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平面群

繰り返し模様$$pmm2$$★

今回は壁紙模様の第9類で,国際記号で$$pmm2$$,ロシア式記号で$$(b:a):2・m$$です.

対称性$$2・m$$の単位胞図形を長方形の格子$$a$$軸,$$b$$軸で並進してパターンができます.
以下の図は,この対称性のパターンとはわずかに違うのですが,どこが違うかわかりますか?
間違い個所を見つけてください.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 例えば,ダイアモンドを頂点とする長方形が単位胞ですが,この単位胞の中身の対称性は,どうでしょうか.中心に2回回転軸はありますか?確かに,垂直に鏡映面はあります.よく見ると,コイルの巻き方は鏡映対称を満たしていますが,2回回転対称とは矛盾します.従って,厳密に言うと単位胞の対称性は$$2:m$$でなく$$m$$ですので,パターンの対称性は,$$(b:a):m$$,国際記号では$$pm$$の繰り返し模様になっています.
それでは,厳密にこの対称性$$(b:a):2・m$$である別の例を探してお知らせください.日本やイスラムの伝統模様で見つかると良いのですが.不思議なことになかなか見つかりません.自分で作った方が速いかもしれません.

もし,先に掲載した例を修正するなら,渦巻きコイルでなく同心円に変更します.蔓の重なり方も紙面上下の立体感を失くして平面内にある様に変更します.表紙の図のようになります.ただし,蔦の重なり方を修正していないので,2回対称を満たしますが,鏡映対称に矛盾します.両者を満たすには,蔦の重なりが,平面上にある様に修正する必要があります.しかし,あまり面白いデザインではないので,もっと良いデザインに皆様ご挑戦ください.

繰り返し模様$$p4$$★

繰り返し模様の対称性の第10類は,国際記号で$$p4$$,ロシア式記号で$$(a:a):4$$.単位胞の図形の対称性$$4$$を,直交する軸(従って,正方形のメッシュが格子)に沿って並進して得られるパターンで,$$(a:a):4$$で記述される.以下の2つのエジプト模様の例は,ちょっと見るとこの対称性のようですが,厳密には,この対称性を満たしません.

 どこがいけないのか間違い探しをしましょう.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 解答

左のパターンでは,背景にストライプがありますので,4回対称軸は2回対称軸に低下します.そして,格子は直交している必要がなくなり,対称性は$$(a:a):2=(b/a):2$$になります.
右のパターンでは,コイルの渦巻きは2回回転対称のようですし,花は花弁が10枚のようですから,単位胞の中身は全体として4回回転対称になりません.

 

等価なパーツが隙間なく平面を充填するパターンの例
この対称性のパターンは,正方形の格子並進,4回軸がありますが,鏡映面はありません.モチーフ(非対称要素)は単位胞の1/4(例えば薄桃色)です.パターン全体を見ると,それぞれのパターンには対掌体(風車の回り方が逆なもの:chiral,enantiomorphs)が存在します.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この対称性のエッシャー作品の例を以下に示します. 

 

 

   

美しい幾何学p.99より

 

 

 

 

繰り返し模様$$p4gm$$★

対称性の第11類です.国際記号$$p4gm$$,ロシア式記号$$(a:a):4・\tilde{a}$$

このパターンは,4回対称の単位胞を,2つの等価な互いに直交する映進面で繰り返し広げて得られる.
縦,横の映進面$$\tilde{a}$$は,群$$4・m$$に同型な,法による点群$$4・\tilde{a}$$の4回軸を通る.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上の図はこの対称性のエジプトのパターンと言いたいが,厳密に見ると4回軸はなく2回軸になっている.
(間違い探し:4回対称性を破っているところを探しなさい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 縦,横の太い赤線は鏡映面.細い赤線は映進面.映進面の交点に4回回転軸がある.太い線の交点には2回回転軸が生じている.

単位胞の面積は,非対称要素(モチーフ)が8個で出来ている面積に等しい.

 

 

 

 

 

以下の図は,pngtreeのサイトから借用したもので,今回の対称性の図の例です.

繰り返し模様$$p4mm$$★

繰り返し模様の対称性の第12類は,$$4・m$$の図形を正方形単純格子$$(a:a)$$で並進させて得られる.

この対称性は,国際記号で$$p4mm$$,ロシア式記号で$$(a:a):4・m$$と記述される.
この対称性のパターンの例は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

非対称要素(モチーフ・タイル)は,単位胞の1/8です.

この対称性の日本の伝統模様はたくさんあります.
例えば,以下の七宝つなぎなどです.イスラムの模様との交流もあったと思われます.

 

 

 

 

 

17table

\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|c|c|c|}
\hline
\textgt{国際記号} & p1 & p2 & pm & pg & cm & pmm2 & pmg2 & pgg2 & cmm2 \\[0mm]
\hline
\textgt{ロシア式記号} & \left( b/a \right) 1 & \left( b/a \right) :2 & \left( b:a \right) :m & \left( b:a \right) \tilde{b} & \left( a/a \right) /m & \left( b:a \right) :2m & \left( b:a \right) :m:\tilde{a} & \left( b:a \right) :\tilde{b}:\tilde{a} & \left( a/a \right) :2m \\[0mm]
\hline
& & & & & \left( c/b:a \right) :m & & \left( b:a \right) :2\tilde{a} & \left( b:a \right) :2 \odot \tilde{a} & \left( c/b:a \right) :2m \\[0mm]
\hline
\textgt{対称要素} & \begin{minipage}[b][95pt]{130pt}
\includegraphics[width=130pt,height=95pt]{tex17tplaneable_001.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][86pt]{121pt}
\includegraphics[width=121pt,height=86pt]{tex17tplaneable_002.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][85pt]{93pt}
\includegraphics[width=93pt,height=85pt]{tex17tplaneable_003.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][86pt]{97pt}
\includegraphics[width=97pt,height=86pt]{tex17tplaneable_004.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][80pt]{97pt}
\includegraphics[width=97pt,height=80pt]{tex17tplaneable_005.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][88pt]{103pt}
\includegraphics[width=103pt,height=88pt]{tex17tplaneable_006.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][112pt]{141pt}
\includegraphics[width=141pt,height=112pt]{tex17tplaneable_007.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][113pt]{132pt}
\includegraphics[width=132pt,height=113pt]{tex17tplaneable_008.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][113pt]{131pt}
\includegraphics[width=131pt,height=113pt]{tex17tplaneable_009.bmp}
\end{minipage}
\\[0mm]
\hline
\end{array}
\ \\
\ \\
\begin{array}{|c|c|c|c|c|c|c|c|c|}
\hline
\textgt{国際記号} & p4 & p4mm & p4gm & p3 & p3m1 & p31m & p6 & p6mm \\[0mm]
\hline
\textgt{ロシア式記号} & \left( a:a \right) :4 & \left( a:a \right) :4m & \left( a:a \right) :4 \odot \tilde{a} & \left( a/a \right) :3 & \left( a/a \right) :m & \left( a/a \right) m & \left( a/a \right) :6 & \left( a/a \right) :m \\[0mm]
\hline
& & & & & & & & \\[0mm]
\hline
\textgt{対称要素} & \begin{minipage}[b][116pt]{121pt}
\includegraphics[width=121pt,height=116pt]{tex17tplaneable_010.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][116pt]{115pt}
\includegraphics[width=115pt,height=116pt]{tex17tplaneable_011.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][114pt]{119pt}
\includegraphics[width=119pt,height=114pt]{tex17tplaneable_012.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][109pt]{147pt}
\includegraphics[width=147pt,height=109pt]{tex17tplaneable_013.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][98pt]{145pt}
\includegraphics[width=145pt,height=98pt]{tex17tplaneable_014.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][99pt]{143pt}
\includegraphics[width=143pt,height=99pt]{tex17tplaneable_015.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][98pt]{145pt}
\includegraphics[width=145pt,height=98pt]{tex17tplaneable_016.bmp}
\end{minipage}
& \begin{minipage}[b][98pt]{147pt}
\includegraphics[width=147pt,height=98pt]{tex17tplaneable_017.bmp}
\end{minipage}
\\[0mm]
\hline
\end{array}

繰り返し模様$$p3$$★

壁紙模様の対称性の第13番目の類は,対称性3の図形を,60°で交差する2つの等価な並進軸$$(a/a)$$で並進して得られる.

国際記号で$$p3$$,ロシア式記号で$$(a/a):3$$です.今回から始まる残り5つの対称性の類(第13~17)は,正3角形のメッシュに属します.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

等価な図形が隙間なく平面を充填しているこの対称性のパターンを以下に示します.モチーフ(非対称要素)は,正3角形メッシュ座標を作っている頂点に集まる曲線で囲まれた形です.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

非対称要素(モチーフ)3つで,単位胞の面積に等しくなります.鏡映対称はありません.

以下の例は,アルハンブラの有名なモザイクです.これは対称性$$p3$$の例です.ただし,色の区別はしていません.

 

 

 

 

 

 

 

 

(参考)以下の「千鳥」のパターンの対称性は$$p3$$ではありません.何故でしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(解答)上図の「ちどり」のパターンは,単位胞の菱形の頂点に6回軸がありますので,$$p3$$ではありません.このパターンは,後ででてくる$$p6$$の対称性です.単位胞の中を,2つの千鳥図形で埋まますが,この千鳥の形は,等価なモチーフにさらに3分割できますから,非対称要素は,千鳥を3分割したものになります.

繰り返し模様$$p3m1$$と$$p31m$$★

■第14の類は,国際記号で$$p3m1$$,ロシア式記号で$$(a/a):m・3$$と記述します.対称性$$3・m$$の図形を60°で交差する等価な2つの軸$$(a/a)$$に沿って並進させて得られますが,鏡映面(赤色)の入り方が,並進軸(青色)に直交している.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

非対称要素(黄色)が6個で単位胞を埋める.

■第15の類は,国際記号で$$p31m$$,ロシア式記号で$$(a/a)・m・3$$と記述します.並進の格子$$(a/a)$$は同じですが,鏡映面の入り方が,並進軸方向に平行である.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上の図で鏡映面は格子に重なっている.非対称要素(黄色)が6つで単位胞を埋めている.

■この両者の区別は多くの書物で混乱がみられます.分かりにくいので,もう少し詳しく説明を加えましょう:

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美しい幾何学,p.100,p.110より引用

 

繰り返し模様$$p6$$と$$p6mm$$★

■第16の類は国際記号で$$p6$$,ロシア式記号で$$(a/a):6$$です.

以下のペルシャのパターン(Owen Jones)の例では,黒い6角形の内の花は厳密には6回対称ではありませんが,これを6回対称とみなすと,周りに風車がまわっているような6回軸の配列のパターンが見えます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6回回転軸が通る点を頂点とする平行4辺形が単位胞.非対称要素モチーフが6個で単位胞を埋めます.

 エッシャー作品の例

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■第17の類は国際記号で$$p6mm$$,ロシア式記号で$$(a/a)・m・6$$,あるいは$$(a・a):m・6$$です.

$$p6$$の対称性に鏡映面が加わりますが,並進軸に平行な鏡映面も,垂直な鏡映面もあります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

非対称要素である直角3角形が12個で単位胞を埋めます.

 

 対称性の法則をもっと利用すると,アーティストがデザインパターンのモチーフを変形するのが容易になる.

壁紙模様の対称性とその心理効果★

人間は様々な用途で無限に繰り返す平面パターンを使います:壁紙,寄せ木細工,タイルの床,瓦屋根,陶器や装飾石の壁,レンガや敷石,道路や広場の舗装,色織物,カーペットや編物,同一物の密な充填,金属やプラスチック板から標準物を大量に打ち抜く,その他の多くの分野で利用されます.

自然界の網目パターンは,魚の鱗,生体組織の細胞,ハチの巣,マツカサの鱗片,などの配列で見られます.特に興味深いのは,結晶中の,原子・イオン・分子が配列した網平面です.もちろん,これらを直接見ることはできませんが,X線や電子線の回折や,走査型顕微鏡を用いて観測できます.
網目パターンから受ける印象を分析すると,芸術家が特定の視覚効果を伝えるために,特定の対称性クラスを意識的に選択する法則を確立できるかも知れません.

例えば,斜交する並進軸を持ち,対称面を持たないパターン(図112)は,斜め方向の動きを強調したい場合に適しています.

 

階段,ロビー,エスカレーター,地下鉄の傾斜トンネル,アーチ橋のフェンスなどの壁を飾る際に,芸術家はこの問題に遭遇します.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図117                  図121                  図123

水方向の並進軸はあるが,垂直方向の対称面を持たないパターン(図115,117参照)は,特定方向として水平面に沿った動きを強調しているので,地下鉄や回廊の水平通路の装飾に用いると成功します.対称面があると,それらに垂直な方向への運動を止めます.例えば,図121,123などのパターンは,水平方向には静止しているように見えます.図121では,2回軸が存在することで,上下方向への運動の概念が生まれますが,図123では,それらの回転軸が存在しないので,上方向,あるいは一般的に,垂直な一方向の運動の印象を与えています.
図121は,回廊の水平な床や天井の装飾にふさわしく,図123は, 地下鉄の昇降路の床や天井の装飾に適しています.

 

 

 

 

 

 

 

 図128           図130           図137           図147

水平や垂直の対称面のシステム(図128,130,137,147)がいくつか存在することで,静止休息,記念碑性,不動性,重力などの印象を醸し出します.興味深いことですが,(b:a):2・m型の対称パターン(図128 と 130)は,長い間,壁紙に使用されてきました.そして,図137や147に示すようなさらに対称的なパターンは,寄せ木,天井,ステンドグラス窓などには使われました.
奇妙な静止のない印象は,主要部分に映進面がある対称パターン(図116と120)で生み出されます.言葉でうまく表現できないのですが,これらのパターンの中の図形が,押し合い,転がり,絡み合い,群がって動きがあります.

 

 

 

 

 

 

 

           図116                    図120

このタイプの対称性は,他の対称性よりも出会う頻度は少ないのですが,それは,他のものよりも構成や認識が困難であるためで,例えば,見本市会場や遊歩道などのデザインに利用されることがあります.

 

 

 

 

 

 

 

   図132            図139              図145

特に興味を惹くのは,対称面がなく,3,4,6回回転対称軸で特徴づけられるパターン(図132,139,145)です.このようなパターンは,そのダイナミックさから,ダンスホールなどの大勢の人が無秩序に動くことを想定した施設の床や天井に適しています.図116のようなパターンと合わせて,文化公園の広場やサーカスのテントのアリーナ,フローティング・パネルなどの装飾に使用されています.全体として静止休息の奇妙な印象と細部に見られる動きは,普通の対称面と映進面が交互に繰り返すパターンのせいで生じています(図12,135,142).静止休息と運動の印象のどちらが支配的になるかは,フレーム・ワーク(垂直,水平線に)に対するパターンの方位に大きく依存します.

 

 

 

 

 

 

 

   図135            図142

例えば,図12はこの本に掲載している向きでは,動きの印象が静止に打ち勝ってしまう.特別な注意を払わずにパターンを見ると,対称面を見落とすのです.
一方,図12と同じ対称性を持つ図135は,動きよりも静止の印象が打ち勝ってしまう.それは,本を普通に置いたときに,パターンの対称面は垂直・水平線に沿ったフレームに平行であるからです.
観客が網目パターンを見たとき生じる印象に対称性が演じる役割について詳しく述べてきました.明らかに,対称性が美的鑑賞の唯一の要因ではありませんが,パターン構築の基礎となる法則を明らかにすると,装飾美術で対称性の果たす役割は,デッサンで遠近法が果たす役割と同じです.

 

■最後に,私が気に入っている映進面のある軽快な歩道タイル張りの写真を掲載します.美しい幾何学(技術評論社)p.93より