会議・研修 事故雪崩が過酷事故を生む複雑系

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数学月間SGK通信 [2014.05.15] No.006
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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ささいな事故が雪崩となり大事故を生む複雑系

■複雑系の事故のトリガーは処々にある
「複雑系とは何か」は,別号で取り上げるとして,
大規模送電網や原発は複雑系です.
2011年7月の数学月間懇話会(第7回)では,これを取り上げました.⇒ プレゼン 
2011年4月の米国MAMのテーマは「複雑系」でした.
米国で何度か起きた大規模停電の仕組みを解析しています.
はっきり指摘のできないような”ささいな原因”(樹木が送電線に触れ
スパーク?)により,送電網に局所に停電が起きた.⇒
⇒ 送電網の残りの部分に過剰な負荷がかかり,健全だった部分の電線が
切れる.⇒ あっという間に,次々と送電網全体に停電が拡がる.
これが,「小さな事故が雪崩となり,大きな事故を生む」という
複雑系での事故の特徴です.

2011.3.11の日本の原発事故でも、同じようなことが起こりました.
あっという間に
全電源喪失⇒再循環配管/圧力抑制プール損傷⇒冷却材喪失⇒炉心メルトダウン
の過酷事故になりました.
今回の事故の引き金は地震・津波だったかも知れませんが,
引き金になるのは,地震・津波だけではありません.
組織やエージェントを含め、何処にトリガーがあるか予測できないのが複雑系です.
原因⇒結果 の1:1対応の単純な因果列がたくさんあるのではなく,複雑系では,
複数の原因から1つの結果が生じたり,
1つの原因が多くの結果に影響を与えるような複雑な因果関係があります.

「今日のアフリカ上空での蝶の羽ばたきが,将来,米国でのハリケーン
の進路に影響を与えるかもしれない」と比喩されるのが,バタフライ・エフェクトです.
複雑系は,<バタフライ・エフェクト>が起こり得る世界で絶対安心はあり得ません.
かように,複雑系では事故の可能性を消すことはできません.
しかし,大規模停電や山火事なら最悪事故が自然に鎮火するのを待つことはできます.
でも,原子力ではそうはいきません.そのエネルギーの莫大さ,放射能の半減期の長さ,
どれをとっても人間のスケールに合いませんから.
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■複雑系の特徴
送電網ネットワーク中にある節点の次数(=その節点に集まる経路の数)
の頻度分布図を作ったとき,節点の次数の高いものも残っているような
(べき乗則分布)ネットワークですと,
次数の高い節点が攻撃されると故障の雪崩につながります.

■べき乗則
大規模停電,巨大地震,所得の分布,.... いろいろな頻度分布に<べき乗則分布>
が見られます.正規分布,ポアソン分布,ワイブル分布など,中心値のまわりに
釣鐘型の分布を作りますが,べき乗則分布では,規模の大きい事象が起こる確率も
いつまでも残っています.被害コストの期待値は,被害コストと確率の積であり,
巨大地震は巨大な被害コストをもたらすので,巨大地震の確率が小さいと言って
無視することは間違いです.原発事故も同様です.

(引用文献)ーーーーー
1.2011MAM、⇒ http://www.mathaware.org/mam/2011/essays/
Cascading Failures: Extreme Properties of Large Blackouts in the Electric Grid
2.数学文化(2011),16,p113-127,
今年の米国MAMの話題と日本の原発事故
3.SGK通信(2011-06)数学月間懇話会報告
⇒ http://www.sugaku-bunka.org/jo2x314rz-453/#_453

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