掲示板

平面群

17table

\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|c|c|c|}
\hline
\textgt{国際記号} & p1 & p2 & pm & pg & cm & pmm2 & pmg2 & pgg2 & cmm2 \\[0mm]
\hline
\textgt{ロシア式記号} & \left( b/a \right) 1 & \left( b/a \right) :2 & \left( b:a \right) :m & \left( b:a \right) \tilde{b} & \left( a/a \right) /m & \left( b:a \right) :2m & \left( b:a \right) :m:\tilde{a} & \left( b:a \right) :\tilde{b}:\tilde{a} & \left( a/a \right) :2m \\[0mm]
\hline
& & & & & \left( c/b:a \right) :m & & \left( b:a \right) :2\tilde{a} & \left( b:a \right) :2 \odot \tilde{a} & \left( c/b:a \right) :2m \\[0mm]
\hline
\textgt{対称要素} & \begin{minipage}[b][95pt]{130pt}
\includegraphics[width=130pt,height=95pt]{tex17tplaneable_001.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][86pt]{121pt}
\includegraphics[width=121pt,height=86pt]{tex17tplaneable_002.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][85pt]{93pt}
\includegraphics[width=93pt,height=85pt]{tex17tplaneable_003.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][86pt]{97pt}
\includegraphics[width=97pt,height=86pt]{tex17tplaneable_004.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][80pt]{97pt}
\includegraphics[width=97pt,height=80pt]{tex17tplaneable_005.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][88pt]{103pt}
\includegraphics[width=103pt,height=88pt]{tex17tplaneable_006.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][112pt]{141pt}
\includegraphics[width=141pt,height=112pt]{tex17tplaneable_007.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][113pt]{132pt}
\includegraphics[width=132pt,height=113pt]{tex17tplaneable_008.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][113pt]{131pt}
\includegraphics[width=131pt,height=113pt]{tex17tplaneable_009.bmp}
\end{minipage}
\\[0mm]
\hline
\end{array}
\ \\
\ \\
\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|c|c|}
\hline
\textgt{国際記号} & p4 & p4mm & p4gm & p3 & p3m1 & p31m & p6 & p6mm \\[0mm]
\hline
\textgt{ロシア式記号} & \left( a:a \right) :4 & \left( a:a \right) :4m & \left( a:a \right) :4 \odot \tilde{a} & \left( a/a \right) :3 & \left( a/a \right) :m & \left( a/a \right) m & \left( a/a \right) :6 & \left( a/a \right) :m \\[0mm]
\hline
& & & & & & & & \\[0mm]
\hline
\textgt{対称要素} & \begin{minipage}[b][116pt]{121pt}
\includegraphics[width=121pt,height=116pt]{tex17tplaneable_010.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][116pt]{115pt}
\includegraphics[width=115pt,height=116pt]{tex17tplaneable_011.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][114pt]{119pt}
\includegraphics[width=119pt,height=114pt]{tex17tplaneable_012.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][109pt]{147pt}
\includegraphics[width=147pt,height=109pt]{tex17tplaneable_013.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][98pt]{145pt}
\includegraphics[width=145pt,height=98pt]{tex17tplaneable_014.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][99pt]{143pt}
\includegraphics[width=143pt,height=99pt]{tex17tplaneable_015.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][98pt]{145pt}
\includegraphics[width=145pt,height=98pt]{tex17tplaneable_016.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][98pt]{147pt}
\includegraphics[width=147pt,height=98pt]{tex17tplaneable_017.bmp}
\end{minipage}
\\[0mm]
\hline
\end{array}

網目パターンの重ね合わせ2

2つの同一な網目パターンを種々の回転角度で重ねたときの干渉で,何が起こるか考察しよう.例として,面心の長方形(面心斜方格子)の頂点に円環を配した網目パターンの系(図110d)をとり上げる.

 

Fig.159

 

Fig.160
図159と160を見ると,角度2θが小さいうちは,二次的図形は(素図形の数が不十分なために)一次図形の拡大図となることがわかる.角度2θが大きくなるにつれて,拡大の度合いは小さくなる.面心斜方ネットの対称性を保ったまま,パターンは非常に大きく形を変え始める.図示された一連のパターンは,例えば壁紙や織物に適したパターンの豊富な品揃えが,互いに相対的に異なる角度にある2つの同一の周期構造の単純な機械的重ね合わせによって得られる可能性があることを示している.この可能性を考えると,一連の疑問が湧く.例えば,同一の周期構造の負あるいは正の重畳によってどんな効果が得られるだろうか.実験を上記に記述したパターンで行うと,二次的に生じた6角形の各中心に暗い丸点が形成されることが判明した(図161).

 

図161

特に興味深いのは,異なる図形を重畳したときの,対称性の相互作用に関する問題である.一般的な重畳と同一対称類の等価系の重畳,右手と左手系パターンあるいは異なる色に塗られた図形の相互作用などである(図162).
これらの疑問は,ほとんど研究されたことがないが,我々は複合系の対称性原理を使い,これらを調査してみよう.この原理は12章で紹介する.

無限のパターンの重畳の結果として得られる二次的形の多様性にもかかわらず,等式$$λ=2dsinθ$$は変わらずに残る.そこでは,同じネットが2つの
のパターンが選択され,かつ,角度$$2θ$$があまり大きくない場合には

図163(正の左手系パターンを負の右手系パターンの上に重畳)では,第二次パターンが一時のパターンの基底である正方格子を再現しているのがはっきりわかる.後者は黒が正,白が負の小さい3角形の行からなる.

網目の拡大率(すなわち$$d/λ$$の比)と角度$$2θ$$は互いに密接に相関している図から決定され,この式が問題のケースに適用可能であることを示している.

結論として,周期の異なる2つの縞模様の平行重ね合わせを考えてみよう(図164).
このケースは,音響学,光学,無線技術,その他の波動物理の分野で出会うビート現象幾何学的な描像を提供するので興味深い.
この現象は,同じ方向に移動する波長がわずかに異なる2つの平面波があるとき,二次的に長い波長の波が生じる現象で,音響学的には周期的な音の強弱(ビート)として観測される.
ビートは近似的に調整された2つの音叉を同時に鳴らすことで簡単に作れる.
実際には,2つの同じピッチの音叉の一方だけに,ワックスを貼り付けてチューニングをずらす.

平行な2つのシステムの重畳で生じるビートは,図164に示すように,第1のシステムの2本の連続した縞の間の距離は,$$λ_{1} = 1.91$$ mm;第2のシステムでは,この距離は$$λ_{2}=1.60$$mmである.

これらの2つの量は、一次干渉の波長と呼ばれることがある.
距離$$L=9.86$$mmは,密な隣接距離で,二次的な波長あるいはビート波の波長と同じである.

これらの量の関係をより詳細に検討すると次の式が得られ,既知の$$λ_{1}$$,$$λ_{2}$$から,二次波の波長Lを計算することができる:$$L=\displaystyle \frac{\lambda _{1}\lambda _{2 } }{\lambda _{1}-\lambda _{2 } }$$

網目パターンの重ね合わせ1

技術的な応用●ブラッグの法則 ●干渉

10cm×10cm程度の薄い布(ナイロン,カプロン,絹)を2枚重ねて,繊維が小さな角度(5°-10°)で交差するようにする.これを2枚のガラス板の間に挟み透過光で全体を観察すると,モアレパターンと呼ばれる自然界で広く見られる現象(科学技術で頻繁に利用される)が観察できる(図151).モアレパターンの対称性乱れは,干渉を起こすネットの不完全性に起因するものである.もし,これらが完全に規則的なネットならば,不規則なモアレではなく規則的な二次パターンが現れる.この現象は,写真印刷などで,ガラス板の上に細かい黒格子が描かれたスクリーンを通して写真を撮影するハーフトーン印刷で見られる.

 

 

Fig.151

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし,「スクリーン効果」は必ずしも作品の邪魔をするものではなく,布地や壁紙などで優れたパターンを作るために使われることもある.
■2 つの無限平面パターンを重ね合わせたときに,どのようにして二次的なパターンが発生するのかを理解するために,最も単純な例として2 つの同一な平行縞を重ね合わせた場合の例を見よう.図152に示すように,2つの1次元縞の相互作用(干渉)の結果,一次の縞(元の縞)の繰り返し周期よりも大きな繰り返し周期の二次的な幅広の縞が生成される.実際には,これらの二次的な幅広縞は,一次の縞によって形成されたジグザグに過ぎない.一次の縞の間隔を,目で解像できない程度(0.1mm以下)まで小さくすることで,二次的な縞だけが見える画像が得られるが,これは一次の縞の一つを拡大したものになる.
一次縞周期(一本の縞の幅+縞間の間隔)を$$λ$$,二次縞周期 を$$d$$,一次縞系が交差する角度$$2θ$$ とすると,簡単な計算で,$$λ=2dsinθ$$ が得られる.
すなわち,一次縞周期は,二次縞周期の2倍に一次縞間の交差角度の半分の$$sin$$を乗じた値に等しい.

 

 

 

Fig.152


結果として得られる式は,よく知られているブラッグの法則と全く同じになる.ブラッグの法則中の量λはX線の波長であり,$$d$$はX線を反射する結晶の原子網面の間隔,$$θ$$は入射X線と反射面の間の角度である.
このアナロジーで,結晶構造の幾何学のX線による研究を,モアレ現象に還元することができる. [例えば,Bollmannの本(1970)を参照]

 

 

 

 

 

 

 

■今度は,平行縞の2つの系を2つの同一正方形の網にしよう.交差角2θが十分小さな角度なら,2次的に生じる像は,最初の網を単純に拡大した,少しぼやけた像になる(図153).

 

 

 

 

図153

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一次の系の網目4角形の辺は,以下のように計算できます.
一次ネットと回転した一次ネットを重ねて生じる二次のネット網目の寸法に関しては,既に述べた1次元での関係がやはり成立します.

上記の2つのケースの図柄の重ね合わせで,角度$$±2θ$$の小さな角度で重ね合わせても,$$180°±2θ$$で重ね合わせても違いがなかったのは,図柄に2回回転対称性があるためである.
2回回転対称のない図形,例えば,3角形の系(図154)を重ね合わせるとすると,この二つの回転角度の効果にはかなりの差がでる.

小さな回転角$$2θ$$では,二次的な絵柄(図155)は楕円の系のようなものであるのに対し,回転角$$180±2θ$$では,二次的な絵柄(図156)は三角形で構成されて,一次的(元の)な絵柄の拡大と考えてもよい.

 

 

 

 

 

図154

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図155

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図156

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図157



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図158

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詳細に検討してみると,角度$$2θ$$が十分に小さく,一次パターンが周期的に繰り返される小さな素図形をかなりの数持っている場合には,$$180°±2θ$$の角度で2つの同一のパターンを重ね合わせると,無限の対称平面パターンが拡大された形で得られることがわかる.
実際には,これらの条件を満たすことは非常に困難なことが多いので,この実験は最も単純な種類の素図形でしか合理的な成功はしません(図157と158).

モアレパターン発生の実験

今日はモアレの実験を行います.

まず,網目パターンを用意します.今回は,面心斜方格子[長方形格子の中心にも格子点のある複格子(2格子点胞)]を使います.この格子は,単純格子(1格子点胞)で解釈すれば,菱形格子に還元できます.この関係は下図を見るとわかるでしょう.

 

 

上図では,格子点に正3角形を配しました.配置した正3角形の対称要素と格子の対称要素を比較すると,共通な対称要素としては垂直方向の鏡映面しかありません.従って,パターン全体としての対称性は,垂直方向の鏡映対称を持つだけです.格子自体にあった高い対称性も,正3角形自体にあった高い対称性も互いに打ち消し合って残りませんでした.これを対称性の重ね合わせ原理と言います.

 

 

 

 

このようなパターンを基礎にして作った網目模様を以下に示します.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この網目網を互いに2θ(小さい角度)で重畳したときに,生じる2次的網目パターン(モアレと呼ぶ)を調べましょう.

 

     (1)重畳角2θ(小)のとき        (2)重畳角2θ(大)のとき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      (3)重畳角180のとき         (4)重畳角180°+2θ(小)のとき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
(5)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論:いずれの場合も2次的なモアレ像に生じる格子のタイプは,初めの(1次の)格子のタイプと同じであることがわかる.しかし,2次的に生じるモアレ像中に正3角形の対称性がどのように反映されるかの鮮明な結果は得られなかった.

紙からネットワークパターンを切り出す

ネットワークパターンをカットするためには、矩形,正方形,正3角形,正6角形の紙シートを使います.
初めの紙の形が矩形なら,紙のサイドに沿って半分に折るを繰り返し,折り畳んだ状態で切り込みを入れます.すると,対称面と2回対称軸のあるパターンが得られます(図 165).[訳者注)この図形の対称性は2mmです.mは図形全域に有効な対称面ですが,この図形には局所的に有効な対称面があります.対称面は紙の折線に沿って生じるのですが,全域的な対称面と局所的な対称面を区別したいものです.]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


正方形の紙から始めて,サイドの線に沿ってだけではなく対角線に沿ってもこれを半分に折ることを繰り返すと,対称面と4回対称軸のあるパターンを切り出すことができます(図166).

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に正3角形の紙から始めて,3角形の2等分線に沿って折ると,対称面と3回対称性のあるパターンを切り出せます.
正6角形から始めても同じ結果が得られます.正6角形の内部に正6角形と共通の頂点を持つ正3角形を内接させ,3角形の2等分線に沿って,あるいは内接された3角形の辺に平行な線に沿って折ります(図167).

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正6角形のサイドに沿って2つ折りすると6回対称軸が得られます(図168).

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これらの切断例は,(ホロヘドロン)完面像図形=そのネットワークパターンの対称性で許される最大の対称要素を与えます.
対称面のないパターンの切込み(あるいは一太刀切)は例外で,困難があります.このような場合には,重ねた紙からたくさんのロゼットをカットして,平面パターンや層の対称性の法則(次章を参照)に従って,異なる色の背景のボード上に,それらを貼り付けて作ります.
後者の場合は,紙の表裏にも注意を払わなければなりません.
図169に,このように切断した平面パターンの例を掲載しています.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[訳者解説]折線は対称面になります.対称面を赤線で示しました.どのように折って切ったか推定してください.

ここで対称面と言っているものには局所的に通用するもの(青色)と,全域的に通用するもの(赤色)とがあります.これらは区別しましょう.

 

 

 

 

 

万華鏡でネットワークパターン

万華鏡でネットワークパターン
 
[訳者注]ここでは万華鏡で作るネットワークパターンについて述べているが,平面のタイル張りの対称性(5つのブラベー格子)が念頭にある.万華鏡は鏡の組み合わせで作られる対称性なので,そのうちの4つのブラベ格子が実現しうる.これらは格子の対称性そのもの(その格子で許される最も高い対称性)で完面像と呼ばれる.

完面像クラスの4つのパターンだけが万華鏡で作ることができる.これらは紙の折り畳みとカットにより作れるパターンと同一である.長方形の辺に沿って鏡の表面が内部に向くようなプリズム配置からは,(b:a):2・m型のパターン(図170a)が生れる.元の物体はプリズムの内部に置かれる.直角2等辺3角形の周りに置かれた鏡配置により(a:a):4・m型のパターン(図170b)が生まれる.正3角形の辺に沿って配置された鏡の万華鏡は(a/a):m・3型のパターン(図170c)を生む.そして,鋭角が30°, 60°の直角3角形の辺に沿って3枚の鏡を配置した万華鏡は(a/a):m・6型のパターン(図170d)を生む.実際には,これらの万華鏡は,帯状の鏡を繋ぎ合わせて作る.プリズムの底を艶消しガラス,もしくは,外部あるいは内部に艶消しガラスの物体を置く.初めの2つの場合は,万華鏡を水平に持ち,光源に直接向ける.最後の場合は,垂直に持ち下から照明する.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[訳者注]ここで実現される万華鏡は,4枚鏡の長方形の他に,平面を隙間なく埋め尽くす3角形の3種類(以下の説明では整数解の3角形)に関するものだけで,分数解の3角形は考慮していないので,以下の説明を補足したい:

 

 

 

 

 

美しい幾何学,p109,p118より

正則点系

正則点系
点の多重度とその相対数の積の保存則

[訳者注)単位胞中に存在する原子の数によっては,対称性(多重度)によりその原子の存在できる場所が決まっつているという便利な性質が,構造解析のときに利用できる]

有限図形の点系(同価な点の系)に関して,対称(正則)の概念には,すでに出会っています.この概念を無限の平面図形に拡張するのは困難ではありません.何らかの無限の平面図形(下図173)が与えられたとしましょう.その中の任意の1点(図173の任意の●)を選び,選んだ点に同価なすべての点を見出しましょう.
[訳者注)同価な点というのは,対称操作で互いに変換できる点のことで,図173の場合には,実線が鏡映面,および,各鏡映面に沿った並進が定義されています]

その結果得たすべての点の集合は,同価点の1つの単純正則点系を作ります.これに,2番目,3番目,等々の同価点系(○,◎)を加えると,複雑,あるいは,複合点系を得ます.もし,単純点系の初めの点が対称面上や対称軸上や,対称中心になければ,得られた集合は一般点の同価点系(●)と呼ばれ,他の場合は,特殊点の同価点系(○,◎)と呼ばれます.
[訳者注)●だけ集めると一般点の系,〇だけ集めたものは鏡映面上の特殊点の系,◎だけ集めると鏡映面の3重点(あるいは,3回軸)上の特殊点の系]

無限パターンの各タイプ点系の点の数は無限ですが,単位胞の中の点の数は有限です.(これらは対称演算により互いに移り合う)

 

 

 

 

 

 

 

 

図173を調べると,◎の点1つに〇の点3つ,●の点6が対応し存在することがわかります.これを,●の多重度は1,○の多重度は2,◎の多重度は6であるといいます.黒点●の位置を徐々に対称面方向に動かすと,それが対称面上を通過するとき,両側から近づいた2つの黒点●は1つに合体します.もし,黒点●が3回転軸の位置に近づき,ちょうど軸上(に3つの対称面の交差点)を通過するときには,6つの黒点が1つに合体します.
したがって,各単位胞の中にある,さまざまなタイプの点の相対数$$n_{i}$$は,対応する多重度$$s_{i}$$の逆数に比例することになります.

$$n_{1}:n_{2}:n_{3}: \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot =\displaystyle \frac{1}{s_{1 } }:\displaystyle \frac{1}{s_{2 } }:\displaystyle \frac{1}{s_{3 } }: \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot $$
$$n:n_{1}:n_{2}: \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot =1:\displaystyle \frac{1}{s_{1 } }:\displaystyle \frac{1}{s_{2 } }: \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot \cdot ,$$ あるいは,$$n=n_{i} \cdot s_{i}$$

どんなパターンにも多重度s=1の点が存在するので,そのような点の相対数をnと記すと2番目の式のように書き換えられます.

言い換えると,特定の種類の点の相対数とその多重度の積は一定です. したがって,図173のパターンの例では,点の多重度と相対数の積は常に6に等しくなります. 黒点●の場合は1x 6,白点〇の場合は2 x 3,二重円◎の場合は6 x1です.
規則的な点の系(正則点系)を記述するのに,平面パターン全体を作る必要はありません. 対称要素の集合をその特定の領域(たとえば単位胞の内)で指定するだけで十分です. 対称要素の配置図が与えられれば,特定の位置に点を配置し,その対称要素を作用させて,与えられた対称クラスに対応する同価点の系を簡単に構築できます.

[訳者注)下図の2つは,対称要素の配置図(上図)に対して,一般点に非対称図形楔型を置いて得た点系(下図)の例です]

2次元アイソゴンとアイソヘドラ.寄せ木

2次元アイソゴンとアイソヘドラ.寄せ木

アイソゴンisogonとは,どの頂点にも同じ数の辺が集まっている多面体に与えられた名前です.各頂点に集まる辺の様子が合同であるか鏡映対称であるような典型的なアイソゴンに興味を絞ります.典型的なアイソゴンの例には,すべての正多面体が含まれます.一般的なアイソゴンのすべての頂点は球面に乗り,球の半径が無限に大きくなると,球の表面は平面になります.半径が無限大の球に対応する典型的なアイソゴンを,平面アイソゴンと呼びます.
一般に,平面アイソゴンは,隙間なく平面を埋めるいくつかのタイプの多角形(=ポリゴン,平面アイソゴンの面)で構成されます.平面アイソゴンの各頂点は,幾何学的に等価(合同または鏡像)な様相でアイソゴンの辺(ポリゴンの側面)が集まっています.平面アイソゴンを構築してみましょう.ネットワークパターンの17の対称クラスのうちの1つを選び,図149を使用して,選択した対称クラスに対応する対称要素の配置を紙に書き留めます.次に, 任意の点を選び,その点に存在する対称要素の対称変換を作用させます.
結果として得られた同価点の系が,アイソゴンの構築の基礎になります.系の各点の最近接点を線分で結びます.検討中の点を除いて直線の交差が発生しない限り,このプロセスを続行します.等しい最短距離が複数ある場合,これらが交差しない限り,対応するすべてを線分で結びますが,交差する直線は描画しません.図174〜176の番号1〜35は,種々の対称クラスに対してこのようにして構築された平面アイソゴンです.
例として,アイソゴン2(図174)がどのように構築されたかを考えてみましょう.同価点の単純系を構築するには,対称クラス(a / a):m・6(図149)を選びます.6回対称軸と3回対称軸の間の対称面上に点Aを選定します[訳者注)Aは特殊点です].この系の点Aの同価点のすべてが,3回軸と6回軸の回転により生じます.点Aを隣接する2つの点と結びます.同様の作業を系のすべての点で行います.このようにして,図に示されているすべての6角形を完成します.
次に,点Aと同価点のうちで2番目に近接する点を結びます.その結果,図中のすべての3角形が表示されます.これで,平面アイソゴンが構築されました.点Aを長方形の反対側の角にある次に近い点に結合した場合,2番目の対角線も描画する必要があり,単純なシステムにならない新しい点,つまりの交点が発生します.そのような点は仮定により許されません.アイソゴンの構築が完了したら,対称面と対称軸を表すすべての補助点と線を消します.
平面アイソゴンを構築する際に,異なる対称クラスから始めても,結果が同じになる場合があります.たとえば,図174の平面アイソゴン6は,元の点を正しく選択すれば,対称クラス(a / a)・m・6またはクラス(a / a):m・3から構築できます(図149を参照).したがって,次の明らかな矛盾が発生します.平面アイソゴンは,その構造が基にした対称性と同じではない可能性があります.このケースは対称性の異なる5つの立方体の場合について以前に詳細に検討したときに起きた現象と同じです(図65).アイソゴンを構築する際に,図形の物理的同価性を無視したため,明らかな矛盾が生じます.
これらの矛盾は,着色や陰影などの方法で図を処理することにより,完全に排除することができます.
この構築されたアイソゴンを「完全」と呼びます.これは,「不完全」なアイソゴンとの対比ですが,不完全なアイソゴンは,残りの線分が平面を凸多角形に分割するように特定の線分を削除して,完全なアイソゴンから導けます.図176ー178の番号36〜60は,この方法で取得された不完全な平面アイソゴンの例です.たとえば,図176の不完全な平面アイソゴン36は,平行四辺形の対角線を削除することにより,完全なアイソゴン8(図174)から得られます.アイソゴン40(図177)は,アイソゴン19(図175)から,菱形の短い対角線を削除して得られます.


典型的な平面アイソゴンから典型的な平面アイソヘドラisohedraを作るのは簡単です.平面アイソヘドラは,隙間なく平面を埋める同価なポリゴンで構成される平面無限の図形です.これらのポリゴンは,必ずしも平行ポリゴン(平行な辺を持つポリゴン)の一部である必要はないという点で,すでに検討されている平面ポリゴンとは異なります.平面アイソヘドラを構築するために,平面アイソゴンに対し,それらのエッジの中点を通る直線を描きます.直線は相互に交差した後,平面アイソヘドラの凸多角形を形成します. 例として,考えてみましょう. 図179.ここで細い線は,すでに遭遇したタイプのアイソゴンを示しています(図175の19). 太い線は細い線の中点を通過し,細い線の辺に垂直であり,等辺6角形の系を形成します.

 

 

 

 

 

 

両面帯の対称性

■両面帯two-sided band

帯とは無限に続く周期図形で,1つの特異平面と,その平面内の1つの特異並進があります.
片面帯one-sided bandはその特殊なケースで,特異平面に極性があり,その表面は裏面と異なります
[1つの表面しかありません].
一般の帯では特異面は非極性であり,表裏の面を互いに重ねる変換が許されています.
許される変換のリストにこのような変換が追加されると,1次元の帯飾りに適用される対称類の数は,
片面帯の7つの対称類に加えて,非極性面をもつ両面帯の24の対称類が追加されます.
両面帯では,新しい対称要素;2回らせん軸が出現します.

■位数2のらせん軸
白と黒は3角形の表面と裏面を表します.

 

 

 

 

 

 

 

 ■両面帯の全部で31種類の対称類のパターンを,3角形モチーフの配列で表した一覧表を示します.
1,4,5,12,16,18,29の7種は,片面帯ですでに出現した対称類で,
残りの24種は,両面帯になって出現した対称類です.
(白面と黒面で表と裏を表しています.ドットのついた面は,表面と裏面が重なっている状態を表現しています)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帯のすべての対称類31種は,6つの対称要素6つの対称要素
$$a, 2, 2_{1}, m, \tilde{a}, \tilde{2}=\bar{1}$$ の独立な組み合わせで生成されます.
これら31個は,1次元の空間群と呼ばれます.

■両面帯に使われる以下のモチーフの対称性は?

 

 

 

 

 

 

 

 

■紙から対称帯を切りとる
以下の3つの例a,b,cの縁飾りは,紙をどのように折って切ったのでしょうか?
折り目になった線は対称面になるはずですね.

 

片面のみの帯面の対称性

 片面のみの帯面はone-sided band といいます.
実際の面は裏表の2面あるのですが,表のみ(裏がない)という面をone-sidedといいます.
後に,two-sided bandも言及しますが,その場合の面は裏表があるので,
その間にひっくり返したり鏡映したりの対称操作が生じます.
帯とは,1次元の並進があるものを言います.

結論をいうと,片面のみの帯面の対称性は,以下の7つに分類できます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■以下に示すいくつかの縁飾りは,上に示した7つの対称性のうちのどれに分類されるでしょうか?
実地に練習すると理解が深まります.

対称性により,パターンから受ける心理的な印象が異なります.
どのような場所で使うのが相応しいパターンでしょうか,ご想像ください.これらの図は,Shubnikov,Koptikの著書からです.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

片面のみの連続平面

これまでは,特異平面を持つ片面の離散的(点の集合)な2次元周期図形(ネットワークパターン)のみを扱いました.これらの図形の裏側は表側とは異なると仮定しているため,対称変換によって表面と裏面を入れ替えることはできません.
今回扱う2次元の連続平面(つまり通常の平面)でも,表裏の2面が互いに同様な平面で,表裏がある場合と,表だけで裏のない片面のみ(極性)の平面の場合があります.
一見すると,これらの議論はばかげており,連続な無限平面図形(あるいは空間)では,ユークリッド平面と異なる平面を考えるのは無駄であるようにも見えます.しかし,私たちは,特性(特に,対称性)が互いに異なる平面の無限集合を考えるだけでなく,実際に作ることもできます.

この目的のために,すべての実表面は,一般に異なる物理特性を持つ2つの物体を分離する境界であるという事実を受け入れる必要があります.


■もっとも理解し易く,もっとも対称的な空間は,均一(一様)なもので,2次元空間の片面のみの面では,表面を均一な一色に塗り,裏面を黒く塗った平坦な厚紙のイメージです.このような図形の任意の点は,$$∞・m$$の対称性であることは容易に確認できます.極性対称軸$$∞$$は,表面に垂直に,至る点に通っていて,垂直な無数の対称面$$m$$があります.均一な片面の平面の対称記号は,対称性$$∞・m$$の点を連続並進$$(a_{0}:a_{0})$$したものだから,$$(a_{0}:a_{0}):∞・m$$と書けます.

■同様にして,均一な片面のみの面の他の対称類は,対称性$$∞$$の点を連続並進して得られます.
この表面の点には対称面がありません.この新しい平面空間を視覚化するには,両面の色が異なるように塗られた厚紙平面のすべての点で,一方向に均一に回転するのをイメージするだけで十分です.点の回転方向には2つの可能性があるため,このような空間には,左手型と右手型の2つのエナンショモルフ(対掌体)があります.新しい平面の良いモデルは,同じ方向に回転する円盤をランダムかつ均一に分布させたものです(以下の図).円盤とそれらの間隔は十分小さく,個々の円盤を要素として分解できない観測者には,多くの要素の振る舞いの総和として効果を観測するしかありません.これは均質な理想平面でありその対称性を$$(a_{0}:a_{0}):∞$$ と記します.

 


■この片面平面の例から,対称性の低い平面に進むのは容易です.
この目的には,対称性$$n・m$$あるいは$$n$$の片面ロゼットの同価な図形の無限集合を用いるれば十分です.それらの方位を揃えて平面に配置し,図形をランダムかつ均一に分布させる.図形のサイズと間隔をゼロに漸近させると,極限で,対称性$$(a_{0}:a_{0}):n・m$$,あるいは,$$(a_{0}:a_{0}):n$$をもつ均質平面を得ます.
[訳者注)$$∞$$回転軸は,対称性の極限で存在する.対称性を低下させたn回回転軸も存在する]

もし,初めのモチーフ図形に片面長方形,あるいはひし形をとれば,対応する媒質のモデルは以下の図のようになります.この構造の個々の要素を見分けられない観測者には,任意に選んだ各点Oは,長方形の対称性2・mをもちます.なぜなら,どちらの図形も,点Oの周りの180°回転,あるいは,平面$$m_1$$,$$m_2$$による鏡映は,全体として自分の上に自分を変換するからであります.

 

連続的な片面の例をもう一つ挙げてみましょう.両面を異なる色に塗った厚紙があるとします.平面上の直線に沿って一様な動きます.外部の観察者から見ると,厚紙は静止しているが,その対称性を調べれば,厚紙に垂直で,その運動方向に平行な,互いに平行な対称面の集合が存在することはすぐにわかる.この平面には,2次元連続体に常に存在する並進軸の他には対称性の要素は存在しない.
ここで,上記の考察が適用できる物理的に実在する平面や表面について,少し述べましょう(もちろん,自然界には理想的な平面は実在しません).
滑らかな水の表面(例えば,光線を反射する能力を考慮した場合)は完全に等方性であり,明らかに対称性$$(a_{0}:a_{0}):∞・m$$を持っています.
光の偏光面を回転させることができる糖液の表面は,対称性$$(a_{0}:a_{0}):∞$$になります.
結晶の表面は,個々の原子(イオン、分子)の配置を考えるならば,不連続(離散的)な構造の平面パターンですが,その光学的,機械的性質を研究するならば,均質な平面として扱えます.
17種の対称性類が存在する(離散的な)平面パターンとは対照的に,片面平面連続体の対称類の数は非常に多い.これらの連続体の対称性記号を2列の無限列の形で以下に掲載します.

 


系列の最後の2つだけが完全に等方な平面に相当しています.他の記号は非等方の平面を記述します.記号$$(a_{0}:a_{0}):1$$はどの点も,並進軸以外にいかなる対称要素も持たない非対称平面に対応します.

片面のみの半連続平面

ここでも,片面しかない平面を扱います.
半連続平面という概念がここで登場します.これは,例えば,横軸に沿っては連続的で,縦軸に沿っては離散的(デジタル化された)な平面のことです.最もシンプルな片面のみの半連続平面の例は,紙上に描かれた平行なストライプ(横縞)の系です.ストライプの断面の中点は明らかに片面のロゼット$$2・m$$の対称性を持っています.
半連続平面全体は,水平軸$$b_{0}$$に沿って,そのような断面を連続平行移動するのと,軸$$b_{0}$$に垂直な軸$$a$$に沿って,有限(とびとびの)平行移動することで得られます.したがって,図全体の対称性記号は$$(b_{0}:a):2・m$$と書くことができます.

1対のストライプをストライプ1つに置き換えても,図は同じ対称性を持っています.もし,等距離のすべてのストライプが同じ方向性を持っている場合,対称性$$(b_{0}:a):m$$の図形になります.
有向「2重ストライプ」の系は同じ対称性を持っています.

半連続平面の次の類は,構造要素としての幅広のストライプと幅狭のストライプで構成されたストライプです.
この断面の対称性は前の場合と同様に$$m$$ですが,対称面は垂直でストライプに平行ではないため,図全体の対称記号は,$$(b_{0}:a)・m$$になります.ただし, 記号・と:は,対称要素(特異平面に垂直)が,シンボル内の最も近い並進軸に,平行か,または垂直かをそれぞれ意味しています.

第4の対称類は,異なる幅の有向二重ストライプで構成されている場合で,その結果,縦対称面と横対称面の両方が構造からなくなります.これらのストライプの対称記号は$$(b_{0}:a):1$$,または,より一般化して,$$(b_{0}/a)1$$です.

第5の対称類は,隣接する有向2重ストライプが,2回対称軸によって相互に関連するものです.この類の対称記号は$$(b_{0}:a):2$$,または,より一般化して,$$(b_{0}/a):2$$です.

第6の対称類は,隣接する有向2重ストライプが,映進面$$~a$$によって相互に関連付けられています.対称記号は$$(b_{0}:a)・~a$$と書くことができます.

片面のみの半連続平面の第7で最後の対称類は,記号に,垂直な映進面~aを追加することによって5番目から,または水平面$$m$$を追加することによって6番目から得られます(鏡映面$$m$$は$$2$$回軸を通過することに注意しよう).
対応する対称記号は,$$(b_{0}:a)・a:m$$,あるいは,$$(b_{0}:a):2・m=(b_{0}:a):2・a$$になります.

■まとめ:片面のみの半連続平面のすべての対称記号を以下の表の左端の列に書き出します.これらのうちで連続移動軸[記号$$b_{0}$$]を取り消し[$$b_{0}$$軸から下付き文字0を削除する]離散的移動にすると,片面のみの帯の対称性7種に帰着します.
したがって,片面のみの半連続平面は,無限の幅に引き出された通常の帯,あるいは,1つの連続した並進軸を持つ平面パターン(基本並進が無限に小さい)に他なりません.

 

対称性理論の歴史

対称性の理論は,実際にどのように発展してきたのだろうか?
この分野の歴史を見ると,純粋に幾何学的な側面に限っても,長期間かけて,対称性の概念が大きく変化してきたことがわかる.
ーーーーー
結晶点群の対称要素は:対称心;2,3,4,6回対称軸;回映軸;対称面;
結晶空間群の対称要素では,これらに加えて:並進;映進面;らせん軸
があり,これらの対称要素の集合が群(結晶点群,結晶空間群)を作る.
しかし,対称変換の要素をなぜこれらに決めたのでしょうか.その発展の歴史を振り返ります.
ーーーーー

■ 始めは,反射(鏡映)のみを対称操作とみなした.

当初,研究者たちは幾何学的形態の対称性を,対称面による反射(鏡映)のみに限定していた.そのため,対称軸があっても鏡面がない図形は非対称とされました.また,単純回転軸を対称要素に加えたときも,回映軸を持つ図形は対称性のある図形の範疇に入りませんでした.これらの対称要素はすべて,有限図形の対称類を構築するために使用されました(Hessel, 1830; Gadolin; 1867)が,無限図形の対称性を記述するには不十分であることが判明しました.並進,らせん回転,映進の変換と,これらの操作に対応する新しい対称要素を導入する必要がありました.

■ 第2種の対称変換を対称操作から除外する流派
ーーーーー
図形を変形せず剛体のように,回転,鏡映する対称変換は,直交行列で表現できます.その行列式は±1ですが,+1のものを第1種,-1のものを第2種といいます.第2種は,鏡映のように座標系を裏返す変換で,3次元の空間で+1の運動を-1の運動に変換するには4次元空間が必要です.例えば,右手と左手は鏡映対称で互いに一致させることができますが,実際に3次元空間内の+1の対称操作をしても,右手を左手に一致させることはできません.
ーーーーー

このように対称性の概念が大幅に拡張されたことで,対称性理論から第2種の変換(対称面での鏡映,回映,映進)を除外するという正反対の傾向が生まれました. この傾向の代表者は,Jordan(1869)とSohnckです.
また,対称性の研究において,ある種の対称面,単純回転軸,有限の平行移動を排除する妥協的な試みもありました(Bravais, 1850).

■ 結晶点群と結晶空間群が完成

Fedorov (1891) と Schénflies (1891) は,最終的にすべての対称操作を統合しましたが,Jordanの無限小の運動 (並進と回転) は除外しました.このような操作は,彼らが研究対象にしている結晶の対称性と明らかに矛盾ると考えたからです.

そこで,限界対称性類にも特別な注意を払うことで,この除外されたギャップの解消をねらいます.

第1種と第2種の対称操作は,一見,非常に異なるように見えます.対称変換の概念に統合されたのだが,多くの研究者には,合同と鏡像の組み合わせがあまりにも人工的に見えるため,対称図形構築の統一原理を見出そうと注力しました.この問題に対する最も単純な解決策は Wulff(1897)とViola(1904)によって与えられました.科学の歴史ではよくあることですが,彼らは,対称面を基本的な対称要素として使うという最初のアイデアに戻ったのです.二人とも,3次元空間の有限図形のすべての対称変換は,3つ以下の平面(それらは対称面でなくても)での連続した反射(鏡映)に帰着できるということを証明しました.
WulffとViolaのアイデアを無限図形にも拡張すると,我々が認めたタイプの任意の対称変換は,最大4つの平面(それ自体は対称面である必要はない)による図形の引き続く反射に置き換えることができます(Boldyrev, 1907).

実のところ,この方法は,N.V.Belovが230の(Federov)空間群を導出したアルゴリズムに用いたものである(N.V.Belov,1951).

以下の図を参照ください:

 

 

 

 

 

 

 


●ある軸を中心に角度αだけ回転することは,その軸を通り,互いに角度α/2をなす2つの平面での引き続く反射(鏡映)に等価である.
●並進aは,距離a/2離れた平行な平面での引き続く2回の反射に等価である.
●回映は回転と反射からなり,3つの平面での引き続く反射に等価となる:2つの平面は回転軸で交差し,残りの平面は回転軸に垂直.

●映進面は,反射と並進からなり,3つの平面での引き続く反射に等価となる:2枚は平行で,3枚目は始めの2枚に垂直.
●らせん運動は,回転と並進の2つの動きに分解でき,4つの平面での引き続く反射に相当します:2枚は回転軸に沿って角度α/2で交差し,残りの2枚は互いに平行で,最初の2つの平面に直交する.

多数の反射を引続き繰り返しても,上に述べた操作 (対称面での1回反射も含む) と結果が変わらないことは,非常に簡単に示すことができます.また,平面での連続した反射によって,直線は直線に変換され,それらの間の角度と,直線上に記された目盛りの長さが保存されることも容易に納得できるだろう.

これは,上記のすべての変換において,図形はあたかも変形しない剛体であるかのように自分自身に変換されることを意味します.このような性質を持つ変換をアイソメトリック等長変換と呼びます.
等長変換に注目すると,次のようなシンプルで網羅的な定義を,3次元空間における幾何学的図形の対称性について与えることができます.
「対称的」とは,平面による1回または数回の連続した反射によって,それ自身と重ねることができるすべての(有限または無限)図形に適用される状態です.

特定の物体が,特定の対称性を顕わすか顕わさないかは,選択した特性によることで,内部構造にも関係があります.その意味では,対称性の定義には,外部と内部という2つの構造レベルの視点が残されます.

対称群の体系化198

3次元空間の対称性への移行に備えて,これまでに研究されたすべてのタイプの群を一つの体系にまとめてみよう.記号$$G_{r,s,...,t}$$を使って,$$r$$次元幾何空間の(等長)対称群で,この空間の次元$$s,...,t(r>s>・・・>t)$$の(周期的,または非周期的)部分空間を同時にそれ自身に変換するものを表記する.この表記法で,片面ロゼットの点群(Ch.2)は,特異平面(2次元平面)とその法線(1次元空間)を自分自身に変換し,同時に特異点(0次元空間)を不変に保つことから,$$G_{3,2,0}$$,または$$G_{3,1,0}$$という記号を得る.
有限(または,無限)図形の点群$$G_{3,0}$$(Ch.3)は,3次元空間を自分自身に変換しつつ,単純に特異点を不変に保つ.
群$$G_{3,0}$$から群$$G_{3,2,0}$$に至るには,3次元図形の異なる平面断面を考えるか,ロッドの空間群$$G_{3,1}$$(Ch.6)の部分群として見つけることができる.両面平面によるロッドの長手方向の断面は,両面帯群$$G_{3,2,1}$$(Ch.5)の対称性を決定する.

後者からは,3次元空間を片面平面に投影し,片面帯の対称群$$G_{2,1}$$(Ch.4)に進むことができる.同様に,層の空間群$$G_{3,2}$$から,ネットワークパターンの空間群$$G_{2}$$(Ch.7)へと進む.これらの群と,そこから派生した層の対称群($$G_{3,2,1,0}$$と$$G_{2,1,0}$$),片側ロゼットの対称群($$G_{2,0}$$),直線の対称群($$G_{1}$$),線分の対称群($$G_{1,0}$$),点群($$G_{0}$$)は,次のような方式で互いに関連しており,3次元空間群$$G_{3}$$(Ch.9)にも関連している:

 

 

 

 

 

この図式で,一重の矢印は部分群への移行;二重の矢印は断面や投影を表わしている.記号の前の数字は,離散的な結晶群の数に対応する.

色々な空間の対称群の対応関係

■3次元結晶空間群

一番有名なのが,3次元の周期的な空間(結晶空間)の対称性ですが,230種類の結晶空間群が数え上げられています.結晶(原子や分子による周期的な構造)の構造解析をしたり,その結晶構造を舞台として起こる現象の対称性を記述したりするのに使われ最も重要です.3次元の周期構造というのは,3次元の格子(3つの並進周期がある)構造を持つということです.

■2次元結晶群.層

2次元の周期のある構造を「層」と呼びます.無限に広がる平面で2つの独立な並進があります.「層」には,片面のみの「層」と両面をもつ「層」があります.私たちが壁紙模様の対称性(平面群)と言っているのは,片面のみの「層」の対称性で17種類あります.両面ある「層」の対称性は,全部で80種類あり,この中に,片面のみの「層」の17種が含まれます.
「層」の対称性など役に立たないと思うかもしれませんが,雲母などの層状の物質もありますし,半導体でも層状の構造があります.また,紙などは連続体ですが,紙の歪応力や力学定数を定義する時にも役立ち実用になるものです.

3次元の空間群の一覧を与える従来のやり方ではなく,次元を落とし,2次元の平面群17種でその構成の数学的原理をマスターすることが重要だと考えています.こうすれば,3次元や,さらに,4次元,5次元への拡張も自力で容易です.

■1次元結晶群.帯とロッド

1次元の並進しかない「層」の構造は「帯」と呼びます.帯にはやはり,片面のみの「帯」と両面ある「帯」とがあります.31種類の両面「帯」がありますが,そのうちの7種類が,片面のみの「帯」です
もう一つの1次元の並進しかない構造に「ロッド」があります.結晶学的ロッドの対称群は全部で53種類です.[結晶学的というのは,回転やらせん軸が,2,3,4,6回に限られるという意味です]
「ロッド」の対称性も決して数学的遊びに留まりません.表紙の図に示したように,現実の物質が存在し,立派な応用があります.

 

 

 

 

 

 

 

 


31種類の両面「帯」の対称性から「ロッド」の対称性と重複するものを除いて,1次元の並進周期のある「帯」や「ロッド」の対称性は,全部で75種類です.

■結晶点群

並進のない図形[有限図形]の対称性を考えるには,変換で不動となる特異点が1点あるとして,この特異点の周りの対称操作が生成する群を数え上げます.これは全部で32種類の点群があります.

■色々な結晶空間群の関係

空間群,平面群,などは,その中に部分群として含まれる「並進群」を核として(並進で移動した点は同じと思え),点群に準同型に写像できます.

色々な空間の階層で考える群は,このように俯瞰的に見れば,たいへんすっきりするものです.

ベクトルとテンソル

向きのある量の対称性

物理学や数学で使われる量には2種類あります。
大きさ(数値)だけで表現できるものと,大きさだけでなく空間における方向も示す必要があるものです.前者はスカラーと呼ばれ,後者は,ベクトル やテンソルと呼ばれます.例えば,質量,温度,密度などの量はスカラーで,(点の)変位,力,速度,電場などはベクトルです.ある物体の質量は,その物体が単位質量の何倍か,温度なら,摂氏スケールとして,温度の数値と符号(+または-)を知る必要があります.
また,物体の変位を求めるには,その物体の移動距離cmと運動方向の両方を知る必要があるので,変位の大きさが長さで,運動方向を向いた矢印で示します.また,ベクトルは平行4辺形の法則に従って幾何学的に加算することが要請されます.
しかし,この要請にこだわり対象を制限するのは良くありません.
ベクトルの他にも,数値と方向をもつさらに広範な有向量を対象にする必要があるからです.有向量を決定する独立した(内部)パラメータの数が,その対称性と密接に関係していることを,だいぶ先になりますが取り扱うことになります.
では,有向量を表すのに使われる線分には,どのような対称性があるのでしょうか?この問いには多くの異なった答えがあり,仮定された条件の下では,そのどれもが正しい.例えば,4角柱プリズムの主軸は,周囲から切り離された状態で考えると,円柱と同じ対称性を持っています.同じ軸でも,プリズム全体と一緒に考えると,プリズム自体の対称性を持つことになります.
この例から,有向量は,図形の特異方向の存在と両立できるなら,任意の対称性を持てることがわかります.言い換えれば,有向量は,正多面体の対称類(図69の8列目)を除いて,特異点を持つ図形に許されるあらゆる対称性を持つことができます.
我々は,特に極限対称性の有向量に興味がある.というのは,物理学ではこの種の量が最も頻繁に登場するからです.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(a)
例えば、空間を移動する質点の速度は、静止している円錐の1枚のシート(∞・m)の形をしており、この量は、直線の断面で、「一方向」の矢印で表すことができます(図a)。これを完全に特徴づけるには、次のことが必要です。 (1)速度の数値(セグメントの長さ)、(2)空間におけるセグメントの向き(例えば、与えられた座標系とセグメントがなす角度を指定する)。(3) セグメントに沿った前方と後方の動きの違い、および、セグメントに垂直なすべての方向で動きに違いがないこと。このようなベクトルを極性と呼びます。電界強度は明らかに極性ベクトルです。
(b)
圧縮や引張を受ける円柱の軸方向の極性機械的応力テンソルの大きさは、圧縮や引張が常に両方向であるため、一方向きの矢印では表現できません。この種の方向量は、2つの矢じりが反対方向を向いた直線で表し(図b)、静止状態の円柱の対称性 m・∞:m を持ちます。
(c)
次に、軸性と呼ばれる方向量について説明します。例えば、軸を中心に回転する円柱の一様な角速度を表現したいとする。軸の速度と方向はこれまでと同様に直線で表すことができるが、回転方向は直線の矢印で表すことができない。そこで、回転方向を、回転の性質を示す循環矢印で表現する(図c)。このような量の対称性は ∞:m となり、円筒状の磁石の場合にはこれになります。磁石内の磁場は軸性ベクトルですが、磁石の両端の磁極は、実際には極性の極ではありません。
(d)
循環矢印がセグメントの両端で異なる方向を向いている場合は、新しい対称性∞:2の方向量(軸性テンソル)が得られます(図d)。この場合、対称面は存在せず、対称心もないので、量の右回りと左回りの形(反対の方向を持つ)を区別しなければならない(循環矢印の方向が反対になっている)。
この種の量の例としては、ワイヤーのねじれがあります。軸の方向、ねじれの角度(セグメントの長さに比例する)、ねじれの方向(循環矢印の方向で決まる)で指定される。結晶や溶液による光の偏光面の回転は、このクラスの量に属する。
極性と軸性の矢の組み合わせにより、回転する円錐の対称性∞を持つ極軸複合ベクトルが形成される(図c)。例えば、船のスクリュー、扇風機、プロペラなどの回転速度は、回転方向を示すセグメントの大きさ(速度に比例)と矢印の方向だけでなく、回転軸の「先端」の方向によっても決まります。後者の回転の質的な表示がない場合、その機械が正転で動作するのか逆転で動作するのかはわからないのである。
方向性のあるセグメントで表現可能な方向性のある物理量の対称性は、図a-eに示された5つの極限群によって網羅されている。2つのさらなる極限群(∞/∞・mと∞/∞)は、極性と軸性の(擬似)スカラー(無方向)量の対称性を記述するために使用される(図f,g)。スカラーの大きさに等しい長さの極球の任意の直径は、図bに図示されている種類の双方向矢印に対応し、軸方向のスカラー球では、図dに図示されている種類の双方向ねじり矢印に対応する。
すべての結晶学的直交群(および非結晶学的直交群)は、ピエール・キュリーによって最初に得られた上記の7つの極限群の部分群であることを思い出すべきである(図69参照)。

おわりに
我々は、特異点を持つ図形の対称性について説明することで、19世紀の第3四半期に開発された対称性理論の一部についての説明を終える。 科学の発展におけるこの段階は、ヘッセル、ガドリン Pierre Curie, Bravais, Fedorovの名前が挙げられます。後者は、特異点を持つ図形の対称性を”有限図形の対称性” と呼んでいるが、これはあまり良い言葉とは思えない。というのも、特異点をもつ図形の対称性に、無限の図形(双曲線、放物線など)もあるからです。

同価点系,分子の構造式

同価点系

例として対称類$$\tilde{6} \cdot m$$を考察しよう.下図は対称類$$\tilde{6} \cdot m$$のステレオ投影図です.図aに記載されている対称要素は主軸$$\tilde{6} $$($$6$$回回映軸),鏡映面3枚$$m$$(太い線分),紙面内にある$$2$$回軸3本(基円上に両端が現れている),対称心$$\bar{1}$$があります.ステレオ投影は地図作りでも用いられますが,地球の表面の点を平面(基円内)に投影する方法でした.地球を北極側から見ていると想像しましょう.ステレオ投影の〇印は,北半球の表面にある点,×印は南半球にある点の投影像です.

球面上の1点に対称類(点群)の対称操作を作用させ生じる点の全体(同価点系,あるいは正則点系)を考察します.元の点を球面上で動かすと,他のすべての点も動きます.生じる同価点系の点の数は,元の点が対称要素の1つに当たるまで変わりません.

図aは,一般点に対称操作を作用させて生じた同価点のステレオ投影図です.全部で12個(=対称操作の数=群の位数)の同価点が生じています.

図bは,特殊位置(鏡映面上にある場合)に元の点がある場合で,ステレオ投影で生じる同価点の数は6個と半減しました.

図cは,特殊位置($$2$$回軸上ある場合)に元の点がある場合で,ステレオ投影で生じる同価点の数は6個です.やはり半減しました.

図dは,元の点が3回軸と3つの対称面上にある場合で,同価点の総数は6分の1になります.

図eのように,元の点が,すべての対称要素が交差する特異点にある場合ならば,対称操作により生じる点はすべて重なってしまうので,ステレオ投影で生じる点も1点です.この点の多重度は12.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1つの点に重なる同価点の数を,その点の多重度と呼びます.
同価点の系(正則点系)で,点の多重度とその点の同価点数の積は一定で,群の位数になります.(対称類$$\tilde{6} \cdot m$$の位数は12)

 

 

 

 

図a,b,c,d,eの正則点系を構築する際に,対称類は同じままであるという仮定がありました.しかし,図b,cの点系を比較すると,これらは異なる対称性を持っことがわかります:例えば,図bの系には3回軸があり,図cの系には6回軸があります.このように一見矛盾しているように見えるのは,まだ点自体の対称性を無視しているからです.点は〇で表現されていますが,実際には〇ではなく,図a,b,c,d,eの5つの系で,点の対称性は全く異なっています.

図aでは,点(一般点と呼ぶ)はどの対称要素にも乗っておらず,その多重度は1で,完全に非対称である.図bの系では,元の点は対称面m上に位置し,点の対称性は鏡映対称mです;図cの系の点は,2回対称を持ちます.図dでは,点の対称性は3・mを持ちます.

以上,対称類~6・mを例にして,適当に選んだ1点に対称操作を作用させて,同価点の系(正則点系)を作りました.これを,単純点系といいます.これに対して,複合点系というのは単純点系の組み合わせで作れます.

それぞれの種類の点は,独自の同価点系を形成し,異なる系に属する点は互いに同価ではありません.
複合系の記述には,点の多重度の相対比が重要です.例えば,多重度が2,6,12の3つの単純系からなる複合系があったとしましょう.この相対比は,1,3,6となる.この数は化学組成において重要な役割を果しています.すべての分子は,数学的近似において「点」と見做せる原子またはイオンよりなりますから,同価な原子(イオン)は1つの単純形をつくり,構成原子(イオン)の相対比はそれらの原子(イオン)が占める位置の対称性の制約となります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注意が必要なのは,元の点の位置が固定されるのは,対称軸の交点,つまり球の中心にあるときのみということです.この場合にのみ,その対称類でただ1点の同価点系を得ることができます.
それ以外の場合は,元の点の位置は,その形で点の数を変えることなく,無限に存在します.言い換えれば,2点,6点,12点の正則系が無数存在します.

図72に示した正則点の系を構築する際には,すべての点の系において対称類が同じままであるという仮定から始めた.図72b,cの系を比較すると,これらは異なる対称性を持っていることがわかる:例えば,図72bの系には3回軸があり,図72cの系には6回軸があります.このように一見矛盾しているように見えるのは,まだ点自体の対称性を無視しているからであり,これらはいずれも誤って円として表現されている.実際には,4つの系では,点の対称性は全く異なっています.図72aでは,点はどの対称要素にも乗っておらず,その多重度は1に等しいので,完全に非対称である.図72bの系の点は二回対称で,対称面上に位置し,それぞれ対称性mを持つ;図72cの系の点は対称性2を持つというように異なっている.点の対称性については,後で詳しく議論する.

以上,図72の例を用いて,(適当に選んだ1つの点を繰り返すことで生じる)単純な点の系がどのように作られるかを示した.単純なシステムから,複雑な複合システムに移行することは難しくありません.後者の場合,球体上または球体内にいくつかのタイプの点があります.
それぞれの種類の点は,同価な点の独自の系を形成し,異なる系に属する点は互いに等しくない.
複合系の記述には,点の相対的な数が重要な役割を果たすが,その数がどのようにして得られるかを見てみよう.例えば,2点,6点,12点の3つの単純系からなる複合系があったとする.この相対数は,これらを2の共通因子で還元して,1,3,6となる.後述するように,この数は化学において重要な役割を果たしている.というのも,すべての分子は,数学的近似において「点」とされる同価な原子またはイオンの複雑な対称系とみなすことができるからである.
この計算により,例えば,対象とする対称性類について,2種類,3種類,4種類の非等価な点を含む複合系の相対数を表3に示す.

(Picture)

物質は分子で構成されており,分子は原子,イオン,ラジカルなどで構成されていることはよく知られている.科学的な化学が始まった当初から,同一の性質を持つ化学分子の部分は同一の(対称的な)位置を占めると考えるのが通例であった.この考え方は,少数の化学元素を扱うことが多い有機化学では特に有効であり,次のような場合には同一元素の原子を識別する必要がある.
例えば,CH3COOHという式で表される酢酸の分子では,炭素記号Cが2回現れるが,この2つの炭素原子の違いを明示するためである.
酢酸の性質を調べると,1つの分子には4つの水素原子Hが含まれており,そのうち3つの水素原子は化学的性質が等しいが,4つ目の水素原子は異なる.
酢酸の式では,記号Hが2回使われているが,そのうち1回のHには添字3がついている.
ラウエがX線回折を発見し,結晶や分子の構造解析法が開発された後,分子や結晶格子の構造単位が対称的に配置されていることが実験的に確認され,構造化学や結晶化学への対称性理論の応用は広大な分野となった.
原子(ラジカル)を点(あるいは図形)で仮に表すと,分子は点(図形)の規則的な(単純,あるいは複合的な)系である.分子の対称類と,同じ性質を持つ原子の種類の数がわかっていれば,対称類と矛盾しない化学式を事前に決めることができる.
例えば,ある化学分子が,性質の異なる2種類の原子AとBから構成されており,その対称性が$$\tilde{6} \cdot m$$であることがわかったとする(図72).この対称性類を満たす化学式はすべて候補となる.
言い換えれば,2元系化合物$$A_{n}B_{m}$$の式に含まれる係数nとmをすべて計算しなければならない.同一の原子が分子内の単純系の点を占めると仮定すると,係数nとmは,複合系を形成する単純系の点の相対比となる.相対比の表(表3)を見ると,この場合のすべての公式を簡単に書き出すことができる.

$$A_{1}B_{1} ; A_{1}B_{2} ; A_{1}B_{3} ; A_{1}B_{6} ; A_{1}B_{12}$$
これらの式は,化学的に等価な原子が構造的に等価でない場合,すなわち,A型とB型の原子がそれぞれ構造的に区別される場合に;$$A_{n1}, A_{n2}, \cdots , A_{ni} , B_{m1}, B_{m2} , \cdots , B_{mj}$$に分かれていると,より複雑な状況になる.この場合の2元化合物$$A_{n1}A_{n2} \cdots A_{ni} B_{m1}B_{m2} \cdots B_{mj}$$は,再分割された原子のそれぞれが単純系を占めている.

 

対称群の体系化

3次元空間の対称性への移行準備のめに,これまでに研究されたすべてのタイプの群を統一的なスキームに統合しましょう.記号$$G_{r,s, \cdots ,t}$$は,$$r$$次元の幾何学空間の(等長)対称群であり,かつ,この群が,$$s, \ldots ,t\left( r>s> \cdots >t \right) $$次元の(周期的,または,非周期的)部分空間を,それぞれの中に変換するとします.この表記法で,片面ロゼット(第2章)の点群は,記号$$G_{3,2,0}$$(または,$$G_{3,1,0}$$)となります.なぜならば,この変換は,特異平面(2次元空間)と,それに垂直な(1次元空間)を,それぞれの中に変換し,同時に,特異点(0次元空間)を不変に保つからです.
有限(あるいは,無限)図形の点群$$G_{3,0}$$(第3章)は,3次元空間を自分自身の中に変換する一方,特異点だけを不変に保ちます.
群$$G_{3,0}$$から,3次元図形の異なる断面を考慮するか,棒の空間群$$G_{3,1}$$(第6章)の部分群を使って,群$$G_{3,2,0}$$に到着しました.両面平面による棒の(縦)断面は,両面帯群$$G_{3,2,1}$$(第5章)の対称性を決定します;後者からは,3次元空間を片面平面に投影して,片面帯$$G_{2,1}$$(第4章)の対称群へ進みます.
同様に,層群$$G_{3,2}$$から,網目パターンの空間群$$G_{2}$$(第7章)に移行します.
これらの群と,タイル($$G_{3,2,1,0}$$と$$G_{2,1,0}$$),片面ロゼット($$G_{2,0}$$),直線($$G_{1}$$),線分($$G_{1,0}$$),点($$G_{0}$$)対称群は,以下のスキームによって,互いに,かつ,3次元空間の対称群$$G_{3}$$(第9章)と関係づけられます:

 



図中,一重矢印は部分群への移行;二重矢印は断面,または,射影を示します.記号の前の数字は,離散的な結晶群の数.

両面平面の連続体と半連続体

両面連続面(連続面)の対称類の求め方は,片面連続面で行ったのと同様です.すなわち,両面ロゼット対称下の任意の点を選び,この点にロゼットの特異対称軸に垂直な軸$$a_{0}$$に沿って連続移動を行い;得られた直線を,やはりロゼットの特異軸に垂直,あるいは,任意の角度をなす並進軸$$b_{0}$$沿って連続移動します.$$b_{0}$$軸はロゼットの特異軸に垂直で,並進軸$$a_{0}$$とは任意の角度(例えば,直交)をなしている.
初期点の対称性が$$n:2$$の場合,連続体の記号は$$\left( a_{0}/b_{0} \right) :n:2$$,あるいは,$$\left( a_{0}:b_{0} \right) :n:2$$となります.両面ロゼットの対称類の数は無限なので,両面平面の連続体の対称類の数も無限です. 
対称性$$\left( a_{0}/b_{0} \right) \cdot m: \infty \cdot m$$を持つ両面平面の例は,全方向に一様に引き伸ばされた薄いゴム製フィルムです.このようなフィルムの各点は,個別に見ると,$$m \cdot \infty :m$$[$$ \infty $$軸,垂直と水平な対称面,水平な2回軸]を持っています.同じフィルムを一方向に引き伸ばした場合,対称性$$\left( a_{0}:b_{0} \right) \cdot m:2 \cdot m$$を持ち,このようなフィルムでは,各点の対称性$$m \cdot 2:m$$,すなわち,直方体の対称性を持っています.
両面平面の半連続体は,帯の軸に対して垂直または斜交する平面内の方向に,両面帯の対称性を持つ直線を連続移動して得ることができます.帯の対称類の数が31であることから(図92参照),両面半連続平面の対称類の数も同じです.
対称性$$pmmm$$(図92,19)の帯から作られた半連続体の例として,互いに等間隔で平面内に張られた平行な線を挙げられます.
線の軸上の各点は,$$mmm=m \cdot 2:m$$の対称性,すなわち,両面帯19の個別図形の対称性を持っています.
線の間隔は,帯の図形間の距離に対応しています.線に沿って一方向に電流を流すと,半連続体の対称性は,帯の対称性$$pm2m$$(図92の5)になります.
図92($$p12/m1$$)で考察した線の系の磁場は,両面帯28の対称に対応する半連続体の対称性を持っています.

★230の結晶空間群.結晶構造

結晶空間(=3次元の離散体)のブラベー格子は,14種類ある.ブラベー格子とは,結晶の内部構造の並進性とその対称性により,結晶構造を分類する概念である.
結晶空間は,無限に広がる3次元周期をもつ離散体(デジタル化された空間)なので,
①並進性(並進群で記述):並進で移動できる点(格子点)はすべて同価.
②格子点自体には,点群で記述される対称性がある.

結晶空間の全域に作用し,これを不変に保つ対称操作の集合が,その結晶空間の結晶空間群であり,結晶空間群の対称操作は,結晶点群と並進群の対称操作の組み合わせである.もちろん,並進群だけで結晶空間群の部分群を作る.結晶空間全域に作用し,結晶空間を不変に保つ結晶点群の対称操作は,当然,局所の格子点自体が従う対称操作でもある.

注)
並進群:3次元結晶空間には,互いに独立な基本並進ベクトル$$a, b, c$$があり,$$n,m,l$$を任意の整数として,1次結合$$n・a+m・b+l・c$$を格子点といい,すべての格子点の集合(無限集合)を格子という.格子は並進群の図的表現でもある.
結晶点群:結晶空間の対称操作(変換の前後で空間を不変に保つ操作)で,かつ,空間の1点を不動(特異点)にする対称操作の全体が作る群.

無限に広がる結晶空間で,並進で移動した位置はすべて同値(格子点はすべて同値)と考えると,無限個ある格子点を1点に還元でき,結晶空間群を結晶点群に還元することができる.

■石英,岩塩,ダイヤモンドの結晶構造の例.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

石英
低温水晶α-quartzの構造を観察すると,図面に垂直な3回らせん軸(風車のような記号)が,正3角形の格子点に分布しているのがわかる.これらの3回らせん軸は,1つの空間群のなかでは,すべて右まわりか左まわりに統一されている:空間群の記号で$$P3_{1}21$$(右),$$P3_{2}21$$(左).
石英の組成はSiO2だが,この図に描かれているのはSiだけで,Si位置の紙面レベルからの高さを,黒丸,白丸,半黒丸で区別している.紙面に垂直方向の周期をc=1とすると,黒丸(+1/3レベル),白丸(-1/3レベル),半黒丸(0レベル)である.
紙面の矢印は,水平面内にある2回軸で,その高さレベルの数字が記されている.
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岩塩
上図はNaCl結晶の単位胞を示す.Naイオン(黒丸)とClイオン(白丸)が,立方体の辺に沿って,あるいは,面の対角線や体対角線に沿って,交互に並んでいる.黒丸と白丸は,イオンの種類が異なるので互いに同価点ではないが,両者のペアは同価点になれる.例えば,白丸だけをペアの代表(格子点)と考えると面心格子Fになっていることが理解できる.
NaCl結晶構造の対称性は,並進(格子)だけではない.黒丸,および,白丸位置の対称性(点群)は,ともに$$ m\bar{3}m $$(非座標記法では$$\tilde{6}/4$$)である.この点群のステレオ投影図を,格子点である白丸の位置に配置したものを上図に示した.NaCl結晶構造の空間群は$$Fm\bar{3}m$$である.
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ダイヤモンド
上図に示すのは,ダイヤモンドの結晶構造である.これは,2つの面心立方格子$$F$$を,立方体の体対角線の方向に1/4だけ相対的にずらし重ねたものを考え,両方の面心立方格子の格子点に炭素原子を置いたものである.両方の面心格子の格子点をペアで代表点とすると考えれば,ダイヤモンド構造の格子は,やはり,面心立方格子$$F$$であることがわかる.

2つの面心格子の複合
ダイヤモンド構造の場合,2つの面心格子の格子点には同価な原子があり,2つの面心格子(黒と赤)は,例えば,映進面dにより互いに変換し合う.黒の面心格子を,$$d$$で鏡映し,かつ,$$(1/4)a+(1/4)c$$だけ平行移動すると,赤の面心格子に変換され,この逆も成立する.ここで現れた$$d$$をダイヤモンド映進面と呼ぶ.
面心格子の格子点の点群は$$\bar{4}3m=3/\tilde{4}$$で空間群は$$F\bar{4}3m$$であるが,ダイヤモンド構造では,2種類の炭素原子がこれらの2つの副格子の格子点を占めていて,ダイヤモンド構造の空間群は$$Fd\bar{3}m$$である.

空間群$$Fm\bar{3}m$$と$$Fd\bar{3}m$$には,共通な部分群$$F\bar{4}3m$$を含み,点群$$m\bar{3}m$$と$$d\bar{3}m$$(格子を法とする点群)は,互いに同型な点群である.結局,空間群$$Fd\bar{3}m$$は空間群$$Fm\bar{3}m$$から,鏡映面$$m$$を映進面$$d$$に置き換えて得られる.

★空間群の標記法

■非座標式標記法(ロシア式)と座標式標記法(国際式)

結晶空間群$$\mit\Phi $$は,並進群$$T$$と結晶点群$$G$$(あるいは,並進群$$T$$を法として拡張された結晶点群$$G^{T}$$)の積で作られます.
結晶点群$$G$$を用いた場合に生じる空間群をシンモルフィック,拡張された結晶点群$$G^{T}$$を用いた場合に生じる空間群を非シンモルフィックといいます.
空間群の標記法は,基本的には,群の生成元を列挙することです.まず,格子のタイプを表す記号を冒頭に置き,続いて結晶点群の生成元を並べます.国際的な標記法では,点群の生成元を,座標系の$$x, y, z$$に対応する順番で配列しますので,これを座標式標記法と言います.ロシア式標記法では,前の対称要素の方位とそれに続く対称要素の方位の関係を標記します.直前の対称要素の方向に対して,続く対称要素の方向が,直角な場合は($$:$$),平行あるいは同一面内にある場合は($$・$$),直角以外の角度で斜交する場合は($$/$$)を,間に置きます.国際記号はInternational Tableで用いられているもので,この標記法れが標準ですが,群の構造情報が詳細明瞭に表現できるロシア式は,空間群の理論を扱うのに欠くことはできません.
230種類ある結晶空間群を分類する7つの晶系の内から,Orthorhombic晶系(慣用的に”斜方晶系”と呼ばれる)をとり上げ,説明します.

■Orthorhombic晶系の部
単純格子のタイプは,互いに直角な$$a, b, c$$軸よりなる.単位胞の形は,直方体(レンガのような形)です.

 

★片面帯の空間群

「帯」(バンドやリボン)とは,1次元に周期のある2次元面の呼び名とすることにします.
帯には表面と裏面の2面がありますが,それは,我々が3次元空間にいて,帯の2次元面を見るからです.
帯自体が厚みの次元のない2次元世界ですので,2次元世界にいれば表面も裏面もありません.

帯の模様の対称性を考察するにあたり,1面(片面)帯と2面(両面)帯に分けて,それぞれの空間で空間群を調べます.

■1面(片面)帯の7種の空間群
1面帯(周期は1次元)を記述する空間群は,以下の7種類あります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1面(片面)帯の7つの空間群
赤記号は対称要素.緑のモチーフは非対称単位.
1面帯の模様を,モチーフの分布で表現している.


片面帯の対称操作には,周期$$a$$の他に,映進面$$\tilde{a}$$,鏡映$$m$$,2回軸$$2$$が可能です.
周期$$ a $$は除き,他は皆,位数2の対称操作です.このほかに対称心(反転)$$\bar{1}$$があるように思うかもしれませんが,反転操作は,裏表のある3次元以上の世界で可能な操作で,片面だけの2次元平面には存在しません.
これらの組み合わせで生成される群は,上記の7種類になることがわかるでしょう.
もし,位数2の対称操作以外(例えば,4回軸など)の対称操作が加わった集合を考えると,帯(1次元だけ周期がある)の世界では,群を生成できません.

■下図のイスラム模様は,
Ahmed Saad Analysis of the arabian geometric patterns より引用

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ahmed Saad作品より引用

 

 

このイスラームの模様の作品には,9本の片面帯からできています.

各帯には,局所的な,4回軸,6回軸,8回軸が見られます.しかしながら,このような位数が2より高い対称操作が,1次元周期の世界の全域に作用することはできないので,群の生成に寄与することはできません.結局,これらのイスラームの模様の空間群は,以下のようになります.

イスラームの模様の特徴は,局所的に,対称性の高いロゼットが嵌め込まれていることです.空間群で記述すると,これらの局所的な対称性は反映できないので残念ですが,これらの1面帯から受ける印象は,高次元の影を見るような不思議な魅力があります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 



■演習
説教壇の階段手摺模様に見られる片面帯の空間群は,7種類のうちのどれでしょうか.



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Analysis of the arabian geometric patterns  より引用

★層の空間群.2次元平面と層の違い

2次元平面には,裏表があると思いますか/ないと思いますか?
2次元とは厚み方向の次元のない世界ですから,その世界には,表面や裏面の区別はありません.しいて言えば,片面だけ(1面だけ)の平面です.この2次元平面を私たちの住む3次元世界に置いたとすると,表側面と裏側面の区別が生じます.

周期的な2次元平面とは,面内に2つの独立な並進ベクトル$$a,b$$があり,この2つのベクトルで挟まれる平行4辺形を単位胞(単位タイル)として,平面を敷き詰めた構造です.周期的な2次元平面の対称性(平面群)は17種類ありました.いわゆる17種類の壁紙模様のことです.2次元平面(壁紙模様)は片面のみの世界で考えたものです.

我々の3次元の世界の中で,2次元の平面を見たときに,表面と裏面の区別が生じますが,このように表裏のある2次元平面を「層」と呼びます.

層というのは,3次元の世界に置かれた2次元平面ですので,層には表面と裏面があります.

層(表側と裏側のある面)の2次元周期的模様の対称性(空間群)は,80種類あります.もちろん,80種類のうちに片側のみの面の対称群17種類は含まれます.

片側のみの面の対称群17種類から,どのようにして80種類の空間群が導けるのでしょうか.

第1の方法は,層の内部(層に含まれるような)に,対称心,鏡映面(あるいは,映進面),2回軸(あるいは,2回らせん軸),などの,位数2の対称操作を導入し,片面の世界を他の面の世界に写像することです.つまり,
片面のみの壁紙模様の17種類の平面群と,層の内部に置いた位数2の対称群との直積で「層の空間群」を生成する方法です.

第2の方法は,2次元(片面)平面群の生成元を,表面と裏面との間の変換が起こるものに置き換える方法です:回軸対称軸を位数2のらせん軸に,あるいは鏡映面を映進面に置き換えることです.

こうして,17種類の平面群から,80種類の層の空間群を導くことができます.

層の(空間群)対称性をすべて導くことは,30年代にドイツの科学者;Hermann,Weber,Alexanderらによって完了しています.
層に対する空間群など,何に応用できるのかと思う方もおられることでしょう.層の対称性(空間群)は,表面や界面の記述に用いることができます.結晶学では液晶構造,ドメイン界面,双晶,エピタキシャル接合の研究に,物理化学では単分子層や薄膜の研究に,生物学では膜構造やその他の生体組織の研究に応用できます.また,建築芸術においても, 透かし彫りの格子構造,覆い,フェンス,看板などのデザインに応用できます.

それにもましてこの概念が重要なのは,層に対する空間群の内部構造を理解することが,群の拡大理論に直結し,反対称群などの概念の構築の基礎になることです.

☆層の対称性

「層」と壁紙模様の関係は,「帯」と縁飾の関係と似ています.壁紙[2次元]模様から層[3次元中の2次元]に移行するには,特異平面が極性であるという要請を緩和する必要があります.「層」を特徴づける2つの条件は:特異平面(片面および両面)の存在[簡単のために,層の特異平面は常に水平とします]と,2つの並進軸です.この定義を受け入れるならば,壁紙模様の概念は層の概念に含まれることになり,層に特異点がないという要請もこの定義から導かれます.あらゆる種類の層の対称性をすべて導くことは,30年代にドイツの科学者;Hermannヘルマン,Weberウェーバー,Alexanderアレクサンダーらによって行われました.層の対称性は,結晶学では液晶構造,ドメイン界面,双晶,エピタキシャル接合の研究に,物理化学では単分子層や薄膜の研究に,生物学では膜構造やその他の生体組織の研究に応用されています.建築芸術においても, 透かし彫り格子構造,覆い,フェンス,看板などのデザインに応用できます. 

層の対称要素 

壁紙模様は片面だけなので,模様のある表側面から裏側面に模様を移す「反転」という対称要素は存在しません.これらの対称要素は,層の内部に存在し,対称心,水平面内にある位数2の対称軸(単純回転,らせん回転),水平な対称面や映進面などです.古典的な対称原理に留まる限り,未発見の新しい対称要素を層に見出すことはありません.しかし,層の対称性を研究することは,対称性の概念自体を拡張し,層の反対称群や3次元(有限および無限)図形の対称群の導出に繋がります.

層の対称類の導出.表現と表記法

既に導いた2次元平面群の17種類に加えて,層のすべての対称類の導出は,これら17種類の中から同一の壁紙模様をペアにするか,あるいは,生成元に「反転」の対称要素を追加することです.まず,各類に水平な対称面を追加すると,層の17個の両面対称類ができます.新しい対称要素を導入した結果,特異平面の単位面積当たりの基本図形の数は,もし,複数の古い図形から作られた新しい図形同士の融合や絡み合いがなければ,明らかに2倍になります. 
層の対称類の表現は,帯で先に使用した方法と同じで,図184-187にその単位胞を示します.図に表示されているのは,観察者方向に向いた面で,黒い3角形が見えれば,その裏側は白い3角形,白い3角形が見えれば,その裏側は白い3角形です.点のある3角形は,「表側面」と「裏側面」が同じ両面3角形です. 
両面層の空間群の非座標記号は,片面層の空間群の場合と同様です(図149参照).シンモルフィック群の対称記号を得るには,2次元並進群$$( a/b)$$ ,$$(a:b)$$ ,あるいは,$$\left( \displaystyle \frac{a+b}{2}/a:b \right) $$を,有限図形に対応する対称群に「乗じる」必要があります(図69参照).点群の対称要素に層平面内の並進を「乗じる」ことになり,いくつかの派生対称要素が生じます.並進群と点群の記号の間には,これらの群の対称要素の相対方位を表示する記号($$・$$あるいは$$:$$)が置かれます. 
どの場合(図187の70-72, 74の層を除く)でも,点群の記号で,最初に左に書かれてい対称要素は,層$$( a,b) $$の平面と並進群の記号で括弧内の最後に書かれている並進軸に,平行($$ ・ $$),または,垂直($$:$$)です.
このような状況下で,点群の記号は必ずしも標準形ではないが,図69と同じ分離記号($$・$$あるいは$$:$$)が用いられます:
$$m:2=2:m, m・2=2・m, m:2・m=m・2:m, m:4・m=m・4:m, m・3=3・m, m:3・m=m・3:m$$, $$2:3=3:2, m・6=6・m, m:6=6:m, m:6・m=m ・6:m$$.
非シンモルフィックの層群の対称記号中で,$$2$$回回転軸の一部または全部が2回らせん軸$$2_{1}$$に置き換えられ,対称面$$m$$が映進面$$\tilde{a}, \tilde{b}, \tilde{ab}=\tilde{n}$$[最後の平面では,並進$$\left( a+b \right) /2$$は単位格子の対角方向]に置き換えられています.層の空間群は全部80で,そのうち45はシンモルフィック,35は非シンモルフィックです.

80種類の層の対称類

層の個々の対称類について詳細を記述することはしません.なぜならば,図形の正則系の投影図(図184~187)から,基本的事項は直接見てとれるからです.これらの投影図には,対称要素は全く表示されず,図形(3角形)の相互配置のみが示されています.図184-186の細い線は,層の単位胞を区分しています.図187では,辺を挟んで隣接する2つの3角形で単位胞は構成されます.層を作るには,隙間も重なりもなく単位胞を並進させて平面を埋めます.
さらに,表11には,図149と同様な軸方位で,層の空間群の非座標表示と座標表示(国際表示)を比較掲載しました.読者は,図149と図69の群の表示を参考にして,両面層の対称要素の配置を投影して描いてみるとよいでしょう.

球の高密充填

球の密な充填(積層).結晶学と構造工学における重要性

球の3次元充填でこれがが最密であるというKepler予想は肯定的に証明されました.この予想の証明は難問で400年もかかりました.しかし,ここでは,その構造が最密であるという断定はあえて避け,密な充填というレベルにとどめます.さらに,ここで考察するのは,厳密に言うと,球のランダムな充填は検討外で,球の最密配列層の積層(規則的)の範疇に留めていますです.そのため,充填ではなく積層という言葉を使うようにしています.

(注)ケプラーはまた、球を敷き詰めたときに、面心立方格子が最密になると予想した。 この予想はケプラー予想と呼ばれ、規則正しく敷き詰める場合に関してはカール・フリードリヒ・ガウスによって早々に証明されたが、 不規則な敷き詰め方に関しては、400年もの間未解決の問題であった。ケプラー予想は1998年に、トーマス・C・ヘイルズによって、コンピュータを駆使して解決された。wikiより引用----
現在,離散体(=結晶空間)の対称性は,結晶学や固体物理学で関心を持たれていますが,その理由は,すべての結晶は離散体であるからです.しかし,この問題は,他の学問分野や工学分野からも少なからず関心を集めています.特に,建築美術では,空間的な構造を計算する方法がなく,「平面的な問題」にとどまっていましたが,今日では,離散体の対称性理論は,建設工学に応用されるようになりました.ここでは,レンガ積みやトラス構造などや,物体を最も密に詰めるという問題に係わります.隙間や重なりなく平面を充填したり分割する様式や球の密な充填様式は,N.V. Belov(1947年)とToth(1953年)の問題提起が参考になります.


一見すると,球を高密度に充填する方法は1つしかないように見えますが,実際には無限にあります.これを理解するために,同一の球を,それぞれの球が6つの球に接するようにして1層並べてみましょう(図195のa)[パチンコ珠をトレィに並べた様子です].この配置は平面では,最も密度の高いものになることがわかっています.これを,第1層として層の積み重ねを考えます.第2層の球を,第1の層の上に,最も密な配置となるような唯一の方法で配置することができます:第2層の球の 1 つは,2の位置または 3の位置の窪みを占めることができますが,これらは,どちらも同じ結果になります.次に,第3層を,出来上がった2層系の上に積み重ねるわけですが,2つの方法があります:第3層の球は,第1層の球と同じ位置を占めるか,第2層の球が2の位置にある場合は3の位置(第2層の球が3の位置にある場合は2の位置)を占めるかです.このようにして得られた2種類の3層系の違いは,第3層の層の球を投影した時,第1層の球と一致するかしないかにあります.
球の中心を平面に投影すると3種類の位置ができますが(図195のb),どのような積み重ねであろうとも,この3つの位置以外に球は存在しないことがわかります.したがって,球の最も密な充填は,数字の1,2,3からなる記号で表すことができ,これらの数字の有限または無限の列のなかで,同じ数字が2つ続かないようにします.明らかに,この条件を満たす3つの数字の配列様式は無限です.したがって,球の最密充填は無限にあります.無限に続く数字の列が,ある同一の有限の組み合わせを周期的に繰り返すならば,その構造は対称的(周期的)です.そうでなければ,同じように球を高密度に積み重ねても,少なくとも層に垂直な方向には,非対称(非周期的)な構造になります.例えば,12312 12312 12312....は,12312という組み合わせが周期的に繰り返されていることから,対称的(周期的)な5層構造と定義されます.この列の2つの数字の間に,1つの余分な数字を挿入すると,構造の並進対称性が一気に崩れます.
対称的(周期的)な積層において,すべての球(半径は等しい)の構造中で占める位置は,互いに同価ではないことに注意しましょう(同価性は3層構造の場合にのみ当てはまります).多層構造のすべての球には,構造のすべての層ではないが,異なる層にある並進同価な球の無限集合があります.非対称な積層では,同じ球は同じ層の同じ位置にしか入りません.
球の最密充填は,どのような対称群になるでしょうか.ある対称的な積層に対応する数字の配列を見ましょう.数の列が,左から右に読んでも、右から左に読んでも同じなら,構造には対称面となる層平面が存在します.例えば,列1213121312.....では,対称面は層2と層3にあります.もし,順方向と逆方向の読み取りで,数の並びが違っているなら,構造に層(水平方向)に沿った対称面はありません.水平方向の対称面を持つすべての構造は,同じ6方対称($$P6_{3}mmc$$)を持っています. 例えば,6方対称の2層積層12(図196のa)は,このような対称性です.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対称要素と球の積層構造の投影図を重ね合わせ,第1層の球を実線で,第2層の球を破線で示します.第1層から第2層への変換は,紙面に垂直な螺旋軸$$6_{3}$$と$$2_{1}$$の回転(単位胞への投影はこれらの軸のよぎる点で,それぞれ羽付きの黒い6角形とレンズで表示),反転(紙面から$$c/4$$上にある白丸),並進$$c/2$$を伴う回映(破線)の垂直な映進面(破線で表示)が担う.これらの要素に加えて,この投影図には,垂直方向と水平方向の対称面が描かれています(後者は1番目の層の球の中心と一致しています).水平な対称面間を通過する水平な2回軸は,投影図には表示しません.
水平な対称面を持たない球配列(立方体の3層配列を除く)は,すべて3方対称性を持つ.例えば,12132の3方対称の5層積層は,空間対称群が$$P\bar{3}m1$$である(図196, b).与えられた投影図は,各層1,2,3の球をそれぞれ長短の点線と実線で表しています.
4番目の層の球は1番目の層の球と,5番目の層の球は2番目の層の球と,投影が一致しています.紙面上にある対称心(小さな白い円)は,3番目の層の球の中心と接点に一致しています.同じ中心で,4番目の層の球(紙面上)は2番目の層の球(紙面より下)に,5番目の層の球は1番目の層の球に映されます.
この投影図には,対称心のほかに,垂直方向の対称面(実線),映進面,垂直方向の単純軸と回反軸$$3, \bar{3}$$が示されています.水平方向の対称軸$$2, \bar{2}$$は,投影されていません.

図196のcは,立方面心格子の対称性を持つ3層構造の投影図です$$Fm\bar{3}m$$.図193のcとは対照的に,このグループの対称要素は,垂直軸$$3$$に沿って図面上に投影されており,点群$$m\bar{3}m$$のステレオ投影の中心は,球の中心と一致しています.1番目の層の球の中心は紙面の中心にあります.1番目の層の球から2番目の層および3番目の層の球(図中に数字で示されている)への移行は,垂直な螺旋軸$$3_{1}, 3_{2}$$で回転させることによって行うことができます(それらの投影は,羽付きの小さな黒い3角形で示されています).また,対称心(レベル$$c/6$$および$$c/3$$の小さな白い円)で反射させることもできます.2番目の層と3番目の層の球の中心は,投影図に対応する数字で示されているように,レベル$$c/3$$と$$2c/3$$にあります.さらに,この投影図では,レベル$$c/2$$にある対称心が,2番目の層と3番目の層3の球と映進の垂直面を結んでいます.群$$Fm\bar{3}m$$の対称要素の一部は,投影図には表示されていません.

立方および6方の高密度充填の3次元モデルを図197のa,bに示します.2層積層では、位置3(図195のa参照)が球で占められておらず,層に垂直に走る構造的なチャネルが,6次の$$6_{3}$$の3方向のらせん軸とその方向で一致している.立方積層には,構造上のチャンネルがありません.この2つの積層は,ほとんどの化学元素の結晶構造や,多くの無機化合物や鉱物の構造における陰イオンの積層に対応しています. 

 

★平行多辺形とプラニゴン

平行多辺形とプラニゴン 

寄せ木細工での利用

一つの図形を用いて,平面を隙間も重なることもなく埋め尽くす課題にしばしば出会います.図形を互いに平行配置し平面を埋め尽すことができ,その図形がポリゴン[凸多角形]であれば,その図形は平行多辺形parallelogonと呼ばれます.任意の平行4辺形と,対辺が平行で等しい6辺形だけが,平行多辺形になれ,この他に平行多辺形はありません.こうして,次の8つの典型的な平行多辺形が作れます(図171).内訳は,4つの平行多辺形(正方形,長方形,菱形,傾いた平行4辺形)と,4つの平行6辺形(正6角形,対辺に垂直な方向に伸びた6辺形,対角を2等分する方向に伸びた6辺形,歪んだ6辺形)です.

 

 

 

 

 

 

 


平行多辺形からプラニゴンplanigon(すなわち,平面を隙間なく重ることもなく埋め尽くす形の平行多辺形で,平行移動だけでなく回転軸や対称面で反射した位置にも配列できる)を得るには,各平行多辺形を対称性に従い等価な部分に分割すれば十分です.例えば,正方形は8通りの方法で等価な部分に分割できます(図172,19-26).もし,正方形を非対称図形として扱えば,分割できず(19)のままであり,この場合は平行多辺形であると同時にプラニゴンでもあります.もし,正方形を対称性2・mにするなら,等価な部分への分割には2つの方法があります(20,21).2回回転対称性を持たせるなら2つの台形への分割になります(22).対称性4・mにする,正方形の4つの等価部分への分割なら2通り(23,25),および,8つの等価部分への1通りの分割(26)があり,4回回転対称性にするなら,4つの等価部分への分割は1通り(24)があります.すべての平行多辺形の等価部分への分割は,これと完全に同様な方法で行います.図172には全部で48通りの平行4辺形のプラニゴンへの分割結果が掲載されています.ただし,これらの分割された平行多辺形の48個のうちのいくつかは,平面を埋めるた結果が同じになります.例えば,平行多辺形19と23は,同じ単純正方格子になります.また,平行多辺形21,25,26は直角2等辺3角形の異なる寄せ木パターンを作ります.
平面をプラニゴンで埋める問題は,確かに,もっと一般的な問題の特殊なケースで,等価な図形で平面を埋める問題は早くから考察されてきました.この特殊なケースは,床や道を張り詰める寄せ木デザインなどで実用的な重要性があります.

 

 

[訳者注]ここで扱う平面の分割は,結晶(周期的内部構造)学の基礎になるもので周期的なものであります.ペンローズタイリングのような非周期の平面分割(充填)もあります.

 

2次元のブラベ格子

2次元のバラベー格子は5種類

\documentclass[a4paper,10pt]{jarticle}

\usepackage[dviout]{graphicx}

\begin{document}

$$\begin{array}{|c|c|c|c|c|}
\hline
単位胞の形 & 晶系 & 非座標式表示 & 座標式表示 & 格子 \\[0mm]
\hline
正方形 & 正方格子 & \left( a:a \right) & p & \begin{minipage}[b][79pt]{77pt}
\includegraphics[width=77pt,height=79pt]{2次元結晶学_001.bmp}
\end{minipage}
\\[0mm]
\hline
正3角形 & 6方格子 & \left( a/a \right) & p & \begin{minipage}[b][86pt]{89pt}
\includegraphics[width=89pt,height=86pt]{2次元結晶学_002.bmp}
\end{minipage}
\\[0mm]
\hline
面心長方形(菱形) & 直方面心格子 & \left( c/b:a \right) & c & \begin{minipage}[b][78pt]{80pt}
\includegraphics[width=80pt,height=78pt]{2次元結晶学_003.bmp}
\end{minipage}
\\[0mm]
\hline
長方形 & 直方格子 & \left( b:a \right) & p & \begin{minipage}[b][84pt]{81pt}
\includegraphics[width=81pt,height=84pt]{2次元結晶学_004.bmp}
\end{minipage}
\\[0mm]
\hline
斜交4辺形 & 一般格子 & \left( b/a \right) & p & \begin{minipage}[b][73pt]{88pt}
\includegraphics[width=88pt,height=73pt]{2次元結晶学_005.bmp}
\end{minipage}
\\[0mm]
\hline
\end{array}$$

\end{document}

2次元空間群

晶系 単位胞 ブラベー格子   非座標式標記  座標式標記 点群 空間群
  6方                          
    
   
   
             

 

晶系 ブラベ格子 点群 空間群
六方
$$6mm$$
 正3角形    

正方

$$4mm$$

     

長方

$$2mm$$

 
     
     

斜方

$$2$$

     

■2次元結晶点群

2次元結晶空間の中の対称操作で,1点を不動の特異点にする対称操作の作る群は10種類.
$$1, m, 2, 2mm, 3, 3m, 4, 4mm, 6, 6mm$$

-------------------------------------

$$2mm=2⊗m$$
$$3m=3⊙m$$
$$4mm=4⊙m$$
$$6mm=6⊙m$$

$$6=3⊗2$$
$$4=2○4(mod2)$$

 --------------------------------
$$6mm\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 6\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 3 \\[0mm]
\vartriangleright 2
\end{array} \right. \\[0mm]
\supset m
\end{array} \right. \\[0mm]
\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 3m\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 3 \\[0mm]
\supset m
\end{array} \right. \\[0mm]
\supset 2
\end{array} \right. \\[0mm]
\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 2mm\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 2 \\[0mm]
\vartriangleright m
\end{array} \right. \\[0mm]
\supset 3
\end{array} \right.
\end{array} \right. $$


$$4mm\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 4\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 2 \\[0mm]
○4(mod2)
\end{array} \right. \\[0mm]
\supset m
\end{array} \right. \\[0mm]
\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 2mm\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 2 \\[0mm]
\vartriangleright m
\end{array} \right. \\[0mm]
\supset 2
\end{array} \right.
\end{array} \right. $$


$$3m\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\vartriangleright 3 \\[0mm]
\supset m
\end{array} \right. $$


対称群を系統的に見る
$$\begin{array}{|c|c|c|c|c|}
\hline
\begin{array}{@{\,} c @{\, } }
次元数 \to \\[0mm]
周期軸数 \downarrow
\end{array} & 0 & 1 & 2 & 3 \\[0mm]
\hline
0 & G_{0,0}=1 & G_{1,0}=2 & G_{2,0}=10 & G_{3,0}=32 \\[0mm]
\hline
1 & \times & G_{1,1}=2 & G_{2,1}=7 & G_{3,1}=75 \\[0mm]
\hline
2 & \times & \times & G_{2,2}=17 & G_{3,2}=80 \\[0mm]
\hline
3 & \times & \times & \times & G_{3,3}=230 \\[0mm]
\hline
\end{array}$$


2次元のブラベー格子
2次元のバラベー格子は5種類

 

 

★平行多辺形の分割で平面群を導く

230の結晶空間群を数え上げた一人にフェドロフがいます.フェドロフはどのようにして空間群の数え上げを行ったのでしょうか.

注)
230種の3次元の結晶空間群の数え上げの研究は,フェドロフ(露,ぺテルスブルグ大,鉱物学教授),シェンフリーズ(独,フランクフルト大,数学教授),バーロウ(英,ロンドンの実業家)により,1890-1895の間に,それぞれ互いに独立に完成しました.フェドロフの結果が完璧であったことは,3者の認めるところであり,3次元結晶空間群はフェドロフ群とも呼ばれています.

3次元の結晶空間を対象とする前に,2次元の結晶空間を対象にして,結晶空間(=離散的な周期空間,デジタル化された空間)の構造を記述する群論を十分に理解するのが良いと思います.それは,3次元やそれ以上の高次元にも対応できる応用力となります.

2次元の結晶空間で,同一の平行多辺形タイルで平面をタイル張りする(重なりもなく隙間もない)ことが,この課題のスタートとなります.

 

 

 

 

 

次に,1つのタイルを同価な部分に分割します.この分割は,タイルの対称性を使って,そのタイルの非対称要素と言われる同価部分に分割します.
1つのタイルを分割できる同価部分の数は,タイルの点群の位数に等しい数です.こうして分割された部分の形には対称性がなく,非対称要素と呼ばれます.表紙に掲載した平面のタイル張りができる8つの平行多辺形から出発します.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平行多辺形の同価部分への分割方法
これら80種類のタイルは,それぞれ,並進だけで平面を張り詰めることのできる平行多辺形です.着色した部分はそれぞれの平行多辺形の非対称部分で,1つの例外(15番)を除いて,そのタイルの点群の対称操作を非対称部分に作用させ,そのタイルの全体を作ることができます.

 

 

 

 

 

このタイル張りで生じる平面群は$$p2 \tilde{a}\tilde{b} $$

 

15番のタイルの場合には,濃い黄緑色に着色した非対称要素に,タイルの点群$$2mm$$の対称操作を作用させても,薄い黄緑色に着色した部分へ移動し重ねることができません.この移動には映進操作$$\tilde{a}$$が必要です.
今,タイルの並進で無限に広い2次元平面を張り詰めるので,映進操作も対称操作に含めることができます.

これらの図形の点群を調べると,点群が重複しているものがたくさんあります.全部で17種類の平面群に整理することができます.
注)15番のタイル張りは,以下の$$p2gg$$⑧に対応.
3次元結晶空間への発展を見る

 

★フェドロフの平行多面体と非対称要素立体

フェドロフの平行多面体(Parallelohedron)と非対称要素立体(Stereohedron)

Параллелоэдры(Parallelohedra)и стероэдры(Stereohedra) Федорова

 

 

 

 

一つの平行多辺形で,平面を隙間なく埋めるという問題は,3次元空間に対しても提起できます.空間では,平行多辺形の役割は,平行多面体が担っています.代表的な平行多面体には,立方体,2つの底面を持つ6角柱,菱形12面体,細長い菱形12面体,立方8面体(切頂8面体)の5種類があります(図198).隣接する平行多面体の面が完全に一致するように,同一の平行多面体を充填し,すべての平行多面体が平行になるようにすると,重なりや隙間のない空間充填ができます.5つの典型的な平行多面体から,それを伸ばしたりずらしたりすることで,無限の派生平行多面体を得ることができます.
立方体から変形させると,直方,および,斜方の平行多面体,6角柱から変形させると,斜方の6角柱などになります.平行多面体にある種の対称性を持たせれば,一般的には非平行に配向した等価な部分に分割できます.分割された部分をStereohedron非対称要素立体と呼びます.3次元空間における非対称要素立体は,2次元平面におけるプラニゴン(非対称要素)Planigonに相当し,非対称要素立体は,3次元離散体の最小不可分な部分を表しています.それは,さらに小さい等価部分に分割することはできませんが,それらの部分は直交変換によって互いに変換し合います.ここでは,すべての非対称要素立体のカタログを作ることはせず,いくつかの例を挙げるにとどめます.
平行多面体が対称心を持たない斜方の平行六面体(対向面は異なる色とする)である場合,その図形を等価部分に分割できず,それ自体が非対称要素立体です.平行六面体の中心に対称心がある場合は,その図形は2つの非対称要素立体に分割することができます.立方体は,対称面によって48個の非対称要素立体に分割できます(図189のa参照).E.S.Fedorovが離散体(結晶空間)の230種類の対称類を導出した際に,Stereohedron非対称要素立体は大きな役割を果たしました.球などの最密充填の問題は,非対称要素立体や平行多面体による空間充填の問題に還元できる部分もあります(B.N.Delaunay, 1934参照).

 

 

図198

群論テキスト5

 

1.群$$G$$の2つの部分群$$H,K$$の共通部分は部分群である.
$$H \cap K=D \ni ^{ \forall }a,^{ \forall }b \Rightarrow \left\{ \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
H \ni ab \in K & \Rightarrow ab \in D \\[0mm]
H \ni a^{-1} \in K & \Rightarrow a^{-1} \in D
\end{array} \right. $$

2.2つの正規部分群$$H, K$$の共通部分は,$$H, K$$の正規部分群である.
$$\left. \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
H=k^{-1}Hk & k^{-1}Kk=K \\[0mm]
H \supset k^{-1}Dk & k^{-1}Dk \subset K
\end{array} \right\}  \Rightarrow k^{-1}Dk=D, \left( h^{-1}Dh=D \right) $$

3.$$H, K$$が正規部分群なら,$$^{ \forall }h \in H$$と$$^{ \forall }k \in K$$は可換である.ただし,$$H \cap K=e$$とする.
$$\left. \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
K正規部分群 & \Rightarrow & \left( h^{-1}k^{-1}h \right) k=k'k=k'' \\[0mm]
H正規部分群 & \Rightarrow & h^{-1}\left( k^{-1}hk \right) =h^{-1}h'=h''
\end{array} \right\} \Rightarrow k''=h''=e$$とすると,
$$h^{-1}k^{-1}hk=e$$だから,$$hk=kh$$が結論できる.
(逆)
① $$H, K$$が部分群で,$$^{ \forall }h \in H, ^{ \forall }k \in K$$に対して,$$hk=kh$$ならば,$$HK$$は群を作る.
② $$H, K$$は,$$HK$$の中で正規である. 
(証明) 
$$^{ \forall }h_{1}k_{1}, ^{ \forall }h_{2}k_{2} \in HK \Rightarrow h_{1}k_{1} \cdot h_{2}k_{2}=h_{1}h_{2} \cdot k_{1}k_{2} \in HK$$ ① 
$$^{ \forall }hk \in HK$$に対し,$$hkHk^{-1}h^{-1}=H$$              ② 

4.群$$\mit\Phi $$の部分群$$\mit\Phi ^{ \ast }, \mit\Gamma , D$$の指数関係
$$\left. \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\mit\Phi \supset \mit\Phi ^{ \ast } \supset D \\[0mm]
\mit\Phi \supset \mit\Gamma \supset D
\end{array} \right\} $$, $$\mit\Phi ^{ \ast } \cap \mit\Gamma =D$$ならば, $$\left( \mit\Phi :\mit\Phi ^{ \ast } \right) \ge \left( \mit\Gamma :D \right) $$

$$\left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\mit\Gamma =D+\gamma _{2}D+\gamma _{3}D+ \cdots +\gamma _{p}D \\[0mm]
\gamma _{i}D \cap \gamma _{j}D= \phi \left( i \neq j \right)
\end{array} \right. $$である.
もし,$$\gamma _{i}\mit\Phi ^{ \ast } \cap \gamma _{j}\mit\Phi ^{ \ast } \neq \phi $$とするなら,適当な$$\phi _{i}^{ \ast }, \phi _{j}^{ \ast } \in \mit\Phi ^{ \ast }$$があり,
$$\gamma _{i}\phi ^{ \ast }_{i}=\gamma _{j}\phi _{j}^{ \ast } \Rightarrow \mit\Gamma \ni \gamma _{j}^{-1}\gamma _{i}=\phi _{j}^{ \ast }\phi _{i}^{ \ast -1} \in \mit\Phi ^{ \ast }$$
ゆえに,$$\gamma _{j}^{-1}\gamma _{i} \in D \Rightarrow \gamma _{j}^{-1}\gamma _{i} \in \mit\Phi ^{ \ast } \Rightarrow \gamma _{i}\mit\Phi ^{ \ast }=\gamma _{j}\mit\Phi ^{ \ast }$$同一な剰余類になり矛盾.
ゆえに,$$\gamma _{i}\mit\Phi ^{ \ast } \cap \gamma _{j}\mit\Phi ^{ \ast }= \phi $$

 

結晶学用語集(1)ー結晶空間群早わかりー

1.空間群[space groups: Пространственные (федоровские) группы]
  結晶構造における対称操作の集合が作る群を空間群という. 3次元の空間群が230 種類あることは,1880年代に,フェドロフ,シェンフリーズ,バーロー(Fedorov, Schoenfles, Barlow)らにより,それぞれ独立に導かれた. 
空間群$$\mit\Phi $$には,並進群$$T$$ [並進操作の集合が作る群: ねじれのないアーベル(Abel)群]が, 正規部分群[$$T \vartriangleleft \mit\Phi $$]として必ず含まれている. 従って,商群$$\mit\Phi /T$$が存在し,これは 結晶点群の一つ$$G$$と同型(isomorphism)[$$\mit\Phi /T \cong G$$]になる. つまり,空間群$$\mit\Phi $$は, 並進群$$T$$を,結晶点群$$G$$ [または,$$G$$中の回転軸,鏡映面の一部あるいは全部を,それぞれ,らせん軸,映進面でおきかえて得た$$G$$と同型な群$$G^{T}(\textrm{mod}T)$$]により,拡大して得られる.らせん軸や映進面を全く含まぬ点群$$G$$で拡大して得た空間群は,共型(symmorphic)群といわれ7 3種類, らせん軸や映進面を含む群$$G^{T}(\textrm{mod}T)$$により拡大 て得られた空間群は,非共型(nonsymmorphic)群といわれ15 7種類ある.
空間群の対称操作の記述には,ザイツ(Seitz)演算子$$\left[ A|t \right] $$が用いられる. これによると ,位置ベクトル$$r$$に対称操作$$\left[ A|t \right] $$を作用させた結果は,$$\left[ A|t \right] r=Ar+t$$と定義される.
空間群の記述には,ヘルマン=モーガン(Hermann=Mauguin)の記号から発展した国際記号が広く用いられて いる.

2.結晶系[syngonies, crystal system: сингонии, кристаллические системы]
  結晶構造の対称性は,230種の空間群のうちの一つで記述できる. 結晶構造の特徴 は,3次元空間の周期性(=結晶空間)にあるのだから,どの空間群にも並進群が部分群(正確には正規部分群)として含まれている. この並進群の具体化(幾何学的表現)が結晶格子である. 結晶格子を,格子点のまわりの対称性(点群)で分類すると,$$\bar{1}$$(三斜格子), $$2/m$$(単斜格子), $$mmm$$(斜方格子), $$4/mmm$$(正方格子), $$\bar{3}m$$(三方格子 ), $$6/mmm$$(六方格子), $$m3m$$(立方格子)の7種になる.
一般に,結晶構造の点群は,その結晶構造がもつ結晶格子の点群よりも高い対称性をもつことはない. 従って,結晶構造の対称性を記述する32種の結晶点群を,その結晶点群が部分群として含まれるような格子の点群のうちの位数が最小なものに帰属させることができる. このような分類が結晶系である. 各結晶系で最も対称性の高い点群は,格子の点群で,これは完面像[holohedry, ]である. 7つの晶系の名称は,格子の名称と同じで,(表1)に各晶系に属する結晶点群をリストアップしておく.
  各結晶系の結晶軸$$a, b, c$$のとり方は,単位胞の3本の稜の方向で,格子定数$$a_{0}, b_{0}, c_{0}; \alpha , \beta , \gamma $$と(表2)の関係にある.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              (表1)                       (表2)

 

3.ブラベー格子[Bravais lattices : Решетки Бравэ]
  結晶は3次元空間に周期をもって規則正しく繰り返される内部構造を特徴とする. 従 って,結晶構造を自分自身に重ね合せる(合同変換)対称操作には並進操作があり,これらは並進群を作る.並進群に従って,代表点(“格子点”となるモチーフ)を配列させて得られる並進群の具体化は結晶格子と呼ばれる. 結晶のすべての並進群は,抽象群の立場からは同 型であるが,得られた結晶格子の空間的な対称性(空間群)で分類すると,3次元の結晶格子は14の異なる型になることがブラベー(Bravais) (1849)により導かれた. これをBravais格子という. 格子点における点群を調べると,14種のBravais格子は,$$\bar{1}, 2/m, mmm, 4/mmm, 3m, 6/mmm, m3m$$の7種の点群に帰属できる. これらは ,三斜,単斜,斜方, 正方, 三方, 六方, 立方の各格子に対応する. 単位胞中に一つの 格子点を含むものは$$P$$(単純)格子, 複数の格子点を含むものは複合格子といい,$$I$$(体心)格子, $$F$$(面心)格子, $$C, A, B$$(底面心)格子, および,$$R_{\textrm{hex } }$$:(六方から導い た菱面体)格子がある. 14のBravais格子 の内訳を図示する. 
図挿入

3.1. 体心格子[body-centered lattice: решетка объемно-центрированная ] 
  結晶格子(空間格子)の一つ. 斜方, 正方, 立方のブラベー格子に存在する複合格子.単位胞となる平行6面体の各頂点の他に,その中心にも格子点が存在するもの. 記号は$I$で示す. 単斜格子での体心格子は底面心格子と見なすことができる. 

3.2. 底面心格子[base-centered lattice: решетка базоцентрированная ]
  結晶格子(空間格子)の一つ. 単斜, 斜方のブラベー格子に存在する複合格子. 単位胞となる平行6面体の各頂点の他に,向かい合った一組の面の中心にも格子点が存在する もの. 格子点を追加した面を重ね合わせる並進方向が$$a$$軸のものを$$A$$面心, $$b$$軸のものを$$B$$面心, $$c$$軸のものを$$C$$面心という.

3.3. 面心格子[face-centered lattice: решетка гранецентрированная]
  結晶格子(空間格子)の一つ. 斜方, 立方のブラベー格子に存在する複合格子. 単位胞となる平行6面体の各頂点の他に,それぞれの面の中心にも格子点が存在するもの. 記 号は$$F$$で示す.

3. 4. 単純格子[primitive lattice: решетка примитивная]
  結晶格子(空間格子)の一つ. 複合格子(体心, 面心, 底面心)に対立する用語. 平行6面体の頂点のみに格子点を持つようにとったブラベー格子. どの晶系にも単純格子が一つづつ存在する.ただし,三方晶系では,単純格子$$R$$を用いずに,六方晶系の単純格子に2つの格子点を追加した複合格子$$R_{\textrm{hex } }$$を用いることが多い. その他の単純格子は$$P$$で示される.
  格子の対称性が一目でわかるように,ブラベー格子では複合格子がいくつか用いられているが,複合格子は,適当な平行6面体を採用すれば,すべて単純格子に直すことができる(格子の定義から明らか).

4.実格子[lattice in realspace: решетка пространственная (кристаллическая) ]
  結晶は3次元空間に周期をもつ構造である. 各周期を表す互いに独立な3本の並進べ クトル$$a_{1}, a_{2}, a_{3}$$は並進群を生成する. 代表点をこの並進群に従い分布させると結晶 格子(空間格子)が得られる. 結晶空間(実空間)とそのフーリエ(Fourier)変換である逆空間は, 互いに双対な空間であるので,逆格子に対する概念として結晶格子をとらえ,実格子と呼ぶことがある. 

5.ラウエ群[Laue groups: Группы Лауэ, лауэвские классы ]
  単結晶のX線回折強度像の対称性を表わす点群のことである. ピエール・キューリー(Pierre Curie)の原理(あるいは,NMC原理)として知られる因果律によると,「結晶で観測される物理現象の対称性(結果 )には,その舞台となる結晶構造の対称性(原因)がすべて反映されるはずである」. 従って,結晶構造の点群を$$G_{\textrm{cryst } }$$,この結晶によるX線回折強度像の点群を$$G_{\textrm{X } }$$とすると,$$G_{\textrm{cryst } } \subseteq G_{\textrm{X } }$$とな る. これは,結晶構造に存在しない対称要素でも,その結晶のX線回折強度像の対称性に出現することがあることを示している. 実際,結晶構造が特別な条件を満たせば,X線回折強度対称が,上昇することが知られている. しかし,どのような結晶構造であろうとも,異常分散がない限り,X線回折強度像の対称性には,必ず$$\bar{1}$$ (対称心)が存在することは,フリーデル(Friedel)則として知られているから, X線回折強度像の対称性は,結晶点群のうち$$\bar{1}$$を部分群として含む11の点群
$$\bar{1}, 2/m, mmm, 4/m, 4/mmm, \bar{3}, \bar{3}m, 6/m, 6/mmm, m\bar{3}, m\bar{3}m$$のどれかに限られる.これらをLaue群という. ある結晶によるX線回折強度像の対称性が,Laue群$$G_{\textrm{X } }$$であれば,その結晶の構造は$$G_{\textrm{X } }$$の部分群であるはずである.

6. 単位胞[unit cell:элементарная ячейка]
  結晶は,ある構造単位が3次元空間に周期をもって繰り返す構造をしている. こ の構造単位(内部の原子分布まで含めて)を単位胞という. 単位胞の形は,その結晶構造 のプラベー格子に対応した平行6面体である. プラベー格子に複合格子があるので,単位胞は必ずしも結晶構造中の最小の繰り返し単位とは限らない. 

6.1. 格子定数[lattice constants, cell dinensions: константы решетки, параметры единичные ]
  結晶構造の単位胞の寸法(ブラベー格子の寸法)を記述する数値の組. 三斜晶系の単位胞の寸法を記述するには,平行6面体の3つの稜の長さ$$a_{0}, b_{0}, c_{0} [Å] $$,および ,それらの稜のなす角度$$\alpha , \beta , \gamma $$の独立な6つのパラメータが必要である. ブラベー格子の対称性が高くなると,記述に必要なパラメータの数は少くなくなり,立方晶系では$$a_{0}[Å] $$のみとなる.

7.対称要素[symetry elements: элементы симметрии ]
  点群や空間群の要素となっている個々の対称操作のこと. ただし,ある物体の対称操作とは その物体を自分自身に重ね合わせる合同変換のことである. 結晶点群の対称要素には,回転軸, 鏡映面, 回映軸, 回反軸, 対称心がある.空間群になると並進があるので,この他に,らせん軸, 映進面が加わる.
対称要素の記述には,ヘルマン=モーガン(Hermann = Mauguin)の記号が用いられる.また,図面中に対称の要素を記入するには,定められたシンボルをもちいるが,詳細は,International Tableに掲載されている. 

7.1. らせん軸[screw axis: винтовая ось ]
  一つの軸のまわりの回転$$C$$と,その軸に沿っての並進$$\tau $$を連続して行なう空間群の対 称操作.回転とその回転軸方向の並進はどちらを先に行なっても結果は同じである.ザイツ(Seitz)記号で表すと$$\left[ C|\tau \right] $$. 回転操作$$C$$の位数を$$n, \left( C^{n}=1 \right) $$とすると,$$\left[ C|\tau \right] ^{n}=\left[ 1|n\tau \right] $$であるので,らせん軸が空間群の対称操作であるためには,$$n\tau $$が回転軸方向の基本並進$$T$$の整数倍となる必要がある. このため,$$\tau =\left( m/n \right) T $$ [$$m$$は,$$m<n$$なる自然数]という制限が生じる. $$n$$回回転操作から生じるものを$$n$$回ら せん軸と呼び,$$n_{m}$$と記す.例えば,$$3$$回回転軸(位数3)からは,$$3_{1}, 3_{2}$$らせん軸が生じる.

7.2. 回映軸[mirror-rotation axis: ось зеркального вращения]
点群,および空間群の対称操作の一つ. ある直線のまわりの回転とその直線に垂直な 平面での鏡映とを引続き行なう対称操作. このとき,回転成分の軸となる直線が回映軸である. 回映軸は回転成分が$$360 ^\circ /n$$のとき,Hermann = Mauguinの記号で,$$\tilde{n}$$と記す.
結晶構造で許される回映軸は,$$\tilde{1},\tilde{2},\tilde{3},\tilde{4},\tilde{6}$$であるが,それぞれの回映軸が 生成する巡回群(生成元となった回映軸と同じ記号を用いる)を調べると,$$\tilde{1}=m, \tilde{2}=\bar{1}, \tilde{3}=3 \otimes m, \tilde{6}=3 \otimes \bar{1}$$となり,回映群$$\tilde{4}$$以外のものは,他の対称操作により生成する巡回群やそれ らの直積に分解できる. 従って,$$\tilde{4}$$だけが回映軸として独立なものである. 

7.3. 回反軸[roto-inversion axis: рото-инверсионная ось]
  点群,および空間群の対称操作の一つ. ある直線のまわりの回転とその直線上にある 一点での反転とを引続き行なう対称操作. このとき,回転成分に関する直線を回反軸とい う. 回反軸は回転成分が$$360 ^\circ /n$$のとき,Hermann = Mauguinの記号で,$$\bar{n}$$と記される.
  結晶構造で許される回反軸は,$$\bar{1}, \bar{2}, \bar{3}, \bar{4}, \bar{6}$$であるが,それぞれの回反軸が 生成する巡回群(生成元となった回反軸と同一の記号が用いられる)を調べると,$$\bar{2}=m, \bar{3}=3 \otimes \bar{1}, \bar{6}=3 \otimes m$$となり,他の対称要素により生成される巡回群やそれらの直積に分解される.また,$$\bar{1}$$は対称心そのものである.回反軸として独立なものは,$$\bar{4}$$のみであるが,回反軸$$\bar{4}$$が生成した巡回群と,回映軸$$\tilde{4}$$が生成した巡回群は同一になる.


7.4. 映進面 [glide-reflection plane:плоскость скольжения-отражения ]
  空間群で存在する対称操作の一つ. 平面での鏡映$$m$$と,その平面内の特定な方向(周 期$$\tau $$)に沿って$$\tau /2$$だけの並進を続けて行なう対称操作. この平面を映進面という. また,映進演算は$$\left[ m|\tau /2 \right] $$で表される. 結晶格子を生成する並進ベクトルを$$a, b, c$$とすると,$$a/2$$の並進成分をもつ映進面を$$a$$映進面; $$\left( a+b \right) /2$$や$$\left( a+b+c \right) /2$$などの並進成分をもつ映進面を$$n$$映進面; $$\left( a+b \right) /4$$や$$\left( a+b+c \right) /4$$などの並進成分をもつ映進面を$$d$$映進面という. 単純格子では,$$a, b, c$$,および$$n$$映進面のみが可能で あるが,面心格子や体心格子では,$$d$$映進面も可能になる.

7.5. 並進対称 [translational symmetry: симметрия трансляции]
  空間内のある一定の方向に,周期的に同一の基本構造が繰り返し配列しているような 状態. そのような周期をベクトル$$a$$で表示すると,並進対称をもつ構造$$F\left( r \right) $$では, $$F(n-na)=F(r)$$,($$n$$は整数)が成り立つ. あるいは,基本構造を$$A(r)$$とす ると,
$$F(r)=\displaystyle \int_{- \infty }^{ + \infty }A(r-r')\displaystyle \sum_{n=- \infty }^{ + \infty }\delta (r'-na)dV_{r'}$$  ただし,$$\delta \left( r'-na \right) $$はデルタ関数
と表す事のできる構造$$F(r)$$は,周期$$a$$の並進対称をもつ. 1次元の周期をもつ構造は ,列(array) , 2次元の周期をもつ構造は網(net) , 3次元の周期をもつ構造は格子( lattice)と呼ばれる. 結晶中の3次元の周期は,結晶格子を作る. 

7.6. 鏡映面 [mirror plane: зеркальная плоскость ]
  点群,および空間群に存在する対称操作の一つ. 物体と鏡に写った像の関係にあ る状態が鏡映対称であり,その鏡を鏡映面という. 鏡映面は,Hermann-Mauguinの記号で は$$m$$と表示される. 
$$\left[ m_{x}|0 \right] $$は,$$x$$の符号を変える鏡映面($$x$$軸に垂直な平面)である.

7.7. 対称心 [center of symmetry, inversion: инверсия]
  点群,空間群における合同変換(対称操作)の一つ. 構造内の分布状態を$$F(r)$$と し,$$F(-r)=F(r)$$が成り立つように位置ベクトルの原点がとれるならば,この原点を対称心(対称中心)といい$$\bar{1}$$で示す. 対称心が存在するような構造を点対称という. 

7.8. 回転対称軸 [rotation axis: ось вращения ]
  点群,および空間群の対称操作の一つ. ある直線のまわりに$$360 ^\circ /n$$だけ構造全体を回転しても,始めの状態と完全に合同になる場合に,この構造には$$n$$回回転対称軸($$n$$回回転軸,または単に$$n$$回軸)が存在するという. このような直線が回転軸である. 結晶構造で可能な回転軸の種類は,$$1$$(恒等変換),$$2$$,$$3$$, $$4$$, $$6$$の各回転軸に限られる.

続く➡(2)

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 ※この結晶学用語集シリーズは,辞典形式の独立項目の集合よりなる.その理由は,「物理学辞典」培風館(1984)の私の分担執筆項目より抜粋し,専門技術研修「物性と評価技術(中級)」の講座テキスト(©RICOH CO.,LTD.1993)の付録に用いたためである.結晶学用語の背景を正確に解説している書物は現時点でもほとんどないため,再度編集し直してここに掲載する.

 

結晶学用語集(2)ー結晶の幾何学的諸量ー

8.  異方性 [anisotropy: aissoTponifl] 
  測定の方位によって,物理的性質が変化するような媒質または場の状態をいう. 結晶構造における原子の配列は,明らかに異方性をもっている. このため結晶で観測される種々の物理現象には異方性を示すものが多い. 例えば,結晶の光学的特性に関係のある誘電率,力学特性に関係のある弾性スティフネス,その他,導電率, 熱膨張率などはテンソル量である.結晶構造の対称性を考慮すると,物理現象を測定する方向を減じることができる. すなわち,結晶点群の位数が$$n$$であれば,測定は全立体角の$$1/n$$を占める対称的に独立な領域のみで行なえば良い. また,結晶構造の対称性から,テンソル中の独立な成分を導くことができる. 

9. 結晶方位 [direction in crystal: HanpaBuenie rpicrajua]
  結晶で観測される物理現象は,その測定方向により変化する. 結晶空間での方位$$\overrightarrow{P}$$は ,結晶軸$$\overrightarrow{a}, \overrightarrow{b}, \overrightarrow{c}$$を座標軸(格子定数$$a_{0}, b_{0}, c_{0}$$が各座標軸の単位)にとり,方位ベクトル$$\overrightarrow{P}$$の成分$$\left[ U, V, W \right]$$で記述される: $$\overrightarrow{P}=U\overrightarrow{a}+V\overrightarrow{b}+W\overrightarrow{c}$$. 結晶構造の点群の対称操作を$$\overrightarrow{P}$$に作用さ せて生じた$$\overrightarrow{P}$$と同価な方位を,まとめて表示するためには$$<U, V, W>$$とする.結晶面 $$\left( h, k, l \right) $$に垂直な方位は,逆格子ベクトル$$\overrightarrow{a}*, \overrightarrow{b}*, \overrightarrow{c}*$$を用い$$h\overrightarrow{a}*+k\overrightarrow{b}*+l\overrightarrow{c}*$$とすると簡単に表示できる. 
単結晶の方位の決定には,X線回折,光軸の測定,蝕像などの手段がある.

10. 格子面(格子網面)[lattice plane, net plane: mocrocTH ysnosiie]
  結晶は3次元空間に周期をもち,原子・分子が規則正しく繰り返す内部構造をしてい る. 結晶のこのような内部構造の周期性は,代数的には並進群(幾何学的には空間格子) として表現される. 一直線上にない任意の3格子点$$A_{0}, B_{0}, C_{0}$$を含む平面を考えると,この平面にはベクトル 
$$\overrightarrow{a}_{1}=A_{0} \to A_{1}, \overrightarrow{a}_{2}=A_{0} \to A_{2}$$の1次結合で生成される無数の格子点$$n\overrightarrow{a}_{1}+m\overrightarrow{a}_{2}$$($$n, m$$は整数)が含まれている. このような平面を格子面(あるいは、格子網面)という. 格子面は結晶面と同様にミラー(Miller)指数$$\left( h, k, l \right) $$で表示できる. 結晶の内部構造の周期性により,格子面$$\left( h, k, l \right) $$は結晶内部で無限に繰り返し配列しており,その間隔を格子面$$(h, k, l)$$の面間隔と呼ぶ. 結晶構造の格子点は,無限に繰 り返すこのような格子面の集合上にすべて載ってしまう. 結晶構造中には,さまざまな格子面を考えることができる. 

11. 面間隔 [spacing of lattice planes: MeiiiiocxocTioe paccTOfiHie]
結晶は3次元の周期をもって規則正しく繰り返す内部構造をしている. 従って,結晶面$$\left( h, k, l \right) $$も周期的に繰り返している. $$\left( h, k, l \right) $$面の面間隔とは,この周期のことであり$$d_{\left( h, k, l \right) }$$と記す.
格子定数を$$a_{0}, b_{0}, c_{0}; \alpha , \beta , \gamma $$とすると,
$$1/d_{(h,k,l)}^{2}=\left( h^{2}\sigma _{11}+k^{2}\sigma _{22}+l^{2}\sigma _{33}+kl\sigma _{23}+lh\sigma _{31}+hk\sigma _{12} \right) /V^{2}$$ となる.
ここで,$$\sigma _{11}=b^{2}c^{2}\textrm{sin}^{2}\alpha , \sigma _{22}=c^{2}a^{2}\textrm{sin}^{2}\beta , \sigma _{33}=a^{2}b^{2}\textrm{sin}^{2}\gamma $$
$$\sigma _{23}=a^{2}bc\left( \textrm{cos}\beta \textrm{cos}\gamma -\textrm{cos}\alpha \right) , \sigma _{31}=ab^{2}c\left( \textrm{cos}\gamma \textrm{cos}\alpha -\textrm{cos}\beta \right) , \sigma _{12}=abc^{2}\left( \textrm{cos}\alpha \textrm{cos}\beta -\textrm{cos}\gamma \right) $$
単位胞の体積: $$V=abc\left( 1-\textrm{cos}^{2}\alpha -\textrm{cos}^{2}\beta -\textrm{cos}^{2}\gamma +2\textrm{cos}\alpha \textrm{cos}\beta \textrm{cos}\gamma \right) ^{1/2}$$
結晶系の対称性が高くなると,これらの関係式は非常に簡単になる.

12. 晶帯 [zone: 30Ha]
2つの結晶面$$\left( h_{1}, k_{1}, l_{1} \right) , \left( h_{2}, k_{2}, l_{2} \right) $$の交線の方向をベクトル$$\left[ U,V,W \right] $$で表示し,これを2つの結晶面が属する晶帯軸の方向という.ただし, 
$$U=\left| \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
k_{1} & l_{1} \\[0mm]
k_{2} & l_{2}
\end{array} \right|$$ , $$V=\left| \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
l_{1} & h_{1} \\[0mm]
l_{2} & h_{2}
\end{array} \right|$$ , $$W=\left| \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
h_{1} & k_{1} \\[0mm]
h_{2} & k_{2}
\end{array} \right| $$
で与えられる.同一の方向を晶帯軸に持つような結晶面の集合は同一の晶帯に属している という.

13. 有理指数の法則 
[law of simple rational indices; MKOH pamoiajbiHX uapa・eTpoB, Fani 3acoH]
  結晶を3次元の周期をもって配列した格子点の集合とみると,結晶の外形に現れる面は格子点を通る種々の平面である.そのような面は整数比のミラー指数$$\left( h, k, l \right) $$で記 述する事ができる. 特に結晶の外形によく現れる面は,小さな整数比のミラー指数で表現 できる. これを有理指数の法則,あるいは,アウイ(Hauy)の法則という. その理由は,格子点密度の大きな面ほど現れやすいことにある.

14. 結晶形 [crystal foms; ipocTHe]
  自由な空間内で,液相や気相から成長した結晶は,平坦な結晶面で囲まれ,多面体の形をとる. 実際の結晶では,同価な結晶面とはいえ,発達の程度がさまざまで晶癖がある. しかし,全く等方的な環境で成長が行なわれるならば,同価な結晶面はすべて同じ大き さに発達するはずである. 実際の結晶は単一の同価面ばかりで囲まれているわけではなく,何種類かの同価面が組み合わさってできており(同価面どうしは同じ大きさ),これを理想形という.
  結晶の外形には内部構造の対称性が反映されているはずである. 点群の対称操作を,結晶の$$\left( h, k, l \right) $$面に作用させ,得られた同価な面の集合$$\left\{ h, k, l \right\} $$により囲ま れる多面体を結晶形という. 結晶形は理想形とはことなり一種類の同価面でできている. 結晶形は完面像,半面像,等々,全部で4 7種ある.

15. 完面像 [holohedry: rojioanpo]
  各結晶系で最も対称性の高い(最高位数の)結晶点群は格子の対称性を示す点群でもある. このような点群を完面像という. このような点群を結晶の$$\left( h, k, l \right) $$面に作用させ,得られた同価面$$\left\{ h, k, l \right\} $$の数は,$$\left( h, k, l \right) $$が一般面である場合に は,点群の位数に等しい. そのような数の同価面で囲まれた結晶形が完面像である.
もし$$\left( h, k, l \right) $$面が一般面でなく,点群中のある対称操作の特殊点(対称操作で不変となる位置)にあれば,生じる同価面の数は半減し,半面像,四半面像などが得られる.

16. 晶癖 [crystal habit: pas Bine]
  完全に等方的な環境で成長した結晶では,同価な結晶面はすべて同じ大きさに発達す るはずである. しかし,実際の環境では,特定の結晶面だけが大きく発達した偏倚結晶が生じることが多い. このような偏倚結晶は晶癖があるといわれる. 三角平板状のダイヤモ ンド結晶,ひげ結晶などはその例である. 
  同価な結晶面は同じ大きさに発達しているのだが,現れる結晶面の組み合わせが変化 したために生じた外形の違いは晶相の変化という. ダイヤモンド結晶に正8面体や正6面体の外形のものがあるなどがこの例である.晶相の変化の原因は,結晶の成長温度や成長過程にある.

17.  軸率 [axial retio :zoTHoneaie oceBia eninm]
  結晶の格子定数$$a_{0}, b_{0}, c_{0}\left[ \mbox{\AA} \right] $$の絶対測定がX線回折により可能となる以前は 相対比$a_{0}:b_{0}:c_{0}$が推定できるのみであった.斜方晶系などでは$b_{0}$が最大の格子定数であるから,これで規格化した$$a_{0}/b_{0}:1:c_{0}/b_{0}$$を軸率と呼んでいる. 結晶の形態の対称性,および,大きく発達している結晶面は低指数の面であるというBravaisの法則等 を考慮し,結晶面に面指数をつじつまの合うように配当する. こうして,X線回折を用いずに,ほぼ正確な軸率$$a_{0}/b_{0}:1:c_{0}/b_{0}$$,および,結晶軸間の角度$$\alpha , \beta , \gamma $$を推定することができた. 

18. 面角一定の法則(面角不変の法則)
[law oftheconstancyofinterfacialangles:ョaxon iDCTOflicTBa " KPICTSJUIOB]
  ニコラス・ステノ(Nicolaus Steno: Niels Stensen,1699)は,さまざまな産地の水晶の形態を研究し, 面の発達の様相は個体ごとに違うが,対応する面どうしのなす角は,常に一定であること を発見した.その後,Rome Delisle ( Rone de 1'Isle,1772)により,この法則は,他の鉱物結晶でも成り立っている一般的な法則であることが見いだされ,面角一定の法則と呼 ばれている.

19. 結晶面 [crystal face: rpaub EpKCTama]
  自由な空間内で成長した結晶は,平坦な面で囲まれた多面体の外形をしている.これ らの面を結晶面という.結晶面の記述にはミラー指数が用いられ,面角一定の法則,有理 指数の法則などが成り立ことが古くから知られている. ときおり微斜面という高指数が付 けられる小さな結晶面が見られるが,これは成長丘の側面である.その他,結晶面には條線などが観察されることがある.結晶面の微細構造は結晶成長機構の方面から興味が持たれている.位相差顕微鏡や多重光束干渉法などを用いると,気相や液相から成長した結晶の結晶面には,渦巻成長層が観察される.また,結晶の方位の決定のために結晶面に生じ た蝕像の対称性を利用することもある. 

 

(1)⇐続く➡(3)

結晶学用語集(3)ー空間群の拡張ー

20. ヘルマン=モーガンの記号 [Hemann-Mauguin notation: символы Германа — Могена]
 結晶の点群,空間群,ならびにそれらに含まれる対称要素の記述に用いられる記号. 点群の対称要素は次のように記される.回転軸;回反軸は,その次数に応じて,$$1,2,3,4,6$$; $$\bar{1},\bar{3},\bar{4},\bar{6}$$と記される. ただし,回反軸$$\bar{2}$$は鏡映面になるので$$m$$と記される.また,$$\bar{1}$$は対称心と呼ばれる. さらに,上記の対称要素のうちのただ一つから生成される点群にもその生成元と同一の記号が用いられる.複数の対称要素の組み合わせにより生成される点群の記述は,生成元となった対称要素を列記して行なうのが基本方針であるが,わかり易くするために生成元以外の対称要素を付け加えることがある.回転軸$$n$$ に対し垂直な鏡映面$$m$$がある場合は$$n/m$$,回転軸$$n$$を含む鏡映面$$m$$がある場合は$$nm$$と記される. また,主軸となる回転軸を第1項に,これに直交する副軸を第2項に記す. これら2本の回転軸により生成される対称軸が新たな類を作るなら,これを第3項に記す. 例えば,点群$$222$$の第1項は$$c$$軸方向の2回軸,第2項は$$a$$軸方向の2回軸,第3項はこれらから生成された$$b$$軸方向の2回軸である.点群$$422$$も同様で,第1項は$$c$$軸方向の主軸,第2項は$$a$$軸方向の2回軸,第3項はこれから生成された$$\left[ 1,1,0 \right] $$方向に生じた2回軸である.点群$$32$$では,$$c$$軸方向の主軸とこれに直交する副軸としての2回軸が示されているが,これらから生成される3本の2回軸は,すべて副軸と同一の類に属するので,第3項は記入しないのである.点群$$4/m2/m2/m$$の例では,各回転軸に垂直な鏡映面が存在することが示されている(この点群は簡単に$$4/mmm$$と書かれることが多 い).立方晶系の点群の表示では,第1項と第2項の対称要素は互いに直交していないこ とに注意せよ. 空間群の記述では,空間格子の型を点群記号の前に表示する. また,空間群では,点群要素中の回転軸や鏡映面をらせん軸や映進面に拡張したものも現れる.例えば,空間群$$P2_{1}/c$$は,$$P$$格子をもち,2回らせん軸とそれに垂直な$$C$$映進面が存在す ることを表示している.

21. シェンフリースの記号[Schoenflies' symbols: символы Шёнфлиса]
  結晶の点群,空間群,それらの対称要素の記述に用いられる記号. 結晶点群の記述は次のように行なう. 
(1) $$n$$回軸のみにより生成される巡回群を$$C_{n}$$と記す.
(2) 主軸の$n$回軸と,これと直交する2回軸の副軸とにより生成される4元群$$D_{2}$$2は$$V$$と記されることもある.
(3 ) 正4面体群を$$T$$,正8面体群を$$O$$と記す .
(4) 対称心を有する群には,添え字$$i$$をつけ$$C_{ni}, D_{ni}$$などと記す.特に,対称心の みから生成される反転群は$$C_{1i}$$ではなく$$C_{i}$$と記す.
(5) 主軸と直交する鏡映面を有す る群は$$h$$ (horizontalの意)を添えて$$C_{nh} , D_{nh}$$などと記す.特に,鏡映面のみから生成される点群は$$C_{s}$$と記す.
(6 ) 主軸を含む鏡映面を有する群は$$v$$ (verticalの意)を添えて$$C_{nv}$$と記す.
(7) 主軸と副軸を含む鏡映面を有する群は$$D_{nv}$$,主軸を含みかつ副軸間を2等分するような鏡映面を有するものは$$d$$(diagonalの意)を添えて$$D_{nd}$$と記す.
(8 ) 4回回映軸を有する群は$$S_{4}$$と記す.
(1)~(8 )の規則に従って結晶点群を記すと重複するものがでてくる.例えば,対称心を含む群にうち$$C_{2i}=C_{2h}$$,$$C_{4i}=C_{4h}$$,$$C_{6i}=C_{6h}$$,$$D_{2i}=D_{2v}$$,$$D_{3i}=D_{3d}$$,$$D_{4i}=D_{4v}$$,$$D_{6i}=D_{6v}$$,となるので,$$i$$を添えて記述するものは$$C_{i}$$と$$C_{3i}$$だけで他は使われない.結晶点群ではないが,分子の対称性で 重要な点群に$$C_{ \infty v} , C_{ \infty h}$$などがある. 
  空間群の記述では,同一の点群から導かれた空間群は,その点群の右肩に番号を付け区別する.例えば,$$O_{h}^{1} , O_{h}^{2} , \cdots , O_{h}^{10}$$などである. Schoenfliesの記号は点群の記述 としては簡明であるので,分子の対称性や分光学などでは広く用いられている. しかし,空間群の記述としては十分な情報が得られないため,結晶学ではヘルマン=モーガンの記号から発展した国際記号が広く用いられている. 

22. 回転群 [rotation group: группа вращений]
  1点のまわりの回転操作の全体が作る群.これは,運動群の部分群でもある.1点のまわりの回転は直交行列$$A$$で表現される. 3次の直交行列全体の集合は直交群$$O_{3}$$をなしている.純粋な回転は,$$\left| \begin{array}{@{\,} c @{\, } }A\end{array} \right| =+1$$なる直交行列$$A$$で表現され,反転や鏡映は,$$\left| \begin{array}{@{\,} c @{\, } }A
\end{array} \right| =-1$$なる直交行列$$A$$で表現される.普通,回転群と呼ばれるものは,純粋回転のみからなり,反転や鏡映も含めたものは広義の回転群と呼ばれる.結晶点群や正多面体群(プラ トンの正多面体=正4, 6, 8,12, 20面体での合同変換群)は,広義の回転群の離散な部分群である.

23. 点群 [point group: точечная группа]
 結晶点群[crystallographic point group: кристаллографическая точечная группа]
  空間群の一点を不動にするような対称操作の組み合わせが作る群である.空間の一点 が不動となるためには,全ての回転軸はこの点で交差する必要がある. さらに,回転軸が鏡映面をよぎる場合も交点はこの不動点でなければならない.空間群は無限に繰り返される周期構造での対称操作の組み合わせが作る群であるので,空間群には並進操作が存在するが,点群には並進操作はない. 点群は分子などの有限図形の対称性の記述に用いられる.点群では$$ \infty $$次までのすべての次数の回転軸が存在し得る. たとえば,プラトンの正多面 体の1つ正20面体を記述する点群では5回軸が現れる. しかし,結晶のように空間に周期をもつ構造で許される回転軸の次数は,1,2 , 3 , 4, 6に限られる. 準結晶には巨視的な5回対称軸など現れるが,準結晶(ペンローズの空間タイリング)は,正則ではあるが,周期 的な構造ではない.回転軸にこのような制限を設けて得た点群は,結晶点群といわれ32種 (3次元空間で)存在する.空間群$$\mit\Phi $$中の並進群$$T$$は,正規部分群であるので,商群$$\mit\Phi /T$$ が作れるが,これは結晶点群$$G$$と同型になる.点群はHermann-Mauguinの記号か ら発達した国際記号や,Schoenfliesの記号で記述される. 
  結晶点群での対称操作は幾何学的空間での変換であるが,幾何学的変換と同時に図形の超幾何学的性質(例えば“色”)をも変換するような対称操作を導入すると,黒白結晶点群,色付結晶点群などが得られる. これらに対して,結晶点群のことを,特に,古典結晶点群ということがある.

24. クリプト•シンメトリー[crypto-symetry: xpiOTOcniteTpiii]
  crypto-というのは“隠れた”という意味の接頭語で,幾何学的空間には現れない図形の超幾何学的性質("色''と呼ぶことにする)の対称性まで含めたものをクリプト・ シンンメ トリーという.結晶構造の対称性を記述する空間群は幾何学的空間の対称操作が作る群である.結晶構造のもつ超幾何学的性質(スピン座標等で,それらを代表して”色”と呼んでいる)の変換も幾何学的変換と同時に行なうような,拡張された対称操作は, 一般化された空間群[ザモルザエフ群,黒白空間群,色付空間群]を与える.

25. 色付空間群[colored-symmetry space groups:npocrpaicTBeHiHe rpynis UBRTHQ頁 cineTpis, SenoBciHe rpynnw]

  結晶構造のように空間に周期をもつ構造の対称性は,空間群の一つ$$\mit\Phi $$で記述される. 結晶空間の各点に一つの超幾何学的な性質(これを''色’'と呼んでいる)を付加し,幾何学的変換(空間群の対称操作)と同時にその空間の超幾何学的な性質をも変換するような 一般化された対称操作,$$g^{(\varepsilon )}=\varepsilon \cdot g=g \cdot \varepsilon $$を導入する. ここで,$$g$$は空間群の対称操作,$$\varepsilon $$は性質空間にのみ作用する変換である.このような一般化された対称操作が作る群を色付空間群という. 結晶空間の各点に付加する性質のとり得る状態の数は$$P$$で記す. 特に,$$P=2$$(例えば,結晶空間に$$+, -$$の符号を付加する)のときには,黒白空間群(シュブニコフ群)と呼ばれる. 一般に,$$P$$色の色付空間群(ベーロフ群)は次のようにして得ら れる. 色付空間群の一つ$$ \textsl{Б}^{(P)}$$で記述される構造は,もし,色の区別ができないフィルタ ーを通して見るとすれば,何らかの空間群で記述されるべきである.これは,と同 型な$$\mit\Phi $$が存在するということである.次に,$$ \textsl{Б}^{(P)}$$中の色を変えない対称操作の集合$$A$$は,$$ \textsl{Б}^{(P)}$$,$$\mit\Phi $$の共通の部分群で,かつ正規部分群($$A$$の指数は$$P$$である)でなければならな い. ここで,商群$$\mit\Phi /A \cong \left\{ 1, g_{2}, \cdots , g_{P} \right\} =G$$が定義されるが,この$$G$$と同型な色置換群$$\left\{ 1, \varepsilon _{2}, \cdots , \varepsilon _{P} \right\} $$を見いだし,$$g$$に結合し,$$\left\{ 1, g_{2}^{(\varepsilon 2)}, \cdots ,g_{P}^{(\varepsilon P)} \right\} =G^{(P)}$$を得て,$$ \textsl{Б}^{(P)}\textsl{/A} \cong G^{(P)}$$となるように,$$A$$を$$G^{(P)}$$により拡大すれば,$$\texttt{\textsl{ } }^{\texttt{\textsl{(P) } } }$$が得 られる. こうして,与えられた空間群$$\mit\Phi $$と同型な色付空間群$$\texttt{\textsl{ } }^{\texttt{\textsl{(P) } } }$$はすべて導くことがで きる.

26.  反対称 [antisynetiry: ainciioieTpiff]
  反対称空間というのは,3次元幾何学的空間に,超幾何学的性質(色または符号と呼 ぶ)の2値(黒白:$$+-$$:など)を付与した4次元空間のことである.この空間での対称性は,反対称点群,反対称空間群(WybHHKOB群)で記述される.時間反転の概念はランダウ(/I•エ HaH.aay)により導入され,反対称群はシュブニコフ(A.B. IBybHHKOB)により研究された. 
反対称演算(反恒等演算)$$1'$$というのは,幾何学的空間内での位置を変えずに色だ け反転する演算である. 幾何学的空間内での変換$$g$$の位数が偶数のときには,変換$$g$$と同 時に色の反転$$1'$$を行なう結合された演算$$g \cdot 1'=1' \cdot g=g'$$が定義でき,黒白群が 得られるが,$$1'$$そのものを対称演算にもつ群は,幾何学的空間内での位置を変えずに色 の反転がおこるので中性群(灰色群)になる. 

27. 結晶群[crystallographic groups: rpiCTajuorpaiqeciHe rpynia]
  空間群の部分群は,すべて結晶群と呼ばれる.空間群自身も,並進を全く含まない結晶点群も結晶群である. この他に,$$n$$次元空間群の結晶群としては,$$k(<n)$$次元の部分空間内にのみ並進周期をもつような結晶群がある. 空間の次元の他に性質空間の次元を追加した一般空間群(クリプト・シンンメトリー)での部分群を指すように拡張することもできる. これらの結晶群の記述には記号$$G_{n}^{t}(l)$$が用いられる. ここで,$$n, t, l$$は,それぞれ,空間の次数,並進ベクトルの張る部分空間の次元,性質空間での反対称の次数である.例えば,$$G^{3}_{3}(0), G_{3}^{2}(0), G_{3}^{1}(0), G_{3}^{0}(0)$$は,それ ぞれ,3次元の空間群,層の対称性,帯の対称性,結晶点群を示す.結局,空間的に何らかの周期をもつた(結晶学的)構造の対称性を記述するということから,これらはすべて結晶群と呼ばれている.図はNeronova(HepoHOBa)(1966)のものに,Wondratshek et.al. (1971)による$$G_{4}^{4}(0)$$の数を追加し修正したもので,結晶群間の相互関係が示され ている.
$${\ttfamily \textrm{\textsl{P } } }$$

28. 4次元空間群 [four-dimensional space groups: {\textless}ieTHpevepHiie npocrpaicTBeHiHe rpyniw] 
  空間的4次元の結晶構造(4次元空間に並進周期をもつ構造)での対称操作が作る群. 高次元における空間群の研究は,1910年BieberbachやFrobeniusが,Hilbertの問題 に関連して,《n次元空間では空間群型は有限種類である》ことを証明して以来,多くの 学者により手がけられ,その一部は導かれていた.最終的な,4次元空間群の全リストは, H. Wondratshek, R. Bulow, J. Neubuser, H. Zassenhaus, H. Brown らにより1973 年 までに導かれた. それによると,4次元の空間群型は,enantiomorph (対掌体)を区別しない立場に立つと,4783種類(3次元の場合は219)あり,enantiomorphを区別する立場 に立つと,4895種類(3次元の場合は230)になる. 4次元空間群の対称操作では,3次元では存在しなかった位数5, 8,10,12などのものも可能となる.

 

(2)⇐続く➡(1)
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※この解説は,物理学辞典/培風館(1984)の著者の分担執筆項目より抜粋編集し,専門技術研修「物性と評価技術(中級)」の講座テキスト(©RICOH CO.,LTD.1993)の付録に用いたものを再録した.

koptsik-ch12-3

周期的離散体(периодического дисконтинуума; periodic discontinuum)の近似における物理量の変換則と対称性

色付き群における空間テンソル

   一様連続媒体の近似では,媒体の全ての点が直交変換や並進に対して等価である.前節では,点群の直交変換のみを調べた.これらの点群と共に3次元連続並進群$$T_{000}$$を考察することで,$$ T_{000}\oslash G $$型の一様連続媒体の全ての運動群と,これらに同型な色付き連続体の群が作れる.
   この節では,3次元に周期をもつ色付き離散体の対称性と,一般化されたテンソル量(空間テンソル)の変換則に注目する.空間テンソルは,3次元に周期をもち,Fedorov,Shubnikov,Belov群の同価点系に対し定義される点テンソルの集合である.既に演算子$$[D|\tau]$$,$$[D|\alpha+\tau]$$を知っており,Fedorov群でのこれらの積則も知っている[参照:10章の式(14.10),(15.10)].ここで,Belov群の色付き変換の演算子とこれらの積則を定義しよう.
   色付き点群$$G^{(p)}$$の変換$$g_{i}^{(p_{i})}=g_{i}p_{i}=p_{i}g_{i}$$を用い,結合された演算子$$[D_{i}|0]^{(p_{i})}=[D_{i}|0](p_{i})=(p_{i})[D_{i}|0]$$を作る.ここで,演算子$$[D_{i}|0]$$は古典的(フェドロフ)群に属し(参照p.254),$$(p_{i})$$は,ここで取り上げる幾何学変換と結びつく特別な色置換である.式(2.11)に応じて,色直交変換の演算の積則は,次のどちらかの型に書ける:
$$[D_{j}|0]^{(p_{j})}[D_{l}|0]^{(p_{l})}=[D_{j}D_{l}|0]^{(p_{j}p_{l})}$$ 
$$[D_{j}|0](p_{j})[D_{l}|0](p_{l})=[D_{j}D_{l}|0](p_{j}p_{l})$$     (3) 

置換$$(p_{j})$$は次の型に書く:
$$(p_{j})=\left( \begin{array}{@{\,} cccc @{\, } }
1 & 2 & ... & p \\[0mm]
n_{1} & n_{2} & ... & n_{p}
\end{array} \right) $$
ここで,$$p$$は,群$$G^{(p)}$$で置換される全色数.置換の積は,常に右から左へ(直交行列でのときと同様)行われる.すなわち,式(3)では,演算$$(p_{l})$$と$$D_{l}$$とが先に実行される.
   色付き変換の演算子に対する積則は,次のどちらかの型に書ける:
$$[E|\tau _{i}]^{(p_{i})}[E|\tau _{k}]^{(p_{k})}=[E|\tau _{i}+\tau _{k}]^{(p_{i}p_{k})}$$
$$[E|\tau _{i}](p_{i})[E|\tau _{k}](p_{k})=[E|\tau _{i}+\tau _{k}](p_{i})(p_{k})$$        (4)
古典変換の演算子を形式的に,$$[D_{j}|0]^{(1)}$$,$$[E|\tau _{j}]^{(1)}$$と書く,ここで(1)は恒等置換である.
$$(1)=\left( \begin{array}{@{\,} cccc @{\, } }
1 & 2 & ... & p \\[0mm]
1 & 2 & ... & p
\end{array} \right) $$
式(3)と(4)を用い,色変換と古典(フェドロフ)変換の積を導く.
   Belov群における運動の演算子を,恒等式
$$[E|\tau _{i}]^{(p_{i})}[D_{j}|0]^{(p_{j})}=[D_{j}|\tau _{i}]^{(p_{i}p_{j})}$$   あるいは,

$$[E|\tau _{i}](p_{i})[D_{j}|0](p_{j})=[D_{j}|\tau _{i}](p_{i})(p_{j})$$    (5)     
それらの積則を式
$$[D_{j}|\tau _{i}](p_{ij})[D_{l}|\tau _{k}](p_{kl})=[D_{j}D_{l}|D_{j}\tau _{k}+\tau _{i}](p_{ij})(p_{kl})$$ (6)
で定義する.ここで,$$(p_{ij})=(p_{i})(p_{j})$$,$$(p_{kl})=(p_{k})(p_{l})$$は,色付き運動の演算子にともなう置換である.同様に,非共型色付き群に対する運動の演算子とそれらの積則が導ける.
   読者の演習として,図214の群に対して,p.297Eではダイヤグラム法[めのこ]で得た色運動の積を,解析的に見出すことをお勧めする.例えば,$$P_{c^{(3) } }2$$(図216参照)で,軸$$2$$を色軸$$2^{(2)}$$に換え導いた6色群$$P_{c^{(3) } }2^{(2)}$$の考察をしよう.単位胞の上辺に沿って,4面体を$$\begin{array}{@{\,} cccc @{\, } }
4 & 5 & 6 & 4 \\[0mm]
1 & 2 & 3 & 1
\end{array}$$の様に追いながら,$$[D(g)|\tau ]$$を簡潔に$$[g|\tau ]$$と書き,群$$P_{c^{(3) } }2^{(2)}$$の生成演算子のあらわな形式を見出せる:
$$ \left[ 2|0 \right] ^{(2)}=\left[ 2|0 \right] \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } } 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm] 4 & 5 & 6 & 1 & 2 & 3 \end{array} \right)   \gets \to 2^{(2)} $$
$$ \left[ 1|\displaystyle \frac{c}{3} \right] ^{(3)}=\left[ 1|\displaystyle \frac{c}{3} \right] \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } } 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm] 2 & 3 & 1 & 5 & 6 & 4 \end{array} \right) \gets \to c^{(3)} $$
次に,
$$ \left[ 2|0 \right] ^{(2)}\left[ 1|\displaystyle \frac{c}{3} \right] ^{(3)}=\left[ 2|\displaystyle \frac{c}{3} \right] \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } } 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm] 5 & 6 & 4 & 2 & 3 & 1 \end{array} \right) \gets \to 2_{1}^{(3)}, $$
  ただし,$$\left( 2_{1}^{(3)} \right) ^{3}=c$$;
$$ \left[ 2|0 \right] ^{(2)}\left( \left[ 1|\displaystyle \frac{c}{3} \right] ^{(3)} \right) ^{2}=\left[ 2|\displaystyle \frac{2c}{3} \right] \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } } 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm] 6 & 4 & 5 & 3 & 1 & 2 \end{array} \right) \gets \to 2_{1}^{(6)}, $$
  ただし,$$\left( 2_{1}^{(6)} \right) ^{6}=4c$$
同時に,
$$\left( 2_{1}^{(6)} \right) ^{3}=\left[ 2|2c \right] \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
4 & 5 & 6 & 1 & 2 & 3
\end{array} \right) =\left[ 1|2c \right] \left[ 2|0 \right] \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
4 & 5 & 6 & 1 & 2 & 3
\end{array} \right) \equiv 2^{(2)}\left( \textrm{mod} 2c\right) $$, etc.
次の関係を思い出そう: 
$$\left[ 2|0 \right] \left[ 1|\displaystyle \frac{c}{3} \right] =\left[ 2|\hat{2}\displaystyle \frac{c}{3} \right] =\left[ 2|\displaystyle \frac{c}{3} \right] $$
($$\hat{2}$$は演算$$2$$に対応する演算子),なぜなら,ベクトル$$c$$は,演算$$2$$により符号を変えないからである.らせん軸$$2_{1}^{(3)}$$,$$2_{1}^{(6)}$$の色指数は,演算子の対応する冪乗が最小の古典変換を与えるように選ばれる.
   Belov群の位数$$s$$の空間(複素)テンソルを演算子
$$A'(r')=(p)^{s}\left[ D|\tau \right] ^{s}A(r)=(p)^{s}D^{s}A(\left[ D|\tau \right] r)$$           (7)
により定義する.ここで,ベクトル表現の$$s$$次の行列
$$D^{s}=D \times D \times \cdot \cdot \cdot \cdot \times D$$
は,テンソル成分の列$$A=\left\{ A_{i_{1}i_{2} \ldots i_{s } } \right\} $$に作用し,この演算の後(前)に,全てのテンソル成分に,適切に定義された位相,すなわち色置換が巡回であれば,$$(p)^{s}=e^{-si\phi }$$,$$p=e^{-i\phi }$$,が乗じられる.古典演算子$$[D|\tau ]$$の最初の冪は,テンソルの偏角(argument)$$r$$に作用する.結果として,固定された点$$r$$で定義されたテンソル$$A$$は,この点での直交変換で,その色特性(位相)を変える.変換された量$$A'$$は,色空間群に対応する同価点の全系$$\left\{ r'=\left[ D|\tau \right] r \right\} $$で,演算子$$[D|\tau ]$$により繰り返される.
   ある場合には,空間テンソルは実数になる.例えば,磁気空間ベクトルは次の式で定義され
$$m'(r')=(p)\left[ D|\tau \right] m(r)=(p)Dm\left( \left[ D|\tau \right] r \right) $$          (8)
結晶の磁気(スピン)構造を記述する.この場合,演算子$$(p)$$の位相変化は,固定された点の"回転"と定義される(参照:図212). 
   テンソル$$A=\left\{ A_{i_{1}i_{2} \ldots i_{s } } \right\} $$の独立な成分の数は,一つの単位胞内の同価点の系$$\left\{ r'=\left[ D|\tau \right] r \right\} $$の点の数を乗じた位置の点群$$G(p)$$あるいは$$G$$により決まり,特定なBelov群の胞内のテンソル$$A(r)$$の"独立な"成分の数を与える.
   後に,2色Shubnikov群で定義された実際の空間テンソルに対するもっと詳しい考察をする(Koptsik,1966,1967)ことになる.演算子$$1'$$と$$\overline{1}$$の冪が乗じられた純粋回転$$\left[ C\left( k,\phi \right) |0 \right] $$である反対称演算子$$\left[ D|0 \right] '$$である.
   中性群の場合には,反恒等演算子(antiidentification operator) $$1'$$は,2つの符号(色)の置換に影響を与える,すなわち,式(7)の置換$$\left( p \right) $$の部分に作用する:
$$1'=\left( \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
+ & - \\[0mm]
- & +
\end{array} \right) =\left( \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
1 & 2 \\[0mm]
2 & 1
\end{array} \right) $$
   反対称群のテンソルンの分類に(古典群で極性と軸性に分けたように),中性点群$$\overline{1}1'=\left\{ 1, \overline{1}, 1', \overline{1}' \right\} $$を考察し,その群の1次元行列$$ \pm 1$$による最も簡単な行列表現は次のようである.演算1に数字1を対応させ,これらの数の群$$D=\left\{ \pm 1 \right\} $$の乗積表が,群$$\overline{1}1'$$の乗積表と同じ構造を持つように,他の3つの演算子に数$$ \pm 1$$を対応させる方法は4通りである.これらの可能性 [$$\chi (g)$$の表中で$$D_{\varepsilon } ,D_{M} ,D_{E} ,D_{S}$$とラベルされる(その理由は後で明らかになる);$$\chi (g)= \pm 1$$]と,乗積表明らかに群$$\overline{1}1'$$と同型であるこれらの可能性の一つと,$$D_{M}=\left\{ 1,1,-1,-1 \right\} $$以下に与える:

$$\begin{array}{c|cccc}
\chi (g) & 1 & \overline{1} & 1' & \overline{1}' \\[0mm]
\hline
D_{\varepsilon } & 1 & 1 & 1 & 1 \\[0mm]
D_{M} & 1 & 1 & -1 & -1 \\[0mm]
D_{E} & 1 & -1 & 1 & -1 \\[0mm]
D_{S} & 1 & -1 & -1 & 1
\end{array}$$ $$\begin{array}{c|cccc}
D_{M} & 1 & 1 & -1 & -1 \\[0mm]
\hline
1 & 1 & 1 & -1 & -1 \\[0mm]
1 & 1 & 1 & -1 & -1 \\[0mm]
-1 & -1 & -1 & 1 & 1 \\[0mm]
-1 & -1 & -1 & 1 & 1
\end{array} \leftrightarrow \begin{array}{c|cccc}
\overline{1}1' & 1 & \overline{1} & 1' & \overline{1}' \\[0mm]
\hline
1 & 1 & \overline{1} & 1' & \overline{1}' \\[0mm]
\overline{1} & \overline{1} & 1 & \overline{1}' & 1' \\[0mm]
1' & 1' & \overline{1}' & 1 & \overline{1} \\[0mm]
\overline{1}' & \overline{1}' & 1' & \overline{1} & 1
\end{array}$$

表現$$D_{\varepsilon }$$(unitary),$$D_{M}, D_{E}, D_{S}$$(alternating)は(irreducible)既約と呼ばれる.それは,これ以上簡単な群$$\overline{1}1'$$(この場合)に同型な行列群がないからである.32の結晶群$$G_{c}$$に対し,58のalternating 1次元表現がある.これらのどれもが,特定の反対称群$$G_{c}'$$が伴っている.同様に色群$$G_{c}^{(p)}$$は,群$$G_{c}$$の複素あるいは多次元表現に結び付いている(Niggli,1959;Indenbom,1960).さあ今度は,一般化されたEuclideanユークリッド空間の運動群(運動群と群$$\overline{1}1'$$との直積)を考察し,argument$$r$$とテンソル関数$$A(r)$$の変換則を特定することで,位数$$s$$の空間テンソル$$A(r)$$を決定しよう: 
$$\left[ \overline{1}^{p}1'^{q}C\left(k, \phi \right) |\tau \right] ^{s}A_{i_{1}i_{2} \ldots i_{s } }\left(r\right)=A_{i_{1}^{'}i_{2}^{'} \ldots i_{s}^{' } }\left( r' \right) =\chi \left( g \right) C_{i_{1}^{'}i_{1 } }C_{i_{2}^{'}i_{2 } } \ldots C_{i_{s}^{'}i_{s } }A_{i_{1}i_{2} \ldots i_{s } }\left( \left( -1 \right) ^{p}C_{j^{'}j}\left( r_{j}-\tau _{j} \right) \right) $$                   (9)
ここで,$$\chi (g)$$は,表現$$D_{\varepsilon } , D_{M} , D_{E} , D_{s}$$中の要素
$$g=\overline{1}^{p}1'^{q}=1,\overline{1},1',\overline{1}'$$  $$(p,q=1,2)$$に応じて,$$+1$$か$$-1$$をとる. $$C(k, \phi )$$は,単位ベクトル$$k$$の周りの角度$$\phi $$の純粋回転の演算子;$$C_{i^{'}i}=\textrm{cos}\left( x_{i'},x_{i} \right) $$;式(9)中で繰り返される添字$$i_{1}, i_{2}, \ldots ,i_{s}$$は,1から3の和が行われるとする.
適切に定義されると,結晶でテンソル$$A(r)$$は,結晶中での質量密度や電荷密度$$\rho (x,y,z)$$,電流密度$$j(x,y,z)$$,双極子や多重極子モーメントなどの3次元周期的な分布を記述する.式(9)で用いられる規約表現(irreducible representation) $$D_{\varepsilon } , D_{M} , D_{E} , D_{S}$$に応じて,偶数パリティ,磁気的,電気的,および電磁気的テンソル*が区別される.[*電磁気テンソルは,Pointingベクトルのように表現$$D_{S}$$で変換される.]
例えば,定常的なフェリ磁性,アンチフェリ磁性の磁気構造を記述する磁気モーメント$$m(r)$$の空間ベクトルの成分は,(9)から導かれる法則$$m_{i}'(r')=\chi _{M}C_{i'i}m_{i}\left( \left( -1 \right) ^{p}C_{j'j}\left( r_{j}-\tau _{j} \right) \right) $$により変換され,既に導いた表の$$D_{M}$$で表現される.演算子$$1'$$が磁気ベクトル$$B,M,H$$に作用したと同様,演算子$$\overline{1}$$は電気ベクトル$$D,P,E$$に作用し,対応する結晶の電気的および磁気的特性を記述するシュブニコフShubunikov類との同型性ができることに注目しよう.このようにして,磁気的結晶物理の現象論的手法と古典的手法と形式論的結合の課題は解け,特性の対称性に基礎を置く多くに課題を解くことができる(Sirotin,1962).
再び,テンソルの変換則(9)に戻り,任意の変換に対するテンソル$$A(r)$$の不変性の要求により,テンソル$$G_{A(\tau )}$$の対称空間群を決定しよう.
$$A'(r')=\left[ D|\tau \right] ^{S}A(r)=A(r)_{S}\left[ D|\tau \right] =\left[ 1'^{q}\overline{1}^{p}C(k,\phi )|\tau \right] $$ (10)
一般の場合,テンソルの対称群は,$$G \otimes P$$型の$$P$$-群である.なぜなら,結晶物理のテンソルは一般化された運動群$$G$$の部分群で変換されるほかに,指数$$A(r)$$の$$P$$-置換によっても変換されるからである.

式(10)で$$m(r)=A(r)$$とおくと,この式は結晶のFedorov(古典),または,磁気構造のShubnikov(2色)対称群になる.$$ \hat{\mit\Phi} $$を,結晶の結晶化学群$$\mit\Phi $$と同型な演算子の群とする.剛体運動$$ \hat g_{i}=[D(g_{i})|\tau ] \in\hat{ \mit\Phi} $$で,磁気原子は,点$$r$$から$$\hat g_{i}r=D(g_{i})r+\tau $$に動き,磁気モーメントの方向は対応して変化する.$$\hat g_{j}m(r)=[g_{j}]m(\hat g_{j}^{-1}r)=m(r)$$となる元$$\hat g_{j}$$のみが,磁気構造のFedorov対称群$$\hat {\mit\Phi} ^{\ast }$$を作る:$$\hat g_{j}\in \hat{ \mit\Phi }^{\ast } \subset \hat {\mit\Phi}$$. $$m(r)$$の軸性を許すと,直交演算子$$\hat g_{j}$$の純粋回転部分$$\left[ C(k,\phi ) \mid 0 \right] $$を$$[g_{j}]$$と標記し,式(8)に対し,ベクトル関数の定義域を特定化し,逆演算子により$$ m(\hat g_{j}^{-1}r) $$$$ m(\hat g_{j} r) $$ではない.

同一の磁気構造のシュブニコフ対称群は,演算子$$ \hat{g}_{k}'=\hat{g}_{k}1'=1'\hat{g}_{k} \in $$Шの集合を含む.ここで,$$ \hat{g}_{k}'m(r)=(-1)[\hat{g}_{k}]m(g_{k}^{-1}r)=m(r) $$
ベーロフ多色対称群は,同様に,一般化された演算$$ \hat{g}_{i}^{(q_{i})}=q_{i}\hat{g}_{i} \in \hat{\mit\Phi }^{(q)}=\hat{Б } $$の集合を含む.ここで,$$ \hat{g}_{i}^{(q_{i})}m(r)=(q_{i})[g_{i}]m(\hat{g}_{i}^{-1}r)=m(r) $$
$$ \mit\Phi P=\mit\Phi ^{(p)} $$(11章とこの章で扱った)の等式(6)に対して,ベーロフ群の積則$$ \mit\Phi =\mit\Phi ^{(q)} $$は次のようである.
$$ \hat{g}_{i}^{(q_{i})} \oslash \hat{g}_{k}^{(q_{k})}=(q_{i})[D_{i}|\tau _{j}] \oslash (q_{k})[D_{k}|\tau _{l}]=(q_{i}D_{i}q_{k}D_{i}^{-1})[D_{i}D_{k}|D_{i}\tau _{l}+\tau _{j}]=\hat{g}_{s}^{(q_{s})} $$   (6*)
(6*)では,$$p$$の代わりに$$q$$を用いているのは,(6)では$$\hat{g}_{i}p_{i}=p_{i}\hat{g}_{i} \in \hat{\mit\Phi }^{(p)}$$であるが,$$\hat{g}_{i}q_{i} \neq q_{i}\hat{g}_{i} \in \hat{\mit\Phi }^{(q)}$$であるからである.
演算子の集合$$q \in Q$$は,一般化された直交群$$ \infty \infty 1' \subset P_{000} \infty \infty m \otimes 1' \otimes \mit\Gamma $$($$\mit\Gamma $$は相似対称群)から選ばれ,これは点群の一般化された射影表現$$\mit\Phi /T \longleftrightarrow G$$を生むモジュラス群の一般型である.この場合は,式(6*)の($$q_{i}D_{i}q_{k}D_{i}^{-1}$$)は,もっと複雑な関数関係に置き換えられる.それは,結晶全体としての$$\hat{g}_{s}^{\omega (D_{i}, D_{k})}=\hat{g}_{s}^{(q_{s})} \in \hat{\mit\Phi }^{(q)}$$のような幾何空間の運動$$\hat{g}_{s}=[D_{i}D_{k}|D_{i}\tau _{i}+\tau _{j}]$$と結びついたスピン空間での局所変換$$q_{s}=\omega (D_{i}, D_{j})$$である. 

 

koptsik-ch12-4

例として,対称性$$\mit\Phi=R\overline{3}c$$の$$\alpha-Fe_{2}O_{3}$$型の磁気結晶を考察しよう.図222a,c,とe(カラー挿入頁)に,結晶化学的胞と一致する磁気的胞を示す.Fe原子は点群$$3$$の席対称$$12c$$,6方座標で,$$ (0,0,0),(0,0,\displaystyle \frac{1}{2}),(\displaystyle \frac{1}{3},\displaystyle \frac{2}{3},\displaystyle \frac{2}{3}),(\displaystyle \frac{1}{3},\displaystyle \frac{2}{3},\displaystyle \frac{1}{6}),(\displaystyle \frac{2}{3},\displaystyle \frac{1}{3},\displaystyle \frac{1}{3}),(\displaystyle \frac{2}{3},\displaystyle \frac{1}{3},\displaystyle \frac{5}{6}),(0,0, \pm z) $$を占める.
対称性$$2$$の$$18e$$の位置を占める酸素O原子は,図に描かれていない.図222b,d,fに,磁気配置に対応するShubnikovあるいはBelov群の投影の,$$z=\displaystyle \frac{1}{12}$$と$$z=\displaystyle \frac{1}{6}$$のものが示されている.図222cの配置は,$$z=\displaystyle \frac{1}{12}$$と異なる群($$R\overline{3}^{(3)-}c$$と$$R_{1'}\overline{3}^{(3)-}c$$)により表現される.他の配置に対し,群は$$z=\displaystyle \frac{1}{6}$$と$$z=\displaystyle \frac{1}{12}$$に対するものと同一である.図222(c),(e)での構造の一致に対し,弱い(ferromagnetic)相$$R\overline{3}^{(3)-}c=R\overline{3}^{(3)}c \cap $$(図222f)3色群を得る.この3色群は,$$z=\displaystyle \frac{1}{6}$$で温度範囲-20°<t<675°Cで,ヘマタイト(hematite)で実際に実現される.Belov群とそれらの投影の一般化は,原理的にnoncollinear umbrellaとspiral型を含む結晶のすべての可能な磁気構造を記述する.

これらの群は,電子的構造理論や分子振動理論の分野で広く応用されている.分子結合を担っている波動関数の線形結合(いわゆる分子軌道)は,分子の対称群既約表現により変換される.分子振動の座標,すなわち,分子内の平衡位置点からの原子変位をあらわすベクトルで作られるある種の線形結合は,同一の表現で変換される. 

結晶群の既約表現や反対称群や色付き対称群の既約表現には直接的な関係があるので,これらの主張は,分子軌道と分子の振動座標が,対応するシュブニコフ群とベロフ群の対称性を持っていることと等価である.

 電子の放射遷移の選択則は,赤外やラマンスペクトル構造と同様に,分子の対称群の表現の組み合わせ,すなわち,対応する反対称群や色対称群に関連している.
電子構造論,振動論,結晶の構造解析などでは,さらに対称性の手法が有効である.
もし,結晶に並進対称性がなければ,1cm^3あたり10^23個もの粒子を含む原子系の物性を解析することは極めて困難である.
しかし,結晶構造は,通常は少数の粒子からなる単位胞のモチーフが3次元周期的に繰り返されできており,このモチーフ(単位胞)は,結晶構造における「分子」のような役割を担っている.
したがって,結晶の物性を研究するには,単位胞内の粒子の集合体の挙動を調べればよく,全体の性質は部分の性質から判断できる.
固体の量子論では,Blochの定理やそれに相当する定理によって,全体の性質が並進周期をもつ部分の性質に反映される.
ここでは,結晶の電子構造を記述する波動関数や,同じく,原子の基準振動座標が,空間群の規約表現により変換される.すなわち,これらの関数の系が,反対称やや色付き空間群により記述される.
同じことが,電子密度の変換特性 とパターソン関数(構造解析の基本)で言及できる.これは,回折パターンを結晶構造に関係付ける.

koptsik-ch12-5

 

複合系(составные системы; composite systems)

対称群の重ね合わせの原理
変化の法則と対称性の保存

 完全系(целостные системы; integral systems)を構成する自然物を扱うときに,まず第一に気づくのは,その構造の複雑な複合性である.どのような物質対象も,部分構造の相互貫入,特定の配向や従属によって特徴付けられる.
例えば,現代物理学の最大関心事である「素粒子」の内部構造もそうである.原子(かつては「不可分」と考えられていた)は,原子核(核子で構成)と殻に分布した電子からなる.
原子やイオンは,分子,結晶,生体高分子の構造などの次の構造レベルを形成する.惑星系,恒星系,銀河系,超銀河系に至るまで,多種多様な巨視的物体の構造は複合的である.原子・分子型から始まり,完全な生物体や生物社会に至るまで,生物系には複雑な複合性が見られる.社会システムはそれ自体が複合的な構造を持っている.

   完全系組織の複合性(сложный композиционный; cpmplex composite)は,系ごとに分離し,それらの構造的なサブレベルを分離するという方法論を刺激するものである.これは,系そのものの科学的研究にも,他系との関係や部分系(subsystems)間の関係を明らかにするためにも不可欠である.
統合するために分割せよ(Разделить для того, чтобы объединить; Divide to unite),これが科学研究のモットーである. 本質的でない関係を切り離し,注目する関係に係わる分離された系の性質のみに興味を集中する.科学は,現実系の単純化したモデルを構築し,これをその後の研究の対象とするのである.
これが,外部とエネルギーや物質の交換可能な開放系に対して,閉鎖系や孤立系という科学的抽象化をする原点である.系の詳細な分類や,その一般的な性質の提示は省き[例えば,Structure and Forms of Matter (1967) and Problems of Methodology in System Study (1970)参照],この章の残る部分で,本書の中心課題である系の対称性と,構造,特性との関係について研究を続けることにする. 

   我々はすでに多くの幾何学的な例により,構造は対応する自己同型変換群(групп автоморфных преобразований; automorphic transformations)の不変量であることを立証している.物質系の幾何学的構造の対称性は(正しい定義に従えば),当該構造がもつ性質や関係の最小限の対称性でもある.系のすべての部分構造に,その部分構造の中で要素を互いに変換する独自の自己同型群を結びつけることができる. 
系を部分構造レベルに分離する妥当性は,その部分構造の要素に同値関係*を成立させる変換群が存在するかどうかで確認できる.ここでは,複合材料系の特性モデル化としての複合幾何図形を考察することで,部分構造の対称群と系全体の対称群との関係を検討する. 

   いくつかの例に目を向けよう.図8は,五芒星と正方形の重ね合わせによる複合図形である.構成する2つの図形は,運動や相似変換によって互いに変換することができないため,幾何学的に異なる.正方形[単面平面(на односторонней плоскости; on a one-sided plane)上にある]は,$$G_{1}=4mm$$の対称性を持ち,五芒星は$$G_{2}=5$$の対称性を持っている.形成された複合図形全体は,この2つの群の唯一の共通部分群である$$G=1$$の対称性を持っている.2つの群の与えられた配置における,それらの共通な部分群を求める操作を交叉(пересечением; intersection)といい,記号$$ \cap$$と書く :$$G=G_{1} \cap G_{2}$$,例えば,$$1=4mm \cap 5$$で標記される.同値関係で結ばれていない部分構造の対称性は,全体としての系の対称性より低くはないことがわかる:$$G_{i} \supset G (i=1, 2)$$.
非等価な部分から複合図形を形成する過程は,部分の対称性に比べて全体の対称性が低下し系の非対称化(диссимметризацией; dissymmetrization)を伴う.一方,等価な部品から複合系を形成する場合には,逆の過程,対称化(симметризации; symmetrization)が起こる.
図5bは,正3角形で構成された図形(正6角形)である.正3角形の固有対称性は$$G_{i}=3m$$であり,系全体の対称性は$$G=6mm$$である.系の対称性$$G$$は,この場合,群$$G_{i}$$の交叉$$( \cap _{i=1}^{6}G_{i}=G_{1} \cap G_{2} \cap \cdots \cap G_{6})$$にならない:  $$\cap _{1}^{6}3m=1$$.
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* 定義によれば, $$a, b, c$$の要素に対する二項関係($$ \sim $$で表す)は, $$a \sim a$$(反射性),$$a \sim b$$なら$$b \sim a$$(対称性),$$a \sim b$$と$$b \sim c$$なら$$a \sim c$$(推移性)の三つの性質を満足すれば, 同値関係である. 例題では, 図形の計量的性質を保存する同値関係に興味がある. 
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一方,群の合併(объединением; union)($$ \cup _{1}^{6}G_{i}=G_{1} \cup G_{2} \cup \cdots \cup G_{6}$$,これには,対称要素の与えられた空間配置をもつ6つの群のすべての変換を含む)とも一致するわけでもない.
集合$$ \cup _{1}^{6}3m$$は,6つの3角形の各中心に生じた3回軸,6角形の中心を通らない6枚の鏡映面$$m$$,中心を通る3つの鏡映面$$m$$よりなり,この集合は群をなさない.図形の中心を通る2枚の鏡映面は群$$G_{i}^{*}=3m \subset 6mm=G$$を生成する.$$G_{i}^{*}$$は$$G_{i}$$と同型で,6角形の中心を3角形の中心に一致させる平行移動演算$$S$$で,$$G_{i}^{*}$$に還元される:$$G_{i}^{*}=SG_{i}S^{-1}$$

群$$G_{i}$$の合併も交叉も,考察中の複合系(составной системы; composite system)の対称性を記述できない.その理由は,全体の中で3角形間に成り立つすべての同値関係が含まれていないためである.
一般に,配向平面上の任意の2つの図形は,合同で等しいか鏡像で等しい場合,すなわち,2次元連続体$$p_{00} \infty mm$$の運動群の変換$$S$$作用で互いに一致するとき,計量的に等価であるとされる.ある固定図形に,すべての変換$$S \in p_{00} \infty mm$$を適用すると,幾何学用語でいう「体」を形成する等価図形の連続体が得られる.等価図形の有限系は,この包含群(охватывающей группы; embracing group)または基本群(фундаментальной ;  fundamental group)$$p_{00} \infty mm$$の部分群の対称性を持つことになる. 
   部分群$$G_{i}$$が,1つの固定された基本群あるいは包含群$$G_{\textrm{emb } }$$に属するという事実は,空でない交叉$$ \cap G_{i} \neq \phi $$( $$\phi$$ は空集合)の存在を保証し,複合図形の対称性の概念を特定するに十分である.例えば,正6角形(図5b)で,交互の3角形を黒(共通の辺を持たない3つの三角形を黒)く塗り,黒-白図形を得る.その反対称群$$\left( 6'mm' \right) $$は拡張された包含群$$p_{00} \infty mm1'$$に属する.
   考察中の例を一般化して,定義により,部分を決定している対称群$$G_{i}$$の交叉$$ \cap G_{i}$$は,固定した包含群$$G_{\textrm{emb } } \supset G_{i}$$のレベルで,部分が図形の正則系( правильной системы; regular system)を形成していなければ,異種混成(гетерогенного ; heterogeneous)幾何学対象の対称群$$G$$である.
もし,一様(гомогенного; homogeneous)な幾何学対象の部分が図形の正則系を形成するなら,その対称群$$G$$は部分群の拡大(расширение; extension)$$ \cap G_{i} \subset G$$である.ただし,剰余類(添え字$$S$$は対称化(symmetrization)の意)の代表系$$G^{S}=\left\{ g_{1},g_{2}, \cdots ,g_{j} \right\} $$は,同一の包含群$$G_{\textrm{emb } } \supset G_{i}$$に属し,あるいは,何らかの同型な,例えば,色付きなどの一般化包含群$$G_{\textrm{emb } }I^{(p)}$$に属する$$G^{(p)S}=\left\{ g_{1},g_{2}^{(p)}, \cdots ,g_{j}^{(p)} \right\} $$:
$$G=\left( \cap G_{i} \right) g_{1} \cup \left( \cap G_{i} \right) g_{2} \cup \cdots \cup \left( \cap G_{i} \right) g_{j}= \cap G_{i} \odot G^{S}$$
[ここで,$$ \odot $$は対称化あるいは非対称化演算]
明らかに,もし,$$G_{i}$$,$$G^{S} \subset G_{\textrm{emb } }$$ならば,群$$G \subset G_{\textrm{emb } }$$;もし,$$G^{S}$$を$$G^{(p)S}$$で置き換えるなら,$$G$$は一般化(色付き)群になる.
   対称化演算(симметризации; symmetrization),すなわち,部分群$$H= \cap G_{i}$$から群$$G$$への移行は,部分集合の合併$$G=H \odot G^{S}= \cap G_{i}$$と解釈できる.ここで,$$ M=G\backslash H=Hg_{2} \cup \cdots \cup Hg_{j} $$は,$$G(g_{1}=e,g_{2}, \cdots ,g_{j} \in G^{S})$$に対する$$H$$の補集合(теоретико-множественное дополнение; set-theoretic complement )である. 
その逆演算の非対称化(диссимметризации; dissymmetrization)は,$$ H=G \odot G^{D}=H \cap M=G\backslash M $$で,拡大$$G$$から補集合$$M$$を除いた(сводится к отбрасыванию из расширения G дополнения М)ものである.対称化あるいは非対称化の演算子$$G^{S}, G^{D}$$を用いると,特定の群$$G_{i}$$を固定することで,交叉$$ \cap G_{i} \subset G_{i}$$を$$\cap G_{i}=G_{i} \odot G^{D*}$$と書ける.すなわち,$$G= \cap G_{i} \odot G^{S}$$は,$$ G=G_{i}\odot G^{D*} \odot G^{S} $$となる.他方,$$G=G_{i} \odot G^{S*} \odot G^{D**}$$,ただし,$$G_{i} \odot G^{S*}=G_{\textrm{emb } }$$,$$G=G_{\textrm{emb } } \odot G^{D**}$$である.その結果,
$$G=G_{i} \odot G^{D*} \odot G^{S}$$ および,$$G=G_{i} \odot G^{S*} \odot G^{D**}$$.ここで,対称化$$G^{S}, G^{S**}$$は,同型な色付き演算に置き換えられ,探していた全体と部分の対称関係(соотношения связи между группами симметрии целого и части)の記号的表現を得る.
これらは,図形の正則系を構成する部分よりなる複合幾何物体で成立するだけでなく,構成点が超幾何的性質(色)を付与されている一般化された幾何(物質)対象でも成立する.この結論は,群拡大の定理の結果に直接基づいている.複合物理系へ拡大し,対称群の重ね合わせの一般原理(複合系に対する対称性原理)となる.これは,一般に,群の交叉や合併にはならない.このことは,等式$$G=G_{i} \odot G^{D*} \odot G^{S}$$を,次の型に書き直すなら明瞭である.
$$ G= \cap G_{i} \cup M,  M=G\backslash\cap G_{i} \neq \phi $$         (11)
異種混成系の特別な場合は次のようになる. 
$$G= \cap G_{i} , M= \phi , G^{S}=e \in G$$       (12)
式(12)より,次のことがいえる.異種混成系物質(heterogeneous)では,部分の対称性は,全体の対称性より低くはならない:$$G_{i} \supset G$$.
部分と全体という概念に具体的な意味を持たせると,この原理は様々な言い換えができる.例えば論理の公理では,[ある理論の仮説が群Gに対して不変であるならば,結論についてもそう言える(G. Birkhoff, 1950)]
あるいは,物理的な因果律では,[ある原因がある結果を生むとき,原因の対称要素は結果に観測されるべきである(P. キューリー, 1894)].
もちろん,これらの新しい主張の正当性は,我々の幾何学的証明とは独立して確立される必要がある.

同時に,物質的に均質な系に対しては,式(11)から,系$$G$$の部分系の対称性について,式(11)から他の可能性が導ける.
$$G_{i} \supseteq G ,  G_{i} \subset G$$, あるいは,$$G_{i}\not \supset G ,  G_{i} \not\subset G$$
ここで,もし必要なら,$$G_{i}$$を同型な古典あるいは色付き群に置き換え:$$G_{i}^{*}=SG_{i}S^{-1}, S \in G_{\textrm{emb } }$$,あるいは,$$G_{\textrm{emb } }I^{(p)}$$(ここで,$$S$$は相似変換で,対称化演算で用いた上付添字$$S$$と混同しないように).このような場合に対応する因果律 は,後述する確率統計的な性格を持つようになる. 

koptsik-ch12-6

全体の対称性と部分の対称性の一般的関係を定式化するにあたり,全体や部分の概念を精査することは有用である.これらの概念の定義は 論理の公理:「全体はいかなる部分よりも小さくはない」により与えられる.点集合の場合の定義に適用すると,自分自身が要素である無限集合が存在することがわかる.そのような集合のべき乗は,その部分のべき乗と同じになる. 
ユークリッド空間における閉じた有限点集合を図形と呼ぶことにする.
図形Fの任意の2点をMとNとし,それらの間の距離を$$\rho \left( M,N \right) $$とする.関数$$\rho \left( M,N \right) $$の連続性から考えて,我々は常に図の2点A,Bで,すべてのM,Nに対し,$$\rho (A,B) \ge \rho (M,N)$$となるような2点を見出せる.このような[最小の]2点間の距離$$d=\rho \left( A,B \right) $$を集合Fの直径と呼ぶ.
図形をより小さな部分に分割することによって(Boltyanskii, Gokhberg, 1971参照),集合Fをいくつかの部分集合の合併union(被覆covering)の形に表現することができる.
$$F=H_{1} \cup H_{2} \cup \cdots \cup H_{m}$$
部分集合の直径はFの直径より等しいか小さい(図形$$H_{i}$$は互いに重ならない場合もある).
対称性の概念が図形Fで定義されれば,その部分でも定義されることは明らかであり,対応する群$$G$$と$$G_{i}$$の関係の問題は,対称群の重ね合わせの原理を一般化することで解決できるかもしれない.
読者は,この節と次節で多くの方程式を提示されても動揺する必用はない.それは,ほとんどの場合,基本関係(11)を特殊化したもので,次のような形に書き換えることができ,
$$G=G_{i} \cdot G^{D*} \cdot G^{S}=G_{i} \cdot G^{S*} \cdot G^{D**}$$                                  (11*)
(11)から生じる結果は(345頁も参照):$$G_{i} \supseteq G, G_{i} \subset G$$あるいは,$$G_{i} \not\supset \not\subset G$$である.
後者の場合,$$G_{i}$$から$$G$$への移行は,これらの群の共通部分群の対称化$$G_{i} \cap G=G \cdot G^{D}$$,または,これらの共通上位の包含群$$G_{\textrm{emb } } \supseteq G_{i} \cup G$$の非対称化のいずれかによって行われる可能性がある. 
群$$G$$と$$G_{i}$$の基本的な関係を変えることなく,幾何学空間から幾何的物理学(物質的)空間へ移行しても,完全系の各部分間の相互作用の問題は残る. 
さらに,ある(有限または無限)数の部分から構成される形成物の組織的完全性という新たな困難も出現する.これらのことは,幾何学レベルでは実現できた関係の一部しか,幾何物理学レベルでは実現できないことを意味する.

例えば,部分と全体との関係は,原因と結果との関係より広く,部分は全体と因果関係がない場合があることを忘れてはならない(Свечников; Svechnikov, 1971).
他方,完全系の考察中の固定状態を,許容された状態集合の一部と考えると,その状態の対称性は,重ね合わせの原理から生じる関係によって,その系の定常対称群に結ばれることがわかる.この場合,一般化原理は,例えば量子力学の特徴である状態の因果関係の媒介形式を記述するものであり,古典的決定論の原理の枠内には入らない.

式(11)と式(12),あるいはそれに先立つ式は,合わせて対称群の重ね合わせの原理を表している.式(11)は,系の対称化(拡大)または非対称化(縮小)の過程を,いくつかの対称化因子(集合$$M$$の要素)の包含または排除に結びつける.逆に,式(12)では,系の対称化は,いくつかの群$$G_{i}$$を交叉$$ \cap G_{j}$$から除外した結果であり,非対称化は,系にいくつかの新しい非等価の部分構造を系に含めた結果である:この場合,それらに対応する群$$G_{i}$$が系の非対称化因子として機能する.

群$$G$$と$$G_{i}$$の変換の作用下で,系全体とそれを構成する部分構造が保存されるということは,繰り返し指摘したように,その構造と部分構造に結びついたすべての性質と関係が同時に保存されるということである.したがって,対称群の重ね合わせの原理は,純粋幾何学の世界だけでなく,物質系や図形の世界でも成立つ.

群$$G$$と群$$G_{i}$$(または表現の空間で作用するそれらと同型の色群)は,構造または部分構造の要素の幾何学的配置の対称性だけでなく,対応する物理量の変換特性,例えば,物質系の物理特性を記述する一様なテンソル場,および物理場相互や,物質との相互作用で生じる現象も記述する. 

幾何学的な非対称性の原理(12)を物理現象に拡張したのは,ピエール・キュリー(1894)に属するものである.それは,彼の有名な言葉「非対称性が現象を生む」であり,彼自身の言葉を借りれば,次のように理解する必要がある."現象は,特性の対称性($$G_{i}$$),または,特性の対称性の部分群の1つの対称性($$G \subseteq G_{i}$$)を有する媒体舞台で存在し得る.つまり,ある現象にはある対称性の要素が共存していてもかまわないが,対称性のある要素を欠くが必要である.この非対称性が現象を生み出している.原理(12)の定式は,


幾何学的な非対称性の原理(12)を物理現象に拡張したのは,ピエール・キュリー(1894)によるものである.つまり,「ある現象は,その現象が持つ特徴的な対称性($$G_{i}$$),あるいはその特徴的な対称性の部分群($$G\subseteq G_{i}$$)のいずれかの対称性を持つ媒体の中に存在することがある」と理解される.つまり,ある現象にはある対称性が共存していてもよいのだが,その必要はない.しかし,ある対称性の要素が存在しないことは必要である.これが現象を作る非対称性である」 原理 (12) の定式化は次のようになる

 $$G_{\textrm{phenomena }i} \supseteq G_{\textrm{medium } }= \cap G_{\textrm{phenomena }i}$$ または,
$$G_{\textrm{property }i} \supseteq G_{\textrm{object } }= \cap G_{\textrm{property }i}$$                (13)
これを,Newman-Minnigerode-Curie(NMC)原理と呼ぶ.キュリーの定式化は,先人の結果の基礎の上にあり,19世紀の物理学の蓄積した事実を一般化したものである.ここで,この原理の形成の歴史を物語る他の定式を年代順に挙げてみよう.

В. Vivell (1830): 「光学的対称性は幾何学的対称性に正確に対応する」.F. Neumann (1850 - 1885): 「物理的性質に関して,ある材料はその結晶形と同じ種類の対称性を持っている」.W. Minnigerode (1884): 「結晶の対称群は,この結晶で起こりうるすべての物理現象の対称性の部分群である」.ここからキュリーの定式化に移ると,「結晶」という言葉を「媒体(舞台)」という言葉に置き換えればよいことになる.
キュリー自身は,もちろん先人たちも,残念ながら,20世紀の物理学に豊かに存在する構造研究の急速な開花を目撃することはできなかった.したがって,キュリー自身は,「生み出される作用は,原因よりも対称的であるかもしれない」という独創的な推測をしているが,観測された群$$G$$と$$G_{i}$$群間の関係のすべての形態,特に対称化効果(11)を予見することはできなかったのである.
ピエール・キュリーによる複合系の対称性の見つけ方(「自然界の異なるいくつかの現象が重なり合って一つの系を形成するとき,それらの非対称性が積み重なる.その結果,各現象に共通する対称性の要素だけが残る」),現在明らかになったように,異質な系に対してのみ有効である.キュリーの発言の多くが曖昧で矛盾していることから,研究者は繰り返しこれらの発言を批判し,因果関係の原則や十分根拠の原則に基づく他の発言に置き換えてきた(Birkhoff, 1950, 1954; Shubnikov, 1956; Koptsik, 1957-1971; Spassky and Krindatch, 1968, 1971).
このテーマに関する多くの文献があるにもかかわらず,NMCの原理を物理学に応用することは困難であった.例えば,流体力学において,原因の見かけ上の対称性が,それによって引き起こされる作用の対称性を伴わない場合,いわゆる対称性のパラドックスがある(Birkhoff, 1954参照).これは,一般に系の対称性が構成要素の対称群の交叉に還元されないため,式(12),(13)のNMC原理は適用範囲が限定されるためである.また,物理実験の結果決定された系の対称群は,幾何学的な群$$G$$と間違われることがあるが,実際は色群$$G^{(p)}$$である.
例えば,X線回折により2色群$$P4/mm'm'$$を持つ強磁性立方体結晶は,$$\mit\Phi =Pm3m \supset P4/mmm \longleftrightarrow P4/mm'm'=$$; 部分群,$$\mit\Phi ^{*}=\mit\Phi \cup P4/m \subset \mit\Phi $$
のみが,ここでは純粋に幾何学的な変換の群となる.このような場合,(12), (13)では幾何学的な部分群$$G^{*} \subset G^{(p)}$$のみを系の幾何学的対称性としてとらえる必要がある.もう一つの難点は,対称条件はその抽象的な性質上,現象の実現に必要なだけで,十分ではないことだ.系の対称性から予測される現象が観測されなかったり,不安定になったりすることがある.
強調すべきは,対称性の条件を形式的に分析しても,実際の物理現象を注意深く研究し,物理系に対称化または非対称化の要因として実際に作用する物質的要素を見つける必要性から,研究者は解放されないということである.

(12)に加えて対称化原理(11)を用いることで,先に述べた困難の1つが解消される.幾何学系の対称化の例は,本書の初版で紹介した(Shubnikov, 1961も参照).

対称群の重ね合わせの原理の分析を終えるにあたって,孤立系内の構造的なサブレベル間の相互作用と,系同士の相互作用の問題を忘れてはならない.物質系とそのサブシステムは,思考でしか分離できない.現実には,構造や対称性は,孤立した状態系あるいはそのサブレベルとは異なり相互作用がある.

 

 

koptsik-ch12-7

式(12)において,$$G_{i}$$, $$G$$ を,(仮想の)孤立状態にある与えられた物体に対して定義される定常状態の対称性群を表すのに使うことにする.また,相互作用のある状態での同じ対象物の群を$$G_{i}'$$,$$G'$$とする.

固定レベルにおいて,異質な部分系$$G_{i}$$の堆積そのもの(これが,交差$$G=\cap G_{i}$$の対称性を決定する;$$G$$は完全で外部作用から孤立)は,それらの相互作用の十分な原因になるが,この相互作用は,別の構造レベルにおいて要素間の新たな同値関係の確立につながらないとすれば,相互作用の無い対象の交叉$$\cap G_{i}$$の対称群は,相互作用のある交叉$$\cap G’_{i}$$の対称群と同じでなければならない.元の状態が対称的であれば,なぜそれが変化しなければならないのか?系の対称化因子(仮説)は登場しないのだろうか?

$$G'= \cap G_{i}'= \cap G_{i}=G$$                 (14)
相互作用が,要素間の新しい同値関係に導くなら,(11)に従い相互作用系の対称化に出会う:
$$G'= \cap G_{i}' \cup M' \supseteq \cap G_{i} \cup M=G , M' \neq \phi , M= \phi $$                 (15)
関係式(15)は,初期状態(11)の場合にも書くことができ,その場合,$$M \neq \phi $$(対称化因子の集合は空ではない). 
式(12)の初期状態$$ \cap G_{i}$$,または,式(11)の$$ \cap G_{i} \cup M$$が,それ自体で,相互作用の十分な基礎となるのであれば,相互作用によって孤立した系が非対称化されることはないだろう.
(12)において非対称化が起こるためには,非対称化因子が含まれていなければならない(新しい群$$G_{i}$$がその役割を果たす).
しかし,これらの因子が,群の初期の交叉により,孤立系に出現することがあらかじめ決まっているのであれば,なぜこれらの因子が交叉$$ \cap G_{i}$$を縮小するのか?系の非対称化のために (11)では,ある種の相互関係の要素を,集合Mから,排除しなければならない.もし,この合併 が対称的であり,相互作用を決定していたのであれば,合併$$ \cap G_{i} \cup M$$, から対称化因子が抜け落ちるのは何故か?

   これまでの議論は,$$\textbf{十分な理由の原理}$$*に基づき,$$ \textbf{定常状態の保存則の定式化} $$(以下に示す)を導き出した.相互作用の無い状態の対称性は完全に保存される(14).初期状態の対称性は, (増加することはあっても)減少することはない(15).
この観点から,この議論の根底にある前提条件を満たしていれば,$$\textbf{孤立した系の定常状態での対称性は,相互作用下では増大するのみ}$$である.非対称化が起こるためには,$$\textbf{系の孤立を破壊するような系の拡張が必要である}$$ : 固定された系の外部にある物質的舞台のみが,その定常状態の対称性を減少させることができる.

   対称性の保存の法則は,平衡状態の熱動力学や相転移の理論において重要な役割を演じる.次節では,これらの分野におけるいくつかの例について考えてみよう. 

koptsik-ch12-8 341-

    我々はすでに等式の対称性に言及し始めている.物理理論の分類が,これらの理論の基礎方程式を不変に保つような自己同型群に基づくことを強調するのは重要である.このような分類への道は,クライン(1872)の「エルランゲン計画」-幾何学から,等長,アフィン,射影の不変部分を分離する-,および,古典電磁気学と特殊相対性理論の方程式が許容する変換の分析に関するローレンツ(1895)とアインシュタイン(1905)の研究によって切り開かれたものである.基本群の変化は,常に理論構造を変える. 
したがって,ニュートンの古典力学は,ガリレオ・ニュートン変換, 
$$x_{i}^{'}=x_{i}+v_{i}t , x_{i}^{'}=x_{i}+a_{i} , x_{i}^{'}=D_{ik}x_{k} , t'=t+b , D_{ik}D_{kj}=\delta _{ij}$$
($$\delta _{ij}=1$$ for $$i=j$$, $$\delta _{ij}=0$$ for $$i \neq j$$, $$i, j, k=1, 2, 3$$)
の下で不変な命題の集合であり,均一で等方な幾何空間と均一な時間に対して,連続した10のパラメーターの対称群を形成している.
運動法則は、これらの変換によって関連づけられたすべての等価座標系において同一の(共変)形式をとり,これには一定速度$$v_{i}$$で相対運動する慣性系(ガリレオの相対性原理)も含まれる.
特殊相対性理論,(相対論的)量子力学,電磁気学の運動方程式は,ローレンツ変換のもとでは不変であり,最も単純な場合,
$$x'_{i}=\displaystyle \frac{x_{i}-vt}{\sqrt{1-\beta ^{2 } } }, x'_{2}=x_{2}, x'_{3}=x_{3}$$,
$$t'=\displaystyle \frac{t+(v/c^{2})x_{1 } }{\sqrt{1-\beta ^{2 } } }, \beta =\displaystyle \frac{v}{c}$$

これらの方程式は,光速$$c$$よりも小さな速度で$$x_{1}$$軸に沿って移動する相対論的に等価な(慣性)座標系を関係づけている(アインシュタインの相対性原理).
   上記理論の不変性は,幾何学的座標と時間からなる4次元空間$$\left\{ x_{1}, x_{2}, x_{3}, x_{4}=ict \right\} $$における均質性と等方性を反映している(虚数単位$$i$$の導入は時間座標を区別し,理論で空間を数学的対象として見ることを強調するものである).ローレンツ変換は,この空間の測度(4次元ベクトルの長さの2乗,$$x_{1}^{2}+x_{2}^{2}+x_{3}^{2}+x_{4}^{2}-c^{2}t^{2}$$)を保存し,したがって量$$c$$の不変性が導かれるのである. 
1918年,クラインKleinの後継者であるエミー・ノーザーEmmy Notherは,クラインの研究を用いて,有名な定理*を証明した.
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* この定理の歴史と参考文献については,V. P. Vizgin (1972)を参照.
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「座標の連続的な変換と,それに伴う作用積分の変化を消滅させる場の関数の変換には,ある不変量,すなわち保存される場の関数とその導関数の組み合わせが対応する」.Notherの定理から,一般に,任意の孤立した物理系に対して,運動量の3成分,角運動量の6成分,エネルギーという10の保存される運動学的量が存在することが導かれる.これらはそれぞれ,平行移動,幾何学的空間の直交変換(およびガリレオ・ニュートン変換,ローレンツ変換),時間測定の原点の変位を表す変換に対応する不変量である. 
   保存則と物理法則の対称性の関係は,リチャード・ファインマンFeynmanの言葉を借りれば,「ほとんどの物理学者はいまだにどこか唖然としている......」という.これらの続ながりは非常に興味深く美しいものであり,物理学で最も美しく深遠なものの一つである(R. Feynman, R. Leyton, and M. Sands, 1965, pp.52-3, 52-4; A. A. Bogush and L. G. Moroz, 1968 も参照のこと).研究対象の現象に対する法則が微分方程式や代数方程式の言語で定式化されている物理理論であれば,全く同じ方法で対称変換群とそれに対応する不変量を求めることができる.結晶物理のテンソル方程式を例に,このことを説明しよう. 
その一例として,誘電体中の変位ベクトルと電場ベクトルの関係式,すなわち誘電体中の誘電分極現象を記述する式(p.314)がある: 
$$D=\varepsilon E$$ あるいは, $$D_{i}=\varepsilon _{uj}E_{j}$$,   $$i, j=1,2,3$$             (1) 
この例を一般化して,均一なテンソル「効果」場$$A_{pq \ldots r}$$と,「作用」場 $$B_{ij \ldots k}$$の関係式を書き下すと,
$$A=aB$$ あるいは,$$A_{pq \ldots rij \ldots k}=a_{pq \ldots rij \ldots k}B_{ij \ldots k}$$, $$p,q, \ldots ,r,i,j, \ldots ,k=1,2,3   $$(20) 
テンソル$$A, a, B$$を包含直交群$$ \infty \infty m$$で定義すると,それらの成分の変換方程式は次のような形になる.
$$A_{p'q' \ldots r'}=\chi (D)D_{pp'}D_{qq'} \cdots D_{rr'}A_{pq \ldots r}$$ $$p',q', \ldots r',p,q, \ldots r=1,2,3$$ (21)
テンソル$$a, B$$についても同様の式がある[式(2),p315と比較せよ].
式(20)は物理法則を表しており,テンソル$$A, a, B$$の関係は群$$ \infty \infty m$$で許容されるどの座標系でも保存されるはずである.すなわち,式(20)の左辺と右辺は,直交変換の影響を受けて同じように変化する(物理方程式の共分散(covariance)の原理). 
$$A=aB$$ (系$$X_{1} X_{2} X_{3}$$)$$ \Longrightarrow $$$$A'=a'B'$$(系 $$X'_{1} X'_{2} X'_{3}$$) (22)
しかし,テンソル$$A, a, B$$の成分は,一般的に言って,任意の変換に対して不変ではない.
テンソル$$A, a, B$$の行列が不変な直交群$$ \infty \infty m$$の最高位数の部分群は,テンソル$$A, a, B$$の対称群$$G_{A} , G_{a} , G_{B}$$となる (Shubnikov, 1949).
テンソルモデルを用いると、方程式の対称群とその解との間に有用な関係を確立することができる.
   ここで,交叉$$G_{a} \cap G_{B}$$ に属する任意の演算$$g$$を取り上げよう. 定義によれば,テンソル$$a, B$$は,この操作に対して不変である.したがって,この操作のもとで式(20)を変換すると,始めの形式になる,
$$A'=a'B' \Longrightarrow A=aB$$
および,$$g \in G_{A}$$. $$g$$は,$$G_{a} \cap G_{B}$$に属する任意の演算であるから, 
$$G_{A} \supseteq G_{a} \cap G_{B} \equiv G_{a \cap B}$$     (23)
群$$G_{A}=G_{aB}$$ および,$$G_{a \cap B}$$を,その解(これは,仮説により,物理的相互作用の効果を許容している),したがって相互作用のないテンソル場の交叉から決まる方程式の対称群と呼ぶことにする.もし,等式$$A=aB$$等価な解$$A_{i}=aB_{i}$$の集合$$ \{A}={A_{1}, A_{2}, \cdots , A_{i}, \cdots \} $$を認めるなら,
$$G_{(A)}= \cap G_{A_{i } } \cup M \supseteq G_{a} \cap G_{B}=G_{a \cap B} , G_{A_{i } } \supseteq , \subset $$ or $$ \not \supset G_{(A)} \supseteq G_{a \cap B}$$    (24)
ここで,$$G_{A_{i } }$$ または,その同型な類似物$$G_{A_{i } }^{(p)}=SG_{A_{i } }S^{-1}$$可能な解の1つの対称性を表現し,$$M$$は解系の対称化演算,$$G_{(A)}=G_{aB}=G_{a} \cap G_{(B)}; G_{(B)}= \cap G_{B} \cup M$$となる.
もし,$$A=aB$$に対応する方程式系が,非互換incompatibleであれば,解集合は空であるり,形式的に$$G_{(A)}= \infty \infty m \supseteq G_{a \cap B}$$と書くことができる.
これらの方程式に対して,関係式(23),(24)は,系の部分と全体の間に存在する一般的な関係(16),(17)を表現している. 
例えば,作用の同軸の二面体bicone$$\{E \}$$に対応する式(1)の同価解の二面体$$\left\{ D \right\} $$は,水晶の場合,方程式の対称性に一致する.
$$G_{(D)}= \infty /mmm= \infty /mmm \cap \infty /mmm=G_{\varepsilon } \cap G_{(E)}=G_{\varepsilon E}$$
(図220と比較せよ). 

koptsik-ch12-2

 

変換則と物理量の対称性(一様連続体の近似)
反対称と色付き対称の極限群 

   結晶のスカラー特性は,測定の方位によらないので,1つの数により定義される.例えば,均一で一様な結晶の温度・密度は,巨視的なサンプルに比べ十分小さい体積要素であるが,単位胞よりは遥かに大きいような"点" の全てで同一である.
   誘電体結晶(焦電性pyroelectric,強誘電性ferroelectricと呼ばれる)は,その構造に起因する自発分極(外部電場が存在しなくても分極している)を持つ.対称性$$1$$の結晶中の分極ベクトル$$P$$は,3つの独立なパラメータ:$$P_{1}, P_{2}, P_{3}$$で決定される(図219a).対称性$$m$$[z軸に垂直な鏡映面]の結晶では,生じるベクトル$$P$$は,2つの成分$$P_{1}, P_{2}$$で完全に決定される(図219b).成分$$P_{3}=0$$となる訳は,平面$$m$$内にない斜めのベクトルには,鏡映同価なベクトルが必ずあるからである.
軸性[回転]対称類$$2,3,4,6,mm2,3m,4mm$$の結晶では,生じるベクトル$$P$$は,1つのパラメータ$$P_{3}$$で記述される(図219c).$$\overline{1}$$ のように対称心のある結晶類では,焦電性はない;すなわち$$P=0$$である.
   極性ベクトルの変換則$$r'=\left[ D|0 \right] r=Dr$$ を思いだそう(P.204参照).この法則で,$$r$$ を$$P$$ で置き換え:$$P_{i}'=D_{ij}P_{j}$$ と行列形式で書く.例えば,軸性群$$2$$における2回軸$$//X_{3}$$の周りの180°回転を,行列$$D$$のあらわな形式を用い,対称操作の行列積を行うと,以下の結果を得る.
$$\left( \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
P_{1}' \\[0mm]
P_{2}' \\[0mm]
P_{3}'
\end{array} \right) =\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
-1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & -1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 1
\end{array} \right) \left( \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
P_{1} \\[0mm]
P_{2} \\[0mm]
P_{3}
\end{array} \right) =\left( \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
-P_{1} \\[0mm]
-P_{2} \\[0mm]
P_{3}
\end{array} \right) $$
軸対称のため,系の180°回転後, 
$$\left( \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
P_{1}' \\[0mm]
P_{2}' \\[0mm]
P_{3}'
\end{array} \right) =\left( \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
P_{1} \\[0mm]
P_{2} \\[0mm]
P_{3}
\end{array} \right) $$ ,すなわち,$$ \left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
P_{1}'=-P_{1}=P_{1}=0 \\[0mm]
P_{2}'=-P_{2}=P_{2}=0 \\[0mm]
P_{3}'=P_{3}=const
\end{array} \right. $$

さらにもう1つ,2階の極性テンソルで記述される特性例:誘電体に誘起される分極現象(図220)を考察する.結晶中の変位ベクトル$$D$$は一般には印加される電場$$E$$方向と一致しない(等方媒質では一致する).これらの極性ベクトルの成分$$D_{i}とE_{j} $$との関係は,
$$D_{i}=\varepsilon _{ij}E_{j}$$  または,$$ \left\{ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
D_{1}=\varepsilon _{11}E_{1}+\varepsilon _{12}E_{2}+\varepsilon _{13}E_{3} \\[0mm]
D_{2}=\varepsilon _{21}E_{1}+\varepsilon _{22}E_{2}+\varepsilon _{23}E_{3} \\[0mm]
D_{3}=\varepsilon _{31}E_{1}+\varepsilon _{32}E_{2}+\varepsilon _{33}E_{3}
\end{array} \right. $$ (1)
係数$$\varepsilon _{ij}$$は,誘電率テンソルの形で,べクトル$$D$$と$$E$$を結び付ける.一般に,要素の対称性$$\varepsilon _{ij}=\varepsilon _{ji}$$ があり,9つではなく6つの独立なパラメータをもつ.
これから先は,テンソル$$\varepsilon _{ij}$$ の行列を,簡単化して,非ゼロの独立なパラメータのみの行か列の形式に書くことにする:
$$\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
\varepsilon _{11} & \varepsilon _{12} & \varepsilon _{13} \\[0mm]
\varepsilon _{12} & \varepsilon _{22} & \varepsilon _{23} \\[0mm]
\varepsilon _{13} & \varepsilon _{23} & \varepsilon _{33}
\end{array} \right) =\left( \varepsilon _{11},\varepsilon _{12},\varepsilon _{13},\varepsilon _{22},\varepsilon _{23},\varepsilon _{33} \right)     $$
$$\varepsilon _{ij}$$を係数とする2次の表面
$$\varepsilon _{11}x_{1}^{2}+\varepsilon _{22}x_{2}^{2}+\varepsilon _{33}x_{3}^{2}+2\varepsilon _{12}x_{1}x_{2}+2\varepsilon _{13}x_{1}x_{3}+2\varepsilon _{23}x_{2}x_{3}=1$$
は,対称テンソルに一意に関係づけられている;この表面は誘電率楕円体(ellipsoid),あるいは一般に,観察される効果の特性を明確にする物理特性の屈折率楕円体(indicatrix)である.結晶の対称群$$G_{k}$$ は,この表面の形(3軸あるいは1軸性の楕円体,あるいは,球)と結晶物理軸 $$X_{1}, X_{2}, X_{3}$$に対する楕円体の主軸$$X_{1}', X_{2}', X_{3}'$$ の方位を決定する.群$$G_{k}$$ は,実験的に決定しなければならない$$\varepsilon _{ij}$$ の独立な数も決定する.これを理解するために,テンソル成分$$\varepsilon _{ij}$$ の変換式を
$$\varepsilon _{i'j'}=\chi (D)D_{i'i}D_{j'j}\varepsilon _{ij}$$        $$i', j', i, j=1,2,3$$             (2) 
と書く,ここで,$$D_{i',i}=\textrm{cos}(X_{i}', X_{i})$$ ,$$\chi (D)$$ は極性テンソルでは+1,右辺の総和は繰り返される$$i,j$$ に対し,1から3で行われる.項の和を取り,6つの未知数を求めるのに9個の方程式の冗長系( 3つの方程式$$\varepsilon _{i'j'}=\varepsilon _{j'i'}$$は,この場合は成立しない;非対称テンソルの一般の場合には,成立しない)を得る.
   読者諸君にこの手順を実行するのを残しておき,上記の等式系の行列を導くのに他の手法を使う-3次元空間の座標変換の直交行列の(自分自身との)直積(p.241).行列$$D$$の自分自身との直積は,
$$D^{2}=\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
D_{11} & D_{12} & D_{13} \\[0mm]
D_{21} & D_{22} & D_{23} \\[0mm]
D_{31} & D_{32} & D_{33}
\end{array} \right) \times \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
D_{11} & D_{12} & D_{13} \\[0mm]
D_{21} & D_{22} & D_{23} \\[0mm]
D_{31} & D_{32} & D_{33}
\end{array} \right) =\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
D_{11}(D_{ij}) & D_{12}(D_{ij}) & D_{13}(D_{ij}) \\[0mm]
D_{21}(D_{ij}) & D_{22}(D_{ij}) & D_{23}(D_{ij}) \\[0mm]
D_{31}(D_{ij}) & D_{32}(D_{ij}) & D_{33}(D_{ij})
\end{array} \right) $$
ここで,$$(D_{ij})$$は$$3 \times 3$$行列で,例えば
$$D_{23}(D_{ij})=\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
D_{23}(D_{11}) & D_{23}(D_{12}) & D_{23}(D_{13}) \\[0mm]
D_{23}(D_{21}) & D_{23}(D_{22}) & D_{23}(D_{23}) \\[0mm]
D_{23}(D_{31}) & D_{23}(D_{32}) & D_{23}(D_{33})
\end{array} \right) $$ ,等々.
例えば,$$2 /\!\!/ X_{3}$$軸まわりの180°回転の行列$$D$$($$D_{11}=D_{22}=-1, D_{33}=1$$,残りの行列要素はゼロ)を知れば,テンソル$$\varepsilon _{ij}$$ の空間でのこの回転を記述する$$D^{2}$$を見出せる.すなわち,対称群$$G_{k}=2$$ に対して,変換式$$\varepsilon _{i'j'}=\chi (D)D^{2}\varepsilon _{ij}$$ は以下の形となる:
$$\left[ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\varepsilon _{1'1'} \\[0mm]
\varepsilon _{1'2'} \\[0mm]
\varepsilon _{1'3'} \\[0mm]
\varepsilon _{2'1'} \\[0mm]
\varepsilon _{2'2'} \\[0mm]
\varepsilon _{2'3'} \\[0mm]
\varepsilon _{3'1'} \\[0mm]
\varepsilon _{3'2'} \\[0mm]
\varepsilon _{3'3'}
\end{array} \right] =\left[ \begin{array}{@{\,} ccccccccc @{\, } }
1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & -1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 0 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 0 & 0 & 1 & 0 & 0 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 0 & 0 & 0 & -1 & 0 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & -1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & -1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1
\end{array} \right] \left[ \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
\varepsilon _{11} \\[0mm]
\varepsilon _{12} \\[0mm]
\varepsilon _{13} \\[0mm]
\varepsilon _{21} \\[0mm]
\varepsilon _{22} \\[0mm]
\varepsilon _{23} \\[0mm]
\varepsilon _{31} \\[0mm]
\varepsilon _{32} \\[0mm]
\varepsilon _{33}
\end{array} \right] $$

テンソルの置換対称性と結晶の2回対称性を考慮して,$$\varepsilon _{i'j'}=\varepsilon _{ij}$$,
$$\varepsilon _{1'1'}=\varepsilon _{11}$$
$$\varepsilon _{1'2'}=\varepsilon _{12}$$
$$\varepsilon _{1'3'}=-\varepsilon _{13}=\varepsilon _{13}=0$$
$$\varepsilon _{2'1'}=\varepsilon _{21}$$
$$\varepsilon _{2'2'}=\varepsilon _{22}$$
$$\varepsilon _{2'3'}=-\varepsilon _{23}=\varepsilon _{23}=0$$
$$\varepsilon _{3'1'}=-\varepsilon _{31}=\varepsilon _{31}=0$$
$$\varepsilon _{3'2'}=-\varepsilon _{32}=\varepsilon _{32}=0$$
$$\varepsilon _{3'3'}=\varepsilon _{33}$$

行列$$D^{2}$$の4,7,8行,4,7,8列を抜き取り,$$9 \times 9$$行列から,対称テンソルの変換則を完全に記述する$$6 \times 6$$行列に移行する.この行列を2つの行列の対称化積(あるいは対称化平方)と呼び$$D^{(2)}$$と標記する.
   群$$G=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{j} \right\} $$ の同形な行列群$$\left\{ D_{1}(g_{1}),D_{2}(g_{2}), \ldots ,D_{j}(g_{j}) \right\} $$ は,行列表現$$G$$ を作る.この表現は,$$3 \times 3$$行列$$D_{j}$$が点の配置の変換のみでなく3次元空間のベクトル成分を変換するので,ベクトル表現と呼ばれる.
   群$$G$$の群$$\left\{ D_{1}^{2}(g_{1}),D_{2}^{2}(g_{2}), \ldots ,D_{j}^{2}(g_{j}) \right\} $$ による表現は,ベクトル表現の平方あるいはテンソル表現と呼ばれる.この術語を用いれば,誘電率テンソル$$\varepsilon _{ij}$$はベクトル表現 $$\left\{ D_{1}(g_{1}),D_{2}(g_{2}), \ldots ,D_{j}(g_{j}) \right\} $$の対称化された平方により変換される.テンソル量の定義自体は,成分の変換を支配する法則を特定すること,すなわち対応するテンソル表現の特定に基づいている.
   各32の結晶群に対する表現$$\left\{ D_{1}^{2}(g_{1}),D_{2}^{2}(g_{2}), \ldots ,D_{j}^{2}(g_{j}) \right\} $$ から,これらの群のどれに対しても,群$$G_{k}=2$$ に対して行ったのと全く同様に,テンソル$$\varepsilon _{ij}$$ の形を決定できる.テンソル$$\varepsilon _{ij}$$ の行列は,成分$$\varepsilon _{ij}$$ が対応する座標 $$x_{i}x_{j}$$の積と同様に変換されることに注目すれば,もっと速く決定できる.この方法を用い,方位$$m \bot X_{3} $$の群$$G_{k}=m $$に対し,テンソル$$\varepsilon _{ij}$$の行列の形を見出すことにする.この平面での鏡映により,座標$$x_{1}, x_{2}$$ は保存され,座標$$x_{3}$$は符号を変える: $$x_{1} \to x_{1}, x_{2} \to x_{2}, x_{3} \to -x_{3} $$
従って,座標の積は以下のように変化する: 
$$x_{1}x_{1} \to x_{1}x_{1}, x_{1}x_{2} \to x_{1}x_{2}, x_{1}x_{3} \to -x_{1}x_{3}, x_{2}x_{1} \to x_{2}x_{1}, x_{2}x_{2} \to x_{2}x_{2} $$
$$x_{2}x_{3} \to -x_{2}x_{3}, x_{3}x_{1} \to -x_{3}x_{1}, x_{3}x_{2} \to -x_{3}x_{2}, x_{3}x_{3} \to x_{3}x_{3} $$
この変換は対称変換であるので,変換の前後で,成分$$\varepsilon _{ij} \leftrightarrow x_{i}x_{j}$$ は等しい.従って,群$$m$$の行列$$\varepsilon _{ij}$$ が,群2に対するものと同じ形となる:$$(\varepsilon _{11}, \varepsilon _{12}, \varepsilon _{22}, \varepsilon _{33})$$
   以下のリストに,結晶学的な群に対する誘電率テンソルの一般形を与える:
三斜晶系$$G_{k}=1, \overline{1} :(\varepsilon _{11}, \varepsilon _{12}, \varepsilon _{13}, \varepsilon _{22}, \varepsilon _{23}, \varepsilon _{33})$$
単斜晶系 $$2, m, 2/m  :(\varepsilon _{11}, \varepsilon _{12}, \varepsilon _{22}, \varepsilon _{33})$$
直方晶系 $$2, 222, mmm :(\varepsilon _{11}, \varepsilon _{22}, \varepsilon _{33})$$
三方晶系,正方晶系,六方晶系$$:(\varepsilon _{11}, \varepsilon _{22}=\varepsilon _{11}, \varepsilon _{33})$$
等軸晶系 $$23, m\overline{3}, 432, \overline{4}3m, m\overline{3}m :(\varepsilon _{11}, \varepsilon _{22}=\varepsilon _{11}, \varepsilon _{33}=\varepsilon _{11})$$

全く同様に,軸性ベクトルに対するテンソル不変量(対応する群の変換により変わらない行列)を見出すことが出来る.テンソル成分の変換則で,第1種の変換(回転,並進)に対しては,$$\chi (D)=+1$$ ,第2種の変換(鏡映,反転)に対しては$$\chi (D)=-1$$ とする所が異なる.
   テンソル本来の直方晶対称は,テンソル行列の一般形を保存する直交変換の最も対称性の高い群により決定されるのだが,もとの結晶の対称性よりも高くなる可能性があることに注意しよう.例えば,立方晶系に対し,誘電率楕円体は対称性$$ \infty \infty m$$ の球に縮退する.3方晶系,正方晶系,6方結晶に対しては,1軸性誘電率楕円体は対称性$$ \infty /mmm$$である.残りの結晶に対しては,誘電率楕円体は,対称性 $$mmm$$の3軸性である.これは,楕円体(図220)をprincipal axes主軸$$X_{1}', X_{2}', X_{3}'$$に参照することにより理解出来る:群$$mmm$$ のすべての変換は,テンソル行列$$(\varepsilon '_{11}, \varepsilon '_{22}, \varepsilon '_{33})$$を保存する.さらに低い対称性の結晶系では,結晶物理主軸$$X_{1}, X_{2}, X_{3}$$ に対する楕円体の方位を標示するために,パラメータが(これらの3つ以上に)増える.

   均一なテンソル場の対称群の中で,極限キューリーCurie群(図74)に加えて,反対称と色付対称群のlimiting orthogonal極限直交群に出会う.
   7つの中性と7つの2-色のlimiting antisymmetry極限反対称群が,拡大の理論により得られる:
$$ \infty 1', \infty 221', \infty mm1', \infty /m1', \infty /mmm1', \infty \infty 1', \infty \infty m1',$$
$$ \infty /m', \infty 2'2', \infty m'm', \infty /m'mm, \infty /mm'm', \infty /m'm'm', \infty \infty m' $$
これらの群の具体化としての物質図形は,キュリーCurie群に対するそれらと同じ形を持つ.中性群では,図形の全ての点は中性,2-色群では,2色である(2色は,各点ごとに,混合されたり塗り分けられたりする).反対称の磁気的解釈では,電気,磁気,Poyntingポインティングベクトルは,それぞれ,磁気対称の極限群$$ \infty mm1', \infty /mm'm', \infty /m'mm$$を持つ(図221).反対称の極限群の導出では,読者はShubunikov(1958,1959),Sirotin(1962),Koptsik(1966)による扱いを参照するとよい. 
   この系列に,無限個の色付極限群(colored limiting groups)が存在し:
$$ \infty 1^{(p)}, \infty 221^{(p)}, \infty mm1^{(p)}, \infty /m1^{(p)}, \infty /mmm1^{(p)},$$
$$ \infty \infty 1^{(p)}, \infty \infty m1^{(p)}; $$
$$ \infty ^{( \infty )}, \infty ^{( \infty )}m^{(2)}m^{(2)}, \infty ^{( \infty )}/m, \infty ^{( \infty )}/mm^{(2)}m^{(2)},$$
$$ \infty ^{( \infty )}2^{(2)}2^{(2)}, \infty ^{( \infty )}/m^{(2)}, \infty ^{( \infty )}/m^{(2)}m^{(2)}m^{(2)} $$
$$ \infty ^{( \infty )} \infty ^{( \infty )}, \infty ^{( \infty )} \infty ^{( \infty )}m^{(2)} $$
色付群の具体化となる典型的な図形は,Curieキューリー図形の周りに色調が連続的に変化(虹のように)する色紙を接着すると得られる. 
例えば,単色光線がコーンの頂点からその底面へ通過すると,色は,コーンの回転にともない,自然のスペクトル順に変化する.コーンが回転するなら, 
群の系列$$ \infty ^{( \infty )}(1), \infty ^{( \infty )}(2), \ldots , \infty ^{( \infty )}(n)$$,静止しているコーンには,系列$$ \infty ^{( \infty )}m^{(2)}m^{(2)}(1), \infty ^{( \infty )}m^{(2)}m^{(2)}(2), \ldots , \infty ^{( \infty )}m^{(2)}m^{(2)}(n)$$ を得る
[ここで,(1),(2),(n)は,古典的軸性部分群である;色付コーンの群が,部分群$$n$$を含むなら,1回転で色サイクルは$$n$$回繰り返すことを意味する].
底をシリンダーとし,その周りに色サイクルを一回貼りつけ,群$$ \infty ^{( \infty )}/mm^{(2)}(1)$$ (静止したシリンダー),$$ \infty ^{( \infty )}/m(1)$$ (回転シリンダー)を得る.
色が連続的に,シリンダーを1周(円周に沿い)するのみでなく,すべての生成元に沿い変化するなら,対称性$$ \infty ^{( \infty )}/m^{(2)}m^{(2)}m^{(2)}(1)$$(静止時),$$ \infty ^{( \infty )}/m^{(2)}(1)$$(回転シリンダー),$$ \infty ^{( \infty )}2^{(2)}2^{(2)}(1)$$(ねじれシリンダー)の2回の色シリンダーを得る.
これらの全てで,部分群$$1$$を$$n$$で置き換えると,オリジナルのものから群の無限系列が導びける.色シリンダーの群は,古典的部分群$$nmm,n22$$, あるいは,何らかの性質を保存する部分群の系列に形式化できる.
色極限群の最後の2つは,全点が$$ \infty $$-色で,かつ,中性でない球で具体化される:各点の色は,セクターに沿って分布するか,あるいは,混合されずに層をなして互いに重畳され,同様に群$$ \infty ^{( \infty )}$$ と$$ \infty ^{( \infty )}m^{(2)}m^{(2)}$$ ではコーンのチップに分布する.群$$ \infty ^{( \infty )} \infty ^{( \infty )}$$ では,球の直径は群 $$ \infty ^{( \infty )}2^{(2)}2^{(2)}$$でのように捩れている.一方,群$$ \infty ^{( \infty )} \infty ^{( \infty )}m^{(2)}$$では,捩れがない.極限群の別の解釈では,初期に見たすべての図形でのように,1つの固定色は,一般点のすべてに帰属せしめられる.捩れたシリンダーの対称性は,もっと完全には2回色反対称群により記述される.
$$\displaystyle \frac{ \infty ^{( \infty ) } }{m'^{ \ast } }\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m'^{ \ast } }\displaystyle \frac{2^{(2) } }{m'^{ \ast } }$$
ここで*星印はシリンダー底部の周囲の順序で,色の順序を変え,′ダッシュは捩れの方向を変える.
   さらに,中性群では,色同一部分群$$1^{( \infty )}$$は冪によって異なることに注意する.具体化に加え,言及したように,古典的なCurieキューリ群,反対称の極限群,Waerden-Burckhardt群,Wittke-Garrido群,およびこれらの許容される積(p.248,256参照)により記述される色図形がある.すべての有限色付き群(結晶学的および非結晶学的の位数の)は,これらの極限群(本書で初めて掲載した)の部分群である.完全構造対象の物理で,極限色付き群は通常の極限直交群よりも役割が低いわけではない.

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12. 科学と芸術における対称性
保存則.物理系の対称化と非対称化.複合系に対する対称原理.
-完全系構築の法則,構造の法則を研究する手段としての対称性-

   本書を通しここまでに,実に多種多様な物質的形態-有限あるいは無限のもの,空間に周期のあるもの,あるいは連続なもの-の対称性を学習し来たった.幾何学的対象物の構造が複雑になっても,対称変換の基本的要請-図形は変形なしに自分自身上に変換される-は,常に守られていた.直交変換(回転,鏡映)と並進は,図形の計量特性を保存するので,直交群と運動群に注目した.この基本的な要請ー無変形ーは,古典群から反対称や色付対称群へ移行した前章においても,古典群から新しい群への同型写像で,色付空間の構築をしたために破られることはなかった.
   色付対称群への移行は,科学研究と芸術創造における対称性理論の概念と手法の適用可能性を著しく拡大する.考察対象物の計量特性が,変形の過程で保存されるという拘束要請を緩和すると,これらの可能性はさらに増加する.このような要請緩和により,例えば,アフィン,射影,トポロジー的な変形で,保存される図形の特性を,学ぶことが出来るようになる.言い換えれば,相当する変形で変わらない不変量の命題の集合(公理,定理,これらより導出される結果)として,アフィン,射影,トポロジー幾何を構築できる.
   考察中の幾何学空間のすべての点に,色特性量を付与,あるいは,そこでのスカラー,ベクトル,テンソル量の値を定義するなら,このようにして得られた物質空間(あるいは,スカラー,ベクトル,テンソル場)に対する一般化された結合変換の群が定義できる.これらの群を,物質的対象物の対称群と見なすのは自然である.例を一般化し,自分自身の上への写像=自己同型変換の作る最も対称性の高い群を,任意の完全系をなす構造的対象物―相対的に等価な要素で構成されている―の対称群と呼ぶ.このようにして,構造的対象物の構成の法則として,あるいは,もっと正確に,考察中の系の構造的完全さが保存される1:1変換の群として対称性を定義する.
   自然界には構造のない対象物はない.対称性の概念は,相対的に等価な,相互に結合している要素で構成される系に適用される.幾何学的な完全系の等価な要素は,定義された関係で互いに結合している点であったり,直線,平面,表面,図形であったりする.物質的対象物における等価な完全系の要素であるのは,素粒子や反粒子,-電子,陽子,中性子,等々-;位相特性のみが要素相互に異なるこれらの《色》変調;等価な原子,イオン,分子,等々;物理場の力線,等々である.これらの要素は,定義された規則で互いに結合した完全系をなす複合体(系)を形作る.そして,これら複合体はさらに複雑な物質系を構成する要素となる.
   系の不変な様相として現れる対称性カテゴリーの十分な一般化,全体を等価(何らかの関係で)な部分へ分割する原理的な可能性は,現代の自然科学および芸術における対称性概念に対する,かくも広汎な価値を有する.ここでは,物質的対象物のみならず実世界の構造を反映している概念や理論の系の対称性にも言及する.これについては,(Вейль; Weyl) ワイルの著書《シンメトリー》の序文によく記されている:「対称性は,外部とは結び付いていない物体,現象,理論:地磁気,女性のベール,偏光,自然淘汰,群論,不変性と変換,みつばちの巣箱での労働習性,空間の構成,飾瓶の絵柄,量子物理,スカラベコガネムシ,花弁,X線回折図形,ウニの細胞分裂,結晶の平衡外形[訳注:理想形のこと],ロマネスク寺院,雪片,音楽,相対論:の間の面白くも驚嘆すべき類縁関係を確立する」(Нъюмен; Newman, ノイマン,1956).
   対称性概念(つりあいの意)は,古代ギリシャの哲学者,数学者から,彼らの宇宙の調和研究と結び付き発した。調和のカノン(時代とともにその概念は変化した)に従い,古代彫刻家,画家,建築家達は,傑作を創造した.それにもかかわらず,対称性についての学問が,現代科学の形式を備えたのは,群の概念の出現(Галуа; Galois, ガロワ,1832)以降のことである。20世紀の初頭には,結晶の対称性の理論が,対象変換の古典群の形式をとり,最も精緻な発展をとげた(フェドロフ,シェンフリーズ,Федоров,Шенфлис; Fedorov,Schonflies, 1891).結晶学と結晶物理学の発展後に,群論的手法は,物理学全体や他の自然科学に適用されるに至った.対称性の手法は,現代科学の理論的研究の強力で効果的な道具となった.
   対称性手法の応用例として,結晶物理の例をとり,考察しよう.この選択は,対応する群をすでに知っていることと,フェドロフの言葉を借りれば,結晶は,原子分子レベルの物質の構造構成の多種多様性を現し《自己の対称性を閃かせる》ことによる.
結晶について成り立つ内容は,(適当な変形をすれば)対称的な内部構造を有する他の対象物にも拡張することができる.
   結晶の対称性を示す点群または空間群が実験的に決定されたら,そこで可能な物理特性の最小の対称性も決定されたと言える.特に,周知のように,点群 は結晶多面体の理想形(多面体のすべての面に結晶化物質の供給が等しく行われる条件下で,わずかに過飽和の溶液から成長した結晶はこの形)の対称性を記述できる.
   全く同様に,空間群$$Ф_{k}$$は,結晶の内部構造:単位胞中の原子の同価な系の相互配置:を記述する(p.177,192参照).
   結晶学や結晶化学での対称性は,形態的・構造的な分類記述,発生的系統や適当な特徴基準による結晶の分類統合のための基礎を与える.全く同様に物理学では,素粒子,原子分子のスペクトル,基準振動,等々の分類;これらの対称性分類は,対応する構造要素上で許容される何らかの変換群に基づいている.分類の課題は,どの科学分野でも最初の課題であり,構造不変性を見出すことのできる対称性理論は,不可欠な手法である.
   しかし,これが最も重要な側面と言う訳ではない.結晶物理でもっと重要なのは,結晶の対称要素に対し,座標系を一意に関連付けることであり,これにより,一般には測定の方向に依存する物理特性(非スカラー特性)の記述の一意性が確保される.規約(表20,p.176参照)に従い軸を選べば,方位;
$$ r=x_{1}a_{1}+x_{2}a_{2}+x_{3}a_{3} $$ または  $$ [x_{1}:x_{2}:x_{3}]=[p:q:r] $$
に沿って,結晶はこれこれの物理特性を示すと明確に特定できる.種々な結晶面(例えば,劈開面,熱膨張楕円体ellipsoid面,光学屈折率楕円体indicatrix面,等々)も,
$$ hx_{1}+kx_{2}+lx_{3}=1 $$   または  $$ (h k l) $$
により,同様に,明確に特定できる.結晶学のハンドブックには,平面の結晶学的座標$$ (h k l) $$ は,この平面の座標軸に対する切片の逆数となることが示されている.
   このようにして,同一物質の結晶の物理特性の測定は,標準様式で選定した同一の座標のときに比較できる.この要請を満たさない測定は結晶物理学的な価値がない.
   結晶の対称群$$ G_{k} $$ を知れば,(特定な方位に沿っての)物理特性の測定範囲を,対称的に独立な立体角内「訳注:非対称要素」に限定できる.測定方位の選択は,対称図形を,対称的に独立なあるいは対称的に同価な領域に分割する数は,対称群の位数に等しいという理論に基づきなされる.例えば,立方体,六角形プリズムでは,そのような領域は,それぞれ1/48,1/24である(図218).結晶の特性が,対称的に独立な球面三角形の立体角内で測定されれば,この角外の方向での測定は必要がない.これは,異方性(すなわち測定の方向で物理特性が異なる)の記述のために必要な測定の数を,大いに減じる.しかし,まだこれで全てではない.
   結晶の対称群(物理量の対称群に密接に結び付いている)は,各特性を規定する独立な定数の数を決定できる.言いかえれば,結晶の注目した特性を完全に規定するために必要となる(異なる方向の)いくつの測定が必要かを,述べることが出来る.測定の数は,考察中の特性の性質と対応する物理量の変換を支配する法則に依存する.

 

結晶群の一般化(2)

空間群の発見
群拡大理論による基礎づけ
空間群の一般化
群の拡大理論に基づく空間群の記述
A.V.シュブニコフ,V.A.コプツィク(1940~1970)らが,結晶群の構成を群拡大理論に基づき記述しました.これは,あたかも電磁気学におけるマックスウェル方程式のような価値があり,群の一般化への道を開いたと言えます.

回転群を拡大して結晶点群を作る.
並進群を拡大して結晶空間群を作る.
結晶空間群を拡大して,シュブニコフ(黒白)群やベーロフ(多色)群を作る.
[定義]
$${H}$$が群$${G}$$の部分群[正規部分群に限定しない]のとき,群$${G}$$のことを群$${H}$$の拡大という.

Lagrangeの定理から,次の展開(直和分解)が保証される: 
$${G=Hg_{1} \cup Hg_{2} \cup \cdots \cup Hg_{s } }$$
部分群$${H}$$の位数は,群$${G}$$の位数の約数であるから,この約数を,部分群の指数$${s}$$という.
部分群$${H}$$の$${G}$$に対する指数$${s}$$(整数)を$${s=\left( G:H \right) }$$と標記する.

{$${ e=h_{1}=g_{1}, g_{2}, \cdots g_{s} }$$}を,群$${H}$$から群$${G}$$を作るための代表系という.

拡大には,正規拡大と非正規拡大がある:

正規拡大   ($${H \vartriangleleft G}$$の場合)
非正規拡大  ($${H \subset G}$$の場合)
非正規の拡大は,この第2回では扱わない.第3回で少しだけ言及する.
Hは正規部分群,→準同型写像,↔同型写像
$${G \to G/H \leftrightarrow G^{*}\textrm{or }G(\textrm{mod}H)}$$

$${H}$$が正規部分群($${H \vartriangleleft G}$$)であるなら
$${Hg_{j} =g_{j}H}$$なので,次の剰余類の積則が成立します:
$${Hg_{j} \cdot Hg_{l}=Hg_{j}g_{l}=Hg_{n } }$$,
すなわち,$${^{ \exists }g_{n } }$$があり,$${g_{j}g_{l} \in Hg_{n } }$$,あるいは,$${^{ \exists }h_{jl,n} \in H}$$をとり,$${g_{j}g_{l}=h_{jl,n}g_{n } }$$になります.
特に,すべての$${h_{jl,n}=h_{1}=e}$$のときは,$${g_{j}g_{l}=g_{n } }$$(代表元の1つ)となり,代表元系は群をつくり,この群を$${G^{* } }$$と標記します.[正規部分群$${H}$$を$${G^{* } }$$で拡大し,共型群が得られる]

一般には,$${h_{jl,n} \neq h_{1}=e}$$であり,
代表元系{$${ g_{1}, g_{2}, \cdots , g_{s} }$$}は,群として閉じません.
そこで,代表元系を閉じさせるために,次の積則を定義するのは自然です.
$${g_{j} \cdot g_{l}=h_{jl,n} \cdot g_{n} \equiv g_{n}(\textrm{mod}h_{jl,n})}$$
代表元系は,この積則(誘導積)に関して,商群$${G/H}$$と同型な群を作ります.代表元系の作るこのような群を$${G(\textrm{mod}H)}$$あるいは,$${G^{H } }$$と標記します.[正規部分群$${H}$$を$${G^{H } }$$で拡大し,非共型群が得られる]

$${G \vartriangleright H}$$ , $${G/H \cong G^{*} \cong G^{H } }$$のとき,$${H}$$の拡大による群$${G}$$の作り方

共型空間群  $${G=H \otimes G^{* } }$$   直積あるいは半直積
非共型空間群 $${G=H \odot G^{H } }$$    条件積
直積で記述できる場合は,$${H, G^{* } }$$ともに$${G}$$の正規部分群であり,$${G/H \cong G^{*},  G/G^{*} \cong H}$$が成り立つ場合であり,半直積で記述されるのは,片方のみが正規部分群,例えば$${H\vartriangleleft G}$$であり,$${G/H \cong G^{* } }$$のみが成り立つ場合である.
条件積が必要になる場合は,一方が法による群(モジュラス群)である場合である.

example:結晶空間群
結晶空間群 $${Φ}$$ には,並進群 $${T}$$ が正規部分群として含まれている($${Φ \vartriangleright T}$$).従って,商群 $${Φ/T}$$ が定義できる($${Φ/T \cong G}$$).
これは,空間群 $${Φ}$$ は並進群 $${T}$$ を核とする準同型写像(並進で移動した点はすべて同値)で,結晶点群 $${G}$$ に還元されるという意味である.
群 $${G}$$ は,結晶点群の場合もあるし,並進を法に持つ結晶点群$${G(\textrm{mod}T)}$$ の場合もある.

example:結晶回転群4, 6を,直積や条件積に分解する
$${4=2 \odot 4(\textrm{mod}2)}$$,    $${6=3 \otimes 2}$$

example:並進群を結晶点群で拡大

直方格子を,結晶点群2mmで拡大する 
P2mm 共型空間群,P2mg, P2gg 非共型空間群