昨年9月に表題の本(技術評論社)を出版しました.この本の構成は8つの章からなり,全章を通して万華鏡で繋がっています.1,2章は有限図形の対称性(点群).3,4章は周期的な空間の対称性(平面群).これらの映像は,万華鏡で作り出すことができます.5章は万華鏡.6章は円による反転という数学的な鏡を用いた万華鏡.7章はフラクタル操作という数学的な鏡を用いた万華鏡です.8章は東京ジャーミイで,イスラミック・デザインを鑑賞します.写真撮影にご協力いただいた東京ジャーミイの本屋さんにも本書を置いていただいています.
■この本に,第9章を続けて書くとすれば,イスラミック・デザインになります.イスラムデザインの特徴は,黄金比(すなわち5回対称や10回対称)がちりばめられていることです.しかし,5回対称性と2次元(あるいは3次元)世界の周期性とは両立できませんから,ちりばめられている5回(あるいは10回)対称性はロゼット内部だけに局所的に作用し,世界の全域を支配するものではありません.そのため,あたかも我々の住む3次元に高次元宇宙が投影しているようで不思議な魅力を感じます.イランのDarb-i Imam寺院(1453)の壁には,その500年後にヨーロッパで発見されるPenroseタイリング[自分の中に自分と同じパターンが繰り込まれる]と同様なパターンがすでに見られることをPeter LuとPaul Steinhardtが報告しています.イスラムの繰り返し模様は準結晶や基本領域が分割されて写像される万華鏡と似たところがあります.