数学月間の会SGKのURLは,https://sgk2005.org/
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式(12)において,$$G_{i}$$, $$G$$ を,(仮想の)孤立状態にある与えられた物体に対して定義される定常状態の対称性群を表すのに使うことにする.また,相互作用のある状態での同じ対象物の群を$$G_{i}'$$,$$G'$$とする.
固定レベルにおいて,異質な部分系$$G_{i}$$の堆積そのもの(これが,交差$$G=\cap G_{i}$$の対称性を決定する;$$G$$は完全で外部作用から孤立)は,それらの相互作用の十分な原因になるが,この相互作用は,別の構造レベルにおいて要素間の新たな同値関係の確立につながらないとすれば,相互作用の無い対象の交叉$$\cap G_{i}$$の対称群は,相互作用のある交叉$$\cap G’_{i}$$の対称群と同じでなければならない.元の状態が対称的であれば,なぜそれが変化しなければならないのか?系の対称化因子(仮説)は登場しないのだろうか?
$$G'= \cap G_{i}'= \cap G_{i}=G$$ (14)
相互作用が,要素間の新しい同値関係に導くなら,(11)に従い相互作用系の対称化に出会う:
$$G'= \cap G_{i}' \cup M' \supseteq \cap G_{i} \cup M=G , M' \neq \phi , M= \phi $$ (15)
関係式(15)は,初期状態(11)の場合にも書くことができ,その場合,$$M \neq \phi $$(対称化因子の集合は空ではない).
式(12)の初期状態$$ \cap G_{i}$$,または,式(11)の$$ \cap G_{i} \cup M$$が,それ自体で,相互作用の十分な基礎となるのであれば,相互作用によって孤立した系が非対称化されることはないだろう.
(12)において非対称化が起こるためには,非対称化因子が含まれていなければならない(新しい群$$G_{i}$$がその役割を果たす).
しかし,これらの因子が,群の初期の交叉により,孤立系に出現することがあらかじめ決まっているのであれば,なぜこれらの因子が交叉$$ \cap G_{i}$$を縮小するのか?系の非対称化のために (11)では,ある種の相互関係の要素を,集合Mから,排除しなければならない.もし,この合併 が対称的であり,相互作用を決定していたのであれば,合併$$ \cap G_{i} \cup M$$, から対称化因子が抜け落ちるのは何故か?
これまでの議論は,$$\textbf{十分な理由の原理}$$*に基づき,$$ \textbf{定常状態の保存則の定式化} $$(以下に示す)を導き出した.相互作用の無い状態の対称性は完全に保存される(14).初期状態の対称性は, (増加することはあっても)減少することはない(15).
この観点から,この議論の根底にある前提条件を満たしていれば,$$\textbf{孤立した系の定常状態での対称性は,相互作用下では増大するのみ}$$である.非対称化が起こるためには,$$\textbf{系の孤立を破壊するような系の拡張が必要である}$$ : 固定された系の外部にある物質的舞台のみが,その定常状態の対称性を減少させることができる.
対称性の保存の法則は,平衡状態の熱動力学や相転移の理論において重要な役割を演じる.次節では,これらの分野におけるいくつかの例について考えてみよう.
我々はすでに等式の対称性に言及し始めている.物理理論の分類が,これらの理論の基礎方程式を不変に保つような自己同型群に基づくことを強調するのは重要である.このような分類への道は,クライン(1872)の「エルランゲン計画」-幾何学から,等長,アフィン,射影の不変部分を分離する-,および,古典電磁気学と特殊相対性理論の方程式が許容する変換の分析に関するローレンツ(1895)とアインシュタイン(1905)の研究によって切り開かれたものである.基本群の変化は,常に理論構造を変える.
したがって,ニュートンの古典力学は,ガリレオ・ニュートン変換,
$$x_{i}^{'}=x_{i}+v_{i}t , x_{i}^{'}=x_{i}+a_{i} , x_{i}^{'}=D_{ik}x_{k} , t'=t+b , D_{ik}D_{kj}=\delta _{ij}$$
($$\delta _{ij}=1$$ for $$i=j$$, $$\delta _{ij}=0$$ for $$i \neq j$$, $$i, j, k=1, 2, 3$$)
の下で不変な命題の集合であり,均一で等方な幾何空間と均一な時間に対して,連続した10のパラメーターの対称群を形成している.
運動法則は、これらの変換によって関連づけられたすべての等価座標系において同一の(共変)形式をとり,これには一定速度$$v_{i}$$で相対運動する慣性系(ガリレオの相対性原理)も含まれる.
特殊相対性理論,(相対論的)量子力学,電磁気学の運動方程式は,ローレンツ変換のもとでは不変であり,最も単純な場合,
$$x'_{i}=\displaystyle \frac{x_{i}-vt}{\sqrt{1-\beta ^{2 } } }, x'_{2}=x_{2}, x'_{3}=x_{3}$$,
$$t'=\displaystyle \frac{t+(v/c^{2})x_{1 } }{\sqrt{1-\beta ^{2 } } }, \beta =\displaystyle \frac{v}{c}$$
これらの方程式は,光速$$c$$よりも小さな速度で$$x_{1}$$軸に沿って移動する相対論的に等価な(慣性)座標系を関係づけている(アインシュタインの相対性原理).
上記理論の不変性は,幾何学的座標と時間からなる4次元空間$$\left\{ x_{1}, x_{2}, x_{3}, x_{4}=ict \right\} $$における均質性と等方性を反映している(虚数単位$$i$$の導入は時間座標を区別し,理論で空間を数学的対象として見ることを強調するものである).ローレンツ変換は,この空間の測度(4次元ベクトルの長さの2乗,$$x_{1}^{2}+x_{2}^{2}+x_{3}^{2}+x_{4}^{2}-c^{2}t^{2}$$)を保存し,したがって量$$c$$の不変性が導かれるのである.
1918年,クラインKleinの後継者であるエミー・ノーザーEmmy Notherは,クラインの研究を用いて,有名な定理*を証明した.
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* この定理の歴史と参考文献については,V. P. Vizgin (1972)を参照.
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「座標の連続的な変換と,それに伴う作用積分の変化を消滅させる場の関数の変換には,ある不変量,すなわち保存される場の関数とその導関数の組み合わせが対応する」.Notherの定理から,一般に,任意の孤立した物理系に対して,運動量の3成分,角運動量の6成分,エネルギーという10の保存される運動学的量が存在することが導かれる.これらはそれぞれ,平行移動,幾何学的空間の直交変換(およびガリレオ・ニュートン変換,ローレンツ変換),時間測定の原点の変位を表す変換に対応する不変量である.
保存則と物理法則の対称性の関係は,リチャード・ファインマンFeynmanの言葉を借りれば,「ほとんどの物理学者はいまだにどこか唖然としている......」という.これらの続ながりは非常に興味深く美しいものであり,物理学で最も美しく深遠なものの一つである(R. Feynman, R. Leyton, and M. Sands, 1965, pp.52-3, 52-4; A. A. Bogush and L. G. Moroz, 1968 も参照のこと).研究対象の現象に対する法則が微分方程式や代数方程式の言語で定式化されている物理理論であれば,全く同じ方法で対称変換群とそれに対応する不変量を求めることができる.結晶物理のテンソル方程式を例に,このことを説明しよう.
その一例として,誘電体中の変位ベクトルと電場ベクトルの関係式,すなわち誘電体中の誘電分極現象を記述する式(p.314)がある:
$$D=\varepsilon E$$ あるいは, $$D_{i}=\varepsilon _{uj}E_{j}$$, $$i, j=1,2,3$$ (1)
この例を一般化して,均一なテンソル「効果」場$$A_{pq \ldots r}$$と,「作用」場 $$B_{ij \ldots k}$$の関係式を書き下すと,
$$A=aB$$ あるいは,$$A_{pq \ldots rij \ldots k}=a_{pq \ldots rij \ldots k}B_{ij \ldots k}$$, $$p,q, \ldots ,r,i,j, \ldots ,k=1,2,3 $$(20)
テンソル$$A, a, B$$を包含直交群$$ \infty \infty m$$で定義すると,それらの成分の変換方程式は次のような形になる.
$$A_{p'q' \ldots r'}=\chi (D)D_{pp'}D_{qq'} \cdots D_{rr'}A_{pq \ldots r}$$ $$p',q', \ldots r',p,q, \ldots r=1,2,3$$ (21)
テンソル$$a, B$$についても同様の式がある[式(2),p315と比較せよ].
式(20)は物理法則を表しており,テンソル$$A, a, B$$の関係は群$$ \infty \infty m$$で許容されるどの座標系でも保存されるはずである.すなわち,式(20)の左辺と右辺は,直交変換の影響を受けて同じように変化する(物理方程式の共分散(covariance)の原理).
$$A=aB$$ (系$$X_{1} X_{2} X_{3}$$)$$ \Longrightarrow $$$$A'=a'B'$$(系 $$X'_{1} X'_{2} X'_{3}$$) (22)
しかし,テンソル$$A, a, B$$の成分は,一般的に言って,任意の変換に対して不変ではない.
テンソル$$A, a, B$$の行列が不変な直交群$$ \infty \infty m$$の最高位数の部分群は,テンソル$$A, a, B$$の対称群$$G_{A} , G_{a} , G_{B}$$となる (Shubnikov, 1949).
テンソルモデルを用いると、方程式の対称群とその解との間に有用な関係を確立することができる.
ここで,交叉$$G_{a} \cap G_{B}$$ に属する任意の演算$$g$$を取り上げよう. 定義によれば,テンソル$$a, B$$は,この操作に対して不変である.したがって,この操作のもとで式(20)を変換すると,始めの形式になる,
$$A'=a'B' \Longrightarrow A=aB$$
および,$$g \in G_{A}$$. $$g$$は,$$G_{a} \cap G_{B}$$に属する任意の演算であるから,
$$G_{A} \supseteq G_{a} \cap G_{B} \equiv G_{a \cap B}$$ (23)
群$$G_{A}=G_{aB}$$ および,$$G_{a \cap B}$$を,その解(これは,仮説により,物理的相互作用の効果を許容している),したがって相互作用のないテンソル場の交叉から決まる方程式の対称群と呼ぶことにする.もし,等式$$A=aB$$等価な解$$A_{i}=aB_{i}$$の集合$$ \{A}={A_{1}, A_{2}, \cdots , A_{i}, \cdots \} $$を認めるなら,
$$G_{(A)}= \cap G_{A_{i } } \cup M \supseteq G_{a} \cap G_{B}=G_{a \cap B} , G_{A_{i } } \supseteq , \subset $$ or $$ \not \supset G_{(A)} \supseteq G_{a \cap B}$$ (24)
ここで,$$G_{A_{i } }$$ または,その同型な類似物$$G_{A_{i } }^{(p)}=SG_{A_{i } }S^{-1}$$可能な解の1つの対称性を表現し,$$M$$は解系の対称化演算,$$G_{(A)}=G_{aB}=G_{a} \cap G_{(B)}; G_{(B)}= \cap G_{B} \cup M$$となる.
もし,$$A=aB$$に対応する方程式系が,非互換incompatibleであれば,解集合は空であるり,形式的に$$G_{(A)}= \infty \infty m \supseteq G_{a \cap B}$$と書くことができる.
これらの方程式に対して,関係式(23),(24)は,系の部分と全体の間に存在する一般的な関係(16),(17)を表現している.
例えば,作用の同軸の二面体bicone$$\{E \}$$に対応する式(1)の同価解の二面体$$\left\{ D \right\} $$は,水晶の場合,方程式の対称性に一致する.
$$G_{(D)}= \infty /mmm= \infty /mmm \cap \infty /mmm=G_{\varepsilon } \cap G_{(E)}=G_{\varepsilon E}$$
(図220と比較せよ).
この系の$$D_{j}=\epsiron_{ij}E_{j}$$のいかなる特殊解も(24)の型を持つ:$$G_{D_{j } }=∞mm$$
3次元空間(幾何学的空間)の対称群 $$G$$ の一般化は,A.V.シュブニコフの”反対称的に等価”という概念から始まりました.結晶(幾何学的)空間で定義した”対称的に等価”という概念[鏡映対称,回転対称,あるいは(平行移動)並進などで重なる]は,幾何学的空間で行われる対称操作を定義し,それらの対称操作の作る群(点群や空間群)として,空間の対称性が記述できました.シュブニコフの考えた”反対称的に等価”という概念は,幾何学的な空間とは別の次元の空間で行われる対称操作を導きます.空間の位置は動かさず,空間の点の特性(例えば,色)を,塗り変える操作をイメージしてください.黒⇔白,+⇔-,などの2値の特性の変換が”反対称的に等価”の例です.幾何空間での変換と特性空間(代表して色空間と呼ぶ)での変換とを結合した一般化された変換は,反対称群(黒-白群,あるいは,シュブニコフ群)という従来の点群や空間群を拡張した新しい対称群を生み出します.
このような反対称(黒-白)群は,群の拡大という数学理論で興味深いだけでなく,その結晶構造で観測される特性の対称性記述に有用です.
◆
磁性体の磁力は,その結晶構造中の鉄などの磁性の原子やイオンが所有する磁気モーメント(その原子に束縛されている電子の自転-スピン-で,スピンベクトルは上向-下向の2値をとります)の総和です.結晶構造中の磁性原子の位置に,スピンの向きの矢印を書き込んだ図の例をご覧ください.
一般に,原子の磁気モーメントは,各原子に束縛されている電子の軌道角運動量とスピン角運動量の総和ですが,外殻に3d電子をもつ遷移金属 Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Niでは,スピン角運動量で磁気モーメントが決まります.
ただし,正確に言うと,3d電子がそれぞれの原子に(局在)束縛されているのは,酸化物,Fe2O3,NiOなどでの話で,Fe, Coなどの金属結合状態にあるCo, Feなどでは,3d電子はブロッホ関数で記述される周期的な電子雲となり結晶全体に広がり,エネルギー・バンドを形成します.上向きスピンと下向きスピンが占有する状態密度の差だけのスピン角運動量が残ります.
磁性の予備知識はここまでにして,主題の反対称群に話を戻します.
結晶構造の原子の位置は,3次元幾何空間(結晶空間)の座標で指定でき,結晶構造の対称性は従来の空間群で記述できます.しかし,結晶構造中の磁性原子の電子スピンの反転対称操作は,幾何学空間とは別次元の”特性(色)空間”で行われるものです.強磁性体の特性を記述する対称操作は,幾何世界の対称操作に,スピン空間での対称操作を結合した”一般化された対称操作”で,これらの結合された対称操作の作る群が反対称群です.
特性の2値は;スピンの↓・↑,電荷の+・ー,など;色々なものがありますが,特性を代表して「色」と呼ぶことにし,特性が2値のものは,反対称群(黒-白群,シュブニコフ群)になります.
可能な特性値を多値$$p>2$$の空間に拡張すれば,それらは,p-色の色付群,あるいは,ベーロフ群と呼ばれるものになります.幾何学的空間の点の配置に関する限り,従来の対称群(点群や空間群)で記述されますが,それらの点を$$p$$色に塗り分けたものの対称性の記述は,このベーロフ群を用います.
$$p$$-色で塗分けるといっても,適当に塗るのではなく対称操作に従って塗分けるのですから,同じ色について同数ずつあるはずです.そして,p色の色置換は,幾何学的空間の変換と結びついているので,$$p$$の数は空間の対称操作の位数と矛盾しない数値に限定されます.
◆
ここでは,まず,黒-白群(2色の色付群)の作り方を説明します:
黒-白群$$G'$$で記述される黒と白の点で構成された構造が与えられたとします.①もし,色が判別できない眼鏡を通して見たとすれば,これらの点は皆同じ色ですから,普通の幾何空間での対称群Gで記述できるはずです.ゆえに,当然,$$G’$$と$$G$$は同型な群です: $$G’≅G$$ .
②この構造中の黒,白の点は,色反転操作で互いに入れ替わらなければならないので,同数ずつあります.従って,群$$G’$$は次のように剰余類展開できます.
$$ G^{*} $$は,$$G$$の指数2の部分群で,同色の点を変換する(色を変えない変換よりなる)部分群.$$g'$$は位数2の色の塗り替えを伴う変換操作です.
$$G’$$の剰余類展開
$$
G'=G^{*}\cup G^{*}g' , G^{*}⊂G
$$
反対称群$$G’$$は,同型な古典群(従来の群)$$G$$と $$G^{*}$$
を用いて,2項記号 $$G/G^{*}$$ と標記されます.
$$G’$$の剰余類展開の式で,第1項は対称演算の集合の作る群,第2項は反対称演算の作る群で,両者の合併集合として反対称群$$G’$$が表現されています.
古典的な3次元結晶空間群230種類は,点群と並進群を掛け合わせて「並進群を点群で拡大して」得られます.反対称群も同様ですが,反対称要素が点群の方にあるために得られる反対称群は674種類,並進の方に反並進があるために得られる反対称群は517種類であることが知られています.
表紙の図は,簡単な反対称の例で,体心格子 I の格子点のうち同一色の格子点は単純格子 $$P$$ ですので,これを反対称群の2項記号で標記すると$$I/P$$
となります.この反対称群の格子点を定義するベクトルは$${a, b, c, \tau’}$$で,$$\tau=(a+b+c)/2$$.$$\tau$$は,体心の位置を指定するベクトルです.’がついている意味は,これが色を反転する並進操作であることを示しています.この簡単な反対称群は反並進が起因で生じた群です.
反対称群(シュブニコフ群)やp-色の色付き群(ベーロフ群)は,3次元の空間次元+1次元の特性空間で定義されますが,
特性空間も3次元空間と等価な場合の4次元空間群の特殊な一部と見做すこともできます.
1.結晶空間群の発見
2.群拡大理論に基づいた空間群の構成
3.群の一般化.特性の対称性
4.対称性の重ね合わせ.対称化と非対称化
3次元結晶群(点群,あるいは,空間群)は,3次元の幾何空間に作用する対称操作が作る群でした.一般化の第一歩は,幾何学的次元とは異なる何らかの超幾何学的な特性(代表して「色」と呼ぶ)空間を付加することで得られました.A.V.シュブニコフは,+/-の2値をとれる特性を,3次元幾何空間の各点に付与しました.これが,反対称群(シュブニコフ群;黒白群)であり,多値の特性を各点に付与したものが色付き群(ベーロフ群;多色群)であります.
もし,付加する特性次元が3次元空間と同様な幾何学的次元であれば,4次元結晶群になります.
シュブニコフ(反対称;黒-白)Ш群
ベーロフ(多色)Б群
超幾何学的特性(色と呼ぶ)を空間に付与する
色付きの空間構造を色の見分けができない眼鏡を通して見れば,すべての点が同一色に見え空間の幾何学的構造だけが見えます.このことから,色付き構造を記述する群$${Б^{(p) } }$$(色特性$${p}$$色)は,同型な結晶群 $${G \cong Б^{(p) } }$$ があることになります.$${p}$$色の色付き構造のうちで同色の同価点系が作る$${G}$$の部分群を$$ {G^{* } } $$とすると,色特性の数$${p}$$は,部分群$${G^{* } }$$の群$${G}$$に対する指数(それぞれの群の位数の比で整数)になります:$${p=(G^{*}:G)}$$
$${G^{* } }$$が$${G}$$の指数$${p}$$の正規部分群であるなら,$${G}$$に同型な$${p}$$色の色付き群$${Б^{(p) } }$$は,群$${G^{* } }$$を色置換群$${P}$$で拡大した正規拡大$${Б^{(p)}=G^{*}\otimes P}$$として得られます.
■ シュブニコフ結晶空間群Шは,Шと同型な古典空間群$${G}$$の指数2の部分群$${G^{* } }$$(注:指数2の部分群は常に正規部分群)を,位数2の反対称演算の群,
$$ m'=\{1,m'\}, 2'=\{1,2'\}, \bar{1}'=\{1, \bar{1}'\}, 4'=\{1,4'(\textrm{mod}2)\} $$,あるいは,反対称格子や,反並進を含む並進群$$ \tau'(\textrm{mod}2 \tau)= \{1, \tau'\} $$で拡大して得られます.
■ ベーロフ$${Б^{(p) } }$$結晶空間群
$${p}$$色の色付き3次元結晶空間の対称性に関します.$${Б^{(p) } }$$群は,色の見分けの出来ないフィルターを通して見れば1色に見えますから,これに同型な何等かの古典群Φ:$${Φ\congБ^{(p) } }$$があり,Φの正規部分群で,指数$${p}$$のものを$${G^{* } }$$とすると,$${Φ/G^{* } }$$に同型な,色置換群$${P}$$を用いて,$${Б^{(p)}=G^{*}\otimes P}$$のように正規拡大の型で$${Б^{(p) } }$$群が得られます.あるいは,以下の$${p}$$色巡回置換の並進群を用いて拡大します.
$${\tau^{(p)}(\textrm {mod}\tau)=\{ \tau^{(p)}, ( \tau^{(p)})^{2}, \cdots , (\tau^{(p)})^{p}=\tau \equiv 0(\textrm {mod}\tau) \} }$$
このような$${Б^{(p) } }$$群を標記するには,その生成群を明示しての次のように標記します:$${Φ/G^{* } }$$
Ш群や$${Б^{p } }$$群は色付きの結晶空間群を念頭に記述しましたが,色付きの結晶点群に限定して記述するのは,理解しやすい良い方法かもしれません.色巡回置換による群は,Niggli,Indenbom,Belov,Neronova(1959,1960)が,古典群の正規部分群を含むものはWittke(1962)が研究しました.色付き群の分解表現は,Shubunikov,Koptsikが導き,73種類のWittke-Garrido群$${G_{WG}^{(p)}=G^{(p)*}・G^{* } }$$と,これに同型なVan der Waerden-Burckhardt群$${G_{WB}^{(p)}=G^{(p_{1})*}・G^{(p_{2})* } }$$を導きました.全$${G_{WB}^{(p) } }$$と$${G_{WG}^{(p) } }$$の数え上げは,Koptsikの下で,Kuzhukeev(1972)の修士論文でなされました.
部分群$${G^{(p_{2})*}\subset G_{WG}^{(p) } }$$は,最後に決まった色を保存し,群$${G_{WG}^{(p)* } }$$の中の色置換の型$${G^{(p)* } }$$は始めの点の採り方に依存します.
色付き空間群の導出は,1969年ザモルザエフにより始められ,3色,4色,6色までの空間群の数え上げが行われた.色付き空間群の色の塗り替え演算が,色並進群にあるものと,色並進を含まない群とに分類でき,さらにそれぞれに共型なものと非共型なものに分類できる.色空間の対称操作は幾何的結晶空間の対称操作と連動するために,許される色数$${p}$$は制限があり,最大で48色,以下24,16,12,8,6,4,3色です.正規拡大による色付き空間群の数え上げは完了しました.
■演習
2次元2色(黒白)結晶点群を求める
2次元結晶点群10種
2次元結晶点群から導ける黒白群11種.赤の記号は反対称演算成分を持つ.