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数当てカードの数理

4月25日,10:30から,Zoomを用いてリモートでの同志社中学校のDo★MATH博物館の見学がありました.10分間ほどの休憩をはさんで1時間ほど園田先生が出演され,見学会と,一太刀切りでハートや星形を作ったり,誕生日を当てる数あてカードを楽しみました.今年は,「数学月間」のイベント(毎年7月22日に実施し今年は第16回)もリモートで実施することになりそうです.

誕生日(1~31の数)を当てるには,4x4の数字が書かれた5種類のカードを見て,自分の誕生日が書かれているカードを選び出します.そして,それらのカードの左上の数を足し合わせると誕生日が当たるのです.
なかなか不思議ですね.この原理を今日は解説します.

■これからの説明は,誕生日を当てるゲームの変種で,15までの数を当てるゲームについて語りましょう.ゲームの実施方法も,数字が書かれてあるカードを選ぶのではなく,数字が書かれたカードの上にマスクをかぶせて当てようとしている数が見えているかどうか訊ねる方法になります.この両方のゲームとも同じ原理(2進数表記)を利用しています.

4x4の16個のマスに0~15の数字が書かれたカードがあります.このカードの上に孔のあいたマスクカードを重ね「あなたの思った数が見えますか」と尋ねる.これをマスクカードを変えて4回行えば,相手が心の中で思っていた数が当てられるというのが,この数当てのゲームです.

どのような仕組みがあるのでしょうか.秋山久義さんが,2019年7月のパズル懇話会で発表されています.今日は,秋山久義さんの発表「数当てカードの諸相」から引用して,その仕組みを解説します.

まず,16個の数の配列は,ランダムに配置したふりをしていますが隠れた規則があります.
例えば次の2つの方法があります.
(1)左右対称の位置にある2つの数字の和は常に15になる.
(2)回転対称(2回対称あるいは点対称)の位置にある2つの数字の和は常に15になる.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このために右半分(あるいは左半分)を知れば,全部の数の配置がわかります.つまり,相手の意中の数がマスクに隠されて見えない場合は,その数との和が15となる数の方が見えているのです.

さて,0~15の数を2進数で表すと次の表のようになります.下図をご覧ください.a,b,c,dはそれぞれ2^3,2^2,2^1,2^0の桁に相当します.

2進数表示で3桁目を表すマスクカードがa,2桁目を表すマスクカードがb,というように4枚のマスクカードができます.
それぞれの数の上に乗る4種類のマスクカードで,2進数表示の1のところに孔を開ける(逆に統一してもかまわないが)ことにします.
例えば,13に場合は,aとbとdのマスクカードに孔(網掛け部分)をあけ,cのマスクカードには孔はあけません.

以上で,仕掛けの準備ができました.

これで,質問を開始して,数字が見えるといったマスクカードはそのまま横に置き積み重ねていきます.
見えないといったマスクカードは
(1)の場合には裏返して重ね/(2)の場合は180°回転して重ねるのです.

結局,4枚のマスクカードを重ねたものは,
相手の心の中で思っている数字の位置に孔があいた状態になっているはずです.

 

格子が作る干渉模様(モワレ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ正3角形(正6角形)格子[あるいは,正3角形2つよりなる平行4辺形格子とみてもよい]のパンチングメタルを2枚重ね合わせました.
この図の状態は,2枚の格子どうしのなす角度が2θ=30°になった場合です.初めの正3角形(正6角形)の格子より大きな新しい周期の格子が出現しているのがわかりますか.

 

 

 

 

 

■正方形格子(網目)を2枚重ねた場合を考察してみましょう.
(Coincidence-site-lattice)

 

 

両方の網目が重なった位置に,新しい網目の格子が見えて美しい.

2枚の正方形の格子(正方格子という)どうしの傾きを変えると,ときどきこのような新しい格子が現れます.もとの格子の互いに直角な2つの並進ベクトルをa,bとすると(正方格子ならa=b),
もとの格子は,格子点 na+mb,(n,mは任意の整数)の集合です.
同じ正方格子を2枚傾けて重ねて,新しい周期の2つの並進ベクトル x, yが生じています.これらの図の状態は,

(上図)x=2a+b,y=a+2b .(下図)x=3a+b,y=a+3b(面心格子,2格子点胞)

  

 

 

この基底変換を行列で書き,行列式を求めると3(左図),8(右図)ですので,新しくできた格子はもとの格子と比べて面積で3倍(左図),8倍(右図)粗くなっていることがわかります.

 

 

 

 

 

 

 

格子というのは,並進ベクトルの作る群=並進群の”図的表現”です.2枚の格子の干渉で生じた新しい格子の周期は,もとの格子の粗いサンプリングになっているわけで,新しい格子は,もとの格子の部分群になります.

格子が重なって,拡大された(粗い)格子が見える現象は,干渉(ビート)と同じことです.
実際に,2つの原子網面が重なって,このようなビートが見えることは,電子顕微鏡で格子像の観察をするときにもよく起こります.
結晶は周期的な構造をしているので,周期的な空間は「結晶空間」とも呼ばれます.エッシャーの繰り返し模様や,壁紙模様などで,周期的空間の実例をたくさん目にしていると思います.

■2つの正方格子の平行なずれによる干渉(モワレ縞) 

 

 それぞれの正方格子の周期をλ1,λ2とすると,新しい周期Lは
1/L=1/λ1−1/λ2 の関係があります.

私は,子供のころ家にあった織物検査器というもので遊んだことがあります.これは,標準となる格子模様がガラスに刻んであり,織物にこのガラスを重ねると繊維の周期とのビートで縞模様が観察できます.1mmの中に何本繊維があるかとか,織り方が均一でなくどの程度乱れているかが,モアレ縞からわかります.

 

 

次の写真は,工事現場のネットが折り返されて2重になっているために観察されるモアレ縞です. 

 

美しい幾何学ー美しいものには理由がある

昨年9月に表題の本(技術評論社)を出版しました.この本の構成は8つの章からなり,全章を通して万華鏡で繋がっています.1,2章は有限図形の対称性(点群).3,4章は周期的な空間の対称性(平面群).これらの映像は,万華鏡で作り出すことができます.5章は万華鏡.6章は円による反転という数学的な鏡を用いた万華鏡.7章はフラクタル操作という数学的な鏡を用いた万華鏡です.8章は東京ジャーミイで,イスラミック・デザインを鑑賞します.写真撮影にご協力いただいた東京ジャーミイの本屋さんにも本書を置いていただいています.


■この本に,第9章を続けて書くとすれば,イスラミック・デザインになります.イスラムデザインの特徴は,黄金比(すなわち5回対称や10回対称)がちりばめられていることです.しかし,5回対称性と2次元(あるいは3次元)世界の周期性とは両立できませんから,ちりばめられている5回(あるいは10回)対称性はロゼット内部だけに局所的に作用し,世界の全域を支配するものではありません.そのため,あたかも我々の住む3次元に高次元宇宙が投影しているようで不思議な魅力を感じます.イランのDarb-i Imam寺院(1453)の壁には,その500年後にヨーロッパで発見されるPenroseタイリング[自分の中に自分と同じパターンが繰り込まれる]と同様なパターンがすでに見られることをPeter LuとPaul Steinhardtが報告しています.イスラムの繰り返し模様は準結晶や基本領域が分割されて写像される万華鏡と似たところがあります. 

 

MRIについて(核磁気共鳴のイメージング)


 
病院でMRI(核磁気共鳴イメージング)を撮ったことがある方もおられることでしょう.私も3年前にMRIの診断を受けたことがあります.お陰様で現在は絶好調です.このMRIの記事はそのころ書いたものです(記事の中で1.5Tの静磁場と記述しましたが,3年たち3.0Tの装置の普及も多少進んだようです).
MRIの測定中に聞こえる”カタカタ”や”ビー”というほとんど冗談かと思うようなふざけた音は何でしょうか? あれは,1.5T(テスラ)という強い磁場中で装置が動くために,あたかもスピーカーと同じように装置が振動して出す音です.それにしてもなんとかならないものか?振動しないようにガッチリ作るのは,今でも何トンという重量ですから無理なのでしょうが.

さて,画像の分解能を良くすれば,測定時間は増えるわけです.しかし,
分解能を上げて,かつ,測定時間も短縮できる「圧縮センシング」という数学的な方法があり,これに言及するのが後編の主題です.その前に,前編では,まず,MRIの装置の仕組みについてお話しましょう.
■プロトン(水素の原子核)はスピンを持ち,磁石の性質(核磁気)があります.強い静磁場下に置かれたプロトン核磁気は,磁場に沿ってだいたい向きが揃い,歳差運動している状態です.歳差運動の周波数(ラーモア周波数という)は,磁場が強いほど高く,MRI装置の静磁場は1.5T程度と超強力なので,ラーモア周波数は64MHz(ラジオ電波の周波数領域)程度です.
静磁場下のプロトンに,このラーモア周波数の電波が照射されると吸収共鳴が起こり,核磁気の歳差運動の振幅(周波数は変わらない)が増大しほとんど横倒しの状態で回転(古典論的なイメージ)しています.
一方,歳差運動をしているプロトン核磁気からは同じ周波数の電波が放射されるので,これを検出することができます.
■生体組織は,水をはじめ水素原子と結合した分子からなる組織です.
つまり,プロトン(水素の原子核)核磁気は組織の至る所に分布していて,
その水素の属する組織の環境(診断される情報)がそのプロトン核磁気の性質(緩和現象)に反映されています.
すなわち,核磁気の歳差運動の縦緩和,横緩和という現象は,そのプロトン(水素)が含まれる(結合している)組織内の状態で違いが出ます.
緩和というのは,電波の照射を止めると,励起されていた核磁気の歳差運動が定常状態に戻ることで,静磁場方向の核磁気成分の復元緩和を「縦緩和」,静磁場に垂直面内の成分の減衰緩和を「横緩和」といいます.
組織の各点で,これらの緩和定数を測定し,マップに表示できれば,
診断に役立つ組織の特徴を反映したイメージングになります.
■さて,組織画像の位置情報はどのようにして得られるのでしょうか.
これがなければ画像として見ることができません.断層測定をするには,検出器に到来する電波が,1つのスライス平面から来るものだけ集める必要があります.このためには,静磁場の他に傾斜磁場を印加します.
傾斜磁場はさきほどの静磁場とは別で,ペアのコイルによって発生する
(数十mT/m程度の強さ)もので,たとえば,z軸方向の静磁場があり,加えて,z方向に沿って変化する傾斜磁場,x方向に沿って変化する傾斜磁場,y方向に沿って変化する傾斜磁場の3種類があります.
傾斜磁場があると,空間内で磁場の大きさが一定になるのは平面になります.例えば,静磁場方向と同じz方向の傾斜磁場を印加すると,磁場一定の平面はz軸に垂直な平面です.
プロトン核磁気のラーモア周波数は,磁場の強度に比例するので,
共鳴吸収する電波の周波数をスキャンすれば,z軸に垂直な各断層平面に並ぶ核磁気からの電波を順次採取することができます.
次に,各断層面内の(x,y)位置情報はどのように得たらよいでしょうか?
断層内のプロトンの歳差運動を励起した後に,x傾斜磁場,引き続きy傾斜磁場の印加を行うとします.
x傾斜磁場印加でx軸に沿って歳差運動の周波数が変化し,その場所から放射される電波のx座標情報(周波数エンコーディング)が得られます.
xおよびy傾斜磁場の印加でy軸に沿って歳差運動の位相が変化し,
y座標情報(位相エンコーディング)が得られます.
傾斜磁場を印加して,空間の位置情報を得,画像化を可能にしたのは,
Lautergur(1972)の発明で,2003年のノーベル賞を受賞しました.
■緩和時間の測定は,歳差運動の励起後,照射電波を切って行うので,
立ち上がり時間も考慮した電波照射の複雑なパルスシークエンスになり,
256x256画素の測定でもかなりの時間を要します.高分解能画像を得るには,正攻法で行うならさらに細分化した画素数の測定が必要になり膨大な測定時間になるでしょう.
これを解決し,MRIの高分解能かつ高速化を実現したのは,
後編で言及する予定の「圧縮センシング」という数学方法です.

MRIについて(圧縮センシング)

 

 

 

 

 

 

 

 

2017年の数学月間懇話会(第13回)の講演の一つとして,ブラックホールの形を見る(池田思朗)をとりあげました.ブラックホールはなんでも引っ張り込み光も脱出できません.しかし,ブラックホールの穴に荷電粒子が引き込まれるときに電波やX線が放出されるので,ブラックホールの形は,この放出される電波を観測(地球上の6地点の電波望遠鏡を結んで電波干渉計を作り,電波の強度とその位相を観測)して,それらのデータをFourier変換すると形が見えるはずです.しかし,Fourier変換に用いる観測データは,地球が宇宙空間で旅した範囲の観測点で得られるのは圧倒的に限られたデータしかありません.

ブラックホールの穴画像を$$x$$,観測されたデータを$$y$$とすると,$$y=Ax$$
(行列$$A$$や,形式的な逆行列$$A^{-1}$$は線形演算子で,Fourier変換やその逆変換のことです).
行列Aが正則ならば逆行列を両辺に左から乗じて,$$x=A^{-1}y$$と簡単に解くことができるのですが,$$y$$の次元$$N$$は非常に小さく,$$x$$の次元$$M$$は非常に大きい(行列$$A$$は$$N$$x$$M$$行列でランク落ち)ために解けません.多数($$M$$個)の未知数のある$$x$$を解くのに,式の数($$N$$個)が少ないので,不定解になります.もし,解$$x$$にたくさんの0要素(スパース)があるとしランクを下げれば,一意解を持ちます.なぜこのようなスパースな解が合理的なのかは難しいのですが,我々のまわりの画像は統計的にスパースなようです.この方法は,LASSO(Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)といいます.数学的には,$$x$$がスパースであるという条件を,$$Σ|x_{i}|$$が最小という条件にして,最小2乗法$$||y-Ax||^{2}$$ を解き,少ない観測値$$y$$から$$x$$を求めます.このための数学には,ラグランジュの未定乗数法が適用できます.

■圧縮センシング
このような手法は,医学画像(MRIなど)解析で用いられており,高速で高解像度の画像が測定できる圧縮センシングとして役立っています.得られる画像の解像度を上げるには,観測空間でも細かくたくさんのデータを収集し,それらを用いてFourier変換を行うのが正攻法です.これは情報理論でシャノンのサンプリング定理(注)と呼ばれるものであります.

しかし,実際には画像内で急峻な変化がある場所は少なく大体がだらだら変わっています.そのような性質のある実際画像では,観測空間内を細かい分解能で測定するのは時間がかかり過ぎてもったいない.観測空間の少数の点だけのデータで十分なのです(この考え方はjpgなどの画像圧縮と同じ).得られる画像は至る所0(スパース)という仮定は,大胆であるが良い結果をもたらします.

観測空間のサンプリングをナイキスト・レート(注)より細かく行う場合はオーバーサンプリング,ナイキスト・レートより粗い場合はアンダーサンプリングと呼ばれますが,画像がスパースという条件があれば,アンダーサンプリングのデーター集合を用いて解像度の高い原画像が再現できるのです. 解のスパース性を利用するこの手法は,医学画像(MRIなど)の撮影で利用でき,高解像度の画像を短時間で得られるようになりました.
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(注)シャノンのサンプリング定理(1949年)

アナログ信号をあるサンプリング・レートでデジタル化すると,元のアナログ信号に含まれる周波数成分のうち,サンプリング周波数(ナイキスト間隔とも呼ばれます)の1/2の周波数成分までが再現できます.ナイキストは,サンプリング定理を1928年に予想していました(シャノンの証明が広く知られています).

デジタル音源のサンプリング周波数は44.1kHzが使われていますが,この周波数でサンプリングすれば,人間の耳が聞き分ける高音限界といわれる20kHzの音まで十分に再現できるからです.
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