群$$G_{31}$$,80の$$G_{32}$$からは,それぞれ,394($$=75+75+244$$)個の群$$G_{31}^{1}$$,528($$=80+80+368$$)個の群$$G_{32}^{1}$$などが導かれる(表1,2参照).
X線構造解析[21]や結晶物理学[22]における反対称性の応用が登場したのは,1952年から1959年にかけてのことであるが,その凱旋行進が始まり,さらなる拡張-例えば,多重反対称や色対称などが促進された.シュブニコフの晩年の15年間に特に集中的に行われたそれらの発生と発展を追ってみよう.

結晶群の一般化(1)

空間群の発見
群拡大理論による基礎づけ
群の一般化,特性の対称性
対称性.群
結晶空間
フェドロフ結晶空間群
■ 対称性と点群
何らかの集合があり,集合の要素(元)の間に2項演算が定義されていて,
群の条件(群の乗積表で説明)を満たすものを群という.
結晶空間の対称操作の集合の作る群を考えるとき,
結晶空間で1点の特異点(不動点)をもつ対称操作の組み合わせが作る群を結晶点群,
不動点はない結晶空間の対称操作の組み合わせが作る群を結晶空間群という.結晶空間では周期的な格子点をもつので,これらの格子点はすべて同値と見做すならば,結晶空間群は結晶点群に還元できる.
結晶空間群は,並進群を核とする準同型写像で結晶点群と同型になる.
無限に経過する時間を,時計の文字盤(12時間)の閉じ込めるようなもので,無限に繰り返す周期的な空間(結晶空間)を単位胞のなかに閉じ込める.

点群5 5回回転対称軸
点群3m 3回回転対称軸と鏡映面
群の乗積表(鏡映は図形に固着とする). 群の定義.部分群.
■ 結晶空間=周期的な空間.
単位胞(単位タイル)によりデジタル化された空間である.

2次元で演習:
2次元平面を並進だけでタイル張りできる平行凸多辺形タイルは,
平行4辺形(4種),平行6辺形(4種)である.

平面充填の出来る平行多辺形8種類
平行多辺形タイルの等価部分への分割
各平行多辺形を等価な部分に分割すると,図のように40種類の様式があり,これらを対称性の同じものをまとめ整理すると,共型平面群13種類(映進操作を含まないもの)が数え上げられる.点群(並進を含まないもの)としては10種である.ただし,上図の分割様式中に非共型平面群1種類,p2ggがすでに出現している.しかし,共型群(13種類)を求めて,それから,非共型群(4種類)を導くのが王道である.2次元空間群(平面群)は計17種類ある.
詳細は以下の項目参照;



■ 2次元結晶空間群のまとめ

2次元ブラベー格子.A.ブラベー(1850)
■ 3次元結晶空間群
A.M.シェンフリーズ(1853-1928,フランクフルト大,数学)
E.S.フェドロフ(1853-1919,ぺテルスブルグ大,鉱物学)
W.バーロー(1845-1895,ロンドンの実業家)
この3人は,1890-1895の間に互いに独立にそれぞれの仕事を完成させた.

3次元空間を充填するFedorov平行多面体
周期的な3次元空間を充填できる平行多面体は,フェドロフ平行多面体と言い5種類ある.2次元の場合と同様にそれぞれを等価な部分に分割して,対称性の異なるものだけ数え上げると,3次元結晶空間の場合は230種類があるが,そのうちの共型なもの73種類が得られる.さらにそれらから非共型なもの157種類の導出は2次元の場合と同様である.

結晶空間群の発見は,その20年後に実用化される運命であったX線結晶構造解析への準備となった.
1895,W.C.レントゲンがX線を発見.1912,M. vonラウエが結晶によるX線の回折を観測.1913以降,ブラッグ父子によりダイヤモンドなどの結晶構造解析が行われる.

結晶群の一般化(2)

空間群の発見
群拡大理論による基礎づけ
空間群の一般化
群の拡大理論に基づく空間群の記述
A.V.シュブニコフ,V.A.コプツィク(1940~1970)らが,結晶群の構成を群拡大理論に基づき記述しました.これは,あたかも電磁気学におけるマックスウェル方程式のような価値があり,群の一般化への道を開いたと言えます.

回転群を拡大して結晶点群を作る.
並進群を拡大して結晶空間群を作る.
結晶空間群を拡大して,シュブニコフ(黒白)群やベーロフ(多色)群を作る.
[定義]
$${H}$$が群$${G}$$の部分群[正規部分群に限定しない]のとき,群$${G}$$のことを群$${H}$$の拡大という.

Lagrangeの定理から,次の展開(直和分解)が保証される: 
$${G=Hg_{1} \cup Hg_{2} \cup \cdots \cup Hg_{s } }$$
部分群$${H}$$の位数は,群$${G}$$の位数の約数であるから,この約数を,部分群の指数$${s}$$という.
部分群$${H}$$の$${G}$$に対する指数$${s}$$(整数)を$${s=\left( G:H \right) }$$と標記する.

{$${ e=h_{1}=g_{1}, g_{2}, \cdots g_{s} }$$}を,群$${H}$$から群$${G}$$を作るための代表系という.

拡大には,正規拡大と非正規拡大がある:

正規拡大   ($${H \vartriangleleft G}$$の場合)
非正規拡大  ($${H \subset G}$$の場合)
非正規の拡大は,この第2回では扱わない.第3回で少しだけ言及する.
Hは正規部分群,→準同型写像,↔同型写像
$${G \to G/H \leftrightarrow G^{*}\textrm{or }G(\textrm{mod}H)}$$

$${H}$$が正規部分群($${H \vartriangleleft G}$$)であるなら
$${Hg_{j} =g_{j}H}$$なので,次の剰余類の積則が成立します:
$${Hg_{j} \cdot Hg_{l}=Hg_{j}g_{l}=Hg_{n } }$$,
すなわち,$${^{ \exists }g_{n } }$$があり,$${g_{j}g_{l} \in Hg_{n } }$$,あるいは,$${^{ \exists }h_{jl,n} \in H}$$をとり,$${g_{j}g_{l}=h_{jl,n}g_{n } }$$になります.
特に,すべての$${h_{jl,n}=h_{1}=e}$$のときは,$${g_{j}g_{l}=g_{n } }$$(代表元の1つ)となり,代表元系は群をつくり,この群を$${G^{* } }$$と標記します.[正規部分群$${H}$$を$${G^{* } }$$で拡大し,共型群が得られる]

一般には,$${h_{jl,n} \neq h_{1}=e}$$であり,
代表元系{$${ g_{1}, g_{2}, \cdots , g_{s} }$$}は,群として閉じません.
そこで,代表元系を閉じさせるために,次の積則を定義するのは自然です.
$${g_{j} \cdot g_{l}=h_{jl,n} \cdot g_{n} \equiv g_{n}(\textrm{mod}h_{jl,n})}$$
代表元系は,この積則(誘導積)に関して,商群$${G/H}$$と同型な群を作ります.代表元系の作るこのような群を$${G(\textrm{mod}H)}$$あるいは,$${G^{H } }$$と標記します.[正規部分群$${H}$$を$${G^{H } }$$で拡大し,非共型群が得られる]

$${G \vartriangleright H}$$ , $${G/H \cong G^{*} \cong G^{H } }$$のとき,$${H}$$の拡大による群$${G}$$の作り方

共型空間群  $${G=H \otimes G^{* } }$$   直積あるいは半直積
非共型空間群 $${G=H \odot G^{H } }$$    条件積
直積で記述できる場合は,$${H, G^{* } }$$ともに$${G}$$の正規部分群であり,$${G/H \cong G^{*},  G/G^{*} \cong H}$$が成り立つ場合であり,半直積で記述されるのは,片方のみが正規部分群,例えば$${H\vartriangleleft G}$$であり,$${G/H \cong G^{* } }$$のみが成り立つ場合である.
条件積が必要になる場合は,一方が法による群(モジュラス群)である場合である.

example:結晶空間群
結晶空間群 $${Φ}$$ には,並進群 $${T}$$ が正規部分群として含まれている($${Φ \vartriangleright T}$$).従って,商群 $${Φ/T}$$ が定義できる($${Φ/T \cong G}$$).
これは,空間群 $${Φ}$$ は並進群 $${T}$$ を核とする準同型写像(並進で移動した点はすべて同値)で,結晶点群 $${G}$$ に還元されるという意味である.
群 $${G}$$ は,結晶点群の場合もあるし,並進を法に持つ結晶点群$${G(\textrm{mod}T)}$$ の場合もある.

example:結晶回転群4, 6を,直積や条件積に分解する
$${4=2 \odot 4(\textrm{mod}2)}$$,    $${6=3 \otimes 2}$$

example:並進群を結晶点群で拡大

直方格子を,結晶点群2mmで拡大する 
P2mm 共型空間群,P2mg, P2gg 非共型空間群

 

結晶群の一般化(3)

1.結晶空間群の発見
2.群拡大理論に基づいた空間群の構成
3.群の一般化.特性の対称性
4.対称性の重ね合わせ.対称化と非対称化


3次元結晶群(点群,あるいは,空間群)は,3次元の幾何空間に作用する対称操作が作る群でした.一般化の第一歩は,幾何学的次元とは異なる何らかの超幾何学的な特性(代表して「色」と呼ぶ)空間を付加することで得られました.A.V.シュブニコフは,+/-の2値をとれる特性を,3次元幾何空間の各点に付与しました.これが,反対称群(シュブニコフ群;黒白群)であり,多値の特性を各点に付与したものが色付き群(ベーロフ群;多色群)であります.
もし,付加する特性次元が3次元空間と同様な幾何学的次元であれば,4次元結晶群になります.

シュブニコフ(反対称;黒-白)Ш群
ベーロフ(多色)Б群
超幾何学的特性(色と呼ぶ)を空間に付与する

色付きの空間構造を色の見分けができない眼鏡を通して見れば,すべての点が同一色に見え空間の幾何学的構造だけが見えます.このことから,色付き構造を記述する群$${Б^{(p) } }$$(色特性$${p}$$色)は,同型な結晶群 $${G \cong Б^{(p) } }$$ があることになります.$${p}$$色の色付き構造のうちで同色の同価点系が作る$${G}$$の部分群を$$ {G^{* } } $$とすると,色特性の数$${p}$$は,部分群$${G^{* } }$$の群$${G}$$に対する指数(それぞれの群の位数の比で整数)になります:$${p=(G^{*}:G)}$$

$${G^{* } }$$が$${G}$$の指数$${p}$$の正規部分群であるなら,$${G}$$に同型な$${p}$$色の色付き群$${Б^{(p) } }$$は,群$${G^{* } }$$を色置換群$${P}$$で拡大した正規拡大$${Б^{(p)}=G^{*}\otimes P}$$として得られます.

■ シュブニコフ結晶空間群Шは,Шと同型な古典空間群$${G}$$の指数2の部分群$${G^{* } }$$(注:指数2の部分群は常に正規部分群)を,位数2の反対称演算の群,
$$ m'=\{1,m'\}, 2'=\{1,2'\}, \bar{1}'=\{1, \bar{1}'\}, 4'=\{1,4'(\textrm{mod}2)\} $$,あるいは,反対称格子や,反並進を含む並進群$$ \tau'(\textrm{mod}2 \tau)= \{1, \tau'\} $$で拡大して得られます.

■ ベーロフ$${Б^{(p) } }$$結晶空間群
$${p}$$色の色付き3次元結晶空間の対称性に関します.$${Б^{(p) } }$$群は,色の見分けの出来ないフィルターを通して見れば1色に見えますから,これに同型な何等かの古典群Φ:$${Φ\congБ^{(p) } }$$があり,Φの正規部分群で,指数$${p}$$のものを$${G^{* } }$$とすると,$${Φ/G^{* } }$$に同型な,色置換群$${P}$$を用いて,$${Б^{(p)}=G^{*}\otimes P}$$のように正規拡大の型で$${Б^{(p) } }$$群が得られます.あるいは,以下の$${p}$$色巡回置換の並進群を用いて拡大します.
$${\tau^{(p)}(\textrm {mod}\tau)=\{ \tau^{(p)}, ( \tau^{(p)})^{2}, \cdots , (\tau^{(p)})^{p}=\tau \equiv 0(\textrm {mod}\tau) \} }$$

このような$${Б^{(p) } }$$群を標記するには,その生成群を明示しての次のように標記します:$${Φ/G^{* } }$$

Ш群や$${Б^{p } }$$群は色付きの結晶空間群を念頭に記述しましたが,色付きの結晶点群に限定して記述するのは,理解しやすい良い方法かもしれません.色巡回置換による群は,Niggli,Indenbom,Belov,Neronova(1959,1960)が,古典群の正規部分群を含むものはWittke(1962)が研究しました.色付き群の分解表現は,Shubunikov,Koptsikが導き,73種類のWittke-Garrido群$${G_{WG}^{(p)}=G^{(p)*}・G^{* } }$$と,これに同型なVan der Waerden-Burckhardt群$${G_{WB}^{(p)}=G^{(p_{1})*}・G^{(p_{2})* } }$$を導きました.全$${G_{WB}^{(p) } }$$と$${G_{WG}^{(p) } }$$の数え上げは,Koptsikの下で,Kuzhukeev(1972)の修士論文でなされました.
部分群$${G^{(p_{2})*}\subset G_{WG}^{(p) } }$$は,最後に決まった色を保存し,群$${G_{WG}^{(p)* } }$$の中の色置換の型$${G^{(p)* } }$$は始めの点の採り方に依存します.

色付き空間群の導出は,1969年ザモルザエフにより始められ,3色,4色,6色までの空間群の数え上げが行われた.色付き空間群の色の塗り替え演算が,色並進群にあるものと,色並進を含まない群とに分類でき,さらにそれぞれに共型なものと非共型なものに分類できる.色空間の対称操作は幾何的結晶空間の対称操作と連動するために,許される色数$${p}$$は制限があり,最大で48色,以下24,16,12,8,6,4,3色です.正規拡大による色付き空間群の数え上げは完了しました.

■演習
2次元2色(黒白)結晶点群を求める


2次元結晶点群10種
2次元結晶点群から導ける黒白群11種.赤の記号は反対称演算成分を持つ.

シュブニコフ群

3次元空間(幾何学的空間)の対称群 $$G$$ の一般化は,A.V.シュブニコフの”反対称的に等価”という概念から始まりました.結晶(幾何学的)空間で定義した”対称的に等価”という概念[鏡映対称,回転対称,あるいは(平行移動)並進などで重なる]は,幾何学的空間で行われる対称操作を定義し,それらの対称操作の作る群(点群や空間群)として,空間の対称性が記述できました.シュブニコフの考えた”反対称的に等価”という概念は,幾何学的な空間とは別の次元の空間で行われる対称操作を導きます.空間の位置は動かさず,空間の点の特性(例えば,色)を,塗り変える操作をイメージしてください.黒⇔白,+⇔-,などの2値の特性の変換が”反対称的に等価”の例です.幾何空間での変換と特性空間(代表して色空間と呼ぶ)での変換とを結合した一般化された変換は,反対称群(黒-白群,あるいは,シュブニコフ群)という従来の点群や空間群を拡張した新しい対称群を生み出します.

このような反対称(黒-白)群は,群の拡大という数学理論で興味深いだけでなく,その結晶構造で観測される特性の対称性記述に有用です.


磁性体の磁力は,その結晶構造中の鉄などの磁性の原子やイオンが所有する磁気モーメント(その原子に束縛されている電子の自転-スピン-で,スピンベクトルは上向-下向の2値をとります)の総和です.結晶構造中の磁性原子の位置に,スピンの向きの矢印を書き込んだ図の例をご覧ください.

一般に,原子の磁気モーメントは,各原子に束縛されている電子の軌道角運動量とスピン角運動量の総和ですが,外殻に3d電子をもつ遷移金属 Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Niでは,スピン角運動量で磁気モーメントが決まります.
ただし,正確に言うと,3d電子がそれぞれの原子に(局在)束縛されているのは,酸化物,Fe2O3,NiOなどでの話で,Fe, Coなどの金属結合状態にあるCo, Feなどでは,3d電子はブロッホ関数で記述される周期的な電子雲となり結晶全体に広がり,エネルギー・バンドを形成します.上向きスピンと下向きスピンが占有する状態密度の差だけのスピン角運動量が残ります.
磁性の予備知識はここまでにして,主題の反対称群に話を戻します.

結晶構造の原子の位置は,3次元幾何空間(結晶空間)の座標で指定でき,結晶構造の対称性は従来の空間群で記述できます.しかし,結晶構造中の磁性原子の電子スピンの反転対称操作は,幾何学空間とは別次元の”特性(色)空間”で行われるものです.強磁性体の特性を記述する対称操作は,幾何世界の対称操作に,スピン空間での対称操作を結合した”一般化された対称操作”で,これらの結合された対称操作の作る群が反対称群です.

特性の2値は;スピンの↓・↑,電荷の+・ー,など;色々なものがありますが,特性を代表して「色」と呼ぶことにし,特性が2値のものは,反対称群(黒-白群,シュブニコフ群)になります.
可能な特性値を多値$$p>2$$の空間に拡張すれば,それらは,p-色の色付群,あるいは,ベーロフ群と呼ばれるものになります.幾何学的空間の点の配置に関する限り,従来の対称群(点群や空間群)で記述されますが,それらの点を$$p$$色に塗り分けたものの対称性の記述は,このベーロフ群を用います.
$$p$$-色で塗分けるといっても,適当に塗るのではなく対称操作に従って塗分けるのですから,同じ色について同数ずつあるはずです.そして,p色の色置換は,幾何学的空間の変換と結びついているので,$$p$$の数は空間の対称操作の位数と矛盾しない数値に限定されます.

ここでは,まず,黒-白群(2色の色付群)の作り方を説明します:
黒-白群$$G'$$で記述される黒と白の点で構成された構造が与えられたとします.①もし,色が判別できない眼鏡を通して見たとすれば,これらの点は皆同じ色ですから,普通の幾何空間での対称群Gで記述できるはずです.ゆえに,当然,$$G’$$と$$G$$は同型な群です: $$G’≅G$$ .
②この構造中の黒,白の点は,色反転操作で互いに入れ替わらなければならないので,同数ずつあります.従って,群$$G’$$は次のように剰余類展開できます. 

$$ G^{*} $$は,$$G$$の指数2の部分群で,同色の点を変換する(色を変えない変換よりなる)部分群.$$g'$$は位数2の色の塗り替えを伴う変換操作です.
$$G’$$の剰余類展開  
$$
G'=G^{*}\cup G^{*}g' ,  G^{*}⊂G
$$
反対称群$$G’$$は,同型な古典群(従来の群)$$G$$と $$G^{*}$$ 
を用いて,2項記号 $$G/G^{*}$$ と標記されます.
$$G’$$の剰余類展開の式で,第1項は対称演算の集合の作る群,第2項は反対称演算の作る群で,両者の合併集合として反対称群$$G’$$が表現されています.

古典的な3次元結晶空間群230種類は,点群と並進群を掛け合わせて「並進群を点群で拡大して」得られます.反対称群も同様ですが,反対称要素が点群の方にあるために得られる反対称群は674種類,並進の方に反並進があるために得られる反対称群は517種類であることが知られています.


表紙の図は,簡単な反対称の例で,体心格子 I の格子点のうち同一色の格子点は単純格子 $$P$$ ですので,これを反対称群の2項記号で標記すると$$I/P$$
となります.この反対称群の格子点を定義するベクトルは$${a, b, c, \tau’}$$で,$$\tau=(a+b+c)/2$$.$$\tau$$は,体心の位置を指定するベクトルです.’がついている意味は,これが色を反転する並進操作であることを示しています.この簡単な反対称群は反並進が起因で生じた群です.

反対称群(シュブニコフ群)やp-色の色付き群(ベーロフ群)は,3次元の空間次元+1次元の特性空間で定義されますが,
特性空間も3次元空間と等価な場合の4次元空間群の特殊な一部と見做すこともできます.

koptsik-ch12-8 341-

    我々はすでに等式の対称性に言及し始めている.物理理論の分類が,これらの理論の基礎方程式を不変に保つような自己同型群に基づくことを強調するのは重要である.このような分類への道は,クライン(1872)の「エルランゲン計画」-幾何学から,等長,アフィン,射影の不変部分を分離する-,および,古典電磁気学と特殊相対性理論の方程式が許容する変換の分析に関するローレンツ(1895)とアインシュタイン(1905)の研究によって切り開かれたものである.基本群の変化は,常に理論構造を変える. 
したがって,ニュートンの古典力学は,ガリレオ・ニュートン変換, 
$$x_{i}^{'}=x_{i}+v_{i}t , x_{i}^{'}=x_{i}+a_{i} , x_{i}^{'}=D_{ik}x_{k} , t'=t+b , D_{ik}D_{kj}=\delta _{ij}$$
($$\delta _{ij}=1$$ for $$i=j$$, $$\delta _{ij}=0$$ for $$i \neq j$$, $$i, j, k=1, 2, 3$$)
の下で不変な命題の集合であり,均一で等方な幾何空間と均一な時間に対して,連続した10のパラメーターの対称群を形成している.
運動法則は、これらの変換によって関連づけられたすべての等価座標系において同一の(共変)形式をとり,これには一定速度$$v_{i}$$で相対運動する慣性系(ガリレオの相対性原理)も含まれる.
特殊相対性理論,(相対論的)量子力学,電磁気学の運動方程式は,ローレンツ変換のもとでは不変であり,最も単純な場合,
$$x'_{i}=\displaystyle \frac{x_{i}-vt}{\sqrt{1-\beta ^{2 } } }, x'_{2}=x_{2}, x'_{3}=x_{3}$$,
$$t'=\displaystyle \frac{t+(v/c^{2})x_{1 } }{\sqrt{1-\beta ^{2 } } }, \beta =\displaystyle \frac{v}{c}$$

これらの方程式は,光速$$c$$よりも小さな速度で$$x_{1}$$軸に沿って移動する相対論的に等価な(慣性)座標系を関係づけている(アインシュタインの相対性原理).
   上記理論の不変性は,幾何学的座標と時間からなる4次元空間$$\left\{ x_{1}, x_{2}, x_{3}, x_{4}=ict \right\} $$における均質性と等方性を反映している(虚数単位$$i$$の導入は時間座標を区別し,理論で空間を数学的対象として見ることを強調するものである).ローレンツ変換は,この空間の測度(4次元ベクトルの長さの2乗,$$x_{1}^{2}+x_{2}^{2}+x_{3}^{2}+x_{4}^{2}-c^{2}t^{2}$$)を保存し,したがって量$$c$$の不変性が導かれるのである. 
1918年,クラインKleinの後継者であるエミー・ノーザーEmmy Notherは,クラインの研究を用いて,有名な定理*を証明した.
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* この定理の歴史と参考文献については,V. P. Vizgin (1972)を参照.
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「座標の連続的な変換と,それに伴う作用積分の変化を消滅させる場の関数の変換には,ある不変量,すなわち保存される場の関数とその導関数の組み合わせが対応する」.Notherの定理から,一般に,任意の孤立した物理系に対して,運動量の3成分,角運動量の6成分,エネルギーという10の保存される運動学的量が存在することが導かれる.これらはそれぞれ,平行移動,幾何学的空間の直交変換(およびガリレオ・ニュートン変換,ローレンツ変換),時間測定の原点の変位を表す変換に対応する不変量である. 
   保存則と物理法則の対称性の関係は,リチャード・ファインマンFeynmanの言葉を借りれば,「ほとんどの物理学者はいまだにどこか唖然としている......」という.これらの続ながりは非常に興味深く美しいものであり,物理学で最も美しく深遠なものの一つである(R. Feynman, R. Leyton, and M. Sands, 1965, pp.52-3, 52-4; A. A. Bogush and L. G. Moroz, 1968 も参照のこと).研究対象の現象に対する法則が微分方程式や代数方程式の言語で定式化されている物理理論であれば,全く同じ方法で対称変換群とそれに対応する不変量を求めることができる.結晶物理のテンソル方程式を例に,このことを説明しよう. 
その一例として,誘電体中の変位ベクトルと電場ベクトルの関係式,すなわち誘電体中の誘電分極現象を記述する式(p.314)がある: 
$$D=\varepsilon E$$ あるいは, $$D_{i}=\varepsilon _{uj}E_{j}$$,   $$i, j=1,2,3$$             (1) 
この例を一般化して,均一なテンソル「効果」場$$A_{pq \ldots r}$$と,「作用」場 $$B_{ij \ldots k}$$の関係式を書き下すと,
$$A=aB$$ あるいは,$$A_{pq \ldots rij \ldots k}=a_{pq \ldots rij \ldots k}B_{ij \ldots k}$$, $$p,q, \ldots ,r,i,j, \ldots ,k=1,2,3   $$(20) 
テンソル$$A, a, B$$を包含直交群$$ \infty \infty m$$で定義すると,それらの成分の変換方程式は次のような形になる.
$$A_{p'q' \ldots r'}=\chi (D)D_{pp'}D_{qq'} \cdots D_{rr'}A_{pq \ldots r}$$ $$p',q', \ldots r',p,q, \ldots r=1,2,3$$ (21)
テンソル$$a, B$$についても同様の式がある[式(2),p315と比較せよ].
式(20)は物理法則を表しており,テンソル$$A, a, B$$の関係は群$$ \infty \infty m$$で許容されるどの座標系でも保存されるはずである.すなわち,式(20)の左辺と右辺は,直交変換の影響を受けて同じように変化する(物理方程式の共分散(covariance)の原理). 
$$A=aB$$ (系$$X_{1} X_{2} X_{3}$$)$$ \Longrightarrow $$$$A'=a'B'$$(系 $$X'_{1} X'_{2} X'_{3}$$) (22)
しかし,テンソル$$A, a, B$$の成分は,一般的に言って,任意の変換に対して不変ではない.
テンソル$$A, a, B$$の行列が不変な直交群$$ \infty \infty m$$の最高位数の部分群は,テンソル$$A, a, B$$の対称群$$G_{A} , G_{a} , G_{B}$$となる (Shubnikov, 1949).
テンソルモデルを用いると、方程式の対称群とその解との間に有用な関係を確立することができる.
   ここで,交叉$$G_{a} \cap G_{B}$$ に属する任意の演算$$g$$を取り上げよう. 定義によれば,テンソル$$a, B$$は,この操作に対して不変である.したがって,この操作のもとで式(20)を変換すると,始めの形式になる,
$$A'=a'B' \Longrightarrow A=aB$$
および,$$g \in G_{A}$$. $$g$$は,$$G_{a} \cap G_{B}$$に属する任意の演算であるから, 
$$G_{A} \supseteq G_{a} \cap G_{B} \equiv G_{a \cap B}$$     (23)
群$$G_{A}=G_{aB}$$ および,$$G_{a \cap B}$$を,その解(これは,仮説により,物理的相互作用の効果を許容している),したがって相互作用のないテンソル場の交叉から決まる方程式の対称群と呼ぶことにする.もし,等式$$A=aB$$等価な解$$A_{i}=aB_{i}$$の集合$$ \{A}={A_{1}, A_{2}, \cdots , A_{i}, \cdots \} $$を認めるなら,
$$G_{(A)}= \cap G_{A_{i } } \cup M \supseteq G_{a} \cap G_{B}=G_{a \cap B} , G_{A_{i } } \supseteq , \subset $$ or $$ \not \supset G_{(A)} \supseteq G_{a \cap B}$$    (24)
ここで,$$G_{A_{i } }$$ または,その同型な類似物$$G_{A_{i } }^{(p)}=SG_{A_{i } }S^{-1}$$可能な解の1つの対称性を表現し,$$M$$は解系の対称化演算,$$G_{(A)}=G_{aB}=G_{a} \cap G_{(B)}; G_{(B)}= \cap G_{B} \cup M$$となる.
もし,$$A=aB$$に対応する方程式系が,非互換incompatibleであれば,解集合は空であるり,形式的に$$G_{(A)}= \infty \infty m \supseteq G_{a \cap B}$$と書くことができる.
これらの方程式に対して,関係式(23),(24)は,系の部分と全体の間に存在する一般的な関係(16),(17)を表現している. 
例えば,作用の同軸の二面体bicone$$\{E \}$$に対応する式(1)の同価解の二面体$$\left\{ D \right\} $$は,水晶の場合,方程式の対称性に一致する.
$$G_{(D)}= \infty /mmm= \infty /mmm \cap \infty /mmm=G_{\varepsilon } \cap G_{(E)}=G_{\varepsilon E}$$
(図220と比較せよ). 

koptsik-ch12-7

式(12)において,$$G_{i}$$, $$G$$ を,(仮想の)孤立状態にある与えられた物体に対して定義される定常状態の対称性群を表すのに使うことにする.また,相互作用のある状態での同じ対象物の群を$$G_{i}'$$,$$G'$$とする.

固定レベルにおいて,異質な部分系$$G_{i}$$の堆積そのもの(これが,交差$$G=\cap G_{i}$$の対称性を決定する;$$G$$は完全で外部作用から孤立)は,それらの相互作用の十分な原因になるが,この相互作用は,別の構造レベルにおいて要素間の新たな同値関係の確立につながらないとすれば,相互作用の無い対象の交叉$$\cap G_{i}$$の対称群は,相互作用のある交叉$$\cap G’_{i}$$の対称群と同じでなければならない.元の状態が対称的であれば,なぜそれが変化しなければならないのか?系の対称化因子(仮説)は登場しないのだろうか?

$$G'= \cap G_{i}'= \cap G_{i}=G$$                 (14)
相互作用が,要素間の新しい同値関係に導くなら,(11)に従い相互作用系の対称化に出会う:
$$G'= \cap G_{i}' \cup M' \supseteq \cap G_{i} \cup M=G , M' \neq \phi , M= \phi $$                 (15)
関係式(15)は,初期状態(11)の場合にも書くことができ,その場合,$$M \neq \phi $$(対称化因子の集合は空ではない). 
式(12)の初期状態$$ \cap G_{i}$$,または,式(11)の$$ \cap G_{i} \cup M$$が,それ自体で,相互作用の十分な基礎となるのであれば,相互作用によって孤立した系が非対称化されることはないだろう.
(12)において非対称化が起こるためには,非対称化因子が含まれていなければならない(新しい群$$G_{i}$$がその役割を果たす).
しかし,これらの因子が,群の初期の交叉により,孤立系に出現することがあらかじめ決まっているのであれば,なぜこれらの因子が交叉$$ \cap G_{i}$$を縮小するのか?系の非対称化のために (11)では,ある種の相互関係の要素を,集合Mから,排除しなければならない.もし,この合併 が対称的であり,相互作用を決定していたのであれば,合併$$ \cap G_{i} \cup M$$, から対称化因子が抜け落ちるのは何故か?

   これまでの議論は,$$\textbf{十分な理由の原理}$$*に基づき,$$ \textbf{定常状態の保存則の定式化} $$(以下に示す)を導き出した.相互作用の無い状態の対称性は完全に保存される(14).初期状態の対称性は, (増加することはあっても)減少することはない(15).
この観点から,この議論の根底にある前提条件を満たしていれば,$$\textbf{孤立した系の定常状態での対称性は,相互作用下では増大するのみ}$$である.非対称化が起こるためには,$$\textbf{系の孤立を破壊するような系の拡張が必要である}$$ : 固定された系の外部にある物質的舞台のみが,その定常状態の対称性を減少させることができる.

   対称性の保存の法則は,平衡状態の熱動力学や相転移の理論において重要な役割を演じる.次節では,これらの分野におけるいくつかの例について考えてみよう. 

koptsik-ch12-6

全体の対称性と部分の対称性の一般的関係を定式化するにあたり,全体や部分の概念を精査することは有用である.これらの概念の定義は 論理の公理:「全体はいかなる部分よりも小さくはない」により与えられる.点集合の場合の定義に適用すると,自分自身が要素である無限集合が存在することがわかる.そのような集合のべき乗は,その部分のべき乗と同じになる. 
ユークリッド空間における閉じた有限点集合を図形と呼ぶことにする.
図形Fの任意の2点をMとNとし,それらの間の距離を$$\rho \left( M,N \right) $$とする.関数$$\rho \left( M,N \right) $$の連続性から考えて,我々は常に図の2点A,Bで,すべてのM,Nに対し,$$\rho (A,B) \ge \rho (M,N)$$となるような2点を見出せる.このような[最小の]2点間の距離$$d=\rho \left( A,B \right) $$を集合Fの直径と呼ぶ.
図形をより小さな部分に分割することによって(Boltyanskii, Gokhberg, 1971参照),集合Fをいくつかの部分集合の合併union(被覆covering)の形に表現することができる.
$$F=H_{1} \cup H_{2} \cup \cdots \cup H_{m}$$
部分集合の直径はFの直径より等しいか小さい(図形$$H_{i}$$は互いに重ならない場合もある).
対称性の概念が図形Fで定義されれば,その部分でも定義されることは明らかであり,対応する群$$G$$と$$G_{i}$$の関係の問題は,対称群の重ね合わせの原理を一般化することで解決できるかもしれない.
読者は,この節と次節で多くの方程式を提示されても動揺する必用はない.それは,ほとんどの場合,基本関係(11)を特殊化したもので,次のような形に書き換えることができ,
$$G=G_{i} \cdot G^{D*} \cdot G^{S}=G_{i} \cdot G^{S*} \cdot G^{D**}$$                                  (11*)
(11)から生じる結果は(345頁も参照):$$G_{i} \supseteq G, G_{i} \subset G$$あるいは,$$G_{i} \not\supset \not\subset G$$である.
後者の場合,$$G_{i}$$から$$G$$への移行は,これらの群の共通部分群の対称化$$G_{i} \cap G=G \cdot G^{D}$$,または,これらの共通上位の包含群$$G_{\textrm{emb } } \supseteq G_{i} \cup G$$の非対称化のいずれかによって行われる可能性がある. 
群$$G$$と$$G_{i}$$の基本的な関係を変えることなく,幾何学空間から幾何的物理学(物質的)空間へ移行しても,完全系の各部分間の相互作用の問題は残る. 
さらに,ある(有限または無限)数の部分から構成される形成物の組織的完全性という新たな困難も出現する.これらのことは,幾何学レベルでは実現できた関係の一部しか,幾何物理学レベルでは実現できないことを意味する.

例えば,部分と全体との関係は,原因と結果との関係より広く,部分は全体と因果関係がない場合があることを忘れてはならない(Свечников; Svechnikov, 1971).
他方,完全系の考察中の固定状態を,許容された状態集合の一部と考えると,その状態の対称性は,重ね合わせの原理から生じる関係によって,その系の定常対称群に結ばれることがわかる.この場合,一般化原理は,例えば量子力学の特徴である状態の因果関係の媒介形式を記述するものであり,古典的決定論の原理の枠内には入らない.

式(11)と式(12),あるいはそれに先立つ式は,合わせて対称群の重ね合わせの原理を表している.式(11)は,系の対称化(拡大)または非対称化(縮小)の過程を,いくつかの対称化因子(集合$$M$$の要素)の包含または排除に結びつける.逆に,式(12)では,系の対称化は,いくつかの群$$G_{i}$$を交叉$$ \cap G_{j}$$から除外した結果であり,非対称化は,系にいくつかの新しい非等価の部分構造を系に含めた結果である:この場合,それらに対応する群$$G_{i}$$が系の非対称化因子として機能する.

群$$G$$と$$G_{i}$$の変換の作用下で,系全体とそれを構成する部分構造が保存されるということは,繰り返し指摘したように,その構造と部分構造に結びついたすべての性質と関係が同時に保存されるということである.したがって,対称群の重ね合わせの原理は,純粋幾何学の世界だけでなく,物質系や図形の世界でも成立つ.

群$$G$$と群$$G_{i}$$(または表現の空間で作用するそれらと同型の色群)は,構造または部分構造の要素の幾何学的配置の対称性だけでなく,対応する物理量の変換特性,例えば,物質系の物理特性を記述する一様なテンソル場,および物理場相互や,物質との相互作用で生じる現象も記述する. 

幾何学的な非対称性の原理(12)を物理現象に拡張したのは,ピエール・キュリー(1894)に属するものである.それは,彼の有名な言葉「非対称性が現象を生む」であり,彼自身の言葉を借りれば,次のように理解する必要がある."現象は,特性の対称性($$G_{i}$$),または,特性の対称性の部分群の1つの対称性($$G \subseteq G_{i}$$)を有する媒体舞台で存在し得る.つまり,ある現象にはある対称性の要素が共存していてもかまわないが,対称性のある要素を欠くが必要である.この非対称性が現象を生み出している.原理(12)の定式は,


幾何学的な非対称性の原理(12)を物理現象に拡張したのは,ピエール・キュリー(1894)によるものである.つまり,「ある現象は,その現象が持つ特徴的な対称性($$G_{i}$$),あるいはその特徴的な対称性の部分群($$G\subseteq G_{i}$$)のいずれかの対称性を持つ媒体の中に存在することがある」と理解される.つまり,ある現象にはある対称性が共存していてもよいのだが,その必要はない.しかし,ある対称性の要素が存在しないことは必要である.これが現象を作る非対称性である」 原理 (12) の定式化は次のようになる

 $$G_{\textrm{phenomena }i} \supseteq G_{\textrm{medium } }= \cap G_{\textrm{phenomena }i}$$ または,
$$G_{\textrm{property }i} \supseteq G_{\textrm{object } }= \cap G_{\textrm{property }i}$$                (13)
これを,Newman-Minnigerode-Curie(NMC)原理と呼ぶ.キュリーの定式化は,先人の結果の基礎の上にあり,19世紀の物理学の蓄積した事実を一般化したものである.ここで,この原理の形成の歴史を物語る他の定式を年代順に挙げてみよう.

В. Vivell (1830): 「光学的対称性は幾何学的対称性に正確に対応する」.F. Neumann (1850 - 1885): 「物理的性質に関して,ある材料はその結晶形と同じ種類の対称性を持っている」.W. Minnigerode (1884): 「結晶の対称群は,この結晶で起こりうるすべての物理現象の対称性の部分群である」.ここからキュリーの定式化に移ると,「結晶」という言葉を「媒体(舞台)」という言葉に置き換えればよいことになる.
キュリー自身は,もちろん先人たちも,残念ながら,20世紀の物理学に豊かに存在する構造研究の急速な開花を目撃することはできなかった.したがって,キュリー自身は,「生み出される作用は,原因よりも対称的であるかもしれない」という独創的な推測をしているが,観測された群$$G$$と$$G_{i}$$群間の関係のすべての形態,特に対称化効果(11)を予見することはできなかったのである.
ピエール・キュリーによる複合系の対称性の見つけ方(「自然界の異なるいくつかの現象が重なり合って一つの系を形成するとき,それらの非対称性が積み重なる.その結果,各現象に共通する対称性の要素だけが残る」),現在明らかになったように,異質な系に対してのみ有効である.キュリーの発言の多くが曖昧で矛盾していることから,研究者は繰り返しこれらの発言を批判し,因果関係の原則や十分根拠の原則に基づく他の発言に置き換えてきた(Birkhoff, 1950, 1954; Shubnikov, 1956; Koptsik, 1957-1971; Spassky and Krindatch, 1968, 1971).
このテーマに関する多くの文献があるにもかかわらず,NMCの原理を物理学に応用することは困難であった.例えば,流体力学において,原因の見かけ上の対称性が,それによって引き起こされる作用の対称性を伴わない場合,いわゆる対称性のパラドックスがある(Birkhoff, 1954参照).これは,一般に系の対称性が構成要素の対称群の交叉に還元されないため,式(12),(13)のNMC原理は適用範囲が限定されるためである.また,物理実験の結果決定された系の対称群は,幾何学的な群$$G$$と間違われることがあるが,実際は色群$$G^{(p)}$$である.
例えば,X線回折により2色群$$P4/mm'm'$$を持つ強磁性立方体結晶は,$$\mit\Phi =Pm3m \supset P4/mmm \longleftrightarrow P4/mm'm'=$$; 部分群,$$\mit\Phi ^{*}=\mit\Phi \cup P4/m \subset \mit\Phi $$
のみが,ここでは純粋に幾何学的な変換の群となる.このような場合,(12), (13)では幾何学的な部分群$$G^{*} \subset G^{(p)}$$のみを系の幾何学的対称性としてとらえる必要がある.もう一つの難点は,対称条件はその抽象的な性質上,現象の実現に必要なだけで,十分ではないことだ.系の対称性から予測される現象が観測されなかったり,不安定になったりすることがある.
強調すべきは,対称性の条件を形式的に分析しても,実際の物理現象を注意深く研究し,物理系に対称化または非対称化の要因として実際に作用する物質的要素を見つける必要性から,研究者は解放されないということである.

(12)に加えて対称化原理(11)を用いることで,先に述べた困難の1つが解消される.幾何学系の対称化の例は,本書の初版で紹介した(Shubnikov, 1961も参照).

対称群の重ね合わせの原理の分析を終えるにあたって,孤立系内の構造的なサブレベル間の相互作用と,系同士の相互作用の問題を忘れてはならない.物質系とそのサブシステムは,思考でしか分離できない.現実には,構造や対称性は,孤立した状態系あるいはそのサブレベルとは異なり相互作用がある.

 

 

koptsik-ch12-5

 

複合系(составные системы; composite systems)

対称群の重ね合わせの原理
変化の法則と対称性の保存

 完全系(целостные системы; integral systems)を構成する自然物を扱うときに,まず第一に気づくのは,その構造の複雑な複合性である.どのような物質対象も,部分構造の相互貫入,特定の配向や従属によって特徴付けられる.
例えば,現代物理学の最大関心事である「素粒子」の内部構造もそうである.原子(かつては「不可分」と考えられていた)は,原子核(核子で構成)と殻に分布した電子からなる.
原子やイオンは,分子,結晶,生体高分子の構造などの次の構造レベルを形成する.惑星系,恒星系,銀河系,超銀河系に至るまで,多種多様な巨視的物体の構造は複合的である.原子・分子型から始まり,完全な生物体や生物社会に至るまで,生物系には複雑な複合性が見られる.社会システムはそれ自体が複合的な構造を持っている.

   完全系組織の複合性(сложный композиционный; cpmplex composite)は,系ごとに分離し,それらの構造的なサブレベルを分離するという方法論を刺激するものである.これは,系そのものの科学的研究にも,他系との関係や部分系(subsystems)間の関係を明らかにするためにも不可欠である.
統合するために分割せよ(Разделить для того, чтобы объединить; Divide to unite),これが科学研究のモットーである. 本質的でない関係を切り離し,注目する関係に係わる分離された系の性質のみに興味を集中する.科学は,現実系の単純化したモデルを構築し,これをその後の研究の対象とするのである.
これが,外部とエネルギーや物質の交換可能な開放系に対して,閉鎖系や孤立系という科学的抽象化をする原点である.系の詳細な分類や,その一般的な性質の提示は省き[例えば,Structure and Forms of Matter (1967) and Problems of Methodology in System Study (1970)参照],この章の残る部分で,本書の中心課題である系の対称性と,構造,特性との関係について研究を続けることにする. 

   我々はすでに多くの幾何学的な例により,構造は対応する自己同型変換群(групп автоморфных преобразований; automorphic transformations)の不変量であることを立証している.物質系の幾何学的構造の対称性は(正しい定義に従えば),当該構造がもつ性質や関係の最小限の対称性でもある.系のすべての部分構造に,その部分構造の中で要素を互いに変換する独自の自己同型群を結びつけることができる. 
系を部分構造レベルに分離する妥当性は,その部分構造の要素に同値関係*を成立させる変換群が存在するかどうかで確認できる.ここでは,複合材料系の特性モデル化としての複合幾何図形を考察することで,部分構造の対称群と系全体の対称群との関係を検討する. 

   いくつかの例に目を向けよう.図8は,五芒星と正方形の重ね合わせによる複合図形である.構成する2つの図形は,運動や相似変換によって互いに変換することができないため,幾何学的に異なる.正方形[単面平面(на односторонней плоскости; on a one-sided plane)上にある]は,$$G_{1}=4mm$$の対称性を持ち,五芒星は$$G_{2}=5$$の対称性を持っている.形成された複合図形全体は,この2つの群の唯一の共通部分群である$$G=1$$の対称性を持っている.2つの群の与えられた配置における,それらの共通な部分群を求める操作を交叉(пересечением; intersection)といい,記号$$ \cap$$と書く :$$G=G_{1} \cap G_{2}$$,例えば,$$1=4mm \cap 5$$で標記される.同値関係で結ばれていない部分構造の対称性は,全体としての系の対称性より低くはないことがわかる:$$G_{i} \supset G (i=1, 2)$$.
非等価な部分から複合図形を形成する過程は,部分の対称性に比べて全体の対称性が低下し系の非対称化(диссимметризацией; dissymmetrization)を伴う.一方,等価な部品から複合系を形成する場合には,逆の過程,対称化(симметризации; symmetrization)が起こる.
図5bは,正3角形で構成された図形(正6角形)である.正3角形の固有対称性は$$G_{i}=3m$$であり,系全体の対称性は$$G=6mm$$である.系の対称性$$G$$は,この場合,群$$G_{i}$$の交叉$$( \cap _{i=1}^{6}G_{i}=G_{1} \cap G_{2} \cap \cdots \cap G_{6})$$にならない:  $$\cap _{1}^{6}3m=1$$.
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* 定義によれば, $$a, b, c$$の要素に対する二項関係($$ \sim $$で表す)は, $$a \sim a$$(反射性),$$a \sim b$$なら$$b \sim a$$(対称性),$$a \sim b$$と$$b \sim c$$なら$$a \sim c$$(推移性)の三つの性質を満足すれば, 同値関係である. 例題では, 図形の計量的性質を保存する同値関係に興味がある. 
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一方,群の合併(объединением; union)($$ \cup _{1}^{6}G_{i}=G_{1} \cup G_{2} \cup \cdots \cup G_{6}$$,これには,対称要素の与えられた空間配置をもつ6つの群のすべての変換を含む)とも一致するわけでもない.
集合$$ \cup _{1}^{6}3m$$は,6つの3角形の各中心に生じた3回軸,6角形の中心を通らない6枚の鏡映面$$m$$,中心を通る3つの鏡映面$$m$$よりなり,この集合は群をなさない.図形の中心を通る2枚の鏡映面は群$$G_{i}^{*}=3m \subset 6mm=G$$を生成する.$$G_{i}^{*}$$は$$G_{i}$$と同型で,6角形の中心を3角形の中心に一致させる平行移動演算$$S$$で,$$G_{i}^{*}$$に還元される:$$G_{i}^{*}=SG_{i}S^{-1}$$

群$$G_{i}$$の合併も交叉も,考察中の複合系(составной системы; composite system)の対称性を記述できない.その理由は,全体の中で3角形間に成り立つすべての同値関係が含まれていないためである.
一般に,配向平面上の任意の2つの図形は,合同で等しいか鏡像で等しい場合,すなわち,2次元連続体$$p_{00} \infty mm$$の運動群の変換$$S$$作用で互いに一致するとき,計量的に等価であるとされる.ある固定図形に,すべての変換$$S \in p_{00} \infty mm$$を適用すると,幾何学用語でいう「体」を形成する等価図形の連続体が得られる.等価図形の有限系は,この包含群(охватывающей группы; embracing group)または基本群(фундаментальной ;  fundamental group)$$p_{00} \infty mm$$の部分群の対称性を持つことになる. 
   部分群$$G_{i}$$が,1つの固定された基本群あるいは包含群$$G_{\textrm{emb } }$$に属するという事実は,空でない交叉$$ \cap G_{i} \neq \phi $$( $$\phi$$ は空集合)の存在を保証し,複合図形の対称性の概念を特定するに十分である.例えば,正6角形(図5b)で,交互の3角形を黒(共通の辺を持たない3つの三角形を黒)く塗り,黒-白図形を得る.その反対称群$$\left( 6'mm' \right) $$は拡張された包含群$$p_{00} \infty mm1'$$に属する.
   考察中の例を一般化して,定義により,部分を決定している対称群$$G_{i}$$の交叉$$ \cap G_{i}$$は,固定した包含群$$G_{\textrm{emb } } \supset G_{i}$$のレベルで,部分が図形の正則系( правильной системы; regular system)を形成していなければ,異種混成(гетерогенного ; heterogeneous)幾何学対象の対称群$$G$$である.
もし,一様(гомогенного; homogeneous)な幾何学対象の部分が図形の正則系を形成するなら,その対称群$$G$$は部分群の拡大(расширение; extension)$$ \cap G_{i} \subset G$$である.ただし,剰余類(添え字$$S$$は対称化(symmetrization)の意)の代表系$$G^{S}=\left\{ g_{1},g_{2}, \cdots ,g_{j} \right\} $$は,同一の包含群$$G_{\textrm{emb } } \supset G_{i}$$に属し,あるいは,何らかの同型な,例えば,色付きなどの一般化包含群$$G_{\textrm{emb } }I^{(p)}$$に属する$$G^{(p)S}=\left\{ g_{1},g_{2}^{(p)}, \cdots ,g_{j}^{(p)} \right\} $$:
$$G=\left( \cap G_{i} \right) g_{1} \cup \left( \cap G_{i} \right) g_{2} \cup \cdots \cup \left( \cap G_{i} \right) g_{j}= \cap G_{i} \odot G^{S}$$
[ここで,$$ \odot $$は対称化あるいは非対称化演算]
明らかに,もし,$$G_{i}$$,$$G^{S} \subset G_{\textrm{emb } }$$ならば,群$$G \subset G_{\textrm{emb } }$$;もし,$$G^{S}$$を$$G^{(p)S}$$で置き換えるなら,$$G$$は一般化(色付き)群になる.
   対称化演算(симметризации; symmetrization),すなわち,部分群$$H= \cap G_{i}$$から群$$G$$への移行は,部分集合の合併$$G=H \odot G^{S}= \cap G_{i}$$と解釈できる.ここで,$$ M=G\backslash H=Hg_{2} \cup \cdots \cup Hg_{j} $$は,$$G(g_{1}=e,g_{2}, \cdots ,g_{j} \in G^{S})$$に対する$$H$$の補集合(теоретико-множественное дополнение; set-theoretic complement )である. 
その逆演算の非対称化(диссимметризации; dissymmetrization)は,$$ H=G \odot G^{D}=H \cap M=G\backslash M $$で,拡大$$G$$から補集合$$M$$を除いた(сводится к отбрасыванию из расширения G дополнения М)ものである.対称化あるいは非対称化の演算子$$G^{S}, G^{D}$$を用いると,特定の群$$G_{i}$$を固定することで,交叉$$ \cap G_{i} \subset G_{i}$$を$$\cap G_{i}=G_{i} \odot G^{D*}$$と書ける.すなわち,$$G= \cap G_{i} \odot G^{S}$$は,$$ G=G_{i}\odot G^{D*} \odot G^{S} $$となる.他方,$$G=G_{i} \odot G^{S*} \odot G^{D**}$$,ただし,$$G_{i} \odot G^{S*}=G_{\textrm{emb } }$$,$$G=G_{\textrm{emb } } \odot G^{D**}$$である.その結果,
$$G=G_{i} \odot G^{D*} \odot G^{S}$$ および,$$G=G_{i} \odot G^{S*} \odot G^{D**}$$.ここで,対称化$$G^{S}, G^{S**}$$は,同型な色付き演算に置き換えられ,探していた全体と部分の対称関係(соотношения связи между группами симметрии целого и части)の記号的表現を得る.
これらは,図形の正則系を構成する部分よりなる複合幾何物体で成立するだけでなく,構成点が超幾何的性質(色)を付与されている一般化された幾何(物質)対象でも成立する.この結論は,群拡大の定理の結果に直接基づいている.複合物理系へ拡大し,対称群の重ね合わせの一般原理(複合系に対する対称性原理)となる.これは,一般に,群の交叉や合併にはならない.このことは,等式$$G=G_{i} \odot G^{D*} \odot G^{S}$$を,次の型に書き直すなら明瞭である.
$$ G= \cap G_{i} \cup M,  M=G\backslash\cap G_{i} \neq \phi $$         (11)
異種混成系の特別な場合は次のようになる. 
$$G= \cap G_{i} , M= \phi , G^{S}=e \in G$$       (12)
式(12)より,次のことがいえる.異種混成系物質(heterogeneous)では,部分の対称性は,全体の対称性より低くはならない:$$G_{i} \supset G$$.
部分と全体という概念に具体的な意味を持たせると,この原理は様々な言い換えができる.例えば論理の公理では,[ある理論の仮説が群Gに対して不変であるならば,結論についてもそう言える(G. Birkhoff, 1950)]
あるいは,物理的な因果律では,[ある原因がある結果を生むとき,原因の対称要素は結果に観測されるべきである(P. キューリー, 1894)].
もちろん,これらの新しい主張の正当性は,我々の幾何学的証明とは独立して確立される必要がある.

同時に,物質的に均質な系に対しては,式(11)から,系$$G$$の部分系の対称性について,式(11)から他の可能性が導ける.
$$G_{i} \supseteq G ,  G_{i} \subset G$$, あるいは,$$G_{i}\not \supset G ,  G_{i} \not\subset G$$
ここで,もし必要なら,$$G_{i}$$を同型な古典あるいは色付き群に置き換え:$$G_{i}^{*}=SG_{i}S^{-1}, S \in G_{\textrm{emb } }$$,あるいは,$$G_{\textrm{emb } }I^{(p)}$$(ここで,$$S$$は相似変換で,対称化演算で用いた上付添字$$S$$と混同しないように).このような場合に対応する因果律 は,後述する確率統計的な性格を持つようになる. 

koptsik-ch12-4

例として,対称性$$\mit\Phi=R\overline{3}c$$の$$\alpha-Fe_{2}O_{3}$$型の磁気結晶を考察しよう.図222a,c,とe(カラー挿入頁)に,結晶化学的胞と一致する磁気的胞を示す.Fe原子は点群$$3$$の席対称$$12c$$,6方座標で,$$ (0,0,0),(0,0,\displaystyle \frac{1}{2}),(\displaystyle \frac{1}{3},\displaystyle \frac{2}{3},\displaystyle \frac{2}{3}),(\displaystyle \frac{1}{3},\displaystyle \frac{2}{3},\displaystyle \frac{1}{6}),(\displaystyle \frac{2}{3},\displaystyle \frac{1}{3},\displaystyle \frac{1}{3}),(\displaystyle \frac{2}{3},\displaystyle \frac{1}{3},\displaystyle \frac{5}{6}),(0,0, \pm z) $$を占める.
対称性$$2$$の$$18e$$の位置を占める酸素O原子は,図に描かれていない.図222b,d,fに,磁気配置に対応するShubnikovあるいはBelov群の投影の,$$z=\displaystyle \frac{1}{12}$$と$$z=\displaystyle \frac{1}{6}$$のものが示されている.図222cの配置は,$$z=\displaystyle \frac{1}{12}$$と異なる群($$R\overline{3}^{(3)-}c$$と$$R_{1'}\overline{3}^{(3)-}c$$)により表現される.他の配置に対し,群は$$z=\displaystyle \frac{1}{6}$$と$$z=\displaystyle \frac{1}{12}$$に対するものと同一である.図222(c),(e)での構造の一致に対し,弱い(ferromagnetic)相$$R\overline{3}^{(3)-}c=R\overline{3}^{(3)}c \cap $$(図222f)3色群を得る.この3色群は,$$z=\displaystyle \frac{1}{6}$$で温度範囲-20°<t<675°Cで,ヘマタイト(hematite)で実際に実現される.Belov群とそれらの投影の一般化は,原理的にnoncollinear umbrellaとspiral型を含む結晶のすべての可能な磁気構造を記述する.

これらの群は,電子的構造理論や分子振動理論の分野で広く応用されている.分子結合を担っている波動関数の線形結合(いわゆる分子軌道)は,分子の対称群既約表現により変換される.分子振動の座標,すなわち,分子内の平衡位置点からの原子変位をあらわすベクトルで作られるある種の線形結合は,同一の表現で変換される. 

結晶群の既約表現や反対称群や色付き対称群の既約表現には直接的な関係があるので,これらの主張は,分子軌道と分子の振動座標が,対応するシュブニコフ群とベロフ群の対称性を持っていることと等価である.

 電子の放射遷移の選択則は,赤外やラマンスペクトル構造と同様に,分子の対称群の表現の組み合わせ,すなわち,対応する反対称群や色対称群に関連している.
電子構造論,振動論,結晶の構造解析などでは,さらに対称性の手法が有効である.
もし,結晶に並進対称性がなければ,1cm^3あたり10^23個もの粒子を含む原子系の物性を解析することは極めて困難である.
しかし,結晶構造は,通常は少数の粒子からなる単位胞のモチーフが3次元周期的に繰り返されできており,このモチーフ(単位胞)は,結晶構造における「分子」のような役割を担っている.
したがって,結晶の物性を研究するには,単位胞内の粒子の集合体の挙動を調べればよく,全体の性質は部分の性質から判断できる.
固体の量子論では,Blochの定理やそれに相当する定理によって,全体の性質が並進周期をもつ部分の性質に反映される.
ここでは,結晶の電子構造を記述する波動関数や,同じく,原子の基準振動座標が,空間群の規約表現により変換される.すなわち,これらの関数の系が,反対称やや色付き空間群により記述される.
同じことが,電子密度の変換特性 とパターソン関数(構造解析の基本)で言及できる.これは,回折パターンを結晶構造に関係付ける.

koptsik-ch12-3

周期的離散体(периодического дисконтинуума; periodic discontinuum)の近似における物理量の変換則と対称性

色付き群における空間テンソル

   一様連続媒体の近似では,媒体の全ての点が直交変換や並進に対して等価である.前節では,点群の直交変換のみを調べた.これらの点群と共に3次元連続並進群$$T_{000}$$を考察することで,$$ T_{000}\oslash G $$型の一様連続媒体の全ての運動群と,これらに同型な色付き連続体の群が作れる.
   この節では,3次元に周期をもつ色付き離散体の対称性と,一般化されたテンソル量(空間テンソル)の変換則に注目する.空間テンソルは,3次元に周期をもち,Fedorov,Shubnikov,Belov群の同価点系に対し定義される点テンソルの集合である.既に演算子$$[D|\tau]$$,$$[D|\alpha+\tau]$$を知っており,Fedorov群でのこれらの積則も知っている[参照:10章の式(14.10),(15.10)].ここで,Belov群の色付き変換の演算子とこれらの積則を定義しよう.
   色付き点群$$G^{(p)}$$の変換$$g_{i}^{(p_{i})}=g_{i}p_{i}=p_{i}g_{i}$$を用い,結合された演算子$$[D_{i}|0]^{(p_{i})}=[D_{i}|0](p_{i})=(p_{i})[D_{i}|0]$$を作る.ここで,演算子$$[D_{i}|0]$$は古典的(フェドロフ)群に属し(参照p.254),$$(p_{i})$$は,ここで取り上げる幾何学変換と結びつく特別な色置換である.式(2.11)に応じて,色直交変換の演算の積則は,次のどちらかの型に書ける:
$$[D_{j}|0]^{(p_{j})}[D_{l}|0]^{(p_{l})}=[D_{j}D_{l}|0]^{(p_{j}p_{l})}$$ 
$$[D_{j}|0](p_{j})[D_{l}|0](p_{l})=[D_{j}D_{l}|0](p_{j}p_{l})$$     (3) 

置換$$(p_{j})$$は次の型に書く:
$$(p_{j})=\left( \begin{array}{@{\,} cccc @{\, } }
1 & 2 & ... & p \\[0mm]
n_{1} & n_{2} & ... & n_{p}
\end{array} \right) $$
ここで,$$p$$は,群$$G^{(p)}$$で置換される全色数.置換の積は,常に右から左へ(直交行列でのときと同様)行われる.すなわち,式(3)では,演算$$(p_{l})$$と$$D_{l}$$とが先に実行される.
   色付き変換の演算子に対する積則は,次のどちらかの型に書ける:
$$[E|\tau _{i}]^{(p_{i})}[E|\tau _{k}]^{(p_{k})}=[E|\tau _{i}+\tau _{k}]^{(p_{i}p_{k})}$$
$$[E|\tau _{i}](p_{i})[E|\tau _{k}](p_{k})=[E|\tau _{i}+\tau _{k}](p_{i})(p_{k})$$        (4)
古典変換の演算子を形式的に,$$[D_{j}|0]^{(1)}$$,$$[E|\tau _{j}]^{(1)}$$と書く,ここで(1)は恒等置換である.
$$(1)=\left( \begin{array}{@{\,} cccc @{\, } }
1 & 2 & ... & p \\[0mm]
1 & 2 & ... & p
\end{array} \right) $$
式(3)と(4)を用い,色変換と古典(フェドロフ)変換の積を導く.
   Belov群における運動の演算子を,恒等式
$$[E|\tau _{i}]^{(p_{i})}[D_{j}|0]^{(p_{j})}=[D_{j}|\tau _{i}]^{(p_{i}p_{j})}$$   あるいは,

$$[E|\tau _{i}](p_{i})[D_{j}|0](p_{j})=[D_{j}|\tau _{i}](p_{i})(p_{j})$$    (5)     
それらの積則を式
$$[D_{j}|\tau _{i}](p_{ij})[D_{l}|\tau _{k}](p_{kl})=[D_{j}D_{l}|D_{j}\tau _{k}+\tau _{i}](p_{ij})(p_{kl})$$ (6)
で定義する.ここで,$$(p_{ij})=(p_{i})(p_{j})$$,$$(p_{kl})=(p_{k})(p_{l})$$は,色付き運動の演算子にともなう置換である.同様に,非共型色付き群に対する運動の演算子とそれらの積則が導ける.
   読者の演習として,図214の群に対して,p.297Eではダイヤグラム法[めのこ]で得た色運動の積を,解析的に見出すことをお勧めする.例えば,$$P_{c^{(3) } }2$$(図216参照)で,軸$$2$$を色軸$$2^{(2)}$$に換え導いた6色群$$P_{c^{(3) } }2^{(2)}$$の考察をしよう.単位胞の上辺に沿って,4面体を$$\begin{array}{@{\,} cccc @{\, } }
4 & 5 & 6 & 4 \\[0mm]
1 & 2 & 3 & 1
\end{array}$$の様に追いながら,$$[D(g)|\tau ]$$を簡潔に$$[g|\tau ]$$と書き,群$$P_{c^{(3) } }2^{(2)}$$の生成演算子のあらわな形式を見出せる:
$$ \left[ 2|0 \right] ^{(2)}=\left[ 2|0 \right] \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } } 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm] 4 & 5 & 6 & 1 & 2 & 3 \end{array} \right)   \gets \to 2^{(2)} $$
$$ \left[ 1|\displaystyle \frac{c}{3} \right] ^{(3)}=\left[ 1|\displaystyle \frac{c}{3} \right] \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } } 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm] 2 & 3 & 1 & 5 & 6 & 4 \end{array} \right) \gets \to c^{(3)} $$
次に,
$$ \left[ 2|0 \right] ^{(2)}\left[ 1|\displaystyle \frac{c}{3} \right] ^{(3)}=\left[ 2|\displaystyle \frac{c}{3} \right] \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } } 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm] 5 & 6 & 4 & 2 & 3 & 1 \end{array} \right) \gets \to 2_{1}^{(3)}, $$
  ただし,$$\left( 2_{1}^{(3)} \right) ^{3}=c$$;
$$ \left[ 2|0 \right] ^{(2)}\left( \left[ 1|\displaystyle \frac{c}{3} \right] ^{(3)} \right) ^{2}=\left[ 2|\displaystyle \frac{2c}{3} \right] \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } } 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm] 6 & 4 & 5 & 3 & 1 & 2 \end{array} \right) \gets \to 2_{1}^{(6)}, $$
  ただし,$$\left( 2_{1}^{(6)} \right) ^{6}=4c$$
同時に,
$$\left( 2_{1}^{(6)} \right) ^{3}=\left[ 2|2c \right] \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
4 & 5 & 6 & 1 & 2 & 3
\end{array} \right) =\left[ 1|2c \right] \left[ 2|0 \right] \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
4 & 5 & 6 & 1 & 2 & 3
\end{array} \right) \equiv 2^{(2)}\left( \textrm{mod} 2c\right) $$, etc.
次の関係を思い出そう: 
$$\left[ 2|0 \right] \left[ 1|\displaystyle \frac{c}{3} \right] =\left[ 2|\hat{2}\displaystyle \frac{c}{3} \right] =\left[ 2|\displaystyle \frac{c}{3} \right] $$
($$\hat{2}$$は演算$$2$$に対応する演算子),なぜなら,ベクトル$$c$$は,演算$$2$$により符号を変えないからである.らせん軸$$2_{1}^{(3)}$$,$$2_{1}^{(6)}$$の色指数は,演算子の対応する冪乗が最小の古典変換を与えるように選ばれる.
   Belov群の位数$$s$$の空間(複素)テンソルを演算子
$$A'(r')=(p)^{s}\left[ D|\tau \right] ^{s}A(r)=(p)^{s}D^{s}A(\left[ D|\tau \right] r)$$           (7)
により定義する.ここで,ベクトル表現の$$s$$次の行列
$$D^{s}=D \times D \times \cdot \cdot \cdot \cdot \times D$$
は,テンソル成分の列$$A=\left\{ A_{i_{1}i_{2} \ldots i_{s } } \right\} $$に作用し,この演算の後(前)に,全てのテンソル成分に,適切に定義された位相,すなわち色置換が巡回であれば,$$(p)^{s}=e^{-si\phi }$$,$$p=e^{-i\phi }$$,が乗じられる.古典演算子$$[D|\tau ]$$の最初の冪は,テンソルの偏角(argument)$$r$$に作用する.結果として,固定された点$$r$$で定義されたテンソル$$A$$は,この点での直交変換で,その色特性(位相)を変える.変換された量$$A'$$は,色空間群に対応する同価点の全系$$\left\{ r'=\left[ D|\tau \right] r \right\} $$で,演算子$$[D|\tau ]$$により繰り返される.
   ある場合には,空間テンソルは実数になる.例えば,磁気空間ベクトルは次の式で定義され
$$m'(r')=(p)\left[ D|\tau \right] m(r)=(p)Dm\left( \left[ D|\tau \right] r \right) $$          (8)
結晶の磁気(スピン)構造を記述する.この場合,演算子$$(p)$$の位相変化は,固定された点の"回転"と定義される(参照:図212). 
   テンソル$$A=\left\{ A_{i_{1}i_{2} \ldots i_{s } } \right\} $$の独立な成分の数は,一つの単位胞内の同価点の系$$\left\{ r'=\left[ D|\tau \right] r \right\} $$の点の数を乗じた位置の点群$$G(p)$$あるいは$$G$$により決まり,特定なBelov群の胞内のテンソル$$A(r)$$の"独立な"成分の数を与える.
   後に,2色Shubnikov群で定義された実際の空間テンソルに対するもっと詳しい考察をする(Koptsik,1966,1967)ことになる.演算子$$1'$$と$$\overline{1}$$の冪が乗じられた純粋回転$$\left[ C\left( k,\phi \right) |0 \right] $$である反対称演算子$$\left[ D|0 \right] '$$である.
   中性群の場合には,反恒等演算子(antiidentification operator) $$1'$$は,2つの符号(色)の置換に影響を与える,すなわち,式(7)の置換$$\left( p \right) $$の部分に作用する:
$$1'=\left( \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
+ & - \\[0mm]
- & +
\end{array} \right) =\left( \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
1 & 2 \\[0mm]
2 & 1
\end{array} \right) $$
   反対称群のテンソルンの分類に(古典群で極性と軸性に分けたように),中性点群$$\overline{1}1'=\left\{ 1, \overline{1}, 1', \overline{1}' \right\} $$を考察し,その群の1次元行列$$ \pm 1$$による最も簡単な行列表現は次のようである.演算1に数字1を対応させ,これらの数の群$$D=\left\{ \pm 1 \right\} $$の乗積表が,群$$\overline{1}1'$$の乗積表と同じ構造を持つように,他の3つの演算子に数$$ \pm 1$$を対応させる方法は4通りである.これらの可能性 [$$\chi (g)$$の表中で$$D_{\varepsilon } ,D_{M} ,D_{E} ,D_{S}$$とラベルされる(その理由は後で明らかになる);$$\chi (g)= \pm 1$$]と,乗積表明らかに群$$\overline{1}1'$$と同型であるこれらの可能性の一つと,$$D_{M}=\left\{ 1,1,-1,-1 \right\} $$以下に与える:

$$\begin{array}{c|cccc}
\chi (g) & 1 & \overline{1} & 1' & \overline{1}' \\[0mm]
\hline
D_{\varepsilon } & 1 & 1 & 1 & 1 \\[0mm]
D_{M} & 1 & 1 & -1 & -1 \\[0mm]
D_{E} & 1 & -1 & 1 & -1 \\[0mm]
D_{S} & 1 & -1 & -1 & 1
\end{array}$$ $$\begin{array}{c|cccc}
D_{M} & 1 & 1 & -1 & -1 \\[0mm]
\hline
1 & 1 & 1 & -1 & -1 \\[0mm]
1 & 1 & 1 & -1 & -1 \\[0mm]
-1 & -1 & -1 & 1 & 1 \\[0mm]
-1 & -1 & -1 & 1 & 1
\end{array} \leftrightarrow \begin{array}{c|cccc}
\overline{1}1' & 1 & \overline{1} & 1' & \overline{1}' \\[0mm]
\hline
1 & 1 & \overline{1} & 1' & \overline{1}' \\[0mm]
\overline{1} & \overline{1} & 1 & \overline{1}' & 1' \\[0mm]
1' & 1' & \overline{1}' & 1 & \overline{1} \\[0mm]
\overline{1}' & \overline{1}' & 1' & \overline{1} & 1
\end{array}$$

表現$$D_{\varepsilon }$$(unitary),$$D_{M}, D_{E}, D_{S}$$(alternating)は(irreducible)既約と呼ばれる.それは,これ以上簡単な群$$\overline{1}1'$$(この場合)に同型な行列群がないからである.32の結晶群$$G_{c}$$に対し,58のalternating 1次元表現がある.これらのどれもが,特定の反対称群$$G_{c}'$$が伴っている.同様に色群$$G_{c}^{(p)}$$は,群$$G_{c}$$の複素あるいは多次元表現に結び付いている(Niggli,1959;Indenbom,1960).さあ今度は,一般化されたEuclideanユークリッド空間の運動群(運動群と群$$\overline{1}1'$$との直積)を考察し,argument$$r$$とテンソル関数$$A(r)$$の変換則を特定することで,位数$$s$$の空間テンソル$$A(r)$$を決定しよう: 
$$\left[ \overline{1}^{p}1'^{q}C\left(k, \phi \right) |\tau \right] ^{s}A_{i_{1}i_{2} \ldots i_{s } }\left(r\right)=A_{i_{1}^{'}i_{2}^{'} \ldots i_{s}^{' } }\left( r' \right) =\chi \left( g \right) C_{i_{1}^{'}i_{1 } }C_{i_{2}^{'}i_{2 } } \ldots C_{i_{s}^{'}i_{s } }A_{i_{1}i_{2} \ldots i_{s } }\left( \left( -1 \right) ^{p}C_{j^{'}j}\left( r_{j}-\tau _{j} \right) \right) $$                   (9)
ここで,$$\chi (g)$$は,表現$$D_{\varepsilon } , D_{M} , D_{E} , D_{s}$$中の要素
$$g=\overline{1}^{p}1'^{q}=1,\overline{1},1',\overline{1}'$$  $$(p,q=1,2)$$に応じて,$$+1$$か$$-1$$をとる. $$C(k, \phi )$$は,単位ベクトル$$k$$の周りの角度$$\phi $$の純粋回転の演算子;$$C_{i^{'}i}=\textrm{cos}\left( x_{i'},x_{i} \right) $$;式(9)中で繰り返される添字$$i_{1}, i_{2}, \ldots ,i_{s}$$は,1から3の和が行われるとする.
適切に定義されると,結晶でテンソル$$A(r)$$は,結晶中での質量密度や電荷密度$$\rho (x,y,z)$$,電流密度$$j(x,y,z)$$,双極子や多重極子モーメントなどの3次元周期的な分布を記述する.式(9)で用いられる規約表現(irreducible representation) $$D_{\varepsilon } , D_{M} , D_{E} , D_{S}$$に応じて,偶数パリティ,磁気的,電気的,および電磁気的テンソル*が区別される.[*電磁気テンソルは,Pointingベクトルのように表現$$D_{S}$$で変換される.]
例えば,定常的なフェリ磁性,アンチフェリ磁性の磁気構造を記述する磁気モーメント$$m(r)$$の空間ベクトルの成分は,(9)から導かれる法則$$m_{i}'(r')=\chi _{M}C_{i'i}m_{i}\left( \left( -1 \right) ^{p}C_{j'j}\left( r_{j}-\tau _{j} \right) \right) $$により変換され,既に導いた表の$$D_{M}$$で表現される.演算子$$1'$$が磁気ベクトル$$B,M,H$$に作用したと同様,演算子$$\overline{1}$$は電気ベクトル$$D,P,E$$に作用し,対応する結晶の電気的および磁気的特性を記述するシュブニコフShubunikov類との同型性ができることに注目しよう.このようにして,磁気的結晶物理の現象論的手法と古典的手法と形式論的結合の課題は解け,特性の対称性に基礎を置く多くに課題を解くことができる(Sirotin,1962).
再び,テンソルの変換則(9)に戻り,任意の変換に対するテンソル$$A(r)$$の不変性の要求により,テンソル$$G_{A(\tau )}$$の対称空間群を決定しよう.
$$A'(r')=\left[ D|\tau \right] ^{S}A(r)=A(r)_{S}\left[ D|\tau \right] =\left[ 1'^{q}\overline{1}^{p}C(k,\phi )|\tau \right] $$ (10)
一般の場合,テンソルの対称群は,$$G \otimes P$$型の$$P$$-群である.なぜなら,結晶物理のテンソルは一般化された運動群$$G$$の部分群で変換されるほかに,指数$$A(r)$$の$$P$$-置換によっても変換されるからである.

式(10)で$$m(r)=A(r)$$とおくと,この式は結晶のFedorov(古典),または,磁気構造のShubnikov(2色)対称群になる.$$ \hat{\mit\Phi} $$を,結晶の結晶化学群$$\mit\Phi $$と同型な演算子の群とする.剛体運動$$ \hat g_{i}=[D(g_{i})|\tau ] \in\hat{ \mit\Phi} $$で,磁気原子は,点$$r$$から$$\hat g_{i}r=D(g_{i})r+\tau $$に動き,磁気モーメントの方向は対応して変化する.$$\hat g_{j}m(r)=[g_{j}]m(\hat g_{j}^{-1}r)=m(r)$$となる元$$\hat g_{j}$$のみが,磁気構造のFedorov対称群$$\hat {\mit\Phi} ^{\ast }$$を作る:$$\hat g_{j}\in \hat{ \mit\Phi }^{\ast } \subset \hat {\mit\Phi}$$. $$m(r)$$の軸性を許すと,直交演算子$$\hat g_{j}$$の純粋回転部分$$\left[ C(k,\phi ) \mid 0 \right] $$を$$[g_{j}]$$と標記し,式(8)に対し,ベクトル関数の定義域を特定化し,逆演算子により$$ m(\hat g_{j}^{-1}r) $$$$ m(\hat g_{j} r) $$ではない.

同一の磁気構造のシュブニコフ対称群は,演算子$$ \hat{g}_{k}'=\hat{g}_{k}1'=1'\hat{g}_{k} \in $$Шの集合を含む.ここで,$$ \hat{g}_{k}'m(r)=(-1)[\hat{g}_{k}]m(g_{k}^{-1}r)=m(r) $$
ベーロフ多色対称群は,同様に,一般化された演算$$ \hat{g}_{i}^{(q_{i})}=q_{i}\hat{g}_{i} \in \hat{\mit\Phi }^{(q)}=\hat{Б } $$の集合を含む.ここで,$$ \hat{g}_{i}^{(q_{i})}m(r)=(q_{i})[g_{i}]m(\hat{g}_{i}^{-1}r)=m(r) $$
$$ \mit\Phi P=\mit\Phi ^{(p)} $$(11章とこの章で扱った)の等式(6)に対して,ベーロフ群の積則$$ \mit\Phi =\mit\Phi ^{(q)} $$は次のようである.
$$ \hat{g}_{i}^{(q_{i})} \oslash \hat{g}_{k}^{(q_{k})}=(q_{i})[D_{i}|\tau _{j}] \oslash (q_{k})[D_{k}|\tau _{l}]=(q_{i}D_{i}q_{k}D_{i}^{-1})[D_{i}D_{k}|D_{i}\tau _{l}+\tau _{j}]=\hat{g}_{s}^{(q_{s})} $$   (6*)
(6*)では,$$p$$の代わりに$$q$$を用いているのは,(6)では$$\hat{g}_{i}p_{i}=p_{i}\hat{g}_{i} \in \hat{\mit\Phi }^{(p)}$$であるが,$$\hat{g}_{i}q_{i} \neq q_{i}\hat{g}_{i} \in \hat{\mit\Phi }^{(q)}$$であるからである.
演算子の集合$$q \in Q$$は,一般化された直交群$$ \infty \infty 1' \subset P_{000} \infty \infty m \otimes 1' \otimes \mit\Gamma $$($$\mit\Gamma $$は相似対称群)から選ばれ,これは点群の一般化された射影表現$$\mit\Phi /T \longleftrightarrow G$$を生むモジュラス群の一般型である.この場合は,式(6*)の($$q_{i}D_{i}q_{k}D_{i}^{-1}$$)は,もっと複雑な関数関係に置き換えられる.それは,結晶全体としての$$\hat{g}_{s}^{\omega (D_{i}, D_{k})}=\hat{g}_{s}^{(q_{s})} \in \hat{\mit\Phi }^{(q)}$$のような幾何空間の運動$$\hat{g}_{s}=[D_{i}D_{k}|D_{i}\tau _{i}+\tau _{j}]$$と結びついたスピン空間での局所変換$$q_{s}=\omega (D_{i}, D_{j})$$である. 

 

koptsik-ch12-2

 

変換則と物理量の対称性(一様連続体の近似)
反対称と色付き対称の極限群 

   結晶のスカラー特性は,測定の方位によらないので,1つの数により定義される.例えば,均一で一様な結晶の温度・密度は,巨視的なサンプルに比べ十分小さい体積要素であるが,単位胞よりは遥かに大きいような"点" の全てで同一である.
   誘電体結晶(焦電性pyroelectric,強誘電性ferroelectricと呼ばれる)は,その構造に起因する自発分極(外部電場が存在しなくても分極している)を持つ.対称性$$1$$の結晶中の分極ベクトル$$P$$は,3つの独立なパラメータ:$$P_{1}, P_{2}, P_{3}$$で決定される(図219a).対称性$$m$$[z軸に垂直な鏡映面]の結晶では,生じるベクトル$$P$$は,2つの成分$$P_{1}, P_{2}$$で完全に決定される(図219b).成分$$P_{3}=0$$となる訳は,平面$$m$$内にない斜めのベクトルには,鏡映同価なベクトルが必ずあるからである.
軸性[回転]対称類$$2,3,4,6,mm2,3m,4mm$$の結晶では,生じるベクトル$$P$$は,1つのパラメータ$$P_{3}$$で記述される(図219c).$$\overline{1}$$ のように対称心のある結晶類では,焦電性はない;すなわち$$P=0$$である.
   極性ベクトルの変換則$$r'=\left[ D|0 \right] r=Dr$$ を思いだそう(P.204参照).この法則で,$$r$$ を$$P$$ で置き換え:$$P_{i}'=D_{ij}P_{j}$$ と行列形式で書く.例えば,軸性群$$2$$における2回軸$$//X_{3}$$の周りの180°回転を,行列$$D$$のあらわな形式を用い,対称操作の行列積を行うと,以下の結果を得る.
$$\left( \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
P_{1}' \\[0mm]
P_{2}' \\[0mm]
P_{3}'
\end{array} \right) =\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
-1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & -1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 1
\end{array} \right) \left( \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
P_{1} \\[0mm]
P_{2} \\[0mm]
P_{3}
\end{array} \right) =\left( \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
-P_{1} \\[0mm]
-P_{2} \\[0mm]
P_{3}
\end{array} \right) $$
軸対称のため,系の180°回転後, 
$$\left( \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
P_{1}' \\[0mm]
P_{2}' \\[0mm]
P_{3}'
\end{array} \right) =\left( \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
P_{1} \\[0mm]
P_{2} \\[0mm]
P_{3}
\end{array} \right) $$ ,すなわち,$$ \left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
P_{1}'=-P_{1}=P_{1}=0 \\[0mm]
P_{2}'=-P_{2}=P_{2}=0 \\[0mm]
P_{3}'=P_{3}=const
\end{array} \right. $$

さらにもう1つ,2階の極性テンソルで記述される特性例:誘電体に誘起される分極現象(図220)を考察する.結晶中の変位ベクトル$$D$$は一般には印加される電場$$E$$方向と一致しない(等方媒質では一致する).これらの極性ベクトルの成分$$D_{i}とE_{j} $$との関係は,
$$D_{i}=\varepsilon _{ij}E_{j}$$  または,$$ \left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
D_{1}=\varepsilon _{11}E_{1}+\varepsilon _{12}E_{2}+\varepsilon _{13}E_{3} \\[0mm]
D_{2}=\varepsilon _{21}E_{1}+\varepsilon _{22}E_{2}+\varepsilon _{23}E_{3} \\[0mm]
D_{3}=\varepsilon _{31}E_{1}+\varepsilon _{32}E_{2}+\varepsilon _{33}E_{3}
\end{array} \right. $$ (1)
係数$$\varepsilon _{ij}$$は,誘電率テンソルの形で,べクトル$$D$$と$$E$$を結び付ける.一般に,要素の対称性$$\varepsilon _{ij}=\varepsilon _{ji}$$ があり,9つではなく6つの独立なパラメータをもつ.
これから先は,テンソル$$\varepsilon _{ij}$$ の行列を,簡単化して,非ゼロの独立なパラメータのみの行か列の形式に書くことにする:
$$\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
\varepsilon _{11} & \varepsilon _{12} & \varepsilon _{13} \\[0mm]
\varepsilon _{12} & \varepsilon _{22} & \varepsilon _{23} \\[0mm]
\varepsilon _{13} & \varepsilon _{23} & \varepsilon _{33}
\end{array} \right) =\left( \varepsilon _{11},\varepsilon _{12},\varepsilon _{13},\varepsilon _{22},\varepsilon _{23},\varepsilon _{33} \right)     $$
$$\varepsilon _{ij}$$を係数とする2次の表面
$$\varepsilon _{11}x_{1}^{2}+\varepsilon _{22}x_{2}^{2}+\varepsilon _{33}x_{3}^{2}+2\varepsilon _{12}x_{1}x_{2}+2\varepsilon _{13}x_{1}x_{3}+2\varepsilon _{23}x_{2}x_{3}=1$$
は,対称テンソルに一意に関係づけられている;この表面は誘電率楕円体(ellipsoid),あるいは一般に,観察される効果の特性を明確にする物理特性の屈折率楕円体(indicatrix)である.結晶の対称群$$G_{k}$$ は,この表面の形(3軸あるいは1軸性の楕円体,あるいは,球)と結晶物理軸 $$X_{1}, X_{2}, X_{3}$$に対する楕円体の主軸$$X_{1}', X_{2}', X_{3}'$$ の方位を決定する.群$$G_{k}$$ は,実験的に決定しなければならない$$\varepsilon _{ij}$$ の独立な数も決定する.これを理解するために,テンソル成分$$\varepsilon _{ij}$$ の変換式を
$$\varepsilon _{i'j'}=\chi (D)D_{i'i}D_{j'j}\varepsilon _{ij}$$        $$i', j', i, j=1,2,3$$             (2) 
と書く,ここで,$$D_{i',i}=\textrm{cos}(X_{i}', X_{i})$$ ,$$\chi (D)$$ は極性テンソルでは+1,右辺の総和は繰り返される$$i,j$$ に対し,1から3で行われる.項の和を取り,6つの未知数を求めるのに9個の方程式の冗長系( 3つの方程式$$\varepsilon _{i'j'}=\varepsilon _{j'i'}$$は,この場合は成立しない;非対称テンソルの一般の場合には,成立しない)を得る.
   読者諸君にこの手順を実行するのを残しておき,上記の等式系の行列を導くのに他の手法を使う-3次元空間の座標変換の直交行列の(自分自身との)直積(p.241).行列$$D$$の自分自身との直積は,
$$D^{2}=\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
D_{11} & D_{12} & D_{13} \\[0mm]
D_{21} & D_{22} & D_{23} \\[0mm]
D_{31} & D_{32} & D_{33}
\end{array} \right) \times \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
D_{11} & D_{12} & D_{13} \\[0mm]
D_{21} & D_{22} & D_{23} \\[0mm]
D_{31} & D_{32} & D_{33}
\end{array} \right) =\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
D_{11}(D_{ij}) & D_{12}(D_{ij}) & D_{13}(D_{ij}) \\[0mm]
D_{21}(D_{ij}) & D_{22}(D_{ij}) & D_{23}(D_{ij}) \\[0mm]
D_{31}(D_{ij}) & D_{32}(D_{ij}) & D_{33}(D_{ij})
\end{array} \right) $$
ここで,$$(D_{ij})$$は$$3 \times 3$$行列で,例えば
$$D_{23}(D_{ij})=\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
D_{23}(D_{11}) & D_{23}(D_{12}) & D_{23}(D_{13}) \\[0mm]
D_{23}(D_{21}) & D_{23}(D_{22}) & D_{23}(D_{23}) \\[0mm]
D_{23}(D_{31}) & D_{23}(D_{32}) & D_{23}(D_{33})
\end{array} \right) $$ ,等々.
例えば,$$2 /\!\!/ X_{3}$$軸まわりの180°回転の行列$$D$$($$D_{11}=D_{22}=-1, D_{33}=1$$,残りの行列要素はゼロ)を知れば,テンソル$$\varepsilon _{ij}$$ の空間でのこの回転を記述する$$D^{2}$$を見出せる.すなわち,対称群$$G_{k}=2$$ に対して,変換式$$\varepsilon _{i'j'}=\chi (D)D^{2}\varepsilon _{ij}$$ は以下の形となる:
$$\left[ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\varepsilon _{1'1'} \\[0mm]
\varepsilon _{1'2'} \\[0mm]
\varepsilon _{1'3'} \\[0mm]
\varepsilon _{2'1'} \\[0mm]
\varepsilon _{2'2'} \\[0mm]
\varepsilon _{2'3'} \\[0mm]
\varepsilon _{3'1'} \\[0mm]
\varepsilon _{3'2'} \\[0mm]
\varepsilon _{3'3'}
\end{array} \right] =\left[ \begin{array}{@{\,} ccccccccc @{\, } }
1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & -1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 0 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 0 & 0 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 0 & 0 & 0 & -1 & 0 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & -1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & -1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1
\end{array} \right] \left[ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\varepsilon _{11} \\[0mm]
\varepsilon _{12} \\[0mm]
\varepsilon _{13} \\[0mm]
\varepsilon _{21} \\[0mm]
\varepsilon _{22} \\[0mm]
\varepsilon _{23} \\[0mm]
\varepsilon _{31} \\[0mm]
\varepsilon _{32} \\[0mm]
\varepsilon _{33}
\end{array} \right] $$

テンソルの置換対称性と結晶の2回対称性を考慮して,$$\varepsilon _{i'j'}=\varepsilon _{ij}$$,
$$\varepsilon _{1'1'}=\varepsilon _{11}$$
$$\varepsilon _{1'2'}=\varepsilon _{12}$$
$$\varepsilon _{1'3'}=-\varepsilon _{13}=\varepsilon _{13}=0$$
$$\varepsilon _{2'1'}=\varepsilon _{21}$$
$$\varepsilon _{2'2'}=\varepsilon _{22}$$
$$\varepsilon _{2'3'}=-\varepsilon _{23}=\varepsilon _{23}=0$$
$$\varepsilon _{3'1'}=-\varepsilon _{31}=\varepsilon _{31}=0$$
$$\varepsilon _{3'2'}=-\varepsilon _{32}=\varepsilon _{32}=0$$
$$\varepsilon _{3'3'}=\varepsilon _{33}$$

行列$$D^{2}$$の4,7,8行,4,7,8列を抜き取り,$$9 \times 9$$行列から,対称テンソルの変換則を完全に記述する$$6 \times 6$$行列に移行する.この行列を2つの行列の対称化積(あるいは対称化平方)と呼び$$D^{(2)}$$と標記する.
   群$$G=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{j} \right\} $$ の同形な行列群$$\left\{ D_{1}(g_{1}),D_{2}(g_{2}), \ldots ,D_{j}(g_{j}) \right\} $$ は,行列表現$$G$$ を作る.この表現は,$$3 \times 3$$行列$$D_{j}$$が点の配置の変換のみでなく3次元空間のベクトル成分を変換するので,ベクトル表現と呼ばれる.
   群$$G$$の群$$\left\{ D_{1}^{2}(g_{1}),D_{2}^{2}(g_{2}), \ldots ,D_{j}^{2}(g_{j}) \right\} $$ による表現は,ベクトル表現の平方あるいはテンソル表現と呼ばれる.この術語を用いれば,誘電率テンソル$$\varepsilon _{ij}$$はベクトル表現 $$\left\{ D_{1}(g_{1}),D_{2}(g_{2}), \ldots ,D_{j}(g_{j}) \right\} $$の対称化された平方により変換される.テンソル量の定義自体は,成分の変換を支配する法則を特定すること,すなわち対応するテンソル表現の特定に基づいている.
   各32の結晶群に対する表現$$\left\{ D_{1}^{2}(g_{1}),D_{2}^{2}(g_{2}), \ldots ,D_{j}^{2}(g_{j}) \right\} $$ から,これらの群のどれに対しても,群$$G_{k}=2$$ に対して行ったのと全く同様に,テンソル$$\varepsilon _{ij}$$ の形を決定できる.テンソル$$\varepsilon _{ij}$$ の行列は,成分$$\varepsilon _{ij}$$ が対応する座標 $$x_{i}x_{j}$$の積と同様に変換されることに注目すれば,もっと速く決定できる.この方法を用い,方位$$m \bot X_{3} $$の群$$G_{k}=m $$に対し,テンソル$$\varepsilon _{ij}$$の行列の形を見出すことにする.この平面での鏡映により,座標$$x_{1}, x_{2}$$ は保存され,座標$$x_{3}$$は符号を変える: $$x_{1} \to x_{1}, x_{2} \to x_{2}, x_{3} \to -x_{3} $$
従って,座標の積は以下のように変化する: 
$$x_{1}x_{1} \to x_{1}x_{1}, x_{1}x_{2} \to x_{1}x_{2}, x_{1}x_{3} \to -x_{1}x_{3}, x_{2}x_{1} \to x_{2}x_{1}, x_{2}x_{2} \to x_{2}x_{2} $$
$$x_{2}x_{3} \to -x_{2}x_{3}, x_{3}x_{1} \to -x_{3}x_{1}, x_{3}x_{2} \to -x_{3}x_{2}, x_{3}x_{3} \to x_{3}x_{3} $$
この変換は対称変換であるので,変換の前後で,成分$$\varepsilon _{ij} \leftrightarrow x_{i}x_{j}$$ は等しい.従って,群$$m$$の行列$$\varepsilon _{ij}$$ が,群2に対するものと同じ形となる:$$(\varepsilon _{11}, \varepsilon _{12}, \varepsilon _{22}, \varepsilon _{33})$$
   以下のリストに,結晶学的な群に対する誘電率テンソルの一般形を与える:
三斜晶系$$G_{k}=1, \overline{1} :(\varepsilon _{11}, \varepsilon _{12}, \varepsilon _{13}, \varepsilon _{22}, \varepsilon _{23}, \varepsilon _{33})$$
単斜晶系 $$2, m, 2/m  :(\varepsilon _{11}, \varepsilon _{12}, \varepsilon _{22}, \varepsilon _{33})$$
直方晶系 $$2, 222, mmm :(\varepsilon _{11}, \varepsilon _{22}, \varepsilon _{33})$$
三方晶系,正方晶系,六方晶系$$:(\varepsilon _{11}, \varepsilon _{22}=\varepsilon _{11}, \varepsilon _{33})$$
等軸晶系 $$23, m\overline{3}, 432, \overline{4}3m, m\overline{3}m :(\varepsilon _{11}, \varepsilon _{22}=\varepsilon _{11}, \varepsilon _{33}=\varepsilon _{11})$$

全く同様に,軸性ベクトルに対するテンソル不変量(対応する群の変換により変わらない行列)を見出すことが出来る.テンソル成分の変換則で,第1種の変換(回転,並進)に対しては,$$\chi (D)=+1$$ ,第2種の変換(鏡映,反転)に対しては$$\chi (D)=-1$$ とする所が異なる.
   テンソル本来の直方晶対称は,テンソル行列の一般形を保存する直交変換の最も対称性の高い群により決定されるのだが,もとの結晶の対称性よりも高くなる可能性があることに注意しよう.例えば,立方晶系に対し,誘電率楕円体は対称性$$ \infty \infty m$$ の球に縮退する.3方晶系,正方晶系,6方結晶に対しては,1軸性誘電率楕円体は対称性$$ \infty /mmm$$である.残りの結晶に対しては,誘電率楕円体は,対称性 $$mmm$$の3軸性である.これは,楕円体(図220)をprincipal axes主軸$$X_{1}', X_{2}', X_{3}'$$に参照することにより理解出来る:群$$mmm$$ のすべての変換は,テンソル行列$$(\varepsilon '_{11}, \varepsilon '_{22}, \varepsilon '_{33})$$を保存する.さらに低い対称性の結晶系では,結晶物理主軸$$X_{1}, X_{2}, X_{3}$$ に対する楕円体の方位を標示するために,パラメータが(これらの3つ以上に)増える.

   均一なテンソル場の対称群の中で,極限キューリーCurie群(図74)に加えて,反対称と色付対称群のlimiting orthogonal極限直交群に出会う.
   7つの中性と7つの2-色のlimiting antisymmetry極限反対称群が,拡大の理論により得られる:
$$ \infty 1', \infty 221', \infty mm1', \infty /m1', \infty /mmm1', \infty \infty 1', \infty \infty m1',$$
$$ \infty /m', \infty 2'2', \infty m'm', \infty /m'mm, \infty /mm'm', \infty /m'm'm', \infty \infty m' $$
これらの群の具体化としての物質図形は,キュリーCurie群に対するそれらと同じ形を持つ.中性群では,図形の全ての点は中性,2-色群では,2色である(2色は,各点ごとに,混合されたり塗り分けられたりする).反対称の磁気的解釈では,電気,磁気,Poyntingポインティングベクトルは,それぞれ,磁気対称の極限群$$ \infty mm1', \infty /mm'm', \infty /m'mm$$を持つ(図221).反対称の極限群の導出では,読者はShubunikov(1958,1959),Sirotin(1962),Koptsik(1966)による扱いを参照するとよい. 
   この系列に,無限個の色付極限群(colored limiting groups)が存在し:
$$ \infty 1^{(p)}, \infty 221^{(p)}, \infty mm1^{(p)}, \infty /m1^{(p)}, \infty /mmm1^{(p)},$$
$$ \infty \infty 1^{(p)}, \infty \infty m1^{(p)}; $$
$$ \infty ^{( \infty )}, \infty ^{( \infty )}m^{(2)}m^{(2)}, \infty ^{( \infty )}/m, \infty ^{( \infty )}/mm^{(2)}m^{(2)},$$
$$ \infty ^{( \infty )}2^{(2)}2^{(2)}, \infty ^{( \infty )}/m^{(2)}, \infty ^{( \infty )}/m^{(2)}m^{(2)}m^{(2)} $$
$$ \infty ^{( \infty )} \infty ^{( \infty )}, \infty ^{( \infty )} \infty ^{( \infty )}m^{(2)} $$
色付群の具体化となる典型的な図形は,Curieキューリー図形の周りに色調が連続的に変化(虹のように)する色紙を接着すると得られる. 
例えば,単色光線がコーンの頂点からその底面へ通過すると,色は,コーンの回転にともない,自然のスペクトル順に変化する.コーンが回転するなら, 
群の系列$$ \infty ^{( \infty )}(1), \infty ^{( \infty )}(2), \ldots , \infty ^{( \infty )}(n)$$,静止しているコーンには,系列$$ \infty ^{( \infty )}m^{(2)}m^{(2)}(1), \infty ^{( \infty )}m^{(2)}m^{(2)}(2), \ldots , \infty ^{( \infty )}m^{(2)}m^{(2)}(n)$$ を得る
[ここで,(1),(2),(n)は,古典的軸性部分群である;色付コーンの群が,部分群$$n$$を含むなら,1回転で色サイクルは$$n$$回繰り返すことを意味する].
底をシリンダーとし,その周りに色サイクルを一回貼りつけ,群$$ \infty ^{( \infty )}/mm^{(2)}(1)$$ (静止したシリンダー),$$ \infty ^{( \infty )}/m(1)$$ (回転シリンダー)を得る.
色が連続的に,シリンダーを1周(円周に沿い)するのみでなく,すべての生成元に沿い変化するなら,対称性$$ \infty ^{( \infty )}/m^{(2)}m^{(2)}m^{(2)}(1)$$(静止時),$$ \infty ^{( \infty )}/m^{(2)}(1)$$(回転シリンダー),$$ \infty ^{( \infty )}2^{(2)}2^{(2)}(1)$$(ねじれシリンダー)の2回の色シリンダーを得る.
これらの全てで,部分群$$1$$を$$n$$で置き換えると,オリジナルのものから群の無限系列が導びける.色シリンダーの群は,古典的部分群$$nmm,n22$$, あるいは,何らかの性質を保存する部分群の系列に形式化できる.
色極限群の最後の2つは,全点が$$ \infty $$-色で,かつ,中性でない球で具体化される:各点の色は,セクターに沿って分布するか,あるいは,混合されずに層をなして互いに重畳され,同様に群$$ \infty ^{( \infty )}$$ と$$ \infty ^{( \infty )}m^{(2)}m^{(2)}$$ ではコーンのチップに分布する.群$$ \infty ^{( \infty )} \infty ^{( \infty )}$$ では,球の直径は群 $$ \infty ^{( \infty )}2^{(2)}2^{(2)}$$でのように捩れている.一方,群$$ \infty ^{( \infty )} \infty ^{( \infty )}m^{(2)}$$では,捩れがない.極限群の別の解釈では,初期に見たすべての図形でのように,1つの固定色は,一般点のすべてに帰属せしめられる.捩れたシリンダーの対称性は,もっと完全には2回色反対称群により記述される.
$$\displaystyle \frac{ \infty ^{( \infty ) } }{m'^{ \ast } }\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m'^{ \ast } }\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m'^{ \ast } }$$
ここで*星印はシリンダー底部の周囲の順序で,色の順序を変え,′ダッシュは捩れの方向を変える.
   さらに,中性群では,色同一部分群$$1^{( \infty )}$$は冪によって異なることに注意する.具体化に加え,言及したように,古典的なCurieキューリ群,反対称の極限群,Waerden-Burckhardt群,Wittke-Garrido群,およびこれらの許容される積(p.248,256参照)により記述される色図形がある.すべての有限色付き群(結晶学的および非結晶学的の位数の)は,これらの極限群(本書で初めて掲載した)の部分群である.完全構造対象の物理で,極限色付き群は通常の極限直交群よりも役割が低いわけではない.

koptsik-ch12-1

12. 科学と芸術における対称性
保存則.物理系の対称化と非対称化.複合系に対する対称原理.
-完全系構築の法則,構造の法則を研究する手段としての対称性-

   本書を通しここまでに,実に多種多様な物質的形態-有限あるいは無限のもの,空間に周期のあるもの,あるいは連続なもの-の対称性を学習し来たった.幾何学的対象物の構造が複雑になっても,対称変換の基本的要請-図形は変形なしに自分自身上に変換される-は,常に守られていた.直交変換(回転,鏡映)と並進は,図形の計量特性を保存するので,直交群と運動群に注目した.この基本的な要請ー無変形ーは,古典群から反対称や色付対称群へ移行した前章においても,古典群から新しい群への同型写像で,色付空間の構築をしたために破られることはなかった.
   色付対称群への移行は,科学研究と芸術創造における対称性理論の概念と手法の適用可能性を著しく拡大する.考察対象物の計量特性が,変形の過程で保存されるという拘束要請を緩和すると,これらの可能性はさらに増加する.このような要請緩和により,例えば,アフィン,射影,トポロジー的な変形で,保存される図形の特性を,学ぶことが出来るようになる.言い換えれば,相当する変形で変わらない不変量の命題の集合(公理,定理,これらより導出される結果)として,アフィン,射影,トポロジー幾何を構築できる.
   考察中の幾何学空間のすべての点に,色特性量を付与,あるいは,そこでのスカラー,ベクトル,テンソル量の値を定義するなら,このようにして得られた物質空間(あるいは,スカラー,ベクトル,テンソル場)に対する一般化された結合変換の群が定義できる.これらの群を,物質的対象物の対称群と見なすのは自然である.例を一般化し,自分自身の上への写像=自己同型変換の作る最も対称性の高い群を,任意の完全系をなす構造的対象物―相対的に等価な要素で構成されている―の対称群と呼ぶ.このようにして,構造的対象物の構成の法則として,あるいは,もっと正確に,考察中の系の構造的完全さが保存される1:1変換の群として対称性を定義する.
   自然界には構造のない対象物はない.対称性の概念は,相対的に等価な,相互に結合している要素で構成される系に適用される.幾何学的な完全系の等価な要素は,定義された関係で互いに結合している点であったり,直線,平面,表面,図形であったりする.物質的対象物における等価な完全系の要素であるのは,素粒子や反粒子,-電子,陽子,中性子,等々-;位相特性のみが要素相互に異なるこれらの《色》変調;等価な原子,イオン,分子,等々;物理場の力線,等々である.これらの要素は,定義された規則で互いに結合した完全系をなす複合体(系)を形作る.そして,これら複合体はさらに複雑な物質系を構成する要素となる.
   系の不変な様相として現れる対称性カテゴリーの十分な一般化,全体を等価(何らかの関係で)な部分へ分割する原理的な可能性は,現代の自然科学および芸術における対称性概念に対する,かくも広汎な価値を有する.ここでは,物質的対象物のみならず実世界の構造を反映している概念や理論の系の対称性にも言及する.これについては,(Вейль; Weyl) ワイルの著書《シンメトリー》の序文によく記されている:「対称性は,外部とは結び付いていない物体,現象,理論:地磁気,女性のベール,偏光,自然淘汰,群論,不変性と変換,みつばちの巣箱での労働習性,空間の構成,飾瓶の絵柄,量子物理,スカラベコガネムシ,花弁,X線回折図形,ウニの細胞分裂,結晶の平衡外形[訳注:理想形のこと],ロマネスク寺院,雪片,音楽,相対論:の間の面白くも驚嘆すべき類縁関係を確立する」(Нъюмен; Newman, ノイマン,1956).
   対称性概念(つりあいの意)は,古代ギリシャの哲学者,数学者から,彼らの宇宙の調和研究と結び付き発した。調和のカノン(時代とともにその概念は変化した)に従い,古代彫刻家,画家,建築家達は,傑作を創造した.それにもかかわらず,対称性についての学問が,現代科学の形式を備えたのは,群の概念の出現(Галуа; Galois, ガロワ,1832)以降のことである。20世紀の初頭には,結晶の対称性の理論が,対象変換の古典群の形式をとり,最も精緻な発展をとげた(フェドロフ,シェンフリーズ,Федоров,Шенфлис; Fedorov,Schonflies, 1891).結晶学と結晶物理学の発展後に,群論的手法は,物理学全体や他の自然科学に適用されるに至った.対称性の手法は,現代科学の理論的研究の強力で効果的な道具となった.
   対称性手法の応用例として,結晶物理の例をとり,考察しよう.この選択は,対応する群をすでに知っていることと,フェドロフの言葉を借りれば,結晶は,原子分子レベルの物質の構造構成の多種多様性を現し《自己の対称性を閃かせる》ことによる.
結晶について成り立つ内容は,(適当な変形をすれば)対称的な内部構造を有する他の対象物にも拡張することができる.
   結晶の対称性を示す点群または空間群が実験的に決定されたら,そこで可能な物理特性の最小の対称性も決定されたと言える.特に,周知のように,点群 は結晶多面体の理想形(多面体のすべての面に結晶化物質の供給が等しく行われる条件下で,わずかに過飽和の溶液から成長した結晶はこの形)の対称性を記述できる.
   全く同様に,空間群$$Ф_{k}$$は,結晶の内部構造:単位胞中の原子の同価な系の相互配置:を記述する(p.177,192参照).
   結晶学や結晶化学での対称性は,形態的・構造的な分類記述,発生的系統や適当な特徴基準による結晶の分類統合のための基礎を与える.全く同様に物理学では,素粒子,原子分子のスペクトル,基準振動,等々の分類;これらの対称性分類は,対応する構造要素上で許容される何らかの変換群に基づいている.分類の課題は,どの科学分野でも最初の課題であり,構造不変性を見出すことのできる対称性理論は,不可欠な手法である.
   しかし,これが最も重要な側面と言う訳ではない.結晶物理でもっと重要なのは,結晶の対称要素に対し,座標系を一意に関連付けることであり,これにより,一般には測定の方向に依存する物理特性(非スカラー特性)の記述の一意性が確保される.規約(表20,p.176参照)に従い軸を選べば,方位;
$$ r=x_{1}a_{1}+x_{2}a_{2}+x_{3}a_{3} $$ または  $$ [x_{1}:x_{2}:x_{3}]=[p:q:r] $$
に沿って,結晶はこれこれの物理特性を示すと明確に特定できる.種々な結晶面(例えば,劈開面,熱膨張楕円体ellipsoid面,光学屈折率楕円体indicatrix面,等々)も,
$$ hx_{1}+kx_{2}+lx_{3}=1 $$   または  $$ (h k l) $$
により,同様に,明確に特定できる.結晶学のハンドブックには,平面の結晶学的座標$$ (h k l) $$ は,この平面の座標軸に対する切片の逆数となることが示されている.
   このようにして,同一物質の結晶の物理特性の測定は,標準様式で選定した同一の座標のときに比較できる.この要請を満たさない測定は結晶物理学的な価値がない.
   結晶の対称群$$ G_{k} $$ を知れば,(特定な方位に沿っての)物理特性の測定範囲を,対称的に独立な立体角内「訳注:非対称要素」に限定できる.測定方位の選択は,対称図形を,対称的に独立なあるいは対称的に同価な領域に分割する数は,対称群の位数に等しいという理論に基づきなされる.例えば,立方体,六角形プリズムでは,そのような領域は,それぞれ1/48,1/24である(図218).結晶の特性が,対称的に独立な球面三角形の立体角内で測定されれば,この角外の方向での測定は必要がない.これは,異方性(すなわち測定の方向で物理特性が異なる)の記述のために必要な測定の数を,大いに減じる.しかし,まだこれで全てではない.
   結晶の対称群(物理量の対称群に密接に結び付いている)は,各特性を規定する独立な定数の数を決定できる.言いかえれば,結晶の注目した特性を完全に規定するために必要となる(異なる方向の)いくつの測定が必要かを,述べることが出来る.測定の数は,考察中の特性の性質と対応する物理量の変換を支配する法則に依存する.

 

koptsik-ch11-5★

対称性理論の限界.他の一般化. 
   紙数不足のため,近年生じた古典対称の他の一般化の詳細には,立ち入ることが出来ない.進歩の根幹的領域のみを列挙し,主要な研究文献リストを挙げるにとどめよう. 
   A.V.Shubnikov(А.В.Шубников)により,1945年に多重反対称(кратной антисимметрии)の概念,1960年に相似対称(симметрии подобия)の概念が提起された(図217).両概念とも,発展的に研究され,A.M.Zamorzaev( А.М.Заморзаев)とその門人(A.F.Palistrant,E.I.Sokolov,E.I.Galyarskii)により,対応する一般群(обобщенных групп)を導くに至った.これらの研究やN.V.Belov(Н.В.Белов)学派の研究により,反対称(антисимметрии),多重反対称(кратной антисимметрии),色対称(цветной симметрии)の概念は,対応する一般化群の形に統合された.色対称の概念は,Niggli,Wondraschek,Wittke,Van der Waerden, Burckhardt, Pawley, Mackay, Zamorzaevの研究(1959-1971)により,さらなる展開があった.一連の研究により,正規商でない古典部分群を含む色対称群を得る方法が指摘された. 
   Van derWaerden -Bruckhardtの群$$G_{WB}^{(p)}$$は,3項記号$$G/H'/H$$で定義されるが,ここで古典群$$G \leftrightarrow G_{WB}^{(p)}$$;指数$$p$$の部分群$$H' \subset G$$は,性質(色)$$i$$を保存している部分群$$H_{i}^{(p_{1})} \subset G_{WB}^{(p)}$$に同型対応する;正規商$$H=G \cap G_{WB}^{(p)}$$(古典部分群$$H \vartriangleleft G^{(p)}$$を作っている)は,すべての共役部分群(сопряжунных подгрупп)の共通部分(пересечением)によって決定される$$H= \cap gH'g^{-1}, g \in G$$.色群$$G_{WB}^{(p)}=g_{1}H_{i}^{(p_{1})} \cup g_{2}^{(p)}H_{i}^{(p_{1})} \cup \ldots \cup g_{p}^{(p)}H_{i}^{(p_{1})}$$は,部分群$$H_{i}^{(p_{1})}$$を,剰余類(смежных классов)の代表系(системы представителей) $$G^{(p)^{\ast} }=\left\{ g_{1},g_{2}^{(p)}, \ldots ,g_{p}^{(p)} \right\} $$で拡大し表現され,一般には群を成さない.$$G_{WB}^{(p)}$$で作用する長さ$$p$$の置換は,$$g_{i}$$を左から乗じたときの左剰余類$$g_{k}H'$$の置換である:
$$g_{i}^{(p)}=g_{i}p_{i}=p_{i}g_{i}, p_{i}=\left( \begin{array}{@{\,} cccc @{\, } }
g_{1}H' & g_{2}H' & \ldots & g_{p}H' \\[0mm]
g_{i}g_{1}H' & g_{i}g_{2}H' & \ldots & g_{i}g_{p}H'
\end{array} \right) $$
   (квазисимметрии)擬対称 P-symmetryのZamorzaev群は,対応する図形の一般点が,それぞれ1色に塗られる場合には,今まで見てきた色群のすべての型を包含する.このようなすべての群$$G^{(p)}$$をその生成群$$G$$から,次の手段により導くことができる:
1)$$G/H \leftrightarrow P/Q$$となるような正規商$$H \vartriangleleft G$$と$$Q \vartriangleleft P$$(ただし,$$H=G^{(p)} \cap G=G^{ \ast }$$は$$G^{(p)}$$の古典的部分群.$$Q=G^{(p)} \cap P$$は色置換の部分群)を探す.
2) 同型$$G/H \leftrightarrow P/Q$$の確立と同型対応する剰余類$$gH \leftrightarrow \varepsilon Q$$の対積(попарным перемножением)を作る.
3) 得られた積を集める:$$G^{(p)}= \cup gH \cdot \varepsilon Q$$
   この説明枠外に,Wittke-Garrido色対称群と複素関数のEwald-Bienenstock対称群が存在する.これらの場合には,色変化の規則は,変換だけでなく,図形中の点の取り方にも依存する,すなわち,対応する色変換は局所的となる. 
   B.N.Delone(1959-1961)の一連の論文で,stereohedra стереоэдровの一般理論(空間の凸多面体выпуклые многогранникиへの正則分割правильных разбиенийの理論)が基本的に完成した.平面に対するこの理論は,よく知られたShubnikov-Laves定理に基づき,純トポロジー的に作られた;全部で46種のпланигоны planigonへの平面の分割разбиенияが導かれた.3次元空間のDirichlet stereohedra(第1 Brillouinゾーンに相当の完全な理論は),により,任意に与えられたFedorov群に対して,stereohedraを導出するアルゴリズムの課題に完成した.一般型のstereohedraに対しては,B.N.Deloneが一般定理を証明した: n次元Euclid空間Euclidean евклидоваを凸多面体выпуклые многогранники(完全に面を接するような)で規則的に分割するトポロジー的に異なった分割の数は任意のnに対して有限である.このとき,完全な面を接するという要請は,非常に重要である(Zamorzaev1965).
   多次元幾何空間の対称性課題は活発に進展中である.最低位系の4次元のFedorov群,全ての点群,4次元Bravais格子は導出が完了した(T.Roman,1962;C.Hermann,1949; A.Hurley,1951; A.Hurley & H.Wondratschek,1967; A.Mackay & G.Pawley,1963;A.Zamorzaev,1963;A.Zamorzaev & B.Tsekinovskii,1968; J.Neubuser, H.Wondratschek & R.Bulow, 1971;H.Wondratschek etal.,1969;N.Belov & T.Kuntsevich,1971 1970;Рыжиков,1971).Fedorov群を非Euclid空間で導びくことが開始された(Makarov,1968).
   次のモノグラフ(Faddeev & Kovalev(19611968),Miller & Love(1967),Zak, Casher, Gluck & Gur(1969),Bradley & Cracknell(1971))に,Fedorov空間群とShubnikov空間群の規約表現理論неприводимых представленийと共通表現理論corepresentations копретставленийが基本的に完成している.その結果は,対応する行列群の指標characters характеровの表として記述されている.
   アフィン変形の群の導出は,Viola(1904),Wulff(1909)により早くから着想され,Mikheev(1961),Nalivkin(1951),Dubov(1970),Zabolotnii(1973)によりさらに発展し,いわゆる(homology; групп гомологии)ホモロジー群,(curvilinear symmetry; групп кливолинейной симметрии)群の型となった.これらの群(色群と同型)の導出は,まだ終わっていないとはいえ, E.S.Fedorovによる結晶学的限界(кристллографических пределов)の理論から広がったアフィン変形の概念は,結晶の動的対称性(динамической симметрии)の研究と古典群を動的群の時間平均とする解釈に道を開いた.(локально-аффинных)局所的なアフィン変換のモジュラー群は,幾何学的に非一様な物体(実際の結晶構造)の対称の解析で役立つであろう.
   以上は,最近の対称性理論の進歩のあった主要領域のいくつかを示したに過ぎない.我々のテーマ外にある多数の重要な結果には全く言及しなかった.ここで触れた問題のもっと完全なレビューは,Koptsik(1967), Zamorzaev(1970), Delone(1971)及び、群論とその応用の専門書に見られる.

   達成された具体的結果の豊富さと,現在も増大しつつある対称性理論の自然科学への応用と関連して,その限界に関する問題を提起するのは当を得ている.H.Weyl(1934,1952)により与えられた最も一般的定義によると,対称性理論は,数学及び物理学的対象の自己同型automorphisms автоморфизмовの理論-すなわち,自己変換群групп автоморфных преобразованийの理論と一致する.この基礎には,等価の公理аксиома равенства axiom of equivalenceが有る.これによると,第3のものと等しい2つのものは互いに等価である.或る対象を不変に保存する変換の集合は対称群を成すということの基礎が,ここにある.ここから生じる対称理論の応用の広いことと,その限界を知ることができる.なぜなら,自己同型変換は対象物間の等価эквивалентностиと順序порядкаのすべての関係を尽くしている訳ではないからだ.(この議論に関してはShreider(1971)の本を見よ)
   対称性理論のどのような一般化も,基本的な群公準を保っている;それらは,等価の概念を相対的等価というより広い概念で置きかえる方向に進化する.よく知られた群をその同型あるいは準同型表現,拡大により置き換えて,抽象群の具体化を探し,新しい自己同型を探す方向に進化する.このような探索の科学的価値を評価しながら,既知の対象物で,同値関係や新しい自己同型を見出すことは,より深い構造水準の研究になることを充分に語り尽くした.
   対称性理論の新しい発展は,半群(semigroups)の理論である(参照:レジメ).
対称理論の具体的応用に,最後の章を充てよう.

koptsik-ch11-4★

色対称空間群(Belov:Белов)Б 
-古典空間群(Fedorov: Федоров)Фの拡大として,あるいは,並進群Tの拡大として-

古典Fedorov群に対する色対称空間群は,結晶点群に対する色対称結晶群の関係と同じである.色対称概念の創始者に敬意を表して,我々はこれをBelov(Белов)群と呼ぶことにする.これらの3次元群においては,運動演算$$\phi _{i} \in Ф$$と反対称演算$$ш_{i} \in Ш$$に加えて,さらに,我々が結合された変換として定義した色運動に出会う.
$$б_{i}^{(p)}=ф_{i}1^{(p)}=1^{(p)}ф_{i}$$
あるいは,特別な場合に,
$$б_{i}^{(p)}=ф_{i}p_{i}=p_{i}ф_{i}$$
ここで,$$p_{i}$$は色恒等群$$1^{(p)}=\left\{ p_{1},p_{2}, \ldots ,p_{n} \right\} $$も含む色置換であり,幾何学的変換と両立する.従って,p.203に与えたФ-空間群とШ-空間群の演算目録は,色対称変換で補充される.
$$\begin{array}{@{\,} ccccc @{\, } }
1^{(p)} & 2^{(p)} & 3^{(p)} & 4^{(p)} & 6^{(p)} \\[0mm]
\overline{1}^{(p)} & m^{(p)} & \overline{3}^{(p)} & \overline{4}^{(p)} & \overline{6}^{(p)} \\[0mm]
\tau ^{(p)} & 2^{(p)}_{1} & 3^{(p)}_{1} & 4^{(p)}_{1} & 6^{(p)}_{1} \\[0mm]
& a^{(p)}_{} & 3^{(p)}_{2} & 4^{(p)}_{2} & 6^{(p)}_{2} \\[0mm]
& b^{(p)} & & 4^{(p)}_{3} & 6^{(p)}_{3} \\[0mm]
& c^{(p)} & & & 6^{(p)}_{4} \\[0mm]
& d^{(p)} & & & 6^{(p)}_{5} \\[0mm]
& n^{(p)} & & &
\end{array}$$

演算目録の拡大に伴って,色対称空間群は2様の解釈ができる:すなわち,Fedorov群$$Ф$$を,演算
$$1^{(p)},\overline{1}^{(p)},\tau ^{(p)};2^{(p)},2_{1}^{(p)},m^{(p)},a^{(p)},b^{(p)},c^{(p)},d^{(p)},n^{(p)};$$
$$ ;4^{(p)},\overline{4}^{(p)},4_{1}^{(p)},4_{2}^{(p)},4_{3}^{(p)}$$
の冪によって生成される巡回群により拡大したものと見るか,並進群$$T$$を有限結晶色付き群$$G1^{(p)},G^{(p)}$$(または,これらと同型な法による群$$G^{(p)}(\textrm{mod}G_{1}^{ \ast })$$)と,補助的に一次元並進の有限巡回置換(法による群)
  $$\tau ^{(p)}(\textrm{mod}\tau )=\left\{ \tau ^{(p)},\left( \tau ^{(p)} \right) ^{2}, \ldots ,\left( \tau ^{(p)} \right) ^{p}=\tau \equiv 0(\textrm{mod}\tau ) \right\} $$;
によって拡大したものと見るかである;群$$T$$との積では,並進と色並進$$T_{\tau ^{(p) } }$$の3次元中心化群(трехмерную центрированную группу; threedimensional centered group)を定義する.ここの考察では,第二の方法をとることにし,Б-群で正規商(指数$$p=3,4,6,8,12,16,24,48$$のFedorov部分群)の存在する場合だけに限る.
   この条件の下で,明らかに,1840の色中性(混合)のBelov群が,次の3つのカテゴリーに存在する:$$p<n, p=n, p>n$$ (参照p.242)
$$\mit\Phi 1^{(p)}=\mit\Phi \otimes 1^{(p)}$$   ($$\mit\Phi 1^{(p)}=TG1^{(p)}=TG \otimes 1^{(p)}$$)
(数$$1840=230 \times 8$$は,Fedorov群の数を,群$$1^{(p)}$$型の数に乗じ得られる.)これらのすべての群は,すでに学んだように,結晶離散体が,位相(色)変化するような如何なる性質も持つことを許さない.
   色群(部分群$$1^{(p)}$$を含まない)の導出は,1969年にA.M.Zamorzaev(Заморзаев)の研究により初められた.彼は,3-,4-,6-色の空間群の数を数え上げ,対応する色格子を得た.真性色群(собственно цветные группы; true colored-symmetry groups)は2つのカテゴリーに分けられる:色並進を含まない群と色並進を含む群.その上,両場合とも,さらに共型群と非共型群に分かれる.
   始めは,群のすべてのタイプの例を研究しよう.
図214に,4つの単斜(моноклинных; monoclinic) 4色群(色並進を含まない)の対称元の投影を載せた:1つは共型,3つは非共型である.これに加え,相当する単位胞中の一般点に置いた非対称図形(4面体)の同価系の投影も載せた:《+》と《-》の符号によって,図面に斜交した軸bに沿った4面体の座標を記す;軸$$a,c$$は図面内にあり,軸$$c$$は2回(単純またはらせん)軸の方向に一致させる.この2回軸は,図面で両側あるいは片側の矢羽で標される;軸$$a,b$$は$$c$$と直交する.
   共型群$$P(2^{(2)}/m^{(2)})^{(4)}$$は,ベクトル基底$$\left\{ a,b,c \right\} $$によって定義される並進の不変部分群(инвариантнои подгруппы; invariant subgroup) $$P$$と色対称類(цветного класса; colored-symmetry class) $$\left( 2^{(2)}/m^{(2)} \right) ^{(4)}$$との半直積と見なすことが出来る.
$$P(2^{(2)}/m^{(2)})^{(4)}=P \oslash (2^{(2)}/m^{(2)})^{(4)}$$
言い換えるなら,$$P(2^{(2)}m^{(2)})^{(4)}$$は,群$$\left( 2^{(2)}/m^{(2)} \right) ^{(4)}$$の3次元周期の集合である.直交変換$$g^{(p)}$$(単位胞の左上隅をよぎる対称元に相当する)を並進$$\tau $$に乗じることで,これを確かめよう.積$$\tau g^{(p)}$$に関する定理の証明は,演算子に対する表現を持ち込まずに(ダイヤグラム法によって),単位胞の左上隅を原点に持つ青い4面体の運動を追いかけながら,純幾何学的な方法で行なおう.
   積$$a \cdot 2^{(2)}=2^{(2) \bullet }$$を示そう.実際,色回転$$2^{(2)}$$の作用により,原点の青い4面体は,単位胞の左上隅の黄色に移動する;並進$$a$$の作用により,黄色の4面体は,単位胞の下部に平行移動する.最終的に,始めの上にある青い4面体は,単位胞の下にある黄色の4面体に移動する.これは,演算$$2^{(2) \ast }$$の作用と等価である.全く同様にして,次の積がわかる.(積の実行は,右から左へ次々に行う)
$$c \cdot m^{(2)}=m^{(2) \ast }$$, $$c \cdot \overline{1}^{(2)}=\overline{1}^{(2) \ast }$$,  etc.
結果として,始めに選んだ単位胞の頂点を通る元の組から導いた全ての対称元の各集合は,群$$P(2^{(2)}/m^{(2)})^{(4)}$$を決定することになる.
   非共型群に対しても,変換の相当する積は同様にして得られる:
$$a \cdot 2_{1}^{(2)}=2_{1}^{(2) \ast }, c \cdot m^{(2)}=m^{(2) \ast }, c \cdot \overline{1}^{(2)}=\overline{1}^{(2) \ast }$$; 群$$P\left( 2_{1}^{(2)}/m^{(2)} \right) ^{(4)}$$において
$$a \cdot 2^{(2)}=2^{(2) \ast }, c \cdot b^{(2)}=b^{(2) \ast }, c \cdot \overline{1}^{(2)}=\overline{1}^{(2) \ast }$$; 群$$P\left( 2^{(2)}/b^{(2)} \right) ^{(4)}$$において
$$a \cdot 2_{1}^{(2)}=2_{1}^{(2) \ast }, c \cdot b^{(2)}=b^{(2) \ast }, c \cdot \overline{1}^{(2)}=\overline{1}^{(2) \ast }$$; 群$$P\left( 2_{1}^{(2)}/b^{(2)} \right) ^{(4)}$$において
群$$P\left( 2_{1}^{(2)}/b^{(2)} \right) ^{(4)}$$に対して証明を行い,残りは読者の練習としよう.演算$$2_{1}^{(2)}$$の作用の下で,左上隅の青い黒い4面体は,上の黄色緑色の4面体の位置に移動し,並進$$a$$の作用で,それは,単位胞の下側へ移る.全く同じ,4面体の始めの状態から終わりの状態までの変換が,単位胞のパラメータbの底から1/4の所に置かれた,色螺旋回転$$2_{1}^{(2) \ast }$$で記述できる.従って,$$a \cdot 2_{1}^{(2)}=2_{1}^{(2) \ast }$$.同様に,演算の積$$c \cdot b^{(2)}$$では,青い黒い4面体が,映進面$$b$$の平面で反射した結果,1/2レベルの赤い青い4面体の位置に移動する;その後ベクトル$$c$$で右へ移動し,演算$$b^{(2) \ast }$$と等価となる.$$c \cdot \overline{1}^{(2)}=\overline{1}^{(2) \ast }$$となることもわかる.
   結局,考察している非共型群の中で,変換の組
$$\left\{ 1,2_{1}^{(2)},\overline{1}^{(2)},m^{(2)} \right\} $$,$$\left\{ 1,2^{(2)},\overline{1}^{(2)},b^{(2)} \right\} $$,$$\left\{ 1,2_{1}^{(2)},\overline{1}^{(2)},b^{(2)} \right\} $$は,言葉本来の意味での点群をなしていないにもかかわらず,これらの変換の並進への積は,一般則を満たす.このために,非共型群Бнесも,並進群$$T$$を演算の組$$G^{(p)}(\textrm{mod}T)$$で拡大したものと見なすことが可能である. 
$$Б=T \circ G^{(p)}(\textrm{mod}T)$$
これらはまた,空間群の国際記号のなかに再現されている.演算の組を,我々は,場合によっては,共型空間群の上位の点群に同型な法による群$$G^{(p)}(\textrm{mod}T)$$と呼んでも良い.(参照p.208,217他)
   検討してきた例は,色置換を含まない各々のБелов群Бが,あるФедоров群Ф(共型あるいは非共型)に同型であることを示している:
$$Б_{сим}=T \oslash G^{(p)} \leftrightarrow T \oslash G=Ф_{сим}$$,$$Б_{нес}=T \circ G^{(p)}(\textrm{mod}T) \leftrightarrow T \circ G^{T}=Ф_{нес}$$
故に,$$Б$$群はそれに同型な(Федоров; Fedorov)群$$\mit\Phi $$と《点》群$$G^{(p)}$$または$$G^{(p)}(\textrm{mod}T)$$(あるいは,Б群と$$\mit\Phi $$群に共通な部分群$$Ф*=Б\cap Ф$$)を与えるなら,完全に決定される.
   色置換$$\tau ^{(p)}$$を含むБелов群のカテゴリーに考察を移行しよう.置換とベクトル$$\tau ^{(3)},\tau ^{(4)},\tau ^{(6)}$$で生成される色置換の1次元の群(図215)を定義しよう.定義に従って,並進群で群演算となるのは,ベクトルの加法演算である.ベクトル$$\tau ^{(3)}$$の3つの和は,並進群$$T$$にある古典的並進ベクトル$$\tau $$を与える.
   色巡回置換$$(\tau ^{(p)})^{p}=\tau $$の長さは,次の等式で決定される.
$$\left( \tau ^{(3)} \right) ^{3}=\tau ^{(3)}+\tau ^{(3)}+\tau ^{(3)}=3\tau ^{ \ast }=\tau \in T; \tau ^{(3)} \in T_{\tau ^{(3) } }$$
$$\left( \tau ^{(4)} \right) ^{4}=\tau ^{(4)}+\tau ^{(4)}+\tau ^{(4)}+\tau ^{(4)}=4\tau ^{ \ast }=\tau \in T; \tau ^{(4)} \in T_{\tau ^{(4) } }$$
$$\left( \tau ^{(6)} \right) ^{6}=\tau ^{(6)}+\tau ^{(6)}+\tau ^{(6)}+\tau ^{(6)}+\tau ^{(6)}+\tau ^{(6)}=6\tau ^{ \ast }=\tau \in T; \tau ^{(6)} \in T_{\tau ^{(6) } }$$
ここで,$$T_{\tau ^{(p) } }$$は置換および色置換を示し,記号$$T$$は,純粋並進の群である.添え字は,中心化色並進(центрирующий цветной перенос; centering colored translation)である.$$\tau ^{ \ast }$$はベクトル$$\tau ^{(p)}$$の長さに等しい古典ベクトルである.明らかに,群$$T_{\tau ^{ \ast } }$$と$$T_{\tau ^{(p) } }$$は同型であり,共通の(超構造superstructural сверхструктурную)部分群$$T$$を持つ:
$$T_{\tau ^{ \ast } } T_{\tau ^{(p) } }$$, $$T=T_{\tau ^{ \ast } } \cap T_{\tau ^{(p) } }$$
定式化された両命題は,3次元の場合も成立する.3次元並進格子のベクトル基底$$\left\{ T=a,b,c \right\} $$に,中心化色並進$$\tau ^{(p)}$$を加えるなら,次の3条件を満たすとき,色並進格子$$T_{\tau ^{(p) } }=\left\{ a,b,c,\tau ^{(p)} \right\} $$を得る.
1) 色巡回置換の長さを決定するベクトル$$P_{\tau ^{ \ast } }=\tau =\left( \tau ^{(p)} \right) ^{p}$$は,格子$$T=\left\{ a,b,c \right\} $$に属さなければならない.
2) 中心化ベクトル$$\tau ^{(p)}$$の方向は,両格子$$T=\left\{ a,b,c \right\} $$と$$T_{\tau ^{(p) } }=\left\{ a,b,c,\tau ^{(p)} \right\} $$が同一の計量系に属すように選ばれなければならない.
3) ベクトル変換$$\tau ^{(p)} \to -\tau ^{(p)}$$は,色ベクトルの符号が変わると,色巡回が逆になるので,禁じられている;逆色ベクトルを見いだす次の規則は正しい:$$(\tau ^{(p)})^{-1} \to -\tau ^{(-p)}$$,$$\tau ^{(p)} \cdot (-\tau ^{(-p)})=\tau ^{0}=1$$
   最後の条件により,ベクトル$$\tau ^{(p)}$$の符号を変える対称心のある結晶群は,色格子を作ることが出来ない.変換$$T_{\tau ^{(p) } }=\left\{ a,b,c,\tau ^{(p)} \right\} $$は,対称心$$\overline{1}$$およびベクトル$$\tau ^{(p)}$$に垂直な軸$$2$$や平面$$m$$を含まない群$$G, G', G^{(p)}$$とのみ結合できる.基本として14のBravaisБравэ格子を採用し,それらを2-,3-,4-,6-色ベクトル$$\tau ^{(p)}$$で中心化すると(条件1-3は守る),最も高い空間対称$$Б_{сим}=T_{\tau ^{(p) } } \oslash G$$を持つ76の色格子が得られる.これらの格子は;3つの(triclinic триклинных)三斜:$$P_{\tau ^{(p) } }1$$;22の単斜(monoclinic моноклинных):$$6P_{\tau ^{(p) } }2, 6P_{\tau ^{(p) } }m, 5B_{\tau ^{(p) } }2, 5B_{\tau ^{(p) } }m$$; 30の(orthorhombic ромбических)斜方:$$9P_{\tau ^{(p) } }mm2, 6C_{\tau ^{(p) } }mm2, 6B_{\tau ^{(p) } }mm2, 3I_{\tau ^{(p) } }mm2, I_{\tau ^{(p) } }222, 5F_{\tau ^{(p) } }mm2$$; 10の(tetragonal тетрагональных)正方:$$6 P_{\tau ^{(p) } }4mm, 3 I_{\tau ^{(p) } }4mm, I_{\tau ^{(p) } }\overline{4}2m$$;5つの三方(trigonal тригональных):$$3 R_{\tau ^{(p) } }3m, 2 P_{\tau ^{(p) } }31m$$;5つの六方(hexagonal гексагональных):$$3 P_{\tau ^{(p) } }6mm, 2 P_{\tau ^{(p) } }\overline{6}m2$$;1つの立方(cubic кубическая):$$I_{\tau ^{(p) } }23, I_{\tau ^{(p) } }\overline{4}3m$$;格子(lattice решетка)になる.表19に,全格子に対する,3-,4-,6-色の元の上位の空間群の国際記号を導いてある.格子の(color index цветность)色指数pは,生成色置換の色指数$$p_{1}$$と$$p_{2}$$の積で決定される:$$p_{1} \times p_{2}>6$$に対しては,色置換(цветные переносы)は独立ではない.表中の頭文字で,単純基底\textrm{\textsl{p } }および
$$R=\left\{ a,b,c \right\} , B=\left\{ a,b,\displaystyle \frac{(a+c)}{2} \right\} , C=\left\{ a,\displaystyle \frac{(a+b)}{2},c \right\} , $$
$$, I=\left\{ a,b,\displaystyle \frac{(a+b+c)}{2} \right\} , F=\left\{ a,\displaystyle \frac{(a+b)}{2},\displaystyle \frac{(a+c)}{2} \right\} $$
の古典Bravais格子$$T \subset T_{\tau ^{(p) } }$$を標す.(Главная ось principal axis)主軸は菱面格子以外は$$c$$軸に沿って,菱面格子(ромбоэдрическая решетка trigonal lattice)ではベクトル$$a+b+c$$に沿ってとる.下添字は,群$$T_{\tau ^{(p) } }$$に移行したとき,基底ベクトルのうちどれが色ベクトルで置き換えられるかを標している.
   記号$$T_{\tau ^{(p) } }G$$G中で,上位の群$$G$$をその部分群(同一の計量系に属す)で換え,全ての群$$G$$をそれと同型な反対称群$$G'$$と色群$$G^{(p)}$$で換えると,全ての次の型の共型群$$Б=T_{\tau ^{(p) } } \oslash G, Б=T_{\tau ^{(p) } } \oslash G', Б=T_{\tau ^{(p_{1}) } } \oslash G^{(p_{2})}$$が作れる.群$$G, G', G^{(p)}$$を対応する法による群で置き換えると,型$$Б=T_{\tau ^{(p) } } \circ G^{T}, Б=T_{\tau ^{(p) } } \circ G^{T'}, Б=T_{\tau ^{(p_{1}) } } \circ G^{(p_{2})}(\textrm{mod}T)$$の非共型群が得られる.ここにあげた全部の群の他に,色並進を含まないような群がまだ存在することに留意しよう:共型$$Б=T \oslash G^{(p)}$$と非共型$$Б=T \circ G^{(p)}(\textrm{mod}T)$$である.

   同型定理は,色並進(цветных переносов colored translations)のあるBelov群に対し,次のような3項記号:
$$Б-\left| \displaystyle \frac{T_{\tau ^{ \ast } } }{T_{\tau ^{(p) } } } \right| G$$ あるいは $$T_{\tau ^{(p) } }G-\left| \displaystyle \frac{\left\{ a,b,c,\tau ^{ \ast } \right\} }{\left\{ a,b,c,\tau ^{(p)} \right\} } \right| G$$
および,$$G$$を$$G^{(p)},G^{T},G^{(p)}(\textrm{mod}T)$$で置き換えた同様な記号表現を提供する.
   これらの記号によると,容易に,Б群の対称元を作ることができるし,他の必要な情報を見つけることも出来る.一例として,図216に,次の3項記号で定義される色並進を含む2つの群の投影を示す:
$$P_{a^{(3) } }1-\left| \displaystyle \frac{\left\{ 3a,b,c,a \right\} }{\left\{ 3a,b,c,a^{(3)} \right\} } \right| 1$$ および $$P_{c^{(3) } }2-\left| \displaystyle \frac{\left\{ a,b,3c,c \right\} }{\left\{ a,b,3c,c^{(3)} \right\} } \right| 2$$
空間群$$Б=T_{\tau ^{(p_{1}) } } \cdot G^{(p_{2})}$$の色特性は,生成元の色特性$$p_{1}$$と$$p_{2}$$の積あるいは最小公倍数であることを,もう一度強調しておく.ある条件を実行するときに,$$p$$-色群は,$$p=3,4,6,8,12,16,24,28,48$$の全ての数に対して存在するから,考察中の群の類の生成元$$p=3,4,6$$の色特性による制限は必ずしも必要ではない.例えば,結晶点群が,同時に$$\tau ^{(3)},\tau ^{(4)},\tau ^{(5)}$$を許すなら,この群は,$$\tau ^{(p)}$$も許す$$p$$は任意の有限数).これは,$$p>6$$のときに色格子と群を導くための道を開いている.
   章の要点をまとめるにあたり,色群の導出-古典群の正規(不変)拡大-は,以下に帰着することを記憶しておこう.
1) 生成群内に正規商$$G^{ \ast } \vartriangleleft G \leftrightarrow G^{(p)}$$を探す.
2) 商群$$G/G^{ \ast }$$の具体的な色実現を,それに同型な群$$G^{(p) \ast }$$あるいは法による群$$G^{(p) \ast }(\textrm{mod}G_{1}^{ \ast })$$の型に作ること
3) 生成群$$G^{ \ast }$$を$$G^{(p) \ast }$$あるいは$$G^{(p) \ast }(\textrm{mod}G_{1}^{ \ast })$$に《乗じる》.
このような道筋で,$$p=3,4,6$$の場合に,巡回商群によって,817のBelov群$$Б^{(p)}$$が得られる.群$$2/m, 222, mm2$$と同型な色群によって実現される非巡回商群は,形$$Б(^{2}Б^{2})$$で標される1843の4色Belov群を生じる;これらの各々の群は2重(двукртной two-fold)の反対称群と見なせる.群$$622, 6mm, \overline{6}m2, \overline{3}m$$に同型な非巡回色群は,群$$32, \overline{3}m$$に同型な非巡回色商群は,3-色群と反対称群の積の形$$Б(^{3}Б^{2})$$で標される278の6-色Belov群を生じる.
   Belov群を数え上げる際に重要なのは,2つの群$$Б_{1}$$と$$Б_{2}$$が同一と見なされるのは,結晶学的に同一,つまり,これらの群に同型なFedorov群$$Ф_{1}$$と$$Ф_{2}$$が,(собственным двидением)固有運動$$S$$(必要なら,相似変換と結び付けられる)により互いに変換$$Б_{2}=SБ_{1}S^{-1}$$され,同型$$Ф_{1} \leftrightarrow Ф_{2}$$の幾何学的変換に結合した色置換群は,ユニタリー色再規格化(единой перенормировкой цветов)で互いに変換されることである.
   全く同様な方法で,結晶学的色数$$p=8,12,16,24,48$$の3次元Belov群を,拡大により得ることが出来る.実際,古典群の規約表現(неприводимых представлений)の表を用い,不変商$$G^{ \ast } \vartriangleleft G$$を見出し,色生成群$$G^{(p) \ast }$$と$$G^{(p) \ast }(\textrm{mod}G_{1}^{ \ast })$$を作ることが出来る.巡回色置換群による群$$Б^{(p)}$$は,Ф群の1次元複素表現(одномерными комплексными представлениями)と関係がある;群$$Б(^{2}Б^{2})$$の形は,2つの1次元交流表現(одномерных знакопеременных представлений)の直和に関係がある;群$$Б(^{3}Б^{2})$$の形は,交流表現(знакопеременных представлений)を用い,1次元複素表現の正則継続(по регулярному продолжению)により作られる.(次節にある対応する研究文献参照)表現手法は,KoptsikとKuzhukeev(1972)により,2942の3,4,6色Belov群を導くときに用いられた.(参照レジメ) 
   3次元Belov群の内に,2-および1-次元色空間群は,部分群として見出すことが出来る. 15の2-次元巡回色群(двумерных цветныхциклических групп)は,(винтовые оси)らせん軸31,32,41,42,43,61,65,62,64と(плоскости скольэящего отражения)映進面dおよび,並進群Rを含むFedorov群の平面への一般化された投影により,最初に得られた(BelovとTarkhova, 1956).これらの群の単位胞内で,これらの対称元に結ばれた図形は,3,4,6の階層(уровнях)に分布している;これらの階層に対し色を割付け,平面上への投影のときに階層の色を保存する.ここで引用した研究[Belov,Tarkhova(1956)]は,多色対称の概念の発展の端緒であった.次節の図234に,15のBelovの2次元色群の図解として色モザイクを掲載する. 

koptsik-ch11-3★

色付対称の結晶点群
-古典結晶群を色置換群$$P$$および$$G^{(p)*}$$により拡大したもの-

  結晶群の新しい拡大類は,何らかの超幾何学的性質の置換群を用いて得られる.この超幾何学的性質(性質数$$p$$は2以上)は,結晶空間の点に付与されたものである.もし,結晶空間のそれぞれの点に,2つの符号(《+》,《―》)だけをとる何らかの演算子$$H$$が結び付けられているなら,性質数は$$p=2$$であり,反対称空間を扱うことになる.そこでは,次の結合された演算が作用している.
$$g'=g1'=1'g$$
ここで,$$g$$は古典的結晶演算$$g \in G$$,$$1'$$は反恒等演算で,点を固定し演算子の符号を変える.演算子$$H$$は,前にも述べたように,磁気運動量,電荷などへの演算子と解釈できる(簡潔に述べると,各点で,ベクトル$$H$$,電荷$$q$$などが定義され,これらの量は,ただ2つの符号《+》,《―》だけをとれる).点に付与された性質数$$p$$が2より大;例えば,$$p=3,4,6,8,12,16,24,48$$としよう(後で,これらの数字を選んだ訳を説明する).もし,$$p=3$$とすると,各点での演算子$$H$$は,3つの異なった値をとることができる.これらを次のように記す.
$$H, \varepsilon H, \varepsilon ^{2}H$$
値$$H$$から,$$\varepsilon H$$に変えるには,$$H$$に絶対値1の複素位相因子$$\varepsilon $$を乗じる.
$$\varepsilon =\sqrt[3]{1}$$ であるから,数$$\varepsilon $$ の通常の積則により巡回群 が定義できる:
$$\varepsilon =\sqrt[3]{1},\varepsilon ^{2}=\left( \sqrt[3]{1} \right) ^{2},\varepsilon ^{3}=\left( \sqrt[3]{1} \right) ^{3}=1$$ 
($$\varepsilon $$の高次の冪は,この3つのどれかになる)
  さらに,結合された演算を定義する.
$$g^{(\varepsilon )}=g\varepsilon =\varepsilon g$$
このとき,演算$$g \in G$$ は3次元空間中の《物質》点の直交変換(点に付与されたすべての性質は,作用後の新しい空間配置でも保存される)であり,演算$$\varepsilon $$ は,単に演算子$$H$$にだけ作用し,固定された点において,その値を変えるだけである.結合された演算の積則は直積を用いて定義できる.
$$g_{i}^{(\varepsilon _{i})} \otimes g_{j}^{(\varepsilon _{j})}=g_{i}g_{j}^{(\varepsilon _{i}\varepsilon _{j})}$$, $$g_{i}\varepsilon _{i} \otimes g_{j}e_{j}=g_{i}g_{j}\varepsilon _{i}\varepsilon _{j}$$   (1)
  すでに定義した積則を持つ結合された演算の集合が,どのような条件下で,有限位数の群を作るかという問題を研究しよう.定義により,群は演算のあらゆる冪と恒等演算を必ず含むから,有限群になるための必要条件として,演算 の冪の或るものが1になるという条件を課すことができる.
$$\left( g_{i}\varepsilon _{i} \right) ^{m_{i } }$$あるいは,より一般的に,$$g_{i}^{m_{i } }\varepsilon ^{m_{i}/s_{i } }=1 $$ 
ただし,$$m_{i}$$は整数,$$g_{i}\varepsilon _{i}$$は考察している集合の任意の演算である.(このような性質を持っている最小の整数は,対称要素$$g_{i}$$の位数で決まる.以下では,このような整数であるとする);$$s_{i}$$は$$m_{i}$$の約数:
$$m_{i}/s_{i}=p_{i}$$,  $$\varepsilon ^{p_{i } }=1$$
$$\varepsilon =\sqrt[3]{1}$$の場合に,定式化された条件に適うのは,位数3と6$$(g_{i}=3,6, \overline{6}, \overline{3} )$$の結晶演算$$g_{i}$$と演算$$\varepsilon$$の結合である.$$\varepsilon =\sqrt[4]{1}$$の場合には,同様にして許される結晶演算は,$$g_{i}=4, \overline{4}$$であり,$$\varepsilon =\sqrt[6]{1}$$の場合には,$$g_{i}=6, \overline{6} , \overline{3}$$である.今後,結合された演算$$g^{(\varepsilon )}$$は,演算$$\varepsilon $$で生成される巡回群$$\left\{ \varepsilon ,\varepsilon ^{2},\varepsilon ^{3}, \ldots ,\varepsilon ^{p-1},\varepsilon ^{p}=1 \right\} $$の位数$$p$$を括弧に入れて,結晶記号の肩に標示する.我々の条件を満たすものは,9つの一般巡回群を作る9つの一般演算である**:
$$3^{(3)},4^{(4)},\overline{4}^{(4)},6^{(6)},6^{(3)},\overline{6}^{(6)},\overline{6}^{(3)},\overline{3}^{(6)},\overline{3}^{(3)}$$
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
*この章内では,式番号を(1)から付ける.前章の式を引用するときには,(3.10),(4.10)などと記す.
**演算$$6^{(3) \pm },\overline{6}^{(3) \pm },\overline{3}^{(3) \pm }$$は,法により巡回群を生む:
$$6^{(3) \pm }(\textrm{mod} 2)=\left\{ 1,6^{(3) \pm },\left( 6^{(3) \pm } \right) ^{2} \right\} $$,
$$\overline{6}^{(3) \pm }\left( \textrm{mod} m \right) =\left\{ 1,\overline{6}^{(3) \pm },(\overline{6}^{(3) \pm })^{2} \right\} $$,
$$\overline{3}^{(3) \pm }(\textrm{mod} \overline{1})=\left\{ 1,\overline{3}^{(3) \pm },\left( \overline{3}^{(3) \pm } \right) ^{2} \right\} $$
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
もし,演算$$g^{(\varepsilon )}=g\varepsilon =\varepsilon g$$の代わりに,次の演算 
$$g^{(\varepsilon ^{p-1})}=g\varepsilon ^{p-1}=\varepsilon ^{p-1}g$$      $$\left( \varepsilon \varepsilon ^{p-1}=\varepsilon ^{p}=1 \right) $$
を定義する.例えば,$$\varepsilon$$の代わりに$$\varepsilon ^{2}$$($$\varepsilon ^{3}=1$$ )をとるなら,9つの一般巡回群(既出の群と同型だが,$$\varepsilon$$の群とは巡回順のみ逆転している)が得られる.
$$\left\{ \varepsilon , \varepsilon ^{2}, \varepsilon ^{3}, \ldots , \varepsilon ^{p}=1 \right\}$$   $$\leftrightarrow$$   $$\left\{ \varepsilon ^{p-1}, \varepsilon ^{p-2}, \varepsilon ^{p-3}, \ldots , \varepsilon ^{0}=1 \right\} $$
$$\varepsilon$$の巡回方向に対応し,順方向あるいは逆方向の一般化群を,右あるいは左($$\varepsilon $$に関し)のように区別し,$$G^{(p)+}$$ あるいは$$G^{(p)-}$$と標記する.例えば,
$$3^{(3) \pm }, 4^{(4) \pm }, \overline{4}^{(4) \pm }, 6^{(6) \pm }, 6^{(3) \pm }, \overline{6}^{(6) \pm }, \overline{6}^{(3) \pm }, \overline{3}^{(6) \pm }, \overline{3}^{(3) \pm }$$
ここで,右の群には《+》,左には《-》が対応している.

 

図212ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

色付き点群$$ 6^{(6)+}, 6^{(6)-}, 6^{(3)+}, 6{(3)-} $$,および,反対称群$$6'$$,結晶群$$6$$がもつ磁気配置.これらは,磁気モーメントベクトルに結合された,あるいは,古典的な演算を作用させて得らたもので,すべての配置図で,点1の矢の向きは同一とした.色付き群の標記はまだ標準化されていないので,巡回色付き群の別の記法もある.理論的解析では一般化された群を$$G_{r, t, \cdots, r}^{l, p}$$と記すのが便利である.上の添え字の最初$$l$$は,独立な非幾何学的な座標の数,第2の数$$p$$は群の色数である.この記号では,図の群は,$$G_{3,0}^{1,6}, G_{3,0}^{1,3}, G_{3,0}^{1,2}, G_{3,0}$$(p.198,232,269を参照) 

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図212に示すのは,一般化された群 $$6^{(6)+}, 6^{(6)-}, 6^{(3)+}, 6^{(3)-}$$の磁気的解釈例であり,これらの群を反対称群$$6'$$や古典結晶群$$6$$と比較している.
簡単のために,平面的スピン配位だけを考え,紙面上にある磁気ベクトルを極性の矢で示したが,厳密には,磁気ベクトルは軸性であるから,回転矢印を伴う無極性の線分で表示すべきであることを心に留め置てほしい.
スピンの配位を決めるために,磁気運動量が垂直に向いている番号1の点を出発点とする.回転の正の向きとして,反時計回りをとる.群$$6^{(6)+}$$ における幾何学的な変換$$g$$により,点1から点2へ移動するが,このとき点に固着している磁気モーメントも向きを変え点2においては,半径外向となるであろう.今度は,点2の位置を変えないで,ベクトルにこのベクトルを正の向きに60°回転するような演算子$$\varepsilon $$を作用させると,磁気モーメントは,正六角形を作る向きになる.これが,結合された変換$$6^{(6)+}=\varepsilon 6$$の実行に相当する.この演算を繰り返すことにより,典型的な(非共線の)反強磁性配置ができる.全く同様に,群$$6^{(6)-}$$ に対して,共線の強磁性構造が得られる:反時計回りの回転$$6$$を行い,さらに,これに続けて,ベクトルを時計回りに60°回転する(演算子$$\varepsilon ^{-1}=\varepsilon ^{5}$$を時計回りの60°回転$$6^{-1}$$に結合することは,意味がない,なぜなら,これは,再び$$6^{(6)+}$$ の配置を与えることになる).群$$6^{(3)+}$$ に対しては,反強磁性の共線構造が得られる.他の残りの群$$6^{(3)-},6',6$$は,やはり反強磁性であるが,もはや共線構造ではない.
   図212の6つの磁性群は全部互いに異なっている.このように,古典対称および反対称は,結晶における可能な磁気構造としては不十分であり,対称の新しい概念が有用であることが明らかになった.
   我々の物質空間の点に,磁気モーメントの演算子を置く代わりに,他の物理特性を置き,それに作用する演算子$$\varepsilon $$を定義することもできる.それぞれの場合につき,得られた一般化された対称群に,新しい具体的解釈を見出すであろう.しかし,得られた群は,既知の一般化された群に同型である.このために,あらゆる場合にあてはまる一般化された群の抽象特性を用いることは有用である.このような抽象特性には,色を選ぶ.空間の点に,色(位相)特性を付与し,演算子$$\varepsilon $$を,固定された点で色(位相)を変える演算子と解釈しよう.
  巡回群$$\left\{ \varepsilon ,\varepsilon ^{2},\varepsilon ^{3}, \ldots ,\varepsilon ^{p-1},\varepsilon ^{p} \right\} $$ に対して,自然スペクトル順に色を変えると約束する.例えば,$$6^{(6)+}$$ においては,点1を赤で《塗れば》点2,3,4,5,6はスペクトルの色サイクルを6分割して橙,黄,緑,青,紫と順次塗らなければならない.群 $$6^{(6)+}$$は,このように,《6色の》群で,群$$6^{(3)+}$$ は《3色の》群である.一般に巡回群$$G^{(p)}$$は,$$\varepsilon ^{p}=1$$なら,$$p$$色の群となるであろう.
   上で定義した巡回色付き群の他に,巡回ないし非巡回の色置換群も存在する.このような一般化された群全てが,既に述べた18個の群(右-,左-の総計)により,対称,反対称,色付き対称群 
$$2,m,\overline{1},4,\overline{4};1',2',m',\overline{1},4',\overline{4};1^{(p)},2^{(p)},m^{(p)},\overline{1}^{(p)},4^{(p)},\overline{4}^{(p)}$$ を拡大して得られる.これは,結晶群を回転群の拡大によって得た(表14)のと全く同様である[訳注:回転群を $$\overline{1},m$$で拡大した].この可能性は読者にまかせ,ここでは,節の冒頭に記した手段によることにする.
   色置換群の位数を結晶位数に制限する:$$p=3, 4, 6, 8, 12, 16, 24, 48$$.そして,色付き群$$G^{(p)}$$の中で,上位の結晶部分群$$G^{ \ast }$$が正規商,すなわち,有限指数$$j=p$$の正規部分群を作っているような色付き群$$G^{(p)}$$だけを考える.
$$G^{(p)}=G^{ \ast }g_{1}^{(p_{1})} \cup G^{ \ast }g_{2}^{(p_{2})} \cup \cdots \cup G^{ \ast }g_{j}^{(p_{j})}$$;
$$g_{1}^{(p_{1})}=1, g_{2}^{(p_{2})}, \ldots ,g_{j}^{(p_{j})} \notin G^{ \ast }$$, $$g_{2}^{(p_{2})}, \ldots ,g_{j}^{(p_{j})} \in G^{(p)}$$
数字$$1,2,3, \ldots ,p$$で色特性を表現し,色置換を次のように記す.
$$ p_{j}=\left( \begin{array}{@{\,} ccccc @{\, } } 1 & 2 & 3 & \ldots & p \\[0mm] m_{1_{j } } & m_{2_{j } } & m_{3_{j } } & \ldots & m_{p_{j } } \end{array} \right) $$
下の行には,変換$$p_{j}$$を行ったときに,上の行の番号$$i$$の所がもつ色の番号$$m_{i}$$が書かれている.色置換群は,記号$$p=\left\{ p_{1},p_{2}, \ldots p_{j} \right\} $$で示し,一般化された群$$G^{(p)}$$の結合された演算$$g^{(p)}$$は,交換関係により定義する. 
$$g^{(p)}=gp=pg$$
(巡回群の場合には,$$p$$は$$\varepsilon $$に一致する) 結合された演算の積則を定義しよう: 
$$g^{(p_{i})}_{i} \otimes g_{j}^{(p_{j})}=g_{i}g_{j}^{(p_{i}p_{j})}$$ あるいは,$$g_{i}p_{i} \otimes g_{j}p_{j}=g_{i}g_{j}p_{i}p_{j}$$                                               (2)
$$g_{i}, g_{j} \in G, p_{i}, p_{j} \in P, g_{1}=1$$, $$ p_{1}=\left( \begin{array}{@{\,} cccc @{\, } } 1 & 2 & \ldots & n \\[0mm] 1 & 2 & \ldots & n \end{array} \right) $$
定義に従い,色群$$G^{(p)}$$を古典群$$G^{ \ast }$$の色置換群$$P$$あるいは生成*色付き群$$G^{(p) \ast }$$による拡大と呼ぶ.但し,商群 $$G^{(p)}/G^{ \ast }$$(剰余類$$G^{ \ast }p_{i}$$あるいは$$G^{ \ast }g^{(p_{i})}$$からなる)は,積則$$G^{ \ast }p_{i} \cdot G^{ \ast }p_{j}=G^{ \ast }p_{i}p_{j}$$ あるいは,$$G^{ \ast }g_{i}^{(p_{i})}G^{ \ast }g_{j}^{(p_{j})}=G^{ \ast }g_{i}^{(p_{i})}g_{j}^{(p_{j})}$$ をもち,$$P$$あるいは$$G^{(p) \ast }$$に同型とする.
$$G^{(p)}/G^{ \ast } \leftrightarrow P$$  あるいは  $$G^{(p) \ast }\left( P=\left\{ p_{i} \right\} , G^{(p)}=\left\{ g_{i}p_{i} \right\} , g_{i}p_{i} \neq 1^{(p)} \right) $$.
   一般化された群$$G^{(p)}$$は,群$$G^{ \ast }$$の色恒等群$$1^{(p)}$$による拡大で得られたものなら,色に関して中性(あるいは混合)と呼ばれる.$$1^{(p)}$$は,$$p$$次のすべての可能な置換からなる位数$$p!=1 \cdot 2 \cdot 3 \cdot \ldots \cdot p$$の対称群$$S_{p}$$として決定される.例えば,$$p=3$$とすれば:
$$ 1^{(3)}=\left\{ \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } } 1 & 2 & 3 \\[0mm] 1 & 2 & 3 \end{array} \right), \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } } 1 & 2 & 3 \\[0mm] 1 & 3 & 2 \end{array} \right), \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } } 1 & 2 & 3 \\[0mm] 2 & 3 & 1 \end{array} \right), \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } } 1 & 2 & 3 \\[0mm] 2 & 1 & 3 \end{array} \right), \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } } 1 & 2 & 3 \\[0mm] 3 & 1 & 2 \end{array} \right), \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } } 1 & 2 & 3 \\[0mm] 3 & 2 & 1 \end{array} \right) \right\} $$
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*生成される群では,色の数は群の位数$$p^{ \ast }=3,4,6,8,12,16,24,48$$に等しい.この基礎に立ち,$$6^{(3) \pm }(\textrm{mod} 2)=\left\{ 1,6^{(3) \pm },\left( 6^{(3) \pm } \right) ^{2} \right\} $$のようなモジュラス群を,文脈から誤解を生じなければ,単に$$6^{(3) \pm }$$と標記する.
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   《色恒等演算》を作用させると,空間のすべての点で,中括弧内のすべての演算が同時に実行される.
   中性群は,32の結晶群$$G$$と色恒等群$$1^{(p)}$$の直積として定義される:
    $$G1^{(p)}=G \otimes 1^{(p)}=1^{(p)} \otimes G$$
$$p=3,4,6,8,12,16,24,48$$としたから,
全部で8つの群$$1^{(p)}$$と,$$32 \times 8=256$$の中性群$$G1^{(p)}$$が定義される.
内訳は,$$n$$を生成群の位数としたとき,$$p=n$$のとき28の群,$$p<n$$のとき90,$$p>n$$のとき138となる.特に,中性群は結晶が,どのような位相特性をもつことも許容しない.
例えば,一般化された群の磁気解釈の際に,磁気ベクトルに,群演算$$1^{(p)}$$を適用すると,各点で,合力0のベクトルの星形を得るはずである.これは,群$$G1^{(p)}$$が,結晶に定常的磁気構造を持つことを許容しないということである.
   結晶群$$G$$に同型な真の色付き群(非中性)$$G^{(p)}$$は,正規商$$G^{ \ast } \vartriangleleft G$$があり,これと,生成色群$$G^{(p) \ast }$$あるいは,$$6^{(3) \pm }(\textrm{mod}2)$$のようなモジュラス群$$G^{(p) \ast }(\textrm{mod}G_{1}^{ \ast })$$との直積,半直積,あるいは条件積を作り得ることが出来る.
   $$G^{(p)}=G^{ \ast } \otimes G^{(p) \ast }, G^{(p)}=G^{ \ast } \oslash G^{(p) \ast }, G^{(p)}=G^{ \ast } \odot G^{(p) \ast }(\textrm{mod}G_{1}^{ \ast })$$
群 の同型性$$G^{(p)} \leftrightarrow G$$は,部分群$$G^{ \ast } \vartriangleleft G$$の指数$$s$$が,選ばれた生成色群$$G^{(p) \ast }$$あるいは$$G^{(p) \ast }(\textrm{mod}G_{1}^{ \ast })$$の位数$$p^{ \ast }=3,4,6,8,12,24,48$$に一致すれば保証される: 
$$G^{ \ast }=G^{(p)} \cap G, G^{(p)}/G^{ \ast } \leftrightarrow G^{(p) \ast }$$または$$G^{(p) \ast }(\textrm{mod}G_{1}^{ \ast })$$
本来の色付き群は,色恒等部分群(color-identification group)$$1^{(p)}$$を含まない $$1^{(p)} \not\subset G^{(p)}$$ことを忘れてはならない.すなわち,色対称群の色置換は,恒等変換ではない幾何学変換と結合されねばならない.
   表18には,色群が,直積,半直積,条件積の型で表現されている.これらの記号は,結晶群の国際記号に基づいて作られる:各々の色元$$g_{i}^{(p_{i})}$$ と群全体$$G^{(p)}$$には,色指数$$p_{i}$$と$$p$$が標示される.この記号で,数$$p$$は独立な生成元の色指数$$p_{i}$$の積に等しい;例えば,群$$\left( \displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } }\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } }\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } } \right) ^{(8)}$$では,$$p=2 \times 2 \times 2$$となる.なぜなら,この群は3つの生成元から作られているからである.数$$p_{i}$$は色元の位数と一致する:$$\left( g^{(p_{i})} \right) ^{p_{i } }=1$$ .これは,非巡回群$$G^{(p)} (p>p_{i})$$で,元 $$g_{i}^{(p_{i})}$$に付随した$$p$$文字(色)の置換は,長さ$$p_{i}$$の循回置換に分かれることを意味する: 
$$ p_{i}=\left( \begin{array}{@{\,} cccc @{\, } } 1 & 2 & \ldots & p \\[0mm] m_{1} & m_{2} & \ldots & m_{p} \end{array} \right) \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } } 1 & \ldots & m_{1} \\[0mm] m_{1} & \ldots & 1 \end{array} \right) \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } } 2 & \ldots & m_{2} \\[0mm] m_{2} & \ldots & 2 \end{array} \right) \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } } j & \ldots & m_{j} \\[0mm] m_{j} & \ldots & j \end{array} \right) $$,
$$p=p_{i} \times j$$

置換群 において,$$P=\left\{ p_{1}, p_{2}, \ldots , p_{n} \right\} $$,$${p }$$数を長さ$$p_{i}$$項の巡回置換に分けるあらゆる異なった分け方と,色生成元と古典生成元の許容される結合を見出すことは,色対称群$$G^{(p)}$$($$p \le n$$ のとき)導出の出発点となる問題である.もし,結晶群の位数$$p$$を制限しないなら,非結晶色群を得ることが出来る.$$\left( \displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } }\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } }\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } } \right) ^{(8)}$$型 の色群を,簡単に,$$\displaystyle \frac{2^{(8) } }{m^{(8) } }\displaystyle \frac{2^{(8) } }{m^{(8) } }\displaystyle \frac{2^{(8) } }{m^{(8) } }$$ と短縮することも出来る.なぜなら,巡回の長さ情報$$p_{i}$$は,結晶元 によって与えられるからである:$$g_{i}^{p_{i } }=1$$
   表18で出会うモジュラス群$$G^{(p) \ast }(\textrm{mod}G_{1}^{ \ast })$$は,既に出会った型$$4(\textrm{mod}2)=\left\{ 1,4 \right\} ,4'(\textrm{mod}2)=\left\{ 1,4' \right\} $$等と比べて,特に通常と異なる訳ではない.モジュラス群の使用は,色対称群を単に結晶群の拡大と見なすだけでなく,対応する色群の拡大と見なすなら,避けることが出来る.この場合には
$$ \left( 4^{(2)}2^{(2)}2^{(2)} \right) ^{(4)}=2'2'2 \oslash 2''=4' \oslash 2'' $$,
$$\left( 4^{(2)}/m^{(2)} \right) ^{(2)}=4' \otimes \overline{1}''=4' \otimes m''$$,
$$\left( 4^{(2)}m^{(2)}m^{(2)} \right) ^{(4)}=m'm'2 \oslash m''=4' \oslash m''$$, $$\left( \overline{4}^{(2)}2^{(2)}m^{(2)} \right) ^{(4)}=2'2'2 \oslash m''=\overline{4}' \oslash m''$$,
$$\left( \displaystyle \frac{4^{(2) } }{m^{(2) } }\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } }\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } } \right) ^{(8)}=\overline{1}^{(2)} \otimes \left( 4^{(2)}2^{(2)}2^{(2)} \right) ^{(4)}$$,
$$\left( \displaystyle \frac{4^{(2) } }{m^{(2) } }\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } }\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } } \right) ^{(4)}=2'2'2 \oslash \displaystyle \frac{2''}{m''}=2'2'2 \oslash mm''2''$$,
$$\left( 4^{(2)}3^{(2)}2^{(2)} \right) ^{(6)}=2^{(2)} \otimes \left( 23^{(3)} \right) ^{(3)}$$, $$\left( \displaystyle \frac{4^{(2) } }{m^{(2) } }\overline{3}^{(6)}\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } } \right) ^{(12)}=\overline{1}^{(2)} \otimes \left( 4^{(2)}3^{(3)}2^{(2)} \right) ^{(6)}$$,
$$\left( \displaystyle \frac{4^{(2) } }{m}\overline{3}^{(3)}\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } } \right) ^{(6)}=\overline{1} \otimes \left( \overline{4}^{(2)}3^{(3)}2^{(2)} \right) ^{(6)}$$
(ただし,$$\overline{1} \subset \displaystyle \frac{2}{m}\displaystyle \frac{2}{m}\displaystyle \frac{2}{m}=G^{ \ast } \subset G^{(p)}$$)
(記号$$'$$と$$''$$で,2色群の独立な演算子(反対称)を区別する:
$$2'=2^{(2)},2''=2^{(2) \ast },m''=m^{(2) \ast },$$など)
   図213 a-fに,$$2/m$$と$$m\overline{3}m$$に同型な色群のステレオ投影を,黒白版で導いた.図面には図69に対応する古典部分群$$1(\textrm{a,b}),\overline{1}(\textrm{c}),222(\textrm{d}),\displaystyle \frac{2}{m}\displaystyle \frac{2}{m}\displaystyle \frac{2}{m}(\textrm{e}),23(\textrm{f})$$の対称元を,白色で記入してある.
残りの元は,真の色元,すなわち,これを用い,$$g^{(p)}=gp$$の型の結合された変換を実行できる.ここで,$$g \in G \leftrightarrow G^{(p)}$$ ,$$p$$は色(数字)置換で,演算子の超幾何学的部分の働きで,与えられた点で実行される.
符号$$ \pm $$は,ステレオ投影で,図面上に投影された非対称点(4面体)が,上半球から来たか下半球から来たかの状態表示である.
符号の違う各対$$ \pm $$は,同一の点に投影されたものである.図213$$\textrm{a-f}$$に示された同価系の点には色がある:点の《色》は対応する番号で示される.4色群 $$\left( 2^{(2)}/m^{(2)} \right) ^{(4)}$$は次の結合された演算よりなる:
$$ 1=1\left( \begin{array}{@{\,} cccc @{\, } } 1 & 2 & 3 & 4 \\[0mm] 1 & 2 & 3 & 4 \end{array} \right) =1(1)(2)(3)(4) $$;

$$ 2^{(2)}=2\left( \begin{array}{@{\,} cccc @{\, } } 1 & 2 & 3 & 4 \\[0mm] 2 & 1 & 4 & 3 \end{array} \right) =2(12)(34) $$;

$$ m^{(2)}=m\left( \begin{array}{@{\,} cccc @{\, } } 1 & 2 & 3 & 4 \\[0mm] 3 & 4 & 1 & 2 \end{array} \right) =m(13)(24) $$;
$$ \overline{1}^{(2)}=\overline{1}\left( \begin{array}{@{\,} cccc @{\, } } 1 & 2 & 3 & 4 \\[0mm] 4 & 3 & 2 & 1 \end{array} \right) =\overline{1}\left( 14 \right) (23) $$.
元$$g^{(p)}=gp$$を定義しているこれらの等式の右辺で,置換$$p$$は,完全な形と短縮(巡回置換)形とで書かれている( $$g^{(p)}$$の指数$$(p)$$は,巡回置換の長さに対応している). 
演算$$2^{(2)},m^{(2)},\overline{1}^{(2)}$$に対応する色対称元は,異なる色に塗られるべきである.なぜなら,これらにより実現される色(数字)置換は異なるからである.対称群$$\left( \displaystyle \frac{4^{(4) } }{m^{(2) } }\overline{3}^{(6)}\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } } \right) ^{(48)}$$のすべての元も異なる色に塗られるべきであることはすぐわかる.
   定義から,生成演算の一次で与えられる色対称の元$$g_{i}p_{i}$$と$$g_{j}p_{j}$$は,これらの元が,同一の色置換,すなわち,$$p_{i}=p_{j}$$ならば,同じ色に塗られる.このような場合は,次の群の時に出会う.
$$\left( \displaystyle \frac{4^{(2) } }{m^{(2) } }\overline{3}^{(3)}\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } } \right) ^{(24)}=\overline{1} \otimes \left( 4^{(4)}3^{(3)}2^{(2)} \right) ^{(24)}$$,
$$\left( \displaystyle \frac{4^{(2) } }{m^{(2) } }\overline{3}^{(6)}\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } } \right) ^{(12)}=222 \odot \left( \displaystyle \frac{4^{(2) } }{m^{(2) } }\overline{3}^{(6)}\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } } \right) ^{(12)}\left( \textrm{mod}222 \right) $$,
$$\left( \displaystyle \frac{4^{(2) } }{m}\overline{3}^{(3)}\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } } \right) ^{(24)}=\displaystyle \frac{2}{m}\displaystyle \frac{2}{m}\displaystyle \frac{2}{m} \odot \left( \displaystyle \frac{4^{(2) } }{m}\overline{3}^{(3)}\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } } \right) ^{(6)}\left( \textrm{mod}\displaystyle \frac{2}{m}\displaystyle \frac{2}{m}\displaystyle \frac{2}{m} \right) $$, 
$$\left( \displaystyle \frac{4^{(2) } }{m^{(2) } }\overline{3}^{(2)}\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } } \right) ^{(4)}=23 \oslash \left( \displaystyle \frac{2^{(2) } }{m^{(2) } } \right) ^{(4)}$$

最後の群では,例えば,すべての対角diagonalの鏡映面$$m$$に置換$$(13)(24)$$が結び付けられている.対称心と座標平面$$m_{x},m_{y},m_{z}$$は,置換$$(14)(24)$$に,軸$$2_{i}$$と$$4_{j}^{(2)}$$は置換$$(12)(34)$$に結び付けられている.この群の表示のためには,黒の他に3色必要である.
   図213$$\textrm{a-f }$$にも表18にも,群$$G^{(p)}$$の81の象徴が,色対掌体enantio-と多形polymorphismの区別なしで導かれている;色対掌体enantio-と多形polymorphismの考慮をすると群$$G^{(p) \pm }$$の数は134に増加する.これらのうち37群だけが生成群である:28群は自明な$$G^{(p)}=1 \otimes G^{(p)}$$,9群は$$G^{(p)}(\textrm{mod}G^{ \ast }_{1})$$.色巡回置換による群は,最初にniggli(1959)とIndenbom,Belov,Neronova(1960)により得られた.古典的正規商normal classical divisors нормальные классические делителиを含む群は,Wittke(1962)が研究した.合理的な表現rational symbolism рациональная символиса,ステレオ投影stereographic projections стереографические проекции,色群の積の型への分解表現form of products of cofactors в форме произведений сомпожителейは,我々により,初めてここに導かれた.群$$G^{(p)}_{N}=G^{ \ast }G^{(p) \ast }$$(表18)は,73のWittke-Garrido群$$G^{(p)}_{WG}=G^{(p) \ast } \cdot G^{ \ast }$$および,これらに同型な73の$$\textrm{Van der Waerden-Burckhardt }$$群,$$G_{WB}^{(p)}=G^{(p_{1}) \ast } \cdot G^{(p_{2}) \ast }$$(非自明な正規古典部分群を含まない)で補充できる.既知の群 $$(4^{(2)}m^{(2)}m^{(2)})^{(4)}=4^{(2)} \oslash m^{(2) \ast }$$, $$\left( 4^{(2)}2^{(2)}2^{(2)} \right) ^{(4)}=4^{(2)} \oslash 2^{(2) \ast }$$,$$\left( \overline{4}^{(2)}2^{(2)}m^{(2)} \right) ^{(4)}=\overline{4}^{(2)} \oslash m^{(2) \ast }$$を見本として(参照p.243),新しいWittke-Garrido群を得ることが出来る.例えば;
$$\left( 4^{(4) \pm }mm^{(2)} \right) ^{(4)}=4^{(4)} \oslash m$$,
$$\left( 4^{(4) \pm }22^{(2)} \right) ^{(4)}=4^{(4)} \oslash 2$$,
$$\left( \overline{4}^{(4) \pm }2m^{(2)} \right) ^{(4)}=\overline{4}^{(4)} \oslash 2$$,
$$\left( \overline{4}^{(4) \pm }2^{(2)}m \right) ^{(4)}=\overline{4}^{(4)} \oslash m$$
あるいは,新しいVan der Waerden-Burckhardt群 
$$\left( 4^{(4)+}m^{(2)}m^{(2)} \right) ^{(4)}=4^{(4)} \oslash m^{(2)}$$,
$$\left( 4^{(4)+}2^{(2)}2^{(2)} \right) ^{(4)}=4^{(4)} \oslash 2^{(2)}$$,
$$\left( \overline{4}^{(4)+}2^{(2)}m^{(2)} \right) ^{(4)}=\overline{4}^{(4)} \oslash 2^{(2)}$$,
$$\left( \overline{4}^{(4)+}2^{(2)}m^{(2)} \right) ^{(4)}=\overline{4}^{(4)} \oslash m^{(2)}$$
部分群$$G^{(p_{2}) \ast } \subset G^{(p)}_{WG}$$は,最後に決まった色を保存する;群$$G_{WG}^{(p)}$$中の色置換の型$$G^{(p) \ast }$$は,始めの点のとり方に依存する.

koptsik-ch11-2★

反対称の空間群(Shubnikov群)Ш
-古典空間群(Fodorov群)Фの拡大,あるいは並進群Tの拡大-

反対称空間群(Shubnikov群)の古典空間群(Fodorov群)に対する関係は,反対称結晶点群が結晶点群に対する関係と同様である.3次元のShubnikov群では,古典的な運動演算のすべて$$\phi _{i} \in \mit\Phi $$ に加えて,結合された演算$$ ш_{i }=\phi _{i}1'=1'\phi _{i} $$として定義される反対称演算$$ ш_{i } \in Ш $$とも出会う.これらのすべての演算をあらわな形にかくと: 
運動演算 反対称運動演算 
$$ \begin{array}{ccccc} 1 & 2 & 3 & 4 & 6 \\[0mm] \overline{1} & m & \overline{3} & \overline{4} & \overline{6} \\[0mm] \tau & 2_{1} & 3_{1} & 4_{1} & 6_{1} \\[0mm] & a & 3_{2} & 4_{2} & 6_{2} \\[0mm] & b & & 4_{3} & 6_{3} \\[0mm] & c & & & 6_{4} \\[0mm] & d & & & 6_{5} \\[0mm] & n & & & \end{array}     \begin{array}{ccccc} 1' & 2' & 3' & 4 ' & 6 \\[0mm] \overline{1}' & m' & \overline{3}' & \overline{4}' & \overline{6}' \\[0mm] \tau ' & 2'_{1} & 3'_{1} & 4'_{1} & 6'_{1} \\[0mm] & a' & 3'_{2} & 4'_{2} & 6'_{2} \\[0mm] & b' & & 4'_{3} & 6'_{3} \\[0mm] & c' & & & 6'_{4} \\[0mm] & d' & & & 6'_{5} \\[0mm] & n' & & & \end{array} $$

この表で,$$ n_{j}$$の下添字はらせん軸のまわりのらせん回転を指定する.文字$$a,b,c,d,n$$ で,軸$$a,b,c$$ あるいは対角方向の映進面による映進を,文字$$\tau $$で並進部分群の任意のベクトル$$\tau \in T$$ を表す.また,$$3'=31'=1'3$$ などの記法も用いる.
空間群の演算リストを拡張した時に現れる反対称空間群は,Fodorov群を以下の演算の冪で生成される位数2の巡回群により拡大したものと見なせる: 
$$ 1', \overline{1}', \tau '; 2', 2'_{1}, m', a', b', c', d', n'; 4', \overline{4}', 4'_{1}, 4'_{2}, 4'_{3} $$.*
拡大の概念を知る手始めとして,1次元のShubnikov群(単面帯の反対称群)を例にとる.図208の第1列には単面帯の7つの古典空間群の国際記号を,並進軸$$a$$に沿って繰り返される単色図形(非対称三角形とそれらの組合せ)による幾何学模様と共に掲載した(図90,p160の表10参照).

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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*並進を含む演算は,2倍長さの並進を法とし群を生成する:
$$ \tau '\left( \textrm{mod}2\tau \right) =\left\{ 1,\tau ' \right\} ;2'_{1}\left( \textrm{mod}2\tau \right) =\left\{ 1,2'_{1} \right\} ; a',b',c',n'\left( \textrm{mod}\tau \right) =\left\{ 1,x \right\} ; d'\left( \textrm{mod}n \right) =\left\{ 1,d' \right\} ;$$

$$4'_{1}\left( \textrm{mod}2_{1} \right) =\left\{ 1,4'_{1} \right\} ; 4'_{2}(\textrm{mod}\left[ 2|\tau \right] =\left\{ 1,4'_{2} \right\} ; 4'_{3}\left( \textrm{mod}2_{1} \right) =\left\{ 1,4'_{3} \right\} $$, ここで,$$x=a', b', c', n'$$    $$ \tau \in T $$
さらに,$$4'\left( \textrm{mod}2 \right) =\left\{ 1,4' \right\} ; \overline{4}'\left( \textrm{mod}2 \right) =\left\{ 1,\overline{4}' \right\} $$ が法により群になる.
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  2列目には,7つの中性群の具体化が,それらに応じた灰色図形を用い示されている.このタイプの群は,古典群と群$$1'=\left\{ 1,1' \right\} $$ の直積と考えることもできる. 3列目には,反恒等演算$$1'$$ と反並進演算$$\tau '$$ を含まない反対称群の象徴が示されている.このタイプの群は,古典群を群$$2',m',a'$$によって拡大したものと見なせ,黒白2色の図形で具体化することができる.(図208で,記号$$ \otimes $$と$$ \odot $$は,2つの点群の直積,および,点群と法による群 との条件直積を示している: 対応する空間群では半直積,条件半直積である.)
図208の最後の列には,反並進を含む単面帯の空間群の幾何学的具体化とその記号を示した.反並進$$\tau '$$で生成される群は,2倍の長さの$$(\tau '+\tau '=2\tau )$$単純並進を含むから,対応する並進と反並進の群を記号$$p_{\tau '}$$であらわす.記号 の下添字$$\tau ′$$は並進群 $$p$$の拡大を行なう反並進を示す.
読者は,次の文献に発表された群記号の表を調べながら,両面帯や柱の一次元Shubnikov群を,同様の方法で見つけるとよい(Shubnikov,1959,1962;Belov 他,1956,1962).この問題は,このくらいにして,我々は層の反対称Shubnikov群へと進もう.


  そのような群は全部で528知られている(Neronova,Belov,1961).実例として,Weberの黒白図形(図184-187)に相当する80個の反対称群だけ調べてみよう.特にこれらの図形は,HeeschとShubnikovに反対称演算のような塗り変え演算の概念を思いつかせ,独立に,有限図形の反対称結晶点群を導出するに至らせた.
我々の考察の結果は,表16に示した.第1列には,表裏の面が同一色(黒または白)で塗られた1色層に対する17の古典空間群$$\mit\Phi$$の記号を載せた.第2列には,古典的1色群の生成元に,反恒等演算$$1'$$を結合して得た中性(灰色)群の記号を載せた;括弧内にはWeber図形(図184-187)に対応した番号が付けてある.全中性群$$Ш=\mit\Phi \otimes 1'$$は,古典群を群$$1'$$により拡大したものと見なせる.表の第3列には,2色Shubnikov群Шの記号を載せた.これは第1列目にあげたFodorov群$$\mit\Phi$$と同型である.これらの群Шは,反並進を含まず,指数2の古典部分群$$\mit\Phi ^{ \ast } \subset \mit\Phi $$ を反対称点群$$G'$$または法による反対称群$$G^{T'}$$により拡大したものと見なすことができる(直積 ,半直積,条件直積)*.
Ш$$=\mit\Phi ^{ \ast } \otimes G'$$,Ш$$=\mit\Phi ^{ \ast } \oslash G'$$,Ш$$=\mit\Phi ^{ \ast } \odot G^{T '} $$
しまいに,反並進$$\tau ′$$を含む2色Shubnikov群のカテゴリ-は,古典Fodorov群で,並進群 $$T \subset \mit\Phi $$の生成元に許される反並進の生成元$$\tau ′$$(並進群$$T$$の記号の下添字によって標示される)を結合することにより得られる. 
従って,このタイプの群は,Ш$$=T_{\tau '}G$$ と標記されるが,古典群 $$\mit\Phi ^{ \ast }=TG$$を法による群$$\tau '(\textrm{mod}2\tau )=\left\{ 1,\tau ' \right\} $$で拡大したものと見なすことが出来る.



   群Ш$$=T_{\tau '}G$$は,群Шと共通な並進群$$T$$を持ち,付加された並進ベクトル$$\tau $$が$$\tau ′$$と同じ長さ$$(\tau \leftrightarrow \tau ' )$$であるような古典群$$\mit\Phi =T_{\tau }G$$ と同型であることに注意しよう.群$$\mit\Phi ^{ \ast }=TG$$は,互いに同型なШ-群,Ф-群に共通な部分群(指数2)である.その上,群Ш$$=T_{\tau '}G$$は(生成元の違う選び方をすると)Ш$$=T_{\tau '}G'$$という表現も許される.この$$G' $$は反対称点群,あるいは,法による群(それぞれ,共型,あるいは,非共型Ш-群に対応);群$$G'$$は表の第1列に示した古典点群$$G$$または法による群$$G^{T}$$と同形である.この理由のために,Shubnikov群 Ш$$=T_{\tau '}G$$では,反並進なしのShubnikov部分群$$Ш^{*}=TG' \subset Ш =T_{\tau '}G $$を法による群で拡大したものとみなすことが出来る.

  読者は,単面ネットワークパターン(図149)の対称群の投影と同様に,80のShubnikov層群に対し,対称と反対称の要素の投影図を作り,黒色と赤色で対称と反対称の要素を塗り分けてみるとよい.3次元Shubnikov群に対し同様な投影図を作れるだろう.
3次元Shubnikov群(Zamorzaev,1953,1957;Belov,他,1955)は,230のFodorov群$$ \mit\Phi $$を群$$1'$$で拡大し得られるタイプ $$\mit\Phi 1'=\mit\Phi \otimes 1'$$の230個の中性群:反並進$$\tau '$$や反恒等$$1'$$を含まない674個のタイプШ$$ =T \oslash G' $$ またはШ$$ =T \circ G^{T '} $$ の群:これらの群は並進部分群$$T$$の反対称点群$$G'$$あるいは同型な法による群$$G^{T '}$$での拡大とみなせる(それぞれ,共型,あるいは,非共型Shubnikov群に対応);Fodorov部分群$$\mit\Phi ^{*}=TG$$あるいは$$\mit\Phi ^{ \ast }=TG^{T}$$を反並進$$\tau '(mod2\tau )=\left\{ 1,\tau ' \right\} $$を法として拡大したタイプШ$$=T_{\tau '} \oslash G$$ あるいは$$T_{\tau '} \bigcirc G^{T }$$ の517の群;に区別される.230のFodorov群を形式的に含ませると,合計で230+230+674+517=1651のShubnikov群が得られる.図209(カラー挿入頁)には,反並進を含まない以下の3つの共型Shubnikov群の2色投影を例として掲載した.
$$ Ш_{10}^{44} : P2'/m=Pm \otimes \overline{1}' (P2/m/Pm)$$
$$ Ш_{10}^{45} : P2/m'=P2 \otimes \overline{1}' (P2/m/P2$$
$$ Ш_{10}^{46} : P2'/m=P\overline{1} \otimes m'=P\overline{1} \otimes 2' (P2/m/P\overline{1})$$

(記号$$Ш$$の添え字は、便覧《Shubnikov群》(koptsik,1966)の群の番号に対応させている.括弧中の記号は,いわゆる2項記号で,同型なFodorov群$$\mit\Phi$$(分子)と,同型なШ群とФ群に共有される指数2のFodorov部分群(分母)で定義される.
図210(カラー挿入)には,反並進を含む以下の3つのShubnikov群の2色投影図を示した.
$$ Ш_{10}^{47} : P_{a'}2/m=P2/m \circ a' (2P2/m/P2m)$$
$$ Ш_{10}^{48} : P_{c'}2/m=P2/m \circ c' (2P2/m/P2/m)$$
$$ Ш_{10}^{49} : P_{B'}2/m=P2/m \circ \displaystyle \frac{1}{2}\left( a+c \right) ' (B2/m/P2/m)$$

(記号$$a',c'$$は反並進ベクトルの方向を記述している.ベクトル$$\displaystyle \frac{1}{2}\left( a+c \right) ^{'}$$ は単位胞のB面心を記述しており,$$B'$$と標記される。$$ \circ $$は条件半直積;2項記号の前にある数字の意味は表17のノートに説明してある.)
Ш群の投影は次のようにして作れる.
直交変換による並進の積定理(あるいは,結晶学便覧)を利用して, 
同型なFodorov群$$ \mit\Phi $$の対称要素の投影を鉛筆で描く; 
この投影図で,古典部分群$$ \mit\Phi ^{*} $$の対称要素を黒い色で塗る;部分群$$ \mit\Phi ^{*} $$にない残りの対称要素(これは反対称の対称要素になる)は,赤色に塗る.対称と反対称の投影と並べて,別の図面でШ群単位胞における非対称図形(4面体)の配置を示そう.反並進を含むШ群を作ることは,原理的には,Bravais格子と類比した2色格子が前もって作れるなら,簡単に実行できる.図211には,このような格子の22の図と,与えられた格子と共存できる最も高い対称性を持つ共型Shubnikov群の記号を導いてある.表17に,これらの格子に対応している並進群$$T_{\tau '}$$の拡大されたベクトル基底$$ \left\{ a,b,c,\tau ' \right\} $$を導いた(非単純格子に対して,基底は中心化並進をつないでいるベクトルの過剰数を示している).同型な古典群への移行 $$T_{\tau }=\left\{ a,b,c,\tau \right\} \leftrightarrow \left\{ a,b,c,\tau ' \right\} =T_{\tau '}$$は,反並進ベクトル$$\tau '$$を普通のベクトル$$\tau $$に換えて行われる.表17には,古典部分群$$T^{ \ast }=\left\{ a,b,c \right\} $$(群$$T_{\tau '}$$と$$T_{\tau }$$とに共に同型)のベクトル基底と並進群の2項記号$$T_{\tau }/T^{ \ast }$$が示してある.これらの記号の基礎は,空間群$$ \mit\Phi/\mit\Phi^{ \ast } $$の完全な2項記号である.それに従って,517のShubnikov群全部を作ることができる.
Ш$$=T_{\tau '}G \leftrightarrow T_{\tau }G=\mit\Phi$$ ($$\mit\Phi^{ \ast }=TG$$),あるいは,Ш$$=T_{\tau '}G^{T} \leftrightarrow T_{\tau }G^{T}=\mit\Phi$$ ($$\mit\Phi^{ \ast }=TG^{T}$$)

koptsik-ch11-1★

11.一般化された対称群.反対称と色付き対称

古典結晶群を,群$$1′,2′,m′,\overline{1}′,4′(\textrm{mod}2), \overline{4}′(\textrm{mod}2)$$により拡大して作られる反対称結晶点群.

この章では,一般化された対称群の全タイプを,対応する古典群をある新しい群で拡大したものと見なすことにしよう.この新しい群には,冒頭に掲げた反対称群がある.ヘーシュ(Хееш; Heesch)(1929)とシュブニコフ(Шубников; Shubnikov)(1945)が独立に導びいた反対称の概念を,以下の例で紹介する.
一面が黒く,他面が白く染められた皮が与えられたとし,この黒-白の皮で折り返し付きの手袋を作ることにする.この問題は4つの解を持つことは明らかである(図205).即ち,次のものを作ることができる:1)右の白い手袋(黒い折り返し付き),2)左の白い手袋(黒い折り返し付き),3)右の黒い手袋(白い折り返し付き),4)左の黒い手袋(白い折り返し付き).右の手袋は,希望するなら,裏返しにして,左手にはめることができるし,左手の手袋も同様なことができるとする.従って,どの手袋でも,右にも,左にも,黒にも,白にもなれる.ここから,同一色の右と左の手袋だけを対称的に等しいと考えるのでなく,異なる色の手袋同志も等しい(反等価; антиравными; anti-equal )と考えるような概念の一般化が,全く自然に起こって来る.

図205.------------------------------

4つの反対称手袋:右白($$П^{+}$$),左白($$Л^{+}$$),右黒($$П^{-}$$),左黒($$Л^{-}$$).同じ色の手袋は対称演算で互いに変換し合い,異なる色の手袋は反対称演算で互いに変換し合う.

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文字П,Лで右,左の手袋を,《+》,《-》で表面色の白,黒を標すことにし,手袋をある状態から他の状態へと変換する対称あるいは反対称の演算を見つけよう.一寸考えれば,次のことがわかる.$$Л^{+} \to П^{+} ,Л^{ - } \to П^{ - }$$の変換は,図205の手袋間に,垂直に$$m$$を想定し,これで反射させるか,任意の位置にある反転$$\overline{1}$$(ただし,手袋は図とは違った配置になる)によって実行される.変換$$Л^{+} \to Л^{ - } , П^{+} \to П^{ - }$$は,手袋の位置はそのままで,色を塗り変える演算で実行できる.この新しい演算を反恒等(антиотождествлением; anti-identification)と名づけ,1′と標記する.最後に,変換$$Л^{+} \to П^{ - } , Л^{ - } \to П^{+}$$は,垂直平面での反射と色の塗り変えを結合した(引続いて行なう)演算によるか,任意の位置にある反転と色の塗り変えを結合した演算によって実行できる.これらの新しい演算を,それぞれ反鏡映(антиотражением; anti-reflection),反反転(антиинверсией; anti-inversion)と名づけ,$$m'=m1'=1'm$$ ,および$$\overline{1}'=\overline{1}1'=1'\overline{1}$$と標記する.これらの演算に対応する対称要素を反対称面(плоскостью антисимметрии; anti-symmetry plane),反対称心(центром антисимметрии; center of anti-symmetry)と呼ぶことにし,記号$$m'$$と$$ \overline{1}′$$で標記する.

図206ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

反対称群$$1′, m′, 2′, \overline{1}′,4′,\overline{4}′$$の(非対称4面体による)具体化図形.これらにより古典結晶群は拡大される.反恒等群$$1'$$では中性色(灰色)の4面体になるが,他の群では黒あるいは白の4面体で構成された図形になる.反対称演算は4面体の色の塗り変えを伴った幾何空間の変換である.4面体は観測者に頂点を向けているか底面を向けているかである.拡大を作るには,群$$4'$$や$$\overline{4}′$$の替わりに,モジュラス群$$4'(\textrm{mod}2)$$と$$ \overline{4}'(\textrm{mod}2)$$を用いれば十分である.
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図206には,観測者の方に頂点を向けたり,底面を向けたりしている非対称な4面体を集めて作った図形が示されている.もし,図形の白や黒の色を,正,負の電荷とか,何らかの物理量演算子(例えば,磁気モ-メントの演算子)の正,負の符号のような,図形に付加された超幾何学的特性と考えるなら,これら形而下の図形は,この節の冒頭にあげた反対称の巡回群(一つの演算の冪で生成される群)の表現図形《変換により不変な形而下の図形》となる.
位数2の群$$1'=\left\{ 1,1' \right\} $$は反恒等演算$$1'$$の冪で生成される.従って,群の定義関係は$$\left( 1' \right) ^{2}=1$$となる. 演算$$1'$$のあらゆる冪は,結果的には,中括弧内の元のどちらかに一致する.群が反恒等演算を含んでいるために,その表現図形は,同時に黒でもあり白でもある必要がある(物理的に中性).この理由で,群を具体化している右-,左-の4面体は中性色(灰色)に塗られている. 
  群$$m'=\left\{ 1,m' \right\} ,2'=\left\{ 1,2' \right\} ,\overline{1}'=\left\{ 1,\overline{1}' \right\} $$は,反対称平面での反射[$$\left( m' \right) ^{2}=1$$],反対称軸のまわりの180°回転[$$\left( 2' \right) ^{2}=1$$],反対称中心での反転 [$$(\overline{1}')^{2}=1$$]演算の冪でそれぞれ生成される.これらの群はすべて,抽象的には,群$$1'=\left\{ 1,1' \right\} $$に同型であるが,それらを具体化している図形は,物理的には,性質が異なっている.読者は,図206で,どこにそれぞれの反対称要素があるかを確かめよ.
  群$$4'(\textrm{mod}2)=\left\{ 1,4' \right\} $$と$$ \overline{4}'(\textrm{mod}2)=\left\{ 1,\overline{4}' \right\} $$は,90°の反対称単純回転,あるいは反対称回映(回反)演算の冪で生成される.これらの群は,元の対応$$4' \leftrightarrow 4,\overline{4}' \leftrightarrow \overline{4}$$ (p.212)により,群$$ 4(\textrm{mod}2)=\left\{1, 4\right\} $$あるいは$$ \overline{4}(\textrm{mod}2)=\left\{1, \overline{4} \right\} $$と同型である.
他の反対称結晶群は,すべて,上記の群による古典結晶群の拡大として作られる表15 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

32の中性群$$G1'$$は,結晶群の生成元に,反恒等演算を結合して,あるいは同じことであるが,群$$G={g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{n}}$$を群$$1'=\{1,1'\}$$に《乗じて》 得られる.演算$$1$$との積では,どの演算$$g_{i}$$も変わらない.演算$$1'$$との積は結合された演算$$g_{i}'=g_{i}1'=1'g_{i}$$を作る(これを反対称演算と名づける).このように ,拡大群$$G1'$$の位数は,直積$$G1'=G \otimes 1'$$中の因子である始めの結晶群$$G$$の位数の2倍となる.
$$G1'=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{n},g_{1}',g_{2}', \ldots g_{n}' \right\} =\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{n} \right\} \otimes \left\{ 1,1' \right\} $$,  
ただし,$$g_{1}=1,g_{1}'=1'$$.
反恒等演算1′を含まない58の2色(黒-白)群 $$G'$$は,指数2の結晶部分群$$G^{*}\subset G$$を生成元にして,演算 $$\overline{1}′,2′,m′,4′,\overline{4}′$$を結合するか,同じことだが,群$$G^{*}$$の各演算を反対称群$$\overline{1} ′,2′,m′,4′(\textrm{mod}2), \overline{4}′(\textrm{mod}2)$$の演算に乗じて得られる.2倍の位数をもつこれらの群は,対称演算と反対称演算を同数づつ含むから,反対称の一般化された群G′では,直積(прямом; direct),半直積(полупрямом; semi-direct),条件積(условном произведении; quasi-direct)の因子である指数2の結晶部分群$$G^{*}=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{n} \right\} $$は保存されている:
$$G'=\left\{ g_{1}, g_{2}, \ldots , g_{n}, g_{1}g', g_{2}g', \ldots , g_{n}g' \right\} =\left\{ g_{1}, g_{2}, \ldots , g_{n} \right\} \otimes \left\{ 1, g' \right\} $$,
ただし,$$g_{1}=1,g'$$は拡大を作る演算.
黒-白群$$G'$$が,同じ位数をもつ結晶群に同型となるのはすぐわかる.それぞれの群$$G'$$に対して,同型な結晶群$$G$$と指数2の古典部分群$$G^{ \ast }$$を指定すれば,反対称群$$G'$$の2項記号といわれるもの$$G/G^{ \ast }$$が得られる.この記号は,$$G'$$に関するあらゆる必要な情報を含んでいて,その群の分解を可能にする.
$$G'=G^{ \ast } \cup G^{ \ast }g'$$ $$(g' \neq 1')$$ 

つまり,対称演算と反対称演算の剰余類を類別して,反対称群の2色ステレオ投影が作れる.
表15には,58の群G′が直積$$( \otimes )$$,半直積$$( \oslash )$$,条件直積[準積]$$( \odot )$$の型で表現されている:$$G'=G^{ \ast } \cdot B$$,ここで$$B$$は群 $$\overline{1} ′,2′,m′,4′(\textrm{mod}2), \overline{4} ′(\textrm{mod}2)$$.直積のときには,各因子$$G^{ \ast }$$,$$B$$はどちらも他方の自己同型群になっている.いいかえれば,群$$G^{ \ast }$$の対称要素は群$$B$$の対称要素を$$B$$の中へ変換し,群$$B$$の対称要素についても同様である.しかし,半直積のときには,そのような働きは$$B$$だけにある.群$$G'$$に同型な群$$G$$の国際記号は,$$G'$$からダッシュを消せば得られる.図207に,例として,次の群に対する対称要素と非対称図形の同価系の2色ステレオ投影を与える:$$4'mm'-4mm/2m1$$,$$\overline{4}2'm'-\overline{4}2m/\overline{4}11$$,$$\overline{4}'2m-\overline{4}2m/221$$,$$\overline{4}m2'-\overline{4}m2/2m1$$.どの場合でも,2項記号中の群$$G^{ \ast }$$は,群$$G$$の方位をもっている.すなわち,群$$G'$$で対応する方位に,反対称軸や反対称平面の法線がある場合は,記号$$G^{ \ast }$$のその場所には1と書く.群の投影では,古典対称要素を黒で,反対称要素を赤で標示する.ここでは,反対称の演算は,図形の幾何学的変換と4面体の黒から赤(あるいはその逆)への塗り変えになる.
この例に倣い,古典群のステレオ投影(図69)を利用して,古典部分群$$G^{\ast}$$の 対称記号を黒く,残りの要素を赤く塗り分けることにより,反対称群の2色投影を作ることは,読者にとって良い練習となる.反対称群すべての2色投影と2項記号は,モノグラフ《Shubnikov群》(Koptsik,1966)に導かれている.このモノグラフは,これらの群の物理的応用に関連した群論的記述も含んでいる.
この節で作られた反対称群は,形而下の2色図形(またはこれらを取り囲んでいる3次元2色空間)の対称特性を記述する.この空間の点に記入されている超幾何学的な特性は,2つの値だけ取る色や任意の関数などで抽象的に表現される.一般点にあれば,その点は1つの色が確定するが,特殊点にあれば,その点の対称に従い2つの色が与えられる.もう一つの解釈(p197)は,これらの群を,超幾何学的座標(記号の上添え字)が,ただ2つの固定値$$ \pm x_{4}$$をとる非一様な4次元空間の対称群 $$G_{3,0}^{1}$$と考えることである.一様な4次元空間では,対称点群の数は58( $$G_{3,0}^{1}$$)でなくて227($$G_{4,0}$$ )となる(章末の文献を見よ).

結晶学用語集(3)ー空間群の拡張ー

20. ヘルマン=モーガンの記号 [Hemann-Mauguin notation: символы Германа — Могена]
 結晶の点群,空間群,ならびにそれらに含まれる対称要素の記述に用いられる記号. 点群の対称要素は次のように記される.回転軸;回反軸は,その次数に応じて,$$1,2,3,4,6$$; $$\bar{1},\bar{3},\bar{4},\bar{6}$$と記される. ただし,回反軸$$\bar{2}$$は鏡映面になるので$$m$$と記される.また,$$\bar{1}$$は対称心と呼ばれる. さらに,上記の対称要素のうちのただ一つから生成される点群にもその生成元と同一の記号が用いられる.複数の対称要素の組み合わせにより生成される点群の記述は,生成元となった対称要素を列記して行なうのが基本方針であるが,わかり易くするために生成元以外の対称要素を付け加えることがある.回転軸$$n$$ に対し垂直な鏡映面$$m$$がある場合は$$n/m$$,回転軸$$n$$を含む鏡映面$$m$$がある場合は$$nm$$と記される. また,主軸となる回転軸を第1項に,これに直交する副軸を第2項に記す. これら2本の回転軸により生成される対称軸が新たな類を作るなら,これを第3項に記す. 例えば,点群$$222$$の第1項は$$c$$軸方向の2回軸,第2項は$$a$$軸方向の2回軸,第3項はこれらから生成された$$b$$軸方向の2回軸である.点群$$422$$も同様で,第1項は$$c$$軸方向の主軸,第2項は$$a$$軸方向の2回軸,第3項はこれから生成された$$\left[ 1,1,0 \right] $$方向に生じた2回軸である.点群$$32$$では,$$c$$軸方向の主軸とこれに直交する副軸としての2回軸が示されているが,これらから生成される3本の2回軸は,すべて副軸と同一の類に属するので,第3項は記入しないのである.点群$$4/m2/m2/m$$の例では,各回転軸に垂直な鏡映面が存在することが示されている(この点群は簡単に$$4/mmm$$と書かれることが多 い).立方晶系の点群の表示では,第1項と第2項の対称要素は互いに直交していないこ とに注意せよ. 空間群の記述では,空間格子の型を点群記号の前に表示する. また,空間群では,点群要素中の回転軸や鏡映面をらせん軸や映進面に拡張したものも現れる.例えば,空間群$$P2_{1}/c$$は,$$P$$格子をもち,2回らせん軸とそれに垂直な$$C$$映進面が存在す ることを表示している.

21. シェンフリースの記号[Schoenflies' symbols: символы Шёнфлиса]
  結晶の点群,空間群,それらの対称要素の記述に用いられる記号. 結晶点群の記述は次のように行なう. 
(1) $$n$$回軸のみにより生成される巡回群を$$C_{n}$$と記す.
(2) 主軸の$n$回軸と,これと直交する2回軸の副軸とにより生成される4元群$$D_{2}$$2は$$V$$と記されることもある.
(3 ) 正4面体群を$$T$$,正8面体群を$$O$$と記す .
(4) 対称心を有する群には,添え字$$i$$をつけ$$C_{ni}, D_{ni}$$などと記す.特に,対称心の みから生成される反転群は$$C_{1i}$$ではなく$$C_{i}$$と記す.
(5) 主軸と直交する鏡映面を有す る群は$$h$$ (horizontalの意)を添えて$$C_{nh} , D_{nh}$$などと記す.特に,鏡映面のみから生成される点群は$$C_{s}$$と記す.
(6 ) 主軸を含む鏡映面を有する群は$$v$$ (verticalの意)を添えて$$C_{nv}$$と記す.
(7) 主軸と副軸を含む鏡映面を有する群は$$D_{nv}$$,主軸を含みかつ副軸間を2等分するような鏡映面を有するものは$$d$$(diagonalの意)を添えて$$D_{nd}$$と記す.
(8 ) 4回回映軸を有する群は$$S_{4}$$と記す.
(1)~(8 )の規則に従って結晶点群を記すと重複するものがでてくる.例えば,対称心を含む群にうち$$C_{2i}=C_{2h}$$,$$C_{4i}=C_{4h}$$,$$C_{6i}=C_{6h}$$,$$D_{2i}=D_{2v}$$,$$D_{3i}=D_{3d}$$,$$D_{4i}=D_{4v}$$,$$D_{6i}=D_{6v}$$,となるので,$$i$$を添えて記述するものは$$C_{i}$$と$$C_{3i}$$だけで他は使われない.結晶点群ではないが,分子の対称性で 重要な点群に$$C_{ \infty v} , C_{ \infty h}$$などがある. 
  空間群の記述では,同一の点群から導かれた空間群は,その点群の右肩に番号を付け区別する.例えば,$$O_{h}^{1} , O_{h}^{2} , \cdots , O_{h}^{10}$$などである. Schoenfliesの記号は点群の記述 としては簡明であるので,分子の対称性や分光学などでは広く用いられている. しかし,空間群の記述としては十分な情報が得られないため,結晶学ではヘルマン=モーガンの記号から発展した国際記号が広く用いられている. 

22. 回転群 [rotation group: группа вращений]
  1点のまわりの回転操作の全体が作る群.これは,運動群の部分群でもある.1点のまわりの回転は直交行列$$A$$で表現される. 3次の直交行列全体の集合は直交群$$O_{3}$$をなしている.純粋な回転は,$$\left| \begin{array}{@{\,} c @{\, } }A\end{array} \right| =+1$$なる直交行列$$A$$で表現され,反転や鏡映は,$$\left| \begin{array}{@{\,} c @{\, } }A
\end{array} \right| =-1$$なる直交行列$$A$$で表現される.普通,回転群と呼ばれるものは,純粋回転のみからなり,反転や鏡映も含めたものは広義の回転群と呼ばれる.結晶点群や正多面体群(プラ トンの正多面体=正4, 6, 8,12, 20面体での合同変換群)は,広義の回転群の離散な部分群である.

23. 点群 [point group: точечная группа]
 結晶点群[crystallographic point group: кристаллографическая точечная группа]
  空間群の一点を不動にするような対称操作の組み合わせが作る群である.空間の一点 が不動となるためには,全ての回転軸はこの点で交差する必要がある. さらに,回転軸が鏡映面をよぎる場合も交点はこの不動点でなければならない.空間群は無限に繰り返される周期構造での対称操作の組み合わせが作る群であるので,空間群には並進操作が存在するが,点群には並進操作はない. 点群は分子などの有限図形の対称性の記述に用いられる.点群では$$ \infty $$次までのすべての次数の回転軸が存在し得る. たとえば,プラトンの正多面 体の1つ正20面体を記述する点群では5回軸が現れる. しかし,結晶のように空間に周期をもつ構造で許される回転軸の次数は,1,2 , 3 , 4, 6に限られる. 準結晶には巨視的な5回対称軸など現れるが,準結晶(ペンローズの空間タイリング)は,正則ではあるが,周期 的な構造ではない.回転軸にこのような制限を設けて得た点群は,結晶点群といわれ32種 (3次元空間で)存在する.空間群$$\mit\Phi $$中の並進群$$T$$は,正規部分群であるので,商群$$\mit\Phi /T$$ が作れるが,これは結晶点群$$G$$と同型になる.点群はHermann-Mauguinの記号か ら発達した国際記号や,Schoenfliesの記号で記述される. 
  結晶点群での対称操作は幾何学的空間での変換であるが,幾何学的変換と同時に図形の超幾何学的性質(例えば“色”)をも変換するような対称操作を導入すると,黒白結晶点群,色付結晶点群などが得られる. これらに対して,結晶点群のことを,特に,古典結晶点群ということがある.

24. クリプト•シンメトリー[crypto-symetry: xpiOTOcniteTpiii]
  crypto-というのは“隠れた”という意味の接頭語で,幾何学的空間には現れない図形の超幾何学的性質("色''と呼ぶことにする)の対称性まで含めたものをクリプト・ シンンメ トリーという.結晶構造の対称性を記述する空間群は幾何学的空間の対称操作が作る群である.結晶構造のもつ超幾何学的性質(スピン座標等で,それらを代表して”色”と呼んでいる)の変換も幾何学的変換と同時に行なうような,拡張された対称操作は, 一般化された空間群[ザモルザエフ群,黒白空間群,色付空間群]を与える.

25. 色付空間群[colored-symmetry space groups:npocrpaicTBeHiHe rpynis UBRTHQ頁 cineTpis, SenoBciHe rpynnw]

  結晶構造のように空間に周期をもつ構造の対称性は,空間群の一つ$$\mit\Phi $$で記述される. 結晶空間の各点に一つの超幾何学的な性質(これを''色’'と呼んでいる)を付加し,幾何学的変換(空間群の対称操作)と同時にその空間の超幾何学的な性質をも変換するような 一般化された対称操作,$$g^{(\varepsilon )}=\varepsilon \cdot g=g \cdot \varepsilon $$を導入する. ここで,$$g$$は空間群の対称操作,$$\varepsilon $$は性質空間にのみ作用する変換である.このような一般化された対称操作が作る群を色付空間群という. 結晶空間の各点に付加する性質のとり得る状態の数は$$P$$で記す. 特に,$$P=2$$(例えば,結晶空間に$$+, -$$の符号を付加する)のときには,黒白空間群(シュブニコフ群)と呼ばれる. 一般に,$$P$$色の色付空間群(ベーロフ群)は次のようにして得ら れる. 色付空間群の一つ$$ \textsl{Б}^{(P)}$$で記述される構造は,もし,色の区別ができないフィルタ ーを通して見るとすれば,何らかの空間群で記述されるべきである.これは,と同 型な$$\mit\Phi $$が存在するということである.次に,$$ \textsl{Б}^{(P)}$$中の色を変えない対称操作の集合$$A$$は,$$ \textsl{Б}^{(P)}$$,$$\mit\Phi $$の共通の部分群で,かつ正規部分群($$A$$の指数は$$P$$である)でなければならな い. ここで,商群$$\mit\Phi /A \cong \left\{ 1, g_{2}, \cdots , g_{P} \right\} =G$$が定義されるが,この$$G$$と同型な色置換群$$\left\{ 1, \varepsilon _{2}, \cdots , \varepsilon _{P} \right\} $$を見いだし,$$g$$に結合し,$$\left\{ 1, g_{2}^{(\varepsilon 2)}, \cdots ,g_{P}^{(\varepsilon P)} \right\} =G^{(P)}$$を得て,$$ \textsl{Б}^{(P)}\textsl{/A} \cong G^{(P)}$$となるように,$$A$$を$$G^{(P)}$$により拡大すれば,$$\texttt{\textsl{ } }^{\texttt{\textsl{(P) } } }$$が得 られる. こうして,与えられた空間群$$\mit\Phi $$と同型な色付空間群$$\texttt{\textsl{ } }^{\texttt{\textsl{(P) } } }$$はすべて導くことがで きる.

26.  反対称 [antisynetiry: ainciioieTpiff]
  反対称空間というのは,3次元幾何学的空間に,超幾何学的性質(色または符号と呼 ぶ)の2値(黒白:$$+-$$:など)を付与した4次元空間のことである.この空間での対称性は,反対称点群,反対称空間群(WybHHKOB群)で記述される.時間反転の概念はランダウ(/I•エ HaH.aay)により導入され,反対称群はシュブニコフ(A.B. IBybHHKOB)により研究された. 
反対称演算(反恒等演算)$$1'$$というのは,幾何学的空間内での位置を変えずに色だ け反転する演算である. 幾何学的空間内での変換$$g$$の位数が偶数のときには,変換$$g$$と同 時に色の反転$$1'$$を行なう結合された演算$$g \cdot 1'=1' \cdot g=g'$$が定義でき,黒白群が 得られるが,$$1'$$そのものを対称演算にもつ群は,幾何学的空間内での位置を変えずに色 の反転がおこるので中性群(灰色群)になる. 

27. 結晶群[crystallographic groups: rpiCTajuorpaiqeciHe rpynia]
  空間群の部分群は,すべて結晶群と呼ばれる.空間群自身も,並進を全く含まない結晶点群も結晶群である. この他に,$$n$$次元空間群の結晶群としては,$$k(<n)$$次元の部分空間内にのみ並進周期をもつような結晶群がある. 空間の次元の他に性質空間の次元を追加した一般空間群(クリプト・シンンメトリー)での部分群を指すように拡張することもできる. これらの結晶群の記述には記号$$G_{n}^{t}(l)$$が用いられる. ここで,$$n, t, l$$は,それぞれ,空間の次数,並進ベクトルの張る部分空間の次元,性質空間での反対称の次数である.例えば,$$G^{3}_{3}(0), G_{3}^{2}(0), G_{3}^{1}(0), G_{3}^{0}(0)$$は,それ ぞれ,3次元の空間群,層の対称性,帯の対称性,結晶点群を示す.結局,空間的に何らかの周期をもつた(結晶学的)構造の対称性を記述するということから,これらはすべて結晶群と呼ばれている.図はNeronova(HepoHOBa)(1966)のものに,Wondratshek et.al. (1971)による$$G_{4}^{4}(0)$$の数を追加し修正したもので,結晶群間の相互関係が示され ている.
$${\ttfamily \textrm{\textsl{P } } }$$

28. 4次元空間群 [four-dimensional space groups: {\textless}ieTHpevepHiie npocrpaicTBeHiHe rpyniw] 
  空間的4次元の結晶構造(4次元空間に並進周期をもつ構造)での対称操作が作る群. 高次元における空間群の研究は,1910年BieberbachやFrobeniusが,Hilbertの問題 に関連して,《n次元空間では空間群型は有限種類である》ことを証明して以来,多くの 学者により手がけられ,その一部は導かれていた.最終的な,4次元空間群の全リストは, H. Wondratshek, R. Bulow, J. Neubuser, H. Zassenhaus, H. Brown らにより1973 年 までに導かれた. それによると,4次元の空間群型は,enantiomorph (対掌体)を区別しない立場に立つと,4783種類(3次元の場合は219)あり,enantiomorphを区別する立場 に立つと,4895種類(3次元の場合は230)になる. 4次元空間群の対称操作では,3次元では存在しなかった位数5, 8,10,12などのものも可能となる.

 

(2)⇐続く➡(1)
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※この解説は,物理学辞典/培風館(1984)の著者の分担執筆項目より抜粋編集し,専門技術研修「物性と評価技術(中級)」の講座テキスト(©RICOH CO.,LTD.1993)の付録に用いたものを再録した.

結晶学用語集(2)ー結晶の幾何学的諸量ー

8.  異方性 [anisotropy: aissoTponifl] 
  測定の方位によって,物理的性質が変化するような媒質または場の状態をいう. 結晶構造における原子の配列は,明らかに異方性をもっている. このため結晶で観測される種々の物理現象には異方性を示すものが多い. 例えば,結晶の光学的特性に関係のある誘電率,力学特性に関係のある弾性スティフネス,その他,導電率, 熱膨張率などはテンソル量である.結晶構造の対称性を考慮すると,物理現象を測定する方向を減じることができる. すなわち,結晶点群の位数が$$n$$であれば,測定は全立体角の$$1/n$$を占める対称的に独立な領域のみで行なえば良い. また,結晶構造の対称性から,テンソル中の独立な成分を導くことができる. 

9. 結晶方位 [direction in crystal: HanpaBuenie rpicrajua]
  結晶で観測される物理現象は,その測定方向により変化する. 結晶空間での方位$$\overrightarrow{P}$$は ,結晶軸$$\overrightarrow{a}, \overrightarrow{b}, \overrightarrow{c}$$を座標軸(格子定数$$a_{0}, b_{0}, c_{0}$$が各座標軸の単位)にとり,方位ベクトル$$\overrightarrow{P}$$の成分$$\left[ U, V, W \right]$$で記述される: $$\overrightarrow{P}=U\overrightarrow{a}+V\overrightarrow{b}+W\overrightarrow{c}$$. 結晶構造の点群の対称操作を$$\overrightarrow{P}$$に作用さ せて生じた$$\overrightarrow{P}$$と同価な方位を,まとめて表示するためには$$<U, V, W>$$とする.結晶面 $$\left( h, k, l \right) $$に垂直な方位は,逆格子ベクトル$$\overrightarrow{a}*, \overrightarrow{b}*, \overrightarrow{c}*$$を用い$$h\overrightarrow{a}*+k\overrightarrow{b}*+l\overrightarrow{c}*$$とすると簡単に表示できる. 
単結晶の方位の決定には,X線回折,光軸の測定,蝕像などの手段がある.

10. 格子面(格子網面)[lattice plane, net plane: mocrocTH ysnosiie]
  結晶は3次元空間に周期をもち,原子・分子が規則正しく繰り返す内部構造をしてい る. 結晶のこのような内部構造の周期性は,代数的には並進群(幾何学的には空間格子) として表現される. 一直線上にない任意の3格子点$$A_{0}, B_{0}, C_{0}$$を含む平面を考えると,この平面にはベクトル 
$$\overrightarrow{a}_{1}=A_{0} \to A_{1}, \overrightarrow{a}_{2}=A_{0} \to A_{2}$$の1次結合で生成される無数の格子点$$n\overrightarrow{a}_{1}+m\overrightarrow{a}_{2}$$($$n, m$$は整数)が含まれている. このような平面を格子面(あるいは、格子網面)という. 格子面は結晶面と同様にミラー(Miller)指数$$\left( h, k, l \right) $$で表示できる. 結晶の内部構造の周期性により,格子面$$\left( h, k, l \right) $$は結晶内部で無限に繰り返し配列しており,その間隔を格子面$$(h, k, l)$$の面間隔と呼ぶ. 結晶構造の格子点は,無限に繰 り返すこのような格子面の集合上にすべて載ってしまう. 結晶構造中には,さまざまな格子面を考えることができる. 

11. 面間隔 [spacing of lattice planes: MeiiiiocxocTioe paccTOfiHie]
結晶は3次元の周期をもって規則正しく繰り返す内部構造をしている. 従って,結晶面$$\left( h, k, l \right) $$も周期的に繰り返している. $$\left( h, k, l \right) $$面の面間隔とは,この周期のことであり$$d_{\left( h, k, l \right) }$$と記す.
格子定数を$$a_{0}, b_{0}, c_{0}; \alpha , \beta , \gamma $$とすると,
$$1/d_{(h,k,l)}^{2}=\left( h^{2}\sigma _{11}+k^{2}\sigma _{22}+l^{2}\sigma _{33}+kl\sigma _{23}+lh\sigma _{31}+hk\sigma _{12} \right) /V^{2}$$ となる.
ここで,$$\sigma _{11}=b^{2}c^{2}\textrm{sin}^{2}\alpha , \sigma _{22}=c^{2}a^{2}\textrm{sin}^{2}\beta , \sigma _{33}=a^{2}b^{2}\textrm{sin}^{2}\gamma $$
$$\sigma _{23}=a^{2}bc\left( \textrm{cos}\beta \textrm{cos}\gamma -\textrm{cos}\alpha \right) , \sigma _{31}=ab^{2}c\left( \textrm{cos}\gamma \textrm{cos}\alpha -\textrm{cos}\beta \right) , \sigma _{12}=abc^{2}\left( \textrm{cos}\alpha \textrm{cos}\beta -\textrm{cos}\gamma \right) $$
単位胞の体積: $$V=abc\left( 1-\textrm{cos}^{2}\alpha -\textrm{cos}^{2}\beta -\textrm{cos}^{2}\gamma +2\textrm{cos}\alpha \textrm{cos}\beta \textrm{cos}\gamma \right) ^{1/2}$$
結晶系の対称性が高くなると,これらの関係式は非常に簡単になる.

12. 晶帯 [zone: 30Ha]
2つの結晶面$$\left( h_{1}, k_{1}, l_{1} \right) , \left( h_{2}, k_{2}, l_{2} \right) $$の交線の方向をベクトル$$\left[ U,V,W \right] $$で表示し,これを2つの結晶面が属する晶帯軸の方向という.ただし, 
$$U=\left| \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
k_{1} & l_{1} \\[0mm]
k_{2} & l_{2}
\end{array} \right|$$ , $$V=\left| \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
l_{1} & h_{1} \\[0mm]
l_{2} & h_{2}
\end{array} \right|$$ , $$W=\left| \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
h_{1} & k_{1} \\[0mm]
h_{2} & k_{2}
\end{array} \right| $$
で与えられる.同一の方向を晶帯軸に持つような結晶面の集合は同一の晶帯に属している という.

13. 有理指数の法則 
[law of simple rational indices; MKOH pamoiajbiHX uapa・eTpoB, Fani 3acoH]
  結晶を3次元の周期をもって配列した格子点の集合とみると,結晶の外形に現れる面は格子点を通る種々の平面である.そのような面は整数比のミラー指数$$\left( h, k, l \right) $$で記 述する事ができる. 特に結晶の外形によく現れる面は,小さな整数比のミラー指数で表現 できる. これを有理指数の法則,あるいは,アウイ(Hauy)の法則という. その理由は,格子点密度の大きな面ほど現れやすいことにある.

14. 結晶形 [crystal foms; ipocTHe]
  自由な空間内で,液相や気相から成長した結晶は,平坦な結晶面で囲まれ,多面体の形をとる. 実際の結晶では,同価な結晶面とはいえ,発達の程度がさまざまで晶癖がある. しかし,全く等方的な環境で成長が行なわれるならば,同価な結晶面はすべて同じ大き さに発達するはずである. 実際の結晶は単一の同価面ばかりで囲まれているわけではなく,何種類かの同価面が組み合わさってできており(同価面どうしは同じ大きさ),これを理想形という.
  結晶の外形には内部構造の対称性が反映されているはずである. 点群の対称操作を,結晶の$$\left( h, k, l \right) $$面に作用させ,得られた同価な面の集合$$\left\{ h, k, l \right\} $$により囲ま れる多面体を結晶形という. 結晶形は理想形とはことなり一種類の同価面でできている. 結晶形は完面像,半面像,等々,全部で4 7種ある.

15. 完面像 [holohedry: rojioanpo]
  各結晶系で最も対称性の高い(最高位数の)結晶点群は格子の対称性を示す点群でもある. このような点群を完面像という. このような点群を結晶の$$\left( h, k, l \right) $$面に作用させ,得られた同価面$$\left\{ h, k, l \right\} $$の数は,$$\left( h, k, l \right) $$が一般面である場合に は,点群の位数に等しい. そのような数の同価面で囲まれた結晶形が完面像である.
もし$$\left( h, k, l \right) $$面が一般面でなく,点群中のある対称操作の特殊点(対称操作で不変となる位置)にあれば,生じる同価面の数は半減し,半面像,四半面像などが得られる.

16. 晶癖 [crystal habit: pas Bine]
  完全に等方的な環境で成長した結晶では,同価な結晶面はすべて同じ大きさに発達す るはずである. しかし,実際の環境では,特定の結晶面だけが大きく発達した偏倚結晶が生じることが多い. このような偏倚結晶は晶癖があるといわれる. 三角平板状のダイヤモ ンド結晶,ひげ結晶などはその例である. 
  同価な結晶面は同じ大きさに発達しているのだが,現れる結晶面の組み合わせが変化 したために生じた外形の違いは晶相の変化という. ダイヤモンド結晶に正8面体や正6面体の外形のものがあるなどがこの例である.晶相の変化の原因は,結晶の成長温度や成長過程にある.

17.  軸率 [axial retio :zoTHoneaie oceBia eninm]
  結晶の格子定数$$a_{0}, b_{0}, c_{0}\left[ \mbox{\AA} \right] $$の絶対測定がX線回折により可能となる以前は 相対比$a_{0}:b_{0}:c_{0}$が推定できるのみであった.斜方晶系などでは$b_{0}$が最大の格子定数であるから,これで規格化した$$a_{0}/b_{0}:1:c_{0}/b_{0}$$を軸率と呼んでいる. 結晶の形態の対称性,および,大きく発達している結晶面は低指数の面であるというBravaisの法則等 を考慮し,結晶面に面指数をつじつまの合うように配当する. こうして,X線回折を用いずに,ほぼ正確な軸率$$a_{0}/b_{0}:1:c_{0}/b_{0}$$,および,結晶軸間の角度$$\alpha , \beta , \gamma $$を推定することができた. 

18. 面角一定の法則(面角不変の法則)
[law oftheconstancyofinterfacialangles:ョaxon iDCTOflicTBa " KPICTSJUIOB]
  ニコラス・ステノ(Nicolaus Steno: Niels Stensen,1699)は,さまざまな産地の水晶の形態を研究し, 面の発達の様相は個体ごとに違うが,対応する面どうしのなす角は,常に一定であること を発見した.その後,Rome Delisle ( Rone de 1'Isle,1772)により,この法則は,他の鉱物結晶でも成り立っている一般的な法則であることが見いだされ,面角一定の法則と呼 ばれている.

19. 結晶面 [crystal face: rpaub EpKCTama]
  自由な空間内で成長した結晶は,平坦な面で囲まれた多面体の外形をしている.これ らの面を結晶面という.結晶面の記述にはミラー指数が用いられ,面角一定の法則,有理 指数の法則などが成り立ことが古くから知られている. ときおり微斜面という高指数が付 けられる小さな結晶面が見られるが,これは成長丘の側面である.その他,結晶面には條線などが観察されることがある.結晶面の微細構造は結晶成長機構の方面から興味が持たれている.位相差顕微鏡や多重光束干渉法などを用いると,気相や液相から成長した結晶の結晶面には,渦巻成長層が観察される.また,結晶の方位の決定のために結晶面に生じ た蝕像の対称性を利用することもある. 

 

(1)⇐続く➡(3)

結晶学用語集(1)ー結晶空間群早わかりー

1.空間群[space groups: Пространственные (федоровские) группы]
  結晶構造における対称操作の集合が作る群を空間群という. 3次元の空間群が230 種類あることは,1880年代に,フェドロフ,シェンフリーズ,バーロー(Fedorov, Schoenfles, Barlow)らにより,それぞれ独立に導かれた. 
空間群$$\mit\Phi $$には,並進群$$T$$ [並進操作の集合が作る群: ねじれのないアーベル(Abel)群]が, 正規部分群[$$T \vartriangleleft \mit\Phi $$]として必ず含まれている. 従って,商群$$\mit\Phi /T$$が存在し,これは 結晶点群の一つ$$G$$と同型(isomorphism)[$$\mit\Phi /T \cong G$$]になる. つまり,空間群$$\mit\Phi $$は, 並進群$$T$$を,結晶点群$$G$$ [または,$$G$$中の回転軸,鏡映面の一部あるいは全部を,それぞれ,らせん軸,映進面でおきかえて得た$$G$$と同型な群$$G^{T}(\textrm{mod}T)$$]により,拡大して得られる.らせん軸や映進面を全く含まぬ点群$$G$$で拡大して得た空間群は,共型(symmorphic)群といわれ7 3種類, らせん軸や映進面を含む群$$G^{T}(\textrm{mod}T)$$により拡大 て得られた空間群は,非共型(nonsymmorphic)群といわれ15 7種類ある.
空間群の対称操作の記述には,ザイツ(Seitz)演算子$$\left[ A|t \right] $$が用いられる. これによると ,位置ベクトル$$r$$に対称操作$$\left[ A|t \right] $$を作用させた結果は,$$\left[ A|t \right] r=Ar+t$$と定義される.
空間群の記述には,ヘルマン=モーガン(Hermann=Mauguin)の記号から発展した国際記号が広く用いられて いる.

2.結晶系[syngonies, crystal system: сингонии, кристаллические системы]
  結晶構造の対称性は,230種の空間群のうちの一つで記述できる. 結晶構造の特徴 は,3次元空間の周期性(=結晶空間)にあるのだから,どの空間群にも並進群が部分群(正確には正規部分群)として含まれている. この並進群の具体化(幾何学的表現)が結晶格子である. 結晶格子を,格子点のまわりの対称性(点群)で分類すると,$$\bar{1}$$(三斜格子), $$2/m$$(単斜格子), $$mmm$$(斜方格子), $$4/mmm$$(正方格子), $$\bar{3}m$$(三方格子 ), $$6/mmm$$(六方格子), $$m3m$$(立方格子)の7種になる.
一般に,結晶構造の点群は,その結晶構造がもつ結晶格子の点群よりも高い対称性をもつことはない. 従って,結晶構造の対称性を記述する32種の結晶点群を,その結晶点群が部分群として含まれるような格子の点群のうちの位数が最小なものに帰属させることができる. このような分類が結晶系である. 各結晶系で最も対称性の高い点群は,格子の点群で,これは完面像[holohedry, ]である. 7つの晶系の名称は,格子の名称と同じで,(表1)に各晶系に属する結晶点群をリストアップしておく.
  各結晶系の結晶軸$$a, b, c$$のとり方は,単位胞の3本の稜の方向で,格子定数$$a_{0}, b_{0}, c_{0}; \alpha , \beta , \gamma $$と(表2)の関係にある.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              (表1)                       (表2)

 

3.ブラベー格子[Bravais lattices : Решетки Бравэ]
  結晶は3次元空間に周期をもって規則正しく繰り返される内部構造を特徴とする. 従 って,結晶構造を自分自身に重ね合せる(合同変換)対称操作には並進操作があり,これらは並進群を作る.並進群に従って,代表点(“格子点”となるモチーフ)を配列させて得られる並進群の具体化は結晶格子と呼ばれる. 結晶のすべての並進群は,抽象群の立場からは同 型であるが,得られた結晶格子の空間的な対称性(空間群)で分類すると,3次元の結晶格子は14の異なる型になることがブラベー(Bravais) (1849)により導かれた. これをBravais格子という. 格子点における点群を調べると,14種のBravais格子は,$$\bar{1}, 2/m, mmm, 4/mmm, 3m, 6/mmm, m3m$$の7種の点群に帰属できる. これらは ,三斜,単斜,斜方, 正方, 三方, 六方, 立方の各格子に対応する. 単位胞中に一つの 格子点を含むものは$$P$$(単純)格子, 複数の格子点を含むものは複合格子といい,$$I$$(体心)格子, $$F$$(面心)格子, $$C, A, B$$(底面心)格子, および,$$R_{\textrm{hex } }$$:(六方から導い た菱面体)格子がある. 14のBravais格子 の内訳を図示する. 
図挿入

3.1. 体心格子[body-centered lattice: решетка объемно-центрированная ] 
  結晶格子(空間格子)の一つ. 斜方, 正方, 立方のブラベー格子に存在する複合格子.単位胞となる平行6面体の各頂点の他に,その中心にも格子点が存在するもの. 記号は$I$で示す. 単斜格子での体心格子は底面心格子と見なすことができる. 

3.2. 底面心格子[base-centered lattice: решетка базоцентрированная ]
  結晶格子(空間格子)の一つ. 単斜, 斜方のブラベー格子に存在する複合格子. 単位胞となる平行6面体の各頂点の他に,向かい合った一組の面の中心にも格子点が存在する もの. 格子点を追加した面を重ね合わせる並進方向が$$a$$軸のものを$$A$$面心, $$b$$軸のものを$$B$$面心, $$c$$軸のものを$$C$$面心という.

3.3. 面心格子[face-centered lattice: решетка гранецентрированная]
  結晶格子(空間格子)の一つ. 斜方, 立方のブラベー格子に存在する複合格子. 単位胞となる平行6面体の各頂点の他に,それぞれの面の中心にも格子点が存在するもの. 記 号は$$F$$で示す.

3. 4. 単純格子[primitive lattice: решетка примитивная]
  結晶格子(空間格子)の一つ. 複合格子(体心, 面心, 底面心)に対立する用語. 平行6面体の頂点のみに格子点を持つようにとったブラベー格子. どの晶系にも単純格子が一つづつ存在する.ただし,三方晶系では,単純格子$$R$$を用いずに,六方晶系の単純格子に2つの格子点を追加した複合格子$$R_{\textrm{hex } }$$を用いることが多い. その他の単純格子は$$P$$で示される.
  格子の対称性が一目でわかるように,ブラベー格子では複合格子がいくつか用いられているが,複合格子は,適当な平行6面体を採用すれば,すべて単純格子に直すことができる(格子の定義から明らか).

4.実格子[lattice in realspace: решетка пространственная (кристаллическая) ]
  結晶は3次元空間に周期をもつ構造である. 各周期を表す互いに独立な3本の並進べ クトル$$a_{1}, a_{2}, a_{3}$$は並進群を生成する. 代表点をこの並進群に従い分布させると結晶 格子(空間格子)が得られる. 結晶空間(実空間)とそのフーリエ(Fourier)変換である逆空間は, 互いに双対な空間であるので,逆格子に対する概念として結晶格子をとらえ,実格子と呼ぶことがある. 

5.ラウエ群[Laue groups: Группы Лауэ, лауэвские классы ]
  単結晶のX線回折強度像の対称性を表わす点群のことである. ピエール・キューリー(Pierre Curie)の原理(あるいは,NMC原理)として知られる因果律によると,「結晶で観測される物理現象の対称性(結果 )には,その舞台となる結晶構造の対称性(原因)がすべて反映されるはずである」. 従って,結晶構造の点群を$$G_{\textrm{cryst } }$$,この結晶によるX線回折強度像の点群を$$G_{\textrm{X } }$$とすると,$$G_{\textrm{cryst } } \subseteq G_{\textrm{X } }$$とな る. これは,結晶構造に存在しない対称要素でも,その結晶のX線回折強度像の対称性に出現することがあることを示している. 実際,結晶構造が特別な条件を満たせば,X線回折強度対称が,上昇することが知られている. しかし,どのような結晶構造であろうとも,異常分散がない限り,X線回折強度像の対称性には,必ず$$\bar{1}$$ (対称心)が存在することは,フリーデル(Friedel)則として知られているから, X線回折強度像の対称性は,結晶点群のうち$$\bar{1}$$を部分群として含む11の点群
$$\bar{1}, 2/m, mmm, 4/m, 4/mmm, \bar{3}, \bar{3}m, 6/m, 6/mmm, m\bar{3}, m\bar{3}m$$のどれかに限られる.これらをLaue群という. ある結晶によるX線回折強度像の対称性が,Laue群$$G_{\textrm{X } }$$であれば,その結晶の構造は$$G_{\textrm{X } }$$の部分群であるはずである.

6. 単位胞[unit cell:элементарная ячейка]
  結晶は,ある構造単位が3次元空間に周期をもって繰り返す構造をしている. こ の構造単位(内部の原子分布まで含めて)を単位胞という. 単位胞の形は,その結晶構造 のプラベー格子に対応した平行6面体である. プラベー格子に複合格子があるので,単位胞は必ずしも結晶構造中の最小の繰り返し単位とは限らない. 

6.1. 格子定数[lattice constants, cell dinensions: константы решетки, параметры единичные ]
  結晶構造の単位胞の寸法(ブラベー格子の寸法)を記述する数値の組. 三斜晶系の単位胞の寸法を記述するには,平行6面体の3つの稜の長さ$$a_{0}, b_{0}, c_{0} [Å] $$,および ,それらの稜のなす角度$$\alpha , \beta , \gamma $$の独立な6つのパラメータが必要である. ブラベー格子の対称性が高くなると,記述に必要なパラメータの数は少くなくなり,立方晶系では$$a_{0}[Å] $$のみとなる.

7.対称要素[symetry elements: элементы симметрии ]
  点群や空間群の要素となっている個々の対称操作のこと. ただし,ある物体の対称操作とは その物体を自分自身に重ね合わせる合同変換のことである. 結晶点群の対称要素には,回転軸, 鏡映面, 回映軸, 回反軸, 対称心がある.空間群になると並進があるので,この他に,らせん軸, 映進面が加わる.
対称要素の記述には,ヘルマン=モーガン(Hermann = Mauguin)の記号が用いられる.また,図面中に対称の要素を記入するには,定められたシンボルをもちいるが,詳細は,International Tableに掲載されている. 

7.1. らせん軸[screw axis: винтовая ось ]
  一つの軸のまわりの回転$$C$$と,その軸に沿っての並進$$\tau $$を連続して行なう空間群の対 称操作.回転とその回転軸方向の並進はどちらを先に行なっても結果は同じである.ザイツ(Seitz)記号で表すと$$\left[ C|\tau \right] $$. 回転操作$$C$$の位数を$$n, \left( C^{n}=1 \right) $$とすると,$$\left[ C|\tau \right] ^{n}=\left[ 1|n\tau \right] $$であるので,らせん軸が空間群の対称操作であるためには,$$n\tau $$が回転軸方向の基本並進$$T$$の整数倍となる必要がある. このため,$$\tau =\left( m/n \right) T $$ [$$m$$は,$$m<n$$なる自然数]という制限が生じる. $$n$$回回転操作から生じるものを$$n$$回ら せん軸と呼び,$$n_{m}$$と記す.例えば,$$3$$回回転軸(位数3)からは,$$3_{1}, 3_{2}$$らせん軸が生じる.

7.2. 回映軸[mirror-rotation axis: ось зеркального вращения]
点群,および空間群の対称操作の一つ. ある直線のまわりの回転とその直線に垂直な 平面での鏡映とを引続き行なう対称操作. このとき,回転成分の軸となる直線が回映軸である. 回映軸は回転成分が$$360 ^\circ /n$$のとき,Hermann = Mauguinの記号で,$$\tilde{n}$$と記す.
結晶構造で許される回映軸は,$$\tilde{1},\tilde{2},\tilde{3},\tilde{4},\tilde{6}$$であるが,それぞれの回映軸が 生成する巡回群(生成元となった回映軸と同じ記号を用いる)を調べると,$$\tilde{1}=m, \tilde{2}=\bar{1}, \tilde{3}=3 \otimes m, \tilde{6}=3 \otimes \bar{1}$$となり,回映群$$\tilde{4}$$以外のものは,他の対称操作により生成する巡回群やそれ らの直積に分解できる. 従って,$$\tilde{4}$$だけが回映軸として独立なものである. 

7.3. 回反軸[roto-inversion axis: рото-инверсионная ось]
  点群,および空間群の対称操作の一つ. ある直線のまわりの回転とその直線上にある 一点での反転とを引続き行なう対称操作. このとき,回転成分に関する直線を回反軸とい う. 回反軸は回転成分が$$360 ^\circ /n$$のとき,Hermann = Mauguinの記号で,$$\bar{n}$$と記される.
  結晶構造で許される回反軸は,$$\bar{1}, \bar{2}, \bar{3}, \bar{4}, \bar{6}$$であるが,それぞれの回反軸が 生成する巡回群(生成元となった回反軸と同一の記号が用いられる)を調べると,$$\bar{2}=m, \bar{3}=3 \otimes \bar{1}, \bar{6}=3 \otimes m$$となり,他の対称要素により生成される巡回群やそれらの直積に分解される.また,$$\bar{1}$$は対称心そのものである.回反軸として独立なものは,$$\bar{4}$$のみであるが,回反軸$$\bar{4}$$が生成した巡回群と,回映軸$$\tilde{4}$$が生成した巡回群は同一になる.


7.4. 映進面 [glide-reflection plane:плоскость скольжения-отражения ]
  空間群で存在する対称操作の一つ. 平面での鏡映$$m$$と,その平面内の特定な方向(周 期$$\tau $$)に沿って$$\tau /2$$だけの並進を続けて行なう対称操作. この平面を映進面という. また,映進演算は$$\left[ m|\tau /2 \right] $$で表される. 結晶格子を生成する並進ベクトルを$$a, b, c$$とすると,$$a/2$$の並進成分をもつ映進面を$$a$$映進面; $$\left( a+b \right) /2$$や$$\left( a+b+c \right) /2$$などの並進成分をもつ映進面を$$n$$映進面; $$\left( a+b \right) /4$$や$$\left( a+b+c \right) /4$$などの並進成分をもつ映進面を$$d$$映進面という. 単純格子では,$$a, b, c$$,および$$n$$映進面のみが可能で あるが,面心格子や体心格子では,$$d$$映進面も可能になる.

7.5. 並進対称 [translational symmetry: симметрия трансляции]
  空間内のある一定の方向に,周期的に同一の基本構造が繰り返し配列しているような 状態. そのような周期をベクトル$$a$$で表示すると,並進対称をもつ構造$$F\left( r \right) $$では, $$F(n-na)=F(r)$$,($$n$$は整数)が成り立つ. あるいは,基本構造を$$A(r)$$とす ると,
$$F(r)=\displaystyle \int_{- \infty }^{ + \infty }A(r-r')\displaystyle \sum_{n=- \infty }^{ + \infty }\delta (r'-na)dV_{r'}$$  ただし,$$\delta \left( r'-na \right) $$はデルタ関数
と表す事のできる構造$$F(r)$$は,周期$$a$$の並進対称をもつ. 1次元の周期をもつ構造は ,列(array) , 2次元の周期をもつ構造は網(net) , 3次元の周期をもつ構造は格子( lattice)と呼ばれる. 結晶中の3次元の周期は,結晶格子を作る. 

7.6. 鏡映面 [mirror plane: зеркальная плоскость ]
  点群,および空間群に存在する対称操作の一つ. 物体と鏡に写った像の関係にあ る状態が鏡映対称であり,その鏡を鏡映面という. 鏡映面は,Hermann-Mauguinの記号で は$$m$$と表示される. 
$$\left[ m_{x}|0 \right] $$は,$$x$$の符号を変える鏡映面($$x$$軸に垂直な平面)である.

7.7. 対称心 [center of symmetry, inversion: инверсия]
  点群,空間群における合同変換(対称操作)の一つ. 構造内の分布状態を$$F(r)$$と し,$$F(-r)=F(r)$$が成り立つように位置ベクトルの原点がとれるならば,この原点を対称心(対称中心)といい$$\bar{1}$$で示す. 対称心が存在するような構造を点対称という. 

7.8. 回転対称軸 [rotation axis: ось вращения ]
  点群,および空間群の対称操作の一つ. ある直線のまわりに$$360 ^\circ /n$$だけ構造全体を回転しても,始めの状態と完全に合同になる場合に,この構造には$$n$$回回転対称軸($$n$$回回転軸,または単に$$n$$回軸)が存在するという. このような直線が回転軸である. 結晶構造で可能な回転軸の種類は,$$1$$(恒等変換),$$2$$,$$3$$, $$4$$, $$6$$の各回転軸に限られる.

続く➡(2)

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 ※この結晶学用語集シリーズは,辞典形式の独立項目の集合よりなる.その理由は,「物理学辞典」培風館(1984)の私の分担執筆項目より抜粋し,専門技術研修「物性と評価技術(中級)」の講座テキスト(©RICOH CO.,LTD.1993)の付録に用いたためである.結晶学用語の背景を正確に解説している書物は現時点でもほとんどないため,再度編集し直してここに掲載する.

 

XXkoptsik-ch10-4

  ある共型群で,群$$G$$を$$T$$を法とする群$$G^{T}$$で置き換え,導かれる非共型群$$\mit\Phi _{nsym}=T \bigcirc G^{T}$$は,商群が同一の結晶点群に同型である類縁の群の系列を形成する.$$2/m$$の系列を考察に選ぶとすれば,非共型群$$P2_{1}/m, P2/b, P2_{1}/b$$の剰余類による標準的分解は,次のようになる(ここでは,剰余類が$$P2_{1}$$,等々と標記されている.空間群の場合も同じ標記をしたので混乱しないように注意せよ!) 
$$P2_{1}/m=P1+P2_{1}+P\overline{1} +Pm$$
$$P2/b=P1+P2+P\overline{1} +Pb$$
$$P2_{1}/b=P1+P2_{1}+P\overline{1} +Pb$$
これらの群の並進部分群に関する商群,すなわち$$P2_{1}/m/P,   P2/b/P,   P2_{1}/b/P$$の乗積表

$$ \begin{array}{c|cccc} & P1 & P2_{1} & P\overline{1} & Pm \\[0mm] \hline P1 & P1 & P2_{1} & P\overline{1} & Pm \\[0mm] P2_{1} & P2_{1} & P1 & Pm & P\overline{1} \\[0mm] P\overline{1} & P\overline{1} & Pm & P1 & P2_{1} \\[0mm] Pm & Pm & P\overline{1} & P2_{1} & P1 \end{array} $$ $$ \leftrightarrow $$

$$ \begin{array}{c|cccc} & P1 & P2 & P\overline{1} & Pb \\[0mm] \hline P1 & P1 & P2 & P\overline{1} & Pb \\[0mm] P2 & P2 & P1 & Pb & P\overline{1} \\[0mm] P\overline{1} & P\overline{1} & Pb & P1 & P2 \\[0mm] Pb & Pb & P\overline{1} & P2 & P1 \end{array} \leftrightarrow $$

$$ \begin{array}{c|cccc} & P1 & P2_{1} & P\overline{1} & Pb \\[0mm] \hline P1 & P1 & P2_{1} & P\overline{1} & Pb \\[0mm] P2_{1} & P2_{1} & P1 & Pb & P\overline{1} \\[0mm] P\overline{1} & P\overline{1} & Pb & P1 & P2_{1} \\[0mm] Pb & Pb & P\overline{1} & P2_{1} & P1 \end{array} $$

は,実際に,点群\$$2/m$$の乗積表と同一の構造を持つ.証明には,群$$\mit\Phi $$の標準分解で,固定した単位胞に属する各対称元要素が,剰余類$$Tg_{i}$$の代表元となる演算子$$g_{i}$$に対応していることに注意しよう.共型群$$P2/m$$では,標準のセットは,例えば,点群$$2/m$$の単位胞の左上角(原点とする)を通過する対称要素(元)を含んでいる.非共型群$$P2_{1}/m, P2/b, P2_{1}/b$$では,これらの元は,一般には単一点を通過しないので,できるだけ原点に近いもの(これらの群の投影は,図214ですべての対称元が同一色であれば,それらと同型な色群に一致する)を選ぶと都合が良い.このように,非共型群の分解における,代表元$$g_{j}^{T}$$の選出法を固定し,それらの演算子$$[D_{j}|\alpha _{j}]=[E|\alpha _{j}][D_{j}|0]$$を比較しよう.
共型群$$P2/m$$の標準セットの演算子$$[D_{j}|0]$$に一致するようにこれらの"基底"演算子の直交部分$$[D_{j}|0]$$を選ぶ.言い換えると,非共型群では,実あるいは虚の対称面と軸が,共型群でと同様,非共型胞で同一位置を占めるとし直交変換$$[D_{j}|0]$$を実行するが,引き続き次に,これらを変換$$[E|\alpha _{j}]$$で補う.簡潔に言えば,演算子$$[D_{j}|\alpha _{j}]$$中で記号$$D_{j}$$を$$g_{j}$$で置き換え,展開をあらわな演算子の形式で,剰余類$$Pg_{j}^{T}=\left\{ [E|\tau _{i}] \right\} [D_{j}|\alpha _{j}]$$書ける:
$$P1=P\left[ 1|0 \right] , P2_{1}=P\left[ 2|\displaystyle \frac{c}{2} \right] , P\overline{1}=P\left[ \overline{1}|0 \right] , Pm=P\left[ m|\displaystyle \frac{c}{2} \right]$$  for $$P2_{1}/m$$
$$P1=P\left[ 1|0 \right] , P2=P\left[ 2|\displaystyle \frac{b}{2} \right] , P\overline{1}=P\left[ \overline{1}|0 \right] , Pb=P\left[ m|\displaystyle \frac{b}{2} \right] $$  for $$P2/b$$
$$P1=P\left[ 1|0 \right] , P2_{1}=P\left[ 2|\displaystyle \frac{b+c}{2} \right] , P\overline{1}=P\left[ \overline{1}|0 \right] , Pb=P\left[ m|\displaystyle \frac{b+c}{2} \right] $$   for $$P2_{1}/b$$
ここで,$$a,b,c$$は並進群$$P$$の基底ベクトルを示す. 基底演算子のあらわな形$$[D_{j}|\alpha _{j}]=[E|\alpha _{j}][D_{j}|0]$$は第1系の合同式の法となる係数の特定な集合セット$$[E|\alpha _{j}]$$を作る.(15),(16)を用い,法則(3)による剰余類のクロス積を行うと,
$$P[D_{j}|\alpha _{j}] \cdot P[D_{l}|\alpha _{l}]=P[D_{j}|\alpha _{j}][D_{l}|\alpha _{l}]$$
$$=P[D_{j}D_{l}|D_{j}\alpha _{l}+\alpha _{j}]=P[E|\tau _{jl,n}][D_{n}|\alpha _{n}]$$     (17)
商群の乗積表と,それと同時に合同式の法の第2系$$[E|\tau _{jl,n}]$$の正当性とが納得できる.例えば,2つの剰余類の積$$P2_{1} \cdot Pb$$,これは商群$$P2_{1}/b/P$$の元が,
$$P2_{1} \cdot Pb=P\left[ 2 \mid \displaystyle \frac{b+c}{2} \right] \cdot P\left[ m|\displaystyle \frac{b+c}{2} \right] =P\left[ 2m|\overline{2} \cdot \left( \displaystyle \frac{b+c}{2} \right) +\displaystyle \frac{b+c}{2} \right] $$
$$=P\left[ \overline{1}|\displaystyle \frac{-b+c}{2}+\displaystyle \frac{b+c}{2} \right] =P[\overline{1}|c]=P[1|c][\overline{1}|0]=P\overline{1}$$
などであることを見出す. ここで,$$c$$軸の周りの180°の回転はベクトル$$c$$を保存するがベクトル$$b$$は逆になるので,$$\hat{2} \cdot \left( \left( b+c \right) /2 \right) =\left( -b+c \right) /2$$である.積$$\hat{2}_{1} \cdot b=\left[ \overline{1}|c \right] $$は剰余類の代表系を構成する.
$$\left\{ 1,2_{1},\overline{1},b \right\} =\left\{ \left[0\right] ,\left[ 2|\left(b+c \right) /2 \right] ,\left[ \overline{1}|0\right] ,\left[ m|\left(b+c\right) /2 \right] \right\} $$
演算子の基底セットには属さず,これは(16)のために,係数の系$$\left[ 1|c \right] $$を用い: 
$$ [\overline{1}|c]=\left[ 1|c \right] [\overline{1}|0] \equiv [\overline{1}|0]\left( \textrm{mod}[1|c] \right) $$
しかし,我々の特殊な場合は,$$j=2_{1}, l=b, n=\overline{1}$$
$$[E|\tau _{jl,n}]=[E|\tau _{2_{1}b,\overline{1 } }]=[1|c]$$
同様に,合同式の法の第2の系数を見つけることが出来る.別の表にcongruence合同関係の法$$[E|\tau _{jl,n}]$$の並進部分を書き出すことが出来る.それらに(16)を用い,係数$$2_{1}/b=\left\{ 1,2_{1},\overline{1},b\right\} $$により,群の乗積表を見出し,群$$2_{1}/b$$は群$$2/m$$に同型であることを確認できる.
$$ \begin{array}{c|cccc} \tau _{jl,n} & 1 & 2_{1} & \overline{1} & b\\[0mm] \hline 1 & 0 & 0 & 0 & 0 \\[0mm] 2_{1} & 0 & c & 0 & c \\[0mm] \overline{1} & 0 & -(b+c) & 0 & -(b+c) \\[0mm] b & 0 & b & 0 & b \end{array} $$
$$ \begin{array}{c|cccc} 2_{1}/b & 1 & 2_{1} & \overline{1} & b \\[0mm] \hline 1 & 1 & 2_{1} & \overline{1} & b\\[0mm] 2_{1} & 2_{1} & 1 & b & \overline{1} \\[0mm] \overline{1} & \overline{1} & b & 1 & 2_{1} \\[0mm] b & b & \overline{1} & 2_{1} & 1 \end{array} $$ $$\leftrightarrow$$ $$ \begin{array}{c|cccc} 2/m & 1 & 2 & \overline{1} & m \\[0mm] \hline 1 & 1 & 2 & \overline{1} & m \\[0mm] 2 & 2 & 1 & m & \overline{1} \\[0mm] \overline{1} & \overline{1} & m & 1 & 2 \\[0mm] m & m & \overline{1} & 2 & 1 \end{array} $$
既知の群の合同式の法を見出すことは,それほど困難な課題ではないことがわかるだろう.逆問題―与えられた生成群$$T$$と$$G$$から非共型群を作る-では,種々の可能なバリエーションから一つ選ぶことが要求される.例えば,$$ G=2/m=\left\{1,2,\overline{1},m \right\} $$で,保存される部分群$$ G_{1}^{*}=\left\{1,\overline{1} \right\} $$を固定すると,残りの演算子$$2$$と$$m$$を用いこれらの係数に結び付け$$[E|\alpha ]$$元$$[D|0]$$の位数だけ乗倍すると群$$T$$の最小並進与える.この条件は,ただ3つの非同価結合により満たされ,次のようである: 
$$\left( \left[ 2|\displaystyle \frac{c}{2} \right] ,\left[ m|\displaystyle \frac{c }{2} \right] \right) , \left( \left[ 2|\displaystyle \frac{b }{2} \right] ,\left[ m|\displaystyle \frac{b }{2} \right] \right) , \left( \left[ 2|\displaystyle \frac{b +c} {2} \right] ,\left[ m|\displaystyle \frac{b+c}{2} \right] \right) $$
これらは,それぞれ群$$P2_{1}/m$$, $$P2/b$$, $$P2_{1}/b$$において実現される.
演算子$$[D_{j}|\alpha _{j}]$$のあらわな形は,係数
$$2_{1}/m=\left\{ 1,2_{1},\overline{1},m \right\} $$, $$2/b=\left\{ 1,2,\overline{1},b \right\} $$, $$2_{1}/m=\left\{ 1,2_{1},\overline{1},b \right\} $$


による群の基本セットを確立することを可能にする(図214参照).これらの群と群$$2/m$$間の同型性に基づき,対応する係数の体系$$[E|\tau _{jl,n}]$$を選べる.アナロジーを使って157の非共型空間群のすべてが見出せる.60シリーズ以上に分布している(参照、表12)(230群は73シリーズに属する)*.
任意の1シリーズにある群は,密接な関係があるが,(11の対掌対を除き)互いに同型ではない.これは,積則(15)において,(12)に従って書かれた,第2の系の係数$$[E|\tau _{jl,n}]$$を見いだすことが出来る:
$$\left( [E|\tau _{i}][D_{j}|\alpha_{j}] \right) \bigcirc \left( [E|\tau_{k}][D_{l}|\alpha_{l}] \right) =[E|\tau_{i}][E|\tau_{k}]^{[D_{j}|\alpha _{j}]}[E|\tau_{jl,n}][D_{n}|\alpha_{n}]$$
共型群($$\alpha _{j}=\alpha_{l}=\alpha_{n}=0$$)では,すべての量$$[E|\tau_{jl,n}] \equiv [E|0]$$(参照p.208)であるが;非共型群では,対応する元$$[D_{n}|\alpha_{n}]$$のすべての係数が$$[E|0]$$に変換される訳ではない.それらは,群シリーズごとに異なる.
同じ演算子の還元積の新しい演算を次のように定義する; 
$$[D_{l}|\alpha_{l}^{(i)}][D_{l}|\alpha_{l}^{(j)}]=[D_{l}|\alpha_{l}^{(i)} + \alpha_{l}^{(j)}]$$
$$=[E|\tau_{l}^{(ij,k)}][D_{l}|\alpha_{l}^{(k)}] \equiv [D_{l}|\alpha_{l}^{(k)}]\left( mod[E|\tau_{l}^{(ij,k)}] \right) $$
同一シリーズの任意の2つの非共型空間群$$\mit\Phi_{nsym}^{(i)}, \mit\Phi _{nsym}^{(j)}$$を同一系列の$$\mit\Phi _{nsym}^{(k)}$$に対し:$$\mit\Phi_{nsym}^{(k)}=\mit\Phi _{nsym}^{(i)} \cdot \mit\Phi _{nsym}^{(j)}$$
導入された演算が結合則を満たすことを,自分で調べるのは容易である.演算子の逆元は関係$$[D_{l}|\alpha _{l}]^{-1}=[D_{l}|-\alpha _{l}]$$により定義される;恒等演算は共型シリーズの頭の群$$\mit\Phi _{sym}^{(1)}$$演算子$$[D_{l}|0][D_{l}|\alpha_{l}]=[D_{l}|\alpha_{l}]$$
群$$\mit\Phi_{sym}^{(1)}=T \ominus G$$,$$\mit\Phi _{nsym}^{(2)}=T \bigcirc G^{T}$$などは,群$$G \leftrightarrow G^{T}$$同型な法によるある群の元とみなすことも出来る.例えば,
$$ \begin{array}{c|cccc} & P2/m & P2_{1}/m & P2/b & P2_{1}/b \\[0mm] \hline P2/m & P2/m & P2_{1}/m & P2/b & P2_{1}/b \\[0mm] P2_{1}/m & P2_{1}/m & P2/m & P2_{1}/b & P2/b \\[0mm] P2/b & P2/b & P2_{1}/b & P2/m & P2_{1}/m \\[0mm] P2_{1}/b & P2_{1}/b & P2/b & P2_{1}/m & P2/m \end{array} $$ $$\leftrightarrow$$ $$2/m$$
$$ \begin{array}{c|cccc} & Pmm2 & Pmn2_{1} & Pma2 & Pmn2_{1} \\[0mm] \hline Pmm2 & Pmm2 & Pmc2_{1} & Pma2 & Pmn2_{1} \\[0mm] Pmc2_{1} & Pmc2_{1} & Pmm 2 & Pmc2_{1} & Pma2 \\[0mm] Pma2 & Pma2 & Pmc2_{1} & Pmm2 & Pmc2_{1} \\[0mm] Pmn2_{1} & Pmn2_{1} & Pma2 & Pmc2_{1} & Pmm2 \end{array} $$ $$\leftrightarrow$$ $$2/m $$

1面帯,2面帯,ロッドなどの対称性を記述する1次元空間群や,ネットワークパターン,層などの対称性を記述する2次元空間群も,点群$$G$$あるいはこれに同型な法$$T$$による群$$G^{T}$$で,対応する並進群$$T$$を拡大したものとみなすことができる.対称記号には,群の型を特定できるすべての必要情報$$T, G, G^{T}$$が含まれているので,この問題の詳細はここまでにしよう.

XXkoptsik-ch10-3

空間群:Fedorov(フェドロフ)群$$\mit\Phi $$

―並進群$$T$$の結晶点群$$G$$あるいは結晶点群に同型な$$T$$を法とする群$$G^{T}$$による拡大-

前節の若干抽象的な議論を,具体例を考察して,明確にして行こう.具体例は,一般理論の発展への糸口となる.このように,3次元離散体の空間群(Fedorov群)$$\mit\Phi $$は,並進群$$T$$の結晶点群$$G$$あるいは$$G$$に同型な$$T$$を法とする群$$G^{T}$$による正規拡大であることを示そう.
  3次元離散体中に単純ベクトル基底$$\left\{ a,b,c \right\} $$をとる.これらは,一般に斜交し,並進軸は$$a,b,c$$その座標は$$ \tilde{X}_{1}, \tilde{X}_{2}, \tilde{X}_{3} $$である.空間格子は,整数座標を持つ点すなわち並進等価な点の系[訳注:格子点]として定義される.格子を自分自身に重ねる任意の並進は,座標原点$$\left( 0,0,0 \right) $$から整数座標の点$$(m_{1},m_{2},m_{3})$$への移動に対応する.言い換えれば,任意の並進は,次のベクトル$$\tau $$で記述される.
$$\tau =m_{1}a_{1}+m_{2}a_{2}+m_{3}a_{3}$$; $$a_{1}=a, a_{2}=b, a_{3}=c$$ $$\left( k=1,2,3; m_{k}=0, \pm 1, \pm 2, \ldots \right) $$
   このようなベクトルの無限集合$$T=\left\{ m_{k}a_{k} \right\} $$は,数学概念での群(離散体に対する並進群)を形成する.群の演算としてベクトルの加算をとれば,集合$$T$$が4つの群公理(p201参照)を満たすことを確かめるのは容易である.
Ⅰ.引き続く2つの並進$$\tau _{i}, \tau _{j}$$は,ベクトル$$\tau _{i}+\tau _{j}=\tau _{k}$$の格子への並進と等価である: ベクトル$$\tau _{i}, \tau _{j}$$が集合$$T$$に属するなら,ベクトル$$\tau _{k}$$は集合$$T$$に属する.
Ⅱ.ベクトルの加算演算は,結合的である: $$\left( \tau _{i}+\tau _{j} \right) +\tau _{k}=\tau _{i}+\left( \tau _{j}+\tau _{k} \right) $$
Ⅲ.群の単位元は,ゼロベクトルである:$$\tau _{i}+0=0+\tau _{i}=\tau _{i}$$
Ⅳ.集合$$T$$の各ベクトル$$\tau _{i}$$に対して,逆ベクトル$$\tau _{i}^{-1}=-\tau _{i}$$を定義でき,$$\tau _{i}+\left( -\tau _{i} \right) =-\tau _{i}+\tau _{i}=0$$
   この節の冒頭に掲げた定理の証明には,各ベクトル$$\tau _{i} \in T$$を並進の演算子$$\left[ E|\tau _{i} \right] $$[訳注:Seitz(ザイツ)演算子といわれるもので,[カッコ]内の縦線の左は点群の対称操作を示し,$$E$$は単位元である.縦線の右側は並進操作を示す]に対応させ,べクトル群\$$T$$からこれに同型な演算子群へ移行するのがよい.ベクトルの《積》[訳注:加算のこと]$$\tau _{i}+\tau _{j}$$は,演算子$$\left[ E|\tau _{i} \right] \left[ E|\tau _{j} \right] =\left[ E|\tau _{i}+\tau _{j} \right] $$に対応する.ゼロベクトルは恒等操作$$\left[ E|0 \right] $$,逆ベクトルは逆操作$$\left[ E|\tau _{i} \right] ^{-1}=\left[ E|-\tau _{i} \right] $$に対応する.3次元空間の任意のベクトル$$r=x_{1}a_{1}+x_{2}a_{2}+x_{3}a_{3}$$に,演算子$$\left[ E|\tau \right] $$を作用させると,ベクトル$$r ' =x_{1} ' a_{1}+x_{2} ' a_{2}+x_{3} ' a_{3}$$に変換され;
$$r ' =\left[ E|\tau \right] r=r+\tau $$
座標$$(x_{1}, x_{2}, x_{3})$$の点は,点$$(x_{1} ' , x_{2} ' , x_{3} ' )$$に変換される:$$x_{1} ' =x_{1}+m_{1}$$, $$x_{2} ' =x_{2}+m_{2}$$, $$x_{3} ' =x_{3}+m_{3}$$
ここで,$$m_{1}, m_{2}, m_{3}$$はベクトル$$\tau $$の整数座標である.
  並進群$$T$$の記述が出来たので,同様に,格子の結晶点群$$G$$に対してもこれを行おう.すなわち,各変換$$g \in G$$に,行列要素$$D_{ij}=\textrm{cos}\left( X_{i} ' , X_{j} \right) $$をもつ直交行列$$D(g)$$を対応させ,結晶群$$2/m$$に対しP.203で行ったと同様に,格子の結晶点群に同型な直交演算子あるいは直交行列の群を作ろう.
  直交行列$$D(g)$$を作るには,直交基底$$\left\{ e_{1},e_{2},e_{3} \right\} $$をもつデカルト座標系$$X_{1}, X_{2}, X_{3}$$を用いる.これは,定めた規則(表20参照)により,斜交軸$$\tilde{X}_{1} , \tilde{X}_{2} , \tilde{X}_{3}$$に関係つけられる.直交デカルト座標系では,格子点は,一般に整数座標になるとは限らない.もし,$$\tau =\tau _{1}e_{1}+\tau _{2}e_{2}+\tau _{3}e_{3}$$なら,並進の変換は,$$x_{1} ' =x_{1}+\tau _{1} , x_{2} ' =x_{2}+\tau _{2} , x_{3} ' =x_{3}+\tau _{3}$$と書ける.軸が一致すれば,$$X_{i}=\tilde{X}_{i}$$基底は$$e_{i}=a_{i}$$, 座標は$$\tau _{i}=m_{i} (i=1,2,3)$$である.
   演算子$$\left[ D(g)|0 \right] $$あるいは簡潔に$$\left[ D|0 \right] $$は,行列$$D(g)$$に等価で,任意のベクトル$$r=x_{1}e_{1}+x_{2}e_{2}+x_{3}e_{3}$$に作用すると,$$r ' =x_{1} ' e_{1}+x_{2} ' e_{2}+x_{3} ' e_{3}=\left[ D|0 \right] r=Dr$$に変換し,点$$x_{1}, x_{2}, x_{3}$$は,座標$$\left( x_{1},x_{2},x_{3} \right) $$の列ベクトルを行列$$D$$に乗じて得られる点$$\left( x_{1} ' ,x_{2} ' ,x_{3} ' \right) $$に変換する.基底ベクトルの列ベクトルは,変換$$\left[ D|0 \right] $$のとき,$$D$$で行と列を入れ替えた転置行列$$\tilde{D}$$に乗じられることに注意せよ: $$x_{i} ' =D_{ij}x_{j}$$なら, $$e_{j} ' =D_{ij}e_{i}$$ 

[訳注)複数回現れる添え字は,1,2,3について和をとる]
  離散体の共型(symmorphic)空間群($$\mit\Phi _{sym}$$と記す)は,$$T$$-群と$$G$$-群のそれぞれの変換を含むほか,それらの結合された演算も含む.離散体の《回転》$$\left[ D|0 \right] $$とそれに引き続き並進$$\left[ E|\tau \right] $$を行うと,結合された変換(運動)に対応する演算子$$\left[ D|\tau \right] =\left[ E|\tau \right] \left[ D|0 \right] $$になる.これは,3次元空間座標の線形非斉次(линейные неоднородные linear inhomogeneous)変換である.
$$x_{1} ' =D_{11}x_{1}+D_{12}x_{2}+D_{13}x_{3}+\tau _{1}$$
$$x_{2} ' =D_{21}x_{1}+D_{22}x_{2}+D_{23}x_{3}+\tau _{2}$$
$$x_{3} ' =D_{31}x_{1}+D_{32}x_{2}+D_{33}x_{3}+\tau _{3}$$
あるいは,演算子の形式では,座標の列をベクトルで置き換え,この線形非斉次方程式系は,(13)のように書ける:
$$ r '=\left[ D|\tau \right]r=Dr+\tau $$                          (13)
運動を記述する2つの演算の積(引き続く実行)は(14)となる:
$$\left[ D_{j}|\tau _{i} \right] \left[ D_{l}|\tau _{k} \right] =\left[ D_{j}D_{l}|D_{j}\tau _{k}+\tau _{i} \right] $$        (14)
この公式が正しいことは,格子の図を描き,任意の注目点の移動を追えば,幾何学的に確かめることができる: 運動演算子の積では,右側の因子の2つの部分(《回転》と並進)は左にある演算子の行列$$D_{j}$$が乗じられ,積の並進部分には左側の因子のベクトル$$\tau _{i}$$が加えられる(行列の順序$$D_{j}D_{l}$$が本質的に重要!).
[訳注:右側の演算を先に行うので,左側にある演算は右側の演算結果に作用する] 
   空間群$$\mit\Phi _{sym}$$は,群$$T$$の群$$G$$による拡大であることを確かめるには,この具体的な群が前節の抽象群と同型であることを示せば十分である.群$$\mit\Phi _{sym}$$の全ての変換演算子は,
$$\mit\Phi_{sym}=\left\{ \left[ D_{1}|\tau _{1} \right] ,\left[ D_{2}|\tau _{1} \right] , \ldots ,\left[ D_{s}|\tau _{1} \right] ,\left[ D_{1}|\tau _{2} \right] ,\left[ D_{2}|\tau _{2} \right] , \ldots , \right. $$
$$\left[ D_{s}|\tau _{2} \right] , \ldots ,\left[ D_{1}|\tau _{m} \right] , \left[ D_{2}|\tau _{m} \right] , \ldots ,\left[ D_{s}|\tau _{m} \right] \left. , \ldots \right\} $$
これは式(4)に従い,並進群と結晶点群にそれぞれ同型な2つの群$$T$$および群$$G$$の対よりなる結合された演算$$\left( \left[ E|\tau _{i} \right] \left[ D_{j}|0 \right] =\left[ D_{j}|\tau _{i} \right] \right) $$で得られる:
$$T=\left\{ \left[ E|\tau _{1} \right] ,\left[ E|\tau _{2} \right] , \ldots ,\left[ E|\tau _{m} \right] , \ldots \right\} $$,$$G=\left\{ \left[ D_{1}|0 \right] ,\left[ D_{2}|0 \right] , \ldots ,\left[ D_{s}|0 \right] \right\} $$
生成群$$T, G$$は,唯一つの共通元,恒等元$$\left[ E|0 \right] (\tau _{1}=0, D_{1}=E$$とすればわかる)をもつ.群$$\mit\Phi _{sym}$$, $$T, G$$は,前節の(抽象)群$$G, H, G^{*}$$に対する幾何学的具体化と呼ぶことが出来る.元の対応は:
$$\left[ D_{j}|\tau _{i} \right] =\left[ E|\tau _{i} \right] \left[ D_{j}|0 \right] \leftrightarrow h_{i}g_{j} \in G$$
$$\left[ E|\tau _{i} \right] \leftrightarrow h_{i} \in H$$
$$\left[ D_{j}|0 \right] \leftrightarrow g_{j} \in G^{*}$$
それぞれの積則は,(14),(7)で,これらの群は同型であることがわかる. 
式(14)を(7)の型に書き,$$\left( \left[ E|\tau _{i} \right] \left[ D_{j}|0 \right] \ominus \left[ E|\tau _{k} \right] \left[ D_{l}|0 \right] \right) =\left[ E|\tau _{i} \right] \left[ E|\tau _{k} \right] ^{\left[ D_{j}|0 \right] }\left[ D_{j}|0 \right] \left[ D_{l}|0 \right] $$
自己同型(автоморфизм, automorphism)は,$$\left[ E|\tau _{k} \right] ^{\left[ D_{j}|0 \right] }=\left[ D_{j}|0 \right] \left[ E|\tau _{k} \right] \left[ D_{j}^{-1}|0 \right] =\left[ E|D_{j}\tau _{k} \right] $$ と計算される.群$$T$$は空間群$$\mit\Phi _{sym}$$の正規部分群であるから,任意の$$\left[ D_{j}|\tau _{i} \right] \in \mit\Phi $$と$$\left[ E|\tau _{k} \right] \in T$$に対し,群$$T$$は自分自身上へ変換され:$$\left[ D_{j}|\tau _{i} \right] T\left[ D_{j}^{-1}|-D_{j}^{-1}\tau _{i} \right] =T, \left[ E|D_{j}\tau _{k} \right] \in T$$)であり, 他方,(14)則は運動の演算の半直積に対応する.$$\left[ E|\tau _{k} \right] ^{\left[ D_{j}|0 \right] }=\left[ E|D_{j}\tau _{k} \right] $$を等式の右辺へ代入し,群$$T$$と群$$G$$で積則に従い,すべての演算子を乗じ,$$\left[ E|D_{j}\tau _{k}+\tau _{i} \right] \left[ D_{j}D_{i}|0 \right] =\left[ D_{j}D_{i}|D_{j}\tau _{k}+\tau _{i} \right] $$を得る.こうして,共型空間群は並進群$$T$$と格子の自己同型の点群$$G$$(あるいはその部分群)との半直積であることがわかった:$$\mit\Phi _{sym}=T \ominus G$$ [訳注:$$G^{*}$$の替りに$$G$$と書く].
   格子$$T$$の各計量系は,もとの群だけではなく,$$G$$の部分群(Table20と比較せよ)によっても保存される.7つのケースでは,積$$T \ominus G$$は因子の対称要素の相互方位に依存する*.これに注意して,14の並進群$$T$$(Fig..191を見よ)と32の結晶群$$G$$(Fig..69)の半直積により,73の共型群$$\mit\Phi _{sym}=T \ominus G$$が得られる.結果は,すでに表12に示したものである.
   拡大理論の基礎定理に従い(p.208、図.204を見よ)、空間群$$\mit\Phi _{sym}=T \ominus G$$の存在は,群間の同型対応(изоморфизм, isomorphism)と準同型対応(гомоморфизм,homomorphism)の結果で,群は以下を満たす: 
     $$\mit\Phi _{sym}=\left\{ \left[ D_{j}|\tau _{i} \right] \right\} $$
      $$ \swarrow \searrow $$
$$\mit\Phi /T=\left\{ T\left[ D_{j}|0 \right] \right\} \leftrightarrow \left\{ \left[ D_{j}|0 \right] \right\} =G$$
もし,例えば,共型群$$P2/m$$を,並進群$$P=\left\{ \left[ E|\tau _{i} \right] \right\} $$に関し,剰余類に分解すると,
$$P2/m=\left\{ \left[ E|\tau _{i} \right] \right\} \left[ D(1)|0 \right] \cup \left\{ \left[ E|\tau _{i} \right] \right\} \left[ D(2)|0 \right] $$
$$ \cup \left\{ \left[ E|\tau _{i} \right] \right\} \left[ D(\overline{1})|0 \right] \cup \left\{ \left[ E|\tau _{i} \right] \right\} \left[ D(m)|0 \right] $$
あるいは,もっと単純な表記法で,$$ \dagger $$ $$P2/m=P1+P2+P\overline{1} +Pm$$
剰余類(商群 の元)の乗積表と群 の演算は同一の構造 [訳注:同型対応]であることがわかる: 

$$ \begin{array}{c|cccc} P2/m/P & P1 & P2 & P\overline{1} & Pm \\[0mm] \hline P1 & P1 & P2 & P\overline{1} & Pm \\[0mm] P2 & P2 & P1 & Pm & P\overline{1} \\[0mm] P\overline{1} & P\overline{1} & Pm & P\overline{1} & P2 \\[0mm] Pm & Pm & P\overline{1} & P2 & P1 \end{array} $$ $$ \longleftrightarrow $$ $$ \begin{array}{c|cccc} 2/m & 1 & 2 & \overline{1} & m \\[0mm] \hline 1 & 1 & 2 & \overline{1} & m \\[0mm] 2 & 2 & 1 & m & \overline{1} \\[0mm] \overline{1} & \overline{1} & m & 1 & 2 \\[0mm] m & m & \overline{1} & 2 & 1 \end{array} $$

もう一つ明らかなのは,準同型対応(homomorphism) $$P2/m \longrightarrow 2/m$$であり,
ここでは,空間群$$P2/m$$の並進等価("平行")な対称要素 $$2,m,\overline{1}$$の無限族は,その生成群となった点群$$2/m$$の要素$$2,m,\overline{1}$$に写像される(すべての並進$$\tau \in P$$は恒等元$$1 \in 2/m$$に写像される).
  非共型群$$\mit\Phi _{nsym}$$は,その共型なモデル$$\mit\Phi_{sym}=T \ominus G$$から,点群$$G$$を同型な$$T$$を法とする群$$G^{T}$$で置き換えて得られる.
$$ \mit\Phi_\textrm{nsym}={\{}\left[ D_{1}|\alpha _{1}+\tau _{1} \right] ,\left[ D_{2}|\alpha _{2}+\tau _{1} \right] , \ldots ,\left[ D_{s}|\alpha _{s}+\tau _{1} \right] , \ldots $$

$$ \ldots,[D_{1}|\alpha_{1}+\tau_{m}],[ D_{2}|\alpha_{2}+\tau_{m}], \ldots,[ D_{s}|\alpha_{s}+\tau_{m}], \ldots \right\} $$

群$$\mit\Phi _{\textrm{nsym } }$$は,2つの群の元の対$$\left( \left[ E|\tau _{i} \right] \left[ D_{j}|\alpha _{j} \right] =\left[ D_{j}|\alpha _{j}+\tau _{i} \right] \right) $$よりなる元(演算子)の系である.
$$T=\left\{ \left[ E|\tau _{1} \right] ,\left[ E|\tau _{2} \right] , \ldots ,\left[ E|\tau _{m} \right] , \ldots \right\} $$ $$ G^{T}=\left\{ \left[ D_{1}|\alpha _{1} \right] ,\left[ D_{2}|\alpha _{2} \right] , \ldots ,\left[ D_{s}|\alpha _{s} \right] \right\} $$


非共型群の演算に対する積則は,規則(14)の一般化である:
$$\left[ D_{j}|\alpha _{j}+\tau _{i} \right] \left[ D_{l}|\alpha _{l} + \tau _{k} \right] =\left[ D_{j}D_{l}|D_{j}\alpha _{l}+D_{j}\tau _{k}+\alpha _{j} + \alpha _{i} \right] $$      (15) 
この積則で,集合$$\mit\Phi _{nsym}$$は群をなす.群$$\mit\Phi _{nsym}$$中で,恒等元$$\left[ D_{1}|\alpha _{1} + \tau _{1} \right] \equiv \left[ E|0 \right] $$と逆元$$\left[ D_{j}|\alpha _{j}+\tau _{i} \right] ^{-1}=\left[ D_{j}^{-1}|-D_{j}^{-1}\alpha _{j}-D_{j}^{-1}\tau _{i} \right] $$
が定義される.部分群$$T \subset \mit\Phi_{nsym}$$の不変性は自己同型(автоморфизм,automorphism)変換から導かれる.
$$\left[ D_{j}|\alpha _{j}+\tau _{i} \right] \left[ E|\tau _{k} \right] \left[ D_{j}^{-1}|-D_{j}^{-1}\alpha _{j}-D_{j}^{-1}\tau _{i} \right] =\left[ E|D_{j}\tau _{k} \right] $$
群$$G^{T}$$と$$G$$の同型対応は,以下の元の対応*と
$$\left[ D_{1}|0 \right] \leftrightarrow \left[ D_{1}|0 \right] , \ldots ,\left[ D_{i}|0 \right] \leftrightarrow \left[ D_{i}|0 \right] $$
$$\left[ D_{i+1}|\alpha _{i+1} \right] =\left[ E|\alpha _{i+1} \right] \left[ D_{i+1}|0 \right] \leftrightarrow \left[ D_{i+1}|0 \right] $$,
$$ \ldots ,\left[ D_{s}|\alpha _{s} \right] =\left[ E|\alpha _{s} \right] \left[ D_{s}|0 \right] \leftrightarrow \left[ D_{s}|0 \right] $$
集合$$G^{T}$$に,還元積則 
$$\left[ D_{j}|\alpha _{j} \right] \left[ D_{l}|\alpha _{l} \right] =\left[ E|\tau _{jl,n} \right] \left[ D_{n}|\alpha _{n} \right] \equiv \left[ D_{n}|\alpha _{n} \right] \left( \textrm{mod}\left[ E|\tau _{jl,n} \right] \right) $$    (16)
を導入することで,保証される.

ここで,量$$\left[ E|\tau _{jl,n} \right] $$は,合同式の法の第2系(вторую систему модулей сравнения second system of congruence moduli)を構成する.演算子は$$\left[ E|\alpha _{i+1} \right] , \ldots ,\left[ E|\alpha _{s} \right] \notin T$$である.
群$$G^{T}$$の演算子を$$\left[ E|\alpha _{j} \right] \left[ D_{j}|0 \right] $$の形式で書き,前節の(抽象)群$$G^{H}$$の元$$g_{j}^{H}=\alpha _{j}g_{j}$$と比較し,(16)は(9b)に相当することを見出す.同様に,元の比較

$$\left[ D_{j}|\alpha _{j}+\tau _{i} \right] =\left[ E|\tau _{i} \right] \left[ D_{j}|\alpha _{j} \right] \leftrightarrow h_{i}\left( \alpha _{j}g_{j} \right) $$
により,(15)は(12)に対応する.すなわち,群$$\mit\Phi _{nsym}$$は,抽象群$$G_{nsym}=H \bigcirc G^{H}$$の幾何学的具体化である.具体形で記述される図204の三角関係を用い
    $$\mit\Phi _{nsym}=\left\{ \left[ D_{j}|\alpha _{j} + \tau _{i} \right] \right\} $$
          $$ \swarrow \searrow $$
$$\mit\Phi /T=\left\{ T\left[ D_{j}|\alpha _{j} \right] \right\} \leftrightarrow \left\{ \left[ D_{j}|\alpha _{j} \right] \right\} =G^{T} \leftrightarrow G=\left\{ \left[ D_{j}|0 \right] \right\} $$

非共型空間群は,条件半直積で作られる$$\mit\Phi _{nsym}=T \bigcirc G^{T}$$ことがわかる.

 

XXkoptsik-ch10-2

直積,半直積,条件積による群の拡大.
 回転群の拡大としての結晶群.

   与えられた部分群$$H$$を含む任意の群$$G$$を,$$H$$の拡大と呼ぶ.部分群(右剰余類)による展開を;
$$G=Hg_{1} \cup Hg_{2} \cup \ldots \cup Hg_{s}=\left\{ h_{1},h_{2}, \ldots ,h_{m} \right\} g_{1} \cup \left\{ h_{1},h_{2}, \ldots ,h_{m} \right\} g_{2} \cup \ldots $$
$$ \ldots \cup \left\{ h_{1},h_{2}, \ldots ,h_{m} \right\} g_{s}$$   (1) 
とすると,展開から次のことがわかる.元 $$\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$が剰余類の代表系を作っているときは,群$$H$$の拡大$$G$$が存在する.これは次のことを意味する:
1°元$$h_{1}=g_{1}=e$$ は,$$G$$ にも$$H$$ にも共通な単位元である.従って,系$$\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$ の単位元でもある.
2°系$$\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$の元は,$$g_{j} \neq g_{l}$$ なら,剰余類$$Hg_{j} \neq Hg_{l}$$ すなわち任意の$$h_{i},h_{k} \in H$$ に対して,$$h_{i}g_{j} \neq h_{k}g_{l}$$ であるから,すべて異なる.
3°元$$h_{i}g_{j} \in Hg_{j}$$と$$h_{k}g_{l} \in Hg_{l}$$の積は,群$$G$$ の展開(1)に現れる或る1つの剰余類$$Hg_{q}$$ に含まれる.
   条件1°,2°,3°は各剰余類から1つ1つ選んだ代表元の種々な組にも成り立つ.群$$H$$の同一の拡大$$G$$を導くこのようなすべての組を,我々は同値とみなす.群拡大定理*では,非同値な拡大$$G$$を作る非同値な代表系$$\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$ を見出す特別な方法が複数研究されているが,ここではその一部の紹介にとどめる.
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*この説明は,A.G.Kurosh(クローシュ)(1970)やM.Hall(ホール)(1959)の一般群論の教科書に見られる.結晶群の拡大に関するZassenhaus(ツァセンハウス)(1948)やAscher(アッシャー)およびJanner(ヤンネル)(1965-1969)の研究にも見られる.非正規の拡大はB.L.Van der Waerden(バンデルワルデン)とJ.J.Burckhardt (ブルックハルト)(1961),A.M.Zamorzaeb(ザモルザエフ)(1967), V.M.Busarkin(ブサルキン)とYu.M.Gorchakov(ゴルチャコフ)(1968),V.A.Koptsik(コプツィク)(1967)の研究に見られる; V.A.Koptsik, G.N.Kotzev, Zh.N.M.Kuzhukeev(1973)が英語版では追加された. 
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   最初に,もし展開(1)中の剰余類 を,積(2)が定義されている群の元$$\left\{ Hg_{1},Hg_{2}, \ldots ,Hg_{s} \right\} $$ とみなせるなら,条件1°,2°,3°は満たされていることに注意しよう. 
$$Hg_{j} \cdot Hg_{l}=Hg_{q}$$ ($$Hg_{q} \neq Hg_{j} , Hg_{l}$$  ただし,$$g_{j}, g_{l} \neq g_{1}=e$$)       (2)
非正規な拡大( $$H$$が群$$G$$の正規部分群でないとき)の一般の場合,これは剰余類の置換群となる.正規な拡大のときは,剰余類の代表元は条件1°,2°,3°の他に次の可換条件を満足しなければならない:
4° $$g_{j}H=Hg_{j}$$ または $$g_{j}Hg_{j}^{-1}=H$$
つまり,任意の$$h_{k} \in H$$ ,$$g_{j} \in G$$ に対して $$g_{j}h_{k}g_{j}^{-1} \in H$$
この場合,部分群$$H$$は$$G$$において不変あるいは正規となり,系$$\left\{ Hg_{1},Hg_{2}, \ldots ,Hg_{s} \right\} $$ は,商群$$G/H$$を作る.積則(2)は次のようになる. 
$$Hg_{j} \cdot Hg_{l}=Hg_{j}g_{l}$$                                (3)
剰余類の組が,積(2)あるいは(3)で群を作ると仮定すれば,条件3°は強められて,
$$h_{i}g_{j} \cdot h_{k}g_{l}=h_{p}g_{q} \in Hg_{q}$$ または $$ \in Hg_{j}g_{l}$$,ただし,$$h_{i}g_{j} \in Hg_{j}$$,$$h_{k}g_{l} \in Hg_{l}$$となる.
正規拡大の場合には,さらに進んだ結果が導かれる.元$$g_{j}$$を剰余類$$Hg_{j}$$に比較考察すると,各剰余類から1つづつ取った代表元の任意の組において,系$$\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$ は商群$$G/H$$と同型な群を作ることがわかる:
$$Hg_{j} \leftrightarrow g_{j} , Hg_{l} \leftrightarrow g_{l} , Hg_{j}g_{l} \leftrightarrow g_{j}g_{l}$$
同型の条件は,群\$$G$$の積則に現れる元の積$$g_{j}g_{l}=g_{n}$$ が,剰余類$$Hg_{n}$$ に属することを要請する.
$$g_{j}g_{l}=h_{jl,n}g_{n} \in Hg_{n}$$, $$h_{jl,n}=h_{1},h_{2}, \ldots ,h_{m} \in H$$, $$g_{n} \in \left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$
一般に,$$h_{jl,n} \neq h_{1}$$のとき,元$$h_{jl,n}g_{n} \notin \left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$である.還元積の法則
$$g_{j}g_{l}=h_{jl,n}g_{n} \equiv g_{n}\left( \textrm{mod}h_{jl,n} \right) $$,$$h_{jl,n} \in H$$
を導入する.すなわち,元$$h_{jl,n}g_{n}$$ と元$$g_{n}$$とを$$h_{jl,n}$$を法として合同と見ると,
還元積に関して,系$$\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$ は閉じている.つまり,$$H$$を法とする群$$ G(\textrm{mod}H ) $$を作っている.
   剰余類の代表系への,すべての我々の要請は,法による(modulus)群の概念に統合される.正規の拡大の存在条件は,次のような形にまとめることができる.《群$$H \vartriangleleft G$$の拡大$$G$$は,もし剰余類の代表元の組が,商群$$G/H$$に同型な$$H$$を法とする群$$G(\textrm{mod}H)$$を作るならば,存在する.》 組$$\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$ の同値性の問題は,対応する群の同型の問題に帰着する.積の法則が違うために,群$$G(\textrm{mod}H) $$は一般には$$G$$ の部分群ではない.特に,もし,全係数が$$h_{jl,n} \equiv h_{1}$$ となるような,代表系を選ぶことができるなら,法による群は,普通の群$$G^{*}=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$ ($$G$$ の部分群)になる.群$$G$$は,このとき共型(symmorphic)と呼ばれる.もしそのような選択が不可能なときは,群$$G$$は非共型(nonsymmorphic)である.拡大$$G$$は群$$H$$ と群$$G(\textrm{mod}H)$$の《積》として作ることができる.全元$$h_{1},h_{2}, \ldots ,h_{m} \in H$$ を1つづつ元$$g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \in G(\textrm{mod}H)$$ に乗じて集めると集合$$G$$ が得られる:
$$G=\left\{ h_{1}g_{1},h_{2}g_{1}, \ldots ,h_{m}g_{1},h_{1}g_{2},h_{2}g_{2}, \ldots ,h_{m}g_{2},h_{1}g_{s},h_{2}g_{s}, \ldots ,h_{m}g_{s} \right\} $$       (4)
拡大を作るために利用した群において,唯一の共通元は 
$$H \cap G(\textrm{mod}H)=h_{1}=g_{1}=e \in G$$ であることを思い出そう. $$G(\textrm{mod}H)$$ は$$G$$の部分群ではないので,拡大(4)を条件積と呼び次の記号を用いることにする.
$$G=H \bullet G(\textrm{mod}H), H \vartriangleleft G, G(\textrm{mod}H) \not\subset G, H \cap G(\textrm{mod}H)=e \in G$$     (5)
共型(symmorphic)群$$G$$に対しては,条件積(5)は法による群を普通の群
$$G^{*}=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$ ($$G$$の正規あるいは非正規な部分群)に入れ換えることにより作られ,さらに簡単な直積あるいは半直積となる.
    2つの群の直積 $$G=H \otimes G^{*}, H \vartriangleleft G, G^{*} \vartriangleleft G, H \cap G^{*}=e \in G$$は,2連元$$h_{i}g_{j} \in G$$ に対する次の積則から定義される:
$$h_{i}g_{j} \otimes h_{k}g_{l}=h_{i}h_{k}g_{j}g_{l}$$,$$h_{i}h_{k} \in H$$, $$g_{j} , g_{l} \in G^{*}$$                  (6)
半直積$$G=H \bullet G^{*}, H \vartriangleleft G, G^{*} \vartriangleleft G, H \cap G^{*}$$ は,積則:
 $$h_{i}g_{j} \bullet h_{k}g_{l}=h_{i}h_{k}^{g_{j } }g_{j}g_{l} , h_{i}h_{k}^{g_{j } }=g_{j}h_{k}g_{j}^{-1} \in H , g_{j} , g_{l} \in G^{*}$$             (7) 
で定義される.直積は(6)で,任意の2つの群$$H$$と$$G^{*}$$に対して完全に定義される;半直積は(7)に従い自己同型変換$$g_{j}h_{k}g_{j}^{-1}h_{f}$$ (すべての$$h_{k} \in H, g_{j} \in G^{*}$$ に対して)を求める問題として定義される.一般に,(5)-(7)のすべての場合にわたって,$$G(\textrm{mod}H)$$あるいは$$G^{*}$$は$$H$$に対して自己同型群である($$H \vartriangleleft G$$ を保つ:任意の$$h_{k} \in H, g_{j} \in G$$に対して $$g_{j}Hg_{j}^{-1} \in H$$).$$G^{*}$$の元を$$h_{1}g_{j} , h_{1}g_{l}$$の型で表すと,積則(6),(7)は部分群$$G^{*} \subset G$$ 内で積の閉性が保存されていることを確認できる: $$h_{1}g_{j} \cdot h_{1}g_{j}=h_{1}g_{j}g_{l}$$ なぜなら$$h_{1}^{g_{j } }=g_{j}h_{1}g_{j}^{-1} \equiv h_{1}$$
   非共型(nonsymmorphic)群$$G$$は,元$$g_{j} \in G^{*}$$の部分を次のような新しい元で置き換えることにより,直積,半直積の型に作れる: $$g_{j}^{H}=\alpha _{j}g_{j} \equiv g_{j}(\textrm{mod}\alpha _{j})$$
$$g_{1}^{H}=\alpha _{1}g_{1} \equiv g_{1}(\textrm{mod}\alpha _{1}), g_{2}^{H}=\alpha _{2}g_{2} \equiv g_{2}(\textrm{mod}\alpha _{2}), \ldots , g_{s}^{H}=\alpha _{s}g_{s} \equiv g_{s}(\textrm{mod}\alpha _{s})$$ (8)
一般に,$$\alpha _{1} \equiv h_{1}$$であるが,合同式の法となる第1系の残りの係数は$$\alpha _{j} \notin H$$である.しかしながら,$$m$$を元$$g_{j}$$の位数とするとき,$$\left( \alpha _{j}g_{j} \right) ^{m}=\alpha _{j}^{m}g_{j}^{m}=h_{1}g_{1}, \alpha _{j}^{m}=h_{1} \in H$$となる. (8)の置き換えで,群$$G^{*}$$はすでに学んだ還元積による$$H$$を法とする同型な群$$G^{H}=\left\{ g_{1}^{H},g_{2}^{H}, \ldots ,g_{s}^{H} \right\} $$に変る*.
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*非共型(nonsymmmorphic)拡大$G$を得るための法による(modulus)群$$G(\textrm{mod}H)$$を$$G^{H}$$と記す.
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$$g_{j}^{H}g_{l}^{H}=h_{jl,n}g_{n}^{H} \equiv g_{n}^{H}(\textrm{mod}h_{jl,n})$$, $$h_{jl,n} \in H, g_{n}^{H} \in G^{H}$$ (9)
あるいは,直積と半直積にそれぞれ対応して
$$\left( \alpha _{j}g_{j} \right) \left( \alpha _{l}g_{l} \right) =\alpha _{j}\alpha _{l}g_{j}g_{l}=\alpha _{j}\alpha _{l}\alpha _{n}^{-1}\left( \alpha _{n}g_{n} \right) \equiv \left( \alpha _{n}g_{n} \right) \left( \textrm{mod}h_{jl,n} \right) $$ (9a)
$$\left( \alpha _{j}g_{j} \right) \left( \alpha _{l}g_{l} \right) =\alpha _{j}\alpha _{l}^{g_{j } }g_{j}g_{l}=\alpha _{j}\alpha _{l}^{g_{j } }\alpha _{n}^{-1}\left( \alpha _{n}g_{n} \right) \equiv \left( \alpha _{n}g_{n} \right) \left( \textrm{mod}h_{jl,n} \right) $$ (9b)
(9a)と(9b)から,合同式の法となる第2の係数系が求まる:
$$h_{jl,n}=\alpha _{j}\alpha _{l}\alpha _{n}^{-1}$$ および $$h_{jl,n}=\alpha _{j}\alpha _{l}^{g_{j } }\alpha _{n}^{-1}$$
ここで,$$\alpha _{j}^{g_{j } }=g_{j}\alpha _{l}g_{j}^{-1}=\alpha _{k}$$は,$$\alpha _{j}$$の自己同型共役元(automorphism transformations of the moduli)であり,$$\alpha _{k}g_{k}=g_{k}^{H} \in G^{H}$$, $$\alpha _{j}^{g_{j } }=\alpha _{j}$$ (定義から)となる.
群$$G^{H}$$において単位元の役割は元$$g_{1}^{H}=h_{1}g_{1}$$が果たす.逆元は,それぞれ,
$$\left( \alpha _{j}g_{j} \right) ^{-1}=\alpha _{j}^{-1}g_{j}^{-1}$$ および $$\left( \alpha _{j}g_{j} \right) ^{-1}=\left( \alpha _{j}^{-1} \right) ^{g_{j}^{-1 } }g_{j}^{-1}$$
量$$\alpha _{j}$$の系は,それ自身で,群$$G^{H}=\left\{ g_{1}^{H},g_{2}^{H}, \ldots ,g_{s}^{H} \right\} $$と同型な,$$h_{jl,n}$$を法とする群$$A^{H}=\left\{ \alpha _{1},\alpha _{2}, \ldots ,\alpha _{s} \right\} $$をつくることに注意しよう.元間の対応は: $$\alpha _{j} \longleftrightarrow g_{j}^{H}$$, $$\alpha _{l} \longleftrightarrow g_{l}^{H}$$および, $$\alpha _{j}\alpha _{l}=h_{jl,n}\alpha _{n} \equiv \alpha _{n}(\textrm{mod}h_{jl,n}) \longleftrightarrow g_{j}^{H}(\textrm{mod}h_{jl,n}) \equiv h_{jl,n}g_{n}^{H}=g_{j}^{H}g_{l}^{H}$$
これから,上記の式で用いた逆元記号が正当であるとわかる: $$\alpha _{j}\alpha _{j}^{-1}=\alpha _{j}^{-1}\alpha _{j}=\alpha _{1}=h_{1}$$
 対応 $$g_{j}^{H}g_{l}^{H}=h_{jl,n}g_{n}^{H} \equiv g_{n}^{H}\left( \textrm{mod}h_{jl,n} \right) \longleftrightarrow g_{n}=g_{j}g_{l} \longleftrightarrow Hg_{n}=Hg_{j}g_{l}$$から導かれる群$$G^{H} \longleftrightarrow G^{*} \longleftrightarrow G/H$$の同型は,非共型(nonsymmorphic)拡大の存在を保証する.
非共型(nonsymmorphic)群を,2つの群の条件積(準積:условное произведениеquasi-product)で作ろう:
$$G=H \bigcirc G^{H}=$$
$$=\left\{ h_{1}\left( \alpha _{1}g_{1} \right) ,h_{2}\left( \alpha _{1}g_{1} \right) , \ldots ,h_{m}\left( \alpha _{1}g_{1} \right) , \ldots ,h_{1}\left( \alpha _{s}g_{s} \right) ,h_{2}\left( \alpha _{s}g_{s} \right) , \ldots ,h_{m}\left( \alpha _{s}g_{s} \right) \right\} $$ (10) 
このとき条件直積(準直積:прямыхquasi-direct)$$ \odot $$と条件半直積(準半直積:полупрямых условных произведенийquasi-semidirect)$$ \bigcirc $$を区別して:
$$h_{i}\left( \alpha _{j}g_{j} \right) \odot h_{k}\left( \alpha _{l}g_{l} \right) =h_{i}h_{k}\left( \alpha _{j}g_{j} \right) \left( \alpha _{l}g_{l} \right) =h_{i}h_{k}h_{jl,n}\left( \alpha _{n}g_{n} \right) $$
$$h_{jl,n}=\alpha _{j}\alpha _{l}\alpha _{n}^{-1} \in H$$ (11)

$$h_{i}\left( \alpha _{j}g_{j} \right) \bigcirc h_{k}\left( \alpha _{l}g_{l} \right) =h_{i}h_{k}^{\left( \alpha _{j}g_{j} \right) }\left( \alpha _{j}g_{j} \right) \left( \alpha _{l}g_{l} \right) =h_{i}h_{k}^{\left( \alpha _{j}g_{j} \right) }h_{jl,n}\left( \alpha _{n}g_{n} \right) $$         (12)

ここで,$$h_{jl,n}=\alpha _{j}\alpha _{l}^{g_{j } }\alpha _{n}^{-1} \in H$$
$$h_{k}^{\left( \alpha _{j}g_{j} \right) }=\left( \alpha _{j}g_{j} \right) h_{k}\left( \alpha _{j}g_{j} \right) ^{-1}=h_{f} \in H$$    for all $$h_{k} \in H, \left( \alpha _{j}g_{j} \right) \in G^{H}$$
 (11),(12)と(6),(7)を比較し,共型(symmorphic)群(4)のモデルから作られた非共型(nonsymmorphic)群(10)は,それと同型でないことがわかる.これは積則(11),(12)の中に同型を破る量$$h_{jl,n}$$が現れるからである†.
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†英語版注] (4)と(10)による群は,式(11),(12)で$$h_{jl,n} \equiv h_{1}\left( \textrm{mod}h_{jl,n} \right) $$なら,同型である.
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 与えられた共型(symmorphic)群に関して,非共型(nonsymmorphic)群を実際に作ることは,法となる係数(congruence moduli)の第1系と第2系を決定することに帰着する(p207の文献).あまり大きくない位数の群$$G^{H}$$に対しては,もし同型群$$G^{*}$$の乗積表がわかっていて,$$\alpha _{j}$$が決まっているなら,係数$$h_{jl,n}$$の表は目の子選択で簡単に求めることができる.
表挿入
$$ \begin{array}{c|ccccc} G^{*} & g_{1} & \cdots & g_{l} & \cdots & g_{s} \\[0mm] \hline g_{1} & g_{1} & \cdots & g_{l} & \cdots & g_{s} \\[0mm] \vdots & \vdots & & \vdots & & \vdots \\[0mm] g_{j} & g_{j} & \cdots & g_{n} & \cdots & g_{p} \\[0mm] \vdots & \vdots & & \vdots & & \vdots \\[0mm] g_{s} & g_{s} & \cdots & g_{q} & \cdots & g_{r} \end{array}$$ $$\longrightarrow$$ $$\begin{array}{c|ccccc} h_{jl,n} & g_{1}^{H} & \cdots & g_{l}^{H} & \cdots & g_{s}^{H} \\[0mm] \hline g_{1}^{H} & h_{1} & \cdots & h_{1} & \cdots & h_{1} \\[0mm] \vdots & \vdots & & \vdots & & \vdots \\[0mm] g_{j}^{H} & h_{1} & \cdots & h_{jl,n} & \cdots & h_{js,p} \\[0mm] \vdots & \vdots & & \vdots & & \vdots \\[0mm] g_{s}^{H} & h_{1} & \cdots & h_{sl,q} & \cdots & h_{ss,r} \end{array} $$

表中に$$h_{1}$$が現れるのは,単位元への《法係数のない》積の結果である:
$$\left( \alpha _{j}g_{j} \right) \left( h_{1}g_{1} \right) =h_{j1,j} \times \left( \alpha _{j}g_{j} \right) =\left( \alpha _{j}g_{j} \right) $$, $$\left( h_{1}g_{1} \right) \left( \alpha _{j}g_{j} \right) =h_{1j,j}=\left( \alpha _{j}g_{j} \right) $$, 
ただし,$$h_{j1,j}=h_{1j,j}=h_{1}$$,$$j=1,2, \ldots ,s$$
量$$h_{1}$$は,表中で,《係数のない》元$$g_{i}^{H} \equiv g_{i}$$, $$g_{k}^{H} \equiv g_{k}$$(このような元は全部で単位元$$g_{1}^{H} \equiv g_{1}$$とともに群$$G^{*}$$の部分群$$G_{1}^{*}$$を作る)の積に対応する行と列の交点に現れる.
表14挿入
表 14 回転群の拡大としての結晶点群
$$ \begin{array}{ccc} \hline 回転群 & 反転群 & 鏡映群 \\[0mm] \hline 1 & \bar{1}=1 \otimes \bar{1} & m=1 \otimes m \\[0mm] 2 & 2/m=2 \otimes \bar{1} & mm2=2 \otimes m \\[0mm] 3 & \bar{3}=3 \otimes \bar{1} & \bar{6}=3 \otimes m \\[0mm] - & - & 3m=3 \ominus m \\[0mm] 4=2 \odot 4\left( \textrm{mod}2 \right) & 4/m=4 \otimes \bar{1} & \bar{4}=2 \odot \bar{4}\left( \textrm{mod}2 \right) \\[0mm] - & - & 4mm=4 \ominus m \\[0mm] 6=3 \otimes 2 & 6/m=6 \otimes \bar{1} & 6mm=6 \ominus m \\[0mm] 222=2 \otimes 2 & mmm=222 \otimes \bar{1} & \bar{4}2m=222 \ominus m \\[0mm] 32=3 \otimes 2 & \bar{3}m=32 \otimes \bar{1} & \bar{6}m2=32 \otimes m \\[0mm] 422=4 \ominus 2=222 \ominus 2 & 4/mmm=422 \otimes \bar{1} & - \\[0mm] 622=6 \ominus 2=32 \otimes 2 & 6/mmm=622 \otimes \bar{1} & - \\[0mm] 23=222 \otimes 3 & m\bar{3}=23 \otimes \bar{1} & \bar{4}3m=23 \ominus m \\[0mm] 432=23 \ominus 2 & m\bar{3}m=432 \otimes \bar{1} & - \\[0mm] \hline \end{array} $$
(注意) 反転群でもなく対称心をもたない群は,鏡映群に分類した.

  非正規拡大(noninvariant extensions реинвариантных расширений)の理論を残したが,32結晶群を回転群の拡大とみなし,直積,半直積,条件積への分解表を導いた.表14は全結晶群が8つの生成群の対の積によつて得られることを示している.
$$H=1,2,3,   G^{*}=2,m,\overline{1},   G^{H}=4(\textrm{mod}2),   \overline{4}(\textrm{mod}2)$$
これらのうち,法による群は次の乗積表で定義される.

$$ \begin{array}{c|cc} 4(\textrm{mod}2) & \texttt{1} & 4^{H} \\[0mm] \hline \texttt{1} & \texttt{1} & 4^{H} \\[0mm] 4^{H} & 4^{H} & 2 \equiv 1(\textrm{mod}2) \end{array}  $$      

$$ \begin{array}{c|cc} \overline{4}(\textrm{mod}2) & \texttt{1} & \overline{4}^{H} \\[0mm] \hline \texttt{1} & \texttt{1} & \overline{4}^{H} \\[0mm] \overline{4}^{H} & \overline{4}^{H} & 2 \equiv 1(\textrm{mod}2) \end{array} $$

これらの群($$4^{H}=4^{-1}2$$ と $$\overline{4}^{H}=4\overline{1}$$)の元$$g_{j}^{H}=\alpha _{j}g_{j}$$の積は,(9a)に従う:
$$\left( 4^{-1}2 \right) \left( 4^{-1}2 \right) =4^{-1}4^{-1}22=21 \equiv 1\left( \textrm{mod}2 \right) , \left( 4\overline{1} \right) \left( 4\overline{1} \right) =44\overline{1}\overline{1}=21 \equiv 1\left( \textrm{mod}2 \right) $$
   更なる例を後に見ることになるが,生成群間の積の方法は,新しい群を導く効果的な手段であることがわかる.この節を終えるにあたり,もとの群と最後の群を結び付けている準同型および同型対応の図と正規拡大を得る道筋をを辿ってみよう(図204). 
図204挿入

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図204. 
正規(不変)拡大の説明図に見られる群の間の準同型($$ \to $$)と同型($$ \leftrightarrow $$).
説明図$$G^{*} \leftrightarrow G/H \gets G$$に従い,任意の群$$G^{*}=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$を商群
$$G/H=\left\{ Hg_{1},Hg_{2}, \ldots ,Hg_{s} \right\} $$のモデルとして選び,$$H=\left\{ h_{1},h_{2}, \ldots ,h_{m} \right\} $$を準同型
$$G^{*} \gets G$$の核($$H$$は$$G$$の部分群で恒等元$$g_{1} \in G^{*}$$の上に写像される)として,共型拡大$$G=G \otimes G^{*}$$あるいは非共型拡大$$G=H \ominus G^{*}$$を作る.$$G/H$$において,元$$Hg_{i}$$を元の集合$$\left\{ h_{1}g_{i},h_{2}g_{i}, \ldots ,h_{m}g_{i} \right\} $$で置き換え,求める拡大$$G$$を得る:
$$ \left\{h_{1}g_{1}, \ldots ,h_{m}g_{1}, \ldots ,h_{1}g_{s}, \ldots ,h_{m}g_{s}\right\} $$
                                    $$ \swarrow \searrow $$                                              (4)
$$ \left\{Hg_{1},Hg_{2}, \ldots ,Hg_{s}\right\}$$  $$\leftrightarrow$$  $$\left\{g_{1},g_{2}, \ldots g_{s}\right\} $$
ここで,群の間に必要な対応があることは,以下の写像:
$$h_{i}g_{j}\left( i=1,2, \ldots ,m \right) \to Hg_{j} \leftrightarrow g_{j}\left( j=1,2, \ldots g_{s} \right) $$
および,群$$G$$に対する積則(6),(7),$$G/H$$に対する積則(3)により確かめられる.
非共型群$$G=H \odot G^{H}$$または$$G=H \bigcirc G^{H}$$は,
置換$$G^{*} \longleftrightarrow G^{H}=G_{1}^{*}g_{i} \cup G_{1}^{*}g_{i+1}^{H} \cup \ldots \cup G_{1}^{*}g_{i+p}^{H}$$により得られ,$$G_{1}^{*}=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{i} \right\} $$は群$$G^{*}$$と$$G^{H}$$の共通部分群,元$$g_{i+1}^{H}=\alpha _{i+1}g_{i+1}, \ldots ,g_{i+p}^{H}=\alpha _{i+p}g_{i+p}$$, $$p + i=s/i$$は部分群$$G_{1}^{*}$$の指数(法による群$$G^{H}$$の$$G_{1}^{*}$$に関する展開における)である.置換$$G^{*} \longleftrightarrow G^{H}$$は,共型群(4)を非共型群(10)に,積則(6),(7)を(11),(12)に換える.ダイヤグラム中で,群$$G^{*}$$と$$G^{H}$$の元は同じ記号$$h_{i}g_{j}$$で標記する:元の間の対応は$$h_{i}g_{j} \longrightarrow Hg_{j} \longleftrightarrow g_{j}$$同様に標記される円のセクター間の対応に反映される.$$g_{1}=h_{1}=e$$であるので,群$$\overline{G}^{*}=\left\{ h_{1}g_{1},h_{1}g_{2}, \ldots ,h_{1}g_{s} \right\} $$は,$$G^{*}$$と同一で群$$\overline{H}=\left\{ h_{1}g_{1},h_{2}g_{1}, \ldots ,h_{m}g_{1} \right\} $$は$$H$$と同一である.

XXkoptsik-ch10-1

 

10.群論の基礎.古典結晶群

これまでの章で,形而下の幾何学図形や物質形態の対称性に関する古典論の基礎を,複雑な数学ぬきで説明した.近年,対称性の研究は広汎な新領域で充実が見られ,多くの新分野に応用されている. 
これらについて語るために,まず数学的知識を少しく補足し,群論の思想と表現を一貫して利用できるようにしよう.読者は最初に読む時は,この章と次の章の難しい所は,絵と例を見るだけにして飛ばしても良い. 

群概念の定義.
幾何学的あるいは物理学的対象物の変換群.抽象群.

現代の数学,物理学における群概念は,数,集合,関数と言った概念と同様に,基本的な概念である.既に何度も(対称)図形の対称変換群[(有限または無限の)図形において,各部分は互いに入れ換えるが,図形全体は不変であるような対称変換の作る有限群あるいは無限群]について言及したので,部分的にではあるがそれを知っている.不変性(変換が図形の構造を保存する)の要請は,図形の対称変換群の定義の基礎となっている. 
どのような図形変換を許すかにより,等長変換(isometric)群か非等長変換(nonisometric)(アフィン, 射影,トポロジ-,等)群かになる.回転群(第1種の変換),回転と鏡映の群(第2種の変換)のような直交群や,運動群(第1種と第2種の変換と並進の結合)は図形の計量特性(すべての線分の長さとそれらのなす角度)を保存する.いままでの所では,我々は変形のない(計量保存)図形変換である直交群と運動群とを扱つていた. 
アフィン変換群は,無限な図形,媒質で許される一様変形(伸張,圧縮,ずり)の集合からなる.等方で一様な空間はアフィン対称である。相似変換群(アフィン変換群の特殊な場合)は植物や動物の構造や成長の対称を記述する;相似変換は建築物の細部や,遠近法に従って描いた絵画に見られる. 
重要な非直交群の例は,図形の等価な部分の任意の置換である.この置換は図形を自分自身に変換する(例えば,結晶構造における同価な原子の置換全部が作る群,原子核構造における中性子の置換全部が作る群など).特殊な場合には,置換群は直交群に同型となることを後に知るであろう. 
変換の概念は,幾何学的対象(有限図形,連続体,離散体)に関してだけでなく,物質図形,スカラ-,ベクトル,テンソル場のような(物理的性質を担っている形而下の)物理的対象に関しても定義できる.このような対象は,直交変換群だけでなく,次のようなさらに一般的な変換群に従う: 結晶物理や結晶の構造解析で利用する反対称群と色対称群(次の章でこれらの群を学習する);素粒子理論で使われるユニタリ-群(ユニモジュラ-群を含む);斉次,非斉次の線形群;相対論で用いるLorentz(ローレンツ)群, Poincare(ポアンカレ)群;などである.これらのどの群も,それぞれの空間で,不変量(保存量)の集合と結び付けられている.しかし,その変換群が成り立つ対称の性質がどのようなものであろうとも,また変換そのものがどのような性質であろうとも,すべての変換群には,抽象群の公理的定義を満たす共通の特性が存在する*. 
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*群論の基礎の平易な説明は,例えば,P.S.Aleksandrov(アレクサンドロフ)の本(1951)を見よ. 
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   何らかの性質の元 $$g_{1},g_{2}, \ldots $$の集合が,群{$$g_{1},g_{2}, \ldots$$ }$$=G $$を作るとは,この集合で結合的な《積》という演算($$G$$中の任意の2元$$g_{i},g_{j} \in G$$の対に,元$$g_{k} \in G$$を対応させる:$$g_{i}g_{j}=g_{k}$$)が定義でき,次の2つの条件を満足することである: a)集合$$G$$には,任意の$$g_{i} \in G$$に対して$$g_{i}e=eg_{i}=g_{i}$$となる単位元$$e$$が存在する.b)任意の$$g_{i}$$に対して,$$g_{i}g_{i}^{-1}=g_{i}^{-1}g_{i}=e$$となる逆元$$g_{i}^{-1}$$が集合$$G$$に存在する.まとめると次の4条件になる.
Ⅰ.    $$g_{i},g_{j} \in G$$ なら,$$g_{i}g_{j}=g_{k} \in G$$
Ⅱ.    $$\left( g_{i}g_{j} \right) g_{k}=g_{i}\left( g_{j}g_{k} \right) $$
Ⅲ.    $$g_{i}e=eg_{i}=g_{i}$$
Ⅳ.    $$g_{i}g_{i}^{-1}=g_{i}^{-1}g_{i}=e$$
これらの関係は抽象群を定義する.Ⅰは$$G$$が演算に関して閉じていることを示し,Ⅱは結合法則,Ⅲは単位元の存在,Ⅳは逆元の存在を示す.積の演算を何にするかは,具体的な群に応じて定義する. 

例:結晶群 $$2/m$$
群$$2/m$$に同型な置換群と直交行列群

  有限図形の対称点群を定義している一様な直交変換の積は,これらの演算を引き続き行うことと理解する.この定義を用い,集合$$2/m$$では4つの群公理が満たされていることを確かめよう. 

   

 

 

 

 

 

 

 

結晶点群$$2/m$$の対称を与えるのは,例えば,つぶれたマッチ箱の形(平行四辺形を底面とする直角プリズム)である.図203に示したごとく図形の面に番号をつける.図形の許される対称変換に対応する数字の置換を書くと: 
$$1 \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6
\end{array} \right)$$  ,$$2 \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
3 & 4 & 1 & 2 & 5 & 6
\end{array} \right) $$ ,$$\overline{1} \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
3 & 4 & 1 & 2 & 6 & 5
\end{array} \right) $$ ,$$m \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
1 & 2 & 3 & 4 & 6 & 5
\end{array} \right)$$

各置換の上の行には,自然の順序で数字が書かれている;下の行には,対称変換を行った後の順序が書かれている.例えば,軸2による180°の回転によって,面1は面3の位置に,面2は面4の位置に移ることなど明らかである.対称演算 $$1$$,$$2$$ ,$$\overline{1}$$ ,$$m$$ (対称要素と同じ記号で標す)と置換の間の対応は,1:1であり,それを両側向きの矢印で示した.得られた対応を使って,置換の積の演算を定義しよう.例として,右に書かれた演算を先に実行することにして,積 $$\overline{1}2$$ を求めてみよう:
$$\overline{1}2 \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
3 & 4 & 1 & 2 & 6 & 5
\end{array} \right) \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
3 & 4 & 1 & 2 & 5 & 6
\end{array} \right) =\left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
1 & 2 & 3 & 4 & 6 & 5
\end{array} \right) \leftrightarrow m$$

回転$$2$$ により面1は面3の位置に,反転$$\overline{1}$$ により面3は面1の位置に来る;従って,変換の積 $$\overline{1}2$$ は面1を面1に移す.同様にして,積 $$\overline{1}2$$ は面2,3,4を,それ自身に移すが,面5を面6に,面6を面5に移す.結局,変換の積 $$\overline{1}2$$ は,変換$$m$$ と同価である(等式の形で$$\overline{1}2=m$$と書く)という興味ある結果を得る.2つの演算の積$$g_{i}g_{j}$$ (右から左への順)を見つけていくと,結果を群$$2/m$$の乗積表の形にまとめることが出来る:

$$\begin{array}{c|cccc}
& 1 & 2 & \overline{1} & m \\[0mm]
\hline
1 & 1 & 2 & \overline{1} & m \\[0mm]
2 & 2 & 1 & m & \overline{1} \\[0mm]
\overline{1} & \overline{1} & m & 1 & 2 \\[0mm]
m & m & \overline{1} & 2 & 1
\end{array} $$            $$\begin{array}{c|ccc}
& \cdots & g_{j} & \cdots \\[0mm]
\hline
\vdots & & \vdots & \\[0mm]
g_{i} & \cdots & g_{i}g_{j} & \cdots \\[0mm]
\vdots & & \vdots &
\end{array}$$


この表を見れば,今問題にしている図形(図203)で許される対称変換の集合が閉性の公理「任意の2つの変換の積はやはりこの集合に属する」を満たしていることがわかる.結合則「3つの積$$g_{i}g_{j}g_{k}$$において,積は右から左に行うということを守りさえすれば,どのように括弧をつけてもかまわない」が満たされることを確かめることもさして困難ではない.群の単位元として働くのは恒等変換$$1$$ である.表から,$$2/m$$の各元に対して逆元が存在することもわかる(各元は自分自身が逆元になっている:$$g_{i}g_{i}=1$$).

  表を用いれば,演算を繰り返し行った結果を知ることもできる.例えば,演算$$2$$ の3乗は演算$$2$$ に等しいことがわかる:
$$2^{3}=2 \cdot 2 \cdot 2=2^{2}2=2$$, ただし,$$2^{2}=2 \cdot 2=1$$ を用いる.
同一の結果になる演算の冪は同一と見なすから,群$$2/m$$は4つの異なった演算から成ることになり,位数は4となる. 
$$2/m=\left\{ 1,2,\overline{1},m \right\} $$
  群$$2/m$$の生成元として$$1$$ を含まない任意の元の対をとることができる.生成元 に対する定義関係 $$2^{2}=1$$,$$m^{2}=1$$,$$2m=m2$$ が与えられれば,元 $$m$$,$$2$$,$$2m=\overline{1}$$ をかけ合せることにより,群$$2/m$$の乗積表を完全に作ることが出来る. 
   上で調べた対称演算と6つの数字の置換の対応から,対称群$$2/m$$と4つの置換から成る群とが同型となる.一般に,群$$G=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots \right\} $$ と $$F=\left\{ f_{1},f_{2}, \ldots \right\} $$とは,元間に1:1対応があり乗積表が一致するとき同型であるという.すなわち
$$g_{i} \leftrightarrow f_{i}$$,$$g_{j} \leftrightarrow f_{j}$$  なら,$$g_{i}g_{j} \leftrightarrow f_{i}f_{j}$$
群が同型であることが判ると,積の法則とこれから導かれるような結論は,すべて1つの群について確認されたものなら,同型の群に移し変えることができる.これは研究の範囲が限定できるということである.Cayley(ケイリー)の定理「あらゆる有限群は適当な置換群と同型である」が成り立つため,有限群の研究は置換群の研究に帰着する.
   置換群の集合は,直交結晶群の集合より大きい.例えば置換$$P=\left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
4 & 3 & 6 & 2 & 5 & 1
\end{array} \right) $$ の冪で作られる位数5の巡回群,すなわち群$$\left\{ P, P^{2}, P^{3}, P^{4}, P^{5} \right\} $$ ,
ただし$$P^{5}=\left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6
\end{array} \right) =1$$,は結晶群のどれとも同型でない.
   逆に,結晶群は置換群とのみ同型という訳ではない.結晶物理への応用で重要な,直交変換に同型な3次の直交行列群を考察しよう.我々の図形の結晶軸$$a, b, c$$と直交座標系$$X_{1}, X_{2}, X_{3}$$の関係は図203に示してある.図形のすべての対称変換それぞれに対応して座標系の変換がある.例えば,回転群$$2$$は軸$$X_{1}, X_{2}, X_{3}$$ を$$X_{1}^{ ' }, X_{2}^{ ' }, X_{3}^{ ' }$$ にもちきたす.行列要素を$$D_{ij}=cos\left( X_{i}^{ ' }, X_{j} \right) $$ で定義すれば,3次の行列
$$\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
D_{11} & D_{12} & D_{13} \\[0mm]
D_{21} & D_{22} & D_{23} \\[0mm]
D_{31} & D_{32} & D_{33}
\end{array} \right) $$ を得る.
回転2 を表すのは$$\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
-1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & -1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 1
\end{array} \right) $$ となる.
同様にして,以下の行列と対称変換の対応が定まる:
$$1 \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 1
\end{array} \right) , \overline{1} \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
-1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & -1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & -1
\end{array} \right) , m \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & -1
\end{array} \right) $$
良く知られた行列の積の定義(左の行列の行と右の行列の列を乗ずる:
$$D_{ij}=D_{i1}D_{1j}+D_{i2}D_{2j}+D_{i3}D_{3j}$$)を使い,演算の積に対応する行列の積を見つけよう: 
$$\overline{1}2 \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
-1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & -1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & -1
\end{array} \right) \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
-1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & -1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 1
\end{array} \right) =\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & -1
\end{array} \right) \leftrightarrow m$$ , etc.
結局,対応する行列群と群$$2/m$$とは同型となる.
   行列群を用いると,3次元空間における点あるいはその位置ベクトルの座標変換が記述できる.例えば,斉1次変換は,3つの等式の形にも,行列の形にも書くとことが出来る:

$$\begin{array}{@{\,} c @{\, } }
x_{1} ' =D_{11}x_{1}+D_{12}x_{2}+D_{13}x_{3} \\[0mm]
x_{2} ' =D_{21}x_{1}+D_{22}x_{2}+D_{23}x_{3} \\[0mm]
x_{3} ' =D_{31}x_{1}+D_{32}x_{2}+D_{33}x_{3}
\end{array}$$ または $$\left( \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
x_{1} ' \\[0mm]
x_{2} ' \\[0mm]
x_{3} '
\end{array} \right) =\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
D_{11} & D_{12} & D_{13} \\[0mm]
D_{21} & D_{22} & D_{23} \\[0mm]
D_{31} & D_{32} & D_{33}
\end{array} \right) \left( \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
x_{1} \\[0mm]
x_{2} \\[0mm]
x_{3}
\end{array} \right) $$

$$D$$で行列$$\left( D_{ij} \right) $$ を,$$r$$で$$x_{1}, x_{2}, x_{3}$$ のベクトルを標せば,この等式はもっと簡潔なテンソルあるいは演算子の形に書くことができる:
$$x_{i} ' =D_{ij}x_{j} , (i,j=1,2,3)$$  または,$$r '=Dr$$
(テンソル方程式で繰り返される添え字$$j$$は,1から3までの和を意味する:
$$x_{i} ' =D_{i1}x_{1}+D_{i2}x_{2}+D_{i3}x_{3}$$ ここで,$$i=1, 2, 3$$)

群のいくつかの性質
部分群.商群.群の準同型対応.

$$H=\left\{ h_{1},h_{2}, \ldots \right\} $$が,群$$G=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots \right\} $$ の部分群と呼ばれるのは, $$H$$が$$G$$の部分集合であり,かつ$$G$$の演算に関して群を作るときである.そのような性質は,例えば,結晶群$$2/m$$の部分群:$$ 1=\left\{ 1\right\}, 2=\left\{ 1, 2 \right\} , \overline{1}=\left\{ 1,\overline{1} \right\} , m=\left\{ 1,m \right\} $$で確かめることができる.有限群のすべての部分群は, Lagrange(ラグランジュ)の定理《有限群$$ G $$ の部分群$$H$$ の位数は,$$G$$の位数の約数である》によって,容易に見つけることが出来る.部分群$$H=\left\{ h_{1},h_{2}, \ldots \right\} $$の元は,同時に群$$G=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots \right\} $$の元でもある.このため,必然的に,群とその部分群は共通の単位元をもつ.これを,$$h_{1}=g_{1}=e$$ としよう.群$$G$$ の部分群$$H$$ を決めれば,我々は,左(右)剰余類を定義することができる. $$g_{i}H=\left\{ g_{i}h_{1},g_{i}h_{2}, \ldots \right\} $$または $$Hg_{i}=\left\{ h_{1}g_{i},h_{2}g_{i}, \ldots \right\} $$,ただし,$$h_{1}=e$$ ,元$$g_{i}$$ は部分群$$H$$ に属さない($$g_{i} \neq e$$,$$g_{i} \notin H$,$g_{i} \in G$$).1つの剰余類に属す元は全て異なり, $$g_{i} \neq g_{j}$$ならそれぞれの剰余類$$g_{i}H, g_{j}H$$の元もまたすべて異なることを示すことが出来る.これを用いれば,部分群に関して,群を展開し,すなわち,各剰余類に群の元を分類することができる.もし,群$$G$$ が有限(位数$$ n $$ )ならば,部分群$$H \subset G$$ は有限なる位数$$m<n$$ をもつ.従って,群$$G$$ の,例えば,左剰余類での展開は有限回で尽きる.

$$G=g_{1}H \cup g_{2}H \cup \ldots \cup g_{j}H=\left\{ h_{1},h_{2}, \ldots ,h_{m} \right\} \cup \left\{ g_{2}h_{1},g_{2}h_{2}, \ldots ,g_{2}h_{m} \right\} \cup \ldots $$
$$ \ldots \cup \left\{ g_{j}h_{1},g_{j}h_{2}, \ldots ,g_{j}h_{m} \right\} $$
群$$2/m$$の場合には,部分群$$2$$に関する展開は次のようになる.
$$2/m=1\left\{ 1,2 \right\} \cup \overline{1}\left\{ 1,2 \right\} =\left\{ 1,2 \right\} \cup \left\{ \overline{1},m \right\} $$
部分群に関する群の展開での剰余類の数$$j$$を部分群の指数という.あきらかに,群$$2/m$$の部分群$$2=\left\{ 1,2 \right\} $$の指数は2である.
部分群$$H \subset G$$は,もしこの部分群に関する右と左の剰余類が一致するなら,不変部分群または正規部分群と呼ばれる($$H \vartriangleleft G$$ と書く):$$Hg_{i}=g_{i}H $$ ($$g_{i} \in G$$,$$H \vartriangleleft G$$)
群$$2/m$$の部分群$$2$$は正規である.なぜなら,$$\overline{1}\left\{ 1,2 \right\} =\left\{ 1,2 \right\} \overline{1}$$ となるからである.可換性 の条件$$Hg_{i}=g_{i}H$$から,新たな群,商群が定義できる.これを$$G/H$$と標記する.商群の元となるのは,左(あるいは右)剰余類である:(左)剰余類の場合の積則を次のように定式化する: $$g_{i}H \cdot g_{j}H=g_{i}g_{j}H$$ ($$g_{i}g_{j}H=g_{k}H$$,ただし$$g_{i}g_{j}=g_{k}$$ )
可換性の条件は,$$g_{j}$$ を$$H$$ の右側から左側に移すときに使われた.$$g_{1}=e$$ とすると,有限指数$$j$$ の部分群に関する商群$$G/H$$ の乗積表は次のようになる:

$$\begin{array}{c|cccc}
& g_{1}H & g_{2}H & \ldots & g_{j}H \\[0mm]
\hline
g_{1}H & g_{1}H & g_{2}H & \ldots & g_{j}H \\[0mm]
g_{2}H & g_{2}H & g_{2}^{2}H & \ldots & g_{2}g_{j}H \\[0mm]
\ldots & \ldots & \ldots & \ldots & \ldots \\[0mm]
g_{j}H & g_{j}H & g_{j}g_{2}H & \ldots & g_{j}^{2}H
\end{array}$$

特に,商群$$(2/m)/2$$の乗積表は次のようである.


$$ \begin{array}{c|cc} & \left\{ 1,2 \right\}  & \left\{ \overline{1},m \right\} \\[0mm] \hline \left\{ 1,2 \right\} & \left\{ 1,2 \right\} & \left\{ \overline{1},m \right\} \\[0mm] \left\{ \overline{1},m \right\} & \left\{ \overline{1},m \right\} & \left\{ 1,2 \right\} \end{array}  $$


  商群の概念は,群論において最も重要なものであり,無数の応用が存在する.群論におけるもう1つの重要な概念は,大きい群$$G=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots \right\} $$から小さい群$$F=\left\{ f_{1},f_{2}, \ldots \right\} $$ への準同型写像である.この写像は一方向で,次のように定義される:
$$g_{i} \to f_{i}, g_{j} \to f_{j}$$ なら $$g_{i}g_{j} \to f_{i}f_{j}$$
群が準同型なことは,記号$$G \to F$$ で標す.正規部分群$$H$$ に関する商群$$G/H$$は群$$G$$の準同型像であることを示すことができる:$$G \to G/H$$ これらの群の準同型は,群$$G$$の元$$g_{i}$$ を商群$$G/H$$ の元$$g_{i}H$$ に一方向に対応させることにより得られる:
$$g_{i} \to g_{i}H$$,$$g_{j} \to g_{j}H$$,$$g_{i}g_{j} \to g_{i}Hg_{j}H=g_{i}g_{j}H$$
このような対応の1方向性は,1つの剰余類が,$$G$$のいくつかの元と対応する.例えば,$$g_{1}^{*}=g_{i}h_{1}, g_{2}^{*}=g_{i}h_{2}, \ldots , g_{m}^{*}=g_{i}h_{m}$$  $$\left( h_{1}, h_{2}, \ldots , h_{m} \in H \vartriangleleft G, g_{i} \notin H, g_{i} \in G \right) $$が剰余類$$g_{j}H$$ に属することによる.
準同型対応があると,群$$G$$における積法則の研究を,小さい群$$G/H$$における積法則の研究に帰着させることが可能になる.
準同型写像は物理学で応用される群$$G$$の既約表現というものに関係がある.まずこれは演算子あるいは行列の群であつて,これらが準同型写像で表現している群$$G$$の積法則を保存しているような群である.



群論テキスト5

 

1.群$$G$$の2つの部分群$$H,K$$の共通部分は部分群である.
$$H \cap K=D \ni ^{ \forall }a,^{ \forall }b \Rightarrow \left\{ \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
H \ni ab \in K & \Rightarrow ab \in D \\[0mm]
H \ni a^{-1} \in K & \Rightarrow a^{-1} \in D
\end{array} \right. $$

2.2つの正規部分群$$H, K$$の共通部分は,$$H, K$$の正規部分群である.
$$\left. \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
H=k^{-1}Hk & k^{-1}Kk=K \\[0mm]
H \supset k^{-1}Dk & k^{-1}Dk \subset K
\end{array} \right\}  \Rightarrow k^{-1}Dk=D, \left( h^{-1}Dh=D \right) $$

3.$$H, K$$が正規部分群なら,$$^{ \forall }h \in H$$と$$^{ \forall }k \in K$$は可換である.ただし,$$H \cap K=e$$とする.
$$\left. \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
K正規部分群 & \Rightarrow & \left( h^{-1}k^{-1}h \right) k=k'k=k'' \\[0mm]
H正規部分群 & \Rightarrow & h^{-1}\left( k^{-1}hk \right) =h^{-1}h'=h''
\end{array} \right\} \Rightarrow k''=h''=e$$とすると,
$$h^{-1}k^{-1}hk=e$$だから,$$hk=kh$$が結論できる.
(逆)
① $$H, K$$が部分群で,$$^{ \forall }h \in H, ^{ \forall }k \in K$$に対して,$$hk=kh$$ならば,$$HK$$は群を作る.
② $$H, K$$は,$$HK$$の中で正規である. 
(証明) 
$$^{ \forall }h_{1}k_{1}, ^{ \forall }h_{2}k_{2} \in HK \Rightarrow h_{1}k_{1} \cdot h_{2}k_{2}=h_{1}h_{2} \cdot k_{1}k_{2} \in HK$$ ① 
$$^{ \forall }hk \in HK$$に対し,$$hkHk^{-1}h^{-1}=H$$              ② 

4.群$$\mit\Phi $$の部分群$$\mit\Phi ^{ \ast }, \mit\Gamma , D$$の指数関係
$$\left. \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\mit\Phi \supset \mit\Phi ^{ \ast } \supset D \\[0mm]
\mit\Phi \supset \mit\Gamma \supset D
\end{array} \right\} $$, $$\mit\Phi ^{ \ast } \cap \mit\Gamma =D$$ならば, $$\left( \mit\Phi :\mit\Phi ^{ \ast } \right) \ge \left( \mit\Gamma :D \right) $$

$$\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\mit\Gamma =D+\gamma _{2}D+\gamma _{3}D+ \cdots +\gamma _{p}D \\[0mm]
\gamma _{i}D \cap \gamma _{j}D= \phi \left( i \neq j \right)
\end{array} \right. $$である.
もし,$$\gamma _{i}\mit\Phi ^{ \ast } \cap \gamma _{j}\mit\Phi ^{ \ast } \neq \phi $$とするなら,適当な$$\phi _{i}^{ \ast }, \phi _{j}^{ \ast } \in \mit\Phi ^{ \ast }$$があり,
$$\gamma _{i}\phi ^{ \ast }_{i}=\gamma _{j}\phi _{j}^{ \ast } \Rightarrow \mit\Gamma \ni \gamma _{j}^{-1}\gamma _{i}=\phi _{j}^{ \ast }\phi _{i}^{ \ast -1} \in \mit\Phi ^{ \ast }$$
ゆえに,$$\gamma _{j}^{-1}\gamma _{i} \in D \Rightarrow \gamma _{j}^{-1}\gamma _{i} \in \mit\Phi ^{ \ast } \Rightarrow \gamma _{i}\mit\Phi ^{ \ast }=\gamma _{j}\mit\Phi ^{ \ast }$$同一な剰余類になり矛盾.
ゆえに,$$\gamma _{i}\mit\Phi ^{ \ast } \cap \gamma _{j}\mit\Phi ^{ \ast }= \phi $$

 

▲群論基礎テキスト1-3

2次元結晶空間(平面)の場に適用される群論の基礎概念をまとめる.

1. 準同型写像
   写像の核

2. 同値関係
   同値類
   剰余類

3. 群
   部分群
   正規部分群

群$$G$$の中に,部分群$$H$$が決まれば,その左(右)剰余類展開(直和分解)は,ただ1通り決まる.
左剰余類と右剰余類が一致する場合は,部分群$$H$$は,正規部分群$$H \vartriangleleft G$$で,剰余類は群(商群)をなす.これは,群$$G$$から,正規部分群$$H$$を法とする[準同型写像の核]商群$$G/H$$への準同型写像である.

★平行多辺形の分割で平面群を導く

230の結晶空間群を数え上げた一人にフェドロフがいます.フェドロフはどのようにして空間群の数え上げを行ったのでしょうか.

注)
230種の3次元の結晶空間群の数え上げの研究は,フェドロフ(露,ぺテルスブルグ大,鉱物学教授),シェンフリーズ(独,フランクフルト大,数学教授),バーロウ(英,ロンドンの実業家)により,1890-1895の間に,それぞれ互いに独立に完成しました.フェドロフの結果が完璧であったことは,3者の認めるところであり,3次元結晶空間群はフェドロフ群とも呼ばれています.

3次元の結晶空間を対象とする前に,2次元の結晶空間を対象にして,結晶空間(=離散的な周期空間,デジタル化された空間)の構造を記述する群論を十分に理解するのが良いと思います.それは,3次元やそれ以上の高次元にも対応できる応用力となります.

2次元の結晶空間で,同一の平行多辺形タイルで平面をタイル張りする(重なりもなく隙間もない)ことが,この課題のスタートとなります.

 

 

 

 

 

次に,1つのタイルを同価な部分に分割します.この分割は,タイルの対称性を使って,そのタイルの非対称要素と言われる同価部分に分割します.
1つのタイルを分割できる同価部分の数は,タイルの点群の位数に等しい数です.こうして分割された部分の形には対称性がなく,非対称要素と呼ばれます.表紙に掲載した平面のタイル張りができる8つの平行多辺形から出発します.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平行多辺形の同価部分への分割方法
これら80種類のタイルは,それぞれ,並進だけで平面を張り詰めることのできる平行多辺形です.着色した部分はそれぞれの平行多辺形の非対称部分で,1つの例外(15番)を除いて,そのタイルの点群の対称操作を非対称部分に作用させ,そのタイルの全体を作ることができます.

 

 

 

 

 

このタイル張りで生じる平面群は$$p2 \tilde{a}\tilde{b} $$

 

15番のタイルの場合には,濃い黄緑色に着色した非対称要素に,タイルの点群$$2mm$$の対称操作を作用させても,薄い黄緑色に着色した部分へ移動し重ねることができません.この移動には映進操作$$\tilde{a}$$が必要です.
今,タイルの並進で無限に広い2次元平面を張り詰めるので,映進操作も対称操作に含めることができます.

これらの図形の点群を調べると,点群が重複しているものがたくさんあります.全部で17種類の平面群に整理することができます.
注)15番のタイル張りは,以下の$$p2gg$$⑧に対応.
3次元結晶空間への発展を見る

 

▲群論基礎テキスト3

[定義]部分群subgroup: 
$$H$$が群$$G$$の部分群であるとは,次の条件1°,2°を満たすものである.
$$1 ^\circ $$ $$G \supset H$$

$$2 ^\circ $$ 群$$G$$の2項演算$$ \circ $$で,$$H$$が群をなす.

■$$H$$が群をなす条件は,次のどちらかと同値である:
$$2 ^\circ -1$$: $$a, b \in H$$$$ \to $$$$a \circ b \in H$$かつ$$b^{-1} \in H$$($$G$$が有限群ならば後者は不要) 
$$2 ^\circ -2$$: $$a, b \in H$$$$ \to $$$$a \circ b^{-1} \in H$$

[演習]条件$$2 ^\circ -1$$と$$2 ^\circ -2$$は同値であることを証明せよ.
■$$2 ^\circ -2$$$$ \to $$$$2 ^\circ -1$$の証明 
$$a, b \in H$$の条件は,$$b=a$$を選ぶと,$$a \circ a^{-1}=e \in H$$が成立つ.単位元が存在.
次に,$$e, b \in H$$から出発すると,$$e \circ b^{-1}=b^{-1} \in H$$が導かれる.$$b$$の逆元の存在.
最後に,$$a, b^{-1} \in H$$から出発すると,$$a \circ b \in H$$.
■$$2 ^\circ -1$$$$ \to $$$$2 ^\circ -2$$の証明
$$a, b \in H$$の条件から,$$b^{-1} \in H$$が成立つので,
次に,$$a, b^{-1} \in H$$から出発すると,$$a ^\circ b^{-1} \in H$$.
----- 
[定義]商群
商群に関する定理
----------------------------------------
準同型写像とは

---------------------------------------------- \\

 

 

 

 

 

 

 


写像$$\phi $$は,群$$\left( G, \circ , e, x^{-1} \right) $$から群$$\left( G', \bullet , e', x'^{-1} \right) $$の中への準同型写像とします.
[準同型定理]
(1) $$G$$の像$$\textrm{Im}\phi $$は,$$G'$$の部分群になる.
(2) $$\phi ^{-1}(e') \equiv \textrm{Ker}\phi $$は,$$G$$の正規部分群になる.これを写像$$\phi $$の核kernelとよぶ. 
(3) $$G$$の各元$$x$$の$$\textrm{Ker}\phi $$を法とする剰余類を$$\bar{x}$$とすると,剰余類$$\bar{x}$$ $$\to $$$$\phi (x)$$の写像は,
    商群$$G/\textrm{Ker}\phi $$から群$$G'$$中の$$\textrm{Im}\phi $$への同型写像になる.
(証明)
(1) $$^{ \forall }a', ^{ \forall }b' \in \textrm{Im}\phi $$ $$\to$$ $$(a')^{-1}b' \in \textrm{Im}\phi $$を証明する.
    $$^{ \exists }a, ^{ \exists }b \in G:a'=\phi (a), b'=\phi (b)$$
$$(a')^{-1}b'=\phi (a)^{-1}\phi (b)=\phi (a^{-1}b)$$
しかるに,$$a^{-1}b \in G$$であるから,$$(a')^{-1}b' \in \textrm{Im}\phi $$
(2) $$^{ \forall }u, ^{ \forall }v \in \textrm{Ker}\phi $$ $$\to$$ $$\phi (u)=\phi (v)=e'$$
$$\phi (u^{-1}v)=\phi (u)^{-1}\phi (v)=e'$$, ゆえに,$$u^{-1}v \in \textrm{Ker}\phi $$
よって,$$\textrm{Ker}\phi $$は$$G$$の部分群である.

$$^{ \forall }a \in G$$に対して,$$\phi \left( aua^{-1} \right) =\phi (a)\phi (u)\phi (a)^{-1}=e'$$
ゆえに,$$aua^{-1} \in \textrm{Ker}\phi $$
よって,$$\textrm{Ker}\phi $$は$$G$$の正規部分群である. 
(3)  $$^{ \forall }x_{1} \in \bar{x}$$に対して,$$^{ \exists }u \in \textrm{Ker}\phi $$があり,$$x_{1}=xu$$
$$\phi (x_{1})=\phi (x)\phi (u)=\phi (x)e'=\phi (x)$$
    一つの剰余類に属する$$G$$の元の写像の行先は同一
$$^{ \forall }\bar{x}, ^{ \forall }\bar{y} \in G/\textrm{Ker}\phi $$(群)
$$\mit\Phi (\bar{x})\mit\Phi (\bar{y})=\mit\Phi (\bar{xy})=\phi (xy)=\phi (x)\phi (y)$$
$$\mit\Phi $$ は,$$G/\textrm{Ker}\phi$$ $$ \to $$$$\textrm{Im}\phi $$の準同型写像であることがわかったので,
     これが,同型写像であることを証明するには.単射であること:
     $$\mit\Phi (\bar{x})=\mit\Phi (\bar{y})$$ $$\to$$ $$\bar{x}=\bar{y}$$であることをいう.
$$\phi (x^{-1}y)=\phi (x)^{-1}\phi (y)=e'$$ ($$ \because \phi (x)=\phi (y)$$)
ゆえに,$$x^{-1}y \in \textrm{Ker}\phi $$,つまり,$$y=x \cdot \textrm{Ker}\phi $$ , $$\bar{y}=\bar{x}$$


[同型定理]
群$$G$$において,$$H$$を部分群とし,$$N$$を正規部分群とする.
このとき,
(1) $$HN(=NH)$$は$$G$$の部分群をなす.
(2) $$N$$は$$HN$$の正規部分群になり,
    $$H \cap N \equiv D$$は$$H$$の正規部分群となる.
(3) $$HN$$中の$$N$$に関する剰余類は,$$hN$$の形に書かれる.
  そして,これを$$H$$中の$$D$$に関する剰余類$$hD$$に写すとき,
 商群$$HN/N$$から,商群$$H/D$$の上への同型が得られる:
 $$HN/N \cong H/D$$
(証明)
( 1) $$(HN)^{-1}(HN)=N^{-1}H^{-1}HN=NHN=HNN=HN$$,$$HN \subset G$$は群.
$$N, H$$はそれぞれ群であるので$$N^{-1}=N, H^{-1}H=H$$,および,$$N \vartriangleleft G$$を用いた.
( 2) $$HN \vartriangleright N$$は自明.2つの部分群の共通集合は群をなすので$$D$$は群.
$$hDh^{-1} \subset hHh^{-1}=H$$,かつ,$$hDh^{-1} \subset hNh^{-1}=N$$
ゆえに,$$hDh^{-1} \subset D$$,$$H \vartriangleright D$$である.
( 3)剰余類の型$$hN$$は自明.
$$h_{1}N=h_{2}N \Longleftrightarrow h_{1}^{-1}h_{2}N=N \Longleftrightarrow \left. \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
& h_{1}^{-1}h_{2} \in N \\[0mm]
& h_{1}^{-1}h_{2} \in H
\end{array} \right\}  \Longleftrightarrow h_{1}^{-1}h_{2} \in D \Longleftrightarrow h_{1}D=h_{2}D$$
同型写像: $$h_{i}N \longrightarrow h_{i}D$$

 

▲群論基礎テキスト2

[定義]剰余類 
群$$G$$とその部分群$$H$$があるとき,
$$a \in G$$に対し,$$aH=\left\{ ah;h \in H \right\} $$を,$$H$$に関する$$a$$の左剰余類という.
$$H$$が正規部分群であれば,左剰余類と右剰余類は一致する:$$aH=Ha$$
群$$G$$がAbel群なら,そのすべての部分群は正規部分群であり,左剰余類と右剰余類は一致する.
-------------------------------------------------------
[定義]同値関係
群$$G$$と部分群$$H$$があり,$$a, b \in G$$のとき,$$a^{-1}b \in H$$ならば,$$a,b$$は同値$$a$$~$$b$$とする.
この同値関係で,類別を行ったものが,左剰余類$$b \in aH$$である.
集合$$M$$の元に,同値関係$$ \sim $$があれば,$$M$$の同値類別$$M/ \sim $$(直和分割)がただ一つの方法でできる.
同値関係とは,次の同値律を満たす関係である:

1° 反射律,$$a \sim a$$
2° 対称律,$$a \sim b$$ → $$b \sim a$$
3° 推移律,$$a \sim b$$,かつ,$$b \sim c$$ → $$a \sim c$$
-------------------------------------------------------
[定理1] 
$$a, b \in G$$のとき,群$$G$$の部分群$$H$$の左剰余類が$$aH=bH$$であることと,$$a^{-1}b \in H$$とは同値である.
(証明)
$$b \in bH=aH$$であるから,$$a^{-1}b \in H$$
逆に,$$a^{-1}b=h_{1} \in H$$であるなら,$$b=ah_{1} \in aH$$
もし,$$^{ \forall }b' \in bH$$をとれば,$$b'=bh$$となる$$^{ \exists }h \in H$$がある.
ゆえに,$$b'=ah_{1}h \in aH$$である.従って,$$bH \subset aH$$.
$$H$$は群であるから,$$a^{-1}b \in H$$なら,$$\left( a^{-1}b \right) ^{-1}=b^{-1}a \in H$$である.
ゆえに,$$^{ \exists }h_{1} \in H$$が存在し,$$b^{-1}a=h_{1}$$,$$a=bh_{1}$$.
もし,$$^{ \forall }a' \in aH$$をとれば,$$a'=ah$$となる$$^{ \exists }h \in H$$がある.
ゆえに,$$a'=bh_{1}h \in bH$$である.従って,$$aH \subset bH$$.
$$aH=bH$$が結論される.

[定理2]
$$aH \neq bH$$ならば,$$aH \cap bH= \phi $$
(証明)
$$c \in aH \cap bH$$とする.
$$c=ah_{1}=bh_{2}$$となる適当な$$^{ \exists }h_{1}, ^{ \exists }h_{2} \in H$$が存在する.ゆえに,$$a^{-1}b=h_{1}h_{2}^{-1}$$
$$H$$は群であるから,$$a^{-1}b \in H$$となる.定理1により,$$aH=bH$$.

[定理3]
$$G=a_{1}H \cup a_{2}H \cup \cdots \cdots \cup a_{n}H$$, $$^{ \forall }a_{i} \in G$$, ($$i=1,2, \cdots ,n$$)$$n$$は$$G$$の位数.
しかし,適当な$$a_{i}$$を$$r$$個選び,$$r$$個の直和で表現できる.$$r$$は一意に決まる. 
$$G=a_{1}H+a_{2}H+ \cdots \cdots +a_{r}H$$

[演習] 
■定理3で,直和分解の数$$r$$は一意であることを証明せよ.
■$$G=Ha_{1}+Ha_{2}+ \cdots \cdots +Ha_{r}$$ならば,$$G=a_{1}^{-1}H+a_{2}^{-1}H+ \cdots \cdots +a_{r}^{-1}H$$であることを証明せよ.
(証明)
$$^{ \forall }c \in G$$をとると,$$^{ \exists }a_{i}$$があり,$$c^{-1} \in Ha_{i}$$.すなわち,$$^{ \exists }h_{1}$$があり,$$c^{-1}=h_{1}a_{i}$$
$$c=a_{i}^{-1}h_{1}^{-1} \in a_{i}^{-1}H$$. ゆえに,このような$$r$$個の剰余類で表現できる.
次に,$$Ha_{i} \cap Ha_{j}= \phi $$ → $$a_{i}^{-1}H \cap a_{j}^{-1}H= \phi $$を証明する.
対偶の証明:
$$a_{i}^{-1}H \cap a_{j}^{-1} \neq \phi $$ならば,定理2により,$$a_{i}^{-1}H=a_{j}^{-1}H$$と完全に重なる.
$$ \forall c \in a^{-1}_{i}H=a_{j}^{-1}H$$なので,$$c=a_{i}^{-1}h_{3}=a_{j}^{-1}h_{4}$$と表現でき,$$c^{-1}=h_{3}^{-1}a_{i}=h^{-1}_{4}a_{j}$$
ゆえに,$$c^{-1} \in Ha_{i}=Ha_{j}$$

[定義]部分群の指数
群$$G$$の位数を$$g$$,部分群$$H$$の位数を$$h$$とする.$$g/h=r$$.(直和分解の剰余類の数)
部分群$$H$$の位数は群$$G$$の位数の約数である[Lagrangeの定理].
$$r$$を部分群$$H$$の群$$G$$における指数という.

[定義] 正規部分群
$$^{ \forall }a \in G$$に対して,$$aHa^{-1}=H$$(あるいは,$$aH=Ha$$)であるとき,部分群$$H$$は正規であるという.$$H$$が群$$G$$の正規部分群であることを,$$G \vartriangleright H$$と標記する.
・群$$G$$がAbel群ならば,すべての部分群は正規である.
[定義]2つの自明な正規部分群(自分自身および,$$\left\{ e \right\} $$)以外に,正規部分群を持たない群を,「単純群」という.

2つの左剰余類の積に関して,$$aH \cdot bH=abH$$が成立する.
[演習]剰余類の代表元が異なっても,$$aH=a'H, bH=b'H$$ → $$abH=a'b'H$$が成立する.
(証明)
$$abH=a(bH)=a(b'H)=aHb'=a'Hb'=a'b'H$$
-------

[定義]剰余群(商群)factor group $$G/H$$
$$G \vartriangleright H$$のときに,剰余類全体は,$$H$$を法とする群$$G/H$$をなす.
[演習]$$G/H$$は群をなすこと(以下の条件)を確認せよ.
1°$$\left( aH \cdot bH \right) \cdot cH=aH \cdot \left( bH \cdot cH \right) $$
2°$$eH=H$$が単位元
3°$$aH$$の逆元は,$$a^{-1}H$$

[定義]中心化群
群$$G$$の部分群$$S$$があり,$$S$$のすべての元と可換な$$G$$の元の集合を$$Z(S)$$と標記し,$$S$$の中心化群という.$$S=G$$のときは,$$Z(G)$$を$$G$$の中心という.$$Z(G)$$は可換群である.
[定理]$$Z(S)$$は$$G$$の部分群である.
(証明)
$$x, y \in Z(S)$$ $$\Rightarrow$$ $$xy^{-1} \in Z(S)$$を証明する.
$$^{ \forall }s \in S$$(部分群)に対して,$$xs=sx$$と$$s^{-1}y=ys^{-1}$$すなわち,$$y^{-1}s=sy^{-1}$$から出発する.
$$xy^{-1}s=xsy^{-1}=sxy^{-1}$$,ゆえに,$$xy^{-1} \in Z(S)$$.

[定義]共役部分群,共役元
群$$G$$の部分群$$H$$があり,$$^{ \exists }a \in G$$に対して得られる$$a^{-1}Ha$$を$$H$$の共役部分群という.
[演習]$$H$$が部分群であるとき,$$a^{-1}Ha$$は群となることを証明せよ.
(証明) $$a^{-1}h_{1}a, a^{-1}h_{2}a \in a^{-1}Ha$$のときに,
$$\left( a^{-1}h_{1}a \right) \left( a^{-1}h_{2}a \right) ^{-1}=a^{-1}h_{1}aa^{-1}h_{2}^{-1}a=a^{-1}h_{1}h_{2}a \in a^{-1}Ha$$
単位元$$(a^{-1}h_{1}a)(a^{-1}ea)=a^{-1}h_{1}a$$,逆元$$(a^{-1}h_{1}a)(a^{-1}h_{1}^{-1}a)=a^{1}ea$$も存在することは,$$H$$が群であるから当然である.

[定義]共役集合

群$$G$$の部分集合$$S$$に対して,$$a \in G$$で変形した$$S$$の共役集合$$a^{-1}Sa$$が,自分自身に等しい$$a^{-1}Sa=S$$(自己共役のとき),$$G$$の元$$a$$からなる集合$$N(S)=\left\{ a \in G:a^{-1}Sa=S \right\} $$は,$$G$$の部分群をなす.
[演習]$$S$$の自己共役集合を作る$$N(S)$$は群をなすことを証明せよ.
(証明)
$$a \in N(S)$$ならば,$$a^{-1} \in N(S)$$となる.従って,$$a, b \in N(S)$$なら,$$ab^{-1} \in N(S)$$となり群の条件を満たす.

[定義]正規化群
$$H$$が$$G$$の部分群であるとき,$$H$$の自己同型を作る$$N(H)$$を正規化群[すべての代表元系の作る群]という.

正規化群$$N(H)$$のなかで,$$H$$は正規部分群である:$$N(H) \vartriangleright H$$と言えるか.

 これを証明せよ.

▲群論基礎テキスト1

 

第1章 群の概念

[定義]
$$G=\left\{ a, b, c, \cdots \right\} $$ 集合$$G$$が群groupと呼ばれるのは,次の公理を満たす場合である: 
0) $$a, b \in G$$,  $$a \circ b \in G$$ 2項演算が定義される
1) $$\left( a \circ b \right) \circ c=a \circ \left( b \circ c \right) $$ 結合律
2) $$(a \circ e=)e \circ a=a$$        $$e$$:単位元,左単位元
ある元$$e$$(ただ一つ)が存在し,すべての$$ \forall a \in G$$に対して$$e \circ a=a$$が成り立つ.
3) $$ \forall a \in G$$に対して, $$(a \circ x=)x \circ a=e$$となる$$x$$が(ただ一つ)存在する.
$$x$$:$$a$$の逆元,左逆元
1)~3)を群の公理という.

[演習]群の公理の中で,”ただ一つ”というのは公理に含めなくてもよい(導くことができる).
■単位元が2つあったとし,それらを$$e, f \in G$$とする.
$$ \forall a \in G$$, $$a \circ f=f \circ a=a$$  ①
$$a \circ e=e \circ a=a$$ ②
$$e=f \circ e=e \circ f=f$$
①      ② 
■$$a$$の逆元が2つあったとし,それらを$$x, y \in G$$とする.
$$y \circ a=a \circ y=e$$, $$x \circ a=a \circ x=e$$
$$\left( y \circ a \right) \circ x=e \circ x=x$$
$$y \circ \left( a \circ x \right) =y \circ e=y$$
(注)これらの証明で,左単位元と右単位元(左逆元と右逆元)は同一ということが使われている.

[演習]
■  $$(a^{-1})^{-1}=a$$
(証明) $$a \circ a^{-1}=a^{-1} \circ a=e$$
$$(a^{-1}) \circ (a^{-1})^{-1}=(a^{-1})^{-1} \circ (a^{-1})=e$$
$$(a^{-1})$$の逆元は一意であるから,$$(a^{-1})^{-1}=a$$
■ $$\left( a \circ b \right) ^{-1}=b^{-1} \circ a^{-1}$$
(証明) $$(a \circ b)^{-1} \circ (a \circ b)=e$$
$$(b^{-1} \circ a^{-1}) \circ (a \circ b)=e$$

[定義]
$$G$$が可換群(Abel群) $$ \forall a, \forall b \in G$$, $$a \circ b=b \circ a$$
このときの演算$$ \circ $$は,乗法と呼ばずに加法$$+$$と呼ぶ.加法の単位元は”$$0$$”と呼ぶ.
無限群と有限群: 群$$G$$の元の数[群の位数]が無限か有限かによる.

[演習]
群の左単位元はまた右単位元でもある. $$^{ \exists }e, ^{ \forall }a$$: $$e \cdot a=a$$ → $$a \cdot e=a$$
元$$a$$の左逆元はまた右逆元でもある.  $$^{ \exists }x, ^{ \forall }a$$: $$x \cdot a=e$$ → $$a \cdot x=e$$
(証明) 
$$e \cdot e=e$$ → $$e$$は$$e$$の左逆元であり,かつ,右逆元であることを意味する.
$$a \cdot e=a \cdot (e \cdot a) \cdot a^{-1}=a \cdot a \cdot a^{-1}=a$$

★群の例

1. 整数$$Z=\left\{ 0, \pm 1, \pm 2, \cdots \right\} $$: 加法群をなす.
2. 実数$$R$$: 加法で群
3. $$R-{0}$$: 乗法で群

4. 正3角形の3次の対称群(置換群)

 

 

 

 

対称操作の表

 



■乗積表
鏡映面$$\sigma _{1}, \sigma _{2}, \sigma _{3}$$は,図形のそれぞれの頂点に固定されて変換されるとして,群の乗積表を作りなさい.

 

 

 

 

 

 


乗積表

乗積表からわかること:
・群を作る$$ \longrightarrow $$ 3次の対称群(有限群,位数は6) 
・可換群(Abel群)ではない. 

5.$$n$$次正則行列の集合
6. $$n$$次直交行列 $$O(n)$$
$$A \in O(n)$$のとき,$$\left| \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
A
\end{array} \right| $$を求めよ.$$\left| \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
A
\end{array} \right| =\textrm{det}A$$は行列式の記号
$$\left| \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
^{t}AA
\end{array} \right| =\left| \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
E
\end{array} \right| $$ $$\Longrightarrow$$ $$\left| \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
A
\end{array} \right| ^{2}=1$$ $$\Longrightarrow$$ $$A= \pm 1$$
これを回転群と呼ぶ. 

■$$A \in SO(2)$$のとき,適当に$$\theta $$をとって,
$$A=\left( \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
\textrm{cos}\theta & -\textrm{sin}\theta \\[0mm]
\textrm{sin}\theta & \textrm{cos}\theta
\end{array} \right) $$ と書くことができる.

[定義] 元の位数$$r$$
元$$a$$の位数$$r$$とは,$$a^{r}=e$$となる最小の自然数である.
このような$$r$$がないときは,元$$a$$は自由元である. 

----------------------------- 
集合の2元間に或る2項演算$$ \circ $$が定義され,その演算$$ \circ $$に関して,或る「構造」を持つ集合を代数系といいます.
演算$$ \circ $$は結合法則 $$\left( x \circ y \right) \circ z=x \circ \left( y \circ z \right) $$が成立つ.
演算$$ \circ $$について,結合法則だけが存在する代数系を「半群」という.
-----------------------ーーーーーー 
[定義]群の軌道

群$$\mit\Gamma $$を,集合$$X$$上に作用する「変換群」とします.
群$$\mit\Gamma $$による$$a \in X$$の軌道とは,$$\mit\Gamma (a)=\left\{ \sigma (a)|\sigma \in \mit\Gamma \right\} $$.
$$X \ni a, b$$に対して,$$b$$が$$a$$の軌道に含まれるという関係は,$$X$$における同値関係になる.
軌道は同値類である.集合$$X$$を軌道で類別できる.
$$X$$の中に軌道がただ一つしかない場合:
つまり,$$^{ \forall }x, ^{ \forall }y \in X$$に対して,$$^{ \exists }\sigma \in \mit\Gamma $$があり,$$\sigma (x)=y$$のとき,$$\mit\Gamma $$は推移的という.
[演習]軌道に属するという関係は,同値関係であることを確認せよ.
$$a$$に軌道に$$b$$が含まれるとせよ:$$b \in \left\{ \sigma (a)|\sigma \in \mit\Gamma \right\} $$であるから,$$b=\sigma _{i}(a)$$となる$$^{ \exists }\sigma _{i} \in \mit\Gamma $$がある.$$\mit\Gamma $$は群であるから,$$\sigma _{i}^{-1} \in \mit\Gamma $$があり,$$\sigma _{i}^{-1}(b)=a$$となり,$$b$$の軌道に$$a$$が含まれる.
ゆえに,$$\mit\Gamma (a)=\mit\Gamma (b)$$.これは,対称律を保証する.反射律,推移率も同様に成立する.






 

 

▲群論基礎

■群という代数系
---------------------------- 
[定義] 集合$$G$$が次の4つを満足するとき,集合$$G$$は群と呼ばれる.
1° 2項演算の存在: $$^{ \forall }a, ^{ \forall }b \in G \to a \circ b \in G$$
2° 結合法則: $$a \circ (b \circ c)=(a \circ b) \circ c$$
3° 単位元の存在: ある元 $$e \in G$$(ただ一つ)が存在し,
  $$a \circ e=e \circ a=a$$が,すべての $$a \in G$$に対して成り立つ.
4° 逆元の存在: 各 $$a \in G$$に対して,
  $$x \circ a=a \circ x=e$$となる $$x \in G$$が,いつも(一意に)存在する.

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ある集合を考える.この集合の元間に,ある演算$$ \circ $$(2項演算)が定義されて,その演算について,ある"構造"を持つ集合を,代数系($$ \circ $$系)という.群は一つの代数系の例である.
演算$$ \circ $$について結合的(1°,2°のみ成り立つ)である代数系は半群という.
(例題)正3角形に対する対称操作の乗積表を完成せよ.
ただし,$$ \bigtriangleup 123$$を動かしても,$$\sigma _{1},\sigma _{2},\sigma _{3}$$の位置は変わらないとする.

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

[定義] 元の数を群の位数(order)という.
元$$a$$の位数(order)とは,$$a^{n}=e$$となる最小の$$n$$のことである.
[定義] 部分群: $$H$$は$$G$$の部分群であるとは,
$$H \subseteq G$$で,$$H$$は$$G$$と同じ演算で群を作る.

群$$G$$の部分群$$H$$には,群$$G$$と単位元のみが作る群$$E$$が必ずある.
特に,$$E \subset H \subset G$$なら$$H$$を真部分群という.
剰余類分解
$$G$$を部分群$$H=\left\{ E,\sigma _{1} \right\} $$の剰余類で展開しよう.

2次元空間群

晶系 単位胞 ブラベー格子   非座標式標記  座標式標記 点群 空間群
  6方                          
    
   
   
             

 

晶系 ブラベ格子 点群 空間群
六方
$$6mm$$
 正3角形    

正方

$$4mm$$

     

長方

$$2mm$$

 
     
     

斜方

$$2$$

     

2次元のブラベ格子

2次元のバラベー格子は5種類

\documentclass[a4paper,10pt]{jarticle}

\usepackage[dviout]{graphicx}

\begin{document}

$$\begin{array}{|c|c|c|c|c|}
\hline
単位胞の形 & 晶系 & 非座標式表示 & 座標式表示 & 格子 \\[0mm]
\hline
正方形 & 正方格子 & \left( a:a \right) & p & \begin{minipage}[b][79pt]{77pt}
\includegraphics[width=77pt,height=79pt]{2次元結晶学_001.bmp}
\end{minipage}
\\[0mm]
\hline
正3角形 & 6方格子 & \left( a/a \right) & p & \begin{minipage}[b][86pt]{89pt}
\includegraphics[width=89pt,height=86pt]{2次元結晶学_002.bmp}
\end{minipage}
\\[0mm]
\hline
面心長方形(菱形) & 直方面心格子 & \left( c/b:a \right) & c & \begin{minipage}[b][78pt]{80pt}
\includegraphics[width=80pt,height=78pt]{2次元結晶学_003.bmp}
\end{minipage}
\\[0mm]
\hline
長方形 & 直方格子 & \left( b:a \right) & p & \begin{minipage}[b][84pt]{81pt}
\includegraphics[width=81pt,height=84pt]{2次元結晶学_004.bmp}
\end{minipage}
\\[0mm]
\hline
斜交4辺形 & 一般格子 & \left( b/a \right) & p & \begin{minipage}[b][73pt]{88pt}
\includegraphics[width=88pt,height=73pt]{2次元結晶学_005.bmp}
\end{minipage}
\\[0mm]
\hline
\end{array}$$

\end{document}

■2次元結晶点群

2次元結晶空間の中の対称操作で,1点を不動の特異点にする対称操作の作る群は10種類.
$$1, m, 2, 2mm, 3, 3m, 4, 4mm, 6, 6mm$$

-------------------------------------

$$2mm=2⊗m$$
$$3m=3⊙m$$
$$4mm=4⊙m$$
$$6mm=6⊙m$$

$$6=3⊗2$$
$$4=2○4(mod2)$$

 --------------------------------
$$6mm\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 6\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 3 \\[0mm]
\vartriangleright 2
\end{array} \right. \\[0mm]
\supset m
\end{array} \right. \\[0mm]
\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 3m\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 3 \\[0mm]
\supset m
\end{array} \right. \\[0mm]
\supset 2
\end{array} \right. \\[0mm]
\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 2mm\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 2 \\[0mm]
\vartriangleright m
\end{array} \right. \\[0mm]
\supset 3
\end{array} \right.
\end{array} \right. $$


$$4mm\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 4\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 2 \\[0mm]
○4(mod2)
\end{array} \right. \\[0mm]
\supset m
\end{array} \right. \\[0mm]
\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 2mm\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 2 \\[0mm]
\vartriangleright m
\end{array} \right. \\[0mm]
\supset 2
\end{array} \right.
\end{array} \right. $$


$$3m\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 3 \\[0mm]
\supset m
\end{array} \right. $$


対称群を系統的に見る
$$\begin{array}{|c|c|c|c|c|}
\hline
\begin{array}{@{\,} c @{\, } }
次元数 \to \\[0mm]
周期軸数 \downarrow
\end{array} & 0 & 1 & 2 & 3 \\[0mm]
\hline
0 & G_{0,0}=1 & G_{1,0}=2 & G_{2,0}=10 & G_{3,0}=32 \\[0mm]
\hline
1 & \times & G_{1,1}=2 & G_{2,1}=7 & G_{3,1}=75 \\[0mm]
\hline
2 & \times & \times & G_{2,2}=17 & G_{3,2}=80 \\[0mm]
\hline
3 & \times & \times & \times & G_{3,3}=230 \\[0mm]
\hline
\end{array}$$


2次元のブラベー格子
2次元のバラベー格子は5種類