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平面群

片面のみの連続平面

これまでは,特異平面を持つ片面の離散的(点の集合)な2次元周期図形(ネットワークパターン)のみを扱いました.これらの図形の裏側は表側とは異なると仮定しているため,対称変換によって表面と裏面を入れ替えることはできません.
今回扱う2次元の連続平面(つまり通常の平面)でも,表裏の2面が互いに同様な平面で,表裏がある場合と,表だけで裏のない片面のみ(極性)の平面の場合があります.
一見すると,これらの議論はばかげており,連続な無限平面図形(あるいは空間)では,ユークリッド平面と異なる平面を考えるのは無駄であるようにも見えます.しかし,私たちは,特性(特に,対称性)が互いに異なる平面の無限集合を考えるだけでなく,実際に作ることもできます.

この目的のために,すべての実表面は,一般に異なる物理特性を持つ2つの物体を分離する境界であるという事実を受け入れる必要があります.


■もっとも理解し易く,もっとも対称的な空間は,均一(一様)なもので,2次元空間の片面のみの面では,表面を均一な一色に塗り,裏面を黒く塗った平坦な厚紙のイメージです.このような図形の任意の点は,$$∞・m$$の対称性であることは容易に確認できます.極性対称軸$$∞$$は,表面に垂直に,至る点に通っていて,垂直な無数の対称面$$m$$があります.均一な片面の平面の対称記号は,対称性$$∞・m$$の点を連続並進$$(a_{0}:a_{0})$$したものだから,$$(a_{0}:a_{0}):∞・m$$と書けます.

■同様にして,均一な片面のみの面の他の対称類は,対称性$$∞$$の点を連続並進して得られます.
この表面の点には対称面がありません.この新しい平面空間を視覚化するには,両面の色が異なるように塗られた厚紙平面のすべての点で,一方向に均一に回転するのをイメージするだけで十分です.点の回転方向には2つの可能性があるため,このような空間には,左手型と右手型の2つのエナンショモルフ(対掌体)があります.新しい平面の良いモデルは,同じ方向に回転する円盤をランダムかつ均一に分布させたものです(以下の図).円盤とそれらの間隔は十分小さく,個々の円盤を要素として分解できない観測者には,多くの要素の振る舞いの総和として効果を観測するしかありません.これは均質な理想平面でありその対称性を$$(a_{0}:a_{0}):∞$$ と記します.

 


■この片面平面の例から,対称性の低い平面に進むのは容易です.
この目的には,対称性$$n・m$$あるいは$$n$$の片面ロゼットの同価な図形の無限集合を用いるれば十分です.それらの方位を揃えて平面に配置し,図形をランダムかつ均一に分布させる.図形のサイズと間隔をゼロに漸近させると,極限で,対称性$$(a_{0}:a_{0}):n・m$$,あるいは,$$(a_{0}:a_{0}):n$$をもつ均質平面を得ます.
[訳者注)$$∞$$回転軸は,対称性の極限で存在する.対称性を低下させたn回回転軸も存在する]

もし,初めのモチーフ図形に片面長方形,あるいはひし形をとれば,対応する媒質のモデルは以下の図のようになります.この構造の個々の要素を見分けられない観測者には,任意に選んだ各点Oは,長方形の対称性2・mをもちます.なぜなら,どちらの図形も,点Oの周りの180°回転,あるいは,平面$$m_1$$,$$m_2$$による鏡映は,全体として自分の上に自分を変換するからであります.

 

連続的な片面の例をもう一つ挙げてみましょう.両面を異なる色に塗った厚紙があるとします.平面上の直線に沿って一様な動きます.外部の観察者から見ると,厚紙は静止しているが,その対称性を調べれば,厚紙に垂直で,その運動方向に平行な,互いに平行な対称面の集合が存在することはすぐにわかる.この平面には,2次元連続体に常に存在する並進軸の他には対称性の要素は存在しない.
ここで,上記の考察が適用できる物理的に実在する平面や表面について,少し述べましょう(もちろん,自然界には理想的な平面は実在しません).
滑らかな水の表面(例えば,光線を反射する能力を考慮した場合)は完全に等方性であり,明らかに対称性$$(a_{0}:a_{0}):∞・m$$を持っています.
光の偏光面を回転させることができる糖液の表面は,対称性$$(a_{0}:a_{0}):∞$$になります.
結晶の表面は,個々の原子(イオン、分子)の配置を考えるならば,不連続(離散的)な構造の平面パターンですが,その光学的,機械的性質を研究するならば,均質な平面として扱えます.
17種の対称性類が存在する(離散的な)平面パターンとは対照的に,片面平面連続体の対称類の数は非常に多い.これらの連続体の対称性記号を2列の無限列の形で以下に掲載します.

 


系列の最後の2つだけが完全に等方な平面に相当しています.他の記号は非等方の平面を記述します.記号$$(a_{0}:a_{0}):1$$はどの点も,並進軸以外にいかなる対称要素も持たない非対称平面に対応します.

片面のみの半連続平面

ここでも,片面しかない平面を扱います.
半連続平面という概念がここで登場します.これは,例えば,横軸に沿っては連続的で,縦軸に沿っては離散的(デジタル化された)な平面のことです.最もシンプルな片面のみの半連続平面の例は,紙上に描かれた平行なストライプ(横縞)の系です.ストライプの断面の中点は明らかに片面のロゼット$$2・m$$の対称性を持っています.
半連続平面全体は,水平軸$$b_{0}$$に沿って,そのような断面を連続平行移動するのと,軸$$b_{0}$$に垂直な軸$$a$$に沿って,有限(とびとびの)平行移動することで得られます.したがって,図全体の対称性記号は$$(b_{0}:a):2・m$$と書くことができます.

1対のストライプをストライプ1つに置き換えても,図は同じ対称性を持っています.もし,等距離のすべてのストライプが同じ方向性を持っている場合,対称性$$(b_{0}:a):m$$の図形になります.
有向「2重ストライプ」の系は同じ対称性を持っています.

半連続平面の次の類は,構造要素としての幅広のストライプと幅狭のストライプで構成されたストライプです.
この断面の対称性は前の場合と同様に$$m$$ですが,対称面は垂直でストライプに平行ではないため,図全体の対称記号は,$$(b_{0}:a)・m$$になります.ただし, 記号・と:は,対称要素(特異平面に垂直)が,シンボル内の最も近い並進軸に,平行か,または垂直かをそれぞれ意味しています.

第4の対称類は,異なる幅の有向二重ストライプで構成されている場合で,その結果,縦対称面と横対称面の両方が構造からなくなります.これらのストライプの対称記号は$$(b_{0}:a):1$$,または,より一般化して,$$(b_{0}/a)1$$です.

第5の対称類は,隣接する有向2重ストライプが,2回対称軸によって相互に関連するものです.この類の対称記号は$$(b_{0}:a):2$$,または,より一般化して,$$(b_{0}/a):2$$です.

第6の対称類は,隣接する有向2重ストライプが,映進面$$~a$$によって相互に関連付けられています.対称記号は$$(b_{0}:a)・~a$$と書くことができます.

片面のみの半連続平面の第7で最後の対称類は,記号に,垂直な映進面~aを追加することによって5番目から,または水平面$$m$$を追加することによって6番目から得られます(鏡映面$$m$$は$$2$$回軸を通過することに注意しよう).
対応する対称記号は,$$(b_{0}:a)・a:m$$,あるいは,$$(b_{0}:a):2・m=(b_{0}:a):2・a$$になります.

■まとめ:片面のみの半連続平面のすべての対称記号を以下の表の左端の列に書き出します.これらのうちで連続移動軸[記号$$b_{0}$$]を取り消し[$$b_{0}$$軸から下付き文字0を削除する]離散的移動にすると,片面のみの帯の対称性7種に帰着します.
したがって,片面のみの半連続平面は,無限の幅に引き出された通常の帯,あるいは,1つの連続した並進軸を持つ平面パターン(基本並進が無限に小さい)に他なりません.

 

対称性理論の歴史

対称性の理論は,実際にどのように発展してきたのだろうか?
この分野の歴史を見ると,純粋に幾何学的な側面に限っても,長期間かけて,対称性の概念が大きく変化してきたことがわかる.
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結晶点群の対称要素は:対称心;2,3,4,6回対称軸;回映軸;対称面;
結晶空間群の対称要素では,これらに加えて:並進;映進面;らせん軸
があり,これらの対称要素の集合が群(結晶点群,結晶空間群)を作る.
しかし,対称変換の要素をなぜこれらに決めたのでしょうか.その発展の歴史を振り返ります.
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■ 始めは,反射(鏡映)のみを対称操作とみなした.

当初,研究者たちは幾何学的形態の対称性を,対称面による反射(鏡映)のみに限定していた.そのため,対称軸があっても鏡面がない図形は非対称とされました.また,単純回転軸を対称要素に加えたときも,回映軸を持つ図形は対称性のある図形の範疇に入りませんでした.これらの対称要素はすべて,有限図形の対称類を構築するために使用されました(Hessel, 1830; Gadolin; 1867)が,無限図形の対称性を記述するには不十分であることが判明しました.並進,らせん回転,映進の変換と,これらの操作に対応する新しい対称要素を導入する必要がありました.

■ 第2種の対称変換を対称操作から除外する流派
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図形を変形せず剛体のように,回転,鏡映する対称変換は,直交行列で表現できます.その行列式は±1ですが,+1のものを第1種,-1のものを第2種といいます.第2種は,鏡映のように座標系を裏返す変換で,3次元の空間で+1の運動を-1の運動に変換するには4次元空間が必要です.例えば,右手と左手は鏡映対称で互いに一致させることができますが,実際に3次元空間内の+1の対称操作をしても,右手を左手に一致させることはできません.
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このように対称性の概念が大幅に拡張されたことで,対称性理論から第2種の変換(対称面での鏡映,回映,映進)を除外するという正反対の傾向が生まれました. この傾向の代表者は,Jordan(1869)とSohnckです.
また,対称性の研究において,ある種の対称面,単純回転軸,有限の平行移動を排除する妥協的な試みもありました(Bravais, 1850).

■ 結晶点群と結晶空間群が完成

Fedorov (1891) と Schénflies (1891) は,最終的にすべての対称操作を統合しましたが,Jordanの無限小の運動 (並進と回転) は除外しました.このような操作は,彼らが研究対象にしている結晶の対称性と明らかに矛盾ると考えたからです.

そこで,限界対称性類にも特別な注意を払うことで,この除外されたギャップの解消をねらいます.

第1種と第2種の対称操作は,一見,非常に異なるように見えます.対称変換の概念に統合されたのだが,多くの研究者には,合同と鏡像の組み合わせがあまりにも人工的に見えるため,対称図形構築の統一原理を見出そうと注力しました.この問題に対する最も単純な解決策は Wulff(1897)とViola(1904)によって与えられました.科学の歴史ではよくあることですが,彼らは,対称面を基本的な対称要素として使うという最初のアイデアに戻ったのです.二人とも,3次元空間の有限図形のすべての対称変換は,3つ以下の平面(それらは対称面でなくても)での連続した反射(鏡映)に帰着できるということを証明しました.
WulffとViolaのアイデアを無限図形にも拡張すると,我々が認めたタイプの任意の対称変換は,最大4つの平面(それ自体は対称面である必要はない)による図形の引き続く反射に置き換えることができます(Boldyrev, 1907).

実のところ,この方法は,N.V.Belovが230の(Federov)空間群を導出したアルゴリズムに用いたものである(N.V.Belov,1951).

以下の図を参照ください:

 

 

 

 

 

 

 


●ある軸を中心に角度αだけ回転することは,その軸を通り,互いに角度α/2をなす2つの平面での引き続く反射(鏡映)に等価である.
●並進aは,距離a/2離れた平行な平面での引き続く2回の反射に等価である.
●回映は回転と反射からなり,3つの平面での引き続く反射に等価となる:2つの平面は回転軸で交差し,残りの平面は回転軸に垂直.

●映進面は,反射と並進からなり,3つの平面での引き続く反射に等価となる:2枚は平行で,3枚目は始めの2枚に垂直.
●らせん運動は,回転と並進の2つの動きに分解でき,4つの平面での引き続く反射に相当します:2枚は回転軸に沿って角度α/2で交差し,残りの2枚は互いに平行で,最初の2つの平面に直交する.

多数の反射を引続き繰り返しても,上に述べた操作 (対称面での1回反射も含む) と結果が変わらないことは,非常に簡単に示すことができます.また,平面での連続した反射によって,直線は直線に変換され,それらの間の角度と,直線上に記された目盛りの長さが保存されることも容易に納得できるだろう.

これは,上記のすべての変換において,図形はあたかも変形しない剛体であるかのように自分自身に変換されることを意味します.このような性質を持つ変換をアイソメトリック等長変換と呼びます.
等長変換に注目すると,次のようなシンプルで網羅的な定義を,3次元空間における幾何学的図形の対称性について与えることができます.
「対称的」とは,平面による1回または数回の連続した反射によって,それ自身と重ねることができるすべての(有限または無限)図形に適用される状態です.

特定の物体が,特定の対称性を顕わすか顕わさないかは,選択した特性によることで,内部構造にも関係があります.その意味では,対称性の定義には,外部と内部という2つの構造レベルの視点が残されます.

対称群の体系化198

3次元空間の対称性への移行に備えて,これまでに研究されたすべてのタイプの群を一つの体系にまとめてみよう.記号$$G_{r,s,...,t}$$を使って,$$r$$次元幾何空間の(等長)対称群で,この空間の次元$$s,...,t(r>s>・・・>t)$$の(周期的,または非周期的)部分空間を同時にそれ自身に変換するものを表記する.この表記法で,片面ロゼットの点群(Ch.2)は,特異平面(2次元平面)とその法線(1次元空間)を自分自身に変換し,同時に特異点(0次元空間)を不変に保つことから,$$G_{3,2,0}$$,または$$G_{3,1,0}$$という記号を得る.
有限(または,無限)図形の点群$$G_{3,0}$$(Ch.3)は,3次元空間を自分自身に変換しつつ,単純に特異点を不変に保つ.
群$$G_{3,0}$$から群$$G_{3,2,0}$$に至るには,3次元図形の異なる平面断面を考えるか,ロッドの空間群$$G_{3,1}$$(Ch.6)の部分群として見つけることができる.両面平面によるロッドの長手方向の断面は,両面帯群$$G_{3,2,1}$$(Ch.5)の対称性を決定する.

後者からは,3次元空間を片面平面に投影し,片面帯の対称群$$G_{2,1}$$(Ch.4)に進むことができる.同様に,層の空間群$$G_{3,2}$$から,ネットワークパターンの空間群$$G_{2}$$(Ch.7)へと進む.これらの群と,そこから派生した層の対称群($$G_{3,2,1,0}$$と$$G_{2,1,0}$$),片側ロゼットの対称群($$G_{2,0}$$),直線の対称群($$G_{1}$$),線分の対称群($$G_{1,0}$$),点群($$G_{0}$$)は,次のような方式で互いに関連しており,3次元空間群$$G_{3}$$(Ch.9)にも関連している:

 

 

 

 

 

この図式で,一重の矢印は部分群への移行;二重の矢印は断面や投影を表わしている.記号の前の数字は,離散的な結晶群の数に対応する.

色々な空間の対称群の対応関係

■3次元結晶空間群

一番有名なのが,3次元の周期的な空間(結晶空間)の対称性ですが,230種類の結晶空間群が数え上げられています.結晶(原子や分子による周期的な構造)の構造解析をしたり,その結晶構造を舞台として起こる現象の対称性を記述したりするのに使われ最も重要です.3次元の周期構造というのは,3次元の格子(3つの並進周期がある)構造を持つということです.

■2次元結晶群.層

2次元の周期のある構造を「層」と呼びます.無限に広がる平面で2つの独立な並進があります.「層」には,片面のみの「層」と両面をもつ「層」があります.私たちが壁紙模様の対称性(平面群)と言っているのは,片面のみの「層」の対称性で17種類あります.両面ある「層」の対称性は,全部で80種類あり,この中に,片面のみの「層」の17種が含まれます.
「層」の対称性など役に立たないと思うかもしれませんが,雲母などの層状の物質もありますし,半導体でも層状の構造があります.また,紙などは連続体ですが,紙の歪応力や力学定数を定義する時にも役立ち実用になるものです.

3次元の空間群の一覧を与える従来のやり方ではなく,次元を落とし,2次元の平面群17種でその構成の数学的原理をマスターすることが重要だと考えています.こうすれば,3次元や,さらに,4次元,5次元への拡張も自力で容易です.

■1次元結晶群.帯とロッド

1次元の並進しかない「層」の構造は「帯」と呼びます.帯にはやはり,片面のみの「帯」と両面ある「帯」とがあります.31種類の両面「帯」がありますが,そのうちの7種類が,片面のみの「帯」です
もう一つの1次元の並進しかない構造に「ロッド」があります.結晶学的ロッドの対称群は全部で53種類です.[結晶学的というのは,回転やらせん軸が,2,3,4,6回に限られるという意味です]
「ロッド」の対称性も決して数学的遊びに留まりません.表紙の図に示したように,現実の物質が存在し,立派な応用があります.

 

 

 

 

 

 

 

 


31種類の両面「帯」の対称性から「ロッド」の対称性と重複するものを除いて,1次元の並進周期のある「帯」や「ロッド」の対称性は,全部で75種類です.

■結晶点群

並進のない図形[有限図形]の対称性を考えるには,変換で不動となる特異点が1点あるとして,この特異点の周りの対称操作が生成する群を数え上げます.これは全部で32種類の点群があります.

■色々な結晶空間群の関係

空間群,平面群,などは,その中に部分群として含まれる「並進群」を核として(並進で移動した点は同じと思え),点群に準同型に写像できます.

色々な空間の階層で考える群は,このように俯瞰的に見れば,たいへんすっきりするものです.

ベクトルとテンソル

向きのある量の対称性

物理学や数学で使われる量には2種類あります。
大きさ(数値)だけで表現できるものと,大きさだけでなく空間における方向も示す必要があるものです.前者はスカラーと呼ばれ,後者は,ベクトル やテンソルと呼ばれます.例えば,質量,温度,密度などの量はスカラーで,(点の)変位,力,速度,電場などはベクトルです.ある物体の質量は,その物体が単位質量の何倍か,温度なら,摂氏スケールとして,温度の数値と符号(+または-)を知る必要があります.
また,物体の変位を求めるには,その物体の移動距離cmと運動方向の両方を知る必要があるので,変位の大きさが長さで,運動方向を向いた矢印で示します.また,ベクトルは平行4辺形の法則に従って幾何学的に加算することが要請されます.
しかし,この要請にこだわり対象を制限するのは良くありません.
ベクトルの他にも,数値と方向をもつさらに広範な有向量を対象にする必要があるからです.有向量を決定する独立した(内部)パラメータの数が,その対称性と密接に関係していることを,だいぶ先になりますが取り扱うことになります.
では,有向量を表すのに使われる線分には,どのような対称性があるのでしょうか?この問いには多くの異なった答えがあり,仮定された条件の下では,そのどれもが正しい.例えば,4角柱プリズムの主軸は,周囲から切り離された状態で考えると,円柱と同じ対称性を持っています.同じ軸でも,プリズム全体と一緒に考えると,プリズム自体の対称性を持つことになります.
この例から,有向量は,図形の特異方向の存在と両立できるなら,任意の対称性を持てることがわかります.言い換えれば,有向量は,正多面体の対称類(図69の8列目)を除いて,特異点を持つ図形に許されるあらゆる対称性を持つことができます.
我々は,特に極限対称性の有向量に興味がある.というのは,物理学ではこの種の量が最も頻繁に登場するからです.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(a)
例えば、空間を移動する質点の速度は、静止している円錐の1枚のシート(∞・m)の形をしており、この量は、直線の断面で、「一方向」の矢印で表すことができます(図a)。これを完全に特徴づけるには、次のことが必要です。 (1)速度の数値(セグメントの長さ)、(2)空間におけるセグメントの向き(例えば、与えられた座標系とセグメントがなす角度を指定する)。(3) セグメントに沿った前方と後方の動きの違い、および、セグメントに垂直なすべての方向で動きに違いがないこと。このようなベクトルを極性と呼びます。電界強度は明らかに極性ベクトルです。
(b)
圧縮や引張を受ける円柱の軸方向の極性機械的応力テンソルの大きさは、圧縮や引張が常に両方向であるため、一方向きの矢印では表現できません。この種の方向量は、2つの矢じりが反対方向を向いた直線で表し(図b)、静止状態の円柱の対称性 m・∞:m を持ちます。
(c)
次に、軸性と呼ばれる方向量について説明します。例えば、軸を中心に回転する円柱の一様な角速度を表現したいとする。軸の速度と方向はこれまでと同様に直線で表すことができるが、回転方向は直線の矢印で表すことができない。そこで、回転方向を、回転の性質を示す循環矢印で表現する(図c)。このような量の対称性は ∞:m となり、円筒状の磁石の場合にはこれになります。磁石内の磁場は軸性ベクトルですが、磁石の両端の磁極は、実際には極性の極ではありません。
(d)
循環矢印がセグメントの両端で異なる方向を向いている場合は、新しい対称性∞:2の方向量(軸性テンソル)が得られます(図d)。この場合、対称面は存在せず、対称心もないので、量の右回りと左回りの形(反対の方向を持つ)を区別しなければならない(循環矢印の方向が反対になっている)。
この種の量の例としては、ワイヤーのねじれがあります。軸の方向、ねじれの角度(セグメントの長さに比例する)、ねじれの方向(循環矢印の方向で決まる)で指定される。結晶や溶液による光の偏光面の回転は、このクラスの量に属する。
極性と軸性の矢の組み合わせにより、回転する円錐の対称性∞を持つ極軸複合ベクトルが形成される(図c)。例えば、船のスクリュー、扇風機、プロペラなどの回転速度は、回転方向を示すセグメントの大きさ(速度に比例)と矢印の方向だけでなく、回転軸の「先端」の方向によっても決まります。後者の回転の質的な表示がない場合、その機械が正転で動作するのか逆転で動作するのかはわからないのである。
方向性のあるセグメントで表現可能な方向性のある物理量の対称性は、図a-eに示された5つの極限群によって網羅されている。2つのさらなる極限群(∞/∞・mと∞/∞)は、極性と軸性の(擬似)スカラー(無方向)量の対称性を記述するために使用される(図f,g)。スカラーの大きさに等しい長さの極球の任意の直径は、図bに図示されている種類の双方向矢印に対応し、軸方向のスカラー球では、図dに図示されている種類の双方向ねじり矢印に対応する。
すべての結晶学的直交群(および非結晶学的直交群)は、ピエール・キュリーによって最初に得られた上記の7つの極限群の部分群であることを思い出すべきである(図69参照)。

おわりに
我々は、特異点を持つ図形の対称性について説明することで、19世紀の第3四半期に開発された対称性理論の一部についての説明を終える。 科学の発展におけるこの段階は、ヘッセル、ガドリン Pierre Curie, Bravais, Fedorovの名前が挙げられます。後者は、特異点を持つ図形の対称性を”有限図形の対称性” と呼んでいるが、これはあまり良い言葉とは思えない。というのも、特異点をもつ図形の対称性に、無限の図形(双曲線、放物線など)もあるからです。

同価点系,分子の構造式

同価点系

例として対称類$$\tilde{6} \cdot m$$を考察しよう.下図は対称類$$\tilde{6} \cdot m$$のステレオ投影図です.図aに記載されている対称要素は主軸$$\tilde{6} $$($$6$$回回映軸),鏡映面3枚$$m$$(太い線分),紙面内にある$$2$$回軸3本(基円上に両端が現れている),対称心$$\bar{1}$$があります.ステレオ投影は地図作りでも用いられますが,地球の表面の点を平面(基円内)に投影する方法でした.地球を北極側から見ていると想像しましょう.ステレオ投影の〇印は,北半球の表面にある点,×印は南半球にある点の投影像です.

球面上の1点に対称類(点群)の対称操作を作用させ生じる点の全体(同価点系,あるいは正則点系)を考察します.元の点を球面上で動かすと,他のすべての点も動きます.生じる同価点系の点の数は,元の点が対称要素の1つに当たるまで変わりません.

図aは,一般点に対称操作を作用させて生じた同価点のステレオ投影図です.全部で12個(=対称操作の数=群の位数)の同価点が生じています.

図bは,特殊位置(鏡映面上にある場合)に元の点がある場合で,ステレオ投影で生じる同価点の数は6個と半減しました.

図cは,特殊位置($$2$$回軸上ある場合)に元の点がある場合で,ステレオ投影で生じる同価点の数は6個です.やはり半減しました.

図dは,元の点が3回軸と3つの対称面上にある場合で,同価点の総数は6分の1になります.

図eのように,元の点が,すべての対称要素が交差する特異点にある場合ならば,対称操作により生じる点はすべて重なってしまうので,ステレオ投影で生じる点も1点です.この点の多重度は12.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1つの点に重なる同価点の数を,その点の多重度と呼びます.
同価点の系(正則点系)で,点の多重度とその点の同価点数の積は一定で,群の位数になります.(対称類$$\tilde{6} \cdot m$$の位数は12)

 

 

 

 

図a,b,c,d,eの正則点系を構築する際に,対称類は同じままであるという仮定がありました.しかし,図b,cの点系を比較すると,これらは異なる対称性を持っことがわかります:例えば,図bの系には3回軸があり,図cの系には6回軸があります.このように一見矛盾しているように見えるのは,まだ点自体の対称性を無視しているからです.点は〇で表現されていますが,実際には〇ではなく,図a,b,c,d,eの5つの系で,点の対称性は全く異なっています.

図aでは,点(一般点と呼ぶ)はどの対称要素にも乗っておらず,その多重度は1で,完全に非対称である.図bの系では,元の点は対称面m上に位置し,点の対称性は鏡映対称mです;図cの系の点は,2回対称を持ちます.図dでは,点の対称性は3・mを持ちます.

以上,対称類~6・mを例にして,適当に選んだ1点に対称操作を作用させて,同価点の系(正則点系)を作りました.これを,単純点系といいます.これに対して,複合点系というのは単純点系の組み合わせで作れます.

それぞれの種類の点は,独自の同価点系を形成し,異なる系に属する点は互いに同価ではありません.
複合系の記述には,点の多重度の相対比が重要です.例えば,多重度が2,6,12の3つの単純系からなる複合系があったとしましょう.この相対比は,1,3,6となる.この数は化学組成において重要な役割を果しています.すべての分子は,数学的近似において「点」と見做せる原子またはイオンよりなりますから,同価な原子(イオン)は1つの単純形をつくり,構成原子(イオン)の相対比はそれらの原子(イオン)が占める位置の対称性の制約となります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注意が必要なのは,元の点の位置が固定されるのは,対称軸の交点,つまり球の中心にあるときのみということです.この場合にのみ,その対称類でただ1点の同価点系を得ることができます.
それ以外の場合は,元の点の位置は,その形で点の数を変えることなく,無限に存在します.言い換えれば,2点,6点,12点の正則系が無数存在します.

図72に示した正則点の系を構築する際には,すべての点の系において対称類が同じままであるという仮定から始めた.図72b,cの系を比較すると,これらは異なる対称性を持っていることがわかる:例えば,図72bの系には3回軸があり,図72cの系には6回軸があります.このように一見矛盾しているように見えるのは,まだ点自体の対称性を無視しているからであり,これらはいずれも誤って円として表現されている.実際には,4つの系では,点の対称性は全く異なっています.図72aでは,点はどの対称要素にも乗っておらず,その多重度は1に等しいので,完全に非対称である.図72bの系の点は二回対称で,対称面上に位置し,それぞれ対称性mを持つ;図72cの系の点は対称性2を持つというように異なっている.点の対称性については,後で詳しく議論する.

以上,図72の例を用いて,(適当に選んだ1つの点を繰り返すことで生じる)単純な点の系がどのように作られるかを示した.単純なシステムから,複雑な複合システムに移行することは難しくありません.後者の場合,球体上または球体内にいくつかのタイプの点があります.
それぞれの種類の点は,同価な点の独自の系を形成し,異なる系に属する点は互いに等しくない.
複合系の記述には,点の相対的な数が重要な役割を果たすが,その数がどのようにして得られるかを見てみよう.例えば,2点,6点,12点の3つの単純系からなる複合系があったとする.この相対数は,これらを2の共通因子で還元して,1,3,6となる.後述するように,この数は化学において重要な役割を果たしている.というのも,すべての分子は,数学的近似において「点」とされる同価な原子またはイオンの複雑な対称系とみなすことができるからである.
この計算により,例えば,対象とする対称性類について,2種類,3種類,4種類の非等価な点を含む複合系の相対数を表3に示す.

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物質は分子で構成されており,分子は原子,イオン,ラジカルなどで構成されていることはよく知られている.科学的な化学が始まった当初から,同一の性質を持つ化学分子の部分は同一の(対称的な)位置を占めると考えるのが通例であった.この考え方は,少数の化学元素を扱うことが多い有機化学では特に有効であり,次のような場合には同一元素の原子を識別する必要がある.
例えば,CH3COOHという式で表される酢酸の分子では,炭素記号Cが2回現れるが,この2つの炭素原子の違いを明示するためである.
酢酸の性質を調べると,1つの分子には4つの水素原子Hが含まれており,そのうち3つの水素原子は化学的性質が等しいが,4つ目の水素原子は異なる.
酢酸の式では,記号Hが2回使われているが,そのうち1回のHには添字3がついている.
ラウエがX線回折を発見し,結晶や分子の構造解析法が開発された後,分子や結晶格子の構造単位が対称的に配置されていることが実験的に確認され,構造化学や結晶化学への対称性理論の応用は広大な分野となった.
原子(ラジカル)を点(あるいは図形)で仮に表すと,分子は点(図形)の規則的な(単純,あるいは複合的な)系である.分子の対称類と,同じ性質を持つ原子の種類の数がわかっていれば,対称類と矛盾しない化学式を事前に決めることができる.
例えば,ある化学分子が,性質の異なる2種類の原子AとBから構成されており,その対称性が$$\tilde{6} \cdot m$$であることがわかったとする(図72).この対称性類を満たす化学式はすべて候補となる.
言い換えれば,2元系化合物$$A_{n}B_{m}$$の式に含まれる係数nとmをすべて計算しなければならない.同一の原子が分子内の単純系の点を占めると仮定すると,係数nとmは,複合系を形成する単純系の点の相対比となる.相対比の表(表3)を見ると,この場合のすべての公式を簡単に書き出すことができる.

$$A_{1}B_{1} ; A_{1}B_{2} ; A_{1}B_{3} ; A_{1}B_{6} ; A_{1}B_{12}$$
これらの式は,化学的に等価な原子が構造的に等価でない場合,すなわち,A型とB型の原子がそれぞれ構造的に区別される場合に;$$A_{n1}, A_{n2}, \cdots , A_{ni} , B_{m1}, B_{m2} , \cdots , B_{mj}$$に分かれていると,より複雑な状況になる.この場合の2元化合物$$A_{n1}A_{n2} \cdots A_{ni} B_{m1}B_{m2} \cdots B_{mj}$$は,再分割された原子のそれぞれが単純系を占めている.

 

対称群の体系化

3次元空間の対称性への移行準備のめに,これまでに研究されたすべてのタイプの群を統一的なスキームに統合しましょう.記号$$G_{r,s, \cdots ,t}$$は,$$r$$次元の幾何学空間の(等長)対称群であり,かつ,この群が,$$s, \ldots ,t\left( r>s> \cdots >t \right) $$次元の(周期的,または,非周期的)部分空間を,それぞれの中に変換するとします.この表記法で,片面ロゼット(第2章)の点群は,記号$$G_{3,2,0}$$(または,$$G_{3,1,0}$$)となります.なぜならば,この変換は,特異平面(2次元空間)と,それに垂直な(1次元空間)を,それぞれの中に変換し,同時に,特異点(0次元空間)を不変に保つからです.
有限(あるいは,無限)図形の点群$$G_{3,0}$$(第3章)は,3次元空間を自分自身の中に変換する一方,特異点だけを不変に保ちます.
群$$G_{3,0}$$から,3次元図形の異なる断面を考慮するか,棒の空間群$$G_{3,1}$$(第6章)の部分群を使って,群$$G_{3,2,0}$$に到着しました.両面平面による棒の(縦)断面は,両面帯群$$G_{3,2,1}$$(第5章)の対称性を決定します;後者からは,3次元空間を片面平面に投影して,片面帯$$G_{2,1}$$(第4章)の対称群へ進みます.
同様に,層群$$G_{3,2}$$から,網目パターンの空間群$$G_{2}$$(第7章)に移行します.
これらの群と,タイル($$G_{3,2,1,0}$$と$$G_{2,1,0}$$),片面ロゼット($$G_{2,0}$$),直線($$G_{1}$$),線分($$G_{1,0}$$),点($$G_{0}$$)対称群は,以下のスキームによって,互いに,かつ,3次元空間の対称群$$G_{3}$$(第9章)と関係づけられます:

 



図中,一重矢印は部分群への移行;二重矢印は断面,または,射影を示します.記号の前の数字は,離散的な結晶群の数.

両面平面の連続体と半連続体

両面連続面(連続面)の対称類の求め方は,片面連続面で行ったのと同様です.すなわち,両面ロゼット対称下の任意の点を選び,この点にロゼットの特異対称軸に垂直な軸$$a_{0}$$に沿って連続移動を行い;得られた直線を,やはりロゼットの特異軸に垂直,あるいは,任意の角度をなす並進軸$$b_{0}$$沿って連続移動します.$$b_{0}$$軸はロゼットの特異軸に垂直で,並進軸$$a_{0}$$とは任意の角度(例えば,直交)をなしている.
初期点の対称性が$$n:2$$の場合,連続体の記号は$$\left( a_{0}/b_{0} \right) :n:2$$,あるいは,$$\left( a_{0}:b_{0} \right) :n:2$$となります.両面ロゼットの対称類の数は無限なので,両面平面の連続体の対称類の数も無限です. 
対称性$$\left( a_{0}/b_{0} \right) \cdot m: \infty \cdot m$$を持つ両面平面の例は,全方向に一様に引き伸ばされた薄いゴム製フィルムです.このようなフィルムの各点は,個別に見ると,$$m \cdot \infty :m$$[$$ \infty $$軸,垂直と水平な対称面,水平な2回軸]を持っています.同じフィルムを一方向に引き伸ばした場合,対称性$$\left( a_{0}:b_{0} \right) \cdot m:2 \cdot m$$を持ち,このようなフィルムでは,各点の対称性$$m \cdot 2:m$$,すなわち,直方体の対称性を持っています.
両面平面の半連続体は,帯の軸に対して垂直または斜交する平面内の方向に,両面帯の対称性を持つ直線を連続移動して得ることができます.帯の対称類の数が31であることから(図92参照),両面半連続平面の対称類の数も同じです.
対称性$$pmmm$$(図92,19)の帯から作られた半連続体の例として,互いに等間隔で平面内に張られた平行な線を挙げられます.
線の軸上の各点は,$$mmm=m \cdot 2:m$$の対称性,すなわち,両面帯19の個別図形の対称性を持っています.
線の間隔は,帯の図形間の距離に対応しています.線に沿って一方向に電流を流すと,半連続体の対称性は,帯の対称性$$pm2m$$(図92の5)になります.
図92($$p12/m1$$)で考察した線の系の磁場は,両面帯28の対称に対応する半連続体の対称性を持っています.