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No.461 複雑適応系

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数学月間SGK通信 [2023.02.14] No.461
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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地震、大規模停電、原発事故などの複雑系は、些細な原因により生じた故障が次々と雪崩を起こし、系全体に広がり大規模な災害を生みます。
複雑系には、予期できない特性があり、そのような特性の出現を予測することは非常に困難です。

複雑系の研究は、現代科学の最も重要な分野の 1 つです。複雑系は、多くの独立した要素からなり、それぞれが他の要素と相互作用する系として定義されます。たとえば、砂の山は複雑系で、1粒の砂を押すと、山を構成する他のすべての砂粒に圧力が伝わり、これらの砂粒が応答してわずかに変位します。証券取引所は、買い手と売り手の行動が変化するにつれて、買い手と売り手が行動を変える複雑系です。他の要素の動作の結果として要素の動作が変化する系は、複雑適応系または自己調整系と呼ばれ、証券取引所はこの例です。

高速電子計算機が登場する前は、複雑系を研究することは不可能でした。これらの系は、通常の数学で扱うには大きすぎ、複雑すぎます。複雑適応系のコンピューターでの研究の最も重要な結果は、予期しない特性という概念でした。砂山を例に取ると、砂粒を積み上げていくと、遅かれ早かれ新しいタイプの行動が突然現れます。山全体の100 万分の 1 の砂粒を追加すると雪崩が発生するとします。この動作は、雪崩前に起こっていた圧力伝達現象とは根本的に異なります。つまり、この100万個目の砂粒1つで、「より多く」という概念ではなく、「別」の特性出現に変わります。

予期せぬ特性の重要な特徴は、それが徐々に現れるのではないことです。言い換えれば、1 粒の砂が雪崩の 100 万分の 1 の部分を形成することはなく、そ1粒を同様の部分に追加して、100 万粒の砂の山に雪崩を発生させることができます。100 万分の 1 の砂粒に到達するまでは雪崩はまったく見られず、1粒追加後突然雪崩が発生します。

意識や内省などの心の特性は、多くのニューロンの系の予期しない特性であり、多くの砂粒で発生する雪崩のようなものであるというのは興味深いことです。もしこれが本当なら、神経系の進化は「より多く」から「別」の特性になるポイントに近づいています。

今日の科学が直面している大きな課題の 1 つは、個々の要素の特性に基づいて、系の予期できない特性の出現を予測できるかということです。現時点ではそれは不可能です。結局、予測は不可能なことかもしれませんが、複雑系の研究が進み、その特性発現の解明ができる可能性もあります。

引用:百科事典「科学の性質.宇宙の200の法則」,ジェームズ・トレフィル

No.462 数学月間の考え方1

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数学月間SGK通信 [2023.02.21] No.462
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■数学月間とは                 (たに・かつひこ/NPO数学月間の会)
米国のMAM(数学月間)は,上院の共同決議「1986年4月14~20日を数学週間とする」に基づくレーガン大統領宣言で1986年にスタートした.レーガン宣言は格調高く,「およそ5千年前に始まった数学的叡智は進歩を遂げ,今日の社会を支えている」と述べ,すべてのアメリカ人に対し,数学と数学的教育の重要性を実証する活動への参加を要請している.米国が国家的行事のMAMを決断した背景には,国民の数学力の低下で,産業力も低下するとの焦りがあったといわれる(小林昭七「顔をなくした数学者」).1950年代の日本は,Dr. Demingの品質管理手法を,TQCやQCサークルに発展させ,生産性向上を達成していた.1980年NBC放送はIf Japan Can, Why Can’t We?と呼びかけ,Dr. Demingのセミナーが米国で展開されたが,さらにこれを数学全般の啓蒙MAMへと発展させたのは米国の叡智であった(竹内淳実).バークレーの地域数学サークルなどの学校外活動も効果を上げている(小林昭七).米国MAMは,数学系学協会が参加するJPBM(Joint Policy Board for Maths)が,毎年,社会を反映した数学テーマを選定し,4月に種々の数学イベントが展開される.国民からの事後評価も受ける.時局の数学を,種々のレベルで学習できるウエブ・サイトが充実し,そこにエッセイや論文が集積され,数学を基礎から最先端まで,学生が独習できる優れたガイドになる.日本の数学月間(7/22-8/22)は,片瀬豊(表紙写真)の日本数学協会への提案(2005年)でスタートした.片瀬豊は,日本版JPBMが国家的行事として数学月間を展開すべきだと考えていた.「数学月間」活動は,数学同好者の内部にとどまらず,数学が係わるあらゆる分野を横断し,一般市民に働きかけ,数学(論理)が社会を支えている事例を踏まえ,数学への共感を獲得することを目的としている.
■孤高な数学では共感を得られない
理系でも数学と結びつきの薄い分野に生徒が流れる傾向がある.数学まつりを実施しても,教材の基礎にある数学へ言及することは少ない.「数学によってのみ外界(森羅万象の法則の起源)が認識できる(デカルト,ホッブス)」のだが,数学はこのように避けられ嫌われている.数学への共感が得られない原因を考えるに,数学の孤高姿勢にある.完成した数学体系を学べというのではなく,相手の現場に立ち入り数学論理を見出し適用して見せることで共感が得られる.教育数学においても各学科分野にふさわしい数学を提供するのが良い.マーフィーの法則で,「言葉が通じなければそれは数学」と揶揄的に定義されるようではいけない.完成された数学体系は美しいが,それぞれに,その数学概念が生まれた源泉があり,その過程を見せること,および,その数学の適用現場を見せることが共感に繋がる.数学者でない一般社会人の共感を得るには,地に足がついているという意味から,数学は物理学の一部であると考えた方が良い.(クーラン&ヒルベルト「数理物理学の方法」,イアン・スチュアート「無限をつかむ」).

No.463 偽科学的YouTube動画

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数学月間SGK通信 [2023.02.28] No.463
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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YouTube動画で色々な発明開発の動画があり,製作過程の面白さに惹かれてつい見てしまいますが,そのほとんどが時間の無駄です。
永久機関もあれば,まわりくどく原理がなんだかなぁとがっかりするものです。このようなものには次の2つのタイプがあります:
①投稿者自身が,意図的にトリックがある(詐欺,マジックの部類)ことを自覚している。
②投稿者自身が発明と信じていて,改良を進めればものになると思ってい
る。

①は詐欺の部類です。これはアイディアが面白ければ,受け狙いと割り切て,マジックのように楽しめばよいのです。しかし,かなりの人が騙されるようです(見る人の知識不足が原因です)。
ここで,私が気になるのは②の場合です。
視聴者のコメントを見ると大部分(9割)は肯定的で賞賛さえしています。その一方,正しい批判的コメントや親切なアドバイスも少数(1割程度)だがあるのは救いです(他人が一所懸命にやっていることへの否定や批判は言い難いし,そのようなコメントへの返信を見ると,発明者当人は聞く耳を持たないようです)。

当人は真摯に取り組んでいるとしても,このような動画は,多くの人を発明者と同じ泥沼に引き込むし,無駄な投資をさせたりするでしょう。
このようなことが起こる原因は,発明者の物理のその分野の知識不足にあります。発明品の不思議に見える動作原理は,生半可な知識の混沌とした状態の利用です。よく利用される現象の例は,ファラディやマックスウェルをはじめとする多くの科学者により既に解明された電磁誘導;コイルの周りで磁場が変化すればコイルに電流が生じ,電流が変化すれば磁場が変化するという現象です。この現象は,広大な応用分野をもち,モーター,電子レンジ,リレー,トランス,回路まで含めればほとんどの電子デバイスを作り出しました。ワイヤレス給電などもこの現象の利用です。抵抗に電流が流れれば加熱されるのは、既知の別の現象です。
「配管のそばで磁石をモーターで回転させて,配管に誘導電流を発生させ加熱する」という暖房装置のYouTube 動画があります。見世物として面白いと思う多数の視聴者がいます。これが石油の節約だと信じている人もいます。私はモーターを回転する電力で抵抗過熱をした方がよほど良いと思います。
開発を続けエネルギー変換効率の改良を進めれば,シンプルな現存装置に帰着してしまうことが見えています。

原子炉をボイラーの熱源代わりにする原子力発電もこの部類に入ります。100万kWの原発を1日稼働すると約3.7kgのウラン235が核分裂し,引き取り手のないおびただしい放射性核種が生じるというのに。

No.464 「数学の弁明Апология математики」ウラジミール・ウスペンスキー...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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数学月間SGK通信 [2023.03.07] No.464
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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「数学の弁明」.原題「Апология математики」(初版2007),2017年に第2版が出版されています.著者はウラジミール・ウスペンスキー(Владимир A. Успенский).著名な数学者A.N.コルモゴロフの弟子で数学者,言語学者,1966 年から 2018 年まで,モスクワ大学の数理論理およびアルゴリズム理論の学部長.
この出版物は読者から高く評価され,2007 年の「新世界」賞を受賞しました.数学と人文科学の間の障壁を克服し,非数学者が数学の基本的な概念と問題のいくつかに親しむことができます.

■先行する似た題名の本に,次のものがあります.そちらの本は,英国の数学者G.H.ハーディが1940年に出版したもので,全く異なる内容です.
そちらの本の内容もnoteの別の記事として取り上げていますので,そちらをご覧いただければ幸いです.https://note.com/sgk2005/n/n9fbb5b7fd9de


■ウラジミール・ウスペンスキーの本Апология математикиの内容に触れましょう:

第 1 章 ワトソン対ホームズ
第 2 章 ピタゴラスの定理とフェルマーの定理
第 3 章 未解決の問題と解決不可能な問題
第 4 章 長さと数
第 5 章 円と正方形
第 6 章 質量の問題とアルゴリズム
第 7 章 ガリレオのパラドックス、コルタザール効果、および量の概念
第 8 章 神話における平行線現実と数学
第9章 100万ドル問題
第10章 計量幾何学から位置の 幾何学へ
第11章 位置の幾何学からトポロジーへ
第12章 私たちの宇宙はどのようなものになるでしょうか?
第1章の付録 読者の意見
第3章の付録ゴールドバッハ問題の歴史について
「集合」「順序組」「対応」「関数」「関係」 の概念について

以下のサイトで公開されている内容から抜粋します:

Читать онлайн «Апология математики (сборник статей)», В. А. Успенский – Литрес
Читать онлайн книгу «Апология математики (сборник статей)» ав
www.litres.ru
現代社会では,どんな専門分野にも数学が係わっています.「数理物理学」を筆頭に,「数理生物学」,「数理言語学」,「数理経済学」,「数理心理学」等々.今や数学は流行の職業になっています.

これは,数学の応用の計り知れない可能性のためです.数学は,人文科学と見なされてきた分野にも浸透しています.

数学は,現実に適合した一般的でかなり明確なモデルを提供します.これは,他の科学によって提供される一般的でなく漠然としたモデルとは対照的です.

自然科学と人文科学の区分がいつまでも続くとは限りません.数学が自然科学に帰属することの反省が起こっています.数学は物理学の一部であると言われますが,物理の世界の特性記述に数学が成功したからで,人文科学の他の分野でも同じ成功を収めるに違いありません.

数学の人文科学への係わりについて

列車の乗客は窓越しに無数の白い羊の群れを見ています.そして,彼らは
電車に横向きに黒い羊がいるのに気づく.「ぁぁ,ここにも黒い羊が!」と 一人が叫ぶ.「片面の黒い羊が少なくとも 1 頭はいる」と,別の数学者が彼を訂正します.
この逸話は,過度の正確さが有害であり,適切な内容認識を妨げる可能性があることの例です.ここには,人文科学と数学の間の双方にとって有益な対話の基礎が​​あります.この対話では,数学者が(人文科学)非数学者に教えたりしませんが,構文構造の構築の正確さがいかに重要であるかの共有がなされます.数学者は,論理的枠組みを理解する能力を非数学者に伝えようとしています. 一方,非数学者は,不正確さの重要性の考えを数学者と共有します.非数学者は数学に対して,その論理的枠組みを包み込む肉付けと文脈の両方が,言及された枠組みと同じくらい重要であると示しています. 非数学者は,周囲の世界は不定形で曖昧であるため,数学的に正確な文言よりも,不正確で曖昧な文言の方が適切に反映されると思っています.
数学者と(人文科学)非数学者は異なる思考スタイルを持っており,異なるスタイルに触れることで両者が豊かになります.たとえば,「公理に明示的に記録された情報のみ推論に使用できる」という数学で広く普及している公理的方法の研究は,厳密な思考の習慣を植え付けます.そして,「無限集合の性質」を知ることは想像力を育みます.歴史家は公理的方法や無限集合を必要としないと思うかもしれません.しかし,思考と想像力の厳しさは彼の思考の妨げにはなりしません.
一方,数学の方にも学ぶべきことがたくさんあります.
人文科学者は数学者より他人の意見に寛容です.数学的な概念は明確に定義されていますが,人文科学的な概念は曖昧です. それゆえ,私たちの曖昧な世界を説明するのに適しています.
私たちは,情報を冷静に伝達する機能に関心があります.それは文言に具現化されます.国内プログラミングの創始者の一人であるアンドレイ・ペトロヴィッチ・エルショフは,これを「ビジネス散文Деловая проза」と呼びました. ビジネス散文には,特に,自然科学のテキスト (主に数学),法律のテキスト,事務のテキストおよび指示(マニュアル)が含まれます.ビジネス散文は私たちの生活の中でますます重要な位置を占めるため,母国語のレッスンや,感情を伴わない純粋な情報に特化した特別クラスで教えられる可能性があります.
ビジネス散文を教えることは,ビジネステキストの正しい編集と正しい認識のスキル,つまり,言葉で考えを正しく表現し,言葉で表現された考えを正しく解釈する能力を養成します.

(私のコメント)
数学は物理学の一部であるという思いは,私も同様に実感しています.
しかし,人文科学にも,数学の浸透が進んでいるのは事実です.
むろん,以前から数学の人文科学との係わりはありました.A.A.Баpсов(モスクワ大,数学)は,ロシア語文法,正書法の提案を行いました(1755).
数学の論理は,自然科学も人文科学も係わります.数学を人文科学に帰属させても不思議ではありません.
ブラックボックスとしてAIが用いられる現代では,現象の数学モデルを作ったり,得られた解析結果を解釈するのは,正しい読解力が必要であると思います.解釈次第でとんでもない結果も恣意的に導くことが可能ですから.

 

No.465 デュードニーのタイル張りパズル

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数学月間SGK通信 [2023.03.14] No.465
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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先週は、京都大学の教育数学研究集会3/6-9に参加しました.そこで,ChatGPTとDuolingoの話がでました.
皆様はご存じだったかもしれませんが、私はこれらを知りませんでした.
ウエブで探して使ってみるとどちらも非常に面白い.
ChatGPTとは対話型のAI,Duolingoはゲーム感覚で英語の学習ができます.

さて,今回のメルマガで取り上げるのは,デュードニーのタイル張りパズルです.これは;

正3角形を多角形に分割してそれらの全部品を組み合わせて正方形が作れます.このようなことのできる最小の分割数はいくつですか?
この問題は、1905 年 2 月 1 日と 8 日の問題で Henry Dudeney によって Daily Mail の読者に提示されました。
寄せられた何百もの回答の中で、正解は 1 つだけでした。4 つの部分で十分です。

https://etudes.ru/models/dudeney-dissection/
上記のリンクにあるアニメーションを見ると正解がわかります.しかし,この解の仕組みを見つけるのはなかなか難しいので,解説用の図を以下に2つ作りました.重ねた図形の2回回転対称性に注目すれば,非常に簡単に解けます.

Fig.1 正方形と正3角形は同一の面積です.2つ並んだ正方形と2つ並べた正3角形を,それぞれの中点の上で重ね合わせます.この点は2回回転対称軸があります.これだけでは,重ね方にまだ任意性がありますから,正3角形を連ねて作った帯の上側の辺,下側の辺が,それぞれ,2つ並べた正方形の右側の正方形の右側の縦の辺の中点,および,左側の正方形の左側の縦の辺の中点を通過するようにします.これらの条件は同時に満たされることは,2回回転対称性から明らかです.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fig.1



 

 

 

 

 

 

Fig.2

 

 

 


Fig.2を見ると,正方形の中は、赤,黄,緑,青のパーツで構成されることがわかります.一方,正3角形は,赤,黄,グレーのパーツで構成され,正3角形と正方形は面積が等しいから,部品の面積について,グレー=緑+青 の等式が成立します.従って,正3角形も赤,黄,緑,青のパーツで構成できることがわかります.