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べき乗則


中西達夫さんの「スパゲッティを巡る旅」は,スパゲッティを適当に砕くと,破片の長さの分布がどのようなものになるかという興味ある実験でした.
興味おありの方は,「数学文化」第21号(2013年)をご覧ください.数学月間懇話会(第10回,2014)でも講演していただきました.このとき観察される「べき乗則」は,社会の関心事の一つである「地震」でも見られます.

地震のテーマはメルマガNo.031('14/09/30)に,複雑系原発の事故雪崩のテーマは「数学文化」第16号(2011年)やメルマガNo.006('14/05/15)に掲載しました.今回は地震のマグニチュードと頻度のべき乗則の話です.

地震のマグニチュードMはエネルギーの対数です.マグニチュードを決めるのにリヒターが発案した当初の定義は便宜的なものでしたが,現在ではもっと理屈に合ったモーメント・マグニチュードが採用されています.
(注)震度というのはその地の揺れ(加速度[ガル])の程度をもとにした段階区分です.

 

地震で解放されるエネルギーは,生じた断層面の面積×平均変位×地層の剛性の積です(大雑把にいえば生じた断層の長さに比例します).
生じた断層の長さが長い方が解放されたエネルギーは大きいし,
地層の剛性が大きいほど大きな歪エネルギーが蓄えることができます.
これらを踏まえ,起こりうる地震の最大エネルギーを見積もるとM9.5程度と考えられています(1960年のチリ地震ではM9.5が観測されている).

地震のマグニチュードMと発生頻度(回/年)nの間にn=10^{a-bM}の関係があるのを,グーテンベルクとリヒターが発見しました.a, bはその地域の地層の剛性などを表す定数(b≒1)ですので,地震のマグニチュードが1つ大きくなるごとに,地震の頻度(回数)は1/10に減ります.ゆえに,これを「べき乗則」とも言います.

地震では,多発しやすいマグニチュードというものがありません(中心値があるようなガウス分布やポアソン分布ではない).べき乗則では,大きな地震ほど少なくはなりますが,M9あたりも起こり得ます.めったにないことですが,そんな巨大な地震に見舞われたなら壊滅的で,大きな地震の被害コストは莫大です.
地震被害コストの総額=Σ被害コスト(Mの関数)×発生確率(Mの関数)
を小さく抑えるのが,最善のリスク対策です.

工場の品質管理を考えましょう.不良品の多くでる日と少なく出る日がありますが,不良品の個数とそのような数の不良品を出す頻度の分布は,ガウス分布,ポアソン分布,ワイブル分布などの中心値を持つ分布ですから,中心値を出した普通の日の対策を検討すればよいわけです.

しかしながら,分布がべき乗則の場合は全く異なります.
頻度は小さいけれど致命的な被害を惹起する巨大地震に対して,
被害が最小となるように備える必要があります.
広域を汚染し人間の尺度に合わない百年もの年月要する原発事故の被害コストは致命的です.原発の再稼働は止めましょう.

クリーン・ルームの塵のサイズ分布も「べき乗則」だと言われています.
もし正規分布に従い,頻度の高い塵サイズがあるなら,そのサイズの塵の発生に特化した対策ができるのですが,「べき乗則」では特別な対策は困難です.幸いなことにこのケースでは,大きなサイズの塵が桁外れに大きな被害コストを与えると言う訳でもありませんし命に係わることもありません.
べき乗則は,大規模停電,原発事故,ハリケーン被害などの複雑系でみられます.べき乗則は,小さな事故が雪崩をうって全体に広がる性質と関係があります.関連テーマのバタフライ効果は稿を改めます.

■砕いた破片の分布関数を求める実験は,中西氏の実験したスパゲッティやクラッカーのほかに,凍ったジャガイモを投げて砕く(南デンマーク大,1993年)などいろいろあります.砂山が雪崩を起こす限界傾斜の実験も面白いものです.これらでも「べき乗則」が確認されました.

数学は映画の出演者(上)

Maths goes to the movies By Joan Lasenby
Submitted by plusadmin on March 1, 2007

http://www.plus.maths.org/issue42/features/lasenby/index.html

今回も,MMP,plusマガジン42号の筆者KTによる翻訳です(2回に分けて掲載).

数式が読みにくい場合は,数学月間の会http://sgk2005.saloon.jp,社会を支える数学科学でご覧ください(ホームページではTexを用いている).これは,2007年の数学月間懇話会で配布したものです.この後の13年でコンピュータビジョンの分野は非常に進化しましたが,原理の紹介には非常によく書かれたこのエッセイが役に立ちます.

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ポップコーンは手に入れたか?よい席は選んだか?座り心地は良いか?それではタイトルロール....


■数学が誇らしげにプレゼント....
映画の中の信じられないほど真に迫ったコンピュータで作られた映像に皆な驚く.ジュラシック・パークの恐竜,ロード・オブ・ザ・リングズの不思議 ---- 特に,ガーラムの出演者 --- は,数学なしではできなかったということを知らない人が何と多いことか.どのようにして,これらの驚くべき映像が作られるのだろう?
コンピュータ・グラフィックス,コンピュータ・ビションは大きな課題だ.この記事では,完成作品に使われる数学のいくつかを簡単に概観する.最初に映画の世界を創造し,次にそれを生活へ持ち込もう.


■場面を作る
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最初の対象物は,三角形のような単純多角形よりなる針金骨格として作られる.
コンピュータ生成映画を作る第一ステップは,物語中のキャラクターや,
それらが棲む世界を創造することだ.これら対象物のそれぞれは,
接続された多角形(通常は三角形)で構成された表面として作られる.
各三角形の頂点は, コンピュータメモリにストアされる.
どの三角形のどちらの面が,物体やキャラクターの外側であるかを知ることは重要だ.この情報は, ストアされている頂点の順番として,右ネジの規則に従い記号化される.これで,どちらが外か一意に決まる.
[頂点の順番に従い,三角形の周りを右手の指を人差し指,中指,..と回したとき]
諸君の親指が向いているのが三角形の外側だ.例でやってみよう.
三角形(A,B,C)の外側方向(外側法線)は,三角形(A,C,B)の外側方向と反対であることがわかるだろう.
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右ネジ規則で定義された(A,B,C)の外側法線は(A,C,B)とは反対方向

 

 

 

 

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諸君の視点からファセット面までの光線を追跡しよう.光線は反射して光源を通過するか?
いまや対象物の表面は三角形の針金網だ.網のコンポーネントのそれぞれを彩色する準備ができた.
我々がモデル化している光景のライティングを,実際と同じにすることが重要である.これは光線追跡と呼ばれるプロセスを用いなされる.視点から物体へと遡り光線追跡し,反射させる.もし,目から出た光線がファセット面(針金網三角形の中の一つ)で反射され,光源を通過するなら,そのファセット面は光源に照らされ明るい色,もし,反射された光線が,光源を通過しないなら,そのファセット面は暗い色の影付をする.
光線を特定のファセット面まで追跡するには,表面を数学的に記述し,光線とファセット面の平面とが係わる幾何学方程式を解くことが必要になる.これはベクトルを用いなされる.光景の3次元座標系に,視点となる原点(0,0,0)を加える.
ベクトル v =( a, b, c ) は,原点から発し座標 a, b, c で終わる矢である.
例えば, v にスカラー2を乗ずるのは,規則 2v =2( a,b,c )=(2a, 2b, 2c ) に従い行う.
2v は v と同じ方向で2倍長い矢だ.
表現 λ v を見よう. λ は変数(言い換えれば,任意の実数).これはもはや,ある長さの矢ではない.長さが変数になったのだから.矢の方向だけを表している.別の言葉でいえば,この表現はベクトル v を含む直線を表す.
それは我々の視点からベクトル v の方向に発する光線を記述する.
三角形のファセット面で定義される平面は,3つの情報で表現される:
3頂点のうちの1つの位置頂点 $$a_{1}$$と, $$a_{1}$$から $$a_{2}$$へのベクトルと, $$a_{1}$$から $$a_{3}$$へのベクトルである.
下の囲みの中に,目とファセットで決定される面から発する一本の光線の方程式を与える.
光線がファセットをよぎるか否か,何処でよぎるかを知り,反射された光線の方程式を計算するには,
これらの2式を解かねばならぬ.
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(光線追跡の数学の詳細は,Turner Whittedの革新的な論文 ”影付け表示のための改良された照明モデル”,
Communication of the ACM,Vol.23,Isuue6に見ることができる.)
光線追跡は現実味ある光景を作り出すことができるが,たいへん遅い.
これはコンピュータが作る映画の製作には用いることができるが,コンピュータゲームのようにリアルタイムで照明を変化させることが必要な場合問題である.
影や火線束(コースティク)[収差による回り込みでできる光像],多重反射のような複雑な現象は,モデル化が困難で,動的あるいはもっと巧妙な数学的な手法,事前計算放射輝度伝搬(PRT)やラジオシティ(R)が使われる.
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コンピュータゲームDOOM3,Neverwinter nights はダイナミックライティングが必要だ.

 

 

 

 

 

■必要なのは若干の想像力

光景,照明が出来てしまえば,監督が”アクション!”と叫び,キャラクターが動き出すのを待っばかりだ.いまや,数学がイメージに命を吹き込むのを確かめよう.
最も基本的な物体の動きの一つは,与えられた軸の回りの与えられた角度の回転である.
座標幾何学は,回転後の物体各点各点の位置を計算するツールを提供する.だがこれらのツールは効率的で高速であることが重要だ.これらのツールを見るにあたり,数学授業に一寸立ち寄って見る....
[この後,複素平面のこと,複素数に虚数iを乗じると反時計回りの90度回転になること,などの説明があるが略]

 ........


1806年にアマチュア数学者Jean Ribert Argandは複素数とiに幾何学的な解釈を与えた.複素数を乗ずることは,幾何学的には回転を表す.

 

 

 

 

 

 


■3Dへ
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Broone橋にある記念プレート,Hamiltonが4元数を発明したときこの橋の下を散歩していた.
数学者William Rowan Hamilton卿はDublinのTrinityCollegeの最も著名な子であろう.
彼は最後の20年,複素数が2次元の回転を表すのと同様な,
3次元の回転の表現を捜し求め,人生の最後にHamiltonは,4元数という答えを見出した.

 

 

 

⇒次号に続く

 

数学は映画の出演者(下)

←wikiより

■3Dへ

 

 

 

 

 

 

 

 

  Broone橋にある記念プレート,
Hamiltonが4元数を発明したときこの橋の下を散歩していた.
数学者William Rowan Hamilton卿はDublinのTrinityCollegeが産んだ最も著名な子であろう.
彼は最後の20年,複素数が2次元の回転を表すのと同様な
3次元の回転の表現を捜し求め,人生の最後にHamiltonは,4元数という答えを見出した.

 
$$q=a_{0}+a_{1}i+a_{2}j+a_{3}k$$

ここで,$$i^{2}=j^{2}=k^{2}=ijk=-1$$, $$a_{0}, a_{1}, a_{2}, a_{3}$$は実数.

 

 

複素数でしたように,4元数を幾何学的に記述し,回転の表現に用いよう.
今度は2次元でなく3次元の回転だ.
$$i, j, k$$は,3次元内の単位平面:$$i$$は$$yz$$平面,$$j$$は$$xz$$平面,$$k$$は$$xy$$平面で,外側向き法線はそれぞれ$$ x,-y,z$$方向である.

 

$$i, j, k$$は,3次元空間の単位平面という幾何学的解釈ができる.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 点$$ a=(a_{1},a_{2},a_{3}) $$を,角βだけ原点を通る$$b=(b_{1},b_{2},b_{3})$$軸の回りに回転してみよう.

2つの4元数$$q_{1}, q_{2}$$を$$b, \beta $$から作る.
$$q_{1}=\textrm{cos}(\beta /2)+\textrm{sin}(\beta /2)(b_{1}i+b_{2}j+b_{3}k)$$
$$q_{2}=\textrm{cos}(\beta /2)-\textrm{sin}(\beta /2)(b_{1}i+b_{2}j+b_{3}k)$$
$$a$$($$x,y,z$$方向の単位ベクトルの線形結合)に,これら2つの4元数を乗じて
$$a'=q_{1}aq_{2}$$
この積で得られる点$$a'$$は$$a$$を与えられた軸の回りに角度$$\beta $$だけ回転したものだ.
複素数は平面内の回転記述,4元数は3次元空間内の回転記述に用いられる.
ダブリンの橋の下を通りかかったとき,Hamiltonのひらめきは,
3次元で物体を回転させる最も効率の良い方法であることがわかった.
だが彼の新しい乗法で,だれも幸福にならなかった.
物理学者Kelvin卿は4元数のことを:”....美しく巧妙だが,とにかく,これに触れるものには,純粋邪悪である...と評した.
とりわけ厄介なのは,2つの4元数を掛け合わせるとき,答えがかける順番で変わることだ.この特性を非可換という.
Hamiltonの積則をみれば,$$ij=k, ji=-k$$が示せる.
もし,$$i, j, k$$を単位平面のように扱えば,Kelvinや彼の同時代の人々を困らせた特性は直接導ける.
■映像を生活へ
Hamiltonの発明はいまや多数の物体を動かしたり,運動の創出へのグラフィック応用に使われる.コンピュータグラフィックで最も重要なツールの2つは,変形と補間である.
補間とキーフレーミング技術は,物体の初めと終わりの形と位置の特定と,その間の様子をコンピュータに計算させることだ.以下に示す映像のように:


一連のフレームにわたって徐々に変形するティーポットの形
諸君は,未発達のへびのアニメーション(Richard Wareham製作)を見ることができる.
ここではへび全体が,いくつかの特定な点の運動から,
補間を用いてコンピュータで作られた.
[訳注:ファイルのダウンロード先は略]
変形は単純なものから複雑なものを作り出す方法だ.
下の映像のように,変形球を覆っている布は,
普通の球面で起こる同じ光景を数学的な変形をして得られる.
変形も補間も速くて安定な数学的技術を必要とし,
4元数関連の手法がこれを提供する.


http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/sphere.png
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/deformed_sphere.png

 

 

 

 

■ガーラムを信じさせる

 

 

 

 

 


http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/motioncapture1.jpg
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/dots.jpg
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/skeleton.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

 

データは体の色々な部分に付属しているリフレクターの運動からキャプチャーされる.....
....骨格は,データに数学的にフィットさせる.
上で記述したテクニークは古典的なアニメーションでも基本的なツールである.
漫画キャラクターでは,我々はその結果が信じられるのはとても幸せだ.
しかし,人間のアニメーションでは,たちまち偽者とわかってしまう.
現実味ある動きを作り出すにはモーションキャプチャーが必要になる.
ロードオブザリングズのフィルムバーションから,ガーラムのような
多数のキャラクターを作るにはモーションキャプチャーによる.
これらは,身体,頭,肩,ひじ,ひざなどの回転点に,本当の人のリフレクターを付加して作られる.それぞれは,多重のカメラによってフィルム化されリフレクターの位置の変化をコンピュータに記録する.
骨格は3次元データでフィットされる.
最後に,上に記述された技術はすべて,骨格上に具体化し,生活し,呼吸し,動くキャラクターを作り出す.
もしまだ諸君がタイトルロールを完全に見るために留まっているなら,首尾よい映画作製で使われた種々の製作タレントに気づくだろう.作者,ディレクタ,俳優,衣装デザィナー,プロップビルダー,....
これらのクレジットリストが続々流れる.
しかし一つの名前がしばしばタイトルロールから忘れられている-数学だ.
今日の映画の多くは,光線追跡の幾何学,4元数による空間内の回転なくしてはできない.
次回は,あなたの映画シートで,CGスペクタクルを楽しむために,数学に対してポップコーンを掲げよう.ショーの隠れたスターへ.
(訳:KT)
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著者


http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/jl_small.jpg
Joan Lasenbyはケンブリッジ,トリニティカレッジで数学を専攻し,
電波天文学グループ物理学科のPhDをとった.
マルコーニの企業で短期間働いた後に,大学に戻り,現在,
ケンブリッジ大学工学部の信号処理グループの講師や
トリニティカレッジの研究のディレクター,研究員である.
彼女の興味は,コンピュータビジョン,コンピュータグラフィックス,
画像処理,モーションキャプチャと幾何代数の分野にある.

多元構造グラフ・亀井図

2019.10.26に開催した数学月間企画講演会では,約数の構造をわかり易く表示するグラフ(亀井図)を取り上げました.例えば,210の約数の系統的な構造を示すグラフは以下のようです.

 

210は4つの互いに素な素数の積210=2・3・5・7から出来ているので,4次元超立方体と同じこのような構造になります.210の約数は,自分自身の210と1を含めて全部で16個ありますが,系統的に並べると上の図のように整理できます.

頂点1のレベルには1個,頂点2のレベルには4つの素数,頂点6のレベルには2つの素数の積で4C2=6個,頂点30のレベルには3つの素数の積で4C3=4個,頂点210のレベルは4つの素数の積で1個です.4次元の超立方体には対称心があり,互いに点対称な頂点の積は210になることも理解できます.


このようなグラフは,数学のいろいろな分野で出会います.半順序を表現するハッセ図というのは,このグラフを逆順に描いたものと同じです.
210の約数の構造といえば,210をトップに置き逆順(ハッセ図と同じ)に並べる表示もありでしょう.
約数の構造に関しては,数学Aの研究課題として高校生にもなじみやすいものであるし,このグラフは高次元立方体の理解にも役立ち興味深いでしょう.

(注)数学ではハッセ図と呼ばれるものですが,美しくバランスのとれた4次元立方体は,亀井のアルゴリズムで描けるので亀井図とも呼ばれます.

 

4次元の超立方体の1つの次元(例えば,素数2の方向)を消すと,3次元の立方体の2つに分離します(下図).同様なことを,それぞれの3次元立方体で考え,例えば,素数7の方向の次元を消すと,3次元の立方体は2次元の面(例えば1-3-15-5)に分離します.このような性質は高次元の超立方体の成り立ちの理解に役立つでしょう.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(演習)2310=2・3・5・7・11ですから,2310の約数の構造を示すグラフを描いてください.これは5次元の超立方体になるはずです.
解答

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(演習) $$420=2^2・3・5・7$$ の約数の構造を示すグラフを描いてください.

物理現象に隠れているπ

YouTubeにある動画について.たいへん興味を引く動画なので,ぜひご覧ください.この動画の発信元3Blue1Brownは,Grant Sandersonが作ったYouTubeのチャンネルで,なかなかよくできた可視化された数学入門です.



動画は,物体mは静止しており,物体Mは初速度v0で摩擦のない台上を滑る所から始まります.
Mやmはそれぞれの物体の質量(M>m)で,左側は壁です.
衝突はすべて弾性衝突とすると,エネルギー保存(1)と運動量保存(2)が成り立ちます.

 

 

 

 

(1)は楕円の式ですが

 

の変数変換をすれば,新しい変数$$v_{3}$$を採用した$$v_{1},v_{3}$$平面では半径$$v_{0}$$の円になります.

(2)は,2つの物体m,Mが衝突したとき2つの物体から成る系全体の運動量が保存される(運動量変化が0)ことを示しています.こちらの式も,$$ v_{2} $$から$$v_{3}$$へ変数変換すると,$$v_{1},v_{3}$$平面で傾き-√M/mの直線になります.物体mとMの衝突後に分配される速度変化$$⊿v_{1}$$と$$⊿v_{2}$$の比は,それぞれの質量に反比例するわけですが,質量mの速度$$v_{2}$$を変換した$$v_{3}$$に対しては,$$v_{1},v_{3}$$の速度変化の比はそれぞれの質量の平方根に反比例します(2').つまり,$$ v_{3}=-\sqrt{M/m} ・v_{1}+C $$で,傾き$$-\sqrt{M/m}$$の直線です.

 

 

 

 

物体mが壁と衝突するときは,壁は動きませんから,$$v_{3}$$の符号のみ変えます.横軸を速度$$v_{1}$$,縦軸を速度$$v_{3}$$としてグラフを描くと,式(1')は,半径が$$v_{0}$$の円で,エネルギーが保存される系の状態はいつもこの円上にあるべきです.式(2')は運動量保存を示すグラフで,$$(-v_{0},0)$$の点から出発し傾き$$ー\sqrt{M/m}$$の直線です.

この直線が円と交差する点が,物体mと物体Mの最初の衝突後の速度$$v_{1},v_{3}$$の状態です.
その後,物体mはそのまま滑り壁に衝突し,$$v_{3}$$だけが符号を変えます.これは,最初の衝突点の$$v_{3}$$の符号を変えた円上の点になります.
このように続けると,円内に納まるのこぎり歯状のグラフができます.

 衝突のたびに円周上の,のこぎり歯の先の状態を移るわけで,衝突回数を求めることができます.
YouTubeのアニメーションのように,Mの質量を増加させると,直線(1')の傾きが急になり,のこぎり歯が細かくなるので衝突回数は増加します.
きちんと計算すると,$$tanθ=\sqrt{m/M}$$として$$\theta =\textrm{tan}^{\textrm{-1 } }\sqrt{m/M}$$,衝突回数Nは,N=2[π/2θ]となり(中心角2θだから),Mが大きくなればなるほど,Nは大きくなります.([]は数値の整数部分)

$$m/M=10^{-2p}$$とおくと,$$M$$が大きくなる($$p→∞$$)とき,$$N→π×10^{p}の整数部分になります.

 

 

上の数表のミソは,$$M/m=10^{2p}$$のときしか調べていないので,$$π$$の$$10^{p}$$ 倍の整数部分が並ぶことになる.

 

これもピタゴラスの定理

直角3角形△ABCの面積(赤色)は,直角を挟む2辺上の三日月の面積(水色,黄緑色)の和です.証明してください.

 

 

∠ABCは直角,3つの円はそれぞれ,各辺を直径とする円です.
ピタゴラスの定理 $$ AB^{2}+BC^{2}=CA^{2} $$ を持ち出してかまいませんが,
この問題は,ピタゴラスの定理と同じことを言っています.

クバンチクの数学コンペ(第Ⅸラウンド)

問題41.

プレイヤーの前に,3つの箱が並んでいます.そのうちの1つに賞品があります.図のように,張り紙が箱につけられています.張り紙のうち1つだけが正しいことが知られています.賞品を受け取るには,どの箱を選びますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箱の張り紙は,左から次のようです:

賞品はありません    賞品はここ     賞品は隣の箱
Здесь приза нет.  Приз лежит здесь. Приз в соседней шкатулке.

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この問題は,”クバンチク”,(5月号,2020)の「私たちのコンペ・オリンピック」第Ⅸラウンド(問41~45)のうちの第41問です.残念ながら,この問題の解答締め切りは6月5日で終わってしまいました.

クバンチクквантикはロシアの青少年向けの数学雑誌です.www.kvantik.com
クバンチクとはクバント(Quantum)の指小形ですので「量子ッ子」というような意味でしょう.子供向けの非常に優れた雑誌で,数学月間の会でも手本にすべき活動だと思います.

クバンチクの数学コンペ

コンペは5年生から8年生を対象としていますが,若い学生は解答を送ることができます.今は,7月5日締め切りの第 Xラウンドの問46~50の5つのタスクがあります.面白いがかなり難しい問題です.またご紹介したいと思います.姓名,都市,学校,クラス,返信先を明記して,メールか手紙で解答を,モスクワのジャーナル「クバンチク」に送るシステムです.

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過去の例から

■第Ⅶラウンドの問32(ミハイル・エヴドキモフ)

正方形ABCDのBC側に,正三角形BMCがあります.線分ACとMDは点Oで交差します。OA = OMであることを証明しなさい.

  

 

 

 

 

 

 

お前がどのように解いたか不思議だ.
妹が僕のノートに描いただけ.

 

 

 

 

 

 

 

 

■第Ⅴラウンドの問24(グレゴリー・メルゾン)

計算しなさい.

 

 

 

 

ごめんなさい,グーグルはこの問題は解けません.ごきげんよう!

 

 

 

 

 

 

 

■第Ⅳラウンドの問18

点Kは二等辺三角形BACの底辺BCを長さxとyの線分に分割します.∠AKC=60°の場合,長さAKを求めなさい.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解けなかったのが何か? 2点だったので隅に立たせるなんて非教育的.

お化け煙突

журнал для любознательных школьников — «Квантик»
好奇心旺盛な小学生のための雑誌ーー「クバンチク(量子っ子)」
ロシアのクバンチク誌にお化け煙突のパズルが載っています.

煙突の本数が見る方向によって変わるので,自転車に乗った主婦がびっくりする場面の記憶があります.子供のころですから何の映画か覚えていませんが,「煙突の見える場所」(昭和28年)でしたら名画ですね.私が見たのは違う映画かもしれません.お化け煙突がロシアにまで有名だったとは....
それで,クバンチクのこの記事が目にとまりました.

クバンチク,2018年10月号,p.16 (訳:KT)


以下はその翻訳です:

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京の千住火力発電所は1926年から1963年まで稼働した.
その "お化け”煙突は当時の多くの写真や映画に残されており,地域のシンボルの一つとなった.発電所には4本の煙突があった.高さ83.5メートル,幅5-6メートル; 建設された当時は,東京で最も高い建造物だった.
なぜこれらはお化けと呼ばれるようになったのか?

次の2つの説明が推測される.
第一は,これらの煙突からの煙の出没が幽霊のようだった.というのは,この発電所は余裕があり(full稼働ではなかった),煙はまれに予期せぬときに出現した.
別の推測では,煙突の興味深い特性によりこの名前が付けられた:遠くから発電所を見るので,煙突は,4つ,3つ,2つ,またはただ1つに見えたりした.たとえば,図1では4つの煙突が見えている.
どのように煙突が配置されていたでしょうか?  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図1の写真のように4本に見えるのは,方向4.

図3のように1本に見えるのは,方向1(ただし,前後の2本をまっすぐ重ねずに,煙突の幅が外れない程度斜めの方がもっと良さそうだと私は思います).

図4では2本(方向2),図5では3本(方向3)です.

無限の脅威

まぐまぐに投稿したメルマガ(html版)のリメイクです.
数式はうまく表示できているでしょうか?
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数学月間SGK通信 [2014.05.09] No.002
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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■無限の脅威(2014年米国MAMよりhttp://www.mathaware.org/mam/2014/calendar/infinity.html)
今回は,奇妙な数学の話です.


■発散する級数
$$ S=1+2+3+4+....+n+....=-1/12 $$
正の整数すべての総和が無限大でなく-1/12であるという.正気の沙汰なのか?
このとんでもない結果は,1748年に偉大なオイラーにより導かれた.
発散する数列は悪魔の発明であり,無限級数を用いると,どんな結論でも導くことができる.
発散する級数の研究は,アーベル(1802-1829)に端を発する.
数学者がこの悪魔の細部を解決するのに続く百年を要したのだ.
すなわち,リーマンの解析接続の理論(1859)を待ち理論的解決した.
現代では,物理学(超弦理論,量子計算)や数学(ζゼータ関数)で利用している.
リーマンは素数の分布を調べるためにζ関数に解析接続をした関数の0点を研究し,
リーマン予想を提示した(1856).これはまだ解かれていない.
■オイラーの発見が現実に
オイラー+リーマンの ζ関数は無限級数の形で定義される.
$$ ζ(s)=1+2^{-s}+3^{-s}+4^{-s}+5^{-s}+.... $$
この関数は,実部が1より大きいRe(s)>1複素平面で収束するが,
実部が1あるいは1より小さいRe(s)=<1複素平面では発散する.
そこで,全複素平面(ただし1は極)に,ζ 関数の定義域を拡張
するのに解析接続という手段が役立つ.
$$ S=ζ(-1)=1+2+3+4+5+.... $$

$$S_{1}=1-1+1-1+1-1+....=1 $$(奇数項までの和),  $$=0 $$(偶数項までの和)
この和は,偶数項で止めれば0,奇数項まで止めれば1になる.
しかし,解析接続という理論を使うと1/2になることを以下に示す.
 $$f(x)=1+x+x^2+x^3+x^4+x^5+....=1/(1-x) $$
この多項式は公比$$x$$の等比級数だから,$$|x|<1$$なら収束し$$1/(1-x)$$になる.
もとの多項式は$$|x|<1$$の外では発散するので定義できないが,
級数を解析接続した関数$$1/(1-x)$$に繋ぎ,形式的だが
$$x=-1$$を入れると 1/2 が得られる.
$$S_1=f(-1)=1-1+1-1+1-1+....=1/2$$
級数$$S_1, S_2$$ などを等式と見立て加減演算をし,$$S$$を求めてみよう.
$$∞+∞$$などの無限大を数値のように演算しているのが気持ち悪いが
解析接続で収束した級数を用いているので実は正しい結果になる.
$$S_2=1-2+3-4+5-6+.... $$とすると,
$$2S_2=1-2+3-4+5-6+....+[1-2+3-4+5-6+....]=1-1+1-1+1-1+.... =1/2$$
ゆえに,$$S_2=1/4$$が得られる.
$$S-S_2=1+2+3+4+5+6+....-[1-2+3-4+5-6+....]=4(1+2+3+....)=4S$$
であるから,$$S=-S_2/3=-1/12$$ が得られる.

■参考
http://www.mathaware.org/mam/2014/calendar/infinity.html
超弦理論入門,大栗博司,ブルーバックス
リーマン予想を解こう,黒川信重,技術評論社