数学月間の会SGKのURLは,https://sgk2005.org/
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10.群論の基礎.古典結晶群
これまでの章で,形而下の幾何学図形や物質形態の対称性に関する古典論の基礎を,複雑な数学ぬきで説明した.近年,対称性の研究は広汎な新領域で充実が見られ,多くの新分野に応用されている.
これらについて語るために,まず数学的知識を少しく補足し,群論の思想と表現を一貫して利用できるようにしよう.読者は最初に読む時は,この章と次の章の難しい所は,絵と例を見るだけにして飛ばしても良い.
群概念の定義.
幾何学的あるいは物理学的対象物の変換群.抽象群.
現代の数学,物理学における群概念は,数,集合,関数と言った概念と同様に,基本的な概念である.既に何度も(対称)図形の対称変換群[(有限または無限の)図形において,各部分は互いに入れ換えるが,図形全体は不変であるような対称変換の作る有限群あるいは無限群]について言及したので,部分的にではあるがそれを知っている.不変性(変換が図形の構造を保存する)の要請は,図形の対称変換群の定義の基礎となっている.
どのような図形変換を許すかにより,等長変換(isometric)群か非等長変換(nonisometric)(アフィン, 射影,トポロジ-,等)群かになる.回転群(第1種の変換),回転と鏡映の群(第2種の変換)のような直交群や,運動群(第1種と第2種の変換と並進の結合)は図形の計量特性(すべての線分の長さとそれらのなす角度)を保存する.いままでの所では,我々は変形のない(計量保存)図形変換である直交群と運動群とを扱つていた.
アフィン変換群は,無限な図形,媒質で許される一様変形(伸張,圧縮,ずり)の集合からなる.等方で一様な空間はアフィン対称である。相似変換群(アフィン変換群の特殊な場合)は植物や動物の構造や成長の対称を記述する;相似変換は建築物の細部や,遠近法に従って描いた絵画に見られる.
重要な非直交群の例は,図形の等価な部分の任意の置換である.この置換は図形を自分自身に変換する(例えば,結晶構造における同価な原子の置換全部が作る群,原子核構造における中性子の置換全部が作る群など).特殊な場合には,置換群は直交群に同型となることを後に知るであろう.
変換の概念は,幾何学的対象(有限図形,連続体,離散体)に関してだけでなく,物質図形,スカラ-,ベクトル,テンソル場のような(物理的性質を担っている形而下の)物理的対象に関しても定義できる.このような対象は,直交変換群だけでなく,次のようなさらに一般的な変換群に従う: 結晶物理や結晶の構造解析で利用する反対称群と色対称群(次の章でこれらの群を学習する);素粒子理論で使われるユニタリ-群(ユニモジュラ-群を含む);斉次,非斉次の線形群;相対論で用いるLorentz(ローレンツ)群, Poincare(ポアンカレ)群;などである.これらのどの群も,それぞれの空間で,不変量(保存量)の集合と結び付けられている.しかし,その変換群が成り立つ対称の性質がどのようなものであろうとも,また変換そのものがどのような性質であろうとも,すべての変換群には,抽象群の公理的定義を満たす共通の特性が存在する*.
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*群論の基礎の平易な説明は,例えば,P.S.Aleksandrov(アレクサンドロフ)の本(1951)を見よ.
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何らかの性質の元 $$g_{1},g_{2}, \ldots $$の集合が,群{$$g_{1},g_{2}, \ldots$$ }$$=G $$を作るとは,この集合で結合的な《積》という演算($$G$$中の任意の2元$$g_{i},g_{j} \in G$$の対に,元$$g_{k} \in G$$を対応させる:$$g_{i}g_{j}=g_{k}$$)が定義でき,次の2つの条件を満足することである: a)集合$$G$$には,任意の$$g_{i} \in G$$に対して$$g_{i}e=eg_{i}=g_{i}$$となる単位元$$e$$が存在する.b)任意の$$g_{i}$$に対して,$$g_{i}g_{i}^{-1}=g_{i}^{-1}g_{i}=e$$となる逆元$$g_{i}^{-1}$$が集合$$G$$に存在する.まとめると次の4条件になる.
Ⅰ. $$g_{i},g_{j} \in G$$ なら,$$g_{i}g_{j}=g_{k} \in G$$
Ⅱ. $$\left( g_{i}g_{j} \right) g_{k}=g_{i}\left( g_{j}g_{k} \right) $$
Ⅲ. $$g_{i}e=eg_{i}=g_{i}$$
Ⅳ. $$g_{i}g_{i}^{-1}=g_{i}^{-1}g_{i}=e$$
これらの関係は抽象群を定義する.Ⅰは$$G$$が演算に関して閉じていることを示し,Ⅱは結合法則,Ⅲは単位元の存在,Ⅳは逆元の存在を示す.積の演算を何にするかは,具体的な群に応じて定義する.
例:結晶群 $$2/m$$
群$$2/m$$に同型な置換群と直交行列群
有限図形の対称点群を定義している一様な直交変換の積は,これらの演算を引き続き行うことと理解する.この定義を用い,集合$$2/m$$では4つの群公理が満たされていることを確かめよう.
結晶点群$$2/m$$の対称を与えるのは,例えば,つぶれたマッチ箱の形(平行四辺形を底面とする直角プリズム)である.図203に示したごとく図形の面に番号をつける.図形の許される対称変換に対応する数字の置換を書くと:
$$1 \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6
\end{array} \right)$$ ,$$2 \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
3 & 4 & 1 & 2 & 5 & 6
\end{array} \right) $$ ,$$\overline{1} \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
3 & 4 & 1 & 2 & 6 & 5
\end{array} \right) $$ ,$$m \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
1 & 2 & 3 & 4 & 6 & 5
\end{array} \right)$$
各置換の上の行には,自然の順序で数字が書かれている;下の行には,対称変換を行った後の順序が書かれている.例えば,軸2による180°の回転によって,面1は面3の位置に,面2は面4の位置に移ることなど明らかである.対称演算 $$1$$,$$2$$ ,$$\overline{1}$$ ,$$m$$ (対称要素と同じ記号で標す)と置換の間の対応は,1:1であり,それを両側向きの矢印で示した.得られた対応を使って,置換の積の演算を定義しよう.例として,右に書かれた演算を先に実行することにして,積 $$\overline{1}2$$ を求めてみよう:
$$\overline{1}2 \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
3 & 4 & 1 & 2 & 6 & 5
\end{array} \right) \left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
3 & 4 & 1 & 2 & 5 & 6
\end{array} \right) =\left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
1 & 2 & 3 & 4 & 6 & 5
\end{array} \right) \leftrightarrow m$$
回転$$2$$ により面1は面3の位置に,反転$$\overline{1}$$ により面3は面1の位置に来る;従って,変換の積 $$\overline{1}2$$ は面1を面1に移す.同様にして,積 $$\overline{1}2$$ は面2,3,4を,それ自身に移すが,面5を面6に,面6を面5に移す.結局,変換の積 $$\overline{1}2$$ は,変換$$m$$ と同価である(等式の形で$$\overline{1}2=m$$と書く)という興味ある結果を得る.2つの演算の積$$g_{i}g_{j}$$ (右から左への順)を見つけていくと,結果を群$$2/m$$の乗積表の形にまとめることが出来る:
$$\begin{array}{c|cccc}
& 1 & 2 & \overline{1} & m \\[0mm]
\hline
1 & 1 & 2 & \overline{1} & m \\[0mm]
2 & 2 & 1 & m & \overline{1} \\[0mm]
\overline{1} & \overline{1} & m & 1 & 2 \\[0mm]
m & m & \overline{1} & 2 & 1
\end{array} $$ $$\begin{array}{c|ccc}
& \cdots & g_{j} & \cdots \\[0mm]
\hline
\vdots & & \vdots & \\[0mm]
g_{i} & \cdots & g_{i}g_{j} & \cdots \\[0mm]
\vdots & & \vdots &
\end{array}$$
この表を見れば,今問題にしている図形(図203)で許される対称変換の集合が閉性の公理「任意の2つの変換の積はやはりこの集合に属する」を満たしていることがわかる.結合則「3つの積$$g_{i}g_{j}g_{k}$$において,積は右から左に行うということを守りさえすれば,どのように括弧をつけてもかまわない」が満たされることを確かめることもさして困難ではない.群の単位元として働くのは恒等変換$$1$$ である.表から,$$2/m$$の各元に対して逆元が存在することもわかる(各元は自分自身が逆元になっている:$$g_{i}g_{i}=1$$).
表を用いれば,演算を繰り返し行った結果を知ることもできる.例えば,演算$$2$$ の3乗は演算$$2$$ に等しいことがわかる:
$$2^{3}=2 \cdot 2 \cdot 2=2^{2}2=2$$, ただし,$$2^{2}=2 \cdot 2=1$$ を用いる.
同一の結果になる演算の冪は同一と見なすから,群$$2/m$$は4つの異なった演算から成ることになり,位数は4となる.
$$2/m=\left\{ 1,2,\overline{1},m \right\} $$
群$$2/m$$の生成元として$$1$$ を含まない任意の元の対をとることができる.生成元 に対する定義関係 $$2^{2}=1$$,$$m^{2}=1$$,$$2m=m2$$ が与えられれば,元 $$m$$,$$2$$,$$2m=\overline{1}$$ をかけ合せることにより,群$$2/m$$の乗積表を完全に作ることが出来る.
上で調べた対称演算と6つの数字の置換の対応から,対称群$$2/m$$と4つの置換から成る群とが同型となる.一般に,群$$G=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots \right\} $$ と $$F=\left\{ f_{1},f_{2}, \ldots \right\} $$とは,元間に1:1対応があり乗積表が一致するとき同型であるという.すなわち
$$g_{i} \leftrightarrow f_{i}$$,$$g_{j} \leftrightarrow f_{j}$$ なら,$$g_{i}g_{j} \leftrightarrow f_{i}f_{j}$$
群が同型であることが判ると,積の法則とこれから導かれるような結論は,すべて1つの群について確認されたものなら,同型の群に移し変えることができる.これは研究の範囲が限定できるということである.Cayley(ケイリー)の定理「あらゆる有限群は適当な置換群と同型である」が成り立つため,有限群の研究は置換群の研究に帰着する.
置換群の集合は,直交結晶群の集合より大きい.例えば置換$$P=\left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
4 & 3 & 6 & 2 & 5 & 1
\end{array} \right) $$ の冪で作られる位数5の巡回群,すなわち群$$\left\{ P, P^{2}, P^{3}, P^{4}, P^{5} \right\} $$ ,
ただし$$P^{5}=\left( \begin{array}{@{\,} cccccc @{\, } }
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 \\[0mm]
1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6
\end{array} \right) =1$$,は結晶群のどれとも同型でない.
逆に,結晶群は置換群とのみ同型という訳ではない.結晶物理への応用で重要な,直交変換に同型な3次の直交行列群を考察しよう.我々の図形の結晶軸$$a, b, c$$と直交座標系$$X_{1}, X_{2}, X_{3}$$の関係は図203に示してある.図形のすべての対称変換それぞれに対応して座標系の変換がある.例えば,回転群$$2$$は軸$$X_{1}, X_{2}, X_{3}$$ を$$X_{1}^{ ' }, X_{2}^{ ' }, X_{3}^{ ' }$$ にもちきたす.行列要素を$$D_{ij}=cos\left( X_{i}^{ ' }, X_{j} \right) $$ で定義すれば,3次の行列
$$\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
D_{11} & D_{12} & D_{13} \\[0mm]
D_{21} & D_{22} & D_{23} \\[0mm]
D_{31} & D_{32} & D_{33}
\end{array} \right) $$ を得る.
回転2 を表すのは$$\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
-1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & -1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 1
\end{array} \right) $$ となる.
同様にして,以下の行列と対称変換の対応が定まる:
$$1 \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 1
\end{array} \right) , \overline{1} \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
-1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & -1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & -1
\end{array} \right) , m \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & -1
\end{array} \right) $$
良く知られた行列の積の定義(左の行列の行と右の行列の列を乗ずる:
$$D_{ij}=D_{i1}D_{1j}+D_{i2}D_{2j}+D_{i3}D_{3j}$$)を使い,演算の積に対応する行列の積を見つけよう:
$$\overline{1}2 \leftrightarrow \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
-1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & -1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & -1
\end{array} \right) \left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
-1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & -1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & 1
\end{array} \right) =\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
1 & 0 & 0 \\[0mm]
0 & 1 & 0 \\[0mm]
0 & 0 & -1
\end{array} \right) \leftrightarrow m$$ , etc.
結局,対応する行列群と群$$2/m$$とは同型となる.
行列群を用いると,3次元空間における点あるいはその位置ベクトルの座標変換が記述できる.例えば,斉1次変換は,3つの等式の形にも,行列の形にも書くとことが出来る:
$$\begin{array}{@{\,} c @{\, } }
x_{1} ' =D_{11}x_{1}+D_{12}x_{2}+D_{13}x_{3} \\[0mm]
x_{2} ' =D_{21}x_{1}+D_{22}x_{2}+D_{23}x_{3} \\[0mm]
x_{3} ' =D_{31}x_{1}+D_{32}x_{2}+D_{33}x_{3}
\end{array}$$ または $$\left( \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
x_{1} ' \\[0mm]
x_{2} ' \\[0mm]
x_{3} '
\end{array} \right) =\left( \begin{array}{@{\,} ccc @{\, } }
D_{11} & D_{12} & D_{13} \\[0mm]
D_{21} & D_{22} & D_{23} \\[0mm]
D_{31} & D_{32} & D_{33}
\end{array} \right) \left( \begin{array}{@{\,} c @{\, } }
x_{1} \\[0mm]
x_{2} \\[0mm]
x_{3}
\end{array} \right) $$
$$D$$で行列$$\left( D_{ij} \right) $$ を,$$r$$で$$x_{1}, x_{2}, x_{3}$$ のベクトルを標せば,この等式はもっと簡潔なテンソルあるいは演算子の形に書くことができる:
$$x_{i} ' =D_{ij}x_{j} , (i,j=1,2,3)$$ または,$$r '=Dr$$
(テンソル方程式で繰り返される添え字$$j$$は,1から3までの和を意味する:
$$x_{i} ' =D_{i1}x_{1}+D_{i2}x_{2}+D_{i3}x_{3}$$ ここで,$$i=1, 2, 3$$)
群のいくつかの性質
部分群.商群.群の準同型対応.
$$H=\left\{ h_{1},h_{2}, \ldots \right\} $$が,群$$G=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots \right\} $$ の部分群と呼ばれるのは, $$H$$が$$G$$の部分集合であり,かつ$$G$$の演算に関して群を作るときである.そのような性質は,例えば,結晶群$$2/m$$の部分群:$$ 1=\left\{ 1\right\}, 2=\left\{ 1, 2 \right\} , \overline{1}=\left\{ 1,\overline{1} \right\} , m=\left\{ 1,m \right\} $$で確かめることができる.有限群のすべての部分群は, Lagrange(ラグランジュ)の定理《有限群$$ G $$ の部分群$$H$$ の位数は,$$G$$の位数の約数である》によって,容易に見つけることが出来る.部分群$$H=\left\{ h_{1},h_{2}, \ldots \right\} $$の元は,同時に群$$G=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots \right\} $$の元でもある.このため,必然的に,群とその部分群は共通の単位元をもつ.これを,$$h_{1}=g_{1}=e$$ としよう.群$$G$$ の部分群$$H$$ を決めれば,我々は,左(右)剰余類を定義することができる. $$g_{i}H=\left\{ g_{i}h_{1},g_{i}h_{2}, \ldots \right\} $$または $$Hg_{i}=\left\{ h_{1}g_{i},h_{2}g_{i}, \ldots \right\} $$,ただし,$$h_{1}=e$$ ,元$$g_{i}$$ は部分群$$H$$ に属さない($$g_{i} \neq e$$,$$g_{i} \notin H$,$g_{i} \in G$$).1つの剰余類に属す元は全て異なり, $$g_{i} \neq g_{j}$$ならそれぞれの剰余類$$g_{i}H, g_{j}H$$の元もまたすべて異なることを示すことが出来る.これを用いれば,部分群に関して,群を展開し,すなわち,各剰余類に群の元を分類することができる.もし,群$$G$$ が有限(位数$$ n $$ )ならば,部分群$$H \subset G$$ は有限なる位数$$m<n$$ をもつ.従って,群$$G$$ の,例えば,左剰余類での展開は有限回で尽きる.
$$G=g_{1}H \cup g_{2}H \cup \ldots \cup g_{j}H=\left\{ h_{1},h_{2}, \ldots ,h_{m} \right\} \cup \left\{ g_{2}h_{1},g_{2}h_{2}, \ldots ,g_{2}h_{m} \right\} \cup \ldots $$
$$ \ldots \cup \left\{ g_{j}h_{1},g_{j}h_{2}, \ldots ,g_{j}h_{m} \right\} $$
群$$2/m$$の場合には,部分群$$2$$に関する展開は次のようになる.
$$2/m=1\left\{ 1,2 \right\} \cup \overline{1}\left\{ 1,2 \right\} =\left\{ 1,2 \right\} \cup \left\{ \overline{1},m \right\} $$
部分群に関する群の展開での剰余類の数$$j$$を部分群の指数という.あきらかに,群$$2/m$$の部分群$$2=\left\{ 1,2 \right\} $$の指数は2である.
部分群$$H \subset G$$は,もしこの部分群に関する右と左の剰余類が一致するなら,不変部分群または正規部分群と呼ばれる($$H \vartriangleleft G$$ と書く):$$Hg_{i}=g_{i}H $$ ($$g_{i} \in G$$,$$H \vartriangleleft G$$)
群$$2/m$$の部分群$$2$$は正規である.なぜなら,$$\overline{1}\left\{ 1,2 \right\} =\left\{ 1,2 \right\} \overline{1}$$ となるからである.可換性 の条件$$Hg_{i}=g_{i}H$$から,新たな群,商群が定義できる.これを$$G/H$$と標記する.商群の元となるのは,左(あるいは右)剰余類である:(左)剰余類の場合の積則を次のように定式化する: $$g_{i}H \cdot g_{j}H=g_{i}g_{j}H$$ ($$g_{i}g_{j}H=g_{k}H$$,ただし$$g_{i}g_{j}=g_{k}$$ )
可換性の条件は,$$g_{j}$$ を$$H$$ の右側から左側に移すときに使われた.$$g_{1}=e$$ とすると,有限指数$$j$$ の部分群に関する商群$$G/H$$ の乗積表は次のようになる:
$$\begin{array}{c|cccc}
& g_{1}H & g_{2}H & \ldots & g_{j}H \\[0mm]
\hline
g_{1}H & g_{1}H & g_{2}H & \ldots & g_{j}H \\[0mm]
g_{2}H & g_{2}H & g_{2}^{2}H & \ldots & g_{2}g_{j}H \\[0mm]
\ldots & \ldots & \ldots & \ldots & \ldots \\[0mm]
g_{j}H & g_{j}H & g_{j}g_{2}H & \ldots & g_{j}^{2}H
\end{array}$$
特に,商群$$(2/m)/2$$の乗積表は次のようである.
$$ \begin{array}{c|cc} & \left\{ 1,2 \right\} & \left\{ \overline{1},m \right\} \\[0mm] \hline \left\{ 1,2 \right\} & \left\{ 1,2 \right\} & \left\{ \overline{1},m \right\} \\[0mm] \left\{ \overline{1},m \right\} & \left\{ \overline{1},m \right\} & \left\{ 1,2 \right\} \end{array} $$
商群の概念は,群論において最も重要なものであり,無数の応用が存在する.群論におけるもう1つの重要な概念は,大きい群$$G=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots \right\} $$から小さい群$$F=\left\{ f_{1},f_{2}, \ldots \right\} $$ への準同型写像である.この写像は一方向で,次のように定義される:
$$g_{i} \to f_{i}, g_{j} \to f_{j}$$ なら $$g_{i}g_{j} \to f_{i}f_{j}$$
群が準同型なことは,記号$$G \to F$$ で標す.正規部分群$$H$$ に関する商群$$G/H$$は群$$G$$の準同型像であることを示すことができる:$$G \to G/H$$ これらの群の準同型は,群$$G$$の元$$g_{i}$$ を商群$$G/H$$ の元$$g_{i}H$$ に一方向に対応させることにより得られる:
$$g_{i} \to g_{i}H$$,$$g_{j} \to g_{j}H$$,$$g_{i}g_{j} \to g_{i}Hg_{j}H=g_{i}g_{j}H$$
このような対応の1方向性は,1つの剰余類が,$$G$$のいくつかの元と対応する.例えば,$$g_{1}^{*}=g_{i}h_{1}, g_{2}^{*}=g_{i}h_{2}, \ldots , g_{m}^{*}=g_{i}h_{m}$$ $$\left( h_{1}, h_{2}, \ldots , h_{m} \in H \vartriangleleft G, g_{i} \notin H, g_{i} \in G \right) $$が剰余類$$g_{j}H$$ に属することによる.
準同型対応があると,群$$G$$における積法則の研究を,小さい群$$G/H$$における積法則の研究に帰着させることが可能になる.
準同型写像は物理学で応用される群$$G$$の既約表現というものに関係がある.まずこれは演算子あるいは行列の群であつて,これらが準同型写像で表現している群$$G$$の積法則を保存しているような群である.
直積,半直積,条件積による群の拡大.
回転群の拡大としての結晶群.
与えられた部分群$$H$$を含む任意の群$$G$$を,$$H$$の拡大と呼ぶ.部分群(右剰余類)による展開を;
$$G=Hg_{1} \cup Hg_{2} \cup \ldots \cup Hg_{s}=\left\{ h_{1},h_{2}, \ldots ,h_{m} \right\} g_{1} \cup \left\{ h_{1},h_{2}, \ldots ,h_{m} \right\} g_{2} \cup \ldots $$
$$ \ldots \cup \left\{ h_{1},h_{2}, \ldots ,h_{m} \right\} g_{s}$$ (1)
とすると,展開から次のことがわかる.元 $$\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$が剰余類の代表系を作っているときは,群$$H$$の拡大$$G$$が存在する.これは次のことを意味する:
1°元$$h_{1}=g_{1}=e$$ は,$$G$$ にも$$H$$ にも共通な単位元である.従って,系$$\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$ の単位元でもある.
2°系$$\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$の元は,$$g_{j} \neq g_{l}$$ なら,剰余類$$Hg_{j} \neq Hg_{l}$$ すなわち任意の$$h_{i},h_{k} \in H$$ に対して,$$h_{i}g_{j} \neq h_{k}g_{l}$$ であるから,すべて異なる.
3°元$$h_{i}g_{j} \in Hg_{j}$$と$$h_{k}g_{l} \in Hg_{l}$$の積は,群$$G$$ の展開(1)に現れる或る1つの剰余類$$Hg_{q}$$ に含まれる.
条件1°,2°,3°は各剰余類から1つ1つ選んだ代表元の種々な組にも成り立つ.群$$H$$の同一の拡大$$G$$を導くこのようなすべての組を,我々は同値とみなす.群拡大定理*では,非同値な拡大$$G$$を作る非同値な代表系$$\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$ を見出す特別な方法が複数研究されているが,ここではその一部の紹介にとどめる.
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*この説明は,A.G.Kurosh(クローシュ)(1970)やM.Hall(ホール)(1959)の一般群論の教科書に見られる.結晶群の拡大に関するZassenhaus(ツァセンハウス)(1948)やAscher(アッシャー)およびJanner(ヤンネル)(1965-1969)の研究にも見られる.非正規の拡大はB.L.Van der Waerden(バンデルワルデン)とJ.J.Burckhardt (ブルックハルト)(1961),A.M.Zamorzaeb(ザモルザエフ)(1967), V.M.Busarkin(ブサルキン)とYu.M.Gorchakov(ゴルチャコフ)(1968),V.A.Koptsik(コプツィク)(1967)の研究に見られる; V.A.Koptsik, G.N.Kotzev, Zh.N.M.Kuzhukeev(1973)が英語版では追加された.
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最初に,もし展開(1)中の剰余類 を,積(2)が定義されている群の元$$\left\{ Hg_{1},Hg_{2}, \ldots ,Hg_{s} \right\} $$ とみなせるなら,条件1°,2°,3°は満たされていることに注意しよう.
$$Hg_{j} \cdot Hg_{l}=Hg_{q}$$ ($$Hg_{q} \neq Hg_{j} , Hg_{l}$$ ただし,$$g_{j}, g_{l} \neq g_{1}=e$$) (2)
非正規な拡大( $$H$$が群$$G$$の正規部分群でないとき)の一般の場合,これは剰余類の置換群となる.正規な拡大のときは,剰余類の代表元は条件1°,2°,3°の他に次の可換条件を満足しなければならない:
4° $$g_{j}H=Hg_{j}$$ または $$g_{j}Hg_{j}^{-1}=H$$
つまり,任意の$$h_{k} \in H$$ ,$$g_{j} \in G$$ に対して $$g_{j}h_{k}g_{j}^{-1} \in H$$
この場合,部分群$$H$$は$$G$$において不変あるいは正規となり,系$$\left\{ Hg_{1},Hg_{2}, \ldots ,Hg_{s} \right\} $$ は,商群$$G/H$$を作る.積則(2)は次のようになる.
$$Hg_{j} \cdot Hg_{l}=Hg_{j}g_{l}$$ (3)
剰余類の組が,積(2)あるいは(3)で群を作ると仮定すれば,条件3°は強められて,
$$h_{i}g_{j} \cdot h_{k}g_{l}=h_{p}g_{q} \in Hg_{q}$$ または $$ \in Hg_{j}g_{l}$$,ただし,$$h_{i}g_{j} \in Hg_{j}$$,$$h_{k}g_{l} \in Hg_{l}$$となる.
正規拡大の場合には,さらに進んだ結果が導かれる.元$$g_{j}$$を剰余類$$Hg_{j}$$に比較考察すると,各剰余類から1つづつ取った代表元の任意の組において,系$$\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$ は商群$$G/H$$と同型な群を作ることがわかる:
$$Hg_{j} \leftrightarrow g_{j} , Hg_{l} \leftrightarrow g_{l} , Hg_{j}g_{l} \leftrightarrow g_{j}g_{l}$$
同型の条件は,群\$$G$$の積則に現れる元の積$$g_{j}g_{l}=g_{n}$$ が,剰余類$$Hg_{n}$$ に属することを要請する.
$$g_{j}g_{l}=h_{jl,n}g_{n} \in Hg_{n}$$, $$h_{jl,n}=h_{1},h_{2}, \ldots ,h_{m} \in H$$, $$g_{n} \in \left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$
一般に,$$h_{jl,n} \neq h_{1}$$のとき,元$$h_{jl,n}g_{n} \notin \left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$である.還元積の法則
$$g_{j}g_{l}=h_{jl,n}g_{n} \equiv g_{n}\left( \textrm{mod}h_{jl,n} \right) $$,$$h_{jl,n} \in H$$
を導入する.すなわち,元$$h_{jl,n}g_{n}$$ と元$$g_{n}$$とを$$h_{jl,n}$$を法として合同と見ると,
還元積に関して,系$$\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$ は閉じている.つまり,$$H$$を法とする群$$ G(\textrm{mod}H ) $$を作っている.
剰余類の代表系への,すべての我々の要請は,法による(modulus)群の概念に統合される.正規の拡大の存在条件は,次のような形にまとめることができる.《群$$H \vartriangleleft G$$の拡大$$G$$は,もし剰余類の代表元の組が,商群$$G/H$$に同型な$$H$$を法とする群$$G(\textrm{mod}H)$$を作るならば,存在する.》 組$$\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$ の同値性の問題は,対応する群の同型の問題に帰着する.積の法則が違うために,群$$G(\textrm{mod}H) $$は一般には$$G$$ の部分群ではない.特に,もし,全係数が$$h_{jl,n} \equiv h_{1}$$ となるような,代表系を選ぶことができるなら,法による群は,普通の群$$G^{*}=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$ ($$G$$ の部分群)になる.群$$G$$は,このとき共型(symmorphic)と呼ばれる.もしそのような選択が不可能なときは,群$$G$$は非共型(nonsymmorphic)である.拡大$$G$$は群$$H$$ と群$$G(\textrm{mod}H)$$の《積》として作ることができる.全元$$h_{1},h_{2}, \ldots ,h_{m} \in H$$ を1つづつ元$$g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \in G(\textrm{mod}H)$$ に乗じて集めると集合$$G$$ が得られる:
$$G=\left\{ h_{1}g_{1},h_{2}g_{1}, \ldots ,h_{m}g_{1},h_{1}g_{2},h_{2}g_{2}, \ldots ,h_{m}g_{2},h_{1}g_{s},h_{2}g_{s}, \ldots ,h_{m}g_{s} \right\} $$ (4)
拡大を作るために利用した群において,唯一の共通元は
$$H \cap G(\textrm{mod}H)=h_{1}=g_{1}=e \in G$$ であることを思い出そう. $$G(\textrm{mod}H)$$ は$$G$$の部分群ではないので,拡大(4)を条件積と呼び次の記号を用いることにする.
$$G=H \bullet G(\textrm{mod}H), H \vartriangleleft G, G(\textrm{mod}H) \not\subset G, H \cap G(\textrm{mod}H)=e \in G$$ (5)
共型(symmorphic)群$$G$$に対しては,条件積(5)は法による群を普通の群
$$G^{*}=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$ ($$G$$の正規あるいは非正規な部分群)に入れ換えることにより作られ,さらに簡単な直積あるいは半直積となる.
2つの群の直積 $$G=H \otimes G^{*}, H \vartriangleleft G, G^{*} \vartriangleleft G, H \cap G^{*}=e \in G$$は,2連元$$h_{i}g_{j} \in G$$ に対する次の積則から定義される:
$$h_{i}g_{j} \otimes h_{k}g_{l}=h_{i}h_{k}g_{j}g_{l}$$,$$h_{i}h_{k} \in H$$, $$g_{j} , g_{l} \in G^{*}$$ (6)
半直積$$G=H \bullet G^{*}, H \vartriangleleft G, G^{*} \vartriangleleft G, H \cap G^{*}$$ は,積則:
$$h_{i}g_{j} \bullet h_{k}g_{l}=h_{i}h_{k}^{g_{j } }g_{j}g_{l} , h_{i}h_{k}^{g_{j } }=g_{j}h_{k}g_{j}^{-1} \in H , g_{j} , g_{l} \in G^{*}$$ (7)
で定義される.直積は(6)で,任意の2つの群$$H$$と$$G^{*}$$に対して完全に定義される;半直積は(7)に従い自己同型変換$$g_{j}h_{k}g_{j}^{-1}h_{f}$$ (すべての$$h_{k} \in H, g_{j} \in G^{*}$$ に対して)を求める問題として定義される.一般に,(5)-(7)のすべての場合にわたって,$$G(\textrm{mod}H)$$あるいは$$G^{*}$$は$$H$$に対して自己同型群である($$H \vartriangleleft G$$ を保つ:任意の$$h_{k} \in H, g_{j} \in G$$に対して $$g_{j}Hg_{j}^{-1} \in H$$).$$G^{*}$$の元を$$h_{1}g_{j} , h_{1}g_{l}$$の型で表すと,積則(6),(7)は部分群$$G^{*} \subset G$$ 内で積の閉性が保存されていることを確認できる: $$h_{1}g_{j} \cdot h_{1}g_{j}=h_{1}g_{j}g_{l}$$ なぜなら$$h_{1}^{g_{j } }=g_{j}h_{1}g_{j}^{-1} \equiv h_{1}$$
非共型(nonsymmorphic)群$$G$$は,元$$g_{j} \in G^{*}$$の部分を次のような新しい元で置き換えることにより,直積,半直積の型に作れる: $$g_{j}^{H}=\alpha _{j}g_{j} \equiv g_{j}(\textrm{mod}\alpha _{j})$$
$$g_{1}^{H}=\alpha _{1}g_{1} \equiv g_{1}(\textrm{mod}\alpha _{1}), g_{2}^{H}=\alpha _{2}g_{2} \equiv g_{2}(\textrm{mod}\alpha _{2}), \ldots , g_{s}^{H}=\alpha _{s}g_{s} \equiv g_{s}(\textrm{mod}\alpha _{s})$$ (8)
一般に,$$\alpha _{1} \equiv h_{1}$$であるが,合同式の法となる第1系の残りの係数は$$\alpha _{j} \notin H$$である.しかしながら,$$m$$を元$$g_{j}$$の位数とするとき,$$\left( \alpha _{j}g_{j} \right) ^{m}=\alpha _{j}^{m}g_{j}^{m}=h_{1}g_{1}, \alpha _{j}^{m}=h_{1} \in H$$となる. (8)の置き換えで,群$$G^{*}$$はすでに学んだ還元積による$$H$$を法とする同型な群$$G^{H}=\left\{ g_{1}^{H},g_{2}^{H}, \ldots ,g_{s}^{H} \right\} $$に変る*.
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*非共型(nonsymmmorphic)拡大$G$を得るための法による(modulus)群$$G(\textrm{mod}H)$$を$$G^{H}$$と記す.
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$$g_{j}^{H}g_{l}^{H}=h_{jl,n}g_{n}^{H} \equiv g_{n}^{H}(\textrm{mod}h_{jl,n})$$, $$h_{jl,n} \in H, g_{n}^{H} \in G^{H}$$ (9)
あるいは,直積と半直積にそれぞれ対応して
$$\left( \alpha _{j}g_{j} \right) \left( \alpha _{l}g_{l} \right) =\alpha _{j}\alpha _{l}g_{j}g_{l}=\alpha _{j}\alpha _{l}\alpha _{n}^{-1}\left( \alpha _{n}g_{n} \right) \equiv \left( \alpha _{n}g_{n} \right) \left( \textrm{mod}h_{jl,n} \right) $$ (9a)
$$\left( \alpha _{j}g_{j} \right) \left( \alpha _{l}g_{l} \right) =\alpha _{j}\alpha _{l}^{g_{j } }g_{j}g_{l}=\alpha _{j}\alpha _{l}^{g_{j } }\alpha _{n}^{-1}\left( \alpha _{n}g_{n} \right) \equiv \left( \alpha _{n}g_{n} \right) \left( \textrm{mod}h_{jl,n} \right) $$ (9b)
(9a)と(9b)から,合同式の法となる第2の係数系が求まる:
$$h_{jl,n}=\alpha _{j}\alpha _{l}\alpha _{n}^{-1}$$ および $$h_{jl,n}=\alpha _{j}\alpha _{l}^{g_{j } }\alpha _{n}^{-1}$$
ここで,$$\alpha _{j}^{g_{j } }=g_{j}\alpha _{l}g_{j}^{-1}=\alpha _{k}$$は,$$\alpha _{j}$$の自己同型共役元(automorphism transformations of the moduli)であり,$$\alpha _{k}g_{k}=g_{k}^{H} \in G^{H}$$, $$\alpha _{j}^{g_{j } }=\alpha _{j}$$ (定義から)となる.
群$$G^{H}$$において単位元の役割は元$$g_{1}^{H}=h_{1}g_{1}$$が果たす.逆元は,それぞれ,
$$\left( \alpha _{j}g_{j} \right) ^{-1}=\alpha _{j}^{-1}g_{j}^{-1}$$ および $$\left( \alpha _{j}g_{j} \right) ^{-1}=\left( \alpha _{j}^{-1} \right) ^{g_{j}^{-1 } }g_{j}^{-1}$$
量$$\alpha _{j}$$の系は,それ自身で,群$$G^{H}=\left\{ g_{1}^{H},g_{2}^{H}, \ldots ,g_{s}^{H} \right\} $$と同型な,$$h_{jl,n}$$を法とする群$$A^{H}=\left\{ \alpha _{1},\alpha _{2}, \ldots ,\alpha _{s} \right\} $$をつくることに注意しよう.元間の対応は: $$\alpha _{j} \longleftrightarrow g_{j}^{H}$$, $$\alpha _{l} \longleftrightarrow g_{l}^{H}$$および, $$\alpha _{j}\alpha _{l}=h_{jl,n}\alpha _{n} \equiv \alpha _{n}(\textrm{mod}h_{jl,n}) \longleftrightarrow g_{j}^{H}(\textrm{mod}h_{jl,n}) \equiv h_{jl,n}g_{n}^{H}=g_{j}^{H}g_{l}^{H}$$
これから,上記の式で用いた逆元記号が正当であるとわかる: $$\alpha _{j}\alpha _{j}^{-1}=\alpha _{j}^{-1}\alpha _{j}=\alpha _{1}=h_{1}$$
対応 $$g_{j}^{H}g_{l}^{H}=h_{jl,n}g_{n}^{H} \equiv g_{n}^{H}\left( \textrm{mod}h_{jl,n} \right) \longleftrightarrow g_{n}=g_{j}g_{l} \longleftrightarrow Hg_{n}=Hg_{j}g_{l}$$から導かれる群$$G^{H} \longleftrightarrow G^{*} \longleftrightarrow G/H$$の同型は,非共型(nonsymmorphic)拡大の存在を保証する.
非共型(nonsymmorphic)群を,2つの群の条件積(準積:условное произведениеquasi-product)で作ろう:
$$G=H \bigcirc G^{H}=$$
$$=\left\{ h_{1}\left( \alpha _{1}g_{1} \right) ,h_{2}\left( \alpha _{1}g_{1} \right) , \ldots ,h_{m}\left( \alpha _{1}g_{1} \right) , \ldots ,h_{1}\left( \alpha _{s}g_{s} \right) ,h_{2}\left( \alpha _{s}g_{s} \right) , \ldots ,h_{m}\left( \alpha _{s}g_{s} \right) \right\} $$ (10)
このとき条件直積(準直積:прямыхquasi-direct)$$ \odot $$と条件半直積(準半直積:полупрямых условных произведенийquasi-semidirect)$$ \bigcirc $$を区別して:
$$h_{i}\left( \alpha _{j}g_{j} \right) \odot h_{k}\left( \alpha _{l}g_{l} \right) =h_{i}h_{k}\left( \alpha _{j}g_{j} \right) \left( \alpha _{l}g_{l} \right) =h_{i}h_{k}h_{jl,n}\left( \alpha _{n}g_{n} \right) $$
$$h_{jl,n}=\alpha _{j}\alpha _{l}\alpha _{n}^{-1} \in H$$ (11)
$$h_{i}\left( \alpha _{j}g_{j} \right) \bigcirc h_{k}\left( \alpha _{l}g_{l} \right) =h_{i}h_{k}^{\left( \alpha _{j}g_{j} \right) }\left( \alpha _{j}g_{j} \right) \left( \alpha _{l}g_{l} \right) =h_{i}h_{k}^{\left( \alpha _{j}g_{j} \right) }h_{jl,n}\left( \alpha _{n}g_{n} \right) $$ (12)
ここで,$$h_{jl,n}=\alpha _{j}\alpha _{l}^{g_{j } }\alpha _{n}^{-1} \in H$$
$$h_{k}^{\left( \alpha _{j}g_{j} \right) }=\left( \alpha _{j}g_{j} \right) h_{k}\left( \alpha _{j}g_{j} \right) ^{-1}=h_{f} \in H$$ for all $$h_{k} \in H, \left( \alpha _{j}g_{j} \right) \in G^{H}$$
(11),(12)と(6),(7)を比較し,共型(symmorphic)群(4)のモデルから作られた非共型(nonsymmorphic)群(10)は,それと同型でないことがわかる.これは積則(11),(12)の中に同型を破る量$$h_{jl,n}$$が現れるからである†.
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†英語版注] (4)と(10)による群は,式(11),(12)で$$h_{jl,n} \equiv h_{1}\left( \textrm{mod}h_{jl,n} \right) $$なら,同型である.
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与えられた共型(symmorphic)群に関して,非共型(nonsymmorphic)群を実際に作ることは,法となる係数(congruence moduli)の第1系と第2系を決定することに帰着する(p207の文献).あまり大きくない位数の群$$G^{H}$$に対しては,もし同型群$$G^{*}$$の乗積表がわかっていて,$$\alpha _{j}$$が決まっているなら,係数$$h_{jl,n}$$の表は目の子選択で簡単に求めることができる.
表挿入
$$ \begin{array}{c|ccccc} G^{*} & g_{1} & \cdots & g_{l} & \cdots & g_{s} \\[0mm] \hline g_{1} & g_{1} & \cdots & g_{l} & \cdots & g_{s} \\[0mm] \vdots & \vdots & & \vdots & & \vdots \\[0mm] g_{j} & g_{j} & \cdots & g_{n} & \cdots & g_{p} \\[0mm] \vdots & \vdots & & \vdots & & \vdots \\[0mm] g_{s} & g_{s} & \cdots & g_{q} & \cdots & g_{r} \end{array}$$ $$\longrightarrow$$ $$\begin{array}{c|ccccc} h_{jl,n} & g_{1}^{H} & \cdots & g_{l}^{H} & \cdots & g_{s}^{H} \\[0mm] \hline g_{1}^{H} & h_{1} & \cdots & h_{1} & \cdots & h_{1} \\[0mm] \vdots & \vdots & & \vdots & & \vdots \\[0mm] g_{j}^{H} & h_{1} & \cdots & h_{jl,n} & \cdots & h_{js,p} \\[0mm] \vdots & \vdots & & \vdots & & \vdots \\[0mm] g_{s}^{H} & h_{1} & \cdots & h_{sl,q} & \cdots & h_{ss,r} \end{array} $$
表中に$$h_{1}$$が現れるのは,単位元への《法係数のない》積の結果である:
$$\left( \alpha _{j}g_{j} \right) \left( h_{1}g_{1} \right) =h_{j1,j} \times \left( \alpha _{j}g_{j} \right) =\left( \alpha _{j}g_{j} \right) $$, $$\left( h_{1}g_{1} \right) \left( \alpha _{j}g_{j} \right) =h_{1j,j}=\left( \alpha _{j}g_{j} \right) $$,
ただし,$$h_{j1,j}=h_{1j,j}=h_{1}$$,$$j=1,2, \ldots ,s$$
量$$h_{1}$$は,表中で,《係数のない》元$$g_{i}^{H} \equiv g_{i}$$, $$g_{k}^{H} \equiv g_{k}$$(このような元は全部で単位元$$g_{1}^{H} \equiv g_{1}$$とともに群$$G^{*}$$の部分群$$G_{1}^{*}$$を作る)の積に対応する行と列の交点に現れる.
表14挿入
表 14 回転群の拡大としての結晶点群
$$ \begin{array}{ccc} \hline 回転群 & 反転群 & 鏡映群 \\[0mm] \hline 1 & \bar{1}=1 \otimes \bar{1} & m=1 \otimes m \\[0mm] 2 & 2/m=2 \otimes \bar{1} & mm2=2 \otimes m \\[0mm] 3 & \bar{3}=3 \otimes \bar{1} & \bar{6}=3 \otimes m \\[0mm] - & - & 3m=3 \ominus m \\[0mm] 4=2 \odot 4\left( \textrm{mod}2 \right) & 4/m=4 \otimes \bar{1} & \bar{4}=2 \odot \bar{4}\left( \textrm{mod}2 \right) \\[0mm] - & - & 4mm=4 \ominus m \\[0mm] 6=3 \otimes 2 & 6/m=6 \otimes \bar{1} & 6mm=6 \ominus m \\[0mm] 222=2 \otimes 2 & mmm=222 \otimes \bar{1} & \bar{4}2m=222 \ominus m \\[0mm] 32=3 \otimes 2 & \bar{3}m=32 \otimes \bar{1} & \bar{6}m2=32 \otimes m \\[0mm] 422=4 \ominus 2=222 \ominus 2 & 4/mmm=422 \otimes \bar{1} & - \\[0mm] 622=6 \ominus 2=32 \otimes 2 & 6/mmm=622 \otimes \bar{1} & - \\[0mm] 23=222 \otimes 3 & m\bar{3}=23 \otimes \bar{1} & \bar{4}3m=23 \ominus m \\[0mm] 432=23 \ominus 2 & m\bar{3}m=432 \otimes \bar{1} & - \\[0mm] \hline \end{array} $$
(注意) 反転群でもなく対称心をもたない群は,鏡映群に分類した.
非正規拡大(noninvariant extensions реинвариантных расширений)の理論を残したが,32結晶群を回転群の拡大とみなし,直積,半直積,条件積への分解表を導いた.表14は全結晶群が8つの生成群の対の積によつて得られることを示している.
$$H=1,2,3, G^{*}=2,m,\overline{1}, G^{H}=4(\textrm{mod}2), \overline{4}(\textrm{mod}2)$$
これらのうち,法による群は次の乗積表で定義される.
$$ \begin{array}{c|cc} 4(\textrm{mod}2) & \texttt{1} & 4^{H} \\[0mm] \hline \texttt{1} & \texttt{1} & 4^{H} \\[0mm] 4^{H} & 4^{H} & 2 \equiv 1(\textrm{mod}2) \end{array} $$
$$ \begin{array}{c|cc} \overline{4}(\textrm{mod}2) & \texttt{1} & \overline{4}^{H} \\[0mm] \hline \texttt{1} & \texttt{1} & \overline{4}^{H} \\[0mm] \overline{4}^{H} & \overline{4}^{H} & 2 \equiv 1(\textrm{mod}2) \end{array} $$
これらの群($$4^{H}=4^{-1}2$$ と $$\overline{4}^{H}=4\overline{1}$$)の元$$g_{j}^{H}=\alpha _{j}g_{j}$$の積は,(9a)に従う:
$$\left( 4^{-1}2 \right) \left( 4^{-1}2 \right) =4^{-1}4^{-1}22=21 \equiv 1\left( \textrm{mod}2 \right) , \left( 4\overline{1} \right) \left( 4\overline{1} \right) =44\overline{1}\overline{1}=21 \equiv 1\left( \textrm{mod}2 \right) $$
更なる例を後に見ることになるが,生成群間の積の方法は,新しい群を導く効果的な手段であることがわかる.この節を終えるにあたり,もとの群と最後の群を結び付けている準同型および同型対応の図と正規拡大を得る道筋をを辿ってみよう(図204).
図204挿入
図204.
正規(不変)拡大の説明図に見られる群の間の準同型($$ \to $$)と同型($$ \leftrightarrow $$).
説明図$$G^{*} \leftrightarrow G/H \gets G$$に従い,任意の群$$G^{*}=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{s} \right\} $$を商群
$$G/H=\left\{ Hg_{1},Hg_{2}, \ldots ,Hg_{s} \right\} $$のモデルとして選び,$$H=\left\{ h_{1},h_{2}, \ldots ,h_{m} \right\} $$を準同型
$$G^{*} \gets G$$の核($$H$$は$$G$$の部分群で恒等元$$g_{1} \in G^{*}$$の上に写像される)として,共型拡大$$G=G \otimes G^{*}$$あるいは非共型拡大$$G=H \ominus G^{*}$$を作る.$$G/H$$において,元$$Hg_{i}$$を元の集合$$\left\{ h_{1}g_{i},h_{2}g_{i}, \ldots ,h_{m}g_{i} \right\} $$で置き換え,求める拡大$$G$$を得る:
$$ \left\{h_{1}g_{1}, \ldots ,h_{m}g_{1}, \ldots ,h_{1}g_{s}, \ldots ,h_{m}g_{s}\right\} $$
$$ \swarrow \searrow $$ (4)
$$ \left\{Hg_{1},Hg_{2}, \ldots ,Hg_{s}\right\}$$ $$\leftrightarrow$$ $$\left\{g_{1},g_{2}, \ldots g_{s}\right\} $$
ここで,群の間に必要な対応があることは,以下の写像:
$$h_{i}g_{j}\left( i=1,2, \ldots ,m \right) \to Hg_{j} \leftrightarrow g_{j}\left( j=1,2, \ldots g_{s} \right) $$
および,群$$G$$に対する積則(6),(7),$$G/H$$に対する積則(3)により確かめられる.
非共型群$$G=H \odot G^{H}$$または$$G=H \bigcirc G^{H}$$は,
置換$$G^{*} \longleftrightarrow G^{H}=G_{1}^{*}g_{i} \cup G_{1}^{*}g_{i+1}^{H} \cup \ldots \cup G_{1}^{*}g_{i+p}^{H}$$により得られ,$$G_{1}^{*}=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{i} \right\} $$は群$$G^{*}$$と$$G^{H}$$の共通部分群,元$$g_{i+1}^{H}=\alpha _{i+1}g_{i+1}, \ldots ,g_{i+p}^{H}=\alpha _{i+p}g_{i+p}$$, $$p + i=s/i$$は部分群$$G_{1}^{*}$$の指数(法による群$$G^{H}$$の$$G_{1}^{*}$$に関する展開における)である.置換$$G^{*} \longleftrightarrow G^{H}$$は,共型群(4)を非共型群(10)に,積則(6),(7)を(11),(12)に換える.ダイヤグラム中で,群$$G^{*}$$と$$G^{H}$$の元は同じ記号$$h_{i}g_{j}$$で標記する:元の間の対応は$$h_{i}g_{j} \longrightarrow Hg_{j} \longleftrightarrow g_{j}$$同様に標記される円のセクター間の対応に反映される.$$g_{1}=h_{1}=e$$であるので,群$$\overline{G}^{*}=\left\{ h_{1}g_{1},h_{1}g_{2}, \ldots ,h_{1}g_{s} \right\} $$は,$$G^{*}$$と同一で群$$\overline{H}=\left\{ h_{1}g_{1},h_{2}g_{1}, \ldots ,h_{m}g_{1} \right\} $$は$$H$$と同一である.
空間群:Fedorov(フェドロフ)群$$\mit\Phi $$
―並進群$$T$$の結晶点群$$G$$あるいは結晶点群に同型な$$T$$を法とする群$$G^{T}$$による拡大-
前節の若干抽象的な議論を,具体例を考察して,明確にして行こう.具体例は,一般理論の発展への糸口となる.このように,3次元離散体の空間群(Fedorov群)$$\mit\Phi $$は,並進群$$T$$の結晶点群$$G$$あるいは$$G$$に同型な$$T$$を法とする群$$G^{T}$$による正規拡大であることを示そう.
3次元離散体中に単純ベクトル基底$$\left\{ a,b,c \right\} $$をとる.これらは,一般に斜交し,並進軸は$$a,b,c$$その座標は$$ \tilde{X}_{1}, \tilde{X}_{2}, \tilde{X}_{3} $$である.空間格子は,整数座標を持つ点すなわち並進等価な点の系[訳注:格子点]として定義される.格子を自分自身に重ねる任意の並進は,座標原点$$\left( 0,0,0 \right) $$から整数座標の点$$(m_{1},m_{2},m_{3})$$への移動に対応する.言い換えれば,任意の並進は,次のベクトル$$\tau $$で記述される.
$$\tau =m_{1}a_{1}+m_{2}a_{2}+m_{3}a_{3}$$; $$a_{1}=a, a_{2}=b, a_{3}=c$$ $$\left( k=1,2,3; m_{k}=0, \pm 1, \pm 2, \ldots \right) $$
このようなベクトルの無限集合$$T=\left\{ m_{k}a_{k} \right\} $$は,数学概念での群(離散体に対する並進群)を形成する.群の演算としてベクトルの加算をとれば,集合$$T$$が4つの群公理(p201参照)を満たすことを確かめるのは容易である.
Ⅰ.引き続く2つの並進$$\tau _{i}, \tau _{j}$$は,ベクトル$$\tau _{i}+\tau _{j}=\tau _{k}$$の格子への並進と等価である: ベクトル$$\tau _{i}, \tau _{j}$$が集合$$T$$に属するなら,ベクトル$$\tau _{k}$$は集合$$T$$に属する.
Ⅱ.ベクトルの加算演算は,結合的である: $$\left( \tau _{i}+\tau _{j} \right) +\tau _{k}=\tau _{i}+\left( \tau _{j}+\tau _{k} \right) $$
Ⅲ.群の単位元は,ゼロベクトルである:$$\tau _{i}+0=0+\tau _{i}=\tau _{i}$$
Ⅳ.集合$$T$$の各ベクトル$$\tau _{i}$$に対して,逆ベクトル$$\tau _{i}^{-1}=-\tau _{i}$$を定義でき,$$\tau _{i}+\left( -\tau _{i} \right) =-\tau _{i}+\tau _{i}=0$$
この節の冒頭に掲げた定理の証明には,各ベクトル$$\tau _{i} \in T$$を並進の演算子$$\left[ E|\tau _{i} \right] $$[訳注:Seitz(ザイツ)演算子といわれるもので,[カッコ]内の縦線の左は点群の対称操作を示し,$$E$$は単位元である.縦線の右側は並進操作を示す]に対応させ,べクトル群\$$T$$からこれに同型な演算子群へ移行するのがよい.ベクトルの《積》[訳注:加算のこと]$$\tau _{i}+\tau _{j}$$は,演算子$$\left[ E|\tau _{i} \right] \left[ E|\tau _{j} \right] =\left[ E|\tau _{i}+\tau _{j} \right] $$に対応する.ゼロベクトルは恒等操作$$\left[ E|0 \right] $$,逆ベクトルは逆操作$$\left[ E|\tau _{i} \right] ^{-1}=\left[ E|-\tau _{i} \right] $$に対応する.3次元空間の任意のベクトル$$r=x_{1}a_{1}+x_{2}a_{2}+x_{3}a_{3}$$に,演算子$$\left[ E|\tau \right] $$を作用させると,ベクトル$$r ' =x_{1} ' a_{1}+x_{2} ' a_{2}+x_{3} ' a_{3}$$に変換され;
$$r ' =\left[ E|\tau \right] r=r+\tau $$
座標$$(x_{1}, x_{2}, x_{3})$$の点は,点$$(x_{1} ' , x_{2} ' , x_{3} ' )$$に変換される:$$x_{1} ' =x_{1}+m_{1}$$, $$x_{2} ' =x_{2}+m_{2}$$, $$x_{3} ' =x_{3}+m_{3}$$
ここで,$$m_{1}, m_{2}, m_{3}$$はベクトル$$\tau $$の整数座標である.
並進群$$T$$の記述が出来たので,同様に,格子の結晶点群$$G$$に対してもこれを行おう.すなわち,各変換$$g \in G$$に,行列要素$$D_{ij}=\textrm{cos}\left( X_{i} ' , X_{j} \right) $$をもつ直交行列$$D(g)$$を対応させ,結晶群$$2/m$$に対しP.203で行ったと同様に,格子の結晶点群に同型な直交演算子あるいは直交行列の群を作ろう.
直交行列$$D(g)$$を作るには,直交基底$$\left\{ e_{1},e_{2},e_{3} \right\} $$をもつデカルト座標系$$X_{1}, X_{2}, X_{3}$$を用いる.これは,定めた規則(表20参照)により,斜交軸$$\tilde{X}_{1} , \tilde{X}_{2} , \tilde{X}_{3}$$に関係つけられる.直交デカルト座標系では,格子点は,一般に整数座標になるとは限らない.もし,$$\tau =\tau _{1}e_{1}+\tau _{2}e_{2}+\tau _{3}e_{3}$$なら,並進の変換は,$$x_{1} ' =x_{1}+\tau _{1} , x_{2} ' =x_{2}+\tau _{2} , x_{3} ' =x_{3}+\tau _{3}$$と書ける.軸が一致すれば,$$X_{i}=\tilde{X}_{i}$$基底は$$e_{i}=a_{i}$$, 座標は$$\tau _{i}=m_{i} (i=1,2,3)$$である.
演算子$$\left[ D(g)|0 \right] $$あるいは簡潔に$$\left[ D|0 \right] $$は,行列$$D(g)$$に等価で,任意のベクトル$$r=x_{1}e_{1}+x_{2}e_{2}+x_{3}e_{3}$$に作用すると,$$r ' =x_{1} ' e_{1}+x_{2} ' e_{2}+x_{3} ' e_{3}=\left[ D|0 \right] r=Dr$$に変換し,点$$x_{1}, x_{2}, x_{3}$$は,座標$$\left( x_{1},x_{2},x_{3} \right) $$の列ベクトルを行列$$D$$に乗じて得られる点$$\left( x_{1} ' ,x_{2} ' ,x_{3} ' \right) $$に変換する.基底ベクトルの列ベクトルは,変換$$\left[ D|0 \right] $$のとき,$$D$$で行と列を入れ替えた転置行列$$\tilde{D}$$に乗じられることに注意せよ: $$x_{i} ' =D_{ij}x_{j}$$なら, $$e_{j} ' =D_{ij}e_{i}$$
[訳注)複数回現れる添え字は,1,2,3について和をとる]
離散体の共型(symmorphic)空間群($$\mit\Phi _{sym}$$と記す)は,$$T$$-群と$$G$$-群のそれぞれの変換を含むほか,それらの結合された演算も含む.離散体の《回転》$$\left[ D|0 \right] $$とそれに引き続き並進$$\left[ E|\tau \right] $$を行うと,結合された変換(運動)に対応する演算子$$\left[ D|\tau \right] =\left[ E|\tau \right] \left[ D|0 \right] $$になる.これは,3次元空間座標の線形非斉次(линейные неоднородные linear inhomogeneous)変換である.
$$x_{1} ' =D_{11}x_{1}+D_{12}x_{2}+D_{13}x_{3}+\tau _{1}$$
$$x_{2} ' =D_{21}x_{1}+D_{22}x_{2}+D_{23}x_{3}+\tau _{2}$$
$$x_{3} ' =D_{31}x_{1}+D_{32}x_{2}+D_{33}x_{3}+\tau _{3}$$
あるいは,演算子の形式では,座標の列をベクトルで置き換え,この線形非斉次方程式系は,(13)のように書ける:
$$ r '=\left[ D|\tau \right]r=Dr+\tau $$ (13)
運動を記述する2つの演算の積(引き続く実行)は(14)となる:
$$\left[ D_{j}|\tau _{i} \right] \left[ D_{l}|\tau _{k} \right] =\left[ D_{j}D_{l}|D_{j}\tau _{k}+\tau _{i} \right] $$ (14)
この公式が正しいことは,格子の図を描き,任意の注目点の移動を追えば,幾何学的に確かめることができる: 運動演算子の積では,右側の因子の2つの部分(《回転》と並進)は左にある演算子の行列$$D_{j}$$が乗じられ,積の並進部分には左側の因子のベクトル$$\tau _{i}$$が加えられる(行列の順序$$D_{j}D_{l}$$が本質的に重要!).
[訳注:右側の演算を先に行うので,左側にある演算は右側の演算結果に作用する]
空間群$$\mit\Phi _{sym}$$は,群$$T$$の群$$G$$による拡大であることを確かめるには,この具体的な群が前節の抽象群と同型であることを示せば十分である.群$$\mit\Phi _{sym}$$の全ての変換演算子は,
$$\mit\Phi_{sym}=\left\{ \left[ D_{1}|\tau _{1} \right] ,\left[ D_{2}|\tau _{1} \right] , \ldots ,\left[ D_{s}|\tau _{1} \right] ,\left[ D_{1}|\tau _{2} \right] ,\left[ D_{2}|\tau _{2} \right] , \ldots , \right. $$
$$\left[ D_{s}|\tau _{2} \right] , \ldots ,\left[ D_{1}|\tau _{m} \right] , \left[ D_{2}|\tau _{m} \right] , \ldots ,\left[ D_{s}|\tau _{m} \right] \left. , \ldots \right\} $$
これは式(4)に従い,並進群と結晶点群にそれぞれ同型な2つの群$$T$$および群$$G$$の対よりなる結合された演算$$\left( \left[ E|\tau _{i} \right] \left[ D_{j}|0 \right] =\left[ D_{j}|\tau _{i} \right] \right) $$で得られる:
$$T=\left\{ \left[ E|\tau _{1} \right] ,\left[ E|\tau _{2} \right] , \ldots ,\left[ E|\tau _{m} \right] , \ldots \right\} $$,$$G=\left\{ \left[ D_{1}|0 \right] ,\left[ D_{2}|0 \right] , \ldots ,\left[ D_{s}|0 \right] \right\} $$
生成群$$T, G$$は,唯一つの共通元,恒等元$$\left[ E|0 \right] (\tau _{1}=0, D_{1}=E$$とすればわかる)をもつ.群$$\mit\Phi _{sym}$$, $$T, G$$は,前節の(抽象)群$$G, H, G^{*}$$に対する幾何学的具体化と呼ぶことが出来る.元の対応は:
$$\left[ D_{j}|\tau _{i} \right] =\left[ E|\tau _{i} \right] \left[ D_{j}|0 \right] \leftrightarrow h_{i}g_{j} \in G$$
$$\left[ E|\tau _{i} \right] \leftrightarrow h_{i} \in H$$
$$\left[ D_{j}|0 \right] \leftrightarrow g_{j} \in G^{*}$$
それぞれの積則は,(14),(7)で,これらの群は同型であることがわかる.
式(14)を(7)の型に書き,$$\left( \left[ E|\tau _{i} \right] \left[ D_{j}|0 \right] \ominus \left[ E|\tau _{k} \right] \left[ D_{l}|0 \right] \right) =\left[ E|\tau _{i} \right] \left[ E|\tau _{k} \right] ^{\left[ D_{j}|0 \right] }\left[ D_{j}|0 \right] \left[ D_{l}|0 \right] $$
自己同型(автоморфизм, automorphism)は,$$\left[ E|\tau _{k} \right] ^{\left[ D_{j}|0 \right] }=\left[ D_{j}|0 \right] \left[ E|\tau _{k} \right] \left[ D_{j}^{-1}|0 \right] =\left[ E|D_{j}\tau _{k} \right] $$ と計算される.群$$T$$は空間群$$\mit\Phi _{sym}$$の正規部分群であるから,任意の$$\left[ D_{j}|\tau _{i} \right] \in \mit\Phi $$と$$\left[ E|\tau _{k} \right] \in T$$に対し,群$$T$$は自分自身上へ変換され:$$\left[ D_{j}|\tau _{i} \right] T\left[ D_{j}^{-1}|-D_{j}^{-1}\tau _{i} \right] =T, \left[ E|D_{j}\tau _{k} \right] \in T$$)であり, 他方,(14)則は運動の演算の半直積に対応する.$$\left[ E|\tau _{k} \right] ^{\left[ D_{j}|0 \right] }=\left[ E|D_{j}\tau _{k} \right] $$を等式の右辺へ代入し,群$$T$$と群$$G$$で積則に従い,すべての演算子を乗じ,$$\left[ E|D_{j}\tau _{k}+\tau _{i} \right] \left[ D_{j}D_{i}|0 \right] =\left[ D_{j}D_{i}|D_{j}\tau _{k}+\tau _{i} \right] $$を得る.こうして,共型空間群は並進群$$T$$と格子の自己同型の点群$$G$$(あるいはその部分群)との半直積であることがわかった:$$\mit\Phi _{sym}=T \ominus G$$ [訳注:$$G^{*}$$の替りに$$G$$と書く].
格子$$T$$の各計量系は,もとの群だけではなく,$$G$$の部分群(Table20と比較せよ)によっても保存される.7つのケースでは,積$$T \ominus G$$は因子の対称要素の相互方位に依存する*.これに注意して,14の並進群$$T$$(Fig..191を見よ)と32の結晶群$$G$$(Fig..69)の半直積により,73の共型群$$\mit\Phi _{sym}=T \ominus G$$が得られる.結果は,すでに表12に示したものである.
拡大理論の基礎定理に従い(p.208、図.204を見よ)、空間群$$\mit\Phi _{sym}=T \ominus G$$の存在は,群間の同型対応(изоморфизм, isomorphism)と準同型対応(гомоморфизм,homomorphism)の結果で,群は以下を満たす:
$$\mit\Phi _{sym}=\left\{ \left[ D_{j}|\tau _{i} \right] \right\} $$
$$ \swarrow \searrow $$
$$\mit\Phi /T=\left\{ T\left[ D_{j}|0 \right] \right\} \leftrightarrow \left\{ \left[ D_{j}|0 \right] \right\} =G$$
もし,例えば,共型群$$P2/m$$を,並進群$$P=\left\{ \left[ E|\tau _{i} \right] \right\} $$に関し,剰余類に分解すると,
$$P2/m=\left\{ \left[ E|\tau _{i} \right] \right\} \left[ D(1)|0 \right] \cup \left\{ \left[ E|\tau _{i} \right] \right\} \left[ D(2)|0 \right] $$
$$ \cup \left\{ \left[ E|\tau _{i} \right] \right\} \left[ D(\overline{1})|0 \right] \cup \left\{ \left[ E|\tau _{i} \right] \right\} \left[ D(m)|0 \right] $$
あるいは,もっと単純な表記法で,$$ \dagger $$ $$P2/m=P1+P2+P\overline{1} +Pm$$
剰余類(商群 の元)の乗積表と群 の演算は同一の構造 [訳注:同型対応]であることがわかる:
$$ \begin{array}{c|cccc} P2/m/P & P1 & P2 & P\overline{1} & Pm \\[0mm] \hline P1 & P1 & P2 & P\overline{1} & Pm \\[0mm] P2 & P2 & P1 & Pm & P\overline{1} \\[0mm] P\overline{1} & P\overline{1} & Pm & P\overline{1} & P2 \\[0mm] Pm & Pm & P\overline{1} & P2 & P1 \end{array} $$ $$ \longleftrightarrow $$ $$ \begin{array}{c|cccc} 2/m & 1 & 2 & \overline{1} & m \\[0mm] \hline 1 & 1 & 2 & \overline{1} & m \\[0mm] 2 & 2 & 1 & m & \overline{1} \\[0mm] \overline{1} & \overline{1} & m & 1 & 2 \\[0mm] m & m & \overline{1} & 2 & 1 \end{array} $$
もう一つ明らかなのは,準同型対応(homomorphism) $$P2/m \longrightarrow 2/m$$であり,
ここでは,空間群$$P2/m$$の並進等価("平行")な対称要素 $$2,m,\overline{1}$$の無限族は,その生成群となった点群$$2/m$$の要素$$2,m,\overline{1}$$に写像される(すべての並進$$\tau \in P$$は恒等元$$1 \in 2/m$$に写像される).
非共型群$$\mit\Phi _{nsym}$$は,その共型なモデル$$\mit\Phi_{sym}=T \ominus G$$から,点群$$G$$を同型な$$T$$を法とする群$$G^{T}$$で置き換えて得られる.
$$ \mit\Phi_\textrm{nsym}={\{}\left[ D_{1}|\alpha _{1}+\tau _{1} \right] ,\left[ D_{2}|\alpha _{2}+\tau _{1} \right] , \ldots ,\left[ D_{s}|\alpha _{s}+\tau _{1} \right] , \ldots $$
$$ \ldots,[D_{1}|\alpha_{1}+\tau_{m}],[ D_{2}|\alpha_{2}+\tau_{m}], \ldots,[ D_{s}|\alpha_{s}+\tau_{m}], \ldots \right\} $$
群$$\mit\Phi _{\textrm{nsym } }$$は,2つの群の元の対$$\left( \left[ E|\tau _{i} \right] \left[ D_{j}|\alpha _{j} \right] =\left[ D_{j}|\alpha _{j}+\tau _{i} \right] \right) $$よりなる元(演算子)の系である.
$$T=\left\{ \left[ E|\tau _{1} \right] ,\left[ E|\tau _{2} \right] , \ldots ,\left[ E|\tau _{m} \right] , \ldots \right\} $$ $$ G^{T}=\left\{ \left[ D_{1}|\alpha _{1} \right] ,\left[ D_{2}|\alpha _{2} \right] , \ldots ,\left[ D_{s}|\alpha _{s} \right] \right\} $$
非共型群の演算に対する積則は,規則(14)の一般化である:
$$\left[ D_{j}|\alpha _{j}+\tau _{i} \right] \left[ D_{l}|\alpha _{l} + \tau _{k} \right] =\left[ D_{j}D_{l}|D_{j}\alpha _{l}+D_{j}\tau _{k}+\alpha _{j} + \alpha _{i} \right] $$ (15)
この積則で,集合$$\mit\Phi _{nsym}$$は群をなす.群$$\mit\Phi _{nsym}$$中で,恒等元$$\left[ D_{1}|\alpha _{1} + \tau _{1} \right] \equiv \left[ E|0 \right] $$と逆元$$\left[ D_{j}|\alpha _{j}+\tau _{i} \right] ^{-1}=\left[ D_{j}^{-1}|-D_{j}^{-1}\alpha _{j}-D_{j}^{-1}\tau _{i} \right] $$
が定義される.部分群$$T \subset \mit\Phi_{nsym}$$の不変性は自己同型(автоморфизм,automorphism)変換から導かれる.
$$\left[ D_{j}|\alpha _{j}+\tau _{i} \right] \left[ E|\tau _{k} \right] \left[ D_{j}^{-1}|-D_{j}^{-1}\alpha _{j}-D_{j}^{-1}\tau _{i} \right] =\left[ E|D_{j}\tau _{k} \right] $$
群$$G^{T}$$と$$G$$の同型対応は,以下の元の対応*と
$$\left[ D_{1}|0 \right] \leftrightarrow \left[ D_{1}|0 \right] , \ldots ,\left[ D_{i}|0 \right] \leftrightarrow \left[ D_{i}|0 \right] $$
$$\left[ D_{i+1}|\alpha _{i+1} \right] =\left[ E|\alpha _{i+1} \right] \left[ D_{i+1}|0 \right] \leftrightarrow \left[ D_{i+1}|0 \right] $$,
$$ \ldots ,\left[ D_{s}|\alpha _{s} \right] =\left[ E|\alpha _{s} \right] \left[ D_{s}|0 \right] \leftrightarrow \left[ D_{s}|0 \right] $$
集合$$G^{T}$$に,還元積則
$$\left[ D_{j}|\alpha _{j} \right] \left[ D_{l}|\alpha _{l} \right] =\left[ E|\tau _{jl,n} \right] \left[ D_{n}|\alpha _{n} \right] \equiv \left[ D_{n}|\alpha _{n} \right] \left( \textrm{mod}\left[ E|\tau _{jl,n} \right] \right) $$ (16)
を導入することで,保証される.
ここで,量$$\left[ E|\tau _{jl,n} \right] $$は,合同式の法の第2系(вторую систему модулей сравнения second system of congruence moduli)を構成する.演算子は$$\left[ E|\alpha _{i+1} \right] , \ldots ,\left[ E|\alpha _{s} \right] \notin T$$である.
群$$G^{T}$$の演算子を$$\left[ E|\alpha _{j} \right] \left[ D_{j}|0 \right] $$の形式で書き,前節の(抽象)群$$G^{H}$$の元$$g_{j}^{H}=\alpha _{j}g_{j}$$と比較し,(16)は(9b)に相当することを見出す.同様に,元の比較
$$\left[ D_{j}|\alpha _{j}+\tau _{i} \right] =\left[ E|\tau _{i} \right] \left[ D_{j}|\alpha _{j} \right] \leftrightarrow h_{i}\left( \alpha _{j}g_{j} \right) $$
により,(15)は(12)に対応する.すなわち,群$$\mit\Phi _{nsym}$$は,抽象群$$G_{nsym}=H \bigcirc G^{H}$$の幾何学的具体化である.具体形で記述される図204の三角関係を用い
$$\mit\Phi _{nsym}=\left\{ \left[ D_{j}|\alpha _{j} + \tau _{i} \right] \right\} $$
$$ \swarrow \searrow $$
$$\mit\Phi /T=\left\{ T\left[ D_{j}|\alpha _{j} \right] \right\} \leftrightarrow \left\{ \left[ D_{j}|\alpha _{j} \right] \right\} =G^{T} \leftrightarrow G=\left\{ \left[ D_{j}|0 \right] \right\} $$
非共型空間群は,条件半直積で作られる$$\mit\Phi _{nsym}=T \bigcirc G^{T}$$ことがわかる.
ある共型群で,群$$G$$を$$T$$を法とする群$$G^{T}$$で置き換え,導かれる非共型群$$\mit\Phi _{nsym}=T \bigcirc G^{T}$$は,商群が同一の結晶点群に同型である類縁の群の系列を形成する.$$2/m$$の系列を考察に選ぶとすれば,非共型群$$P2_{1}/m, P2/b, P2_{1}/b$$の剰余類による標準的分解は,次のようになる(ここでは,剰余類が$$P2_{1}$$,等々と標記されている.空間群の場合も同じ標記をしたので混乱しないように注意せよ!)
$$P2_{1}/m=P1+P2_{1}+P\overline{1} +Pm$$
$$P2/b=P1+P2+P\overline{1} +Pb$$
$$P2_{1}/b=P1+P2_{1}+P\overline{1} +Pb$$
これらの群の並進部分群に関する商群,すなわち$$P2_{1}/m/P, P2/b/P, P2_{1}/b/P$$の乗積表
$$ \begin{array}{c|cccc} & P1 & P2_{1} & P\overline{1} & Pm \\[0mm] \hline P1 & P1 & P2_{1} & P\overline{1} & Pm \\[0mm] P2_{1} & P2_{1} & P1 & Pm & P\overline{1} \\[0mm] P\overline{1} & P\overline{1} & Pm & P1 & P2_{1} \\[0mm] Pm & Pm & P\overline{1} & P2_{1} & P1 \end{array} $$ $$ \leftrightarrow $$
$$ \begin{array}{c|cccc} & P1 & P2 & P\overline{1} & Pb \\[0mm] \hline P1 & P1 & P2 & P\overline{1} & Pb \\[0mm] P2 & P2 & P1 & Pb & P\overline{1} \\[0mm] P\overline{1} & P\overline{1} & Pb & P1 & P2 \\[0mm] Pb & Pb & P\overline{1} & P2 & P1 \end{array} \leftrightarrow $$
$$ \begin{array}{c|cccc} & P1 & P2_{1} & P\overline{1} & Pb \\[0mm] \hline P1 & P1 & P2_{1} & P\overline{1} & Pb \\[0mm] P2_{1} & P2_{1} & P1 & Pb & P\overline{1} \\[0mm] P\overline{1} & P\overline{1} & Pb & P1 & P2_{1} \\[0mm] Pb & Pb & P\overline{1} & P2_{1} & P1 \end{array} $$
は,実際に,点群\$$2/m$$の乗積表と同一の構造を持つ.証明には,群$$\mit\Phi $$の標準分解で,固定した単位胞に属する各対称元要素が,剰余類$$Tg_{i}$$の代表元となる演算子$$g_{i}$$に対応していることに注意しよう.共型群$$P2/m$$では,標準のセットは,例えば,点群$$2/m$$の単位胞の左上角(原点とする)を通過する対称要素(元)を含んでいる.非共型群$$P2_{1}/m, P2/b, P2_{1}/b$$では,これらの元は,一般には単一点を通過しないので,できるだけ原点に近いもの(これらの群の投影は,図214ですべての対称元が同一色であれば,それらと同型な色群に一致する)を選ぶと都合が良い.このように,非共型群の分解における,代表元$$g_{j}^{T}$$の選出法を固定し,それらの演算子$$[D_{j}|\alpha _{j}]=[E|\alpha _{j}][D_{j}|0]$$を比較しよう.
共型群$$P2/m$$の標準セットの演算子$$[D_{j}|0]$$に一致するようにこれらの"基底"演算子の直交部分$$[D_{j}|0]$$を選ぶ.言い換えると,非共型群では,実あるいは虚の対称面と軸が,共型群でと同様,非共型胞で同一位置を占めるとし直交変換$$[D_{j}|0]$$を実行するが,引き続き次に,これらを変換$$[E|\alpha _{j}]$$で補う.簡潔に言えば,演算子$$[D_{j}|\alpha _{j}]$$中で記号$$D_{j}$$を$$g_{j}$$で置き換え,展開をあらわな演算子の形式で,剰余類$$Pg_{j}^{T}=\left\{ [E|\tau _{i}] \right\} [D_{j}|\alpha _{j}]$$書ける:
$$P1=P\left[ 1|0 \right] , P2_{1}=P\left[ 2|\displaystyle \frac{c}{2} \right] , P\overline{1}=P\left[ \overline{1}|0 \right] , Pm=P\left[ m|\displaystyle \frac{c}{2} \right]$$ for $$P2_{1}/m$$
$$P1=P\left[ 1|0 \right] , P2=P\left[ 2|\displaystyle \frac{b}{2} \right] , P\overline{1}=P\left[ \overline{1}|0 \right] , Pb=P\left[ m|\displaystyle \frac{b}{2} \right] $$ for $$P2/b$$
$$P1=P\left[ 1|0 \right] , P2_{1}=P\left[ 2|\displaystyle \frac{b+c}{2} \right] , P\overline{1}=P\left[ \overline{1}|0 \right] , Pb=P\left[ m|\displaystyle \frac{b+c}{2} \right] $$ for $$P2_{1}/b$$
ここで,$$a,b,c$$は並進群$$P$$の基底ベクトルを示す. 基底演算子のあらわな形$$[D_{j}|\alpha _{j}]=[E|\alpha _{j}][D_{j}|0]$$は第1系の合同式の法となる係数の特定な集合セット$$[E|\alpha _{j}]$$を作る.(15),(16)を用い,法則(3)による剰余類のクロス積を行うと,
$$P[D_{j}|\alpha _{j}] \cdot P[D_{l}|\alpha _{l}]=P[D_{j}|\alpha _{j}][D_{l}|\alpha _{l}]$$
$$=P[D_{j}D_{l}|D_{j}\alpha _{l}+\alpha _{j}]=P[E|\tau _{jl,n}][D_{n}|\alpha _{n}]$$ (17)
商群の乗積表と,それと同時に合同式の法の第2系$$[E|\tau _{jl,n}]$$の正当性とが納得できる.例えば,2つの剰余類の積$$P2_{1} \cdot Pb$$,これは商群$$P2_{1}/b/P$$の元が,
$$P2_{1} \cdot Pb=P\left[ 2 \mid \displaystyle \frac{b+c}{2} \right] \cdot P\left[ m|\displaystyle \frac{b+c}{2} \right] =P\left[ 2m|\overline{2} \cdot \left( \displaystyle \frac{b+c}{2} \right) +\displaystyle \frac{b+c}{2} \right] $$
$$=P\left[ \overline{1}|\displaystyle \frac{-b+c}{2}+\displaystyle \frac{b+c}{2} \right] =P[\overline{1}|c]=P[1|c][\overline{1}|0]=P\overline{1}$$
などであることを見出す. ここで,$$c$$軸の周りの180°の回転はベクトル$$c$$を保存するがベクトル$$b$$は逆になるので,$$\hat{2} \cdot \left( \left( b+c \right) /2 \right) =\left( -b+c \right) /2$$である.積$$\hat{2}_{1} \cdot b=\left[ \overline{1}|c \right] $$は剰余類の代表系を構成する.
$$\left\{ 1,2_{1},\overline{1},b \right\} =\left\{ \left[0\right] ,\left[ 2|\left(b+c \right) /2 \right] ,\left[ \overline{1}|0\right] ,\left[ m|\left(b+c\right) /2 \right] \right\} $$
演算子の基底セットには属さず,これは(16)のために,係数の系$$\left[ 1|c \right] $$を用い:
$$ [\overline{1}|c]=\left[ 1|c \right] [\overline{1}|0] \equiv [\overline{1}|0]\left( \textrm{mod}[1|c] \right) $$
しかし,我々の特殊な場合は,$$j=2_{1}, l=b, n=\overline{1}$$
$$[E|\tau _{jl,n}]=[E|\tau _{2_{1}b,\overline{1 } }]=[1|c]$$
同様に,合同式の法の第2の系数を見つけることが出来る.別の表にcongruence合同関係の法$$[E|\tau _{jl,n}]$$の並進部分を書き出すことが出来る.それらに(16)を用い,係数$$2_{1}/b=\left\{ 1,2_{1},\overline{1},b\right\} $$により,群の乗積表を見出し,群$$2_{1}/b$$は群$$2/m$$に同型であることを確認できる.
$$ \begin{array}{c|cccc} \tau _{jl,n} & 1 & 2_{1} & \overline{1} & b\\[0mm] \hline 1 & 0 & 0 & 0 & 0 \\[0mm] 2_{1} & 0 & c & 0 & c \\[0mm] \overline{1} & 0 & -(b+c) & 0 & -(b+c) \\[0mm] b & 0 & b & 0 & b \end{array} $$
$$ \begin{array}{c|cccc} 2_{1}/b & 1 & 2_{1} & \overline{1} & b \\[0mm] \hline 1 & 1 & 2_{1} & \overline{1} & b\\[0mm] 2_{1} & 2_{1} & 1 & b & \overline{1} \\[0mm] \overline{1} & \overline{1} & b & 1 & 2_{1} \\[0mm] b & b & \overline{1} & 2_{1} & 1 \end{array} $$ $$\leftrightarrow$$ $$ \begin{array}{c|cccc} 2/m & 1 & 2 & \overline{1} & m \\[0mm] \hline 1 & 1 & 2 & \overline{1} & m \\[0mm] 2 & 2 & 1 & m & \overline{1} \\[0mm] \overline{1} & \overline{1} & m & 1 & 2 \\[0mm] m & m & \overline{1} & 2 & 1 \end{array} $$
既知の群の合同式の法を見出すことは,それほど困難な課題ではないことがわかるだろう.逆問題―与えられた生成群$$T$$と$$G$$から非共型群を作る-では,種々の可能なバリエーションから一つ選ぶことが要求される.例えば,$$ G=2/m=\left\{1,2,\overline{1},m \right\} $$で,保存される部分群$$ G_{1}^{*}=\left\{1,\overline{1} \right\} $$を固定すると,残りの演算子$$2$$と$$m$$を用いこれらの係数に結び付け$$[E|\alpha ]$$元$$[D|0]$$の位数だけ乗倍すると群$$T$$の最小並進与える.この条件は,ただ3つの非同価結合により満たされ,次のようである:
$$\left( \left[ 2|\displaystyle \frac{c}{2} \right] ,\left[ m|\displaystyle \frac{c }{2} \right] \right) , \left( \left[ 2|\displaystyle \frac{b }{2} \right] ,\left[ m|\displaystyle \frac{b }{2} \right] \right) , \left( \left[ 2|\displaystyle \frac{b +c} {2} \right] ,\left[ m|\displaystyle \frac{b+c}{2} \right] \right) $$
これらは,それぞれ群$$P2_{1}/m$$, $$P2/b$$, $$P2_{1}/b$$において実現される.
演算子$$[D_{j}|\alpha _{j}]$$のあらわな形は,係数
$$2_{1}/m=\left\{ 1,2_{1},\overline{1},m \right\} $$, $$2/b=\left\{ 1,2,\overline{1},b \right\} $$, $$2_{1}/m=\left\{ 1,2_{1},\overline{1},b \right\} $$
による群の基本セットを確立することを可能にする(図214参照).これらの群と群$$2/m$$間の同型性に基づき,対応する係数の体系$$[E|\tau _{jl,n}]$$を選べる.アナロジーを使って157の非共型空間群のすべてが見出せる.60シリーズ以上に分布している(参照、表12)(230群は73シリーズに属する)*.
任意の1シリーズにある群は,密接な関係があるが,(11の対掌対を除き)互いに同型ではない.これは,積則(15)において,(12)に従って書かれた,第2の系の係数$$[E|\tau _{jl,n}]$$を見いだすことが出来る:
$$\left( [E|\tau _{i}][D_{j}|\alpha_{j}] \right) \bigcirc \left( [E|\tau_{k}][D_{l}|\alpha_{l}] \right) =[E|\tau_{i}][E|\tau_{k}]^{[D_{j}|\alpha _{j}]}[E|\tau_{jl,n}][D_{n}|\alpha_{n}]$$
共型群($$\alpha _{j}=\alpha_{l}=\alpha_{n}=0$$)では,すべての量$$[E|\tau_{jl,n}] \equiv [E|0]$$(参照p.208)であるが;非共型群では,対応する元$$[D_{n}|\alpha_{n}]$$のすべての係数が$$[E|0]$$に変換される訳ではない.それらは,群シリーズごとに異なる.
同じ演算子の還元積の新しい演算を次のように定義する;
$$[D_{l}|\alpha_{l}^{(i)}][D_{l}|\alpha_{l}^{(j)}]=[D_{l}|\alpha_{l}^{(i)} + \alpha_{l}^{(j)}]$$
$$=[E|\tau_{l}^{(ij,k)}][D_{l}|\alpha_{l}^{(k)}] \equiv [D_{l}|\alpha_{l}^{(k)}]\left( mod[E|\tau_{l}^{(ij,k)}] \right) $$
同一シリーズの任意の2つの非共型空間群$$\mit\Phi_{nsym}^{(i)}, \mit\Phi _{nsym}^{(j)}$$を同一系列の$$\mit\Phi _{nsym}^{(k)}$$に対し:$$\mit\Phi_{nsym}^{(k)}=\mit\Phi _{nsym}^{(i)} \cdot \mit\Phi _{nsym}^{(j)}$$
導入された演算が結合則を満たすことを,自分で調べるのは容易である.演算子の逆元は関係$$[D_{l}|\alpha _{l}]^{-1}=[D_{l}|-\alpha _{l}]$$により定義される;恒等演算は共型シリーズの頭の群$$\mit\Phi _{sym}^{(1)}$$演算子$$[D_{l}|0][D_{l}|\alpha_{l}]=[D_{l}|\alpha_{l}]$$
群$$\mit\Phi_{sym}^{(1)}=T \ominus G$$,$$\mit\Phi _{nsym}^{(2)}=T \bigcirc G^{T}$$などは,群$$G \leftrightarrow G^{T}$$同型な法によるある群の元とみなすことも出来る.例えば,
$$ \begin{array}{c|cccc} & P2/m & P2_{1}/m & P2/b & P2_{1}/b \\[0mm] \hline P2/m & P2/m & P2_{1}/m & P2/b & P2_{1}/b \\[0mm] P2_{1}/m & P2_{1}/m & P2/m & P2_{1}/b & P2/b \\[0mm] P2/b & P2/b & P2_{1}/b & P2/m & P2_{1}/m \\[0mm] P2_{1}/b & P2_{1}/b & P2/b & P2_{1}/m & P2/m \end{array} $$ $$\leftrightarrow$$ $$2/m$$
$$ \begin{array}{c|cccc} & Pmm2 & Pmn2_{1} & Pma2 & Pmn2_{1} \\[0mm] \hline Pmm2 & Pmm2 & Pmc2_{1} & Pma2 & Pmn2_{1} \\[0mm] Pmc2_{1} & Pmc2_{1} & Pmm 2 & Pmc2_{1} & Pma2 \\[0mm] Pma2 & Pma2 & Pmc2_{1} & Pmm2 & Pmc2_{1} \\[0mm] Pmn2_{1} & Pmn2_{1} & Pma2 & Pmc2_{1} & Pmm2 \end{array} $$ $$\leftrightarrow$$ $$2/m $$
1面帯,2面帯,ロッドなどの対称性を記述する1次元空間群や,ネットワークパターン,層などの対称性を記述する2次元空間群も,点群$$G$$あるいはこれに同型な法$$T$$による群$$G^{T}$$で,対応する並進群$$T$$を拡大したものとみなすことができる.対称記号には,群の型を特定できるすべての必要情報$$T, G, G^{T}$$が含まれているので,この問題の詳細はここまでにしよう.
$$\copyright$$
1.空間群[space groups: Пространственные (федоровские) группы]
結晶構造における対称操作の集合が作る群を空間群という. 3次元の空間群が230 種類あることは,1880年代に,フェドロフ,シェンフリーズ,バーロー(Fedorov, Schoenfles, Barlow)らにより,それぞれ独立に導かれた.
空間群$$\mit\Phi $$には,並進群$$T$$ [並進操作の集合が作る群: ねじれのないアーベル(Abel)群]が, 正規部分群[$$T \vartriangleleft \mit\Phi $$]として必ず含まれている. 従って,商群$$\mit\Phi /T$$が存在し,これは 結晶点群の一つ$$G$$と同型(isomorphism)[$$\mit\Phi /T \cong G$$]になる. つまり,空間群$$\mit\Phi $$は, 並進群$$T$$を,結晶点群$$G$$ [または,$$G$$中の回転軸,鏡映面の一部あるいは全部を,それぞれ,らせん軸,映進面でおきかえて得た$$G$$と同型な群$$G^{T}(\textrm{mod}T)$$]により,拡大して得られる.らせん軸や映進面を全く含まぬ点群$$G$$で拡大して得た空間群は,共型(symmorphic)群といわれ7 3種類, らせん軸や映進面を含む群$$G^{T}(\textrm{mod}T)$$により拡大 て得られた空間群は,非共型(nonsymmorphic)群といわれ15 7種類ある.
空間群の対称操作の記述には,ザイツ(Seitz)演算子$$\left[ A|t \right] $$が用いられる. これによると ,位置ベクトル$$r$$に対称操作$$\left[ A|t \right] $$を作用させた結果は,$$\left[ A|t \right] r=Ar+t$$と定義される.
空間群の記述には,ヘルマン=モーガン(Hermann=Mauguin)の記号から発展した国際記号が広く用いられて いる.
2.結晶系[syngonies, crystal system: сингонии, кристаллические системы]
結晶構造の対称性は,230種の空間群のうちの一つで記述できる. 結晶構造の特徴 は,3次元空間の周期性(=結晶空間)にあるのだから,どの空間群にも並進群が部分群(正確には正規部分群)として含まれている. この並進群の具体化(幾何学的表現)が結晶格子である. 結晶格子を,格子点のまわりの対称性(点群)で分類すると,$$\bar{1}$$(三斜格子), $$2/m$$(単斜格子), $$mmm$$(斜方格子), $$4/mmm$$(正方格子), $$\bar{3}m$$(三方格子 ), $$6/mmm$$(六方格子), $$m3m$$(立方格子)の7種になる.
一般に,結晶構造の点群は,その結晶構造がもつ結晶格子の点群よりも高い対称性をもつことはない. 従って,結晶構造の対称性を記述する32種の結晶点群を,その結晶点群が部分群として含まれるような格子の点群のうちの位数が最小なものに帰属させることができる. このような分類が結晶系である. 各結晶系で最も対称性の高い点群は,格子の点群で,これは完面像[holohedry, ]である. 7つの晶系の名称は,格子の名称と同じで,(表1)に各晶系に属する結晶点群をリストアップしておく.
各結晶系の結晶軸$$a, b, c$$のとり方は,単位胞の3本の稜の方向で,格子定数$$a_{0}, b_{0}, c_{0}; \alpha , \beta , \gamma $$と(表2)の関係にある.
(表1) (表2)
3.ブラベー格子[Bravais lattices : Решетки Бравэ]
結晶は3次元空間に周期をもって規則正しく繰り返される内部構造を特徴とする. 従 って,結晶構造を自分自身に重ね合せる(合同変換)対称操作には並進操作があり,これらは並進群を作る.並進群に従って,代表点(“格子点”となるモチーフ)を配列させて得られる並進群の具体化は結晶格子と呼ばれる. 結晶のすべての並進群は,抽象群の立場からは同 型であるが,得られた結晶格子の空間的な対称性(空間群)で分類すると,3次元の結晶格子は14の異なる型になることがブラベー(Bravais) (1849)により導かれた. これをBravais格子という. 格子点における点群を調べると,14種のBravais格子は,$$\bar{1}, 2/m, mmm, 4/mmm, 3m, 6/mmm, m3m$$の7種の点群に帰属できる. これらは ,三斜,単斜,斜方, 正方, 三方, 六方, 立方の各格子に対応する. 単位胞中に一つの 格子点を含むものは$$P$$(単純)格子, 複数の格子点を含むものは複合格子といい,$$I$$(体心)格子, $$F$$(面心)格子, $$C, A, B$$(底面心)格子, および,$$R_{\textrm{hex } }$$:(六方から導い た菱面体)格子がある. 14のBravais格子 の内訳を図示する.
図挿入
3.1. 体心格子[body-centered lattice: решетка объемно-центрированная ]
結晶格子(空間格子)の一つ. 斜方, 正方, 立方のブラベー格子に存在する複合格子.単位胞となる平行6面体の各頂点の他に,その中心にも格子点が存在するもの. 記号は$I$で示す. 単斜格子での体心格子は底面心格子と見なすことができる.
3.2. 底面心格子[base-centered lattice: решетка базоцентрированная ]
結晶格子(空間格子)の一つ. 単斜, 斜方のブラベー格子に存在する複合格子. 単位胞となる平行6面体の各頂点の他に,向かい合った一組の面の中心にも格子点が存在する もの. 格子点を追加した面を重ね合わせる並進方向が$$a$$軸のものを$$A$$面心, $$b$$軸のものを$$B$$面心, $$c$$軸のものを$$C$$面心という.
3.3. 面心格子[face-centered lattice: решетка гранецентрированная]
結晶格子(空間格子)の一つ. 斜方, 立方のブラベー格子に存在する複合格子. 単位胞となる平行6面体の各頂点の他に,それぞれの面の中心にも格子点が存在するもの. 記 号は$$F$$で示す.
3. 4. 単純格子[primitive lattice: решетка примитивная]
結晶格子(空間格子)の一つ. 複合格子(体心, 面心, 底面心)に対立する用語. 平行6面体の頂点のみに格子点を持つようにとったブラベー格子. どの晶系にも単純格子が一つづつ存在する.ただし,三方晶系では,単純格子$$R$$を用いずに,六方晶系の単純格子に2つの格子点を追加した複合格子$$R_{\textrm{hex } }$$を用いることが多い. その他の単純格子は$$P$$で示される.
格子の対称性が一目でわかるように,ブラベー格子では複合格子がいくつか用いられているが,複合格子は,適当な平行6面体を採用すれば,すべて単純格子に直すことができる(格子の定義から明らか).
4.実格子[lattice in realspace: решетка пространственная (кристаллическая) ]
結晶は3次元空間に周期をもつ構造である. 各周期を表す互いに独立な3本の並進べ クトル$$a_{1}, a_{2}, a_{3}$$は並進群を生成する. 代表点をこの並進群に従い分布させると結晶 格子(空間格子)が得られる. 結晶空間(実空間)とそのフーリエ(Fourier)変換である逆空間は, 互いに双対な空間であるので,逆格子に対する概念として結晶格子をとらえ,実格子と呼ぶことがある.
5.ラウエ群[Laue groups: Группы Лауэ, лауэвские классы ]
単結晶のX線回折強度像の対称性を表わす点群のことである. ピエール・キューリー(Pierre Curie)の原理(あるいは,NMC原理)として知られる因果律によると,「結晶で観測される物理現象の対称性(結果 )には,その舞台となる結晶構造の対称性(原因)がすべて反映されるはずである」. 従って,結晶構造の点群を$$G_{\textrm{cryst } }$$,この結晶によるX線回折強度像の点群を$$G_{\textrm{X } }$$とすると,$$G_{\textrm{cryst } } \subseteq G_{\textrm{X } }$$とな る. これは,結晶構造に存在しない対称要素でも,その結晶のX線回折強度像の対称性に出現することがあることを示している. 実際,結晶構造が特別な条件を満たせば,X線回折強度対称が,上昇することが知られている. しかし,どのような結晶構造であろうとも,異常分散がない限り,X線回折強度像の対称性には,必ず$$\bar{1}$$ (対称心)が存在することは,フリーデル(Friedel)則として知られているから, X線回折強度像の対称性は,結晶点群のうち$$\bar{1}$$を部分群として含む11の点群
$$\bar{1}, 2/m, mmm, 4/m, 4/mmm, \bar{3}, \bar{3}m, 6/m, 6/mmm, m\bar{3}, m\bar{3}m$$のどれかに限られる.これらをLaue群という. ある結晶によるX線回折強度像の対称性が,Laue群$$G_{\textrm{X } }$$であれば,その結晶の構造は$$G_{\textrm{X } }$$の部分群であるはずである.
6. 単位胞[unit cell:элементарная ячейка]
結晶は,ある構造単位が3次元空間に周期をもって繰り返す構造をしている. こ の構造単位(内部の原子分布まで含めて)を単位胞という. 単位胞の形は,その結晶構造 のプラベー格子に対応した平行6面体である. プラベー格子に複合格子があるので,単位胞は必ずしも結晶構造中の最小の繰り返し単位とは限らない.
6.1. 格子定数[lattice constants, cell dinensions: константы решетки, параметры единичные ]
結晶構造の単位胞の寸法(ブラベー格子の寸法)を記述する数値の組. 三斜晶系の単位胞の寸法を記述するには,平行6面体の3つの稜の長さ$$a_{0}, b_{0}, c_{0} [Å] $$,および ,それらの稜のなす角度$$\alpha , \beta , \gamma $$の独立な6つのパラメータが必要である. ブラベー格子の対称性が高くなると,記述に必要なパラメータの数は少くなくなり,立方晶系では$$a_{0}[Å] $$のみとなる.
7.対称要素[symetry elements: элементы симметрии ]
点群や空間群の要素となっている個々の対称操作のこと. ただし,ある物体の対称操作とは その物体を自分自身に重ね合わせる合同変換のことである. 結晶点群の対称要素には,回転軸, 鏡映面, 回映軸, 回反軸, 対称心がある.空間群になると並進があるので,この他に,らせん軸, 映進面が加わる.
対称要素の記述には,ヘルマン=モーガン(Hermann = Mauguin)の記号が用いられる.また,図面中に対称の要素を記入するには,定められたシンボルをもちいるが,詳細は,International Tableに掲載されている.
7.1. らせん軸[screw axis: винтовая ось ]
一つの軸のまわりの回転$$C$$と,その軸に沿っての並進$$\tau $$を連続して行なう空間群の対 称操作.回転とその回転軸方向の並進はどちらを先に行なっても結果は同じである.ザイツ(Seitz)記号で表すと$$\left[ C|\tau \right] $$. 回転操作$$C$$の位数を$$n, \left( C^{n}=1 \right) $$とすると,$$\left[ C|\tau \right] ^{n}=\left[ 1|n\tau \right] $$であるので,らせん軸が空間群の対称操作であるためには,$$n\tau $$が回転軸方向の基本並進$$T$$の整数倍となる必要がある. このため,$$\tau =\left( m/n \right) T $$ [$$m$$は,$$m<n$$なる自然数]という制限が生じる. $$n$$回回転操作から生じるものを$$n$$回ら せん軸と呼び,$$n_{m}$$と記す.例えば,$$3$$回回転軸(位数3)からは,$$3_{1}, 3_{2}$$らせん軸が生じる.
7.2. 回映軸[mirror-rotation axis: ось зеркального вращения]
点群,および空間群の対称操作の一つ. ある直線のまわりの回転とその直線に垂直な 平面での鏡映とを引続き行なう対称操作. このとき,回転成分の軸となる直線が回映軸である. 回映軸は回転成分が$$360 ^\circ /n$$のとき,Hermann = Mauguinの記号で,$$\tilde{n}$$と記す.
結晶構造で許される回映軸は,$$\tilde{1},\tilde{2},\tilde{3},\tilde{4},\tilde{6}$$であるが,それぞれの回映軸が 生成する巡回群(生成元となった回映軸と同じ記号を用いる)を調べると,$$\tilde{1}=m, \tilde{2}=\bar{1}, \tilde{3}=3 \otimes m, \tilde{6}=3 \otimes \bar{1}$$となり,回映群$$\tilde{4}$$以外のものは,他の対称操作により生成する巡回群やそれ らの直積に分解できる. 従って,$$\tilde{4}$$だけが回映軸として独立なものである.
7.3. 回反軸[roto-inversion axis: рото-инверсионная ось]
点群,および空間群の対称操作の一つ. ある直線のまわりの回転とその直線上にある 一点での反転とを引続き行なう対称操作. このとき,回転成分に関する直線を回反軸とい う. 回反軸は回転成分が$$360 ^\circ /n$$のとき,Hermann = Mauguinの記号で,$$\bar{n}$$と記される.
結晶構造で許される回反軸は,$$\bar{1}, \bar{2}, \bar{3}, \bar{4}, \bar{6}$$であるが,それぞれの回反軸が 生成する巡回群(生成元となった回反軸と同一の記号が用いられる)を調べると,$$\bar{2}=m, \bar{3}=3 \otimes \bar{1}, \bar{6}=3 \otimes m$$となり,他の対称要素により生成される巡回群やそれらの直積に分解される.また,$$\bar{1}$$は対称心そのものである.回反軸として独立なものは,$$\bar{4}$$のみであるが,回反軸$$\bar{4}$$が生成した巡回群と,回映軸$$\tilde{4}$$が生成した巡回群は同一になる.
7.4. 映進面 [glide-reflection plane:плоскость скольжения-отражения ]
空間群で存在する対称操作の一つ. 平面での鏡映$$m$$と,その平面内の特定な方向(周 期$$\tau $$)に沿って$$\tau /2$$だけの並進を続けて行なう対称操作. この平面を映進面という. また,映進演算は$$\left[ m|\tau /2 \right] $$で表される. 結晶格子を生成する並進ベクトルを$$a, b, c$$とすると,$$a/2$$の並進成分をもつ映進面を$$a$$映進面; $$\left( a+b \right) /2$$や$$\left( a+b+c \right) /2$$などの並進成分をもつ映進面を$$n$$映進面; $$\left( a+b \right) /4$$や$$\left( a+b+c \right) /4$$などの並進成分をもつ映進面を$$d$$映進面という. 単純格子では,$$a, b, c$$,および$$n$$映進面のみが可能で あるが,面心格子や体心格子では,$$d$$映進面も可能になる.
7.5. 並進対称 [translational symmetry: симметрия трансляции]
空間内のある一定の方向に,周期的に同一の基本構造が繰り返し配列しているような 状態. そのような周期をベクトル$$a$$で表示すると,並進対称をもつ構造$$F\left( r \right) $$では, $$F(n-na)=F(r)$$,($$n$$は整数)が成り立つ. あるいは,基本構造を$$A(r)$$とす ると,
$$F(r)=\displaystyle \int_{- \infty }^{ + \infty }A(r-r')\displaystyle \sum_{n=- \infty }^{ + \infty }\delta (r'-na)dV_{r'}$$ ただし,$$\delta \left( r'-na \right) $$はデルタ関数
と表す事のできる構造$$F(r)$$は,周期$$a$$の並進対称をもつ. 1次元の周期をもつ構造は ,列(array) , 2次元の周期をもつ構造は網(net) , 3次元の周期をもつ構造は格子( lattice)と呼ばれる. 結晶中の3次元の周期は,結晶格子を作る.
7.6. 鏡映面 [mirror plane: зеркальная плоскость ]
点群,および空間群に存在する対称操作の一つ. 物体と鏡に写った像の関係にあ る状態が鏡映対称であり,その鏡を鏡映面という. 鏡映面は,Hermann-Mauguinの記号で は$$m$$と表示される.
$$\left[ m_{x}|0 \right] $$は,$$x$$の符号を変える鏡映面($$x$$軸に垂直な平面)である.
7.7. 対称心 [center of symmetry, inversion: инверсия]
点群,空間群における合同変換(対称操作)の一つ. 構造内の分布状態を$$F(r)$$と し,$$F(-r)=F(r)$$が成り立つように位置ベクトルの原点がとれるならば,この原点を対称心(対称中心)といい$$\bar{1}$$で示す. 対称心が存在するような構造を点対称という.
7.8. 回転対称軸 [rotation axis: ось вращения ]
点群,および空間群の対称操作の一つ. ある直線のまわりに$$360 ^\circ /n$$だけ構造全体を回転しても,始めの状態と完全に合同になる場合に,この構造には$$n$$回回転対称軸($$n$$回回転軸,または単に$$n$$回軸)が存在するという. このような直線が回転軸である. 結晶構造で可能な回転軸の種類は,$$1$$(恒等変換),$$2$$,$$3$$, $$4$$, $$6$$の各回転軸に限られる.
続く➡(2)
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※この結晶学用語集シリーズは,辞典形式の独立項目の集合よりなる.その理由は,「物理学辞典」培風館(1984)の私の分担執筆項目より抜粋し,専門技術研修「物性と評価技術(中級)」の講座テキスト(©RICOH CO.,LTD.1993)の付録に用いたためである.結晶学用語の背景を正確に解説している書物は現時点でもほとんどないため,再度編集し直してここに掲載する.
8. 異方性 [anisotropy: aissoTponifl]
測定の方位によって,物理的性質が変化するような媒質または場の状態をいう. 結晶構造における原子の配列は,明らかに異方性をもっている. このため結晶で観測される種々の物理現象には異方性を示すものが多い. 例えば,結晶の光学的特性に関係のある誘電率,力学特性に関係のある弾性スティフネス,その他,導電率, 熱膨張率などはテンソル量である.結晶構造の対称性を考慮すると,物理現象を測定する方向を減じることができる. すなわち,結晶点群の位数が$$n$$であれば,測定は全立体角の$$1/n$$を占める対称的に独立な領域のみで行なえば良い. また,結晶構造の対称性から,テンソル中の独立な成分を導くことができる.
9. 結晶方位 [direction in crystal: HanpaBuenie rpicrajua]
結晶で観測される物理現象は,その測定方向により変化する. 結晶空間での方位$$\overrightarrow{P}$$は ,結晶軸$$\overrightarrow{a}, \overrightarrow{b}, \overrightarrow{c}$$を座標軸(格子定数$$a_{0}, b_{0}, c_{0}$$が各座標軸の単位)にとり,方位ベクトル$$\overrightarrow{P}$$の成分$$\left[ U, V, W \right]$$で記述される: $$\overrightarrow{P}=U\overrightarrow{a}+V\overrightarrow{b}+W\overrightarrow{c}$$. 結晶構造の点群の対称操作を$$\overrightarrow{P}$$に作用さ せて生じた$$\overrightarrow{P}$$と同価な方位を,まとめて表示するためには$$<U, V, W>$$とする.結晶面 $$\left( h, k, l \right) $$に垂直な方位は,逆格子ベクトル$$\overrightarrow{a}*, \overrightarrow{b}*, \overrightarrow{c}*$$を用い$$h\overrightarrow{a}*+k\overrightarrow{b}*+l\overrightarrow{c}*$$とすると簡単に表示できる.
単結晶の方位の決定には,X線回折,光軸の測定,蝕像などの手段がある.
10. 格子面(格子網面)[lattice plane, net plane: mocrocTH ysnosiie]
結晶は3次元空間に周期をもち,原子・分子が規則正しく繰り返す内部構造をしてい る. 結晶のこのような内部構造の周期性は,代数的には並進群(幾何学的には空間格子) として表現される. 一直線上にない任意の3格子点$$A_{0}, B_{0}, C_{0}$$を含む平面を考えると,この平面にはベクトル
$$\overrightarrow{a}_{1}=A_{0} \to A_{1}, \overrightarrow{a}_{2}=A_{0} \to A_{2}$$の1次結合で生成される無数の格子点$$n\overrightarrow{a}_{1}+m\overrightarrow{a}_{2}$$($$n, m$$は整数)が含まれている. このような平面を格子面(あるいは、格子網面)という. 格子面は結晶面と同様にミラー(Miller)指数$$\left( h, k, l \right) $$で表示できる. 結晶の内部構造の周期性により,格子面$$\left( h, k, l \right) $$は結晶内部で無限に繰り返し配列しており,その間隔を格子面$$(h, k, l)$$の面間隔と呼ぶ. 結晶構造の格子点は,無限に繰 り返すこのような格子面の集合上にすべて載ってしまう. 結晶構造中には,さまざまな格子面を考えることができる.
11. 面間隔 [spacing of lattice planes: MeiiiiocxocTioe paccTOfiHie]
結晶は3次元の周期をもって規則正しく繰り返す内部構造をしている. 従って,結晶面$$\left( h, k, l \right) $$も周期的に繰り返している. $$\left( h, k, l \right) $$面の面間隔とは,この周期のことであり$$d_{\left( h, k, l \right) }$$と記す.
格子定数を$$a_{0}, b_{0}, c_{0}; \alpha , \beta , \gamma $$とすると,
$$1/d_{(h,k,l)}^{2}=\left( h^{2}\sigma _{11}+k^{2}\sigma _{22}+l^{2}\sigma _{33}+kl\sigma _{23}+lh\sigma _{31}+hk\sigma _{12} \right) /V^{2}$$ となる.
ここで,$$\sigma _{11}=b^{2}c^{2}\textrm{sin}^{2}\alpha , \sigma _{22}=c^{2}a^{2}\textrm{sin}^{2}\beta , \sigma _{33}=a^{2}b^{2}\textrm{sin}^{2}\gamma $$
$$\sigma _{23}=a^{2}bc\left( \textrm{cos}\beta \textrm{cos}\gamma -\textrm{cos}\alpha \right) , \sigma _{31}=ab^{2}c\left( \textrm{cos}\gamma \textrm{cos}\alpha -\textrm{cos}\beta \right) , \sigma _{12}=abc^{2}\left( \textrm{cos}\alpha \textrm{cos}\beta -\textrm{cos}\gamma \right) $$
単位胞の体積: $$V=abc\left( 1-\textrm{cos}^{2}\alpha -\textrm{cos}^{2}\beta -\textrm{cos}^{2}\gamma +2\textrm{cos}\alpha \textrm{cos}\beta \textrm{cos}\gamma \right) ^{1/2}$$
結晶系の対称性が高くなると,これらの関係式は非常に簡単になる.
12. 晶帯 [zone: 30Ha]
2つの結晶面$$\left( h_{1}, k_{1}, l_{1} \right) , \left( h_{2}, k_{2}, l_{2} \right) $$の交線の方向をベクトル$$\left[ U,V,W \right] $$で表示し,これを2つの結晶面が属する晶帯軸の方向という.ただし,
$$U=\left| \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
k_{1} & l_{1} \\[0mm]
k_{2} & l_{2}
\end{array} \right|$$ , $$V=\left| \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
l_{1} & h_{1} \\[0mm]
l_{2} & h_{2}
\end{array} \right|$$ , $$W=\left| \begin{array}{@{\,} cc @{\, } }
h_{1} & k_{1} \\[0mm]
h_{2} & k_{2}
\end{array} \right| $$
で与えられる.同一の方向を晶帯軸に持つような結晶面の集合は同一の晶帯に属している という.
13. 有理指数の法則
[law of simple rational indices; MKOH pamoiajbiHX uapa・eTpoB, Fani 3acoH]
結晶を3次元の周期をもって配列した格子点の集合とみると,結晶の外形に現れる面は格子点を通る種々の平面である.そのような面は整数比のミラー指数$$\left( h, k, l \right) $$で記 述する事ができる. 特に結晶の外形によく現れる面は,小さな整数比のミラー指数で表現 できる. これを有理指数の法則,あるいは,アウイ(Hauy)の法則という. その理由は,格子点密度の大きな面ほど現れやすいことにある.
14. 結晶形 [crystal foms; ipocTHe]
自由な空間内で,液相や気相から成長した結晶は,平坦な結晶面で囲まれ,多面体の形をとる. 実際の結晶では,同価な結晶面とはいえ,発達の程度がさまざまで晶癖がある. しかし,全く等方的な環境で成長が行なわれるならば,同価な結晶面はすべて同じ大き さに発達するはずである. 実際の結晶は単一の同価面ばかりで囲まれているわけではなく,何種類かの同価面が組み合わさってできており(同価面どうしは同じ大きさ),これを理想形という.
結晶の外形には内部構造の対称性が反映されているはずである. 点群の対称操作を,結晶の$$\left( h, k, l \right) $$面に作用させ,得られた同価な面の集合$$\left\{ h, k, l \right\} $$により囲ま れる多面体を結晶形という. 結晶形は理想形とはことなり一種類の同価面でできている. 結晶形は完面像,半面像,等々,全部で4 7種ある.
15. 完面像 [holohedry: rojioanpo]
各結晶系で最も対称性の高い(最高位数の)結晶点群は格子の対称性を示す点群でもある. このような点群を完面像という. このような点群を結晶の$$\left( h, k, l \right) $$面に作用させ,得られた同価面$$\left\{ h, k, l \right\} $$の数は,$$\left( h, k, l \right) $$が一般面である場合に は,点群の位数に等しい. そのような数の同価面で囲まれた結晶形が完面像である.
もし$$\left( h, k, l \right) $$面が一般面でなく,点群中のある対称操作の特殊点(対称操作で不変となる位置)にあれば,生じる同価面の数は半減し,半面像,四半面像などが得られる.
16. 晶癖 [crystal habit: pas Bine]
完全に等方的な環境で成長した結晶では,同価な結晶面はすべて同じ大きさに発達す るはずである. しかし,実際の環境では,特定の結晶面だけが大きく発達した偏倚結晶が生じることが多い. このような偏倚結晶は晶癖があるといわれる. 三角平板状のダイヤモ ンド結晶,ひげ結晶などはその例である.
同価な結晶面は同じ大きさに発達しているのだが,現れる結晶面の組み合わせが変化 したために生じた外形の違いは晶相の変化という. ダイヤモンド結晶に正8面体や正6面体の外形のものがあるなどがこの例である.晶相の変化の原因は,結晶の成長温度や成長過程にある.
17. 軸率 [axial retio :zoTHoneaie oceBia eninm]
結晶の格子定数$$a_{0}, b_{0}, c_{0}\left[ \mbox{\AA} \right] $$の絶対測定がX線回折により可能となる以前は 相対比$a_{0}:b_{0}:c_{0}$が推定できるのみであった.斜方晶系などでは$b_{0}$が最大の格子定数であるから,これで規格化した$$a_{0}/b_{0}:1:c_{0}/b_{0}$$を軸率と呼んでいる. 結晶の形態の対称性,および,大きく発達している結晶面は低指数の面であるというBravaisの法則等 を考慮し,結晶面に面指数をつじつまの合うように配当する. こうして,X線回折を用いずに,ほぼ正確な軸率$$a_{0}/b_{0}:1:c_{0}/b_{0}$$,および,結晶軸間の角度$$\alpha , \beta , \gamma $$を推定することができた.
18. 面角一定の法則(面角不変の法則)
[law oftheconstancyofinterfacialangles:ョaxon iDCTOflicTBa " KPICTSJUIOB]
ニコラス・ステノ(Nicolaus Steno: Niels Stensen,1699)は,さまざまな産地の水晶の形態を研究し, 面の発達の様相は個体ごとに違うが,対応する面どうしのなす角は,常に一定であること を発見した.その後,Rome Delisle ( Rone de 1'Isle,1772)により,この法則は,他の鉱物結晶でも成り立っている一般的な法則であることが見いだされ,面角一定の法則と呼 ばれている.
19. 結晶面 [crystal face: rpaub EpKCTama]
自由な空間内で成長した結晶は,平坦な面で囲まれた多面体の外形をしている.これ らの面を結晶面という.結晶面の記述にはミラー指数が用いられ,面角一定の法則,有理 指数の法則などが成り立ことが古くから知られている. ときおり微斜面という高指数が付 けられる小さな結晶面が見られるが,これは成長丘の側面である.その他,結晶面には條線などが観察されることがある.結晶面の微細構造は結晶成長機構の方面から興味が持たれている.位相差顕微鏡や多重光束干渉法などを用いると,気相や液相から成長した結晶の結晶面には,渦巻成長層が観察される.また,結晶の方位の決定のために結晶面に生じ た蝕像の対称性を利用することもある.
20. ヘルマン=モーガンの記号 [Hemann-Mauguin notation: символы Германа — Могена]
結晶の点群,空間群,ならびにそれらに含まれる対称要素の記述に用いられる記号. 点群の対称要素は次のように記される.回転軸;回反軸は,その次数に応じて,$$1,2,3,4,6$$; $$\bar{1},\bar{3},\bar{4},\bar{6}$$と記される. ただし,回反軸$$\bar{2}$$は鏡映面になるので$$m$$と記される.また,$$\bar{1}$$は対称心と呼ばれる. さらに,上記の対称要素のうちのただ一つから生成される点群にもその生成元と同一の記号が用いられる.複数の対称要素の組み合わせにより生成される点群の記述は,生成元となった対称要素を列記して行なうのが基本方針であるが,わかり易くするために生成元以外の対称要素を付け加えることがある.回転軸$$n$$ に対し垂直な鏡映面$$m$$がある場合は$$n/m$$,回転軸$$n$$を含む鏡映面$$m$$がある場合は$$nm$$と記される. また,主軸となる回転軸を第1項に,これに直交する副軸を第2項に記す. これら2本の回転軸により生成される対称軸が新たな類を作るなら,これを第3項に記す. 例えば,点群$$222$$の第1項は$$c$$軸方向の2回軸,第2項は$$a$$軸方向の2回軸,第3項はこれらから生成された$$b$$軸方向の2回軸である.点群$$422$$も同様で,第1項は$$c$$軸方向の主軸,第2項は$$a$$軸方向の2回軸,第3項はこれから生成された$$\left[ 1,1,0 \right] $$方向に生じた2回軸である.点群$$32$$では,$$c$$軸方向の主軸とこれに直交する副軸としての2回軸が示されているが,これらから生成される3本の2回軸は,すべて副軸と同一の類に属するので,第3項は記入しないのである.点群$$4/m2/m2/m$$の例では,各回転軸に垂直な鏡映面が存在することが示されている(この点群は簡単に$$4/mmm$$と書かれることが多 い).立方晶系の点群の表示では,第1項と第2項の対称要素は互いに直交していないこ とに注意せよ. 空間群の記述では,空間格子の型を点群記号の前に表示する. また,空間群では,点群要素中の回転軸や鏡映面をらせん軸や映進面に拡張したものも現れる.例えば,空間群$$P2_{1}/c$$は,$$P$$格子をもち,2回らせん軸とそれに垂直な$$C$$映進面が存在す ることを表示している.
21. シェンフリースの記号[Schoenflies' symbols: символы Шёнфлиса]
結晶の点群,空間群,それらの対称要素の記述に用いられる記号. 結晶点群の記述は次のように行なう.
(1) $$n$$回軸のみにより生成される巡回群を$$C_{n}$$と記す.
(2) 主軸の$n$回軸と,これと直交する2回軸の副軸とにより生成される4元群$$D_{2}$$2は$$V$$と記されることもある.
(3 ) 正4面体群を$$T$$,正8面体群を$$O$$と記す .
(4) 対称心を有する群には,添え字$$i$$をつけ$$C_{ni}, D_{ni}$$などと記す.特に,対称心の みから生成される反転群は$$C_{1i}$$ではなく$$C_{i}$$と記す.
(5) 主軸と直交する鏡映面を有す る群は$$h$$ (horizontalの意)を添えて$$C_{nh} , D_{nh}$$などと記す.特に,鏡映面のみから生成される点群は$$C_{s}$$と記す.
(6 ) 主軸を含む鏡映面を有する群は$$v$$ (verticalの意)を添えて$$C_{nv}$$と記す.
(7) 主軸と副軸を含む鏡映面を有する群は$$D_{nv}$$,主軸を含みかつ副軸間を2等分するような鏡映面を有するものは$$d$$(diagonalの意)を添えて$$D_{nd}$$と記す.
(8 ) 4回回映軸を有する群は$$S_{4}$$と記す.
(1)~(8 )の規則に従って結晶点群を記すと重複するものがでてくる.例えば,対称心を含む群にうち$$C_{2i}=C_{2h}$$,$$C_{4i}=C_{4h}$$,$$C_{6i}=C_{6h}$$,$$D_{2i}=D_{2v}$$,$$D_{3i}=D_{3d}$$,$$D_{4i}=D_{4v}$$,$$D_{6i}=D_{6v}$$,となるので,$$i$$を添えて記述するものは$$C_{i}$$と$$C_{3i}$$だけで他は使われない.結晶点群ではないが,分子の対称性で 重要な点群に$$C_{ \infty v} , C_{ \infty h}$$などがある.
空間群の記述では,同一の点群から導かれた空間群は,その点群の右肩に番号を付け区別する.例えば,$$O_{h}^{1} , O_{h}^{2} , \cdots , O_{h}^{10}$$などである. Schoenfliesの記号は点群の記述 としては簡明であるので,分子の対称性や分光学などでは広く用いられている. しかし,空間群の記述としては十分な情報が得られないため,結晶学ではヘルマン=モーガンの記号から発展した国際記号が広く用いられている.
22. 回転群 [rotation group: группа вращений]
1点のまわりの回転操作の全体が作る群.これは,運動群の部分群でもある.1点のまわりの回転は直交行列$$A$$で表現される. 3次の直交行列全体の集合は直交群$$O_{3}$$をなしている.純粋な回転は,$$\left| \begin{array}{@{\,} c @{\, } }A\end{array} \right| =+1$$なる直交行列$$A$$で表現され,反転や鏡映は,$$\left| \begin{array}{@{\,} c @{\, } }A
\end{array} \right| =-1$$なる直交行列$$A$$で表現される.普通,回転群と呼ばれるものは,純粋回転のみからなり,反転や鏡映も含めたものは広義の回転群と呼ばれる.結晶点群や正多面体群(プラ トンの正多面体=正4, 6, 8,12, 20面体での合同変換群)は,広義の回転群の離散な部分群である.
23. 点群 [point group: точечная группа]
結晶点群[crystallographic point group: кристаллографическая точечная группа]
空間群の一点を不動にするような対称操作の組み合わせが作る群である.空間の一点 が不動となるためには,全ての回転軸はこの点で交差する必要がある. さらに,回転軸が鏡映面をよぎる場合も交点はこの不動点でなければならない.空間群は無限に繰り返される周期構造での対称操作の組み合わせが作る群であるので,空間群には並進操作が存在するが,点群には並進操作はない. 点群は分子などの有限図形の対称性の記述に用いられる.点群では$$ \infty $$次までのすべての次数の回転軸が存在し得る. たとえば,プラトンの正多面 体の1つ正20面体を記述する点群では5回軸が現れる. しかし,結晶のように空間に周期をもつ構造で許される回転軸の次数は,1,2 , 3 , 4, 6に限られる. 準結晶には巨視的な5回対称軸など現れるが,準結晶(ペンローズの空間タイリング)は,正則ではあるが,周期 的な構造ではない.回転軸にこのような制限を設けて得た点群は,結晶点群といわれ32種 (3次元空間で)存在する.空間群$$\mit\Phi $$中の並進群$$T$$は,正規部分群であるので,商群$$\mit\Phi /T$$ が作れるが,これは結晶点群$$G$$と同型になる.点群はHermann-Mauguinの記号か ら発達した国際記号や,Schoenfliesの記号で記述される.
結晶点群での対称操作は幾何学的空間での変換であるが,幾何学的変換と同時に図形の超幾何学的性質(例えば“色”)をも変換するような対称操作を導入すると,黒白結晶点群,色付結晶点群などが得られる. これらに対して,結晶点群のことを,特に,古典結晶点群ということがある.
24. クリプト•シンメトリー[crypto-symetry: xpiOTOcniteTpiii]
crypto-というのは“隠れた”という意味の接頭語で,幾何学的空間には現れない図形の超幾何学的性質("色''と呼ぶことにする)の対称性まで含めたものをクリプト・ シンンメ トリーという.結晶構造の対称性を記述する空間群は幾何学的空間の対称操作が作る群である.結晶構造のもつ超幾何学的性質(スピン座標等で,それらを代表して”色”と呼んでいる)の変換も幾何学的変換と同時に行なうような,拡張された対称操作は, 一般化された空間群[ザモルザエフ群,黒白空間群,色付空間群]を与える.
25. 色付空間群[colored-symmetry space groups:npocrpaicTBeHiHe rpynis UBRTHQ頁 cineTpis, SenoBciHe rpynnw]
結晶構造のように空間に周期をもつ構造の対称性は,空間群の一つ$$\mit\Phi $$で記述される. 結晶空間の各点に一つの超幾何学的な性質(これを''色’'と呼んでいる)を付加し,幾何学的変換(空間群の対称操作)と同時にその空間の超幾何学的な性質をも変換するような 一般化された対称操作,$$g^{(\varepsilon )}=\varepsilon \cdot g=g \cdot \varepsilon $$を導入する. ここで,$$g$$は空間群の対称操作,$$\varepsilon $$は性質空間にのみ作用する変換である.このような一般化された対称操作が作る群を色付空間群という. 結晶空間の各点に付加する性質のとり得る状態の数は$$P$$で記す. 特に,$$P=2$$(例えば,結晶空間に$$+, -$$の符号を付加する)のときには,黒白空間群(シュブニコフ群)と呼ばれる. 一般に,$$P$$色の色付空間群(ベーロフ群)は次のようにして得ら れる. 色付空間群の一つ$$ \textsl{Б}^{(P)}$$で記述される構造は,もし,色の区別ができないフィルタ ーを通して見るとすれば,何らかの空間群で記述されるべきである.これは,と同 型な$$\mit\Phi $$が存在するということである.次に,$$ \textsl{Б}^{(P)}$$中の色を変えない対称操作の集合$$A$$は,$$ \textsl{Б}^{(P)}$$,$$\mit\Phi $$の共通の部分群で,かつ正規部分群($$A$$の指数は$$P$$である)でなければならな い. ここで,商群$$\mit\Phi /A \cong \left\{ 1, g_{2}, \cdots , g_{P} \right\} =G$$が定義されるが,この$$G$$と同型な色置換群$$\left\{ 1, \varepsilon _{2}, \cdots , \varepsilon _{P} \right\} $$を見いだし,$$g$$に結合し,$$\left\{ 1, g_{2}^{(\varepsilon 2)}, \cdots ,g_{P}^{(\varepsilon P)} \right\} =G^{(P)}$$を得て,$$ \textsl{Б}^{(P)}\textsl{/A} \cong G^{(P)}$$となるように,$$A$$を$$G^{(P)}$$により拡大すれば,$$\texttt{\textsl{ } }^{\texttt{\textsl{(P) } } }$$が得 られる. こうして,与えられた空間群$$\mit\Phi $$と同型な色付空間群$$\texttt{\textsl{ } }^{\texttt{\textsl{(P) } } }$$はすべて導くことがで きる.
26. 反対称 [antisynetiry: ainciioieTpiff]
反対称空間というのは,3次元幾何学的空間に,超幾何学的性質(色または符号と呼 ぶ)の2値(黒白:$$+-$$:など)を付与した4次元空間のことである.この空間での対称性は,反対称点群,反対称空間群(WybHHKOB群)で記述される.時間反転の概念はランダウ(/I•エ HaH.aay)により導入され,反対称群はシュブニコフ(A.B. IBybHHKOB)により研究された.
反対称演算(反恒等演算)$$1'$$というのは,幾何学的空間内での位置を変えずに色だ け反転する演算である. 幾何学的空間内での変換$$g$$の位数が偶数のときには,変換$$g$$と同 時に色の反転$$1'$$を行なう結合された演算$$g \cdot 1'=1' \cdot g=g'$$が定義でき,黒白群が 得られるが,$$1'$$そのものを対称演算にもつ群は,幾何学的空間内での位置を変えずに色 の反転がおこるので中性群(灰色群)になる.
27. 結晶群[crystallographic groups: rpiCTajuorpaiqeciHe rpynia]
空間群の部分群は,すべて結晶群と呼ばれる.空間群自身も,並進を全く含まない結晶点群も結晶群である. この他に,$$n$$次元空間群の結晶群としては,$$k(<n)$$次元の部分空間内にのみ並進周期をもつような結晶群がある. 空間の次元の他に性質空間の次元を追加した一般空間群(クリプト・シンンメトリー)での部分群を指すように拡張することもできる. これらの結晶群の記述には記号$$G_{n}^{t}(l)$$が用いられる. ここで,$$n, t, l$$は,それぞれ,空間の次数,並進ベクトルの張る部分空間の次元,性質空間での反対称の次数である.例えば,$$G^{3}_{3}(0), G_{3}^{2}(0), G_{3}^{1}(0), G_{3}^{0}(0)$$は,それ ぞれ,3次元の空間群,層の対称性,帯の対称性,結晶点群を示す.結局,空間的に何らかの周期をもつた(結晶学的)構造の対称性を記述するということから,これらはすべて結晶群と呼ばれている.図はNeronova(HepoHOBa)(1966)のものに,Wondratshek et.al. (1971)による$$G_{4}^{4}(0)$$の数を追加し修正したもので,結晶群間の相互関係が示され ている.
$${\ttfamily \textrm{\textsl{P } } }$$
28. 4次元空間群 [four-dimensional space groups: {\textless}ieTHpevepHiie npocrpaicTBeHiHe rpyniw]
空間的4次元の結晶構造(4次元空間に並進周期をもつ構造)での対称操作が作る群. 高次元における空間群の研究は,1910年BieberbachやFrobeniusが,Hilbertの問題 に関連して,《n次元空間では空間群型は有限種類である》ことを証明して以来,多くの 学者により手がけられ,その一部は導かれていた.最終的な,4次元空間群の全リストは, H. Wondratshek, R. Bulow, J. Neubuser, H. Zassenhaus, H. Brown らにより1973 年 までに導かれた. それによると,4次元の空間群型は,enantiomorph (対掌体)を区別しない立場に立つと,4783種類(3次元の場合は219)あり,enantiomorphを区別する立場 に立つと,4895種類(3次元の場合は230)になる. 4次元空間群の対称操作では,3次元では存在しなかった位数5, 8,10,12などのものも可能となる.
(2)⇐続く➡(1)
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※この解説は,物理学辞典/培風館(1984)の著者の分担執筆項目より抜粋編集し,専門技術研修「物性と評価技術(中級)」の講座テキスト(©RICOH CO.,LTD.1993)の付録に用いたものを再録した.
11.一般化された対称群.反対称と色付き対称
古典結晶群を,群$$1′,2′,m′,\overline{1}′,4′(\textrm{mod}2), \overline{4}′(\textrm{mod}2)$$により拡大して作られる反対称結晶点群.
この章では,一般化された対称群の全タイプを,対応する古典群をある新しい群で拡大したものと見なすことにしよう.この新しい群には,冒頭に掲げた反対称群がある.ヘーシュ(Хееш; Heesch)(1929)とシュブニコフ(Шубников; Shubnikov)(1945)が独立に導びいた反対称の概念を,以下の例で紹介する.
一面が黒く,他面が白く染められた皮が与えられたとし,この黒-白の皮で折り返し付きの手袋を作ることにする.この問題は4つの解を持つことは明らかである(図205).即ち,次のものを作ることができる:1)右の白い手袋(黒い折り返し付き),2)左の白い手袋(黒い折り返し付き),3)右の黒い手袋(白い折り返し付き),4)左の黒い手袋(白い折り返し付き).右の手袋は,希望するなら,裏返しにして,左手にはめることができるし,左手の手袋も同様なことができるとする.従って,どの手袋でも,右にも,左にも,黒にも,白にもなれる.ここから,同一色の右と左の手袋だけを対称的に等しいと考えるのでなく,異なる色の手袋同志も等しい(反等価; антиравными; anti-equal )と考えるような概念の一般化が,全く自然に起こって来る.
図205.------------------------------
4つの反対称手袋:右白($$П^{+}$$),左白($$Л^{+}$$),右黒($$П^{-}$$),左黒($$Л^{-}$$).同じ色の手袋は対称演算で互いに変換し合い,異なる色の手袋は反対称演算で互いに変換し合う.
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文字П,Лで右,左の手袋を,《+》,《-》で表面色の白,黒を標すことにし,手袋をある状態から他の状態へと変換する対称あるいは反対称の演算を見つけよう.一寸考えれば,次のことがわかる.$$Л^{+} \to П^{+} ,Л^{ - } \to П^{ - }$$の変換は,図205の手袋間に,垂直に$$m$$を想定し,これで反射させるか,任意の位置にある反転$$\overline{1}$$(ただし,手袋は図とは違った配置になる)によって実行される.変換$$Л^{+} \to Л^{ - } , П^{+} \to П^{ - }$$は,手袋の位置はそのままで,色を塗り変える演算で実行できる.この新しい演算を反恒等(антиотождествлением; anti-identification)と名づけ,1′と標記する.最後に,変換$$Л^{+} \to П^{ - } , Л^{ - } \to П^{+}$$は,垂直平面での反射と色の塗り変えを結合した(引続いて行なう)演算によるか,任意の位置にある反転と色の塗り変えを結合した演算によって実行できる.これらの新しい演算を,それぞれ反鏡映(антиотражением; anti-reflection),反反転(антиинверсией; anti-inversion)と名づけ,$$m'=m1'=1'm$$ ,および$$\overline{1}'=\overline{1}1'=1'\overline{1}$$と標記する.これらの演算に対応する対称要素を反対称面(плоскостью антисимметрии; anti-symmetry plane),反対称心(центром антисимметрии; center of anti-symmetry)と呼ぶことにし,記号$$m'$$と$$ \overline{1}′$$で標記する.
図206ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
反対称群$$1′, m′, 2′, \overline{1}′,4′,\overline{4}′$$の(非対称4面体による)具体化図形.これらにより古典結晶群は拡大される.反恒等群$$1'$$では中性色(灰色)の4面体になるが,他の群では黒あるいは白の4面体で構成された図形になる.反対称演算は4面体の色の塗り変えを伴った幾何空間の変換である.4面体は観測者に頂点を向けているか底面を向けているかである.拡大を作るには,群$$4'$$や$$\overline{4}′$$の替わりに,モジュラス群$$4'(\textrm{mod}2)$$と$$ \overline{4}'(\textrm{mod}2)$$を用いれば十分である.
---------------------------------
図206には,観測者の方に頂点を向けたり,底面を向けたりしている非対称な4面体を集めて作った図形が示されている.もし,図形の白や黒の色を,正,負の電荷とか,何らかの物理量演算子(例えば,磁気モ-メントの演算子)の正,負の符号のような,図形に付加された超幾何学的特性と考えるなら,これら形而下の図形は,この節の冒頭にあげた反対称の巡回群(一つの演算の冪で生成される群)の表現図形《変換により不変な形而下の図形》となる.
位数2の群$$1'=\left\{ 1,1' \right\} $$は反恒等演算$$1'$$の冪で生成される.従って,群の定義関係は$$\left( 1' \right) ^{2}=1$$となる. 演算$$1'$$のあらゆる冪は,結果的には,中括弧内の元のどちらかに一致する.群が反恒等演算を含んでいるために,その表現図形は,同時に黒でもあり白でもある必要がある(物理的に中性).この理由で,群を具体化している右-,左-の4面体は中性色(灰色)に塗られている.
群$$m'=\left\{ 1,m' \right\} ,2'=\left\{ 1,2' \right\} ,\overline{1}'=\left\{ 1,\overline{1}' \right\} $$は,反対称平面での反射[$$\left( m' \right) ^{2}=1$$],反対称軸のまわりの180°回転[$$\left( 2' \right) ^{2}=1$$],反対称中心での反転 [$$(\overline{1}')^{2}=1$$]演算の冪でそれぞれ生成される.これらの群はすべて,抽象的には,群$$1'=\left\{ 1,1' \right\} $$に同型であるが,それらを具体化している図形は,物理的には,性質が異なっている.読者は,図206で,どこにそれぞれの反対称要素があるかを確かめよ.
群$$4'(\textrm{mod}2)=\left\{ 1,4' \right\} $$と$$ \overline{4}'(\textrm{mod}2)=\left\{ 1,\overline{4}' \right\} $$は,90°の反対称単純回転,あるいは反対称回映(回反)演算の冪で生成される.これらの群は,元の対応$$4' \leftrightarrow 4,\overline{4}' \leftrightarrow \overline{4}$$ (p.212)により,群$$ 4(\textrm{mod}2)=\left\{1, 4\right\} $$あるいは$$ \overline{4}(\textrm{mod}2)=\left\{1, \overline{4} \right\} $$と同型である.
他の反対称結晶群は,すべて,上記の群による古典結晶群の拡大として作られる(表15).
32の中性群$$G1'$$は,結晶群の生成元に,反恒等演算を結合して,あるいは同じことであるが,群$$G={g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{n}}$$を群$$1'=\{1,1'\}$$に《乗じて》 得られる.演算$$1$$との積では,どの演算$$g_{i}$$も変わらない.演算$$1'$$との積は結合された演算$$g_{i}'=g_{i}1'=1'g_{i}$$を作る(これを反対称演算と名づける).このように ,拡大群$$G1'$$の位数は,直積$$G1'=G \otimes 1'$$中の因子である始めの結晶群$$G$$の位数の2倍となる.
$$G1'=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{n},g_{1}',g_{2}', \ldots g_{n}' \right\} =\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{n} \right\} \otimes \left\{ 1,1' \right\} $$,
ただし,$$g_{1}=1,g_{1}'=1'$$.
反恒等演算1′を含まない58の2色(黒-白)群 $$G'$$は,指数2の結晶部分群$$G^{*}\subset G$$を生成元にして,演算 $$\overline{1}′,2′,m′,4′,\overline{4}′$$を結合するか,同じことだが,群$$G^{*}$$の各演算を反対称群$$\overline{1} ′,2′,m′,4′(\textrm{mod}2), \overline{4}′(\textrm{mod}2)$$の演算に乗じて得られる.2倍の位数をもつこれらの群は,対称演算と反対称演算を同数づつ含むから,反対称の一般化された群G′では,直積(прямом; direct),半直積(полупрямом; semi-direct),条件積(условном произведении; quasi-direct)の因子である指数2の結晶部分群$$G^{*}=\left\{ g_{1},g_{2}, \ldots ,g_{n} \right\} $$は保存されている:
$$G'=\left\{ g_{1}, g_{2}, \ldots , g_{n}, g_{1}g', g_{2}g', \ldots , g_{n}g' \right\} =\left\{ g_{1}, g_{2}, \ldots , g_{n} \right\} \otimes \left\{ 1, g' \right\} $$,
ただし,$$g_{1}=1,g'$$は拡大を作る演算.
黒-白群$$G'$$が,同じ位数をもつ結晶群に同型となるのはすぐわかる.それぞれの群$$G'$$に対して,同型な結晶群$$G$$と指数2の古典部分群$$G^{ \ast }$$を指定すれば,反対称群$$G'$$の2項記号といわれるもの$$G/G^{ \ast }$$が得られる.この記号は,$$G'$$に関するあらゆる必要な情報を含んでいて,その群の分解を可能にする.
$$G'=G^{ \ast } \cup G^{ \ast }g'$$ $$(g' \neq 1')$$
つまり,対称演算と反対称演算の剰余類を類別して,反対称群の2色ステレオ投影が作れる.
表15には,58の群G′が直積$$( \otimes )$$,半直積$$( \oslash )$$,条件直積[準積]$$( \odot )$$の型で表現されている:$$G'=G^{ \ast } \cdot B$$,ここで$$B$$は群 $$\overline{1} ′,2′,m′,4′(\textrm{mod}2), \overline{4} ′(\textrm{mod}2)$$.直積のときには,各因子$$G^{ \ast }$$,$$B$$はどちらも他方の自己同型群になっている.いいかえれば,群$$G^{ \ast }$$の対称要素は群$$B$$の対称要素を$$B$$の中へ変換し,群$$B$$の対称要素についても同様である.しかし,半直積のときには,そのような働きは$$B$$だけにある.群$$G'$$に同型な群$$G$$の国際記号は,$$G'$$からダッシュを消せば得られる.図207に,例として,次の群に対する対称要素と非対称図形の同価系の2色ステレオ投影を与える:$$4'mm'-4mm/2m1$$,$$\overline{4}2'm'-\overline{4}2m/\overline{4}11$$,$$\overline{4}'2m-\overline{4}2m/221$$,$$\overline{4}m2'-\overline{4}m2/2m1$$.どの場合でも,2項記号中の群$$G^{ \ast }$$は,群$$G$$の方位をもっている.すなわち,群$$G'$$で対応する方位に,反対称軸や反対称平面の法線がある場合は,記号$$G^{ \ast }$$のその場所には1と書く.群の投影では,古典対称要素を黒で,反対称要素を赤で標示する.ここでは,反対称の演算は,図形の幾何学的変換と4面体の黒から赤(あるいはその逆)への塗り変えになる.
この例に倣い,古典群のステレオ投影(図69)を利用して,古典部分群$$G^{\ast}$$の 対称記号を黒く,残りの要素を赤く塗り分けることにより,反対称群の2色投影を作ることは,読者にとって良い練習となる.反対称群すべての2色投影と2項記号は,モノグラフ《Shubnikov群》(Koptsik,1966)に導かれている.このモノグラフは,これらの群の物理的応用に関連した群論的記述も含んでいる.
この節で作られた反対称群は,形而下の2色図形(またはこれらを取り囲んでいる3次元2色空間)の対称特性を記述する.この空間の点に記入されている超幾何学的な特性は,2つの値だけ取る色や任意の関数などで抽象的に表現される.一般点にあれば,その点は1つの色が確定するが,特殊点にあれば,その点の対称に従い2つの色が与えられる.もう一つの解釈(p197)は,これらの群を,超幾何学的座標(記号の上添え字)が,ただ2つの固定値$$ \pm x_{4}$$をとる非一様な4次元空間の対称群 $$G_{3,0}^{1}$$と考えることである.一様な4次元空間では,対称点群の数は58( $$G_{3,0}^{1}$$)でなくて227($$G_{4,0}$$ )となる(章末の文献を見よ).
反対称の空間群(Shubnikov群)Ш
-古典空間群(Fodorov群)Фの拡大,あるいは並進群Tの拡大-
反対称空間群(Shubnikov群)の古典空間群(Fodorov群)に対する関係は,反対称結晶点群が結晶点群に対する関係と同様である.3次元のShubnikov群では,古典的な運動演算のすべて$$\phi _{i} \in \mit\Phi $$ に加えて,結合された演算$$ ш_{i }=\phi _{i}1'=1'\phi _{i} $$として定義される反対称演算$$ ш_{i } \in Ш $$とも出会う.これらのすべての演算をあらわな形にかくと:
運動演算 反対称運動演算
$$ \begin{array}{ccccc} 1 & 2 & 3 & 4 & 6 \\[0mm] \overline{1} & m & \overline{3} & \overline{4} & \overline{6} \\[0mm] \tau & 2_{1} & 3_{1} & 4_{1} & 6_{1} \\[0mm] & a & 3_{2} & 4_{2} & 6_{2} \\[0mm] & b & & 4_{3} & 6_{3} \\[0mm] & c & & & 6_{4} \\[0mm] & d & & & 6_{5} \\[0mm] & n & & & \end{array} \begin{array}{ccccc} 1' & 2' & 3' & 4 ' & 6 \\[0mm] \overline{1}' & m' & \overline{3}' & \overline{4}' & \overline{6}' \\[0mm] \tau ' & 2'_{1} & 3'_{1} & 4'_{1} & 6'_{1} \\[0mm] & a' & 3'_{2} & 4'_{2} & 6'_{2} \\[0mm] & b' & & 4'_{3} & 6'_{3} \\[0mm] & c' & & & 6'_{4} \\[0mm] & d' & & & 6'_{5} \\[0mm] & n' & & & \end{array} $$
この表で,$$ n_{j}$$の下添字はらせん軸のまわりのらせん回転を指定する.文字$$a,b,c,d,n$$ で,軸$$a,b,c$$ あるいは対角方向の映進面による映進を,文字$$\tau $$で並進部分群の任意のベクトル$$\tau \in T$$ を表す.また,$$3'=31'=1'3$$ などの記法も用いる.
空間群の演算リストを拡張した時に現れる反対称空間群は,Fodorov群を以下の演算の冪で生成される位数2の巡回群により拡大したものと見なせる:
$$ 1', \overline{1}', \tau '; 2', 2'_{1}, m', a', b', c', d', n'; 4', \overline{4}', 4'_{1}, 4'_{2}, 4'_{3} $$.*
拡大の概念を知る手始めとして,1次元のShubnikov群(単面帯の反対称群)を例にとる.図208の第1列には単面帯の7つの古典空間群の国際記号を,並進軸$$a$$に沿って繰り返される単色図形(非対称三角形とそれらの組合せ)による幾何学模様と共に掲載した(図90,p160の表10参照).
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*並進を含む演算は,2倍長さの並進を法とし群を生成する:
$$ \tau '\left( \textrm{mod}2\tau \right) =\left\{ 1,\tau ' \right\} ;2'_{1}\left( \textrm{mod}2\tau \right) =\left\{ 1,2'_{1} \right\} ; a',b',c',n'\left( \textrm{mod}\tau \right) =\left\{ 1,x \right\} ; d'\left( \textrm{mod}n \right) =\left\{ 1,d' \right\} ;$$
$$4'_{1}\left( \textrm{mod}2_{1} \right) =\left\{ 1,4'_{1} \right\} ; 4'_{2}(\textrm{mod}\left[ 2|\tau \right] =\left\{ 1,4'_{2} \right\} ; 4'_{3}\left( \textrm{mod}2_{1} \right) =\left\{ 1,4'_{3} \right\} $$, ここで,$$x=a', b', c', n'$$ $$ \tau \in T $$.
さらに,$$4'\left( \textrm{mod}2 \right) =\left\{ 1,4' \right\} ; \overline{4}'\left( \textrm{mod}2 \right) =\left\{ 1,\overline{4}' \right\} $$ が法により群になる.
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2列目には,7つの中性群の具体化が,それらに応じた灰色図形を用い示されている.このタイプの群は,古典群と群$$1'=\left\{ 1,1' \right\} $$ の直積と考えることもできる. 3列目には,反恒等演算$$1'$$ と反並進演算$$\tau '$$ を含まない反対称群の象徴が示されている.このタイプの群は,古典群を群$$2',m',a'$$によって拡大したものと見なせ,黒白2色の図形で具体化することができる.(図208で,記号$$ \otimes $$と$$ \odot $$は,2つの点群の直積,および,点群と法による群 との条件直積を示している: 対応する空間群では半直積,条件半直積である.)
図208の最後の列には,反並進を含む単面帯の空間群の幾何学的具体化とその記号を示した.反並進$$\tau '$$で生成される群は,2倍の長さの$$(\tau '+\tau '=2\tau )$$単純並進を含むから,対応する並進と反並進の群を記号$$p_{\tau '}$$であらわす.記号 の下添字$$\tau ′$$は並進群 $$p$$の拡大を行なう反並進を示す.
読者は,次の文献に発表された群記号の表を調べながら,両面帯や柱の一次元Shubnikov群を,同様の方法で見つけるとよい(Shubnikov,1959,1962;Belov 他,1956,1962).この問題は,このくらいにして,我々は層の反対称Shubnikov群へと進もう.
そのような群は全部で528知られている(Neronova,Belov,1961).実例として,Weberの黒白図形(図184-187)に相当する80個の反対称群だけ調べてみよう.特にこれらの図形は,HeeschとShubnikovに反対称演算のような塗り変え演算の概念を思いつかせ,独立に,有限図形の反対称結晶点群を導出するに至らせた.
我々の考察の結果は,表16に示した.第1列には,表裏の面が同一色(黒または白)で塗られた1色層に対する17の古典空間群$$\mit\Phi$$の記号を載せた.第2列には,古典的1色群の生成元に,反恒等演算$$1'$$を結合して得た中性(灰色)群の記号を載せた;括弧内にはWeber図形(図184-187)に対応した番号が付けてある.全中性群$$Ш=\mit\Phi \otimes 1'$$は,古典群を群$$1'$$により拡大したものと見なせる.表の第3列には,2色Shubnikov群Шの記号を載せた.これは第1列目にあげたFodorov群$$\mit\Phi$$と同型である.これらの群Шは,反並進を含まず,指数2の古典部分群$$\mit\Phi ^{ \ast } \subset \mit\Phi $$ を反対称点群$$G'$$または法による反対称群$$G^{T'}$$により拡大したものと見なすことができる(直積 ,半直積,条件直積)*.
Ш$$=\mit\Phi ^{ \ast } \otimes G'$$,Ш$$=\mit\Phi ^{ \ast } \oslash G'$$,Ш$$=\mit\Phi ^{ \ast } \odot G^{T '} $$
しまいに,反並進$$\tau ′$$を含む2色Shubnikov群のカテゴリ-は,古典Fodorov群で,並進群 $$T \subset \mit\Phi $$の生成元に許される反並進の生成元$$\tau ′$$(並進群$$T$$の記号の下添字によって標示される)を結合することにより得られる.
従って,このタイプの群は,Ш$$=T_{\tau '}G$$ と標記されるが,古典群 $$\mit\Phi ^{ \ast }=TG$$を法による群$$\tau '(\textrm{mod}2\tau )=\left\{ 1,\tau ' \right\} $$で拡大したものと見なすことが出来る.
群Ш$$=T_{\tau '}G$$は,群Шと共通な並進群$$T$$を持ち,付加された並進ベクトル$$\tau $$が$$\tau ′$$と同じ長さ$$(\tau \leftrightarrow \tau ' )$$であるような古典群$$\mit\Phi =T_{\tau }G$$ と同型であることに注意しよう.群$$\mit\Phi ^{ \ast }=TG$$は,互いに同型なШ-群,Ф-群に共通な部分群(指数2)である.その上,群Ш$$=T_{\tau '}G$$は(生成元の違う選び方をすると)Ш$$=T_{\tau '}G'$$という表現も許される.この$$G' $$は反対称点群,あるいは,法による群(それぞれ,共型,あるいは,非共型Ш-群に対応);群$$G'$$は表の第1列に示した古典点群$$G$$または法による群$$G^{T}$$と同形である.この理由のために,Shubnikov群 Ш$$=T_{\tau '}G$$では,反並進なしのShubnikov部分群$$Ш^{*}=TG' \subset Ш =T_{\tau '}G $$を法による群で拡大したものとみなすことが出来る.
読者は,単面ネットワークパターン(図149)の対称群の投影と同様に,80のShubnikov層群に対し,対称と反対称の要素の投影図を作り,黒色と赤色で対称と反対称の要素を塗り分けてみるとよい.3次元Shubnikov群に対し同様な投影図を作れるだろう.
3次元Shubnikov群(Zamorzaev,1953,1957;Belov,他,1955)は,230のFodorov群$$ \mit\Phi $$を群$$1'$$で拡大し得られるタイプ $$\mit\Phi 1'=\mit\Phi \otimes 1'$$の230個の中性群:反並進$$\tau '$$や反恒等$$1'$$を含まない674個のタイプШ$$ =T \oslash G' $$ またはШ$$ =T \circ G^{T '} $$ の群:これらの群は並進部分群$$T$$の反対称点群$$G'$$あるいは同型な法による群$$G^{T '}$$での拡大とみなせる(それぞれ,共型,あるいは,非共型Shubnikov群に対応);Fodorov部分群$$\mit\Phi ^{*}=TG$$あるいは$$\mit\Phi ^{ \ast }=TG^{T}$$を反並進$$\tau '(mod2\tau )=\left\{ 1,\tau ' \right\} $$を法として拡大したタイプШ$$=T_{\tau '} \oslash G$$ あるいは$$T_{\tau '} \bigcirc G^{T }$$ の517の群;に区別される.230のFodorov群を形式的に含ませると,合計で230+230+674+517=1651のShubnikov群が得られる.図209(カラー挿入頁)には,反並進を含まない以下の3つの共型Shubnikov群の2色投影を例として掲載した.
$$ Ш_{10}^{44} : P2'/m=Pm \otimes \overline{1}' (P2/m/Pm)$$
$$ Ш_{10}^{45} : P2/m'=P2 \otimes \overline{1}' (P2/m/P2$$
$$ Ш_{10}^{46} : P2'/m=P\overline{1} \otimes m'=P\overline{1} \otimes 2' (P2/m/P\overline{1})$$
(記号$$Ш$$の添え字は、便覧《Shubnikov群》(koptsik,1966)の群の番号に対応させている.括弧中の記号は,いわゆる2項記号で,同型なFodorov群$$\mit\Phi$$(分子)と,同型なШ群とФ群に共有される指数2のFodorov部分群(分母)で定義される.
図210(カラー挿入)には,反並進を含む以下の3つのShubnikov群の2色投影図を示した.
$$ Ш_{10}^{47} : P_{a'}2/m=P2/m \circ a' (2P2/m/P2m)$$
$$ Ш_{10}^{48} : P_{c'}2/m=P2/m \circ c' (2P2/m/P2/m)$$
$$ Ш_{10}^{49} : P_{B'}2/m=P2/m \circ \displaystyle \frac{1}{2}\left( a+c \right) ' (B2/m/P2/m)$$
(記号$$a',c'$$は反並進ベクトルの方向を記述している.ベクトル$$\displaystyle \frac{1}{2}\left( a+c \right) ^{'}$$ は単位胞のB面心を記述しており,$$B'$$と標記される。$$ \circ $$は条件半直積;2項記号の前にある数字の意味は表17のノートに説明してある.)
Ш群の投影は次のようにして作れる.
直交変換による並進の積定理(あるいは,結晶学便覧)を利用して,
同型なFodorov群$$ \mit\Phi $$の対称要素の投影を鉛筆で描く;
この投影図で,古典部分群$$ \mit\Phi ^{*} $$の対称要素を黒い色で塗る;部分群$$ \mit\Phi ^{*} $$にない残りの対称要素(これは反対称の対称要素になる)は,赤色に塗る.対称と反対称の投影と並べて,別の図面でШ群単位胞における非対称図形(4面体)の配置を示そう.反並進を含むШ群を作ることは,原理的には,Bravais格子と類比した2色格子が前もって作れるなら,簡単に実行できる.図211には,このような格子の22の図と,与えられた格子と共存できる最も高い対称性を持つ共型Shubnikov群の記号を導いてある.表17に,これらの格子に対応している並進群$$T_{\tau '}$$の拡大されたベクトル基底$$ \left\{ a,b,c,\tau ' \right\} $$を導いた(非単純格子に対して,基底は中心化並進をつないでいるベクトルの過剰数を示している).同型な古典群への移行 $$T_{\tau }=\left\{ a,b,c,\tau \right\} \leftrightarrow \left\{ a,b,c,\tau ' \right\} =T_{\tau '}$$は,反並進ベクトル$$\tau '$$を普通のベクトル$$\tau $$に換えて行われる.表17には,古典部分群$$T^{ \ast }=\left\{ a,b,c \right\} $$(群$$T_{\tau '}$$と$$T_{\tau }$$とに共に同型)のベクトル基底と並進群の2項記号$$T_{\tau }/T^{ \ast }$$が示してある.これらの記号の基礎は,空間群$$ \mit\Phi/\mit\Phi^{ \ast } $$の完全な2項記号である.それに従って,517のShubnikov群全部を作ることができる.
Ш$$=T_{\tau '}G \leftrightarrow T_{\tau }G=\mit\Phi$$ ($$\mit\Phi^{ \ast }=TG$$),あるいは,Ш$$=T_{\tau '}G^{T} \leftrightarrow T_{\tau }G^{T}=\mit\Phi$$ ($$\mit\Phi^{ \ast }=TG^{T}$$)