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1. 感染拡大ミクロモデルとスマホアプリ

投稿日時: 2020/06/21 システム管理者

■2008年8月4日に上智大が主催した数学月間参加プログラムで,
「感染症対策における数理モデルの役割」大日康史(国立感染症研究所)
という講演がありました.
数理モデルによる感染拡大のシミュレーションは,新型インフルエンザやバイオテロなどの対策の有効性評価に必要です.数理モデルには,SIRモデル,ibm(IndividualBasedモデル),Ribm(Realibm)などがあります.本研究で用いたRibmとは,実際に調査した個人の移動,所在の記録データ(首都圏では88万人)にもとづき,6分ごとに人々の接触状態(感染の機会)が定義されるものです.新型インフルエンザには,種々のタイプがあり鳥類間の感染は起こるが,鳥から人への感染は血液の濃厚接触などの場合に限られる(豚と人の感染するインフルエンザのタイプは似る).人に感染した場合に,人から人への感染が始まり拡大していく.[注)Covid-19は,また別のタイプで異なる数理モデルの開発が必要です]

このシミュレーションに用いたのは,例えば,以下のシナリオでした:
(第1日)初発例が外国で感染.(第3日)帰国.帰宅後(八王子)感染性を持つ.(第4日)出社(丸の内).発症.(第5日)国際医療センターに受診.東京都健康安全研究センターで検査診断.(第6日)対策へ:
このシミュレーションの結果として,
首都圏への感染拡大の様子や全国への拡大の様子が示されました.どのような対策(外出自粛,地域閉鎖,休校,住民全員が予防服用,....)をとると効果があるかを予測できるシミュレーションでした.


この現実的なシミュレーションのシナリオには,首都圏での人の動き(動態調査)のデータが使われています.
このような,人々の接触を考慮した感染拡大のシミュレーションはミクロなシミュレーションといいます.これに対して,統計集団としての陽性率,罹患率などのマクロな量の変化を追うのはマクロなシミュレーションといいます.

■つぎは,英国のハスルミアで行われたスマホアプリを用いた動態調査の実験です.インフルエンザ感染拡大のミクロなシミュレーションに必要な動態調査は,スマホアプリを開発して2018年になされました.それは以下のようなものです.
英国の全国的な市民科学実験は,BBC Pandemicというアプリを使いました.このアプリは,App StoreまたはGoogle Playからスマートフォンにダウンロードできます.
アプリを使用して,ボランティアは次の2つの研究に参加できました:
(1)サリー州の町ハスルミア(ロンドンの近く)に焦点を当てたもので,それはかなりの数の人々を登録するキャンペーンでした.ボランティアのスマートフォンの位置の連続3日以上の追跡を許可を得て実施します.
(2)英国全体の規模の大きい調査は,許可を得てボランティアが選んだ24時間にわたりボランティアの毎時の位置(1km^2のメッシュ精度)を記録します.

各研究期間の終わりに,ボランティアはその期間中に遭遇した人を入力するように求められます.

記録された移動データと自己申告した接触データとで構成された国のデータセットのみを取り出します.このデータを使用して,インフルエンザの蔓延に関する数学的モデルを開発し,それによってインフルエンザのパンデミックがどのようにイギリス全体に蔓延するかをシミュレートするのが仕事でした.

このバーチャルの大流行は,イギリス南部のサリー州にある町ハスルミアで始まり,番組シナリオに従い,BBCドキュメンタリーのプレゼンターはバーチャル実況をしました.ハスルミアで収集した詳細なデータは,バーチャルな国内感染爆発の火種となるハスルミア内の感染爆発のシミュレートに使用されました.結果の感染拡大地図(Kissler,Klepac, Tang, Gog,2018)を見るとロンドンで始まった感染は,何の規制もしなければ1週間でニューカッスルまで広がるようです.

 

 ■しかし,Covid-19では全く違う(まだわからない)

パンデミックの感染拡大は,インフルエンザとコロナウイルスで似ているようで,非常に異なるところが多いのです.上で述べたミクロなシミュレーションは2018年以前のCovid-19出現前のインフルエンザに対するものであることを再度強調しておきます.ご注意ください.
Covid-19はかなりの潜伏期があり,何の症状も示さずに感染している可能性があります.発症までに,インフルエンザの場合は数時間,コロナウイルスの場合は数日かかる可能性があります.そして,無症状の感染源があるので非常にやっかいです.潜伏期の考慮は本質的に重要で,単純なSIRモデルではなくSEIRモデルになることを,Gogらが指摘しています.そして,Gogらはインフルエンザで開発した感染モデルと全く違う感染モデルを作らなければならずまだ研究中です.