数学月間の会SGKのURLは,https://sgk2005.org/
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今日はモアレの実験を行います.
まず,網目パターンを用意します.今回は,面心斜方格子[長方形格子の中心にも格子点のある複格子(2格子点胞)]を使います.この格子は,単純格子(1格子点胞)で解釈すれば,菱形格子に還元できます.この関係は下図を見るとわかるでしょう.
上図では,格子点に正3角形を配しました.配置した正3角形の対称要素と格子の対称要素を比較すると,共通な対称要素としては垂直方向の鏡映面しかありません.従って,パターン全体としての対称性は,垂直方向の鏡映対称を持つだけです.格子自体にあった高い対称性も,正3角形自体にあった高い対称性も互いに打ち消し合って残りませんでした.これを対称性の重ね合わせ原理と言います.
このようなパターンを基礎にして作った網目模様を以下に示します.
この網目網を互いに2θ(小さい角度)で重畳したときに,生じる2次的網目パターン(モアレと呼ぶ)を調べましょう.
(1)重畳角2θ(小)のとき (2)重畳角2θ(大)のとき
(3)重畳角180のとき (4)重畳角180°+2θ(小)のとき
(5)
結論:いずれの場合も2次的なモアレ像に生じる格子のタイプは,初めの(1次の)格子のタイプと同じであることがわかる.しかし,2次的に生じるモアレ像中に正3角形の対称性がどのように反映されるかの鮮明な結果は得られなかった.
2つの同一な網目パターンを種々の回転角度で重ねたときの干渉で,何が起こるか考察しよう.例として,面心の長方形(面心斜方格子)の頂点に円環を配した網目パターンの系(図110d)をとり上げる.
Fig.159
Fig.160
図159と160を見ると,角度2θが小さいうちは,二次的図形は(素図形の数が不十分なために)一次図形の拡大図となることがわかる.角度2θが大きくなるにつれて,拡大の度合いは小さくなる.面心斜方ネットの対称性を保ったまま,パターンは非常に大きく形を変え始める.図示された一連のパターンは,例えば壁紙や織物に適したパターンの豊富な品揃えが,互いに相対的に異なる角度にある2つの同一の周期構造の単純な機械的重ね合わせによって得られる可能性があることを示している.この可能性を考えると,一連の疑問が湧く.例えば,同一の周期構造の負あるいは正の重畳によってどんな効果が得られるだろうか.実験を上記に記述したパターンで行うと,二次的に生じた6角形の各中心に暗い丸点が形成されることが判明した(図161).
図161
特に興味深いのは,異なる図形を重畳したときの,対称性の相互作用に関する問題である.一般的な重畳と同一対称類の等価系の重畳,右手と左手系パターンあるいは異なる色に塗られた図形の相互作用などである(図162).
これらの疑問は,ほとんど研究されたことがないが,我々は複合系の対称性原理を使い,これらを調査してみよう.この原理は12章で紹介する.
無限のパターンの重畳の結果として得られる二次的形の多様性にもかかわらず,等式$$λ=2dsinθ$$は変わらずに残る.そこでは,同じネットが2つの
のパターンが選択され,かつ,角度$$2θ$$があまり大きくない場合には
図163(正の左手系パターンを負の右手系パターンの上に重畳)では,第二次パターンが一時のパターンの基底である正方格子を再現しているのがはっきりわかる.後者は黒が正,白が負の小さい3角形の行からなる.
網目の拡大率(すなわち$$d/λ$$の比)と角度$$2θ$$は互いに密接に相関している図から決定され,この式が問題のケースに適用可能であることを示している.
結論として,周期の異なる2つの縞模様の平行重ね合わせを考えてみよう(図164).
このケースは,音響学,光学,無線技術,その他の波動物理の分野で出会うビート現象幾何学的な描像を提供するので興味深い.
この現象は,同じ方向に移動する波長がわずかに異なる2つの平面波があるとき,二次的に長い波長の波が生じる現象で,音響学的には周期的な音の強弱(ビート)として観測される.
ビートは近似的に調整された2つの音叉を同時に鳴らすことで簡単に作れる.
実際には,2つの同じピッチの音叉の一方だけに,ワックスを貼り付けてチューニングをずらす.
平行な2つのシステムの重畳で生じるビートは,図164に示すように,第1のシステムの2本の連続した縞の間の距離は,$$λ_{1} = 1.91$$ mm;第2のシステムでは,この距離は$$λ_{2}=1.60$$mmである.
これらの2つの量は、一次干渉の波長と呼ばれることがある.
距離$$L=9.86$$mmは,密な隣接距離で,二次的な波長あるいはビート波の波長と同じである.
これらの量の関係をより詳細に検討すると次の式が得られ,既知の$$λ_{1}$$,$$λ_{2}$$から,二次波の波長Lを計算することができる:$$L=\displaystyle \frac{\lambda _{1}\lambda _{2 } }{\lambda _{1}-\lambda _{2 } }$$
技術的な応用●ブラッグの法則 ●干渉
10cm×10cm程度の薄い布(ナイロン,カプロン,絹)を2枚重ねて,繊維が小さな角度(5°-10°)で交差するようにする.これを2枚のガラス板の間に挟み透過光で全体を観察すると,モアレパターンと呼ばれる自然界で広く見られる現象(科学技術で頻繁に利用される)が観察できる(図151).モアレパターンの対称性乱れは,干渉を起こすネットの不完全性に起因するものである.もし,これらが完全に規則的なネットならば,不規則なモアレではなく規則的な二次パターンが現れる.この現象は,写真印刷などで,ガラス板の上に細かい黒格子が描かれたスクリーンを通して写真を撮影するハーフトーン印刷で見られる.
Fig.151
しかし,「スクリーン効果」は必ずしも作品の邪魔をするものではなく,布地や壁紙などで優れたパターンを作るために使われることもある.
■2 つの無限平面パターンを重ね合わせたときに,どのようにして二次的なパターンが発生するのかを理解するために,最も単純な例として2 つの同一な平行縞を重ね合わせた場合の例を見よう.図152に示すように,2つの1次元縞の相互作用(干渉)の結果,一次の縞(元の縞)の繰り返し周期よりも大きな繰り返し周期の二次的な幅広の縞が生成される.実際には,これらの二次的な幅広縞は,一次の縞によって形成されたジグザグに過ぎない.一次の縞の間隔を,目で解像できない程度(0.1mm以下)まで小さくすることで,二次的な縞だけが見える画像が得られるが,これは一次の縞の一つを拡大したものになる.
一次縞周期(一本の縞の幅+縞間の間隔)を$$λ$$,二次縞周期 を$$d$$,一次縞系が交差する角度$$2θ$$ とすると,簡単な計算で,$$λ=2dsinθ$$ が得られる.
すなわち,一次縞周期は,二次縞周期の2倍に一次縞間の交差角度の半分の$$sin$$を乗じた値に等しい.
Fig.152
結果として得られる式は,よく知られているブラッグの法則と全く同じになる.ブラッグの法則中の量λはX線の波長であり,$$d$$はX線を反射する結晶の原子網面の間隔,$$θ$$は入射X線と反射面の間の角度である.
このアナロジーで,結晶構造の幾何学のX線による研究を,モアレ現象に還元することができる. [例えば,Bollmannの本(1970)を参照]
■今度は,平行縞の2つの系を2つの同一正方形の網にしよう.交差角2θが十分小さな角度なら,2次的に生じる像は,最初の網を単純に拡大した,少しぼやけた像になる(図153).
図153
一次の系の網目4角形の辺は,以下のように計算できます.
一次ネットと回転した一次ネットを重ねて生じる二次のネット網目の寸法に関しては,既に述べた1次元での関係がやはり成立します.
上記の2つのケースの図柄の重ね合わせで,角度$$±2θ$$の小さな角度で重ね合わせても,$$180°±2θ$$で重ね合わせても違いがなかったのは,図柄に2回回転対称性があるためである.
2回回転対称のない図形,例えば,3角形の系(図154)を重ね合わせるとすると,この二つの回転角度の効果にはかなりの差がでる.
小さな回転角$$2θ$$では,二次的な絵柄(図155)は楕円の系のようなものであるのに対し,回転角$$180±2θ$$では,二次的な絵柄(図156)は三角形で構成されて,一次的(元の)な絵柄の拡大と考えてもよい.
図154
図155
図156
図157
図158
詳細に検討してみると,角度$$2θ$$が十分に小さく,一次パターンが周期的に繰り返される小さな素図形をかなりの数持っている場合には,$$180°±2θ$$の角度で2つの同一のパターンを重ね合わせると,無限の対称平面パターンが拡大された形で得られることがわかる.
実際には,これらの条件を満たすことは非常に困難なことが多いので,この実験は最も単純な種類の素図形でしか合理的な成功はしません(図157と158).
人間は様々な用途で無限に繰り返す平面パターンを使います:壁紙,寄せ木細工,タイルの床,瓦屋根,陶器や装飾石の壁,レンガや敷石,道路や広場の舗装,色織物,カーペットや編物,同一物の密な充填,金属やプラスチック板から標準物を大量に打ち抜く,その他の多くの分野で利用されます.
自然界の網目パターンは,魚の鱗,生体組織の細胞,ハチの巣,マツカサの鱗片,などの配列で見られます.特に興味深いのは,結晶中の,原子・イオン・分子が配列した網平面です.もちろん,これらを直接見ることはできませんが,X線や電子線の回折や,走査型顕微鏡を用いて観測できます.
網目パターンから受ける印象を分析すると,芸術家が特定の視覚効果を伝えるために,特定の対称性クラスを意識的に選択する法則を確立できるかも知れません.
例えば,斜交する並進軸を持ち,対称面を持たないパターン(図112)は,斜め方向の動きを強調したい場合に適しています.
階段,ロビー,エスカレーター,地下鉄の傾斜トンネル,アーチ橋のフェンスなどの壁を飾る際に,芸術家はこの問題に遭遇します.
図117 図121 図123
水方向の並進軸はあるが,垂直方向の対称面を持たないパターン(図115,117参照)は,特定方向として水平面に沿った動きを強調しているので,地下鉄や回廊の水平通路の装飾に用いると成功します.対称面があると,それらに垂直な方向への運動を止めます.例えば,図121,123などのパターンは,水平方向には静止しているように見えます.図121では,2回軸が存在することで,上下方向への運動の概念が生まれますが,図123では,それらの回転軸が存在しないので,上方向,あるいは一般的に,垂直な一方向の運動の印象を与えています.
図121は,回廊の水平な床や天井の装飾にふさわしく,図123は, 地下鉄の昇降路の床や天井の装飾に適しています.
図128 図130 図137 図147
水平や垂直の対称面のシステム(図128,130,137,147)がいくつか存在することで,静止休息,記念碑性,不動性,重力などの印象を醸し出します.興味深いことですが,(b:a):2・m型の対称パターン(図128 と 130)は,長い間,壁紙に使用されてきました.そして,図137や147に示すようなさらに対称的なパターンは,寄せ木,天井,ステンドグラス窓などには使われました.
奇妙な静止のない印象は,主要部分に映進面がある対称パターン(図116と120)で生み出されます.言葉でうまく表現できないのですが,これらのパターンの中の図形が,押し合い,転がり,絡み合い,群がって動きがあります.
図116 図120
このタイプの対称性は,他の対称性よりも出会う頻度は少ないのですが,それは,他のものよりも構成や認識が困難であるためで,例えば,見本市会場や遊歩道などのデザインに利用されることがあります.
図132 図139 図145
特に興味を惹くのは,対称面がなく,3,4,6回回転対称軸で特徴づけられるパターン(図132,139,145)です.このようなパターンは,そのダイナミックさから,ダンスホールなどの大勢の人が無秩序に動くことを想定した施設の床や天井に適しています.図116のようなパターンと合わせて,文化公園の広場やサーカスのテントのアリーナ,フローティング・パネルなどの装飾に使用されています.全体として静止休息の奇妙な印象と細部に見られる動きは,普通の対称面と映進面が交互に繰り返すパターンのせいで生じています(図12,135,142).静止休息と運動の印象のどちらが支配的になるかは,フレーム・ワーク(垂直,水平線に)に対するパターンの方位に大きく依存します.
図135 図142
例えば,図12はこの本に掲載している向きでは,動きの印象が静止に打ち勝ってしまう.特別な注意を払わずにパターンを見ると,対称面を見落とすのです.
一方,図12と同じ対称性を持つ図135は,動きよりも静止の印象が打ち勝ってしまう.それは,本を普通に置いたときに,パターンの対称面は垂直・水平線に沿ったフレームに平行であるからです.
観客が網目パターンを見たとき生じる印象に対称性が演じる役割について詳しく述べてきました.明らかに,対称性が美的鑑賞の唯一の要因ではありませんが,パターン構築の基礎となる法則を明らかにすると,装飾美術で対称性の果たす役割は,デッサンで遠近法が果たす役割と同じです.
■最後に,私が気に入っている映進面のある軽快な歩道タイル張りの写真を掲載します.美しい幾何学(技術評論社)p.93より
17種類の平面群の対称要素のマップとパターンを一覧にまとめます.
■17種類の平面群の対称要素のマップ
■17種類の平面群の非対称モチーフのパターン