この記事は,SGK通信No298(2019.12.24)をリメイクしたものです.
その時の感想の抜粋をシネマジャーナルに掲載いただきました.
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/escher-review.html
私が,映画「エッシャー 視覚の魔術師」を見たのは,アップリンク渋谷で(2019.12.20),
まだ新型コロナウイルスを知らなかったころです.
最近は,新型コロナウイルスの流行で,私たちは映画館から足がすっかり遠のいてしまいました.
『エッシャー 視覚の魔術師』6/28-7/4(土)深谷シネマにて上映決定!!という情報をお聞きしました.
遠出をしないで済む地元の方々は,ご覧になる良い機会かもしれません.
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■エッシャーは数学者といえる
エッシャー(オランダ,2018)の版画作品を見たことのある方は多いでしょう.
エッシャーの作品はどれも数学的でありますが,いくつかの幾何学分野に分類できます.
・錯視や空間認識,
・パズルやテッセレーション,
・非ユークリッド幾何学,
・周期的壁紙模様(2次元結晶学)
などの分野に分類できます.
数学を駆使したエッシャーの作品は良く知っていましたが,
エッシャーがどんな生活をした人物かはあまり気にしたことがありませんでした.
映画では,エッシャーの息子たちへの取材が面白い.
作品にまつわるエピソードの証言があります:
1955年作「表皮」から1956年作「婚姻のきづな」に作品が発展した状況がよくわかります.
ムッソリーニ時代の全体主義に息子が染められるのを嫌い,イタリアからスイスに移住します.
エッシャーの人物像がよくわかる,とても良い映画でした.
■映画の最後の方で,エッシャーが国際結晶学会の講演に呼ばれて行くところがありました.
私の専門は結晶学で,結晶学会では昔からエッシャーの周期的版画を,2次元結晶の教材にしており,
2次元のブラベー格子や,平面群(壁紙模様)に親しむことができます.
結晶学者には,エッシャー作品は馴染み深いものです.
アルハンブラのモザイクには平面群の17種のすべてがあるという説と1種類欠けているという都市伝説があります.
どちらでしょうか?それとも....? 実際にアルハンブラには行って調べて見たいものです.
ペンローズ・タイリングを発見したペンローズも,アルハンブラのタイルからヒントを得たと聞きます.
エッシャーの周期的版画の原点はアルハンブラのモザイク・タイルにあります.
私も,局所的に高い対称性の星型ロゼットをちりばめた,あたかも高次元宇宙からさす影を思わせる
イスラームのデザインに興味をもっています.
映画のエンドロールにスナップ映像が流れますが,その映像の一つに,大道絵師の光景が写りました.
2018年夏,たまたま行ったニューカッスルの通りで見かけた,エッシャー作品ばかり道に描いていた大道絵師のようです.
■エッシャー作品の生まれるまで
コクセターとエッシャーはオランダで開催された1954年の国際数学者会議で出会いました.
1958年にコクセターはこの分割を掲載した論文*をエッシャーに送り,
これがエッシャーの「極限としての円」の作品群を生むことになります.
http://sgk2005.saloon.jp/blogs/blog_entries/view/46/a655be2fc4e933a93af15e269d8b684e?frame_id=54
極限としての円の数学については,以下のブログを参照ください.
http://sgk2005.saloon.jp/blogs/blog_entries/view/46/2e340c06148db50daae618a772629e15?frame_id=54
(参考)美しい幾何学,p142~143