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サイエンスzero批判

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数学月間SGK通信 [2015.09.01] No.079
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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電波干渉計の観測データから,ブラックホールの像を求める話題を
メルマガNo.070_統計数理研オープンハウス で取り上げたことがある.
ここで用いられるスパースモデリングという手法はとても興味深いので,
NHKのサイエンスzero再放送(2015年8月23日)の
「情報科学の名探偵!魔法の数式 スパースモデリング」を楽しみに視聴した.
この題名は,ばかにおどろおどろしい.
「魔法の数式」とか実に持ってまわった言い方で嫌な予感がしたが,
案の定,題名も題名だが内容にも失望した.
番組中で,E(x)=||y-Ax||^2+λΣ|x_i|という式が何度も瞬間的に表示されるのだが,
この式をまともに説明する気は全く無い.実に視聴者をバカにしたプログラムで腹が立った.
この式自体は,測定した信号から画像をどのように推定するかの計算式で,
この式がどのようなことをするのか,素人にわかるように説明するのは
そんなに手間でもないし高度なことでもない.決して魔法の数式でもない.
それにもかかわらず魔法の呪文(ブラックボックス)のよう何度も表示される.
数学を魔法のように扱うのは,何の意味もない.
サイエンスカッフェなどで良くあることだが,結果ばかり紹介し手法の説明がない.
どのような考え方で得た結果なのか手法が納得できなければ,その結果を受け入れることはできない.
詳細な数式を説明されても困るが,素人相手だからこそ式の心を言葉で説明すべきであろう.
そのような努力を全くしない専門家は多いのだが,
特に,今回のサイエンスzeroの番組作りは踏み込みが全く足りない.大いに不満である.
ただし,今回の番組で良かった点にも触れておこう.
スパースモデリングがいろいろな分野で応用されていることが紹介され,
特にMRIの測定では,ほぼ同じ解像度の画像が1/3の測定時間で得られる例は興味深かった.

腹立ちついでに脱線し,物分かりの良すぎる国民に苦言を呈しておこう.
なぜ原発が必要なのか,戦争法案が必要なのか全く理解に苦しむ.
物分かりの良いふりは止めてわからないことはわからないと正直に言おう.
子供電話相談室を聞いていると,一寸違うんじゃないかな,本質の説明ではないなと思うことが多い.
「わかりません」「なぜですか」とさらに訊ねろとイライラしながら聞いているが,
子供は「なるほど」とか「判りました」とか答えている.どうして納得したふりをするのか
私はこういう予定調和は大嫌いだ.このような同調の習慣がいじめの温床であると思う.

■さて,サイエンスzeroでは説明されなかったが,私の理解している範囲で以下の数式を解説しておこう.
E(x)=||y-Ax||^2+λΣ|x_i|
yは観測データでxは得られた画像.評価関数E(x)が最小となるように画像が推定されるのだ.
右辺の第1項は最小二乗法であり,第2項は得られた画像のノルムである.
第1項の最小二乗法は元画像とフィルタを通した復元画像の誤差を最小にする画像処理でもよく使われる.
x線を観測しブラックホールの像を得る例では,AはFourier変換で,
像xのFourier変換が観測値yになるべきだから,両者の2乗誤差が最小になるところで落ち着く.
さて式全体の形をみれば,ラグランジュの未定乗数法を思い浮かべる方もいるだろう.
そうです.得られた像のノルムΣ|x_i|を最小にする条件下で,
最小二乗法を満たす解xを求めようとしている式にほかなりません.
スパースモデリングは新しい分野で,私は全く素人ですが,
像xは至る所ゼロの疎(スパース)行列だということから,そう呼ばれるのでしょう.