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錯視シンポジウム雑感

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数学月間SGK通信 [2015.03.10] No.054
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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今回はホットなニュースです.
■錯視のシンポジウム
http://cmma.mims.meiji.ac.jp/…/jointrese…/demosillusion.html
International Symposium on Psychological vs Mathematical Approaches to Optical Illusion
が,明治大学中野キャンバスで,2015年3月4-6日に開催されました.
興味があるテーマでしたので多くのセッションを聞きたかったのですが,
私の時間の許す5日の14:00~17:20のセッションだけ参加しました.
https://www.facebook.com/sgk2014?fref=nf
注)
3月12-14日に明治大学駿河台キャンバスでサテライトミーティングがあるようです
http://www.mims.meiji.ac.jp/seminars/another/2011/20120313.html
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聴講したセッションの座長はYasushi Yamaguchi,
講演は次の3件;
Masanori Idesawa, A model for explaining tha anomalous motion illusion.
Akiyoshi Kitaoka, Color-dependent motion illusion in stationary images:
What causes illusory motion?
Stuart Anstis, Illusion of motion perception.
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会場は,明治大学中野キャンバス,5Fの新しい楕円型の階段ホール.
参加者は若者が多く40人程度であった.この国際シンポジウムのオーガナイザーは,
Kokichi Sugihara(明治大学), Akiyoshi Kitaoka(立命館大学)です.
注)
明治大学は,2008年度,「現象数理学の形成と発展」グローバルCEOプログラムに採用された.
数学系では,東京大学,京都大学,九州大学,明治大学が採択されている.
大学院先端数理科学研究科,現象数理学専攻は2011年に開設,2013年に中野キャンバスがオープンした.
明治大学には錯視美術館(大学と少し離れた淡路町)があり,毎週土曜日だけ開館している.
博士前期課程では,学生1人に対し正副3人の指導教員が広がりを持った研究指導を行う.
後期課程では,学生の研究テーマに応じて,モデリング,シミュレーション,
数理解析の3分野から1人づつ計3人の指導教員がチームを組んで多角的な研究指導を行うという.
現象数理学は,微分方程式のモデルで定量的に記述し,コンピュータでシミュレーション.
分岐理論でなぜ違いが生じるのかを理解する.金融工学,進化ゲーム理論,錯視の仕組みなどが,
数理モデリングを通じて理解ができる.修了後の進路は,
ビッグデータを扱うIT系企業,金融機関,教員など.米国の例では,
投薬タイミングなどを分析して医師らにアドバイスする病院ポストなどまで広範である.

2006年の文科省科学技術政策研究所「忘れられた科学-数学」で
数学と他分野との共同研究実施に向けた体制整備が叫ばれた.
数学と諸科学の連携研究は,米国MAMでも盛んに報じられており,
活発化している数学の分野である.これが純粋な数学と呼べるかの疑問はさておき,
高性能のコンピュータと数値計算の発展により可能となった新しい分野である.
エネルギー散逸のない系を記述するオイラー=ラグランジュ方程式は存在するが,
その大部分は解けない(関数で書けない.非可積分という).
学生時代に教科書で扱ったのはごく特殊なケースなのだ.
これらをコンピュータを用いて数値的に解くことになる.
安定軌道がなくカオス的で分岐が生じる現象が注目される.
同様にビッグデータを解析する統計学でもコンピュータが活躍する.
日本数学協会が,6月7日午後に予定している講演会(於大東文化大学)
「ヒトとモノづくり数学-10年目の数学月間」でも,
数学月間の経緯と並べて錯視を取り上げることになっている.
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■静止画なのに動きを生じる錯視
見ているのは静止画なのに動きが出る(なぜ時間の要素が入る)のか?
と不思議に思うでしょう.見る側に原因があります.目の空間認識は,
TVのようなラスタースキャンではないが,サッケード運動,ドリフト,
中心視と周辺視の切り替わり,網膜の周期的なリセット,等々により,
これらは時間の関数だからです.私は形の認識の仕組みに興味があります.
図形の対称性を見て快いと感じるのは,単純なサッケードになるからだろうと考えていました.
そして今回,これは錯視と表裏一体の現象であると気付きました.図形の認識にかかわる
測度量で時間の関数であるものが,動きのある錯視を生む原因になるようです.
動きを生む錯視にも色々あります.北岡の回転する蛇に見るように,
黒/暗灰/白/明灰/黒/・・・の明暗のストライプで,白から黒の方向に動くように見える現象が,
色相のストライプでも起こり,周囲が明るいときと暗いときでは動く方法が逆になる.
このようなデザインは処々で活用されています.
http://www.ritsumei.ac.jp/~akitaoka/rotate.html
同じものを見ていても,全域的回転を認識するか局所的回転を認識するというように
注目現象が異なることがあります.どちらかを認識すると他方は見えないのです.
これは亜群の集合で核となる部分集合をどれに定義するかの問題と類似しています.
■青・黒ドレスの色が変わる
動きは生じない錯視の例として,青・黒の横縞のドレスが白・金の横縞に変わるのが,
このシンポジウムの紹介を兼ねて3月4日の夕方のTVニュースで取り上げられました.
youtube動画やtwitterなどで,この原因が,右脳,左脳による個人差だというような
説が流れていますがそれは嘘です.周囲の明るさに依存して変化するのです.
色相変化ではγ特性が効いています.
宮澤賢治が注文の多い料理店序文で「はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、
いちばんすばらしいびろうどや 羅紗 や、宝石いりのきものに、
かわつているのをたびたび見ました」と言いましたが,これは錯視ではありません.
でも黄昏の光できものの模様が変わって見える錯視はあることでしょう.
フィルタリングや非線形γ特性などは,画像処理で日常使われているものですが,
これらも錯視を生む場合があります.
Stuart Anstis(University of California)は,動きを生む錯視の原理が理解できる例を
以下に掲載しています.http://anstislab.ucsd.edu/illusions/