数学月間の会SGKのURLは,https://sgk2005.org/
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Penrose タイリングから単一タイルによるタイリングまで
ここで対象とするのは2次元ユークリッド空間(平面)に限りましょう.2次元世界は厚みのない世界,つまり表面だけの(裏表のない)世界です.2次元平面のタイリングとは,1種類(Penroseタイリングでは2種類)のタイルで,隙間も重なり合いもなく,平面を張り詰めることです.
結晶内部の原子的構造は,単位胞と呼ばれる単位ブロックがあり,これが面と面をピッタリ合わせて積み重なり結晶全体ができています。例えば,直径3.5mmのダイヤモンドの内部構造は,単位胞が$${10^7}$$個も並んでおり,事実上,単位胞が無限に繰り返す世界になっています.結晶空間とは,このような周期的な空間のことで,単位胞を点と見なすならば,結晶空間は周期的な点集合(=格子),つまりデジタル化された空間といえます.今,対象としている2次元に限定すると,2次元の結晶空間(周期的平面)の単位胞は,平行4辺形あるいは平行6辺形でなければならないことがわかります.逆に考えて,何らかの形のモチーフタイル(構造単位,敢えて単位胞とは言わない)があり,このタイルで平面をタイリング(平行移動だけでなく,回転移動も許す)できれば,必ず,周期な構造ができるるかといえば,そうとは限りません.すぐに反例が見つかります.
■非周期だが均一でないタイリング
図1は,1936年に Voderberg が示した奇妙なタイル張りです.これは1種類の9辺形のモチーフタイル(カニのツメのよう)だけでできていて非周期です.この構造の特徴は,2つの特異点があることです.これを単純化した非周期タイリングも示しておきましょう図1(右下).
■凸多角形(3,4,5,6角形)タイリング
1つの多角形による平面のテッセレーションで,パズルのように思いもつかないようなパターンを考案した例がいくつか報告されています.例えば図2のパターンは,1つのモチーフ6角形タイルで,平面全域を均一にタイリングしていますが,決して非周期パターンではありません.
図2凸6角形によるテッセレーション
凸5角形によるタイリングに関しては,1975年のガードナーのコラムに,ラインハルト(1918年)の5タイプと1967年にカーシュナーが発見した3タイプの計8タイプが掲載されていました.ところが新しいタイプがまだあったのです.主婦マジョリー・ライス(フロリダ州生まれ)は,1975年の Scientific American 史のマーチン・ガードナーのコラムを見てこの問題を知り研究し自分の仕事をガードナーに送りました.ガードナーはそれをペンシルバニアのモラヴィアン・カレッジのタイリング問題の専門家であるドリス・シャトシュナイダーに送ってくれました.シャトシュナイダーは,彼女の発見が正しいことを確認したのです.彼女が発見したのは,張り詰め可能な4つの新しい凸五角形タイプです (1977).1975年以降にマジョリーの4種を含む計7種が発見されて,全部で15種類が発見されました.最後に発見 (2015) された15番目は,やはり周期的(単位胞が12個の5角形で構成される)なようです(発見にスーパーコンピュータが使われました).
■Penroseタイリングの登場
Penroseタイリングは,これら2種類の例とは全く異なる性質があり,2次元平面全域を,非周期に,均一にタイリングすることです.Penroseタイリングの源流はイスラムのモザイク模様にも見られます.Penroseタイリングの特徴を一言でいえば,フラクタル構造で出来上がっていることです.
2種類のタイルの内部を再分割したあとで$${\phi=(1+\sqrt{5})/2=1.618\cdots}$$倍拡大すれば,始めのパターンと同じものが見えます.この操作はInflationと呼ばれます.同じことですが,2種類のタイルを組み合わせたパターンを作り縮小すれば,始めのパターンと同じものが見えます.この操作はDeflationと呼ばれます.このようにしてできるパターンはフラクタル構造です.ロジャー・ペンローズが考案した(1966)ペンローズ・タイリングは,2種類のタイルによる規則的ではあるが,周期的ではないタイル張りの一つです.
2種類の3角形AとBを組み合わせて,太った菱形/痩せた菱形と見立てたり,凧/矢と見立てたりもします.
■ 1種類の形のタイルによる非周期タイリング
ペンローズタイリングは,2種類の形のタイルを用いている.1種類の形のタイルで非周期タイリングが可能でしょうか.これを「アインシュタイン問題」という.(ドイツ語で「タイル1枚」をein steinという)
結局,1種類の形のタイルを用いた非周期タイリングは可能でした.
以下の2種類の非周期タイリングは,2023年にDavid Smithらにより発見されたものです.これらが非周期であることを確認するのは容易いことではありません.
hatと命名された形のタイルでできる非周期タイリング
ただし,濃青タイルと(薄青&白)タイルとは,互いに鏡像(裏返し)になるので,2次元平面で1種類のタイルとは言い難い.
spectreと命名された形のタイルでできる1種類の形のタイルによる非周期タイリング.
引用文献
1.美しい幾何学(谷克彦);技術評論社;p68~70, p76~80
2.A chiral aperiodic monotile;David Smith, Joseph Samuel Myers, Craig S. Kaplan, and Chaim Goodman-Strauss;(2023)
3月22~25日に,sgk2005.org(当サイト:nc3.3.5→3.3.7);new.sgk2005.org(次期サイト:nc3.3.1→3.3.7)のバージョンアップと,exp.sgk2005.org(nc3.3.7)の新設を行いました。公開しているのは,当サイトsgk2005.orgのみです。
3.3.3→3.3.4のバージョンアップ時に,横メニューが消えるバグがありますが,プラグインを入れ直すことにより解決できました。
[巻田ICTさんに教えてもらいました]
バージョンアップにより,記入したトラキングコードが消えたdefault.ctpになるので,googleアナリティクスがカウントしなくなった。トラッキングコード中のトラッキングIDを以前に戻しカウントするようになった。
中野ZERO子供カーニバルの数学ワークショップは、盛況裡に終了いたしました。3月2日、3月3日、3月10日の3日間(4種目)の数学ワークショップ全部に参加された熱心な親子もおられます。次の企画でまたお会いしましょう。ご意見やご希望などいつでもお寄せください。
具体的な物(万華鏡、エジプト紐、正多面体)を舞台に、そこで現れる数学・算数に触れることで、数学・算数への関心が高まります。
これが自分で勉強する原動力になることを願っています。
数学月間の考え方は、「具体的な分野や物で使われている数学を紹介することで、数学への関心を高揚することです」。数学は自分で勉強しなければ意味がありません。このようなワークショップは、数学の講習会でもないし、数学の遊園地で終わってはもったいない。数学学習のモチベーションにつなげて欲しい。
写真上段は、「いぼ結び」の全景。 写真下団は、「いぼ結び」の原理。
■いぼ結びの原理
「いぼ結び」は、植木職がシュロ縄で竹垣を結ぶときなどに使います。
YouTubeにはいくつかの動画がありますが、どれも手順の解説に終始していて、全貌の把握がなかなか困難です。
いくつかの動画を観察して、「いぼ結び」の原理を理解したので、2つの図(写真下段)を作成し掲載しておきます。
ロープワークには、目的に応じていろいろな結び方があり面白い。私も、いぼ結びの他に、命綱の結び方、複数の棒資材の束ね結びなどを利用したことがあります。しかし、結び方の複雑な手順を覚えても、たまにしか使わないものなのですぐ忘れてしまいます。
原理的には、「いぼ結び」は両端を持って引っ張れば、単純に締まる結び目です。
すなわち、いぼ結びはものをきつく締めるのに向いています。
ただし、シュロ縄はそんなに滑りは良くないので、締めるのは楽ではありません。
■実地作業
「いぼ結び」を竹垣の結束に加える変形手順を考え、その結束手順のシミュレーションをしてから作業に臨みました。
シュロ縄は水に浸して使うので手が真っ黒になり、黒いシュロ縄とは染めたものだということに気づきました。
そういえばシュロの毛は茶色でした。茶色のシュロ縄を買えばよかった。
水が冷たく指が切れそう、寒くて霜焼けが出来そうだ。
結束個所は全部で8か所あり、1か所で4m位シュロ縄が要ります。
「いぼ結び」側 「綾掛け」側
完成した生垣
(参考)*******************************
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数学月間SGK通信 [2024.03.05] No.510
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■中野ZERO「こどもカーニバル」の第1日目(3/2),第2日目(3/3)が盛況裏に終了しました。
NPO法人数学月間の会からスタッフとして5人が参加しています。
上段写真は2日目(3/3)の開始1時間前の西館入り口で撮影したものです。
下段写真は2日目(3/3)のエジプト紐の午前のクラス風景です。
■次回は第3日目(3/10)です。大人も子供もご参加ください。
3月10日は、西館、学習室4で以下のように実施します:
午前10:00-11:30 正12面体模型を作ろう 料金1,000円
午後14:00-15:30 星型小12面体模型を作ろう 料金1,000円
■終了した以下の講座のテキストは,数学月間の会ウエブサイト
https://sgk2005.org/ で公開しています:
3月2日の 対称性を学んで万華鏡を作ろう.pdf,谷克彦
3月3日の 幾何の源流エジプト紐で遊ぼう.pdf,亀井喜久男
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ご感想やコメントを以下のブログあるいはメールにお寄せください.
☆NPO法人数学月間の会(SGK)=数学と社会の架け橋
連絡先:sgktani@gmail.com
https://note.com/sgk2005
公式HP: http://sgk2005.saloon.jp/
☆発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/
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数学月間SGK通信 [2024.02.27] No.509
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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なかのZEROで子供カーニバルが開催されます.NPO法人数学月間の会は,
3月2日 万華鏡
3月3日 エジプト紐
3月10日 正多面体
で参加します。
子供から大人まで多くの方のご参加をお待ちします。
このイベントへの参加申し込みは、主催の中野ZEROのウエブサイト(以下)にあります.
https://www.nicesacademia.jp/news/%E3%81%AA%E3%81%8B%E3%81%AEzero%E3%81%93%E3%81%A9%E3%82%82%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%90%E3%83%AB2024/
●3月2日(土)対称性を学んで万華鏡を作ろう 担当(谷克彦)
2回実施(午前10:00-11:30・午後14:00-15:30)
万華鏡の美しい映像が私たちの心をとらえる理由は,時間の流れとともに「透明な琉球色ガラス屑」の流れが映し出す
「千変万化する一度きり」の映像に生命を感じるからでもありましょう.
万華鏡の舞台を生み出す仕組みは,「対称性」(規則的な繰り返し模様の数学)で理解できます.
今回作る万華鏡は,12回回転対称の打ち上げ花火のような映像が見られます.テキスト:万華鏡の不思議https://sgk2005.org/cabinets/cabinet_files/download/88/8a40fe393072d252cf2a579e720c8d0c?frame_id=126
映像↓
https://youtu.be/VgNGY38opS0
数学月間は,数学が社会の色々な分野を支えていることを説明し,数学への共感を高揚することを目的としています。
万華鏡はそれ自体,美しくて面白いのですが,対称性の数学は結晶学や固体物理学の基礎になっている重要な数学である
ことを知り,興味を持ってもらうことを狙っています。
材料の準備に手間がかかりましたが,今日,3月2日に使用する30人分の準備が完了しました。
画像https://sgk2005.org/wysiwyg/image/download/6/2513/medium
●3月3日(日)幾何の源流エジプト紐であそぼう 担当(亀井喜久男)
2回実施(午前10:00-11:30・午後14:00-15:30)
縄を張って測地したのは古代オリエントの知恵です.幾何学の源流に触れましょう.3辺の長さが決まれば3角形が決定します.色々な角度が作れます.検地や口分田などでも用いられた方法です.校庭でハンドボールのコートを描いたりもできます.
手順を繰り返し,正方形,長方形,正3角形,正6角形などを作ったりしましょう.
時計の文字盤のように円周を12 等分したエジプト紐でどのような角度が作れるのでしょうか.
・正3角形,2等辺3角形,直角3角形を作りましょう。
・平行4辺形,凧型,正方形,長方形,菱形
・正6角形,6角星形ダビデの星,1
・正 5 角形,正 8 角形を描くのはとても難しいです.
画像https://sgk2005.org/wysiwyg/image/download/6/2515/medium
●3月10日(日)正多面体を作ろう 担当(小梁修)
午前10:00-11:30 正12面体模型
午後14:00-15:30 星型正12面体
プラトンの立体と呼ばれる凸正多面体が5つあることはご存じでしょう.美しい正多面体はこれだけではありません.
美しい星型正多面体など色々あります.
午前の組は,正 12 面体を組み立て,正 12 面体の体積を分割して理解します.
午後の組は,星型小 12 面体を組み立てます.この組み立てはなかなか難しい.星型多面体は凸正多面体とは違い高次元にあり,不思議な美しさがあります.
画像https://sgk2005.org/wysiwyg/image/download/6/2512/big
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数学月間SGK通信 [2024.02.06] No.508
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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今朝は,近年珍しい大雪になりました.朝の移動が大変ですね.
みなさま怪我などなさらないようにお気を付けください.
中野ZERO,生涯学習課主催の「こどもカーニバル」が開催されます.
NPO法人数学月間の会も数学ワークショップで,3月2日,3日,10日に参加します.
数学ワークショップの内容や,ポスターはhttps://sgk2005.org/news_info
でご覧ください.
数学ワークショップは,材料準備がありますので事前の申し込みが必要です.
しかし,参加申し込みの方法がわかりにくいので,ここで申し込みのウエブサイトの紹介をしましょう.
ポスターにあるQRコード(LINE)からは,なかなかたどり着けませんでした.
以下のウエブサイトからお入りください:
https://www.nicesacademia.jp/news/%E3%81%AA%E3%81%8B%E3%81%AEzero%E3%81%93%E3%81%A9%E3%82%82%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%90%E3%83%AB2024/
先着順なので,参加申し込みはお急ぎください.
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以下の問い合わせをいただいています.
Q:4年生以下だが参加したい.
A:多くの子供や大人に広く数学に親しんでいただきたいので,可能な限りご希望に沿いたいと思っています.
今回,募集対象を4年生以上とした理由は,算数・数学の授業で,3角形の内角の和が180°ということや,
ピタゴラスの定理を習った後が望ましいためです.
カーニバルの主催(中野ZERO)の方で,申し込み受けをしていますので,私は現在の応募数はわかりませんが,
小学4年生以上で定員になってしまったらごめんなさい.
定員に残りがある場合に限り参加可能ですが,今判断はできません.
主催の中野ZEROの判断になります(エントリーしておいても良いでしょう).
指導補助のボランティアはおりますが,小学1年生がご参加の場合,保護者の付き添いが必要だろうと思います.
ただし,参加費は材料代ですので,もし付き添いの方は作らないなら付き添いの方の参加費は必要ありません.
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数学月間SGK通信 [2024.01.30] No.507
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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速いもので一月も終わろうとしています.
新年早々,能登半島地震があり大変な状況にあります.
被害を受けた方々の生活を思うととても心配です.
先週,23日はメルマガの発行をお休みしました.
親戚の葬儀のため朝一番の新幹線に乗り,東京で東北新幹線に乗り換え,
9時10分福島に着きました.日帰りのつもりで予約した18:16の新幹線は運休,帰れません.
この日10時過ぎには,大宮付近で起きた架線事故のために,東北,上越,北陸など新幹線が終日運休となりました.
なんとか翌朝9:16の新幹線に乗ることができ24日の14:30に帰宅できました.
間が2週間空きましたが,前号メルマガ506の続きです:
結晶空間
3次元結晶空間群(フェドロフ群)は230種類あります.
これは3次元結晶空間の対称操作の集合が作る群です.結晶空間群とは,結晶空間と群という概念からできている述語です.結晶空間の定義をしておきましょう.結晶空間とは,周期的なユークリッド空間の事です.
3次元ユークリッド空間には,互いに独立な3つのベクトル$${a_{1}, a_{2}, a_{3 } }$$がとれます.これらの線形結合$${n_{1}a_{1}+n_{2}a_{2}+n_{3}a_{3 } }$$,$${n_{i}=0,1,2,\cdots, \infty}$$により,無限に繰り返す格子点の世界が作れます.これが3次元の結晶空間のイメージです.結晶の内部は,単位胞(平行6面体)が無限に配列し,このような周期的な構造(デジタル化された空間)を作っています.無限に繰り返す世界の中に立ったと想像すると,自分のいる場所(何丁目何番地か)を区別することはできません.どこにいても自分のいるところは中心(どの格子点もすべて等価)です.格子の対称性を記述するのは並進群です.
1点を不動に保存にする対称要素の組み合わせが作る群は点群です.結晶空間群の対称要素は,並進群と点群でできています.
実は,1982年にシェヒトマンがMnAlの合金相で正20面体の対称を持つのではないかと推定できる構造の結晶(準結晶)を発見しました.電子線回折像で10回対称を示す結晶構造には少なくとも5回対称性が存在しなければなりません.しかし,正5角形のタイルで平面を隙間なく張り詰めることはできないので,5回回転対称は3次元の周期構造と両立できません.結晶の必須条件である周期がないので,この物質は準結晶と呼ばれていました(現在は結晶の定義を緩めて準結晶も結晶の仲間に入れています).
もし,5次元結晶空間を考えるならば,正20面体で周期性と両立できるタイル張りができます.それゆえに,この準結晶は,5次元結晶空間の構造を3次元の世界に投影したものであると解釈できます.
これは高次元結晶空間群が応用される一つの現場の紹介になります.
すでにお話しした,反対称群や多色群などは,3次元のユークリッド空間(幾何学)次元の座標と性質の異なる次元を1つ加えた空間の対称性でしたが,今回お話しする4次元結晶空間群は,4次元のユークリッド空間(すべての座標軸が同価な幾何学次元)の対称性です.これらは別のものですが,どこが似ているか考えると面白いものです.歴史的にもそのような発展がありました.例えば,平面の黒白群の図を見ていて,黒と白を高さ方向の2値と解釈すれば,平面(2次元)でなく層(3次元)の対称性を記述しているように思えます.
今回は高次元の結晶空間群の発展に続くイベントを列挙します:
1980のフェドロフまでは,古典結晶空間群の研究.1900年のヒルベルト以降は高次元(古典)結晶空間群の研究になります.
1830 Hessel 3次元結晶点群は32種
1850 Bravais 3次元の(ブラベー)格子は14種
1867 Jordan 174 種の結晶群
1879 Sohncke 65種の回転群
1890, 1891 Fedorov, Schoenflies, Barlow 3次元結晶空間群は230種
1890 Fedorov 2次元空間群(壁紙模様)は17種
1900 Hilbert's 23 problems 23問題中の問18
問18は,ユークリッド空間の問題で3つの問いで構成され,最初の1つは,Building up of space from congruent polyhedra(合同な多面体を空間に詰め込む)「n次元のユークリッド空間で可能な,異なる並進不変対称性は有限個か?」というものです.ビーベルバッハはこの問いを,肯定的に証明しました.
1910 Bieberbach
1948 Zassenhaus 並進群の拡大として導出するアルゴリズム
1950,1951 Hermann Hurley 最高位数の格子から4次元点群227種導出
1973 Brown,Wondratschek 4次元空間群4,895種(キラルも数える)のリスト出版
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数学月間SGK通信 [2024.01.16] No.506
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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(1)1月20日の数学月間企画講演(第13回)が近づきました。
参加登録がまだの方はお急ぎください。
数学月間企画講演(第13回)のお知らせ
日時●2024年1月20日(土),13:00-17:00
場所●東京大学数理科学研究科棟002教室
プログラム●
●ロシアで発展した結晶群とその一般化,谷克彦(数学月間の会)
●超音速ノズル流の基礎と気体レーザーへの応用,佐藤浩之助(九州大学名誉教授)
主催●NPO法人数学月間の会(理事長:岡本和夫)
参加費(会場およびリモート)●1,000円(ただし,学生・生徒,当会会員は無料).
●会場参加費は直接会場でお払いください.
●遠方の方のためにWebexによるリモート中継も行います.
ーーーーーーー
(2)第12回,および,第13回の講演資料などを
https://sgk2005.org/lobby
に公開しています。ご覧ください。
ーーーーーーー
今回は、群と群の積を作り新しい大きな群を作る数学の解説です。
数式が出てきますのでくわしくは上記サイトでpdfファイルをダウンロードしお読みください。
ここでは、3次元の結晶群の高次元一般化について述べます。
FedorovとSchoenfliesが230の空間群タイプの結晶の導出を完了したとき、
高次元での対応する群の導出の可能性を検討するのは自然なことです。
1911-12年、BieberbachとFrobeniusはn次元格子の群対称性の一般理論を展開し、
任意のn次元ユークリッド空間において有限個の同型でない空間群の存在を証明しました。
これは,1900年に出されたヒルベルトの問題の第18を解いたことになります。
1948年、Zassenhausはこの一般理論に基づき、点群を用いて,これらの群を
並進部分群の拡張として導出するアルゴリズムを提案しました。
1950年頃、ハーマンは高次元で可能な結晶学的対称操作の完全な説明を与え,
最大対称性の格子とその結晶類について議論しました。
1951年、ハーリーは,1889年のグルサの研究を利用し,4次元ユークリッド空間には
227種の点群があることを発見しました。
4次元結晶空間群の4783種類(鏡映異像を考慮すれば4895種類)の完全なリストは1973年に計算され、
ブラウン,ボンドラチェックらにより出版されました。
これらの群は、1965年にDadeによって導出された9つの最大の対称結晶群から導出されたものです。
高次元の結晶群は、3次元周期が完全でない結晶(変調構造や複合構造)や準結晶を記述するのに応用されます。
高次元結晶群の一部に色付き結晶群があります。
-----(4)-----
群を積に分解しその生成群を調べたり,逆に2つの群の積で大きな群を生成したりするときに,群の直積$${H\times A}$$や半直積$${H\rtimes A}$$が役に立つ(ここに,群$${H}$$は群$${G}$$の正規部分群, 群$${A}$$は部分群:直積は部分群$${A}$$も正規部分群である特殊な場合に成立する).
直積$${H\times A}$$は,$${h_{i}\in H, a_{j}\in A}$$とし,ペア $${\{h_{i}a_{j}\} }$$を元として構成される群だが,任意の元$${h_{i}a_{j}, h_{k}a_{l } }$$がいつも可換とは限らないので,一般には,積則は半直積になる.
2つの群(例えば,結晶構造とそれを舞台に発現する特性の対称性)の関係を研究するときにもこの方法は応用される.
●ピエール・キュリーの原理(1894)
対称性$${G_{p_{i } } }$$の現象が起こるのは,対称性$$G_{p_{i } }$$(または,その部分群)の舞台で可能である.
これは,「原因はすべて結果に反映されるべきである」という因果律である.$${G_{p_{i } }\supseteq G_{\text{cryst } }=\cap{G_{p_{i } } } }$$
結晶とX線回折強度像の対称性の関係は,ピエール・キュリーの原理の一部であり,非正規の群の拡大問題として解決されるべきである.
●前回(3)概略したが,特性次元を幾何学次元空間に付け加えた空間(色付き空間)へ群を拡大しするとき,外部半直積が登場する.さらに一般化を進めるためにリース積が必要になる.2つの非正規部分群による非正規の拡大である場合は,これは非常に困難な課題である.
群の同型定理を基礎とする拡大理論と結晶学の関係は,数学と応用現場が互いに影響しあってともに発展してきた良い事例である.
■ 半直積
群$${H, A}$$および群準同型$${f: A \mapsto \textrm{Aut} H}$$($${H}$$を自分の上で変換する)が与えられたとする($${a_{j} \in A}$$の$${H}$$への作用$${f}$$を$${f_{a_{j } } }$$と表す).
このとき直積集合$${H \times A}$$に,積則
$${(h_{i}a_{j}) \cdot (h_{k}a_{l}):=(h_{i}f_{a_{j } }(h_{k})a_{j}a_{l})}$$ を適用すると$${H \times A}$$は群をなす.
(1)任意の元$${a_{j}h_{k } }$$は,一般には可換でない$${a_{j}h_{k}\ne h_{k}a_{j } }$$のだが,$${H}$$が正規部分群であれば,適当な$${f_{a_{j } }(h_{k}) \in H}$$があり,$${a_{j}h_{k}= f_{a_{j } }(h_{k})a_{j } }$$と書ける.
この群を$${H}$$の$${A}$$による半直積といい,$${H \rtimes A}$$と表す.群$${H}$$も群$${A}$$が群$${G}$$の部分群ならば,$${H \rtimes A}$$は内部半直積という.
(2)もし,$${H}$$の元と$${A}$$の元が可換(群$${H}$$も$${A}$$も正規部分群の場合)であれば,任意の$${a_{j}h_{k } }$$は可換であり,直積の積則$${(h_{i}a_{j})(h_{k}a_{l}=(h_{i}h_{k}a_{j}a_{l})}$$のままで群をなす.直積は,$${f_{a_{j } } }$$を恒等写像$${f_{1 } }$$とした半直積の特殊な場合と見做せる.
$${h_{i}, h_{k}\in H}$$, $${a_{j}, a_{l}\in A}$$
$${h_{i}a_{j}\cdot h_{k}a_{l}=h_{i}(a_{j}h_{k}a_{j}^{-1})a_{j}a_{l} =h_{i}h_{k}^{a_{j } }a_{j}a_{l } }$$
$${h_{k}^{a_{j } }\in H}$$
■ 応用例:結晶群$${4mm}$$は,群$${4}$$と群$${m}$$の半直積.
$${G=4mm=\{1, 4, 4^2, 4^3, m_x, m_y, m_a, m_b\} }$$
$${G\vartriangleright H=4=\{1, 4, 4^2, 4^3\} }$$, $${G>A=m=\{1,m\} }$$ (ここで用いた>は部分群の意)
$${1\cdot \{1, 4, 4^2, 4^3\}=4}$$, $${m\cdot \{1, 4, 4^2, 4^3\}=\{1, 4^3, 4^2, 4\}=4}$$ 群$${A=\{1, m\} }$$は群$${4}$$の自己同型写像
$${4mm=4\rtimes m (=H\rtimes A)}$$
■ 外部半直積
2つの群 $${H}$$ と $${A}$$(与えられた群の部分群である必要はない)と群準同型 $${f: A \mapsto \textrm{Aut} H}$$が与えられると,内部半直積の場合と同様に,$${f}$$ に関する $${H}$$ と $${A}$$ の外部半直積と呼ばれる新しい群 $${H⋊A}$$ を構成することができる.これにより,幾何学空間と異なる次元を付与した空間へ群の拡張ができる.
■ リース積(wreath product)
群論のリース積は,半直積の積則をさらに拡張したものである.
$${G}$$と$${A}$$をそれぞれ群,$${X}$$を左$${G}$$集合($${G}$$の要素$${g}$$が$${X}$$の左から作用する)とする.この状況下で,群準同型$${f: X \mapsto \textrm{Aut}A}$$を考える.この写像の集合$${ f\in W }$$を用い,半直積$${W\rtimes G}$$が定義でき,これを$${A}$$の$${G}$$による非制限リース積という.$${G}$$は$${W}$$に群同型である.$${(g\cdot f)(x)=f(g^{-1}\cdot x)}$$
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●リース積は理解しにくいが,龍孫江の数学日誌に良い解説があります.
https://note.com/ron1827/n/nd464de95a750
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■リース積の応用
リース積では$${g\in G}$$も$${f\in W}$$も左$${G}$$集合$${X}$$に作用する写像(演算子)と理解する.
非正規の拡大の例に,Van derWaerden -Bruckhardtの群$${G_{WB}^{(p) } }$$がある.この群は,3項記号$${G/H'/H}$$で定義されるが,ここで,古典群$${G \leftrightarrow G_{WB}^{(p) } }$$;指数$${p}$$の部分群$${H' \subset G}$$は,性質(色)$${i}$$を保存する部分群$${H_{i}^{(p_{1})} \subset G_{WB}^{(p) } }$$に同型対応する;正規部分群$${H=G \cap G_{WB}^{(p) } }$$(古典部分群$${H \vartriangleleft G^{(p) } }$$を作っている)は,$${H'}$$のすべての共役部分群の共通部分によって決定される$${H= \cap gH'g^{-1}, g \in G}$$.
色群$${G_{WB}^{(p)}=g_{1}H_{i}^{(p_{1})} \cup g_{2}^{(p)}H_{i}^{(p_{1})} \cup \ldots \cup g_{p}^{(p)}H_{i}^{(p_{1}) } }$$は,部分群$${H_{i}^{(p_{1}) } }$$を,剰余類の代表系$${G^{(p)^{* } }=\{ g_{1},g_{2}^{(p)}, \ldots ,g_{p}^{(p)} \} }$$で拡大したものと表現されるが,一般には群を成さない.$${G_{WB}^{(p) } }$$で作用する性質$${p}$$個の置換は,$${g_{i } }$$を左から乗じることによる左剰余類$${g_{k}H'}$$の置換である:
$$g_{i}^{(p)}=g_{i}p_{i}=p_{i}g_{i}$$, $$p_{i}=\left( \begin{array}{@{\,} cccc @{\, } }
g_{1}H' & g_{2}H' & \cdots & g_{p}H' \\[0mm]
g_{i}g_{1}H' & g_{i}g_{2}H' & \cdots & g_{i}g_{p}H'
\end{array} \right) $$
$${P}$$-対称のZamorzaev群は,対応する図形の一般点がそれぞれ1色に塗られる場合には,色群のすべての型を包含する.このようなすべての群$${G^{(p) } }$$をその生成群$${G}$$から,次の手段により導くことができる:
1)$${H=G^{(p)} \cap G=G^{ \ast } }$$は$${G^{(p) } }$$の古典的部分群,$${Q=G^{(p)} \cap P}$$は色置換の部分群として,$${G/H \leftrightarrow P/Q}$$となるようなそれぞれの中の正規部分群$${H}$$と$${Q}$$を探す.
2) 同型$${G/H \leftrightarrow P/Q}$$の確立と同型対応する剰余類$${gH \leftrightarrow \varepsilon Q}$$の対積を作る.
3) 得られた積を集める:$${G^{(p)}= \cup gH \cdot \varepsilon Q}$$
この説明枠外に,Wittke-Garrido色対称群と複素関数のEwald-Bienenstock対称群が存在する.これらの場合には,色変化の規則は,変換だけでなく,図形中の点の取り方にも依存する,すなわち,対応する色変換は局所的となる.
●References
色群の一般化には;Niggli, Wondratschek, Wittke, Van der Waerden, Burckhardt, Pawley, Mackay, Zamorzaev, Koptsikなどが係わっている.
Shubnikov and Koptsik; Symmetry in science and art (1974)
V.A.Koptsik; Generalized symmetry in crystal physics; Comput. Math. Applic. Vol.16, No.5-8, pp.407-424, 1988
A.M.Zamorzaev; Generalized antisymmetry; Comput. Math. Applic. Vol.16, No.5-8, pp.555-562, 1988
Alexandre Lungu; Zamorzaev's P-symmetry and its further generalizations; 2002; Moldova State University