投稿記事

現代の標準時計

投稿日時: 2020/05/05 システム管理者

 

 

 

 

 

 

特定方位に切り出した水晶Quartzの両側の面に電圧をかけると結晶は変形します.逆に両側から力をかけると両端に電圧(分極)を生じます.この性質を圧電効果といいます.圧電効果は,結晶構造に対称心がある場合には生じません.なぜなら,結晶中のいかなる方向に電圧(分極)ベクトルが生じたとしても,対称心に矛盾するからです.

所定の方位で所定の厚さに切り出した水晶片の両面に交流を印加すれば,水晶片は振動します.水晶片の共振の起こる周波数で安定な発振器を作ることができます.水晶振動子(通常32.768kHz=2^15Hzの水晶音叉)を用い,精度の高いクォーツ時計が作られており,実際の標準時計もこれです.
現在の時間標準は,セシウム(133Cs)の原子時計と定められました.原子時計とは,水晶時計を含む総合システムで,水晶発振器の周波数の校正標準に原子の状態遷移の周波数を用います.
セシウム原子は,最外殻の電子が1つ(水素原子型)なので,解析的にエネルギー準位の計算ができます.磁場を印加して縮退している準位を分離させた状態で,基底状態から励起状態への遷移を起こさせると,マイクロ波領域の9.192631770GHzのエネルギーで遷移します.そこで,水晶発振器により,この近傍のマイクロ波を発生させ,セシウム原子による吸収が最大になったときの水晶発振器の周波数を,9.192631770GHzであると校正しています.
ちなみに,GPS衛星は,ルビジュウムの原子時計を積載しています.最近はMEMS(Micro Electric Mechanical Systems)技術により,ルビジュウムの腕時計の開発も進んでいるそうです.
長さの標準は,地球の経線の1/4を10,000mと定めたのが始まりでした.しかし,1983年に,真空中の光速でこれを定義することになりました.1mの定義は「光が真空中を1/299,792,458秒間に進む長さ」です.長さの標準も時間に基礎を置くことになったのです.
数学と基礎科学,谷克彦(数学文化15号P82より抜粋)